5.中国の医療状況

5.中国の医療状況
夜明け前の午前7時。受け付け開始に合わせてある有名な大病院に詰めかけた患者の列は受付棟からあ
ふれ出し、零下10度近い屋外まで長さ50メートルに達した。
その数約1,000人。掲示板に医師の名前と肩書、問診料が表示されている。駆け出しの研修医上がりなら
4.5元(約68円)。著名な専門医となると320元(約4,800円)。患者は自分の財布と相談しながら選ぶ。人気
の医師の枠はあっという間に埋まった。「診察券を買わないか」と声がかかる。ダフ屋だ。100倍近い値段
をふっかけてきた。
医師は午前中だけで1人当たり最大60人を診る。患者は3、4時間待たされ、5分も診察してもらえれ
ばいい方だ。その後は院内の薬局にまた行列を作る。
もともと中国の都市部では、医療費は職場による丸抱えであった。しかし、国有企業の経営悪化が進ん
だ1980年代以降、かつての制度は崩壊。公務員が公費支給制度で、大企業労働者が医療保険で守られる一
方、中小企業労働者や失業者など過半数の都市住民は無保険という「身分」格差が生まれた。
医療費高騰も深刻だ。高度な医療機器が病院に導入され、効果の高い輸入薬が手に入るようになった半
面、入院患者の平均医療費は00~06年の間に5割上昇した。
背景には、病院の独立採算化がある。中国医院協会の李月東事務局長は「病院はほとんど公立だが、財
政補助は5~10%程度。あとは自力で稼がねばならない。診察した患者の数で医師は査定され、給料に反
映される」と話す。薬代の15%は病院の取り分で、多く処方するほど病院が潤う。薬価は政府の公定価格
で、過去22回引き下げが行われたが、その都度、高い新薬が登場。どの薬をどれだけ処方するかは医師の
裁量だ。
北京市内のがん専門病院は最近、入院病棟の一部を個室に改修した。1人1泊24元(約360円)の6人部
屋より、600元(約9,000円)の個室を多くした方が病院はもうかる。しわ寄せを受けるのは患者だ。入院
まで1週間待ちは当たり前。病院の門前に旅館の客引きが待ち受け、地方の患者は入院までの日々、歩い
て通院することになる。
●経済成長で生活習慣病が急増
急速な経済発展は中国人の健康状態に変化をもたらした。
中国衛生統計年鑑によると、平均寿命は新中国成立前の35.0歳から、81年には67.9歳、00年には71.4歳と
伸び、65歳以上が人口の9%を超す高齢化社会に突入した。
豊かになった食生活を反映して生活習慣病が広がり、糖尿病の罹患(りかん)率は93~03年の間に2.9倍、
高血圧は2.2倍に増えた。
高まる医療需要に対応するため、中国政府は都市と農村で別々の医療保険制度をつくり、全国民加入を
目指しているが、出稼ぎ農民や失業者向けの施策は遅れている。定年後の支えとなる年金制度が整ってい
るのは都市の一部労働者だけで、農民の大半は無年金状態のまま。核家族化や出稼ぎの増加で高齢者だけ
の世帯が増えており、介護制度づくりも課題だ。
中国の病院ならびに薬局事情
中国の病院は政府によって第一種から第三種、さらにその他の4種類に分類されている。このうち一番
規模の大きいのは第三種で普通、大学病院のような教育施設に付随している。第二種病院は地方都市の総
合病院などである。この第二種病院に限って民営化が許可されている。さらに第一種というカテゴリーが
あるが、これは特定疾病分野に特化した専門病院などである。第一種病院の特徴は予算規模が大きく専門
医も沢山抱えている点である。
中国の病院の規模別分類(コンテクスチュアル・インベストメンツ)
第一種、2,700、
15%
その他、9,600、
53%
第二種、5,000、
27%
第三種、1,000、
5%
中国では米国のように医薬分業にはなっておらず処方薬については病院内の薬局で購入するのが一般的
である。上のグラフの第二種病院だけが現在民営化を許されており、民間企業の病院が現れ始めているが
今のところ大部分の病院は国有である。それらの国有病院において薬が処方される際、その病院の承認リ
ストに載っている薬に限って処方してよいことになっている。それぞれの病院が承認リストを作成するに
あたっては労働社会保障省(MLSS)が選んだ薬のカタログの中からそれぞれの地方政府が独自の承認リ
ストを作成するという方式が取られている。MLSS のカタログに収録される薬はティア1とティア2に分
類され、ティア1に分類された薬は必ず地方政府の承認リストに含まれることが義務づけられている。さ
らにティア1に分類された薬は100%保険で払い戻しが効き、患者の自己負担はない。ティア2に分類され
た薬は地方政府の裁量で承認リストに載せるか載せないかを独自に判断することが出来る。ティア2に分
類された薬は80~90%保険が利き、差額が患者の自己負担になる。このことは中国で処方薬を製造してい
る製薬会社にとって MLSS のカタログに収録されるということが売上伸長の為にたいへん重要になること
を意味する。しかし実際にはどの薬がカタログに採用されて、どの薬が落選するかは運・不運による面が
多く、製薬会社にとって不確実性が高いと言えるだろう。さて、処方薬ではなく店頭(OTC)薬に関して
みると、こちらの方は主に薬局で買われてゆきます。中国人は軽い症状なら病院へ行かず薬局で店頭薬を
買って済ませてしまう人が多い。中国の薬局は零細企業が多く市場はたいへん細分化されている。
中国の薬品市場の規模(10億人民元、中国医療統計年鑑2005年版)
600
500
400
■ 漢方薬
■薬
300
200
100
0
2002年
2003年
2004年
中国には昔から漢方薬が存在することは皆さんもご承知だと思うが中国では漢方薬は西洋薬と全く分け
隔てなくカタログに採用され、病院で処方されている。漢方薬は中国国内で消費される全ての薬の中で約
30%程度を占めており、今後もこの比率は安定的に推移すると考えられる。
製薬業界の監督当局
中国の製薬業界を監督しているのは SFDA(China State Food & Drug Administration)です。中国国
内で薬を製造したり販売したりするためには SFDA から承認を受けることが必要となる。新薬は SFDA か
ら承認されることが必要だが、ひとたび承認されて売り出された薬は5年間モニタリング・ピリオド(監
視期間)が義務付けられる。この5年間の間は政府がその新薬が安全であるかどうかなどを観察するため
に設けられた期間である。重要な点としてはひとたび或る新薬がモニタリング・ピリオドに入ると全く同
様の薬効を持つと思われる類似薬に関しては新薬承認申請書類を受け付けないし、外国の製薬会社の薬の
輸入承認や中国国内における生産も受け付けないという点である。つまりモニタリング・ピリオドは言葉
を替えて言えば独占販売許可期間であるという風に考えても良いだろう。薬の製造に関する規定としては
SFDA が承認した品質基準(GMA = Good Manufacturing Practice)をクリアした工場でのみ生産が許さ
れる。
薬価統制について
MLSS の承認カタログに収録された処方薬ならびに店頭薬の末端価格は薬価統制の対象になる。具体的
には薬の値段そのものが政府によって決められる場合と、最高価格の上限を政府が定め、後は製薬会社の
判断で自由に価格を決められる場合の2種類のケースがある。薬価の改定は比較的頻繁にあり、最近では
年2回くらいのペースで薬価が引き下げられている。全ての薬が薬価改定の対象になるというわけではな
く、どの薬が対象になるかは薬効や市場のニーズなどを勘案して決められるようである。
一括購入
地方政府はその管轄下にある病院の薬を仕入れるに際して競争入札で大量買付けするケースがある。こ
の入札で決められた落札価格がその年の実質的なカタログ定価になる。この定価は1年間有効である。製
薬会社としてはこれらの地方政府ごとの応札事務を代理店に任せるわけにはいかない。代理店販売網に加
えて自前の営業組織を維持する必要があるのはこのためである。
新薬開発
中国国内で新薬を開発する際の典型的な研究開発費用はひとつの新薬あたり約590万ドル程度であると
言われている。これは米国の平均的新薬開発費用(8億ドル)に比べると大変低い数字である。これは製
薬会社の研究スタッフの給与水準が米国のそれの10分の1以下であること、さらに臨床試験に要する費用
が安いことなどがその主な理由である。
零細製薬会社の乱立
中国の製薬業界は歴史的に新規参入が比較的容易であったことなどから2004年末の時点で4,700社もの
企業が乱立している。従って比較的小さい市場のパイを沢山の会社が奪い合っている構図になっている。
中国で最大級の製薬会社でも国際的な比較で見るとその業容は大変貧弱である。このことは今後中国の製
薬業界は統合の嵐に晒されることを暗示していると思われる。実際に企業の買収のみならず商品群の買収
は頻繁に起こっており、買収による成長を標榜する企業は市場のパイそのものの成長率より遥かに早い
ペースで急成長している。
医療サービス業界の不正腐敗の粛清
近年中国の医療サービス業界は医療機器の購入や薬品の一括購入に際するわいろなどいろいろな不正腐
敗がはびこっていた。中国政府はこの事態を重く見て営業倫理の粛清に乗り出した。その結果、去年から
今年にかけてはヘルスケア・セクター全体で営業活動が一時的に止まったりするなどの影響が出た。この
粛清は一応峠を越えたように見えるがまだ終わったと決まったわけではない。一時的な営業の停滞はこの
セクターの業績に対する不透明感を増し、その結果として薬品株や医療機器メーカーの株はどちらかとい
うと敬遠されてきたと言える。
新型インフルエンザ感染例が発生
2009年1月6日、北京市衛生局は北京市朝陽区在住の女性(19)が、鳥インフルエンザウイルス(H5N1
型)に感染して死亡したと発表した。新華社通信によると、女性患者と接触した116人について調べた結
果、
1人の看護師が発熱していたが、すでに回復したという。また、計13人がこのアヒルの肉を食べたが、
発病したのは死亡した女性だけだったという。市衛生局によると、女性は昨年12月19日、友人と一緒に隣
接する河北省の市場に行き、生きたアヒル9羽を買って自宅に持ち帰り、内臓を取り出すなどの加工をし
た。5日後に発症し、27日に症状が重くなり入院。1月5日朝に死亡した。市衛生局は人から人への感染
がないかどうか監視を強め、患者の家や病室の消毒を強化している。記者会見した北京市衛生局幹部は「死
亡した患者と接触した人が(患者死亡から1週間後の)12日までに症状が表れなければ、感染を抑え込ん
だことになる」と説明した。