ベストエフォート の功罪

特集 2
ブロードバンド
FTTH
コネクションレス型通信
ベストエフォートの功罪
根強い「負」の印象,不公平感やあいまいさの払拭を
ベストエフォート型通信サービスの,品質や保証の在り方が改めて問われている。
これからの音声通話や映像配信に欠かせないブロードバンド回線の普及には,
中継網を複数ユーザーで共有するベストエフォートの考え方は不可欠。
しかし,ベストエフォートに内在する不公平感やあいまいさをこのまま放置すれば,
将来,映像配信などのサービスを展開するうえでの足かせになりかねない。
今こそベストエフォートの功罪を問う。(大谷 晃司)
ベストエフォートとは
ユーザーが利用する通信サービスの品質を保証しないサービスの総称。ADSL
「本来,ベストエフォートとは美しい言葉。
海外で頼まれごとをしたとき Best Effort で
やCATV,FTTH などのアクセス回線サービスやインターネット接続サービス,
やると言えば感謝される。ところが日本の通信
携帯電話のパケット通信などが相当する。ネットワークが混雑したときに通信
の世界では,ダメならあきらめるという意味で
速度を保証しないサービスや,専用線サービスにおける予備回線がないサービ
使われている」
。通信技術や制度に詳しい早稲
ス,故障修理の対応時間を限定するサービス――なども該当する。
田大学理工学部の後藤滋樹教授はこう嘆く。
そもそもベストエフォートは,中継網を共有しエンド・ツー・エンドでセッ
ションを維持しない「コネクションレス型」の通信に使われた用語。コネクシ
ョンレス型の代表的な通信形態は,IPによるパケット通信である。通信中で
ベストエフォートが否定的な意味合いを持つ
ようになったのは,今のベストエフォート型通
も常時セッションを張らずに伝送路を占有しないため,複数のユーザーが伝送
信サービスに 負の面 が内在しているためだ。
路を共有することが可能になる。共有の結果,ネットワークの有効利用が促進
本誌が急きょ実施したアンケートの結果から
され,通信サービスの低価格化にもつながった。
コネクションレス型通信が登場する以前は,
「コネクション型」の通信が主
流だった。その代表は加入電話網。エンド・ツー・エンドで伝送路を設定し,
情報をやり取りする通信形態を指す。
も,ベストエフォートに負のイメージが少なか
らず定着していることが分かる(図1)
。安くて
速いというイメージはもちろんあるが,信頼性
が低い点や通信が切れた場合の保証がない点を
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NIKKEI COMMUNICATIONS 2005.10.15
調査名:日経コミュニケーション
読者モニターアンケート
第 1 回「ベストエフォート」について
調査方法: WEB 調査。読者モニター 248 人に
調査の告知メールを送り,アンケート
サイトで回答を受け付け
図 1 不信感が根強いベストエフォート ベストエフォートが持つイメージは,
「実際の通信速度が分からない」
,
「通
調査期間: 2005 年 9 月 13 日〜 9 月 20 日
信が切れた場合の保証がない」
といった回答が半数以上を占めた。不信感は根強い。
回答数(回収率)
: 105 件(42.3%)
企業ユーザーがイメージするベストエフォート(105社による複数回答)
調査の実施および集計:
日経 BPコンサルティング
通信速度が速い 15.2
安価で導入の敷居が低い 65.7
実際の通信速度が分からない 69.5
く
りに
感抱 浮き彫
信
不 姿が
の
だが
安価 ーザー
ユ
企業
通信が切れた場合の保証がない 57.1
信頼性が低い 40.0
その他 8.6
0
20
40
60
挙げるユーザーも少なくない。
80(%)
中継網を複数のユーザーが共有することで,
コンシューマにも,ベストエフォートという
従来よりも安価な通信サービスが登場。さらに
言葉は良いイメージを与えていない。それはブ
広く普及した標準プロトコルであるIP を使うた
ロードバンド回線の販売最前線に立つ現場の声
め,機器の低価格化も促進した。これで常時接
からもうかがえる。ヤマダ電機テックランド東
続の定額制課金が実現し,ブロードバンドは多
京本店(写真1)の高木正則デジタルビジネス
くの人が手にできるサービスとなった。
コンテンツマネージャーは,ベストエフォート
型通信サービスの最大速度が実際には出ないこ
ベストエフォートであるIP ネットワークは,
通信事業者の在り方をも一変させた。物理的な
とや,☞ADSL と☞FTTH で提供できるサービ
伝送路から上位のアプリケーションまでを1 社
スの違いが不明瞭であることを挙げ,
「説明の
で独占していた時代から,各サービスを切り分
しづらいサービス」になっていると打ち明ける。
けることで複数の事業者が参入。競争が促進さ
ベストエフォート型通信サービスは,近い将
れ,通信サービスの価格も下がっていった。
来,電話や映像配信のアクセス回線の主役とな
その結果,2005 年8 月末の☞ ブロードバンド
るだろう。だからこそ,不公平感やあいまいさ
回線契約数は2057 万8171 契約(総務省調べ)
。
本文中☞の付いた
用語を解説
ADSL =asymmetric digital subscriber line。電話
用銅線ケーブルを使う高
速 ディジタル 伝 送 方 式
xDSL の中で,代表的な伝
送技術。通信事業者の加
入者線収容局(電話局)か
らユーザー宅方向(下り)
と,ユーザー宅から収容
局方向(上り)の速度が非
対称なのが特徴。
FTTH=fiber to the home。
電話局から家庭までの加
入者線を光ファイバ・ケー
ブルにすること。NTT 東
西が提供する
「B フレッツ」
などが代表的。
といった負の面を払拭しなければならない時期
に差し掛かっているのだ。
ベストエフォートがブロードバンドを促進
とはいえ,最初からベストエフォートが負の
イメージを持っていたわけではない。ブロード
バンドがこれだけ普及したのは,ひとえにベス
トエフォートがもたらした安価で高速,そして
定額制料金のおかげだと言える。
写真 1 ブロードバンド回線を販売する大手量販店 ベストエ
フォート型通信サービスの最大速度が実際には出ないことや,
ADSLとFTTHで提供できるサービスの違いが不明瞭であり,販売
の現場では説明のしづらいサービスになっている。写真はヤマダ電
機テックランド東京本店。
NIKKEI COMMUNICATIONS 2005.10.15
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