旋回運動に関する一考察--感情語刺激に伴う即興的舞踊表現から…

以 下 回転)を 中心 に分 析 お よ び 考 察 を 行 った 。
〔
実 験1〕
(1) 回 転 数 と速 度
表 現 時 間 内(20秒)に
お い て13人 の 回 転総 数 と
そ の平 均 お よ びSDは
「喜 び」 が76.25,
5.87,
旋 回運 動 に 関 す る-考 察
感情語刺激 に伴 う
即興的舞踊表 現か ら
生
平
I
緒
沢
井
3.39, 「悲 しみ 」 は43.25,
3.65, 3.01で あ り,
「喜 び」 の方 が 多 く回 転 を使 用 して お り,、そ の差
は統 計 的 に有 意(P<0.05)で
あ っ た。 ま た回 転
あや子
タカネ
時 の 平 均 速 度 は 「喜 び」1096±343.8msec,
「
悲
しみ 」1831.3±856.21msecで
「喜 び 」 に お け
る回 転 は 「悲 しみ 」 の 約2倍 で そ の差 は 有 意(P
<0.001)で
あ った 。
言
くる く う回 っ た り, 円を 描 くな ど の 旋 回 運 動 は
日常, 大 人 が 行 う こ と はあ ま りな い 。 す な わ ち極
め て 目的 的 に行 わ れ る 日常 動 作 と して は, 旋 回運
動 は 余 り有 効 で は な いか らで あ る。 しか し旋 回運
動 が 民 族 舞 踊 や 古 典 舞 踊 を は じめ, 多 くの 舞 踊 に
み られ るの は 周 知 の と お りで あ り, む しろ この旋
(2) 回 転 の 連 続 性, 移 動 性 につ いて
連 続 回 転(回 転 と回 転 の 間 に 他 の 運 動 や 静 止 の
な い 回転),
移動 回 転(空 間 移 動 を 伴 う回転)の
いず れ も 「喜 び」 の表 現 に 多 く使 用 され た(図1
2参 照)。
(3) 回 転 時 の エ ア パ タ ー ンに つ い て
身 体 の レベル(図3)は
「喜 び 」は 方 位,.高 位,
回 運 動 こそ, 多 くの 舞 踊 に お いて 中 核 を な して い
る よ うに さえ 思 わ れ る。 旋 回 運 動 の 意 味 や 機 能 に
つ いて は, これ ま で 子 どもの しぐさ2)や完 成 度 の 高
い 舞 踊1)3)などにおいて 検 討 されて きてい る。今 回 は
それ らの 研 究 とは 少 し視 点 を 異 にす る が, 現 代 の
私 達 に お け る 感 情 の イ メ ー ジ と旋 回 運 動 の 結 び つ
き, 又 あ る 種 の 感 情 表 現 に 用 い られ た旋 回 運 動 は
どれ 程 の 伝 達性 を 機 能 す る もの で あ る の か, とい
う旋 回 運 動 と感 情 イメ ー ジの 関 連 に つ い て, 以 下
の2種 類 の 実 験 を行 い, 検 討 す る も ので あ る 。
II
低 位 の順 に多 く, 「悲 しみ」 は 高位 は な く低 位,
立 位 の 順 に多 くみ られ た。 顔 の 向 き(図4)は
「
喜 び」 は水 平 が 最 も多 く, 上, 下, 「悲 しみ 」 は下
が 最 も多 く, 水 平, 上 の 順 に多 か った 。 更 に上 肢
の フ ォ ー ム(図5)は
「喜 び」 は上 が 最 も多 く,
横, 上 下, 胸 元, 下 の 順 とな り, 「悲 しみ 」 で は
下 が 最 も多 く, 横, 上, 上 下, 胸 元 の順 に 多 い 。
以 上 の3点 に つ い て ま とめ る と, 「喜 び」 は 「
悲 しみ」 に 比 べ, よ り速 い 速 度 の 回 転 が 数 多 く用
い られ て い る 。更 に 「喜 び」 の 回 転 の 身体 は上 志
実験手続 き
〔
実 験1〕:
「喜 び」 お よ び 「悲 しみ 」 に つ いて
の 感 情 語 刺 激 を与 え, そ の イ メ ー ジを 即 興 的 に 旋
回 運 動 を 伴 う運 動 で 表 現 させ た 。 被 験 者 は舞 踊 創
作 経 験 の ほ と ん ど な い女 子 大 学 生13名 。 表 現 空 間
は6m×9m,
時 間 は 「喜 び 」 「悲 しみ 」 各 々約
20秒 と した。 被 験 者 の行 っ た 運 動 は す べ てVTR
に 収 録 して 分 析 した 。
〔実験2〕:
実 験1で 収 録 したVTRの
中 か ら10
人 分 のVTR(「
喜 び」 「悲 しみ」 各10)を 選 び1
実 験1と は 別 の 被 験 者 に観 賞 させ た 直 後, 口 頭 に
よ る質 問 を 行 い, それ らの 回答 を集 計 処 理 し た。
被 験 者 は 舞 踊 創 作 経 験 の ほ とん ど な い女 子 大 学 生
12名 。VTRを
観 た後 の 質 問 内容 は, (1)このVT
Rは 「怖 れ, 喜 び, 怒 り, 悲 しみ, そ の他 」 の 中
で ど の感 情 を 表 現 して い る と思 うか, (2)何故 そ の
向 で あ り, 連 続性, 移動 性が 強 い 回 転 で あ る の に
対 し, 「悲 しみ」 の 回転 は 身体 は 下 志 向 で あ り,
連 続 性, 移 動 性 に弱 い 回転 で あ る 。
〔
実 験2〕
(1) 回 転 数 と感 情 の関 係 に つ いて
回 転 数 と感 情 一 致 数 の 関 係 は, 「喜 び」 で は有
意 な 相 関 はな か った 。 す なわ ち踊 り手 は 「喜 び」
の表 現 と して 回 転 の 使 用 が 多 い に もか か わ らず,
観 る者 に は 回 転 数 の 多 さが 「喜 び」 の 表 現 と して
受 け と られ に くか っ た こ とを 示 して い る 。
「悲 しみ 」 で は 両者 間 に 負 の 相 関 の傾 向(r=
0.6127, df=7,
r〈0.1》 が み られ, 「悲 しみ 」
の 表 現 と して 回 転 の 使 用 が 多 い 程, 観 る者 に は
「悲 しみ」 の 感 情 が 伝 達 され に くい と い え る 。
(2) 回転 の パ タ ー ンと感 情 の 関 係 につ いて
表1よ り 「喜 び」 の表 現 で 感 情 一 致 数 が 高 か っ
た もの はVTR5で
あ るが, 回 転 の パ タ ー ンをみ
る と 身体 の レベ ル, 上 肢 の フ ォー ム お よ び 連 続 回
感 情 だ と 思 っ たか, (3)印象 に残 っ た ポ ー ズや 動 き
は何 か, の3項 目で あ る。
III 結 果 お よ び 考 察
旋 回 運 動 は 身 長 を 縦 軸 と して 回 転 す る軸 回 転 と
円 周 上 を 動 く円周 回転 に わ け られ るが, 円周 回 転
を 規 定 す る為 の軌 跡 の決 定 基 準 が 定 か で はな く,
明確 な 分 類 が 困 難 で あ っ た た め, 今 回 は 軸 回 転(
転 や 移 動 回 転 の数 値 が 高 く, 実 験1の 結果 と ほ ぼ
一 致 して い る。 特 に 移 動 回 転 数 と感 情 一 致 数 に は
有 意 な 正 の 相 関(r=0.7138,
df=6,
r〈0.05)
も認 め られ た。
「悲 しみ」 のVTR2,
10も 感 情 一 致 数 が 高 い
-21-
・ 「悲 しみ 」 は 回 転 数 の 多 さ と感 情 一 致 はむ し
が, 移 動 回 転 数 と感 情 一 致 数 の 関係 は 負 の 相 関 の
傾 向(r=-0.654,
df=7,
r<0.1》
が み られ
た。
す な わ ち, 回 転 パ タ ー ンと感 情 の関 係 は, 観 る
者 は 踊 り手 の 身体 の 志 向 性 によ って 感 情 を規 定 す
る 傾 向が 強 く, そ れ は 踊 り手 の 志 向 と も一 致 して
い る。 連 続 性 に つ いて も踊 り手 と観 る者 の一 致 が
ろ逆 の 関 係 が 認 め られ る。
・身 体 の 志 向 性 に 関 して は 踊 り手 と観 る者 の 志
向 が ほぼ一 致 して い る 。
・どち らの感 情 も回転 運 動 を含 め た 空 間 移 動 の
多 さ に よ って 感 情 を 規 定 す る もので は な い 。
今後 の課 題 と して, 舞 踊 の 熟 練 者 に よ る 回転 運
動 とそ の伝 達 度, さ らに完 成 度 の 高 い舞 踊 に お け
る回転 運 動 の 運 動 学 的 特 性 や そ の 伝 達 性 な ど の検
認 め られ るが, 特 に 「悲 しみ 」 にお いて 連 続 性 の
強 い回 転 は マ イ ナ ス に 働 い て い る。
移 動 性 につ い て は, 空 間 を9領 域 に等 分 し, 回
転 しな が ら踏 み 込 ん だ 踏 み込 み 領 域 数 と感 情 一 致
数 との 関 係 を 調 べ た。 そ の結 果 「喜 び 」 「悲 しみ1
共 に両 者 間 に有 意 な 相 関 関 係 は な か った 。 つ ま り
観 る者 は 踊 り手 の空 間 移 動 の多 さを 感 情 を 規 定 す
る基 準 と して い るの で は な い と い え る 。 以 上 の よ
う に移 動 性, す な わ ち回 転 を 伴 う空 間 移 動 の 大小
は 感 情 規 定 に あ ま り関 与 しな い と考 え られ る 。
(3) 回 転 運 動 に 関 す る被 験 者 の コメ ン トに つ い
て
討 を 加 え, 旋 回 運 動 に 対 す る我 々現 代 人 の イ メ ー
ジを明 らか に したい 。
図1
印 象 に残 った 運動 に つ い て の 回 答 の 中か ら回転
に 対す る コメ ン ト数 を 抽 出 し, 回 転 数 と の関 係 を
図2
数 と感 情 一 致数 と の 関 係 は 「喜 び 」 で は有 意 な相
関 は な いが, 「悲 しみ」 で は 負 の 相 関(r=-0.
8520, df=7,
r〈0.01)が み られ た 。 以 上 の よ う
に 「喜 び」 で は ど ち らに お い て も有 意 な 相 関 は な
か っ たが, これ は 「喜 び」 に お け る 印 象 が うす い
IV
ま
と
喜...〉
悲
移動及び非移動回転
図3
身 体 の レペ ル
■ 高位
□ 立位
■ 低位
足か床か ら離れた状態の レベル
つ ま先立 ちを含む直立状態の レベル
膝 や腰を曲げた状態の レベル
図4
顔 の向 き
喜(・)〉悲
喜(・)〉悲
喜 〉...悲
■ 上 フ ランクフル ト水平面よ り上向 きの状態
□ 水平 フランク フル ト水平面に近い状態
■ 下 フ ランクフル ト水平面よ り下向 きの状態
喜..〉悲
■ 移動回転
□
非移動回転
み る と, 「喜 び 」 で は 有 意 な 相 関 は な いが 「悲 し
み」 で は正 の相 関(r=0.7032,
df=7, r〈0.0
5)が 認 め られ た 。 ま た, 回 転 に 対 す る コメ ン ト
と考 え る よ りも 回転 運 動 自体 を 「喜 び 」 の 表 現 と
受 け と り, あえ て コ メ ン トされ な か った と も考 え
られ る。 これ に対 して 「悲 しみ」 に お け る回 転 は
悲 しみ の 感 情 と結 びつ き に く く, あ る 種 の 異 和 感
を も って 強 く印 象 づ け られ る ので は な い か と考 え
られ るの で あ る。
連続回転及び単独回転
■ 連続回転
□ 単独回転
図5
上肢 の フ ォー ム
■ 上.■ 横, □下■上下.■
図6
の検定における有意性の表示は次の通 りて ある
(・)P〈0.1・P<0.05・・p〈0.01.・・・P〈0.001
*図1∼5は
表1
胸元.
上 喜(・)〉 悲
下 喜 〈**悲
上 肢 の 各 フ ォー ム
*差
喜 〉 悲
喜..〉 悲
喜 〈..悲
各感情の回転数の合評 を100彩とした場合の割合 を示す
そ れ ぞれ の 感 情 にお け る回 転 に つ い て
め
本 研 究 で は, 極 め て 対 照 的 と され る 「喜 び」 と
「悲 しみ 」 の 感 情 を 表 現 す る際 に用 い られ る 回転
の 特 性 を 明 らか に し, 同 時 に観 る者 が これ らの 回
転 を どの 様 に感 じと って い るか を検 討 し, 以 下 の
結果を得た。
〔
実 験1よ り〕
・ 「喜 び」 で は身 体 は上 志 向 で あ り, 連 続 性,
移 動 性 が 強 い回 転 で あ る。
・ 「悲 しみ 」で は身 体 は下 志 向で, 連 続 性, 移
文
動 性 に 欠 け る回 転 で あ る。
・ 「喜 び 」 で は 「悲 しみ 」 に 比 で て 回転 の 速度
1)
Bollnow,
O.F:
献
Mensh
und
Raum.大
塚恵
一
他 訳 「人 間 と 空 間 」 せ り か 書 房, 1983.P.234∼5
2) 本 田 和 子: 子 ど も た ちの い る 宇 宙, 三 省 堂.1980.
は 速 く, ま た回 転 数 も多 い 。
〔実 験2よ り〕
・ 「喜 び 」 で は 回 転 数 の 多 さ と感 情 一 致数 と の
P.84,
88
Langer,
3)
直 幹他 訳
間 に 直 接 的 な 関 係 は 認 め られ な い 。
-22-
S. K:
Feeling
「感 情 ど 形 式1」
and
太 陽 社,
Form
.大 久 保
1975.P.299