チャイナレポート - 新潟経済社会リサーチセンター

チャイナレポート
第14回
また、経済協力開発機構(OECD)は、対中経済審
査 報 告 の な か で「 今 年 の 中 国 の 実 質GDP成 長 率 は
中国経済事情
8.5%になる」との見通しを示した。さらに、中国の
潜在成長率は高いと評価したうえで「国内需要を一層
昨年9月以降、中国では、尖閣諸島問題、PM2.5問
掘り起こすことも重要だ」とも指摘した。
題、さらには鳥インフルエンザ問題など、さまざまな
加えて、今年3月に日系企業に対して実施された
問題が発生している。
NNAのアンケート調査(回答企業数124社)をみると、
そうしたなか、中国国家統計局から2013年第1四半
今後の中国事業展開の意向について「拡大・新規投資
期(1−3月)のGDP成長率が発表された。前年同
を考えている」「これまで通りの規模を維持する」と
期比8%台を回復するとの市場予測に反し、同7.7%
回答した企業の割合がそれぞれ44.4%となり、この2
増にとどまった。
つを合わせると9割近い日系企業が今後も中国事業を
GDP成長率は、12年第4四半期(10−12月)に8四
継続、または投資の拡大を予定しているとの結果と
半期ぶりに加速し、足元の景気回復を印象づけていた
なった。理由としては「反日デモだけで事業縮小は短
が、今年の第1四半期の動向をみる限り、景気回復に
絡的」「リスクは高いものの消費地として更なる拡大
向けた動きが足踏みしているようにみえる。
成長に期待」「市場規模をみたとき、これまでの規模
しかし、今回中国政府は「7.4∼7.9%が安定成長で
を減らす理由が見当たらない」などが挙げられた。一
ある」と言明した。日本国内の報道では悲観的な見方
方、労働・部材コストの上昇、チャイナリスクなどを
が多い一方、中国国内では「市場予測より低かったも
理由に「中国事業の縮小・撤退を検討」している企業
のの、各産業で在庫調整が進んだのが一因。中長期的
は11.2%にとどまった。
な安定成長に向けた経済構造の転換を進める政府に
今回の調査結果を踏まえると、日系企業が消費地と
とっては十分な範囲」と、冷静な見方が多い。
しての中国市場に依然として大きな魅力を感じている
中国のGDP成長率推移
(%)
16.0
14.2
14.0
12.7
12.0
10.0
11.3
10.0
8.0
6.0
10.4
10.1
7.0
7.0
2003
04
9.6
9.2
9.2
8.0
8.0
8.0
8.0
8.0
8.0
8.0
05
06
07
08
09
10
11
7.8
7.7
7.5
7.5
12
13
4.0
2.0
0.0
(年)
GDP成長率(目標値)
(資料)中国国家統計局
(注) 2013年実績値は第1四半期(1−3月)の値
新潟経済社会リサーチセンター センター月報 2013.06
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GDP成長率(実績値)
チャイナレポート
中国経済事情/心のレストラン
ことがうかがえる。
中国の経済成長の一役を担う日系企業の取り組みに
その昔、デモ活動や公害問題などは日本でも起こっ
期待したい。
ていた。マイナス面ばかりに着目するのではなく、さ
まざまな課題に対して共に解決しようとする姿勢が新
(第四銀行上海駐在員事務所 杉山 伸)
たなビジネスにつながっていくのではないだろうか。
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下げ政策」を実施しました。政府が民営書店の経営を
心のレストラン
支援するのは極めて異例なことです。一方、書店業界
側もさまざまな特色あるサービスを企画し、経営改革
を進めています。
中国では昔から「本は人間の精神の食料」といわれ、
例えば、上海の書店激戦区である福州路には、市内
精神・心のレストランに例えられてきました。最近で
で唯一となる「24時間営業」の書店がオープンしまし
は、書店に足を運ぶことが中国人にとって余暇を楽し
た。店内には、単に本を販売するスペースだけでな
む方法の1つとなっており、特に若者にはデートの場
く、カフェを併設するなど工夫を凝らしています。ま
所として利用されています。
た、お客様の好みに合った本を薦める『選書師』と呼
そうしたなか、今年4月、上海の民営書店で最も有
ばれるアドバイザーを置いたり、定期的に読書会を開
名な「季風書園」の本店が閉店しました。国営書店が
催しベストセラー作家を招くなど催し物も行われたり
大半を占める中国では、一部民営書店も認められてい
しています。
ます。しかし、過去10年間で民営書店の半数近くが倒
以前、大学の周辺では文学、学術、外国語、美術や
産したといわれています。
テクノロジーなど、各分野における専門書を取り揃え
その理由は、ネット書店の登場にあるようです。当
た小さな書店をよく見かけました。
然ながらネット書店は店舗を持たない代わりに、さま
しかし、今ではこうした光景は少なくなってきてい
ざまなコストを軽減できます。そのため、本を定価よ
ます。中国には美味しいレストランが数多くあります
り安い価格で販売できるほか、自宅まで無料で配達し
が、本という精神的なレストランも消えてほしくない
てくれるため、わざわざ重い本を買って持って帰って
と思います。書店が消えてしまった都市は文化喪失の
くるという煩わしさがありません。こうしたネット書
危機に瀕しているといっても過言ではありません。文
店の出現に加え、人々はパソコンや携帯電話で電子書
化の多様性を守るという観点からも、都市の小さな書
籍を読むようになったことから、書店経営はますます
店を微力ながら応援していきたいと思います。
深刻になっています。
このような状況を打開するため、昨年3月、上海市
(第四銀行上海駐在員事務所 范 文佳)
政府は「民営書店の発展支援のための減税、家賃引き
新潟経済社会リサーチセンター センター月報 2013.06
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