欧州司法裁判所(European Court of Justice)

2007 年 8 月 2 日
担当:弁護士 上村哲史
事件名:Sociedad General de Autores y Editores 法分野:著作権法
de España (SGAE) v Rafael Hotels SA 事件
欧州司法裁判所(European Court of Justice) 2006 年 12 月 7 日判決
【事案の概要】
スペインの著作権管理事業者である X が、Y の所有するホテル客室内に設置されたテレビによる音楽の提供は、X
の管理する著作物の公衆への伝達にあたり、これによって著作権が侵害されたとして、バルセロナの第 1 審裁判所
に提訴した。同裁判所は、同ホテル客室内に設置されたテレビによる音楽の提供は、X の管理する著作物の公衆へ
の伝達にあたらないとして、X の請求を棄却し、その一方で、ホテルの共用部分に設置されたテレビによる音楽の
提供について、X の請求を認容した。これを受けて、XY 双方が控訴し、控訴審裁判所は、欧州司法裁判所に対し、
下記の争点に対する先行判決を求めた。
(欧州司法裁判所)欧州司法裁判所は、EU基本諸条約の解釈と適用における法の尊重の確保を目的として設立さ
れた機関であり、先行判決制度を通じて、EU 加盟国の国内法と共同体法との整合性、解釈等に関する各種法律問
題について鑑定や助言を行う権限を有している。先行判決制度とは、加盟国の国内裁判所が欧州司法裁判所に対し
て加盟国の国内法が共同体法に適合しているかを照会し、欧州司法裁判所がこれに対して判断を下す制度である。
欧州司法裁判所が、ある事項に対して先行判決を行った場合には、照会を行った当該国の裁判所のみならず、他の
加盟国においても同様の事項については拘束されることとなる。
(EU指令 2001/29 第 3 条 1 項)
「加盟国は、著作者に、その著作物について、有線又は無線の方法による公衆へ
の伝達(公衆のそれぞれが選択する場所及び時期において著作物の使用が可能となるような状態に当該著作物を置
くことを含む。)を許諾し又は禁止する排他的権利を与えなければならない。(Member States shall provide
authors with the exclusive right to authorise or prohibit any communication to the public of their works, by
wire or wireless means, including the making available to the public of their works in such a way that
members of the public may access them from a place and at a time individually chosen by them.)
」
【争点】
(1) ホテルの客室にテレビを設置すること自体が、2001/29 指令の第 3 条(1)の「公衆への伝達」に当たるか?
(2) ホテルの客室が持つ私的な性質により、テレビを通じた客室への著作物の伝達は、同条(1)の「公衆への伝達」
から除外されるのではないか?
(3) ホテルの客室内にいる顧客に対するテレビを通じた信号の送信が、同条(1)の「公衆への伝達」に当たるか?
【争点に対する判断】
(1) 争点(1)について
物理的施設の単なる提供は、2001/29 指令の第 3 条(1)の「公衆への伝達」に当たらない。
(2) 争点(2)について
ホテルの客室の私的な性質は、テレビを通じた著作物の伝達が同条(1)の「公衆への伝達」を構成すること
を妨げない。
(3) 争点(3)について
ホテルが客室に滞在する顧客に対し、テレビを通じて信号を配信することは、当該信号を伝達するために使用
される技術に関係なく、同条(1)の「公衆への伝達」を構成する。
【コメント】
・本判決は、 WIPO 著作権条約第 8 条とほぼ同一の規定である 2001/29 指令の第 3 条(1)の解釈を通じて、ベ
ルヌ条約第 11 条の 2(1)や WIPO 著作権条約第 8 条の解釈を示している。本判決が判示する「公衆への伝達」
(communication to the public)の解釈は、我が国著作権法の公衆送信権等を解釈するに当たっても参考になる。
2007 年 8 月 2 日
担当:弁護士 上村哲史
【参考文献】
・ 欧州司法裁判所の概要等は、在ルクセンブルク日本国大使館ホームページを参照。
(http://www.lu.emb-japan.go.jp/japanese/eu/justice.htm)