3.ソフトウェア 178

3.ソフトウェア
(1)WTO 加盟に伴う中国ソフトウェア産業の変化
2001 年中国の WTO 加盟に伴い、中国情報産業は国際規則に則った具体的な履行項目につ
いて次のように定め施行した。
a) 2005 年 1 月までに情報製品に対する輸入関税を全面解除する。
b) 情報技術製品に対する輸入制限枠の取消し(非関税枠の拡大)。
c) 市場の開放および外国企業の出資比率や地域の制限を無くし、IT 産業への投資を活性
化させる。
WTO 加盟前の中国政府の国内ソフトウェア企業に対する支援は主に資金面の優遇政策であっ
た。具体的に国務院は 2000 年《ソフトウェア産業及び IC 産業発展奨励に関する若干の規定》
(18 号文献)を頒布し、投資、融資、税金の減免や還付などの面で、ソフトウェア企業に対
して資金上の優遇をしてきた。統計によると、2001、2002 年の 2 年間における中国全体のソ
フトウェア企業への税金還付の総額は 50 億人民元にのぼった。
しかし、WTO 公約により、外国ソフトウェア企業も同様の待遇を享受できるようになったた
め、中国政府は国内ソフトウェア企業を支援するため国内企業を優遇する政府調達活動に方針
を転換していった。この例として 2001 年の北京市政府ソフトウェア調達において、受注でき
た外国企業は一社もなく、特に Office ソフトウェアにおいて、マイクロソフトは受注できず、
金山公司が受注した。本件は中国 WTO 加盟の直後であったため、ニュースとなり議論を呼んだ。
北京市政府はこの件について WTO の精神に反していない、さらに中国ソフトウェア企業の発展
現状及び具体的国情を考慮し、合法的非関税貿易保護とし、政府として国産のソフトウェア製
品の購買を優先的に検討していくと表明した。
2003 年 1 月 1 日より、「政府調達法」が正式に実施され、政府調達は優先的に中小企業と
中国製品プロバイダへの優遇を規定し、国内企業の競争力強化・育成に法的保障を提供した。
また「調達法」の具体化として、「政府によるソフトウェア調達管理方法」も間もなく打ち出
される予定である。さる情報筋によると、今後の政府調達全体金額の 30%はソフトに配分し、
且つ必ず国家認定に合格した国産品を購買するとの規定がある。政府の認定した企業リストは
近日公表される予定で、北京市政府ソフト調達に関連した金山公司もリストに入りした模様で
あり、今後、独自の国産オフィスツールを開発する期待を持たれている。
(2)2003 年中国ソフトウェア産業の概況
WTO 加盟後の二年間、中国ソフトウェア市場は持続的な成長を遂げ、2003 年ソフトウェア
製品の年間売上げは 399.6 億元に達成した。
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1999-2003 年中国ソフトウェア市場の規模と増長
500
400
300
売上
200
100
0
1999 2000 2001 2002 2003
(出典:CCID)
2003 年 7 月、中国ソフトウェア協会は 2003 年中国ソフトウェア産業におけるトップ 100 の
大手企業リストを公表した。次の表は 2003 年中国ソフトウェア産業におけるトップ 10 の企業
を示している。
順次
1
企業名
華為技術有限公司
主な製品
ネットワーク、通信、移動端末
2
深圳市中興通信股分会社
無線、ネットワーク、端末製品
3
托普通集団科技発展有限責任公司
OS、データベース、ネットワークセキュリティー
4
ディジタルチャイナ有限公司
ネットワークインフラ、アプリケーションソフトウェア、
端末
5
浪潮集団有限公司
PC、サーバ、アプリケーションソフトウェア、端末
6
上海シーメンズ移動通信有限公司
移動端末、通信ネットワーク及び工程
7
パンダ電子集団有限公司(江蘇)
通信、家電品、移動端末、ハードウェア
8
東軟集団有限公司
アプリケーションソフトウェア、サービス、ソリューショ
ン、開発プロジェクトの請負
9
北京北大方正集団公司
電子政務、出版、ネットワーク、情報
10
マイクロソフト(中国)有限公司
OS、開発ツール、アプリケーションソフトウェア
トップ 10 の企業の特徴としてはハードウェアを中核業務としている企業が圧倒的に多く、
例えば、第一位と第二位である華為と中興は業務基幹向け通信企業で、主な業務はネットワー
ク通信であり、ソフトウェアは売上高の一部である。且つ組込み式のソフトウェアがソフトウ
ェア売上げのメインとなっている。また、2003 年中興の売上げの内訳では、移動製品・交換
製品・データと光通信製品・移動端末のそれぞれの比率は 48.9%、13.8%、15.5%、17.5%
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で、独立のソフト製品の比率は大きくない。10 社の中で、東軟とマイクロソフト(中国)の 2
社のみが専門的にソフトウェア製品を取扱う企業であり、その売上げは 20 億元程度である。
(3)2004 年の発展トレンド
2004 年中国政府は引き続き政府調達を通じて国内企業を支援する。ディジタルオリンピッ
ク、政府上網(政府によるインターネット進出)、企業上網(企業によるインターネット進
出)など一連の大型プロジェクトの発足或いは加速に伴い、政府調達の市場は拡大しつつあり、
2004 年の政府ソフトウェア調達金額は 90 億元になると予測されている。外国企業は政府調達
の市場で、中国企業と競争するために中国企業との合弁企業の設立を進めている。例えば、マ
イクロソフトは中関村ソフトウェアと上海微創ソフトウェア有限公司を設立した。
一方、中国ソフトウェア企業の核心技術及び国際競争力不足という現状改善のため、中国政
府は 2002 年に公表した《ソフトウェア産業振興行動綱要》(47 号文献)を通じて、2005 年ま
でに、年間売上げ 50 億元以上になるソフトウェア企業を育成し、輸出は 50 億ドル、ソフトウ
ェアの世界シェアを 3%ほどとすることを目標とした。その結果、中国最大のソフトウェア企
業の沈陽東軟は 2002 年の本業の売上げを 20 億元近くに成長させている。また、中軟(中国ソ
フトウェア集団公司)も2003年、10 億元の売上げをあげた。現在、中軟は海外のソフトウ
ェア市場の拡大にも注力しており、海外上場などを通じて、全世界ソフトウェア企業のトップ
50 入りを狙っている。
ソフト製品輸出に関して、中国政府はソフト産業を主力産業として育てている。しかし、人
民元切上げなどの外圧もあり輸出を抑制するため、2004 年 1 月から製品輸出増値税の還付率
を 17%から 13%まで下げた。しかし、ソフト輸出については中国の高新技術製品認証を受け
た企業であれば、引き続き増値税全額還付の優遇政策が適応される。これは中国国内ソフト産
業への優遇と育成を目的にした政策を継続したものである。
(4)日本向けの輸出市場と日系企業の動向
中国から日本へのソフト輸出は歴史が長く、現在も日本は最大の輸入国である。2004 年中
国政府はソフト輸出促進のため、五つのソフトパークと輸出基地の設置を決めた。その中で大
連はソフトウェアの日本輸出窓口として、ソニー、松下、GE、Accenture、IBM、東軟、中軟等
の大手ソフト企業が集まっている。2003 年の「東北振興」政策を元に、2004 年 1 月松下はさ
らに大連で松下電器軟件開発(大連)有限公司を設立した。ただし、まだまだ現実として日本
語が分かるソフトウェア人材の不足が制約の要素の一つになっているため、ここ数年、日本か
らの投資は日本語人材が集約されてきている上海地域に移行しつつある。
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五つの国家ソフト輸出基地
中国のソフト輸出促進政策のもう一つのポイントとして、自主開発の重視があげられる。現
在、中国から輸出されるソフト製品のほとんどは海外からの OEM、ODM 方式の受託加工であり、
自主開発で知的所有権のあるソフトウェアはあまりない状況である。しかし、2002 年の年末、
北京瑞星科技株式有限公司と日本 efrontier 株式会社は北京で新聞発表会を共催し、
瑞星ウ
ィルス対策ソフト 2003 日本語版 を北京と東京で同時に販売開始すると発表した。これは海
外からのソフト開発請負のような今までの事業形態から抜け出したものである。
従来日本企業の中国ソフト発注は主に低コストを目的としていた。近年、中国のソフト開発
は単純な低コスト主義から機能競争に転換しつつある。例えば一部の日中合弁企業は日本のプ
ロジェクトの請負をベースとしながら物流、ERP などの自社製品を開発し、且つ日本に輸出し
ている。そういう状況で日本企業も中国でのソフト事業を転換し始めた。将来においては自主
ブランド製品の中国販売を拡大し、中国マーケットのシェア拡大を目指している、また、中国
企業とはどの方面で日本のソフト開発協業を推進するかなどをビジネスの新機軸として打ち出
している。
今後の中国のソフト産業は、海外に向けたソフト開発請負と国内の情報化推進を両輪にして
2008 年北京オリンピック開催に向けてさらに発展すると思われる。
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