職場における英語の重要性に関する日比比較

関東学院大学『経済系』第 234 集(2008 年 1 月)
論 説
職場における英語の重要性に関する日比比較
Importance of English Proficiency in Business:
Situations in Japan and in the Philippines
中 原 功一朗
Koichiro Nakahara
要旨 日本(東京首都圏)とフィリピン(マニラ首都圏)における民間企業勤務者の自己評価によ
る英語力,職場での英語使用頻度,仕事をする上での英語力の重要性について,アンケート調査を
行った。今回の調査でも,自己評価によるフィリピン人の英語力は,先行研究の記述や他のデータ
で指摘されているとおり,日本人の英語力よりも,高いという結果となった。また,調査結果から,
フィリピンでは仕事をしてゆく上で英語は重要であるが,日本ではまだそうでもない,ということ
が読み取れた。本稿においては,先行研究に言及しながら,調査結果を考察する。
キーワード 英語力,英語格差,職場,ビジネス言語
はじめに
1. 調査の概要
2. 回答者のプロフィール
3. 自己評価による英語力
4. 業務における英語使用頻度と英語格差
5. 10 年後のビジネス言語
6. 英語力の査定
むすび
家3) である。英語は,上記のとおり公用語の 1 つ
はじめに
であると同時に,
「立法・司法・行政・教育・マスコ
日本は日本語を国語とする単一言語国家で,英
語は公用語ではない。近年,日本においても,仕
事をする上で英語の必要性が高まったと言われて
いる。しかし,英語力が仕事に大きく影響すると
いう状況にある人の数は,いまだに,それほど多
くはないと思われる。
一方,フィリピンは,フィリピノ語1) を国語と
し,フィリピノ語と英語2) を公用語とする多言語国
〔注〕
1)フィリピノ語は,英語とならぶフィリピンの公用語
の 1 つであると同時に,国語という位置づけである。
フィリピノ語は,タガログ語を基礎として作られた
言語である。詳細は,本名(1993: 98)
,吉村(1993:
363)を参照されたい。
2)Taglish,Engalog と呼ばれる民族色の強い英語で
ある。英語とタガログ語がかなり混ざり合っている
もの(bald Taglish)から,標準的な英語,米語に
近いものまで,その幅は広い。また,特定の個人が
相手により,前者と後者を使い分けることもある。
Taglish,Engalog の国際的通用度は高いと言われ
ている。詳細は,本名(1999: 95, 100),Bautista
(1998: 51)
,河原(2002a: 208)などを参照された
い。また,Nakahara(2006: 23–62)の実験では,
日本人も Taglish を読んで理解できる可能性が高い
ことが示唆された。
3)フィリピン国内の言語数は 80 前後(外務省インター
ネット資料)とも,100 以上(河原,2002a: 119)
とも言われている。なお,フィリピン国内の主要な
言語とその母語話者数などについては,コムリー・
他:片田(訳)
(1999: 98)
,アッシャー・モーズレ
イ:福井(訳)
(2000: 93)などを参照されたい。
— 41 —
経
済 系
ミの重要な言語である」(河原,2002a: 202)。同
第
234 集
2.
回答者のプロフィール
国においては,仕事で英語を使用する頻度が高く,
日本,フィリピン両国における回答者のプロフ
英語力が仕事に大きく影響すると言われている。
そこで,日本とフィリピンにおける民間企業勤
ィールは,表 1 のとおりである。
務者の自己評価による英語力,職場での英語使用
回答者の性別については,日本とフィリピン
頻度,仕事をする上での英語の重要性について,ア
で 男 女 比 が 逆 転 し て い る 。日 本 で の 男 女 比 が
ンケート調査を行った。本稿においては,調査の
65.74% : 34.26%に対して,フィリピンでの男女比
結果を報告し,先行研究やすでに発表されている
は 36.27% : 63.73%であった。
年齢に関しては,日本では 20 代(24.54%)
,30
資料などに言及しながら,その結果を考察する。
代(43.52%)
,40 代(27.31%)が多く,フィリピ
ンでは 20 代(43.14%)
,30 代(32.35%)が多かっ
1. 調査の概要
た。日本,フィリピンとも,20 代,30 代,40 代
日本での調査は,筆者が調査項目(資料 1 参照)
が回答者の大半を占めている。
を作成して,NTT レゾナント株式会社に,Web ア
学歴については,日本とフィリピンで学制が異
ンケートを依頼した。調査は 2005 年 6 月に行い,
なるため,若干の説明が必要となる。日本の制度
対象者は日本語を母語とする東京都,神奈川県,千
では,小学校が 6 年間,中学校が 3 年間,高校が
葉県在住の民間企業に勤務する給与所得者とした。
3 年間,大学が 4 年間である。しかし,フィリピ
有効回答数は,216 であった。
ンの制度では,小学校が 6 年間,ハイスクールが
フィリピンでの調査では,まず,筆者が英語によ
4 年間,大学が 4 年間である(河原,2002a: 205)
。
るアンケート質問紙を作成した。次に,Ms. Mary-
したがって,表 1 のフィリピンの「高校卒」は「ハ
Jane Reillo(フィリピンの大学で化学を専攻した
イスクール卒」という意味で,日本の高校卒より
日本在住のフィリピン人;定期的にフィリピンに
も修業年限が 2 年短いということになる。また,
帰省している)に英語からタガログ語4) への翻訳を
フィリピンの大卒までの修業年限は 14 年間である
依頼し,英語とタガログ語,2 言語併記のアンケー
から,これは日本の短大(2 年制)
・専門学校(2 年
ト用紙(資料 2 参照)を作成した。現地での調査
課程)
・高専卒と同期間ということになる。日本に
は,上記質問紙を用いた対面調査とし,実施は彼
は,3 年制の短大,1 年課程・3 年課程・4 年課程の
女に依頼した。調査対象者がアンケート用紙に記
専門学校も存在し,表 1 の「短大・専門卒」には,
入する際に,適宜,口頭での説明を彼女が行った。
これらの卒業者が混在していることが予測される。
調査は 2005 年 12 月から 2006 年 1 月にかけて行
しかし,当該課程の卒業者がこの項目中に何人含
い,対象者はマニラ及びマニラ近郊在住の民間企
まれているかは不明である。したがって,本稿に
業に勤務する給与所得者とした。なお,回答者の
おいては,日本の「短大(3 年制の卒業者も含む)
・
母語については,制限を設けなかった。102 人よ
,
「高専
専門(1・3・4 年課程の卒業者も含む)卒」
り回答を得た。
卒」と「大卒以上」
,フィリピンの「大卒以上」を
高等教育修了者の括りとする。日本での回答者に
占める高等教育修了者の割合は 84.26%,フィリピ
ンでは 75.49%となる。日本,フィリピンとも,高
4)タガログ語は,フィリピン国内で優勢な民族言語で
ある。フィリピンの人口・約 7,650 万人(外務省イ
ンターネット資料)中,タガログ語の母語人口は約
1,000 万人(コムリー・他:片田(訳),1999: 98)
で,国内では政治的,経済的に優勢なルソン島中央
部の言語である(詳細は,吉村,1993: 363)
。
等教育修了者の割合が大きい。
回答者の勤務先職種については,日本では製造
業(22.22%)とサービス(33.80%)の割合が大き
く,フィリピンではその他(37.25%)の割合が大
きい。
— 42 —
職場における英語の重要性に関する日比比較
表 1 回答者のプロフィール(1/2)
項目
区分
日本(N = 216)
フィリピン(N = 102)
性別
年齢
学歴
人
%
人
%
男性
142
65.74
37
36.27
女性
74
34.26
65
63.73
10 代
0
0.00
3
2.94
20 代
53
24.54
44
43.14
30 代
94
43.52
33
32.35
40 代
59
27.31
10
9.80
50 代
9
4.17
9
8.82
60 以上
1
0.46
1
0.98
不明
0
0.00
2
1.96
高校卒
33
15.28
13
12.75
短大・専門卒
35
16.20
区分設定無し
高専卒
6
2.78
区分設定無し
大学在学中
区分設定無し
2
1.96
大学中退
区分設定無し
10
9.80
77
75.49
大学卒以上
141
65.28
その他
1
0.46
製造業
48
22.22
区分設定無し
12
11.76
勤務先職種
商社
8
3.70
8
7.84
流通・小売
14
6.48
19
18.63
金融・信販
9
4.17
5
4.90
証券取引
1
0.46
0
0.00
保険
3
1.39
0
0.00
運輸・倉庫
7
3.24
3
2.94
通信
19
8.80
13
12.75
サービス
73
33.80
2
1.96
新聞・出版・放送
4
1.85
0
0.00
その他
30
13.89
38
37.25
不明
0
0.00
2
1.96
10 人未満
20
9.26
14
13.73
10 人以上 30 人未満
19
8.80
13
12.75
勤務先規模
30 人以上 50 人未満
17
7.87
12
11.76
50 人以上 100 人未満
13
6.02
11
10.78
100 人以上 300 人未満
29
13.43
15
14.71
300 人以上 500 人未満
10
4.63
7
6.86
500 人以上
108
50.00
28
27.45
0
0.00
2
1.96
不明
— 43 —
経
済 系
第
234 集
表 1 回答者のプロフィール(2/2)
項目
日本(N = 216)
区分
フィリピン(N = 102)
人
%
人
%
営業
32
14.81
30
29.41
人事
1
0.46
9
8.82
総務・経理
24
11.11
8
7.84
回答者の担当業務
広報
2
0.93
7
6.86
社長室・秘書室
2
0.93
3
2.94
企画・営業企画
5
2.31
1
0.98
調査・マーケティング
6
2.78
2
1.96
ソフトウエア・システム開発/管理
51
23.61
4
3.92
商品開発・研究開発
18
8.33
2
1.96
デザイン・出版・レイアウト・DTP
9
4.17
2
1.96
生産管理・物流・輸送
6
2.78
2
1.96
その他事務
27
12.50
2
1.96
その他実務
23
10.65
0
0.00
その他
10
4.63
23
22.55
不明
0
0.00
7
6.86
181
83.80
区分設定無し
正社員
雇用形態
フルタイム社員
区分設定無し
89
87.25
母語
契約社員
16
7.41
区分設定無し
派遣社員
12
5.56
区分設定無し
パート・アルバイト
7
3.24
11
10.96
その他
0
0.00
2
1.96
日本語
216
100.00
タガログ・フィリピノ・ピリピノ語
区分設定無し
その他(英語を除く)
区分設定無し
不明
0
勤務先規模については,総じて,日本のほうが
区分設定無し
80
78.43
14
13.73
8
7.84
0.00
に起因している可能性がある。
大きい。日本の回答者の 50%が従業員数 500 人以
回答者の雇用形態は,日本,フィリピンとも,正
上の企業に勤務しているのに対して,フィリピン
社員,フルタイム社員が多い。日本での正社員の
では,従業員数 100 人以上でも半数に満たない。
割合は 83.80%,フィリピンでのフルタイム社員の
回答者の担当業務については,回答者の 20%以
割合は 87.25%であった。
上が従事している職種をあげる。日本ではソフト
回答者の母語については,日本の場合,前述(1.)
ウエア・システム開発/管理(23.61%)
,フィリピ
のとおり,対象者を日本語を母語とする者に限定
ンでは営業(29.41%),その他(22.55%)であっ
したため,日本語を母語とする者が 100%である。
た。日本において,上記職種の就業者の割合が大
フィリピンでは,回答者の母語は,タガログ語,
きいのは,本調査が Web アンケートであったこと
— 44 —
職場における英語の重要性に関する日比比較
表 2 自己評価による英語力(100 点満点による自己採点平均値)
日本
国別
フィリピン
ポイント
有効回答数
ポイント
有効回答数
Listening
30.15
216
89.01
98
Speaking
26.63
216
84.30
96
Reading
36.82
216
92.16
98
Writing
27.44
216
88.89
98
4 技能平均
30.26
216
88.59
97.50
技能
* 1)各技能のポイントは,有効回答の平均値
* 2)4 技能平均は,4 技能のポイントの合計を 4 分した値
フィリピノ語,ピリピノ語5) が大勢を占めている6) 。
フィリピンの回答者の内,母語が不明の者は 8 人
自己評価による英語力は,フィリピンのほうが
日本よりも圧倒的に高い。4 技能の平均で,日本が
(7.84%)である。したがって,英語を母語,また
30.26 ポイント,フィリピンが 88.59 ポイントであっ
は母語の 1 つとする者は,0∼7.84%ということに
た。フィリピンの回答者の中に,最大で 7.84%の
なる。
英語母語話者がいるとしても,この差は大きいと
言える。
ETS(インターネット資料)の TOEFL 国別比
3. 自己評価による英語力
較では,2002–2003 年のフィリピンの受験者の平
回答者自身の自己評価による英語力を申告して
もらった。自己評価とは,各回答者に,母語を 100
均点は 230 点(アジアで 3 位)
,日本の受験者の平
均点は 186 点(アジアで 22 位)であった。
点とした場合の英語力を 100 点満点で評価しても
らったものである。結果は,表 2 のとおりである。
日本人を対象とした自己評価による英語力に関
する調査(リクルート,2004: E メール調査)で
は,4,946 人から回答を得たが,
「英語はほとんど
5)ピリピノ語は,フィリピノ語以前に,タガログ語を
基礎として作られた言語で,政府は国内共通語とし
ての使用を目指したが,社会生活全般に普及するに
は至らなかった(詳細は,吉村,1993: 363)
。
6)フィリピノ語,ピリピノ語は,いずれも,タガログ
語を基礎とした,ある種の人工言語であり,これら
の 3 言語は類似性の強い言語で,特にタガログ語
とフィリピノ語は「基本的には同一物」
,
「実質的に
は同じ」という指摘もある(詳細は,吉村,1993:
363–364,河添,2005: 203,河原,2002b: 66 など)
。
また,2005 年 1 月の調査(詳細は,Nakahara, 2005:
1–17)では,フィリピン人回答者 121 人中 67 人(約
55%)が「タガログ語とフィリピノ語は同じ言語」と
回答している。さらに,フィリピン英語では,[f] は
[p] と発音されることが多く(河原,2002a: 209),
本調査でも回答者が「フィリピノ語」と「ピリピノ
語」を明確に区別しているか否かは定かではない。
ゆえに,本調査においては,フィリピンの回答者の
母語に関して,これらの 3 言語を 1 つの括りとして
集計した。
分からない」と回答した者は 22%,
「カタコトであ
いさつや自己紹介ができる」が 44%,
「日常的な
簡単な会話をゆっくりなら聞いたり話したりでき
る」が 24%,
「基本的な日常会話ならあまり問題な
くできる」が 7%で,
「聞くことも話すことも自然
な速度でできる」は 3%にすぎなかった。
一方,フィリピンにおいては,英語は 20 世紀初
頭から使用されている(本名,1993: 99)
。一般論
として,フィリピンでは英語は広く普及し,国民の
英語力は高いと言われている。河原(2002a: 199)
は,
「フィリピンの英語話者数は,世界で第 3 位,
アジアで第 1 位である,とフィリピン人は自国の
英語力をよく自慢する」と述べている。
よって,今回の調査結果は,日本,フィリピン
とも,上記の先行研究の記述や他のデータと符合
するものであったと言えよう。
— 45 —
経
表 3
済 系
第
234 集
業務における英語使用頻度
日本
国別
フィリピン
%
有効回答数
%
有効回答数
社内での会議
3.66
216
74.56
99
社内の人と話す時(会議以外で,直接または電話で)
3.05
216
64.50
101
社内 e メール
4.50
216
84.00
93
社内文書(書類や会議資料,メモなど)
5.67
216
92.26
101
取引先との口頭での交渉・連絡(直接または電話で)
4.25
216
73.90
102
取引先との e メールのやり取り
3.84
216
83.74
99
取引先関係の文書(ビジネスレターや契約書,その他資料など)
7.71
216
87.33
102
7 項目平均
4.67
216
80.04
項目
99.57
* 1)各項目の%は,有効回答の平均値 * 2)7 項目平均は,7 項目の%の合計を 7 分した値
表 4
日本で各項目においてまったく英語を使用していない者(N = 216)
人/%
人
%
社内での会議
180
83.33
社内の人と話す時(会議以外で,直接または電話で)
181
83.80
社内 e メール
177
81.94
社内文書(書類や会議資料,メモなど)
159
73.61
取引先との口頭での交渉・連絡(直接または電話で)
169
78.24
取引先との e メールのやり取り
169
78.24
取引先関係の文書(ビジネスレターや契約書,その他資料など)
151
69.91
項目
く英語を使用していない者は 119 人(55.09%)に
4. 業務における英語使用頻度と英語格差
のぼり,項目別にみた場合には,まったく英語を
業務における 7 項目を設定し,各項目での英語
使用していない者は,表 4 のとおり,かなり多い。
使用頻度(英語を使用する割合)を調査した。各
英語格差とは,英語力が低い(もしくは無い)こ
回答者に各項目の使用頻度を百分率で回答しても
とに起因して被る差別や不利益のことである。本
らい,その平均値を算出した。結果は,表 3 のと
調査では,現状で英語がまったく使えないと仮定
おりである。
した場合にどうなるか,という質問に対して,起
フィリピンにおける業務での英語使用頻度は,日
こりうると思うことを 8 つの選択肢の中から複数
本と比べて,格段に高い。フィリピンにおいては,
回答で選んでもらった。結果は,表 5 のとおりで
7 項目の平均が 80%を超えている。しかし,日本
ある。
の場合は,5%を下回っている。フィリピンにおい
日本では「何の影響もない」が 67.59%であるの
ては,いずれの項目においてもまったく英語を使
に対して,フィリピンでは 22.55%であった。他の
用していない者は,皆無である。しかし,日本に
不利益に関する項目でも,全てにわたって,フィ
おいては,これらの 7 項目全てにわたってまった
リピンのほうが数段数値が高く,英語格差が断然
— 46 —
職場における英語の重要性に関する日比比較
表 5 英語が使用できない場合に起こりうること(各国 N に対する当該回答度数の%)
国別
日本(N = 216)
フィリピン(N = 102)
会社を辞めざるを得ない
3.24
14.71
会社に居づらくなる
5.56
34.31
他の部署へ移動となる
4.17
12.75
給料や手当てなど,経済的な不利益を被る
6.48
22.55
昇進に関して不利益を被る
8.33
30.39
仕事がし難くなる
21.30
46.08
何の影響もない
67.59
22.55
その他
1.39
項目設定無し
無回答
0.00
2.94
選択肢
大きいと言えよう。
中の英語学校に通う人もいる。また,中原(2002:
日本においても,企業内公用語が英語になった
64)は,岩瀬(2000: 70–72)の記述を基に,英語
り,日英併記を推進する企業が出現したりしてい
力の向上が緊急かつ重要な課題となっている人の
る。吉原(2001: 50–68)は,英語でかなりの業務
事例をまとめているが,その中から,英語格差に
を行っている外国企業の日本支店や子会社につい
関する部分を以下に抜粋する。
て紹介しているが,これらの支店や会社では,英
語が事実上,店(社)内共通語,公用語となって
1 ドイツ系企業と資本提携した中堅家電メーカー
いる。
営業部長のケース:
日本の企業においても,英語の重要性が高まっ
米国人上司に仕える身となった。英語コンプ
てきたと言われている。また,昇進・昇格の条件
レックスから会社での将来に見切りをつけつつ
として,一定の TOEIC の得点を従業員に求める
企業もあることは,事実である(國弘・千田対談;
ある。
2 多国籍企業と資本提携した大手食品メーカー社
國弘,2000: 267)
。この点に関して,岩瀬(2000:
員のケース:
70)は,次のように述べている。
英語ができなければ会社での未来は閉ざさ
れる。
ここ数年,英語への需要が急速に高まって
いる。この背景には,外資系企業との提携・
3 多国籍企業と資本提携した大手食品メーカーも
う 1 人の社員のケース:
買収やインターネットの普及といったものば
英語に自信のない人は,全額自費で英語学校
かりではなく,国内市場の冷え込みで海外市
に通う。会社の英語コースを受講するためには,
場をマーケットとして積極的に開拓していか
TOEIC を受験しなければならず,スコアーは人
なければならない,抜き差しならない企業の
事部の記録に残る。あまり点数が低いと,その
現状がある。ある日,突然,会議が英語で行
段階で間引かれてしまうかもしれない。怖くて
われるようになる,人事考課の項目に英語が
受験できない。
入る——こんな例さえ珍しくなくなってきて
いる。
上記のような現状はあるものの,中原(2002: 70)
業務上,社員が英語を使用しなければならないと
いうことで,社内で英語研修を行う企業もあり,市
が,英語で行われる会議に出席するとか外国人上
司のもとで働くという経験をする人は少数である,
— 47 —
経
表 6
済 系
第
234 集
タガログ・フィ(ピ)リピノ語と英語使用頻度の比較
言語
タガログ・フィ(ピ)リピノ語
英語
%
有効回答数
%
有効回答数
社内での会議
47.16
95
74.56
99
社内の人と話す時
56.27
97
64.50
101
社内 e メール
28.16
87
84.00
93
社内文書
30.58
93
92.26
101
取引先との口頭での交渉・連絡
47.17
98
73.90
102
取引先との e メールのやり取り
32.58
92
83.74
99
取引先関係の文書
32.07
94
87.33
102
7 項目平均
39.14
93.71
80.04
項目
99.57
* 1)各項目の%は,有効回答の平均値 * 2)7 項目平均は,7 項目の%の合計を 7 分した値
と述べているように,今回の調査結果は,上記の
まったく使用しない」と答えた者は,2 人(1.96%)
ような事例は,日本においては,いまだに,一般
であった。なお,英語使用頻度(%)とタガログ・
的な状況ではないことを示していると言えるであ
フィリピノ・ピリピノ語使用頻度(%)の合計は,
ろう。
全項目において 100 を超えている。この理由は不
河原(2002a: 203)は,フィリピンでは,新聞
明であるが,2 言語併用という可能性があると解
の求人欄に,英語力の高い人を求める求人広告が
釈できよう。さらに,2005 年 1 月の現地調査(詳
多く,外資系企業で働きたい場合や高収入の見込
細は,Nakahara, 2005: 1–17)では,タガログ語も
める専門職に就きたい場合など,英語力は重要な
フィリピノ語も使えない場合のフィリピン国内で
鍵となっている,と述べている。本名(1999: 89)
の就職に際しての困窮度(どの程度困ると思うか:
は,「英語が話せることは貿易や労働において有
5 =「非常に困る」∼1 =「まったく困らない」
)は
利となる」と述べている。また,筆者が依頼した
2.27 で,英語が使えない場合の困窮度(3.38)に
2005 年 1 月の現地調査(詳細は,Nakahara, 2005:
比べて,低いものであった。
1–17)でも,英語が使えない場合のフィリピン国
以上より,フィリピンに関しては,今回の調査
内での就職に際しての困窮度(どの程度困ると思
結果は,上記の先行研究の記述や他のデータと符
うか:5 =「非常に困る」∼1 =「まったく困らな
合するものであったと言えよう。
い」)は 3.38 であった。
フィリピンの調査では,タガログ・フィリピノ・
5.
10 年後のビジネス言語
ピリピノ語についても,業務における 7 項目の使
用頻度を調査した7) 。結果は,表 6 に英語との比
「10 年後,仕事で使用する言語は英語が主流と
なると思うか」という設問に対して,
「そう思わな
較で示す。
業務におけるタガログ・フィリピノ・ピリピノ語
い」
,
「どちらかというとそう思わない」
,
「どちらと
の使用頻度は,英語よりも低い。また,全ての項目
も言えない」,「どちらかというとそう思う」,「そ
において,
「タガログ・フィリピノ・ピリピノ語を
う思う」で回答してもらった。結果は,表 7 のと
おりである。
7)
〔注〕6)と同じ理由で,タガログ語,フィリピノ語,
ピリピノ語を同一視した形で,業務における使用頻
度を尋ねた。
日本においては「そう思わない」
,
「どちらかとい
うとそう思わない」の合計が 60%を超えているの
に対して,フィリピンでは 26%であった。日本に
— 48 —
職場における英語の重要性に関する日比比較
表 7
10 年後,仕事で使用する言語は英語が主流となると思うか否か(人/%)
国名
日本(N = 216)
フィリピン(N = 100)
1. そう思わない
94(43.52)
13(13.00)
2. どちらかというとそう思わない
37(17.13)
13(13.00)
3. どちらとも言えない
50(23.15)
16(16.00)
4. どちらかというとそう思う
27(12.50)
28(28.00)
8(3.70)
30(30.00)
選択肢
5. そう思う
*)フィリピンの調査の有効回答数は 100(無回答 2)
おいては「どちらかというとそう思う」,「そう思
この点について,次のように述べている。
う」の合計が 16.2%であったのに対して,フィリ
現代のフィリピンでは,公的な分野では英
ピンでは 58%にも達していた。したがって,フィ
語が使われ,私的な分野では国語や地方語が
リピンにおいては,日本よりも,「10 年後,仕事
使われる。…国語や地方語が使われるのは家
で使用する言語は英語が主流となる」と考えてい
族の団欒,友人との語らい,マーケットでの
る者の割合が大きいと言える。
買い物などの場合である。
日本における上記の結果は,前述(4.)の日本に
おける業務での英語使用頻度や英語が使用できな
買い物やレストランでの食事などは,私的な日
い場合の不利益に係る数字に照らして,順当であ
常生活の領域である。2005 年 1 月の現地調査(詳
ろうという感がある。吉原(2001: 204)は,日本
細は,Nakahara, 2005: 1–17)では,日常生活で
資本が主体の多国籍企業にあっても,英語を使っ
の英語の使用頻度が 61%以上の者は 18%で,高い
てグローバル経営を行うべきである,と主張して
数値ではなかった。地元のエンド・ユーザーを相
いる。また,寺澤(1997: 97–98)は,今から 40 年
手に,物品の販売を行う場合やサービスの提供を
か 50 年後には,ビジネス上の言語は,英語に統合
行う場合などでは,国語や現地語がコミュニケー
されてゆくだろう,と予測している。しかし,日
ションの媒体となる可能性が高い。このような場
本においては,現状では,ビジネス言語の主流は
合,販売者やサービスの提供者は,仕事で英語を
日本語であり,10 年という短いスパンでは,英語
使用していないことになる。したがって,回答者
が主流となるとは思っていない者のほうが圧倒的
は,自分自身は業務で英語を頻繁に使用していて
に多いということであろう。
も,社会全体を視野に入れた場合,仕事で使用す
フィリピンにおいては,上記の 58%という数値
は,日本の数値と比較すると格段に高いものであ
る言語の主流が英語とならない領域もあるという
ことを考慮した可能性がある。
るが,表 3 における業務での英語使用頻度の現状
現状では,全フィリピン国民の内,国語を理解で
を考慮すると,あまり高くないという印象を受け
きるのは 60%に満たない(この根拠については,中
る。また,筆者の予測を大きく下回る結果となっ
原,2006b: 105–106)
。さらに,河原(2002a: 212)
た。これには,少なくとも 3 つの理由が考えられ
は,国語は,最新科学や近代産業の分野で使用され
る。1 つは国語や現地語の存在,2 つは国語の勢力
るためには,その機能を高める必要がある,と指摘
の拡大,3 つはフィリピノ語(国語)
,英語の 2 言
「各種統
している。しかし,河原(2002b: 87)は,
語が公用語であるという意識,である。
計でも国語を話す人の数は加速度的に増加してお
フィリピンでは,TPO に応じて,英語と国語や
り,遠からず国民のほとんどが国語を理解するよう
現地語の使用区分がある。河原(2002a: 202)は,
になるであろう」と述べている。本名(1993: 98)
— 49 —
経
表 8
済 系
第
234 集
英語力の査定を受けたか否か(人/%)
国名
日本(N = 216)
フィリピン(N = 102)
24(11.11)
18(17.65)
3(1.39)
1(0.98)
上記の両方
10(4.63)
59(57.84)
合計
37(17.13)
78(76.47)
選択肢
入社の際のみ
昇格,移動等の際のみ
も,国語は「いずれは定着すると思われる」という
6.
英語力の査定
見解を示している。また,河原(2002a: 211–212)
は,話し言葉の領域における国語の急速な普及に
「入社の際,昇格や移動などに際して,英語力
言及し,速度は緩やかながら,将来的には,英語
の査定を受けたか否か」を尋ねた。結果は,表 8
が国語に座を譲ってゆくだろう,との見解を示し
のとおり,査定を受けた者の合計は,日本では 37
ている。したがって,国語の勢力の拡大を肌で感
人(17.13%)
,フィリピンでは 78 人(76.47%)で
じながら,ビジネスの分野でも使用頻度が増すか
あった。
8)
もしれないと考えた 回答者もいた可能性がある。
英語力を査定された者の割合は,日本よりもフィ
河原による 1995 年のマニラの大学生を対象と
リピンのほうが,圧倒的に大きい。これについて
した言語意識調査(詳細は,河原,1999: 1–9)に
は,業務における英語の使用頻度や重要度と比例
よると,「将来の公用語はどうあるべきか」とい
しているという解釈が妥当であろう。
う質問に対する回答は,
「フィリピノ語と英語」が
次に,両国において,英語力を査定された者に
61%,
「フィリピノ語のみ」が 35%,
「英語のみ」
対して,複数回答で,査定方法を尋ねた。結果は,
が 2%であった。2005 年 1 月の現地調査(詳細は,
表 9 のとおりである。なお,表 9 のパーセンテー
Nakahara, 2005: 1–17)では,「10 年後の公用語
ジは,査定を受けた者の総数に対する当該回答度
はどうなると思うか」という質問に対する回答は,
数の割合である。
「フィリピノ語と英語」が 79%,
「フィリピノ語の
査定方法については,日本,フィリピンともに,
み」が 12%,
「英語のみ」が 8%であった。こうし
「会社独自の筆記試験」の割合が,約 50%と大き
た結果は,フィリピノ語(国語)と英語の両言語
い。筆記試験は一般的なものであり,日本,フィ
がこの国の公用語であるという国情を反映してお
リピンともに,この割合が大きくなっていると思
り,国民は,このことをしっかり意識していると
われる。
言えよう。したがって,感情的な側面かもしれな
日本では「TOEIC スコアーの提出」の割合
いが,ビジネスの分野でも両言語併用であるべき, (54.05%)が大きいのに対して,フィリピンでは
と思った9) 回答者もいた可能性がある。
「会社独自の会話試験」の割合(58.82%)が大きく
8)筆者の予測とは異なる。言語には,恒常的に使用さ
れることにより,進化し,その機能を高めてゆくと
いう性質がある。フィリピノ語(国語)についても,
フィリピン全土への普及により,使用頻度が増し,
ビジネスの領域での使用に耐えうるような機能が備
わる可能性がないとは言えない。しかし,筆者の予
測では,その可能性は低い。詳細は,中原(2006a:
44–45)を参照されたい。
9)筆者の予測とは異なる。フィリピンにおいては,フィ
なっている。
2006 年度,TOEIC は世界約 60 カ国で実施され,
全体の受験者数は約 450 万人,その内,日本での受
験者数は約 153 万人(TOEIC 運営委員会インター
— 50 —
リピノ語(国語)と英語の両言語が公用語という建
前であるが,筆者の予測では,ビジネスの領域でフィ
リピノ語(国語)の勢力が英語の勢力と均衡する可
能性は低い(詳細は,中原,2006a: 44–45)
。
職場における英語の重要性に関する日比比較
表 9 英語力の査定方法(各国 N に対する当該回答度数の%)
国名
日本(N = 37)
フィリピン(N = 78)
会社独自の筆記試験
45.95
50.98
会社独自のリスニング試験
13.51
22.55
会社独自の英会話試験
10.81
58.82
TOEIC のスコアー提出
54.05
0.00
上記以外の英語資格試験の証明書
5.41
0.98
その他
10.81
7.84
チェックの種類
ネット資料)で,1/3 以上を占めている。一般的
様の結果となった。
に,日本の企業は,各種英語試験の中で,TOEIC
今回の調査結果からは,日本では,英語はまだ
を重視する傾向があると言われている。また,前
仕事をしてゆく上での大きな鍵とはなっていない,
述(4.)のとおり,昇進・昇格の条件に TOEIC で
ということが読み取れる。日本では業務における
の一定のスコアーを求める企業が存在することも
英語の使用頻度は低く,英語が使用できないこと
事実である。今回の調査結果には,上記のような
が個人の死活問題に繋がる可能性も低いという結
背景があると言えよう。
果となった。
一方,フィリピンでは,業務における英語使用
前述(4.)のとおり,複数の文献や資料で,日
頻度が高いことから,公的な資格試験(もしくは
本においても,仕事をしてゆく上での英語の重要
それに准ずるもの)の証明書により一般的な英語
性が増したことが指摘されている。しかし,これ
力を査定することよりも,その企業で必要な固有
は,過去の日本の状況と比較してのことであろう,
の英語力(当該企業にとってより実践的な英語力)
という解釈が妥当であろう。今回の調査結果では,
を査定することが優先されている可能性があるの
絶対的な数値,フィリピンとの比較,双方におい
ではないだろうか。公的な資格試験(もしくはそ
て,業務における英語力の重要性は高いとは言い
れに准ずるもの)よりも,「会社独自の会話試験」
がたい。10 年後の主流となるビジネス言語につい
のほうが,当該企業の必要とする実践的な英語力
ての項目でも,
「英語」と回答した者は少数で,上
をより的確に査定できる可能性は高いと思われる。
記の現状からみて妥当なものであろう。
こうした背景から,フィリピンにおいては,
「会社
一方,フィリピンにおいては,英語は仕事をし
独自の会話試験」の割合が大きくなっていると解
てゆく上での大きな鍵となっており,業務におけ
釈できよう。
る英語の使用頻度は高く,英語格差も大きいこと
が,今回の調査結果から読み取れる。先行研究の
むすび
記述や他のデータとも符合するものであった。そ
の反面,10 年後の主流となるビジネス言語につい
今回の調査では,自己評価による英語力,業務
ての項目では,
「英語」と回答した者は,筆者の予
における英語の使用頻度,重要性など,全てにお
測を大幅に下回る結果となった。現実から乖離し
いて,日本とフィリピンで大きな差があることが
ているという感があるが,国語に対する愛着の念,
わかった。
愛国心の現れであろう,と筆者は解釈する10) 。
先行研究の記述や他のデータでは,フィリピン
人の英語力は,日本人の英語力よりも,大差をもっ
て高いことが指摘されていた。今回の調査でも同
10)解釈の根拠は,フィリピンでは 19 世紀末にナショナ
リズムの気運が盛り上がり,ピリピノ語が作られ,そ
— 51 —
経
済 系
河原(2002a: 204)が「日本のように,日本語の
力だけで社会の階段を登ってゆける社会は幸せで
ある」と述べているように,日本においては,現状
では,大多数の人にとって,英語は仕事をする上
での大きな鍵とはなっていない。ただ,今後,日
本における状況がどのように変化してゆくか,興
味深いところである。これから,数年後に,再度,
同様の調査を行い,今回の調査結果との比較を試
みたい。
本研究の限界
日本での調査とフィリピンでの調査は,調査方
法も異なり,回答者の集団特性も均質でない部分
がある。例えば,日本では男性が多いのに対して,
フィリピンでは女性が多い。回答者の多数が従事
する職種なども異なる。さらに,データの量が十
分とは言えず,フィリピンでの調査は専門家によ
るものではない。しかし,両国の首都圏における
民間企業に勤務する給与所得者間の比較という面
では,両国の回答者集団の均質性は保たれている。
よって,日本とフィリピンにおけるこうした集団
の自己評価による英語力,職場における英語の重
要性の比較に関して,ある程度の情報を提供し,そ
の概略を示しうるものであると考える。
附記
本稿は,日本実用英語学会第 31 回年次大会(2006
年 9 月,九州産業大学)において,
「日比における
英語の重要性:職場を中心として」と題して行っ
た研究発表の内容を加筆・修正したものである。
発表の席上,参加者より,様々なご助言を頂いた。
ここに附記して,感謝の意を表するものである。
なお,本研究にあたっては,2005 年度関東学院大
学経済学会特別研究費の交付を受けた。これに対
しても,ここに附記して感謝の意を表するもので
ある。
の後,フィリピノ語が導入された,という経緯である
(詳細は,吉村,1993: 363)
。さらに,1960 年代から
1970 代にも,ナショナリズムが高揚し,反米基地闘争
が広まり,国語を話そうという運動も盛んになった,
という歴史的事実もある(詳細は,河原,2002a: 201)
。
第
234 集
[参考文献]
[ 1 ]Bautista, M.L.S. (1998) Tagalog-English CodeSwitching and Lexicon of Philippine English. In
Asian Enslishes. ALC Press, Inc. Vol.1, No.1:51–
67
[ 2 ]NAKAHARA, K. (2005) Review of Some Literatures and Results of Survey on English and
Filipino in the Philippines. In KEIZAIKEI. The
Society of Economics, Kanto Gakuin University,
No.225, 1–17
[ 3 ]———— (2006) Can Japanese Deal with Written Taglish? In Nature-People-Society: Science
and the Humanities. The Society of Liberal Arts,
Kanto Gakuin University, No.41, 23–62
[ 4 ]アッシャー,R.E.・モーズレイ,C. 編:土田 滋・
土井勝義 日本語版監修:福井正子 訳 (2000)『世
界民族言語地図』東洋書林
[ 5 ]コムリー,B.・他 編:片田房 訳 (1999)『世界言語
文化図鑑』東洋書林
[ 6 ]本名信行 (1993)「フィリピン英語」柴田武 編『世
界のことば小事典』大修館,98–101
[ 7 ]———— (1999)『アジアをつなぐ英語』アルク
[ 8 ]岩瀬達哉 (2000)「ある日,突然,会議が英語にな
る」
『WEDGE』2 月号,70–72
[ 9 ]河原俊昭 (1999)「言語調査から見たフィリピンに
おける各言語の意義と将来—フィリピン英語を中
『比較文化研究』日本比較文化学会 第
心として—」
43 号,1–9
[10]———— (2002a)「フィリピン」本名信行 編著『ア
ジアの最新英語事情』大修館,199–213
[11]———— (2002b)「フィリピンの国語政策の歴史」
河原俊昭 編著『世界の言語政策』くろしお出版,
65–97
[12]河添恵子 (2005)『アジア英語教育最前線』三修社
[13]國弘正雄 (2000)『英語が第二の国語になるってホ
ント』たちばな出版
[14]中原功一朗 (2002)「日本の社会・言語事情と求め
られる対応」
『自然・人間・社会』関東学院大学経
済学部教養学会 第 33 号,49–72
[15]———— (2006a)「フィリピンの社会・言語状況と
同国における英語とフィリピノ語の将来」
『自然・
人間・社会』関東学院大学経済学部教養学会 第 40
号,33–50
[16]———— (2006b)「フィリピンにおける英語使用の
現状と将来」
『日本実用英語学会論叢』日本実用英
語学会 第 12 号,99–109
[17]寺澤芳男 (1997)『英語オンチが国を亡ぼす』東洋
経済新報社
[18]吉原英樹・他 (2001)『英語で経営する時代』有斐閣
— 52 —
職場における英語の重要性に関する日比比較
[19]吉村近男 (1993)「フィリピノ語」柴田武 編『世界
のことば小事典』大修館,362–365
[20]ETS 資料 (http://dataranking.com/Japanese/
ed03-1.html)
[21]外務省資料(http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/
philippines/data.html)
[22]リクルート資料 (2004)「E メールによる Hot Pepper 読者アンケート」
[23]TOEIC 運営委員会資料(http://www.toeic.or.jp/)
— 53 —
経
済 系
第
234 集
資料 1:日本における調査の依頼原稿
ビジネスにおける英語使用に関するアンケート調査
(1)調査対象者とデータ件数
首都圏(東京,神奈川,千葉)の 3 都県在住の給与所得者(民間企業のみ)で,日本語を母語とする人,200 名
分のデータの収集を目標とする。
(2)被験者プロフィール
1 性別,
2 年齢(20 代,30 代,等)
3 最終学歴,
,
4 被験者の勤める会社の業種(なるべく大まかなくくりで)
,
5 被験者の勤める会社の規模(従業員数)
,
6 被験者本人の職種(なるべく大まかなくくりで)
,
7 被験者の雇用形態(正社員,正社員以外の別)
(3)質問項目
あなたの日本語コミュニケーション能力を 100 とした場合,あなたの英語コミュニケーション能力はどのく
らいだと思いますか。
「聞く」
,
「話す」
,「読む」
,
「書く」のそれぞれについて,0∼100 で,お答えください。
1. 聞く
2. 話す
3. 読む
4. 書く
I
II 以下の各項目において,あなたが英語を使用する度合いをパーセンテージ(%)でお答えください。
1.
2.
3.
4.
5.
6.
7.
社内での会議
社内の人と話す時(会議以外で,直接または電話で)
社内 e メール
社内文書(書類や会議資料,メモなど)
取引先との口頭での交渉・連絡(直接または電話で)
取引先との e メールのやり取り
取引先関係の文書(ビジネスレターや契約書,その他資料など)
(上記設問 I,II は,個別データのみ;区分を設けての集計,クロス分析はしない。
)
III 現状で,あなたがまったく英語が使えないと仮定した場合,どうなりますか。次の中から該当するものを選ん
でください。
(複数回答可)
1.
3.
5.
7.
会社を辞めざるを得ない。
他の部署へ移動となる。
昇進に関して不利益を被る。
何の影響もない。
2. 会社に居づらくなる。
4. 給料や手当てなど,経済的な不利益を被る。
6. 仕事がし難くなる。
IV 10 年後,あなたが仕事で使用する言語は,英語が主流となると思いますか。次の中から該当するものを 1 つ
だけ選んでください。
1. そうは思わない。
2. どちらかというとそう思わない。
4. どちらかというとそう思う。
5. そう思う。
3. どちらとも言えない。
V あなたは,現在の会社に入社するにあたり,または現在のポジションに就くにあたり,あなたの英語力を査定
されましたか。
1. はい
2. いいえ
V∗ 上記設問で「はい」とお答えになった人のみお答えください。
どのような査定方法でしたか。次の中から該当するものを選んでください。
(複数選択可)
1. 会社独自の筆記試
3. 会社独自の会話試験
5. TOEIC 以外の英語資格試験に係る証明書の提出
2. 会社独自のリスニング試験
4. TOEIC スコアーの提出
6. その他
以上
— 54 —
職場における英語の重要性に関する日比比較
資料 2:フィリピンにおける調査の質問紙(1/5)
Questionnaire (2006)
1. About yourself and your company: Please check (□
) the applicable item.
Pansarili at inyong kompanya: Lagyan ng tsek (□
) ang tamang kahon sa bawat tema.
(1) sex/kasarian: □ male/lalake □ female/babae
(2) age/edad: □ 10’s □ 20’s □ 30’s □ 40’s □ 50’s □ 60’s or over/humigit
(3) Education / Karunungan:
□ graduated from elementary school/nakatagtapos sa mababang paaralan
□ left high school before the completion of its program/
umalis ng mataas na paaralan bago paman ito matapos
□ graduated from high school/nakapagtapos sa mataas na paaralan
□ studying at college/nag-aaral sa pinaka mataas na antas na paaralan
□ left college before the completion of its program/umalis ng kolehiyo bago paman ito matapos
□ graduated from college/nakapagtapos sa pinaka mataas na antas na paaralan
(4) Your company’s type of business/Uri ng negosyo ng inyong kompanya
□ manufacturer/Ang Tagayari
□ trading company/Kompanya sa Pangangalakal
□ distributor, dealer or retailer/Ang Namamahagi, Mangangalakal o Magtitingi
□ finance or credit company/Kompanya sa Pananalapi o Pautang
□ securities dealing company/Kompanya na tumutungo sa Kasiguruhan
□ insurance company/Kompanya sa Seguro
□ transportation or warehouse company/Kompanya ng Transportasyon o Kamalig
□ communications company/Kompanya sa Pahatiran
□ hospitality or sercvice industry/Mabuting Pagtanggap o Industriya ng Serbisyo
□ newspaper, broadcasting or publishing company/
Pahayagan, Pagsasahimpapawid o Kompanya sa Paglalathala
□ others/iba pa
(5) Number of employees in your company/Bilang ng empleyado sa inyong Kompanya
□ 1–9 □ 10–29 □ 30–49 □ 50–99 □ 100–299 □ 300–499 □ 500 or over/humigit
(6) Field of your job/Larangan ng iyong trabaho
□ sales/Pagbebenta
□ personnel affairs/Empleyado ng mga Gawain
□ general affairs or accounting/Pangkahalatang Gawain o Pagkukwenta
□ public relations/Relasyong Pampubliko
— 55 —
経
済 系
第
234 集
資料 2:フィリピンにおける調査の質問紙(2/5)
□ president’s office or secretary’s office/Opisina ng Pangulo o Opisina ng Kalihim
□ business or sales planning/Negosyo o Pagpaplano ng Pagbebenta
□ research or marketing/Pananaliksik o Pagbibili
□ software or computer system development of administration/
Pag-unlad ng Sistema ng Komputer o Pangangasiwa
□ product development or R&D (research and development)/
Pagpapaunlad ng produkto o R&D (Pagsasaliksik o Pagpapaunlad)
□ design, publishing, layout or desktop publishing/Plano, Paglalathala, Pagkakaayos
□ manufacturing management, logistics or transportation/Pamamahala sa Paggawa
□ clerical work in any other field/Gawaing pang-eskribyente para sa iba pang larangan
□ non-clerical work in any other field/
Gawaing hindi-pang-eskribyente para sa iba pang larangan
□ others/iba pa
(7) Your employment status/Katayuan ng iyong Trabaho
□ full-time/Buong-oras na trabaho
□ part-time/Pansamantala
□ others/iba pa
2. What is your native language?/Ano ang iyong wika o lenguahe?
3. Suppose that the proficiency level in each of the four skills (listening, speaking, reading and writing)
of your native language is 100, what do you think is your proficiency level of each skill of English and
Tagalog/Filipino/Pilipino?
Sumasakaling ang taas ng lebel sa bawat apat na kakayahan (pakikinig, pagsasalita, pagbabasa, at pagsusulat) sa inyong lenguahe o wika ay 100, Ano sa palagay mo ang antas ng iyong karunungan sa bawat
kasanayan ng Ingles at Tagalog/Filipino/Pilipino?
language: lenguahe/dayalecto
skill: kakayahan
English: Ingles
listening: pakikinig
speaking: pagsasalita
reading: pagbabasa
writing: pagsusulat
Tagalog/Filipino/Pilipino:
If your native language is Tagalog/Filipino/Pilipino, it is not necessary to answer this part.
Kungang iyong lenguahe ay Tagalog/Filipino/Pilipino, hindi na kinakailangang sagutan ang parteng ito.
listening: pakikinig
speaking: pagsasalita
reading: pagbabasa
writing: pagsusulat
— 56 —
level: lebel
職場における英語の重要性に関する日比比較
資料 2:フィリピンにおける調査の質問紙(3/5)
4. What percent of your communication is done in English in each of the following matters or situations?
Anong porsyento ng iyong pag-uusap na nagawa sa Ingles sa bawat sumusunod ng mga bagay o sitwasyon.
no.
matter of situation: Bagay o Sitwasyon
%
1
meetings inside your company/Mga pagpupulong sa loob ng iyong Kompanya
2
talking with persons inside your company (not in the meeting, talking directly or on the
phone)/Pakikipag-usap sa mga tao sa loob ng inyong kompanya (hindi sa pag pupulong,
pakikipag-usap nang direkta o kaya sa telepono)
3
e-mails inside your company/elektronikong-sulat sa loob ng inyong kompanya
4
documents inside your company (business papers, conference materials, memos, etc.)/Mga
dokumento sa loob ng inyong Kompanya (mga papel sa negosyo, materyales sa kapulungan,
mga talaan at iba pa.)
5
talking with customers and/or business partners (talking directly or on the phone)/Pakikipagusap sa mga mamimili o/at sa kasosyo sa negosyo (pakikipagtalastasan ng direkta sa pon)
6
e-mails to and from customers and/or business partners/
electro nikong-sulat para at galing sa kostumer at/o kasosyo sa negosyo
7
documents to and from customers and/or business partners (business letters, contracts,
materials, etc.)/Dokumento para at galing sa kostumer o/at kasosyo sa Negosyo (sulat
pangnegosyo, kontrata, mga materyales, at iba pa)
5. What percent of your communication is done in Tagalog/Filipino/Pilipino in each of the following matters
or situations?
Anong porsiyento ng inyong pakiki pag-usap ang nagawa sa tagalog/Filipino/Pilipino sa sumusunod na
bagay o sitwasyon?
no.
matter of situation: Bagay o Sitwasyon
%
1
meetings inside your company/Mga pagpupulong sa loob ng iyong Kompanya
2
talking with persons inside your company (not in the meeting, talking directly or on the
phone)/Pakikipag-usap sa mga tao sa loob ng inyong kompanya (hindi sa pag pupulong,
pakikipag-usap nang direkta o kaya sa telepono)
3
e-mails inside your company/elektronikong-sulat sa loob ng inyong kompanya
4
documents inside your company (business papers, conference materials, memos, etc.)/Mga
dokumento sa loob ng inyong Kompanya (mga papel sa negosyo, materyales sa kapulungan,
mga talaan at iba pa.)
5
talking with customers and/or business partners (talking directly or on the phone)/Pakikipagusap sa mga mamimili o/at sa kasosyo sa negosyo (pakikipagtalastasan ng direkta sa pon)
6
e-mails to and from customers and/or business partners/
electro nikong-sulat para at galing sa kostumer at/o kasosyo sa negosyo
7
documents to and from customers and/or business partners (business letters, contracts, materials, etc.)/Dokumento para at galing sa kostumer o/at kasosyo sa negosyo (sulat pangnegosyo,
kontrata, mga materyales, at iba pa)
— 57 —
経
済 系
第
234 集
資料 2:フィリピンにおける調査の質問紙(4/5)
6. Suppose that you were not able to use English at all, what would happen to you?
Please check (□
) the applicable item.
Sumasakaling hindi talaga kayo gumamit ng Ingles, ano ang mangyayari sa inyo?
Lagyan ng tsek (□
) ang tamang kahon.
□ I would be fired. / Tanggal ako sa trabaho.
□ It would become difficult for me to stay in my company./Mahirap para sa akin ang manatili sa aking
kompanya.
□ I would be transferred to another division, department or section.
Malilipat ako sa ibang sangay, departamento o seksyon.
□ It would put me at an economic disadvantage (lower salary, lower benefits, etc.).
Mailalagay ako nito sa mapinsalang kabuhayan (mababang sweldo, mababang benipisyo at iba pa)
□ It would put me at a disadvantage in promotion.
Mailalagay ako sa kasahulan sa pagtaas.
□ It would become difficult for me to work.
Magiging mahirap para sa akin ang magtrabaho.
□ It would not matter to me at all.
Walang magiging anuman para sa akin.
7. Do you agree that English will be the major language in your job ten years from now?
Please cheak (□
) the applicable item.
Sumasang-ayon ka ba na ang Ingles ay magiging pangunahing wika sa iyong trabaho sampung taon mula
ngayon? Lagyan ng tsek (□
) ang tamang kahon.
□ strongly disagree/lubos na disumasang-ayon □ disagree/disumasang-ayon
□ not sure/hindi sigurado □ agree/sumasang-ayon
□ strongly agree/lubos na sumasang-ayon
8. When you joined your company, was your English ability tested?
Please check (□
) the applicable item.
Nang ikaw ay sumali sa inyong kompanya, nasubakan ba ang iyong kakayahan sa Ingles?
Lagyan ng tsek (□
) ang tamang kahon.
□ Yes/Oo
□ No/hindi
9. When you got promoted or transferred to your present position, was your English ability tested? Please
check (□
) the applicable item.
Nang ikaw ay mataas sa tungkulin o nailipat sa iyong kasalukuyang posisyon, ang kakayahan mo ba sa
Ingles ay nasubukan? Lagyan ng tsek (□
) ang tamang kahon.
□ Yes/Oo
□ No/hindi
— 58 —
職場における英語の重要性に関する日比比較
資料 2:フィリピンにおける調査の質問紙(5/5)
10. If your answer is “yes” in 8 and/or 9, please answer this question.
Kung ang sagot mo ay “oo” sa 8 at 9, pakisagot ang tanong.
How was your English ability tested?
Please check (□
) the applicable item.
Paano nasubukan ang karunungan mo sa Ingles?
Lagyan ng tsek (□
) ang tamang kahon.
□ with your company’s original written test/
Sa pamamagitan ng orihinal na isinulat ng pagsusuri ng iyong kompanya.
□ with your company’s original listening test/Orihinal ng kompanya sa pagsubok sa pakikinig
□ with an interview in English/Sa panayam sa ingles
□ asked to submit the certificate of your TOEIC score/
Nautusan na magpasa ng katunayan ng inyong puntos sa TOEIC
□ asked to submit (a) certificate(s) of English qualification exam(s) other than TOEIC/Nautusan na magsumite ng katunayan ng pagpasa sa mga pagsusulit sa Ingles maliban sa TOEIC
□ others/iba pa
— 59 —