~メタボ基準の中性脂肪の役割は?~

だから今、
「健診」!
第4回
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~メタボ基準の中性脂肪の役割は?~
済生会熊本病院健診センター医長
高尾 祐治
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脂肪が 世間 でこん なに 悪者に され るなん て 、神様は 思っ てもみ なか ったこ とで しょう 。な ぜ
なら 、脂肪 は生き てい く上で なく てはな らな い存在 のは ずだか ら。ところ で、
「脂 肪」
「脂肪細
胞」「 中性 脂肪」「コ レステ ロー ル」~ これ らの区 別は きちん とつ けられ ます か?
●良い脂肪と悪い脂肪
脂肪細 胞は もとも と小 型です 。現 代人の 正常 値(直 径 70~90μ m)よ りもっ と小 さいの が本 来
の姿で はな いかと いわ れてい ます 。脂 肪細胞 は単な る「 エネル ギー の貯蔵 庫・供給元 」と 考 え
られて きま した 。脂 肪 細胞に エネ ルギー を取 り込ん で貯 蔵し 、カ ロ リー不 足の ときに 分解 して
肝臓や筋肉に提供する~だから冬山登山の前にはたくさんの脂肪を皮下に溜め込んで事に臨
みます 。と ころが 近年 、脂 肪細 胞 の主た る仕 事はホ ルモ ン産生 であ ること が分 かって きま した。
実 は 、 脂 肪 細 胞 の 本 来 の 仕 事 は 、 動 脈 硬 化 を 抑 え て 糖 や 脂 質 代 謝 を 改 善 さ せ る こ と な の で す。
ちょう どよ い大き さの 脂肪細 胞か らは、そん な“善 玉ホ ルモン ”が たくさ ん出 ますが 、細 胞 が
大きく なり すぎる とそ の働き が低 下しま す 。一方で 炎症 や動脈 硬化 を誘発 する“悪 玉ホ ル モン ”
が量を 増や して活 性を 促進さ せま す。結果 と して 、大 き くなっ た脂 肪細胞 が動 脈硬化 を助 長す
ること にな ります 。も ともと これ ほど大 きく なると は想 定され てい ないか らパ ニクっ てい る わ
けで、 それ が飽食 や運 動不足 によ る弊害 だと いうこ とは 明白で す。
一般的 に皮 下の脂 肪細 胞はあ る程 度大き くな ると数 が増 えます 。一 方、内臓 脂 肪はめ いっ ぱ
い増大 する タイプ の細 胞です 。だ から内 臓脂 肪が溜 まる 方が皮 下脂 肪より も動 脈硬化 を起 こ し
やすい (メ タボリ ック シンド ロー ム)こ とに なりま す 。よい脂 肪と 悪い脂 肪が あって 、よ い脂肪
はきち んと あった 方が よく、 悪い 脂肪は ない 方が良 いの だとい うこ とを理 解し てくだ さい 。
●中性脂肪とコレステロール
中性脂肪は食事だけでなく肝臓からも合成されてエネルギー源と
して血中を廻っています。コレステロールもその大部分は肝臓から
合 成 さ れ ま す 。 油 は 水 (血 液 )に 溶 け ま せ ん の で 、 こ れ を 溶 け 込 ま せ
るために中性脂肪とコレステロールは「リポ蛋白」という塊になっ
て血中 を移 動しま す。中性脂 肪を たくさ ん含 む VLDL と いうリ ポ蛋 白
が肝臓 から 放出さ れ、エネル ギー が必要 な時 に分解 酵素 (リポ 蛋白 リ
パ - ゼ )で こ れ を 分 解 し て 中 性 脂 肪 を 取 り 出 す ~ こ う い う 仕 組 み を
見てい ると 人間の カラ ダって すご いな! と思 います 。VLDL が分 解 さ
れると きに LDL・HDL と いった おな じみの リポ 蛋白が 登場 します 。
国保くまもと
Vol.189(2011 年 11 月号)
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さて 、や っ と本題 に入 れます 。高 中性脂 肪血 症がな ぜメ タボ基 準な のか? 脂 肪は遊 離脂 肪
酸とい う形 に分解 され て肝臓 に送 られた後 VLDL に作 り 変えら れる わけで すが 、脂肪 が過 剰に
なると 遊離 脂肪酸 が大 量に肝 臓に 送られ 、当 然大量の VLDL が作 ら れて大 量の 中性脂 肪を 血中
に放出 しま す。と ころ が内臓 脂肪 の細胞 が大 きくな ると 分解酵 素で あるリ ポ蛋 白リパ ーゼ の 働
きが低 下し 、分 解さ れ ずに徘 徊す る VLDL が 増える こと になり ます 。VLDL を 分 解でき なけ れば
HDL は作 ら れませ んし 、LDL も 低 下しま す。 結果と して 、内臓 脂肪 の過剰 は血 液中の 中性 脂肪
を増加 させ るとと もに HDL、LDL の 減少を もた らしま す。
HDL(善 玉)の低下 は動 脈硬化 を助 長しま すが 、LDL(悪 玉)も低下 する ならい いの ではな いか ?
いえい え、VLDL が 分解 されず に中 性脂肪 が増 えると 、サ イズの 小さ な未熟 な LDL、
「small dense
LDL(超 悪 玉 )」 が で き 易 く な り ま す 。 Small dense LDL は 本 来 の LDL 受 容 体 に う ま く 結 合 で き
ず に い つ ま で も 血 中 に 滞 在 し ま す (普 通 は 2 日 く ら い
の 血 中 滞 在 時 間 が 5 日 く ら い に 延 び ま す )。 血 中 滞 在
時間が長いほど血管内皮下に取り込まれる機会が増
します し、サイズ が小 さいほ ど血 管内皮 下に 入り込 み
易いの です 。だか ら、血中の 中性 脂肪濃 度が 高いほ ど
LDL は 小さ くなり 、酸 化 LDL にな り易い とい うこと に
なりま す。
●まとめ
①ちょうどよい大きさの脂肪細胞の主たる仕事は、動脈硬化を抑えること
である。
②内臓脂肪は細胞が大きくなり易く、大きくなるほど分泌されるホルモン
系が動脈硬化を促進させる。
③内臓脂肪が増えると、血中の中性脂肪が増え、同時に HDL(善玉)が低下
して LDL(悪玉)が小型化(超悪玉)する。結果として動脈硬化の引き金に
なる酸化 LDL を作り易くなる。
つまり、も ともと 細胞 内に準 備し ておい た容 量をは るか に超え る仕 事量を 現代 社会が 要求 し
たため に処 理不能 にな ったと いう ことで す。一時代 も二 時代も 前の パソコ ンで 膨大な 量の 仕 事
を強い れば 、コ ンピ ュ ーター が暴 走して もな んら不 思議 ではあ りま せん 。新 型 コンピ ュー ター
を急い で開 発する より も、要 求す る仕事 量を 減らす 方が はるか に簡 単で現 実的 だとい うこ と は 、
誰でも わか ること なの ですが ・・・。
国保くまもと
Vol.189(2011 年 11 月号)