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ボストン コンサルティング グループ
2006 AUTUMN
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メキシコシティ
●優良顧客をもっと深く知る
●マーケットシェアの新しい考え方
●優良顧客をもっと深く知る
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●マーケットシェアの新しい考え方
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優良顧客をもっと深く知る
優良顧客をもっと深く知る
さらに増やすように仕向けるマーチャンダイジングや販売促進の戦略をつ
くるには、これらの問いにまず答えなければならない。
最近私たちが12のカテゴリーの商品・サービスを購入した消費者を対象
優良顧客をもっと深く知る
に行なった調査から、こういったヘビーユーザーの購買行動についていく
つかの洞察が得られたので、少し紹介したい。売上の60%から90%はヘビ
図1 少数のヘビーユーザーが半分以上の売上をもたらす
消費者市場をセグメンテーションする方法は消費者の数だけある。そし
て、そのなかの1つのセグメントを掘り下げていけば、重大な洞察が得ら
高級デパート
れる。しかし、消費者向けビジネスに携わる多くの企業は、低コストを強
みにする競合企業からの脅威や、急増する商品の種類、複数化する販売チ
ャネル、ますます厳しくなる顧客の要求、といったさまざまな課題をかか
ホームセンター・チェーン
売上(%)
売上(%)
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80
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えており、短期間で直接的に最終収益を上げることができる特効薬を求め
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ている。こういう場合、最も優良な顧客層だけに着目するのが得策だ。
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多くの商品カテゴリーにおいて、顧客の上位30%が売上の50%から80%
を生み出しており、利益にいたってはその割合はさらに大きい(図1参照)
。
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多くの消費者向けビジネスに携わる企業が、この洞察に基づいてヘビーユ
40
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顧客(%)
60
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顧客(%)
ーザーに焦点を合わせ始めた。米国の大手家電量販店ベストバイは昨年、
ヘビーユーザーを5つのセグメントに分けて、自社チェーン内の特定の店
書店チェーン
舗を、そのうち1つあるいは複数のセグメントの顧客に焦点を合わせた店
ファストフード・チェーン
来店回数(%)
に変えた。米国の大手ホームセンター、ホームデポが最近、キッチンのリ
売上(%)
100
フォームセンターをグレードアップしたのは、最も大きな収益をもたらす
80
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顧客層に直接アピールするためだ。一部の金融機関は、顧客ごとの損益計
60
60
算を始めている。そしてある通信会社は、ヘビーユーザーに焦点を合わせ
40
40
るために、顧客の現行価値と潜在価値を目下算定しているところだ。
20
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もちろん、ある商品カテゴリーの収益のほとんどを生み出すヘビーユー
ザーを特定するだけでは、作業はまだ道半ばだ。真の競合優位性の構築は、
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顧客(%)
ヘビーユーザーが平均的な顧客とどのように異なっているかを理解すると
ころから始まる。なぜ彼らは特定の商品や企業を選ぶのか。どのような要
出所:BCG分析
因が購入の決め手になるのか。ヘビーユーザーを惹きつけ、彼らの購入を
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顧客(%)
優良顧客をもっと深く知る
優良顧客をもっと深く知る
ーユーザーによるものだという結果は各カテゴリーに共通していたものの、
なくなったらインターネットで買いたいと思うことがあるだろう。しかし
いくつかの興味深い違いも明らかになった。たとえば、消費者のこだわり
今のところ、複数の販売チャネルを持っている化粧品小売企業は少ない。
が購買に強く影響する分野、つまり製品の価格帯が広く、購入者がより高
インターネットを独立した販売チャネル、あるいは単独の事業と考えるの
額な商品に手を出す機会がある分野(大型耐久消費財やフォーマルウエア
ではなく、最も大きな収益をもたらす顧客を惹きつけ、より深い関係を築
など)は、こだわりという要素の弱い分野(カジュアルウエアや家庭用品
くことを目標とした新たなビジネスモデルに不可欠な一要素ととらえるべ
など)よりも、ヘビーユーザーが集中する割合が高い。
きである。
またさらに興味深いことに、ヘビーユーザーとライトユーザーの購買行
複数のチャネルにわたってヘビーユーザーの購買意欲を刺激する商品・
動も商品カテゴリーによって異なることがわかった。消費者のこだわりが
サービスを提供するためには、ロイヤルティクラブやクレジットカードの
強く影響する分野では、ヘビーユーザーは年間でライトユーザーの平均10
データのような従来の情報源だけにとどまらず、消費者がさまざまな商品
倍の金額を支出する一方、こだわりの弱い分野では、その比率は5倍にすぎ
カテゴリーにおいて、また種々の小売企業や販売チャネルにわたって、ど
なかった。このような違いは、現時点におけるものだけでなく、潜在的な
のような購買行動をとるのかを把握する必要がある。たいていの小売企業
購買力を持つ高価値顧客層を取り込んでおくのがいかに重要かということ
は、競合他社の顧客についてはもとより、自社の顧客でさえチャネル間を
を示唆している。ライフスタイルの変化とともに購買行動も変わる。高額
またいだ購買行動は追跡していないため、これは非常に困難な課題であろ
購入層と少額購入層の間に隠れているヘビーユーザーの最有力候補に焦点
う。しかし、価値と行動に応じて顧客をセグメンテーションするという考
を合わせれば、企業にとってのそれらの顧客の価値は倍にもなりうる。
え方は新しいものではない。通信販売企業は、recency(最新購買日)、
frequency(購買頻度)、monetary value(累計購買金額)に着目したRFM分
複数の販売チャネルを利用するヘビーユーザー
析という、データに基づく比較的単純な手法で、顧客をセグメンテーショ
今日のヘビーユーザーは複数の販売チャネルで購入する傾向が強いため、
ンし、ヘビーユーザーに焦点を合わせている。通販企業と同じようにRFM
彼らに焦点を合わせることは、複数の販売チャネルを持つ小売企業にとっ
を注視する小売企業は、生存競争に勝ち残る可能性を大きく高めることが
てとりわけ重要である。ヘビーユーザーとの関係を深化、拡大するためで
できるだろう。
あれば、複数のチャネルで販売することでコストが増えても、それは妥当
なものとなる。複数チャネルの提供によって、既存顧客の「財布のシェア」
さまざまなチャネルや企業にわたる顧客の購買行動を追跡調査する価値
を見極めるため、私たちは、12の調査対象カテゴリーの中から、チャネル
(“share of wallet”
、顧客の当該カテゴリーの全支出に占める自社商品・サー
が複数ある商品カテゴリーの中でも最も成熟した事業のひとつ、書籍販売
ビス購買額の割合)を拡大することができる。同時に、ひとつのチャネル
業を取り上げ分析した。最後に書籍を購入したのはいつか、この一年間に
しかない競合他社から、他のチャネルへのニーズをもった、収益性の高い
何回書籍を購入したか、どれほどの金額を支払ったか、の3つの要素に基づ
新規顧客を獲得することができる。さらに、売場の拡大は望むものの、実
いてセグメンテーションしたところ、書籍購入者は5つのセグメントに分け
際の不動産価格は高すぎ、また新店舗をオープンするのはリスクが大きす
られた。ここでも当然ながら、上位2つのセグメントが売上および収益のほ
ぎると考える小売企業にとって、インターネットは、ヘビーユーザーに狙
とんどを占めていた。
いを定めたマーケティング・販売を迅速に行なう理想的な方法である。た
この分析から、チャネルに対する嗜好と利用のしかたについて重要なデ
とえば、年間1000ドル以上を化粧品に費やす女性は、使いつけの化粧品が
ータが見出された。たとえば、最上位セグメントに入る書籍購入者のうち、
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優良顧客をもっと深く知る
優良顧客をもっと深く知る
圧倒的多数の70%が複数のチャネルで購入しており、書籍購入額の実に
の3分の1近くが、週に1回以上書店に足を運び、店内で平均45分間過ごし
37%はインターネットによる購入だった。しかし、インターネット経由で
ていることがわかっている。これは、他のセグメントに属する消費者より
の購買行動は、リアル店舗での購買行動と必ずしも一致するものではない。
も約20%長い時間である。こういった読書愛好家であれば、書店おすすめ
彼らはインターネットで購入する理由として、商品の入手が容易で品揃え
の本を定期的に自宅に送ってもらうブッククラブのようなサービスは利用
が豊富であることを挙げている。実際、彼らはリアル店舗を訪れた後にイ
せず、自分で読む本を選びたいに違いない。以上のような情報を利用する
ンターネットで購入したり、入手困難な書籍を探すためにインターネット
ことで、小売企業は優良顧客を惹きつけ、満足させるブランドポジショニ
を利用したりしている(だからこそ、小売企業はリアル店舗で要望を満た
ング、販売促進ならびにマーチャンダイジング、店舗環境をつくり出して
すことができない顧客をウェブサイトに誘導すべきなのだ)。本好きの消費
いくことができるのである。
者はまた、インターネットではリアル店舗ほど割引率は気にならないと語
っている。このような特性を理解すれば、有効なヘビーユーザー向けマー
万人の希望にすべて応えることは不可能
ケティング・プログラムを策定するうえで役立つはずである。
顧客の経済性モデルを構築し、購入頻度や平均利益率、ロイヤルティに
基づいて顧客をセグメンテーションしようとすると、つなぎ止めるだけの
ヘビーユーザーを深く理解する
価値があるのはごく限られた顧客だということに気がつくだろう。たとえ
高い価値を持つ顧客の「財布」のなかでの自社のシェアを高められるよ
ば、中価格帯のレストランに頻繁に訪れる顧客は、「特別な夜の外食」の
うな商品・サービスを提供するためには、買物に臨む顧客の姿勢と、その
ために来店する客の10倍のリターンをもたらす。一つの化粧品ブランドに
結果としての行動がどのようなものであるかを深く理解する必要がある。
対してロイヤルティの高い顧客は、購入頻度が低い顧客の15倍以上の価値
たとえば私たちの調査では、多くのカテゴリーでヘビーユーザーがウィン
を持つ。ある通信会社は、より多くの高額利用者をつなぎ止め、クロスセ
ドウショッピングする頻度は、一般消費者の2倍だった。また、ひとつの商
リングでさらに利用額を増やすように仕向けるのに加えて、最も少額の利
品カテゴリーのヘビーユーザーは、近接したカテゴリーでも頻繁に買物す
用者(同時に最も低価値の顧客)に費やすコストを削減することで、何千
る傾向があることもわかった。購買行動に影響を及ぼす要因をより深く理
万ドルもの節減ができることを見出した。もちろん、このことは、利用頻
解するため、私たちは消費者に対し、調査対象の12カテゴリーで買物をす
度の低い顧客を、利用頻度や顧客価値の高い顧客になるよう育てていく努
る時に何が最も重要になるかをたずねた。たとえば、あるカテゴリーのヘ
力は必要ないという意味ではない(図2参照)。
ビーユーザーは、最新の特徴を備えた高級ブランド製品が豊富に揃ってい
自社の顧客にヘビーユーザーが占める割合だけでなく、ヘビーユーザー
ることが重要で、価格にはそれほど関心がないと答えた。次に消費者に、
の総購入額において自社が占める割合を増やそうとすれば、なぜ優良顧客
このような最も重要な要素について、私たちのクライアントと競合他社と
が自社を選ぶのか、その理由を発見することが最初のステップとなる。顧
を評価してもらった。この調査から得られた洞察は、品揃えや店舗面積の
客が特定の店舗で最も多く購入する最大の理由は、おそらく、そこの商品
比較調査など、他の競合優位性評価ツールで得たものと同様、最も高い価
を高く評価し、その店舗を運営する企業を信頼していることにあるはずだ。
値を持つ顧客を獲得することに焦点を当てた、カテゴリー別プランを策定
顧客は、その店が自分を単なる「商品を売りつける相手」よりも重要な存
するうえで非常に役立った。
在と認識していることを感じており、だからこそ、その店舗にロイヤルテ
前述した書籍販売業の分析でも、書籍購入額最上位セグメントの購入者
5
ィで応えているのである。そのような顧客にさらに多くの商品をもっと頻
6
優良顧客をもっと深く知る
優良顧客をもっと深く知る
繁に購入してもらうには、提供する商品・サービスの幅を広げ、内容を充
に出すところまで、すべてが常に同じブランド名の下で行われるひとつの
実させることに注力しなければならない。つまり、単なる購入という取引
体験なのである。
を超えて、自社のブランド全体における顧客体験に目を向ける必要がある。
ヘビーユーザーは、現在だけでなく、将来においても最も価値の高い資
そして、顧客との接点についても考え方を変えることだ。たとえば、社内
産になりうる。そういった人々のために固有のメッセージを考え、サービ
のオペレーションはマーケティング、販売、アフターサービスといった機
スに複数の階層を設定し、ヘビーユーザーの価値を最大限高めるためにで
能別に編成されているかもしれない。しかし顧客にとっては、商品につい
きることをできる限り行なってヘビーユーザーを囲い込むことだ。ヘビー
て知るところから、見て回り、購入し、配送してもらい、使ってから修理
ユーザーとの関係は、深める努力をしなければ、失われてしまうものなの
である。
図2 収益性を向上させるには3つのやり方がある
ジョー・マンゲット
ライトユーザー層に対するコストを下げる
カレン・スターリング
累積価値
ガリック・ティプレディ
原題: Sizing Up the Heavy Spender
顧客数
ヘビーユーザー層をつなぎとめ価値を増大させるよう、さらに努力する
ジョー・マンゲット
BCGトロント事務所 シニア・ヴァイス・プレジデント ディレクター
累積価値
カレン・スターリング
BCGトロント事務所 プロジェクト・マネジャー
ガリック・ティプレディ
顧客数
BCGトロント事務所 プロジェクト・マネジャー
クロスセリングにより顧客の購入額を増やす
累積価値
顧客数
出所:BCG分析
7
8
マーケットシェアの新しい考え方
マーケットシェアの新しい考え方
・出発便数シェア 85%
マーケットシェアの新しい考え方
しかし、2001年以降、従来型航空会社は合計300億ドルもの赤字を出して
いる。その一方で格安航空会社は、上記の3分野のシェアが低いにもかかわ
らず、30億ドルの増収を成し遂げた。大野耐一氏が見たら、きっと次のよ
うに問いかけたであろう。マーケットシェアは競争力の指標であるはずだ。
それなのに「なぜ」、アメリカの航空業界で採用されているマーケットシェ
トヨタ生産方式の生みの親である大野耐一氏は、一つの改善策を決定す
アの指標では、収益性の違いを予測できないのだろうか?
る前に「なぜ」を5回繰り返すよう勧めたことで知られている。前提を何度
新規参入の航空会社との競争を考える場合、売上シェアだけではもう優
も問い直してはじめて、確実に問題の真因に迫ることができると彼は考え
れた判断材料とはいえない。売上シェアだけでは、売上の質や、売上の裏
たのだ。今日のビジネスで最も扱いにくい課題のひとつである、マーケッ
にあるコスト基盤については見えてこないからである。従来型航空会社の
トシェアの適切な指標を見つけるという問題に取り組むうえでも、このア
売上シェアの大部分は、その航空会社の大規模なハブ空港に集まってくる、
プローチはとりわけ有益である。マーケットシェアの目標値の決定は、戦
収益性の低い乗り継ぎ便の運航によってもたらされている。しかし、2区間
略目標を設定するうえで欠かせないため、経営幹部は、自社の事業や、こ
を乗り継ぐフライトで1人の乗客を運ぶのに必要なコストの総額が、これら
れまで長いあいだ競争力の指標としてきたマーケットシェアについて、多
のフライトによる売上を上回っていることは少なくない。さらに悪いこと
くの「なぜ」を投げかける必要がある。
には、乗り継ぎ便の客のせいで、もっと利益の出る直行便の客に席を取れ
劇的な変化が起きた航空業界の例は、古くから定評ある指標が時には危
ないことも多い。
険なまでに誤認を招きかねないものであることを物語っている。ハブアン
また、従来型航空会社が格安航空会社を上回る売上シェアを上げている
ドスポーク型運航システム1)をとる従来型航空会社は、積極的な新規参入
路線であっても、その従来型航空会社が高額なコスト構造を補うだけの収
企業の挑戦に立ち向かうために、早急に新しい指標を導入する必要に迫ら
益プレミアムを達成しているとは限らない。それどころか、全く逆の現象
れている。これは航空業界だけの話ではない。航空業界の例からの学びは、
が起きているケースもある。その一例が格安航空会社のジェットブルー航
事業環境が変化している多くの業界に適用することができるはずだ。
空である。ジェットブルーの売上シェアは、多くの路線で従来型航空会社
を下回っているにもかかわらず、快適なフライトを提供することによって
高シェアなのに大幅な損失
従来型航空会社を上回る価格プレミアムを実現できている場合が多い。
わずか5年ほど前、アメリカの従来型航空会社は、重要と思われる3つの
分野で次のように大きなシェアを占めていた。
では、座席数シェアはどうだろう。これもまた指標として欠陥があるこ
とがわかっている。従来型航空会社は長年にわたり、とらえどころのない
・売上シェア 90%
「S字カーブ」理論に基づいて座席数シェアを拡大させてきた。航空機メー
・座席数シェア 85%
カーなどの航空関係者によると、「S字カーブ」理論とは、あるマーケット
で航空会社の座席数シェアが一定値に達すると、それ以降はそのシェアに
1 大規模な空港を拠点(ハブ)とし、ハブ空港を中心とした放射状の路線網を築く運航システム
9
相当する水準を上回る売上を達成できるようになるというものだ。自社ハ
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マーケットシェアの新しい考え方
マーケットシェアの新しい考え方
ブを持とうとする取り組みの裏には、このような理由があった。しかし、
格安航空会社との競争にさらされている乗客数の割合をとった。
今ではこの理論が必ずしも正しいとはいえない。現在では格安航空会社が
米国内の発着都市の組み合わせは全部で約5万組にのぼるが、このうち2
市場に参入して、より低い航空運賃で新たな価格カーブを描くことができ
地点間の直行便を運航するのに十分な乗客数がある区間はたったの8%にす
る。このため、従来型航空会社の方が便利な運航スケジュールやマイレー
ぎない。残りの92%は、ハブ空港を拠点とするネットワークを通じた乗り
ジ制度を提供しているにもかかわらず、かなりの数の顧客が従来型航空会
継ぎ便によって運航されている。しかし、このわずか8%分の利用客数は、
社から離れていこうとしている。確かに、従来型航空会社には今でも座席
何と飛行機の乗客全体の約80%を占めているのである。この点をよく理解
数シェアによる優位性があるものの、格安航空会社への顧客の流出によっ
している格安航空会社は、機体の幅が狭いボーイング737や、それよりさら
て相殺されるケースは少なくない。
に小型のリージョナルジェットを使って、従来型航空会社の路線網のおい
しいところだけを取り込んでいる。6年前には、格安航空会社の運航路線や
競争の実態に即した指標の採用
便数が限られていたため、格安航空会社という選択肢は、既存路線の乗客
格安航空会社は使用機材の種類が少なく、路線も2地点間運航のネット
全体の半分にも満たない乗客にしか与えられていなかった。それが2007年
ワークであるため、コスト面での優位性が極めて高い。ハブ空港を中心と
には、格安航空会社を利用できる乗客の割合が、全乗客数の約80%に達す
する方式では、後に到着する便から乗り継ぎ客を乗せるために飛行機の出
る勢いである。これは、2地点間の直行便が運航されている区間の乗客数と
発を遅らせる必要があるが、格安航空会社のフライトスケジュールは往復
ほぼ等しい(図1参照)。
のみのため、機体の清掃と点検が終わり次第出発できる。このため、格安
格安航空会社が乗客数の多い路線に参入すると、従来型航空会社は二重
航空会社では航空機の稼働率が35%も高く、ハブ・システムを運営しない
の苦しみに見舞われる。1つ目は、乗客を失い、それによってマーケットシ
ことによって複雑な調整コストも抑えられる。場合によっては、従来型航
ェアも落ち込むことである。2つ目は、残る乗客が支払う価格が下がり、し
空会社のコストが格安航空会社のコストを30∼60%も上回るケースもあ
かもそれが決して元に戻らないことである。このため、ある路線に格安航
る。
空会社が参入すると、その路線のすべての航空会社の乗客数と価格水準に
格安航空会社が業界のコストハードルを確立したことは広く認識されて
影響が及ぶことになる。格安航空会社が従来型航空会社の価格にどの程度
いるが、格安航空会社が、売上シェアと座席数シェアがきわめて低いにも
の影響を与えるかは、どれくらい当該航空会社が格安航空会社との競争に
かかわらず、価格決定権をにぎりつつあるという点は見落とされがちであ
さらされているかによって決まる。図2は、格安航空会社との競争がある路
る。ある航空路線に格安航空会社が参入すると、従来型航空会社はすぐさ
線とない路線について、すべての航空会社の平均イールド(1旅客マイル当
ま大幅な値下げを迫られる。格安航空会社からの脅威を予測し、先手を打
りの売上)と、区間距離(各路線における各航空会社の平均飛行距離)の
つためには、新しいシェアの指標を採用して市場ごとに実態を把握するこ
関係をグラフにしたものである。2004年第3四半期における典型的な従来型
とが不可欠となる。そこで私たちが考え出した新しい指標が、航空会社の
航空会社の区間距離で見てみると、格安航空会社との競争がある路線では、
「高リスクセグメント比率」と呼ぶものである。高リスクセグメント比率
従来型航空会社のイールドは27%もの大幅な減少となっていた。
とは、当該航空会社の、特定の路線やネットワーク全体での格安航空会社
に対する脆弱性を表す指標である。この脆弱性を定量化するのはそう簡単
ではないが、ここでは、当該路線やネットワーク全体の乗客数のなかで、
11
12
マーケットシェアの新しい考え方
マーケットシェアの新しい考え方
図2 格安航空会社の参入により、従来型航空会社の
イールド・プレミアムは減少している
図1 米国国内線における格安航空会社の脅威
従来型航空会社の区間距離別イールド
乗客数の多い区間上位8%で乗客全体の約80%
(米国国内線、2003年
(%))
一区間一日当り
乗客100人超の区間
(米国国内線、2004年第3四半期)
平均イールド
(1旅客マイル
当りの売上、
セント)
5
3
40
35
30
25
同
51∼100人の区間
格安航空会社との
競争により27%の
イールド減少
69
92
イールドが22セントから
16セントに減少
20
15
10
5
同
50人以下の区間
10
典型的な従来型航空会社の
区間距離
0
500
1,000
格安航空会社との競争がある路線
格安航空会社との競争のない路線
区間数の割合
2,000
区間距離(マイル)
(凡例)
21
1,500
乗客数の割合
出所:米国運輸省、BCG分析
従来型航空会社の高リスクセグメント比率は上昇し続けている
格安航空会社との競争にさらされている乗客数の割合(%)
∼80
67
航空業界からの学び
航空業界では、高リスクセグメント比率のような新しい指標が、収益性
56
を占ううえで不可欠な指標として、売上シェアや座席数シェアといった従
48
来の指標を補完する重要な存在となる可能性が高い。他の業界でも、高リ
41
スクセグメント比率のような指標の必要性を示すケースがないだろうか。
31
たとえば、次のような場合には、このような新たな指標が不可欠と考えら
れる。
・飲料や高級車のように、規模に連動するコストがセグメント固有のコ
1996
1998
2000
2002 2003
2007
(予測)
ストに比べて小さい業界の場合
・半導体や映画制作のように、経験の蓄積が不可欠な業界の場合
出所:米国運輸省、BCG分析
・宅配便や建設会社のように、特定の顧客に対するローカルコストが問
題になる場合
13
14
マーケットシェアの新しい考え方
自社の市場に参入した競合企業の新製品や新サービスが、自社の既存製
品やサービスが提供する便益の80%を50%の費用で提供するような場合に
は、自社の競合企業に対する脆弱性はどれくらいか、という視点で考える
必要がある。
今後戦略について議論する際に、自社で用いている指標と競合企業の指
標について「なぜ」という問いかけを繰り返してみてほしい。そうするこ
とで、マーケットシェアに関わる新たな示唆を見出すことができるかもし
れない。
マイク・ディームラー
マーティン・ケーラー
原題: New Metrics for Market Share: Lessons from the Airlines
マイク・ディームラー
BCGアトランタ事務所 シニア・ヴァイス・プレジデント ディレクター
マーティン・ケーラー
BCGミュンヘンン事務所 シニア・ヴァイス・プレジデント ディレクター
バックナンバーは、弊社ホームページでご覧いただけます。
http://www.bcg.co.jp/
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秘 書 室 久須美 電話:03-5211-0386
FAX:03-5211-7149
電 子 メ ー ル [email protected]
(
)
2006年11月発行
15