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 有名なアーティストだけが優れた演奏家だと思っていると豊かな音楽との出会いを失う可能
性がある。もちろん有名になれない人には、それなりの理由があるという意見もあるかもしれな
い。しかし、有名になることよりも、自分のポリシーに従い自分らしい生き方を貫く天才だって沢
山いるのである。そのことが音楽の世界を深くしているのだ。
そして、
また才能豊かな無名の演奏家に出会った。
マリー・カンタグリル。
フランスの若き女流ヴァ
イオリニスト。きっかけは何の気なしに聴いたバッハのアルバムだった。そのアルバム、モノクロの
地味なジャケット。まだ若く美貌の持ち主のはずなのに、ブックレットの写真は無造作に髪を束ね
た素っ気無いもの。そして演奏はというと、これまたブックレット同様飾り気のないものなのだが、
し
かし厳かで品格が溢れている。どこかの教会で録音されたらしい。あたり一帯にしんと響くその深
い音色・
・
・。最近では珍しく18 分にも及ぶ時間をかけて演奏されたシャコンヌ、一点の曇りもなし。
迷いらしいものが見えない。そして作為も見えない。これはどう考えても只者じゃない。
さらに彼女はチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲のCDも出していて、これがまた凄い。バッ
ハでは見せなかった情熱とファンタジー。抜群の技巧を背景に、
ひたすら自分の世界に没頭する。
ときに自在な解釈で奔放すぎることさえあるのだが、この人が弾くとそれが全然いやらしくない。
超然とした、何か人でないものを見ているような気さえする。さながら天を舞う竜の如し・・・。
この演奏家が有名か無名かなんてどうでもいい。ただ、彼女の演奏は聴いておいたほうがいい。
(松本大輔/クラシックCD通販ショップ「アリアCD」店主)
マリー・カンタグリル
ヴァイオリン Marie Cantagrill, Violin
スペインと国境を接するフランス南部のアリエージュ県出身。5 歳でヴァイオリンを習い始め、9歳でオーケストラと初共演。11 歳でグルノーブル国立
音楽院に入学。その後ベルギーの王立リエージュ高等音楽院、ブリュッセル音楽院へと学び、 イーゴリ・オイストラフ の名を冠した上級クラスにも在籍。
ピエール・ランティエ国際ヴァイオリンコンクール(フランス)で特別賞、
ヴュータン国際コンクール(ベルギー)に入賞を果たす。欧州でソリストとしてオー
ケストラとの共演、リサイタルなどで活躍している。
その確かな実力に比して知名度とは無縁な彼女が、最初にクラシック音楽愛好家の目に止まるきっかけとなったのは、2003 年に録音されたデビューア
ルバム「ロマンティック・ヴィルトゥオーゾ」と、2005 年に録音された2枚目のアルバム「スラヴ・リサイタル」が専門誌にて好評を得たことによる。その後、
ブダペスト・コンサート管弦楽団(指揮タマーシュ・ガル)との共演で録音されたチャイコフスキーの協奏曲で、彼女の評判は更に高まり、注目の女流ヴァイ
オリニストとしてクラシックファンに迎えられた。しかし、演奏家としてこれからという時、腫瘍による体調の悪化により演奏活動から2年間離れることとな
る。活動停止期間中、彼女の心を支えたのは J.S. バッハの音楽であった。2009 年に演奏活動を再開。闘病中から計画していたJ.S. バッハの無伴奏ソナタ
とパルティータの録音に真っ先に取り組む。このアルバムがリリースされると、その遅いテンポと往年の巨匠を思わせる歌いくち、さらに教会でのレコーディ
ングによる深い残響とあいまって、今時稀に見る個性的なバッハとして専門誌上で熱烈な批評を得た。
マリー・カンタグリルは 2010 年より生まれ故郷であるアリエージュの室内管弦楽団の音楽監督となり、同団とともに社会奉仕活動にも積極的に取り組ん
でいる。数々の慈善コンサートを行うとともに、地域、学校、福祉施設等で公開のリハーサルを行なったり、それまでクラッシク音楽との接点のなかった市
民と音楽を共有する機会を作るべく尽力している。また各地ロータリー・クラブと共働したコンサートを多数手がけ、2015 年にモンペリエ市のロータリーク
ラブ主催のコンサートではオペラ劇場におよそ 1000 人を動員し盛況を博した。他にもロータリーを通じたコンサート活動はリエージュ、モンテリマー、カ
ンペール、ブリュッセル、ブカレストなど、フランス国内外に渡っている。2013 年からは毎年サンリジエ市にてカンタグリルの名前を冠したヴァイオリン・コ
ンクールを開催し、若い音楽家の育成にも関わっている。
現在使用している楽器は、18 世紀ジェノヴァの名工、カルカニウス・ベルナルドが 1748 年に作成したもの。
マリー・カンタグリル オフィシャルサイト http://www.mariecantagrill.fr/
五島 史誉
ピアノ Fumiyo Goshima, Piano
東京藝術大学音楽学部附属音楽高校を経て、同大学器楽科卒業。2006 年ドイツ・フォルクヴァング音楽大学卒業。その
後イタリア・イモラ音楽院フォルテピアノ科において研鑽を積む。
2006 年、第 4 回カッシーナ・デ・ペッキ国際ピアノコンクール(伊)第 2 位受賞。フィリッポ・トレビザーン国際ピアノコンクー
ル(伊)第2位受賞。コンクール受賞を機にイタリア、スロヴェニアなどの音楽祭に招かれ、3都市にてソロリサイタルを行う。
浜松国際ピアノアカデミー、チェルボ国際夏期アカデミー、ハウス・マルトゥ講習会など数多くのマスタークラスに参加し、
イョルク・デームス、
ヴェラ・ゴルノスタエヴァ、ボリス・ペトルシャンスキー、ディーナ・ヨッフェ、ミシェル・ベロフなど世界各
国の音楽家のマスタークラスを受講する。
これまでにピアノを服部浩美、平野燁子、笠間春子、辛島輝治、アルヌルフ・フォン・アルニムの各氏に、フォルテピアノを
ステファノ・フィウッツィに師事。
現在、ソロ・室内楽・伴奏ピアニストとして演奏活動を行っている他、後進の育成にも力を注いでいる。岐阜県立加納高
等学校音楽科、岐阜聖徳学園短期大学部、および東海学園大学非常勤講師。
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