第6章 電子部品3:トランス

第 6 章 電子部品 3:トランス
トロイダル・トランスの突入電流は
6−1 非常に大きい,ヒューズはタイム・ラグ型を
100 V 入力,50VA のトランスは,損失を無視すれば,
1 次側電流は最大負荷でも 0.5 A であり,この何倍も
の電流が流れるとは,通常は考えられません.ヒュー
ズやスイッチも 0.5 A を基準に選定します.
しかし,トロイダル・コアを使った電源トランスで
はようすがかなり違います.写真 1 は 100 V,50VA
の ト ロ イ ダ ル・ ト ラ ン ス で,115 V 用 を 改 造 し て
100 V 用にしたものです.
このトランスの電源 ON の瞬間に流れる,いわゆる
突入電流を測定するために,図 1 の回路でテストしま
した.トランスの 2 次側は無負荷状態です.
このテストは,1 回のみでは正しい測定ができませ
ん.SW を ON にするタイミングによって突入電流の
大きさが全然違いますから,ON と OFF を何度か繰り
返し,最大の値を残します.
写真 2 は始めの 100 ms のトランス 1 次側電流です.
最大電流 =11.33 A が流れ,その後も電流が片方向に
しか流れていません.突入電流が極端に大きくなる理
由は,直流成分によるコアの飽和によります.
電源は交流で,直流成分は含んでいないのが常識で
すが,SW を ON にするタイミングによって直流分が
発生するのです.もちろん,突入電流の方向は決まっ
ていません.
写真 3 は定常状態に近付いていくようすです.中央
あたりからほぼ定常状態になっています.
写真 4 は定常状態の波形で,トランスの 2 次側は無
負荷状態ですから,これが励磁電流ということになり
ます.この値は 133 mARMS と少し大きめになってい
ますが,電圧とは位相がずれているので,そのまま電
力のロスになるものではありません.でも,この波形
は飽和しかかっているように見えるので,115 V 用を
そのまま
(改造しないで)
100 V で使うのが安心のよう
です.
〈中野 正次〉
AC
100V
ONのタイミングによって
トロイダル・トランス 突入電流は大幅に変化す
SW
る.何回かくり返して大
きくなったときをデータ
12V
とする
100V
無負荷
I
P6042(テクトロニクス)
電流プローブ・ユニット
(ホール素子)
ディジタル・
オシロスコープ
12
10
8
6
4
2
0
−2
ピークは11Aを超えている
0 10 20 30 40 50 60 70 8090
時間[ms]
12
10
8
6
4
2
0
−2
トランス1次側電流[A]
ディジタル・オシロスコープのワンショット・トリガを使って波形を取得
トランス1次側電流[A]
図 1 突入電流を観測する実験回路
RS コンポーネンツ製の 115 V 品を改造したもの
トランス1次側電流[A]
写真 1 100 V:12 V 50VA トロイダル・トランス
0.3
0.2
0.1
0
−0.1
−0.2
−0.3
0 50 100 150 200 250 300 350 400450
時間[ms]
写真 2 1 次側に流れる突入電流の始めの 5
サイクル
写真 3 1 次側電流が定常状態に近づくよ
うす
最大電流は 11.33 A,この範囲では電流が片方
0.25 秒程度で定常状態になる
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90
時間[ms]
写真 4 定常状態での 1 次側電流波形
285 mApeak,133 mARMS
向にしか流れていない
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2012 年 1 月号