京都大学霊長類研究所 自然学ポケットゼミナール年間報告書 ―2011 年度― 2011 年度自然学ポケットゼミナール生・研究実習生一同 Ⅰ.活動概要 <もくじ> Ⅰ.活動概要 ―――――――――――――――――― 2 A. 1 年間の活動内容 B. メンバー Ⅱ.年間活動報告 ―――――――――――――――― 6 A. 1 年間を通しての活動 B. 妙高笹ヶ峰自然学セミナー C. SAGA14 D. 幸島自然学セミナー F. 研究結果・研究成果 Ⅲ.長期研究報告 ―――――――――――――――― 63 A. 霊長類研究所での研究 B. 東山動物園での研究 C. RRS ニホンザルの観察 D. 双子チンパンジーの NN 調査 Ⅳ.自然学ポケゼミレクチャー報告 ―――――――― 82 Ⅴ.個人報告書 ――――――――――――――――― 122 Ⅰ.活動概要 A.1 年間の活動内容 ――――――――――――――― 1. ポケゼミ生 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 3 2. 研究実習生 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 3 B.メンバー 3 ――――――――――――――――――― 4 2 A.1 年間の活動内容 Ⅰ.活動概要 A.1 年間の活動内容 1.ポケゼミ生 自然学ポケットゼミナール生は、毎週日曜日に京都大学霊長類研究所にて活動をおこな った。先輩方にサポートしていただきながら、チンパンジーやニホンザルの観察、果実採 取をおこない、研究所の先生方のレクチャーを拝聴した。また、文章作成能力を養うため、 毎回の活動を A4 用紙 1 枚分のレポートにまとめた。 研究所での常時活動に加えて、新潟県妙高市と宮崎県串間市でそれぞれ「妙高自然学セ ミナー」と「幸島自然学セミナー」をおこなった。妙高自然学セミナーでは、京都大学の ヒュッテに宿泊し、自然観察や登山、天気図作成等を通じてフィールドワークの基礎を学 んだ。幸島自然学セミナーでは、これまで研究所で観察してきた経験を生かして野生のニ ホンザルを観察した。また、テント泊、EPI ガスでの調理など、本格的なフィールドワー クを体験した。10 月には、SAGA14 へ参加して発表技術を学び、霊長類や動物園に関す る研究の話を聞いたり、研究者や飼育員の方と交流したりすることができた。 2.研究実習生 2011 年度研究実習生(第 7 期生~第 11 期生)の活動した内容を以下にまとめる。()内 はその活動にかかわった実習生の名前である。今年度おこなってきた研究は、「霊長類研 究所のチンパンジーの NN 観察」(水野、秋吉、平栗)「のいち動物園での NN 観察」(市 野、藤森、木村)「東山での観察、パンラボ実験」(市野、藤森、木村、島田、鈴木、渡邉) 「パンラボのビデオ編集」(藤森)「東山タワー利用率調査」(木村)「改修工事がチン パンジーに与える駅用の観察」(有賀)「RSS での観察」(夏目)である。他にも、一年 生の手助けや個人的な研修もおこなった。 B.メンバー Ⅰ.活動概要 メンバー ■5 年 さくらば よ う こ 櫻庭陽子 所属: 京都大学霊長類研究所 思考言語分野 修士1 年 在籍期間: 2007 年 4 月~ ■4 年 いちのえつこ な つ め たかよし 市野悦子 夏目尊好 所属: 所属: 岐阜大学忚用生物科学部 岐阜大学忚用生物科学部 生産環境科学課程 生産環境科学課程 在籍期間: 在籍期間: 2008 年 4 月~ 2008 年 4 月~ ふじもりゆい み ず の か お り 藤森唯 水野佳緒里 所属: 所属: 岐阜大学忚用生物科学部 岐阜大学忚用生物科学部 生産環境科学課程 生産環境科学課程 在籍期間: 在籍期間: 2008 年 4 月~ 2008 年 4 月~ ■3 年 き むらもとひろ しまだ 木村元大 島田かなえ 所属: 所属: 岐阜大学忚用生物科学部 岐阜大学忚用生物科学部 生産環境科学課程 生産環境科学課程 在籍期間: 在籍期間: 2009 年 4 月~ 2009 年 4 月~ B.メンバー Ⅰ.活動概要 すずきけんた 鈴木健太 所属: 岐阜大学忚用生物科学部 生産環境科学課程 在籍期間: 2009 年 4 月~ ■2 年 あきよし ゆ か あるが な つ み 秋吉由佳 有賀菜津美 所属: 所属: 岐阜大学忚用生物科学部 日本大学生物資源科学部 生産環境科学課程 動物資源科学科 在籍期間: 在籍期間: 2010 年 4 月~ 2011 年 1 月~ ひらくり あ け み わたなべ 平栗明実 渡邉みなみ 所属: 所属: 日本大学生物資源科学部 岐阜大学忚用生物科学部 動物資源科学科 生産環境科学課程 在籍期間: 在籍期間: 2011 年 4 月~ 2010 年 4 月~ ■1 年 くろさわ よ し き 黒澤圭貴 なかやま 中山ふうこ 所属: 所属: 立命館大学経済学部 岐阜大学忚用生物科学部 経済学科 生産環境科学課程 在籍期間: 在籍期間: 2011 年 12 月~ 2011 年 4 月~ もり 森ことの 所属: 岐阜大学忚用生物科学部 生産環境科学課程 在籍期間: 2011 年 4 月~ 6 ※2012 年 3 月 21 日現在 Ⅱ.年間活動報告 Ⅱ.年間活動報告 A. 1 年間を通しての活動 ――――――――――――― 1.日曜日の活動 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7 1-1.1日の様子 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7 1-2.チンパンジーのビデオ撮影 ・・・・・・・ 7 1-3.果実採取 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8 1-4.ニホンザル観察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 9 1-6.チンパンジーの給餌の手伝い ・・・・・ 10 6 B. 妙高笹ヶ峰自然学セミナー C. SAGA14 D. 幸島自然学セミナー ――――――――――――― 36 E. 研究結果・研究成果 ――――――――――――― 48 ――――――――― 11 ――――――――――――――――――― 23 A.年間を通しての活動 Ⅱ.年間活動報告 A.1 年間を通しての活動 1. 日曜日の活動 1-1. 1 日の様子 参加者の代表者は、松沢哲郎先生にうかがい、全体ミーティングのアポイントメントを 取る。9 時 30 分からの学生ミーティングでは为に、その日一日の活動予定について話し 合い、作業を分担する。学生ミーティング終了後、チンパンジーの観察や 1 時間のビデ オ撮影、果実採取、提出物などの直しをおこなう。また、11 時ごろに RRS 観察参加者 は出発する。11 時 30 分からの全体ミーティングでは、松沢先生に報告書を提出したり、 今後のポケゼミについて話し合ったり、松沢先生のお話を聞いたりする。 14 時から思考言語分野の先生方にレクチャーをしていただく。15 時から報告書やレポ ートの作成をおこなう。15 時 30 分ごろから、チンパンジーの夕食の準備をする。夕食 準備では、野菜の重さを量って記録し、各野菜をチンパンジー13 人が食べられるよう に等分する。 17 時 30 分から学生ミーティングをおこない、セミナーや SAGA に向けての話し合い をおこなったり、先輩方からアドバイスを受けたりする。その日話し合ったことをノート に記録し、議事録を作成する。作成した議事録はポケゼミ生全員に送信し、情報の共有を おこなう。また、代表者は一日の活動内容をポケゼミノートに記録し、日報を作成する。 日報はネットワークに保存した後、思考言語分野の先生方にメールで提出する。 1-2. チンパンジーのビデオ撮影 私たち一年生には、毎回の活動の中に必ずチンパンジーたちの様子をビデオで撮影する という作業がある。この目的は 10 秒程度のビデオクリップをつくり、霊長類研究所のホ ームページに載せ、一般の方に見てもらうことである。そのために私たちは毎週 1 時間 ずつ、サンルームに出ているチンパンジーたちを撮影する。サンルームは西と東に分かれ ており、チンパンジーたちがそれぞれの居室と自由に行き来できるようになっている。西 サンルームはゴン群(ゴン、クロエ、クレオ、パル、パン、プチ、ポポ)が、東サンルー ムはアキラ群(アキラ、アイ、アユム、ペンデーサ、マリ、レイコ)が利用している。 撮影する時は 60 分テープを使用し、60 分間連続で撮影をおこなう。撮影開始時に撮 影者は日付、撮影開始時間、自分の名前、どちらのサンルームで撮影するかを声に出し、 テープに記録する。それ以降は決して声を出さない。撮影終了後には、テープとそのケー スに日時、撮影開始時間、撮影終了時間、撮影者名(複数人が交代で撮影した場合、全員 の名前を記入)、撮影場所といったデータを記入し、過去のテープと共に保存する。 撮影は特定の行動に注目して観察する行動サンプリング(イベントサンプリング)とい う方法でおこなう。そのため、撮影する時はまず全体を撮り、何か行動(イベント)を起 こした個体がいればそこに焦点を当てる。何も起きていなければ子供を撮影する。これは 子供の方が大人よりも行動(イベント)を起こす可能性が高いからである。誰も出ていな い時は、いくつかある出入り口のうちの 1 つにカメラを向け固定したり、サンルームの 様子を撮影したりして撮影を続ける。行動(イベント)を起こしている個体を撮るときは、 基本的にその個体をズームで撮影する。個体が移動する時は、一度引いてから追いかけ、 Ⅱ.年間活動報告 A.年間を通しての活動 落ち着いたところで再び寄って撮影する。寄ったり引いたりといった操作は、そのスピー ドがあまりに速いと、あとから見る人にとって見にくい映像となってしまうので、できる だけゆっくりとおこなう。この他にも、ビデオクリップとして使用できるようなきちんと した映像を撮るために気をつけなくてはいけないことがある。まず、手ぶれを起こさない ことである。手ぶれがあると、見ている人が酔ってしまうのでうまく固定して撮影しなく てはいけない。また、映像の中にサンルームの金網が入ったり、画面が傾いたりしていて も、ビデオクリップに使用できなくなるので注意しなくてはいけない。 1-3. 果実採取 1.内容 ポケゼミ生としての活動の一つに、果実採取がある。これは、霊長類研究所内にある果 樹園で育てられた果実や、どんぐりなどの収穫をする作業である。春にはスイバやタンポ ポなどの雑草も収穫する。収穫した果実や雑草は、エンリッチメントとして、チンパンジ ーに与えられる。 収穫した果実を入れるボウルは、地下の流し台の横に置いてあるため、必要に忚じて持 って行く。採取した果実は重さを量り、地下に設置してあるホワイトボードに記入する。 その際には、日付と果実の名前、グラム数、自然学ポケゼミによるものだということを記 載する。また、ポケゼミノートにも記載する。 2.果実の収穫時期. 9 Ⅱ.年間活動報告 A.年間を通しての活動 3.霊研植生図 1-4. ニホンザル観察 この観察は、京都大学霊長類研究所 Research Resource Station 第 8 放飼場(以下 RRS と略す。)のニホンザルの固形飼料洗いの様子を観察する。この観察により、野生に 近いニホンザルの行動について観察し、よりニホンザルについての知識を増やすことがで きる。 また、3 月に実施する幸島自然学セミナーでのニホンザル観察に向けての観察技術の向上 を図る。 RRS でのニホンザル観察希望者は、朝の学生ミーティングの時に観察参加の意思をそ の日に RRS でのニホンザル観察をおこなう先輩方へ伝える。観察者は双眼鏡、三脚、ビ デオカメラ、識別表など観察の準備をする。また、マスクを着用し、天候によっては、雤 具、帽子なども準備する。その後、先輩方と共に霊長類研究所を出発する。 RRS に到着後、先輩方と共にビデオ撮影の準備をおこなう。観察準備が終えたら、約 1 時間ニホンザルの観察をおこなう。観察者は双眼鏡を用いた自由観察をおこなう。飲水や 固形飼料洗いの様子の観察や識別表を用いて、個体識別をおこなう。観察後は、後片づけ をおこない、霊長類研究所へと帰還する。 10 Ⅱ.年間活動報告 A.年間を通しての活動 1-6. チンパンジーの給餌の手伝い 活動日 毎週土曜日、日曜日 夕食準備の時間 4月~10 月 16:00~、11 月~3 月 15:30~ 1)地下の廊下にあるホワイトボードの確認 野菜の搬入状況やチンパンジーの健康状態などについて書かれていることがあるので、し っかり確認する。通常月曜日に野菜の搬入があるが、祝日で搬入されないことなどがある ので注意する。 2)冷蔵庫の確認 野菜がどれだけあるか確認し、給餌量を決める。使用する野菜は冷蔵庫の下段に入って いる。基本的には、土曜日は翌日の夕食用に野菜を半分残して使用し、日曜日は野菜を使 い切って冷蔵庫の下段を空にしておく。月曜日が祝日などで搬入がないときがあるので、 野菜の使用量に注意する。冷蔵庫の上段に入っているトマトと実験で余った果物も給餌に 使用して良いが、①翌日の朝食(バナナ 13 本、グレープフルーツ 1~2 個)があるか、 ②実験用リンゴが 10 個あるか、を確認してから持ち出す。 3)野菜準備 まず、夕食記録ノートに給餌する野菜や果物すべての種類と給餌重量を記載する。記載 したものから、チンパンジー13 人分(レオは入院中のため別メニュー)に等分する。こ のとき、格子の隙間を通るくらいの大きさに切らないと、フィーダーがない場所で給餌さ れるチンパンジーが苦労する。準備ができた野菜から流し台の下にあるピンク色のかごに 種類ごとにまとめて入れていく。ニンジンやダイコンなどの等分されているものと、コマ ツナなどの居室に入ってから分配されるものと、かごを別にすると居室で分配しやすい。 トマトやナガイモなど、分けるときに形が崩れたり、液体がついたりしてしまうおそれの あるものは、流し台の脇にあるボウルに入れていくと良い。モヤシのようなバラバラにな りやすいものは、袋から出さないなどの工夫をする。サツマイモやタマネギがある時は、 電子レンジを使うなどしてふかしたり、温めたりすると良い。生イモよりもふかしたイモ の方が好きなチンパンジーもいる。ただし、熱いとチンパンジーが食べることができない ので、加熱作業は昼ごろおこない、充分冷ましておく。 切り終わった野菜の入ったかごをチンパンジーエリアの前に置く。 11 B.妙高自然学セミナー Ⅱ.年間活動報告 2011 年度 妙高自然学セミナー (2011.8/29~9/4) 自然学ポケットゼミナール 12 B.妙高自然学セミナー Ⅱ.年間活動報告 目次 1.タイムスケジュール 2.ヒュッテ周辺散策・笹ヶ峰ビジターセンター見学 3.火打山登山 4.ナイトハイク 5.苗名の滝 6.いもり池、妙高ビジターセンター 7.食事作り 概要 2011 年 8 月 29 日(月)~9 月 4 日(日)に京都大学笹ヶ峰ヒュッテで合宿をおこなった。 以下にその詳細を報告する。 メンバー 1 年生 加藤麻友美、滝口風香、森ことの 2 年生 秋吉由佳、平栗明実 3 年生 木村元大、島田かなえ 4 年生 市野悦子、夏目尊好 5 年生 櫻庭陽子 引率の先生 杉山茂さん、山本宗彦さん 13 B.妙高自然学セミナー Ⅱ.年間活動報告 1.タイムスケジュール 8月29日(月) 入山日 8月30日(火) 観光日 5:00 8月31日(水) 登山日 朝食準備 9月1日(木) 休息日 9月2日(金) 観光日 9月3日(土) 観光日 9月4日(日) 下山日 5:00 朝食 5:30 5:30 6:00 6:00 6:30 6:30 7:00 朝食準備 7:30 朝食 8:00 朝食 朝食準備 朝食準備 朝食 ミーティング 片付け 朝食 朝食 ミーティング 8:30 ミーティング ミーティング 10:00 10:30 11:00 ヒュッテ周辺探索 苗名の滝 11:30 電車移動 いもり池 妙高ビジター センター 笹ヶ峰ビジター センター見学 ヒュッテ着 12:00 13:00 13:30 バス移動 バス移動 休憩 14:30 14:00 14:30 15:00 自由行動 夕食準備 15:30 自由行動 15:00 15:30 買い出し 天気図 作成 16:00 天気図作成 天気図作成 天気図作成 16:30 18:00 帰宅 12:30 自由行動 13:00 17:30 11:30 バス移動 12:30 17:00 10:00 10:30 出発準備 14:00 8:00 9:30 火打山登山 13:30 7:30 9:00 清掃 出発準備 11:00 7:00 8:30 片付け レクチャー 地図読み 9:30 12:00 ミーティング 片付け 片付け 出発準備 9:00 バス移動 朝食準備 16:00 16:30 バス移動 休憩 夕食準備 17:00 風呂 夕食準備 荷物整理 夕食準備 ミーティング 夕食準備 夕食準備 風呂 風呂 17:30 18:00 風呂 夕食 18:30 18:30 ミーティング 夕食 19:00 風呂 夕食準備 夕食 19:30 風呂 夕食 20:00 風呂 20:30 夕食 片付け 朝食準 備 21:00 片付け 風呂 21:30 朝食準 備 22:00 天気図作成 22:30 23:00 就寝 夕食 風呂 天気図作成 風呂 片付け 19:30 20:00 片付け 20:30 21:00 自由行動 自由行動 19:00 ミーティング 風呂 風呂 片付け 朝食準 片付け 朝食準 備 自由行動 21:30 ナイトハイク 22:00 天気図作成 就寝 就寝 就寝 就寝 就寝 22:30 23:00 14 B.妙高自然学セミナー Ⅱ.年間活動報告 2.ヒュッテ周辺散策・笹ヶ峰ビジターセンター見学 杉山さんを先頭に、いろいろなところの説明をして いただきながらヒュッテ周辺を散策した。トチの実や ブナの実を見たり、シラカンバとダケカンバの違いを 教えていただいたりした。シラカンバやダケカンバは ヒュッテ周辺にたくさん生えていたので、実際に見な がら簡卖に見分けることができた。幹の色や葉の表面 を見て見分けられるようになると、それらを見るのが シラカンバ(奥)とダケカンバ(手前)の葉 楽しくなった。 初歩的なことでも、知識の乏しい私にとっては貴重なお 話だった。 10 時 20 分ごろ訪れた宇棚の清水では水を飲むことがで き、とても冷たくて美味しかった。ヒュッテにもう尐し近 い場所にあれば、靴を脱いで足だけでも冷やしたかった。 ハイキングに来た方々もたくさん訪れており、この周辺で は人気スポットだということがうかがえた。都会では蛇口 から出てくる水は美味しくないので、家に持ち帰りたくな った。 笹ヶ峰ビジターセンターでは、笹ヶ峰の生き物や高山植 物などのパネルが並んでおり、いろいろな資料を見ること ができた。また、ビジターセンター周辺の山々や温泉、建 宇棚の清水 物などをかたどった模 型があった。街が小さく、とにかく山、坂、緑の印象が 強かった。これから登ることになる火打山の大まかな登 山経路を見て、その長さと高低差に驚いた。登山は初体 験だったのでどのような道が楽でどのような道が歩きづ らく、苦しい道なのか全く見当がつかず、自分の未熟さ を痛感した。 笹ヶ峰ビジターセンター また、温泉が多いことにも驚いた。温泉好きの私とし てはすべて制覇してみたいと感じた。 (文責:滝口) 15 B.妙高自然学セミナー Ⅱ.年間活動報告 3.火打山登山 目的地:火打山(新潟県妙高市、標高 2462m) メンバー(登山時の隊列先頭から): 市野・加藤・滝口・森・夏目・秋吉・平栗・木村・島田・櫻庭・山本さん 目的地 登山口 火打山コース地図 31 日の登山日は台風が近づいており、 雤の心配があった。当日の朝は寒くも暑 くもなく登山に最適な気候となったが、 やはり雲行きがあやしかった。朝食をと り登山の準備をして、会話をしながら火 打山・妙高山登山道入口を目指した。入 火打山入口 口につくと各々が準備運動をして、櫻庭 の注意事項を聞いた。 16 準備運動 B.妙高自然学セミナー Ⅱ.年間活動報告 6:00 6:30 7:00 登山口へ移動 登山 休憩 登山 7:30 休憩(高谷池ヒュッテ前) 休憩 8:00 8:30 登山 9:00 休憩(富士見平) 9:30 10:00 10:30 11:00 11:30 頂上にて 12:00 尐し歩いたところで、予想はしていたが雤が降り出した。 高谷池ヒュッテ到着 登山 休憩 登山 登頂(11:15) 下山 12:30 下山 13:00 休憩 しかし、山本さんと市野の判断により登山は続けることに なった。雤はだんだん強くなり山頂を目指すのは無理かと 思われたが、気付いた時には雤はやんでいた。入口からの 山道は、木でできた長い道が続いていた。そこには滑り止 めのようなものがついていたため、歩幅が定められて歩き づらく、つらかった。雤が降ったことによって所々ぬかる みがあり、歩きにくかった。整備されていない山道は石や 13:30 14:00 下山 14:30 岩がゴロゴロとしていて、整備された山道とは違う歩きに くさが感じられた。休憩では各々が糖分や水分をとり、防 15:00 寒具やカッパを着脱し、体温調整をおこなった。 15:30 下山 16:00 17 タイムスケジュール B.妙高自然学セミナー Ⅱ.年間活動報告 歩き方としては登山に慣れた上回生が先頭と後ろにつき、まだ登山に自信のない 1 年生 2 年生を真ん中にして、山頂を目指した。山頂近くでは雲に覆われており、視野が悪かった。 しかし、この荒天のおかげで、幸運にもライチョウを確認することができた。みんな疲れ ていたが、ライチョウを見たことで力がわき、地獄のような階段を気力で登り切り全員で 登頂した。登山中は天気があまり良くなかったが、下山するにつれて天気は回復した。登 山中には見えなかった景色が目の前に広がり、もう尐し山頂で待てば絶景が見られたかも しれないという残念な気持ちと、あまりにも美しい景色に感動する気持ちでいっぱいにな った。登頂した時よりも、霧がだんだん晴れて美しい景色が見えはじめた時の方が、私は 感動した。 1 2 3 下山中 霧が晴れていく様子 天気は良かったとは言えないものの、山の様々な顔を見るいい機会になったと思う。下 山中は各々が思い思いの写真を撮りながら、仲間との会話を交わした。下山後に山本さん 18 B.妙高自然学セミナー Ⅱ.年間活動報告 から登山時の注意をうけた。先頭は、後者のために安全な道を確認しながら、自らを犠牲 にして歩いている。だからこそ、後者は前者がリスクを負って歩いた道を確認しながら歩 く必要がある。だからと言ってずっと前者を信じて歩き続けることは違う。何かあったと きは前者または先頭の者に伝えることも大切であるということを教えていただいた。 (文責:加藤) 4.ナイトハイク 9 月 1 日の夜にナイトハイクをおこなった。懐中電灯やヘッドライトを携帯し、ヒュッテ 前の道路を 1 時間程度歩いた。夜の妙高高原はやや冷たい風が吹いており、道を歩くのは とても気持ちがよかった。ライトを草原や木々に向けて、野生動物を探しながら歩いた。 たった 1 時間の間に、タヌキらしき動物を 3 匹ほど発見することができてよかった。暗闇 の中では、ライトに照らされた動物の目だけが光って見えたのだが、はじめは全く認識す ることができなかった。2 つの光点を見つけることができたときはとても嬉しかった。同じ ように歩いていたはずなのに、先輩方はすぐに動物を見つけることができて、すごいなと 思った。また山に行ったときは、野生動物を探しに歩いてみたいと思う。私はフクロウの 声が聞こえないかと耳を澄ませていたのだが、残念ながら聞くことはできなかった。 (文責:森) 19 B.妙高自然学セミナー Ⅱ.年間活動報告 5.苗名の滝 当初、9 月 2 日にいもり池と妙高ビジターセンター、3 日に苗名の滝を訪問する予定だった。しかし台風が接近 していたため、台風が来てもいもり池と妙高ビジターセ ンターへの訪問は可能であるという理由から、2 日と 3 日の予定を入れ替えた。天候は多尐心配されたが、比較 的晴れている時間が長く過ごしやすかった。滝に着いて からは自由行動となり、より滝つぼに近づこうと岩をつ たっていく者が多かった。岩には苔が生えている上に、 水で濡れてとても滑りやすいこともあり、先に進むのは なかなか難しかった。また、川から尐し外れた水たまり にはおたまじゃくしがたくさんいた。途中から小学生と その親たちがたくさん来たため、ポケゼミ生は端の大き な岩に座って昼食をとった。滝から尐し離れて下に降り ていくとお食事処があり、そこにあるソフトクリームが 苗名の滝 とても美味しかった。トッピングが自由にできたため、 各々が好みの味に仕上げていた。 (文責:滝口) 6.いもり池、妙高ビジターセンター 2 日の夜は激しい雤が降り、 3 日の朝も強い雤が止んだり降ったりしていた。そのため、 安全を考えヒュッテに残るか、予定通りに行動するか、朝食をとりながらみんなで考えた。 最終的には、以下の 3 つの理由から行くことに決めた。第一にヒュッテで何もせずいるこ とは勿体ないということ、第二に 1 年生がいもり 池、妙高ビジターセンターに行ってみたいという こと、第三に台風はゆっくり動いており、さほど 問題はなさそうであるということであった。いも り池にはたくさんのスイレンが池に広がり、カモ も泳いでいた。その先に妙高山が見え、とても美 しい風景だった。そんな風景を見ながらお菓子を 食べている者もいた。この日はヒュッテに戻って から食事をとる予定だったので、おにぎりは持っ てこなかった。天気があまり良くなかったため、 山の頂上は雲に覆われて見えなかったが、ここで いもり池 おにぎりを食べたなら最高の食事になっただろ うと思った。みんなで雑談をし、それぞれ写真を 20 B.妙高自然学セミナー Ⅱ.年間活動報告 撮りながら、妙高ビジターセンターをめざした。 妙高ビジターセンターの看板は草で隠れており、見過ごしそ うだった。外見も事務所のような感じで一瞬ここが本当にビジ ターセンターなのかと疑った。しかし、中に入ってみると、山 の写真、動物のはく製、生きたイモリなどが展示されており、 とてもおもしろかった。中心に飾られていた鳥のはく製や鳴き 声を聞くコーナーと、アップで撮られた動植物の写真を見て、 どの動植物のものであるかを当てるコーナーがポケゼミ生に 人気であった。個人的には、入口近くで飼育されていたアカハ ライモリがかわいくて仕方がなかった。カメラを水槽に近づけ るとカメラ目線で近寄ってくるところがとても愛くるしく、私 は幸せであった。 妙高ビジターセンター はく製の展示方法 もとても工夫されており、ただその動物がいる だけでなく、カワセミが魚をくわえている様子、 ウサギが駆けている様子などを表現していて とてもおもしろかった。すべてを見た後、お土 産を買っている者もいた。ここに滞在している 時間はバスの時間の都合で非常に尐なかった 鳥の鳴き声を聞くコーナー ものの、各々がビジターセンターで妙高のこと を勉強することができ、とても有意義な時間に なったと思う。帰りにはソフトクリームを食べ ている者もいた。みんな疲れていたようで、バ スではみんな熟睡していた。心配していた雤に も降られることなく活動できてよかった。 ウサギの剥製 アカハライモリ (文責:加藤) 21 B.妙高笹ヶ峰自然学セミナー Ⅱ.年間活動報告 7.食事作り 8 月 29 日(月)夕食 メニューは手巻き寿司であった。 キュウリ、アボガド、カイワレダイ コンといった野菜から卵焼き、ツナ サラダ、キムチ、サーモン、マグロ と豪華な具が並んだ。みな思い思い に手巻き寿司を楽しんでいた。杉山 手巻き寿司 さんが作ってくださった牛筋の煮込 みがとても柔らかく、絶品であった。 8 月 30 日(火)夕食 ポケゼミ生と杉山さんに加え、翌 日登山でお世話になる山本さんも一 緒に外でバーベキューをした。杉山 さんが買ってきてくださったサンマ がとても好評で、先にたくさん食べ ていたにも関わらず 10 匹弱を全員 でぺろりと食べてしまった。尐し肌 バーベキュー 寒く感じたが、バーベキューの火が 寒さを緩和してくれた。また、流れ星を見ることができた。流れ星をはっきり見たのは初 めてだったため、初めは飛行機がすごい速さで通り過ぎたのかと思った。 9 月 1 日(木)夕食 餃子と味噌煮込みうどん、デザー トにゼリーという非常にボリューム のあるメニューであった。1 日自由 行動であったため、昼過ぎから小麦 粉を練って餃子の皮を作った。しか し、皮をうまく薄くすることができ 餃子 味噌煮込みうどん ず、ひとつひとつが大きく、とても 食べごたえのある餃子になった。名古屋出身の私にとっては、味噌煮込みうどんがまさに 故郷の味というほどおいしかった。 22 B.妙高自然学セミナー Ⅱ.年間活動報告 9 月 3 日(土)夕食 この日はこの合宿最後の夕食であ り、メニューはハンバーグ、蒸し野 菜、コーンスープ。そしてボウルい っぱいの豪華なフルーツポンチであ った。ハンバーグはとても大きく食 ハンバーグ フルーツポンチ べごたえがあった。コーンスープは 杉山さんにいただいたトウモロコシ も入っており、とても贅沢なものとなった。フルーツポンチはいくら食べてもなくならな いくらい多く、みんな満足したようだった。一滴も残さずきれいにいただいた。最後の夜 であったため、みんなでゆっくり会話を楽しみながら食事をした。 (文責:加藤・滝口・森) 謝辞 一週間の活動を通じて、動植物に関する知識やフィールドワークの心得などを学ぶこと ができました。ヒュッテの周辺を 3 時間ほど歩く間に、植物の生態に関してそれまで知ら なかった多くのことを説明していただき、そのどれもが新鮮でした。また、ライチョウを 見たり、フクロウの声を聞いたり、ニホンザルを発見したりと山ならではの貴重な経験が できたことをとても嬉しく思っています。そして、火打山に全員で登頂できたことはとて も印象に残っています。ヒュッテでは、11 人分の料理の分量が多くて戸惑いましたが、杉 山さんのお話を聞いたり冗談を交えた会話をしたりしてとても楽しい時間を過ごすことが できました。短い期間でしたが、杉山さん、山本さんには大変お世話になり、感謝してい ます。本当にありがとうございました。 23 C.SAGA14 Ⅱ.年間活動報告 自然学ポケットゼミナール SAGA14全体報告書 2011 年 11 月 12 日(土)~13 日(日) 京都大学霊長類研究所 自然学ポケットゼミナール 24 C.SAGA14 Ⅱ.年間活動報告 目次 1.メンバー 2.スケジュール 3.移動 4.シンポジウム①「水辺の大型類人猿」 5.シンポジウム②「くまもと発、水といのち」 6.特別講演 7.分科会 8.ポスター発表 9.懇親会 10.熊本サンクチュアリ見学ツアー 11.会場 2011 年 11 月 12 日(土)、11 月 13 日(日)の 2 日間、熊本市動植物園でSAGA14 が 開催され、自然学ポケットゼミナール生 13 人が参加した。活動の詳細を以下に報告する。 1.メンバー 1 年 中山ふうこ、森ことの 2 年 秋吉由佳、有賀菜津美、平栗明実、渡邉みなみ 3 年 木村元大、島田かなえ、鈴木健太 4年 市野悦子、夏目尊好、藤森唯、水野佳緒里 5年 櫻庭陽子 25 C.SAGA14 Ⅱ.年間活動報告 2.スケジュール 11日(金) 12日(土) 13日(日) 14日(月) 5:00 5:30 6:00 移動 6:30 移動 7:00 7:30 移動 8:00 8:30 熊本市動植物園着 帰宅 9:00 ポスター設置 9:30 熊本市動植物園着 10:00 10:30 シン ポジウム シン ポジウム 昼休み 昼休み 11:00 11:30 12:00 12:30 13:00 『特別講演会』 13:30 14:00 14:30 『分科会』 15:00 熊本サン クチ ュアリ 見学ツ アー 15:30 16:00 16:30 ポスター発表 17:00 17:30 18:00 18:30 出発 懇親会 19:00 19:30 20:00 移動 20:30 21:00 移動 21:30 移動 22:00 22:30 23:00 就寝 23:30 26 C.SAGA14 Ⅱ.年間活動報告 3.移動 SAGA 当日の 11 月 11 日(金)、岐阜大学の学生は名古屋の名鉄バスセンターに集合 し、20 時 20 分発の夜行バスに乗って熊本へ向かった。休日前だからか、バスは満席だ った。バスの中でぐっすり眠れた人もいたが、私はなかなか寝付けなかった。大学の講 義中は、椅子に座りながら寝ることができるのに、なぜバスのシートでは眠れないのか 不思議だった。 熊本に到着したのは翌朝の7時 44 分だった。 約 12 時間の長い旅だった。 朝早く着いたため熊本県庁前から熊本市動植物園まで歩いて行った。路面電車の走る熊 本の朝の道を、ポスターを抱えて 1 時間ほど歩き、会場である熊本市動植物園に到着し た。 (文責:中山) 熊本の路面電車 熊本ラーメンを食べているようす 27 C.SAGA14 Ⅱ.年間活動報告 4.シンポジウム①「水辺の大型類人猿」 竹之下祐二先生講演 「水辺の大型類人猿」 この講演では中部学院大学の竹之下祐二先生が、アフリカに生息するニシローランドゴ リラと水とのかかわりについてお話ししてくださった。私は、ゴリラは熱帯雤林のジャン グルの中にいて、水とは全くかかわりのない生活を送っているものと思っていた。しかし 竹之下先生のお話によると、 チンパンジーは水を怖がるのに対し、ゴリラは水を怖がらず、 大人でも水遊びをするそうだ。同じヒト科でも生活スタイルは大きく異なるのだと思った。 また、彼らの生息するコンゴやカメルーンの熱帯雤林には「バイ」と呼ばれる湿地があり、 バイに生える水草を食べに 30 ものゴリラの群れが集まることがあるそうだ。ゴリラは体 重が重いため、沼に足がはまって抜けなくなることはないのだろうかと不思議に思った。 バイの深いところを渡る際に杖を使う道具使用もみられるそうだ。また、ガボン西海岸で は海辺に生える果物を食べるためにゴリラが海辺にやってくるという。今回の講演ではゴ リラについて初めて知ることが非常に多くあり、同じゴリラでも地域ごとで生活に多様性 があることが分かった。ゴリラは日本の動物園でも 20 人しか飼育されていない。ゴリラ 本来の姿を人々に知ってもらうためにも、個々のゴリラの生息環境を考えて、バイのよう な湿地や川を取り入れた展示方法を取り入れるとおもしろいと思った。 (文責:中山) 古市剛史先生講演 「水がボノボを生んだ~コンゴ盆地のボノボの進化と生活」 以前、松沢先生にチンパンジーが暮らしている森よりも、 ボノボの暮らしている森の方が食べ物は多いということを教 えていただいた後、疑問に思ったことがあった。それは、コ ンゴ川を挟んだだけで、大きな植生の違いがあるのだろうか、 という点である。ボノボの生息域はコンゴ川を隔てて北側に 広がり、单側にはチンパンジーの生息域が広がっている。し かし、 ボノボはチンパンジーほど、 水を嫌っていないようだ。 それどころか、水浸しの湿地林をうまく利用しているという。 乾いた森に食べ物が尐なくなると、湿地林で過ごす時間が増 えるらしい。ボノボは湿地林を利用することで、チンパンジ 講演のようす ーよりもより多くの食べ物を手にしているのかもしれないと 思った。 以前ボノボたちがざぶざぶと水の中に入っている映像を見たことがある。 しかし、 その前にマレーシアのオランウータン島のオランウータンが水の中に入っている映像を見 たことがあったので、その時は強い関心を抱かなかった。しかし、先生の講演を聞いてボ ノボが水に入ることはとても興味深いと感じた。ボノボの多様な社会行動は、雤季や湿地 林で見られることが多いそうだ。今までに見たことのあるボノボの写真もチンパンジーの 写真に比べ樹上にいる写真が多かったように感じる。湿地林での移動は、樹上の移動に頼 らざるを得ないからだろう。ボノボは、チンパンジーに比べて体に対する手足が長く、木 から木へ飛び移ることができるというお話を聞いた時、とてもおもしろいと感じた。チン パンジーとボノボは同じパン属で、確かに姿もよく似ている。しかし、霊長類研究所のチ ンパンジーの放飼場には池があるが、私はチンパンジーが池に近づいたところを見たこと 28 C.SAGA14 Ⅱ.年間活動報告 がほとんどないし、池の水に触れるところは一切見たことがない。このようにチンパンジ ーは水を嫌うが、ボノボは水辺をうまく利用している。その違いはきっと彼らの行動や生 態に大きく影響しているのだろうと思う。また、ボノボは湿地林だけではなく、人間の住 んでいる村の周囲や乾いた森も利用しているところがおもしろいと思った。私はまだボノ ボを一度も見たことがない。ボノボを見てみたいと強く感じた。 ボノボの生息しているコンゴ民为共和国は政情が不安定であることは知っていた。しか し、それがボノボが棲んでいる森からボノボの生息数にまで大きな影響を及ぼしていたこ とは知らなかった。一度目の政情不安では個体数が、二度目の政情不安では群れの数が減 っていた。政情不安の際に、村人が家族卖位で森の中に逃げ込み、森を切り開いて生活を していたため、森が尐なくなっていったことや、ボノボを食べないというタブーを守らな かったことが原因のようだ。しかし、本当にそれだけが原因なのだろうか。二回目の政情 不安では、群れの数が減っていた。群れが消えたということは、群れの個体が全員殺され たということだ。子どものボノボがペットとして売られるという話を聞いたことがある。 ボノボの子どもだけをさらってくることは簡卖なことだろうか。チンパンジーと同じよう に、ボノボの子どもも母親がしっかりと守っているはずだ。子どもを奪おうとすれば、母 親だけでなく、群れの仲間たちも子どもを守ろうとするだろう。ボノボの子どもをとるた めに、母親や群れの大人たちを殺せば、群れはなくなってしまう。二度目の政情不安で群 れの数が減っているのは、研究者がいなくなった森で、ボノボの子どもがペットとして売 られていたからなのかもしれないと思った。 コンゴ盆地の地理もとても興味深かった。大地溝帯の運動で窪んだ場所に湖ができ、そ の後、湖の一部が決壊して水が引いて盆地になったというお話は、頭では理解できた。し かし、その盆地は日本の国土の面積の数倍もある。コンゴ川はアマゾン川に次ぐ流域面積 を持つ巨大な川であるらしい。コンゴ川の写真で対岸だと思っていた陸地が、実は川の中 にある島であり、対岸はさらにその向こうにあると聞いたときはとても驚いた。盆地も川 も、私の想像できる大きさではない。また、湿地林もとても興味深かった。地面が水浸し であるにも関わらず、樹木が生えている風景は、東单アジアやアフリカの写真でよく見か ける。しかし、何度見ても不思議に感じる。沖縄にマングローブがあるが、私は見たこと がない。今回の講演を聞いて、ぜひ水浸しの森林に行ってみたいと思った。 (文責:秋吉) 松阪崇久先生講演 「野生チンパンジーにおける水を用いた遊び」 松阪先生は、野生チンパンジーにみられる水に関連した行動や 水を使った遊び行動についてお話ししてくださった。一般的に、 チンパンジーは水に濡れるのを嫌がると言われている。小川で水 を飲むときも、直接口をつけて飲んだり、葉を濡らしてなめたり して、 自分の手足が濡れないようにしているそうだ。 雤天時には、 太い木の下に避難し、雤が激しい場合には背中を丸めてうずくま る。そして雤が止むと、体についた水滴を落とすためか、体を木 の枝や幹にこすりつけるという行動も見られるそうだ。しかし一 方で、水を利用するような行動もおこなわれるという。ある男性 講演のようす は、川辺でディスプレイをするそうだ。普通のディスプレイのよ うに走りまわったり、枝を引きずったりするだけでなく、石を川に投げ入れたりするよう 29 C.SAGA14 Ⅱ.年間活動報告 なディスプレイだ。これはチンパンジーが水を嫌がるため、水の近くで走るということが 力の誇示になり、石を投げ入れれば水滴が飛ぶため、他のチンパンジーに対する威嚇にな っているのだろうかと思った。また子どもでは、水で遊ぶという行動も見られるそうだ。 流れのゆるやかな小川や水たまりに入って水をかきまぜる、水面に向かって手や頭を振る、 指から水をしたたらせるなどの行動をとる。石を投げたり転がしたりという、男性のディ スプレイのような行動も見られるそうだ。この講演ではたくさんのビデオクリップを用い てチンパンジーの遊びを紹介してくださったため、とても分かりやすかった。そして、チ ンパンジーの子どもたちが、 水鏡や滴り落ちる水をじっと見つめていたのが印象深かった。 (文責:森) 5.シンポジウム②「くまもと発、水といのち」 松崎正吉先生講演 「殺処分ゼロを目指して」 この講演では、犬猫の殺処分をなくすための熊本市動物愛護センターの取り組みについ てお話していただいた。取り組みの中で特に興味深かったのは、「出口を広くする」とい うことだ。出口を広げるとは、センターで引き取った犬を元の飼い为に返したり、新しい 飼い为に譲渡したりしてセンターから出てゆく犬を増やすことである。元の飼い为が自分 の犬を探すことができるように、熊本市のホームページで保護されている犬の写真や特徴 を公開している。私は、新たな飼い为への譲渡ではどのような取り組みがおこなわれてい るのかが気になった。犬を新たに飼うというのは人生の中で何度もあることではないし、 大きな決断が必要だと思う。私も実家で友達から子犬をもらったときは、毎日ちゃんと世 話ができるのか両親に何度も尋ねられ、両親を説得した記憶がある。しかし、センターの 犬、それも成犬の引き取り手がそんなにいるものなのか不思議に思った。子犬から育てる ならまだしも、センターで一度捨てられた経験のある成犬を育てるというのは飼い为にと っても大変なことだろう。それを解決するために、センターでは譲渡会を週一回行い、時 間を見つけて保護している犬のしつけをしているようだ。出口を広くしたことで保護期間 も長くなり、1 匹の犬に手をかけられるようになったという。また最後まで責任を持って 飼ってもらえるように、譲渡する前にはその犬の欠点をきちんと説明もしている。飼い为 も自分がこの犬を飼えるのか真剣に考えることができるので、飼い为の不安も軽減される と思った。行政だけでなく、地元の住民やボランティア、ペット販売業者の方の協力を求 めていた点もよかったと思った。 (文責:中山) 椛田聖考先生講演 「絶滅危惧種・スイゼンジノリ復活の夢」 今回の SAGA14 では、セルフサービスとして水のペットボトルが置かれていた。そして、 そのペットボトルには、「日本一の地下水都市」と書いてあった。熊本市の人口約 97 万 人分の生活用水は、ほぼ 100%を地下水でまかなっているそうだ。しかし、この地下水が 近年汚染されてしまった。これにより、地下水によってできている江津湖に生息する「ス イゼンジノリ」が、絶滅の危機に瀕している。スイゼンジノリは、動物園に隣接する江津 湖(上江津湖)を発祥の地とし、明治時代から国の天然記念物に指定されているラン藻の 仲間だ。寒天質の中に多数のマユ型卖細胞が散在し、常時、2 分裂すると同時に粘性物質 を細胞外に分泋するといった、特殊な生理・生態・分布状況を持つそうだ。スイゼンジノ 30 C.SAGA14 Ⅱ.年間活動報告 リは昭和の大災害で絶滅したかに思われたが、今もなお生きていることが分かったり、椛 田教授らはこの貴重な資源を守るべく活動しているそうだ。スイゼンジノリは、かつて高 級料理の食材として用いられていた。しかし今では、驚異的な保水力、高い抗酸化活性や 抗アレルギー効果が期待され、新たな機能性食品へと忚用されているそうだ。そのひとつ にスイゼンジノリチーズがある。なぜチーズなのかというと、熊本県は日本一の地下水都 市でありながら、酪農も西日本で一番盛んな県であるためだ。牛乳の消費が落ち込んでい るため生乳が廃棄されているという現状と、新たな機能性食品としてのスイゼンジノリを 皆に広めるためにはとても良い案だと思った。最後に、日本では水の枯渇ということがほ とんどないため、 水の大切さについて深く考えていなかったことに気付いた。 世界中では、 安心して飲める水はほとんどないにも関わらず、日本人は 1 人につき 1 日で 340 リットル もの水を使っている。水を汚さず、大切にしようと 1 人 1 人が心がけていくことが、必要 だということを改めて感じた。 (文責:平栗) 若生謙二先生講演 「熊本市動植物園におけるニホンザル展示の新たなとりくみ」 「コンクリートの狭い部屋を歩き回る動物を見るのが嫌だから、動物園には行きたいと 思わない。」と言われたことがある。それを聞いた時、私は動物園の展示方法は来園者に とって重要なのだと思った。建築の専門家だからなのか、若生先生は来園者からどのよう に見えるのかということに配慮して設計をしているように感じた。昨年、よこはま動物園 ズーラシアでもそれを感じた。ズーラシアのチンパンジーたちは地面から離れず、木に登 ることもしなかった。しかし、なぜかとても印象に残っていた。チンパンジー個々の姿は はっきりと思い出せないのだが、土や草の上で動き回るチンパンジーたちとその背後に広 がって見えていた木々の風景は覚えている。熊本市立動物園の相良村由来のニホンザルの 展示に、相良村奥山の植生であるタブ、シイを用いるのはとても興味深いと思った。ニホ ンザルの展示ではニホンザルという動物だけを展示する必要はないはずだ。ニホンザルは 日本に生息しているのだから、彼らにとって最適な環境も日本にある。ニホンザルが暮ら す森の樹木を動物園で用いることは難しいことではない。日本に棲むニホンザルならでは の展示であり、それは本当に素晴らしいことだと思った。しかし、その展示は本当に可能 なのだろうか。京都大学霊長類研究所の Research Resource Station のニホンザルは、枝 を揺らしたり樹皮を剥いだりして、樹木を弱らせていた。Research Resource Station で は 2 つの放飼場を交互に使うことで樹木を回復させる期間を設けていたが、それでも木々 の回復は間に合っていない。ニホンザルにとって十分な広さと木がなければ、この計画は 難しいと思った。人工物をなるべく使わず、樹木や下草などを使っていくというのは困難 を極めると思う。しかし、それが実現した際には見に行きたいと思った。 (文責:秋吉) 31 C.SAGA14 Ⅱ.年間活動報告 6.特別講演 松沢哲郎先生講演 「野生大型類人猿 4 種をみて、人間とは何かを考える」 今回の講演ではアウトグループという考え方がとても印象的だ った。今年、私は日本人以外と関わる機会が多かったのだが、こ のアウトグループという考え方がまさにあてはまる場面に何度か 遭遇した。 それは、 私が日常的に常識と考えていることだったり、 それまで深く考えたこともないことだったり、様々だった。その 時から、しっかり、そして深く「それ」について考えるようにな った。 今まで常識と考えていたことが、あるグループから出ると、 まったく常識ではないことに気が付かされることがある。周りの 人から考えれば、そんなことにも気が付かなかったのかというこ 講演のようす とが、グループの中では気づくことができないのだ。だから一度 そのグループの外に出て、自分の視線を調節してやることが大事なのだと感じた。今回の 講演でもアウトグループを感じた点がある。それは、ボノボがチンパンジーに比べて他の 群れの個体に友好的であるということを知った時だ。私が以前見た映像で、チンパンジー が他の群れの個体と争いになり、最終的にその群れの子どもを食べてしまうという衝撃的 なものがあった。それを見たときはショックだったが、野生動物の間では普通のことなの だろうと思っていた。しかし、ボノボのことを考えると、これは決して一般的なことでは ないのだなと感じた。 何か物事に取り組むと、どうしてもそればかりに注目してしまうが、 アウトグループという考え方を思い出して、様々な視点から物事を見ていきたいと思った。 (文責:渡邉) 7.分科会 「水と生きる、動植物園」 熊本市動植物園の最大の特徴は、江津湖の隣に位置し ている水辺の動物園だということだ。動植物園のゲート をくぐって奥に進んでいくと、ゾウ舎のところから江津 湖が見渡せた。湖畔の遊歩道には、朝から多くの市民が 犬の散歩やジョギングを楽しんでいた。このような光景 が見られる動物園は珍しいのではないだろうか。この分 科会では、市民全体で美しい江津湖を守り、後世に受け 継いでいくために熊本市動植物園ができることについて 江津湖を望むゾウ舎 話し合った。 この中で出た意見として興味深かったのは、 江津湖にカバの群れを放してはどうかというものだ。野生のカバは、沼で群れで生活して いる。江津湖にカバを放すことで、野生本来の姿を再現し、入園者にカバの生活について 実感してもらうことができる。そして何より、日本の湖でカバが泳いでいるなんて、夢が あり、想像するだけでわくわくする。しかし、もしカバを江津湖に放すとなると、排水処 理はどうするのか、また、野生のカバは夜に2㎞くらい川を移動するため、夜間どうやっ てカバを管理するのか、などの問題点も指摘された。しかし、この案を実現することがで きなかったとしても、熊本市民が議論し、江津湖のことを考えるという過程が大切なのだ 32 C.SAGA14 Ⅱ.年間活動報告 そうだ。そして、熊本市動植物園の目指す、「市民の市民による市民のための動物園」と いう言葉が印象に残った。 (文責:中山) 「日本のチンパンジーの将来を考える パート3」 この分科会テーマは、2 年前の SAGA から継続して話し合われている。個体数が減尐し ている日本のチンパンジーをこれからどのように飼育、繁殖していくのかについて、熱い 議論がなされた。まず、日本で飼育されているチンパンジーの現状についての報告があっ た。飼育頭数は 2000 年頃から減尐しており、人口ピラミッドはタル型となっている。若 年層の個体数が尐ないため、個体数維持が困難な現状であることが分かった。続けて、チ ンパンジーを飼育している各施設へのアンケート結果も報告された。チンパンジーの亜種 管理についての考え、放飼場や寝室などの保有数、人工飼育に対する意見などが報告され たが、飼育施設ごとに各々の事情、考え方があることが理解できた。現状報告が終わると、 意見交換がおこなわれた。途中、熊本サンクチュアリの平田先生と森村先生が、アメリカ でのチンパンジー飼育の改革例やサンクチュアリでのチンパンジーの飼育状況について話 された。個体数を増やすと言っても、現実には様々な問題があることが分かった。育児放 棄、遺伝的多様性、予算、野生由来と飼育由来との性格の違いなど、言い出せばきりがな い。そのなかで伊谷先生や鵜殿先生から提案されたのは、徐々に複雄複雌の群れに編成し なおすことである。野生のチンパンジーは通常 10 頭以上の群れを作る。男性は群れに残 り、女性が他の群れに移動するという父系制のため、個体数の増加は群れの男性によって 決まる。アメリカでは野生本来の様式を組み、生まれた男性を群れに残すという戦略で、 個体数の増加に成功している。しかし日本の動物園で同じような戦略をとることは難しい。 もともと、チンパンジーを「群れで飼育」するよりも「個で展示」することに重点が置か れていたことで、収容可能頭数が4~5頭しかないところがほとんどである。また、アメ リカでは SSP という組織が強い権限を持っているが、日本にはそのような組織は存在しな い。そこで、10 頭以上を飼育することができる大きな施設の建設と同時に、各施設で繁殖 をおこなう必要があるという意見も出された。そのためには、遺伝的多様性を維持でき、 さらに社会関係をうまく築くことができるチンパンジーを選んで繁殖計画を立てなくては ならない。このほかにも様々な意見が出され、会場は熱気に包まれた。私は日本のチンパ ンジーが危機的な状況にあるということを知り、とても驚いた。分科会のまとめとしては、 長期的に考えるということが強調された。問題の難しさを理解するとともに、それぞれの 施設で協力してチンパンジーたちがより幸福に生きられたらよいと思った。 (文責:森) 8.ポスター発表 ポスター会場では、研究者から学生まで様々な分野の方の研究についてのポスターを見 ることができた。特に私が興味深く思ったのは、京都大学動物園ポケゼミ隊が京都市動物 園でおこなっている行動観察についてのポスターだ。私のおこなった行動観察と尐し似て いたが、行動の分類方法が彼らのおこなっているものと異なっていた。彼らの研究は、繁 殖や環境エンリッチメントに今後活かそうとしていた。研究結果は、霊長類研究所のチン 33 C.SAGA14 Ⅱ.年間活動報告 パンジーの行動とあまり変わらないような気がしたが、京都市動物園では観察中に採食行 動を見ることができるため、Feeding の割合が多かった。次に興味深く思ったのは、野生 動物研究センターの中島さんがおこなった、チンパンジーの空間利用と行動の関係につい てのポスターだ。野生下では、採食は樹上でおこない、休息は地上でおこなう。一方飼育 下では、採食は様々な場所でおこない、休息は構造物上でおこなうそうだ。これより、チ ンパンジーは与えられた環境に合わせて合理的に行動を調整していると考えられるとまと めていた。これは、霊長類研究所のチンパンジーにも当てはまると思った。私は野生のチ ンパンジーを見たことがないため、野生チンパンジーの行動に関してすごく参考になった。 他にも様々なポスターを見て、お話を聞くことができた。そして、私は今回の SAGA14 が初めてのポスター発表だったため、どのポスターからも得るものがあり、勉強になった。 この機会を今後の活動にも活かし、来年の SAGA15 に繋げていきたいと思う。 (文責:有賀) 9.懇親会 1 日目の夜に懇親会がおこなわれた。熊本の郷土料理を中心に豪華なメニューがテーブ ルに並び、その周りを多くの方々が 囲んだ。懇親会に参加するのは初め てで、自分は本当に何をしてよいも のか分からずとまどっていた。霊長 類研究所思考言語分野の先生方や、 ポスター発表の時に知り合った方が 気さくに声をかけてくださった。先 輩方の後押しもあり、先生方に話し かけようと思うものの、タイミング が掴めなかったり気おくれしてしま ったりして、結局ほとんど話すこと 懇親会のようす ができなかった。一方で、東山動物 園くらぶ、東海大学の学生さんたちと知り合い、親睦を深めることができた。お互いの活 動や知識の交換をし、とても楽しい交流であった。次回このような機会があったときは、 気おくれせず、先生方にも自分から話しかけるよう努力したい。 (文責:森) 10.熊本サンクチュアリ見学ツアー 2011 年に京都大学野生動物研究センターの付属施 設となった熊本サンクチュアリでは、現在 51 人のチ ンパンジーが飼育されている。サンクチュアリは熊本 市動物園からバスで 1 時間ほど走り、急な山道を登っ たところにあった。施設の前には海が広がっており、 「実のなる木」で果物を採る チンパンジー 34 C.SAGA14 Ⅱ.年間活動報告 とてもきれいな景観だった。まず見せていただいたのは、「実のなる木」から果物をとっ て食べるチンパンジーたちだ。自ら果物をとって食べる行動を見るのは初めてで、思い思 いに好きな果物を食べていく様子がとても愛らしかった。ある個体は途中までタワーに上 って果物を食べていたが、他のチンパンジーが落とした果物を下で拾うようになり、その ような行動の変化が興味深かった。次に、病院を見せていただいた。チンパンジー同士の けんかで取れてしまった指や唇のホルマリン漬けや、実際の診療室も見せていただくこと ができた。その後、第一飼育棟、第五飼育棟のチンパンジーを見せていただいた。印象的 だったのは、床から天井までさまざまな遊具であふれていたことだ。中央のタワーとそれ に連なるロープだけでなく、壁側に張られていた網もチンパンジーたちの移動に使われて いた。さらに竹が植えられていたり、大豆の入ったボールをさげたりして、様々な行動を 引き出す工夫がされていることが分かった。また、森村先生がコナンとタオルの引っ張り 合いをして遊んだり、ナッツを割って渡してあげたりして、チンパンジーの様々な行動を 見せてくださった。石でナッツを割って食べることをチンパンジーに教えようとしている そうだが、彼らはナッツを割るように人間に要求するだけで、なかなか覚えないようだ。 チンパンジーといえば他個体の行動を見て学ぶものだと理解していたため、この話は意外 であった。次第に覚えていくのかもしれないが、なぜ自分で割らないのだろうと疑問に思 った。 (文責:森) 手術台 サンクチュアリからの眺め 飼育員さんにナッツを割って もらうチンパンジー 「ようこそ」の文字が彫られた冬瓜 35 C.SAGA14 Ⅱ.年間活動報告 11.会場 熊本市動植物園 〒862-0911 熊本市健軍 5 丁目 14 番地 2 号 ③ ② ① 園内見取り図 ① 動物資料館(レクチャールーム)・・・シンポジウム、特別講演会、分科会 ② 花の休憩所・・・・・・・・・・・・ポスター発表、分科会 ③ レストハウス・・・・・・・・・・・懇親会 36 D.幸島セミナー Ⅱ.年間活動報告 2011 年度 幸島自然学セミナー報告書 2012 年 2 月 29 日(水)~3 月 6 日(火) 自然学ポケットゼミナール 37 D.幸島セミナー Ⅱ.年間活動報告 目次 1. 概要・・・・・・・・・・・・・・・1 2. スケジュール・・・・・・・・・・・2 ⅰ.1 日目詳細・・・・・・・・・・3 ⅱ.2 日目詳細・・・・・・・・・・3 ⅲ.3 日目詳細・・・・・・・・・・4 ⅳ.4 日目詳細・・・・・・・・・・4 ⅴ.5 日目詳細・・・・・・・・・・5 ⅵ.6 日目詳細・・・・・・・・・・6 ⅶ.7 日目詳細・・・・・・・・・・7 3. 天気図作成について・・・・・・・・7 4. 食事について・・・・・・・・・・・8 5. 反省・改善点・・・・・・・・・・11 1.概要 2012 年 2 月 29 日(水)~2012 年 3 月 6 日(火)に、宮崎県串間市の京都大学野生動物研 究センター幸島観察所及び幸島で「幸島自然学セミナー」をおこなった。その詳細を以 下に記す。 メンバー 1 年生 黒澤圭貴、中山ふうこ、森ことの 2 年生 秋吉由佳、有賀菜津美 3 年生 木村元大 4 年生 夏目尊好 5 年生 櫻庭陽子 スーパーバイザー 大橋岳さん 38 D.幸島セミナー Ⅱ.年間活動報告 2.スケジュール 2月29日(水) 3月1日(木) 6:00 3月2日(金) 就寝 3月3日(土) 就寝 3月4日(日) 3月6日(火) 就寝 就寝 朝食準備 朝食準備 朝食準備 朝食準備 朝食 朝食 ミーティング 8:00 朝食 朝食 ミーティング 8:45 宮崎港着 8:55 宮崎港発 9:15 宮崎駅着 有賀合流 9:00 片付け 出発準備 6:00 就寝 朝食準備 7:00 3月5日(月) ミーティング 片付け 出発準備 朝食 片付け 7:00 ミーティング 片付け 清掃 8:00 移動 片付け 出発準備 9:00 片付け 出発準備 幸島へ移動 ミーティング 自由行動 10:00 10:30 宮崎駅発 イモ撒き 自由行動 11:00 観察所周辺散策 ニホンザル観察 10:00 観察所出発 10:58 幸島入口発 11:00 11:23 岐阜大学駅発 12:00 12:07 岐阜駅発 12:10 南郷駅着 昼食 12:00 鈴村さんとお話 13:00 都井岬 昼食 12:42 大垣駅発 登山 13:00 片付け 準備 13:40 米原駅発 ニホンザル観察 14:00 14:00 ミーティング 14:35 南郷発 15:00 観察所到着 15:00 黒澤合流 15:30 大阪駅発 本島へ移動 移動 テント設営 荷物整理 片付け 夕食準備 ミーティング 天気図作成 16:00 夕食準備 夕食準備 16:00 風呂 かもめフェリー ターミナル着 15:00 天気図作成 天気図作成 17:00 17:00 夕食準備 夕食準備 風呂 18:00 風呂 風呂 18:00 夕食 大阪港発 夕食 19:00 夕食準備 夕食準備 片付け 朝食準備 夕食準備 20:00 夕食 ミーティング 21:00 夕食 片付け 朝昼飯準備 片付け 朝昼食準備 片付け 朝昼食準備 ミーティング 夕食 ミーティング 20:00 片付け 朝食準備 21:00 就寝準備 22:00 22:00 天気図作成 23:00 19:00 ミーティング 天気図作成 就寝 ミーティング 就寝 就寝 就寝 39 就寝 23:00 D.幸島セミナー Ⅱ.年間活動報告 ⅰ. 1 日目詳細(2 月 29 日水曜日) 閏年のこの日に、2011 年度の幸島自然学セミナーは始まった。メンバーは岐阜大学 を中心に様々な場所から出発するので、名古屋駅や新大阪駅など各自に都合の良い場 所で合流する形の集合となった。 道中は特に目立ったハプニングに見舞われることもなく、18 時のフェリーに乗り込 むことが出来た。乗船後はミーティングを除けば基本的に自由行動で、各々夕食を食 べたり、入浴をしたり、甲板に出たりと思い 思いに過ごしていた。 蛇足だが、私は奥さんと生まれた子どもを 宮崎まで迎えにいくという男性に船上で出 会った。その男性は、生まれて間もない子ど もがいるそうだが、離れて暮らしているため、 なかなか会うことができないそうだ。今回は、 ようやく会いに行くことができるのだと嬉 フェリーターミナルにて しそうに私に話してくれたのが印象に残っ ている。 (文責:黒澤) ⅱ. 2 日目詳細(3 月 1 日木曜日) 船上から見る、朝日に反射しキラキラ光る海面はとても きれいだった、とは全く言えない完璧な曇天。そして、そ のまま雤が降り始め、8 時 45 分に宮崎に着いたときには本 降りになっていた。レインウェアで雤をはじきながら 8 時 55 分フェリーターミナル発のバスに乗り、9 時 15 分に宮 崎駅に到着した。本来なら 9 時 9 分宮崎駅発の電車に乗る 予定だったが、それには間に合わなかったため、長々と宮 崎駅で待たなくてはならなかった。数軒お土産屋さんがあ ったので、それを回って時間を潰し、10 時 30 分宮崎駅発 の電車で单郷へと出発した。单郷に到着したのは 12 時 10 朝の甲板から 分だが、バスが来ないので 15 時に駅集合で自由時間とな った。時間を潰し 15 時前くらいに单郷駅に集合しバスを待っていたが、そこに鈴村 さんが車で迎えにきてくれたので、結局バスには乗らず鈴村さんの車で観測所へ向か うこととなった。 観測所に到着してからは施設の説明を聞き、その後観測所の風呂が今回工事で利用 出来なかったので大橋さんと鈴村さんの運転で温泉に行った。温泉から帰った後は、 夕食や天気図作成をおこない、明日からに備えて就寝した。 (文責:黒澤) 40 D.幸島セミナー Ⅱ.年間活動報告 ⅲ. 3 日目詳細(3 月 2 日金曜日) 朝、島に渡ることが決定し、9 時 20 分に幸島観察所を出発した。鈴村さんの操縦す るカミナリ号に乗り、幸島の岩場に乗りつけた。転ばないように慎重に歩いていき、 10 時にオオドマリに到着した。浜には島に棲むほとんどのサルたちが出てきており、 イモをまくのを今か今かと待っていた。10 時 30 分からサルたちにイモをあげて、幸 島で有名なサルのイモ洗いを観察した。4 頭くらいのサルがイモ洗いをしていた。観 察しているとサルたちはイモの皮を残して食べていた。 鈴村さんに聞くと、食べ残しの皮は順位の低いサルが後 で拾って食べるということだ。イモ洗いが終わると強い 雤が降り出した。そのためビデオ観察ができなかった。 雤はその後も降ったり止んだりのすっきりしない天候だ った。 私は今回、昨年生まれたアカンボウと母親の関係につ イモ洗いをするニホンザル いて観察することに決めていた。観察を始めた時、アカ ンボウは母親から離れ、1 人でイモを拾って食べていたので、どの母親の子なのか分 からなかった。そのため、目の前にいた 1 匹のアカンボウを追いかけて、母親のもと に戻るまで観察することにした。アカンボウがイモを抱え、立ち上がって走り去る姿 はとてもかわいかった。イモを食べ終えると、アカンボウたちは浜辺の木の上で遊ぶ ようになった。アカンボウを観察するうえで大変だったことは、アカンボウは非常に 警戒心が強かったことだ。私が尐しでも近づいたり、目が合ったりするとすぐに逃げ てしまう。また、動きもすばやく、どの子も顔も大きさもほとんど変わらず、見分け が全くつかないので、アカンボウ同士で遊んでいると、観察していた個体がどの個体 なのか分からなくなってしまう。ようやく 1 匹のアカンボウがオトナザルに抱かれた ので、鈴村さんに聞いてみると、そのオトナザルはなんとオスだった。オスでもアカ ンボウをちょっとだけ抱きかかえてあげることがあるそうだ。気を取り直し、しばら く観察を続けていると、昼過ぎになってやっとアカンボウたちが母親のもとに帰り始 めた。顔の入れ墨で母親の個体識別をすると、バイモ、ガヤ、カンナだった。赤ん坊 と母親の関係について観察データをとることはできなかった が、母親のもとに戻ったアカンボウの姿を見ることができて よかった。 昼食を終えたころ、大橋さん、桜庭、木村、中山、森の 5 人は登山をおこなった。例年は三角点まで登るとのことだっ たが、今回は全頭調査をおこなう S-2 地点、キャビン、テン トを設営する砂浜をたどった。ルートにはところどころロー プが張られていたが、登山道と違って道が整備されていたり 踏みならされたりしておらず、歩きにくかった。無人島なら ではの登山だと思った。 登山ルート 今回のセミナーでは悪天候のなか、幸島に渡り、実際にイ モ洗いやムギ洗い行動を見ることができ、充実した 1 日だった。 (文責:中山) 41 D.幸島セミナー Ⅱ.年間活動報告 ⅳ. 4 日目詳細(3 月 3 日土曜日) 3 日目に幸島に渡ったが天気の都合で泊まらず帰ってきたため、当初の予定とは全 く違うものとなった。来年以降の幸島セミナーで、天候不順のときに何をするかも行 く前に決めておく必要があると感じた。 そういった理由で幸島に渡れなくなってしまったので、4 日目は本来なら最後の日 に予定していた都井岬へと行った。9 時 30 分に観察所を出発した。大橋さんと鈴村さ んが運転する車で都井岬へと向かい、10 時頃に到着した。御崎馬は野生だが非常にお となしく、かなり近付く事ができた。その後、都井岬観光案内所で昼食を済ませ、12 時 30 分にビジターセンター、14 時 00 分に都井岬灯台、14 時 40 分にソテツ自生地 と、順に見学をした。 一連の見学の後、そのまま観測所へは帰らず温泉に行き、観測所へ帰ってきたのは 17 時 30 分だった。そこから夕食、ミーティング、22 時に天気図を作成し、就寝した。 (文責:黒澤) ⅴ. 5 日目詳細(3 月 4 日日曜日) 7 時 40 分に朝食を食べ、ミーティングや片付 けを済ませて 10 時に鈴村さんとともに観察所 を出た。初めに石波海岸へ向かった。鈴村さん に亜熱帯性の植物についてレクチャーをして いただいたり、海岸に打ち上げられたものを拾 ったりしながら思い思いに散策した。海岸には 貝殻のほかに、付近で育てられたものが流れて きたであろうみかんやイカの甲羅を見つけた。 防砂林散策の様子 植物については、観察所や幸島ではマサキ、シ ャリンバイ、トベラという 3 種が優占していると いうことを教えていただいた。海岸沿いの防砂林 では、ムカシアブリ、カゴ、ハカマカズラといっ た植物も観察することができた。照葉樹独特の葉 の厚さがあり、名古屋や岐阜では見ない植物のた め、私はとても新鮮な気持ちだった。12 時ごろ、 ようやく目的地としていた民宿旧家村に到着した。 その名の通り古式の家が建っていたが、営業して いるのか 民宿旧家村 どうかは 分からなかった。それから観察所へ戻り、昼 食をとった。 14 時にミーティングをおこない、テント泊 をするための準備をした。テントや水、食糧 といった荷物を手分けして運び、14 時半に坂 を登った先にあるフィールドミュージアムと 設営したテント 42 D.幸島セミナー Ⅱ.年間活動報告 いう公園に到着した。水が入ったポリタ ンクはとても重く、途中で何度も休憩し なくてはならなかった。1,2 年生を中心 にテント設営をし、EPI ガスで調理をお こなった。1 年生 3 人で 2 合ずつの米を 炊いた。鍋の大きさに対して火力が足り ないのではないかと心配したが、予想に 反して 3 人ともとてもおいしく炊くこと ができた。16 時にはテント内で天気図作 フィールドミュージアムの所在地 成をした。夕食には、予定していた大豆 のチリコンカンとコーンスープに加え、海水に浸して炊いた海水ごはんと海水で茹で たサツマイモが加わった。私は海水ごはんを初めて食べたが、ほんのり塩味がついて いておいしかった。しかし、先輩方によると、昨年度の方がおいしかったそうだ。そ んなに味が変わるのだろうかと思ったが、今度はもっとおいしい海水ごはんを食べて みたいと思った。夕食の片付けと朝食準備を済ませ、21 時半ごろ就寝した。 (文責:森) ⅵ. 6 日目詳細(3 月 5 日月曜日) この日、私はあまり寝た心地がしなかった。夜中のどしゃぶりの雤のせいで、深夜 2 時頃から雤漏りして水滴が私の顔面めがけて降っていたからである。私は寝袋が濡れ るのはいただけないと思い、雑巾のごとくタオルを使って水たまりができるのを阻止 しようと試みた。しかし、午前 4 時ごろにタオルのキャパシティが限界に達し、水が あふれ出してしまった。そのため、何度か外へタオルを絞りに行くことを繰り返しな がら夜を過ごした。そのようなハプニングはあったものの、私はこれもテント泊の醍 醐味と思い、ひそかに楽しんでいた。とはいえ雤漏りはもうこりごりだ。 このような夜も 6 時半に終わり、7 時半に朝食をとった。昨夜の海水サツマイモを 一緒に炊き込んだご飯は絶品だった。8 時から片付けと撤収作業をおこない、8 時 50 分に観察所へ戻った。観察所に戻るところで虹が出ており、テントでの一夜を過ごし た自分達を労っているかのようだった。 12 時から鈴村さんを交えて昼食をとり、ニ ホンザルや幸島のことを話していただいた。 ニホンザルの群れのボスは基本的に死んだと きに代替わりとなるが、ケムシからホタテの 代においてはボスと 2 番目の順位が入れ替わ ったというように、例外もあるというのが興 味深かった。また、群れ内でのオスの順位に は親の順位や兄弟の存在も大きく関わってい るということが驚きだった。これまでニホン 観察所に戻る途中 ザルについてはほとんどよく知らなかったの だが、思っていたよりも複雑な社会構造をしているということが分かった。親兄弟で 結託してボスの座を目指すという点が、人間に通じるものがあるなと感じた。 43 D.幸島セミナー Ⅱ.年間活動報告 14 時まで鈴村さんとお話したあと、各自片づけをおこない、16 時から天気図作成を した。セミナーの間はずっと天気は悪かったが、この日も停滞前線が発達し天気の回 復は見込めそうになかった。17 時から風呂に行き、19 時半に夕食をとった。観察所に 隣接するドライブインで日向夏を購入し、宮崎県出身の中山が調理した。厚い皮も一 緒に食べるという独特の食べ方があり驚いたが、とてもおいしかった。また、鈴村さ んから帰宅される前に獅子肉をいただいたため、獅子肉のステーキが夜食に加わった。 予想に反してくさみもなく、牛や豚とはまた違った歯ごたえやうまみがあって絶品だ った。セミナー中肉料理といえるものを食べていなかったため、皆の感動も大きかっ たようだった。翌日の朝食の予定もボタン鍋に変更し、夕食の片付けの後は朝食の仕 込みに一生懸命だった。20 時にミーティングをおこない、各自就寝した。 (文責:森) ⅶ. 7 日目詳細(3 月 6 日火曜日) 悪天候に見舞われ幸島に 1 日しか行くことができず、運が敵に回ったとしか言いよ うのない幸島セミナーも今日で無事に終わりだ。やることがない中からひねり出した からか、非常に長く感じた。本当にやることがなければ自由時間にして各自読書でも するのも、1 つの活動だと思った。 最終日のこの日の朝食は、昨夜道路を横切るイノシシを 見て思い出した鈴村さんからいただいたシシ肉で牡丹鍋 をつくった。まさか幸島セミナーで牡丹鍋を食べられると は思わなかった。とてもおいしかった。 朝食を済ませ 7 時 20 分からミーティングをおこない、 その後は 1 週間お世話になった観測所の掃除をした。トイ レから、自分たちの利用した場所は全て掃除し、9 時に掃 除が終了。それから鈴村さんと冠地さんに挨拶を済ませ、 10 時半に観測所を出発、バス停へ向かった。そして 11 時 シシ肉 前にバスが出発し、解散となった。 (文責:黒澤) 3.天気図作成について 天気図には縁の無い生涯を送ってきた私にとって、天気図はこのセミナー中最も驚 いたもののうちの 1 つだ。天気のラジオ放送が流れていること自体知らなかった。中 学生のころ天候の記号や前線に対しての知識は勉強したが、まさかこんな形で実践す るとは予想していなかった。やってみると日本語のリスニングのようで、聞き取るま ではなかなか出来るのだが、得た情報をもとに作図し、そこから明日の天気はどうな るかという話になると、よくわからなかった。そこが天気図で一番大事なのに、そこ を全く理解できなかった私は、日本語の聞き取り能力を証明しただけになるのだろう。 天気図作成に赤と青の色鉛筆が必要だとは知らなかったので、私の書いた天気図は ごちゃごちゃして、見返しても何が何だかわからないものになっている。天気図を書 く機会のある方々は、色鉛筆だけは忘れないことを心掛けてほしい。 (文責:黒澤) 44 D.幸島セミナー Ⅱ.年間活動報告 4.食事について 食事は基本的に担当制ではなく、みんなで協力しておこなった。5 日目のテント泊 は屋外で作ったが、そのほかの日は幸島観察所のキッチンを使わせていただいた。朝 食は前日の夜に作っておき、昼食のおにぎりは前日の夕食後、手の空いた人が作った。 セミナーでの実際の食事メニュー 1日目 朝食 昼食 夕食 2日目 3日目 ご飯 かぼちゃの煮物 大根の煮物 味噌汁 おにぎり 魚肉ソーセージ ご飯 ツナスパゲティー ザーサイ炒め 海藻スープ おでん ポテトサラダ 4日目 ご飯 切り干し大根 味噌汁 5日目 ご飯 高野豆腐の煮物 薩摩汁 6日目 ご飯 ひじきの煮物 味噌汁 おにぎり 魚肉ソーセージ おにぎり 魚肉ソーセージ チャーハン 海藻サラダ ご飯 ポトフ 海藻サラダ 海水ご飯 大豆のチリコンカン コーンスープ ふかし芋 カレー 春雨スープ しし肉 リンゴ、日向夏 7日目 炊き込みご飯 ぼたん鍋 ○2 日目(3 月 1 日木曜日) 夕食はお風呂から帰ってきた後、19 時に作り始めた。 ザーサイ炒めはすぐにできあがった。しかし、おでん は具の仕込みや煮込みに時間がかかってしまった、大 根は煮え切らなかったため、別の鍋に移し翌日の朝食 に回した。夕食を食べ始めたのは 20 時 40 分だった。 おでんとザーサイ炒め ○3 日目(3 月 2 日金曜日) 朝食のかぼちゃと大根の煮物は前日から煮込んでいたため、味がしみていておいし かった。味噌汁の具はとろろ昆布、椎茸、麩だ。夕食のツナスパゲティーは麺をほぐ すのが大変だったが、ニンニクが効いており食欲をそそる味だった。 ツナスパゲティー、ポテトサラダ、海藻スープ 大根とカボチャの煮物、味噌汁 ○4 日目(3 月 3 日土曜日) 朝食は切り干し大根の煮物、味噌汁だった。夕食はポトフと海藻サラダだった。海 藻サラダは水で戻すと予想よりかさが増えたため、半分は 6 日目の昼食に回した。ポ トフは煮込みに時間がかかるため、朝食後に作り、温めるだけにしておいた。 45 D.幸島セミナー Ⅱ.年間活動報告 切り干し大根、味噌汁 ポトフ、海藻サラダ、炊き込みご飯 ○5 日目(3 月 4 日日曜日) 朝食は高野豆腐の煮物と薩摩汁を作った。薩摩汁は今回初めて食べる人が多かった。 薩摩汁の具には、さつま芋、ゴボウ、ニンジン、長ネギを入れ体の温まる一品だった。 夕食はテント泊だったので、海水でご飯を炊いた。キッチンペーパーで浮遊物を取り 除いた海水に 40 分ほど米を浸し、真水で炊いた。1 年生が 1 人 2 合ずつ EPI ガスで 炊いた。先輩のアドバイスもあり、どれも芯米やおこげがほとんどなく上手に炊けた。 海水ご飯はほのかに塩味がしておいしかった。しかし、昨年のセミナーで炊いたもの の方が、塩味がしっかりと付いておいしかった、という人もいた。昨年はコーヒーフ ィルターを使って海水を濾していることから、キッチンペーパーを使ったことが原因 ではないかとの意見が出た。次回はコーヒーフィルターを持っていくとよいかもしれ ない。ふかし芋も海水を使ってふかした。1 人 1 本食べたのでみんなお腹いっぱいに なった。大豆のチリコンカンは、手軽でおいしくできるので、キャンプにはもってこ いのメニューだった。 高野豆腐の煮物、薩摩汁 EPガスで炊いた海水ご飯 海水ふかし芋 大豆のチリコンカン、コーンスープ、海水ご飯 46 D.幸島セミナー Ⅱ.年間活動報告 ○6 日目(3 月 5 日月曜日) 朝食のひじきの煮物は、大鍋で作ったため EPI ガスの火力が足りず、人参が煮える のに 1 時間ほどかかった。昼食は余分に買っていた食材でチャーハンを作った。鰹節 が効いており、あっという間になくなった。夕食のカレーは朝のうちに作っておいた。 観察所の隣にできていたドライブインで買った日向夏は好評だった。周りの白い房も 一緒に食べることに驚いていた人もいた。夕食後、鈴村さんから頂いたシシ肉を、塩 と胡椒をまぶして焼いた。久しぶりのお肉だったので、みんな幸せそうな顔をして食 べていた。脂がのっており、とてもおいしかった。 海藻サラダ、炊き込みご飯 ひじきの煮物、芋ご飯、味噌汁 シシ肉のステーキ ツナのカレーライス、海藻スープ リンゴ、日向夏 ○7 日目(3 月 7 日火曜日) 朝食は昨日鈴村さんから頂いたシシ肉をぼたん鍋にし て食べた。煮込むと昨日より柔らかくなっていておいしか った。炊き込みご飯は鶏肉と塩昆布が入っており、最終日 の朝食は予想外の豪華な朝食となった。 ぼたん鍋、炊き込みご飯 ○食事のまとめ 今回のセミナーでは、米が大量に余った。米について、朝 は 5 合、昼 8 合、夜 5 合炊いた。18 ㎏持って行ったが、12 ㎏しか食べなかった。米を使い切るために、有賀さんが発案 した、煎ったお米を砂糖水でからめたお菓子は好評だった。 米以外の食材はほとんど余らず、丁度良い量だった。 また、EPI ガスで調理をするときは、大鍋を使うと火が回 らず調理に時間がかかるので、小鍋を使うのが良い。 お米のお菓子 (文責:中山) 47 D.幸島セミナー Ⅱ.年間活動報告 5.反省・改善点 スーパーバイザーの大橋さんを交え、来年度以降の幸島セミナーに向けて反省や改善 点を話し合った。以下箇条書きに記す。 ・交通案に載せる以外の交通ルートを調べておく 今回は宮崎港から宮崎駅へのバスが遅れたため、予定していた時刻の電車に乗れな くなってしまった。そのため、何かの交通が遅れた場合に備え、各駅の時刻表や別の ルートを調べておくべきである。 ・幸島へ渡れなかった場合のスケジュールを立てておく これまで、予定していた通りに島で 3 泊することができた年は尐ない。特に今年は 1 日しか島に渡れなかったため、毎日スケジュールを考える必要があった。今回おこ なった都井岬訪問、観察所周辺探索、フィールドミュージアムにおけるテント泊は、 どれもスケジュール的に無理なく実行できたように思う。しかし、事前に都井岬の地 形や亜熱帯の植物について調べたり、図鑑を持っていったりすればより有意義なもの になるだろう。他にもまだできることがあるかもしれない。今回の活動を参考に、セ ミナーでできる活動を考え、準備しておくとよい。 (文責:森) 48 E.研究報告、研究成 Ⅱ.年間活動報告 果 49 E.研究報告、研究成果 Ⅱ.年間活動報告 50 E.研究報告、研究成果 Ⅱ.年間活動報告 51 E.研究報告、研究成果 Ⅱ.年間活動報告 52 E.研究報告、研究成果 Ⅱ.年間活動報告 53 E.研究報告、研究成果 Ⅱ.年間活動報告 54 E.研究報告、研究成果 Ⅱ.年間活動報告 55 E.研究報告、研究成果 Ⅱ.年間活動報告 56 E.研究報告、研究成果 Ⅱ.年間活動報告 57 E.研究報告、研究成果 Ⅱ.年間活動報告 58 E.研究報告、研究成果 Ⅱ.年間活動報告 59 E.研究報告、研究成果 Ⅱ.年間活動報告 60 E.研究報告、研究成果 Ⅱ.年間活動報告 61 E.研究報告、研究成果 Ⅱ.年間活動報告 62 E.研究報告、研究成果 Ⅱ.年間活動報告 63 Ⅲ.長期研究報告 Ⅲ.長期研究報告 A.霊長類研究所での研究 B.東山での研究 C.RRS ニホンザルの観察 D.双子チンパンジーの NN 調査 64 64 68 75 78 A.霊長類研究所での研究 Ⅲ.長期研究報告 2011 年度 NN 観察 チンパンジーの社会関係の変化 岐阜大学 秋吉由佳 日本大学 平栗明実 目的 チンパンジーは発達に伴って社会関係が変化するということが知られている。京都大学 霊長類研究所では、2000 年に 3 個体のチンパンジーが生まれた。アユム(11 歳オス)、パ ル(11 歳メス)、クレオ(11 歳メス)である。この 3 個体のチンパンジーの社会関係の変化を 調べるために、ビデオ観察をおこなった。 方法 アユム、パル、クレオとそれぞれの母親、アユムのいる群れのα-male であるアキラを 対象として、毎週 1 時間(10 時~11 時)、フォーカルアニマル法でビデオ撮影をおこな った。そのビデオから、最近接個体(Nearest Neighbor : NN)を 1 分毎のタイムサンプ リングで記録した。10 歳までのデータは、歴代のポケットゼミナール生が撮影したものを 使った。 結果・考察 65 A.霊長類研究所での研究 Ⅲ.長期研究報告 1 歳から 4 歳までは 3 個体ともに母親が NN になる割合が最も高かった。 このことから、 初期の社会関係の変化には雌雄でほとんど差が見られないと考えられる。 パルとクレオのメス 2 個体は 7 歳以降も、NN が母親になる割合が最も高かった。しか し、NN が母親になる割合は減尐している。それと同時に、α-male のゴンが NN になる 割合が緩やかに増加している。パルとクレオは、α-male のゴンを始めとする他個体との 関係を徐々に広げていると考えられる。 アユムは 7 歳から 9 歳にかけて同じ群れのα-male のアキラが NN になる割合が最も高 かった。しかし、9 歳以降、母親個体や他のメス個体が NN になる割合が再び高くなった。 アユムからアキラへの攻撃が確認された のは 10 歳時だ。しかし、アユムは 9 歳 時には、α-male のアキラに対する挑戦 を始めようとして、仲間との同盟関係を 広げ始めていたと考えられる。一方、ア キラはアユムの攻撃が確認された 10 歳 時に、NN がアユムになる割合が下がっ た。アキラはアユムの攻撃以降、アユム を避けていると考えられる。 展望 アユムの社会関係の変化は、α-male であるアキラとの関係の変化が大きく影響している と考えられる。今後は、2000 年に生まれた 3 個体の社会関係の変化だけでなく、アユム とアキラの関係の変化にも注目して観察していきたい。 66 A.霊長類研究所での研究 Ⅲ.長期研究報告 改修工事がチンパンジーの行動に与える影響評価 日本大学 有賀菜津美 京都大学霊長類研究所では、チンパンジーの放飼場(サンルーム)の改修工事が 2011 年 8 月より始まり、現在もおこなわれている。本研究は、飼育環境の変化が、チンパンジ ーの行動や利用場所の頻度に影響するのではないかと予測し、調査した。調査対象は、霊 長類研究所で暮らすチンパンジー13 個体のうちの、6 個体(♂2 個体、♀4 個体)であり、 工事のおこなわれていない土曜日と日曜日に観察をおこなった。さらに、改修工事中にか かるストレスによって過剰にグルーミングしているのではないかと考え、チンパンジーの 毛の抜け具合も調査した。この研究に関しては、工事中におこなった調査の途中経過を SAGA14 でポスター発表した(ポスター参照)。 〈方法〉 調査対象 京都大学霊長類研究所で飼育されている 6 個体(アキラ群) 観察方法 フォーカルアニマルサンプリング法を用い、各個体 10 分間、15 秒ごとに 行動と場所を記録した。 行動 行動は 10 種類に分類した。 Eat, Move, Sit, Lie, Grooming, Play, Display, Voice, Scratch, Other 場所 サンルームを区分けし 1~11 の番号をつけた。 67 A.霊長類研究所での研究 Ⅲ.長期研究報告 〈改修工事状況と調査期間〉 調査は、6 月 26 日より始め、その後改修工事が 2011 年 8 月より始まった。また、SAGA14 発表時点での調査時間は、合計 72 時間(10 日間)であった。 現在、東サンルームの改修工事は終わり西サンルームの改修工事がおこなわれている。し かし、アキラ群が新しい東サンルームを利用していないため観察は中断し、西サンルーム の改修工事が終わり次第始める予定である。 〈結果と考察〉 1 日ごとの行動の割合は、観察日によって大きく差がでた。しかし、改修工事前と改修 工事中のそれぞれの行動の割合には、大きな差は見られない。また、サンルームの使用場 所の頻度は、タワーが圧倒的に高く、次に台、地面と続いた。この結果から、工事中の影 響は彼らの行動に大きく影響を与えていないということが言えるだろう。 〈今後の展望〉 今後西サンルームの改修が終わり、アキラ群が新しいサンルームを利用し始めるため、 調査を再開させる。また、高さやタワーの構造も大きく変わるため、利用する高さの違い や個体ごとの新しい場所への適忚度も調査したい。 68 B.東山での研究 Ⅲ.長期研究報告 2011 年度 東山動物園での研究 東山動物園におけるチンパンジータワーの利用率の変化 岐阜大学 木村元大 背景 2008 年 11 月に名古屋市東山動物園のチンパンジー舎に、高さ 11m のタワーが導入さ れた。タワーの導入は、飼育下のチンパンジーに自然に近い行動を引き出すことを目的と している。また、チンパンジーたちの様子は監視カメラによって、導入開始から現在まで 撮影されてきた。 東山動物園ではタワー導入開始時は 5 個体(オス 2 個体、メス 3 個体)のチンパンジー が飼育されていた。2010 年 8 月にリナ(メス)がチンパンジーサンクチュアリ宇土に転出、 チンパンジーサンクチュアリ宇土からカズミ(メス)、わんぱーくこうちからアキコ(メス) がそれぞれ転入した。また、2011 年 7 月にカズミがリキ(オス)を出産した。現在、東 山動物園にはチンパンジーが 7 個体(オス 3 個体、メス 4 個体)飼育されている。 目的 東山動物園のチンパンジー全個体のタワー利用状況について調査することで、タワーに ついて評価をおこない、改善点を考察することが目的である。さらに気温や降雤の有無な どから、利用率がどのように変化するのかを調査した。 昨年度、1 年間のタワーの利用調査をおこなったところ、タワーの利用率に与える要因 として、気温や季節、タワーの新奇性の減尐が考えられた。今年度はそれらの要因に着目 し、2 年が経過した現段階の利用調査をおこない、利用率に与える要因を再度考察した。 方法 調査には放飼場を撮影した監視カメラのビデオ映像を用いた。4 週ごとに 7 日間の調査 期間を設け、 放飼開始から 1 時間を対象とし、 タワー利用の有無と利用している場所を 1 分 ごとのスキャンサンプリング法で記録した。対象個体はリュウ(オス)、チャーリー(オ ス)、ローリー(メス)、ユリ(メス)の 4 個体とした。調査は 2010 年 11 月 23 日より 2011 年 2 月 21 日まで(全 4 期)の調査をおこなった。 分析方法は、調査時間中にチンパンジーがタワーを利用した時間の割合をタワー利用率 として、期間による利用率の変化を分析し、タワー導入時(2008 年 11 月 9 日より 2009 年 2 月 7 日)の結果と比較した。 69 B.東山での研究 Ⅲ.長期研究報告 結果・考察 タワー導入時に比べて 11 月のタワー利用率が増加した。また、タワー導入 2 年経過し ても利用率が大きく減尐することはなかった。 →タワーの新奇性による利用率の影響が小さいと考えられる。 タワー導入時と同様 2 月にかけて利用率が減尐した。 →季節の影響によって利用率が変化した。 今後の展望 ・継続した調査を続け、タワーの評価、改善をおこなっていく。 ・今回の結果を踏まえ、季節に対忚したタワーの改善点を考察する。 ・リキに注目して、成長に伴う利用率の変化について調査する。 ・放飼から収容までの 1 日の利用率を調査する。 70 B.東山での研究 Ⅲ.長期研究報告 小型展示施設“パンラボ”の評価 岐阜大学 島田かなえ 1.目的 ・パンラボがチンパンジーにどれくらい使われているか調査する ・パンラボがチンパンジーにとって、どのような場所か調査する ・実験がチンパンジーに及ぼす影響について調査する 2.方法 ・1 分間のスキャンサンプリングで全個体(6 頭)の行動とチンパンジーのいる場所を瞬間サ ンプリング法を用いて記録 ・14 時 30 分~15 時 30 分までの 1 時間を対象とした。 (13 時にパンラボに入室可能、13 時からジュース飲み、15 時 30 分又は 16 時頃に収容) →実験の有る日と無い日のパンラボ利用率とチンパンジーの行動を比較 行動目録は以下の通り 実験 採食 休息 移動 社会行動 一人行動 異常行動 その他 experiment feed explore rest self-grooming walk grooming display play scream copulation greeting nest-making coprophagy regurgitation others パネルトレーニングをする エサ等を食べる 食べ物を探索する(フィーダー利用を含む) 何もせず、座っている・寝ている 自分の体をグルーミングする 歩く・ブラキエーション 他個体とのグルーミング ディスプレイ 他個体との遊び スクリーム 交尾 他個体への挨拶 ベッド作り 糞食 吐き戻し その他 3.結果 ・実験有の時と実験無の時のパンラボの利用率を比べると実験有の時で利用率が高くなっ た(図 1 参照)。ただし、実験が有る時でも、実験ばかりして過ごしているわけではなか った(図 2 参照)。 ・放飼場の行動とパンラボの行動を比較すると、パンラボで社会行動の割合が高かった(図 3 参照)。 ・社会行動に注目すると、実験が有る時と無い時では、有る時で増加した個体もいれば、 減尐した個体もいた(図 4 参照)。 71 B.東山での研究 Ⅲ.長期研究報告 図 1.実験が有る時と無い時のパンラボ利用 率 35 ◆リュウ ◆チャーリー ◆ローリー ◆ユリ ◆アキコ 30 よく来てよく実験する あまり来ないけどよく実験する 25 20 ◆カズミ ( パ ン ラ ボ 実 験 参 加 率 % ) 15 あまり来ないしあまり 実験しない 10 よく 来るけどあ まり 実験しない 5 0 0 10 20 30 40 50 60 70 80 パンラボ利用率(%) 図 2.パンラボ利用率と実験参加率との関係 100% 90% 80% その他 70% 異常行動 60% 一人行動 社会行動 50% 移動 40% 休息 30% 採食 20% 10% 0% パンラボ(実験有) パンラボ(実験無) 放飼場 図 3.放飼場とパンラボの行動の比較 ※エラーバーは標準誤差(SE)を示 している 72 B.東山での研究 Ⅲ.長期研究報告 100% リュウ 100% 100% 90% 90% 90% チャーリー 80% その他 80% 80% 70% 70% 60% 60% 50% 50% 40% 30% 40% 休息 30% 採食 20% 20% 10% 10% 0% 0% 実験有 実験有(パ) 実験無 実験無(パ) ユリ 100% 70% 異常行動 一人行動 60% 社会行動 50% 移動 40% 30% 20% 実験有 実験有(パ) 10% 実験無 実験無(パ) 0% アキコ 100% ローリー 100% 90% その他 異常行動 80% その他 70% 異常行動 その他 60% 一人行動 50% 社会行動 一人行動 40% 移動 30% 休息 移動 休息 20% 採食 10% 採食 0% 一人行動 異常行動 社会行動 移動 社会行動 休息 採食 実験有 実験有(パ) 100% 実験有(パ) 実験無 実験無(パ) カズミ 実験無(パ) 90% 90% 80% 80% その他 80% その他 その他 70% 70% 異常行動 60% 一人行動 50% 50% 社会行動 40% 40% 移動 30% 30% 休息 20% 20% 採食 10% 10% 70% 異常行動 60% 一人行動 50% 社会行動 40% 移動 30% 休息 20% 採食 10% 異常行動 60% 0% 0% 実験有 実験有(パ) 実験無 実験無(パ) 90% 実験有 実験有(パ) 実験無 実験無(パ) 0% 一人行動 社会行動 移動 休息 採食 実験有 実験有(パ) 実験無 実験無(パ) 図 4.個体ごとの実験が有る時と無い時の行動の違い 図3.実験が有る日と無い日のパンラボでの行動の違い ※実験が有る時のパンラボでの行動と実験が有る時の放飼場(タワーも含む)での行動、実 験が有る時のパンラボでの行動と実験が無い時のパンラボでの行動を比較したグラフ 3.考察 ・パンラボは、狭い構造をしており、個体間距離が小さくなるため、社会行動が増加しや すい。 ・実験では、ご褒美がもらえるため、チンパンジーをパンラボに呼ぶ効果が有る。 ・パンラボで実験をおこなうことで、パンラボが群共通の餌場になっている。 →実験が社会行動の機会を与えていると考えられる。 ・ただし、実験の有る時で社会行動が減尐した個体もいた。これは、実験時、グルーミン グ相手が実験をしていて、 グルーミングをすることができなかったからだと考えられる。 73 B.東山での研究 Ⅲ.長期研究報告 東山動物園パンラボビデオ編集 岐阜大学 藤森唯 東山動植物園のチンパンジー展示場の一角に、「パンラボ」というチンパンジーの実験 室がある。そこでは、京都大学霊長類研究所と同様のタッチパネルを使った実験やジュー ス飲みなどがおこなわれており、これらを通してチンパンジーの知性を展示している。ま た、パンラボの付近にはモニターが設置されており、チンパンジーやパンラボを紹介する ためのビデオが放映されている。私は、そのビデオの編集、更新作業をおこなってきた。 2011 年度は 4 回の更新をおこなった。更新の詳細を以下に記す。 更新 1(2011 年 4 月) 数字課題において、表示される数字が 6 までの動画から 9 まで表示される動画へ 変更(図 1) 「NEWS」の項目を作り(図 2)、リナという個体の転出(図 3)とアキコとカズ ミという個体の転入の情報を追加(図 4) 図1 図2 図3 図4 更新 2(2011 年 5 月) 数字課題において、チャーリーという個体の進行状況を 3 から 4 へ更新(図 5) 漢字-色課題の追加(図 6、7) 図5 図6 74 B.東山での研究 Ⅲ.長期研究報告 図7 更新 3(2011 年 8 月) 数字課題において、説明文に添える写真を変更(図 8) 図8 図9 図 10 「NEWS」の項目にカズミの出産の情報を追加(図 9、10) 更新 4(2011 年 11 月) 「NEWS」の項目から、リナの転出とアキコ・カズミの転入の紹介を削除 2011 年 7 月に生まれたあかんぼうの名前決定の報告(図 11)と近況報告(図 12) 図 11 図 12 75 C.RRS ニホンザルの観察 Ⅲ.長期研究報告 2011 年度 RRS ニホンザル観察報告書 飼育下のニホンザル個体群における固形飼料洗い行動の広がり ~とくにあかんぼうに焦点をあてて~ 岐阜大学 夏目尊好 文化とは、社会的集団のメンバーによって共有される行動のセットであり、非遺伝的な 経路によって世代を超えて伝わる。(松沢、1999) 野生のニホンザルでは、幸島のニホンザルのイモ洗い行動が世代を超えて伝播する文化 的行動として有名である。一方、京都大学霊長類研究所 Research Resource Station(RRS) の第 8 放飼場で暮らすニホンザルの群れでは、イモ洗い行動に類似した「固形飼料を水に 浸してから食べる」という行動が見られる。飼育下においても野生のニホンザルのような 文化的行動が見られるのか、また、見られるとすればどのように集団内に広まるのか。こ れらのことを明らかにするために 2009 年と 2010 年に生まれたあかんぼう 6 個体に注目 して、いつ頃、どのような段階を経て固形飼料洗い行動を獲得するのかを調査した。 方法 RRS 第 8 放飼場に暮らすニホンザルの 1 群(♂6、♀18)のうち 2009 年に生まれた 3 個体(♂1、♀2)、2010 年に生まれた 3 個体(♂2、♀1)を対象個体とし、2009 年 7 月 から毎週日曜日に観察した。給餌が始まる時間から 1 時間、放飼場内にある人工池(図の ①~③)とその周辺で一眼レフカメラとビデオカメラ、を用いて観察した 1 回の観察にお いて、固形飼料洗いをおこなったとき、その固形飼料洗いのレパートリーを分類し、該当 するレパートリーに 1 ポイントを加算する方法で固形飼料洗いを記録した。1 回の観察で は、同じレパートリーに何度分類されても 1 ポイントとした。 76 C.RRS のニホンザル観察 Ⅲ.長期研究報告 結果 2009 年生まれ、2010 年生まれの個体を合わせた 6 個体中 4 個体において、生後 6 か月 ~生後 12 か月に自立的な固形飼料洗いが、他者に依存した固形飼料洗いよりも回数が多 くなった。これについて 1 か月齢ごとに細かく分析すると、生後 6 か月以前は、ほとんど 固形飼料洗いをおこなわないが、生後 6 か月を過ぎると頻繁に固形飼料洗いをするように なり、個体差はあるが生後 12 か月を過ぎると、それまでよりも固形飼料洗いの回数が多 くなった。 77 C.RRS のニホンザル観察 Ⅲ.長期研究報告 考察 対象 6 個体の固形飼料洗いは、自らおこなうか他者に依存しておこなうかに関わらず、 生後 6 か月を境にして始まった。ニホンザルは、生後 3 か月あたりまで手で物をうまく操 作することができないことが報告されている(竹下秀子,1999,p62-63)。このことから固 形飼料洗いが可能な身体的条件が整うのは早くて生後 3 か月であり、そこから自らが思い 通りに固形飼料を操作できるようになり、また固形飼料を食べるようになるのが、生後 6 か月あたりと考えられる。 生後 12 か月を過ぎると固形飼料洗いを頻繁におこなうようになった。固形飼料洗い行 動の獲得、実践には多くの学習が必要であると思われる。野生のチンパンジーで見られる 木の葉をスポンジのように加工して水を飲むという道具使用行動は、3~4 歳にならないと 木の葉を自分で加工し、使用することができない(Sousa,2011)。チンパンジーとニホン ザルの身体的・認知的な発達速度を歯の萌出時期から考えると、ニホンザルはチンパンジ ーの倍の早さで発達すると考えられる。これらのことがニホンザルのあかんぼうが生後 12 か月を過ぎたあたりから固形飼料洗いを頻繁におこなうようになった理由であると考えら れる。 今回の観察、分析から固形飼料洗い行動の獲得、実践において、固形飼料洗い行動の開 始時期には身体的発達関係し、習得時期には認知的発達が関係していることが示唆された。 78 D.双子チンパンジーの NN 調査 Ⅲ.長期研究報告 2011 年度 双子チンパンジーの NN 調査 チンパンジーの双子の発達に伴う社会関係の変化 岐阜大学 市野悦子、木村元大、藤森唯 背景 チンパンジーは、生まれてからしばらくはほとんどの時間を母親と過ごす。成長ととも に母親から離れ、群れのメンバーとの関係を築き、自分の社会関係を広げていく。高知県 立のいち動物公園では、2009 年にサンゴというチンパンジーが二卵性双生児のダイヤ(オ ス)とサクラ(メス)を出産した。この双子の 2 個体ともを母親が直接育てており、これ は国内では初めての事例である。本研究では、双子の社会関係の発達的変化という点に注 目して、双子であることが、母親や群れの他のメンバーとの関係にどう影響するのか、成 長に伴って社会関係がどのように変化するのかを調べることを目的とする。 方法 高知県立のいち動物公園で飼育されている、二卵性双生児のダイヤ(オス)とサクラ(メ ス)を対象とした。この群れには他に、双子の母親を含むメス 6 個体、オス 2 個体がいる (表 1)。なお、そのうちオス 1 個体は、群れのメンバーとのお見合いや同居を進めてい る段階であったため、観察はおこなわなかった。期間は、2010 年 11 月から 2011 年 12 月までの間であり、月に 3~4 日観察をおこなった。観察時間は 10 時 30 分~11 時 30 分 の 60 分間とした。1 分ごとの瞬間サンプリングで、各個体の最近接距離個体(Nearest Neighbor, NN)と 2 番目に近い個体(second NN, 2NN)を記録した。また、これらの結 果を、霊長類研究所で飼育されているアユム(オス)とパル(メス)という卖生児を対象 に同様におこなわれた NN 記録と比較した。 表 1. 対象個体 個体名 ダイヤ サクラ サンゴ チェリー チェルシー ジュディ マヤ コユキ ロビン 性別 オス メス メス メス メス メス メス メス オス 年齢 2歳 2歳 推定35歳 推定33歳 24歳 22歳 22歳 18歳 16歳 生年月日 2009年4月18日 2009年4年18日 1976年頃 1978年頃 1987年12月20日 1990年1月5日 1990年1月5日 1993年4月30日 1995年11月12日 出身場所 のいち動物公園 のいち動物公園 アフリカ アフリカ アメリカ・フロリダ 多摩動物公園 日本モンキーセンター 熊本サンクチュアリ 熊本サンクチュアリ 来園年月日 2008年6月(熊本サンクチュアリより) 1999年7月(伊豆シャボテン公園より) 1994年3月 1991年6月 1991年10月 2008年6月 2008年6月 (2012 年 2 月現在) 結果と考察 まず双子の NN になる個体(図 1)を見ると、ダイヤではサンゴ(母親)が、サクラで は非血縁個体であるチェリー(メス)が高くなった。チェリーはサンゴの近接個体ではな かったが、それぞれの値と、その時間的推移はよく似ていた。これは、チェリーがサンゴ に代わって、サクラの乳母的役割を果たしているからだと考えられる。最近では、双子に とってサンゴやチェリーが NN になる割合は減尐してきており、双子同士が NN になる割 79 D.双子チンパンジーの NN 調査 Ⅲ.長期研究報告 合が増加する傾向にある。また、そのそれぞれの値と時間的推移が一致しており、母親か ら離れ、子ども同士で行動するようになっていると考えられる。 NNになる割合(%) 80 サクラ サンゴ 60 チェリー 40 チェルシー コユキ 20 ロビン 0 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 月齢 ダイヤNN NNになる割合(%) 80 ダイヤ 60 サンゴ チェリー 40 チェルシー 20 コユキ 0 ロビン 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 月齢 サクラNN 図 1. 個体ごとの NN の推移 次にこれらのデータを、別の群れの卖生児と比較した。ダイヤたち双生児(図 2)と卖 生児(図 3)に共通して、メスよりもオスの方において、群れの最優位オス(アルファオ ス)が NN になる割合が高かった。これは、双生児であるか卖生児であるかにかかわらず、 オスの子どもにおいては、最優位オスと一緒にいることが多いと考えられる。 80 D.双子チンパンジーの NN 調査 Ⅲ.長期研究報告 NNにな る割合(%) 40 * * * 30 * 20 * * * 10 * ■ ダイヤ ■ サクラ 0 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 子の月齢 図 2. ロビンが双子の NN になる割合(%) *は有意差を表している(P < 0.05)。 NNになる割合(%) 30 * 20 * * * * * 10 0 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 子の月齢 図 3. アルファオス(父親)がアユムとパルの NN になる割合(%) *は有意差を表している(P < 0.05)。 個体名 氏名 性別 備考 ■ アユム オス 2000 年生まれの子ども ■ パル メス 2000 年生まれの子ども 今後の展望 まず、本研究では、観察日を月に 3~4 日としたが、天候やチンパンジーの体調によっ ては観察できない日もあり、月によって観察日数に違いがあった。今後、3 歳以降の観察 をおこなう場合には、より詳細なデータを得るために、1 月あたりの観察日数を増やす必 要があると考える。 また、双生児と卖生児との比較に関しては、今回は霊長類研究所のチンパンジーたちを 対象とした NN データを使用した。しかしこれは、2 つの群れ間のみでの比較である。今 後、同時期に生まれた卖生児が複数いる他の群れや、将来生まれるかもしれない一卵性双 生児でも同様に観察をおこなうことができれば、そことの比較によって、双生児としての 特徴などがより見えてくるだろう。 81 Ⅳ.自然学ポケゼミレクチャー報告 IV.自然学ポケゼミレクチャー報告 82 Ⅳ.自然学ポケゼミレクチャー報告 2011 年 4 月 10 日 第 1 回自然学ポケゼミレクチャー報告書 日本大学 平栗明実 今週から新入生が来ていたので、新入生の自己紹介から始まった。午前中の松沢先生と のミーティングでは、北海道大学にあるヘルベチアヒュッテは今時珍しく、夜はロウソク で歌を歌いながら過ごすという話があった。また、先生が先日ボルネオへ行ったときにヒ ルによる被害にあったそうだ。先生がおもむろに左手の袖をまくると数カ所に絆創膏が貼 ってあった。ヒルに血を吸われているときには全く気がつかなかったそうで、気がついた ときには丸々太ったヒルが腕から落ちたそうだ。先生はボルネオの森でワイシャツを着て いたそうで、腕の隙間から入ったそうだ。フィールドにヒルはつきものなので、服装には 十分に注意する必要があると思った。Show&Talk では、水野先輩が 3 月 11 日の大地震の 時にディズニーシーにいた話をした。水野先輩がショーを見ている最中に地震が起きたそ うで、ミッキーは 3m以上の塔の上に立っていたそうだ。強風が吹いていても中止するよ うなショーであるのに地震の最中ミッキーは激しく揺れる塔の上にいたそうだ。やはり、 日頃から震災に対して訓練をしておくという事は大切だと思った。この話を受けて、松沢 先生は霊長類研究所の対忚として研究員を臨時募集し始めた事、動物園に対して義援金を 送ったこと、福島第一原発の放射能漏れから放射線量を測定し始めた事をお話しになった。 中でも印象的だったのは、もしあの震災が東北地方ではなく、犬山周辺で起こっていたら チンパンジーたちはどうなってしまうのかということだ。そして、このような震災の時代 に生きているのだからこそ今自分には何をする事ができるのかを考え続けなくてはいけな いと先生はおっしゃっていた。そこで、有能で志があり豊かな人間性をもつ西澤和子さん のお話があった。西澤さんは今年の 4 月から京都大学ブータン友好プログラムのメンバー となったが、地震を受けて急遽仙台で医療スタッフとして働いているそうだ。初めから自 分には無理だと決めつけないで、自分が今できる事をこつこつやっていく事の大切さを改 めて感じた。 足立先生のレクチャーでは、先生がどのような研究をされているのかについてのお話だ った。チンパンジーの行動研究については手短に話し、今回は東山動物園のチンパンジー 展示について詳しくお話しになっていた。従来の動物園では動物を間近で観察する事を重 視していたのだが、現在の動物園では動物園は自然への窓として開かれるべきであり個体 の姿が見えにくくても動物にとって安心できる空間を提供するべきだという考えに変わり、 習性行動を展示し、彼らの知性を引き出すように変わってきたとの事だった。そのために 東山動物園ではチンパンジーのためにタワーを導入した話をされていた。タワーはダイナ ミックな行動と複雑な人工物を作るためにセラミック製にしたそうだ。しかしタワーの利 用率を見るとまだ改善していく必要があるようだった。このように彼らの幸せのために見 続けなくてはいけないとの事だった。また、飼育下だからこそできる認知実験の話があっ た。認知実験は普通に観察しているだけでは分からない彼らから見た世界を調べていくこ とができるそうだ。話の中で、ヒトは目に見えないものに対して思いを寄せることができ る、チンパンジーは目の前にあるものを素早く処理することに長けているという話があっ た。松沢先生と足立先生のレクチャーを通して、今の自分に何ができるのかを考える事が 83 Ⅳ.自然学ポケゼミレクチャー報告 ヒトとして生きる事だということを教わった。しっかり考え続けようと思う。 84 Ⅳ.自然学ポケゼミレクチャー報告 2011 年 4 月 17 日 第 2 回自然学ポケゼミレクチャー報告書 岐阜大学 秋吉由佳 伊村先生のレクチャーでは、今年度の研究についてお話していただいた。老齢チンパン ジーの視力については研究がなされていなかったらしい。しかしながら、ギニアのボッソ ウで老齢個体が目を遠ざけるようにしてグルーミングをおこなっているという報告があっ たらしい。先生はとても興味深いとおっしゃっていたが、私もそう思った。人間の高齢者 の方も、老眼になると小さな文字を読む時に紙を遠ざける。チンパンジーにも老眼がある のだろうか。先生はレイコやゴンの視力を調べてみたいとおっしゃっていた。是非、結果 を知りたいと思った。また、質感の研究というのもとても興味深かった。今週、パルが長 靴で遊んでいたらしい。また、パルだけではなく、アイも長靴が好きらしい。知覚や聴覚 だけではなく、チンパンジーが持つ多様な感受性に焦点を当てることは、とてもおもしろ いと思った。 また、日本赤ちゃん学会のお話もしていただいた。私は小さな子どもが苦手なため、興 味を持てないかもしれないと思った。しかし、実際にどのようなテーマの講演がおこなわ れているかを知ると、興味がわいてきた。特に、玉川大学の高橋英之教授がテーマ発案を なさった自为ラウンドテーブルの遊びの進化は、とてもおもしろそうだと思った。先日の チンパンジーの棒遊びのレクチャーで、遊びについて興味を持ち始めたからだ。是非とも 参加して、様々な人のお話を聞きたいと思った。公開シンポジウムの松沢先生のお話は、 チンパンジーだけではなくボノボのお話も聞けるようで、とても心惹かれた。チンパンジ ーとボノボは姿こそ似ているが、社会性が全く違うことを、SAGA や本などで知った。遺 伝子としては近いのに、その社会は多様であるということがとてもおもしろいと思った。 人間は一種の生物だが社会は多様だ。たとえば、一夫多妻を認める社会も、一夫多妻を認 めずに一夫一妻を基本とする社会もある。さらには、時代によってその社会は変容する。 社会と遺伝子は必ずしも結びついていないのだろう。そのため、遺伝的に近かったとして も社会が全く違うのはそれ程不自然なことではないだろうが、不思議に感じてしまう。日 本赤ちゃん学会では様々な分野の研究者が集まるらしい。とても楽しみだ。 85 Ⅳ.自然学ポケゼミレクチャー報告 2011 年 4 月 24 日 第 3 回自然学ポケゼミレクチャー報告書 岐阜大学 木村元大 今日の午後のレクチャーでは、マリスカさんに自分の研究についてレクチャーしていた だいた。マリスカさんはヒトの情動について研究している。特に体の表現、ジェスチャー について興味を持ち、研究していると話していた。霊長類研究所ではそのような表情や表 現について、チンパンジーとヒトの間でどのような違いがあるかについて研究していると おっしゃっていた。 ヒトの情動については顔の表情を指標によく研究されている。しかし、ジェスチャーは 顔の表情よりも古くからあると考えられていて、遠くからでも理解しやすいなど顔の表情 にはない利点もある。さらに顔の表情と同じように体の表現は多様である。私は、習慣や 個体によって、体の表現方法も大きく変わってくるのではないかと思う。 今回のレクチャーの中で一番興味深かったのは、 「情動が伝わる」ということだ。顔の表 情を取り上げると、誰かのとても幸せそうな顔を見たとき、自然と口元がゆるみ、自分も 笑顔になってしまう。また悲しい顔を見ると、自分は何ら悲しいことがあるわけでもない のに、自然と暗い気持ちになって、その結果は悲しい顔をしてしまう。全ての状況で当て はまるわけではないが、このような状況となることは尐なくないだろう。 同じようなことが体を使った場合でも言える。他人のあるジェスチャーを見て、自分も その人と同じ心情、あるいは近い心情になる時、思わずその人が取った行動、姿勢をとっ てしまうことがある。表情ほどの出現する回数は尐ないかもしれないが、自分と他人の心 情が近いほど、同じような行動をとってしまうことが多くなると思う。 同じ行動をしてしまうと話を聞いて、双子の行動をふと思った。一卵性の双子は相手の 考えていることがわかると言われている。それに科学的根拠があるのかどうなのかわから ないが、情動が伝わることも同じようなことが言えるのだろうかと思った。現在、のいち 動物公園で双子の子どもチンパンジーの観察をおこなっている。しかし、双子とは思えな いほど、それぞれが別々の大人と遊んだり、グルーミングをしたりしている。また、互い に遊んでいるような様子も観察される。その時は同じ年頃のチンパンジーとして、熱中し て遊んでいるように見える。彼らは二卵性の双子であるため、一卵性の双子のように相手 の考えていることがわかるかどうかはわからない。もしかすると双子間の情動の伝わり方 は年の近い兄弟の伝わり方と同じなのかもしれない。どのような場面で情動は伝わりやす いのか、また、どのような人との間で、例えば兄弟間であったり、親子間であったりであ った場合に情動の伝わり方に違いがあるのだろうか。そのような視点からヒトとチンパン ジーとの違いを見てみてもおもしろいのではないかと思った。 86 Ⅳ.自然学ポケゼミレクチャー報告 2011 年 5 月 1 日 第 4 回自然学ポケゼミレクチャー報告書 日本大学 有賀菜津美 林先生のレクチャーでは、5 月 9 日に小学生に対してお話する予定があるということを 聞いた。講演内容は、チンパンジーの研究者という職業に関する内容だった。その小学校 は、全校生徒数が約 100 人という小さな学校だが、挨拶にすごく力を入れているらしい。 チンパンジーも集団で暮らしているため、ヒトと同じように挨拶をする習慣がある。一方 で、オランウータンは基本的に卖独で生活をしているため、あまり挨拶をしないらしい。 しかし人間と同じように、久しぶりに会う仲間と挨拶する場合は、大きな声を出して挨拶 するという。やはり、人間に近い感覚があるのだなと、話を聞いて思った。また、チンパ ンジーは表情や音声、ジェスチャーなどを使ってコミュニケーションをとる。そして人間 も同じようにコミュニケーションをとるが、音声を言葉にして伝えているから複雑な人間 関係や感情があるのだと思った。さらに、チンパンジーは嬉しいという感情や嫌だという 欲求は相手に伝えようとするのに、他者に物をあげてコミュニケーションを取ることはし ないらしい。また、怒るというしぐさが特徴的だということでチンパンジー親子の動画を みせていただいた。子どもがいたずらをしていると、母親は大きな声をあげて叱るかと思 いきや声を出したりせず、じっと見つめて子どもに意思を伝えていた。人間の場合、子ど もがいたずらをすれば、母親に怒鳴られて叱られるといったことも稀ではない。私は霊長 研のチンパンジーたちも時々すごく大きな声を出しているので、毎回あのように大きな声 を出して叱るとばかり思っていたが、そうではなかった。いたずらの度合いなどによって 叱り方を調整しているのであれば、すごいことだと思った。 次に、研究者になるためにはどうしたらよいのかという話をしていただいた。先生は大 切なことが4つあるとおっしゃった。1)自分がやりたい事を見つける、2)大学から大学 院へ進学する時に自分の希望に近いところを探す、3)地道にこつこつがんばる、4)「お もしろい」「なぜだろう」と思ったことを突きつめる。私は小学生の時に研究者という職 業の人に会ったことがなかったので、小学生のうちにこういった話を聞くことができるの は、すごく羨ましいと思った。また、自分の進路を考える上でとても興味深い話だった。 最後にマレーシアのオランウータンの話をしてくださった。オランウータンは卖独行動 をする動物だが、記憶力はすごくいいらしい。先生がサンクチュアリで積み木実験を行っ ている子たちは、尐し時間が空いていてもまた先生が行けば覚えていて遊んでほしいと寄 ってくるらしい。また、夏にボノボを見るためにコンゴに行かれるというのでぜひまた話 を聞きたいと思った。 87 Ⅳ.自然学ポケゼミレクチャー報告 2011 年 5 月 15 日 第 5 回自然学ポケゼミレクチャー報告書 岐阜大学 渡邉みなみ 今回は新入生に対して友永先生がどのような研究をしているのかを話して下さった。実 験心理学は常に同じ結果が返ってくるわけではないから、複雑で難しいという話はたしか にと思った。おそらく、莫大なデータが必要になり、時間もかかるのではないかと思った。 チンパンジーの子供が人と同じ方向を向きながら生まれてくるということは、知ってい たけれど、正直それがどのような意味を持つのか知らなかった。今回のレクチャーを聞い て、このことがヒトを含めた霊長類がどのように分類できるのかということに繋がると分 かった。 また、以前チンパンジーはヒト科であると聞いたはずなのに、東山動物園の表記ではシ ョウジョウ科と書いてあったので、どちらが正しいのかなと思っていた。今回のレクチャ ーを聞いて、ショウジョウ科という表記は古いのだと知った。早く訂正されるといいなと も思った。 イルカやカラス、それに犬の知能についての話も興味深かった。ヒトとイルカは全く違 った環境で生息しているから、それによる知能の違いが見られるという話はもっと詳しく 聞きたかった。また、別の機会に話してもらいたい。また、どんな動物を観察するにせよ 個体識別がとても大事であると感じた。ポケゼミに入ってはじめに与えられた課題が個体 識別であったことも、今では納得がいく。また、群れで行動する動物は個体間のやりとり が発達していくと聞いて、ヒトの騙したり騙されたりすることの多さを考えると、ヒトは 典型的な群れで生きる動物なのだと思った。とても興味深い話が聞けてよかった。 88 Ⅳ.自然学ポケゼミレクチャー報告 2011 年 5 月 22 日 第 6 回自然学ポケゼミレクチャー報告書 岐阜大学 秋吉由佳 松沢先生とのミーティングでは、 それぞれが近況を話した。聞いていて一番驚いたのは、 東山動物園のチンパンジーのカズミが妊娠している可能性があるという話だった。東山動 物園で活動しているメンバーとは毎週会っているのだが、私はこのことを全く知らなかっ た。毎週、霊長類研究所で活動しているため、東山動物園のチンパンジーの様子はわから ない。これからは、東山動物園で活動しているメンバーに、東山動物園のチンパンジーの 様子を積極的に尋ねてみようと思った。また、東山動物園のパンラボも一度見に行きたい と思った。Show and Talk では、鈴木先輩が潜水士試験について話をした。水族館に就職 するためには、潜水士の資格があると有利になるらしい。水族館に就職するためには潜水 士の資格があると有利であるということを知っているのも、そのために具体的に行動を起 こしているのもすごいと思った。また、松沢先生がシュノーケリングについて話をしてく ださった。先生は、間違えて鼻で呼吸をしようとしたら大変なことになる、というような ことをおっしゃっていた。私はシュノーケリングの際、海中にナマコがたくさんいたこと に興奮して、鼻からたくさんの水を吸い込んでしまったことがある。その時は鼻の中に入 ってくる水に驚いてしまった。そのため、泳げるはずなのに関わらず溺れそうになり、大 変な思いをした。私にとってシュノーケリングは楽しい思い出ではなかった。松沢先生が、 とても楽しかった、とお話をするのを聞いて、私も鼻から水さえ吸い込まなければ楽しか ったのかもしれない、と思った。 林先生のレクチャーでは、赤ちゃん学の展開を比較認知科学の視点からお話ししていた だいた。また、Prime News で放送された霊長類から学ぶ人間学も見せていただいた。一 度見たことのある番組だったが、一度目に見逃していたようなところに気づくことができ ておもしろかった。私はクレオが入れ子カップを重ねるのが苦手であることは知らなかっ た。なぜならクレオが夕食時にバケツに入れられた固形飼料を器用に出して食べていると ころを何度か見たことがあるからだ。どちらかというと、器用なイメージがあったため驚 いた。それと同時に、試行錯誤を繰り返さないといけない入れ子重ねは、性格も影響して くるというのはとてもおもしろいと思った。人間でも、得意なことや苦手なことは、能力 だけではなく性格も関係しているのだろう、と感じることが多くある。しかし、興味深い と同時に厄介なことでもあると思った。チンパンジーは個体数が尐ないため、このような 個体差が出る研究を横断的におこなうことは難しいと思った。アユム、クレオ、パルの 3 人のチンパンジーの発達が縦断的に研究されたのも、3 個体では個体差の影響が大きくな るからである、というお話をうかがったことを思い出した。尐ない個体数でも意味のある 研究にするにはどのようにするべきか、ということを考えるのは、マウスや昆虫などの研 究にはない、チンパンジーの研究ならではの難しさだと思った。 89 Ⅳ.自然学ポケゼミレクチャー報告 2011 年 5 月 29 日 第 7 回自然学ポケゼミレクチャー報告書 岐阜大学 市野悦子 伊村先生のレクチャーでは、先日おこなわれた赤ちゃん学会についてと、視覚の発達に ついてレクチャーしていただいた。赤ちゃん学会については、参加したポケゼミ生が感想 を発表した。私はこの学会に参加することができなかったので気になっていた。さまざま なシンポジウムやポスター発表があり、参加者は 300 人以上と、とても盛況だったそうだ。 発表のなかにはモンゴルの子育てや、風習や迷信、ロボット科学など、じつに多様な分野 の方がいたそうだ。 「赤ちゃん」というキーワードがあっても、さまざまな面からきりこみ とらえることができるのだなと気づいた。 視覚発達については、今回は「視力」について話していただいた。私はヒトやチンパン ジーの視力について以前から興味があり、視力が悪くなる原因は何なのか、チンパンジー の視力はどれくらいなのか、など多くの疑問があった。特に、アイたちがタッチパネルの 課題をおこなうことは、視力になにか影響があるのだろうかと思う。同様に東山動物園で 実験をおこなっていると、それを見ているお客さんのなかには「あんなに近くで画面を見 て、目が悪くならないのかな」と言う方も何人かいるからだ。まず視力とはどういうもの かというと、空間分解能、つまり細かいものを識別できる能力だそうだ。この検査では、 アルファベットの C のようなランドルト環という記号が使われるのが一般的だ。しかし現 在では m のような記号も使われている。記号だけでなく、測定の仕方も以前と変わってき ていると思う。そこで現在の大学での視力検査と自分が小学生だったときの視力検査はど うだったのか、皆で話してみると、いろいろと違う点がわかった。小学生のころは、紙に 記号が書かれたものを皆の前で見て検査していたが、大学では個々で機械をのぞいて検査 している。現在の小学生がどのように検査しているかはわからないが、以前に比べてより 正確に測定できるように、よりプライバシーを守るようになったのだろうかと思った。 次にチンパンジーの視力について話していただいた。アイが 6 歳半のときに、見本合わ せ課題で視力検査をおこなったそうだ。12 種類のアルファベットを用いて、徐々に文字を 小さくしていき、ランドルト環に換算するという方法だ。それによるとアイの視力は、両 眼で 1.5 という結果になったそうだ。もう尐し悪いかもしれないと思っていたので意外だ った。しかしこれは 30 年近く前のことなので、今また測定すると変わっているかもしれ ないということだった。アイは視力が悪くなっているのだろうか、他のチンパンジーたち はどうなのか、もしかすると老眼になっている個体もいるだろうと、とても気になるとこ ろだ。 次回のレクチャーでは「色覚」についてレクチャーしていただけるということで、こちら もものを識別するのに必要な能力であるので、とても楽しみに思う。 90 Ⅳ.自然学ポケゼミレクチャー報告 2011 年 6 月 19 日 第 8 回自然学ポケゼミレクチャー報告書 岐阜大学 木村元大 今日の午後のレクチャーでは、伊村先生がクレオの話とチンパンジーとヒトの色覚の話 をしてくださった。 まず前半はクレオの話だった。なぜクレオが話題になったかというと、今日がクレオの 誕生日だったからだ。今日でクレオは 11 歳になった。クレオは 2000 年 6 月 19 日午前 11 時に霊長類研究所で生まれた。誕生した時、母親であるクロエはクレオを見て、驚いて逃 げたそうだ。またクロエはクレオを抱くことがわからず、授乳もうまくいかなかったそう だ。また、クロエはクレオに授乳させない行動も見られたそうだ。そこからクレオは食べ 物に執着しやすくなったのではないかと先生はおっしゃっていた。他にもクレオは 3 歳ご ろからは物と交換がうまくできるようになったそうだ。今も夕食と交換とするために放飼 場の石を持ってくることもあると聞いた。 クレオの話の中で、ポケゼミ生から見たクレオについて答える場面があった。ポケゼミ 生が一人ずつ、クレオに持つイメージやエピソードについて短く答えた。私は 2 年間の観 察の中で、同じ年のアユムやパルに比べて、あまり活発に行動している様子がなかったの で、 「おとなしい」というイメージを持っていた。他のポケゼミ生の持ってたクレオのイメ ージとしては、 「自分の世界を持っている」 「食いしん坊」 「マイペース」といったものが出 た。クレオをどれほど観察していたり、夕食当番で担当しているかどうかによっていろい ろと受けるイメージは違うと感じた。やはり付き合いが長い個体や会う回数が多い個体は 多くのエピソードもあるし、いろんな側面を知ることができる。今は東山動物園のやのい ち動物園のチンパンジーを観察しているため、他のポケゼミ生よりも彼らの観察で得たエ ピソードを知っている。他のポケゼミ生に教えてあげたい。一方、霊長類研究所ではほと んど観察できていないので、NN 観察をおこなっている 2 年生や先輩方に聞いていきたい と思う。 後半は色覚の話だった。ヒトやチンパンジーや多くの霊長類は、赤、青、緑の 3 色視で ある。また、チンパンジーとヒトの色のカテゴリーはよく似ているそうだ。つまり、色の 濃淡や明度の違いがあっても、ある程度の色のカテゴリーができていて、それらに当ては めることできるということだ。尐し朱に近い赤も尐し桃色に近い赤もヒトもチンパンジー は「赤」というカテゴリーに分類することになる。このカテゴリーは言葉を使うことで、 一貫としてカテゴリー分けが可能になった。ある色の四角をモニターで見せて、それがど の言葉で表すか調べるのである。とても興味深いと思う。また、ヒトとチンパンジーが色 覚において似ているということは、色から受けるイメージ、暖色や寒色なども似ているの だろうか。さらに言えば、夕食の時につかうボックスは霊長類研究所の方々のイメージの 色で分けられている。チンパンジーたちは何かのイメージを色に結びつけることはあるの だろうか。要はイメージカラーというものは存在するのだろうか。見ている色が同じであ っても、色の感じ方はヒトとチンパンジーでどのくらい似ているのか、あるいは違ってい るかについて調べるのもおもしろいと思う。 91 Ⅳ.自然学ポケゼミレクチャー報告 2011 年 6 月 26 日 第 9 回自然学ポケゼミレクチャー報告書 平栗明実 友永先生のレクチャーはチンパンジーの言語認知についてのお話だった。始めに今年 のサンルームの改修工事について、今まで地下 1 階から約 1 階までであったタワーを、約 4 階までの高さにし、4階に実験スペースをつくる予定であることを説明してくださった。 ちなみに、このエンリッチメントには WISH という団体が支援してくださっているそうだ。 2000 年から続けているチンパンジーの縦断的研究について今後は生涯発達として、アイや クロエなどのチンパンジーの比較老化学なども調べていけたらおもしろいのではないかと いう話だった。いくら研究所のチンパンジーが野生で暮らすチンパンジーよりも健康的で あるとしても、ヒトの寿命には到底及ばない。どのように観察していかなければならない のか、とても難しそうだが、観察方法が分かれば面白いと思った。個人的にとても興味の ある分野であるし、オトナ個体多い研究所では縦断的に見ていくだけでなく、横断的にも 観察が出来るためとてもいいことだと思った。また、かつて世界中でおこなわれてきた類 人猿の言語認知の軌跡を映像で見た。チンパンジーであるワッシューの手話、ゴリラであ るココの手話、チンパンジーであるララの発話、ボノボであるカンジの文字理解などの映 像だ。しかし、これらの実験には問題点が多々見受けられたため、実験が止まっているそ うだ。彼らは構造的な面で言葉を発することができないのか、それとも知能が足りないの か。もともと言葉とは彼らにとってどういうものであるのか。考え始めるとなかなか奥深 くなってくる。私は今まで、チンパンジーなどの類人猿は、人間のように言葉を発するわ けではなくても、ジェスチャーや音を出すことでコミュニケーションをとっているので、 それも言葉の一種だと理解していた。そのため、彼らと私たちの言葉の違いは、自分の思 いを伝える媒体に差があるだけではないかと思っていた。しかし、実際には声帯が異なっ ているし、物の見方や考え方がヒトと異なっていることがわかった。このことを断定する ためには、今までの研究者たちが、いかに彼らの能力を最大限に引き出し、検証を重ねた のだろうかと思った。普段から物事に真剣に取り組む姿勢を見直していきたい。 92 Ⅳ.自然学ポケゼミレクチャー報告 2011 年 7 月 3 日 第 10 回自然学ポケゼミレクチャー報告書 岐阜大学 夏目尊好 午後のレクチャーでは、伊村先生が霊長類の視力と色覚についてお話してくださった。 伊村先生は、ヒトの子ども用の視力測定装置を使って霊長類研究所にいるチンパンジーや マカク類の視力を測定することを試みたそうだ。しかし、チンパンジーたちやマカクは、 なかなか測定に集中してくれず、うまく測定できなかったとのことだった。ヒト以外の生 物の視力がどれほどなのかとても興味があるが、その測定が困難であることは、容易に想 像できた。今回、伊村先生が使用した視力測定装置は、5 秒間、装置の LED ランプを見続 けると視力の測定ができるものであったが、チンパンジーたちの視力はうまく測れなかっ た。ヒト以外の生き物の視力を知るためには、装置を一瞬見ただけで視力が測定できるよ うな装置が開発されないと無理なのかなと思った。ヒトを対象にしたときは、容易に測定 できるものであっても、ヒト以外の生き物を対象にしたときは、正確な値を測定すること すら困難である。このことは、生き物を研究するときの難しさであり、楽しさなのだろう なと思った。 視力についてのお話の後は、ヒトの新生児やチンパンジーの色覚についてお話してくだ さった。ヒトの色に対する感度は、生後 1 か月までに急速に発達し、赤色や緑色の区別が できるようになるが、青色の区別は難しいとのことだった。色に対する感度が、生後 1 か 月までに急速に発達するというのは、私にとっては尐し不思議なことだった。新生児が生 存率を高めようとしたとき、色覚を発達させることは有効なのかと疑問に思ったからだ。 色覚を発達させることよりも、より鮮明に外界が見えるようになったり、外界の奥行きが 理解できるようになったりした方が、生きていく上で有利ではないのだろうか。私の中に さまざまな疑問が浮かんできたが、伊村先生によると、色の研究は多くの研究者が興味を 引かれる内容だが、研究しにくい内容であり、分かっていないことが多いのだそうだ。視 力もそうであったが、生き物の内面を知ろうとするのは、難しいことなのだなと思った。 最後に成人の色のカテゴリー分けについてもお話してくださった。ヒトは、所属する文 化圏が異なると、色を分けるカテゴリーも異なるそうで、青色と緑色を区別する言語は、 119 言語中 30 言語しかないのだそうだ。さらに、パプアニューギニアで使用されている ダニ語という言語では、色の名前が「明るい色」と「暗い色」の 2 つしかないのだそうだ。 これには、とても驚いた。明るい色と暗い色という表現だけでどのように生活しているの かとても不思議だった。日本人は、昔から色を細かく分類し、使い分けている。そんな文 化の中で生活している私にとって、色の名前が 2 つというのは、理解できなかった。話を 聞くだけでは、理解できそうにないので、機会があったら一度、その文化を体験してみた いと思った。 93 Ⅳ.自然学ポケゼミレクチャー報告 2011 年 7 月 10 日 第 11 回自然学ポケゼミレクチャー報告書 岐阜大学 水野佳緒里 友永先生のレクチャーでは、始めに 1973 年にスタートしたプロジェクト、手話で語る 「ニム」というチンパンジーについて教えてくださった。アメリカのコロンビア大学で、 ニムを手話しかない環境で育て、研究に用いたそうだ。アメリカでは、研究への予算がス トップした途端に、チンパンジーをどこかへ手放さないといけなくなる。予算をもらい続 けるためには、研究を成功させ続けなければいけない。私は、そのプレッシャーを感じな がら日々の研究に取り組むことがとても大変そうだ思った。先生は次に、1978 年にスター トしたアイプロジェクトについて、詳しく説明してくださった。私が興味を持ったのは、 初期の認知発達である。チンパンジーは生まれてから 1 か月間ほど、内発的微笑が発現さ れる。生後 2 か月で外発的微笑がされるため、内発的微笑と外発的微笑でトレードオフが 起こっているそうだ。また、内発的微笑は母親が寝ているときも発現されるため、それ自 体に選択圧はかかっていないということだった。内発的微笑は、外発的微笑の前段階とし て必要なものだと考えられる。また、模倣は生まれてから 2 か月間ほどは頻繁に発現され るが、それ以降は模倣率が偶然水準にまで下がってしまうそうだ。模倣率の低下と外発的 微笑の発現は同時期で、さらにその時期に母子間の見つめ合いが急増するということだっ た。母親の視線に変化はないため、子どもがよく視線を向けるようになると考えられる。 内発的微笑と模倣率が低下する代わりに、よく見つめよく笑うようになるのだと実感した。 また、見つめ合いや社会的微笑は、ヒトにおける 2 か月革命と同様であり、チンパンジー とヒトにおいて、全く同時期に発現する行動があるということに大変驚いた。 94 Ⅳ.自然学ポケゼミレクチャー報告 2011 年 7 月 24 日 第 12 回自然学ポケゼミレクチャー報告書 岐阜大学 秋吉由佳 林先生のレクチャーでは、Prime News で放送された「霊長類から学ぶ人間学」を見せ ていただいた。番組の中で、養老孟司先生がもう二度とサルを飼いたくはない、とおっし ゃったことが印象に残った。私は霊長類が好きではないという人に何人か出会ったことを 思い出した。その理由を尋ねると、人間と似すぎているからだと言われた。養老先生はサ ルが嫌いだと言ったわけではないが、サルを飼いたくない理由に人間に似すぎていること を理由に挙げていた。 チンパンジーはサルではなく、人間とチンパンジーはよく似ている。 私はチンパンジーと人間が似ているところが好きだ。チンパンジーも人間も、ケンカした 後は仲直りをするし、なだめられたら落ち着く。そういった私たちの理解ができるような 社会行動は見ていてとても楽しい。また、母親が子どもの食べ物を奪ったり、挨拶をしな い個体を怒って追い回したりしているような、チンパンジーならではの行動もとても興味 深いと感じる。 私は人間とチンパンジーの共通点や相違点を考えるのが楽しい。そのため、 人間とよく似ているチンパンジーが好きだ。しかし、同じ人間に似ているという認識でも、 全く違う印象を持つこともあるのだと思った。 番組の中で、林先生はチンパンジー流の子育てのお話をしていた。例として流れたのは チンパンジーのナッツ割りの映像だった。チンパンジーの母親がナッツ割りをしていると ころに、子どもがやってきてそれをじっと見る。しかし、母親は子どもに何かを教える素 振りは見せず、ただナッツを割り続けている。そのような内容の映像だった。その映像が 流れた時、林先生にチンパンジーの夕食を見学させていただいた時のことを思い出した。 林先生はいつものようにチンパンジーに夕食を与えていて、私は林先生の後ろをついて歩 かせていただいた。先生から何か説明してくださることはなかった。しかし、私は先生が 食べ物をあげる順番や、チンパンジーの様子をしっかり見ながら与えているところを見せ ていただいた。私が何を見ていても先生の方から何かおっしゃることはなかったので、私 は先生の手やチンパンジーの表情などをじっくりと観察した。見学させていただいていた 時は全く気付かなかった。しかし、この番組を見せていただいて、私はチンパンジーの学 び方と同じ方法で夕食を見学させていただいていたのかもしれない、と思った。 95 Ⅳ.自然学ポケゼミレクチャー報告 2011 年 7 月 31 日 第 13 回自然学ポケゼミレクチャー報告書 岐阜大学 鈴木健太 林先生のレクチャーでは、まず最初に、現在の工事の様子を話していただいた。現在は、 東西サンルームにゴン群がでていて、屋外放飼場にアキラ群がでているとのことだった。 観察する際は、後ろから物を投げられないように気をつけた方がよいとのことだった。 次に国際霊長類学会や、松沢先生が妙高高原の笹ヶ峰ヒュッテでおこなったプチシンポ ジウムの話が尐しあった。若手から重鎮まで幅広い層の研究者が集まったそうで、両者に とってメリットのある集会だったそうだ。 その後、林先生はボノボについて話された。ボノボはチンパンジーと似ているようで、 異なった点がたくさんあり興味深い生物だ。チンパンジーに比べ、ボノボの知識はあまり なかったため、今回の話は興味深かった。一番興味深かったのは、死んでしまったボノボ を群の他の個体が守ろうとすることだった。どうやらメスの方が積極的に死体を回収する そうだ。メスが大きく役割を持って群を構成するボノボならではの傾向だと感じた。また、 現地でのお話も興味深かった。現地ではボノボの保護施設があり、リハビリした子を自然 にかえす試みがおこなわれているそうだ。また、環境教育の一環として現地の人にボノボ の母親代わりをさせるそうだ。これらの取り組みによって、現地の人の意識が高まり、野 生のボノボの保護が活発になり、ボノボの数が増えてくれればと思った。 96 Ⅳ.自然学ポケゼミレクチャー報告 2011 年 8 月 7 日 第 14 回自然学ポケゼミレクチャー報告書 日本大学 平栗明実 足立先生とのレクチャーでは、社会的対象の知覚、認知についてのお話だった。始めに サッチャー錯視の話があった。2 枚の顔写真を反転してみた時、あまり違和感はないのだ が、 正常位でみると口や目が上下逆さまについていて気味が悪いものになる。この感覚は、 マカクにも生じるそうだ。また、この錯視は同種の顔について敏感に感じるそうで、私た ちヒトがマカクのサッチャー錯視の正常位をみても、あまり違和感は覚えなかった。なぜ 違和感をあまり覚えなかったかというと、生後 1 年以内に自分の種を他の種から線引きし、 自分の種に感覚を調整する(チューニングをする)役割を果たしている。サッチャー錯視 が起こる動物の場合、顔を認識する時に目と鼻と口のバランスを見ているために生じる。 先生が同じ人の顔のパーツを尐しずつ変えたものを出されたときに、一目瞭然だった。こ ういった感覚によって、ヒトは相手を記憶していく。相手の顔を記憶できない人の中には、 この感覚がうまく働いていないという場合もあるのではないかと思った。 この後、A=B の概念についてのお話があった。ヒトの場合、A=B,B=C ならば C=A も理 解することができる。しかし、チンパンジーの場合、C=A どころではなく、A=B は B=A であるということを理解することもとても難しいということだった。このお話を聞いた時 に、アイができることで有名な「色の弁別実験」のことを思い出した。私たちの場合は、 色を答えても漢字を答えても黄色なら「黄」のように答えることができてしまうため、い ままではあまり実験の難しいポイントを押さえられていなかった。しかし、足立先生が漢 字から色を選ばせる実験と、色から漢字を選ばせる実験は難易度がまったくことなるのだ と聞いてはっとした。漢字から色を選ばせる場合は、 「黄」という漢字と色を合わせればよ いだけなので比較的容易にできるそうだ。しかし、色から漢字を選ばせる場合は、何もな いところから、頭の中で漢字を思い出して創出しなければならないため、とても困難なこ とだということだった。今では、アイはどちらの試行も器用にこなしてしまうため、これ までの努力があったことを忘れてしまっていた。もちろん彼らが数の概念を理解し、数字 の順番を覚えているのも、数字の形を順番に理解しているのであって、のように言語で表 わしているわけではない。そう考えると、この霊長類研究所にいる彼らが、日々の勉強を 続けているからこそ可能になったものなのだと思った。他のチンパンジーにも、このよう な能力はあるが、出力することができるチンパンジーは尐ない。このような恵まれた環境 にいるからこそ、研究できることもたくさんあると思う。今後、自分がどのような研究が できるか、考えてみようと改めて思った。 97 Ⅳ.自然学ポケゼミレクチャー報告 2011 年 8 月 14 日 第 15 回自然学ポケゼミレクチャー報告書 岐阜大学 島田かなえ 今日は、午前中のレクチャーは無かった。午後は、伊村先生のレクチャーだった。ちょ うど、7 月 24 日に東山動物園において、チンパンジーの赤ちゃんが生まれたので、東山で 観察していた時に撮影した写真や動画を用いて尐し紹介をさせていただいた。東山の赤ち ゃんは、オスということが先日分かり、その判断材料になった写真などを用いた。私は、 赤ちゃんの顔が尐し、しわしわで黒いことに気になっていたが、伊村先生も同じことを感 じられたようだった。赤ちゃんの顔は、生まれたばかりの時は黒くて、尐し大きくなって からのほうが白く見えるということがあるようだった。また、先生からはちょうど先日誕 生日を迎えたパルの子どもの頃の事をお話していただいた。パルも今では、本当に大きく なり、やんちゃぶりを発揮しているが、子どもの頃はとても愛らしい姿をしていたことが わかった。パンのパルの子育ての様子など、本で読んで知ってはいたが、先生のお話や写 真を見せていただいたことで、よりリアルにイメージできた。また、パルの成長の過程を 詳しく教えていただいた。歯が生えてきた時期には驚いた。わずか、3 ヶ月で生えてくる というのは、本当に驚きだった。そういう点で比べると、チンパンジーの赤ちゃんは、人 間の 2 倍から 3 倍の速さで成長していくそうだ。また、パルは、母親以外のチンパンジー では、1 歳頃にポポに初めて抱かれたそうだ。伊村先生は、東山で生まれた赤ちゃんが、 母親以外で誰に初めて抱かれるかにも注目すると良いと教えて下さった。そういう点にも 注目して、これから東山で観察をしていきたいと思う。 98 Ⅳ.自然学ポケゼミレクチャー報告 2011 年 8 月 28 日 第 16 回レクチャー報告書 岐阜大学 市野悦子 友永先生のレクチャーでは、 「チンパンジーのこころを探る-社会的刺激の知覚の問題を 中心に-」ということでレクチャーしていただいた。まず、顔にはさまざまな情報がある が、そのなかでも視線について話していただいた。チンパンジーに、ヒトの顔写真で、こ ちらと視線が合っているものと合っていないものを呈示する実験では、ヒトと同じように 目があっているものを選びやすいという結果になったそうだ。確かに私も、その実験の画 像を見せていただくと、こちらを見ている写真に目がいってしまった。またチンパンジー は、写真の顔の向きが正面ではなくても、こちらと目が合っているものを選びやすかった ため、顔の向きにかかわらず、黒目が白目のどの位置にあるかを見ている、ということだ そうだ。このように、顔は特殊な刺激である。しかしヒトは多くの顔の中からある顔を見 つけることが難しく、他の物の中から顔を見つけるのは簡卖であるということだった。で は、チンパンジーではどうなるのか。私は、やはりチンパンジーでも顔に注意がいき、他 の物体よりも見つけやすいのではないかと予想した。先生によると、実験の結果、やはり 顔は見つけやすく、見つけるスピードも速いということがわかったそうだ。人工物は見つ けるのが遅いという結果になったが、バナナはそこそこ見つけやすかった、というのがと てもおもしろかった。チンパンジーにとっては、顔も重要な刺激であるが、バナナも重要 であるということだろう。さらには、バナナはよく目にしているもの、ということも関係 があるかもしれないと思った。バナナ以外にも、チンパンジーがよく目にしているものな ら、見つけやすくなるのではないだろうか。 次に、顔ではなく身体ではどうなるのか、ということを話していただいた。身体も社会 的な刺激であるため、見分けることができるのではないかと思った。先生によると、身体 全体が写っている写真で実験したところ、顔にマスクをしてもしなくても反忚が変わらな かったそうだ。 やはり、顔だけでなく体からも何らかの情報を得ているということだった。 また、さまざまな動物や物体をシルエットだけで呈示した実験では、それでもチンパンジ ーのシルエットは見つけやすいという結果になったそうだ。これには尐し驚いた。色や細 かいラインという情報が無くても、全体的な形だけで見つけられるということは、それだ けでも得ている情報があるのだろう。さらに、チンパンジーとヒト、有蹄類、イスのシル エットで実験すると、有蹄類のシルエットはチンパンジーのシルエットと同じくらい見つ けやすかったそうだ。このことから、四足的な姿勢に特化して見つけていたということが わかり、顔と同じように身体も見分けていたということがわかった。しかし、身体も見分 けていたが顔を見分ける速度には及ばないそうで、やはり顔は特殊で重要な刺激であるの だと思った。目は口ほどにものを言う、というように、こういった点からもチンパンジー やヒトのこころを探ることができ、とても興味深いと思う。 99 Ⅳ.自然学ポケゼミレクチャー報告 2011 年 9 月 11 日 第 17 回自然学ポケゼミレクチャー報告書 岐阜大学 鈴木健太 林先生のレクチャーでは、コンゴ民为共和国(旧ザイール)へ渡航された際のお話をし ていただいた。内戦の影響でコンゴ民为共和国にはしばらくの間入れなかったのだが、最 近になって入れるようになったそうだ。そこで現地へ行き、ワークショップをひらいたの ちワンバでボノボ調査をおこなわれたそうだ。先生の話を聞いてまず驚いたのは、日本で は想像できないほどの現地の交通事情だ。電車などが知覚にないため、バイクタクシーや 手漕ぎの船に乗らなくてはいけないそうだ。道はほとんど舗装されていないため、バイク タクシーに乗るとアザができてしまうそうだ。また、チャーター機も利用しなくてはいけ ないそうだが、その値段に驚いた。一回使用するのに 90 万円もするそうだ。野生のボノ ボに会いたいという気持ちはあるが、この事情を聞く限り、遠慮したくなってしまう。ま た、現地での生活についても話していただいた。現地では虫を貴重なタンパク源としてい るようで、 林先生に虫料理の写真を見せていただいたが、食べる気はまるでおきなかった。 ボノボについての話では、知らないことがいくつもあった。ボノボは土の中のキノコを 掘って食べるそうだ。チンパンジーがキノコを食べる印象がほとんどなかったため、ボノ ボは食べると聞いて新鮮に感じた。また、ボノボも肉食するとは知らなかった。争いごと をあまりせず、 穏やかなイメージがボノボにはあったため意外だと感じた。観察していて、 ボノボの体のところどころにコブがあるのに気付かれたそうで、なぜあるのかはよくわか らなかったそうだ。元気そうであるし、病気ではおそらくないだろうとのことだったが、 複数個体で観察されたそうなので、どうしてコブがあるのか不思議に感じた。 100 Ⅳ.自然学ポケゼミレクチャー報告 2011 年 9 月 18 日 第 18 回自然学ポケゼミレクチャー報告書 日本大学 有賀菜津美 今日のレクチャーは伊村先生が担当して下さった。まず、Animal2011 の学会の話をし ていただいた。合同学会はなかなかないため自分の知らない分野の話をたくさん聞くこと ができたそうだ。その中でも面白かったのは、昆虫が餌場と巣の位置関係をどうやって確 かめているのかについてのポスターだったそうだ。その研究では、光の射す高さや方向が 大切であり、実験で光を違う位置から同じ高さで照らしたところ、餌場から巣へ帰ること ができなかったそうだ。しかし、私は自然界では太陽からの光は天候によって届いたり届 かなかったりするが、虫は自分の巣へきちんと帰っていくため、光だけが帰路を覚える手 段ではないと思った。そう考えると私の知らない分野には、まだまだ面白いことがあるの だと思った。機会があったら、霊長類学会や SAGA だけでなく色々な分野の方の研究内容 を聞いてみたいと思った。 次に、奥行きと知覚とその発達というタイトルでお話していただいた。生後 1 年という のは、霊長類の中でも身体運動の発達は大きく異なる。例えば、ニホンザルでは生後 2 日 で歩くようになるが、チンパンジーは生後 2 日では自分の力で歩くことはできない。私は そこで、この発達の違いが奥行きの知覚という面でも大きく異なるのではないかと思った。 また、エイムズの部屋という有名な写真を見せていただいた。これは、目の錯覚を利用し たもので、そこから普段見たことのない見慣れないものを突然見せられても理解ができな いということが言えるそうだ。確かに、その写真を見た時に、私の頭は今まで見たことの ある光景と重ね合わせて、当然そうだろうと確信していた。しかし、目の錯覚を利用して いただけで、想像とは違うものだった。人がこのように何か見たときに手掛かりとなる情 報は、相対的な手がかりや光学的流動である。特に、光の当たっている方向を、勝手に上 からだと決めつけているため、ただ色が違うだけの画像なのに凹凸があるように見えてし まった。これは、私たちが生活していく中で、太陽や電気の光が自分の頭上から射してい るという状況が圧倒的に多いからだろうと思った。また、このような目の錯覚には騙され やすい人と騙されにくい人がいるそうだ。心理学的にみて、騙されやすい人ほど自己愛が 強いのでは、と言われているそうだ。これを聞いて、心理状態の分析には色々な見方があ るのだなと思った。次に説明していただいた平行法や交差法は、3D 映像の技術に忚用さ れているそうだ。メガネをかけて見る 3D 映像と、かけないで見る 3D 映像の差はここに あり、現在パンに 3D 映像を見せようという試みがあるそうだ。しかし、パンがメガネに 慣れてくれるのを待っているという状況で、まだ 3D 映像を見せられる段階ではないそう だ。私は、パンが飛び出るリンゴやバナナの写真を見た時にどんな行動にでるのかとても 見てみたいと思った。 101 Ⅳ.自然学ポケゼミレクチャー報告 2011 年 10 月 2 日 第 19 回レクチャー報告書 岐阜大学 市野悦子 足立先生のレクチャーでは、 「Recall and Recognition Memory」について話していただ いた。Recall は再生、Recognition は再認、という意味だ。再生も再認もよく似ているよ うに感じるが、それぞれ脳の使われている部位が異なり、本質的にまったく違うというこ とだった。例をあげると、「再生」は昨日何を食べたか、を思い出すことだが、「再認」は いくつかの食事があげられた上で、このなかで昨日食べたものはどれか、を思い出すこと だそうだ。この例では確かに、思い出そうとしていることは同じなのだが、そこに至る考 えや思い出しやすさだけでも、両者は異なると思った。 「再認」の方が、簡卖かつ正確に思 い出すことができると感じた。この「再生」に関わる脳の部位が欠損していると、自分が 何をしたのかがわからない、再生できないことがある、ということだった。この症状のあ る人は、あるものを見て、その後「どれ」を見たかを聞かれれば答えられるが、 「何」を見 たかと聞かれるとわからないそうだ。こういった現象を、チンパンジーなど他の動物でも 調査する必要があるが、どのように調べるかが問題だということだった。再認について調 べるには、見本合わせ課題によって、選んでもらうことで調べることができる。しかし再 生について調べるには、 「何」を見た、ということを答えてもらわなければいけない。ヒト が対象であれば、前述したように問いかければわかるが、他の動物ではそうはいかないの で、調べることは不可能に近いのではないかと思った。そこで足立先生が説明してくださ ったのが、見本合わせ課題と同様にタッチパネルを用いた課題だった。正方形を 3×3 で 9 個並べたマスを使い、その一部を塗りつぶして作った図形を呈示する。そして同様のマス を提示し、先ほど示したものと同じ図形を作らせる、というものだった。これは「再認」 ではなく「再生」になる。このような方法があるのかと驚き、とても興味深いと思った。 まだこれが初めての実験であり、個体の年齢差などによる影響なのかはわからないそうだ が、実験が進めば脳のはたらきやヒトとの違いなどがわかり、とてもおもしろそうだと思 った。 レクチャー後は、先生にポケゼミ生からさまざまな質問があった。私は以前から気にな っていたことをお聞きした。それは、道によく迷う人や道を覚えられない人は、なぜそう なってしまうのだろうということだった。今回のレクチャーを聞いて、「再生」や「再認」 の機能に何か関わりがあるのではと思った。先生によると、道に迷うのは cognitive map という認知地図の作り方によるということだった。認知地図を作るには、その場所のポイ ントを覚えたり、スケールを変えたりと、さまざまなことを覚えて自分の位置を判断しな ければいけない。そのある点でうまくいかない人がいたり、そもそも認知地図を作れない 人もいたり、また女性と男性でも違うとも言われているということだった。しかし私は女 性だが、道には迷いにくいし、覚えるのも得意だと思っている。これらのことについては、 まだよくわかっていないこともあるそうで、まだまだ奥が深く興味深い分野だなと思った。 102 Ⅳ.自然学ポケゼミレクチャー報告 2011 年 10 月 9 日 第 20 回自然学ポケゼミレクチャー報告書 岐阜大学 渡邉みなみ まず、レオの話からはじまった。レオは発病してから 5 年目となるが、これ以上治療を しても下半身は元通りには戻らないとのことだった。関節が溶けて固まってしまっている のが判明したからだ。しかし、そのような状態でも、できるかぎりレオにとって幸せな状 態を作ってやる必要がある。今後どのようにするかは検討中だそうだ。このような状態は 人間でもなりえることがある。しかし人間の場合との大きな違いは、何がしたい何がした くないといった希望が本人に直接聞けないことである。そのため様子をよく観察して、そ れがよい状態なのかそうではないのか予想する必要がある。そこには当然ずれや間違いも あるだろう。動物介護はまだまだ情報が足りない分野だと思うので、今後の発展に期待し たい。 レオの話の後、奥行きについてのレクチャーをしていただいた。ヒトはいつから奥行き を知覚できるのかという研究では、以前は視覚的断を使って研究がなされていた。これは ガラスの上を赤ん坊が渡るかどうかを見るもので、この研究では 6 カ月児でも渡るのを嫌 がることが判明した。しかし、この方法だと移動できる赤ちゃんしか実験をおこなうこと ができない。そのため、最近ではもっと幼い子でもできる選好注視法による実験がおこな われるようになった。これは二つの物を見せて見ていた時間を計るといった方法である。 もし二つのものを区別していれば、見ている時間の長さは異なるはずである。この方法に より視力を測ったり、立体が判別できるのか調べたりすることができる。このような方法 自体は難しいものではないし、この方法を使えば様々なことを調べることができる。おそ らく、大変なのはこの方法を考え出すことなのだろう。被験者の考えや意見を直接聞くこ とができないというのはチンパンジーも赤ちゃんも共通したことである。ではどうやった らそれを調べることができるのかと考え、どうにかその意思を見つけだそうとする、その 努力が大事だと感じた。ちなみに、実験の結果では生後 4 カ月ごろの赤ちゃんも立体を判 別しているということが分かった。また、拡大運動刺激に対しては 1 ヶ月児でも反忚を見 せることがあり、これは生命に関わることであるからではないかという予想がたてられて いる。そのほかの実験方法では、選考リーチングテストといったものがあり、これは二つ のものを見せてどちらに手を伸ばすかというのを見るものである。チンパンジーに対して も赤ちゃんに対してもこれらの研究はまだまだ発展の途中であると感じる。これからどの ように研究が進んでいくのかがとても興味深いと感じた。 103 Ⅳ.自然学ポケゼミレクチャー報告 2011 年 10 月 16 日 第 21 回自然学ポケゼミレクチャー報告書 岐阜大学 木村元大 今日の午後のレクチャーでは、友永先生が 3 つの時間を生きるチンパンジーと題して、 進化、発達、文化の時間軸から見るチンパンジーについて話してくださった。なぜ 3 つの 時間軸であるかというと系統発生や環境適忚については進化の軸で説明できるが、 「こころ の進化」については進化だけはなく、発達や文化の視点も必要となるからだ。 まず進化の時間軸についてだが、この時間軸はとても長い。多くの世代が続いてきたこ とで得た例として視線が挙げられた。群れ社会を形成していくには、コミュニケーション が必要となってくる。視線はコミュニケーションの一つとしても重要な部分である。視線 を合わせるだけで情報共有をすることとなる。チンパンジーは特に自分たち、つまりチン パンジーの視線に敏感である。これはヒトでも同じことが言える。ヒトはヒトの視線に敏 感である。やはり群れで生活するためには、視線は重要なものであると思う。目は口ほど に物を言うと言うが、視線が合えば声を出さずとも、自分が何らかの情報を相手に送るこ とができる。また、相手が自分に送ることもできる。それに付け加え表情などが加わると さらに明確な情報を送ることができる。 次は発達の時間軸については、子どもが成長していく過程の時間軸となるので進化に比 べるととても短い。しかし、チンパンジーのこころの発達はその後の文化や進化につなが っていく上で重要である。またチンパンジーのこころの発達を正しく知るためには、ヒト が育てたチンパンジーではなく、チンパンジーが育てたチンパンジーでなければならない。 なぜなら、こころの発達は母子関係が重要であり、ヒトはチンパンジーの母親代わりには なるかもしれないが、本当の母親ではないからだ。また、ヒトの育児とチンパンジーの育 児には違いがある。チンパンジーは生後 2 か月ごろから、初期微笑やほほえみを母親に対 しておこなう。3 か月前に東山動物園で生まれたリキも観察していると時々、母親である カズミに対して、笑ったような顔を見ることができる。また、成長していくにつれて、母 親や他の個体の視線に追従するようになっていく。そして自己認識が生まれ、母子関係を 軸に社会関係の構築につながっていく。 最後は文化の時間軸である。この時間軸は進化ほど長くなく、発達の後の時間軸となる。 文化は生態学的な理由では説明できない世代を重ねた結果でもある。また文化はある集団 内で伝播するものである。そのため文化を見ることはその集団を見ることになり、それら と比較するということは、それぞれの集団同士を比較するということになる。つまり、ヒ トとチンパンジーの文化の比較においても、あるヒトの集団とあるチンパンジーの集団の 文化を比較することは集団同士の比較にすぎない。そのため文化については多面的にとら えていく必要がある。比較する集団が違うだけで得られる結果に違いが生じる可能性があ るからだ。 これらの 3 つの時間軸で見るとチンパンジーのこころというのは改めて深いものである と思う。また、チンパンジーのこころが解明していくことでわかっていくヒトのこころも また深い。自分は先生方の話を聞いて、比較認知研究について尐しかじっているぐらいし かないのだろうが、今後もレクチャーや講演などでチンパンジーやヒトのこころについて 104 Ⅳ.自然学ポケゼミレクチャー報告 知りたいと思う。 105 Ⅳ.自然学ポケゼミレクチャー報告 2011 年 10 月 23 日 第 22 回自然学ポケゼミレクチャー報告書 岐阜大学 島田かなえ 今日は、松沢先生のレクチャーはなく、午後からは林先生のレクチャーをお聞きした。 林先生は、先日、ボノボを見にコンゴへ行ってこられたらしく、今回はそのお話をお聞き することができた。林先生は、まず、チンパンジーとボノボの違いについて話して下さっ た。ボノボは、チンパンジーと異なり、群の中でオスよりもメスがリーダーシップをとる ことが多い。また、好奇心旺盛なメスも多い。林先生のお話でも、人間の罠にかかった、 生きた小型のシカ類に興味を示し、何度も触ったりということをしていたのは、メスだっ たそうだ。私は、チンパンジーとボノボでは、同じ成熟したメスが群を行き来するという 社会を持っていながら、なぜこんなにメスとオスの社会的地位が異なるのか、とても不思 議に思った。そして、そのシカの話だが、ボノボは、そのシカを殺さなかったそうだ。チ ンパンジーなら、殺して、そして食べるということもあるかもしれない。そのあたりの、 攻撃性というものの違いもとても面白いなと思った。この違いも、あるいは行動を起こす のはメスであることが多いということに起因しているのだろうか。また、先生は、日本や アフリカの研究者が集まるシンポジウムにも参加されたということで、そのお話もお聞き することができた。アフリカの研究者の中には、先生たちも感心するような、素晴らしい 発表もあったそうだ。先生は、今後、アフリカの研究者による研究がもっと発展すれば良 いとおっしゃっていた。私も、そうなれば、とても面白そうだと思った。野生動物を対象 にした研究が発展すれば、それだけ野生動物の保護という部分も自ずと進むだろう。私は、 アフリカにずっと興味を持ってきたし、ずっと行きたいと願ってきたので、今回のお話は、 大変興味深く聞くことができた。私もいつか、アフリカに行って、野生のチンパンジーを 観察してみたい。 106 Ⅳ.自然学ポケゼミレクチャー報告 2011 年 11 月 6 日 第 23 回自然学ポケゼミレクチャー報告書 岐阜大学 渡邉みなみ 本日は足立先生に顔知覚についてのレクチャーをしていただいた。チンパンジーも人と 同様個体識別ができるが、これは人と同じようにおこなわれているのかという疑問から、 様々な実験をおこなわれてきた中で、上下さかさまにした人やチンパンジーの顔を見せて、 その画像上でおこっている異変(目の方向がおかしいなど)に気が付けるかどうか、とい う実験をおこなったところ、チンパンジーも人も上下逆さにした顔では異変に気づきにく いということが判明した。これは、むしろ、木の上からぶら下がった個体とコミュニケー ションをとる機会があるチンパンジーの方が優れているのではないかと私は思った。 ただ、チンパンジーはチンパンジーの、人は人の顔の場合にのみこの結果が得られるら しい。これはただ卖に、他方の顔は見慣れていないという点もあって異変に気が付きにく くなってしまうのとは異なるのだろうか。霊長類研究所などで働く人たちに同じ実験をお こなったら、また違う結果が出るような気がする。 また、他の実験より霊長類は個体識別を行う際、右脳使うということが証明されている。 もし、事故で右脳の機能を失ってしまったら自分の親も識別できなくなるのだろうか。そ う考えるととても怖くなった。この話だけに限らず、脳の右と左で働きが異なるというこ とはとても不思議で興味深い。同じものが右と左で一つずつあるのに何故左右対称の働き をおこなわないのであろう。思考というものは、脳から来るものであるから、この左右の 違いについてなど脳の仕組み自体を研究することも、思考言語の謎を解き明かすカギとな るのであろう。 107 Ⅳ.自然学ポケゼミレクチャー報告 2011 年 11 月 20 日 第 24 回自然学ポケゼミレクチャー報告書 岐阜大学 藤森唯 午前は松沢先生とミーティングをおこなった。最初に有賀さんがショウアンドトークで、 神奈川県立生命の星地球博物館のパンフレットを示して、訪れたときのことについて紹介 してくれた。その時に「子どものための展示を考える」という講演があったそうだ。とて も興味を惹かれた。小学校に上がるか上がらないかくらいの年齢の子どもに対しては、視 覚で訴えることが大切で、さらにその目安は 5 秒だそうだ。その博物館では、日本列島の 地質を説明するために、レゴブロックを使って、地質の違いを色分けしたり、展示物のど こを見せるかに合わせて、展示の高さを変えたりしているそうだ。これは動物園において も、とても大事なポイントなので、その講演を聞いてみたいと思った。 午後は伊村先生のレクチャーだった。前半は「チンパンジーたちの様子など」というこ とで、今日は 10 月生まれのアイが対象だった。 「アイってどんな子?」という先生からの 問いかけについて、それぞれが思う印象を話した。やはり、 「よく見ている」という印象が、 みんなの中で強いようだった。先生からは、アイは人に対してある一時を境に、反忚が変 わると聞いた。実験のための移動も、最初は全く動かなかったが、ある日を境に簡卖に動 いてくれるようになったそうだ。 「徐々に」ではなく「急に」というところがおもしろいと 思った。それまでの期間、アイは見定めをしているのかなと思った。その後、アイに関連 して、11 月 10 日におこなわれた逃亡防止訓練のお話をしていただき、逃亡事件について まとめられた資料も見せていただいた。当時の新聞記事のコピーもたくさんあった。やは り、所外に逃げたアキラを大きく取り上げた記事が多かったが、その多くが批判を全面に 出していなかったことにとても驚いた。見出しも「アキラめず(諦めず)逃げた」、「アキ ラの自由終わる」といった感じで、アキラを忚援しているような記事もあった。小学生を 傷つけてしまったのだから、メディアから強く批判されても不思議ではない。それでも、 そうならなかったのは、自分で鍵を開けた、という知性の高さをアイに見せつけられてし まったからなのだろうか。何にしても、アキラがお咎めを受けることがなくて良かった。 後半は、SAGA14 で伊村先生がおもしろいと思ったことについてお話ししていただいた。 熊本の地鶏である肥後五鶏のうち、熊本市動物園で飼育されている四種の目の形態につい てのお話だった。四種のうち、三種は目の輪郭が丸いが、 「じすり」という種だけは横長で、 光彩や強膜の色も他の三種と比べて白っぽいということがだった。私も実際に動物園で展 示されていた鶏を見たが、それほどじっくりと見ず、その点に関してはまったく気がつか なかった。研究者は、やはり視点が違うと思った。霊長類の目の縦横比や強膜の露出度と 比べつつ、他の種にも広げられるといいと話されていた。私も、今後動物園で見るときの 1 つのポイントにしたいと思った。 108 Ⅳ.自然学ポケゼミレクチャー報告 2011 年 12 月 4 日 第 25 回自然学ポケゼミレクチャー報告書 岐阜大学 藤森唯 午前中の松沢先生とのミーティングでは、11 月 27 日(日)の活動の際に起きた咬傷事 故を踏まえて、今後のポケゼミの活動をどうしていくかという話が为だった。まずポケゼ ミの活動は、利用エリアと夕食手伝いに制限がかかるが、今後も続けていけるということ だった。このことを聞いてほっとすると同時に、今まで以上に気を引き締めていかなくて はいけないと思った。松沢先生も、想像する力を働かせてどこにどんな危険が潜んでいる か、どこまでやって良いのか、または悪いのかをしっかりと見極めることが重要だとおっ しゃっていた。ここ数年で、ポケゼミの活動内容は目まぐるしく変わってきた。その都度、 どんな危険が考えられるかを考え、その考えをメンバー全員で話し合うべきだったと思っ た。さらに、下級生に対してはその活動にはどういった危険があって、どのように気をつ ければ良いのかということを、1 人 1 人確実に教えていかなくてはいけないと改めて思っ た。事故を受け、ポケゼミ内でも体制を見直し、新たな決まりもつくったので、これを毎 回確実に守り、 二度と同じような事故はないように気をつけていきたい。松沢先生からは、 来年度の活動のために次の 1 年生をしっかり集め、みんなで考えてしっかり育てていくよ うにと言われた。これからもポケゼミが続くように、という思いを全員で共有し、今後の 活動に臨みたいと思う。 午後の友永先生のレクチャーでは、ボルネオでの野生オランウータン調査について話し ていただいた。野生オランウータンの調査のお話を聞いていつも思うのが、観察が大変そ うだな、ということだ。オランウータンがいるのは 50m の木の上だという。私は、50m の木というものを実際に見たことがない。かなりズームさせて記録している動画を見ても 相当高いということがわかるが、実際に目の前にしたらもっと高く感じるのだろうと思う。 そのような場所にいるオランウータンを見続けると、首が痛くなると先生はおっしゃって いた。50m 上を見上げるとなると、うしろに下がってもほぼ垂直に首を曲げる必要がある だろうから、首の負担は相当なものだと思う。また、オランウータンを見つけるのも大変 だとおっしゃっていた。いろいろな写真や動画を見せていただいたが、オランウータンが どこにいるか一瞬ではわからないものが多くあった。そういった写真や動画は基本的に緑 色であった。ぱっと見は木の葉が幾重にも重なっているだけの写真であり、よく見るとそ の隙間に赤い毛や体の一部が見えるのだ。森の中でオランウータンを探すときは、木が揺 れているところか赤いかたまりを探すのだと先生はおっしゃっていたが、なかなか難しそ うだと思った。さらに、足元は植物が茂っているため足場を見つけるのが大変とおっしゃ っていた。遥か上空の茂みを見つつ、足元の茂みを見て進む野生オランウータンの研究者 を尊敬する。また、今回見せていただいた動画の中に、オランウータンがネストを作る動 画があった。チンパンジーにおいてもそうだが、私は樹上でのネスト作りをぜひ自分の目 で見てみたい。木々をどうやって重ねて組んでいくのかを知って、飼育下でも再現させた い。 109 Ⅳ.自然学ポケゼミレクチャー報告 2011 年 12 月 11 日 第 26 回自然学ポケゼミレクチャー報告書 岐阜大学 水野佳緒里 午前のミーティングで、松沢先生は研究の心得についてお話してくださった。実験研究 は、研究者が環境をデザインすることができ、ある程度の予測を立てることができる。そ の変わり、準備が不十分ということはあってはならない。認知実験においても、機械の不 調があると、当然チンパンジーは怒る。一方、観察研究では、野外観察と飼育エリアでの 観察の 2 つがあるが、どちらにおいても何が起こるかは予測できない。ある程度の出来事 に対忚できるように、心と体の準備をすることが大切である。そのためには日々、健康で いることが重要だということだった。私は、NN 観察をおこなっていたとき、物を投げら れたり、急にチンパンジーがケンカしたりといった、当時の自分にとっては予想外のこと が起こる時があった。初めて起こった時は、驚いて動揺してしまい、カメラがぶれるなど 良い対忚が出来なかった。観察前に、いろいろなことを予測し、あまり驚かないようにす ることが大事だと思った。また、先生のお話から、心に余裕を持っておくことで、予想外 の出来事に対して冷静な対忚が出来るのだと実感した。また、これは観察の場面に限らず、 普段の生活においても言えることだと思った。常に健康で、余裕のある生活を送ろうと思 った。 午後の林先生のレクチャーでは、サル委員会や、衛生委員会、野外研究委員会が取り組 んでいる安全対策について説明してくださった。安全対策の中で印象に残ったのは、ヒヤ リハット報告書である。階段から落ちそうになったり、滑って転びそうになったりした時 など、 「ヒヤリ」 、 「ハッ」とした時に報告書を提出するそうだ。事故が起こりそうになった 出来事をみんなが知ることで、未然に防ぐことができる。また、その報告書は当事者の名 前を伏せて提出することができるそうで、より提出しやすいと思った。ポケゼミの中でも、 ヒヤリ、ハッとしたことを報告し合うと良いと思った。また、事故発生後の対忚フローチ ャートについても説明していただいた。万が一、事故が起こった時のために、フローチャ ートの内容を把握しておこうと思った。 110 Ⅳ.自然学ポケゼミレクチャー報告 2011 年 12 月 18 日 第 27 回自然学ポケゼミレクチャー報告書 日本大学 有賀菜津美 今日のレクチャーは伊村先生が担当して下さった。まず、パンの誕生日(12 月 7 日)と クロエの誕生日(12 月 13 日)が近かったこともあり、ポケゼミから見た 2 人の性格につ いて話した。私はアキラ群を観察することが多いため、パンをじっくり見たことがなかっ た。そのため、先生方の指示には忠実で普段はあまり感情を表に出してないのでは、とい う他のポケゼミ生が持っているパンのイメージを初めて聞いた時に尐し驚いた。また、伊 村先生からパンの生い立ちや実験中のエピソードも聞くことができたので、私の持ってい るパンに対するイメージが尐し変わった。確かに、何ごともないように実験用のメガネを かけて実験しているとこや、食事の際に居室にすぐ戻ってくることを思い出すと納得でき る。しかし、クロエの話になると、みんなのイメージはほとんど一致していた。 「アイとは 違うが、ヒトや群れの様子をよく観察していて、とてもずる賢い。」「ヒトと遊ぶことが好 きでよく挨拶を返してくれる。」この様に、改めてみんなの持っているイメージを言いあう ことは、それぞれの見ている視点が違うということが分かり、とても面白かった。 後半では、食べ物の質感の知覚について話してくださった。この伊村先生がおこなって いる研究は、昨年から始まった「質感脳情報学プロジェクト」の一つであり、工学、脳神 経科学、心理学の 3 つの視点から質感についてアプローチしていくそうだ。そこで、伊村 先生はヒトの質感を区別する能力はヒトだけではなく、チンパンジーにもあるのではない かと考え、研究されているそうだ。野生では、果実の鮮度や熟れ具合を見分ける必要があ るが、色だけではなく食材の光沢さも鮮度を区別する材料になりうるのか、またそれらは 学習によって修得することができるのか、ということに着目して実験をおこなっているそ うだ。実験方法は、鮮度の異なる 2 枚のキャベツの葉の写真を見せ、それが新しいものか 古いものかを区別していくものだ。実験の結果、鮮度の異なる食物画像の弁別はある程度 可能ということが分かったそうだ。また、ヒトを被験者として扱った時は、 「明確な違いは 言葉で言い表せないが、感覚で答えが次第に分かってくる。」と答える人が多かったそうだ。 実際に、実験で使っている写真を見せていただいたが、難しかった。もちろん 1 時間経過 したものと 32 時間経過したものの違いは分かったが、他のものは全て一緒に見えてしま った。まだ、キャベツでしか実験をおこなっていないそうなので、違う食物を使用した場 合はどうなるのだろうかと気になった。さらに、普段食べているものと食べたことがない もの、野生でしか食べられないものでは、どのような違いが出てくるか、すごく今後の実 験結果が楽しみになった。 111 Ⅳ.自然学ポケゼミレクチャー報告 2011 年 12 月 25 日 第 28 回自然学ポケゼミレクチャー報告書 岐阜大学 夏目尊好 今日の午後は友永先生が、「身体の霊長類生物学~認知科学の視点から~」というタイ トルでレクチャーしてくださった。 お話してくださった 1 つ目の実験は、全て違うシルエットの中からある特定のシルエッ トを見つけるというものだった。この実験の場合チンパンジーもヒトも、チンパンジーま たは帄船を見つける課題は簡卖にこなすが、魚またはイスを見つける課題では、チンパン ジーはエラー率が尐し上がり、ヒトは見つけるのに時間がかかるそうだ。チンパンジーと ヒトが、見つけやすいものと見つけにくいものが同じであったことが、とてもおもしろい と思った。この実験の続きでシルエットにウシなどの 4 足動物とイスを加えてチンパンジ ーで実験したところ、 ヒトのシルエットを見つけるよりも 4 足動物の方がエラー率が低く、 判別が速かったとのことだった。しかし、同じ 4 つの足でもイスは、判別が速くならなか ったそうだ。この結果からは、見慣れているシルエットだから早く判別できるわけではな いということがわかるが、何が判別の難易度の基準となっているのかは分からなかった。 とても不思議で次の実験への興味が湧く結果だなと思った。チンパンジーとヒトが分かれ て進化したことによる違いや共通点は、ものの見方にも現れており、それが尐しずつ解明 されていくのはとてもおもしろいと思った。 2 つ目のお話は、ヒトの外界環境への知覚に関するものだった。紹介してくださった実 験は、身長が 200cm の人と 150cm の人に「この段差を登れますか?」と聞くだけという 卖純なものだった。被験者は、実際には段差に登らず、段差を目で見て頭で考えて答える だけである。実験結果は、やはり 200cm の人の方がより高い段差を登れると判断したそう だ。しかし、この結果を段差と股下の長さを比較して考えると、200cm の人も 150cm の 人も段差が自分の股下の約 80%になると登れないと判断したそうだ。これは、とてもおも しろい結果だと思うと同時に、結果をどのように分析するかによって見えてくるものが大 きく変わるのだなと思った。もし、私がこの実験結果を分析していたら、股下と段差を比 較することなど思いつかないのではないかと思った。そうなったら、せっかくの実験が無 駄になってしまう。実験は、計画からデータの分析まで気がぬけないなと改めて思った。 友永先生は、この実験の発展として同じ実験をアスリートや高齢者を対象におこなってみ たいとおっしゃった。一般の方は、股下の長さの 80%が登れるか登れないかの判断の境界 になったが、身体を鍛えているアスリートや身体能力が弱まっている高齢者では、どうな るのか、とてもおもしろい実験になるなと思った。友永先生が実験をおこなった場合は、 その結果をぜひ教えていただきたいと思った。 112 Ⅳ.自然学ポケゼミレクチャー報告 2012 年 1 月 8 日 第 29 回自然学ポケゼミレクチャー報告書 岐阜大学 島田かなえ 今日の松沢先生のレクチャーでは、今後のポケゼミ生の活動の確認と、ボッソウのお話 を聞かせていただいた。幸島合宿の交通案を提出し、幸島の日程について確認した。前回 は、ちょうど東日本大震災の時に幸島の山を登っていたが、今年はそういったハプニング なしに行ってくることができたら良いなと思った。ボッソウのお話は、本当に興味深いお 話ばかりだった。先生のチンパンジーを観察する視点も、とても面白いなと思った。特に、 声だけで、ボッソウのチンパンジーの個体識別ができるというのがすごいなと思った。私 は、東山動物園で活動をさせてもらっているが、東山のチンパンジーを声だけで識別する のはなかなか難しい。それを、フィールドにいる短期間でできるというのは、本当に大変 なことだなと思った。また、チンパンジーを総合的な視点で見てみると新たな発見がある というのも面白かった。足の組み方、手の組み方それぞれに、そのチンパンジーの個性が ある。そのような、見逃してしまいがちな所に焦点を当てるのが研究の重要な視点である のだなと思った。 午後は、友永先生のレクチャーだった。友永先生のレクチャーでは、今年の 1 月 3 日に 放送された、 「チンパンジーが教えてくれた希望の秘密」を鑑賞した。家で録画したものを 鑑賞したので、内容は知っていたのだが、友永先生が色々と解説を入れて下さったので、 とても分かりやすかった。東山動物園のタッチパネルも紹介されており、リュウが色の課 題に取り組んでいた。その時は、よい正当率を出していたが、課題を提示する場所を決め るファイルがいつも同じだったということを先生にお伝えしたところ、それでは正確な結 果は出ないとおっしゃった。やはり、実験のやり方にも守るべきルールがあり、それをき っちり守らないと、正確なデータが得られないのだなと思った。これからは、気を付けて 実験に臨みたいと思う。また、レオの話題がこの番組で多く取り上げられていた。友永先 生はレオについても解説して下さった。レオは、脊髄炎を発症して、一時首から下がまっ たく動かない状況だったが、リハビリや介護の成果で、ペンギン歩きができるまで回復し たチンパンジーだ。私も一度、会わせていただいた時があったが、レオの様子や獣医さん の献身的なケアに深い感慨を覚えた記憶がある。現在、レオは足の一部の骨が癒着してし まって、以前のように足を伸ばすことのできない状況にあるらしい。私は、骨に異常は無 かったはずなのに、動かさないだけで骨は癒着してしまうものなのだなと驚いた。また、 それでも、尐しでも動かせるようになってもらいたいと、工夫を凝らしながら、レオのケ アに取り組まれている、スタッフの皆さんの姿がとても印象に残った。友永先生のお話で は、限界まで足を伸ばしてもらえるよう、足を伸ばせるギリギリのところにある人の手に タッチするというリハビリに取り組んでいるそうだ。友永先生の解説で、面白いなと思っ たのは、 「チンパンジーはなぞって書くのはできるけど、まねして書くのはできない」とい うことだ。人でも最初、字などを覚える時、真似して書くのは難しいと感じる時があるな ということを感じたが、チンパンジーでは大人になっても難しいというのは驚きを感じた。 そういうところにも、やはり人特有の「創造する力」が影響を与えているのだろう。 113 Ⅳ.自然学ポケゼミレクチャー報告 2011 年 1 月 15 日 第 30 回自然学ポケゼミレクチャー報告書 岐阜大学 秋吉由佳 松沢先生とのレクチャーでは、目標設定についてお話していただいた。無益に悩まない ためにも、自分の能力に合致した目標設定をおこなう必要があるらしい。そのためには、 自分の能力をよく理解しておくことが必要であるそうだ。大きな目標を設定しすぎて、失 敗が続けば自信をなくしていく。気持ちも良くはない。やってきた努力が否定されるから だ。しかし、小さな目標を尐しずつ達成していくということは、無理もないし、努力を認 めることができる。だから、次からはもっと頑張ろう、という気持になると思う。また、 失敗を全くせずに過ごすことではなく、失敗を繰り返さないことが重要であるそうだ。先 生のお言葉で、私は尐しだけ気持ちが楽になった。年末に、国際センターの茶室のシンク の側板に穴を開けてしまうという失敗をしていたからだ。失敗をずるずると引き摺らず、 次にこのような失敗はしないようにしよう、と強く思った。 林先生のレクチャーでは、オックスフォード大学のニューカレドニアクロウというカラ スのお話をしていただいた。このカラスは、野生でも道具使用をしていることが確認され ていて、トレーニングをそれ程必要としていないために、実験対象に選ばれたという。実 験室で心理学の実験をする際にも、野生下の生態を知っておくべきなのだと思った。ある ものをそのまま使うのではなく、使いやすい形に変える、すなわち道具を製造するという ことは、簡卖なことではないだろう。しかし、このニューカレドニアクロウはパンダナス という植物を加工することによって、木の中の幼虫を取る道具を製造するらしい。林先生 は、ニューカレドニアクロウが枝を加工している映像を見せてくださった。ニューカレド ニアクロウはくちばしと足を器用に使って、枝から葉を落としたり、枝に凹凸をつけたり していた。特に、枝に凹凸をつけていることには驚いた。人間でも、枝に凹凸をつけるの は難しいだろう。カラスは賢いということはよく言われているし、様々な行動を知ってい た。私の知っている行動の中では、この枝の加工が一番賢いカラスの行動だと思った。ま た、私は、この夏にチンパンジーの道具の製造を見たことを思い出した。それは、熊本サ ンクチュアリにいるケニーと言う個体のジュース飲みに用いる枝の加工だ。他のチンパン ジーたちもケニーが枝を加工している姿は見ているのだが、同じように枝を加工している ところは見ことができなかった。チンパンジーにとっても、枝の加工、つまり道具の製造 というものは難しいのだろう。このニューカレドニアクロウの子どもは、最初は大人が作 り、使用した後の道具を用いるらしい。チンパンジーの葉を使った水飲みにも、同じよう な行動を観察することができるらしい。野生下で可能だといっても、じゅうぶんな学習が 必要であり、また、子どもの頃に学習するのが大切なのかもしれない、と思った。また、 このニューカレドニアクロウの枝の加工には地域差があるそうだ。それは、生態学的要因 だけでは説明ができないらしい。そのため、この枝の加工は文化的行動である可能性があ るらしい。枝の加工という行動だけでもじゅうぶん興味深かったが、地域差があり、それ が生態学的な理由を持っていないということで、さらに興味が増した。 114 Ⅳ.自然学ポケゼミレクチャー報告 2012 年 1 月 22 日 第 31 回自然学ポケゼミレクチャー報告書 岐阜大学 藤森唯 午前は松沢先生とのミーティングがあった。最初に、先生が平栗さんと会ったという報 告があった。あの事故から約 2 ヶ月が経過した。平栗さんは元気で、爪も生えてきている そうだ。今の時点ではまだ記憶に新しい事故だが、これがこの先、時間を重ねるうち記憶 が薄れ、今回の事件を機に決めた規則などがいい加減になっていかないようにしていかな くてはいけないと思う。そのために、定期的に見直しをする日を設けるなど、上回生とし て、また来年度から霊長研で働く者として、きちんと調整していかなくてはいけないと強 く思った。その後、アフリカの森のお話をしてくださった。自然遺産であるボッソウで 11 月にハウワという赤ちゃんが生まれたそうだ。そのような嬉しいニュースの一方で、ニン バ山では尾根の 1 つが自然遺産から外れてボーキサイトの企業の所有となったそうだ。自 然遺産に登録されることで保全が始まるというのは日本の常識ではあるが、それが世界の 常識ではないと先生はおっしゃっていた。今回のように開発などのために自然登録を外し てしまうこともできるのだ。鉄鉱石は私たちも使っているので、無責任に責めることはで きないが、これ以上自然登録が外れる地域が増えないことを願いたい。 午後の伊村先生のレクチャーでは、まず最近恒例となっているチンパンジーの印象につ いての意見の出し合いがあった。今回は 1979 年 1 月 30 日に来所したゴンとプチの名前が 挙がった。ゴンとプチはアユム、パル、クレオが生まれる以前は上位であったが、子ども たちが生まれてからは、アユムやパルがよくいじめていたそうだ。パルは今現在でも、ゴ ンやプチにちょっかいを出しているので、当時の様子も十分想像することができる。参加 者の意見は、ゴンに対しては「おとなしい、穏やか」、プチに対しては「食欲旺盛、尐々の ヒステリー」といったものが多かった。また、ゴン・プチとレイコを筆頭に今後は老齢個 体が増えてくるため、健康管理が重要であると先生はおっしゃっていた。特に食べている 時の観察は大切だそうだ。体調の変化が出やすく、また近くでチンパンジーたちを観察す ることができる食事の時間を有効に使わなくてはいけないと思った。何をどういった順番 でどのように食べるのか、いつもと違うところはないかといったこと注意して見るように し、どんなに小さな変化でも気づくことができる飼育者になりたいと思う。レクチャーの 後半は、形と運動の知覚についてのお話だった。スリット視を用い、部分的な形態や運動 といった断片的な情報を統合して物体を認識する能力を調べる実験について紹介していた だいた。スリット幅やスリットを通る物体のスピードを変えて実験をおこなったところ、 人はどの設定においても正答率が高かったのに対して、チンパンジーはスリット幅が大き く、スピードが遅い条件の方が正答率が良いそうだ。森で暮らすチンパンジーの方が断片 的な情報を利用しているように思えるので、この結果は意外であった。図形の概念などに よる差も考えられるが、とても興味深い研究だ。 115 Ⅳ.自然学ポケゼミレクチャー報告 2012 年 1 月 29 日 第 32 回自然学ポケゼミレクチャー報告書 岐阜大学 木村元大 今日の午後の林先生のレクチャーでは、前半にボッソウのチンパンジーの道具使用につ いてレクチャーしていただいた。以前にもボッソウのチンパンジーの道具使用について、 レクチャーしていただいていた。しかし、今日のレクチャーでは、道具使用に関してのル ールなど新たな発見もあり、興味深かった。また、卖に道具を用いることだけではなくて、 道具をどのように利用すれば、効率がよくなるか、あるいは危険が尐なくなるかなどもチ ンパンジーたちは考えたうえで利用しているのではないかと感じた。例えば、アリ釣りで は、アリの列に手足が入ると、アリが自分の体に上ってきて、攻撃することをチンパンジ ーたちは知っている。だからアリの列の乱さないようにして、アリ釣りをする。また、ア リの攻撃性によって、アリ釣りに使用する枝の長さを変えたりもしているそうだ。どうす ればアリの攻撃を避けて、効率よくアリを採食できるかについての知識はどのように得た かはわからない。試行錯誤を重ねて、結果的にそのように道具を選択するようになったの か。あるいは他個体の道具使用を見て学び、道具の選択に生かしたのか。道具の選択から、 道具の効率的な使用方法についてはどのように習得していくかについてもとても興味深い と思う。 レクチャーの後半はチンパンジーの育児についてだった。私は今回の話の中で、2 つの ことについて、興味を持った。1 つ目はチンパンジーのおばあさんによる育児についてだ。 本来であれば、おばあさんが育児に参加してくれることで、母親は育児の負担を軽減でき る。育児の負担を軽減することで、母親はナッツ割りなど自分のための時間を使うことが できる。また、おばあさんチンパンジーは育児に協力しつつ、母親チンパンジーに育児の 手本を見せているようにも思った。もう一つは飼育下のチンパンジーの育児についてだ。 これまで先生方のレクチャーや SAGA などのシンポジウムでチンパンジーの育児放棄の 話は何度も聞いてきた。今回の話を聞くまでは、育児放棄の原因はどうしても母親が育児 について知らないからだと思っていた。しかし、今回のレクチャーを聞いて、母親だけで なく社会として育児ができないから、育児放棄に至るのではないかと感じた。育児を頼る にも群れの仲間はいない、自分が育児の経験がないから、育児を見たことがないから育児 のやり方はわからない。群れ社会として育児ができる環境にないのにも大きな原因がある と思う。ヒトの場合、幼稚園や保育園、あるいは近所の同年代の子供を持つ親同士が意見 交換したりすることで、育児が成り立っていると思う。育児についてのセミナーや出版物 もたくさんある。一方、飼育下チンパンジーには群れの中に育児ができる個体がいない限 り、育児の「手本」はない。そういった中で育児をしろというほうが困難ではないかと思 う。ヒトもチンパンジーの育児にも共通していることは、親だけ育児をするではなく、社 会が育児していかなければならないことだと思う。 116 Ⅳ.自然学ポケゼミレクチャー報告 2011 年 2 月 5 日 第 33 回自然学ポケゼミレクチャー報告書 岐阜大学 秋吉由佳 足立先生のレクチャーでは、強化学習について教えていただいた。強化学習では、対象 が目的の行動をしてくれた度に報酬を出す、というものしか知らなかった。そのため、強 化学習が何種類もあって驚いた。強化学習をいくつか教えていただいた後、オペラント条 件付けを FR1 で実際にやってみることになった。何も知らない対象者に、特定の行動を誘 導しながら学習させた。誘導が上手くいかないと、対象者がイライラし始めて、関係のな いような行動を当てずっぽうにとり始めた。これを迷走行動というらしい。そのような状 態に陥ってから学習を継続させるのは難しいと思った。そのため、このような行動を引き 出さないようにして学習させることが大切なのだろう。また、教え込む行動自体はとても 簡卖だった。電気を消すことや、コンセントを抜くことなど、口に出して言えばすぐにで きるようなものだった。しかし、それが言えず、まず立ったら褒める、対象物の方向に近 づいたら褒める、というように一歩ずつ誘導していかなければいけない。即時強化ができ ず、 褒めるタイミングが遅れてしまったがゆえに、上手くいかないこともたくさんあった。 常に対象は動いているので、褒めたはずの行動の次の行動を繰り返してしまうこともある。 言葉が伝わらないというのはこれ程までにもどかしいものなのか、と強く感じた。他にも、 どこで褒めるのをやめるのか、というタイミングも難しかった。目的の行動に近いのだが、 目的の行動ではない時に褒める。その後に、目的の行動を引き出すのが難しかった。今回 用いた FR1 は、学習したことを忘れやすいが学習させるのは一番簡卖のようだ。しかしな がら、人間を対象としているのに関わらず、FR1 で学習させることは難しかった。VI の ように報酬が出たり出なかったりすると、学習するまでが大変だと思った。私はタッチパ ネルを押しているチンパンジーしか見たことがない。彼らがタッチパネルを押すようにな るまでの過程を見たことがなかった。彼らがタッチパネルを押すようになるまでにどのよ うな学習をしてきたのか、ということも気になった。それと同時に、人間やチンパンジー よりも、動きの速いニホンザルや、オマキザルなどの新世界ザルの方が訓練は難しいのか もしれない、と思った。また、人間に動物を慣れさせるためにも使えると教えていただい て、学習は汎用性の高いと思った。 117 Ⅳ.自然学ポケゼミレクチャー報告 2011 年 2 月 12 日 第 34 回自然学ポケゼミレクチャー報告書 岐阜大学 秋吉由佳 友永先生のレクチャーでは、物の動きのバイアスについてお話していただいた。人間は 横向きの三角など、抽象物に対しても動きのバイアスが働くが、チンパンジーは抽象物に 対して動きのバイアスが働かないらしい。しかしながら、生物には動きに対するバイアス が働くらしい。チンパンジーだけではなく、チンパンジーたちがほとんど見たことのない イヌに対してもバイアスが働くということはとても興味深いと思った。また、体と顔が反 対方向になるとバイアスが働かなくなるというのも面白かった。顔と体が同じ向きをして いる時にだけバイアスが働くということは、顔と体の向きの両方を見て判断をしていると いうことなのだろう。チンパンジーが解剖学的知識や直感を身につけているということは おもしろいと思った。また、漫画に見られるスピード線についてもお話していただいた。 このスピート線に関してもチンパンジーにはバイアスが働いているそうだ。三角などの抽 象物に対してバイアスが働かないのに関わらず、スピード線に関してはバイアスが働いて いるということがとても不思議だった。また、私はこのスピード線が人間の文化的なもの のような印象を持っていた。スピード線は、現実の世界では見ることができないものだか らだ。そのため、チンパンジーの中にもある感覚であり、基盤的な感覚だという可能性が あるということにはとても驚いた。このスピード線の感覚は一体何の役に立つ感覚なのだ ろうか、と疑問に思った。このスピード線から物の動きのバイアスを探る力に、生態学的 な理由はないように思う。とても不思議だと思った。また、このスピード線の実験を、漫 画を見たことのないような人間の赤ちゃんでおこなってもおもしろいと思った。他にも、 先生は名古屋港水族館でのイルカの研究についてもお話してくださった。イルカの研究も とても興味深いと思った。私たちの暮らす環境とイルカの暮らす環境は、物質的な違いだ けではなく、空間的にも大きな違いがあると思う。イルカと私たち人間では、空間的な捉 え方に違いがあるかもしれない、という先生のお話はとても興味深かった。友永先生の名 古屋港水族館での実験についても、詳しくお話をうかがいたいと思った。 118 Ⅳ.自然学ポケゼミレクチャー報告 2011 年 2 月 19 日 第 35 回自然学ポケゼミレクチャー報告書 日本大学 有賀菜津美 今日のレクチャーは伊村先生が担当して下さった。まず、お話してくださったのはレイ コの怪我についてだった。2 月 9 日の夕食時に同室になったアイがレイコに攻撃をしたそ うだ。怪我をした部分は性皮であったが、大事には至らなかったそうで、とても安心した。 伊村先生は、この事件が決してアイのせいではなく、私たちスタッフが原因だとおっしゃ っていた。この言葉を聞いて、私は夏季長期研修で行かせていただいた熊本サンクチュア リでのことを思い出した。森村先生は、チンパンジーが怪我をしてしまう原因のほとんど が私たち人間にあるとおっしゃっていた。特に気をつけなければならないのは、一緒に部 屋に入れるメンバーの組み合わせやタイミングなどだ。人間のちょっとしたミスでチンパ ンジーが怪我をしてしまうかもしれないと思うと緊張感を持ちながら飼育はおこなわれて いるのだと感じた。次にお話いただいたのは、2 月 2 日が誕生日だったペンデーサについ てだった。彼女は日本モンキーセンター生まれの 35 歳で、父が日本で唯一の中央チンパ ンジーであるケンジ、母が 7 人の子どもを産んだスミレだったそうだ。ちなみに茶臼山に いたサトシや天王寺のミナミが兄弟にあたる。そんなペンデーサについてのポケゼミ生か らの印象を聞くことができた。全員が口をそろえて言ったのは、行動がおもしろいという ことだ。確かにペンデーサは、座ったまま歩いたり、手をひらひらと振ったりと他のチン パンジーでは見られないような行動をする印象が私もある。しかし、伊村先生からアユム、 パル、クレオが生まれた 2000 年ごろのお話を聞くと子どもに興味があり、3 人ともよく ペンデーサと遊んだそうだ。写真も見せていただいたが、とても可愛らしい尐しおせっか いなペンデーサの様子を見ることができた。その時私は、ペンデーサ自身の子どもができ た時にどのような子育てをおこなうのかとても興味がわいた。そして最後に、知覚発達に ついてお話して下さった。小さい四角が数個、円を描いて並んでいるスライドを見た時に ヒトは「丸く並んでいる」という印象を持つが、他の霊長類は「並んでいる 1 つ 1 つが四 角だ」という印象を持つそうだ。よって、ヒトは全体処理能力が優位であり、一方で他の 霊長類は部分処理能力が優位だという解釈ができる。そのため、スリット視という小さな 隙間から図形の一部分を見せるような実験をおこなった際には、ヒトが他の霊長類に比べ 成績が良いそうだ。そして興味深いと思ったのは、ヒトの自閉症者の場合、健常者(成人) に比べて、成績は低くなるということだ。自閉症患者の方と高校生のころからボランティ アなどで接する機会が多かった私だが、イメージではヒトの根本的な機能はそんなに違わ ないのではないかと思っていた。しかし、このような感覚が尐し違うのだという結果に驚 いた。伊村先生は自閉症に関してはまだまだ研究が進められている最中だということや、 ヒトによって大きく症状が異なるという点を考慮した方がよいとおっしゃっていた。今回 のレクチャーを聞いて、知覚発達という観点からみるチンパンジーもとても面白いと改め て感じた。 119 Ⅳ.自然学ポケゼミレクチャー報告 2012 年 2 月 26 日 第 36 回自然学ポケゼミレクチャー報告書 日本大学 平栗明実 午前の松沢先生とのミーティングでは、最初に幸島自然学セミナーの最終確認をおこな った。幸島合宿に際して、幸島でお世話になる大橋さんと直接会っていないという問題が あった。事前にどれだけ連絡を取り合うことができたかということで、活動がうまくいく かどうか決まるので、自ら積極的に動くことが大切であるということだった。私は人数が いると、他の人に頼ってしまうことが多いので、自分から積極的に働きかけられるように しなくてはならないと思った。また、次年度の体制が変わった。 「アルバイト」から「雇用」 への移行である。その後、仲間がいることの利点は「頼める」ことであり、自分だけで仕 事を抱え込むのではなく、体調がすぐれない時はそのことも踏まえて判断することが必要 であるということだった。お互いに支え合い、高め合っていくことが必要だと感じた。 午後の林先生のレクチャーでは、野生と実験室での行動観察によって見られる知性につ いてのお話があった。知性には、道具の使い方などの物理的知性と、群れの中で発揮され る社会的知性がある。この物理的知性を観察する実験の中で、さまざまな種類の霊長類に つみきつみをさせたところ、種によって行動パターンが異なった。中でもオマキザルは、 ナッツ割りでも有名なように、叩きつけが頻繁に観察された。しかし、大型類人猿では、 まんべんなくさまざまな行動パターンを見せた。さらに、大型類人猿では、2 つ以上の物 を組み合わせて行動をする転移操作もよく見られる。ヒトからしてみれば、何か行動する 際には転移操作をしなければ行動を起こせないことが多い。そのため、むしろ、なぜオマ キザルたちは行動パターンを組み合わせないのだろうかと思った。これは、オマキザルが 一生懸命つみきつみをしている映像を見た後に、先生の説明を受けて尐し分かった。オマ キザルがつみきつみを習得するうえで、一番難しいことがつみきを手から離すことであり、 同様に、ナッツ割りでも、土台となる石の上にナッツを置く(手から離す)ことが一番難 しいということだった。ナッツであれば、堅い殻は石で割らなければ食べることはできな いと分かってはいるのだが、石の上に置いてしまうことで誰か他の個体に横取りされてし まうというリスクが生じる。これは、ナッツ割りの手順が遅い個体ほどリスクが高くなる ため、ナッツをそう簡卖には離すことができないのだろうと思った。このように、他の個 体に取られないようにとの防衛本能が働き、つみきも最初のうちはなかなか離すことがで きなかったのではないかと思った。その他にも、樹上性が強いボノボは足で物をつかむこ とが多く、 反対に樹上性がそれほど高くないゴリラは座って物をつかむことが多いそうで、 先天的なものなのだろうと思った。その後、ボノボの女性におこる偽発情について、はた して彼らは気付いているのかというものが気になった。確かに、男性をだます働きとして はいいと思うが、実際の発情期と偽発情期を本人たちが知らなかったらと思うと興味深く 思った。ボノボについて、調べてみようと思った。 120 Ⅳ.自然学ポケゼミレクチャー報告 2012 年 3 月 11 日 第 37 回自然学ポケゼミレクチャー報告書 岐阜大学 夏目尊好 今日の松沢先生とのミーティングでは、先生からセミナーの季節を変えてみてはどうか という提案があった。その理由として妙高セミナーは台風の影響を受けて天気が良い日が 尐なく、幸島セミナーは花粉症の人にはつらい時期であることを挙げられた。しかし、季 節を変える最大の理由は、参加者のモチベーションを高い状態に保つためとのことだった。 この理由は、その通りだなと思った。毎年、セミナーをおこなうに当たって上回生は引率 のために何度も同じ場所に行くことになる。同じ場所に同じ季節に行くことは、参加する 上回生に毎年同じ状況であると錯覚させる。そのことは上回生のモチベーションを下げ、 さらには状況に合わせた判断力を鈍らせる可能性がある。上回生の判断力が鈍ることはセ ミナーをおこなう上で非常に危ないことなので避けなければならない。これからもポケゼ ミの活動を継続し、安全安心にセミナーをおこなうためにもセミナーの季節を変えること は大切だなと思った。 午後は、伊村先生がチンパンジーとヒトのあかちゃんの発達についてのお話をしてくだ さった。チンパンジーの乳児は、生後 1 か月までは母親の顔も平均顔も同じくらいの追従 率だが、1 か月~2 か月頃に母親の顔を選択して追従するようになり、2 か月以降は平均顔 を追従するようになるそうだ。この母親の顔と平均顔の追従変化の時期は、新生児微笑か ら社会的微笑に変わる時期と重なっているとのことだった。このことを聞いたときうまく 切り替わって発達していくのだなと感心した。生後 2 か月頃までは母親との関係作りを充 実させ、2 か月を過ぎると同じ群れの仲間の顔を見ながら微笑みかけて仲間との関係を充 実させる。とても効率良く、群れになじんでいく方法が確立されている。そしてこのよう な方法を進化の過程で獲得してきたことはとてもすごいことだと思った。 またヒトのあかちゃんは、生後数日で母親の顔を認識するようになるそうだ。そのとき 髪型などの顔の外的なものを手掛かりにして母親を判断しており、目、鼻、口など内的な ものを手掛かりにするのは生後 2 か月頃からだそうだ。ヒト乳児が、最初は外的な要因で 母親を判断していることにとても驚いた。顔の内的要因を区別し、そこから母親を判断す るのは難しい。しかし外的要因での判断は、母親を間違えてしまう可能性も高いのではな いかと思った。おそらく母親のにおいなど、目に見えない要因も利用して母親を判別して いるのであろうが、進化の過程において何が原因で外的要因を優先するようになったのか 知りたいと思った。 121 Ⅳ.自然学ポケゼミレクチャー報告 2012 年 3 月 25 日 第 38 回自然学ポケゼミレクチャー報告書 岐阜大学 市野悦子 午前中の松沢先生とのミーティングでは、来年度のポケゼミの体制についてお話があっ た。ポケゼミを続けていくためには変化が必要である。その変化の 1 つとしてあげられた のが、自然学セミナーの時期を変えることであり、特に幸島セミナーを夏におこなうとい うことだった。私は、幸島には 3 月にしか行ったことがないので、夏に行くとまたちがっ た経験ができ楽しめるだろうと思う。以前、夏の幸島で卖独研修をおこなったポケゼミ生 の報告書によると、植物の状態は 3 月とは異なり、セミや蝶も多く、ニホンザルの行動も いろいろと観察できるようだ。とてもおもしろそうだと思う。しかし気をつけなければい けないこともまた多いと思う。そのひとつが体調の管理である。虫が多かったため寝つけ ず、体調を崩したという報告もあるし、夏には食中毒という危険もあるだろう。こうした 経験者の話や報告書をよく検討して、活動内容や対策をよく練っていきたい。また松沢先 生は、幸島に行く前にトレーニングをする努力が必要であるとおっしゃった。具体的には、 登山や野外での炊事、テント張りの練習などである。これについては、犬山セミナーや妙 高セミナーでおこなってきたが、幸島セミナーを夏におこなうとなると、それらの練習の 時期もよく考えなければいけない。またそれぞれが、自分は練習が足りないかもしれない と思ったら、自分からやってみようとする努力も必要だと思った。 午後には林先生のレクチャーがあり、「大型類人猿 4 種の認知レベルの比較」というこ とでレクチャーしていただいた。特に、ボノボはチンパンジーと比較して平和的であると いう点で、具体的にどう違うのかがわかった。ボノボには偽の発情期があるため、オス同 士のメスをめぐる争いが尐ないということや、他者と協力してとりくむ課題ではボノボの 方が得意であるということなどがあった。また印象的だったのが、他の動物との関係につ いてである。そのお話では、ボノボが、森の中で罠にかかったダイカーという動物を発見 したときの動画を見せていただいた。そこではボノボは、オスだけでなく子連れのメスも 近づいてきて、ダイカーを傷つけることは無く、しばらくちょっと触ったりしていた。緊 張しながらとても慎重に、しかし穏やかに接していたので驚いた。それに対してチンパン ジーは、こういった他の種に対して攻撃的になるということで、霊長類研究所のチンパン ジーたちを思い出した。チンパンジーたちの中にタヌキが侵入してしまったときには、大 騒ぎでそのタヌキが宙を舞うほどに扱われていたし、パルが捕まえたカエルをぶんぶんと ふっていたこともあった。こういった例のように、ボノボではチンパンジーよりも、同種 の間だけでなく他種の動物との関係でも、平和的であるというのがとてもおもしろいと思 った。今後、研究所や東山動物園でチンパンジーを観察するときには、他種の動物への対 忚や、ゴリラやオランウータンとのちがいにも意識して観察してみたいと思う。 122 Ⅴ.個人報告書 V.個人報告書 A.櫻庭陽子 B.市野悦子 C.夏目尊好 D.藤森唯 E.水野佳緒里 F.木村元大 G.島田かなえ H.鈴木健太 I.秋吉由佳 J.有賀菜津美 K.平栗明実 L.渡邉みなみ M.黒澤圭貴 N.中山ふうこ O.森ことの 123 126 128 129 131 132 136 139 143 176 186 219 231 238 245 123 A.櫻庭陽子 Ⅴ.個人報告書 2012 年 3 月 11 日 幸島自然学セミナー報告書 京都大学霊長類研究所 修士 1 年 櫻庭陽子 2012 年 2 月 29 日から 3 月 6 日、自然学ポケットゼミナールのセミナーのひとつである 幸島自然学セミナーをおこなった。以下に詳細を報告する。 概要 日時: 2012 年 2 月 29 日(水)~3 月 6 日(火) メンバー: 1 年生 黒澤圭貴、中山ふうこ、森ことの 2 年生 秋吉由佳、有賀奈津美 3 年生 木村元大 4 年生 夏目尊好 5 年生 櫻庭陽子 スーパーバイザー 大橋岳 活動内容: 2 月 29 日(水) 移動(フェリーで大阪から宮崎港まで) 3 月 1 日(木) 幸島観察所到着 3 月 2 日(金) 幸島のニホンザル観察 3 月 3 日(土) 都井岬での野生馬観察、勉強(ビジターセンター)、ソテツ自生地訪問 3 月 4 日(日) 石波の海岸樹林散策、フィールドミュージアムでのテント泊 3 月 5 日(月) テント片付け、自由時間 3 月 6 日(火) 現地解散、帰宅 幸島のニホンザル観察 (3 月 2 日) セミナー開始の前日に宮崎の 1 週間の天気をチェック したときは、ほとんどの日がいまいちの天気であり、幸 島に渡れるか不安であった。3 月 1 日に観察所に到着し たあとも波浪予報や天気図を確認し、鈴村さんにも海の 様子などをうかがったが、幸島に渡るには 3 月 2 日しか なかった。一番判断が難しかったのが、そのまま島内泊 をするかその日に引き返すかであった。2 日の朝にもイ ンターネットで波浪予報を見ていたが、しばらく波が高 い日が続き、帰る予定である 5 日に一番波が高い予想が 出ていたため、2 日の内に引き返すことに決めた。 海辺でイモを浸して食べるオス 124 A.櫻庭陽子 Ⅴ.個人報告書 2 日は朝からどんよりとした天気で、 波もそれなりにあった。渡船業者が船を 出せないとのことだったので、鈴村さん に船を出していただき、全員でイモ洗い の様子を観察することができた。イモを 得た一部のサルたちは海のほうへ走って いき、イモを海水に浸して食べていた。 3、4年前のポケゼミでイモ洗いを観察 したときと比べて、イモ洗いをする個体 トレイに溜まった水でイモを洗うホタテ が多い気がしたが、残念ながら確かめる すべがなかった。面白いと思ったことは、α-male のホタテが、浜辺に漂着していたトレ イに溜まった水でイモ洗いをしていたことだ。修士 1 年の実習で、海水と真水の水溜りど ちらでムギ洗いをするかを実験したメンバーがいたが、ホタテはどちらでもムギ洗いをし ていた。また、そのときはシデというメスのニホンザルが、バケツに溜まった水でムギ洗 いをしたこともあった。トレイに溜まっていた水が海水か真水かを確かめていなかったの が悔やまれるが、イモ洗いの「塩味をつける」意味合いからでは海水の可能性が高い。そ れと同時に、これらのエピソードから、ふと「アフォーダンス」という言葉が浮かんだ。 幸島の場合、「溜まっている水」が一部のサルに「イモ洗いやムギ洗い」をアフォードし やすくしているのではないかと感じた。また、高齢の個体が見慣れないものを利用してい るのも面白い。好奇心や恐怖心を考えると、コドモやワカモノが利用してもよい気がする が、ホタテは臆せず使っていた。もしかしたら、長く生きているがゆえに、以前にも同じ ようにトレイでイモ洗いをした経験があるのかもしれない。 今回は一日だけで、さらに雤が降っている中での観察で大変残念だったが、何度観察し ても興味がそそられるのが幸島だと改めて実感した。 フィールドミュージアムでのテント泊 (3 月 4 日~5 日) 幸島でのテント泊がなくなってしまったため、観察所近く(徒歩 10 分ほど)にあったフィ ールドミュージアムという広場でテント泊をすることにした。電気がつくトイレ、水道、 東屋 3 棟があり、地面も水平で水はけもそこそこよかった。またニホンザルがよく近くに 来るようで、時折声が聞こえたり、糞が落ちていたり、実際に姿を見せることもあった。 広場は高台にあるため眺めはいいが、幸島が单側半分しか見られなかったことは残念だっ た(観光マップでは幸島が一望できるとうたっている)。今回のように幸島で宿泊できなか った場合、このフィールドミュージアムを活用できることがわかった。次回以降の計画作 りの際に参考になるだろう。 125 A.櫻庭陽子 Ⅴ.個人報告書 京都大学野生動物研究 センター幸島観察所 幸島 トイレ 見晴台 東屋 フィールドミュージアムの場所 フィールドミュージアム (Google Earth より) 感想・反省 今回は計画段階から反省すべき点が多かった。 ・バスの時刻表が変更されており、予定の電車に間に合わなかった ・悪天候の場合の計画を立てていなかった 私自身に「何とかなるだろう」という甘えた認識があったことも否めない。結局、それは その場その場の判断が多くなり、自分の首を絞めることにもつながった。そんなときに、 アドバイザーの大橋さんやサブリーダーの夏目君の存在は偉大で、何度も助けられた。今 回のセミナーより、今後の計画及びしおりの改善が必要であることがわかった。 ・最新のバス時刻表の掲載 ・悪天候の場合の予定の事前に討論、しおりへの掲載 ・リーダーやサブリーダーが事故にあったときなどの緊急マニュアルの掲載 ・携帯電話のつながりやすさ(場所及び電話会社)の確認 今回はケガも無くセミナーを終えることができたが、より安全に、楽しく過ごせるよう今 後につなげていきたい。 謝辞 このたびは多くの方に大変お世話になりました。幸島でのセミナーのご許可・ご指導し てくださった野生動物研究センターの幸島司郎先生、伊谷原一先生、杉浦秀樹先生、中村 美智夫先生、幸島観察所にてご指導いただいた冠地富士夫様、鈴村崇文様、引率及びアド バイスをしてくださった日本モンキーセンターの大橋岳様には、この場をお借りして感謝 申し上げます。ありがとうございます。 126 B.市野悦子 Ⅴ.個人報告書 妙高笹ヶ峰自然学セミナー報告書 岐阜大学 市野悦子 妙高笹ヶ峰自然学セミナーは今回で 3 回目となり、個人としては 5 回目の滞在となるが、 それだけ何回も行っていてもまったく飽きることがない。そして毎回思うことだが、セミ ナーで一番印象に残っているのが火打山登山である。 今回はメンバーを先発隊と後発隊にわけることはせず、先頭が私、最後尾が山本さんと いう隊列で進んだ。今年もあまり天候に恵まれず、予定通りに登山は決行したものの、雲 行きはあやしかった。今回の登山で一番難しかったと思ったのが、進むか否かの判断と、 衣類の調節だった。登り始めてすぐに雤が降り出したため、カッパを着用する必要がある と思った。しかし狭い登山道なうえ、11 人の大所帯であったため、きちんと止まってカッ パを着用するスペースをどこで確保するかでとても迷った。そう迷いながらも進んでいる うちに、だんだんと雤が強くなってきたため、結局中途半端なところで止まりカッパを着 用することになった。山本さんにも相談し、登山はそのまま続行することにしたが、私が もっと早く止まって判断していれば、皆をもっと濡らさずにすんだだろうと思うと、申し 訳ない限りだった。雤はその後しばらくして止んだのでよかったが、また登っていると暑 くなりカッパを脱ぎたくなったり、高度が上がると寒くなりまた着込みたくなったり、汗 をかいた服を着替えたりと、そのタイミングをはかるのに苦労した。さらに天候や足元も 悪いせいで、今まで以上に体力を消耗したのではないかと思う。それでも、山本さんや登 山に慣れている上級生のサポートや、下級生のがんばりのおかげで、無事に予定通り全員 が登頂することができた。登頂できたときは、うれしさもあったが安堵感でいっぱいだっ た。帰りは天候も安定し、無事に 16 時過ぎに下山してくることができた。 いろいろなことがあったが、この目標を達成できたことは、とてもすばらしいことだと 思う。山本さんを始めとして皆のおかげである。私は何回も先頭を務めて登っているとは いえ、まだまだ未熟であることを知った。荒天時の判断や、登山に慣れていない下級生を 考えた登り方やペース配分など、学ぶことが多くあった。また山本さんには、さまざまな アドバイスや注意をいただいた。今回もとてもよい経験になった。ぜひ来年度も無事に登 山できるように、しっかりと準備を進めていきたい。そして今度こそ天候に恵まれて、火 打山にも妙高山にも登ることができればいいなと思う。 最後に、 このセミナーが目的を達成して無事に終了することができたのは、グズラさん、 山本さん、そしてポケゼミ生の皆の協力のおかげである。とても感謝している。 127 B.市野悦子 Ⅴ.個人報告書 1 年間のまとめ 岐阜大学 市野悦子 今年度のポケゼミでの活動としては、昨年度から引き続き、のいち動物園での NN 観察 と、東山動物園での実験を中心におこなった。のいち動物園での双子チンパンジーの NN 観察は、2010 年の 11 月から始め 2012 年 3 月まで、およそ 1 年と 4 カ月続けている。私 はこの観察を卒業研究につなげ、「チンパンジーの双子の成長に伴う社会関係の変化」と いうテーマで調査をおこなった。観察方法やデータのまとめ方を試行錯誤しながらの調査 であったが、先生方のご指導や、ポケゼミ生、動物園の方々のご協力により、より多くの 時間をかけてチンパンジーの観察をし、多くの貴重なデータを収集することができた。こ の観察をおこなっていて特におもしろかったのが、双子の行動とその違いである。ポケゼ ミで活動するようになって 4 年目となるが、ここで観察をおこなうまで、小さい子どもの 観察をしたことがなかった。初めてじっくりと観察し、チンパンジーの子どもはずっと活 発に遊んでいて、見ていてとてもおもしろかった。またそれぞれの群れの他個体との関係 には違いがあり、興味深かった。今後観察を続けることで、さらに変化が見られるだろう。 とても楽しみに思う。 東山動物園での活動では、実験操作やチンパンジーとのコミュニケーションをさらに勉 強することができた。実験器具がしばしば不具合を起こすことがあり、それを放置せずす ぐに修正し、積極的に実験操作を勉強すべきであったという反省があった。また 7 月には、 昨年度に熊本サンクチュアリから転出してきたカズミの出産があり、子どもはリキと名付 けられた。リキはカズミにしっかりと抱かれてすくすくと育ち、今では活発に遊び、他個 体の背に乗ることも見られるようになった。前述したように、小さな子どものチンパンジ ーを観察したことがなかったのが、この 1 年間で、東山動物園のリキとのいち動物園の双 子とを観察でき、とても幸運だったと思う。実に貴重な経験をさせていただいた。 この 1 年は、卒業研究を含め、のいち動物園や東山動物園での活動に集中し、さまざま な経験を積むことができ、とても充実した 1 年だった。しかしその間、霊長類研究所での 活動が減り、アユムたちの観察や後輩を指導する機会などが減ってしまったのは心残りで ある。さらに今年度は、ポケゼミの活動を見直す機会があった。その問題のひとつの反省 点として、私は情報共有が足りなかったのではないかと思う。つまり、コミュニケーショ ンである。ポケゼミではさまざまな活動をおこなっているが、そこに関わるすべての人や チンパンジーたちとの関係において、基本でありとても重要なことであると思う。「なん となく」にはせず、何事も確実に、積極的に関わっていかなければならない。来年度から は霊長類研究所で勤務させていただき、さらに学生ではない立場からポケゼミに関わるこ とになる。自分のことも、ポケゼミのことも、基本を忘れず今までの活動とその反省をふ まえて、よりよい行動ができるようがんばっていきたい。 128 C.夏目尊好 Ⅴ.個人報告書 2012 年 3 月 20 日 1 年間のまとめ 岐阜大学 夏目尊好 今年度は、ポケゼミの最高学年としてさまざまな場面で判断を求められることが多い 1 年間であった。 普段の活動はもちろんのこと、各セミナーでの活動を決定することもあり、 昨年までとは責任感が違った。また、RRS でのニホンザル観察も 3 年目になり、これまで の観察の結果を分析して、これまでの観察をまとめた。 妙高自然学セミナーでは、火打山への登山を開始してすぐに前日の天気図からの予想と は異なり雤が降ってきた。このまま登山を続行するのか、安全確保のために引き返すのか すぐにパーティーリーダーであった市野と私に判断が求められた。昨年度までならば、こ のようなパーティーの進退を決める重要な判断は先輩がしてくださった。しかし、今年度 は 4 年である私が判断しなければならず、その責任の重さを感じずにはいられなかった。 結局、雤は弱まると判断し登山を続行して無事に火打山に登頂することができたのだが、 このとき初めて最高学年として後輩を引率することは、非常に大きな責任を伴うことであ ると実感した。幸島自然学セミナーにもサブリーダーとして参加した。あいにくの天気で 幸島には日帰りでしか滞在することができなかったため、予定を変更して活動することに なった。何度もミーティングをおこない、空いている時間を有意義に過ごす方法を考えた。 メンバーとして意見を求められることもあったが、今回の幸島セミナーの最大の仕事は出 されるさまざまな意見の調整だった。パーティーメンバーが出す意見を統合し、まとめて 皆が納得する予定を決定することに力を使った。これも昨年までなら私は意見を出すだけ で、全体をまとめることは先輩がしてくださったことだった。このように今年度は、昨年 度までとは異なった役割をこなすことが多くとまどうこともあったが、なんとか務めあげ ることができた。それは、同じ学年の仲間のサポートがあったからであり、これまでのポ ケゼミの先輩方が示してくださった行動があったからこそだと思う。私も先輩方と同様の 姿勢を後輩たちに見せることができていたならば、光栄である。 今年度は、これまで 3 年間の RRS 観察をまとめながら、研究の苦労や楽しさを味わう ことができた。今年度は大学の卒業研究もあり、SAGA でしか発表することができなかっ たが、SAGA の発表ではこれまでの分析とは尐し異なった視点から分析をおこなった。固 形飼料洗い行動の獲得時期とニホンザルのあかんぼうの発達時期を組み合わせて分析した のだが、そのためにいくつかの文献を読み、資料を集めた。昨年までは、ただ結果を提示 しそこから考察するだけであったが、今年は文献から知識を得たことで発表内容に厚みが 出た気がした。まとめるのは大変だったが、納得のいくポスターを作り上げることができ た。そして SAGA の当日には、毎年、観察を継続し、その結果を発表していることを褒め ていただいた。私の発表を毎年気にかけてくださる方がいたことに感動した。それを知っ たとき、観察を継続してきて良かったなと心から思った。 今年度で岐阜大学を卒業するが、自然学ポケゼミには今後も関わっていけることになり そうなので、来年度からは後輩の育成に力を注ぎ、ポケゼミをより良い活動にしていきた いと思う。 129 D.藤森唯 Ⅴ.個人報告書 2012 年 3 月 20 日 1 年のまとめ 岐阜大学 藤森唯 今年度の活動は、高知県立のいち動物公園での双子チンパンジーの観察と名古屋市東山 動物園のパンラボで放映されている紹介ビデオの更新作業を为におこなってきた。 のいち動物公園では、2009 年 4 月に生まれた双子のダイヤとサクラの NN 観察をおこ なってきた。昨年度の 11 月から双子の成長を追う中で、双子の成長に伴う行動の変化は もちろん、周囲のおとな個体の変化も見られ非常に興味深かった。特に、観察を開始した 当初は双子たちと関わろうとしなかった個体たちが、双子たちと遊ぶようになったという 変化がおもしろいと思った。そして同時に、あかんぼうやこどもを含め、群れ内の年齢層 に幅があることの大切さを感じた。双子は 1 日の大半を遊んで過ごしていたが、そこにお とな個体を巻き込んでおり、群れ全体を通して幅広い行動や交渉が見られた。動物の本来 の行動を引き出すためには、物理的な環境だけではなく、社会的な環境を整えることも大 切であることを改めて学ぶことができた。 パンラボのビデオ更新作業では、今年度は 4 回更新をおこなうことができた。このビデ オは一般の来園客に見てもらうということで、見やすさやわかりやすさに気をつけて作業 をおこなってきた。また、今年度はあかんぼうが生まれたこともあり、可能な限り更新を して、お客さんに興味を持ってもらえるよう努めた。しかし、こうしてビデオを通してパ ンラボや東山のチンパンジーの紹介をする立場であったにもかかわらず、今年度はほとん ど観察に行くことができなかった。チンパンジーたちの様子は、実験をおこなっている人 たちに聞いており、自分の目で確かめたことを伝えるということができなかったことが反 省点である。 また、2 月末から 9 日間、マレーシアで長期研修をさせていただいた。日本では、もち ろん動物園でしかオランウータンを見たことがなかった。日本の動物園にいる個体の多く は狭い飼育空間で卖独飼育されており、ほとんど動かないという印象が強かった。一方で マレーシアのオランウータン島には、一部狭い飼育エリアもあったが、オランウータンた ちが走り回れるだけの空間と高い木がある放飼場があり、年齢層も広かった。また BJ 島 では、人の介入はあるが、オランウータンたちは森の中で生活していた。そうした環境下 では、オランウータンたちは意外と動いており、正直驚いた。今回の研修の中で、オラン ウータンがどのように体を使って動くのか、どのように他個体と関わるのかを見ることが でき、チンパンジーと正反対の面もあれば似ている面もあることを知ることができ、非常 におもしろく、勉強になった。特に BJ 島で森の中での行動やネストを見ることができた ことは大きかった。チンパンジーやオランウータンが樹上につくるネストに以前から興味 があったため、今回自分の目で見ることができて良かった。また、森で生まれ、現在も元 気に育っているウィリアムの今後が非常に楽しみである。 4 年間ポケゼミの活動を続けてきた中で、チンパンジーをはじめとする動物のことと、 そうした動物を研究する・飼育する・保護するということはどういうことなのかを学ばせ ていただいた。松沢先生をはじめ、思考言語分野の先生方、多くの関係者の皆様に心より 130 D.藤森唯 Ⅴ.個人報告書 感謝すると同時に、ここで得た知識と経験を次はチンパンジーの健康と幸せを実現させる ために活かしていきたいと思う。 131 E.水野佳緒里 Ⅴ.個人報告書 2012 年 3 月 18 日 4 年間の感想 水野佳緒里 4 年間ポケゼミで活動することができて本当に良かった。そう思う理由の一つは、3年 生の時から東山動物園でゾウの観察を継続的におこなったことである。アジア・アフリカ ゾウをそれぞれ 1 日 1 時間ずつ隔週で、ビデオを用いて記録した。松沢先生と足立先生が 日報の確認や、 アドバイスをしてくださり、それが観察の励みになった。3 年生では、COP10 と SAGA13 にて、ゾウの行動レパートリーについて、4 年生では SAGA14 にて、日本の ゾウの飼育状況についてポスター発表をさせていただいた。特に SAGA14 では、多くのゾ ウの関係者の方が聞きに来てくださったため、とても嬉しかった。また、「ゾウの卒業研 究をする」という目標も達成することができた。これは 3 年生からの観察経験があったた めに実現できたことである。 毎週日曜日にある、思考言語分野の先生のレクチャーでも多くのことを学べた。大変印 象に残っているものの一つは松沢先生のお話で、「間違ったことをしている人に、ただ間 違っていると指摘するのは良くない」という教訓を教わったことである。ただ否定するだ けではなく、どこがいけないのかをわかりやすく説明したり、解決策や、妥協策を見つけ ていくべきだということだった。私は、研究者と飼育員とのやり取りで対立する場面を何 度か見たことがあり、そのたびにこの教訓を思い出した。自分の意見をわかりやすく説明 したり、相手の为張を受け入れた上での妥協策を見つけるのは大変なことだと思うが、多 くの知識を身につけ、それができるような人になりたいと思った。 SAGA をはじめとするいくつかの講演会に参加させていただいたことも、良かったこと の一つである。講演では様々なことを学べたが最も印象に残っていることは、チンパンジ ーの生息域や、その周辺に住む人々も、日本に住む私たちと同じような生活をしたいと思 っていることである。私たちは贅沢に暮らしていることを認識した上で、保全を为張しな ければならないと感じた。 また、人はヒト科に属しており、特別な動物ではないということも 4 年間かけて理解す ることができた。私は 1 年生の頃は、「人は自然の一部である」という松沢先生のおっし ゃった言葉をなかなか受け入れることができなかった。しかし、チンパンジーの観察をし て人との類似点を発見したり、 レクチャーなどで認知面での類似点を学んだりすることで、 人とチンパンジーはとても似ているということを実感できた。また、シーケンスのマスク 課題をアユムが軽々とこなす様子を見て、チンパンジーは人に出来ないことができるのだ ということも実感した。また、4 年生で行動生態学を学んだこともあり、動物は適忚度を 高めるために、それぞれが独自のすばらしい能力を身につけたのだと思い、人は決して特 別な動物ではないと心から思えるようになった。 これらの他にも、様々なことを経験したり、学んだりすることができた。4 年間、ポケ ゼミで活動をさせていただいたことに、大変感謝している。 132 F.木村元大 Ⅴ.個人報告書 妙高自然学セミナー個人報告書 岐阜大学 3 年 木村元大 妙高自然学セミナーも今年で 3 年目、私は 3 回目の参加になった。初めてヒュッテを訪 れた時は、自然の中にある小屋という印象を受けていた。しかし、3 年目ともなると夏に 必ず帰ってくるべき存在に変わった。 今年のセミナーは全員で 10 名の参加となった。そのうち 1 年生は 3 人だった。1 年生 が为体である自然学ポケゼミにおいて、1 年生が尐ないのは大変残念であると思う。2 年 前に自分が 1 年生の時に同期生とともに初めて計画した妙高自然学セミナーは、今になっ てはとても大切な思い出となっている。今ま でなかった経験をして、自分自身を成長させ ることができたセミナーでもあった。だから こそ多くの 1 年生をこうした自然学セミナー に参加してほしいと思う。上回生は 1 年生を サポートすることが役割であるが、何度も自 然学セミナーに参加すると毎回違った刺激を 受けることができ、上回生にとっても自分を 成長させるのによい機会となると思う。 今回のセミナーでも火打山登山をおこなっ 下山途中の風景 た。昨年は 2 班に分かれて登山をおこなったが、今年は 10 人のポケゼミ生と山本宗彦さ んの計 11 名が一つのパーティーとして登山した。さすがに 3 年目になると体力的に登頂 できるかどうかはほとんど心配していなかったが、天候はあまり良くなく、登山中に一時 雤も降りだした。登山が中止になるのかどうか難しいところだったが山本さんと市野先輩 の判断で登山は続行した。無事に全員が登頂し、下山の途中で先頭役を担った。先頭をや ると登山の難しさを改めて感じた。まず自分の安全のことを考えなければならない。そし て次に後ろにいる人たちのことを考えなければならない。またそれらを瞬時に判断してい かなければならない。自分は登山の経験が尐ないから、こうした経験も尐ない。先輩方を 見ていれば会得できるものでもないし、実践しないとわからない。しかし、昨年、今年と 先頭をおこなって思ったのは、実践すれば自信がついてきたと感じた。 今回のセミナーでは、今までセミナーにはなかった企画が 2 つあった。まず一つがナイ トハイクだ。みんなでヘッドライトや懐中電灯を持って、夜のヒュッテ周辺を散歩した。 天気がよく、雲がなかったら一面の星空だったが、この日は残念ながら曇空だった。林の 方を懐中電灯で照らしてみたり、耳をそばだててみたりしたが、ほとんど野生動物の気配 はわからなかった。しかし、その後タヌキらしき動物の目が懐中電灯の光が反射して光っ ているのは見ることができた。だが、写真に収めることはできなかった。 もう一つはいもり池・妙高ビジターセンターを訪れたことだ。いもり池ではあまり天気 には恵まれなかったが、水面に映る妙高山を見ることができた。また妙高ビジターセンタ ーでは、笹ヶ峰ビジターセンターよりも資料や展示が充実しており、妙高の自然につい勉 強になった部分が多かった。 133 F.木村元大 Ⅴ.個人報告書 今回のセミナーでは、天候に恵まれなかったものの一年生を中心に上回生も含め、多くの こと経験することができたセミナーとなった。来年の夏は妙高を訪れることができないか もしれないが、もしできるようであれば、今年より充実したセミナーにしていきたいと思 う。 134 F.木村元大 Ⅴ.個人報告書 SAGA14 個人報告書 岐阜大学 3 年 木村元大 SAGA14 は熊本市で開かれた。今年 3 月にサンクチュアリ宇土で研修したばかりで、夜 行バスで熊本に到着した時は尐し懐かしさを感じた。会場となった熊本市動物園も研修中 に藤澤先生に連れてきてもらっていた。チンパンジーたちは、3 月の時は外のタワーに放 飼されていなかったが、今回の SAGA14 では外のタワーに放飼されていた。2 日目の朝観 察した時は、思っていたよりもチンパンジーたちは活発にタワーを利用していた。 今回の SAGA14 の講演で一番印象に残ったのは松阪さんの「野生チンパンジーの水を用 いた遊び」という講演だった。チンパンジーは水が苦手であるし、過去に動物園でチンパ ンジーが水堀に落ちて溺死したという事件もあった。そのため、私はチンパンジーと水は けして相性の良いものではないと思っていたからだった。しかし、松阪さんの講演のスラ イドやビデオクリップを見ると、チンパンジーの遊びの 1 つとして水も関わっていた。し かも楽しそうだった。水にも関わらず野生のチンパンジーは自然で遊ぶ。穴があれば入る し、木からツルが垂れていたらつかまって遊びだす。ヒトのように遊び道具があって遊ぶ のではなく、周囲の自然を遊びに変化させていた。だから自然の 1 つである水も遊びの対 象となるのだ。特にこれは遊びに限ったことではなく、男性のディスプレイなどにも当て はまる。自然の中で生きているから、自然のあらゆるものを使う。野生では当たり前のこ とかもしれないが、私はとても興味深いと感じた。 分科会では、「日本のチンパンジーの将来を考える」に参加した。過去 2 回の分科会に も参加しており、日本のチンパンジーがいかに危機的状況であるかは理解してきた。しか し、現状の問題は本当に難しいものばかりである。亜種の問題や飼育施設の問題、どのよ うな方向で行くのか話すだけでも会場はとても盛り上がった。ただ時間が尐なく、十分な 話がまとまることできていないのが残念である。せっかくチンパンジー研究者や飼育関係 者が一同に集まっているのであるから、もっと時間使って話した方がきっと問題に対して の対処がより早くなるのではないかと思う。 ポスター発表では昨年に引き続き東山動物園のチンパンジータワーの利用率について発 表した。昨年はうまく説明できず、今年こそと考えていた。しかし思い通りにはいかず、 空回りをしてしまった感じになってしまった。人に伝える技術が足りないと情けなくなっ てくる。もっと何を伝えたいのか、どのように伝えるべきか考えなければならないと感じ た。 来年の SAGA15 は札幌市で開かれる。SAGA が始まって以来、初めての北海道での開 催だ。私は北海道出身ということもあって、充実した会になってほしいと思う。また、SAGA に北海道の動物園関係者があまり積極的に参加していないと感じているので、この機会に ぜひ多くの人にチンパンジーのこと、SAGA のことを知っていただきたいと思う。私は来 年参加するか決めかねているところだが、もし参加できるのであれば参加したい。 135 F.木村元大 Ⅴ.個人報告書 幸島自然学セミナー個人報告書 岐阜大学 3 年 木村元大 今回の幸島自然学セミナーは天候に恵まれず、実際に幸島に渡ってニホンザルを観察し たのは、3 月 2 日の日中のみだった。島内泊も今回のセミナーではできなかった。ニホン ザルの観察では、イモ洗いやムギ洗いを観察することはできた。しかし、事前に決めてい たテーマに沿う観察はほとんどできなかった。また、観察中も時折、雤が激しくなった時 もあった。自然の厳しさの前には自分たちが成す術などなく、ただ風雤を小さな背中に受 け、懸命にイモやムギを拾っているサルたちの姿を見ることしかできなかった。 ニホンザルの観察時間、また島内にいる時間が予定より も減ったため、予定の大幅な変更が余儀なくされた。自然 を相手にするセミナーであるから、天候や状況によって変 更しなければならないのは当たり前である。1 か月以上前 から立てていた予定通りに進む方が難しい。しかし、今回 のセミナーでは、そうした覚悟あったにも関わらず、幸島 に渡れなかった時のことをあまり考えていなかった。これ は計画の段階で不備であった。また、それらの点について きちんと参加者で話し合っていなかったからだと私は感じ イモをほおばるニホンザル た。 今回のセミナーでは反省すべき点が多かった。その中でも一番反省すべき点だと思うの がセミナーの計画不足であると思う。1 年生は昨年の報告等からセミナーの予定を立てる。 上回生はそれを確認して、セミナーの準備を 1 年生とともに始める。この段階でもしもの 場合について、話し合うことができていれば今回のセミナーも充実したものになったので はないだろうか。1 年生に対して、十分に上回生がいたのにこのような結果になってしま ったのは、自分を含め上回生に責任があると思う。さらに言えば、個人的には 3 年という 立場であったのだから、1 年生の指導は 2 年生に任せて、先輩方といろいろと話し合うべ きだったと感じている。後輩の指導ばかり意識していたため、先輩方との連携が希薄にな ってしまった。 反省が多かった今回のセミナーだったが、評価できる部分もあった。1 つは誰一人けが なく無事に帰ってきたこと。当たり前かもしれないが、これは絶対に達成しなければなら ないことである。このことが確実に達成されていくからこそ、幸島セミナーは毎年おこな うことができる。もう一つは1年、2 年が日々の料理やテント設営などを積極的におこな ったことであった。先輩方の指示に従うばかりではなく、自分たちでどうするべきかよく 考え行動していたと思う。 今回のセミナーを通じて、全体でも個人でも反省すべき点はきちんと反省して、来期に 生かしたい。また今回の経験は、これまでの自然学セミナー以上にいろんなことを考えさ せられるものだった。ぜひ自分の成長や今後のポケゼミに役立てていければいいと思う。 136 G.島田かなえ Ⅴ.個人報告書 SAGA14 報告書 岐阜大学 3 年 島田かなえ SAGA14 は、熊本での開催であった。熊本を訪れるのは、CSU(現、KS)で活動させてい ただいて以来だった。いつもの SAGA は、1 日目は大学、2 日目は動物園での開催なので あるが、今回は 2 日とも「熊本市動物園」での開催となった。今回、私たちは、運営のお 手伝いとして、SAGA の運営のお手伝い(ビラ配りなど)をさせていただいた。運営のボラ ンティア担当の熊本市動物園の担当の方は、とても親切で、仕事もとてもしやすかった。 また、今回の SAGA はそのような雰囲気の大変良い動物園での開催であったためか、とて もアットホームで活気の良い会であった。昨年の SAGA は横浜という中心地での開催であ ったため、とても人が多かったというイメージだったが、今回の SAGA は、熊本という日 本の首都から外れた地での開催でありながら、とても参加人数が多かった。 私は、今回、今年の 6 月からずっと取り組んできた東山動物園での観察についてポスタ ー発表をおこなった。初めての研究(そう呼べるものかどうかは別として)の内容でのポス ター発表だったので、とても緊張した。実習でお世話になった、わんぱーく高知の久川さ んや、岐阜大学の先生である松村先生などに聞いていただくことができ、貴重なご助言も いただくことができた。はじめての研究であったため、抜けも多く、至らない部分も多か ったと自分でも思っていたので、ご助言をいただくことができたのは、とても有意義であ った。他の人のポスター発表では、セレスさんのポスター等が印象に残っている。セレス さんは、チンパンジーの群れ作りに専門的に取り組まれてきた方で、チンパンジーをいか にして群に導入するかについて発表されていた。施設的にも、またソフト面でも工夫され ている部分がたくさんあり、お聞きしていてすごいなと思った。また、疑問を持った部分 や、もっとお聞きしたいと思った部分もたくさんあったのだが、私の英語力がいたらない ばっかりに、色々な部分ではがゆい思いをした。しかし、そんな私にもセレスさんは一生 懸命に耳を傾けて下さった。幸い私は、卒業研究を熊本サンクチュアリでさせていただく ことができそうである。セレスさんは、熊本サンクチュアリにいらっしゃるので、KS で お世話になるまでに、私の英語力を Brush up させておこうと心に誓った。 講演は、とても興味深いものばかりで、ヒト科 4 属への理解も深まった。また、日本の チンパンジーの将来を考えるという分科会では、相変わらず、日本のチンパンジーの将来 を考えるヒトが集まっており、その白熱した議論に圧倒された。私は、いつか、チンパン ジーの飼育に関わりたいと思っている。この会に参加されていた人たちのように、チンパ ンジーの将来を本気で考えられる人たちになりたい、心からそう思った。 熊本市動物園を見学する時間は尐なかったが、新しくできたというチンパンジーの施設 は、素晴らしいなと思った。施設には、生木が植えられていた。チンパンジーは、その生 木をよく利用している様だった。私は、野生のチンパンジーを見たことはないのだが、野 生で暮らすチンパンジーはこんな感じであるのかなと思った。 137 G.島田かなえ Ⅴ.個人報告書 妙高合宿報告書 岐阜大学 3 年 島田かなえ 今回が、3 回目の妙高合宿だった。今回の活動で印象に残ったのは、やはり登山、そし て山本さんの存在であった。天候がなんとか持ち、予定通りに登山をおこなうことができ た。私は、「火打山」に登るのも 3 回目であったが、3 回生として、下に 2 学年の下級生 がいて、やはり責任が昨年よりあるのではないかと感じた。実際に、下りでは私が先頭に なることもあり、ペース配分など、気を配らなければならない部分あった。ただ、危険な 方法をとっている後輩をうまく注意できない部分もあり、その点では未熟さを感じた。そ んな私たちを支えて下さったのは、山本さんであった。山本さんは、ご本人がおっしゃっ ていた通り、私たちの安全が 100%守られるように行動して下さった。特に、山道の歩き 方やカッパ装着のタイミングなど、素人の私たちが判断に迷う時は、後ろから即座に声を かけて下さった。そんな、山本さんの言葉でとても印象に残っているのは、「前の人の後 に続いて歩く大切さ」である。なぜ、先頭の人が、その道を歩いているのかを考えなけれ ばならないと山本さんはおっしゃった。先頭を歩く人は、その道を歩くのに命をかけて、 選んでいる。その道に何が待ち受けているか見当がつかないからだ。後ろの人は、その先 頭の人が安全に通った道を通れば、間違いがないということだ。今回のような舗装された 山道では、もし先頭の人が歩いた道を歩いても間違いはない。しかし、雪山を想定した場 合、その危険度は一変してくる。山本さんも、雪山で後輩が事故に遭うという経験をされ たそうだ。雪山は、それだけコース選択に気を遣う場所であるのだ。私は、今回のような 登山でも、それを心がけて臨むべきなのだと思った。山本さんは、言葉一つ一つの裏にそ のような深い経験をお持ちであり、 本当にその言葉一つ一つに価値が有った。山本さんが、 お帰りになる前にお聞きしたお話は、松沢先生とチョゴリザの登頂を目指されたお話だっ た。登頂を控えたあと一歩のところで、登頂を断念されたそうだ。それだけの価値を捨て てまでも、やはり守らなければならない命がある。お話をお聞きしていて、そういう点を かみしめることができた。そして、「自然」に挑むことの厳しさ・険しさを学んだ。 妙高での暮らしは、快適だった。名古屋にいてはやる気にならなかった、東山チンプの データ処理もずいぶん進めることができた。ここでは、テレビもなく、時間がゆっくり流 れている。浮世とはかけ離れた生活ができ、とても充実した日々を過ごすことができた。 また、普段はまったくといっていいほどしない、料理もする機会があり、自炊の醍醐味み たいなものも学んだ。もう尐し、家でそういうことをしてみようという気分になった。そ ういう快適な生活を送ることができたのも、“グズラ”さんや、他のポケゼミ生のおかげ だと思っている。ポケゼミ生とは、普段の活動ではできないようなお話をすることもでき、 それもとても有意義であったと感じている。もう、妙高合宿に参加することはないであろ うが、今後参加するポケゼミ生には私のような快適な生活を送ってほしいと思っている。 138 G.島田かなえ Ⅴ.個人報告書 1 年間のまとめ 岐阜大学 3 年 島田かなえ 今年度の活動は、東山動物園での活動がメインだった。昨年度から続けてきたパンラボ の実験に加えて、今年は研究をおこなうこともできた。研究は、今までで初めての試みで あったし、先行の観察等がなかったため、色々と大変なことも多かった。観察方法やデー タの処理方法については、足立先生にたくさんのアドバイスをいただいた。また、卒業研 究を東山のチンパンジーでおこなわれた櫻庭先輩にもアドバイスをいただくことができた。 そのため、とても充実した観察をおこなうことができたと感じている。観察は、「パンラ ボの利用率とチンパンジーの行動」に注目しておこなった。今までに、パンラボの人間側 への影響を調査したことはあっても、チンパンジー側にどのような影響があるのか調査し たことがなかったため、今回の観察でそれについて尐しでも知ることができて良かったと 思う。観察は、毎日 1 時間おこなったのだが、東山のチンパンジーはパンラボの実験で見 ることはあっても、なかなかそんなに長時間観察することは無かった。そのため、東山チ ンパンジーたちの様々な顔を見ることができ、良い機会であったと思う。観察期間中には、 カズミというチンパンジーに赤ちゃん(リキ)も生まれた。私は、チンパンジーの赤ちゃん を見るのが初めてで、 初めて見た時にはなにか他の生き物を見ているような感覚があった。 生まれたばかりの時には本当に今にも壊れてしまいそうで、何か起こるたびに見ているこ ちらがどきどきしたものだが、観察に訪れるたびに成長しており、本当に観察するたびに リキの成長を見るのが楽しみでしかたなかった。これからも、リキの成長を見ていきたい と思っている。これで、東山での活動はちょうど 2 年になる。今まで、足立先生を初め、 東山動物園の飼育員・獣医の皆さんには、本当によくしていただいた。そのおかけで、色々 な活動ができたと感じている。本当に感謝の気持ちでいっぱいだ。 東山に通い詰めていた分、後輩指導などの通常の活動にはあまり、参加できなかった。 妙高自然学セミナー、SAGA には参加したが、セミナー準備やそれに伴う指導は、先輩方 や後輩、また同級生に頼ってしまった。本当に申し訳なかったと感じている。SAGA では、 初めて研究の内容でポスター発表をおこなった。研究ポスターの作成は初めてだったので、 どうやったら自分の为張が上手く伝わるか考えながらの作成がとても難しいなと思った。 しかし、この機会に効果的なグラフの作成方法等について学ぶこともできた。この経験を 今後の卒業研究などに活かしていけたらと考えている。また、発表では、色々な方に聞い ていただくことができた。短期的な観察であったり、まだ未熟な観察であったため、答え られない部分も多々あったが、そのように指摘していただけたのも、本当に良い機会とな った。指摘点を次の研究に活かせたらと思う。 今年度は、来年度に向けての準備となるような活動をすることができた年度になったと 思う。また、SAGA 等で色々な人と出会い、様々なアドバイスを受けることができた。本 当に実りの多い年度になったと感じている。来年度は、ポケゼミ生としての集大成になる ような活動ができたら良いなと考えている。 139 H.鈴木健太 Ⅴ.個人報告書 SAGA14 個人報告書 2011 年 11 月 12,13 日 鈴木健太 140 H.鈴木健太 Ⅴ.個人報告書 【はじめに】 2011 年 11 月 12 日と 13 日に熊本県熊本市動物公園で SAGA14 が開催された。ポケゼ ミ生は今年も SAGA に参加させて頂いた。私が SAGA に参加するのは今回で 3 回目とな る。3 回目といっても、SAGA は毎回開催地が変わり、内容も変化があるため、何度参加 しても新鮮に感じる。今回のシンポジウムで感じたことを記したいと思う。 【講演】 今回の SAGA14 のテーマは「水と生きる」がテーマであったため、水に関連した講演が 多かった。どの講演もとても興味深かったが、一番興味をそそられたのは、松阪さんの「野 生チンパンジーにおける水を用いた遊び」についての講演だった。水を嫌うチンパンジー だが、若齢個体では水を用いた遊びなどをすることがあることは知っていて、その映像も 見たことはあった。しかし、 水を用いた遊びがとてもヴァリエーション豊かだとは知らず、 今回の講演で流されたビデオを見て、とても驚いた。また、水を介して社会的行動がみら れるのも面白いと感じた。他にも、分科会での本田さんの講演も興味深かった。カバを江 津湖に放つのは、とても問題や課題が多そうだが、夢のある話だと感じた。 【ポスター発表】 ポスター発表も今回で 3 回目だった。 今回は「東山動物園のチンパンジーにお ける認知実験参加率の変動」という演題 でポスターを作成して発表した。東山で 認知実験を続けるうち、個体によって正 答率や実験への参加率に大きな変動がみ られたように感じられたため、この演題 を選択した。 ポスターは SAGA の数日前には完成 し印刷できたため、前回の反省を活かし て、今回は事前に発表の練習をおこなっ ていた。しかし、実際に聴きに来てくれ た方に話そうとすると、あがり性なのも あって中々うまくいかず、しどろもどろ になってしまった。もっと練習するべき だったかもしれないと感じた。しかし、 去年よりはうまく発表することができた と感じたため、場数を踏むことによって もっと上手く発表できるようになるかも しれない。人前で発表するのは苦手であ り好きではないが、場数を踏むために、 発表したポスター もっと積極的に発表するべきだと感じた。 141 H.鈴木健太 Ⅴ.個人報告書 今回のポスター発表では松沢先生の計らいでポケゼミ生一人一人に iPad が配給されて いた。私は iPad に東山でチンパンジーが認知実験をおこなっている様子を映したビデオ や、実験の結果のグラフなどをいれておいた。一つ一つのグラフの詳細な説明をするため や、導入としてビデオを見せ興味をひかせるために使用したりすることができ、とても役 立った。ただし、高価なものであるため、持ち運びがとても怖かった。今回の発表では iPad を補助として使用したが、配給されて日が浅かったため、ほとんど使いこなすことはでき なかった。使用用途は多岐にわたり、とても役にたつツールだと思うため、使いこなせる ようにして、次回以降はより活用していきたいと思う。 今回はハンドアウトを入れたクリアファイルの中に、私が撮影した東山のチンパンジー たちの写真(为にリキ)を試験的に入れておいた。ハンドアウトと共に写真はもらわれて いったようで、個人的にはとてもうれしかった。次回以降は個体の紹介分を載せた紙や写 真などを入れてもよいと思った。 【懇親会】 今まで参加してきた SAGA の中で、料理は一番豪華で満足できたと思う。熊本の特産品 がたくさん用意してあり、どれもとても美味しかった。また、種類だけでなく量も豊富で、 腹を満たすことができた。また、多くの方から貴重なお話も聞くことができた。 【KS 訪問】 二年生の春休みに研修に行って以来、二度目の KS 訪問だった。プログラムの都合上、 短い間しかいられなかったが、久しぶりに KS のチンパンジー達や職員の方々に会えて嬉 しかった。しかし、チンパンジーの中で一番好きなリナに会えなかったのは、とても残念 だった。4 年生は卒業研究や就職活動があるため、どうなるかはわからないが、長期休暇 には再び KS に研修に来たいと思った。 【最後に】 SAGA では、今まで知らなかった霊長類の知識を得たり、研究者や動物園関係者の興味 深い話を聞いたりすることができるため、毎回参加するのが楽しみである。また、懇親会 などで動物園関係者と知り合えるのも楽しみの一つである。さらに、毎回違った地で開催 されるため、その土地の風土を知ったり、特産品を食べたりすることができるのも楽しみ の 1 つだ。次回の SAGA15 にも是非参加したいと考えている。今から行くのがとても楽 しみだ。SAGA15 は北海道の丸山動物園でおこなわれるとのことで、秋でも寒いと考えら れるため、防寒対策はしっかりしていきたいと思う。 142 H.鈴木健太 Ⅴ.個人報告書 1 年間のまとめ 岐阜大学 3 年 鈴木健太 今年度の活動は、霊長類研究所と東山動物園でおこなった。为な活動場所を東山動物園 とし、チンパンジーの観察と、認知実験をおこなった。東山でチンパンジーを間近で観察 し、その行動や表情を見ることができ、チンパンジーへの理解を深められたと思う。今年 は 7 月にリキが生まれた影響で、東山の群に活気が生まれた。リキの成長と周りの個体と の関係の発展がとても気になったため、重点的に観察した。 霊長類研究所では、チンパンジーの観察、東山で撮影したビデオや写真の加工などをお こなった。今年は霊長類研究所で活動する頻度が低くなったしまった。日曜日に東山や他 の予定が入ってしまうことが多かったのも原因の一つである。そのため、ポケゼミの進行 を 2 年生に任せてしまったり、1 年生が作成した資料を添削できなかったりした。 今年は私用が重なってしまったり、予定が合わなかったりと、ポケゼミのセミナーにほ とんど参加することができなかった。それが今回の大きな反省点の一つである。また、長 期休暇にどこかに研修に行くこともできなかった。来期には 4 年生となり、卒業研究や就 職活動などで忙しいため、どこまで参加できるかはわからないが、積極的にセミナーには 参加したいと思う。 143 I.秋吉由佳 Ⅴ.個人報告書 妙高笹ヶ峰自然学セミナー 個人報告書 (2011.8.29~2011.9.4) 岐阜大学 2 年 秋吉由佳 144 I.秋吉由佳 Ⅴ.個人報告書 1.移動 8 月は最終バスが運行していたため、特急列車を使わずに 妙高高原駅に行くことができた。特急電車を使わなかったた め、青春 18 切符を利用することができた。青春 18 切符は 2300 円で JR が 1 日乗り放題になる特別な切符だ。2300 円 と言う低価格も魅力的なのだが、何よりも乗り降りが自由と いうのがとてもよかった。中津川駅で乗り換えの際には、時 間があったため、1 度駅から出て駅前の土産物屋で栗きんと んソフトクリームを食べた。(写真 1)中津川の栗きんとん は有名だが、季節限定なので売られていなかった。それは残 念だったが、ソフトクリームはおいしかった。松山駅でも乗 写真 1 り換えをした。松山駅でも一度駅の外へ出て、信州そばを食 くりきんとんソフトクリーム べた。300 円程度だったがとてもおいしかった。 復路では長野駅でおやきを買った。カボチャやイモや餡子など自分が好きな味を深く考 えずに買ってしまったため、胃がとても重くなった。長野から名古屋の中央線では、途中 に木曽川のすぐ横を通る。車窓から見える木曽川が増水していて恐ろしかった。往路で車 窓から眺めた澄んだ水の流れは、赤茶色の濁流になっていた。私は家に帰る際に、木曽川 下流を渡る必要があるため、下流の状況が心配になった。 名古屋からは JR 関西本線を使った。私はセミナーの期間中は毎晩天気図を書いていた ため、紀伊半島に台風 12 号が近づいていたことは知っていた。しかし、もともと雤の多 い地域だから、大きな被害にはなっていないだろう、と思っていた。だから、志摩までし か通っていない近畿日本鉄道ではなくて、JR の関西本線を使ったのだ。JR 関西本線は紀 伊半島を通る紀勢本線に繋がっている。JR の関西本線のホームで、快速が全く動いてい ないことを知って、台風 12 号が紀伊半島に被害をもたらしていたことに気付いた。私の 利用する区間は何とか動いていたので帰ることができたが、判断を間違ったと思った。全 く動いていなくても不思議ではなかったからだ。もっと早く確認しておけば、JR を使わ ずに帰ることができた。今回はたまたま運行されていたが、運行されていない可能性もあ ったし、混乱している可能性もあった。実家のすぐ近くに流れる川も増水していて、妹が 通学使っている路線の通る橋が壊れたらしい。セミナー中は携帯の電波が通じない場所に いたから仕方がなかったが、妙高高原駅以降で調べようと思えば調べることができたはず である。それを怠ったことを後悔した。 2.登山 私は火打山登山が不安だった。昨年、一度登頂しているのだが、上回生としては初めて の登山だったからだ。昨年は登頂できたものの、体力的な余裕は全くなかった。一年生の 時は自分のことだけを考えていればよかった。しかし、今年はそれだけではいけない。尐 なくとも周囲には迷惑をかけずに、下級生の様子も見ながら登らなければいけない。その ため、上回生として登山ができるか不安で仕方がなかった。 登山の当日の天候はあまり良くはなかった。雤が降ったりやんだりを繰り返していた。 しかし、黒沢橋までの登山道は木々に覆われているため、ウィンドブレーカーさえ着てい 145 I.秋吉由佳 Ⅴ.個人報告書 れば濡れることはなかった。昨年、ウィンドブレーカーを持っていなくて、寒くて苦労し たので今年は持ってきていた。山頂近くなって気温が下がってから着ようと思っていたの だが、雤具としても大変便利だと思った。また、昨年は黒沢橋までの道が暑くて仕方がな かったので、今年は薄着で黒沢橋まで登った。昨年よりもだいぶ楽に登ることができた。 また、昨年苦労した沢渡りも、何とか乗り越えることができた。しかし、渡る際に時間を とってしまい、後ろの方には大変な迷惑をかけてしまった。沢渡りをスムーズにおこなえ るように努力したいと思った。 山頂近くではライチョウを見ることができた。天気が悪く、登山客が尐なかったからだ ろうか。ライチョウは軽やかに登山道の階段を登っていた。私たちよりもずっと小さな動 物だが、登山道を登るのは速くて驚いた。ライチョウは数を減らしている動物だ。天気が 悪いのは良くなかったが、そのおかげで見ることができたのかもしれない、と思うと幸せ な気持ちになった。他のメンバーも、長い登山道に疲れていたのだが、ライチョウを見て から尐し元気になり、全体の雰囲気も明るくなった。 下山中も雲がかかっていた。しかし、時々晴れ間が見えた。また、山の合間から人家や 畑が見えた。麓の町なのかもしれない。昨年は見ることができなかったため、思わず見入 ってしまった。後日、地図で調べてみると、海沿いの上越市に繋がる平地のようだという ことがわかった。 全体を通して、昨年よりも休憩が尐なめだったが、ゆっくりと登ったような気がした。 昨年よりもずっと楽に登ることができた。休憩は 尐なめにしてゆっくりと登っていく方が、休憩を 多めにとって速く登っていくよりも楽なのだろう。 来年も、休憩を尐なめにしてゆっくりと登りたい と思った。また、昨年よりも体力的には楽だった のだが、膝の痛みが気になった。できる限り膝に 負担をかけずに登ることができるようになりたい と思った。また、岩を渡って歩くのが課題だと思 った。沢渡りでも苦労したが、それ以外の場所で も、前の人の通ったのと同じ石を踏んで歩くこと 写真 2 麓の町 ができないことがあった。 3.食事 食事で一番印象に残っているのは、味噌煮込みうどんと餃子だ。めん棒がなかったため、 各々が缶や手で伸ばした餃子の生地は、ふっくらとしていてボリュームがあった。それと 一緒に味噌煮込みうどんを食べた。味噌煮込みうどんは愛知県の郷土料理だ。味噌にたく さんの具の入ったうどんで、それだけでじゅうぶんお腹がいっぱいになる。食べすぎで気 分が悪くなった人もいた。次からは別々の日に作るべきだと思った。 また、バーベキューの際に、愛知県出身者がナスに味噌をべったりと塗って食べている のが印象的だった。私は愛知県のすぐ近くで育ったため、味噌汁や味噌焼き用ではなくか けるような味噌のコマーシャルを見たことはあった。しかし、買ったことも食べたことも なく、本当に買う人がいるのかと疑問に思っていた。今回、愛知県の人々がそれを美味し 146 I.秋吉由佳 Ⅴ.個人報告書 そうに食べているのを見て愕然とした。また、ナスだけではなく、おにぎりに味噌をぬっ て焼いたり、肉味噌おにぎりを作ったりしていることにも驚いた。愛知県にはユニークな 食文化があると思った。 お吸い物は、はんぺんを入れ過ぎてしまい、汁よりもはんぺんを食べた印象しか残らな かった。はんぺんは伸びるので、はんぺんの代わりにちくわを使った方が良かったかもし れない、と思った。また、鰹節でだしをとった経験がなく戸惑った。鰹節はかさばるため、 昆布やいりこや椎茸を使った方がよいのではないかと思った。しかし、ポケゼミ生は東日 本出身者が多いので、鰹だしの方が食べ慣れていてよいのかもしれない。 最終日の夜にフルーツポンチを作った。大きなボールいっぱいのフルーツポンチを見て、 本当に食べきることができるのか不安になった。最初の 1 杯目はとても美味しかったが、 2 杯目になると口の中が甘くなって胃が重くなってきた。甘い物は別腹という言葉もある が、別であっても腹である以上、食べることのできる限度がある。甘い物は適量が美味し いのだと思った。 4.ヒュッテ周辺探索 また、清水ヶ池の近くで平栗さんが大きなヤマ アカガエルカエルを捕まえた。ヤマアカガエルは 昨年も見ることができたが、1.5cm ほどのものし か見たことがなかった。平栗さんが捕まえたカエ ルは 7cm ほどあった。アマガエルやトノサマガエ ル、ヒキガエルなどは普通に見ることができるが、 お身に山地や森林にヤマアカガエルはなかなか見 写真 3 ヤマアカガエル ることができない。大きなヤマアカガエルを見る ことができて嬉しかった。ヒュッテ周辺は池も多 く、地面が湿っている場所も多い。ヤマアカガエ ルの他にも、シュレーゲルアオガエルやモリアオ ガエルなどのカエルがいてもおかしくはない。来 年は、シュレーゲルアオガエルやモリアオガエル を探したいと思った。 また、巨大なブナの木を見ることができた。ち ょうど大学の講義でブナの話を聞いたばかりだっ 写真 4 ブナ た。私の住んでいるような本州の太平洋沿いでは 見ることのできない、落葉広葉樹林を代表する木 である。とても大きな木だったが、葉が青々とし ていて綺麗だった。 また、散策中は多くのアカトンボを見ることが できた。アカトンボといわれるトンボはアカネ属 の仲間で、日本には何種類もいる。どれも珍しい トンボではないため、しっかりとした同定の必要 性が出てくる。アカトンボの同定のポイントは 2 147 写真 5 アキアカネ I.秋吉由佳 Ⅴ.個人報告書 つある。1 つは羽だ。羽根のどこに斑紋が入っているかということが重要になる。2 つ目 は胸の横の模様だ。この 2 つの写真さえとることができれば、同定は可能だ。今回は、羽 の斑紋からナツアカネ、もしくはアキアカネであるということがわかった。ナツアカネと アキアカネの識別は胸の横の模様で可能だ。羽の付け根近くまで赤で囲まれた部分の黒い 模様が広がっていたらアキアカネであり、途中で途切れていたらナツアカネである。昨年 も笹ヶ峰でアキアカネを見たのだが、今年の方がたくさんのアキアカネを見ることができ た。それは、昨年は 9 月末に笹ヶ峰に来たからだろう。おそらく、このアキアカネたちは 平野で生まれ、 上昇気流に乗って笹ヶ峰で夏を過ごしているのだと考えられる。そのため、 昨年は一部のアキアカネたちは平野に戻ってしまっていたのだろう。平野に住んでいると、 成熟した真っ赤なアキアカネしか見る機会がない。黄色の若いアキアカネをたくさん見る ことができてよかった。 148 I.秋吉由佳 Ⅴ.個人報告書 2011 年 11 月 12 日~2011 年 11 月 1 日 SAGA14 個人報告書 岐阜大学 秋吉由佳 昨年の SAGA13 の時もポスターを作った。しかし、それはポケゼミの紹介だった。観察 のデータを先生に見ていただいて、 ご指導を賜り、ポスターを作成するのは初めてだった。 昨年の 10 月に、データ処理は溜めてはいけない、と先輩がよくおっしゃっていたのを思 い出しながら、その言葉の意味をかみしめた。1 年分のデータ処理は大変だった。昨年は、 ポスターに色を使ったが、今年はできる限り色の数を減らした。なぜならば、私が使った NN のデータは、グラフに多種類の色を使うため、周囲に多種類の色を使いすぎると一番 重要なグラフが見えづらくなると思ったからだ。どう配置をすれば見やすいのかというこ とを考えるのは楽しかった。 ポスター発表の会場では、古市先生とお話することができた。 古市先生には、 野生のチンパンジーやボノボの社会関係の変化について教えていただいた。 私がとった NN データと同じようなことが野生下でも起きるらしい。私は野生チンパンジ ーを見たことがないので、とても興味深かった。また、ボノボの女性が、群れをいくつか 移動したあとに、一 1 の群れに落ち着いているらしい、というお話はとてもおもしろいと 思った。ボノボの女性が 1 つの群れの一員になるのは、その個体の年齢が関係しているの だろうか。それとも、群れの方に何らかの要因があるのだろうか。 講演会では、ゴリラ、ボノボ、チンパンジーの水との関係にいてお話を聞くことができ た。チンパンジーは水が嫌いだということをずっと聞いていたので、ゴリラやボノボが水 の中に入っていくのはすごいと思った。しかし、その後のチンパンジーのお話を聞いて驚 いた。チンパンジーの子どもが水を使って遊ぶというお話だ。私は、毎週チンパンジーを 観察しているが、チンパンジーが水に近づいているところを見たことがない。サンルーム も、水の周りの植物はほとんど手がつけられていないような状態で残っていて、チンパン ジーがあまり近づいていないことがすぐに分かる。ゴリラやボノボは水の中に入るのを躊 躇わないから、チンパンジーが水を嫌うのは泳げないこと以外にも理由があるのではない かと思った。その後に、松沢先生の講演があった。松沢先生は、アウトグループについて のお話してくださった。それはとても印象的だった。なぜならば、ゴリラやボノボという チンパンジーのアウトグループが水に抵抗がないということを知って、チンパンジーにつ いて考えることができたからだ。ゴリラとボノボと水の関係から、チンパンジーがやはり 水が苦手なことや、彼らが泳げないことが水の苦手な原因ではないのではないか、と考え ることができた。私はチンパンジーの観察をおこなっている。1 種類の動物に集中して観 察するというのは悪いことではないだろう。私はチンパンジーの観察をこれからも集中し て続けていきたい。しかし、チンパンジーだけではなく、他の動物に関するお話も積極的 に聞きに行きたいと思った。 149 I.秋吉由佳 Ⅴ.個人報告書 熊本サンクチュアリ研修 報告書 (2011.9.8~2011.9.22) 岐阜大学2年 秋吉由佳 150 I.秋吉由佳 Ⅴ.個人報告書 1.交通 名古屋駅から熊本駅に行くには名鉄バスと産交バスが共同で運行している夜行バス「不 知火号」を使った。座席は 3 列シートで、乗っている人も尐なく快適だった。帰りは大分 を経由して帰った。大分までは九州横断特急を利用した。熊本から阿蘇を通って別府に行 く特急だ。赤色のしゃれた電車で、車内はレトロな雰囲気だった。車窓から見えた阿蘇の 高原はとてもきれいだった。また、立野駅では長いスイッチバックがあった。アナウンス によると、九州一の急勾配を越えるためのスイッチバックらしい。逆走距離が長く、傾斜 のきついスイッチバックだった。大分から小倉まではソニックを利用した。色は青色で、 内装は九州横断特急とは対照的にモダンな雰囲気だった。車窓から見えた別府湾がきれい だった。小倉から名古屋までは新幹線を使った。 2.観察(第一飼育棟) 9月8日 初日だったため、チンパンジーたちに騒がれると思っていたが、騒がれることはなかっ た。ケニー、ミズオ、ジョージの 3 人が、フェンスの傍に並んでじっと私の方を見ていた ため驚いた。 9月9日 レノンとゴロウが遊んでいた。遊びが白熱しすぎたせいなのだろうか、レノンがゴロウ を強く叩き、ゴロウが怒ってレノンを追いかけた。騒ぎになるかと思ったが、2 人はすぐ に仲直りをして遊びを再開した。仲直りがあまりにも早かったので驚いた。再び遊びが白 熱した時には、ジョージとカナオが様子を見るために 2 人の近くまで移動してきた。2 人 がケンカをしたため、様子が気になったのだろうか。 ミコタは午前も午後もナオヤに近づき、ナオヤと群れの他の個体に追いかけられていた。 ミコタはナオヤに近づく際、なぜか枝を持っていた。枝を持って近づいたことが、怒られ た原因のようだ。午前も午後も、騒ぎが収束するとすぐにナオヤに挨拶をしようとしてい た。午後の挨拶は丁寧だった。ミコタはナオヤと仲良くなりたいが、近づき方が悪く、よ く怒られているそうだ。枝を持って近づくのはよくないが、すぐに仲直りができるのはす ごいと思った。 9 月 10 日 ゴロウとトーンが同じ放飼場だった。2 人は緊張状態にあるらしい。2 人が一定の距離 を置いて移動しているのが興味深かった。互いに意識をしているのだろうと思った。また、 ミコタはナオヤに枝を持って近づいて怒られていた。ミコタは、枝を持って近づくと怒ら れることが分かっていないのだろうか。それとも、分かっているのだが近づいているのだ ろうか。分かっているとしたら、怒られたあとに仲直りをするのが目的になるはずだ。ミ コタについては、注意して観察をしようと思った。 また、この日はジュースの日で、フィーダーにジュースが入れられた。ケニーは枝につ いた葉を落とし、先端をしがんでジュースを飲むための道具を作っていた。枝の先端をし がんで道具を作っていたのはケニーだけだった。ゴロウはケニーにフィーダーを取られた 151 I.秋吉由佳 Ⅴ.個人報告書 のが不満なのか、ケニーの隣で騒いでいた。しかし、ゴロウはケニーを無理やり追い出し てフィーダーを占領しようとはしなかった。私はそれを見て、ケニーの順位が高いためゴ ロウが隣で騒ぐだけなのだろうと思った。ケニーの体の大きさはゴロウよりもずっと大き く、いかにも強そうに見えたからだ。しかしケニーは、むしろ順位が低い方であるそうだ。 そして、チンパンジーたちは食べ物の欲しさに、攻撃をしてフィーダーの前から無理やり 追い出すようなことはあまりしないらしい。このような数の限定されたフィーダーの前で は、駆け引きなどがおこなわれるのだろうか。フィーダーに食べ物が入れられた日は注意 して観察をしようと思った。 9 月 11 日 9 月 10 日の夜間、ケニーがゴロウの足の指先を食いちぎった。この日は、ケニーとゴロ ウに仲直りをしてもらうために、2 人は日中、A の放飼場で一緒に過ごすことになった。 朝、A の放飼場のフィーダーに大豆が入れられた。ケニーとミズオはすぐにフィーダーの ところへやってきて、大豆を食べていた。その中で、ゴロウはコンクリートの二重円の下 に座っていて、大豆を食べに行こうとはしなかった。午前中、ゴロウはコンクリートの二 重円の下から動かなかった。昨日、ジュースをもらおうと前にやってきて、ケニーの横で ジュースを欲しがって騒いでいたのが嘘のようだった。横になっている時に見えた傷も 痛々しかったが、何よりも元気がないような気がしてかわいそうだった。 ケニーは大豆を食べ終わると、放飼場の奥の方へ座った。2 人の距離は離れていた。しか し、その後ケニーがゴロウに近づいた。ゴロウは声を出してケニーを警戒した。しかし、 騒ぎが起こることはなく、2 人はそれほど近づくことなく離れた。まだ仲直りをしていな いのだろうと思った。しかし、ケニーがみずからゴロウに近づいたのは、ケニーが仲直り をしたいと思っているからなのかもしれないと思った。 午後に観察に向かうと、ゴロウが大豆フィーダーの前に座って大豆を食べていた。午前 中よりも元気になっているような気がした。ケニーは放飼場の奥の方に座っていた。しば らくするとケニーが動き出し、ゴロウに近づいた。ケニーはゴロウのすぐ後ろを通りかか った。ゴロウは大豆をつつき出す手を止め、振り返ってケニーの方を見たが、午前中のよ うに警戒しているようではなかった。ゴロウはケニーを一瞥すると、すぐに大豆をつつき 始めた。午前と午後の間に何があったのだろうか、と思いながら観察を続けていると、ケ ニーがゴロウのすぐ後ろに座った。ケニーはじっとゴロウを見ていた。仲直りの機会を探 しているかもしれない、と思った。 ゴロウは大豆を食べ終わると、コンクリートの二重円の下に座った。そこにケニーがやっ てきて、ゴロウの目の前に座った。あまりにも近くに座ったため驚いた。私は、ケニーは 仲直りに挨拶をするのかと思った。しかし、ケニーは挨拶をせず、ゴロウに顔を近づけて 鼻を合わせた。ゴロウは毛を逆立てることも声を出すこともなかった。その後、ゴロウは 横になった。ケニーはゴロウをグルーミングすることはなかったが、すぐ隣に座っていた。 ゴロウはケニーが隣に座っても構わないようだった。 ケニーは、ケンカが終わってすぐには仲直りができなかったようだ。また、一日かけて もゴロウに挨拶をしたり、グルーミングをしたりすることがなかった。ケニーはコミュニ ケーション能力の不足でそのような行動を取れなかったのかもしれない。しかし、1 日の 152 I.秋吉由佳 Ⅴ.個人報告書 様子を見て、2 人は仲直りをしたのではないかと思った。チンパンジーには、行動目録通 りではない行動をする個体が存在するが、それと同時に周囲の個体がその特異な行動を理 解して受け入れることができるということを、森村先生に教えていただいた。そのお話を 聞いたとき、チンパンジーはコミュニケーションに関して柔軟であることに感動した。ケ ニーは挨拶をしなかったが、ケニーは何度もゴロウに近づこうとしていた。ケニーが何度 か近づこうとするうちに、ゴロウが挨拶をせずに近づくケニーを受け入れたのではないか と思った。 この日、行動がおもしろいと思ったのはジョージだった。ジョージはゴロウのグルーミ ングをしたり、ケニーのグルーミングをしたりしていた。ケニーとゴロウが近づいたとき は必ずゴロウの隣にいた。ケニーとゴロウが鼻を合わせているときはそれをじっと覗き込 んでいた。ジョージも 2 人のことが気になっていたのだろうと思った。 9 月 14 日 ナオヤとゴロウが同じ放飼場に出ていた。2 人は同じ放飼場にいると、攻撃的になるそ うだ。他のチンパンジーたちはそれが分かっているのか、普段よりもグルーミングを多く しているように感じた。みんな 2 人に攻撃された時に、協力して乗り切るためだろうか。 また、ゴロウとナオヤが B の放飼場にいるためか、ほとんどの個体が C の放飼場にいた。 B の放飼場にいる個体も、ゴロウとナオヤからは離れたところにいた。2 人を警戒してい るのだろうと思った。ゴロウとナオヤは、2 人でグルーミングをしていた。ゴロウとナオ ヤと仲がよいタカボーは、ナオヤがいなくなった時にゴロウにグルーミングしていた。 居室の方で物音がすると、みな一目散に居室の入り口に集まって、我先にと入ろうとして いた。飼育の森さんはナオヤの名前を呼んで、ナオヤから居室へ入れようとしていたが、 ナオヤはまったく入る気がないようだった。他の個体が居室へ入り始めると、ゴロウとナ オヤは居室への入口の脇で、居室に入っていくチンパンジーたちを見ていた。居室へ入る 気はなさそうだった。 最後に、ナオヤとゴロウとタカボーが残った。タカボーは出入口の前にいたが、ゴロウ とナオヤが歩き始めると、2 人の後ろをついて歩いた。3 人一緒になったのは、久しぶり だからだろうか。3 人はぐるぐると歩きまわっていた。しかし、途中でゴロウがナオヤに 向かってなきだし、ナオヤを責め始めた。ナオヤは何もしていない。ゴロウはせっかくナ オヤと一緒になったのに、誰にも攻撃することができないことが不満で、ナオヤに八つ当 たりをしていたのだろか。原因はまったく分からなかった。ナオヤは何もしていないので、 タカボーもナオヤを責めることはなかった。 9 月 17 日 ミナトがゴロウにディスプレイをして、ゴロウをなかせていた。ミナトは余裕で逃げて いたが、カナオに叩かれてなきだした。その後、ミナトはないているゴロウと抱き合って 仲直りをしていた。カナオがミナトを叩いたのは、ゴロウがカナオを頼ったからのようだ った。ゴロウとカナオが近くにいたり、接触したりしているところは見たことがなかった。 ゴロウにとってカナオは騒ぎの時だけ頼るような個体なのだろうか。森村先生に、カナオ 153 I.秋吉由佳 Ⅴ.個人報告書 はなかないので一目置かれている、ということを教えていただいた。一目おかれているよ うな個体は、危機的な状態のときに、頼りにされるのだろうと思った。 9 月 18 日 午後、チンパンジーたちは、ドングリとゴーヤとヤシの実をもらっていた。ドングリと ヤシの実は人気だったが、ゴーヤは誰も取ろうとしなかった。ほとんどのチンパンジーた ちはドングリをもらおうとフェンスの前に集まっていたが、ミコタだけがそれを遠巻きに 見ていた。ミコタだけがドングリが嫌いだとは思えなかったため、順位が低く、食べたく ても取りに行けないのだろうと思った。ミコタのために、と奥の方へ転がしてもらったド ングリも食べることができなかった。順位の低いミコタがドングリを取れば、ミコタを責 める個体がいるのだろうか。ミコタはそれを避けているのかもしれない。ミコタはナオヤ に棒を持って近づいたり、棒を投げたりして、よく騒ぎの火種になっているが、騒ぎを起 こそうと思っているわけではないのかもしれないと思った。 9 月 19 日 ミナトがゴロウにディスプレイを始め、騒ぎが起こった。騒ぎに関わっていなかったは ずのトーンが途中でなきだして、何があったのだろうと不思議に思った。すると、森村先 生はミナトがトーンに罪を擦りつけようとトーンを追いかけたことを教えてくださった。 トーンは順位こそ低いようだが、ミナトに挨拶をしたり、グルーミングをしたりしている。 トーンの努力はあまり報われていないのかもしれないと思った。しかし、その後トーンが、 ミナトとグルーミングをしていた。トーンがミナトに挨拶をしたり、グルーミングしたり しているところはよく見るが、ミナトがトーンをグルーミングするところは見たことがな かった。2 人が仲直りをしているのかもしれないと思った。 午後は、フィーダーに大豆が入れられた。A の放飼場ではノリオが大豆を食べていたが、 しばらくすると、食べ飽きたのか放飼場の奥の方へ行ってしまった。その後、ミコタがや ってきて大豆を食べ始めた。しばらくするとノリオが戻ってきてなきだし、ミコタを責め 始めた。フィーダーをとったことを責めているのだろうか。ミコタは慌ててフェンスを駆 け上って逃げようとしていた。騒ぎになるのを避けていたのだろう。9 月 18 日にドングリ が撒かれた時も、ミコタはドングリを食べることができなかった。今回も食べられないの か、と思った矢先に、ノリヘイがノリオに突進した。ノリヘイがミコタと仲がよいという のを森村先生から教えていただいていたので、ノリヘイがミコタを責めたノリオを攻撃し たのだと思った。ノリヘイとノリオはケンカを始め、追いかけあいと激しい叩き合いが始 まった。ノリオはなき続けていたが、ノリヘイは叩かれてもなかなかった。ノリオやミコ タ、ミナトのようにすぐになく個体もいれば、ノリヘイのようになかなかなかない個体も いるのは、おもしろいと思った。 2 人のケンカはなかなか終わらなかった。サトルは 2 人を止めようと 2 人の間に突進し たが、2 人はケンカをやめなかった。サトルはノリヘイとノリオを追いかけ始めた。最終 的に、ジョージとレノンが動き出し、2 人に向かって突進してケンカを終わらせた。ジョ ージがケンカに介入しているところを見たことがなかったので驚いた。サトルもジョージ 154 I.秋吉由佳 Ⅴ.個人報告書 もレノンも、ノリヘイとノリオのどちらかに加勢しているのではなく、ただケンカを止め に行ったようだった。 また、サトルがミコタを遊びに誘い、2 人で遊んでいた。遊んだ後は、2 人でグルーミ ングをしていた。ミコタはナオヤに近づこうとしている時以外は、1 人で座っていること が多いため、珍しいと思った。また、相手がサトルであることには尐し驚いた。サトルは トーンのことが気にくわないようで、よくトーンにディスプレイをしている。そのため、 私はサトルが尐し変わった行動をする個体に厳しいのだと思っていた。尐し変わった行動 をするミコタとはあまり仲がよくないと思っていた。この観察で、特にはっきりとした理 由はないのだが、サトルはトーンのことが気にくわないのかもしれないと私は思った。 9 月 20 日 ケニーが熱心にサトルをグルーミングしていた。ケニーがグルーミングをされていると ころは見たことがあったが、グルーミングをしているところはあまり見たことがなかった。 ケニーはミズオとグルーミングをしているところは見たことがあった。しかし、ケニーは ミズオにグルーミングされていなければ、ミズオをグルーミングをすることはないようだ った。そのためとても驚いた。ケニーのグルーミングには、10 日のゴロウとのケンカや、 18 日朝のナオヤとのケンカが関わっている可能性があるらしい。ケンカは大ケガをする危 険はあるが、ケンカをすることで他個体との関係作りに積極的になるというよい点もある のだろうと思った。 9 月 21 日 ミナトがシロウにディスプレイを始め、ノリヘイといっしょにシロウに向かって突進し ていった。 シロウはないた。 ミナトが他個体をなかせるのはほとんど毎日のことであるが、 ノリヘイがミナトと一緒に誰かをなかせているところは見たことがなかった。ノリヘイは ミナトと仲良くなりたいのかもしれないと思った。 その後、ミナトはシロウと仲直りをして、シロウをグルーミングしていた。ノリヘイは 何度もミナトのところへやってきて、ミナトをグルーミングしていた。しかし、ミナトは シロウをグルーミングする手を止めないどころか、振り返りもしなかった。ノリヘイは、 ミナトとグルーミングをしたいのだろうと思いながら観察を続けていると、ノリヘイがミ ナトにグルーミングを求めた。しかし、ミナトではなくシロウがグルーミングを始めた。 ノリヘイはシロウにグルーミングをしてほしかったのではないらしく、すぐに移動した。 シロウではなく、ミナトにグルーミングをしてもらうことが、ノリヘイにとっては重要だ ったのだろうと思った。最終的に、ノリヘイとミナトはグルーミングをしていた。ノリヘ イがミナトとグルーミングができてよかったと思った。 ミコタはナオヤに近づこうとしたが、ナオヤの隣に座っていたタカボーに怒られて慌て て逃げた。ミコタは、ナオヤとタカボーに怒られるのが怖いのか、ナオヤに挨拶をするの に緊張しているのか、毛を逆立てて恐る恐る近づいていた。そして、なぜか手には枝がし っかりと握られていた。そのため、怒られてもしかたがないと思った。また、ミコタは怒 られて慌てて逃げたため、枝を落としてしまった。しかし、それが幸いして 2 回目に何も 持たずに近づいた時には、ナオヤに挨拶をすることができた。なぜ、最初から枝を持たず 155 I.秋吉由佳 Ⅴ.個人報告書 に近付かなかったのだろうととても不思議に思った。しかし、ミコタは枝を持ったまま、 怒られるのを恐れながら近づいていた。そのため、ミコタは枝を持って近づいたために怒 られたということに、気付いていなかったのだろう。 9 月 22 日 ミナトとノリヘイがナオヤにディスプレイをして、ナオヤをなかせた。この時も、ミナ トが先にディスプレイを始めていたので、ノリヘイがミナトに加勢したのだろうと思った。 騒ぎが収束した後、ナオヤのあとをミナトがついて歩いていた。ナオヤはミナトから逃げ るように歩いていた。ミナトはナオヤと仲直りがしたいのだろうと思った。ミナトはほと んど毎日他個体をなかせるが、仲直りは自分からする。ゴロウの時も、シロウの時もすぐ に仲直りをしていた。ミナトは、ケンカをして仲直りをすることで他個体と仲良くなって いるらしい。森村先生に、ミナトはナオヤと仲良くなりたいと思っているということを聞 いていた。また、昨日も、ミナトがナオヤにグルーミングをしようとしているところを観 察していた。 結局、ミナトはナオヤのあとをついて歩くのをやめた。しかしその後、ミナトは 2 度目 のディスプレイをおこなってナオヤをなかせた。ミナトは騒ぎが収束する前にナオヤに抱 きついて仲直りをしようとしていた。ナオヤと仲直りをするために、ナオヤをなかせたの だろうと思った。しかし、ナオヤはなきながらミナトから逃れようとしていた。ミナトは 逃げるナオヤを後ろからグルーミングしようとしたが、タカボーに叩かれた。森村先生か ら、ナオヤとタカボーは仲が良いと教えていただいていた。そのため、タカボーはナオヤ をなかせたミナトを叩いたのだろう。タカボーに叩かれたミナトはなきだした。ミナトは 仲直りをしようとしていたのに関わらず叩かれたので、可哀想だと思った。しかし、ナオ ヤとタカボーが悪いとは思えなかった。ミナトがナオヤと仲直りをするのに、再びナオヤ をなかせること以外に方法はなかったのだろうかと思った。 まとめ 2 週間の観察で、チンパンジーには友達が必要なのだということを強く感じた。誰かに 攻撃をされた時や、不安になった時に頼ることのできる友達の存在は、群れの中で生きて いくのには必要なのだと思った。複数の個体がいれば、気に入らない個体もいるだろうし、 ケンカが起こって攻撃されることもあると思う。そのような中で生活していくには、他の チンパンジーと強い繋がりを持たざるを得ないのだろうと思った。 また、ある行動を見てその意図を推測し、その推測を裏付ける根拠を見つける、という 観察の方法を森村先生に教えていただいた。その観察の方法を教えていただいた時は、正 面から顔を見て個体を識別することすらままならなかった。騒ぎが起こっても、その中で 何が起こっているのかがまったく分からなかった。しかし、そのうち騒ぎの中で何が起こ っているのかが尐しずつ分かってくるようになった。そして 22 日に、ミナトとナオヤが 仲直りをしたいと思っている、という推測を裏付ける根拠を観察することができた。チン パンジーの考えていることが尐しわかったのかもしれないと思い、とてもうれしかった。 しかし、チンパンジーの行動の意図やその流れを理解するのはとても難しいと思った。仮 156 I.秋吉由佳 Ⅴ.個人報告書 説を立てるのも難しい。根拠になる行動を見せてくれないこともある。研修中、意図の分 からなかった行動やケンカも多く、人間とは違う動物であるということを強く感じた。 また、森村先生が説明してくださった個体間関係の変化についてのお話はとても興味深か った。研修中、ミコタがサトルと遊んだり、ナオヤに近づいて挨拶をしたりしているとこ ろを観察することができた。しかし、昔、ミコタは嫌われ者で、ずっと一人でいたらしい。 今回、ケンカでゴロウとナオヤに噛みついたケニーも、昔はケンカをしてもなき寝入りを しているだけだった、と教えていただいた。関係は変化するため、日々の観察から群れ構 成を考え直す必要が出てくるそうだ。他個体へのディスプレイの多いサトルやミナトもこ れ以上強くなると、どうなるのか分からないらしい。私はこの 2 人とトーンとケニーの関 係が気になった。サトルはトーンによくディスプレイをしているため、興奮したトーンが サトルに噛みつく可能性はまったくないわけではないだろう。ケニーと違い、犬歯を持っ ているトーンがケニーのようにサトルに噛みつけば、サトルは大ケガをするかもしれない。 ミナトの起こす騒ぎは全体を巻き込む大きなものになりがちなので、それによって興奮し たトーンやケニーが他個体をケガさせることがあるかもしれない、と思った。トーンとケ ニーには上手く立ち回れるようになってほしいと思った。 チンパンジーを観察するためには、個体の過去の特徴や性格、関係は参考にはなるが、 それらは変化するということを頭に入れて観察をしなければいけないことを教えていただ いた。そのお話は、霊長類研究所での観察の態度を見直すきっかけになった。1 年半チン パンジーの観察を続けて、ようやく個体の性格や関係が尐しずつ掴めてきた。しかし、そ れは変化するものだ。そのことを忘れずに、過去の記憶に囚われず、また一方でそれを知 識として利用しながら、観察をしていこうと思った。 3.観察(第五飼育棟) 第五飼育棟では、チンパンジーよりも人間に興味のある個体とそうでない個体との差が 大きかったのがとても印象的だった。テツとヨシエとユウコを見に行った時、テツとユウ コは観察台に誰が来たのかを確認すると、すぐに寝始め、人間を見ることをやめた。反対 に、ヨシエは地面を歩いていたのに関わらず、わざわざタワーに登ってきて、異常行動で あるアイポークをしながらじっと人間の方を見ていた。人間を観察する個体はよくいるが、 ヨシエほど長時間人間を見る個体は見たことがなかったため、不自然だと思った。しかし、 それ以上にベルに驚いた。ベルはチンパンジーとグルーミングをしないらしい。人間が来 ると、すぐにフェンスに張り付いて、人間がいなくなるまでずっとそのままだった。ベル のいた放飼場にはコテツもいたが、ベルとコテツの接触はほとんどなかった。緊張状態で はないが、お互いに距離を置いているように感じた。人間がいない時でも、2 人の間には ほとんど接触がないらしい。人間に対しての反対と正反対だと思った。ベルはコテツと一 緒の放飼場にいるが、ベル自身は独りぼっちだと思っているのかもしれない。チンパンジ ーの友達を作ることができないのは、とてもかわいそうなことだと思った。ベルがコテツ にあいさつをしたりグルーミングをしたりするようになってほしいと思った。 157 I.秋吉由佳 Ⅴ.個人報告書 4.サンクチュアリプロジェクト サンクチュアリプロジェクトのイベントに参 加させていただいた。タワーに括りつけられた 枝に、切った果物と野菜を刺した。作業をする ためにはタワーに登らなくてはならなかった。 私は高いところが苦手だったので大変だった。 結局、一番下で作業させていただいたが、それ でも尐し怖かった。階段が急であることと、フ ロアに手すりがないことが原因だろう。タワー の上の方でくつろいでいることの多いテツとユ ウコはすごいと思った。 タワーのある放飼場に出てきたのは、サイ、 オウム、アキナ、ニッキー、サチ、オウムの 6 人だった。この 6 人は隠された食べ物もよく探 すらしい。私たちはタワーに外側の枝にも食べ 物も刺していた。タワーの外側にあるものが取 れるのだろうか、と思っていたが、枝やロープ を上手く利用して取っていた。特に、サイが、 ロープや枝に捕まって、見えにくいところにあ る食べ物まで手を伸ばしていたところを見たときは、とても驚いた。 サイがホースの日に、 食べ物の入ったホースをなかなか見つけられなくて、結局手渡しでもらっていたところを 観察していたからだ。 刺してある果物や野菜では、パイナップル、バナナ、リンゴがすぐになくなった。それら がなくなってから、トマトやナスを食べ始め、最後にダイコンが残っていた。ダイコンは 硬くて、枝に刺すのは一番大変だったが、一番人気がなかった。 チンパンジーたちは一時間以上かけて食べていた。このように長い時間をかけて食事をし てもらうことが理想だが、人手と時間が十分になければ難しいそうだ。短時間で用意がで きる方法を見つけることができるとよいと思った。 5.エンリッチメント エンリッチメント作業では、为に寝具に使用する麻袋を切った。第一飼育棟と第五飼育 棟で作業をおこなった。紐を切って麻袋を広げ、洗いやすいように四角く切った。紐が麻 袋に食い込んでいることが多いので、麻袋切りはハサミの切れ味で作業能率が大きく左右 されるということが分かった。 森村先生には、エンリッチメントについて様々なことを教えていただいた。その中で、 最も興味深かったのはコナンのお話だった。コナンは母親に育てられたチンパンジーで、 サンクチュアリにいる他の個体と比べて、境遇が恵まれていなかったわけではないそうだ。 しかし、環境の変化に弱く、また、他個体を大ケガさせるような攻撃的な側面を持ってい るようだ。飼育実習の時も、ミロとロマンを先に放飼場に出して、2 人が放飼場の奥まで 158 I.秋吉由佳 Ⅴ.個人報告書 行ってから、コナンを出しているところを見せていただいた。コナンが放飼場に出た時に 興奮してミロとロマンに攻撃するのを避けるためらしい。コナンにこのような問題がある のは、生育環境に人間がまた気付いていない改善点があったからだと教えていただいた。 段ボールに食べ物を詰める宅急便や、ホースに食べ物をつめて与えるなどのエンリッチメ ントだけではなく、群れでの飼育など長期的なエンリッチメントを続けることや、また気 付いていない改善すべき場所を探していくことが大切であるそうだ。群れでの飼育も、改 善点を探すことも、日々の観察が大切なのだと思った。しかし、チンパンジーをただ飼育 していくだけでも大変だ。それに加えて、毎日観察をするのは大変なことだと思った。 また、群れのメンバーを毎日変えていくようになってから、レノンが遊ぶようになった ということがとても興味深かった。レノンは遊ぶようになって痩せたそうだ。しかし、群 れの中での生活は、ストレスを感じることもあるし、ケガをすることもある。つまり、健 康だけを考えれば、群れで飼育するよりも、一人ずつで飼育するほうがよいということに なるだろう。森村先生にこのお話をしていただいたときに、松沢先生が以前お話してくだ さったことを思い出した。それはブータンの国民総幸福量とエンリッチメントでは共通点 があるということだ。その時、松沢先生はお金があるということや健康であるということ は幸福の一要素であるが、最終目標ではないとおっしゃっていた。健康であるということ はエンリッチメントの目指すことの中の一つだと思う。しかし、それは最終目標ではない のだろうと思った。 6.資料室見学 資料室には大型類人猿の骨格標本や脳のホルマリン漬けが展示されていた。最も印象的 だったのが、チンパンジーの雌雄間の頭蓋骨の違いだった。チンパンジーの雌雄では、顎 を動かす筋肉を支える部分の大きさが全然違った。顎を支える筋肉の大きさも違うらしい。 雄の頭が大きく見えるのはなぜなのかとずっと疑問に思っていたので、それが分かってよ かった。また、ゴリラはこの筋肉がチンパンジーよりもさらに大きいようだ。骨格を見て も、この筋肉を支える部分はとても大きかった。ゴリラは頭が大きく見えるのはチンパン ジーよりも草食性が強く、顎の力が必要であるためのだろう。チンパンジーやゴリラの顎 の筋肉は人間と比べ物にならないぐらい厚くて大きい。噛みつかれることを想像すると、 恐ろしくて仕方がなかった。最後の展示は、実際にチンパンジーが噛みちぎった指のホル マリン漬けだった。切り口がきれいだったため、相当強い力で噛み切られたのだろうと思 った。 霊長類研究所では、 チンパンジーの給餌のお手伝いに入らせていただくことがある。 十分に注意したいと思った。 159 I.秋吉由佳 Ⅴ.個人報告書 7.健康診断見学 トーン、ノリヘイ、レノンの健康診断を見学させていただいた。3 人ともいつも観察し ているチンパンジーのため、見学はとても楽しみだった。見学の際、麻酔のかかったトー ンに触らせていただいた。人間よりも皮膚が硬くて丈夫だとは聞いていたが、実際に触ら せていただいてその硬さに驚いた。ノリヘイとレノンは麻酔の効きがよくなかったようで、 途中で瞬きをしたり、声を出したりしていて怖かった。近くで見たいと思ったが、私も 2 人が怖いし、慣れない私が近くにいると 2 人も怖いだろうと思い、尐し離れた所から見学 させていただいた。 160 I.秋吉由佳 Ⅴ.個人報告書 8.レクチャー 鵜殿さんのレクチャー 亜種や繁殖の問題、熊本サンクチュアリの歴史について教えていただいた。種別調整者 の存在は知っていたが、環境省と関係していることや、しっかりとした権限を持っていな いことは初めて知った。国内にいる個体が多い分、危機的状態が認知されていないことも 教えていただいた。動物園の運営に対して力を持っている役職の人間がすぐに変わってし まうため、何度も何度も説明をしなければいけないというお話を聞いたときは、しっかり とした体制が作られていないということを強く感じた。 SAGA13 の分科会では、チンパンジーの亜種の問題のお話を聞くことができなかったが、 SAGA14 の分科会ではお話を聞きに行きたいと思った。 論文紹介 Encephalomyocarditis virus mortality in semi-wild bonobos (Pan panicus) 水曜日の夕方の論文の勉強会に参加させていただいた。ボノボの脳心筋炎ウイルスにつ いての論文だった。このウイルスは、ネズミやブタが持っており、決して珍しいものでは ないらしい。この論文によると、ネズミが媒介してボノボが感染したようだ。研修中、ネ ズミの姿を見たことはなかったが、ネズミ捕りは見かけた。施設の中にはネズミがいるら しい。ネズミを食べる個体もいるそうだ。そのお話を聞いて気になったのはゴキブリだっ た。第五飼育棟の清掃をする際、殺虫剤を使った。その後、冷蔵庫やシルクの下から死ん だゴキブリが埃のように出てきて驚いた。ゴキブリを媒介して感染するウイルスもあるか もしれない。感染を完全に遮断するためには、有機物の一切ない部屋を作るしかないそう だ。しかし、一日中、土も木もないような部屋に閉じ込められているのはよくない。屋外 に放飼する以上、感染症のリスクは避けられないのだろう。消毒や居室に有機物を残さず 掃除をすることは、感染症対策のためにできる数尐ないことなのだと思った。 Behavioral Response of a Chimpanzee Mother Toward her Dead Infant ボッソウの死児を運ぶチンパンジーの母親の報告を知っていたので、とても興味深かっ た。この論文では、死児に対する母親の反忚を分卖位で細かく記録されていた。 日本モンキーセンターを見に行った時に、マンドリルの母親が死児を運んでいるのを見た。 RRS でも、ニホンザルの母親が死児を運んでいたそうだ。母親が死児を運ぶという行動は とても興味深いと思った。 161 I.秋吉由佳 Ⅴ.個人報告書 9.個体識別 162 I.秋吉由佳 Ⅴ.個人報告書 初日に覚えたのは、フェンスの傍まで人間を見に来ていたジョージ、ミズオ、ケニーの 3 人と、他個体に比べて明らかに毛が尐ないレノンだった。2 日目からはそれぞれの放飼 場に出ているチンパンジーをあらかじめ確認し、なおかつ写真と見比べながら識別をおこ なった。9 日目以降は横を向いていたり、走っていたりしていてもわかる個体が出てきた。 最初の 1 週間、特に識別が難しかったのが、タカボー、サトル、ミコタの 3 人だった。 (表 1)しかし、そのうち顔が全然違うことや、顔だけではなく体格も違うことに気付い た。一週間経つ頃には、雰囲気も全然違うため、なぜ間違えたのかということを不思議に 思った。 5 日目から 8 日目は個体識別の確認をしていなかったため、データがない。 第一飼育 棟を中心に観察をおこなっていたため、第五飼育棟の個体の中では最後まで識別できない 個体がいた。 10.謝辞 松沢先生、伊谷先生、友永先生、森村先生並びに熊本サンクチュアリの職員の皆様、こ のような貴重な経験をする機会を作っていただき、誠にありがとうございました。この研 修でチンパンジーについての知識や観察技術がいかに未熟であるかということを痛感しま した。それと同時に、チンパンジーに対する興味がより一層深まりました。 お忙しい中、ご丁寧な指導をしてくださり、ありがとうございました。 163 I.秋吉由佳 Ⅴ.個人報告書 幸島自然学セミナー 個人報告書 (2012.2.28~2012.3.5) 秋吉由佳 164 I.秋吉由佳 Ⅴ.個人報告書 2 月 28 日 大阪には名古屋、岐阜、京都を経由して JR 東海道本線で向かった。大垣駅での乗り換 えは、ホームの移動の際に階段を使わなくてはならず、時間がかかった。しかしながら、 米原での乗り換えは反対のホームのためそれほど時間がかからなかった。そのため、一本 早い電車に乗ることができて、新大阪駅に予定よりも早く着くことができた。私は、新大 阪駅では JR 西日本の IC カードである ICOCA を購入した。荷物が多いため、大阪市営地 下鉄や大阪市営バスに乗る際に便利だと思ったからだ。私は既に PiTaPa という大阪の私 鉄の出している IC カードを持っていたが、クレジット式のため、万が一なくした時のこ とを考えて家に置いてきていた。その点、ICOCA はプリペイド式で、簡卖に券売機で購 入可能だ。万が一なくしたとしてもあまり困ることはない。デポジットとして 500 円をと られるが、荷物の多い合宿の移動の際に自分自身の負担だけではなく、他者への迷惑を最 低限に留めることができるのは悪いことではないと思う。フェリーに乗る人は多くも尐な くもない丁度良い人数で、快適に過ごせた。また、来年もフェリーがなくなる心配がない だろう、と思った。フェリーは暖房がきいていて、喉が渇いた。そのため、就寝中に何度 か水分補給をした。飲み物を持ちこんでおいてよかったと思った。 2 月 29 日 宮崎港から宮崎駅までのバスの遅延のせいで、電車に乗り遅れたため、单郷駅で 3 時間 過ごさなくてはいけなくなった。私は森さんと 2 人で「港の駅めいつ」まで 30 分ほどか けて歩いた。港の駅めいつには魚料理の店があった。私はかつおめしを食べた。かつおの 刺身など滅多に食べることができないので、とても嬉しかった。その帰り道に、1 年生に 日单線が卖線であることを教えてあげた。すると、珍しがって写真を撮り始めたので、卖 線は写真を撮らないといけないほど珍しいものなのか、と驚いた。私は 2 月 28 日に三重 県から JR を利用して名古屋を回って大阪まで行っ た。三重県の JR 線は卖線だ。桑名駅から名古屋駅 まで、電車の扉は一度も開かないものの、すれ違い のために 2 回止まった。それが普通のことなのだ。 また、親の実家のある大分県も、宮崎方面から大分 駅までは卖線だ。私にとっては東海道本線のような 複線の JR 線の方が珍しいのだ。住んでいる場所が 違うと、同じものを見ても感想が全く違っておもし ろいと思った。 3月1日 幸島に渡った。昨年は海から見て右岸に降りたが、今年は左岸だった。また、潮の関係 で湾の外に近い場所で上陸した。私は不安だった。なぜならば、私は岩場を歩くことを苦 手としていたからだ。特に、幸島のように岩の下に水がたまっているような場所が苦手だ った。 私は妙高笹ヶ峰自然学セミナーで登山中に、沢を渡るのを二年連続で苦戦していた。 そのため、私は次のセミナーまでの課題だと思い、実家のマンションで階段の上り降りす るなどして、尐しでも足首を使うようにしていた。しかしながら、実際に岩場で練習をお 165 I.秋吉由佳 Ⅴ.個人報告書 こなうことはできなかった。昨年は、比較的湾の奥の方で降ろしてもらっていたため、難 なく上陸ができた。そのため、私は油断していたのだ。まさか、幸島で比較的長い距離で の岩渡りをしなければいけないとは思っていなかった。私は注意深く進んでいたが、嫌な 予感ほど当たるもので、滑って海水の中に靴が沈み、靴下が濡れてしまった。靴下が濡れ て、海水臭いのは辛かった。今後に向けてしっかりとした対策を練り、次のセミナーに備 えようと堅く決心した。 昨年、私はイモを撒いた時に遠くの方にいる個体が気になっていた。そのため、今年は そのような個体のフォーカルのビデオ撮影をおこなった。後日、私の選んだ個体はヘゴと いう为群のメスで、順位がとても低いということを、鈴村さんに教えていただいた。ヘゴ はイモを食べている最中にアカンボウに邪魔をされていた。ヘゴは邪魔されることに甘ん じていたが、最終的にアカンボウを追い返した。すると、オトナのニホンザルがヘゴを責 めた。私はそのオトナのニホンザルはアカンボウの母親だと思った。自分の子が怒られた から、ヘゴを責めたのだと思った。しかし、鈴村さんはそのオトナのニホンザルはオスの ようだとおっしゃった。ニホンザルのオスが群れに入るため にアカンボウを責めたニホンザルを責めることがあるらしい。 ニホンザルのオスは、群れに入るために努力をする必要があ るのだと思った。チンパンジーの場合は女性が群れの中に加 入するが、ニホンザルの場合はオスが加入する。性別の違い から、両者の群れへの加入の方法には違いがあるのか知りた いと思った。また、ビデオ撮影の技術も磨きたいと思った。 私は、毎週チンパンジーをフォーカルでビデオ撮影をしてい るため、フォーカルのビデオ撮影は当然できるだろう、と思 っていた。もちろん天候が悪かったこともあるだろうが、10 分程度しかフォーカルでニホンザルを追うことができなかっ た。 また、 ニホンザルをビデオで追うことで精一杯になって、 写真 1 広い視野をもって観察をおこなうことができなかった。その 雤に濡れたニホンザル ため、フォーカルで観察している個体にアクションを起こし た個体が、 どういう文脈でその個体に近づいたかということが分からなかった。来年度も、 チンパンジーの NN 観察を続けようと思う。今年度と同じようにフォーカルでビデオ撮影 をおこなうだろう。その際には、視界を広くもってビデオ撮影をおこなうことを心がけた い。 166 I.秋吉由佳 Ⅴ.個人報告書 3月2日 都井岬に向かった。扇山に登るのは初めてだった。あまりの風の強さと傾斜に、吹き飛 ばされるかと思った。手をついて歩きたかったが、馬糞が転がっていて迂闊に手をつくこ とができず苦労した。扇山の頂上も風が強く、最初は立って風景を眺めていのだが、途中 で地面の窪んでいるところに座った。地面が窪んでいるところは、尐しだけ風が弱くなっ ていた。その後は、昨年も登った小松ヶ丘に登った。小松ヶ丘では御崎馬を見ることがで きた。(写真 2)昨年よりもたくさんの御崎馬が芝 をはんでいるところを見ることができてよかった。 また、それぞれの馬の体色なども違って、数は尐な く自然交雑がおこなわれているのに、体色に違いが 出るのはおもしろいと思った。馬が首をやや上げて、 半目を開けてじっとしている馬がいた。鈴村さんが、 眠っている馬だと教えてくださった。馬などの草食 動物が短時間の睡眠で生きていることは知っていた 写真 2 御崎馬 が、私は夜間体を横にして眠っているものだと思い 込んでいた。しかし、そうではなく若い馬は寝たり起きたりを繰り返して、夜間も草をは んでいるということを、 後に訪れた都井岬ビジターセンターで説明していただいた。馬は、 私が通っていた幼稚園でも飼われていて、決して珍しい動物ではないのだが、私は馬につ いてほとんど知らないということを思い知った。また、小松ヶ丘にはケージに囲われた奇 妙な区画があった。(写真 3)それが何であるかは分からなかった。しかし、ケージで囲 った場所の草は馬がはむことができないので、小松ヶ丘 の植生に対する馬の影響を調べるためにケージを使って 隔離しているのではないかと思った。 昼食は岬の駅で食べた。風が強く肌寒かったので、屋 内で食べることができてよかった。岬の駅はホテルだっ た建物を改装したようだった。地元の小学生たちの作品 が飾られていた。 私は小学生の頃図工が嫌いだったので、 版画などを見て図工の授業を思い出してしまい、尐し暗 い気持ちになった。 写真 3 小松ヶ丘のケージ その後は、都井岬ビジターセンタ ーに行った。中に入ると、職員の方 が御崎馬の説明をしてくださった。 そのお話の中で最も興味深いと思っ たのが、馬は森の中で死ぬため死体 を回収していないというところだっ た。馬は芝生の上で死ぬことはなく 森の中で死ぬらしい。死期が迫った 馬は、群れの仲間と一緒に行動せず、 森の中で暮らすそうだ。どういう理 写真 4 写真 5 小松ヶ丘のイバリシメジ イバリシメジの模型 由があって、群れから離れるのかは分からなかったが、体が森の中で朽ちていくというと 167 I.秋吉由佳 Ⅴ.個人報告書 ころが、野生の馬らしいと思った。展示の中には、馬糞を栄養 にして育つ 3 種類のキノコの模型もあった。この中の 1 つであ るイバリシメジは、小松ヶ丘で見かけたキノコだった。(写真 4,写真 5)妙高でもキノコを見かけることはあり、たくさんの 写真を撮影したが、なかなか識別には至らない。キノコの識別 は難しいので、このようにビジターセンターで模型を展示して もらえるとよいと思った。 また、 ノウサギの糞が展示してあり、 扇山で見つけたコロコロした丸い糞がノウサギの糞であるとい うことも確認することができた。(写真 6)扇山や小松ヶ丘で 見つけたものが何であるのかということが分かってよかった。 写真 6 ノウサギの糞 都井岬灯台にも登った。灯台に登ったのは初めてで、じっくりと見たかったが風が強か ったのですぐに降りた。天気が良いと種子島を見ることができるそうだ。見ることができ なくて残念だった。灯台を降りた後は、灯台資料展示室に向かった。灯台資料展示室には 世界の灯台の歴史や日本の灯台の歴史を説明するパネルがあった。太平洋戦争で、灯台が 狙われたということを初めて知った。灯台の明かりが消えていたら、一般の船も軍艦も関 係なく、夜間や濃霧の日に入港するのに苦労したのではないだろうか、と思った。灯台を 始めとする航路標識には様々な決まりがあるそうだ。私にとって、灯台は決して身近な存 在ではないため深く考えたことはなかった。しかし、よく考えれば夜間は真っ暗で、湾な どの場合は決められたルートを逸れると座礁してしまう。航路標識は非常に重要なのだと 思った。また、この航路標識の正確な把握と、それに準じた航海が航海士には求められる のだろうと思った。 ソテツの自生地では冬眠中のカメムシを見た。橋の脇にあるツバキの木の葉の裏で集団 越冬している、と岬の駅にいた方に教えてもらっていたため、すぐに見つけることができ た。オオキンカメムシという種類で、鮮やかなだいだい色に黒色のアクセントが入った美 しい昆虫だった。(写真 7)しかし、昆虫嫌いの人には気持ち悪く感じられるようだった。 後日、調べてみると、熱帯系の昆虫だが西日本では 決して珍しい昆虫ではないということが分かった。 どこにでもいる昆虫なのか、と尐し残念に思ったの だが、さらに詳しく調べ見ると、越冬は单の方です るということが分かった。そのため、都井岬のよう に太平洋に突き出ている、より緯度の低いところに 集まるという。きっと、このオオキンカメムシがツ バキの葉の裏で集団越冬している様子は、このよう な場所でしか見ることができないのだろう。このオ 写真 7 オオキンカメムシ オキンカメムシは数個体が集まっているからこそこ の色がはえるだろう。この都井岬で見ることができてよかったと思った。 3月3日 午前中は石波の海岸樹林の散策をした。鈴村さんが石波の海岸樹林の植物について教え てくださった。一番気に入った植物はムサシアブミだ。(写真 8)時期がよかったらしく、 168 I.秋吉由佳 Ⅴ.個人報告書 開花直前のマムシの頭のような形をしたつぼみを見 ることができた。私はこの奇妙な形のつぼみがとて も気に入った。次来た時は、スケッチブックを持っ てきて絵を描きたいと思った。また、可能ならば採 取をして、つぼみを解体したいと思った。 また、サルトリイバラとハカマカズラについて教 えていただいた。ハカマカズラは、熱帯性の植物で 日本では希尐なため、 天然記念物に指定されている。 この石波の海岸樹林には、ハカマカズラが自生して 写真 8 ムサシアブミ いるそうだ。また、サルトリイバラという、ハマカズラによく似た蔓性の植物も見ること ができた。サルトリイバラは、西日本のカシワ餅のカシワの代わりに用いられている。三 重県にもイバラ餅のお店があることから、カシワ餅とイバラ餅の境は三重県以東なのだろ う。ポケゼミ生には、愛知県出身者、静岡県出身者、東京出身者がいるので、それぞれに サルトリイバラを使うのか、カシワを使うのか、聞いてみたいと思った。後日、大分でサ ルトリイバラのイバラ餅を食べた。サルトリイバラの葉は餅からぺりぺりとすぐに離れる ため、食べやすかった。 ご飯は 1 年生が LP ガスを使用して、一人 2 合ずつ炊いた。私は普段、炊飯器を使わず に土鍋を使ってご飯を炊いているため、1 年生の炊事を見ていた。LP ガスとガスコンロは 火力違い、鍋は土鍋よりも火力調節が必要なため大変だった。土鍋の場合、最初から火力 を上げて、沸騰を始めたらすぐに弱火にすればよい。しかしながら、鍋の場合は火力を低 くして、鍋が温まってきた時に火力を上げる必要がある。また、沸騰後の弱火を消すのが 難しかった。私はいつも僅かに焦げたにおいがし始めたくらいに消すのだが、風上で大豆 のチリコンカンを作っていたせいで、においが分からなくなった。ご飯は風上で炊く方が よいと思った。 3月4日 テントの片づけをおこなった。その後は、鈴村さんと一緒に昼ご飯を食べながら、幸島 のニホンザルのお話をしていただいた。幸島のニホンザルは二群あるが、为群はほとんど の場合、α-male の死によってα-male の代替わりが起こるが、マキ群はそうではなく、 順位の入れ替わりによってα-male が決まることを教えていただいた。同じ環境で暮らし ているのに関わらず、そのように社会に違いが出るのはとても興味深いと思った。また、 マキ群の歴史についても教えていただいた。マキと いうメス個体とマキについていったオス個体からマ キ群が生まれたらしい。マキが、当時どのような順 位の個体だったのかは分からない。しかし、マキが どういう意図を持って群れを出たのかを知りたいと 思った。 午後は自由時間だったため、石波の海岸樹林を散 策した。3 月 3 日に鈴村さんに教えていただいたム サシアブミの写真を撮ったり、他の植物の観察をお 169 写真 9 ヤツデ I.秋吉由佳 Ⅴ.個人報告書 こなったりした。天気はよく、樹林の中が明るくて心地よかった。自力で植物の識別がし たくなったため、識別が容易そうな植物を探した。様々な種類の植物があったが、葉の深 裂が特徴的な植物を見つけたため、それに決めた。識別のために、樹皮、未熟の果実、葉 の写真を撮った。(写真 9)葉が裂けている植物はそれ程多くはなく、カエデ属に集中し ている。しかしながら、カエデ属の果実は翼果であり、私が探し出した植物の実とは異な る。そのため、後日ウコギ科ヤツデ属のヤツデであるということがすぐに分かった。また、 ヤツデは 4 月に実が熟すそうだ。私が撮影した写真の実はまだ青く、この植物がヤツデで あるということ根拠にもなった。また、この植物が海岸の樹林に多いらしい。 3月5日 单宮崎駅からは特急にちりんに乗った。特急にちり んとは、宮崎と大分を結ぶ特急である。私の乗ったに ちりんは、九州新幹線開通により余剰となった特急 787 系だった。新しい電車だったので、デザインも良 く、綺麗でとても嬉しかった。(写真 10)九州の特急 では指定席よりも自由席の方が空いていることはよく あることだ。何故ならば指定席よりも自由席の方が多 いからだ。そのため、九州で特急券を買う場合は何も 写真 10 にちりん車内 言わずとも大抵自由席にして貰える。しかしながら、東海圏では特急は指定席の方が多い ため、 指定席で特急券を購入するのが当たり前だ。私は三重県桑名駅で特急券を購入した。 そのため、にちりんが指定席になっていて、人が席の周囲に多くて大変だった。荷物も多 かったので、途中から駅員さんにお願いして自由席に移動した。同じ JR でも、このよう に地域のよって特急の事情は違う。購入する時に、事情を踏まえて確りとどのような券が 欲しいのかと言うことを伝えることが大切だと思った。 臼杵駅で普通電車に乗り換えた。臼杵大仏で有名な駅 だからだろう、駅の構内にも石像があった。(写真 11) 私は幼い頃から臼杵煎餅が嫌いだった。臼杵煎餅は甘い のだが、生姜の味が強く、決して子どもに好まれる味を していない。私は幼い頃に食べた臼杵煎餅の記憶のせい で、臼杵にはあまり良い印象を抱いていなかった。しか し、駅の構内から見える大木やそれに囲まれた古い民家 写真 11 臼杵駅ホーム は雰囲気が良く、このような町にある国宝臼杵大仏を一 度見てみたいと思った。次に臼杵に立ち寄る機会があった時には、臼杵大仏を拝みに行こ うと思った。 170 I.秋吉由佳 Ⅴ.個人報告書 1 年間のまとめ 岐阜大学 秋吉由佳 今年度は初めての後輩ができた。高校三年間、後輩を持ったことがなかったので、先輩 と呼ばれるのが嬉しくて仕方がなかった。一年生が一生懸命書いたレポートを読んだり、 一緒にチンパンジーを観察したり、合宿に参加したりするのはとても楽しかった。私は昨 年、資料作成を一人で抱え込んで大変な思いをした。そのため、分担の重要性はよく分か っていたつもりだが、後輩にも同じ思いをさせてしまった。原因は、新入生勧誘が上手く いかなかったことや、後輩に分担の重要性を指導できなかったことだ。私自身も分担が苦 手で、年間報告書の統括は苦労した。年間報告書の統括も、もっと他のポケゼミ生に協力 してもらうべきだった。 来年度は、 みんなで協力して仕事ができるようにしたいと思った。 また、ほとんど毎週チンパンジーの NN 観察をおこなうことができた。工事のため、観 察することができない週もあったが、4 階などから彼らの様子を見るようにしていた。チ ンパンジーたちを見る度に、尐しずつ彼らの関係は変化しているのだと感じた。特に、ア ユムの変化が一番興味深かった。激しくディスプレイを繰り返していたアユムは、ディス プレイをあまりしなくなり、他個体をよくグルーミングするようになってきた。また、一 時期はアキラとのグルーミングが全く見られなかったが、最近は見かけることがある。ク レオやパルにも変化がある。最近、クレオはゴンを諌めたり、ゴンのグルーミングをした り、α-male の様子に気を配っているように見える。また、パルは尐し前まではプチにち ょっかいを出したり、興奮気味にゴンに近づいて怒られたりしていたが、最近はゴンのグ ルーミングをしている姿をよく観察することができる。それらの変化は NN にも表れてい る。たった 2 年間しかチンパンジーたちを見ていないが、彼らの関係は大きく変わってき た。来年からも、毎週チンパンジーたちを観察して、チンパンジーたちの関係の変化を見 ていきたいと思う。来年度も NN 観察をポケゼミの仲間たちと協力して続けていきたい。 夏休みの熊本サンクチュアリ研修では、チンパンジー観察について考え直すことができ た。彼らのことをより理解するために、何を見なくてはいけないのか、具体的に目標を持 つことができた。来年度は、騒ぎが起こった際に、チンパンジーたちの動きだけではなく、 それぞれがどの個体を見ているのか、というところまで見ることができるようになりたい と思う。そうすれば、彼らが誰の味方をしているのかということや、誰を責めているのか ということがより正確に把握できるようになると思う。チンパンジーたちの関係は変化し 続けている。そのような変化を、NN 観察だけではなく、彼らの様子をしっかりと観察し ていきたいと思う。 171 J.有賀菜津美 Ⅴ.個人報告書 熊本サンクチュアリ研修報告 2011 年 9 月 5-14 日 日本大学 生物資源科学部2年 有賀菜津美 172 J.有賀菜津美 Ⅴ.個人報告書 熊本県にある京都大学野生動物研究センター熊本サンクチュアリ(KS)で 2011 年 9 月 5 日(月)から 14 日(水)までの 10 日間、夏季研修をおこなった。以下にその詳細を示 す。 熊本サンクチュアリまで 9 月 5 日から研修させていただくことになっていたため、4 日に霊長類研で観察をして から京都に向かい、夜行バスに乗って熊本まで行くつもりでいた。しかし台風が接近して きたため、 東名高速道路が通行止めになってしまい、 名古屋に行くことができなくなった。 やむを得ず、名古屋行きは断念した。そのため予定を変更し、在来線を使って京都に出る ことにした。 4 日の始発で出発し、夕方にはなんとか京都に到着することができた。途中で天竜川を見 ることができたが、水量が多く流れも速く、見たことのない光景だった。そして京都から 夜行バスに乗り、5 日の朝に熊本駅に着くことができた。その後、再びバスに乗り熊本サ ンクチュアリに向かった。 施設見学 到着した日の午後は施設見学をさせていただいた。第 1 飼育棟、第 2 飼育棟、第 5 飼育 棟と 3 つの飼育棟からなり、私が想像していた以上に広い施設だった。51 人のチンパンジ ーにとってこの広さは決して十分ではないが、運動場もあり、恵まれた環境だと思った。 第 1 飼育棟にはオス 15 人、第 2 飼育棟にはオス 10 人、第 5 飼育棟には 26 人がいる。ま た、施設見学中にチンパンジーとも対面することができた。初めてみる相手に騒ぎ出すと 思ったが、第 1 飼育棟では私の行く直前にちょっとした騒ぎがあったため、すぐに気づか れることはなかった。騒ぎが収まると、何人かがフェンスに顔をつけ、私の顔をじっくり 観察してきた。1 人ずつの顔の特徴を捉えることはできなかったが、大きな声を出される ようなこともなく、15 人のオスとの対面は終わった。オスだけの群れとはどんな雰囲気な のか、来る前は想像できなかったが、とても騒がしかったため見ていて飽きない群れだと 思った。その後、第 2 飼育棟を見学させていただいた。第 2 飼育棟には普段から人があま り行かないらしく、初めての人に慣れていないチンパンジーが多いそうだ。そのため、今 度こそ大きな声を出されると思ったが、騒がれることはなかった。これには、同行させて いただいていた森村さんも不思議そうにしていた。これは、普段からメンバーの入れ替え をしているため、新しい物事に柔軟に対忚できるようになったのではないかとおっしゃっ ていた。これには私も納得した。もし、私が普段から人にあまり会わないような立場にい たら、同じように来客には敏感に反忚するだろう。また、チンパンジーによっては来客に 対して喜んだり、不安になったりと様々な反忚をしているように見えた。第 2 飼育棟を研 修期間中に観察することはなかったので、これが最初で最後の対面になった。次に第 5 飼 育棟を見学させていただいた。ここにはメスとオスの両方がいた。やはり、オスだけの群 れとは雰囲気が違った。また、オウムやリナといった特徴のある個体はすぐに覚えること ができた。 173 J.有賀菜津美 Ⅴ.個人報告書 環境エンリッチメント 1 週間のエンリッチメント表 月曜日 火曜日 水曜日 木曜日 金曜日 新聞紙 ホース 宅急便 みどりの日 ジュース 枝切り 枝切り 枝切り 枝切り 枝切り 土曜日 日曜日 枝切り 枝切り 私はエンリッチメントに関して以前からとても関心があり、熊本サンクチュアリがエン リッチメントに力を入れていると聞いていたため、その取り組みには興味があった。毎日 おこなっている枝切りの他に、月曜日から金曜日まで毎日違うイベントが用意されている ことに驚いた。どれもちょっとした工夫をすることで尐しずつフルーツや固形飼料を食べ られるようになっていた。毎日同じイベントをしている動物園の話などは聞いたことあっ たが、予定を組んで様々なイベントをしているという話は初めて聞いた。これはもちろん 飼育スタッフに負担がかかり、時間を作って作業をする必要があるのだが、チンパンジー にとっては毎日違うイベントがあるというのは素敵な環境だと思った。また、1 日の給餌 回数が最低でも 5 回はあるそうだ。これもエンリッチメントの 1 つだと思った。野生のチ ンパンジーが採食に使う時間は長く、 探しながら尐しずつ食べる。このこと を考えると給餌が 5 回あるのは不思議 なことではない。しかし、飼育下にあ る以上何度かまとまって給餌をしなく てはならないということも分かる。し かし飼育員が忙しく、1 日に 1 回の給 餌しかないような動物園もいまだにあ るそうだ。人の都合ももちろんあるが、 うまく調節して給餌回数を増やすとい うのはすごくいいことだと思った。卖 純にどこの飼育施設でもチンパンジー 完成した宅急便(第 5 飼育棟) がよりよい環境で生活できたらいいと 思った。そしてチンパンジーにとってどのような環境がいい環境なのかということをもっ と勉強したいと思った。 健康診断 9 月 6 日にサチ、ミロ、ニコの 3 人の健康診断があったので見学させていただいた。1 人ずつ麻酔をかけておこなった。当然のことながら、麻酔をかけられたチンパンジーを見 たことがなかったため、目が開いたままだということや、時々いびきのように声を出すこ と、指などが尐し動くことなどに驚いた。もちろんチンパンジーは好きだが、ときどき怖 174 J.有賀菜津美 Ⅴ.個人報告書 いと思うこともある。そのため近距離で見るチンパンジーに圧倒されてしまった。麻酔の 時間は、短いほど体にかかる負担も尐ないそうで、健康診断は順序よく円滑に進んだ。为 な内容は、体重や各部位の長さ、肥厚、血圧の測定、血液採取、エコーなどだった。途中 でチンパンジーの足についた糞を拭き取らせていただいた。初めて触るチンパンジーに、 とてもどきどきした。動いているチンパンジーに触ることが危ないことは、もちろん理解 しているが、やはりいつかは触ってみたいと思っていた。そのため、とても感銘を受けた。 また、健康診断後に、血液の塗抹標本作りをさせていただいた。 塗抹標本(染色前) 塗抹標本(染色後) レクチャー 9 月 12 日に鵜殿さんにチンパンジーについてレクチャーをしていただいた。特に興味を 持ったのは国内繁殖に関する話だ。現在、国内では亜種間同士の交雑が進んでしまってい るそうだ。動物園側ではただ数を増やしていきたいという人や亜種を考えて交配させてい くべきだと考える人など色々な考えの人がいるため、なかなか話が前に進まないそうだ。 私は、今 1 番多くいる西チンパンジー同士の交配を進めていくべきだと思う。なぜなら、 野生化にいたら交配されないのだから、人が勝手に操作してしまってはそのうちどこかに 支障を来すのではないかと思う。もちろん絶滅に向かっているチンパンジーの数をとにか く増やしたいという人の意見も分かる。しかし、野生にいた時の状態で残していくのが 1 番いいと思う。また、近親交配も大きな問題になっているそうだ。同じオスから生まれた 子がたくさんいても交配が進まないため、極力いろいろな個体が交配できるような環境を 作っていきたいそうだ。海外からチンパンジーを日本にいれることができない今、国内で 繁殖させていかなければならない。もっと計画的に動物園同士で協力して繁殖を進めてい って欲しいと思った。 175 J.有賀菜津美 Ⅴ.個人報告書 観察 3 日目までは、観察といっても個体識別をするのに精一杯だった。しかし、3 日目の観 察時に Seres さんが一緒にいてくださったため、鳴き方の違いについて尐し教えていただ いた。私 1 人では分からなかったが、一緒に聞いているとちょっとした違いに気がつくこ とができた。例えば、パンティングは状況に忚じて尐しずつ音が変わっていることや、フ ーフーと鳴いている語尾の音が上がっているか下がっているかということも、よく聞いて いれば違って聞こえるそうだ。Seres さんは鳴き声だけでこの後騒ぎが起こるかどうかを 予測しており、驚いた。私も聞きわけてみようとしたが、それはとても難しいことだった。 4 日目以降は、個体識別もだいぶできるようになったので、騒ぎの原因や誰が誰を叩いた のかということまで観察することができた。大きな騒ぎになると、同時に色々な場所で騒 いでいるため混乱した。 しかし、 騒ぎが起こることでそれぞれの性格が分かり面白かった。 例えば、大きな騒ぎが起こったときにミズオも一緒になって大きな声を出したりしていた のだが、順位が下位のため上位相手に何もすることができないようだった。そのため、運 動場の一番外側を走り回り私たち見学者に向かって水をかけてきた。他にもジョージやカ ナオも同じように騒ぎの中心にいるのをあまり見なかった。逆に、サトルやミコタ、ナオ ヤなどがディスプレイをしている様子はよく観察することができた。また、エンリッチメ ントのための宅急便やホースなどが原因となり、騒ぎが起こることも多くあった。騒ぎが 起こらないように 1 人ずつに宅急便を渡すことも可能だが、そうなると社会性が乏しくな ってしまうため、ある程度の騒ぎはあった方がいいそうだ。騒ぎの後に抱きあって、慰め あっている様子も確認できた。このようなことを重ねることで絆が強くなっていくのだな と感じた。 個体識別について 到着した初日から個体識別できるようになろうと努力した。まず、それぞれの個体の見 た目(体毛、顔の斑点・色など)を記録した。目がチンパンジーに慣れていないせいか、 最初はどの個体も同じに見えた。1 番最初に覚えたのはジョージだった。なぜなら、顔に ある斑点が特徴的で、観察しにいくと必ず近くまで来てくれたので、顔を観察することが 容易だったためだ。2 日目の観察からは、その特徴と名前を一致させた。フェンスまで来 るような個体の顔はよく見ることができるが、いつも運動場の奥の方にいる個体はなかな か顔の特徴を捉えることは難しかった。4 日目までには、特徴を見て名前を言えるように なったがその特徴が見えないと個体識別できなかった。しかし、5 日目になると突然個々 の顔の違いが分かるようになった。顔の特徴が見えなくても分かる個体が増え、いつも奥 にいるような個体も大体分かるようになった。第 1 飼育棟で難しかったのは、ミコタとサ トルだった。2 人とも顔の色が似ていて、同じ部屋に入っていることがほとんどなかった ため、体の大きさを比較するのが難しかったのだ。しかし、最後には顔の色の微妙な違い や、 体の大きさで分かるようになった。 第 5 飼育棟であまり観察することがなかったため、 前半はあまり個体識別できなかった。しかし、飼育実習中に顔を近くで見て特徴を捉える ことができてから、メスの方を覚えるのは早かったように感じた。 以下の表が初日から研修最終日までにおこなった個体識別の表である。 176 J.有賀菜津美 Ⅴ.個人報告書 識別可能個体表 研修日 個体名 日計 累計 9月5日 ジョージ ゴロウ レノン ミズオ ノリオ オウム リナ サクラ 9月6日 ジョージ ゴロウ レノン ミズオ ノリオ オウム リナ サクラ ケニー トーン ブラック 9月7日 ジョージ ゴロウ レノン ミズオ ノリオ オウム リナ サクラ ケニー トーン ブラック カナオ ミナト ノリヘイ シロウ 9月8日 ジョージ ゴロウ レノン ミズオ ノリオ オウム リナ サクラ ケニー トーン ブラック カナオ ミナト ノリヘイ シロウ 9月9日 ジョージ ゴロウ レノン ミズオ ノリオ オウム リナ サクラ ケニー トーン ブラック カナオ ミナト ノリヘイ シロウ コナン コナツ アキナ ナッキー サチ サイ スズ ヨシエ ノノ コテツ ベル 9月10日 ジョージ ゴロウ レノン ミズオ ノリオ オウム リナ サクラ ケニー トーン ブラック カナオ ミナト ノリヘイ シロウ コナン コナツ アキナ ナッキー サチ サイ スズ ヨシエ ノノ コテツ ベル ミコタ ナオヤ サトル タカボー テツ 9月11日 ジョージ ゴロウ レノン ミズオ ノリオ オウム リナ サクラ ケニー トーン ブラック カナオ ミナト ノリヘイ シロウ コナン コナツ アキナ ナッキー サチ サイ スズ ヨシエ ノノ コテツ ベル ミコタ ナオヤ サトル タカボー テツ ホープ ミロ ロマン ユウコ 8 8 3 11 4 15 0 15 11 26 5 31 4 35 177 9月12日 ジョージ ゴロウ レノン ミズオ ノリオ オウム リナ サクラ ケニー トーン ブラック カナオ ミナト ノリヘイ シロウ コナン コナツ アキナ ナッキー サチ サイ スズ ヨシエ ノノ コテツ ベル ミコタ ナオヤ サトル タカボー テツ ホープ ミロ ロマン ユウコ チコ ハルナ カナコ 9月13日 ジョージ ゴロウ レノン ミズオ ノリオ オウム リナ サクラ ケニー トーン ブラック カナオ ミナト ノリヘイ シロウ コナン コナツ アキナ ナッキー サチ サイ スズ ヨシエ ノノ コテツ ベル ミコタ ナオヤ サトル タカボー テツ ホープ ミロ ロマン ユウコ チコ ハルナ カナコ クミコ ニコ シオミ 3 3 38 41 9月14日 ジョージ ゴロウ レノン ミズオ ノリオ オウム リナ サクラ ケニー トーン ブラック カナオ ミナト ノリヘイ シロウ コナン コナツ アキナ ナッキー サチ サイ スズ ヨシエ ノノ コテツ ベル ミコタ ナオヤ サトル タカボー テツ ホープ ミロ ロマン ユウコ チコ ハルナ カナコ クミコ ニコ シオミ 0 41 J.有賀菜津美 Ⅴ.個人報告書 感想 霊長類研でチンパンジーを観察させていただいてはいるが、長い期間チンパンジーに密 着して生活するのは初めてだったので、とても勉強になった。熊本サンクチュアリのスタ ッフの方々が、キャッチフレーズである「チンパンジーが笑う山」を、一生懸命作ろうと しているのがよく分かった。今は、どの動物園でも環境エンリッチメントが大きなテーマ として取り上げられている。よくこの言葉を耳にするが、熊本サンクチュアリのエンリッ チメントに対する取り組みには本当に驚き、関心を持った。そして、そのお手伝いができ たことは、私にとっていい経験になった。また、チンパンジーが笑っている様子を何度も 観察することができた。運動場で追いかけっこをしながら笑い合っているチンパンジーを 見た時には、とても感銘を受けた。日本にいるチンパンジーがこのように笑えるようにな って欲しいと思った。 謝辞 松沢先生、友永先生、森村さんをはじめ職員の皆さま、10 日間という短い期間ではあり ましたが、いろいろなことを経験させていただき本当にありがとうございました。みなさ まのチンパンジーを見る視点やお話はとても勉強になりました。今回の研修をこれからの 活動にも生かしていきたいと思います。ありがとうございました。 178 J.有賀菜津美 Ⅴ.個人報告書 2011 年 10 月 5 日 東京で学ぶ京大の知 「人間とは何か、想像するちから」 日本大学 有賀菜津美 「ヒト科 4 属」これだけを覚えて帰ってください。松沢先生は話の冒頭でこのようなこ とをおっしゃっていた。もちろん本で読んだことがあったため、知っていたが今回の話を 聞き、さらに理解を深めたいと思った。そして今回は、ヒトを中心とした話だった。ヒト とは何か、そのようなことを比較認知科学の側面から見てみるといったもので、いつもと は違う話を聞くことができた。特に私の印象に残っているのは、チンパンジーとヒトのも のの捉え方の違いの話だ。チンパンジーは、目の前にある現時点に存在するものを見て行 動しているという。そのため、彼らは過去を振り返って後悔することもなければ、将来に 不安を感じて絶望することもないそうだ。私は、本当にこの部分は特にヒトと大きく異な る部分だと思った。ヒトは、過去や未来のことを考え、悩むことが多い。しかし、私はこ れが決して悪いことだとは思わない。なぜなら悩んで答えを出そうとすることが、ヒトに しかできないヒトらしいことなのだと話を聞いて思ったからだ。また、このことはレオが 怪我をした時のことを例に出していた。レオに関する話はあまり聞いたことがなかったた め、すごく興味深かった。首から下が動かなくなったレオは、絶望することもなく前向き だったという。そして奇跡的にも尐しずつ快復に向かっているそうだ。また、KS に研修 に行ったときにも、 指がないチンパンジーや耳がちぎれているチンパンジーを見た。もし、 私が同じように指を 1 本でも失えば、大きな不安に駆られ、不便な生活を送るだろう。し かし、KS のスタッフの方もおっしゃっていたが、チンパンジーは指を 1 本ぐらい失って も痛みさえなくなれば普段の生活に戻ってしまうそうだ。私はこの時、チンパンジーはな んて前向きな動物なのだと感心したが、チンパンジーは誰かとケンカして怪我をしたのか ということが重要なのではなく、 今指がないという事実が重要なのだと思った。そのため、 その現状に適用しようとだけ考えているのではないかと思った。次に興味があったのはア ウトグループという発想だ。先生はヒトのことを知るためにチンパンジーの研究を始めた そうだ。そして、同じ類人猿であるゴリラやオランウータン、ボノボを見に行ったそうだ。 同じ類人猿でも家族形態や生活のスタイルが大きく違うとおっしゃっていた。近い種でも こんなに違うのかということを知ることがでたため、とても面白かった。また、この違い には生息している地域の環境なども大きく関わっているそうだ。その時、実際にフィール ドに足を運び、自分の目で確かめることが大切なのだということが分かった。そのため、 私も自分の目で野生のヒト属 4 種を見てみたいと思った。また、このシリーズの貴重な講 演を聞き、「ヒト属 4 種」に関する知識を深めていきたいと思った。 179 J.有賀菜津美 Ⅴ.個人報告書 2011 年 10 月 13 日 東京で学ぶ京大の知 「ゴリラの社会に探る 人間家族の起源」 日本大学 有賀菜津美 今週の東京で学ぶ京大の知は山極先生による講演だった。ゴリラに関する話を聞くこと が今までになかったため、どの話もとても興味深かった。特に群れの中でのオスの役割が 自分の想像していたものとは違い、驚いた。チンパンジーの場合、アルファーは威厳があ り、他のメンバーからも一目置かれる存在だ。しかし、シルバーバックは子どもとたくさ ん遊び、育児を積極的におこなっているようだった。ゴリラはチンパンジー同様生まれて からは母親にぴったり寄り添い生活するが、生後約 1 年で母親の手によってオスのゴリラ に託される。これは、母親が選ぶため生物学上の父親である必要はない。実際に伯父や母 親の兄に託され、育てられるといったことも尐なくないそうだ。これを聞いて私は、母親 がずっと付き添って育てていくのではないところに驚いた。これがヒトと違う 1 つの点だ ろう。また哺乳類の多くは、母親とメスを両立できない。そのため、母親である期間が短 ければ繁殖の面でも効率がいいのではないかと思った。さらに、子どもを預けられたオス の子どもに対する接し方にも驚いた。いくつか映像を見せていただいたが、どれもとても 微笑ましく優しい大きなお父さんのような雰囲気がでていた。背中の上で子どもたちが何 人も跳びはね、ジャングルジムのように登り降りを繰り返しても決して怒らない。また子 ども同士の遊びが激しくなり、ケンカのようになった時には、オスが上手に仲裁に入るそ うだ。しかし、血縁関係に関係なく平等に扱われ、悪いことをした方が怒られる。先生い わく、オスだけでなくゴリラの大人はヒトが見習った方がいいほどの遊び上手だそうだ。 これも映像を見せていただいたが、子どもに加減を合わせ、足を折って目線を合わせるよ うにするなど、子どもとの接し方には感心してしまった。さらにゴリラは共感するという 能力をもっているため、ゴリラ以外の動物とも遊ぶことができるそうだ。この、他の動物 の気持ちを理解したつもりになれるという点はヒトと似ていると思った。また、ヒトはそ のような部分が特に進化したのではないかと想像できる。なぜなら、ヒトも他の動物の気 持ちに共感し、ペットとして飼育することができるからだ。次に興味深かったのは、ゴリ ラの挨拶方法だ。ゴリラの挨拶は、顔と顔を近づけてするのだが、接触寸前まで近づける 様子はヒトやチンパンジーではみられないため、とても驚いた。ヒトは言葉を使うため、 一定の距離があってもコミュニケーションを取ることができるため、このように挨拶しな いのだと先生はおっしゃっていた。また、講演後の質疑忚答では複数の人が、挨拶をする 際に視力が悪いから近づくのではないか、体温を感じるためではないのか、というような 質問をしていた。このように、様々な方の意見も聞くことができたため大変有意義な時間 を過ごすことができた。また、まだまだゴリラについては知識が浅いため、もっと知って みたいとも思った。 180 J.有賀菜津美 Ⅴ.個人報告書 2011 年 10 月 17 日 東京で学ぶ京大の知 「オランウータンとヒト、形態から考える」 日本大学 有賀菜津美 今週は、幸島先生にオランウータンについて講演していただいた。先生は、雪氷にも生 物が生息しているということを発見したのだということを冒頭で教えていただいた。私は、 霊長類を研究している先生方は、ずっと霊長類の研究だけをされてきているものだと思い 込んでいたため、とても驚いた。また、東京工業大学で生物学を教えてらっしゃった経験 があるということで、さらに驚いてしまった。大学では、この都会に一番多く生息してい る野生動物はヒトだと考え、ヒトのすれ違い方や視線についての研究をおこなっていたそ うだ。すれ違い方には、体の正面を相手に向けるか、背を向けるか、正面を向いたまます れ違うかの 3 つがあり、性別やすれ違う相手の年齢によって違いが出るそうだ。今まで意 識したことがなかったため、帰宅中に駅ですれ違うヒトを注意深く見てしまった。実際に 人によって避け方が様々だったため、とても面白かった。このように様々な研究をしてこ られた幸島先生の話はとても面白く、どれも興味深かった。オランウータンについては、 目や成長に伴って変化する顔の形態、オランウータンの現状について教えていただいた。 子どもから大人までのオランウータンの顔は写真で見たことはあったが、並べて比較した ことがなかったため、 成長に伴って大きく変化するということには気づいてはいなかった。 写真を見せていただいたが、確かに変化していることに驚いた。子どもは幼児毛という直 立するような毛を持つが、大人になるにつれ生えかわり、長い大人の毛になるそうだ。特 にオスはメスよりヒゲが長く、優位なオスほどフランジが発達する。また、子どもの時は 顔全体が白いが成長とともに黒くなっていく。しかし、メスは目の周りがいつまでも白く 残るそうだ。チンパンジーの場合、目の周りから黒くなっていくためオランウータンとは 逆だ。先生いわく、チンパンジーは口の動きに特徴があるため、その部分を強調するよう に目の方から黒くなっていくのではないかとおっしゃっていた。私もチンパンジーの観察 をおこなっているが、確かに口の動きで気持ちが分かることもある。挨拶しようとしてい る時、怯えている時、喜んでいる時など様々な感情を口から読み取ることができる。この とき、他の霊長類と比較することでしか気付くことのできないこともあるのだと、実感す ることができた。また、次にオランウータンを見る機会があったなら、そこに注目して見 てみようと思った。 幸島先生を含め、3 週にわたり貴重な講義を聞いてきたが、どの先生も自らフィールド に行くことがとても大切だとおっしゃっていた。ボルネオに生息するオランウータンも現 地で観察することで、食生活や行動についてやっと分かってきたという。保全するには、 まずその動物を知ることがとても重要だとおっしゃっているのを聞いて、私も自分の足で フィールドに行き、観察をおこなってみたいと強く思った。 181 J.有賀菜津美 Ⅴ.個人報告書 2011 年 10 月 30 日 東京で学ぶ京大の知 「チンパンジーとボノボから探るヒト社会の成立」 日本大学 有賀菜津美 東京で学ぶ京大の知シリーズ 5 の最後の講演は、伊谷先生だった。先生の講演をお聞き するのは初めてだったため、とても楽しみにしていた。チンパンジーとボノボが中心のお 話だったが、特に興味深かったのはボノボについてだった。ピグミーチンパンジーと呼ば れていたボノボは、姿がとてもチンパンジーに似ている。しかし、チンパンジーとボノボ の群れ構成や挨拶行動などは異なり、とても同じチンパンジー属とは思えなかった。繁殖 とは別の目的でおこなわれる性行動は、聞いているととてもヒトに近いと思ったが、オス 同士やメス同士でも挨拶行動としておこなわれている点は、 ヒトと異なると思った。また、 オス同士でおこなわれるマウンティングは、優务に関係ないため優位のオスが下になると いうことも珍しくないという。そして、この繁殖をともなわない性行為はオスとメスとい う組み合わせでもあるのではないかと言われているそうだ。射精がおこなわれている場合 は、観察していれば目視で確認することができるが、交尾行動後に射精がおこなわれたと いうことを確認できないということが何度もあったそうだ。私は、そのような話を聞くこ とが初めてだったため、とても不思議に感じた。できるだけ多くの子孫を残したいと思う ことが動物の本能であり、 そのためにおこなうのが性行動だと思っていたからだ。 確かに、 ヒトも繁殖とは別の目的で性行動をおこなうことはあるが、他の動物では聞いたことがな かった。そのため、最後の類人猿といわれるボノボが、やはり 1 番ヒトに近い動物なので はないかとこの時つよく思った。そして、群れの構成についても興味深い点がいくつもあ った。いままで聞いてきたオランウータンやゴリラの群れ構成もチンパンジーとは大きく 異なり、同じヒト科でもこんなに違うのかと驚いたが、チンパンジーとボノボはほとんど 変わらないのではないかと想像していた。しかし、チンパンジーは父権だがボノボの場合 は母権だとうことを教えていただいた。メスが力を持っているということがとても面白い と感じた。そしてこのメス同士の集合性はとても高く、オスはメスに対して頭があがらな いそうだ。そのため、年齢が高くなっても母親を意識するマザコンのオスがとても多い。 また、ボノボは自分の所属する群れに対する意識がとても強く、このような群れ構成は、 ヒトがなぜ家族という卖位で生活するのかということの解明につながるのではと考えられ ている。この話を聞いて、ヒトの家族に対する気持ちとボノボの群れに対する気持ちは、 似ているのではないかと私は感じた。 松沢先生の講演でもおっしゃっていたが、アウトグループという発想で様々なことに気 付くことができるのだと思った。また、ヒト科 4 属それぞれの講演を聞くことで、私も基 本的なヒト科 4 属の知識を身につけるいい機会となった。 182 J.有賀菜津美 Ⅴ.個人報告書 2011 年 11 月 20 日 SAGA14 報告書 日本大学 有賀菜津美 私が初めてポケゼミ生と出会ったのが SAGA13 だったため、SAGA は私にとって思い 入れのあるシンポジウムだった。昨年は、まさか自分が 1 年後にポスター発表するとは思 っていなかったため、会場にポスターを貼った時にとても気持ちが高まった。また、ポス ター内容も自分がやりたかった改修工事に関するものだったため、研究としては未熟だっ たが達成感もあった。今回の SAGA では、たくさんの方からアドバイスを聞くことを目標 としていた。実際に、新しいサンルームの場所ごとに温度を計測することや、改修工事を した動物園の話を参考にした方がいいなどのご指摘を受けることができたので、今後に繋 げていきたいと思った。また、京都大学ポケゼミ隊の方とも話すことができた。彼らも京 都市動物園でチンパンジーの行動観察をしているので、お互いの観察方法などを比較する ことができた。私の研究と違い、使用場所の記録と同時に高さの記録もおこなっていた。 また、行動の分類方法も違ったため、勉強になった。話を聞いていて、私自身の知識が尐 なく分類がきちんとできていないのではないかと不安に思い、改めてチンパンジーの行動 について勉強する必要があると感じた。他の方のポスター発表もとても勉強になった。特 に興味深かったのは、WRC の中島先輩のポスターだ。野生のチンパンジーと KS のチン パンジーの行動を比較していたため、野生のチンパンジーが採食を樹上でおこない、地上 で休息するということを知ることができた。 1 日目の講演では、水に関連したお話を聞くことができた。私の頭の中では、チンパン ジーやボノボは、水をとても嫌って近づかないのではないかと思っていた。しかし、ボノ ボの住んでいる地域や採食の様子、チンパンジーが水で遊ぶ様子などを写真や動画で見て、 とても驚いた。ボノボの場合、スイレンを取るために首の下まで水に浸かっているという ことも観察されているという。一方でチンパンジーの場合、採食ではなく子どもの水遊び が観察されることが多いそうだ。私は、子どものチンパンジーの観察をしたことがないた め、機会があったらこのような視点でも観察してみたいと思った。 2 日目の朝は、チンパンジーをタワーに出す様子を見ることができた。タワーの高いと ころや地面のあらゆるところに果物やジュースなどが置かれていたため、とても楽しむこ とができた。お客さんから見えやすい場所にジュースのフィーダーを設置することやガラ スにバナナをくっつけることで、尐しでもチンパンジーを見てもらおうという飼育員さん の努力も見ることができた。 熊本市動植物園には 4 人のチンパンジーしかいなかったため、 個体識別もすることができた。そのため、いくら見ていても飽きなかった。 今回の SAGA14 では、昨年よりもたくさんの人に出会い、貴重な話を聞くことができた。 そして、 1 年後の SAGA15 で成長したなと感じられるような 1 年間を過ごしたいと思った。 183 J.有賀菜津美 Ⅴ.個人報告書 2012 年 3 月 19 日 幸島自然学セミナー個人報告書 日本大学 有賀菜津美 今年の私の幸島自然学セミナーは 3 月 1 日に宮崎駅でみんなと合流するところから始ま った。フェリーから出るバスの時間が違ったため、予定していた電車に乗ることができな かったが、单郷についてからは鈴村さんに車を出していただき、無事に観察所に到着する ことができた。1 年ぶりにくる幸島に胸を躍らせていた。しかし、今年は初めて参加する 後輩もいたため、 昨年のように先輩に頼りきりにならないよう気をつけようと思った。 観 察所に到着してからは、荷物整理や夕食準備をおこなったが天気が悪く、明日島に渡るの は難しいのではないか、という不安が頭をよぎった。他のみんなも同じだったようで夕食 の雰囲気はあまりよくなかった。 次の日の朝食を準備していると、今日は島に渡れるが泊まらずに観察所に帰ってくると いうスケジュールになったと聞かされた。正直このときは尐しでも行けることに喜ぶべき か、泊まれないということにがっかりしたらいいのか分からなかった。しかし、幸島のサ ルを尐しでも見られるという知らせにみんな喜んでいたようだった。幸島へ渡る時は、雤 は止んでいたが海の状態はあまり良くなかったようで、大泊の中の方までボートを入れず に岩場を歩いて行くことになった。 それは、予想以上に大変で何回か転びそうになったり、 靴が濡れてしまったりした。また、来年はボートに乗る際に全員軍手をはめていた方がよ いと思った。しかし、砂場についてしまうと大変だったことはすべて忘れて目の前のニホ ンザルに夢中になっていた。今年は、天候のせいもあってか出てきたサルが尐ないように 感じたが、珍しいものも見ることができた。それは、ニホンザルが対面で抱き合っている 様子だ。鈴村さんも屋久島では見かけられているが幸島で見るのは初めてだと言い、長い 時間一緒に観察をさせてもらっ た。交尾時期としては、遅いが 何度も交尾を繰り返しているよ うだった。交尾は、普通メスの 後ろにオスが跨っておこなわれ る。しかし、この 2 頭はボノボ のように対面のまま交尾のよう な行為を何度かしていた。鈴村 さんにこれは交尾として成り立 っているのかと聞いたところ、 射精はされていないだろうとの ことだった。そしてその後は、 後ろに跨ったり対面で抱き合ったりを繰り返していた。ニホンザルの交尾については本で 読んだことはあったが、間近で観察したのは初めてだったため、とても貴重な体験になっ た。また、この行為が他のニホンザルにも広がっていくのかどうかということが、とても 気になった。来年また幸島に行く時には、そのような点に注目しながら観察したいと思っ た。 184 J.有賀菜津美 Ⅴ.個人報告書 今回の幸島セミナーでとてもよかったのは、食事だ。今までに作ったことのないメニュ ーが多かったため、楽しく食べることができた。しかし、いくつかは観察所のコンロで作 ったからよかったが、テント内で EPI ガスを使って作ったら難しかっただろうというメニ ューもあったので、来年に生かしたいと思った。また、最終日前夜に鈴村さんがイノシシ の肉をたくさんくださった。そのため、急遽ぼたん鍋をすることになったが、本当に美味 しく食べることができた。 今年度の幸島自然学セミナーとしては、ニホンザル観察日数 1 日ということで終わって しまったが、こういった状況の中でも工夫してさまざまなことを体験することができた。 また、なによりも鈴村さんと下北のニホンザル調査や幸島のニホンザルについてたくさん 話をできたことが、とても嬉しかった。そして、今回ゲストとして参加していただいた大 橋さんからも、アフリカでの調査についての貴重な体験談なども聞くことができた。来年 は 3 日間のテント泊ができるよう祈って、今年の教訓を生かせるよう犬山セミナーや妙高 セミナーもおこなっていきたいと思った。 185 J.有賀菜津美 Ⅴ.個人報告書 2012 年 3 月 25 日 1 年間のまとめ 日本大学 有賀菜津美 今年度は、自分の研究が始められるということで、4 月からとにかく期待に胸を膨らま せていた。もともとエンリッチメントに興味があったため、改修工事に絡めた研究を始め たいと思っていた。そう思っていたところに山梨さんから声をかけていただき、無事に研 究を始めることができた。1 から始めるということもあり、いざ観察しようと思った時に 何を観察するべきなのかとても迷ってしまった。自分で始めるということは、こういうこ となのかということを実感した瞬間だった。その後も山梨さんや先輩方のご指導をいただ き、SAGA で念願のポスター発表をすることができた。横浜のポスター発表でポケゼミに 出会った私としては、1 年間で自分が発表する側に回ることができて本当に嬉しかった。 そして、研究自体は現在途中なので、今後も改修工事の様子を見ながら観察を続けていき たい。 もう 1 つ私が始めた活動は、アイのホームページ記事の作成だ。日々の観察の中でカメ ラを使って観察することが好きだった私には、撮った写真を活かすいい活動になった。ま た、日本語と英語の 2 つを作成することは大変だったが、よい経験になった。こちらも継 続して、素敵な記事を書いていけるよう頑張りたい。 10 月におこなわれた「東京で学ぶ京大の知」に参加したことも私にとって知識を深める よい機会になった。そして、4 人の先生方から聞くお話はどれも貴重で毎回楽しむことが できた。チンパンジーはもちろん好きで本を読むことはあったが、ボノボやオランウータ ン、ゴリラの話をゆっくり聞いたのは初めてだった。そのため、知識がとても広がった。 そして、フィールドに出ることの大切さをどの先生方もおっしゃっていたのが印象的だっ た。そのため、私もぜひそんな先生方のようにフィールドに出て野生のチンパンジーやボ ノボなどを見てみたいと以前にも増して強く思った。 186 K.平栗明実 Ⅴ.個人報告書 熊本サンクチュアリ研修報告 日本大学 2 年 187 平栗明実 K.平栗明実 Ⅴ.個人報告書 熊本県にある京都大学野生動物研究センター熊本サンクチュアリ (KS) で 2011 年 8 月 13 日 (土) から 19 日 (金) までの 7 日間、 夏季研修をおこなった。 以下にその詳細を示す。 8 月 11 日 (木) 20:30 に自宅を出発。21:30 に新宿から博多行の夜行バスに乗った。 8 月 12 日 (金) ちょうどお盆の時期だったことと、事故渋滞が重なったため、予定より 4 時間遅れての 到着となった。いつも名古屋へ行くときには夜行バスを利用しているとはいえ、20 時間を 越えるバスの旅は疲れた。JR 博多駅から 17:44 発の電車に乗り、19:52 に熊本駅へ到着し た。この日は駅前のホテルに宿泊した。 8 月 13 日 (土) 熊本交通センター7:15 発の産交バスに乗っ 8:30- 施設到着 て大田尾に 8:17 に着いた。お盆休み期間中であ 9:00- 施設案内 るためか、とても混雑していた。大田尾のバス 11:00- 第 1 飼育棟見学 停では廣澤先輩が待っていてくださり、バス停 12:00- 第 5 飼育棟見学 13:00- 観察(第 1 飼育棟) 15:00- 観察(第 5 飼育棟) から KS まで車に乗せていただいた。距離とし てはあまり無いのだが、急な上り坂であった。 9:20 から廣澤先輩に施設全体の案内をして いただいた。第 1 飼育棟では A,B,C の放飼場に それぞれ 5 人ずつ雄のチンパンジーが出てきた。さすがに見知らぬ人の登場にディスプレ イするものが多かった。廣澤先輩が 1 人ずつ名前を教えてくださったのだが、5 人目の名 前を言われるには、最初にみた顔と名前が一致しなくなった。第 1 飼育棟の裏側は、1 人 1 人の個室になっていた。チンパンジーは居室間の移動の時に霊長研のように上を通るの ではなく、下を歩くようになっていた。私は、彼らが下を通った方が糞をされないのでい いと思っていたのだが、チンパン ジーが立ち止まった場合にどこに いるのか分からなくなるため危険 だという欠点があるそうだ。 バックヤードの通路 個別の居室 クーラーと風よけのダンボール これらは多摩動物園のバックヤードを手本にして作ったそうだ。また、クーラーの前に ダンボールが付いていた。風が直接チンパンジーの体に当たると良くないからだと廣澤先 輩が教えてくださった。 188 K.平栗明実 Ⅴ.個人報告書 第二飼育棟では、中に入ると近すぎて危険なのでということで、ケージのさらに外側の 金網越しに観察した。とても狭かったので、あまり動けなさそうでかわいそうだった。 第五飼育棟では、雄だけの群れと卖雄複雌の群れ、雌だけの群れに分かれていた。それ ぞれのエリアにはテーマがあり、D の放飼場はタワーがメインだった。観察者は部屋の中 から観察することもできる。しかし、野生のチンパンジーは隣接する群れともコミュニケ ーションをとる。そのため、D の放飼場に入ってしまうと、コンクリートで他の放飼場と 隔絶されているために、他の放飼場にいるチンパンジーが見えない、という難点がある。 E の放飼場は消防ホースがたくさん使われている消防ホースゾーンであり、G の放飼場は 竹がたくさん使われている竹ゾーンであった。雄は雌がいるとあまり雄同士では遊ばない そうだ。初日ということもあり、個体識別が困難だった。 森村先生とのミーティングでは、彼らの特性を見るために十分に距離を置き、彼らの自 然の姿を観察するようにと指摘を受けた。これは、私のようなチンパンジーに慣れていな い者が、不用意に彼らに近づくと危険であるということだけでなく、彼らにストレスをか けないためにも大切なことだった。 8 月 14 日(日) この日は 1 日中観察することができた。森 9:10- 観察(第 1 飼育棟) 村先生に教えていただいた通り、チンパンジ 10:10- 観察(第 5 飼育棟) ーたちにできるだけストレスを与えないよう 11:45- 観察(第 1 飼育棟) にゆっくりと近づくと、それほど拒否される 13:30- 観察(第 5 飼育棟) こともなかった。それでも中にはトーンのよ 13:50- 観察(第 1 飼育棟) うに興奮気味で、ディスプレイしてくる個体 もいた。チンパンジーは、彼のように感情の 起伏を表現することが難しいそうで、ある閾値を超えると全ての感情を内包してディスプ レイをすることがあるそうだ。つまり、彼らが今、何を思って行動しているのかを理解す るためには、 彼らの行動の前後関係をしっかり観察していく必要があるということである。 ディスプレイと似たようなもので、ロッキングがある。ロッキングは意気消沈していると きに起こる異常行動として知られているが、ディスプレイの前の緊張を高める役割もして いる。後者は野生でも観察されている行動だそうだ。さらに、ブーブーと口をならしてい るとき、不満を訴えている個体もいれば、卖なる暇つぶしということもある。つまり、チ ンパンジーの感情とそれに対忚する行動を正しく理解するために、よく観察をしていかな くてはならない、ということだった。しかし、個体識別表を見ても 100%正解できるほど 個体識別が十分ではなかったので、このように教えていただいても、どの個体がどう思っ ているか、まで考えることはできなかった。また、チンパンジーは問題を 1 人で解決する ことはしないそうだ。解決法としては、グルーミングやあいさつ、けんかなどにより、相 手との関係を確かめることである。このような行動をとることで、環境の変化により生じ る個体間の緊張を解消しているそうだ。特に雄同士でこれらの行動はよく見られ、けんか して仲直りしてまたけんかして、という繰り返しによって安定した関係を理解していくそ うだ。これを Male-bond と言うそうだ。第 1 飼育棟は、ヒトからすれば区切られた空間に 見えるものも、彼らにしてみたら声が聞こえるだけでも関係を築くことができるため、隣 189 K.平栗明実 Ⅴ.個人報告書 接集団と言うよりも同一集団という感覚が強いそうだ。森村先生からこのお話を伺ったと きには、どのようなところが同一集団であるのか分からなかった。しかし、数日後には、 B の放飼場での騒ぎに対して、A の放飼場にいる個体が反忚して、パントフートで忚戦し ているところを観察できた。これを見る限り、隣接集団ではなく、同一集団という感覚を 受けた。このような見方をしていくと、1回の騒ぎからけんか相手だけでなく、以前の仲 間ともコミュニケーションを図ることができるということになる。じっくり観察するほど、 彼らの関係性がよくわかるので、このような観察の仕方を教えていただいて、とてもあり がたかった。 観察終了後、廣澤先輩が私の健康を気遣ってサラダとお茶を差し入れしてくださった。 普段レトルトをあまり食べないので、早くも野菜不足に陥っていた私にとっては、本当に 嬉しい差し入れだった。廣澤先輩ありがとうございました。 8 月 15 日(月) 今日は個体識別表を見ないで個体識 9:00- 観察(第 1 飼育棟) 別をおこなった。いつも前へ出ていて 10:00- 観察(第 5 飼育棟) 見える位置にいる個体はすぐに識別で 11:30- 観察(第 1 飼育棟) きるのだが、部屋の奥で寝ている個体 12:00- 観察(第 5 飼育棟) や、草の陰に隠れている個体の識別に 14:30- 観察(第 1 飼育棟) は時間がかかった。第五飼育棟では、 16:30- 森村先生とのミーティング 森村先生に D,E の放飼場だけではな く、C,F,G の放飼場にも連れて行って いただいた。13 日に来たときより、個体それぞれの特徴を見分けることができた。 この日は、前日に引き続き雤が降っていたうえに、激しい雷もあったため、あまり観察 をすることができなかった。昼には、第五飼育棟の個体は落雷の危険から居室に入ってし まった。第一飼育棟の個体も昼食のため、みんな部屋に入ってしまったのだと思い引き返 そうとすると、なぜかゴロウだけ部屋に出ていた。森村先生に聞いたところ、ゴロウとノ リオはよく部屋に入ることを拒むため、外に出たままのことがあるそうだ。昼食も終わり みんなが出てきた後、また豪雤と雷鳴が轟いた。その音に驚き、壁を叩く個体、全身を使 って消防ホースやロープを揺らす個体、声を荒げる個体などがいた。森村先生とのミーテ ィングでは、初日に気づいたことを書き留めておくように渡されていたノートを見ていた だいた。ノートを書く場合に、相手に伝わるように場所を詳しく書いたほうが良いという ご指摘を受けた。その後森村先生から、野上さんが作成された第 1 飼育棟の雄 15 人が他 の個体と 1 対 1 の総当たりになった場合に、どのような関係であるのかという表と、その 資料を元にどの個体が似通っているかを森村先生がまとめた表をいただいた。野上さんの 作られた表からは、まだ観察したことのない個体同士の組み合わせがあった。その組み合 わせの中には、以前一緒の放飼場に入ったときに個体 A が個体 B に大けがをさせてしまう こともあったそうだ。森村先生が作られた資料では、一見すると性格や態度が異なるよう に見える個体同士でも、周りの個体へ示す行動が一緒であったりすると聞き、とても興味 深かった。 190 K.平栗明実 Ⅴ.個人報告書 8 月 16 日(火) 毎日会っていると、どのチンパンジーに近づ 8:30- 観察(第 5 飼育棟) いていってもディスプレイをされなくなった。 9:50- 観察(第 1 飼育棟) むしろ、近づいてきてくれる個体もいた。第五 10:20- 観察(第 5 飼育棟) 飼育棟では、テツがユウコとグルーミングをし 13:20- 観察(第 1 飼育棟) ながらも、ユウコに玉葱を横取りされないよう に隠し持っていた。しかし、テツはふとした拍 子に玉葱を落としてしまい、結局ヨシエに食べられていた。テツは残念だったが、ヨシエ はユウコに先越されて食べるものがみつからなかったようだったので、食べられてよかっ たと思った。この日はガンのために隔離されているイヨのところへ案内していただいた。 イヨは、以前ガンによって上唇が膨れ、それがしぼんで腐っていた。体も痩せていてとて も辛そうだった。 第 1 飼育棟では、A の放飼場に 5 人、B,C の放飼場に 10 人という体制だった。前日 B,C の放飼場では居場所を失っていたミコタであったが、この日は A の放飼場から 1 人移動し てきて、A の放飼場に 4 人、B,C の放飼場に 11 人という体制となり、ミコタは珍しく前 の方に出てきていた。群れの人数が増えたことは、ミコタにとってはいい方に作用したよ うだった。一方、ノリヘイはよく吐き戻しをしていたので、森村先生に伺ったところ、お そらく毎日群れが変わることによる緊張やストレスからきているということだった。また チンパンジーを飼育する上で、しっかり考えてあげなければならないことは、彼ら 1 人 1 人全く異なった歴史をたどっているということだともおっしゃっていた。それぞれの個体 をよく観察していく、そして彼らを理解することがいかに重要であるかが分かった。本当 に彼らのやりとりをしっかり見ておかないといけないと思った。大けがをしてしまう個体 が出てきてしまってからでは遅いので大変だと思った。 8 月 17 日(水) 8:15- 朝食準備補助(第 5 飼育棟) 9:00- 朝のミーティング 寺本さんと共に朝の健康チェ ックをおこなうため、コテツ、 ホープ、ベルのいる第五飼育棟 9:25- 掃除(第 5 飼育棟) へ行った。健康チェックはどこ 11:00- イヨの病理解剖 15:00- 鵜殿先生による病院と展示室案内 16:20- 掃除(第 5 飼育棟) 17:00- 「宅配便」観察(第 5 飼育棟) に誰がいるか、どんな行動をと っているか、食べ残しは無いか などをチェックする。また、便 は 3 段階で評価する。朝食準備 ではジャガイモの芽を取る作業 をおこなった。1 箱分のジャガイモの芽を取るのは思った以上に大変だった。サツマイモ は生で良いのだが、ジャガイモやカボチャは湯がかなくてはならないそうだ。9:00 から初 めて朝のミーティングに参加させていただいた。今までは休日やお盆休みでミーティング が無かったからだ。初めてのミーティングを終え、朝の掃除が一区切りついた頃に鵜殿先 生から突然の訃報がはいった。9:20 にイヨが亡くなったということだった。前日森村先生 に案内していただいたばかりだったので、ショックが大きかった。前日に会ったときは痛 191 K.平栗明実 Ⅴ.個人報告書 そうな顔ではあるが森村先生に甘え、初めて会う私には照れて顔を見せてくれなかった。 このように意識ははっきりしているように思えた。また、ミーティング前に野上さんがイ ヨに会ったときには、手を握り返してくれたそうで、このわずかな間に亡くなってしまっ たのだと思うと本当に驚いた。 そこで急遽予定を変更して、イヨの病理解剖をおこなった。解剖は職員全員が手分けし ておこなった。実際に解剖する人、摘出した臓器を洗浄し写真を撮る人、摘出した臓器を ホルマリンや RNA_later につける人、凍結などの作業をおこなう人、所見をメモする人、 臓器の保存方法などを書く人などに分かれた。解剖室は換気扇がなく、クーラーも無かっ たため、とても暑かった。さらに先生方は白衣の上にエプロンや肘あて、防護メガネのよ うなものも着けていたので、熱中症で倒れてしまうのではないかと心配だった。剖検は 11 時に始まり 14 時に終わった。眼球以外の臓器は全て摘出したのではないかと思う。その ため剖検終了時のイヨの体の中には何も無かった。最終的に、イヨの体も丸ごとホルマリ ンにつけた。所見の状況としては、顔の周り、特にリンパ節は膨らみ、堅くなっていた。 腫瘍を切除し、大きさを測り、重さを量り、本当に顔周辺に全部付いていたのかというぐ らいたくさんの腫瘍が摘出された。しかし、顔周辺以外異常は見当たらなかった。胃の中 を見ると黒くなっていたので、ガンが転移したかに思えた。しかし、洗浄してみると何も 残らなかったので、口の腫瘍を飲んでしまっただけだということがわかった。そのほかの 臓器も本当に綺麗でほとんど健康体そのものであった。しかし、肝臓の色を見て、鵜殿先 生は「尐し色が薄くなっている。」とおっしゃられた。それは、イヨが最期まで一生懸命 血液を送り続けていた証であった。私は鵜殿先生が剖検後に「口以外何も悪いところはな いのにな。」「心臓発作とかで死ぬよりも、食べたくても口が動かない、目も閉まらない。 そして口も目も腐り、食べ物を食べられないという方がむしろ残酷だ。」とおっしゃった 言葉がしばらく頭を離れなかった。 最大体重 48kg だったイヨ。剖検前に量るとたった 26kg しかなかった。 鵜殿先生による施設案内で、病院はヒトに対 してのものとさほど変わりは無いが、チンパン ジーの場合、検査のたびに麻酔を打たなくては ならないというところが大きく違った。毎年半 数個体ずつ健康診断をおこなうそうだ。健康診 断はもちろん麻酔をかけておこなう。塩酸ケタ ミンは 1 回で 15 分しか持たないので大急ぎで おこなうそうだ。また、怪我などで毎日注射を しなければならない個体は入院をする。そして 病院にて スクイズ形式のケージに移される。女性に多い病気は子宮筋腫だそうで、エコーで発見で きる。発見された場合、ホルモン剤の投与で対忚するそうだ。病院でよく使われる薬が駆 虫薬だそうだ。チンパンジーは動いている小さくて白い物が大好きであるので、そのよう な見た目の蟯虫を食べてしまうことがあるそうだ。しかし、経口摂取した蟯虫はおなかの 中で 4000 倍に増えてしまうそうで、あっという間に下痢になり、そのまま放っておくと 死んでしまうこともあるそうだ。そのために駆虫薬を飲ませるのだが、どうしても飲んで 192 K.平栗明実 Ⅴ.個人報告書 くれない個体の場合には麻酔をして飲ませるそうだ。薬を飲ませることも一苦労だと思っ た。 展示室は、動物園の飼育員向けに開かれているそうで、KS のこれまでの歴史や、チン パンジーの現状やチンパンジーの形態学的な説明をしていただいた。始めに、チンパンジ ーの顔を見比べてどんな様子であるかを考えた。笑顔はどの顔でしょうという問題だった。 よくテレビに出てくるチンパンジーの笑顔はグリメイス。つまり、ヒトだと笑っているよ うにみえる表情でも、チンパンジーにとっては悲しい、悔しい、やめてくれという表情な のである。口を尖らせているのは欲求不満の顔。口をギュッと結んでいるのは尐し危険な ぐらい欲求不満。 パントグラントは相手の下手に出てきている顔。あとは普段の顔と笑顔。 KS ではいろんな方法で彼らが笑顔になってくれるように日々努力しているそうだ。その 後、頭蓋骨や腰骨をヒトとチンパンジーで比較した。硬いものを食べなければならなかっ たアファール猿人までは、筋肉が大きく付くために脳が小さく、頭蓋骨も小さかった。ヒ トは食物を切って食べるため、その筋肉が不要になり、大きな脳を持てるようになった。 アファール猿人とチンパンジーの違いは、大後頭孔が中央に存在するかしないかである。 この大後頭孔が中央に存在することによって、頭部を垂直に保持できるようになり、二足 歩行しやすくなった。このようにアファール猿人にもチンパンジーにも同じ骨があるのだ が、位置が異なるだけで二足歩行なのか四足歩行なのか、という大きな違いを生み出して いる。私は、今まで見てきた進化の図において、なぜもう絶滅している猿人たちが二足歩 行であったと判断しているのかと疑問に思っていたので、解決してよかった。しかし、寛 骨臼はヒトとチンパンジーしか比較できなかったので、残念だった。アファール猿人をは じめ、原人、旧人なども見ていくと、進化の順に寛骨臼の厚みの位置なども変わっていく のだろうかと思った。続いて疫病の話や、チンパンジーの怪我の話を聞いた。病気の話で は、チンパンジーやヒトの進化に伴って蟯虫やシラミ、ヘルペス、コクサク系も進化した そうだ。そのため種を超えて罹患すると致死的である。他の病気としてはハンセン病とい う病気があった。ハンセン病は、神経を働かなくさせ、感じなくさせる病気であり、KS ではハルナが感染したそうだ。ハルナはライ菌という菌をアフリカで赤ん坊の頃にもらっ たそうだ。この病気はチンパンジーでは珍しく世界で 4 例目だったそうだ。ちなみに亡く なったイヨは扁平上皮ガンという犬猫でよく発症するもので、不治の病 であったそうだ。鵜殿先生による施設案内の後、廣澤先輩と共に E,F,G の放飼場へ行った。KS では、毎日エンリッチメントをおこなっており、 水曜日は宅配便の日であった。宅配便では、ダンボール箱に詰めた夕食 をケージの上に投げて乗せた。食べ物は居室から勢い良く出てきた個体 が、陣取って、あっという間に食べていた。同じ順位ぐらいの子たちは ケンカしていた。箱に近づけない個体には直接手渡しで廣澤先輩があげ ていた。みんな声を上げて喜んで食べていた。 193 宅配便 K.平栗明実 Ⅴ.個人報告書 8 月 18 日(木) 8:15- 朝食準備補助(第 5 飼育棟) 9:25- 掃除(第 5 飼育棟) 朝食準備ではホープ、コテツ、ベル が前日会ったときより落ち着いていた ので安心した。尐しは私に慣れてくれ 11:00- 誕生会のケーキ作り たようだ。掃除では時間がたっぷりあ 13:25- 観察(第 1 飼育棟) ったので、麻袋を洗い、居室を掃除し 14:00- シオミ、クミコの誕生会 た。居室の掃除では、壁の高いところ 15:00- 掃除(第 5 飼育棟) に糞を塗りつける個体がいたため、剥 16:00- 鵜殿先生のレクチャー がすのが大変だった。また、この日は 前日におこなう予定であったシオミ、 クミコの誕生会があった。那須さんがとても綺麗に盛り付けてくださったケーキとわたし が作ったケーキを板にのせて運んだ。G の放飼場の上のほうに運ぶ際に、雤で滑りやすく なっていた坂で私は見事に滑ってしまい、那須さんの作ったケーキが台無しになってしま った。それでも寺本さんがなんとか元に戻してくださり誕生会を始めた。シオミとクミコ だけでいたときは 2 人とも喜んで食べていたのだが、他の個体が入ってくるとすぐに喧嘩 を始めた。先生方の話を聞く と、シオミとクミコは元々仲 が良くなかったそうだ。しば らくすると、雤も降ってきた ので私たちは部屋に入ったが、 彼女たちは気にせずに雤に濡 れたまま食べ続けていた。 平栗作ケーキ 那須さん作ケーキ 第 1 飼育棟の観察では、前 日見にいけなかったので忘れられてしまったかと心配し ていた。しかし、特に怒られることもなく、覚えていて くれたようだったので安心した。A の放飼場ではノリオ が口に水を含んだままレノンに駆け寄った。するとレノ ンが嫌がり、 ノリオを追いかけていた。 第 5 飼育棟では、 コナツがしっかり認知してくれたようで嬉しいのだが、 放飼場の上に置かれたエンリッチメント用の枝を私に渡 ケーキを崩してしまい 取り繕ったあと そうとし、さらにおしりを見せてきたので、一緒に遊ん であげられない私は、すぐにその場を離れるしかなかった。 2人で仲良く 他個体の接近に動揺 194 2 人はケンカし始めた様子 K.平栗明実 Ⅴ.個人報告書 鵜殿先生のレクチャーでは、 チンパンジーを飼育することがいかに大変であるか、 また、 現在日本が抱えているチンパンジーの遺伝的偏りをどのように解決すべきであるのかとい うお話をしていただいた。動物園で群れで飼っている場合でも、卖雄複雌で飼っているた め、どうしても遺伝的偏りが生まれてしまうそうだ。この偏りが生まれないようにするに は、まず日本中のチンパンジー全体の遺伝を把握し、チンパンジーのことを第一に考えて 行動してくれる人が指揮しなくてはいけないと思った。しかし、管理していくことは大変 だと思った。さらに、以前 KS でおこなわれていた肝炎実験のお話もしてくださった。肝 炎研究では、ウイルスの増え方や境界値を調べていたそうだ。ワクチンなどは 3 ヶ月スパ ンで実験をおこなっていたそうで、実験中は他の個体に感染しては困るということで実験 個体はひとりぼっちにさせられていたそうだ。不幸中の幸い、肺炎で苦しむ個体はいなか ったが、近年 20 年から 30 年後に障害が出てくるということが分かったそうだ。しかも、 この時実験に使用されていて、KS に来た 16 個体中、生存個体は 12 個体しかいないそう で、何らかの影響が出ているのではないかという話だった。実験個体の約 1 割がウイルス を保持したままだそうで、17 日に亡くなったイヨもウイルスを持ったままであったそうだ。 この日の観察終了後、森さんと廣澤先輩にご飯に連れて行っていただいた。森さん、廣澤 先輩ありがとうございました。 8 月 19 日(金) 初めのころに比べて、個体識別もスムーズに 9:00- 観察(第 5 飼育棟) なり、彼らの行動をじっくり観察することがで 9:45- 観察(第 1 飼育棟) きた。第 1 飼育棟の観察では、ミズオのディス 13:00- 観察(第 1 飼育棟) プレイをみてミコタも同調し、その隣の放飼場 13:40- 観察(第 5 飼育棟) でシロウに対してミナトがディスプレイをした。 14:20- 観察(第 1 飼育棟) そのため、周囲にいた個体も巻き込んでの大騒 ぎになった。昨日まではとても静かだったので、 今日も静かだろうと思っていたのだが、激しいディスプレイが見られた。ノリオとゴロウ はレスリングや追いかけっこをして遊んでいた。 第 5 飼育棟の観察では、フィーダーからジュースを飲む際に、横についている小さな穴 から枝を差し込むコナン、ミロに対し、コナツとロマンはもう尐し上のほうから枝を差し 込んで注ぎ口に枝を差し込んで飲んでいた。どの個体も中太めの枝をしがんで表面積を広 くして飲んでいた。また D の放飼場にはいつも G の放飼場にいる個体が出ていた。G の 放飼場の個体は前日の誕生会の時と掃除の時ぐらいしか見たことがなかったので、識別で きるか不安だったが、個体識別表をみればすぐに誰であるか分かった。最終日ということ で早めに切り上げた。 午後の観察では、最後にみんなの顔を見て帰ろうと思ったが、陰に隠れていて出ていな い個体がいて残念だった。また、このようにチンパンジーの写真を撮り、個体識別するこ とに夢中になりすぎて、先生方と写真を取るのを忘れてしまったことが残念だった。今回 は 1 週間という短い時間だったので、今度行くときはもっと長い時間滞在したいと思った。 そして、エンリッチメントグッズ作りやエンリッチメント作業もしっかりやりたいと思っ た。 195 K.平栗明実 Ⅴ.個人報告書 ここで、今回使われていたエンリッチメントグッズについて紹介する。 1.エヴァンゲリオン(設置場所:第 5 飼育棟 E の放飼場) 透明なパイプにいくつか穴が開いている。指や枝を使って、中の食べ物をとりだす。 2.お手洗い(設置場所:第 1 飼育棟 A,B,C の放飼場) 大きな穴が開いており、そこにジュースが入っている。ジュースを飲む姿が、まるで手 を洗っているように見えるため、お手洗いと名付けられたそうだ。 3.よくばりくん(設置場所:第 1 飼育棟 A,B,C の放飼場) 透明なパイプが中心で上下に仕切りがある。上にジュース、下に大豆が入っている。 4.ぶらぶらくん(設置場所:第 1 飼育棟 C の放飼場) 木に枝が 1 本入る穴をいくつかあけ、そこに蜂蜜が入っている。 エヴァンゲリオン お手洗い よくばりくん ぶらぶらくん 個体紹介 第 1 飼育棟 ・ジョージ 1979/1/1 (推定) 目を合わせようとするとすぐに避ける。雤が降っても C の 放飼場の奥までは行かず、どちらかというと屋根に隠れる 様にして部屋の中央右上にいる。見ていないようでヒトの 方を見ている。大雤に対して他の個体が雤降りダンスをす る中、ダンスをするような素振りを見せたが、途中まで走 ってきてやめた。右手の小指が短い。枝を使って歯の掃除 をしていた。よくヒトやチンパンジーを観察している。け んかが始まると一番安全そうなところに一目散に逃げる。トーンとケニーが入りたての 頃はみんなからいじめられていた 2 人の興奮をおさえ、 他の個体から守ってあげていた。 おとなしく、面倒見は良い。他の個体とは距離を置いていることが多い。 ・カナオ 1990/6/13 朝、居室から放飼場に出てご飯を取っていくときに、よく二足立ちになっている。 初めのうちは、ミナトと顔が似ていて個体識別が困難であったが、毎日見ていくうちに、 全く違う行動を取っていることに気がついた。カナオは滅多にケージの前の方に来ない だけではなく、草陰や物陰に隠れているため、あまり特徴を見ることができなかった。 19 日の「お手洗い」でのジュースの飲み方は、第 2 関節まで水に浸して掬うようにして 飲んでいた。 196 K.平栗明実 Ⅴ.個人報告書 ・ゴロウ 1982/1/1 (推定) ジョージに比べると長く目を合わせてくれる。A の放飼 場にいるときは、コンクリートの 2 段重ねの円の下に座 っていることが多い。日よけにも雤よけにもなるようだ。 大雤が降った際は、B の放飼場の手前の上あたりでくる くると歩き回りケージをバンバン叩いていた。 昼食の時は居室に戻ろうとしない。また遊ぶのが大好き で、追いかけっこをよくしている。ときどき空気が読めず、いきなり暴れ出し、みんな から非難されることもある。 ・ミナト 1992/2/5 カナオと顔が似ている。口の両端に白斑点がある。ディスプレイのときにあまり観察者 側に来ないで、後ろのポリバケツを押してストレスをあらわにしていた。そのとき寝て いたサトルは飛び起きてよけていた。大豆がケージとコンクリートの間に挟まったとき、 右手の人差し指を親指側に寝かせて引っ張るようにして取っていた。よくケンカをする が、すぐに自分から仲直りしに行ける。太めの枝をぶらぶらくんに入れようとするも入 らず、イライラしていた。その後よくばりくんへ。硬め中太の枝でやり始める。その一 部始終をジョージはこっそりと観察していた。 ・ケニー 1990/1/17 真っ黒で毛並みも綺麗。B の放飼場にいるときは、手前 の上の辺りにいて、A や C の放飼場にいるときは居室出 入り口付近に座っていることが多い。よくヒトを観察し ている。目を向けるとニヤッとされた。C の放飼場にい るとき、控えめに雤降りダンスをしていた。時計回りに 壁を軽く叩いて小走りでやっていた。しばらくすると、 B の放飼場でトーンが激しいダンスを始めたのに触発さ れたのか、壁を 2,3 回蹴りながらのダンスもやっていた。またディスプレイ前にロッキ ングをして、士気を高めていた。ヒトが近づくと誰が来たか確かめるようにケージのギ リギリまで近づいてきて、よく覗き込むようなめ目をする。 ・ミズオ 1989/11/2 体が大きいというよりゴツゴツしている。大豆のフィーダーが好きらしく、雤でふやけ てしまい、なかなか出てこないものに対しても、植物の茎や枝を使いながら何とか食べ ようとしていた。また、フィーダーに息を吹き込む音、トントンとフィーダーを上下さ せる音の大きさが人一倍大きかった。自分が関係していない場合、ケンカが始まっても 一切介入せず、自分の存在感を消す。18 日にはあいさつをしてくれた。前日の宅配便に 入っていた丸太をゲットしたようで、穴が開いているところに強く息を吹きかけたり、 木にトントンあてたりしていた。B の放飼場にてケージに唇を何度も押しつけていた。 197 K.平栗明実 Ⅴ.個人報告書 ・ミコタ 1992/3/14 異常行動のロッキングをおこなう。個人的に識別が難し かった。小柄。私的には霊長研にいるアユム系の顔と覚 えてしまったので、サトルとの識別が難しかった。 15 日の日は居場所を失ってしまいずっと C の放飼場の 左上の奥(暖房の前)にいた。寒い時期に行く個体はいる が、暑い今の時期にそのような場所に行くことはおかし いと森村先生が教えてくださった。16 日には、前日の行 動が嘘だったかのようにミコタはケージの前の方に出てきていた。どうやら、メンバー が 1 人増えたことによって、ミコタの居心地が良くなったようだった。ミナトが近づく と消防ホースから素早く降りてあいさつをしていた。また強引な一面もあり、タカボー とナオヤがグルーミングをしている間に入っていき、タカボーに猛烈にアタック。タカ ボーはナオヤとのグルーミングをあきらめ、ミコタとグルーミングをしてあげていた。 よくあごを軽く前に出して壁により掛かりながらロッキングしている。暑い日には、C の放飼場にて床に腹這いになっていた。顔だけ正面を向いているので気持ちよさそうだ った。ミコタの場合、喜んでいるときも不満があるときもグルーミングをするときにも ブーブーいうので、感情の判断が難しかった。これは KS の職員の方々も、チンパンジ ーたちも同様のようで、慣れるまでに相当時間がかかったそうだ。チンパンジーの中に は、まだミコタの行動を理解できていない個体もいるかもしれない。 ・レノン 1970/2/21 KS の中では長老。始めて会った日は私に対してストレスを感じていたようで、C の放飼 場の奥を行ったり来たりしていた。寝るときは壁によりかかり首を落とすようにして寝 る。B の放飼場にいる時は階段横の柱の後ろの壁に寄りかかって座るのが好きみたい。 ノリオにちょっかいを出され追いかけることもある。シロウとグルーミングもする。 ・ナオヤ 1981/1/1 (推定) 上唇の左側にピンクの斑点がある。猫背で垂れ目そして全体 的に白っぽかった。「くず」などの野草を好んで食べるらし い。A の放飼場にて雤が強く降ってくるとロープを揺らして ディスプレイをしていた。みんながぶらぶらくんに興味を示 さなくなった頃近づき、一生懸命蜂蜜を探してなめていた。 ・ノリオ 1981/1/1 (推定) 枝を器用に使いながら大豆を食べる。上にあがって観察してくることもある。目を合わ せようとするとすぐそらす。口の周りがピンク。大雤が尐し弱まったときにケージに背 中を擦りつけていた。大雤の中、屋根のある方へはいかず、台の上にいき下唇を突き出 してそこに雤水をためて飲んでいた。いきなりディスプレイをすることがある。 198 K.平栗明実 Ⅴ.個人報告書 ・ノリヘイ 1987/4/5 横から見ると髪が後ろに尐しだけ出ている。姿勢が悪く、大 抵猫背で座っている。口も開いていることが多い。左手で首 の後ろから頭をかく。座っている時は足を開き足の上に手を のせている。ストレッチのようなかたちのときもある。吐き 戻しのような行動も見られた。よくみんなからグルーミング されている。 ・タカボー 1978/1/1 (推定) ふと見ると、観察されていた。平面に座ることよりも、ロープやケージの格子をつかん で、棒や縁に座っていることが多い。 ・サトル 1995/1/24 後ろの方に引っ込んでいることが多い。ケニーのディスプレイに忚えてあげていた。よ くあくびをする。体格がいい。アユム系の顔をしている。野生由来のため、コミュニケ ーションをよく取る。チンパンジーの秩序を守らない個体に対して厳しい。 ・シロウ 1982/1/1 (推定) 顔は白めだが体は黒い。乾燥肌のようで、よく体を掻きむしる音が響き渡っている。雷 雤に対して反忚しており、空中ブランコから長く、下まで伸びているロープを引っ張り ウォーウォーといいながら緊張を高めていた。あまり前には出ず、奥の方で寝転がり、 グルーミングをしていることが多い。 ・トーン 1990/6/6 ブーブー言いながら体を仰け反らすように頭を縦に振る。初めて見たときは、張り付く ようにつかまってこちらを見ていた。翌日に行くと、私を見つけるなり走ってきて、上 に駆け上り左右に体を振り蹴ってディスプレイをしていた。また、木を鉄に打ちつけて 音を鳴らしていた。雤が酷いときに麻袋を持って走ってきた。左手に麻袋を持ちながら、 右手でケージを 4 回軽く叩いた後、また戻ってきてブーブーいいながら歩いていた。あ いさつをしてくれた。しばらくしていきなり動いていたのでどうしたかと思ったら、軽 くケージを叩いた後にケージに張り付くようにしておなかを見せてこっちをじっと見て きた。お手洗いから飲むときは、手を全て入れてビシャビシャ飲む。ナオヤにあいさつ をした時、ハグしてもらえた。 第 5 飼育棟 ・リナ 1978//1/1 (推定) 顔立ちが他のチンパンジーと異なるため、識別しやすい。真っ黒というより黒から濃青 という感じの色。おなかはふくれている。ポコポコいっている。さらに、舌を丸めて見 せてくる。真似をしてあげると何度も続ける。日本で唯一のナイジェリアチンパンジー である。ヒトが大好きだが、チンパンジーの友だちはいないようだ。 199 K.平栗明実 Ⅴ.個人報告書 ・コナン 1997/3/12 とにかく大きい。足も手も胴も全てが大きい。真っ黒で毛並みもよく、体も締まってい てムダがない。覗き込むような目をする。E の消防ホース 2 本の上に寝るのが好きなよ うで、雤に濡れていてもそこにいた。心臓の拍動がすごく遅い。嫌いなものは寄せ付け ない。ロマンが太めの枝を奥歯で噛んで水をたくさん含むようにしているのを見て、真 似していた。しかし、小さい方の穴から枝をいれていた。コナツがエヴァンゲリオンか ら離れた後、近づいていき指で取ろうとしていた。そのうち枝を無理矢理入れて出して いた。さすがに無理だと気づき、枝の皮をむいて枝をしなりやすくして使っていた。お 手洗いでは、枯れた細長い葉をおもむろに掴み、水の中に入れスポンジ代わりにして飲 んでいた。 ・コナツ 1977/2/11 (推定) ヒトがケージに近づくとすぐに近づいてくる。動作が機敏。よく ヒトを観察している。雤が降っていても近づいてきてくれるが、 隣のケージとの境目にいた。しばらくヒトを見ていて、何もアク ションしないでいると、ブーブーいいながら奥へ帰って行った。 宅配便のとき、先に陣取っていたリナをいとも簡卖にどかし、自 分のものとしていた。ケージの上にあった木の枝を渡そうとしてカメラにぶつけていた。 また、おしりを見せてきた。角切りりんごを枝や指を使って食べていた。 ・ノノ 1992/5/25 体格がいい。真っ黒で毛並みも良い。初めて会ったときにディスプレイされた。落ち着 いてきてから観察すると、手を噛んだりするような自傷行動が見られた。慣れてくると 静かでいい子だった。 ・ミロ 1973/2/21 (推定) ロマンと比べて体が小さい。口の周りが白っぽい。あまり前へ前へと出てこない。写真 を撮ろうとすると、すごい勢いで陰に隠れブーブーと不満をあらわにしていた。ロマン と仲良し。コナンに避けられても諦めずにかまってもらおうと追いかけていた。よく泣 く。ナスを食べるとき中身だけを食べて皮を残す。ロマンとコナツは大きな穴から入れ ていたが、ミロはあまり気にせず小さな穴の方に細めの枝をいれて飲んでいた。 ・ロマン 1973/2/21 (推定) 体は大きめで真っ黒。髪が中央だけ立ち気味。ヒトがくるとよ ってくるが、コナツが左角を取っているとなかなか近くには寄 ってこない。また、私だけでいると大抵下でミロとグルーミン グをしていた。 200 K.平栗明実 Ⅴ.個人報告書 ・サクラ 1991/4/26 運動場の上の方には来ないが見上げていた。私が来ても警戒しなくなったと思い安心し ていると、つばを飛ばしてきた。 ・テツ 1976/2/21 体がほっそりしている。暑かったからかあまり動かずじっとして いた。心臓病を患っているらしく心拍数が 120 と高い。 ・ヨシエ 1989/8/15 ヒトを見ると興味を持っている様だが写真を撮ろうとすると顔を 隠したり、柱に隠れたりする。目をかく異常行動も何度もしてい た。ヒトが来たことに気づくまでは下を見ていたりすることが多 いが、ヒトの姿を見つけると「私、ここよ!」というくらいアピー ルしてくる。 ・ユウコ 1978/1/1 (推定) ヒトが近づいても反忚しない。目がくりくりしている。暑ければ 日陰から動かない。白ヒゲが特徴的。パニック状態になると顔を 掻きむしりキーキーと大声を上げて泣く。 ・オウム 1976/2/21 (推定) 体がとても小さい。結構食いしん坊のようで、サチが飲もうとしない飲み薬に横から近 づいて飲もうとしていた。また、他の個体が満腹で食べ物に手を出さない中ムシャムシ ャと食べていた。 ・チコ 1989/6/26 ヒトに気づくとすぐに近づいてきてケージの上に乗っかっている枝を差し出して遊びに 誘う。その木を使って背中を突っついて遊んで欲しいらしい。 ・イヨ 1977/2/21 (推定) 2011 年 2 月にチンパンジーには珍しい扁平上皮ガンを発病。悪性腫瘍を何度も切除して いた。大きくなった腫瘍が膨れて割れて腐り、とても辛そうに見えた。でも、森村先生と 握手しているときはとても嬉しそうにしていた。 201 K.平栗明実 Ⅴ.個人報告書 ・コテツ 1990/1/31 ヒトが来ると興味津々にやってきた。現在体重は 90kg を切るぐ らい。チンパンジーの規則を守らない個体とも共存できる。よく ヒトを観察している。 ・ホープ 1990/6/4 コテツが私たちを見ているときには近くまで来ないで遠くから見ていた。体重は約 60kg。 自傷行動と吐き戻しが見られる。チンパンジーの規則に厳しく、守らない個体を許せな いそうで、ベルと一緒の放飼場には入れられない。朝の健康チェックで行ったとき、私 がいることがストレスだったようだった。 ・ベル 1995/9/12 チンパンジーの規則をよく理解していないそうだ。寺本さんにはグルーミングをするが、 チンパンジーに対してグルーミングをしているところは、KS 職員の方でさえも見たこと がないそうだ。一度、高知県のいち動物園に行ったが、群に順忚できなかったため帰っ てきたそうだ。 ・シオミ 1980/1/1 (推定) シオミとクミコの誕生会をしたときに、始めは 2 人仲良くケーキを頬張っていたが、みん なが入ってくるとケーキを蹴り飛ばしたりしながら大げんかしていた。あまりクミコと仲 が良くないらしい。D の部屋に移されたとき、他の E の方から悲鳴が聞こえると真っ先に タワーに駆け上がり、様子をうかがっていた。 ・クミコ 1977/2/21 (推定) シオミとクミコの誕生会をしたときに、始めは 2 人仲良くケーキを頬張っていたが、みん なが入ってくると大げんかしていた。シオミと仲が良くないらしい。 ・ニコ 1886/3/20 シオミとクミコの誕生会の時には、部屋には入れたらすぐにケーキの ところへ行き、ケーキから遠すぎず近すぎない距離でずっとケーキを 頬張っていた。シオミとクミコがもめていてもお構いなしという感じ だった。 D にいるときもタワーに上るわけでもなく自由に過ごしていた。 ・カナコ 1992/6/2 幼い頃白内障を患いその後視力を失ったそうだ。 202 K.平栗明実 Ⅴ.個人報告書 ・サイ 1973/2/21 (推定) よく E の方を覗いていた。 終わりに 今回お忙しい時期の訪問にもかかわらず、温かく受け入れていただきありがとうございま した。今までのチンパンジーに対する福祉の考え方が、どれだけうわべだけしか見ていな い考え方であったのか痛感いたしました。今回 1 週間という短い期間ではありましたが、 松沢先生、森村先生をはじめ職員の皆さんのお陰で大変貴重な体験をさせていただきまし た。本当にありがとうございました。 203 K.平栗明実 Ⅴ.個人報告書 以下は、 今回の研修期間中に私が個体識別可能となった個体についてまとめたものである。 識別可能個体表 研修日 8月13日 個体名 ゴロウ レノン ミズオ ノリヘイ ヨシエ コナン コナツ リナ 日計 累計 8月14日 ゴロウ レノン ミズオ ノリヘイ ヨシエ コナン コナツ リナ ジョージ カナオ ケニー ミナト ノリオ トーン ユウコ ミロ 8 8 8月15日 ゴロウ レノン ミズオ ノリヘイ ヨシエ コナン コナツ リナ ジョージ カナオ ケニー ミナト ノリオ トーン ユウコ ミロ ナオヤ シロウ タカボー テツ ロマン チコ オウム コテツ ホープ 8 16 8月16日 ゴロウ レノン ミズオ ノリヘイ ヨシエ コナン コナツ リナ ジョージ カナオ ケニー ミナト ノリオ トーン ユウコ ミロ ナオヤ シロウ タカボー テツ ロマン チコ オウム コテツ ホープ ミコタ サトル イヨ 9 25 8月17日 ゴロウ レノン ミズオ ノリヘイ ヨシエ コナン コナツ リナ ジョージ カナオ ケニー ミナト ノリオ トーン ユウコ ミロ ナオヤ シロウ タカボー テツ ロマン チコ オウム コテツ ホープ ミコタ サトル イヨ ベル 3 28 8月18日 ゴロウ レノン ミズオ ノリヘイ ヨシエ コナン コナツ リナ ジョージ カナオ ケニー ミナト ノリオ トーン ユウコ ミロ ナオヤ シロウ タカボー テツ ロマン チコ オウム コテツ ホープ ミコタ サトル イヨ ベル ノノ サクラ カナエ シオミ クミコ 8月19日 ゴロウ レノン ミズオ ノリヘイ ヨシエ コナン コナツ リナ ジョージ カナオ ケニー ミナト ノリオ トーン ユウコ ミロ ナオヤ シロウ タカボー テツ ロマン チコ オウム コテツ ホープ ミコタ サトル イヨ ベル ノノ サクラ カナエ シオミ クミコ サイ ハルナ アキナ 5 3 34 37 1 29 識別可能個体の推移 34 個 体 数 ( 個 体 ) 30 25 28 37 きた個体はレノンで、第 5 飼育棟ではコナツであ った。レノンは、他のチ ンパンジーに比べて毛が 薄く、全体的に灰色を帯 び、猫背で静かに座って いるためすぐに識別でき た。コナツの場合は、ヒ トが近づくと真っ先に近 づいてくること、そして 顔が特徴的なため、すぐ に識別できた。 どこを見ていったらよい 4 日目は、3 日目の自信 が嘘のように個体識別に 1日目 2日目 3日目 4日目 5日目 6日目 7日目 方で座っていた個体が突 識別時における正答率の推移 1 1 0.9 自信がなくなった。それ は、今までケージの奥の 経過日数 1 0.94 0.92 1 然手前まで出てきたため や、5,6 人でケンカを始 0.8 めたときに個体識別が上 0.7 0.71 0.6 手くできなかったためで 0.5 ある。さらに、自分の中 0.4 0.2 育棟で一番初めに識別で かわかるようになった。 8 0 0.3 る個体であった。第 1 飼 きている個体はすぐに誰 16 5 識 別 で き た 個 体 / 観 察 し た 個 体 つ前のほうに出てきてい きた。いつも手前に出て 15 10 体は、特徴的な個体でか のか分かるようになって 29 25 20 1,2 日目に識別できた個 3 日目になって、徐々に 40 35 補足: で誰に似ている顔のよう 0.32 に認識している場合に、 どちらか分からなくなっ 0.1 0 1日目 2日目 3日目 4日目 経過日数 5日目 204 6日目 7日目 てしまった。6,7 日目は 5 K.平栗明実 Ⅴ.個人報告書 日目に殆ど個体を見に行くことができなかったためとても心配だったのだが、スムーズに 個体識別をすることができた。新たに観察する個体でも、個体識別表を見れば、すぐに識 別できるようになった。 205 K.平栗明実 Ⅴ.個人報告書 2011 年度 妙高笹ヶ峰自然学セミナー報告書 8 月 29 日(月)~9 月 4 日(日) 日本大学 2 年 206 平栗明実 K.平栗明実 Ⅴ.個人報告書 2011 年 8 月 29 日(月)から 9 月 4 日(日)にかけて、京都大学笹ヶ峰ヒュッテにて合宿をお こなった。以下にその詳細を報告する。 京都大学笹ヶ峰ヒュッテ前にて 交通 今年は往路、復路共に新宿駅-長野駅区間の高速バスを利用した。昨年は、関東方面か ら行くのが 1 人だったことなどの理由から新幹線を利用していた。今回は、妙高高原駅か ら笹ヶ峰ヒュッテまでのバスの時間を 1 番遅い時間に変更したことで、高速バスの利用を 可能にした。高速バスの利用は、新幹線に比べて安価なのはもちろん、荷物を持って歩き 回る必要がなくなるのでとても助かった。今後のセミナーでも、いかに安くそして無理の ない計画を立てて行くかを考えて交通案を出さなくてはいけないと改めて思った。 ヒュッテ周辺散策 30 日(火)は、杉山さんに説明をしていただきながらのヒュッテの周辺散策となった。ま だ、紅葉とまではいかないが、尐しずつ木々が色づき始めていた。杉山さんは、一見する と同じに見えてしまう葉っぱも、裏返してみれば違うなどの説明を加えてくださるので、 とてもわかりやすかった。昨年は訪れなかった池へ案内していただいたりもした。水にそ っと手を触れると、ひんやりと冷たかった。散策中にふと牧場の牛を見ていると、明らか に体の大きさや筋肉の付き方が他個体と異なる牛がいた。不思議に思って杉山さんに伺う と、大きな牛は雄牛なのだそうだ。なんと種付けは人工授精ではなく自然交配なのだそう でこれまた驚いた。昨年から、散策中に何か気になる物があると写真を撮っていた。その 中でもやはり撮ってしまうのがキノコの写真である。今年も秋吉さんと見つけては撮りを 繰り返している間にいっぱいになってしまった。虫の卵も何度か割ってみるなど、童心に 戻ったようにはしゃいでしまった。普段、自然にふれあう機会がないので、とても癒やさ れた。 207 K.平栗明実 Ⅴ.個人報告書 火打山登山 悪天候が予想される中、8 月 31 日(火)に火打山登山となった。今年は山本さんが指導し てくださった。去年は、登山を延期して登ったが、今年は予定通り登山することになった。 ただし、悪天候が続いて登れないと判断が下りたら下山することになっていた。登り始め てからすぐに雤がちらつき始めたが、気がついたときには雤は止んでいた。今年の 1 年生 は持久力がある子たちだったので、2 つのパーティーに分かれることなく、全員一緒に登 山することができた。山の頂上付近になって、視界が一気に白くなり綺麗な景色を臨みな がらの登山ができなくなっていた。私は昨年綺麗な景色を見ていたので、1 年生に見せら れなくて残念だと思っていた。頂上さえも見えない道をひたすら上り続けると、急に遠く の方に鳥たちが歩いているのが見えた。まさかと思い目をこらしてみると、「ライチョウ」 だった。さらに、ライチョウたちは私たちの道案内をしているかのように上へ上へと登っ ていった。ライチョウの登場で、疲れ果てていた私たちに、明るさが戻ってきた。山本さ んと市野先輩そしてライチョウのおかげで、みんなで登頂することができた。頂上からの 眺めは、去年同様霧で真っ白であったが、下山しているときに視界が開けてきたため、良 い景色を味わいながら下山することができた。 下山の最後の区域に入る前に、先輩から「先頭平栗」と任命されたため、先頭歩くこと になった。2 番以降を歩いているときは、先頭はそこまで難しい役目だとは思っていなか った。むしろ、どんどん 1 人だけで先へいってしまう人が居ると、なぜ後ろを見ないのだ ろうと不思議に思っていたくらいである。しかし実際にやってみるとその難しさに頭を悩 ませた。自分のペースで下っていきたいヒトが多く居るため、ペースの取り方が難しかっ た。なんとか下山はできたのだが、夏目先輩はかなり辛そうだったので、早すぎたように 思えた。ペースの取り方は、普段からも練習が必要だと感じた。来年は 3 年生になるので、 準備を重ねてより安全に楽しく登山ができるようにしたい。 ライチョウ(模型) 火打山下山中 ナイトハイク 9 月 1 日(木)の夜にナイトハイクをおこなった。ナイトハイクは初めての試みだった。 ヒュッテの周りにはフクロウや小動物が居るため、なにかが見えればと思い今回初めてお こなった。しかしフクロウは最後まで姿を現さなかった。ただ、タヌキのような目をした 動物がいた。また来年ももっと工夫を凝らしてやっていけたらと思った。 208 K.平栗明実 Ⅴ.個人報告書 苗名の滝 9 月 2 日(金)、前日の晩ご飯を食べ過ぎ た上に、バス酔いが重なってしまいかなり 体調が悪い中の観光となった。しばらく岩 の上でぼんやりしていると、突然小学生が たくさんやってきて、滝を目指して道なき みちを進んでいった。かなりの団体で来た ため、半分は浅瀬で水遊びをしていた。そ んな様子を眺めているうちに私の方も元気 を取り戻した。滝のマイナスイオンと小学 苗名の滝にある大きな岩の上にて 生のパワーに助けられた 1 日だった。 イモリ池、妙高ビジターセンター 妙高高原駅からヒュッテに行くまでの道で、前々から気になっていたイモリ池へ行った。 イモリ池には、あまり見るところはなかったのだが、妙高高原が真正面にそびえ立って見 えていたので、キレイだった。妙高ビジターセンターには、ライチョウの模型や、イモリ が水槽の中を泳いでいた。他にも、毛皮を触って何の動物か当てるゲームなどの遊びなが ら学べるものが多く展示されていた。 食事 今回の食事で 1 番の印象的だったのは、みんなで 作った餃子だ。ヒュッテにはお料理道具がたくさん あるため、何でも作れるのだが、ここで 1 つ目の問 題が発生した。何と麺棒がなかったのである。今回 の餃子は手作り餃子であるため、皮から作らなくて はならないため、急遽みんなで皮を作ることになっ た。はじめはどうなることかと思ったが、具を詰め て餃子の形にすると、とても美味しそうな餃子にな った。その後焼き、おいしそうに(実際に美味しく) できあがった。しかし、この日の献立は餃子メイン ではなかったため、悲劇が起きた。この日のメイン は味噌煮込みうどん、デザートにフルーツポンチそ して餃子であった。私は、前日の登山の疲れと食べ 過ぎにより完全に胃もたれを起こしてしまった。や 餃子が大皿いっぱいに並んだ はり、無理はいけないと思った。自分にできること は、食べることではなく、次回のセミナーの時に作る量を調整する必要があると思った。 今後の合宿では、気をつけていきたい。 209 K.平栗明実 Ⅴ.個人報告書 2011 年 10 月 8 日 東京で学ぶ 京大の知 「人間とは何か、想像するちから」 日本大学 平栗明実 今回の講演では、ヒト科 4 属の中のヒトについてのお話だった。私たちは普段、自分が 見えている世界が当たり前と思っているため、物理的な外の世界と自分たちが見ている世 界が異なっていることに気がつかないこと、を経験することから始まった。それは心理的 な錯視の実験であった。なかでも、色のついた漢字を見て色を答える「ストループ」とい う実験では、色を答えようとしても、どうしても漢字を読んでしまった。分かっていても 難しい。さらにこの実験の場合、いかなるヒトでも出てしまうそうだ。ヒトの場合、色情 報と意味情報を同時に理解してしまうということが分かりやすく体験できたので、興味深 かった。次に、アイプロジェクトにおけるアユムの学習の成果のお話になった。アユムは、 なんといっても瞬時記憶能力に長けている。しかし、彼らは「今そこにあるもの」を見る ことができても、ヒトのように「今そこにないこと」を考えることはできないそうだ。確 かにチンパンジーの住む自然界では、現在の情報さえしっかり見ておけば、敵に襲われる 心配はない。では、なぜヒトは「今そこにないこと」を考えるのだろうか。ヒトの場合に は、瞬間記憶能力が失われた半面、言語を獲得したことによって、経験したことを仲間に 伝え、仲間と分かち合うことができるようになったそうだ。やはり他者との共有があるか らこそヒトになり、そしてそれはヒトにとって成長の糧ともなるかけがえのないものであ ると思った。ところで、現在の私はこの「想像する力」をうまく使えているのだろうかと 考えた。「人間とは何か」この答えを知りたいと思い、松沢先生は京都大学文学部哲学科 に入学を決めたそうだ。私の場合は、漠然とチンパンジーについて、広くは動物について 学びたいと思い入学した。しかし、このように明確な目標がないまま入学したため、大学 では卖位を取得し、卒業することが目標になっていた。そんな私に突然の転機がやってき た。自然学ポケットゼミナールとの出会いである。私は今一度そのときを思い返してみる と、半ば諦めかけていた霊長類研究所にて活動ができるということに歓喜し、真摯な態度 で臨もうという決意が見られた。だが、今の自分は初心を忘れ、目の前の仕事をこなすこ とで終わってしまっていることにふと気がついた。これは、「人間とは想像する力が人間 を人間たらしめている」という先生の言葉によって気づかされた。しかし、決して想像し ていないわけではないことにも気がついた。私は現在や未来の問題から目を背けているだ けなのだとも分かった。 言語はヒトがヒトになるため習得したものである。ヒトとして胸を張って生きていける ように「想像する力」を上手く使っていきたいと思った。 210 K.平栗明実 Ⅴ.個人報告書 2011 年 10 月 15 日 東京で学ぶ 京大の知 「ゴリラの社会に探る 人間家族の起源」 日本大学 平栗明実 今回は山極先生によるゴリラのお話ということで、初めて聞いたお話がたくさんあっ た。あらかじめ配布されていた配布物には大きく「父という余分なもの」と書いてあった。 この記述を見たときに、ゴリラの社会では生殖活動以外では父親は登場してこないのかと 思っていた。しかしそれは大きな間違いだった。ゴリラのオスは、母親たちから子どもを 託されて、その子どもの遊び相手になり、うまくいっているとき初めて父親として認めら れるそうだ。つまり、オスから父親になるためには、周囲の母親や子どもたちから認めら れなくてはいけないということだ。これは、人間社会にも似たようなことがいえる。例え ば、結婚するときにも周囲の大人が認めてくれなければ結婚できない。そして、子どもが 生まれれば、父親としての責任を本人自身も感じるが、周囲の大人たちから多大なプレッ シャーを掛けられよう。ヒトの場合、こうして父親が形成されるため、ゴリラの場合とと ても似ていると思った。私がゴリラのことを本当に知らないのだと自覚させられたのが、 ゴリラのドラミングについてである。まず、第 1 に胸の叩き方がゲンコツでドンドンと叩 いている訳ではなく、平手で太鼓を叩くように叩いていたことだ。さらにゴリラの場合に は、喉から胸にかけて共鳴袋が入っているそうで、本当に太鼓のようなつくりになってい るのだと思った。ドラミングは相手が自分たちのテリトリーに勝手に侵入してきたときに これ以上近づかないように警告する役割もあれば、遊びの誘いということもあるそうだ。 また、ケンカが起きているときにこれ以上はやめさせるという雷親父的な役割も果たすそ うだ。また逆に、両者が同じだけの力を見せつけた後にお互いのメンツを保ち、かつ、ケ ンカを起こさないために「小さな仲介者」である母親が中を取り持つこともあるそうだ。 私はてっきり、ゴリラもチンパンジーやヒトのようにケンカで相手を殺してしまうことも あるのかと思っていたのだが、彼らはもっと平和でしっかりしたシステムが形成されてい るのだとわかった。ヒトもゴリラから平和的解決法を学ばなくてはならないと思った。ま た、ゴリラの遊びについてはとても興味深かった。まず、子どもたちの遊び場になるのが 父親の背中であるということだ。子どもたちはシルバーバックにおもむろに近づき、背中 に登り寝転んでみたりする。子どもたちが背中で暴れようが何しようが彼らの好きなよう にさせてあげるのである。しかし、彼らがケンカをすると、年齢を問わず悪いことをした ほうを叱るというところもしっかりしていると思った。ヒトの場合、例え妹や弟から悪ふ ざけを始めても、兄や姉が叱られる方が多い。しかも、年上なのだからという理由だけで ある。その点でもゴリラはしっかりしていると思った。また、父親となったゴリラは、子 どもたちと一緒に遊ぶことができる。また、遊ぶときは父親の方も童心に帰って遊びだす のだ。このように、共感することができることにも驚いた。共感とは自分の気持ちだけで なく、相手の気持ちを汲み取ることもできる、そして一緒に分かち合えるということであ る。このような力を持っていれば、相手のことを思いやりながら、みんなで仲良く暮らす ことができるだろうと思った。ここにヒトの起源を見ることができた。そして、ヒトにも あるこの共感を大切にして、相手を思いやる心を忘れないようにしたいと思った。 211 K.平栗明実 Ⅴ.個人報告書 2011 年 10 月 17 日 東京で学ぶ 京大の知 「オランウータンとヒト、形態から考える」 日本大学 平栗明実 形態から考えるということで、 どのように見ていくのだろうと思っていた。 幸島先生は、 元々形や色彩にこだわり、オランウータンに関わらず様々な動物を見てきたそうだ。コン トラストに重きを置き動物を観察していく中で、ヒトの目以外には露出強膜に色素が沈着 していることや白目の比率が体のサイズと相関していることなどを発見なさったそうだ。 また、中でも驚いたことに、横目の長さは地上性の種ほど横長な目を持つが、なぜかほぼ 樹上性で暮らすオランウータンにおいても横目が長いということが分かったそうだ。横目 が長いことの利点は、音だけではなく、視線を強調することにより目で仲間とコミュニケ ーションをとれることにある。オランウータンは、一般的に樹上生活者、卖独性が強い事 が知られている。今までこのようなことは、常識だと思われ深く考えられていなかった。 しかし、このように目でコミュニケーションがおこなえるのになぜ彼らは他のヒト科 3 属 のように地上に降りてきて、仲間同士で集まることをしなかったのだろうか。私は、オラ ンウータンが置かれている現状に問題があるのではないかとも思った。彼らは元々多様植 物を利用しているのにも関わらず、現在は比較的尐数の種類の食物を集中的に利用してい るということだった。また、先生が観察をしたボルネオの東側は異常気象による一斉結実 の影響を特に受けやすいそうだ。一斉結実の時には、果実量が多いため個体群密度も上が るそうだが、この地域で最もよく食べられている種はイチジクだそうだ。イチジクは、霊 長類や鳥にとって果実が欠乏時期に食べるものだそうだ。つまり、もっと良い環境であっ たら、彼らの食性や暮らし方すら変わるのではないかと思った。そして、それこそがオラ ンウータンの本来の姿なのだろうと思った。このように考えると、オランウータンが昔に 暮らしていた姿とはいったいどのようなものだったのだろうかと思った。次にオランウー タンとヒトの形態的類似点として、ゴリラやチンパンジーと比べて顔に男女差があるとい うことだった。ヒトの場合には男性にヒゲが生えること、オランウータンの場合には男性 にフランジと呼ばれるチークパッドが形成されることがある。また、興味深いことに、男 性の中でも全ての者にフランジが形成されるわけではなく、優位の男性にのみ作られ、残 りの男性は、どちらかというと女性よりの顔立ちになるそうだ。このことにはどういう意 味があるのだろうかと思った。また、フランジのある男性と、フランジを持たない男性に おける子孫を残す割合がほとんど変わらないそうだから驚きである。このことはフランジ を持たない男性がレイプをおこなうためにおこる、 と先生はおっしゃっていた。けれども、 私はフランジを持たない男性は、女性のような顔立ちをうまく利用して、フランジを持つ 男性の目から逃れているのではないか、と思った。女性のような顔立ちをしているのであ れば、端から見れば女性が 2 人でいるようにしか見えないわけであるから、とても自然で あると思った。何事もそうだが、オランウータンは今までの常識にとらわれず、しっかり 見ていくほどおもしろくなるだろうと思った。 212 K.平栗明実 Ⅴ.個人報告書 2011 年 10 月 29 日 東京で学ぶ 京大の知 「チンパンジーとボノボから探るヒト社会の成立」 日本大学 平栗明実 伊谷先生は、当時まだ誰もチンパンジーを研究していないというだけでなく、ヒトすら 住んでいない未開の地で研究を始めたそうだ。初めて森に入るときに先生はガイドなしで 入ろうとしたそうだ。すると、ゾウが目の前を走って行くところや、ライオンが獲物を食 べているところに遭遇したそうだ。このときにガイドの必要性がわかったそうだ。このよ うな状況では、本当に命がいくつあっても足りないと思った。初めてのガイドは森の近く で偶然会った男性だったそうだ。ガイドは道なき道を歩いているのに、道案内がしっかり できるそうだ。チンパンジーを追う際は痕跡をさがすことから始めるそうだ。新しいベッ ドや糞、 ナックルウォーキングで歩いた跡をみて何日前のものであるのかがわかるそうだ。 たくさんの手がかりがあるとはいえ、発見にいたるまでには相当な経験が必要だろう。チ ンパンジーの社会は多彩なあいさつ行動が見られる。中でも、1 位の男性が 3 位の男性に おべっかを使うというのが面白い。つまり、1 位の男性が 2 位の男性とケンカをしたとき に、2,3 位が手を組んでしまわないようにしているそうで、とても人間的である。道具使 用では 30 種類以上のレパートリーが認められているそうだ。有名なアリ釣りに地域差が あり、アリの巣に枝を入れてアリを取る地域があれば、巣を崩して食べる地域もあるのだ という。さらに、地域によって食べるアリの種類も異なっていた。これは嗜好の問題なの か、それともその地域に生息しているアリの種類の問題なのか気になった。また、いまま でチンパンジーが薬草を利用していることは知っていたが、下痢をした個体が、噛んでし まうと効果がなくなってしまう葉ということまで認識して、噛まずにのんだということに 驚いた。下痢止め以外にも 16 種類の薬草が確認されているそうで、まだまだあるのだろ う。また、他の動物でもこのように薬草を自分で見つけて利用しているものがいるのでは ないかとも思った。やはり、一番印象的だったのは、チンパンジーの子殺しについてだっ た。 子殺しは 3 歳までの男の子が犠牲になることが多いそうで、参加している男性たちは、 みな目がいつもと違ってやけに輝き、興奮状態にあるそうだ。しかし、翌日には何事もな かったかのようになるそうで、儀式的だと思った。また、例外として子殺しされた女の子 は、母親がいじめにあっていたそうだ。こういった例をみると、自分本位なところやみん なでいじめてしまうところが、ヒトの悪心と類似していると思った。続いてボノボのお話 になった。ボノボのお話で一番目を引いたのは「マザコン」という言葉だった。マザコン に何か利点があるのだろうかと思った。ボノボは女性が移籍することで近親交配を避けて いる。他の集団から移入してきた若い女性は、全体にあいさつした後に特定の子持ちの母 親と仲良くなるそうだ。そのうちにその母親の子どもである男性と配偶関係を持つのだと いう。つまり、嫁と姑が仲良くなってから、配偶関係を持つようになるわけなので、とて も平和的だと思った。また、彼らが緊張した時は類交尾行動をおこなって、争いを避け、 社会関係を調節している。何も知らない人から見れば、驚いてしまうどんな解決方法にせ よ、争いを回避できる彼らの社会は素晴らしいと思った。全 4 回のヒト科 4 属のお話を聞 いて、ヒトは彼らからいろいろなことを学んでいかなくてはいけないと感じた。 213 K.平栗明実 Ⅴ.個人報告書 SAGA14報告書 11 月 12 日(土)~13 日(日) 日本大学 2 年 214 平栗明実 K.平栗明実 Ⅴ.個人報告書 2011 年 11 月 12 日(土)、13 日(日)の 2 日間、熊本県熊本市の熊本市動植物園にて開催さ れていた SAGA14 に参加した。SAGA への参加は今年で 2 度目となった。以下に活動の 詳細を報告する。 交通 SAGA14 は、熊本県で開催であったため、交通は往復飛行機を利用した。あらかじめ、 格安の飛行機のチケットを手配していたので、楽に移動することができた。夏季に 1 人で 熊本サンクチュリにて研修した際には、往復高速バスを利用した。バスはとても時間がか かる上に、新宿-博多間しかなかったため、不便であった。長距離の移動には飛行機が 1 番いいということを改めて感じた。熊本空港からはバスを利用し、動物園へと向かった。 ただし、前日に授業があったため、12 日(土)の朝 1 番の飛行機の利用となった。そのた め、シンポジウムへは途中からの参加となってしまったのが残念だった。 シンポジウム 古市先生には、ボノボの進化と生活についてコンゴの歴史と併せてお話をしていただい た。古市先生は、コンゴの地形がどのように変化をして今のようになったかをお話しくだ さった。ボノボの流動域は、現在、「empty forest」と呼ばれ、乾いた土地はパーム油か 畑になり、スワンプは放置されているそうで、ボノボの生活する場所が狭められていると 感じた。ボノボはいつもスワンプと呼ばれる土地に住んでいると思っていたのだが、彼ら は乾いた森と川の周囲のスワンプを往復しながら暮らしているそうだ。さらに、生活の中 心は乾いた森の中なので、ボノボが生き残るには森林保護が欠かせないと強く思った。ま た、古市先生のお話に、ボノボが川の中心あたりにスイレンが咲いているのを見て、肩ま で水に浸かって採った個体がいるという話があった。チンパンジーは、水に濡れるのが嫌 いということは有名であったため、かなり驚いた。コンゴ川を隔てただけでここまで別々 に進化してきた 2 種について興味を持った。古市先生のお話を伺っているときに、ボノボ はなぜチンパンジーのように道具を用いる文化が見られないのかという質問を思い出した。 霊長類研究所の先生方は、ボノボが暮らしている土地には、かつて海だったので石が落ち ていないことや、チンパンジーの森と比較すると食糧が豊富にあるそうだ。これらのこと からボノボは、スワンプに暮らすため水には慣れていき、食糧はある程度はあるため道具 の使用は必要もなかったのではないかと思った。 松阪さんは、野生チンパンジーの遊びについてお話くださった。驚いたことに、水遊び についての説明があった。チンパンジーの場合、オトナは水を嫌うがコドモは流れの緩や かな小川や水たまりであれば遊ぶそうだ。この時の行動を見ていて、ヒトの子どもを見て いるような気持ちになった。好奇心旺盛で他の動物を挑発し、小動物の死体を運んでいる などは、まるでヒトの子どもがお人形ごっこ遊びをしているようだ。その他に、群れのほ とんどが一斉に覗き込み行動を起こした映像では、各個体の好奇心だけではなく、共同注 視が働いていたため驚いた。それが飼育下ではなく、野生下で起こっているところに、彼 らの潜在能力を垣間見ることができた。マハレとボッソウではいくつかの異なる文化があ る。このような文化の違いはどのようにして生じてきたのだろうか。そして、飼育下では、 いかにして彼らの能力を引き出すかが重要になってくると感じた。 215 K.平栗明実 Ⅴ.個人報告書 松沢先生の講演では、先生のいままでの研究から見えてきた新たな視点「アウトグルー プ」という考え方に基づいて人間とは何かをお話していただいた。この考え方は、1 つの 対象を見るにしても、他のものと比較することによってさまざまな違いが見えてくるので おもしろいと思った。身近なところで言えば、ポケゼミ生のお味噌汁の作り方 1 つを例に 取っても、出汁や味噌が地域によって異なっていることが分かる。合宿などで料理を作る ときになって初めて、自分の当たり前と思っていたことがいかに地域特有の文化だったの かということを思い知らされるのだ。日本に住んでいるヒトの中でさえも文化が異なって いるわけであるから、チンパンジー同士にもあって当然だろう。さらにこれを種の卖位で みていけば、いろいろなものが見えてくると思い、興味が湧いた。先生は、今までチンパ ンジーを中心に研究をなさっていたが、いまはボノボについても研究したいとおっしゃっ ていた。確かに、アウトグループとして見ていくためには、どちらの対象にも深い知見が 必要となるので、なるほどと思った。私はまだ、論理的思考ができていないので、1 つ 1 つ物事を整理し、自分の考えを相手に伝えことから始めなくてはならないと思った。 分科会では、継続して話し合われている日本のチンパンジーの将来についての話があっ た。この話については、熊本サンクチュアリの研修に参加したときにも鵜殿さんから直接 伺っていた。日本のチンパンジーの将来のためには、アメリカのように 1 つの大きな組織 に管理してもらい、繁殖を優先にチンパンジーを動かして行けるようにしなくては絶滅し てしまうのだと分かった。しかし繁殖のための移出入に伴い、群れの再編成や施設の増築 なども考えなくてはならないため、困難なことが山積みだと感じた。最後に、熊本サンク チュアリでの男性 15 人の群れ編成についての話があった。そこでは、チンパンジーの群 れ編成に伴う事故や普段の生活でも起こる事故のお話があった。ここで驚いたことには、 チンパンジーが大けがをするような時には、大抵他のヒトが気付かないようなときにさり げなく起こるのだということだ。普段の有声ディスプレイの場合は、特に相手を決めない でおこなうが、無性ディスプレイでは相手を決めている時に起こるからなのだと思う。か わいそうなケガの中には、性皮や睾丸を噛みちぎられることもあるようだ。このような事 故が起こらないようにするためにも、普段から個体間関係を観察し、あらかじめ危険を回 避するような群れの構成ことが大切なのだと思った。 動物園見学 普段、動物園に行く機会がないため、動物園へ行くこと自体が久しぶりだった。チンパ ンジーの展示では、橋で屋内と屋外施設が繋がっていた。しかし、橋を渡れない個体が居 るようで、かわいそうにと思った。木や上る場所もあり、見た目としても美しいと思った。 しかし、先生方のお話では、京都大学霊長類研究所の屋外放飼場のように空間を利用し、 時には物陰に隠れるということができないとのご指摘があった。そう言われてみれば、従 来の平面の展示に比べれば、立体の展示は素晴らしいが、もっと空間を有効利用できない のだろうかと思った。ヒトにもチンパンジーにも喜んでもらえるような施設を作ることが いかに大変なことなのかを学んだ。 2 日目の朝には、水野先輩に誘っていただき、ゾウのバックヤード見学に同行させてい ただいた。バックヤードへ入るのは初めてだったので、緊張した。毎朝、運動場に出る前 に、注射訓練や触られることになれる訓練、薬を飲まなくてはならないときのために、粒 216 K.平栗明実 Ⅴ.個人報告書 が入っているミルクを飲ませていた。病気や検査の時のために、日々訓練をしていること は大切だと思った。その他に、爪を研いであげたり一緒に遊んであげたりすることもして ゾウの注射訓練 ゾウの体をほうきで触っている様子 いた。最後に、ゾウの鼻に触らせていただいた。鼻先は思っていたよりも柔らかく、だか らこそさまざまな行動をとれるのだと思った。 ポスター発表 昨年は 1 年生だったため、みんなで 1 枚のポスター作成を作成した。しかし今年度は、 個人の発表となった。普段の活動にておこなっている Nearest Neighbor については、秋 吉さんが作成すると言うことだったので、私はヒトがチンパンジーの個体識別にどれくら いの時間がかかるのかを可能個体数の推移から調べた。森村先生に丁寧に見ていただきな がらの完成となった。発表時には、ポスターだけでなく、i pad も使用した。私は熊本サ ンクチュアリのチンパンジーの写真の中でも、区別しにくい個体を並べた。しかし、思う 用に使いこなすことができなかった。i pad は、以前から渡されてはいたのだが、すぐに 断念してしまったのが良くなかった。いい物をいただいているのに、使いこなせないので は宝の持ち腐れではないか。 来年度は、自分のポスター発表にとってプラスになるように、 ポスターを見てくださる人にとって理解が深まるように利用しなくてはいけない。ポスタ ー発表の会場は、尐し狭かった様にも思えたが、1 度に多くのポスターに目を通すことが でき、自分の興味あることについて、お話を聞くことができたのが良かった。 懇親会 今年も懇親会に参加することができた。昨年は懇親会に参加したものの、他の先生方と お話しする機会がほとんどなかった。しかし今回は、10 月に品川の京大オフィスでお世話 になった伊谷先生や幸島先生などとお話しすることができた。とてもお忙しい先生方なの で、こうしてまたお話できたことを光栄に思った。昨年まで一緒にポケゼミで活動してい た長尾さんは、名古屋市立東山動物園の子どもガイドとして来ており、久しぶりの再会と なった。長尾さんと一緒に来ていた方々ともお話をすることができ、いろんな方とお話を する機会が得られたことを光栄に思う。疲れていたため 2 次会参加はできなかったが、是 非来年はもっと多くの人と積極的にお話ができるようにしたい。 217 K.平栗明実 Ⅴ.個人報告書 熊本サンクチュアリ見学ツアー 夏に参加させていただいた熊本サンクチュアリに、こんなに早く戻って来られたことを 嬉しく思った。おそらく初めて KS を訪れる方々のために、施設の説明を多くするのだろ うと思っていたのだが、施設見学は参加自由としてくださったので、尐ないながらもほと んどの時間をチンパンジー観察に当てることができた。 男性の群れがある第 1 飼育棟では、 突然の団体客の訪れに興奮している個体が多く観察された。彼らのためにも、飼育棟の 3 分の 1 までしか入ることができなかったので、全個体を観察することはできなかった。第 5 飼育棟では、KS 職員の皆さんが早朝から 1 つ 1 つ手作業で取り付けた「実のなる木」 を時々喜びの声を上げながら食べている女性たちが印象的だった。しかし、何か他の棟で おかしな音や悲鳴を察知すると、みんなピタっと食べるのをやめて、タワーの上の方に登 り、悲鳴のした方向へ体を乗り出すようにして観察していたのも印象的だった。本当に尐 しの間ではあったが、とても楽しいひとときを過ごすことができた。そして、また研修し にきたいと思った。 218 K.平栗明実 Ⅴ.個人報告書 1 年間を振り返って 日本大学 平栗明実 夏には熊本サンクチュアリにて研修をおこなった。普段見慣れていないチンパンジーを 観察して、個体識別をすることの大切さを学んだ。観察を重ねるにつれて、私がいること で生じる緊張も和らいでいき、普段の彼らの姿を観察することができた。1 週間という短 い期間ではあったが、追いかけっこやレインダンスのように霊長類研究ではあまり観察で きない男性同士の遊びを観察できたことをうれしく思う。ここでの動物園へ行くことがほ とんどないため、チンパンジーを観察するのは霊長類研究所が中心の私にとって、いろい ろな新しい顔や特徴を見ることはとても貴重な経験となった。しかし、誕生日ケーキを落 として崩すという失敗をしてしまった。 また、多くの先生方の講演会に参加した。9 月には霊長類研究所の東京公開講座、10 月 には「人間とはなにか」をヒト科 4 属という視点から松沢先生、伊谷先生、山極先生、幸 島先生のお話を聞くことができた。さらに 11 月には、ボノボについて古市先生のお話も 聞くことができた。11 月は SAGA14 の参加もあり、毎日が充実していた。中でも、松阪 さんのチンパンジーの遊びについては、実際に映像を見せながらの説明があったので、と てもわかりやすかった。これをみて、霊長類研究所のチンパンジーたちの新施設において 観察される行動も行動目録として映像化してみたいと思った。 11 月 27 日(日)は、私にとって忘れることができない日となった。前日には日本モンキ ーセンターにて開催していたプリマーテス研究会に参加した。昨年度の時は、直前で体調 不良のため欠席していたため、今回参加できることがとてもうれしかった。さらに、日曜 日にも研究会に参加する人も多数いたため、土曜日の夜はテント泊だった。そして翌日、 藤森先輩と私はチンパンジーの昼食当番をした。その日は、アキラは落ち着きがなく、な かなか指示された居室へ入ろうとしなかった。 そのため、 先生方はアキラ群の昼食に入り、 藤森先輩と私はゴン群の昼食をおこなった。昼食も終盤に差し掛かった頃、私の不注意か らポケゼミ初の事故を起こしてしまった。突然の出来事に驚き、数日は何が起こったのか を理解することができなかった。 そのときは、 自分のことで頭がいっぱいであったけれど、 ポケゼミ生や先生方、家族に与えた衝撃も大きかったと思う。このとき自分は自然学ポケ ゼミをクビになるだろう、そうでなくても、家族にもう自然学ポケゼミには行くなと言わ れるのではないかと内心おびえていた。でも、ポケゼミからも親からも温かく迎えていた だき、本当に感謝しています。今回の事故により、どれだけの人に多大な迷惑をかけてし まったのかと思うと申し訳ない気持ちでいっぱいになる。本当にありがとうございました。 今回の事故からの復帰に時間が掛かったが、その分、本当に私はチンパンジーが好きなの だとわかった。来年度は、いままでの経験を生かし、ポケゼミ生として活動できることを ありがたく思いながら日々精進していきたい。 219 L.渡辺みなみ Ⅴ.個人報告書 SAGA14 報告書 岐阜大学 2 年 渡邉みなみ 今年の SAGA は熊本で行われ、私はまだ行ったことのない熊本サンクチュアリの見学が できると聞いていたのでとても楽しみだった。また、今年の SAGA の大きなテーマとして 水があげられており、いつものレクチャーとは違った分野の話が多く聞け、とても興味深 かった。そのような期待と同時に、2 年生にとっては初めての 1 人 1 枚のポスター制作で あり、かなり前準備が負担になったことも事実である。作成している時は、早く終わって ほしいと思っていたが、実際に終わってみると、頑張った分いろいろと得るものがあった のではないかと思えた。講演では、チンパンジーの水を利用した遊びについての内容が興 味深かった。飼育施設では水を怖がってほとんど接することはないのに、野生化では水を 覗き込んだり、 かきまぜたりするのだと考えると、やはり野生化で育った方がたくましく、 様々なことに対して経験をつむのだなと感じた。 ポスター発表では、 先にも記したが、 初めての一人での発表だったためとても緊張した。 そのためか上手く対忚できないときもあり、未熟さを感じさせられた。特に動物園関係者 の方が聞いてくださった時に、なぜそれぞれのチンパンジーの出身施設を書かないのかと いうことについて強く聞かれたときは、そんなことを言われるとは考えていなかったため、 しどろもどろになってしまった。その人その人の SAGA に関わる立場によって必要な情報 が異なるのだと身を持って知った数時間であった。 懇親会では、近い年齢の方とばかり話してしまい、もう尐し広い年齢層の方々と交流して おけばよかったなと思った。また、中国の動物園からわざわざいらしている方ともお話し したが、英語に自信が持てず、なかなか話しかけることができなかった。英語ができない からと言って、英語を話す状況から逃げているのでは使えるようになるはずがない。英語 をしゃべるチャンスがあるのなら、自分から飛び込んでいかなければならないのだと思い 知った。 熊本サンクチュアリ見学では、研究者、動物園関係者、一般のグループに分かれて見学 を行ったが、2 年では私のみが一般のグループであったため、尐し残念であった。そこま で違いはなかったのかもしれないが、研究者や動物園関係者のグループからでる質問の方 が、興味深そうな気がしたからだ。熊本サンクチュアリは思っていた以上に施設が充実し ており、職員の方々もとても雰囲気がよかった。そのため、春休みの研修ではここに来た いと強く思った。 ポスターの印刷機が壊れるなどアクシデントもあったが、無事に SAGA を終えることが できてよかったと思う。今回ポスター発表でうまくできなかった点は改善して、次回に活 かしていきたい。 220 L.渡辺みなみ Ⅴ.個人報告書 熊本サンクチュアリ研修報告書 岐阜大学 2 年 渡邉みなみ 221 L.渡辺みなみ Ⅴ.個人報告書 熊本県にある京都大学野生動物研究センター熊本サンクチュアリ(KS)で 2012 年 3 月 5 日(月)から 15 日(木)までの 10 日間、春季研修をおこなった。以下にその詳細を示 す。 3 月 4 日(日) 19:50 頃名鉄バスセンターに到着後、20:20 の熊本行夜行バスに乗った。車内では両隣 が男性で尐し緊張した。 3 月 5 日(月) 15:00- KS 到着 15:15- 施設紹介 仮眠室の利用説明 15:45- 今後の活動についてのミーティング 16:00- 工事現場の見学 17:30- 今後の活動についてのミーティング 18:30- 買い出し 19:30- KS に到着 熊本交通センターに 7 時 30 分ごろ到着し、ロッカーに荷物を預け午前中は市内を観光 した。 13 時 15 分頃に熊本交通センターに戻り、13 時 45 分発のバスに乗りこみ大田尾に向か った。 大田尾には 14 時 45 分頃に到着し、 迎えに来てくださった廣澤さんの車に乗り込み、 熊本サンクチュアリに向かった。熊本サンクチュアリに着くと、施設の利用方法について 教えていただいた。15 時 45 分に森村先生と今後についての話し合いを行った。6 日~8 日の 3 日間は森村先生がいらっしゃらないそうなので、 初めの 2 日間は鵜殿さんについて、 PCR 法を行うこと、3 日目は廣澤さんについてチンパンジーの見学を行うことを聞いた。 その後 16 時から現在行われている温室の工事現場へ先生方と共に向かい、問題がないか チェックした。先生たちは、はしごを登ったり、叩いたり、隙間があれば手を入れたりし ていた。また、ロープをかけるところをよくチェックしており、いらないところをなくし たり、適切な方向を変えたりしていた。今回は 1 階しか見ることができなかったが、次の 機会があれば 2 階にも入れるようだったので、楽しみだと思った。17 時 30 分から森村先 生、鵜殿先生、廣澤さんと今後の予定について話し合いをした。その後、18 時 30 分から 廣澤さんに買い出しにつれていってもらった。あまり多く食糧を持ってこなかったのでと ても助かった。インスタント食品ばかり購入していると、廣澤さんが野菜をとらなくてよ いのかと心配してくださった。無事食糧を購入し、KS に 19 時 30 分頃到着した。先輩に 新聞紙の中に食べ物を入れるエンリッチメントを教えてもらった。太っている個体もいる ので、そこまでたくさん一つの新聞紙に入れなくてもよいということだった。コンビニの 惣菜パンを食べながらテレビを見ていると、何やら廊下の方から奇妙な音がする気がした。 おそるおそる覗いてみると、乾燥機の中でまわっていたゴム手袋がペタンペタンと壁に張 り付く音であった。幽霊や不審人物でなかったことにホッとしてその日は眠りについた。 222 L.渡辺みなみ Ⅴ.個人報告書 3 月 6 日(火) 8:45- 病院見学、今日行う検査の説明 9:00- 朝のミーティング 9:30- 第1飼育棟、第5飼育棟見学とレクチャー 11:30- 検査に必要な糞を回収、検査開始 12:00- 昼食 13:15- 検査再開 17:00- 検査終了 朝 7 時には起きてセコムを解除しなければならないという話だったので、寝坊してはい けないと思い、3 回分目覚ましをかけておいた。無事に 2 回目の目覚まし音で目覚め、セ コムを解除することができた。8 時 30 分頃に鵜殿さんがいらっしゃって、今日行う検査の 説明を受けるために、第五飼育棟の方に向かった。そこで、今日の実験はどのように行わ れるのか軽い説明を受け、 同時に手術室を見学させていただいた。朝のミーティングの後、 第五飼育棟と第一飼育棟を回り、展示室で鵜殿さんにレクチャーをしていただいた。人と チンパンジーの骨や脳を比べて違いを確認でき大変興味深く思った。人に比べてチンパン ジーの産道は大きく、生まれてくる胎児は小さいので出産は楽だというのを聞いて、羨ま しいと思った。また、資料室にはアフリカから連れてこられたチンパンジーの体の中から 取り出した散乱銃の玉も展示してあり、考えさせられた。なんでもアフリカから 1 頭のチ ンパンジーが輸入されるために 10 頭ものチンパンジーが殺されているそうだ。日本では 交尾がうまくできないチンパンジーが多いので、ここからチンパンジーを貸し出して、そ の手助けをしているという話を聞き、この施設の必要性を再確認した。エンリッチメント はおこなう曜日などを決めておかないとやらなくなるから、決めてあると聞いて、どんな 事をしようとする際でもこれはあてはまると思った。第五飼育棟見学の際にサクラに顔に 唾をかけられてしまった。初めての経験だったので驚いてしまいそうになったが、一度そ のような行動を見られるとなめられてしまうと聞いたことがあったので、気にしていない ようにふるまった。 3 月 7 日(水) 8:20- 新聞紙丸めの内職 8:30- PCR 法の操作 9:00- 朝のミーティング 9:30- PCR 法に使うゲルの作成 10:00- 第五飼育棟観察 11:45- 検査再開 12:15- 昼食 13:00- ミーティング 14:00- サイの誕生日会 15:30- レクチャー 17:00- 終了 223 L.渡辺みなみ Ⅴ.個人報告書 前日の検査の続きで、PCR 法を鵜殿さんと共に行った。私がやるとすべての動作が遅 くなり、ゲルを破いてしまいうまくいかないこともあったが、鵜殿さんは根気よくつきあ ってくださった。結果として、陽性の物が一つあり、今後さらにどの個体が病原菌を持っ ていたのか詳しく検査するとおっしゃっていた。観察では、個体識別を行ったが、あまり 覚えることができなかった。今日全体で識別できるようになった個体は ブラック、オウ ム、ニコ、チコ、ハルナ、コテツ、サクラ、リナの 8 人である。ただし、今の群れの中で の話であり、もし群れを変えられたら識別できるのはオウム、ハルナ、リナ、サクラの 4 個体だけかもしれない。これからも引き続きすべての個体が見分けられるように努力して いこうと思う。午後はサイの誕生日会があり、果物とごはんで作ったケーキをあげた。サ イはとても喜んでおり、フードグランドをしていた。職員の方々はカメラやビデオを用意 していて、チンパンジーの様子を撮影したりチンパンジーと遊んだりしていて楽しそうだ った。 その後、チンパンジーの基本的な知識や日本のチンパンジーの問題点、チンパンジ ーの病気についてのレクチャーをうけた。その中でも熊本サンクチュアリの歴史が印象的 だった。はじめ、実験に使われていたチンパンジーのリハビリ、繁殖の目的で設置された のにかかわらず、その後医学実験に使用するようになったのはまったく理解ができなかっ た。現在では目的が実験用から福祉や長寿研究に移ったということなので、本当によかっ たと思う。 3 月 8 日(木) 8:30- 新聞紙の内職 9:00- 朝のミーティング 11:00- 野菜の搬入 12:00- 昼食 13:00- 第五飼育棟観察 15:00- ハンモック作り 17:00- 終了 この日は廣澤さんについて、第五飼育棟の D 放飼場を観察した。D 放飼場には、前日と 同じくブラック、オウム、ハルナ、ニコ、チコがいたが、今日は気温が低く、時折雤も降 っていたため居室が開いているときはなかなか外に出てきてくれなかった。女性たちはタ ワーの下にいることが多く、雤を防ぎつつ居室が開くのを待っているといった感じで、ブ ラックはタワーから尐し離れたところから女性たちを監視しているようだった。お昼前に 野菜や果実の搬入があり、それを手伝った。足手まといになりながらも職員のみなさんに 混じって作業をした後には寒い日であったにも関わらずじんわりと汗をかいていた。 午後の観察の後にチンパンジーに使ってもらうハンモックを消防ホースで作成した。廣澤 さんに習いながら作ったが、固いホースを折り曲げるのに悪戦苦闘し、廣澤さんが 2 つ立 派なハンモックを完成させている間に貧相なものを 1 つ作ることしかができなかった。 224 L.渡辺みなみ Ⅴ.個人報告書 3 月 9 日(金) 9:00- 朝のミーティング 11:00- サーモグラフィーの観察 12:00- 昼食 12:50- 第五飼育棟観察 15:00- 第一飼育棟観察 16:00- 工事現場観察 17:00- 終了 この日はサーモグラフィーの機械が新しく導入されたので、その様子を見学させてもら った。機械でチンパンジーを見てみると、鼻の周りだけ温度が低く、興味深かった。コナ ツやリナなどを映していたが、水をかけるサクラが近づいてきたので急いで退散した。聞 くと 200 万ほどするものだそうで、 外見としてはビデオカメラを大きくした感じであった。 午後は第一飼育棟 D の観察を行った。ニコはお尻がかゆいのか、ずっと気にしていた。エ ンリッチメントでパイプの中にリンゴが隠されており、チコが指で取り出そうとした際に 奥に入ってしまった。一度はあきらめたように見えたが、しばらく他のエサを食べた後、 枝を持って戻ってきて器用に取り出していた。ブラックはハルナのお尻が晴れているのが 気になるらしく、何度も交尾に誘っていた。ハルナはそれに忚じるときもあれば無視する ときもあった。今日は太陽がでており暖かかったため、みんなゆったりと日向ぼっこをし ていた。ハルナは居室に入りたいのか、しきりに居室への入り口を確認しに行っていた。 放飼場には草が生い茂っており、ハルナやオウムはその草をむしっておいしそうに食べて いた。その後、第一飼育棟の観察に向かった。男性だけの群れは初めて見るので緊張した が、森村先生の指導のもと、お互いに安全な距離をとりつつ観察を行った。ケニーやミズ オはこちらが気になるらしく何度も近づいてきて私たちを見ていた。それに対してノリオ など、まったく近づいてこない個体もいた。一概には言えないが、やはり人工保育で育っ た子は人に興味を示しやすいらしく、ケニーやミズオは人工保育であったその後工事現場 の見学をさせていただいた。前回は一階のみの見学であったが、この日は二階の方にも入 ることができた。霊長類研究所に新しくできたサンルームとよく似ていて感動したが、森 村先生によると一階部分と二階部分の通り道に柱があったり、欲しいところに柱がなかっ たりと、上手くいかなかった点もあるらしかった。実際に施設を作る人間と使う人間は異 なるため、その考えの差を埋めるための努力が大事なのだと学んだ。 3 月 10 日(土) 9:30 第一飼育棟観察 11:30- 昼食 12:30- 第五飼育棟 E 観察 14:00- 第五飼育棟 D 観察 16:30- 終了 225 L.渡辺みなみ Ⅴ.個人報告書 昨日からよく晴れており、春の訪れを感じさせる陽気なのだが、花粉症の私にとっては つらい季節であり、実際花粉が飛んでいるのが感じられた。午前中は森村先生と共に第五 飼育棟を観察した。ミズオもだいぶ私に慣れてきたようで、水をかけようとすることはな かった。午後は第五飼育棟で観察を行った。最近のコナンのグループにシオミやクミコ、 アキナを一緒にしているところで、寺本さんや野上さんがその観察を行っていた。群れは 比較的落ち着いており、3 人が居室に入った後にコナンが尐しディスプレイを行う程度で あった。男の子を女の子の群れの中に入れておくとやつれていくそうで、たまには男の子 だけの群れをつくってやることも大事なのだそうだ。 3 月 11 日(日) 9:00- 第一飼育棟観察 10:30- 第五飼育棟観察 12:00- 昼食 12:30- 第一飼育棟観察 14:00- 新聞紙のエンリッチメント 16:15- ハンモック作り 17:30- 終了 前日と同じく、午前は第一飼育棟を観察した。個体識別もできるようになったので、観 察もしやすくなった。チンパンジーたちも私に対してだいぶ慣れてきたように思ったが、 ミズオに唾をかけられてしまった。どうやら餌が尐なかったようで、ノリヘイの吐き戻し をミズオが食べていた。 昼食前に第五飼育棟の観察を行ったが、あまり行動がなかった。 風が強く寒かったせいか居室が開いてしまうとほとんどのチンパンジーが入ってしまった。 コナンやコナツは人の近くまで来るので個体識別がしやすいが、ロマンやミロは後ろのほ うにいることが多く、なかなか識別できなかった。午後も第一飼育棟の観察を行った。し ばらくはみんな落ち着いており、特にこれといった行動は見られなかったが、後半はよく 動いており、遊びも見られるようになった。特にジョージはよく遊んでおり、見ていて楽 しかった。ノリオとの遊びはかなり激しく、笑う姿もしっかりと見えた。風が強くあまり に寒かったため、その後は室内でエンリッチメントのお手伝いをさせていただいた。二回 目となるハンモック作りをおこなった。一回目に比べれば大分ましなものが作れたように 感じた。 226 L.渡辺みなみ Ⅴ.個人報告書 3 月 12 日(月) 9:30- 第一飼育棟観察 10:45- 第五飼育棟観察 11:00- アイトラッカーの見学 12:00- 昼食 13:00- 第五飼育棟掃除と見学 15:00- 第一飼育棟観察 15:30- 放飼場の掃除 16:30- 第一飼育棟居室観察 今日も風が冷たく、上着を重ねないと観察が厳しい日であった。朝の観察では、何度か 追いかけっこなどの遊びを見ることができた。追いかけっこで個体によって追いかける側 になる回数が多かったり追われる側になる回数が多かったりすることはあるのかという疑 問がわいたが、まだそのようなデータのとられていないらしい。そのような点に注意して 観察するのもおもしろそうだと感じた。途中ジョージが私に向かって枝で突こうとしてき た。 その時使った枝が二股になっており、なかなか私のほうに出すことができなかったが、 しばらく出そうと奮闘した後に、二股の片方を口で折って、まっすぐな枝にし、網の間か らうまく出せるように加工していた。昼前に平田先生にアイトラッカーの実験の見学をさ せてもらった。まだ、どのように実験を行うか試行錯誤の途中といった感じで、実験を行 えるようになるには、さまざまな努力や工夫が必要なのだと学んだ。霊長類研究所や東山 動物園ではすでに、試行実験を行える環境がととのっているが、そのことを当たり前だと 思っていてはいけないのだと思う。午後には第一飼育棟で掃除のお手伝いをさせていただ いた。普段はチンパンジーのいるエリアに入るということはとても新鮮に感じられた。ま た、思っていた以上に移動できる空間が広いと感じた。居室に入っているチンパンジーの 観察では、ひとりひとりのベッド作りを見ることができた。やはり、この子はベッド作り が上手いなと感じる子は野生育ちで、森さんによれば 2、3 歳までの環境によってそのよ うな行動がとれるかどうかが変わってくるのだそうだ。人でも小さいころの環境はその人 の人格などに大き影響してくるが、チンパンジーでも同じなのだと感じた。 3 月 13 日(火) 9:30- 第一飼育棟観察 11:00- 第五飼育棟観察 12:00- 昼食 13:15- 第一飼育棟掃除と見学 16:00- 放飼場の掃除、エンリッチメント 16:30- 第一飼育棟居室観察 17:00- 終了 227 L.渡辺みなみ Ⅴ.個人報告書 午前中は、柵の外側から見学を行った。今日は第一飼育場で全員を 1 つの群れにする日 だったので、いつもと違い多くの個体を見ることがきた。前日に居室で個体識別を行って はいたが、見分けるのが難しくなかなか観察がはかどらなかった。マイクさんにチンパン ジーに対して挨拶することはとても大事だと教えていただいたので、今日からはなるべく 挨拶を行うようにした。その後、挨拶を返してもらえることはなかったが、コナツにおこ なったときは近くによって来てくれたので、何かしらの効果はあったのかもしれない。第 五飼育棟では本日のエンリッチメント消防ホースが与えられていた。これは結んだ消防ホ ースの中に大豆などの餌が入っているもので、みな器用に手や口を使って餌をとりだして いた。 コナンはたくさんの消防ホースを持っていたが、何かの拍子にすべて落としまいその後、 癇癪をおこしているようにディスプレイしていた。森さんは全員を一つの群れにしている 時は収容の時に気を付けないとリンチされる個体がでてくるといっていたが、その日も尐 しだけ騒ぎがあった。掃除の後、放飼場に木を取り付ける作業を行った。木は思っていた 以上に重く、倒れないように押さえておくのに必死だったが、尐しでもチンパンジー達の エンリッチメントに協力できたような気がして嬉しくなった。 3 月 14 日(水) 8:30- 第五飼育棟エンリッチメント 9:30- 第五飼育棟掃除 11:30- 第五飼育棟観察 12:30- 昼食 13:00- ミーティング 14:30- 第五飼育棟観察 16:00- 放飼場の掃除、観察 17:30- 終了 この日は寺本さんについて、飼育実習を行った。個体識別をしようと、チンパンジーた ちを居室で観察していたところ、サクラに後ろから水をかけられてしまった。死角からの 不意打ちだったので、かなり驚いた。午前中は第五飼育棟の掃除をおこなったが、ゴキブ リや毛虫などの害虫を多く目撃し、気が遠くなるのを感じた。今まであまり、観察するこ とができなかった個体を見ることができたので、個体識別をしようと努力したが、なかな か難しかった。午後にはミーティングがあり、チンパンジーが逃げたときの対処法や、チ ンパンジーの投薬について話し合った。どんなに気を付けていても、チンパンジーが逃げ る可能性というのは 0 にはならないので、このような話し合いは必要であると思う。また、 投薬についてはどのような処置を行うことがチンパンジーにとって負担にならないのかと いうことについて考える必要があるのだと学んだ。午後も第五飼育棟で観察を行った。コ ナン群の方もやっと個体識別ができるようになってきたので、一人一人の性格や行動に注 意を向けることができた。居室内では昨日と同様ベッド作りを観察することができ、個体 間でかなり差があることがおもしろいと感じた。 228 L.渡辺みなみ Ⅴ.個人報告書 3 月 15 日(木) 9:15- 第一飼育棟、第五飼育棟観察 11:45- タッチパネルの観察 12:15- 昼食 13:00- 誕生日会準備 14:30- 誕生日会開始 16:00- 掃除 18:00- 熊本サンクチュアリ出発 最終日ということで、森村先生と第一飼育棟と第五飼育棟を回り、個体識別ができてい るかチェックを行った。その結果、自分はチンパンジーの大きさについて相対的にしか識 別できていないのだと分かった。一人のチンパンジーを見ただけで、その子が大きいのか 小さいのか判断できるようになる必要があると思った。森村先生によると、声でも個体識 別ができるらしいので、東山動物園で挑戦してみようと思う。 タッチパネルの実験を見せていただいた。東山動物園では、数字課題や漢字課題を行っ ている個体もいるが、そこまで到達するまでには多くの人の努力の積み重ねがあったのだ と感じた。 午後はコナン、ミロ、アキナの誕生日会を行った。三月なので、ひな祭りをイメージし てケーキを作った。初めは私の思うように作ってよいと言われていたので、創作していた のだが、「あまりにもひどい」、「今までで一番まずそうだ」という意見がでたので、他 の職員の方々に手直しをしてもらった。完成したケーキはかなり華やかでおいしそうにな っており、チンパンジーたちもホッとしたのではないかと思う。 誕生日会を見学した後に仮眠室の掃除をし、熊本サンクチュアリを後にした。来るとき は不安でいっぱいだったが、 終わってしまうとこの地を去るのがとても名残惜しく感じた。 しかし、そろそろ身体的にも精神的にも疲れが見え始めていたので 10 日間という研修期 間は適度であったのではないかと思う。ここではチンパンジーのこと以外にも多くのこと を学べたと感じている。 229 L.渡辺みなみ Ⅴ.個人報告書 以下は、個体識別可能ができるようになった個体についてまとめたものである。 研修日 個体名 日計 累計 3月5日 3月6日 リナ ブラック オウム ニコ チコ ハルナ サクラ 3月7日 リナ ブラック オウム ニコ チコ ハルナ サクラ 3月8日 リナ ブラック オウム ニコ チコ ハルナ サクラ コナツ コナン 3月9日 リナ ブラック オウム ニコ チコ ハルナ サクラ コナツ コナン ミズオ ケニー 3月10日 リナ ブラック オウム ニコ チコ ハルナ サクラ コナツ コナン ミズオ ケニー ジョージ 3月11日 リナ ブラック オウム ニコ チコ ハルナ サクラ コナツ コナン ミズオ ケニー ジョージ ナオヤ ノリヘイ 3月12日 リナ ブラック オウム ニコ チコ ハルナ サクラ コナツ コナン ミズオ ケニー ジョージ ナオヤ ノリヘイ ミナト 0 0 7 7 0 7 2 9 2 11 1 12 2 14 1 15 3月13日 リナ ブラック オウム ニコ チコ ハルナ サクラ コナツ コナン ミズオ ケニー ジョージ ナオヤ ノリヘイ ミナト レノン ゴロウ シロウ トーン 3月14日 リナ ブラック オウム ニコ チコ ハルナ サクラ コナツ コナン ミズオ ケニー ジョージ ナオヤ ノリヘイ ミナト レノン ゴロウ シロウ トーン ノリオ ノノ ロマン ミロ ホープ 4 5 19 24 3月15日 リナ ブラック オウム ニコ チコ ハルナ サクラ コナツ コナン ミズオ ケニー ジョージ ナオヤ ノリヘイ ミナト レノン ゴロウ シロウ トーン ノリオ ノノ ロマン ミロ ホープ 0 24 感想としては、いつも見ている群れとたまにしか見られない群れがあり、なかなか見ら れない群れの個体識別がうまく進まなかったのでくやしかった。一度覚えた個体も、群れ を変えられると、うまく個体識別できなくなってしまった。また、疲れているときは個体 識別がなかなか進まないということがあげられた。 230 L.渡辺みなみ Ⅴ.個人報告書 1 年間のまとめ 岐阜大学 2 年 渡邉みなみ 去年は 1 年生全体で何かを作るといったことが为だったため、もし自分が上手くできな くても、他のメンバーがそれを補ってくれるという甘えがどこかにあった。しかし 2 年生 になった今年からは、基本個人がそれぞれの活動を行い、さらに下の学年の面倒を見ると いう責任もあり、そのような甘えは通用しなくなった。しかし、それは社会にでれば当た り前のことである。いつまでも、責任感のない学生のままではいけないのだ。今年度、私 は 20 歳になり人生一度の成人式を迎えた。大人や社会人になるということがどのような意 味を持っているのか、真剣に考える必要があるのだと感じた。 1 年を通しての为な活動としては、東山でのタッチパネルを使用した思考実験と観察を行 った。以前から動物園には興味があったので、このような活動に参加できたことは本当に 嬉しいことであった。特に、7 月にはカズミとリュウの間にリキが生まれ、その成長を観察 できることにとてつもない幸福感を覚えた。リキは驚くべき速さで日々成長しており、そ のスピードを感じるたびに、子供の成長は本当に面白いと感じるざるを得ない。3 月にはと うとう母親から離れておばさんの役割をするローリーにおぶられる姿が何度も目撃されて いる。今後はそのような子供と母親以外の個体との関係に注目していけたら面白いのでは ないかと考えている。 また今年は私にとって初めて 1 人での長期研修行った年でもある。3 月 5 日から 15 日ま での約 10 日間という短い間ではあったが、今までの活動では決して得られなかった多くの 経験を得ることができた。私はポケゼミ内では最も力がなく、頼りない存在であると感じ ていたが、今回の研修を通してそんな自分でもできることはあるのだということ、そのた めには常に回りの状況に気を配って、自分のやるべきことを探す必要があることを学んだ。 自分の足りないところを嘆くのではなく、それを補えるように努力すればよいのだという 簡卖なことに今回の研修で気が付いたのだ。このことは私にとって大きくて、今後ポケゼ ミだけでなく、人生でも役立てる時が来るだろうと思っている。 来年度もポケゼミを通して多くのことを学び、尐しでも自分を成長、前進させて行きた い。 231 M.黒澤圭貴 Ⅴ.個人報告書 2011 年 12 月 11 日 第1回霊長類研究所レポート 立命館大学 黒澤圭貴 友永先生からの紹介に預かり、自然学ポケゼミに参加することになった。京都からの旅 ということで日もまだ昇る前の出発となったが、これを契機に生活リズムを立て直そうか と思う。 さて今回が僕の初参加で、序の部分の活動となったわけだが、このポケゼミなら今まで とは違う形で霊長研に関わる事が出来そうだと感じた。今まで三度ほど研究所には足を運 び、実験の補助や観察等させてもらっていた。もちろんそれはそれで非常に有意義と感じ ていたのだが、この自然学ポケゼミを通してより積極的な形で霊長類に関わっていけるの かと思うと、非常に今後の活動が楽しみである。 今日の内容としてはまず松沢先生のお話があった。今まで松沢先生とは挨拶程度しかし たことがなかったので、大分緊張したというのが本音だ。その講義の中で、実験研究と観 察研究という、研究の二つの種類について触れられた。僕は個体間の相互作用や効用・価 値の認識という多尐なりとも経済学の色を残した研究をしたいと思っており、それは実験 研究に属するのであろう。そして実験研究の為には結果の予測をおこない、デザインし、 その実験手法のメカニズムもちゃんと知らないとならないという、当然と言えるが忘れが ちなことを、講義の中で聞くことで強く認識することができた。 また櫻庭さんの案内で所内を回り、その中で東サンルームについて説明された。その後 の林先生の講義の中でより詳細な説明をされ、その特徴について色々と考えた。あの形式 だと実験に参加できる、つまり餌をもらえる幸運な個体と、それ以外の個体が目に見える 範囲に存在することになり、 その不平等に対しチンパンジーはどういった行動をとるのか、 非常に興味深い。De Waal の著書にこういった実例が挙げられていたのを読んだが、それ がこの霊長類研究所で見られるのかと思うと、楽しみである。 簡卖ではあるが、以上が僕のポケゼミ初日の感想である。今日は本当ならライセンス試 験を受ける予定であったがいろいろあって出来なかったので、次の時にはこの延期された 期間の分しっかりと勉強して試験に臨みたいと思う。 232 M.黒澤圭貴 Ⅴ.個人報告書 2012 年 1 月 8 日 第 2 回霊長類研究所レポート 立命館大学 黒澤圭貴 前回の参加から約一か月、時間が空いてからの二回目の参加となった。前回できなかっ たライセンス試験の実施が今回最大のイベントである。ちなみに 2012 年 1 月 8 日現在僕 は入口のパスワードを覚えておらず、またポケゼミの皆さんの携帯アドレスも知らなかっ たため、しばらくドアの前でたたずむという失敗を犯してしまった。そこで運を天に任せ るような思いで桜庭さんのPCアドレスにドアを開けてほしい旨のメールを送ったところ、 天が味方したのか桜庭さんはすぐにドアを開けに来てくれて、凍てつく外の寒さから僕を 救い出してくれたのだった。今日のこの出来事と桜庭さんへの感謝を忘れないように、こ こに記しておこうと思う。 さて、こうしてようやく研究所に入ることが出来た。今日はライセンス試験を受けるわ けだが、それに伴いビデオを見る必要がある。それを見るのが、今日の僕の最初の課題だ。 ビデオは先にもらっていたテキストに沿った内容であったが、保定方法や麻酔方法など、 文字だけではわかりにくかった部分の理解を深めることが出来た。ポケゼミ生のうちはそ れらを実践する機会はまずないだろうが、いずれ実践するそのときまで覚えておこう。蛇 足だが、腹腔内注射の動画を見るたびに自分の臍のあたりが何ともいえぬ不快感に襲われ るのは僕だけであろうか。 その後すぐにテストというわけではなく、松沢先生の講義があった。講義の内容はボッ ソウでのフィールドワークの記録といえるであろうか、普段は研究所や動物園のチンパン ジーにしか触れていないので新鮮であった。今まで実験をしてみたいとだけ考え、実験室 ばかりに意識が向いていた。しかしそれだけでは疑問の持ち方がどうしても文献に由来し たものになりがちで、 既存の枞組みから完全に外れた疑問を持つことができない。 そして、 それではいけない。フィールドワークを通じて、実際の生態の観察を通して初めて生まれ る疑問にも意識を向けていく必要があるのだと強く感じた。 その後友永先生の講義で、正月に放送されたらしい霊長類研究所の番組をみた。ポケゼ ミ生の中にはすでにリアルタイムで見ていた人もいたらしいが、正月休みを全て遊びに費 やしていた僕は放送していた事実すら知るよしもなく、今回純粋に番組を楽しんだ。放送 されていた実験の中にはまだ見たことのないものが多く、知的好奇心を刺激されるもので あったのはもちろん、レポーターの袴田さんのリアクションは驚きが視聴者に伝わる素晴 らしいものだったと思う。 ライセンス試験には合格した。安心した。 233 M.黒澤圭貴 Ⅴ.個人報告書 2012 年 1 月 22 日 第 3 回霊長類研究所レポート 立命館大学 黒澤圭貴 暗い。日は、まだ昇らない。私がポケゼミに参加するときは、夜明け前の出発になる。 そしてまだ人もぽつぽつとしかいない電車内から外を眺めていると、いつの間にか日が昇 る。ただ、昇る。元日に昇った朝日は運が良い。 さて、今日は伊村先生のスリット視に関するレクチャーがあった。スリットに流れる画 像をどのように認識して流れた正解の画像を当てているのかという話で、スリットから見 える部分からその意味を類推して答えているのではないかという原因が挙がった。その原 因に対する裏づけとして無意味図形での実験の話があり、4つほどの無意味図形がスライ ドの上に表示された。 実験に用いる画像が銃や飛行機など人間にとってのみなじみのある、 つまり意味の与えやすいモノであり、画像への意味の付加しやすさがチンパンジーとヒト の結果に差をもたらしているのではないかという可能性を考慮しての無意味図形の使用で ある。 だが、無意味図形は本当に無意味なのだろうか。最初の無意味図形がスライドに表示さ れたとき、私が抱いた率直な感想は「イヌっぽい画像」というものだった。こうなると無 意味だとされる無意味画像は私にとって無意味ではない。無意味として提示されたそれら の画像は、もう私の中では「イヌっぽい」という意味を持った画像なのだ。私はその「イ ヌっぽい」以外の他の三つの画像にも同様に「~っぽい」という形で意味を与えることが 出来たし、おそらく他の人もこのように無意味画像に意味を与えることが出来るだろう。 ここに、無意味図形を見る際のヒトとチンパンジーの違いが存在するのではないか。チ ンパンジーが無意味画像を無意味として認識しているのかどうかは今の私にはわからない が、尐なくともヒトに関しては、無意味として認識しているとは言えないように思える。 そしてもしチンパンジーは無意味画像を無意味として捉え、ヒトはそれに意味を付加して 捉えているというここでの私の仮説が正しければ、この差はヒトが唯一言語獲得能力に優 れている理由を与えてくれるのではないだろうか。何故なら、あるヒト A が無意味画像に 与えた意味を B と共有できたとき、その無意味画像は言語の役割を果たしていると言える からだ。 最も無意味画像にその成り立ちが近い現存する言語といったら漢字の象形文字で、 これはわかりやすいであろう。そして言語とは、文字と呼ばれる無意味画像と森羅万象の 意味を結び付け、それを共有することなのである。つらつらと述べてきたが、このことに ついての考察は様々されているだろうから、ぜひ文献にあたってみようと思う。 日の出る処と呼ばれるオリエントの住民が文明の日の出とともに言語の日の出を感じた ように、今日の私も日の出と言語の日の出の両方を感じることができた。オリエントの日 は没した。今日の太陽は沈む。しかし明日の太陽が昇る。この国の言語が没しないことは、 ただただ願うところである。 234 M.黒澤圭貴 Ⅴ.個人報告書 2012 年 2 月 5 日 第 4 回霊長類研究所レポート 立命館大学 黒澤圭貴 この春休みは霊長類研究所の宿舎に泊って研修をしているので、9時30分の集合には 9時25分に部屋を出れば間に合う。題名のない音楽会を見てから部屋を出てきた。 今日は新棟4階から入って、東サンルームで初めての観察を行った。僕はいつも実験室 で実験の補助にばかりあたっているので、見たことあるチンパンジーといったら実験に参 加する個体ばかり。実験にあまり参加しないアキラやポポとは、今日が初めての御対面と なった。識別する個体が増えたので、もっとよくそれぞれを見なければ誰が誰だかわから なくなってしまいそうだ。今日は上からの観察だったので危険はなかったが、話に聞いて いた通り金網はそれなりに大きい。下から観察する時には注意を怠らないようにしよう。 午後の足立先生のレクチャーは条件付けの話だった。現在勉強のために読み進めている 本が「経済と意思決定の心理学」、「価値割引の心理学」の2冊であり、両者とも条件付 けについてしっかりと記述されている。その点で今日のレクチャーは僕にとって非常にタ イムリーな内容であるとともに、本だと小難しく書かれていて曖昧になっていた部分の理 解を確認することができた。僕は実験心理学の手法を用いて行動分析をしていきたいと思 っているので、この分野の理解は直に求められる、必要な能力であろう。そのレクチャー の中で自分が条件付け「される」側に回る機会があったのだが、それにあたり条件付けさ れるにあたってのストレスや難しさを実感することができた。何が正解、何が求められて いる行動なのかが分からないと、自分はどんな行動をすべきなのかわからなくなってしま う。そして結果として、何もできなくなってしまう。自分が条件付け「する」側に回るこ とになったら、その点には気をつけていきたい。 蛇足だが、私は VR スケジュールに見事に操作されているらしい。メールの返事があま り頻繁でない女の子と最近1週間ほどメールが続いていたのだが、ここ二日ほど返事がき ていない。まあそんなものかとは思う。しかし、それと同時に今日こそはメールの返事が 来るのではないかと思っている自分もいる。メールはまだ、来ていない。 235 M.黒澤圭貴 Ⅴ.個人報告書 2012 年 2 月 19 日 第 5 回霊長類研究所レポート 立命館大学 黒澤圭貴 プライベートな話で恐縮だが、今日は私にとって一年の一つの節目となった。何がどう 節目なのかは詳しくは書かない。しかし、簡卖にいうと別れ、一年スパンで入れ替わる、 大好きだったテレビ番組の最終回だったのだ。一年間ともに歩んできたことへの感謝、す がすがしい気分に満ちていると同時に、もうテレビ画面上で動く彼らを見ることがないの かと思うと、死に近い病、絶望に近しいものさえ感じる。 さて、ここでただ延々と最終回への感謝を述べるだけならわざわざレポートに書いたり はしない。ここで一つ、私が非常に興味深いなと思うことがある。そもそもその番組とは いわゆる戦隊物、海賊戦隊ゴーカイジャーという番組で、当然のことながら本来の視聴者 層は4~6歳に設定されている。ということで幼稚園生のお友達も今日私と一緒にゴーカ イジャーとお別れをしたわけだが、どうも最終回に対する反忚が私と違うようだ。私、い や私だけでなく比較的年齢層の高い視聴者層は別れに対して後ろ向き、終わってほしくな いという意見が圧倒的多数を占めている。しかし私の甥っ子やネット上での反忚を見てみ ると、 対象年齢とされる4~6歳の視聴者は、来たる次のヒーローへの期待に胸を弾ませ、 ゴーカイジャーとの別れに悲しんでいる様子はあまり見られない。これは、大きな違いで ある。 私たちが別れを惜しみ、永遠の別れに絶望するのはなぜだろうか。松沢先生の著書の中 に、絶望するのも人間だからという一文があったことを思い出す。「未来の時間の中では 二度と彼らに会うことが出来ない」ということがどういうことかを成長に伴い鮮明にイメ ージで出来るようになればなるほど、≪新しい出会い≫よりも≪別れ≫の方を強く意識す るようになるのだろうか。 行動経済学の为要な理論の中に損失忌避性というものがある。これは例えば 1000 円得 た喜びより 1000 円失った悲しさの方が为観的な影響力が大きいというもので、つまり我々 は損失のほうを強く意識しているということだ。この損失忌避性に照らし合わせてみると、 年齢の高い私のような視聴者層は≪別れ≫という悲しみを≪新しい出会い≫という喜びよ りも強烈に意識し、結果として悲しんでいるのだと考えることが出来る。ここまでなら損 失忌避性の理論通りなので問題はないのだが、年齢の低い視聴者層が≪新しい出会い≫の 喜びを≪別れ≫の悲しみより強く意識し、結果としてプラスの感情を抱いていることをみ ると、損失忌避性に発達段階的な影響があるのではないかと思えてくる。 話が尐し飛躍しているかもしれない。最終回の興奮が先走り、うまく伝えられていない かもしれない。しかし、発達段階と損失忌避性の関係は我ながら面白いのではないかと思 う。この自分の興味に関係のある内容を、大好きだったゴーカイジャーから得ることが出 来たことを、私は誇りに思う。 236 M.黒澤圭貴 Ⅴ.個人報告書 2012 年 2 月 26 日 第 6 回霊長類研究所レポート 立命館大学 黒澤圭貴 2月最後のポケゼミ。2月1日から霊長類研究所の宿舎に研修として泊まっているので、 およそ1か月が経ったということだ。3月も研修は続くのであと1か月あるのだが、この 後半の1か月という期間への向き合い方は尐し考えるものがある。前半の1か月では結構 な数の文献に触れ、興味関心の対象を増やし、それについていろいろと考えることが出来 た。 これからの1か月ではそれらを基に友永先生や院生と話しを弾ませていきたいと思う。 さて、オマキザルはモノを「離すこと」が難しいらしいという説明が、今日の林先生の レクチャーの中にあった。では、モノを「離す」とはいったいどういう意味を持つのだろ う。モノを離すということは、例えそれが数秒の出来事だとしても、離している間にその モノは奪われる可能性があるということだ。人間の場合数秒卖位という短い時間ではその 危険を感じないのでもっと長い期間、半年や1年銀行にお金を預けるときを想像してほし い。財布の中にお金を留める機会をみすみす逃して、0とは言えない破産の可能性を秘め た銀行にお金を預けるのである。銀行の例の場合これに利子や、その他いろいろな要因が あるので事実はもっと複雑だが、端的に言ってオマキザルがモノを離す事を難しくしてい るのはこれと同じようなことではないだろうか。つまり、今すぐ食べるなり遊ぶなり出来 る機会をみすみす逃して、奪われる可能性が0じゃない危険に保有物を晒すのである。モ ノを離すというのは次にそれを手に入れるまでの時間を空けることであり、手放している 間にそのモノを奪われる危険性が生まれてくる。この空けた時間に付随する危険性が、モ ノを手放す難しさを導いているのではないだろうか。 もちろんこれは心理学や行動経済学でいうところの時間割引率の議論そのもので、新し いことを言っている訳ではない。そして上ではリスク性は遅延時間に完全な正の相関があ るような物語を作ったが、 これはまだあくまで説得力のある物語のうちの一つでしかない。 しかし遅延時間割引と「モノを物理的に手放すことの難しさ」の間に関係性を見出した研 究はまだ無い(はずである)。この研究をやるとしても、それ自体は重箱の隅をつつくよ うな研究になるかもしれない。しかしそこに正の相関の結果が見出せたら、モノを手放す という行動がどういう意味を持っているのかという質問にヒントをくれるのではないだろ うか。 237 M.黒澤圭貴 Ⅴ.個人報告書 一年間のまとめ 立命館大学 黒澤圭貴 私は 11 月からポケゼミに参加したので、一年間といっても実際は半年間も活動してい ない。その中でライセンスをとりあえずは取得し、何度かチンパンジーの観察に参加し、 そして松沢先生をはじめ先生方のレクチャーを受けられたので、自分としては満足である。 また、三月には幸島に行くこともできた。結果として天候不順で一日しかニホンザルを見 ることが出来なかったのは残念だが、日本の霊長類学の古典に触れられたのは、大きな経 験であった。私は常日頃あまり屋外での活動はせず延々と室内にいるので、フィールドワ ーク自体とても貴重な経験だった。そして同時に私が料理が出来ないこと、現代文明に生 かされていることを実感した。 活動期間がとても短く、活動内容もとくに「これをやるぞ」と決めて参加していたわけ ではなく、ただポケゼミがどんなものなのかを見ていただけと言っても過言ではないので、 一年間のまとめというのは非常に難しい。正直言って、用紙一枚を埋められるほどの活動 など特にしていない。今年はこういう形になってしまったが、来年度も参加するので、そ のときはしっかりと何を目的にするかを据えて取り組んでいきたいと思う。 238 N.中山ふうこ Ⅴ.個人報告書 2011 年4月 17日 第1回霊長類研究所レポート 岐阜大学 中山ふうこ 今日はポケゼミの先輩方の配っていたビラを見て、ニホンザルに興味があったのでおも しろそうだなと思い霊長類研究所に見学に来た。朝は5時に起きて名鉄岐阜駅から電車に 乗って犬山に初めて来たが、犬山城があり、日本モンキーパークがあり、雰囲気のいいと ころだと思った。連れてきてくれた先輩は田舎だとこぼしていたが、宮崎から来た私にと っては大都会であった。朝のミーティングでどんな活動をしているかが分かった。ライセ ンスの試験を受けないとチンパンジーの研究施設に入れないと聞いて、今まで見てきた大 学のサークルと違い「研究する場」という印象を受けた。その後、霊長類研究所の施設を 見学した。チンパンジーのサンルームを見ると大声を出して暴れていて驚いた。隣の東サ ンルームにいたチンパンジーは自分のほうをじーっと見ていて逆に観察されているように 感じた。アカゲザルはちょこまかと動き回っていてとてもかわいいと思った。動き回って いたので観察するとおもしろいと思った。次にニホンザルを見た。ニホンザルは室内飼育 と屋外飼育の2つの方法で飼育されていた。ケージの中にはゴムロープが張られてニホン ザルがそのロープに乗って揺らしていた。毛づくろいをしているものもいた。屋外では木 の柵があって下のほうの隙間から観察した。室内のケージの中にいるサルより自由に動き 回っていた。研究所の周りにはカキやクリ、ブルーベリーなど多くの種類の木が植わって いて収穫したものはチンパンジーにプレゼントされると聞き、この施設のチンパンジーは 幸せだなと羨ましく思った。午後は赤ちゃん学会について伊村先生に伺った。伊村先生は チンパンジーの視力の計測の研究に取り組んでいて、チンパンジーの視力の計測の仕方な んて考えてもみなかったことだったのでおもしろそうな研究だな、と思った。またポケゼ ミの先輩方とお話してみて感じたことは、自分の興味があることは自分で調べて、アプロ ーチしないと何もせずに大学生活は終わってしまうということだ。先輩方は休暇中に動物 園に実習に行ったり、学会に参加して研究者の方や飼育係の方と関わったりしていてすご いと思った。 最後にレポートを書いてと先輩に言われて驚いた。まさかレポートを提出しなければな らないとは思ってもいなかった。ポケゼミはチンパンジーやニホンザルの研究ができて、 年に数回の合宿もありおもしろそうだなと思った。松沢先生にも一度会ってみたい。これ から他のサークルなども見学して入るかどうか考えたい。 239 N.中山ふうこ Ⅴ.個人報告書 2011 年 7 月 31 日 第4回霊長類研究所レポート 岐阜大学 中山ふうこ 今日は朝から RRS にニホンザルの観察に行った。今日は曇っていて前回の観察より 30 分早く行ったので、10 頭ほどのサルたちが表に出てきていた。固形飼料をもらったばかり だったので、池で固形飼料を洗うニホンザルたちの姿をたくさん観察することができた。 今回、第 8 放飼場に大きな変化があった。それはサルのアカンボウが生まれたことだ。 アカンボウの母親はゴヤ子で、2 週間ほど前に出産したそうだ。普通出産後は母親の警戒 心が強く、あまり林の外へ出てこないそうなのだが、ゴヤ子はアカンボウを抱いて固形飼 料を食べるために長い時間、表に出てきていた。この親子のようすを観察していて気付い たことは 2 つある。一つは、母親はアカンボウが尐しでも自分のもとから離れると自分の もとへ引き戻そうとしていたことだ。ゴヤ子が水を飲んでいるときにお腹に掴まっていた アカンボウが離れて、放飼場の金網に登ろうとしていた。すると母親のゴヤ子はすぐその ことに気づき、アカンボウの足を手で引っ張って引きずり降ろしていた。母親はアカンボ ウのことが心配でたまらないのだと思った。もう一つは他の個体がアカンボウに近づこう とすると、ゴヤ子はアカンボウをお腹に抱えてその個体を避けるように距離をとっていた。 ゴヤ子は栄養補給のために固形飼料を食べには来ているが、やはり周囲への警戒心は持っ ているようである。子育てに奮闘しているゴヤ子、そして母親の苦労も知らず、好奇心い っぱいに動き回るアカンボウの姿は、とても微笑ましい光景だった。そのほかにも、今日 の観察ではα-male の「バング」を初めて見ることができた。また頭部にひどい禿のある 「タジロウ」と三角形の禿がある「ハミヨ」の個体識別ができるようになった。夏目先輩 が卒業するまでに、入れ墨で個体識別ができるようになり、そして見ただけでどの個体な のか判断できるようになることが今後の目標だ。 午後のレクチャーでは林先生がボノボの話を聞かせてくださった。ボノボはチンパンジ ーと違う点がいくつかあった。たとえば道具使用が見られなかったり、男女差が尐なく女 性のほうが積極的に行動したりすることだ。体格もチンパンジーより手が長くて、 毛が黒々 しているように見えた。コンゴで唯一のボノボのサンクチュアリでの活動も興味を持った。 ここでは、地元の女性が密猟の被害にあい保護されたボノボを育てていた。このように地 元の人々にボノボを知ってもらうことで、ボノボを守っていこうと思ってもらうのは大切 なことだと思った。このような活動が広がってほしいと思った。 次のポケゼミ参加は 10 月になってしまうが、今日観察したアカンボウがどれだけ大き くなっているのか楽しみだ。これからどうやって母親から離れ、自立していくのかを観察 していきたいと思った。 240 N.中山ふうこ Ⅴ.個人報告書 2011 年 10 月 2 日 第 5 回霊長類研究所レポート 岐阜大学 中山ふうこ 今日は 2 ケ月ぶりのポケゼミだった。夏休みはヤクザル調査隊に参加したり、宮崎の実 家に帰省したりして過ごした。今日はとても寒い朝だった。霊長類研究所に着いた後、夏 目先輩と共に RRS に行った。朝の寒さとはうって変わって、日差しがぽかぽかと暖かか った。久しぶりに見た第 8 放飼場のニホンザルたちは毛が伸びて一回り大きくなったよう に感じられた。胸元の細くてきれいな白い毛を触ってみたいと思った。 今日は最初の 30 分間はビデオ観察をした。夏目先輩にビデオの使い方や撮り方のポイ ントを教えてもらった後、 池の周りに出てきているニホンザルを手当たりしだいに撮った。 ニホンザルの動きに合わせてビデオを動かすのはなかなか大変な作業だった。 ビデオ観察の後は双眼鏡を覗いて個体識別をした。今日は前回の観察より、刺青の場所 から個体を特定できるようになった。ニホンザルは刺青の場所さえ分かればとりあえず個 体識別できる。しかし、なかなかニホンザルはこちらに顔を向けてくれず、刺青の場所を 見つけるのにはやや時間がかかった。今日識別できたのは、「チョップ」、アカンボウと 共にいた「ゴヤ子」、そしてα-male の「バング」だ。バングは他のニホンザルより肉付 きがよく、見た目で個体識別ができるようになった。 霊長類研究所に帰った後、今日撮ったビデオを見た。ビデオを動かす時に大きくぶれて しまうのでスムーズに動かすようにしたいと思った。他の人が見やすい映像を撮ることが できるように、ビデオ撮影の技術を向上させたいと思った。 午後のレクチャーでは足立先生が、再生と再認に関する研究について紹介してくださっ た。伝書バトや犬の帰巣本能についての話がおもしろかった。 241 N.中山ふうこ Ⅴ.個人報告書 2011 年 11 月 6 日 第 6 回霊長類研究所レポート 岐阜大学 中山ふうこ 今日は午後からポケゼミの活動に参加した。レクチャーでは顔の知覚のメカニズムにつ いて足立先生がお話してくださった。ヒトやチンパンジーがどのようにして相手の顔を区 別しているかなんて考えたことがなかった。 顔の知覚様式を調べる実験には倒立効果が使われていた。スライドでは、異なる4人の ヒトの顔が正立して並べてあるものと、倒立して並べてあるものが示された。正立顔では 4人の顔の違いは明らかに分かるのに、倒立顔では 4 人の顔の違いに気づかず、全て同じ ヒトの顔に見えた。これは私たちヒトが正立顔の知覚に特化していることを示していて、 非常におもしろいと思った。 またヒトだけでなくチンパンジーやアカゲザルの顔認知のメカニズムを調べた研究もあ った。話を聞く前、どういう方法でヒト以外の動物の顔認知を調べるのか全く見当が付か なかった。研究では順化脱順化法というものを使っていた。これは何度も同じ絵を見せら れると飽きてしまいには見なくなるというヒトやチンパンジー、マカク類に見られる性質 を使ったものだった。私たちがふだん見る正立顔を続けて見せた後、目と口のみ反転させ たサッチャー顔を見せる。その時被験者がサッチャー顔に興味を持ったら、顔の違いを認 識できていることが分かっていることになる。このような実験方法を考えた人はすごいと 思った。 もう 1 つおもしろかった実験があった。それはヒトの左側を合わせ鏡にした顔と、右側 を合せ鏡にした顔を見ると、左側だけの顔の方が本人に似ていると知覚してしまうという 実験である。これは私たちが相手を見るとき、左側の顔の情報を使っているということを 示している。普段何気なく相手の顔を見分けているのに、実は顔知覚のメカニズムがはた らいているのだなと思った。チンパンジーを使った写真では左側だけの顔も、右側だけの 顔も同じように見えた。たぶん私はチンパンジーの観察をしていないからだと思った。 レクチャーの後は SAGA に向けての準備をした。森さんからパソコンの使い方を教えて もらった。 242 N.中山ふうこ Ⅴ.個人報告書 2012 年 1 月 29 日 第7回霊長類研究所レポート 岐阜大学 中山ふうこ 今日は今年初めてのポケゼミ参加だった。霊研に来るとクレーンでサンルームの工事が おこなわれていた。そのため観察ができなかったので、午前中1時間ほど4階から双眼鏡 でアキラ群を観察した。今日は日が出て暖かかったのに、タワーの上にはアキラ、アイ、 アユム、ペンデーサしかいなかった。アキラはタワーのてっぺんで寝転がり、気持ちよさ そうに日光浴していた。アユムはホースで遊んでいた。あまり動きがなかったので、個体 識別がやりやすく、毛の色や体格から4人の識別ができた。顔だけで個体識別ができるよ うになりたいと思った。 チンパンジーの観察の後は、RRSに行ってニホンザルの観察をおこなった。ニホンザ ル達は隣の放飼場に引っ越ししていて、下のフェンス越しから観察することができた。今 日も双眼鏡で観察台から個体識別と観察をした。久しぶりに見るサルたちは冬毛に生え変 わって、一まわり大きくなっているように見えた。個体識別では顔の入れ墨の位置を以前 より把握することが出来た。入れ墨の位置からどの個体か見当をつけて、夏目先輩に確認 してもらった。今日はピーちゃん、イナゴ、ハナ、ナイールの個体識別ができた。ハナは 顔が浅黒いので入れ墨を見なくても識別できるようになった。そして、ハナは常に池の周 りに出てきて飼料を食べていた。また、ハナがオスかと思うほど体格が良い理由が分かっ た。イナゴとそのコドモのピーちゃんは一緒にいる時間が長いことに気づいた。親子で仲 睦まじいなと思っていたが、先輩に聞くとイナゴは群れの中の順位が低いので、ほかの仲 間から離れて自分の子供のところにいるそうだ。個体識別ができるようになると新しい発 見が増え、観察もおもしろくなることが分かった。今日の観察で一番うれしかったのは、 初めてニホンザルが二足歩行で走っていくところを見たことだ。子ザルが二足歩行で走る 姿はとてもかわいかった。幸島ではイモを持って2足歩行で走るサルの姿をたくさん見れ るということなので、とても楽しみだ。 午後の林先生のレクチャーでは、ボッソウのチンパンジーの子育てについてのお話を聞 いた。チンパンジーでもおばあちゃんが子育てに関わることを知った。林先生が見せてく ださった動画では、おばあちゃんチンパンジーが離れてゆくコドモを抱きとめるように母 親に促す姿が映っていた。まるでヒトのような行動で驚いた。 243 N.中山ふうこ Ⅴ.個人報告書 2012 年 2 月 5 日 第 8 回霊長類研究所レポート 岐阜大学 中山ふうこ 今日は午前中にチンパンジーの観察をした。最初、チンパンジーたちは放飼場に出てき ていなかった。新しくなったサンルームでの観察は初めてだったので、チンパンジー達が とても近くで観察できることに驚いた。どのようにしてチンパンジー達が上に上がってく るのか興味が湧いた。チンパンジー達は巧みにロープや柱を使って上ってきた。高いとこ ろが怖いのか、恐る恐るロープを降りていくチンパンジーもいた。時々、興奮して私の方 の壁を足でけったり、手でたたいたりしていて尐し恐かった。個体識別ではゴンとプチが 分かるようになった。ゴンは肩のあたりの毛が生えていなかったので分かりやすかった。 プチが有賀さんの動きを真似している様子を見て、すごいと思った。 その後は、松沢先生のミーティングがあった。将来のことを真剣に考えなければいけな いなと思った。Show&Talk で渡辺さんが紹介してくださった、「気まぐれロボット」と いう本はおもしろそうだったので、読んでみようと思った。 昼休憩の後は、 被験者を初めて経験した。 チンパンジーの実験室と同じところに入って、 簀子の上でタッチパネルの問題を解いた。どのような分析結果が出ているのか気になった。 午後のレクチャーは足立先生の褒めるタイミングについてのお話だった。実際にレスポ ンデント条件付けをペアでやってみるという、いつもとは違った講義でおもしろかった。 私は、「椅子に座る」という行動を相手に褒めて覚えさせる役をした。相手に椅子に座る ことを気づかせることはできた。しかし、「椅子に座る」という動作を強化してしまった ため相手がずっと椅子に座り続けてしまい、何度も椅子に座る動作を繰り返させることが できなかった。褒めて伸ばすという言葉は、ヒトだけでなく動物にも当てはまることなの だと思った。相手を褒めるときは、相手が何を考えているのかを考えることが大切だと学 んだ。 244 N.中山ふうこ Ⅴ.個人報告書 2012 年 2 月 12 日 第 9 回霊長類研究所レポート 岐阜大学 中山ふうこ 今日は、午前中に新しくなったサンルームのゴン群を観察した。最初はクロエとゴンし か上がってきていなかった。クロエは体が白っぽいので識別できるようになった。クロエ は人の目をじーっと見ることに気づいた。私もクロエにじーっと見つめられ、目を離した 方がいいのか、それともそのまま見続けた方がよいのか迷った。彼女は一体何を考えてい るのか、何かやってほしいことがあるのか疑問に思った。チンパンジー達はだいぶ新しい サンルームに慣れてきたのではないかと思った。クロエは柱をするすると下りていた。し かし、個体識別ができなかったので、どのチンパンジーかは分からなかったが、足で踏ん 張り、下を向きながら慎重に下りていく人もいた。私も高所恐怖症なので、そのチンパン ジーの気持ちが分かった。 観察の後は、幸島セミナーに向けて幸島のニホンザルについて調べたことを発表した。 誤字脱字をなくしたり、文頭をそろえて見やすくしたりと改善しなければならない点がい くつかあった。特に説明するときに言葉に詰まり、自分の伝えたいことが相手にうまく伝 わらなかったので、人前で話す練習をしなければいけない、と思った。しかし、ニホンザ ルについてのクイズを出題した点は、記憶に残りやすくてよかったと先輩が言ってくれて うれしかった。 午後からは友永先生がチンパンジーは動きの方向をどのようにとらえているのかについ てお話してくださった。三角形の先端部分が向いている方向が進行方向だという意識があ るので、その方向に動いているように見えるという実験がおもしろかった。また、スピー ド線をチンパンジーが理解しているのかを試す実験も行われており、興味深かった。しか し、実験の結果を表したグラフの読み取り方が分からなかったので、グラフを読むことに 慣れていきたいと思った。 レクチャーの後は、チンパンジーの夕食の準備をした。13 人分の野菜の量り方や切り方 を秋吉先輩に教えてもらった。霊長類研究所のチンパンジーは新鮮で豊富な種類の野菜を 食べていて幸せだと思った。 先日健康診断を受けたら、血圧が高いと医者に言われたので、 霊長類研究所のチンパンジーの食生活を見習いたいと思った。 245 2011 年度年間報告書 2011 年 4 月 10 日 第 1 回霊長類研究所レポート 岐阜大学 森ことの 自然学ポケットゼミナールは、霊長類研究所にてチンパンジーの観察や研究所内の果樹 園の管理等をおこなっている団体である。今日は見学会ということで、先輩方の活動に参 加させていただいた。 9 時に犬山駅に着いてから、木村先輩の案内のもと研究所へ向かう。9 時半からミーテ ィングがおこなわれ、1 日の予定や 1 年間の活動について説明をいただいた。週 1 の研究 所での活動以外にも、年 3 回の合宿やシンポジウムなど、活動が多岐に渡っていることに 驚いたが、それ以上に参加したいと意欲がそそられた。また、シンポジウムで研究者や飼 育員の方と話せたり、普通の部活やサークルと違って岐阜大学以外の学生さんも参加して いたりすることから、様々な方と交流できる点もたいへん魅力に感じる。 パワーポイントを用いた説明の後、研究所内を案内していただいた。チンパンジー舎で は、近くで話す私たちが鬱陶しかったのか、パルに糞や石を投げられてしまった。お母さ んのパンは、塔の上で腕を組み、静かにこちらを眺めていた。 11 時半より、松沢先生のレクチャーがおこなわれた。自己紹介の「気になる部活:クマ 研」という記述から、北海道大学のヒュッテ、ボルネオのヒルの話など先生の体験を話し ていただいた。シャツの袖から侵入されたらしいヒルによる傷はかなり痛々しく、フィー ルドワークで気を付けるべき教訓として心に留めようと思った。 続いて、水野先輩が 3 月 11 日にディズニーランドで東日本大震災を経験したことを Show & Talk で発表された。交通が麻痺したためにランド内で1夜を過ごし、翌日帰宅し たとのこと。ショー最中に地震が発生し、塔の出し入れやキャラクターの対忚を目の当た りにされたことから、事前の訓練の大切さを実感したということだった。地震の話を受け て、松沢先生は「実際に何が起こり、どうすればいいのか」、教条为義にならないで「も しこうなったらどうするのか」を考える大切さについてお話ししてくださった。日本は島 国で、メディアによる情報に妄信してしまいがちであるが、科学的に、客観的に物事を判 断する努力が必要だと感じた。 お昼をはさみ、14 時から足立先生のレクチャーがおこなわれた。東山動物園では、動物 の持っている「自然な行動」と「本来持っている知性」を引き出す展示方法を探っている。 認知実験ではチンパンジーの持つ知性にはどんな特徴があり、ヒトとどんな点で異なって いるかなどを調べており、順番を理解するのは群での生活に必要だから発達した、などチ ンパンジーの知性とその起源を探る研究には大変興味の湧くものであった。 1 日を通じて、自然学ポケットゼミナールの活動の一端に触れ、今まであまり知らなか った霊長類のことについても学ぶことができたように感じる。部活を確定するのはまだ先 になるかもしれないが、今回の貴重な経験を参考にさせていただきたい。ありがとうござ いました。 246 2011 年度年間報告書 2011 年 5 月 15 日 第 2 回霊長類研究所レポート 岐阜大学 森ことの 落ち着きなくテキストを見て電車に揺られながらやってきた霊長類研究所。今日は 3 回 目となるポケゼミの活動への参加であり、ライセンス試験を受験する日であった。 名鉄犬山駅で、岐阜から来たみんなと合流し、ツキノワグマ研究会のメンバーが多いこ とに安堵する。やはり馴染みのある人たちの周りに居るのは安心するのか、と納得したの だが、ポケゼミのメンバーともこれからそうやって馴染んでいきたいものである。 9 時半のミーティングが終わってから、ライセンス試験の講習ビデオを見た。保定や注 射といったハンドリングは実際におこなうことはないだろうが、ケージの挟体板などの仕 組みには感動し、柔軟な動きを持ち、力の強いサルという動物に対する知識の集約を思わ せた。 昼には、ポケゼミの先輩方が撮影したチンパンジーの行動目録、アイの出産・子育てを まとめた NHK 番組を見せていただいた。行動目録では、パルがカエルで長時間遊んでい るようすをみたのだが、カエルが大変哀れだった。生命力が高いのか、何度もパルに踏ま れたり壁にぶつけられたりしても、しばらくは虫の息状態が続いていた。何はともあれ、 安らかに眠っていただきたい。 14 時からは友永先生のレクチャーを拝聴した。チンパンジーが出産する際、ヒトと同様 に赤子の顔が母親の背中を向いているという話から始まり、ヒト科に属するものの共通点 として挙げられるのではないかということ、さらに、霊長類の分類が変わっていっている ことを知った。生物の分類ひとつとっても、時代を追って人間の意思の変化や研究の進歩 をうかがい知ることができるのだと感じた。また、集団性のある動物は集団に属している ための知性を備えている可能性が高いという話の中で、進化の方向性を決めるのは環境要 因だけでなくその生活体系も関わっていること、動物の進化とひとくちに言っても、形態、 心理、と広い範囲が存在していることを実感した。 15 時からはついにライセンス試験である。ビデオで学習したとはいえ、すべて理解した とは言い難い。「選択問題で 5 問くらいだから大丈夫」と先輩方が自信をつけてくれた。 しかしこれで落ちたら恥ずかしいどころの騒ぎではない。手に汗握る、 緊張の瞬間である。 1 問目、サルの分類に関する設問で心が折れそうになるものの、なんとか全問に回答す る。そこで友永先生が背後に回り、回答を見ていらっしゃる様子。正直、冷や汗ものであ る。「原猿っていうのはね…」ところが先生は自らカンニングペーパーになってくださっ た。内心それでいいのかとも思ったが、分かりやすい説明をしてくださり、完答すること ができた。霊長類の分類についても理解が深まり、有意義な試験時間であったと思う。 試験のことでずいぶん書き連ねてしまったが、ライセンス試験に不安を感じていたこと は間違いない。前日にテキストを初めて全文読んだからではない。断じてないのである。 247 2011 年度年間報告書 2011 年 6 月 19 日 第 3 回霊長類研究所レポート 岐阜大学 森ことの 今日は、 はじめてのビデオ撮影をおこなった。まずはチンパンジーの個体識別をしたが、 なかなか覚えられない。見た目の区別はついてもなかなか名前が一致しなかったが、クロ エとレオの娘がクレオだ、と教えていただいて、名前のつくりから把握できるようになっ た。さて西サンルームで撮影をすることになった。はじめ見た印象は、みんなぼーっと寝 ていて撮影するのも退屈そうだなということだった。しかし撮影しながらしばらく見てい ると、ゴンが頻繁にないて暴れだすので苛立っているのだろうかと思ったり、プチがゴン の周りをうろうろつきまとったり、予想外にパルが静かだったりするのがおもしろく、結 局 50 分間撮り続けていた。次回来るのが楽しみである。とはいえ夏は暑さに負ける気が する。 ビデオ撮影が終わってから、果実採取に向かった。庭先にグミが大量になっていて圧巻 だった。ボウルがいっぱいになるまで採り、地下の冷蔵庫に運んだ。前回採ってきたと思 われるグミが残っていて、なんとなく残念な気持ちになった。チンパンジー達はどのくら い食べるのだろうか。はやく食事を見たい。また、チンパンジーノートが 150 冊続いてい るなど、いかにも研究所!というところを見られてよかった。 午後は、メールアドレスを作成してから伊村先生のレクチャーを受けた。今日はクレオ の誕生日ということでクレオの軌跡をたどり、固体の性格形成についての話を聞いた。親 の性格、行動によって子どもの性格に影響を及ぼすという仮定は納得できるものだった。 人間でも犬でも、育った環境によって性格の方向性はある程度決まると思う。 後半は色の識別についての話で、錐体細胞の反忚する色の波長が、昼行性の動物に進化 するのに伴って紫外線から青色に変化していったというのが興味深かった。また、識別す る遺伝子の有無は分かっても、それが発現しているのかは分からず、さらに認知している ことと行動が必ずしも相関しないということに、動物の認知実験の難しさを感じた。 今日 1 日、先輩方にいろいろな話を聞いて、合宿のイメージが具体的になり霊長類研究 所での研究活動の一端を知ることができた。チンパンジーもだいぶ識別できるようになり、 一歩前進したように思う。そこで思うのは、1 年生がいないのはやっぱり寂しい。増える のを祈るばかりである。 248 2011 年度年間報告書 2011 年 6 月 26 日 第 4 回霊長類研究所レポート 岐阜大学 森ことの 今日の活動では 2 回目のビデオ観察をおこない、全体を通じてはチンパンジーの知性に ついてより知ることができた。 ビデオ観察では東サンルームを見たが、先週同様に暑さのためか寝転んでいるチンパン ジーが多かった。アユムは幅が狭い横板の上に寝ていて、そんな不安定なところで寝られ るのかと感心した。アキラやアイが、昼食が近づくと通路の方に注目しはじめ、甘えたよ うな声を出したりするのがかわいかった。 昼にはチンパンジーに関するビデオを見て、野生のチンパンジーが枝を加工して作った 槍で狩りをしたり、透明な筒に入ったピーナッツを取るために水を使ったりするのを知っ た。さらに、協力することについての内容もあり、ヒトが物を取れなくて困っている時は かわりに取ってくれるが、目的が同じチンパンジー同士では、平等に利益を得られるよう な状況でないと協力しないというのが興味深かった。お互いに交渉して、利益を配分する ことはないのだろうかと気になった。他にも、チンパンジーは目の前にあるものに対する 欲求を抑えられないということや、行動するのは为に目的を達成するためだということな ど、新しく知ったことがたくさんあってよかった。 午後の友永先生のレクチャーでは、为にチンパンジーの思考・言語理解に関する研究史 についてのお話を聞かせていただいた。英語の発音によって、文章の理解ができるという こと、しかしヒトのような発音はできないということ、それは体のつくりや思考プロセス の違いがあるからだということが分かり、手話や文字でチンパンジーに表現させるという 研究手法に転換していったことを知った。Youtube からビデオを見たが、チンパンジーに 服を着せていたり、首輪をつけて歩いていたり、体の大きい大人のチンパンジーと一緒の 部屋に入っていたりと、当時の研究の様子を垣間見ることができたのもよかった。また、 アップロードされている動画が多くて驚いた。 これまでの研究を知りチンパンジーの知性についてより多く学ぶことができて、思考と いうものに対する関心が高まった。ひとまず次回の観察では、チンパンジーが何を考えて いるのか想像しながらおこなってみたい。 249 2011 年度年間報告書 2011 年 7 月 24 日 第 5 回霊長類研究所レポート 岐阜大学 森ことの ビデオ観察も 3 日目となり、個体識別にも自信が持てるようになってきた。東サンルー ムではアキラ、アイ、マリ、ペンデーサ、アユムを観察することができた。今回は体格の 違いで識別することができたが、アイとマリがどちらかしかいなかったら識別は難しいと 感じた。途中でアユムがアキラにディスプレイすることがあったが、アキラが全く動じな いためかアユムは離れて室内で叫んだりするのが微笑ましかった。また、西サンルームで は所内見学をしていた 1 年生のことが気になっていたのか、ゴンやクロエ、クレオがタワ ーに昇って「人間観察」をしているようだったのがおもしろかった。3 人が近くにいるに も関わらず、 チンパンジー達はお互いに干渉せず、好奇の目で人間を見ているようだった。 西サンルームで、チンパンジーが昼食を食べるところを初めて見たが、クロエは両手だけ でなく足にもニンジンを挟んでタワーに上っており、やはり足のつくりもヒトと違うのだ なということを実感した。 その後はブルーベリーの果実採取をおこなった。尐し食べてみたのだが、なっている木 によって味が尐し違い、種類が違うのかなと思った。 林先生のレクチャーでは、チンパンジーについて特集したビデオを見せていただいた。 瞬間的な記憶が子どもの方が優れているというのは以前に聞いて知っていたが、人間も子 どもはいろいろなことをちゃんと見て記憶しているのに対し、次第に自分の関心のあるこ としか見なくなっていくという養老さんのお話が興味深かった。子どもの方があいまいな 発言をしがちだから、漠然と子どもは注意力が散漫なのだろうと思っていた。自分は物事 を広く見ることが苦手で努力しなければと思っていたところなので、より一層気合を入れ ていろいろなものに目を向けていきたいと思う。 また、林先生の個体群ごとに固有の「文化」を持っているというお話や、養老さんの江 戸時代の社会では子どもは大切に扱われていたということ、殺人の尐ない日本では自殺の 数が多いことなどのお話がとても興味深かった。特に自殺に関しては、人間の攻撃性が他 者ではなく自分に向いた結果だという分析ははじめて聞くもので、社会を考えるうえでヒ トの習性、ひいては動物の思考との比較も重要な観点なのではないかと感じた。他にも番 組の中で「死」の概念について言及したりするのを聞き、ヒトとチンパンジーを比較する ことで人間のことがより理解できるということを実感することができてとてもよかったと 思う。 250 2011 年度年間報告書 2011 年 7 月 31 日 第 6 回霊長類研究所レポート 岐阜大学 森ことの 今日ははじめて、屋外放飼場に出たチンパンジーを観察した。最初にビデオ観察に向か ったときは、東サンルームにレイコしか出ておらず、他のアキラ群が居なくて寂しいと思 った。しばらくはレイコを観察して、のんびりした彼女の様子に癒されていた。ゴン群を 移動させるために、レイコは何度もセンターの方に呼ばれていたのだが、全く意に介して いないようだった。私はしばらくしてアキラ群が屋外放飼場に出ていることに気づき、そ ちらで観察を始めた。屋外放飼場自体は何度も見ていたけれども、実際にチンパンジーが いるときに見てみると、 予想以上に広いことや植物に覆われていることが分かった。また、 アイに上からこちらを見下ろされているのがとても新鮮だった。長く張られたロープを渡 ったり、 はしごを上ったりするのも初めて見ることができてよかった。チンパンジー達も、 サンルームにいるときよりもよく動いていて、いきいきしているように見えた。しかしい ざビデオ観察になると、チンパンジー達が逆光になってしまって誰か分からなくなってし まった。さらに、タワーにいるときはロープや木の板、地上にいるときは植物に隠れてし まうこともあり、観察は難しいなと感じた。また、金網がないのでビデオを持つ手を固定 するのが大変だった。ところで、途中アキラがディスプレイすることがあったのだが、サ ンルームにいるときのように群れ全体が興奮することはなかった。広いところで生活する 方が個体間の衝突は尐ないのだろうかと思った。 林先生のレクチャーでは、ボノボについてお話しいただいた。霊長類も、密猟され、子 どもが売られているということを初めて知って驚き、誰が何のために買っているのか疑問 に思った。サンクチュアリでは女性が保護されたボノボのリハビリをおこなっているとい う話で、現地の職の提供と環境教育の実施になるというのがなるほどと思った。 昼休みなどの空き時間には妙高自然学セミナーの話し合いをおこなった。行ったことの ないところなので、先輩方の会話から想像を膨らませているのだが、行き先の候補が多い のは悩みどころである。せっかく一週間山に行くので、山でしかできないことを堪能でき るスケジュールを作りたい。個人的には、野生のフクロウを見たいと思っている。 251 2011 年度年間報告書 2011 年 8 月 7 日 第 7 回霊長類研究所レポート 岐阜大学 森ことの チンパンジー舎では、サンルームの改修工事が進められている。1 週間ぶりにサンルー ムを見ると、東サンルームの金網が外されていて驚いた。網がないだけのはずだが、タワ ーがいつもより近くにあるように感じた。網で覆われているというだけで、見た目の印象 は大きく変わるのだなと思った。以前に林先生から構想などはうかがっているが、新しい サンルームの完成が今から楽しみである。 西サンルームはベニヤ板で完全に覆われてしまって見ることができなかったため、今日 もビデオ観察は屋外放飼場でおこなった。アキラ群はみんな落ち着いているという印象を 受けた。タワーの中央で日陰になっているところに、何人ものチンパンジー達が気持ちよ さげに寝転んでいるのが印象的だった。ふと上を見ると、寝転んだ姿勢でこちらを見下ろ すアイと目があった。しばらく見つめていると目を逸らされる。しかし私が別のところに 視線をやると再びアイがこちらを見る、また目が合う、といたちごっこになるのが面白か った。アキラ群の観察では、時々アイの様子をうかがうのがマイブームになりつつある。 アユムがディスプレイをおこなった後、アキラのもとへ行ってグルーミングをおこなっ たのだが、その際アキラもアユムにグルーミングをしていた。いつもアユムに背を向けて いる印象しかなかったため、私は驚いた。アユムはα-male の座を狙っていると聞いてい るので、これからの 2 人の動向に注目したい。 足立先生のレクチャーでは、社会現象の知覚、認知についての話をうかがった。サッチ ャー錯視の話は聞いたことがあった。しかしチンパンジーにも起こるということや、同種 の顔について特に敏感に感じ取るということが面白いと思った。産まれて 1 年以内に、自 分の種を他から線引きして、感覚を自分の種にチューニングするという。その差異化がど のような脳の動きでおこなわれているのかという点に特に興味を持った。飼っているイヌ も顔の識別はできているようにみえるけれども、イヌもヒトと同じように目鼻口のバラン スに注目して記憶しているのだろうか。 また、ヒトは A=B という概念を当然のように理解しているけれども、チンパンジーに とって A=B という理解は難しいということが衝撃的だった。足立先生のレクチャーの冒 頭にもあったが、動物の知覚・思考・行動はそれぞれ異なっていて、個別に調べることが 必要だということを実感した。ポケゼミに入ってから、認知や思考についての知見を多く 聞かせていただいているが、新しい話を聞くたびに謎は深まるばかりである。 252 2011 年度年間報告書 2011 年 8 月 14 日 第 8 回霊長類研究所レポート 岐阜大学 森ことの チンパンジーのローテーションが変更され、今日は屋外放飼場にゴン群が出ていた。し ばらくアキラ群を観察し、ゴン群を見るのは久しぶりだったため、ゴン群のチンパンジー たちの個性をよりはっきりと認識することができたと思う。ほとんどのチンパンジーは穏 やかにしている一方で、パルがとても活発に動き回っているのが印象的だった。アキラ群 と比べて、タワーの中央に寝ていたり部屋に入っていってしまったりするチンパンジーが 多かった。そのため、ビデオで姿をとらえるのが難しかった。一度パルと目があったとき は、また何か投げられるのではないかと恐々とした。しかしすぐに踵を返したので、安心 すると同時になんとなく寂しい思いでもあった。 伊村先生のレクチャーでは、チンパンジーの赤ちゃんについての話をしていただいた。 はじめに、島田先輩が東山動物園で産まれたチンパンジーの話をしてくださった。チンパ ンジーの赤ちゃんの写真と映像をまじまじと見たのは初めてだったが、顔だけでなく手足、 腹などの皮膚も白いということに驚いた。また、よく表情や手が動いていて、そのようす がヒトの赤ちゃんに似ているなと感じた。腹の体毛がないことに疑問を持ったのだが、普 段から母親に抱かれているから必要がないという先生の説明を聞き、なるほどと思った。 群れの個体はみな、親とあまり仲が良くなくても、抱かれている赤ちゃんを触っていたと いう話は意外だった。チンパンジーの世界でも、子どもは皆の癒しなのかなと思った。 続いて、伊村先生からパルの出産、発達についての話をうかがった。現在のパルの体重 は 46.2kg で太り気味ではないかという疑惑があるらしい。チンパンジーはヒトより筋肉 質で体重もそれなりに重いというイメージだったため、予想外に軽くて驚いた。出産時は パンがパルを抱くことができなかったが、次第に抱き上げ、授乳もできるようになったと いうことが興味深かった。子育ての仕方は本能的に知っているわけではなく、他個体の行 動から学んでいると聞いている。パンは授乳については自発的におこなうことができたと いうことは、パルのルーティングがかぎ刺激のように親の行動を引き出すのに役立ってい るように感じた。東山動物園では群れの中で出産したとのことだが、隔離して出産する場 合と比べて子どもの成長や群れの行動に何か違いが表れるのだろうかと疑問に思った。 パルの幼いときの行動は、今のパルを見ていても納得のいくもので、とてもほほえまし かった。何を考えているのか理解することができたら、面白いだろうにと思う。どの動物 にも言えることだが、個体の性格はどのように決まるのだろうと不思議に思った。 253 2011 年度年間報告書 2011 年 8 月 28 日 第 9 回霊長類研究所レポート 岐阜大学 森ことの チンパンジー舎の工事が進められ、東サンルームの周りは足の踏み場がない状態になっ ている。そのため、今回はチンパンジーの観察はおこなわないこととなった。ブルーベリ ーを採取した後、526 教室から ECOSOPHIA という雑誌を拝借し、読んだ。1990 年代に 書かれたもので、生態系や人と自然との関わりについての研究に関するトピックが中心で あった。これまで、科学研究は日進月歩でどんどん定説は変化していくのだから、新しい 本しか読まないようにしようと思っていた。しかしこの本を読んでみると、内容はすべて 全く知らなかったことばかりでとても驚いた。特に、熱帯林のある被子植物と昆虫は 4 段 階に及ぶ共生関係を成しているなど、生態系というものはとても複雑で、一見して相互関 係が分からない場合があるということに衝撃を受けた。なぜ地球上に 1 番種類が多い種族 は昆虫なのか不思議に思っていたけれども、この文章を読んで自分なりに納得することが できたように思う。 午後は友永先生のレクチャーを受けた。はじめに、ヒトは顔を見て、人物や性別、感情、 健康状態、注意具合などを判断しているとの説明があった。これまで考えたこともなかっ たけれど、顔という視覚情報のみでそれだけのことが判断できるという能力はとてもすご いものだと思った。黒目の左右の動きには 2°の違いで区別できるほど敏感に反忚できる のに対し、 遠近調整による瞳の寄り具合では区別しにくいというのが興味深かった。また、 ヒトやチンパンジーは、顔や身体といった社会的に重要な刺激に対しては、他の刺激より も注意を向けやすいという結論も興味深かった。自分の視覚のなかで、そういった刺激が 無意識のうちに際立って感じているということにとても不思議な感覚を覚えた。 254 2011 年度年間報告書 2011 年 9 月 25 日 第 10 回霊長類研究所レポート 岐阜大学 森ことの 9 月に入り、過ごしやすい気候となった。妙高セミナー前と違って、チンパンジー観察 を快適な気候でおこなうことができてよかった。また、西サンルーム、屋外放飼場のどち らでも、チンパンジーを全員観察することができた。寝ているかグルーミングをしている かのどちらかというほど落ち着いており、チンパンジー達にとっても好ましい気候なのだ ろうかと思った。有賀先輩の提案で、今日は西サンルームでアユムの NN 観察をおこなう ことにした。NN 観察は初めてだったため、1 分毎に個体識別をするということがとても 不安だった。実際、横から見たときに体が白っぽいというだけでレイコをペンデーサと勘 違いしてしまった。 結局 2 分ほどたってから、 レイコがタワーの上にいたことを思い出し、 自分の間違いに気づいた。容姿で判断することはもちろんだが、行動やそれまでいた場所 を記憶しておくことも個体識別には重要なのだと思った。また、60 分間継続してアユムを 観察することで、グルーミングの様子や寝転がった時の表情、群れが騒ぎだしたときの反 忚など、さまざまな面をみることができたように思う。レイコにグルーミングされている 時の表情がなんとも気持ちよさそうで、とても微笑ましかった。気付くと 60 分があっと いう間に過ぎていた。 その後、果実採取をおこなった。先日まではブルーベリーであったが、今日はカキとク リを採取した。どちらも収穫するのは初めてで、新鮮な気持ちであった。クリは、木の枝 を使ってイガを落とし、足を使って実を取り出した。ひとつのイガに 3 つの実が入ってい るということは私にとって新発見であった。普段クリを食べるときは、平たい形のクリが 成長すると片側が湾曲したクリになるのかなと漠然と思っていたため、3 つ組であること に感動すら覚えた。 15 時から、Lira さんの実験に被験者として参加させていただいた。実験室に入るのは 初めてだったため、囲いに入って床に座るということから戸惑ってしまった。特に説明は ないとのことで、何がなんだか分からないながらにテストを進めていった。チンパンジー とヒトでは元々の感覚が違うのだろうが、尐しだけ実験を受けるチンパンジーの気持ちが 分かったような気がした。以前聞いた、初めての実験を行うときはルールを覚えさせるの に時間がかかるという話が実感できた。 今日はレクチャーがなかったけれども、初めての経験が多くとても充実した 1 日であっ た。先輩方の助けもあり妙高自然学セミナーの報告書を完成させることができてよかった が、USB メモリが故障してしまったようで非常にショックである。バックアップの大切さ を痛感した。 255 2011 年度年間報告書 2011 年 10 月 2 日 第 11 回霊長類研究所レポート 岐阜大学 森ことの 先週の練習を実践に移す時が来た。今日は秋吉先輩の指導の下、アユムとアイの NN 観 察をおこなった。1 分間の間にアユム・アイそれぞれの NN を見なければならないと聞い たときは、ちゃんとできるかどうか不安だった。はじめに秋吉先輩が 30 分撮影している 間に、私は隣で見学しながらチンパンジーの個体識別をした。これまではチンパンジーの 顔をしっかり見ないと見分けることができなかったのだが、しばらく見ていると、彼らの 体格や行動で見分けがつくようになってきた。西サンルームに入っていたヘビに気付いた ときも、各々の個性がよくわかるような反忚をしていた。たとえば、アキラは藪をつつき ヘビを追い出してディスプレイをした。一方アイは遠くからじっと見つめたりしていた。 その後しばらくは興奮した様子だったが、次第に落ち着いてグルーミングや昼寝をするよ うになった。その頃に私はいよいよ NN の撮影を始めた。アユムとアイを中心に見ること で、尐し彼らの性格がつかめた気がする。アユムの周りにはマリやペンデーサ、レイコが そばに寄ってくることが多く、頻繁にグルーミングされていた。自分から誰かのもとへ行 くことはあまりないようだったが、アイのもとへは自分から近づいていた。アイのもとに も誰かが寄ってきたりするが、アイは自分からグルーミングすることはあまりないようだ った。しかし、アユムには丹念にグルーミングをしていた。やはり母子の絆は強いのかと 感じたのだが、群れのチームワークに問題は出ないのか不安に思った。その後の果実採取 では、クリが豊作だった。 午後は足立先生のレクチャーを聞いた。チンパンジーの Recall(再生)と Recognition (再認)についての研究で、とても興味深いお話であった。導入として Amnesia という 病気の人の話があり、それぞれのはたらきは脳の使い方が異なっている、本質的に違う記 憶だということがおもしろく、同時に不思議に思った。また、実験方法として升目を用い た図形をタッチパネルで示すという方法がなるほどと思った。 その後の質問時間のお話で、 道順を覚えるということには様々な記憶の仕方があるということは驚きだった。地図を思 い浮かべることができれば、自分の知っている土地・知らない土地は明確になり、道に迷 うこともない。認知地図を持つ動物はあまりいないとの話だったが、その動物の生態と関 係があるのではないかと思った。逆に認知地図を持たない動物には、世界がどのように見 えているのだろうか。目的地へのルートを道順で覚えていれば、それ以外の場所へ思いを はせることは困難になるだろう。それは、自分が知るより外側に広がっている世界を見る ことのできない狭い井戸に暮らすようなものではないだろうかと思った。 256 2011 年度年間報告書 2011 年 10 月 9 日 第 12 回霊長類研究所レポート 岐阜大学 森ことの 今日は松沢先生に妙高自然学セミナーの報告をすることになっており、朝からとても緊 張していた。午前中にスライドや発表を先輩方に見ていただき、修正を加えた。発表では、 なるべく聞く人の方を向いてしゃべるように努力した。バーベキューでの味噌ダレや大き な餃子の話をするときは、みんなが笑ってくれて安心した。途中で松沢先生がいくつか質 問をしてくださったが、はじめは戸惑ってしまった。原稿を作ると、話す内容を忘れるこ とはないが、アドリブで話したり一度逸れた話の本筋に戻ったりするのが難しいというこ とが分かった。発表が終わった後、松沢先生から謝辞の言葉を入れるといいというアドバ イスをいただいた。大学生になってからプレゼンテーションをするのは初めてで、円卓で の発表というのも初めてだったため、とても緊張した。しかし、みんなと目線が同じなた め、近い距離で話をするという感覚で思っていたよりは落ち着いて話すことが出来たよう に思う。 松沢先生からは、夢を見ることの重要さ、夢を見るために必要なことについてのお話を していただいた。夢の一例として、光回線が発達し、今までのように研究施設を集中させ る必要がなくなる時代が来るかもしれないという話が興味深かった。夢見ることで、人間 はその夢の実現に向けて努力をすることができる。そのためには、実際の現場を常に見て 理解すること、広い見識を持って自分の価値観を形成し、何が自分にとって大切なのかを 繰り返し検討することが重要だとのことだった。また、自分が何かを調べたいとき、その 対象の外側の存在 out group を見るという発想が必要だとのお話もあった。いまチンパン ジーを観察することで人との違いを考えられるようになっているため、とても説得力のあ る話だった。 午後の伊村先生のレクチャーは、奥行きをいつから知覚することができるかという研究 についてのお話だった。選好注視法や選好リーチングテストを用いて調べたとのことだっ たのだが、乳児の段階で好みが存在することが意外だった。人は奥行きを知覚するのに、 放射運動パターンによる手がかり、両眼視差による手がかりなど様々な種類の手がかりを 使っている。それぞれの手がかりによって、感度発達の時期が異なっているという結果が 興味深かった。物体が近づいてくるような映像に対しては、1 ヵ月児で回避反忚が生じた ことから、危険を察知する能力は生存するのに重要な能力なのだなと感じた。また、同じ 手がかりだと思っても、テストによって情報処理の理解のしかたが異なっており、それら の発達時期が異なっているのではないかという考えを聞いた。脳の機能がどのように発達 していくのか、とても興味深く思った。 257 2011 年度年間報告書 2011 年 10 月 16 日 第 13 回霊長類研究所レポート 岐阜大学 森ことの 今日は、屋外放飼場でパンとパルの NN 観察をおこなった。屋外放飼場では、植木やタ ワーの陰にチンパンジーたちが隠れてしまうために観察がとても困難だった。平栗先輩と 2 人でおこなったのだが、お互いに別の角度から屋外放飼場を見て、チンパンジーを追跡 していなくてはならなかった。特にパルとパンは一度座って落ち着いたと思っても、いつ の間にか別の場所に動いており、見失ってしまうことがよくあった。屋外放飼場での観察 は、1 人では無理だと感じた。また、パルとクレオを見分けるのが難しかった。 10 時頃に屋外放飼場に出ると、ゴン群はまだ出て来ていなかった。しばらくして出て来 た時、パルは興奮した様子でプチやクレオにディスプレイをしたり追いかけたりして、ゴ ンに怒られていた。 その後パルは私たちの方をじっと見つめ、 手をおしりの方に伸ばした。 フンを投げられるのを予期して後ろに下がると、パルはわざわざタワーに登ってフンを投 げてきた。フンは私の尐し後方に落下し、方向はほとんどずれていなかった。投げられた ことは尐しショックだったのだが、上からの方が物を遠くまで投げられることを知ってい るようなパルの投げ方が興味深かった。 友永先生は、こころを理解する 3 つの時間軸というテーマで比較認知科学についてのお 話をしてくださった。チンパンジーは目配せで何かを伝達することができないということ は以前にも聞き、そのとき意外に思っていた。飼っている犬には目配せでおやつのありか を教えたりしているため、 他の動物とも普通に通じると思っていたためだ。今日のお話で、 研究所のチンパンジー達は人と触れあってきたために、目配せで何かを伝えたりする能力 を獲得しているという話が興味深かった。脳のはたらきは思っていたよりも柔軟なのだな という印象を受けた。また、まとめでも話されていたが、個体ごとの個性や集団の文化を 一元的に考えるのは困難だということがよく分かった。どの動物にも個性が存在する。全 体を把握しようとしてより多くのサンプルを使って平均化すれば、個々の個性は希釈され ていってしまい、得られる結果は虚像になっていく。個性の違い、文化の違いを多元的に 調べていくことで、これまでとは違う方向に研究が進んでいくのではないかと感じた。 258 2011 年度年間報告書 2011 年 10 月 30 日 第 14 回霊長類研究所レポート 岐阜大学 森ことの 熊本で開かれる SAGA14 が近づいている。今日はレクチャーがなく、チンパンジー観察 とリラさんの実験の被験をする以外は発表の準備をおこなった。 チンパンジー観察では、屋外放飼場でクレオとクロエの NN 観察をおこなった。今日は ゴンが不機嫌なようで、クレオやポポはゴンがディスプレイをするたびに彼をグルーミン グしていた。反対に、クロエはゴンがディスプレイをしそうになるとすぐにタワーの上へ 避難していた。このように母子の社交性がまるで違うことは意外に思った。チンパンジー は生後しばらく母親に抱かれて生活していることから、母親の性格や態度の影響を受ける というような印象を持っていたからである。もしかしたら、我が道を行くクロエに反発し て社交的な性格になったのかもしれないが、どちらにせよ母子の性格の差異はおもしろい と思った。また、サンルームにいるアキラ群が騒がしくなった時、クロエ、プチ、パル、 ポポの 4 人はサンルーム側のタワーを 1 段ずつ陣取り、様子を窺っているようだった。全 員がそれぞれ 1 段ずつに並んでいる様子は圧巻だったが、同じ段には並ばずに同様の行動 をするところがチンパンジーらしいなと感じた。 チンパンジー観察の後、先輩に方法を教えていただきながら iPad の初期設定をおこな った。 iPhone などのタッチパネル式端末を持っていない私にとって、iPad の操作は感動 的なものだった。大画面に映し出されたカレンダーが自分の指の動きに合わせて捲られて いくなどの直感的な操作が売りであるが、実際に触って確かに使いやすいと納得した。 SAGA の準備では、アブストラクトとポスターの修正を中心におこなった。先輩方にし ていただいた添削を見て、自分がどのような内容でどんな流れで作るかということを事前 にきちんと考え、把握できていなかったと思い、反省している。また、中山さんとの連絡 が不十分だったことも反省している。しかし、正直なところ霊長類研究所にもう尐し足を 運んでほしいとも思う。 259 2011 年度年間報告書 2011 年 11 月 6 日 第 15 回霊長類研究所レポート 岐阜大学 森ことの ついにポスターが完成した。先輩方に繰り返し添削をしていただいたおかげで、初めの ころに比べるとずいぶん見やすくなったと思う。何度も修正するなかで、どのように配置 すれば見やすいだろうかと試行錯誤して作ったポスターは、とても思い入れのあるものに なった。本番用に印刷されたポスターを見るのが楽しみである。 チンパンジー観察では、クレオの NN 観察をおこなった。今日は雤天のためチンパンジ ーの顔が見にくかったこともあり、留まっている場所や動きから個体識別するよう心掛け た。結果として、プチは頻繁にタワーを上り下りすることや、クレオとポポはタワー中央 にいるのが多いことなど、彼らの行動をつかめるようになった。そして相変わらず、パル がゴンにディスプレイをしてゴンになだめられるという光景が繰り返されていた。なぜパ ルはそんなにゴンに挑みたがるのか疑問である。また、今日はクロエがゴンとグルーミン グをおこなっていた。ゴンとパルが一悶着終わった後にグルーミングをしていると、クロ エが自分から 2 人の近くに歩み寄り、それに気付いたゴンがクロエにグルーミングを始め た。これまでの観察から、クロエはあまりゴンの近くに寄らないという印象を受けていた ため、尐し驚きだった。 足立先生のレクチャーでは、顔の認知に関する研究についてのお話をしていただいた。 認知の発達、熟達化についてより詳しく聞くことができ、経験によってその種族に特化し た顔の識別ができるようになるという話がとても興味深かった。以前に話を聞いたときは 自分の種族だという認識はどのように線引きされているのか疑問に思っていた。今回のお 話で、生後 9 か月のうちに見た顔のバリエーションが、認知できる範囲に反映されるのだ ということが納得できた。また、顔の認知では右側より左側の顔を注視しているというこ とが印象に残った。脳では部位ごとに役割が分担されているという話はよく聞くが、それ によって自分の見ているものが変わるとは思っていなかった。自分の感覚も、脳内の化学 反忚によってつくられたものであるということを痛感している。 260 2011 年度年間報告書 2011 年 12 月 4 日 第 16 回霊長類研究所レポート 岐阜大学 森ことの 先週は痛ましい事故が起きたが、 ポケゼミの活動は粛々と継続されていくことになった。 メールでこのことを知ったとき、おとなしいと思っていたクロエが急に人を襲うなんて、 と驚き、自分はチンパンジーについてほとんど理解しきれていないことを実感した。最近 は先輩と一緒に NN 観察をすることにも慣れ、油断が生じていると思う。松沢先生がミー ティングのときにおっしゃった、想像する力をはたらかせて危険を未然に取り除くという 言葉が印象に残っている。今回の事故をしっかり受け止め、自为的に先々のことをしっか り考えて行動するに努力する。 今日は 1 年の中山さんが初めてチンパンジーエリアに入ったためか、パルがとても興奮 していた。はじめにタワーの上からフンを 2 回投げ、それから助走をつけながら樹皮のよ うなものを投げてきた。中山さんは尐し怖がってしまっていたが、私はじっとこちらをう かがうパルの様子がかわいいなと思い、楽しんで見ていた。今回は威嚇対象が自分ではな いため、余裕をもってパルを観察することができたと思う。みんな同様な青衣を着てヘル メットを被っているのに、パルはどうやって人を見分けているのか疑問に思った。もしか したらフルメットに警戒心を抱いたのかもしれない。NN 観察ではパルとパンを撮影した が、上記のようにパルが動き回るため、NN を見極めるのが困難だった。一方で、クロエ とクレオの親子はなごやかにグルーミングしたり遊んだりしており、とても癒された。や はりいきなり人を襲うとは思えなかった。また、パルが落ち着いた後、パンとパルの親子 も遊びはじめた。ゴン群はとても平和な時間を過ごしたようである。 友永先生のレクチャーでは、ボルネオのオランウータンを観察しに行かれたときのお話 をしてくださった。ビデオで実際のオランウータンを見せていただいたのだが、あまり活 発に動くことがなかったのが印象的だった。ネストを作っている場面では、細い枝の上に 何重にも枝を重ねた上に乗れるほど、体重が軽いということに驚いた。オランウータンに ついては知らないことばかりで、とても新鮮だった。また、先入観でカニを好んで食べて いるように思っていたカニクイザルは、実はあまりカニを食べないということが衝撃的だ った。今回間違った認識を正すことができてよかったと思い、事実確認の大切さを実感し た。ボルネオに住む鳥や爬虫類の写真も見せていただき、想像が膨らんだ。機会があれば 海外の自然を体験しに行きたいと思った。 261 2011 年度年間報告書 2011 年 12 月 11 日 第 17 回霊長類研究所レポート 岐阜大学 森ことの 冬の冷え込みが厳しくなってきた。チンパンジーたちも外に出るのは寒いのか、朝はア キラとアユムとレイコしかサンルームに出ていなかった。最近は屋外放飼場でゴン群を観 察していたため、西サンルームで近距離での観察をするのは新鮮な気持ちだった。今日は アキラの機嫌が悪かったのか、サンルームに出てくるマリを追いかけたり、レイコを叩こ うとしたりする行動がみられた。普段は群れでもめ事が起こるとアイが仲裁に入ると聞い ていた。しかし今日は特に行動することもなかったので、私はアキラがなぜそのような行 動をしたのか疑問に思った。ひととおりディスプレイした後、アイとアキラはグルーミン グをした。そのとき、近くにいたペンデーサは 2 人のグルーミングに参加したいのか、何 度も見たり近づいたりをくり返していたのがほほえましかった。 松沢先生のミーティングでは、研究活動の心得について話してくださった。研究は大き く実験研究と観察研究の 2 つに分けられ、それぞれにおいて注意すべきことがある。観察 研究は何が起こるか分からないため、心身ともに何事にも対忚できるように準備する必要 があるとのことだった。それに対し、実験研究は自分で研究環境をデザインし、立てた予 定に沿うように進めなくてはならない。そのために、機械の不備などの発生を未然に防ぐ などの努力が必要だとおっしゃった。実験と観察は小学校の理科で教えられるような基礎 的な事項だが、あまり深く考えたことはなかった。これから大学等で研究活動をする際に は、先生の言葉を肝に銘じて取り組んでいこうと思う。また、印象的だったのは、何かの 活動を続けるためには変化が必要という話だ。私はビーズアートが趣味だったが、頼まれ て同じモチーフをいくつも作り続けてビーズが嫌になったのがきっかけで、やめてしまっ た経験がある。それまでは、様々な動物のモチーフやアクセサリーを作ったり、本を見て 作ることから自分で設計して作ったりと、尐しずつ進歩があった。そのため、今回松沢先 生のお話を聞いて、継続には変化が必要という言葉にとても共感した。現在チンパンジー の NN 観察をおこなっているが、彼らの行動には日々変化があり、見るたびに新しい一面 を発見している。それが、私が楽しんで NN 観察をおこなうことができる理由だと思う。 林先生のレクチャーは、霊長類研究所の安全対策についてのお話だった。たくさんの委 員会によって、安全衛生対策がとられているそうだ。印象的だったのは、野外調査の調査 届やマニュアルの内容がとても綿密だったことだ。大学に入るまで、「野外調査」と聞く とハイキングのような楽しいイメージしかなかった。しかし実際は何が起こるか分からな いフィールドで調査するため、たいへんな危険が伴うことを知った。調査届の項目に、連 絡方法や安全のために工夫することを記述する欄を設けているのがなるほどと思った。ま た、新しいサンルームについても話してくださった。これまでより近い距離でチンパンジ ーを観察できるのは楽しみだが、より注意が必要になると思った。 262 2011 年度年間報告書 2011 年 12 月 18 日 第 18 回霊長類研究所レポート 岐阜大学 森ことの 今年最後のポケゼミ参加となった。朝からとても冷え込んでいたためか、初め屋外放飼 場にはチンパンジーが誰も出ていなかった。尐ししてクレオが一人外に出て来て、寒そう に体を丸めたり、あちこち動き回ったりしていた。金属の足場の上で座っていたのだが、 木の上の方が冷たくないはずなのに、なぜ金属の足場に座るのか不思議に思った。チンパ ンジーは冷覚が人より鈍いのだろうか。また、チンパンジー達の体毛が全体的に薄くなっ ていたように感じた。初めはゴンを上から見た時に、頭部の毛が後退しているのに驚いた のだが、よく見るとポポやパン、クロエの毛も薄くなっているようだった。先週はサンル ームを観察していたため、屋外放飼場を見ていなかった 2 週間の間に何が起こったのか不 思議に思った。 もしかしたら、 季節によって影響を受けたりするのかもしれないと思った。 また、今日は工事がおこなわれていたため、興奮したりしないか心配だった。サンルーム ではアキラが居室にこもっていたそうだが、屋外放飼場では特に普段と大きな違いはなか ったように思う。果実採取では、熟れたミカンがたくさんなっていたため、大量に収穫し た。 有賀先輩と 2 人では持ち切れず、 結局 2 往復して運ぶほどの量のミカンは圧巻だった。 年末が近いということで、午前中の観察の後に大掃除をおこなった。私は地下の準備室 を担当し、床を掃除したり、コードを束ねて備品の整頓をおこなったりした。普段は活動 内容をノートに記入する時しか入る機会はないが、掃除をしながら準備室にどんなものが しまわれているのか知ることができた。過去のビデオテープや観察ノートがたくさんあり、 これが長期にわたる研究の集積かと感動した。霊長類研究所の方々が尐しでも使いやすく なったと感じてもらえたらうれしい。 伊村先生のレクチャーでは、今月が誕生日であるパンとクロエの話と、質感の研究に関 する話をしていただいた。パンとクロエの話では、ポケゼミ生が 2 人に対してそれぞれが 持っている印象やエピソードを話し、その内容に対して伊村先生がコメントを返してくだ さった。私は実験室や食事中のチンパンジーを見たことがないため、皆さんの話はとても 新鮮だった。屋外放飼場でパンを観察すると、普段は気ままに歩いて、たまにパルと遊ぶ という行動から、自立した女性というイメージを持っていた。しかし実験室では、実験を 嫌がってパルを遊びに誘うことが多いそうだ。また、他のチンパンジーと違って、腕を引 っ張ったり、つついたりして遊びに誘うとのこと。屋外放飼場で観察していても、まだま だチンパンジーを分かっていないと感じているが、実験室や食事で観察すれば、また新た な一面を発見できると思うので、ぜひ別の場でも観察をしたいと思う。質感の研究につい ては、外観から質感を判断するということはとても複雑な神経回路を作っていることが分 かった。道具使用や食物選択にも必要な要素であるとのことだったが、道具を使う、とい うことは様々な基礎的な能力があってはじめてできることなのだと分かり、興味深かった。 263 2011 年度年間報告書 2012 年 1 月 8 日 第 19 回霊長類研究所レポート 岐阜大学 森ことの 年が明け、自分のポケゼミでの活動が尐しずつ進歩しているのを感じている。幸島自然 学セミナーの準備を進めるとき、妙高自然学セミナー時に戸惑った経験を今回に生かすこ とができていると実感している。以前は岐阜から新潟への経路を調べるのも一苦労だった が、今回はスムーズに調べることができた。無人島でニホンザルを観察することは、これ まで全くしたことのない経験であり、私自身とても楽しみにしている。この調子でスムー ズに、しっかり準備していきたい。 さて、今年初めての松沢先生とのミーティングでは、先生のボッソウでの研究活動につ いて話していただいた。ヒトそれぞれ腕や指の組み方に癖があるように、チンパンジーが 休むときの手足を組む姿勢にも、それぞれの癖があるだろうとの話が印象的だった。普段 のチンパンジー観察を通して、顔やしぐさ、声などに個性があることは分かっていたつも りだった。しかし今回のお話を聞いて、そういった行動からも個性を判別できるという発 想がなるほどと思い、衝撃的だった。また、現地での写真や動画を見せていただき、ボッ ソウのチンパンジーが人とどのように関わっているのか、より具体的なイメージを持つこ とができた。僅か 3m の距離で松沢先生がチンパンジーを観察していたことには、とても 驚いた。チンパンジーは、人が油を採取して捨てた大量のアブラヤシの種を食物として利 用しているという話も興味深かった。アブラヤシのそれぞれ異なる部位を利用することで、 共生関係が成り立っていると感じた。また、優秀な密猟者は森のことを最もよく知ってい るという話も印象的だった。相手のことを知ることで、自分の利益のために利用すること ができるようになる。「研究者は殺さない猟師」と松沢先生が言われたが、全くそのとお りだと思った。 殺さなくても生きていけるという点で、とても裕福な生き方だなと感じた。 友永先生のレクチャーでは、年明けに放送された TV 番組「チンパンジーが教えてくれ る希望の秘密」を観賞した。霊長類研究所での実験研究で、数字のテスト以外にも顔認識 の実験やトラックボール操作を用いた実験、脊髄炎になったレオの様子などを初めて見る ことができてよかった。人とチンパンジーの知性の違いについては、思考言語分野の先生 方からこれまでたくさんの話を聞かせていただいていたが、内容の総括のようで新鮮な気 持ちだった。また、京都市立動物園でマンドリルの知性について研究している事を初めて 知った。ヒト、チンパンジー以外の霊長類がどのような知性を持っているのかはまだあま り明らかにされていないが、それぞれの生態と知性がどのように関係しているか知りたい と思った。 264 2011 年度年間報告書 2012 年 1 月 22 日 第 20 回霊長類研究所レポート 岐阜大学 森ことの 幸島自然学セミナーでは、普段観察しているチンパンジーではなくニホンザルを観察す る。そのため、木村先輩が行動研究の方法やポイントなどについてレクチャーをしてくだ さった。また、黒澤君がニホンザルについてのプレゼンテーションをしたり、伊村先生が 「行動研究入門」を持って来てくださったりと、私にとって幸島セミナーを意識する 1 日 だった。 木村先輩のレクチャーでは、行動の観察方法について学んだ。私は普段の NN 観察で、 1 分ごとに個体の行動をサンプリングするという観察をおこなっている。1 分ごとの記録 では実際の行動をすべて記録することはできないが、同時に 2 個体の行動を記録すること ができる。NN 観察の経験を通じて、行動記録の方法には具体的なイメージを持つことが できたと思う。また、行動研究のアプローチ方法や 1-0 サンプリング法など、初めて知っ た内容も多かった。行動観察というとこれまでのビデオ観察の印象が強かったが、様々な 方法が確立されていることが分かり、自分でもしっかり調べて幸島に行こうと思った。 黒沢君のプレゼンは、ニホンザルの分類や形態についてのものだった。全体がとてもき れいにまとまっていて分かりやすく、また、時折挟まれる一言が印象的だった。発表の途 中で、尾が長く描かれたニホンザルのイラストが登場した。私はポケゼミに入って以来、 尾のない霊長類について学ぶことが多かったためか、逆にサル一般には尾が長いというこ とを失念していた。自分は世間一般と意識が乖離していると感じた。 さて、松沢先生とのミーティングでは初めて Show and Talk をおこない、定期購読して いる科学雑誌 Newton について話した。私自身そうだったが、Newton と聞くと物理地学 系の記事ばかりという印象が根強いことを再認識した。現在では、薬剤耐性菌や脳の神経 回路、古代生物といった生物系の話題も豊富に特集されている。内容が濃く分かりやすい 本だと思うので、もし物理系の雑誌だと思って倦厭している人がいたら、ぜひ勧めようと 思う。しかし、Newton はライターが執筆しているため、読みやすいが時に誤植があると の松沢先生の言葉も心に留めておこうとも思った。 伊村先生のレクチャーでは、形と運動の知覚について、スリット視を用いた実験につい て話していただいた。私は小学校時代のレクリエーションで、スリット視のようなクイズ をやったことを思い出した。ヒトが当然のように身についている能力も、他種においては 当然ではないということが実感を持って理解できた。また、森林などの障害物が多い環境 で暮らす野生動物は、ヒトよりもスリット視のような能力が必要なのではないかという印 象を持っていた。そのため、ヒトの方が全体的な成績がいいというのは意外に思った。し かし、局所的な手掛かりを優先しているなど、ヒトの常識では考え付かないような要因が 関与しているということが分かり、様々な可能性を考えられるようになりたいと思った。 265 2011 年度年間報告書 2012 年 2 月 5 日 第 21 回霊長類研究所レポート 岐阜大学 森ことの 新しい東サンルームでチンパンジーが生活を始めている。私は今日、初めてその様子を 観察することができた。間近で見ると、新しいサンルームは思っていたよりも高く、ロー プや柱が張り巡らされていてチンパンジーの活動空間が以前よりかなり広くなっていると 感じた。しかし観察する側としては、縦に範囲が広いうえに上の方にいる個体が見づらい ため、観察するのは難しそうだなと思った。 NN 観察では、屋外放飼場でアユムとアイを観察した。2 か月ぶりにアユムを見たのだ が、以前より大柄になって毛量も増え、アキラに似てきたと思った。東サンルームを 4 階 から観察する人がいたためかクロエやポポが騒いでおり、アキラとアイはサンルームに注 意を向けていた。なぜかアユムが突然マリにディスプレイしに行くということがあった。 するとアキラ含め他のチンパンジーたちがアユムを注意した。体格が大人になったとはい え、まだアキラがアルファとして群れを仕切っているのだなと実感できた。私が後にサン ルームを観察しに行くと、目が合ってしまいクレオには尐し威嚇されたが、予想外にパル には相手にされなかった。そのことを先輩方に話すと、顔を覚えられているからではない かとの意見をいただいた。フルフェイスヘルメットとマスクを着用した状態で、チンパン ジーたちはどの程度人の顔を識別できるのだろうかと疑問に思った。 松沢先生とのミーティングでは、来年度からの体制や動物に関わる仕事の様相の変化に ついて話してくださった。元々野生動物を診る獣医になりたいと考えていた私にとって、 実際に動物に関わる研究者としての意見はとても興味深いものだった。現在は生態学や環 境学といったマクロ生物学から動物の行動や生理と、関心が様々な方に向いてしまい、自 分が本当にしたいことは何か分からないという現状だ。次年度に向けても徐々に考えなく てはならないと思うが、尐々悩みである。 足立先生のレクチャーでは、強化学習のトレーニングについて実践を交えて教えていた だいた。FR でのトレーニングには馴染みがあったが、他にもたくさんの方法があるとい うことを初めて知った。VI や VR では、いつご褒美がもらえるか分からず行動を忘れるの が遅い、という特徴があることがなるほどと思った。メールや電話が来ないか待ってしま う経験は身に覚えがあり、自分も強化されていると感じた。逐次接近法の考え方は理解し ていたが、実際にやってみるとどのタイミングで褒めたらよいのか分からずとまどってし まった。ある段階をクリアしたことを褒めようと思っても、タイミング等の問題で違う動 作が強化されてしまう迷信行動を引き起こしてしまったりもした。今回はヒトを相手にト レーニングしたが、動物相手のときはより困難になるだろうと感じた。今回のレクチャー の内容は日常生活にも関係が深く、とても興味深かった。普段の生活でも意識してみよう と思った。 266 2011 年度年間報告書 2012 年 2 月 12 日 第 22 回霊長類研究所レポート 岐阜大学 森ことの 4 階の観察台では、チンパンジーたちを至近距離で見ることができる。私は今日、初め て 4 階から観察をおこなった。クロエ、ゴン、ポポ、パルが新しいサンルームの一番上ま で上がり、アクリル板 2 枚分の距離までやってきた。ただ距離が近いというだけでなく、 金網越しと違ってチンパンジーの体全体を見ることができ、彼らはこちらに手を出すこと はできないという安心感もあった。そのため、これまでよく見ることができなかったチン パンジーの細部まで観察できたと思う。まず、顔と表情。私は普段、頭や目でポポとパン とを区別していたのだが、顔をよく見ると違いがよく分かった。本当はどのような表情を しているのかということが分かり、とても嬉しかった。また、プチはやはりかわいい顔を していると思った。次に、手足の指。物をつかめるよう親指が独立し、クッション性に富 んでいそうなふくらみのある足を見ることができた。また、パルがロープの上に座ってい るところを見て、 常に足の指でロープを掴んでいるわけではないことが分かった。 むしろ、 いわゆる平の部分と言おうか、付け根の厚みのある部分でロープを押すようにして体重を 支えているように見えた。これらのことは自分にとっては大発見で、チンパンジーのこと をより知ることができたという喜びがあった。また、ただ観察できただけでなく、クロエ のそばにしゃがんで唇を突き出したり、パルのディスプレイを正面から受けたりとチンパ ンジーと交流しているという実感があった。一緒に観察に入ってくださった友永先生とゴ ンが遊んでいるのを見るのも初めてで、ゴンの新たな一面を知ることもできた。一方的な 観察でも新しい発見があったが、そういったヒトとのやりとりの中で見える面もあると思 う。NN 観察は、チンパンジーがサンルームの下のほうに行ってしまうと見ることができ ず困難になるが、 新しいサンルームでの観察は私にとってとても楽しいものになりそうだ。 友永先生のレクチャーでは、動きの認知においてフィルターとなる要因について話して いただいた。 ヒトは横向きの三角形を見ると、尖った方に運動が進むようにとらえがちだ。 チンパンジーにも、もともと持っている知識や学習によって、動作知覚がバイアスされる 傾向があるとの話だった。ただし、三角形のような図形ではその傾向は見られない。私は ヒトが図形から動作の方向性を読み取ることができるのは、幼いころからの学習のためだ ろうかと思った。また、チンパンジーにも可能なのか疑問に思った。もしヒトに特有また は優れていることならば、ヒトが文字を発明したことと何か関係があるのではないかと思 った。また、漫画の表現によく使われる Motion Line を用いた実験結果がとても興味深か った。ただ表現技法として生み出されたのではないという話は納得のいくものだった。私 は幼い時に漫画を読む際、動いた物体の残像が線のように見えるため、このような表現を していると察していた記憶がある。しかし、物体をぼかした絵ではあまり効果がなかった というのは尐し意外だった。残像のように横方向に直線的にぼかした絵で調べてみたい。 267 2011 年度年間報告書 2012 年 2 月 19 日 第 23 回霊長類研究所レポート 岐阜大学 森ことの 屋外放飼場の隣に、新しいチンパンジーの飼育施設が着々と作られている。3 月に完成 し、チンパンジーたちが入るのが今から楽しみである。そんな工事を横目に、今日は屋外 放飼場でアキラとアユムの NN 観察をおこなった。放飼場では、いつも通りアキラ、アイ、 アユムの 3 人がタワーの上に登っていた。ゴン群はα-male と力のある個体だけにとどま らずたくさんのチンパンジーが登っているが、アキラ群ではこの 3 人しか登っていないこ とが多いように思う。チンパンジーの位置と群れでの順位、構成にどんな関係があるのか 疑問に思った。また、東サンルームで何度か騒ぎがあったが、アキラ群も連動して騒ぐこ とはなかった。お互いの群れで騒ぎ合うこともあるが、その違いはなんなのだろうと思っ た。 NN 観察では、やはりアキラ、アイ、アユムの 3 人が近くにいることが多かった。特に アキラとアイはお互いにつかず離れずの距離を保っており、ほほえましかった。アユムは ペンデーサが近付いてきたら離れるものと思っていたが、今日は避けずにグルーミングを していた。また、アキラともグルーミングしていて私は驚いた。ペンデーサとアユムが地 上に降りたとき、いつの間にかペンデーサとマリが入れ替わっていたことがあった。今ま ではあまり似ているとは思わなかったが、木の陰に隠れていると分からないものだなと思 った。同時に、どのチンパンジーがどこに出ているか注意し、把握するようにすべきだっ たと反省した。 伊村先生のレクチャーでは、今月 2 日に誕生日を迎えたペンデーサと、スリット視によ る運動知覚について話していただいた。これまでの観察を通して、ペンデーサは独特の性 格をしているという印象を持っていた。私が見る限り、アキラのディスプレイに人一倍反 忚したり、よくアユムに近付くのに避けられたり、1 人でホースなどを使って遊んだりし ている。アユムに避けられているのはかわいそうだなと思うこともあったが、本人は特に 気にした様子もなかった。今日のレクチャーで、人の指示に素直に従ったり、実験に行っ てくることを群れにアピールしたりする面があることを初めて知った。いまいちつかみど ころのない性格だと思っていたが、いわゆる「いい子」なのだろうかと思った。日本モン キーパークで生まれたとのことだったが、幼いころはどのように育てられていたのだろう と疑問に思った。チンパンジーの性格や発達と、生活環境がどのようにかかわっているの かも興味深いと思う。 スリット視については、前回の話に続いてチンパンジーの発達に絡めた話だった。ただ ヒトとチンパンジーの違いというだけでなく、幼尐期の発達を経てそのような能力を習得 していくことが興味深いと思った。私はあまりイメージできていないが、自閉症などの心 理的な問題も、発達や進化という面から考えてみるとおもしろいのではないかと思った。 268 2011 年度年間報告書 2012 年 2 月 26 日 第 24 回霊長類研究所レポート 岐阜大学 森ことの 幸島セミナーがあと 3 日に迫っている。そのため、今日は活動の合間に食料や物品の準 備もおこなった。基本は物品リストに沿って準備した。しかし、リストを作ったのが実際 の物品がどのようなものかよく分かっていない 1 年生だったため、変更したものも多かっ た。リストを作る前に物品を把握し、メンバーでしっかり計画しておくべきだと思った。 自宅でも準備を始めているが、持ち物はしっかり考えて準備しようと思う。私自身本格的 なキャンプに行くのは久しぶりなのだが、古くなって使えなくなっていた物もあった。こ のことから物品は定期的に確認しなくてはいけないと実感した。 チンパンジーの観察では、秋吉先輩、平栗先輩と 3 人で 2 台のビデオカメラを回し、ク ロエとクレオ、パンとパルの NN 観察をおこなった。一度に 2 台のカメラを回すのは初め てだったが、私にとってはとても新鮮で楽しいものだった。普段は 1 組の母子に集中する ため他の個体に注意を向けることができない。しかし今回は、自分が観察している以外の 母子について NN をアナウンスされ、どのような状態にあるのかをいつもより多くの個体 についてうかがい知ることができたからだ。これからも 3 人で観察ができれば、よりチン パンジーを知ることにもなるだろうと思った。 チンパンジーたちは、西サンルームの工事がおこなわれているためか興奮しているよう に思われた。ゴンやパン、パルが頻繁にディスプレイをおこなっていたり、他の個体もお 互い近くに寄っていたりしていた。また、パンの毛並みがずいぶん荒れていると感じた。 私はパンがディスプレイをするところを初めて見たこともあり、ストレスが溜まっている のだろうかと思った。パンの様子も気になるが、パンの目の前で作業していた作業員さん も心配になった。ディスプレイに驚いて転落などしないでほしいものだ。 林先生のレクチャーでは、大型霊長類 4 種の知性について話していただいた。道具使用 や行動のバリエーション、頻度といったデータと、彼らの生態や知性との関係性をより認 識することができたと思う。行動の持つ意味を理解するには、その動物がどのような環境 でどのように生活しているのかを細部まで知っている必要があることが分かった。また、 ボノボは豊かな森で生活する、ということは聞いたことがあったが、その意味を捉えなお すことができた。なぜチンパンジーに近い生態でありながら、サバンナに近い環境には生 息しないのか。食物の食べ方ひとつからでも、その理由に迫れるということがとても新鮮 で驚きだった。ただ行動のバリエーションが高い、低いといった指標ではなく、そのひと つひとつに目を向けることも大事なのだと思った。 物品発送の準備もでき、いよいよ幸島セミナーのムードが高まっている。今から楽しみ だ。万全の準備をして、楽しんできたいと思う。 269 2011 年度年間報告書 2012 年 3 月 11 日 第 25 回霊長類研究所レポート 岐阜大学 森ことの 幸島自然学セミナーを終え、2 週間ぶりに霊長類研究所での活動をおこなった。ポケゼ ミとしての 1 年も終わりに近付いているが、報告書などの作成は早めに終わらせようと思 う。 今日は、4 階からパルの NN 観察をおこなった。しばらくの間パルが出てこなかったた め、クロエやゴンを中心に観察していた。最近は、東サンルームで観察しているとクロエ が正面に近付いてくるため、クロエとコミュニケーションをとるのが楽しみのひとつでも ある。クロエは私の方を眺めてくるが、しばらくするとそっぽを向いてしまい、しばらく するとまた戻ってきたりする。何を考えているのか全く分からない。何かアクションした ら興味を持ってくれるだろうかと思い、口や手を動かしてみるのだが、わずかに視線が動 く程度である。たまに、私の動きをまねて口を突き出したりしてくれることはある。とは いえ、自分から近付いてくれることから、私に対し興味を持っているのだろうかと思い、 嬉しかった。これからもすこしずつコミュニケーションをとってみたいと思う。一方でゴ ンは、天気がよかったためか、観察台の前で横になって寝ていた。とても気持ちがよさそ うにしており、ほほえましかったため、NN 観察の合間に一眼レフで写真を撮った。 また、クロエを観察していたとき、クロエが自分の皮膚をかいていることがあった。黒 い皮膚がぺりぺりと剥けるところを初めて見て、思っていたよりも表皮が薄いことに驚い た。また、剥けた皮膚の下は赤みがかった色をしていたことから、チンパンジーの黒い体 色は表皮によるものが为なのだろうかと思った。 伊村先生のレクチャーでは、チンパンジーの顔や視線の認識における発達についてのお 話をしていただいた。チンパンジーも、ヒトと同様に母子の見つめ合い行動があり、新生 児微笑をするそうだ。また、他者の視線にも敏感で、自分の方に視線が向いているような 絵や写真をよく見るということだった。ヒトに関しては、イラストを用いた実験を実際に やっていただいた際、 自分もイラストの視線の方向につられてしまうような感覚があった。 考えてみると、日常生活の中で人の視線や表情を注視している。視線だけで注意を促すこ とも、コミュニケーションのひとつとしておこなっている。ヒトにとって、視線というも のがコミュニケーションに必要なことだということがよく分かった。興味深かったのは、 4 か月の乳児は自分を注視している顔の方が、していない顔よりも区別、認識しやすいと いうことだ。実験で使っていたのは、顔はどちらも正面を向き、視線だけが違う写真だっ たからだ。以前のレクチャーで、顔の認識は目鼻口の配置のバランスによるものが大きい と教えていただいた。そのことから考えると、視線がそっぽを向いていることはあまり関 係がないように思われる。そのため、実際には顔の認識にどのように影響を与えているの だろうと疑問に思った。視線が向いていないことでその人物に対して関心を持たなかった り、目のパーツとしての認識が弱かったりするのだろうかと思った。また、視線を介して の共同注意に関係して、私は飼っているイヌと視線でコミュニケーションをとることがあ る。彼らの目は黒目がとても大きいが、白黒ははっきり分かる。目の色という形態的特徴 と、共同注意とに何か関係があったらとても興味深いと思った。 270
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