「イルカは本当に賢いか−イルカの感覚と知能−」

講演要旨
「イルカは本当に賢いか−イルカの感覚と知能−」
東海大学海洋学部助教授
村山
司
はるか太古の昔、陸上の生活から水の中の暮らしに戻っていたイルカたち。彼らは空気
中とは大きく異なった水界で生きぬいていくため、さまざまな進化と適応をとげてきた。
流線型のからだ、水中で体温を維持するための厚い脂肪層、潜水病にならない血管系、な
どなど…。しかし、彼らはそのようなからだの特徴だけでなく、水棲生活を営むうえでの
さまざまな能力も獲得していった。そして、それらのうちで最も顕著な特性を示すのが感
覚系−視覚と聴覚である。
水の中は光の乏しい世界である。わずかにふりそそぐ光はあっても、存在する波長帯域
もきわめて狭い。そのような暗闇の世界でも、イルカたちはエサを探し、複雑な社会生活
を営んでいる。そこには水中の光環境に応じた視覚機構がある。一方、水は優れた音の伝
播性があり、空気中に比べてはるかに速く、遠くまで音が届く。当然イルカたちも自らの
生きる手段として水中での音を有効に利用できるしくみを備え、ヒトのはるかに及ばない
特別な能力を持っている。
本講演で村山先生には、高度に水中生活に適応したイルカ類の視覚・聴覚機構について
概観し、彼らの光覚能力、音感能力について解説していただいた。また、イルカはそのよ
うな視覚・聴覚を、周囲の認識だけでなく、お互いのコミュニケーションにも使っている
との話があった。
彼らがお互いの情報交換の手段としてこれらの感覚系をどのように用いているかを紹介
し、さらに、それらの感覚を介したイルカとヒトのコミュニケーションの可能性について
もお話しがあった。
イルカの知能や認知の研究は、直接的に利益のある研究ではないので、国内で専門的に
研究を行っているのは村山先生くらいで、欧米でも数は少ないとのこと。研究費も十分で
はなく、また、最近は動物愛護の見地からイルカの飼育が難しくなっており、研究活動が
できるのは日本ぐらいとのことでした。また、鴨川シーワールドでの研究の苦労話も大変
興味深いものでした。
講演で得た豆知識
① 体長が3∼4m以下のハクジラを総称してイルカという。
② 視力は水中で0.1程度、空中では0.08程度しかない。しかし、エコロケーシ
ョン能力は高く、たとえば100m離れたところにある直径7.5cmの金属球を識
別できる。
③ イルカはほとんど両眼視できない。陸上の狩猟動物は前方120度もの広い両眼視
野を持っているにもかかわらず、イルカは前下方50度の視野しかなく、しかも頭の
真上には190度の盲点がある。
④ 視軸は前方と後方の軸を持っている。
⑤ イルカの脳梁は狭く、左右の眼で別々の像を
知覚している可能性がある。
⑥ イルカはA=B、B=Cの時、A=Cという
三段論法的な思考ができる。しかし、逆にたど
る思考は難しい。