平成19年3月 長崎県教育センター

平成19年3月
長崎県教育センター
目
Ⅰ
Q
1
Q
2
Q
3
教育相談に 関して知っておき たいこと
項
目
学 校 にお ける 教育 相談 の 意義 や役 割
を ど のよ うに 考え れば い いの でし ょ
うか?
教 育 相談 の開 発的 な側 面 ,予 防的 な
側 面 ,問 題解 決的 な側 面 とは ,ど う
いうものでしょうか?
児 童 生徒 に接 して いく 場 合, どの よ
う な 点に 留意 すれ ばい い ので しょ う
か?
Q 児 童 生徒 と望 まし い人 間 関係 をつ く
4 っ て いく ため には ,ど の よう な点 に
留意すればいいのでしょうか?
Q 話 を 上手 に聴 くた めに は ,ど のよ う
5 な点に留意すればいいのでしょう
か?
悩 み や問 題を 抱え てい る 児童 生徒 を
Q 指 導 ・援 助し てい く場 合 には ,ど の
6 よ う な点 に留 意す れば い いの でし ょ
うか?
Ⅱ
Q
1
Q
2
Q
3
Ⅲ
次
教育 相談の
意義と役割
活用できる場面等の例
・年 度始め(児童生徒
への対応の確認)
ページ
2
教育 相談の
3つの側面
・年 度始め(児童生徒
への対応の確認)
4
カウ ンセリ
ング マイン
ドと リーガ
ルマインド
教師 と児童
生徒 との人
間関 係づく
り
・年 度始め(児童生徒
への対応の確認)
6
・年 度始め(児童生徒
への対応の確認)
9
傾聴技法
解決志向
・家庭訪問
・個人面談
・保護者への対応
・個人面談
・保護者への対応
・生徒指導
11
13
児童生徒理解に関 して知っておきたい こ と
項
目
児 童 生徒 の不 適応 行動 を 発達 段階 か
ら と らえ ると ,ど のよ う な見 方が で
きますか?
心 に かか わる 疾病 には , どの よう な
ものがありますか?
学 校 で活 用で きる 心理 テ スト には ,
どのようなものがありますか?
発達段階
心に かかわ
る疾病
客観 的な児
童生 徒理解
の方法
活用できる場面等の例
・不 適応行動を示す児
童生徒への対応
ページ
16
・不 適応行動を示す児
童生徒への対応
・不 適応行動を示す児
童生徒への対応
18
活用できる場面等の例
・児 童生徒を客観的
に理解したいとき
・学 級の実態を把握
したいとき
ページ
20
教育相談の 技法の活用
項
目
児 童 生徒 の自 己理 解を 促 すと とも に
Q 心 の 状態 を把 握で きる 技 法に は, ど
1 のようなものがありますか?
エゴグラム
23
項
目
自分自身で自分の行動等を振り返り , ロー ルレタ
Q 自 己 理解 ,他 者理 解を 促 して いく こ リング
2 と が でき る技 法に は, ど のよ うな も
のがありますか?
児 童 生徒 の人 間関 係づ く りに 有効 な
Q 技 法 には ,ど のよ うな も のが あり ま
3 すか?
構成 的グル
ープ ・エン
カウンター
児 童 生徒 が対 人関 係に つ いて 学ぶ た
Q め の 技法 には ,ど のよ う なも のが あ
4 りますか?
ソー シャル
スキ ルトレ
ーニ ング,
アサ ーショ
ント レーニ
ング
コラ ージュ
技法
児 童 生徒 が作 品づ くり を 通し て, 自
Q ら を 表現 し, 受け 入れ て いく よう な
5 技 法 には ,ど のよ うな も のが あり ま
すか?
児 童 生徒 がス トレ スの 予 防や 対処 の
Q 仕 方 につ いて 学ぶ ため の 技法 には ,
6 どのようなものがありますか?
Ⅳ
スト レスマ
ネジメント
活用できる場面等の例
・進 級,卒業時など,
新た な気持 ちを持た
せたいとき
・問 題行動を起こした
児童 生徒へ の事後指
導
・い じめの予防や学級
の団 結を高 めたいと
き
・保 護者会を工夫した
いとき
・対 人関係のトラブル
の予 防や学 級内でい
ざこ ざが絶 えないと
き
・不 適応状態にある児
童生徒への援助
・集 団への所属感やま
とま りをつ けたいと
き
・言 語表現が苦手な不
適応 状態に ある児童
生徒への援助
・ス トレスの予防やス
トレ スを解 消させた
いとき
・不 適応状態にある児
童生徒への援助
29
33
39
46
50
教育相談の 技法を活用した授 業実践
項
目
1 「コラージュ技法」を活用した学級活動の実践例(小5)
2 「ソーシャルスキルトレーニング」を活用した学級活動の実践例(小6)
3 「エゴグラム」を活用した学級活動の実践例(中2)
4 「 ストレスマネジメント 」を活用した特別活動の実践例〈 学年集会において 〉
(中3)
5 「アサーショントレーニング」の考え方を活用した教科(国語科)の実践例
(高1)
6 「構成的グループ・エンカウンター」を活用したホームルーム活動の実践例
(高2)
Ⅴ
ページ
ページ
63
68
74
79
85
90
参考・引用 文献
項
参考・引用文献一覧
目
ページ
96
Ⅰ
教育相談に関して知っておきたいこと
-1-
教育相談の意義と役割
Q1
学 校に お け る 教育 相 談 の 意義 や 役 割を ど の よう に 考 えれ ば
いいの でしょうか?
教育相談とは ,「個人のもつ悩みや困難の解決を援助することによって,その生活によ
く適応させ,人格の成長への援助を図ろうとするもの 」( 1981 年 文部省)です。
また ,「教育相談は,生徒指導 の一環として位置づけられるものであり,その中心的役
割を担うものである 」( 1990 年 文部省)とされています。
学校には,いろいろなタイプの子供が在籍しており,性格や特性はもちろん,育ってき
た環境 は様々 です。当 然 ,「個人の もつ悩み や困難」 の状況も 様々で ,「そ の生活に よく
適応」できない児童生徒が増加しています。
また,教育相談は生徒指導と対立するものであるという誤解があり,その結果として教
育相談が十分に機能していない状況もしばしば見られます。
教育相談の意義や役割をどう考えればいいのでしょうか?
ここでは ,「不適応行動への対応」を中心として説明します。
不適応行動とは
不適応行動は次の二つに分けられます。
①暴力や非行などのように他者に迷惑を及ぼす「反社会的行動」
②不登校やひきこもりなどのように社会的適応が難しい「非社会的行動」
これらの問題行動を理解して対応する場合には ,「水面に浮かぶ氷の原理 」( 1992 年 中
山)がヒントになります。
水面に浮かぶ氷の原理
表面に表れている問題行動は,水面上に出
ていて,目で見ることができる氷の部分に相
問題行動
問題行動の背景
当し,問題行動を生み出している背景(家族
関係,生育歴,友人関係など)は,目で見る
ことができない水面下の氷の部分に相当しま
す。
水面上の氷の部分をいくら抑えつけて沈め
ても,その手を離してしまえば再び浮かんで
きます。 → 一時的 に抑 えて も問 題行動 は再 発
水面上に現れている氷の部分を少なくしよ
うと思うならば,むしろ水面下の氷の部分を
を溶かすことが早道です。 →問題 行動 の背 景に 注意を 向け ,理 解す るよう 努め るこ とが 大切
つまり,児童生徒の話を丁寧に聴き,一緒に考えていこうという教育相談の姿勢は,問
題行動の背景の理解につながり,問題は解決に向かいます。
-2-
教育相談の機能とは
では,どうして教育相談の姿勢が問題行動の解決につながるのでしょうか。
次のように考えられます。
①心が軽くなる
背負っていた荷物を下ろすと肩が楽になるように ,今まで抑え込んでいたもの( 我
慢していたも の)を話すことで,心が楽になります。また,自分を守るために費 や
していたエネルギーを,解決のためのエネルギーに変えることができます。
②心が整理される
迷っていること,悩ん でいることなどの話を上手に聴いてもらえると,問題点 が
整理されてき ます。迷いや悩みの元が明らかになると,解決の方向性が見えてき ま
す。
③自己肯定感が高まる
丁寧に聴いてもらうこ とで,自分は大切にされているという安心感が生じ,自 己
肯定感につながります 。ありのままの自分を理解してもらえるという実感がわくと ,
自己をアピー ルするために行っていた特別な行動が必要ではなくなります。不適 応
行動に費やし ていたエネルギーを,前向きな行動のエネルギーに変えることがで き
ます。
④自分をコントロールできるようになる
自己を客観的に観察し ,素直に感情を表現する体験を通して,自己理解が進み ,
自分を抑制し たり,主体的に行動したりできるようになります。他に流されやす い
児童生徒には特に価値の内面化が大切になります。
⑤受容を通して人間関係についての理解が深まる
自分自身を否定されず に,話を受容しながら聴いてもらうと,児童生徒は自己 を
受容できるよ うになります。その結果,まわりの人をも受容できるようになり, 人
間関係についての理解が深まります。
これらの教育相談の機能を通して,児童生徒は問題行動の解決に向けて,自ら歩みを進
めていきます。
以上は不適応行動の問題解決に向けての教育相談の機能です。教育相談の考え方や姿勢
は,既に不適応行動を起こしている児童生徒への対応だけではありません。不適応行動の
予防や個々の能力や可能性の開発にも効果が期待できます。
また,不適応行動の予防や問題解決を図っていく上で,教師が児童生徒と望ましい人間
関係を育んでいくことは大事です。そのためには十分な児童生徒理解が必要となってきま
す。
ただし,教育相談は万能ではありません。犯罪性のある行為,自他の安全を脅かす行為
については,毅然とした態度で責任をとらせることが必要です。
-3-
教育相談の三つの側面
Q2
教 育相 談 の 開 発的 な 側 面 ,予 防 的 な側 面 , 問題 解 決 的な 側
面とは ,どういうもので しょうか?
学校における教育相談には,開発的な側面,予防的な側面,問題解決的な側面の三つの
側面があります。
どの側面も児童生徒を援助していく際には大切ですが,問題や不適応が起こる前に援助
していく,開発的な側面,予防的な側面の役割が今後ますます重要になってくると考えら
れます。
開発的な側面とは
すべての児童生徒を対象として,児童生徒が自分の能力を最大限に発揮して,各発達段
階に応じた課題を達成しながら自己実現を図ることができるよう,継続的に援助すること
です。教科の学習や特別活動,総合的な学習など,学級,学校全体の教育活動を通して,
児童生徒の成長を促進していきます。
予防的な側面とは
日々の児童生徒理解を十分に行い ,問題が発生しそうな児童生徒に予防的に働きかけて ,
本人が主体的に自らの力で解決できるよう援助することです。そのためには,日常から児
童生徒をよく観察したり,生活ノート等を提出させたりするなどして,授業時間以外の時
間帯(休み時間,放課後,家庭など)で起きていることも把握するように心がけることが
大切です。
また,児童生徒が一人で問題を抱え込まないよう気軽に相談できる体制を事前につくっ
ておくことも大切です。そのためには,児童生徒と信頼関係を構築していくことが基本と
なりますが,併せて,相談箱の設置やスクールカウンセラー等との相談日の設定など,気
軽に相談できるシステムを考えることが必要です。
問題解決的な側面とは
学校生活を送っていく上で,児童生徒は様々な問題に直面します。このような問題につ
いては,カウンセリング的なかかわりをもちながら,問題の解決や不適応状態からの回復
を援助しなければなりません。
-4-
その場合は ,本人の訴えをよく聴き ,本人の気持ちを支えていくことが基本となります 。
また,本人だけではなく保護者を含めて関係する児童生徒からも情報を収集し,問題行動
や不適応状態に陥ったきっかけや継続している要因を検討していく必要があります。
しかし,問題の原因が明らかになってもそれを取り除くことができるとは限りません。
そういう場合には,本人のよさやうまくできていること,あるいは解決したい気持ちに焦
点を当てて,自信ややる気を引き出しつつ,解決に向けた具体的な行動を援助していくこ
とが必要です。
問題解決には,個人に対する援助だけでなく学級や家族などの本人を取り巻く環境へ
のアプローチも重要です。その環境づくりのためにも,チームによる教育相談の体制を構
築することが大切になってきます。特に援助ニーズが大きい場合は,関係の専門機関(児
童相談所,教育センター,適応指導教室など)と連携を図りながら,援助を進めることも
必要です。
以上のことを図でまとめると,下の図のようになります。
【援助ニーズの3つの側面】
問題に
直面している
問題が発生しそうな
児童生徒対象
児童生徒対象
すべての
児童生徒対象
例えば,予防的な側面での対象となる児童生徒の場合,その援助が本人にとって有効に
働き元気を取り戻したとき,次は開発的カウンセリングの対象となります。また,援助が
効果的でなく問題が深刻化したときは ,問題解決的な側面での対象となると考えられます 。
つまり,児童生徒が発達上の課題に取り組む上での援助ニーズは,連続線上にあって,
常に変化していると考えられます。児童生徒の援助ニーズに応じて,三段階の側面での援
助が必要であって,そのことが,一人一人の子供に適切に対応することとなり,児童生徒
の成長発達につながっていきます。
-5-
カウンセリングマインドとリーガルマインド
Q3
児 童生 徒 に 接 して い く 場 合, ど の よう な 点 に留 意 す れば
いいの でしょうか?
「長崎県 児童生徒の 社会性・規 範意識に関する 調査報告書( 2002 年
ンター 』)」の冒頭では,以下のような言葉が述べられています。
『長崎県 教育セ
近年の青少年の傾向として,自然体験や社会体験の乏しさからくる自立性や協調性
の欠如,自己中心的なものの見方や考え方,公共的なものや社会的なものへの関心の
低下などが言われています。また,基本的生活習慣の欠如,規範意識の低下が指摘さ
れています。そして,夢を持ち,その実現に向けて自ら考え,主体的に課題に取り組
む意欲や態度の欠如も憂慮されています。
このような状況の中で ,学校教育が担う生徒指導はますます重要になっています 。また ,
小・中・高等学校の各学習指導要領においては,生徒指導に関して次のように述べていま
す。
生徒指導とは
小学校学習指導要領
第1章
第5
2
中学校学習指導要領
(3)
日ごろから学級経営の充
実を図り,教師と児童の信
頼関係及び児童相互の好ま
しい人間関係を育てるとと
もに児童理解を深め,生徒
指導の充実を図ること。
第1章
第6
2
(3)
教師と生徒の信頼関係及
び生徒相互の好ましい人間
関係を育てるとともに生徒
理解を深め,生徒が自主的
に判断,行動し積極的に自
己を生かしていくことがで
きるよう,生徒指導の充実
を図ること。
高等学校学習指導要領
第1章
第6款
5
(3)
教師と生徒の信頼関係及
び生徒相互の好ましい人間
関係を育てるとともに生徒
理解を深め,生徒が主体的
に判断,行動し積極的に自
己を生かしていくことがで
きるよう,生徒指導の充実
を図ること。
( 1998 年
文部省)
いずれも,今日的な課題とこれからの方向性を示すものとして常に念頭に置きたいもの
です。 なかで も各指導 要領に共 通する「 教師と児 童生徒 」「信 頼関係・ 人間関係 」「 児童
生徒理解」という言葉は,生徒指導を考える上での重要なキーワードとなっています。
これらからも生徒指導が教師側からの一方的な指導ではなく,児童生徒自身または児童
生徒相 互の 内発性 を重視 した指 導の充 実を図っ ていか なけれ ばならな いこと が 分か りま
す。
さらに,ここには ,「事後的-問題対応志 向」から「予防的・開発的志向」への具体的
な取組が期待されているのであり,その前提として教育相談(カウンセリングマインド)
の視点が要求されていると考えられます。
-6-
教育相談と生徒指導のバランス
それでは,教育相談や生徒指導の考え方に基づいて教師が児童生徒に接する場合,どの
ような姿勢や態度が望ましいのでしょうか。
「カウンセリングマインド」と「リーガルマインド」という二つの概念をあげて説明し
ます。
下の図を見てください。
〈安定化〉
温
「過保護・溺愛」 「バランス」
・耐性不足
・母性と父性
・幼児万能感
・依存と自立
・快楽喪失症
・厳格さと優しさ
甘
厳〈社会化〉
「放任・拒否」
・情感未発達
・愛情飢餓
「過干渉・過期待」
・過剰適応
・息切れ
・ストレス行動
冷
「『 生徒指導担当教師のための教育相談基礎の基礎』嶋﨑政男著
学事出版」より
縦軸は,愛情を持って子供の心を「癒す軸 」。横軸は,社会人として自立できるように
基本的資質を「しつける軸」です。この二つの機能の組み合わせによって ,「過保護・溺
愛」型 ,「放任・拒否」型 ,「過干渉・過期待」型 ,「バランス」型に分けることができま
す。
これを教育相談,生徒指導ということで考えていくと,下の図のようになります。
〈安定化〉
温
「 誤った教育相談観 」
・自由放任
理解を指導に(カウンセリングマインド)
・行動の許容
バランスのとれたかかわり
・集団の軽視
罪から責任に(リーガルマインド)
厳〈社会化〉
「誤った生徒指導観」
・指示,命令
・叱責,罰則
・個人の軽視
甘
冷
「『 生徒指導担当教師のための教育相談基礎の基礎』嶋﨑政男著
-7-
学事出版」より
「 カウンセリングマインド 」 とは ,「 受容と共感 」を基本に据えた ,言わば「 母性原理 」
と考え ること ができま す。また ,「 リーガル マインド 」とは ,「正 義と責任 」を意味 する
「父性原理」と解釈することができます。つまり,この二つを調和することが,教師の目
指す姿勢や態度であると言えます。
「カ ウンセリ ングマイ ンド」と 「リーガ ルマイン ド」のバ ランスを 図りながら, 児童
生徒を指導・援助していく過程を,図に示すと次の図のようになります。
児
集
童
生
徒
団
個
理
人
解
視 点 を 持 つ :理解の客観化…多面的に,組織的に
理 論 を 学 ぶ :理解の裏付け…自信を持って,毅然として
技法を用いる:理解の実践化…的確に,総合的に
問
題
点
教育相談的アプローチ
(カウンセリングマインド)
・児童生徒中心
・内側から規制
・心からはいる
・相談的援助
・原因除去
・個別的な働きかけ
・心理的事実重視
開発的対応
や
課
題
バランス
の
把
生徒指導的アプローチ
(リーガルマインド)
・教師主導的
・外側から規制
・形からはいる
・管理的訓育
・現象指導
・集団全体への働きかけ
・客観的事実重視
予防的対応
組織的に
具
計画的に
体 的 対
-8-
握
問題解決的対応
科学的に
応
教師と児童生徒との人間関係づくり
Q4
児 童生 徒 と 望 まし い 人 間 関係 を つ くっ て い くた め に は, ど
のよう な点に留意すれば いいのでしょうか?
学校の中における教師と児童生徒との信頼感に基づく人間関係は,教師の日頃の接し方
や言葉かけによってつくり出すものです。そのためには,様々な点に留意する必要があり
ます。
児童生徒の心や気持ちを汲んで接する
児童生徒をほめるにしても叱るにしても,教師本位の気持ちや感情から行ったり,他の
児童生徒や周囲の大人たちを優先したりするのではなく,目の前にいる児童生徒を優先す
る接し方を工夫しなければなりません。児童生徒自身のためにほめたり叱ったりする教師
の接し方が,お互いの信頼関係をつくっていく基本です。
児童生徒を肯定的に見る
他人についての理解を歪める要因の一つに ,「光背効果」があります。これは,他者が
ある側面で望ましい(もしくは望ましくない)特徴を持っていると,その評価を当該人物
に対する全体的評価にまで広げてしまう傾向のことです。例えば,学習成績のよい児童生
徒は性格や行動面でも肯定的に評価されがちであるのに対して,成績の悪い児童生徒はす
べての面で問題があるかのように見られがちになるということです 。
児童生徒には,長所も短所もあります。両方をありのままに的確に理解することが大切
です。教師が肯定的な見方をすればするほど,そのような姿勢や態度は自然に児童生徒に
伝わります。教師が児童生徒をありのままに,また肯定的に見ようとする態度で接するこ
とが,人間関係をつくる上での重要な条件の一つです。
児童生徒一人一人に関心を示す
学級担任は,学級という集団場面で児童生徒と接することが多くありますが,結局は,
個々の児童生徒を対象にしています。児童生徒は,教師が自分たちに関心をもっているか
否かということに敏感に気付きます。児童生徒は,個としての自分が認められていると感
じたとき,教師に親しみをもち,自分を認めてくれる教師に信頼関係をもつようになりま
す。
児童生徒一人一人に積極的なかかわりをもつ
児童生徒との人間関係は,日頃から教師が児童生徒に積極的にかかわることによって生
まれます。例えば,廊下ですれ違ったときには声をかけたり,あいさつを交わしたりする
などして,児童生徒とのかかわりを積極的にもつことが大切です。
児童生徒に積極的にかかわっている教師の姿を見て他の児童生徒も信頼感を深め,自然
なうちに人間関係づくりが進められている例も少なくありません。
-9-
教師自身が自己を開示する
教師と児童生徒が信頼し合える人間関係とは,両者が心を開いて安心して語り合える関
係です。このような関係をつくるためには,まず,教師自身が自分の心を開いて,率直に
話すことが大切です 。そのときに活用できるのがアドラー心理学( 注 )でいう「 勇気づけ 」
のメッセージです。
「勇気をくじくメッセージ」は,短期的に効果があることもありますが,長期的に繰り
返されると,悪影響をもたらすことがあります。特に「勝敗や能力に注目する 」「褒め上
げる 」「賞賛し叱咤激励する」な どが繰り返されると,本人は他者の価値基準を気にした
り,それで自分を縛ったり,できていない自分を卑下したりすることになりやすいと言わ
れています。一緒に学ぶ,祝福する等,可能性を見続けていく姿勢が大切です。
勇気づけるメッセージ
勇気をくじくメッセージ
貢献や協力に注目する
勝敗や能力に注目する
あなたのおかげでとても助かった。
あなたは本当に有能だ。
あなたが嬉しそうなので ,私まで嬉しい 。
えらい,よくやった。
過程を重視する
成果を重視する
努力したんだね。
いい成績だ。私は満足だ。
失敗したけど,一生懸命やったんだね。
いくら頑張っても ,結果がこれではね 。
既に達成できている成果を指摘する
まだ達成できていない部分を指摘する
この部分はとてもいいと思うよ。
全体としてはいいが ,ここはだめだな 。
ずいぶん進歩したように思う。
この部分の工夫が足りない。
失敗をも受け入れる
成功だけを評価する
残念そうだね。努力したのにね。
失敗してはなんにもならない。
この次はどうすればいいだろうか。
いったいなぜ失敗したんだ。
個人の成長を重視する
他者との比較を重視する
この前よりもずいぶん上手になったね。
あの人よりもあなたのほうが上手だ。
少し,後戻りしてもいいじゃないか。
あの人に負けていてどうするんだ。
相手に判断をゆだねる
こちらが善悪良否を判断をする
あなたはどう思う。
それはよくない ,こうしたほうがいい 。
一番いいと思うようにすればよい。
ここはよくできたが,ここはだめだ。
肯定的な表現を使う
否定的な表現を使う
気が小さいんじゃなくて慎重なんだね。
気が小さいね 。もっと気を大きくもて 。
謙虚に反省しているんだね。
メソメソするんじゃない。
「私メッセージ」を使う
「あなたメッセージ」を使う
(私は)そのやり方が好きだ。
(あなたの)そのやり方はいい。
(私は)そのやり方をやめてほしい。
(あなたの)そのやり方をやめなさい。
「意見ことば」を使う
「事実ことば」を使う
あなたは正しいと思う。
あなたは正しい。
あなたの意見に私は賛成できない。
あなたの意見は間違っている。
感謝し共感する
賞賛し叱咤激励する
協力してくれてありがとう。
よく働いてえらいね。
やる気があるので嬉しい。
もっと頑張るんだよ。
「『 続・アドラー心理学トーキングセミナー』野田俊作著 アニマ2001」より
(注)アドラー心理学
オーストリアの精神科医であるアルフレッド・アドラー (A.Adler)が創始し,その後継
者たちが発展させた心理学のことです。実践的な心理学として,様々な場面で活用されて
います。
- 10 -
傾聴技法
Q5
話 を上 手 に 聴 くた め に は ,ど の よ うな 点 に 留意 す れ ばい い
のでし ょうか?
教育相談では,相手の話を「聴く」ことが最も基本であり,重要なことです。
どうしたら聴き上手になれるでしょうか。
場の雰囲気づくり
ここでは相談室をイメージして考えてみます。
相談するとき,児童生徒や保護者はとても緊張したり,混乱したりしている場合があり
ます。次のような配慮があると落ち着き,和みます。
・部屋の色…淡い色彩が好まれます。特に緑系統の色は癒し効果があります。
・生きた花…枯れた花では部屋が死んでしまいます。鉢植えの花があると,生長を話題
にすることもできます。土にも癒し効果があります。
・水
槽…水があると人は落ち着きます。金魚が泳いだり,水藻がゆれたりするだけ
で,安らぎがかもしだされます。
つ い た て
・衝
立…ふいに誰かが入ってきても見えないように衝立が必要です 。「秘密は守り
ます」という教師側の気持ちを示すことで,相手に安心感を与えます。
・そ の 他…絵(風景画や抽象画等がよい ),ぬいぐるみ,簡単な遊び道具等
※教室で相談する場合は,この考え方を応用してください。
話を聞く位置
相手との物理的な距離や角度は,心理面に大きな影響を与えます。相手によって位置を
調整したいものです。
●
①
●
●
②
○
③
●
○
○
④
○
①は正対しすぎて気詰まりがします。心理的圧迫感が強い座り方です。
②,③と角度をずらすことによって,圧迫感が軽減されます。
④は親しみや同一歩調を示す座り方です。ただし,最初からこう座るとなれなれし
い感じを与え,かえって抵抗を感じる場合があります。
また,相談者に直射日光が当たることを避けたり,外部から見えないようにしたりする
ために,窓の位置やカーテンの使い方を考慮します。
話を聞く態度
話を聴くとき,人は言葉以外にもいろいろなメッセージを送っています。相手にどうい
う印象を与えているかを,自分自身でチェックする必要があります。
①視線
⑤言葉遣い
②表情
⑥服装,身だしなみ
③ジェスチャー
④声の量,質
鏡の前で練習したり ,同僚とロールプレイ( 役割演技 )をして意見を交換したりすると ,
自分の癖が分かります。
- 11 -
話のどこに焦点を合わせるか
私たちはつい客観的事実(行動)ばかりに焦点をあてて,その行動の是非について評価
してしまいます 。教育相談では ,その行動の根底にある心理的事実( 感情 )に焦点をあて ,
気持ちを理解しようと努めます。
例「友だちに暴力をふるってしまったA君」に対して
【教師の態度】
客観的事実
①客観的事実(行動)に焦点をあてると
「暴力をふるう悪い子だ。この行動をやめさせなければ 。」
心理的
事実
②心理的事実(感情)に焦点をあてると
「この子が暴力をふるうということは,よほどのことがあっ
たのだろう 。」
→「しかし,だからと言って暴力という手段はよくない 。」
→「心を満たす方法を一緒に考えていこう 。」
【子供の感じ方】
「先生はありのままの私を認めてくれる 。」(受容)
「私の感 じているこ とを一緒に 感じてもら える 。」(共 感)
「義務感からではなく,本心からそうしているようだ 。」(純粋性)
安心して本音が出
せる。安心し て悩
むことができる。
基本的な技法
(1) 受
容… 適度に相づちをうって,非審判的・許容的な雰囲気をつくります。
例:「 はい 」「へえ 」「ほう 」「なるほど 」「うんうん」…
注意
過 剰 な相 づ ちは わ ざと ら しい 感 じを 与 えま す 。
(2) くり返し…
相手の話したポイントをつかまえて,それを相手に投げ返します。その
ことで,相手には正確に聴いてもらえているという安心感が生じます。
例:「 きのう,たかしと遊んで いてけんかになったんだ。あいつが嫌なことを言ったか
ら 。」→「嫌なことを言われて,けんかしたんだね 。」
(3) 質
問… 質問には大きく分けて2種類あります。
○閉 じた質 問→ 客 観的事実 を尋ねた り ,「はい 」「い いえ」で 答えられ る質問で す。
話の確認や短時間で情報を収集するときに有効です。
例:「 たかし君って,2組のたかし君のこと?」
:「 たかし君とは,そのとき,何をして遊んでいたの?」
注意
多 用す ると 詰問さ れて いる 感じ がしま す。
○開かれた質問…「 はい 」
「 いいえ 」や単語では答えられない ,広がりのある質問です 。
相手の心理的事実を問うときに有効です。
例:「 昨日たかし君とけんかして,どんなことを考えた?」
:「 たかし君は昨日のこと,どう思っていると思う?」
(4) 支
持… 相手が自分の言動に自信がないときや,迷っているときなどに,教師自
身の考えや感情を伝え,相手の言動を許容し,いたわります。
例:「 そうかそれでけんかになったんだ 。あなたが怒る気持ちも分かるよ 。」
(5) 明 確 化… 相手がはっきりとは言語化(意識化)していないところを先取りして,
言語化(意識化)します。相手は分かってもらえたという気持ちになった
り,気付いていなかった自分の気持ちに気付くことができます。
例:「 本当は,あなたはたかし君と仲直りしたいと思っているんじゃないかな?」
技法にとらわれすぎると逆に話が聴けなくなります 。大切なのは相手に対する誠意です 。
- 12 -
解決志向
Q6
悩 みや 問 題 を 抱え て い る 児童 生 徒 を指 導 ・ 援助 し て いく 場
合には ,どのような点に 留意すればいいので しょうか?
悩みや問題を抱えている児童生徒や保護者を指導・援助していくときに ,「原因がはっ
きりし ないの で対応が 難しい 。」「原因 は把握で きたけれ ど,取り 除くこと は無理な ので
対応できない 。」など,大きな壁にぶつかるときがあります。
そのようなときは ,「問題」や 「原因」という過去のことに焦点を当てずに解決を図っ
ていく,ブリーフセラピーの考え方を活用できます。
ブリーフセラピーとは
通常「短期療法」と訳されます。精神分析療法が長期間を要することから,比較的短期
間で確実な効果を上げることができるように工夫された精神療法の総称です。
〈ブリーフセ ラピ ーの考え方〉
①
変化は絶えず起きている。そして,それは必然である。
例えば,昨日の気分と 今日の気分は違います。1時間目の気分と6時間目の気分
も違うはずです。その変化を意識させます。
②
小さな変化は大きな変化を生み出す。
小さな変化が起きると ,それがいつの間にか大きな変化につながっていくもので
す。小さな変化を探して それを自覚させたり,小さな課題を与えて行動を促したり
していきます。
③
問題と原因を把握するよりも,「解決」に焦点を当てる。
心の問題で原因を特定 することはとても困難ですし,仮にいくつかの原因が特定
されたとしても,その原 因を取り除くことは,多くの場合不可能です。問題や原因
を把握するよりも,解決 するためにはどうしたらよいかということに焦点を当てて
いきます。
④
悩んだり困ったりしている人自身が,問題解決のためのリソース(資源・資質)を持っている。
もと
「解決」に焦点を当て ,そのための「解決の素」を本人自身や本人を取り巻く環
境などから探していきます。
- 13 -
ブリーフセラピーの技法
ミラクル・クエス チョン
解決像をできるだけ具体的につくっていくための質問です 。具体的につくるためには ,
五感をフルに使うことが有効です。見た感じはどうか。何が聞こえてくるか。どんな感
覚を身体に感じているのか。匂いはどうだろうか。そういった感覚をフルに使い,語っ
ていくうちに,解決像が鮮明になってきます。
(例 )「眠っている間に奇跡が起こって,あなたの問題が解決したとします。あなたは
次の日の朝,最初にどんな行動をとりますか 。」
※ 達成しやすい目標を探して成功体験を積めるように援助していきます。
「例外」探し
「例外」とは,既に起きている解決の一部のことです。本人も全く気付いていないほ
ど,小さなことが多いので,見逃されていることがあります。それを一緒に探していき
ます。例えば,不登校の児童生徒でも,たまには学校に行く日や家の外に出る日があり
ます。あるいは問題行動を起こす児童生徒でも,四六時中起こしているわけではありま
せん。そうし た「うまくやれている時間」の存在を探していくわけです 。「例外」が見
つかったら,そのことを具体的に聴いていきます。
(例 )・「 外出できるときはどんなときですか 。」
・( ほんの少しでも良いことが起こっているときに )「あなたはいつもと違うどんな
ことをしたのですか 。」
※ 既に起きている解決の一部を探し出し,そこに焦点を当てて話を進めていきます。
スケーリン グ・クエスチ ョン
差異を見つけていく質問です 。この質問をすると ,
「 調子が悪い 」とか「 気分が悪い 」
という漠然とした抽象的な話を具体的な話に持っていくことができます。
(例 )・「 一番いい状態を10点,最悪の状態を0点とすると,今は何点ですか 。」
・「 昨日は4点で,今日が5点だとすると,その1点分は何が違うのですか 。」
・「 今5点だとすると,それが6点になったときは,どこがどのように違うのですか 。」
※ 差異に注目し,解決の方向に向かって話を進めていきます。
コーピング・クエスチョン
保護者や児童生徒を取り巻く環境が厳しく,ポジティブな面を引き出すのが困難だと
感じたときに行う質問です。
(例 )「そんな大変な中でも何とかやっていけるのは,どんな秘訣があるからですか 。」
※ どのように対処してきたかを明確にし ,解決の方向に向かって話を進めていきます 。
「問題をどのように乗り越えるかを考えるのは,教師の役割ではない。問題を乗り越え
る力は児童生徒や保護者自身が持っている。その力を発揮できるように条件を整えてあげ
るのが教師の役割だ 。」というよ うに考え方を変えてみると,新たな接し方のヒントが見
えてきます。
- 14 -
Ⅱ
児童生徒理解に関して知っておきたいこと
- 15 -
発達段階
Q 1 児 童生 徒 の不 適 応行 動 を発 達 段階 か らと ら える と ,ど の よう
な見方が できますか?
心理的な要因から起こる児童生徒の問題行動や症状のとらえ方の視点の一つとして,発
達段階からとらえることができます。
つまり,成長発達に必要な精神的・情緒的エネルギーを必要な時期に,親(あるいは親
の代理)から十分に与えられなかったり,発達の過程で乗り越えるべき課題を乗り越えら
れなかったために現在の障害に対処しきれなくなっているという考え方です 。そのために ,
無意識のうちに大人へのSOSの信号として ,問題行動や症状を呈しているととらえます 。
これは児童生徒を理解していく上で,大切な視点の一つです。
発達理論には様々ありますが,ここでは,小学校入学前,小学生,中学生,高校生の時
期に分けて紹介します。
乳児期(0歳~1歳頃)
この時期には,母子相互作用など親との1対1のふれあいにより,人間形成の基礎とな
る基本的な信頼関係を形成します。例えば,母親は授乳やおむつの取り替えや抱っこやあ
やしなどを通して,乳児に情緒的に優しく応答します。乳児が必要とするときに必要な欲
求を満たしてあげる体験を重ねていくことで,乳児は満足感や安心感だけでなく,他者へ
の信頼感を身につけていきます。それが将来の対人関係の原型にもなってくると考えられ
ています。
幼児期(1歳~6歳頃)
この時期になると,親との愛着関係を通して,少しずつ親と離れられるようになり,活
動範囲も家族だけの世界から外界へと広がります。
3歳頃になると ,自分の性別を意識するなど ,自己と他者を区別し比較するようになり ,
自分の主張や要求を頑固に通そうとします。また,親が指示したことに対して強い抵抗を
示すようにもなります(第一次反抗期 )。5~6歳頃には,自分の達成したことと他者が
達成したことを比較することで競争心が芽生えるようになります。
このようなプロセスを経て,この時期の子供は「一人遊び」よりも「集団遊び」を志向
するようになります。このように,幼児期において経験される集団生活は,子供の社会性
の発達に重要な影響を与えます。
この時期は,子供が親・家庭から分離していく練習期と言えます。
- 16 -
小学生の時期
この時期になると,知能,社会性,自立性が著しく発達してきます。また,活発に活動
し,遊びの世界をつくり上げます。この時期の仲間集団をギャング集団ともいい,この集
団の中では,自分と他者が同じ遊び仲間であるという心理的な意識を共有します。この意
識の共有によって,青年期に始まる1対1の親友関係が構成される基礎となってきます。
さらにこの時期は,少なくとも遊びの面においては大人から自立する重要な段階とも言え
ます。
自立性が徐々に発達するため,大人からの干渉に対して「大人にもできないようなこと
を,なぜ言うのか」といったような自己主張も出てきます。こうした主張の表れは,自我
意識が正常に発達していることの証でもあります。
児童期には,泥んこになって遊んだり,スポーツに熱中したり,動物の飼育や昆虫採集
に熱中したりするなどの一見すると学業に直結しない経験が,子供の心の成長にはとても
大切になってきます。
中学生の時期
この時期は第二次性徴が始まって,男性的,女性的な体つきが目立ち始めます。この変
化が心に動揺を与え,不安を引き起こすことがあります。また,友人関係が小学生の時期
以上に重要になってきて,一層親密度を増し,自己を形成していく上でとても重要なもの
となります。一方,親とは距離を置いて,秘密を持ち始め,それまで依存してきた親から
心理的に独立しようとします(心理的離乳 )。周囲の大人や権威に対しても,拒否的・反
抗的態度を示すようになります(第二次反抗期 )。
また,自己愛が高まる時期でもあるので,何でもできるような万能感に陥ったり,逆に
自己を卑下したりして,現実検討力が低下することがあります。
高校生の時期
しっ ぷ う ど と う
この時期を,ルソーは「第2の誕生 」,ゲーテは「疾風怒濤の時代」と呼びました。急
速に身体と心が発達し,不安や動揺が激しくなる時期だからです。しかし,それは自立し
た大人になるための大切な準備期間ともいえます。また,友人関係においては,共通の悩
みや個人の悩みを共感し合い ,精神的な結びつきを基準として友人を選ぶようになります 。
生活の大部分が友人との交流を中心として進んでいきます 。その反面 ,物思いに耽ったり ,
日記や詩を書いたりするなど,自己の内的世界にも目が向くようになります。
このように,集団と個の間を揺れながら,自分自身について問いを発し,自己を確立し
ようとしていきます。
- 17 -
心にかかわる疾病
Q2
心 にかかわる疾病に は,どのようなもの がありますか?
心と体,心と行動は一体です。通常は,自分で自分をコントロールしながら生活してい
るのですが,何らかの理由でその制御がきかない状態になり,生活に支障を来す場合があ
ります。これが心の疾病です。
最近ちょっと様子がおかしいと思いながらも,原因が分からずに手をこまねいている間
に症状が悪くなったり,いじめの被害を受けたり不登校になったりするなど,二次的な問
題が発生することがあります。
ここでは,児童生徒の行動の意味や悩みを理解する上で把握しておいた方がいいと思わ
れるいくつかの心の疾病について紹介します。
うつ病性障害
眠れない(逆に寝てばかりいる ),疲れやすい,気力が減退する,自分の責任では
ないのに罪悪感を感じる,思考力や集中力が低下する,自殺について考える,著しい
体重の減少(逆に著しい増加)などの症状が見られます。
摂食障害
【神経性無食欲症】
自分の体重または体型の感じ方の障害で,体重が増えることに対する強い恐怖を感
じ,たとえ体重が不足していても,食事を極端に制限したりします。食後,無理に吐
いたり下剤を飲んだりする場合もあります。
【神経性大食症】
食べることをやめることができず ,通常よりも明らかに多い食物を食べる障害です 。
体重増加を防ぐため ,無理に吐いたり ,下剤を飲んだり ,過剰な運動をしたりします 。
強迫神経症
意味がないと自覚していながら,ある行動(手を洗う,順番に並べる,確認をする
等)または心の中の行為(祈る,数を数える,声を出さずに言葉を繰り返す)を繰り
返してしまい,生活に支障をきたすようになります。
不安神経症
し んき こ うし ん
理由もなく不安でたまらなくなり,心悸亢進,過呼吸,頻脈,発汗などの不安発作
が頻繁に見られます。
- 18 -
抜毛症
ま つ げ
頭髪,眉毛,睫毛などの身体の毛を,自分の手で無自覚のうちに繰り返し引き抜く
行為(症状)です。コントロールできない怒りを解消しようとするための行為と言わ
れています。
統合失調症
幻覚・幻聴・妄想などがあり,会話にまとまりがなくなります。
自分の考えを他の人に知られてしまう感じ,テレビが自分のことを言っているよう
な感じ,人から操られているような感じを抱いたり,感情が鈍くなる,一人で話し一
人で笑うなどの状態が見られたりする場合もあります。
境界性人格障害
見捨てられることを避けようとしてなりふりかまわない 努力をします。不安定な対
人関係しか持てず ,相手を理想化したりこきおろしたりして ,両極端を揺れ動きます 。
自殺未遂や自己を傷つける衝動的な行動(リストカット,浪費など)が見られます。
行為障害
人や動物に対する攻撃性,所有物の破壊(放火や故意の破壊 ),嘘や窃盗,重大な
規則違反( 無断外泊 ,家出 ,怠けによる不登校 ) などのいずれかの行動が続いており ,
生活や学習に支障をきたすようになります。
各種恐怖症
一般には恐怖の対象にならないものに対して,不合理だと分かっていながら,恐怖
を感じる症状です。
対人恐怖,赤面恐怖,醜形恐怖,正視恐怖,自己臭恐怖,閉所恐怖,高所恐怖,尖
端恐怖など,様々な恐怖症があります。
これらの症状は心と密接にかかわっています。
親も教師も何とか今の状況をよくしようと一生懸命かかわりますが,素人判断では状態
が悪くなることがあります。専門医の受診が必要です。
- 19 -
客観的な児童生徒理解の方法
Q3
学 校で 活 用 で きる 心 理 テ スト に は ,ど の よ うな も の があ り
ますか ?
児童生徒を理解するには,一般的には「記録」をとり続け,その変容に注意するという
方法が最もよく使われているかと思います。この場合,言動・態度・外見などの目に見え
る状態に注目し,その上で児童生徒の内面的世界を推察しながら,指導の方法を考えてい
くことになります。しかし,この方法は,多分に教師の経験則と主観によって児童生徒の
内面世界を描いてしまうこともあり,児童生徒に対する偏った見方を生み出す危険性もあ
るといえます。
そこで,科学的な実証に基づいて開発された「心理テスト」を組み合わせて客観的な理
解を進めることが必要になってきます。
教師の豊かな経験と客観的な心理テストが組み合わされてこそ,児童生徒理解は一層深
まります。
なお,心理テストの利用については,テストの意味や目的及び結果の伝え方は慎重にす
べきであり,児童生徒のみならず保護者も含めて,敏感にさせたり無用な心配をさせたり
しないよう,十分な配慮を必要とします。
また,発達段階等によっては実施できないものもあります。さらに単一のものだけで判
断することも避けなければなりません。心理テストの利用価値を高めるには,他のテスト
との相互関係を見ることがたいへん重要です。
このような慎重な配慮の上で,複数の眼で,多方面から心理テストの結果を分析し,教
育相談の方針を決めることが大切です。
代表的な心理テスト
バウムテスト
【 方法及びねらい 】
【適
【所
※
用
要
年
時
齢】
間】
2B~4Bの鉛筆を準備し ,A4の画用紙に「 1本の( 実のなる )
木を描いてくださ い 。」と 指示し,描かれた木の全体的 な印象や,
位置,大きさ,根,枝,幹,葉,実などの様子から,児童生徒の状
態を知る。
3歳以上
約3~20分程度
学級不適応の児童が描いたバウムの例
- 20 -
文章完成テスト
【方法及びねらい】
【適
【所
用
要
年
時
齢】
間】
「私の母は 」「私は小さい頃」などと不完全な文を準備し,児童
生徒が後を続けて文章を完成させる。できあがった文の内容から児
童生徒の家庭の様子や嗜好などを知る。
小学生~成人
40~50分程度
【例】
・子供の頃,私は○○○・・・・。
・家の人は私を○○○・・・・。
・私はよく人から○○○・・・・。
・私が思い出すのは○○○・・・・。
・私が知りたいことは○○○・・・・。
・私が努力しているのは○○○・・・・。
エゴグラム
【方法及びねらい】
【適
【所
用
用
年
時
齢】
間】
質問紙に答えることにより,標準化された尺度に基づいて数値化
・グラフ化し,CP(厳格さ,理想 ),NP(思いやり,寛容性 ),
A(知性,理性 ),FC(本能的,感覚的 ),AC(順応性,妥協)
の5つの自我の状態を知る。
小学生以上
10分程度
【例】
CP
NP
A
FC
AC
20
10
0
※詳細はP.23~P.28に記載しています。
- 21 -
Ⅲ
教育相談の技法の活用
- 22 -
エゴグラム
Q1
児 童生 徒 の 自 己理 解 を 促 すと と も に心 の 状 態を 把 握 でき る
技法に は,どのようなも のがありますか?
エゴグラムとは,このような技法です
ねらいと実施の流れ
エ ゴ グラ ム は, 交 流分 析 (注 ) の理 論 を
も と にア メ リカ の心 理学 者 J.M. デ ュセ イ が
「三つの心」
考 案 した もの です 。「エ ゴ」 は自 我 ,「グ ラ
CP
ム 」 は 図を 意 味し て いて , 心の 指 紋と も 呼
=親の心(P)
NP
ば れ ま す。 交 流分 析 では , 人間 は 三つ の 心
(「 親の心( Parent)」
「 大人の心( Adult)」
「子
ど もの 心 ( Child)」) を 持っ てい ると 考え ,
A
=大人の心(A)
これらの三つを P,A ,C の記号で表します 。
さらに「親の心( P)」には「批判的な P
( Critical Parent ,以下 CP と略す )」と「保
FC
=子供の心(C)
護的な P( Nurturig Parent, 以下 NP と略す)」
AC
の二つの要素があり ,「子供の心( C)」
には「 自由な C( Free Child,以下 FC と略す)」
と「順応した C( Adapted Child,以下 AC と
略す )」の二つの要素があります(右図 )。
これら三つの心(自我状態)に関する質問を行い,それらのエネルギーの量を数量
化・グラフ化し,目に見える形で表したものがエゴグラムです。
( 注)交流分析
1957年にアメリカの精神科医であるエリック・バーンによって考案された心理療法で
す。精神分析の口語版とも言われ ,「構造分析,交流パターン分析,ゲーム分析,脚本分
析」から成り立っています。
流れとしては,
導 入
〈教師の役割〉
・ねらいの説明
・テストの内容,方
法の説明
展 開
〈教師の役割〉
・実施状況確認
・活動への援助
まとめ
〈教師の役割〉
・各個人の個性とし
てとらえさせる
・自分のよさを確認
させる
・よさを伸ばす
といった三つの過程で実施することが可能です。
主な育つ力(研究構想図との関連)
〈理解する力〉
・自己理解…自分自身のことをよく理解すること。
・他者理解…仲間をかけがえのない大切な一人の人間として受け入れること。
- 23 -
エゴグラムの活用のポイントと留意点
ポイント1
(1)
①
三つの心を理解しよう!
親の心(P)
批判的な P ( CP )
自分の価値観や考え方を正しいものとして,それを譲ろうとしない部分です。
その人の良心や理想と深く関連していて,強い正義感や責任感のために批判や非
難をしばしば 行います。父性的 な自我状態と言 えます。この P が強すぎると,
尊大で支配的な態度,命令的な口調,ほめるよりも責める傾向などが強くなって
きます。
②
保護的な P ( NP)
親切,思いやり,寛容な態度を示す部分です。罰するよりも許し,ほめるとい
う態度を取り ます。母性的な自 我状態と言えま す。この P が強すぎると世話を
焼きすぎたり,親切の押し売りになったりして,相手から疎んじられることもあ
ります。
(2)
大人の心(A)
事実に 基づいて物事を判断しようとする部分です。論理的に処理していくため
に,コンピュータにも例えられます。感情的に泣いたり,笑ったり,叱ったりは
せず,冷静に対処していきます。この A が強すぎると,行動を伴わない有言不実
行の人間や情熱の乏しい機械人間のように見られがちです。
(3)
①
子供の心(C)
自由な C( FC )
感情的 ,本能的で ,好奇心や創造性の源になる部分です 。泣きたいときに泣き ,
笑いたいときに笑うなど,自然の感情を素直に表現することができます。このC
が強すぎると,自らにブレーキをかけることができず,天真爛漫な生き方を通り
越して,軽率な行動に出る場合があります。
②
順応した C ( AC )
自 分の本当の 気持ちを抑え て,周囲の 期待に応え ようと努める 部分です。 FC
に様々な修正が加えら れた部分とも言えます。この C が強すぎると「嫌なこと
を嫌と言えない 」「簡単に妥協してしまう」などといった姿が見られ,他人に依
存しやすくなり,ストレスがたまりやすくなります。
- 24 -
ポイント2
実施する際にはこのような点に留意しよう!
エゴグ ラム の質問紙 は ,「他人 の世話 をす
る の が 好 き で す か 。」「 あ な た は おし ゃ れ が
好 き な ほ う で す か 。」「 あ な た は 遠慮 が ち で
図1「プロフィール」
CP NP
A
FC
AC
20
消 極的な ほう ですか 。」 などの簡 単な質 問で
構成されています。児童生徒は,自分で質問
10
紙に回答していきます。
実施に当たっては ,あまり深く考えすぎず ,
直感的に日頃の自分を出してよいことを伝え
0
ます。あらかじめ学校の成績とは関係のない
ことを説明しておくと,子供たちは安心してエゴグラムに取り組むことができます。
なお,エゴグラムの記入用紙は,様々な種類のものが考案されています。対象年齢
を考慮の上,目的に合ったものを準備してください。すべての回答が終わったら採点
を行い,その結果をもとにプロフィールを作成します(図1 )。
また,エゴ グラムは,各個人の個性を表すもので ,「どういう型が優れている」と
か,逆に「劣っている」とかというものではないので,その点を十分に子供たちへ説
明する必要があります。そして,あくまでも教師が日常観察していることの補助手段
として利用することが大切です。
ポイント3
(1)
プロフィ ールの見方では,ここに注目 しよう!
一番高い部分はどこか,一番低い部分はどこかを見ます。
一番高い部分は何か問 題が生じたときや何かストレスを受けたとき,すぐに反 応
する 自我状態の部分です。他に比べて極端に高い場合は,特に問題が生じやすいと
言えます 。また ,子供たちの感情や行動を理解するのに有力な手がかりとなります 。
例えば, CP が高いと,信念を持った責任感のある人柄と言えますが,極端に高すぎ
ると他者を否定したり,権威的で支配的な面が強くなったりします。
一番低い部分は,エネルギーが弱いところと考えられます。例えば, NP が極端に
低いと他者にあまり関心がなく,思いやりに欠けるということが言えます。
- 25 -
(2)
全体の形に注目します。
例えば,図1のプロフィールの全体の形に注目すると,一番高い要素は NP で,一
番低い要素は FC です。 NP が高いという点から,この子供は親切な面や,愛情深い
面を持っていると思われます。 CP と NP のバランスから考えると,適度な優しさを
持ちながらも過干渉にならないよう心配りができる人物のようです。 FC と AC のバ
ランスから考 えると,自分の楽しさよりも,みんなの楽しさを優先する傾向が見 ら
れます。周囲への気配りを大切にしているとも言えますが, FC の値が低いことを考
えると ,自由奔放に振る舞いたい気持ちをうまく出せないでいるのかもしれません 。
ポイント4
(1)
エゴグラムを活用し,このように援助しよう!
目標をはっきりさせます。
教育相談でエゴグラム を活用する場合は,現実のプロフィールの上に,赤鉛筆 等
で「こうあり たい」と望む理想のプロフィールを描かせます。次に,どの箇所を ど
う変えたいかということを一緒に考えていきます。
(2)
高い自我状態の箇所を縮めるよりも ,低い自我状態の箇所を伸ばすようにします 。
様々な問題にぶつかって ,最もその人らしい行動を起こす要因の一つとなるのは ,
一番高い部分 です。人格の主導権を握っている優位な自我状態を無理に抑えよう と
しても,実際 にはなかなかうまくいかない場合が多いものです。むしろ低いとこ ろ
を少し伸ばす ような援助を行っていく方が効果的です。その際には,一度に多く の
課題を与えないことに留意する必要があります。
また,援助をしていく際,以下の点について留意する必要があります。
一点目は,児童生徒を 攻撃したり,叱ったりするための材料としてエゴグラム を
利用 しな いこと です。 二点目 は,エ ゴグ ラムを用 いると きには ,「 エゴグ ラムは 状
況によって変 わる」ことや「今の状況がすべてではない」などということを押さ え
るなど,十分な配慮の上で意欲を持たせて活用していくことです。
エゴグラムは,児童生 徒理解のためだけでなく,構成的グループ・エンカウン タ
ーのエクササ イズの一つとしても活用することができます。目的に応じて様々に 活
用できる心理テストの一つです。
- 26 -
それぞれの自我状態における特色等
特
色
言
葉
声・声の調子
姿勢・動作・表情
対人反応・態度・構え
理想的,良心的,道徳的,正義感, ダメね
説教調
けんか腰
私は OK,あなたは OK で
責任感,信賞必罰,権威,規則主 当然…すべきだ
批判的,断定的
尊大,小馬鹿にする
はない
威圧的,権威的
見下げる
独断的,偏見
CP 義
~しなくてはいけない
(非難,叱責,強制,偏見,規則 決して~してはいけない 押しつけ調
ミスを指摘,訂正する 保守的,排他的
万能主義,頑固,権力主義,堅物, 私の言うとおりにすれば
あら探し
など)
規制的,支配的
よい
思いやり,慰め,共感的,寛容的, ~してあげよう
同情的
自然に体が触れる
私はOK,あなたもOK
同情的,保護的,許し,優しさ, 可哀想に
やさしい
肩をたたく
世話好き,寛大
愛情がこもる
両手を大きく開く
面倒見がよい
スキンシップ
受容的,理解にとむ
NP 承認,融通
まかせておきなさい
(過保護,過干渉,甘やかし,黙 ~が気になるよ
認,おせっかい,放任主義
など) よかったね
非懲罰的,やさしい
理性的,知性的,コンピューター 何が…,どこで…
落ち着いた低い声
姿勢がよい
事実中心主義
の働き,統合性,適応性,現実吟 誰が…,いつ…
冷静(機械的)
注意深く聴いている
理論的,合理的
A 味力,可能性の評価,決断力
どこで…,どうやって… 一定の音調
(科学万能主義,データ中心主義, 具体的にいうと
猜疑心
沈黙して考えをまとめ 客観的,説明的
る
情報収集
など)
打算的
天真爛漫,自由な感情表現,本能 ワァ~,キャー
遊戯的
自由な感情表現
本能的,直感的
的,自己中心的,好奇心,直感力, 好きよ,嫌いよ
感情的
自発的,活発
創造的,空想的
明るい,朗らか
よく笑う,ふざける
素直に甘える
(衝動性,わがまま,傍若無人, ~が欲しい,したい
開放的,自由
明るくユーモアに富む
無責任,暴言
大声で
伸び伸びしている
我慢強い,感情の抑制,妥協,
「い ~していいでしょうか
自信がない
顔色をうかがう
私はOKではない
い子 」,他人の期待に沿おうとす ~できません
遠慮
いい子
他律的,依存的
くどくど
ため息,不安
屈折した甘え
めそめそ
要求がましい
自虐的
FC 創造力
ああ,愉快だ
など)
AC る,劣等感,顔色をうかがう
どうせ私なんか…
(主体性の欠如,抑圧,敵意,温 もういいです
存
※注
など)
(
)内は,歪んだ自我状態を示す。
「
『 生徒のこころ教師のこころ』横山好治
- 27 -
杉田峰康共著
チーム医療」より
エゴグラムから見る行動等の特徴
〈各タイプの基本的特徴〉
①CP優位型
②NP優位型
CP
③A優位型
NP
A
CP
・相手に対して一歩上から見ている。
・気が優しく,共感的。
・自分の手でやらないと気が済まない。
・自他肯定。
AC
・合理的でクール。
・融通が利かない。
④FC優位型
⑤AC優位型
⑥N型
FC
AC
AC
CP
・遊び好きの行動派。
・他者依存的である。
・自分を抑えてでも人に尽くすタイプ。
・創造的な仕事が向く芸術家タイプ。
・結果が気になり行動できにくい。
・言いたいことしたいことを十分に表
現できずストレスがたまりやすい。
⑦逆N型
⑧M型
CP
⑨W型
NP
AC
・自分の信念に従って行動し,他人に
も厳しい。
FC
CP
AC
・人情味があり,好奇心も強い。
・現実検討能力,協調性に欠ける。
・周囲との間に摩擦が生じやすい。
⑩V型
CP
NP
A
AC
FC
・責任感、現実検討能力,協調性は十
分持っているが思いやりに欠ける。
・自分を表現することが苦手である。
⑪平坦型
AC
・自他に厳しいが,それを口に出せず
遠慮がちになる。
・葛藤を繰り返し,悩みが多い。
・高い値での平坦な人はスーパーマンタイプ。
・中位の値での平坦な人は中庸で特徴がない温厚タイプ。
・低位で平坦な人は精神的エネルギーが低いために消極的で何も行
しないタイプ。
- 28 -
ロールレタリング
Q2
自 分自 身 で 自 分の 行 動 等 を振 り 返 り, 自 己 理解 , 他 者理 解
を促 し てい く こと がで き る技 法 には ,ど の よう な もの が あり
ますか ?
ロールレタリングとは,こんな技法です
ねらいと実施の流れ
少年鑑別所 や少年院で,自己洞察のために考えられた技法で ,「役割交換書簡法」
とも言います 。手紙を書いて実際に相手に送るのではなく ,自分自身で役割( ロール )
を交替しながら,一人二役で手紙のやりとり(レタリング)をします。
これらを繰り返すことにより,
○文章記述を行う中で自分自身の内面を見出す
:( 自己理解)
○相手の立場に立って気持ちを考え,受け入れる
:( 他者理解,他者受容)
といった心の変化が表れます。
①手紙を書く相手を決める。
そ の人に とっ て重要 なかか わりを もつ人 が
よい でしょ う。 目的に 応じて 指導者 が指定 し
たり,本人に選ばせたりします。
②「自分から相手へ」の手紙を書く。
相 手に対 して どのよ うに思 ってい るのか を
文章 化する こと で,自 分の思 考や感 情が明 確
にな ります 。実 際に相 手に読 まれる ことは な
いの で,自 由に 率直に 表現す ること ができ ま
す。
③手紙を一時保管する 。(数日)
基 本的に は, 書かれ た手紙 を読む ことが で
きる のは本 人だ けです 。しか し,本 人の承 諾
例・封筒に入れ ,封をして預ける 。 を得 た場合 や, 状況に よって は指導 者が読 む
・鍵付きの箱に入れる。
こと も可能 でし ょう。 また, ここで 時間を お
・本人が保管しておく。
くこ とで, 次に 読むと きの客 観性が 高まり ま
す。
④相手になったつもりで手紙を読み,
「相手から自分へ」の返事を書く。
時 間を置 き, 相手の 立場に 立って 自分が 書
いた 手紙を 読み ます。 ここで ,自分 の中に 他
者の 視点が 生じ ,自分 を客観 的に見 ること が
で き ま す 。 さら に ,「 相 手 から 自 分 へ 」 の 手
紙を書くことで,相手の気持ちを考える体験
ができます。
- 29 -
⑤手紙を一時保管する。
⑥「相手から自分へ」の手紙を読んだ
上で,相手に返事を書く。
⑦
自 己と他 者の 二つの 視点に よって ,見方 が
深まり,感情や問題が整理されていきます。
必要に応じて③~⑥を繰り返す。
これらの過程で生じる気付きや変化が心の成長を促し,自己の問題解決を促進すること
につながるのです。
【例】父親に反抗し非行を繰り返す中学2年生タケシ(仮名)の場合
お父さんへ
お父さんは世間体ばかり気にして,家ではい
ばりちらしているのがとてもむかつく。だから
家はおもしろくないし,タバコを吸ったり,け
自分の心の中を見つめ,感情を言葉で表現す
ることで少し気持ちが整理できました。面と向
かっては言いづらい父親への要望も書き表せて
います。
んかしたりしてストレスを発散している。悪い
ことだと分かっているし,周りに迷惑をかけて
いるのも分かっているけど,友達とそうしてい
るときが一番楽しい。お父さんも怒ってばかり
いないで僕の気持ちも分かってほしい。
タケシより
タケシへ
タケシの手紙を読んで ,お父さんも反省した。
確かに今まで頭ごなしに怒って悪かった 。でも,
お前が将来りっぱに一人前の大人になるように
と思って厳しくしているんだ。自分でも悪いこ
父親の立場に立ち,父には父の考えがあ
ることに気付いています。父から自分への
メッセージには「本当は何とかしたい」と
いうタケシの本心が伺えます。
とだと分かっているのなら,そんなことでスト
レスを発散させるのは早くやめてほしい。お父
さんは,何か夢中になれるものを見つけてがん
ばっているタケシの姿を見たいと思っている。
お父さんより
主な育つ力(研究構想図との関連)
〈理解する力〉
・自己理解…自分自身のことをよく理解すること。
・他者理解…相手の立場や気持ちを理解し,一人の人間として受け入れること。
〈適応する力〉
・自己表現…自分の気持ちに気付き,言葉として表現すること。
- 30 -
ロールレタリングの活用のポイントと留意点
ポイント1
本人の気持ちを尊重しよう!
ロールレタリングは,自己理解や他者理解に大変有効な技法ですが,書きたくない児童
生徒に無理に書かせても効果はありません。飽くまで本人の意志で書かせます。
自分の気持ちを表現するのは,苦しいときもあります。また,指導者との間に信頼関係
がないと受け入れにくいものです。抵抗があるときは強要せず,時間をおいて再度提案し
ます。
また ,「書くことがない」とい う子供には,ロールレタリングの前にこれまでの出来事
を振り返らせたり,相手に自分がしたことやしてもらったことを 具体的に思い出させたり
すると書きやすくなります。手紙は1行でも2行でもかまいません。指導者が簡単なモデ
ルを示すのもよいでしょう。
ポイント2
目的に応じて手紙の相手を決めよう!
手紙の相手は,本人にとって重要なかかわりをもつ人がよいでしょう。誰に対して手紙
を書くかで,その効果や方向性は違ってきます。目的に応じて相手を決めます。
例えば,
子供の状態
目
的
手紙の相手の例
いじめをしている
いじめをやめさせたい
いじめの 被害者,傍観者
万引きを繰り返す
万引きをやめさせたい
親子関係がうまくいかない
親子の関係を修復したい
最高学年になった
最高学年の自覚を持たせたい
母親,店の人
父親,母親
下級生,卒業生
教師が明確な目的や結果を想定した上で実施することが大切です。
ポイント3
書いた後のかかわりを大事にしよう!
手紙は,書かせて終了ではありません。基本的に,手紙は書いた本人以外読めませんの
で,書いてみて(読んでみて)の気持ちや気付きを尋ねてみます。そこから気持ちの変化
が感じ取れるかもしれません。
読むことを許可してくれた場合も,文のねじれや誤字をチェックすることはしません。
手紙に書かれている気持ちを受け止めて共感し ,「~な気持ちだったんだね 。」「~と思っ
ていたんだね 。」等の言葉かけをします。
- 31 -
ロールレタリングの実践例
ねらいや活用の仕方によって,学級活動,道徳,学校行事,生徒指導などで実践するこ
とができます。
対象児童生徒
問題行動を起こした児童生徒
実 施 時 間
問題行動に対する事後の指導において
実施の目的
手紙の相手
方
法
家族の心配や 願いを感じさせること で自分の行動や気持ちを見直 さ
せ,今後の問題行動を予防する。
母親
まず ,自分の問題行動 を母親に報告す る手紙を書く。その後,そ れ
を読ん だ母親の気持ちを 想像して,自分 宛の返事を書き,手紙のや り
とりを 繰り返す。生徒指 導の一環として 行うので,教師が読むこと を
初めに伝えることも必要である。
対象児童生徒
中学3年生(学級の生徒全員)
実 施 時 間
年度初めの学級活動の時間
実施の目的
手紙の相手
方
法
放課後の時間
学級活動内容項目:(1)学級や学校の生活の充実と向上に関すること。
現在の自分の 生活を見つめ直し,中 学校生活最後の1年の過ごし 方
について,決意を新たにさせる。
1年後の自分
1年 後の自分がどこで 何をしているの か,どんな気持ちなのかを 想
像し,手紙のやりとりを行う。
対象児童生徒
小学5年生(学級の児童全員)
実 施 時 間
人権週間の道徳の時間
実施の目的
道徳内容項目:2-(2)だれに対しても思いやりの心をもち,相手の
立場に立って親切にする。
弱い立場の人の気持ちを思いやる心と態度を育てる。
手紙の相手
読み物資料に登場するいじめの被害者
方
法
いじ めに関する読み物 資料を使い,授 業を行う。いじめられてい る
人の立場から手紙を書くことで,その心情に共感させる。
- 32 -
構成的グループ・エンカウンター
Q3
児 童生 徒 の 人 間関 係 づ く りに 有 効 な技 法 に は, ど の よう な
ものが ありますか?
構成的グループ・エンカウンターとは,こんな技法です
ねらいと実施の流れ
指導者(リーダー)によって示された課題や活動(エクササイズ)をグループで体
験し,その活動を通して気付いたり,感じたりしたことを本音で伝え合い,共有し合
う(シェアリング)ことにより,
○自分には自分の世界があり,よさがある :(自己理解)
○人には人の世界があり,よさがある
:(他者理解)
○豊かな人間関係が育まれる
:(リレーション)
といった自己発見や人間関係づくりを促します。
全体を通して
インストラクション
〈教師の役割〉
・ねらいの説明
・エクササイズの内
容,方法の説明
エクササイズ
〈教師の役割〉
・活動への援助
・ルールが守られて
いるかの確認
シェアリング
〈教師の役割〉
・シェアリングの仕
方(方法・時間)
の確認
といった三つの過程によって成り立ちます。
特に最後のシェアリング(考えたことや思いを聞き合い,分かち合う段階)が,通常の
ゲームと違うところです。この段階によって,それまでの活動が,個々の心の育ちやお互
いの心のつながりへと結びついていくのです。
主な育つ力(研究構想図との関連)
〈理解する力〉
・自己理解…自分自身のことをよく理解すること。
・他者理解…仲間をかけがえのない大切な一人の人間として受け入れること。
〈適応する力〉
・自己表現…必要なことを相手の気持ちを考えて主張すること。
・自己調整…ストレスなど自分自身の心身への負担を軽減し調整すること。
- 33 -
実施可能な場面
① 道徳や学級活動,ホームルーム活動の時間に
学習指導要領の目標と照らしてみても,道徳や学級活動,ホームルーム活動の時間
の中で,構成的グループ・エンカウンターを実施することは可能です。ただし,道徳
では,価値項目との関連をきちんと図っておく必要があります。また,道徳にせよ学
級活動,ホームルーム活動にせよ,年間指導計画の中に位置づけることです。
②
学習指導の時間に
教科指導の導入に用いたり,話し合いを活性化させるために用いたりすることがで
きます。ただし,ここでは,その時間の目標は,あくまで教科指導の目標にあること
を忘れないようにしないといけません 。構成的グループ・エンカウンターの目標がメ
インになるようであれば,その時間の教科指導は成立しないことになります。
③
新入生オリエンテーシ ョン,学級開き,野外学習, 宿泊訓練などの場で
ある調査によれば,児童生徒が起こす様々な不適応行動の出現率は,中学一年生が
高いと言われています。環境の変化(学校や友達,先生との関係など)を考えると想
像に難くありません。新しい学年や学級がスタートするときには,どこの学校・学級
でもそのためのオリエンテーションや学級活動の時間が多くなります。そのようなと
きのプログラムの一つにエクササイズを入れてみることは可能です。
しかし,実際には,時間的に十分な余裕がないということがあります。そこで,次のよ
うな短時間の取組を継続することも考えられます。
④
朝の会や帰りの会,ショートホームルーム
朝の会,帰りの会等の時間はどうしても連絡事項等が中心になりがちです。そのよ
うなときに,短い時間でできるものをやってみる。もちろん毎日という訳にはいきま
せんが ,毎週月曜日の朝の会はエクササイズの日とするなど ,学校の実態に合わせて ,
位置づけることは可能です。
⑤
昼休みの時間に
雨の日の昼休み,室内で静かに過ごす指導はなかなか難しいものです。特に梅雨の
時期は,児童生徒にとっても,教師にとっても,ストレスのたまる昼休みが続きがち
です。そのような時期の昼休みに,活用してみることも一つの方法です。
また,構成的グループ・エンカウンターは,児童生徒だけではなく,様々な場面で応用
できます。例えば,保護者会の時間の運営について,悩む先生方も多いのではないでしょ
うか 。そういうときに ,構成的グループ・エンカウンターを活用するのも一つの方法です 。
⑥
学年・学級PTAや保護者会の場で
年度当初の学級では,先生も保護者同士も初めてという,お互いが知らない状態で
すので,心理的な構えは強いものがあります。そのようなものを取り除く際に,構成
的グループ・エンカウンターのエクササイズを実施することも一つの方法です 。また ,
家庭の教育力の低下等が叫ばれて久しいのですが,その点について,学級や学年でで
きる指導法と しても有効です 。「子供との接し方のロールプレイ」や「私は私の子供
が好きです」といったエクササイズを体験してもらうことによって,子どもとの接し
方を学んでもらうよい機会になります。
- 34 -
構成的グループ・エンカウンターの活用のポイントと留意点
ポイント1
時期に応じたエクササイズを選択しよう!
年度当初
年度終わり
人間関係が不十分な時期
な の で ,「 広 く , 浅 く 」
児童生徒の人間関係づく
りができるようなエクサ
サイズを選択します。
ポイント2
児童生徒相互の人間関係
がある程度できてきた
ら ,「 狭 く , 深 く 」自 己
理解,他者理解を深めて
いけるようなエクササイ
ズを選択します。
安心して自己開示がで
きるような人間関係が
できてきたら,自己を
語ったり示したりでき
るようなエクササイズ
を選択します。
関連を図っていこう!
道徳,学級活動,短学活の関連を図った中学校の実践例
(道徳)
時 期
資料名
主 題
ねらい
( 学級活動)
9月 第2週
「ことばのおくりもの」
2-(3 ) 「信頼,友情」
互いに信頼しあって正しい
友情を育み,男女仲良く協
力する心情を育てる。
時 期 10月 第2週
活動名 「トラスト・ウォーク」
① 二 人一 組に な り, ジャ ン ケン で 勝っ た
人が 目を つぶる 。
② 負 けた 人は , 相手 を連 れ て教 室 の中 を
案内 する 。
(短学活)
ねらい
事後指導と次時に向けての事前指導
帰りの会を利用して,継続的に
「いいとこコレクション」
友達と互いに信頼しあう
ことの難しさや心地よさを
味わい,信じ合って友情を
深めようとする気持ちを育
てる。
①毎 日,班 の友達の よいと ころをメ モす
展開例
① 本時の学習のねらいを知る
② 活動のルールを知る。
③ エクササイズを行う。
④ 感想を話し合う。
⑤ これまでの自分について考え
る。
る。
② 1週間 後に 班の 友達 に手紙 を書 く。
(短学活)
事後指導(週末の帰りの会時に)
「Xさんからの手紙」
① 本人宛 の肯 定的 なメ ッセー ジを 書く
② 友達か らの 手紙 を読 む
- 35 -
ポイント3
学級の実態に応 じたエクササイズを選択しよう!
時期
クラス替え,4月当初の仲間づくり
状態
何となく硬い雰囲気,元のクラスの友達同士で集ま
ってしまう。
対策
まず,お互いがどういう人なのかをよく知ることが
必要です。徐々にその人の考え方などにもふれる機
会を設け,内面を知る活動へと拡げていきます。お
互いをよく知ることで,他者に対する身構えを解く
ようにします。
時期
クラス替えなしの学級
状態
クラスの中に排他的な仲良しグループができ,何と
なくギスギスした空気がある。
対策
グループの枠を越えた交流は,グループ内での役割
や人間関係が壊れた場合に起きやすいものです。事
前に,グループ間の交流ができるような場をつくる
ことや様々な役割をもてる活動を仕組むことが必要
になってきます。
時期
・クラス替えなしの学級
・クラス替えがあった学級でも学期末や年度末
状態
クラスの中に極端な力関係が存在し,この子はでき
る子,この子はできない子等,子供のイメージが固
定してしまっている。
対策
友達のこれまでのイメージと違う意外な一面を見る
ことで,固定化したイメージが揺らぎます。固定化
したイメージを変えるには,視点を変えて友達を見
る経験が必要です。特に,短所よりも長所という視
点を持つ経験が大事になります。
時期
年間を通して
状態
友達同士のトラブルが多い。協力的な雰囲気がクラ
スの中に育たない。
対策
お互いをよく知ることで,緊張感が弱まります。そ
のような段階で ,
「 協力して楽しかった ,よかった 。」
と思える経験を多くもたせることで,協力的な雰囲
気が生まれてきます。
時期
年間を通して
状態
クラスに活気がない。全体的に消極的な雰囲気がある。
対策
お互いをよく知ることで,緊張感が弱まります。ま
た,自分のよさを見る視点やよさを見てもらう経験
を多く積むことで,自分に対する自信もでき,活気
が生まれてきます。
- 36 -
お 互 い のこ と を 知
り合うエクササイズ
を行います。
(自己理解・他者理
解・自己受容)
グループ間の協力
が必要なエクササイ
ズを行います。
(役割遂行・信頼感)
お 互 い のこ と を知
り合うエクササイズ
や見方を変えるエク
ササイズを行います。
(自己理解・他者理
解・自己受容)
・お互いのことを知
り合うエクササイ
ズを行います。
(自己理解・他者理
解・自己受容)
・グループの協力が
必要なエクササイ
ズを行います。
(役割遂行・信頼感)
・お互いのことを知
り合うエクササイ
ズを行います。
(自己理解・他者理
解・自己受容)
・お互いを信頼でき
るエクササイズを
行います。
(信頼感)
エクササイズ例
エクササイズの名前は,特に決まっていません。実践するときには,児童生徒にとって
分かりやすく親しみやすい名前を考えてみるといいのではないでしょうか 。また,内容に
ついても,実態に応じて人数や内容,方法等の工夫が必要です。
次に示すものは,ほんの一例です。
【主に自己理解・他者理解を目的に】
二者択一
少人数のグループになる。理由を言いながら二者択一を行
う。それを聞きながら,友人の新たな面や気付いたこと,
感じたことなどを話し合う。
サイコロ・トーキング
少人数のグループになる。一人一人サイコロをふる。サイ
コロの出た目で指示されたことについて話す。
私は誰でしょう
自分の特技や好きなこと,がんばったことを一人一人用紙
に書く。用紙を全部集め,一枚ずつ教師が読み上げる。
誰のことかをみんなで当てる。
私だけが知っている
自分自身の経験,個性だと思うことを三つ書き,リーダー
が読み上げ,誰のことか当てる。
支えられている私
ペアになり,一人3分ずつ,自分のことについて語る。そ
の感想を話し合う。一人10分ずつ「いつだれにどんなこ
とで世話になったか 」を質問形式で聞き ,感想を話し合う 。
数グループにどんな感想があったかをインタビューする。
【主に自己受容を目的に】
いいこと探し
ペアになり,ジャンケンをしてAとBを決める。Aは「何
かいいことはありましたか」と尋ねる。Bは今週のうれし
かったことを簡単に話す。Aは「……でうれしかったんで
すね」とBの内容を繰り返し,感想をひと言つけ加える。
3分間,AとBを交代しながら続ける。終了後,みんなに
も伝えたいことを発表する。
Xさんからの手紙
友達のよい行いをカードに書き,人に渡す。自分に届いた
手紙をじっくり読み返す。
私はわたしが好きです
少人数で円をつくる。順番に「私はわたしが好きです。そ
れは○○だからです」というように,自分の好きなところ
を言っていく。
成功物語
1週間,自分のことを取材する期間をとる。
これまでの自分の中で自分が誇りに感じていることを,各
自発表し合う。
2人でリフレーミング
自分の短所と思うところを用紙に書く。
それを読んで,もう一人が違う見方で見た結果を用紙に書
いて本人に返す。
- 37 -
【主に自己主張を目的に】
○かな×かな?
自己紹介カードをもとに,自分に関する○×クイズをつく
る。全員が順番に前に出て問題を出す。他の人は,答えを
予想して,○か×のスペースに移動する。出題者は正解を
伝え,それについて説明する。
無人島SOS
無人島で生活するために必要なものの例が書かれたワーク
シートを配る。ワークシートから自分が必要と思うものを
三つ書く。お互いの考えを聞き合う。
はじめてのデート
4人組になり ,ABCD の役割を決める 。一回目は A がBを ,
相手を傷つけないように配慮をしながら,デートに誘い続
ける。その後は役割を替え,感想を話し合う。
【主に信頼体験】
聖徳太子ゲーム
4人ぐらいのグループをつくり,4文字の単語を考える。
一人一人が一語ずつ同時に発声し,他のグループはそれを
聞き,4文字の単語は何だったかを相談して当てる。
まほうのイス
みんなで心を一つにし,全員が座れる魔法の人間イスを作
る。男女別で小さい一重円をつくる。教師の合図で一斉に
腰を低くし,自分は後ろの人の膝に座る。同時に自分の膝
には前の人を座らせることになる 。成功したら頭上で拍手 。
肩もみエンカウンター
あまり話したことがない人とペアをつくる。ジャンケンで
負けた人が勝った人の肩をもむ。その際,今日あったこと
を思いつくまま話す。交代して伝え合う。相手の話を短く
まとめて確認をとる。感想を話し合う。
【主に感受性の促進】
共同絵画
小グループになり,話を一切しないで,1枚の絵を仕上げ
る。
誕生日チェーン
全員で大きな輪になって並ぶ。リーダーを基準にして1月
1日から12月31日まで誕生日順に並び直す。その際,
話してはいけない 。リーダーの隣から誕生日を聞いていく 。
間違いがあったら正しい場所に誘導する。
心をひとつに
二人組で本等持ちやすいものを一緒に持つ。一人が主にな
ってそれを自由に動かす。もう一人は相手の動きに合わせ
る。役割を交代する。2回の動かし方の違いを話し合う。
相手の動きを感じとりながら,二人にとって心地よい動か
し方をする。
- 38 -
ソーシャルスキルトレーニング,アサーショントレーニング
Q4
児 童生 徒 が 対 人関 係 に つ いて 学 ぶ ため の 技 法に は , どの よ
うなも のがありますか?
ソーシャルスキルトレーニングとは,こんな技法です
ねらいと実施の流れ
「ソーシャルスキル」とは ,「人付き合いのコツ 」「対人関係の技術」のことです。
また「良好な人間関係を築くために,言語的・非言語的な対人行動を適切かつ効果的
に実行する能力」と定義づけられています。本来,これは成長とともに社会体験の中
で身に付けていくものですが,社会体験の不足から「ソーシャルスキル」が十分に身
に付いていな い子供たちが多く見られるようになりました。それならば ,「学びそこ
な ったの なら, 新たに学 べばい い 」,「間違っ て覚え たのな ら,学び 直せばい い」と
いう考え方がソーシャルスキル・トレーニングの基本的な発想です。
流れとしては,以下の通りです。
①インストラクション
○重要性に気付かせながら,言葉でスキルを教える。
( 言語 的 教示 )
② モ デリ ン グ
○スキルの見本を見せてまねさせる。
③ リ ハー サ ル
○頭の中や実際の行動で何度も繰り返す。
④ フ ィー ド バ ッ ク
○ やって みた こと をほめ たり ,修正 したり して ,やる 気
を高める。
⑤定
着
化
○練習したスキルを実際の場面で使えるように促す。
指導者(リーダー)によって示された課題や活動(モデリング・リハーサル)を個人や
グループで体験させ,よい点をほめ,改善点を修正しながらやる気を高めさせること(フ
ィードバック)により,
「自分がいい。みんながいい 。」=「自己肯定・他者肯定」
といった自他発見や人間関係づくりに必要なコミュニケーションスキルを実際の場面で使
えるように促します。
主な育つ力(研究構想図との関連)
〈適応する力〉
・自己表現…必要なことを相手の気持ちを考えて主張すること。
〈理解する力〉
・自己理解…自分自身のことをよく理解すること。
・他者理解…仲間をかけがえのない大切な一人の人間として受け入れること。
- 39 -
ソーシャルスキルトレーニングの活用のポイントと留意点
ポイント1
ソーシャルスキルの種類を知ろう!
基 本的 な ソー シャ ル スキ ルに は右 の よう なも の ・あいさつ
・自己紹介
があります 。(「『 ソーシャルスキル教育で子どもが
・上手な聴き方
変わる』国分康孝監修 図書文化」より)
・質問の仕方
こ うし た スキ ルを , 学校 ・学 級と い う集 団の 中 ・仲間の誘い方
・仲間への入り方
で身に付けさせるのです。
「 そう し てみ たら 相 手も 自分 もい い 気持 ちだ っ ・あたたかい言葉かけ
・気持ちをわかって働きかけること
た 。」「よい結果が得られた 。」という実感が定着へ
・やさしい頼み方
とつ なが り ます 。そ の ため にほ めた り ,修 正し た ・上手な断り方
りし てや る 気を 高め る フィ ード バッ ク は欠 かせ ま ・自分を大切にすること
・トラブルの解決策を考えること
せん。
ソ ーシ ャ ルス キル を 身に 付け るこ と で, 子供 は
学級集団の中に楽に入ることができます。さらに学級全員のスキルが向上することで,互
いに結びつきが強まり,学級が居心地のよい雰囲気になることでしょう。
ポイント2
実施する際にはこのような点に留意しよう!
①楽しい雰囲気で行われているか。
②学級の人間関係が混乱していないか。
③トレーニングに取り組む子どもの意欲はどの程度あるか。
④教えるソーシャルスキルは子どもの実態に合っているか。
⑤用いるモデル(いい例)は適切か。
⑥リハーサル(練習)は楽しめるように工夫されているか。
⑦適切なフィードバックが与えられているか。
「楽しい雰囲気」の中で行い ,「教え込む雰囲気」にしないことが大切です。ソーシャ
ルスキルトレーニングの目的は ,「楽しく人とつきあう方法を学ぶ」ことです。楽しみ方
を学ぶ集団は楽しいこと,そして,それを教える教師も楽しむことが大切です。
学級の人間関係が悪化している,特に援助の必要な子供がいる場合は,個別に対応し,
その人間関係を修復してから,学級で実施することが大切です。
「や ってみ てよかっ た 。」という 体験が ,「ま たこれと 同じこと をやって みよう」 とい
う気持ちを生み出します。そのためには,振り返ってほめること(フィードバック)を丁
寧に行うことが大切です。
- 40 -
ソーシャルスキルトレーニングの実践例
【ねらい 】「あたたかい言葉」 をかけられると気持ちがいいことに気付き,進んでつか
おうとする。
学
習
活
動
教師の手立て・留意点
《インストラクション》
・ あた たかい 手紙 と冷た い手 紙を準 備し て
導 1 友達から届いた短い手紙(3通程
おき ,それ ぞれ の感じ 方の 違いに 気付 か
度 )の紹介を聞き ,感想を発表する 。 せる。
・ 普段 使って いる 言葉に も, あたた かい 言
入
葉と そう でな い言 葉が あるこ と, あた た
かい 言葉 は相 手を とて も気持 ちよ くす る
ことを確認する。
《モデリング》
2 いくつかの場面の絵を見て,どの ・「 ほめ る 」「 励ます 」「心配する 」「感謝 す
ような言葉かけをするか発表する。
る」 など の様 々な 場面 の絵を 準備 し, 出
展
てき たあ たた かい 言葉 をカー ドに 書い て
いく。
( すご いね ・上手 だね ・ド ンマ イ・大 丈夫 など )
《リハーサル》
3 4人組をつくり,一人が得意な跳 ・ モデ リング で挙 げられ たあ たたか い言 葉
び方で縄跳びをする。それを見なが
のカ ードを 提示 してお き, その言 葉を 参
ら,他の3人は順番にあたたかい言
考にさせる。
葉をかけていく3分程度の時間内で ・ 上手 に跳ん でい るとき ,失 敗した とき ,
何回か繰り返す。最後に言葉かけを
一生 懸命し てい るとき など ,状況 に合 わ
開
してもらった感想を発表する。
せて言葉かけができるようにする。
4
縄跳びをする人を交代しながら,
全員順番に言葉かけをしてもらう。
《フィードバック》
ま 5 4 人で感想を発表しあう。
・ 自分 で感想 を考 えられ ない 子には ,次 の
2点を助言する。
と
◇あたたかい言葉でどれが嬉しかったか。
◇あたたかい言葉をつかってどう思ったか 。
め 6 よかった点を聞き,これからの生 ・ 子供 の感想 や態 度など の中 からよ かっ た
活に生かす大切さを知る。
点 を 紹 介 す る 。( 非 言 語 的 な 側 面 〔 声 や
表情 など〕 に目 を向け てい る感想 など に
も注目する)
- 41 -
アサーショントレーニングとは,こんな技法です
ねらいと三つの自己表現
アサーション( assertion)という言葉を英和辞典で調べてみると「主張 」「断言」と
あります。しかし,ここで取り上げるアサーションとは,もっと幅広い意味を含んで
いて ,「自分の気持ち,考え,意見,希望などを率直に,しかも適切な方法で自己表
現 するこ と 」,「自分と 相手の 相互を 尊重しよ うとい う精神 で行うコ ミュニケ ーショ
ン」を意味しています。
昨今 ,子供たちは人間関係づくりが不得手になってきたと言われています 。しかし ,
このアサーションの表現技法が身についていると,スムーズな対人関係をつくりやす
くなり,ストレスもたまりにくくなります。
そこで,学 校においても ,「予防的・開発的な側面」の一つとして,アサーション
を身に付けるための訓練,つまり「アサーショントレーニング」の必要性が叫ばれる
ようになってきました。
◇三つの自己表現(コミュニケーションスタイル)
アサーションを理解する上で,コミュニケーションの三つのスタイルを知っておく必要
があります。そして,その三つの中で,自分自身がどの表現スタイルを使いがちであるの
かを理解しておくことが必要です。
攻撃的(アグレッシブ)な自己表現
=
自分の怒りをそのままぶつけるタイプの
話し方
相手の気持ちを配慮しないので,その主張が正しくても受け入れられず,かえって恨ま
れたり,ケンカに発展したりすることもあります。そして,自分でも「あれは言い過ぎた
かな 。」「あそこまで言わなくてもよかったかな 。」と後悔し,自分が言ったことでストレ
スがたまることもあります。
非主張的(ノン・アサーティブ)な自己表現
怒りを抑え,我慢するタイプの
話し方
自分の怒りや主張より相手のことを優先するので,自分の気持ちは押さえつけたままで
す。我慢ばかりするので,ストレスがたまります。
アサーティブな自己表現
=
=
自己主張を上手にするタイプの話し方
相手の主張や都合を聞き入れます。そして,穏やかに自分の言いたいことを相手に伝え
る話し方をするので,相手に恨まれることは少なくなります。相手を怒らせず,自分も我
慢しないのでストレスがたまりにくいといえます。
アサーショントレーニングとは,3番目の「アサーティブな自己表現」というコミュニ
ケーションスタイルを身につけることを指します。
主な育つ力(研究構想図との関連)
〈適応する力〉
・自己表現…必要なことを相手の気持ちを考えて主張すること。
〈理解する力〉
・自己理解…自分自身のことをよく理解すること。
・他者理解…仲間をかけがえのない大切な一人の人間として受け入れること。
- 42 -
アサーショントレーニングの活用のポイントと留意点
ポイント1
アサーション権について知ろう!
アサーションを支えるものに「 アサーション権 」という基本的人権があります 。これは ,
アメリカにおける人種差別反対運動や婦人解放運動を支える基本的人権として認められた
ものです。平木典子氏は,次のようにアサーション権を紹介しています。
①私たちは,誰からも尊重され,大切にしてもらう権利がある。
②私たちは誰もが,他人の期待に応えるかどうかなど,自分の行動を決め,それを表
現し,その結果について責任を持つ権利がある。
③私たちは誰でも過ちを犯し,それに責任を持つ権利がある。
④私たちは支払いに見合ったものを得る権利がある。
⑤私たちは,自己主張しない権利もある。
「平木典子著『アサーション・トレーニング』
日本・精神技術研究所」より
これらの権利をふまえアサーションの留意点を簡単に説明すると ,「自分の気持ちや考
えなど の言い たいこと をはっき りさせる こと 」,「それを きちんと 表現でき るコミュ ニケ
ーションスキルを身に付けること」がアサーションには必要です。しかし ,「アサーショ
ンを学んだからといって,いつでもアサーティブに表現しなければならないと思わないこ
と」も大切なポイントです。
ポイント2
DESC(デスク)法を知ろう!
この方法は,自分の要求や主張をきちんと整理する必要があるときや自分の気持ちや考
えを明確にしてから話すときなどに役立ちます。英語の頭文字をとって「 DESC 法」と呼
ばれています。 D ( describe 描写する ), E ( express,explain 表現する,説明する ), S ( specify
特定の提 案をする ), C( choose 選 択する) という過 程をたど ってセリ フをつくる方 法で
す。具体的には ,「見たこと・事実の確認 」「感じたこと・思ったこと 」「提案・お願い」
「提案を受け入れてもらえない場合を予想しての案」という手順でセリフを考える方法で
す。
例えば,図書室で本を読んでいて隣の子が騒ぎ出したとき ,「うるさい,静かにして」
ではなく ,「 さっきか ら大きな声 で話してい るね 」(見たこと ),「ぼく は静かに本を 読み
たいのに,君の話し声がうるさくて迷惑しています 」(感じたこと ),「ここは図書室だか
ら静かにしてくれませんか 」(提案・お願い ),「もし話をしたいのなら,他の場所でして
くれませんか 」(否定された場合を予想しての案)という具合です。
DESC (デス ク)法は相手に 対してどのように 言ったらいいのか分からない 場合や言い
方が思いつかない場合に有効な手段の一つです。
- 43 -
アサーショントレーニングの実践例①
小学校高学年・中学校の学級活動における一つの例を紹介します。これは,アサーショ
ントレーニングの導入にあたります。
【資 料 1 】
【導入】
1 ・自己表現(自分の気持ちや考えを表す)にはどんな
方法があるかを知る。
(言語表現,身体表現,絵画表現,音楽表現など)
・今回の学習では,コミュニケーション場面における
自己表現について学習することを知る。
【展開】
代表的な3つの自己表現について理解する。
①教師モデルのロールプレイを見る。
② 2 人組でシナリオにそってロールプレイする。
【資料 1】
(役割を交代して両方の立場で行う。)
〔ロールプレイ後,「ふりかえりシート」に記入〕
☆Aさん,Bさん,Cさんの 3 人の話し方の中で
・やってみて一番気持ちがよかったのは?
・やってみて一番嫌な気持ちになったのは?
☆ 3 人の相手役の中で
・一番気持ちがよかったのはどの人が相手の時?
・一番嫌な気持ちになったのはどの人が相手の時?
☆ロールプレイが両方終わったあとで
・自分がやるのも,相手役をするのでも気持ちがよ
かったのはどの人の時?
・その理由を書いてみよう。
③ワークシート「この人どんな人」【資料 2】に記入し,
自分の考えを発表する。
④人物の印象をまとめる。
⑤3つのタイプにネーミングを行う。
A:攻撃的タイプ→(
)
B:非主張的タイプ→(
)
C:アサーティブなタイプ→(
)
2
※このネーミングは,今後クラスでアサーションを継続的に実施する
際に使用する。
(例:いばりやさん,おどおどさん,さわやかさんなど)
⑥「アサーションとは,自分も相手も大切にした自己
表現のこと」であることを知る。
【まとめ】
学習のまとめをする。
・今回の学習で感じたことや気づいたことなどを話
し合う。
・「 ふりかえりシート」に授業の感想などを記入する。
3
【資 料2 】
ワークシート「この人どんな人」(例)
○下に並んでいる言葉は,どの人の話し方を表して
☆ A さん
★ B さん
いるでしょうか。
◎ C さん
■選ぶ言葉■
控えめでおとなしい
はっきりしない
いばっている
いじわる
自分も相手も大事にする
はきはきしている
いじけている
相手の気持ちを大切にする
さわやか
わがまま
自分の気持ちを大切にしている
ガミガミ
- 44 -
シナリオ「3つの話し方」
●友達と遊ぶ約束をしたあなたは,待ち合
わせの場所でずっと待っていたのです
が,とうとう友人は現れず,連絡もくれ
ませんでした。翌日,学校でその友達と
会ったあなたは・・・。
☆Aタイプ(攻撃的タイプ)
相手役:「おーい。」
Aさん:「なんだよ。」
相手役:「ねえ,今日帰ったら,一緒に
遊べる?」
Aさん:「なに調子のいいこと言ってん
だよ。昨日はどうして来なかっ
たんだよ。ずっと待ってたんだ
からな。もうおまえとは二度と
遊んでやらないからな。」
☆Bタイプ(非主張的タイプ)
相手役:「おーい。」
Bさん:「なあに?」
相手役:「ねえ,今日帰ったら一緒に遊
べる?」
Bさん:「う,うん・・・。」
相手役:「だめなの?」
Bさん:「え,う,うん。いいよ。遊べ
ると思うよ。」
☆Cタイプ(アサーティブなタイプ)
相手役:「おーい。」
Cさん:「なあに?」
相手役:「ねえ,今日帰ったら,一緒に
遊べる?」
Cさん:「それよりさ,昨日はどうした
の?ぼくずっと待ってたんだ
よ。」
相手役:「ごめんごめん。帰ったらお客
さんが来ていて買い物を頼まれ
ちゃったんだよ。だから昨日の
かわりに今日遊べないかと思っ
て。」
Cさん:「ふーん,そうだったの。電話
で遊べないって教えてくれれば
よかったのに。今度からは電話
してね。」
相手役:「うん,分かった。そうするよ。
ところで,今日は遊べる?」
Cさん:「オッケー。じゃ 4 時に昨日約
束した公園ね。」
アサーショントレーニングの実践例②
三つの自己表現についての理解をより深めていく実践例です。
【導入】
1 ・誕生日チェーンなどのアイスブレーキングをする。
・三つの自己表現について確認する。
・今回の学習では,3つの自己表現についてより理解を深めていくことを知る。
【展開】
三つの自己表現について理解を深める。
①設定場面を知る。【資料 1】
2
1ヶ月前にA君に CD を貸しました。あなたは,心の中ではもう返してほしいと思っています。そ
こへ,借りている CD は返さないまま友達は次の CD を新たに貸してほしいと言ってきます。あなた
は何と言いますか?
②グループになり,与えられた課題で3つの自己表現を用いた会話のセリフを作成する。
※セリフは役割分担して作成する。
③セリフ完成後,二人ずつで演技する(他の人は観察する)。
④3つの自己表現を聞いたときの感想を話し合う。
⑤その結果をグループの代表者が全体に発表する。
【まとめ】
学習のまとめをする。
・今回の学習で感じたことや気づいたことなどを話し合う。
・「ふりかえりシート」に授業の感想などを記入する。
3
【資料1】
1ヶ月前にA君に CD を貸しました。あなたは,心の中ではもう返してほしいと思っています。そこ
へ,借りている CD は返さないままA君はあなたへ次の CD を新たに貸してほしいと言ってきました。
あなたは何と言いますか?
○
3つのコミュニケーションの方法を用いて,A君に対してのセリフを3パターン考えてみよう。また,
それぞれの言い方でどんな気持ちになったか話し合おう。
1
攻撃的な自己表現
A君のセリフ
あなたのセリフ
「CD を貸してよ。」
「その言い方腹立つね。まだ,借りていて
いいだろう。減るもんじゃないし。」
「もう次からは借りないからね。おまえは
もう友達でもない。じゃあな。」
2
非主張的な自己表現
A君のセリフ
あなたのセリフ
「CD を貸してよ。」
「貸してもいいだろ。その CD を聞きたい
んだよね。」
「いいんだよね。じゃあ明日,持ってきて
よ。じゃあ明日ね。」
3
アサーティブな自己表現
A君のセリフ
あなたのセリフ
「CD を貸してよ。」
「ごめん。ごめん。困っているんだね。わ
かったよ。」
「悪かったね。明日持ってきて返すから。
でも,次の CD も貸してくれないかな。」
- 45 -
コラージュ技法
Q5
児 童生 徒 が 作 品づ く り を 通し て , 自ら を 表 現し , 受 け入 れ
ていく ような技法には, どのようなものがあ りますか?
コラージュ技法とは,こんな技法です
ねらいと実施の流れ
コラージュ( collage )とは,フランス語で「のりづけする」ことです。雑誌やカタ
ログの写真から,好きなものや心に引っかかったものを切り抜き,それらを画用紙の
上にレイアウトして,のりで貼ります。砂の上に玩具を並べる「箱庭療法」というも
のがあります が,それをどこでも簡単に平面上で行えるように考案されました 。「切
る・貼る」という動作が,心の「拡散・統合」につながるとともに,作品として内面
を表現することが,自己治癒を促します。
つまり,コラージュ技法は次のようなねらいをもって実施できます。
○意識・無意識の部分を形として表現する。
:( 自己表現)
○「自分が知らない自分」に気付くことができる。 :( 自己理解)
○自己の内面を表現したことで癒される。
:( 自己治癒)
他にも,実施の方法によって様々な効果が期待できます。
コラージュ技法の基本的な流れ(マガジン・ピクチャー・コラージュ法式)は,次のよ
うになっています。
※ マガジン・ピクチャー・コラージュ法=雑誌などから直接ハサミで切り取り,画用
紙等へ貼り付ける方法。
事前準備
○画用紙(八つ切り,四つ切り) ○はさみ(先の丸いもの)
○写真の多い雑誌・カタログ・パンフレット・広告等
コラージュ作成
○のり
(30分~1時間程度)
児童生徒への指示
「雑誌やカタログの中から,好きなものや心に引っかかった
ものを切り抜いて,画用紙に貼ってください 。」
雑誌等の写真から ,好きなものや心に引っかかったものを自由に何枚でも切り抜く 。
それらを画用紙の上にレイアウトして,のりで貼る。
作品鑑賞
児童生徒同士や教師と児童生徒で作品を鑑賞し,質問や感想を述べ合う。
主な育つ力(研究構想図との関連)
〈適応する力〉
・自己表現…自分の内面を作品として表現すること。
〈理解する力〉
・自己理解…自分自身のことをよく理解すること。
・他者理解…仲間をかけがえのない大切な一人の人間として受け入れること。
- 46 -
コラージュ技法の活用のポイントと留意点
ポイント1
安心できる空間をつくろう!
コラージュの画用紙は,その人にとって自由かつ保護された空間です。画用紙という枠
があるからこそ安心でき,その中で存分に表現することができるのです。
そして,コラージュ制作をする場所もまた,安心できる空間でなくてはなりません。制
作中,教師は静かに寄り添う感じで空間を共有します。児童生徒が集中して制作できるよ
うに,少し離れた場所から時々目を向ける程度がよいでしょう。じっと見つめる,あれこ
れ話しかけるなどの積極的なかかわりは禁物です。児童生徒も私語は控えます。そうした
静かな落ち着いた空間で制作することが,内面の表出や自己治癒につながります。
ポイント2
児童生徒理解のための視点をもっておこう!
コラージュは,制作する本人にとって自己治癒を促す有効な方法であると同時に,他者
が本人を理解するきっかけにもなるものです。
教師は,児童生徒理解のために次のような視点をもって作品を鑑賞しましょう。
○作品はどんな印象か 。(楽しい,さびしい,元気がない,まとまりがない等)
○本人はどんなものに興味があるのか。
○本人が現在どんな自己像をもっているか。また,目指す自己像はどんなものか。
○(初めてでなければ)これまでの作品との共通点,変化はあるか。
ポイント3
児童生徒とのかかわりに生かそう!
完成した作品をもとに対話をすることで,自己理解,他者理解,さらには人間関係が深
まります。言葉での表現が苦手,話のきっかけがつかみづらいという児童生徒とのかかわ
りにも,とても有効です。
作品を見ながら,次のような言葉をかけるとよいでしょう。
○作品についての質問
「この作品にタイトルをつけるとしたら? 」「テーマは何? 」「どんな場面?」
「この中に自分はいる? いるならどれ? 」(自己像を探る)
「ここはどこだろう?」
「この人はどうして笑ってるんだろう? 」(場面設定を詳しく聞く)
○作品についての感想・気付き
「楽しそうな雰囲気だね 。」
「動物がいっぱい出てきているね 。」「好きな動物は何? 」(会話を広げる)
- 47 -
【作品と言葉かけの例】
「 カラフルな車がいっぱいあって楽しいね 。」
「○○さんはどれに乗ってるの?」
「この車に乗ってどこに出かけたい?」
「おもちがおいしそうだね 。」
「○○さんはこの中にいるの?」
「この年賀状はだれに送るの?
だれかからもらったのかな?」
コラージュ技法の実践例
教師がコラージュ技法を行う場合は,作品の心理学的な解釈を求めるよりも,児童生徒
の自己治癒を目的に,また教師と児童生徒及び児童生徒の相互理解や人間関係づくりのき
っかけを目的に活用するのがよいでしょう。
不登校児童生徒と教師の関係づくりに
実施時
児童生徒が別室に登校しているとき。または,教師が家庭訪問したとき。
目
的
欠席の多い児童生徒とはどうしても接点が少なくなり,関係づくりが難し
くなる。また,集団不適応の児童生徒は自己表現が苦手な場合が多い。コラ
ージュ技法によって,自己表現の場をつくると同時に,作品を通したかかわ
りで教師との関係を築き,児童生徒理解の手がかりとする。
方
法
○用具は教師で準備する。雑誌等からあらかじめ写真をたくさん切り抜き,
箱に入れておく方法もある 。(コラージュ・ボックス法式)
○気に入った写真を切り抜いて(選ばせて)画用紙に貼らせる。
※制作に抵抗を示すようであれば,教師が同時に制作してもよい。また,次
に会うときまでの宿題にしてもよい。
※継続的に取り組むことで気持ちの変化を見ることができ,理解が深まる。
※本人の許可を得られれば,他の教師や児童生徒に見せてもよい。
- 48 -
年度初めの自己紹介の材料に
実施時
4月の学級活動・ホームルーム活動で自己紹介をするとき。
目
毎 年新 学級の スター トには 自己紹 介を する。 その際 ,「自分 」「 今年の わ
的
たし」といったテーマを設定してコラージュを制作させる。それを見せなが
ら自己紹介をさせることで,児童生徒同士の他者理解を深める。
方
法
○学級活動・ホームルーム活動の時間に,テーマにそってコラージュ制作を
行う。自分の好きなもの,興味のあることなどを貼り合わせる。サインペ
ン等で少し書き込みをしてもよい。
○できた作品を見せながら,自己紹介をする。
○グループになって質問や感想を出し合うと,他者理解がより深まる。
○使用後は,教室に掲示しておくのもよい。
※学級で一斉に行うので,用具は各自で準備させるが,雑誌は教育的でない
ものがないように配慮する。
集団のまとまりや意識の向上に
実施時
学校行事の前や学級で班活動に取り組む前に。
目
学校行事や学級内での班活動には,メンバーのまとまりが必要である。
的
グループで一つのコラージュをつくるという活動を通して ,相互理解を図り ,
人間関係を築くと同時に,協調性や目的意識を養う。
方
法
○グループで今後の活動に向けてのテーマ・目標を決め,それを一つのコラ
ージュで表現する。人数が多いので,大きめの画用紙か模造紙に貼る。
○完成後,制作しての感想や,今後に向けての抱負などをグループで語り合
う。
※貼る物で一人一人の個性が表現されつつも,貼る位置や並べ方には協調性
が求められる。
※グループのメンバーで一つのものをつくり上げた達成感が得られ,団結が
強まる。
- 49 -
ストレスマネジメント
Q6
児 童生 徒 が ス トレ ス の 予 防や 対 処 の仕 方 に つい て 学 ぶた め
の技法 には,どのような ものがありますか?
ストレスマネジメントとは,こんな技法です
ねらいと実施の流れ
近年 ,自分のストレスに気付かなかったり ,上手に対処できなかったりするために ,
友人とのトラブルや心身の不調を訴えるストレス耐性の低い子供が増加してきていま
す。
そこで,注目されてきたのが「ストレスマネジメント」です。
「ストレスマネジメント」とは,ストレスの本質を知り,それを阻止・軽減するた
めの対応策と具体的な介入を目的とした健康教育です。
「つらいことに合ったら,悲しくなるし,嫌なことをされたら,怒りの感情が湧き
ます。しかし,人は悲しみや怒りを和らげる力を持っています。自分を傷つけず,人
を傷つけない感情表現を身につけること。悲しみや怒りを,自分を生かし,社会に生
かすエネルギーにすること 」( 1984 年 Lazarus & Folkman )がストレスマネジメント
の基本的なメッセージです。
「ストレスマネジメント」の内容は,下記のように4段階からなっています。
段
階
内
1段階
ストレスの概念を知る。
2段階
自分のストレスに気付く。
3段階
ストレス対処法を習得する。
4段階
ストレス対処法を活用する。
容
自分 自身が どの ような 出来 事や事 態を ス
トレッサー( 人間の身体や心にかかる圧力 )
と 感じ ,どの よう なスト レス 反応を 生じ ,
い かに 対処し てい るかを 振り 返って いき ま
す。
自分自身の心身のストレスを軽減する対
処法を習得します。
実際に様々な場面においてストレス対処
法を活用していくことを促していきます。
育つ力(研究構想図との関連)
〈適応する力〉
・自己調整…ストレスなど自分自身の心身への負担を軽減し調整すること。
〈理解する力〉
・自己理解…自分自身のことをよく理解すること。
・他者理解…仲間をかけがえのない大切な一人の人間として受け入れること。
- 50 -
ストレスマネジメントの活用のポイントと留意点
ストレス発生の仕組みを知ろう
ポイント1
【 図1 】
ストレス発生経路図
様々な刺激
ストレス反応
悪い
コーピング(対処)
評
価
(嫌だな,つらい)
変える
ストレッサー
なくす
弱める
心
(不安,心配)
落ちつく
身
体
(ドキンドキン)
興奮が静
まる
行
動
良い
コーピング(対処)
「『 ストレスマネジメントテキスト』大野太郎等編
東山書房」参照
ストレスとは「人間の身体や心にかかる圧力(ストレッサー)によってひずみが生じた
状態 」(『 カ ウンセリ ング大辞 典』新曜 社)のこ とです。 ストレス は,スト レッサー とな
る刺激により引き起こされます。しかし,刺激そのものは,すべての人に影響を及ぼすも
のでは ありま せん。人 がその刺 激に対し 「嫌だ」 とか「辛 い 」,あるい は「楽し い 」「う
れしい」といった評価を行うことによって,単なる刺激がストレッサーに変化します。逆
に「 何ともない 」という評価では ,ストレッサーが生じることはありません 。このように ,
同じ刺激を受けても,人によって反応が違うのは,評価の差があるからです。
そして,ストレッサーとして評価された刺激によって,ストレス反応,つまり心理的興
奮が生じます。その心理的興奮は,次に身体的興奮を招き,その結果,何とかしなければ
という行動を起こします 。これがコーピング( 対処 ) です 。
「 悪いコーピング 」 を行うと ,
その後,またそれがストレッサーとなります。例えば,キレて友人を殴ったら,先生から
怒られ,それがまたストレッサーになるという悪循環を繰り返します。このように,良く
くさび
ない対処を行うと,ストレス発生の流れに 楔 を打つことができません。しかし,ストレ
ッサーに対して,あるいは評価に対してうまく対処できれば,ストレスは発生しません。
このような正しい対処の方法を考えていくことが,大切となってきます。
まとめると【図1】のようになります。
- 51 -
ポイント2
ストレスマネジメントの技法を知ろう
ストレス対処法をまとめると【図2】のように分類されます。
【図2】ストレス対処法分類
ストレスマネジメントの技法
自己 コン トロ ール法 に基づ く技 法
①動作によるもの
対 人関 係に基 づく 技法
② イメ ージに よるもの
③ ソ ーシ ャル
④ コミュニケーション
サ ポ ート
スキル学習
では,図中の①~④の技法にはどのようなものがあるか簡単に紹介します。
①『動作によるもの』には,漸進性筋弛緩法,呼吸法,肩の上下などの動作法などがあり
ます。これらは後の「ストレス対処法を知ろう①」を参考にしてください。
②『イメージによるもの』には,イメージ法,自律訓練法などがあります。これらは後の
「ストレス対処法を知ろう②」を参考にしてください。
③『ソーシャルサポート』とは,その人をとりまく重要な他者から得られる様々な種類の
援助(サポート)のことです。
その定義や分類はいろいろありますが,コブ( Cobb )は,
・他者からケアされている,愛されていると信じさせるような情報
・他者から尊重されている,価値ある者とみなされていると信じさせるような情報
・相互に義務を負うようなコミュニケーションネットワークに所属していると信じさせ
るような情報
など,主として情動的なサポートに焦点をあてています。
また,ハ ウス( House )に よれば,安心感 や自尊心の増す情報を繰り返し 与える情動
的サポート,品物やサービスという形で困っている人に直接的に援助する物質的サポー
ト,問題や悩みを抱えている人に利用可能な情報を提供する情報的サポートなどをあげ
ています。中でも情動的サポートと情報的サポートについては,ストレスの直接的軽減
効果と緩衝効果を指摘しています。
『ソーシャルサポート』の身近な例をあげるとするならば,スクールカウンセラー等
の教育相談員の学校配置が考えられます。
④『コミュニケーションスキル学習』とは,コミュニケーションがスムーズにいかないと
ストレスがたまることをふまえ,ストレス対処に不可欠な気持ちがよいコミュニケーシ
ョンの仕方を 学ぶことです。その代表的なものに「ソーシャルスキルトレーニング 」,
「アサーショントレーニング 」,「構成的グループ・エンカウンター」などがあります。
これらは前述の章を参考にしてください。
- 52 -
ポイント3
実施する際にはこのような点に留意しよう!
①配慮を要する子供
動作法やイメージ法などで,目を閉じることができない子供,ふざけたり反発したり
する子供こそ,最もケアが必要です。家庭で辛いことがあると,リラックッスしたとき
に辛いことがよみがえることがあります 。はしゃぐことで,辛い気持ちから身を守って
いる場合があります。やりたくないことは無理しなくてもいいことを伝え,個別のケア
につなげていく配慮が必要です。
②教師が体験する
教師がストレスマネジメントのプログラムを提案するときは,事前に自分が体験し,
よいと思ったものだけを実践するといいでしょう。
③自分に合った体験法を自己選択させる
これをやりなさいと強制することなく,子供たち自身がよいと感じたものを自分で選
ばせていくことが大切です。
④様々な機会に実施してみる
ストレスマネジメントの授業は,朝の会,帰りの会や学級活動,ホームルーム活動,
保健体育などの時間を活用して実施するとよいでしょう。また,学年集会や全校集会な
どで実施することも可能です。その他にも,休み時間や昼休み,放課後のちょっとした
時間などに気になる子供に実施することもできます。
次ページからは ,「自己コント ロール法に基づく技法」における主なストレス対処法を
紹介します。
- 53 -
ストレスマネジメントの実践例①(動作法)
ここで紹介するプログラムは,単にリラクセーション効果が得られるだけでなく,自分
自身や他者に向き合い,動作課題を遂行することによって,自己理解や他者理解を深める
こともできます。
活 動 内 容
児童 生徒 への 指 示・ 留意 点
からだほぐし・人間温湿布
① 手を組んで,手首・肘・肩を頭上に引き上 ・
「背伸びをしてリラックスしてみましょう。
」
げるようにする。
② 足も伸ばし身体全体に力を入れる。
・
「手を組んで,背伸びをしましょう。そのまま肘
を伸ばしましょう。続いて,ひざやつま先も一緒
に伸ばしましょう。
」
〔約20秒〕
③ 身体に力を入れた後,力を抜いて,そのリ ・
「はい,ストン,と力を抜きましょう。まだ,動
ラックスする感じを味わう。
かないで,身体全体がらく~になっていく感じを
味わってみましょう。
」
④ 力を抜いた後,すぐに動かないで,力が抜 ・
「そのほか,自由にからだを動かしたり,もみほ
けていく身体の感じや気分を感じとる。
ぐしたりしましょう。
」
※ 自分のペースで行う。痛いところがあれば無理
して動かさない。
※ 手を組んで,左右に倒したり,ねじったり,首
を回したりして,疲れがたまっているところをさ
がしてみるのもよい。
⑤ 二人一組になる。
・
「ペアになって,一人はうつぶせになりましょう。
もう一人は,手をこすり合わせて手のひらを温か
⑥ 湿布をはりつけるように,そっとやさしく くして,相手の背中にそっと置きましょう。
」
手をおく。
- 54 -
活 動 内 容
児童 生徒 への 指 示・ 留意 点
ホッとする姿勢
① 椅子に座る。
・
「誰にでもできる短時間プログラムです。勉強の
合間にもできるものです。
」
② リラックスできる座り方をする。
・
「それぞれ椅子に座って楽な姿勢をとってくださ
い。
」
③ ホッとする姿勢を自分なりに考え工夫する。・
「ホッとする姿勢です。自分がリラックスできる
と思う姿勢をつくってみてください。
」
※ ストレスがたまっている子供は,背もたれに大
げさに背中を反らせたり,床に寝転がることがあ
る。また,絶えず緊張していないと気がすまない
子は,
足を曲げたままの姿勢をつくることがある。
机に伏せてしまう子もいる。
構えの姿勢
① 椅子に尻全体で座り,背もたれに寄りかか ・
「構えの姿勢です。背もたれから背を離して,浅
らないようにする。
めに座ります。
」
② 両腕は力を抜き,身体側におろす。
・
「両腕はだらんと横に垂らします。
」
③ 顎をひいて,背筋を伸ばし,姿勢が真っす ・
「そして,頭のてっぺんからお尻まで1本のしな
ぐになるようにする。
やかな軸を通してください。腰が痛い人は,腰
を反りすぎてはいませんか。
」
・
「身体の軸を少し前に倒したり,後ろに傾けたり
して,一番どっしりする感じの所に身体を据えま
しょう。
」
※1
試合や試験に臨むときのリラクセーション
は,ホッとする姿勢ではなく,真っすぐの姿
勢で行う。
※2 姿勢をつくるだけで「きつい」
「痛い」と言
う子供には「そこに疲れがたまっているか,頑
張りすぎているかなので,もう一度ホッとする
姿勢に戻しましょう。
」と伝える。
- 55 -
・
「目を閉じると気持ちをさらに集中させることが
できます。
」
〔10秒ほど間をとる。
〕
※3 目を閉じられない子は,不安感の強い子が多
い。日常生活でのストレスが想像できる。
「目
を閉じたくない人は,閉じなくてもよい。
」と
伝える。
・
「こういう姿勢をつくるだけで,気持ちがしゃき
っとすることがあります。
」
・
「はい,ホッとする姿勢に戻しましょう。
」
※2回ほど繰り返す
活 動 内 容
児童 生徒 への 指 示・ 留意 点
10秒呼吸法
※ 参加できない者には無理強いしない。
※ リラックスできる姿勢。
・
「次に呼吸法について体験してみましょう。
」
・
「姿勢を整えます。椅子の背に軽くもたれ,ひざ
は鈍角にし,両手はひざの上に乗せ,首は楽に
してください。
」
① 目を閉じるだけで集中力が増す。
「10秒」や ・
「目を静かに閉じましょう。
」
「腹式呼吸」にとらわれすぎるとかえって緊
張するので,自分にとって無理のない自然な
ペースで行う。
・
「では・・・1・2・3で鼻から息を吸い込み,4
② 吸う(お腹がふくれて緊張状態)
で止め,5~10で口から息をゆっくり吐き出
→自然にまかせる。
してださい。
」
〔約2分間〕
③ 吐く(身体の弛緩)
※ 「吸う」より「吐く」に重点を置く
→顔面の緊張が高まらない程度に軽く口を
すぼめて,口から細く長く遠くに吐き出 ※ 「日ごろの疲れや不安,モヤモヤを外に吐き
すように意識する。
出すイメージで。
」
・
「もとに戻しましょう」
(消去動作)
(
「グー」
「パー」
,首回し,伸びなど)
- 56 -
活 動 内 容
児童 生徒 への 指 示・ 留意 点
セルフ・リラクセーション
(肩の上下プログラム)
① 椅子に尻全体で座るようにする。
・
「構えの姿勢をとりましょう。頭からお尻まで1
本のしなやかな軸を通すようにでしたね。
」
② 両手は力を抜き,身体側に下ろす。
※ 背もたれに寄りかからないようにする。
※ 顎を引いて,背筋を伸ばし,姿勢が真っすぐに
なるようにする。
※ 確認後→「嫌でなければ,目を閉じましょう。
」
③ 頭,肩,背中を曲げないように,両肩を耳 ・
「両肩を耳につけるようにゆっくり上げましょう。
」
の方にゆっくりと精一杯引き上げる。
※ 急いで上げると肩や腰が痛くなるので,
『ゆっ
くり』を強調する。
④ 肩を上げたまま維持して,顔,肘,両手, ・
「いっぱいに肩を上げたら,肩以外に力が入って
その他の身体部位に力が入らないようにする。
いないか確かめてみましょう。両肘や指先に力が
入っていませんか?顔はスマイルですよ。
」
※ 他の箇所に力が入っていたら抜くように指示
し,身体が反っている場合には「おへそを引っ込
めて。
」と伝える。
⑤ 両肩の力を抜く。そのとき,身体のリラッ ・
「はい,肩の力を抜きましょう。はい,ストーン!
クス感を味わう。
抜いた後も,すぐ動かないで肩の感じを感じてみ
ましょう。すると,もっと力が抜けることがあり
ます。
」
〔5秒ほど間をとる〕
⑥ ③~⑤を2~3回繰り返し,ホッとする姿 ・③~⑤を2~3回繰り返す。その間に,ストンと
勢をとる。
一気に抜いたり,ゆっくり抜いたり,力の抜き方
を工夫する。
※ 力を入れているときの身体感覚を感じさせる。
顔はスマイル。
心と身体に神経を集中させる。
- 57 -
ペア・リラクセーション
(肩の上下プログラム)
① 近くの者とペアを組む。
※同性で組むと抵抗が少ない。
・
「ペアになってください。椅子に座っている人が
リラックスを体験する人,後ろに立つ人が手伝う
人です。
」
② 椅子に尻全体で座るようにする。背もたれ ・
「構えの姿勢です。背もたれから背を離して,浅
に寄りかからないようにする。両腕は力を抜
めに座ります。両腕はだらんと横に垂らします。
き,身体側に下ろす。顎を引いて,背筋を伸
そして,頭のてっぺんからお尻まで1本のしなや
ばし,姿勢が真っすぐになるようにする。
かな軸を通してください。腰が痛い人は,腰を反
りすぎてはいませんか。
」
③ 後ろの人は,言葉でアドバイスする。
・
「後ろに立った人は,ペアの相手の姿勢が曲がっ
ていたらアドバイスしてあげてください。
」
④ ペアが,大切にされていると感じとれるよ ・
「後ろに立った人は,ペアの肩に手のひらをやさ
うに表現を工夫する。
しくそっと置いてください。前の人はその手の感
じが伝わりますか。
」
⑤ 後ろの人は,両肩にそっとふれたまま,ペ ・
「では,前の人は肩が耳に付くくらい,ゆっくり
アの肩の動きに合わせる。
と引き上げましょう。肩以外に力を入れないでく
ださい。後ろの人は,肩以外に力が入っていない
かチェックしてあげてください。
」
・
「時間はわずか5秒程度です。頑張ってください。
では,スタート!」
⑥ 後ろの人は,ペアが頑張っている様子を感 ・
「後ろの人は,ペアにどんな感じかたずねてみて
じ取り,声かけをする。ペアにどんな感じか
ください。
」
たずねる。
・
「はい,肩の力を抜きましょう。ハイ,ストーン!
抜いた後も,すぐ動かないで肩の感じを感じてみ
⑦ どんな感じだったか互いに話し合う。
ましょう。すると,もっと力が抜けることがあり
ます。
」
〔5秒ほど間をとる〕
※ステップ1
ステップ2
ステップ3
ステップ4
ステップ5
ステップ6
- 58 -
「後ろからアドバイスのみ」
「手をそっと置く」
「赤ちゃんにふれるように」
「生卵が割れないように」
「ゆで卵が割れないように」
「腕をしっかり支える」
⑦ ①~⑤の後,両肩の力を完全に抜く。
(後
ろの人に,完全に肩や腕をあずける気持ち)
⑧ 再度,肩を上げた後,後ろの人は,両手を ・
「肩が上がった後,両手をペアの両上腕に移動し,
ペアの両上腕に移動する。
しっかりやさしく支えてから,どんな感じか尋ね
てください。
」
⑨ 両肩の力を抜き,後ろの人はそれを支えな ・
「両肩の力を抜いてください。後ろの人はそのま
がら降ろしていく。
ま支えながら下ろしていってください。前の人は
力が抜けたことを後ろの人に伝えてください。
」
⑩ 後ろの人はゆっくり手を離していく。
・
「完全に力が抜けたら,後ろの人は支えていた手
からゆっくりと力を抜いて下さい。
」
・
「ホッとする姿勢をとってください。
」
⑪ どんな感じだったか互いに話し合う。
・
(5秒ほど間をとって)
「感じを聞いてください。
」
活 動 内 容
児童 生徒 への 指 示・ 留意 点
漸進性筋弛緩法
① 仰向けに寝る。
・
「それでは,漸進性筋弛緩法を体験してみましょ
う。
」
・
「その場に仰向けに寝転がってください。腕は身
体から5 cm 程離し,手のひらを下に向け,足は,
② 指示された部分に力を入れた後,力を抜い かかとを10 cm ほど離してください。目を閉じ
て,そのリラックスする感じを味わう。
(力を ると,より集中できます。
」
抜いた後すぐに動かないで,力が抜けていく
身体の感じや気分を感じ取る。
〈緊張した筋肉 ・
「今から指示をするところだけに力を入れてくだ
がほぐれていく感じ〉
)
さい。他の部位に力が入ると効果がありません。
」
ア「手首」
イ「足首(お尻の下までの筋肉)
」
ウ「腰(お尻の筋肉に力を入れる)
」
けんこうこつ
エ「胸(肩胛骨同士をつける気持ちで胸を持ち上
※ 入れる順番は,ア→イ→ウ→エ→オ
げる)
」
抜 く 順 番 は,オ→エ→ウ→イ→ア
オ「顔(まぶたを閉じ,奥歯をかみしめる)
」
・
「はい,ストン,と力を抜きましょう。まだ,動
かないで,身体全体がらく~になっていく感じを
味わってみましょう。
」
- 59 -
ストレスマネジメントの実践例②(イメージ法)
自分にはできないとか,自分はだめだとか,いつも自分に言い聞かせていると,本当に
そんな自分になってしまいがちです。しかし ,「こんな自分でいたいなあ」とイメージし
続けると,知らず知らずのうちにそのような自分になってきたり ,「心と身体がほっとす
る場面」をイメージすると身体の疲れが取れてきたりします。
☆イメージ法①☆
例えば,就寝前や起床後,以下のような言葉を繰り返します。
※毎日,自分に向かって繰り返すとよい言葉※
①私は健康とエネルギーにあふれている。
⑧私は大切な存在である。
②私は思いやりがある。
⑨私のやっていることはきっとうまくいく。
③私はありのままの自分が好き。
⑩私はよくがんばっている。
④私は才能がある。
⑪私は真の勇気がある。
⑤私は自分を愛することができる。
⑫私はとても素敵だ。
⑥私は他人を愛することができる。
⑬私はすべて満たされている。
⑦私は一人ぼっちではない。
⑭私はすばらしい!
「山中
寛
富永良喜 著『動作とイメージによるストレスマネジメント教育』北大路書房」より
☆イメージ法②☆
①心と身体がほっとする場面をイメージしましょう。
②「目を閉じると,さわやかなあたたかい陽がさした野原や砂浜が浮かんできます。」
③「ごろんと寝転がっているあなたが見えてきます。気持ちよさそうですね。それじゃ,そ
のイメージの中に入って,寝転がっているあなたになってみましょう。背中があたたかく
て気持ちがいいですね。そよ風が吹いて,身体全体が気持ちいいですね。身体の疲れが取
れていきますね・・・。」
④「それでは10から1まで数を数えます。これから数を数えていく中で,だんだんイメー
ジがぼんやりしてきます。そして,すっきり,さっぱりした気持ちで目が覚めます。」
⑤「ではいいですか。10,9,8,もうイメージはぼんやりしてきましたね。頭もすっき
りしてきましたよ。7,6,5,4,はい,もうさっぱりした気持ちですね。3,2,1,
はい。ぐーっと背伸びをして,はい,目を開けましょう。」
「
『動作とイメージによるストレスマネジメント教育』山中 寛
- 60 -
富永良喜 著 北大路書房」より
☆イメージ法③☆
①楽な姿勢で椅子に座る。
②軽く目を閉じて,楽な気持ちでゆったりする。
③次にあなたがとても気に入っていて,ゆったりできる,安全で心が落ち着く美しい場所に
いることを思い浮かべてください。
④そこは本当にある場所だったり,あなたが心の中に作り出した場所でもいいのです。
⑤そこは,
穏やかな波が押し寄せる海辺
木漏れ日がキラキラと美しい木立の林
すべてが見渡せる すがすがしい山の山頂
陽だまりのあたたかい縁側
そよ風の吹く さわやかな どこまでも続く草原
⑥どんな場所にいますか?
かもしれません
(15秒)
⑦あなたの特別な場所は,温かく,静かで美しいものです。
⑧楽しい時を過ごしている自分に気付いてください。
⑨しばらくの間,心の中に思い浮かべた特別な場所にゆったりとした気分でとどまって楽し
んでください。(2分)
⑩あなたが,心が落ち着き平和で穏やかさを見つけたい時は,あなただけのこの場所へ来る
ことができます。
⑪緊張を感じたときは,いつでも特別な場所での心地よさを思い出しましょう。
この部屋へ戻ってきた時には,とても幸せで気分が良くなります。
⑫さあ,朝起きたときのように,背伸びをしましょう。
⑬ゆっくりと目を開けてください。
⑭身体の心地よさを感じましょう。
⑮消去動作を行いましょう。(ジャンケンの「グー」「パー」の繰り返し,屈伸,伸びなど)
「
『動作とイメージによるストレスマネジメント教育』山中 寛
富永良喜 著 北大路書房」より
「イメージ法」を児童生徒に実施する場合には,周囲が静かな場所で,心が落ち着くよ
うな BGM を流すと効果的です。
また,ここで注意しなければならないのは,消去運動(取り消し動作)の動作を行うこ
とです。
- 61 -
Ⅳ
授
業
- 62 -
実
践
「コラージュ技 法」を活用した学 級活動の実践例(小 5)
1
実践のねらい
○ 本学級では ,予防的・開発的カウンセリングに関する活動を「 ココロねっこタイム 」
と称し,主に学級活動の時間に取り組んでいる。今回は,学校生活における不安や悩
みの解消と,望ましい人間関係の育成を推進するための手立てとして,芸術療法を学
級活動に取り入れた。芸術療法とは,様々な芸術活動を行う中で,心に落ち着きと癒
しをもたらす技法である。手法としては,箱庭療法,絵画療法,音楽療法など多岐に
わたるが,それらの多くは,特別な知識や十分な経験が必要とされるため,十分な訓
練を受けたカウンセラーにしか実践できないものが多い。しかし,そのような中で,
私たち教師にも活用できる芸術療法の技法がある。それがコラージュ技法である。
○
2
コラージュ技法では,雑誌などから心にとまるものを自由に切り抜き,紙にのり付
けして作品づくりをすることで,自分の気持ちを表現したり,気分をすっきりさせた
りすることができる。一人一人のストレスを発散させることで,学級全体の緊張感を
和らげ,コミュニケーションを促進させることをねらいとして実践を行った。
実践のポイントと留意点
( 1) ゆとりをもった計画を立てる。
コラージュに よる癒し効果を十分に引き出 すには,ゆとりをもった計画が大切で
ある 。いきなりグループコラージュか ら行った場合,要領を得ずに不完全燃焼で終
わっ てしまうことも考えられる。そこ で,まずは個人コラージュを行い,児童にコ
ラー ジュをしっかり体験させるところ から始めた。コラージュの活動では,様々な
場面 で癒し効果が期待できる。雑誌を パラパラ見たり,ハサミで切ったり,のり付
けし たりする中で,遊び心が刺激され ,自発的な想像力が高まる。少しずつ作品が
形に なる中で,気持ちが解放されてい く。そして,作品を創り上げることにより,
達成 感や満足感を味わうことができる 。このような,芸術療法ならではの「心地よ
いや
さ」を体感することで,児童の気持ちは癒されていくと考えられる。
初めてのコラ ージュに戸惑う児童の緊張感 を和らげるため,一回目のコラージュ
では ,教師も同じ教室で一人の参加者 として作品づくりを楽しんだ。これはカウン
セリ ングの現場でも「相互法」と呼ば れて取り入れられている手法で,参加者の抵
抗感を和らげる効果がある。
( 2)
グループコラージュを通して心の交流を図る。
グループコラ ージュの方法は様々だが,今 回の実践では,個人コラージュで,あ
る程 度作品をつくった後,グループの 仲間に切り抜きをプレゼントし,受け取った
切り 抜きで作品を仕上げる活動に移行 する場面を設定した。この活動では,通常の
個人 コラージュよりもさらに「心地よ さ」を味わうことができると考える。それは
「仲 間と気持ちが通い合っている」と いう心地よさである。相手のイメージに合う
切り 抜きを選ぶ活動を通して他者理解 を促すとともに,自分に合った切り抜きをプ
レゼ ントされる経験を通して仲間に理 解されているという肯定的な感情を味わわせ
るこ とをねらいとしている。普段の関 係ではなかなか一緒に遊んだりすることが難
しい ような間柄であっても,グループ コラージュを通して心の交流を図ることも十
分可能だと考えられる。
- 63 -
( 3)
作業中は私語をしない。
多くの児童に とっては初めての経験になる と考えられる。楽しそうな内容にワク
ワク する子は,自分のひらめきを誰か に語りたくなるかもしれないし,また,作業
の見通しが立たず不安になる子は ,進んでいる友達に相談したくなるかもしれない 。
しか し,この時間はあくまでも「自由 な気持ちで自分の作品をつくる」ことが大前
提で ある。すべての児童が自分のイメ ージを楽な気持ちで表出できるようにするた
め,作業中は落ち着いた雰囲気づくりを心がけた。
( 4)
児童の作品に対して批判やアドバイスをしない。
コラージュ技 法は,芸術的な美しさを追求 する活動とは異なる。様々な写真をた
くさ ん貼ったものも,数枚だけ貼った ものも,整理された感じがするものも,大胆
な感 じがするものも,いずれも作品と しての優劣はない。大切なことは,児童それ
ぞれ が表現した「自分の世界」を,私 たち教師がそのまま受け入れて認めることで
ある 。作業中はコメントをせず,やさ しくほほえむ,黙ってうなずくなどの肯定的
なメ ッセージを込めた態度に徹した。 作品に対してコメントする場合は,肯定的な
内容になるよう心がけた。
( 5)
暴力的・性的なものが出過ぎないよう配慮する。
特にグループ コラージュを行う場合は,渡 した切り抜きで相手がショックを受け
ない ための配慮が必要である。切り抜 き用の雑誌を家から持ってくる際,過激な内
容のものは控えるような約束をした 。学級通信などでコラージュの取り組みを伝え ,
児童が持参する予定の雑誌を確認していただくようにするのも一つの方法と考える 。
【コラージュの例】
3
実践事例
( 1) 目標
① 自分の作品を振り返る活動を通して,自己理解を深める。
② 相手のイメージに合った絵や写真を探したり,もらった切片でコラージュを作成
したりすることにより,気持ちを交流する喜びを味わう。
( 2) 指導計画(全2時間)
第1時 個人でコラージュを完成させる。
第2時 仲間からもらった切片を用いてコラージュを完成させる。 ‥‥‥‥‥‥ 本時
- 64 -
( 3)
本時
過程
学
1
導
習
活
動
教師の手立て・留意点
本時の活動内容について理解す
る。
○事前に次のものを準備する。
・色画用紙(8切)…台紙として使用。何
入
色か用意し,気分に合うものを自由に選
5
ばせる。
分
・ハサミ,のり,雑誌数冊…各自で準備す
る。
○次のことを説明する。
・班で作業をする。
・好きなもの,気になったものを好きに切
りぬいて,自由に貼り付けてよい。
・自分の作品をある程度つくった後,班の
仲間に切り抜きをプレゼントする。
・プレゼントされた切り抜きを貼り付けて
いき,作品を完成させる。
・作業中,私語はしない。作品づくりの邪
魔になることはしない。
・最後に自分の作品を発表する。
2
コラージュに取り組む。
・教師は机間指導を行いながら ,うなずく ,
ほほえむ等の非言語による肯定的なフィ
展
ードバックを心がける。
開
・暴力的・性的なものが出過ぎないよう配
35
慮する。
分
3
仲間のイメージに合った切り抜
きをプレゼントし,もらった切り
・班の仲間全員にプレゼントするよう言葉
かけを行う。
抜きで作品を仕上げる。
終
4
感想を書き,発表する。
・プレゼントした切り抜きに関する内容を
末
書いている児童を中心に指名して発表さ
5
せる。
分
- 65 -
4
児童生徒の変容
( 1) 第1回 個人コラージュについて
①
「絶好調のときを100%とすると,今のあなたのココロのエネルギーは何%です
か」という問いに対する児童の回答
・ コラージュ実施前 平均 79.2 %
・ コラージュ実施後 平均 92.4 %
② 授業後の児童の感想より(一部抜粋)
《自己表現に関する内容》
・気に入ったのをきりぬいてはるのもおもしろい 。まわりも静かで自分一人の世界を
つくれたからまたやりたい。
・とても楽しいです。自分の好きなようにはったり切ったり。なんだか本当に自分だ
けの世界に入ってしまったようです。切ってはるだけってけっこうたんじゅんだけ
どとっても楽しいです。
《自己治癒に関する内容》
・作品もなかなかうまくできたのでよかったなと 思いました。心がおちついた。
・最初は「あまりたのしくなさそうだな」と正直思ったけど,やってみたらけっこう
たのしくて,家や学校ではあまりしないことをすると,なんか不思議なかんじがし
ました。
・自分の世界が『オリジナル』に創れてよかったです。雑誌をいろんな形に切り取っ
て,想像の とおりの世界が作れました 。『ココロ』がすっきりしたし,コ コロのエ
ネルギーがふつうより,絶好調にちかいココロになりました。とても楽しかったで
す。
( 2)
①
第2回
グループコラージュについて
「絶好調のときを100%とすると,今のあなたのココロのエネルギーは何%です
か」という問いに対する児童の回答
・ コラージュ実施前 平均 76.8 %
・ コラージュ実施後 平均 93.1 %
② 授業後の児童の感想より(一部抜粋)
《関係づくりに関する内容》
・今回は,班の人にあげたりもらったりして,とってもたのしかった。ぜひまたでき
たらいいと思う。今度するときは,2時間くらいやりたい。
・班の作品に自分がプレゼントした写真などがはってあってうれしかったです 。プレ
ゼントをもらったときもうれしかったです。家でもきかいがあったらコラージュを
したいです。
・この前とは違って「プレゼント」があったから,班のいろいろな人から,いろいろ
な物をもらって「少しうれしかった」です。
《自己治癒に関する内容》
・前やってみたコラージュとちがって,友達からのプレゼントを使ってオリジナルの
世界がつくれました 。友達がくれた「 プレゼント 」がないとつくることができない ,
すてきな世界がつくれたので,よかったです。
- 66 -
○
「絶好調を100%とした場合の,現在の心の状態は」という問いに対して,コラ
ージュ実施前と実施後の平均を比較したところ,1回目(個人コラージュ)の際は平
均が 13.2 %上昇し,2回目(グループコラージュ)の際は平均が 16.3 %上昇した。
このことから,コラージュの活動を通して多くの児童がストレスの軽減を実感できた
と考えられる。また,1回目の説明の際には,初めての取組に対して不安な表情を見
せていた児童もいた。特に,図工科の取組に関して苦手意識のある児童にとって,そ
の傾向は顕著であった。しかし,活動後の振り返りを 見ると「時間が足りない 」「も
っと雑誌を使いたい 」「家でもやってみたい」などの肯定的な表現が目立った。この
ことから,コラージュは作品の優劣を見るものではないということを児童なりに理解
できたとともに,コラージュへの取組が自分たちにある種の心地よさをもたらしたと
実感できたのではないかと考える。
5
授業の分析と考察
○
個人コラージュを実践した際には,学級が静まり,一人一人が自分の世界に没頭し
て作品づくりを行っていた。児童の振り返り内容には 「楽しい 」「自分の世界が作れ
た 」「気持ちがすっきりした」などの表現が多く使われており,コラージュ技法の治
療的側面である「自己表現 」「自己治癒の効果」が強く感じられた活動となった。
○
グループコラージュでは,表情に明るさがあり,笑い声が絶えない時間となった。
児童の振り返り内容には友達からのプレゼントに対する喜びや意外性について書かれ
ていることが多く,非言語のコミュニケーションを通してクラスの仲間と交流するこ
との心地よさが強く感じられた内容となった。
○
グループコラージュには,以下のように様々なバリエーションが考えられる。
・本時のように ,自分が選んだ切片と友達からプレゼントされた切片で作品をつくる 。
・相手へのプレゼントのためだけに切り抜きを行い,プレゼントされた切片だけで作
品をつくる。
・大きめの画用紙や模造紙を使い,班で一つ(学級で一つ)の作品をつくる。
等
このようにグループコラージュには,様々なバリェーションが考えられるが,いず
れにしても,グループをつくる際には,学級の実情に合った適切な人数を設定するこ
とで,心の交流が促進され,仲間と気持ちが通い合う心地よさにつながると考えられ
る。
- 67 -
「ソーシャルスキ ルトレーニング」を 活用した学級活動 の実践例
(小6)
1
○
○
2
実践のねらい
あいさつをする,質問をする,遊びの仲間に入るなど「人とのかかわりに関するこ
と」は後天的に身に付くものであり,経験の結果として習得されるものである。かつ
ての子供たちは,家族や地域社会とのかかわりの中でこれらの社会性を自然と身に付
けてきた 。 しかし近年では子供たちが所属するコミュニティの関係性が希薄になり ,
人とのかかわりを自然に学ぶことが難しくなった。そのために,対人関係を形成し維
持する力が弱くなってきている。このような状況から,近年の教育現場で注目を集め
ている手法の一つがソーシャルスキルトレーニング(SST)である。
対人関係 を円滑にするための知識と技術の総称をソーシャルスキルと呼ぶ 。「ソー
シャルスキルを新しく学習する,あるいは改めて学習し直すことで健全な社会性を育
むことができる」というのが,SSTの基本的な考え方である。
実践のポイントと留意点
( 1) SSTの必要性を感じさせる動機付けを行う。
何の説明もなく ,一方的にSSTを行っても十分な効果は期待できない 。児童が ,
「こ の活動を頑張れば人とのかかわり 方がもっと上手になる」と感じて初めてSS
Tに 対する意欲を持つことができる。 本実践においては,人にお願い事をしなけれ
ばな らない状況や,無理な頼み事をさ れて困ったことについて,お互いの経験を出
し合 い,それを共有することによって 動機付けを行った。多くの児童が似たような
経験 をしていることに気付くことで, 上手にお願いをしたり断ったりすることの大
切さ や難しさについて理解することが でき,その後の活動への動機付けとなった。
( 2)
教師がロールプレイで手本を見せる。
教えようとす るスキルのモデルを示し,そ れを観察させ,模倣させることをモデ
リ ングと 言う 。本実 践では ,モデ リン グの手 法として ロール プレイ を用いた 。「攻
撃的な自己 表現 」「非主張的な自己表現 」「アサーティブな自己表現」について教師
と児 童がペアを組み実演を行った。そ の際,三つの自己表現の違いが明確になるよ
う, 児童との事前練習を十分に行って 本番に臨んだ。目の前で展開されるロールプ
レイ を見ながら考えることで,児童は 人とかかわるときには,どのように接したら
よいのかをより具体的に気付くことができた。
( 3)
リハーサルで反復練習をする。
リハ ーサル では3 人一組の チーム を編成 し ,「お願 いする役 (断られ る役 )」「お
願いされる 役(断る役 )」に加えて ,「やりとりを見る役」を設定してのロールプレ
イを 行った。様々な立場を当事者とし て体験したり,距離を置いて観察したりする
こと を繰り返す中で,お互いの上手に できた点や改善点などを確認し合いながら切
磋琢磨することができた。
( 4)
標的スキルを明確にする。
SSTを実施 するためにはまず,児童の現 状についてできるだけ正確に把握する
- 68 -
必要 がある。今できることやできない ことは何か,児童同士の関係をより豊かなも
のに する上で高めさせたい力(標的ス キル)は何かを教師がしっかりとらえて初め
て, SSTの計画を練ることができる 。標的スキルを検討する際,教師の主観は大
切な 要素の一つとなるが,それに加え て,様々な調査を行ってより客観的なデータ
を集めることが重要である。
本実 践に おいては ,「『 ソーシ ャルスキ ル教育 で子ど もが変わ る 小学 校』図 書文
化」 に提案された「基本となる12の ソーシャルスキル」に注目し,意識調査を行
った。
挨
拶
12
8
7
0
10
12
3
2
上
手
な
聴
き
方
7
15
5
0
質
問
す
る
7
15
5
0
仲
間
の
誘
い
方
14
11
2
0
仲
間
の
入
り
方
8
12
5
2
あ
た
た
か
い
言
葉
か
け
11
11
5
0
気
持
ち
を
わ
か
っ
でき る
ま あ ま あ でき る
あ ま りでき ない
でき な い
自
己
紹
介
て
働
き
か
け
る
11
13
3
0
や
さ
し
い
頼
み
方
11
8
8
0
上
手
な
断
り
方
8
10
8
1
自
分
を
大
切
に
す
る
14
9
3
1
ト
ラ
ブ
ル
の
解
決
策
を
考
え
る
12
7
8
0
この結果と学 級の実態から,本学級の児童 は基本ソーシャルスキルの中でも特に
「上 手な断り方」に関して苦手意識を 抱いていると考えられたため,断り方に関す
るSSTを主眼として実施することにした。
( 5)
安心してロールプレイできる雰囲気をつくる。
SSTではロ ールプレイを用いる頻度が高 い。しかし,高学年になればなるほど
ロー ルプレイに対する抵抗感が強まる 傾向にある。十分な手立てを行わずロールプ
レイ を実施した場合,恥ずかしがって できなかったり,喜劇的な振る舞いで笑わせ
よう とする児童が出てきたりすること がある。そのため,安心してロールプレイで
きる 雰囲気をつくるために,様々な工 夫をする必要がある。本実践では,以下のよ
うな手立てを行った。
・始業前の10分間を使って,アイコンタクトを伴うゲームを行うなどして入念
なアイスブレーキングを行う。
・モデリングでは「普段の話し言葉 」「普段の振る舞い」によるロールプレイを
実演して見せ ,一般的な演劇の表現様式を意識しなくてよいことを印象づける 。
過剰な表現で笑わせてしまうと,喜劇的な表現を目指そうという雰囲気が一気
に高まってしまうので,特に留意する。
・モデリングの相手は ,「大勢の前でも,日常の延長のような落ち着いた雰囲気
でロールプレイできる児童」を選出し,事前に練習を行う。
・リハーサルでセリフを紙に書いて考える際 ,「普段の話言葉」を書くよう指示
す る。通常の作文指導とは異なるので「マジで(本当に )」などの若者言葉や
「 しーきらんっさね(できないんだよね )」などの方言であっても,それが本
人にとって「普段の話言葉」であるならば積極的に認めていく。
・リハーサル段階ではそれぞれのグループをよく観察し,必要に応じて指導・援
助を行う。
- 69 -
3
実践事例
( 1) 目標
① 「やさしい頼み方」について考え る活動を通して,相手の立場を尊重しながら
自分の要求を主張するスキルを活用することができる。
② 「上手な断り方」について考える 活動を通して,応じられないことや応じたく
ないことを適切に断るスキルを活用することができる。
( 2)
指導計画(全4時間)
第1時
「やさしい頼み方」とはどのように頼むことかを考え,継続的に「や 学活
さしい頼み方」を実践していく動機付けをする。
第2時
一週間の生活を振り返り,改善点があれば再びリハーサルを行うなど 北小
して,スキルの定着化を図る。
タイム
第3時
「上手な断り方」とはどのように断ることかを考え,継続的に「上手 学活
(本時) な断り方」を実践していく動機付けをする。
第4時
一週間の生活を振り返り,改善点があれば再びリハーサルを行うなど 北小
して,スキルの定着化を図る。
タイム
※「北小タイム」とは,授業を実践した学校独自で設定している「社会性・道徳性等を高
めるための体験活動」の時間のこと 。(1週間に1回,朝の15分間)
( 3)
本時
学
導
入
5
分
習
活
動
教師の手立て・留意点
1
相手から無理な頼み事をされ,困った経験を ・始 業 前に 簡 単 なゲ ー ムを 実 施
発表する。
す る など し て リラ ッ クス し た
雰囲気となるようにする。
・断ったら相手と気まずくなった。
・断り切れずに自分が苦労した。
2
お互いが気持ちよく生活をするために,とき
には「断る」ことが必要であることを知る。
展 3 教師 と児童が ペアにな り「とげ とげ 」「もじ ・言 語 的な 部 分 だけ で はな く ,
開
もじ 」「ほ かほか」 の3場面 を演じて 見せ,気
非言語的な部分にも着目させ ,
30
付きを発表する。
多様な気付きを引き出す。
分
「とげとげ」
声が荒い・表情が険しい・睨むような目つき
自分の気持ちばかり言っている・けんかに発
展しそうな印象・立つ位置が相手に近すぎ
る。
「もじもじ」
声が小さい・表情が頼りない・相手を見てい
ない・自分の言いたいことを言っていない・
立つ位置が相手から遠い。
- 70 -
「ほかほか」
声が聞き取りやすい・表情がやわらかい・目
がやさしい・相手のことも考えて言っている
立つ位置がちょうどいい。
4
断る際の言葉としては『謝罪~断る理由~断 ・断 り 方カ ー ド には 大 まか な 話
りの表明~代わりの意見』が大切であることに
形 を 提示 す る にと ど め, 自 分
気付き,断り方カードを作成する。
の 話 し言 葉 に なる よ う工 夫 し
て記入してよいことを告げる 。
5
3人 グループ をつくり ,「 上手な断 り方」の ・断 る 役, 断 ら れる 役 ,見 て い
練習をする。
る役に別れて練習を行う。
・終 わ るた び に ,見 て いる 役 か
ら気付きを発表してもらう。
・役 を 入れ 替 え て続 け ,す べ て
の 役 割を 経 験 した ら 新し い グ
ループをつくる。
6 活動を通しての気付きを発表し合い,本時の ・定 着 化を 図 る ため に ,来 週 の
終
学習内容を確認させる。
北 小 タイ ム ま で「 上 手な 断 り
末
方 」 を特 に 意 識し て 生活 す る
10
よう促す。
分
4
児童生徒の変容
(1) 「基本となる12のソーシャルスキルについての意識」の変容について
あ
い
さ
つ
上
手
な
聴
き
方
質
問
す
る
仲
間
の
誘
い
方
仲
間
の
入
り
方
あ
た
た
か
い
言
葉
か
け
気
持
ち
を
わ
か
っ
実 施前
できる
ま あま あできる
あ まりでき ない
できない
実 施後
できる
ま あま あできる
あ まりでき ない
できない
自
己
紹
介
や
さ
し
い
頼
み
方
上
手
な
断
り
方
て
働
き
か
け
る
自
分
を
大
切
に
す
る
ト
ラ
ブ
ル
の
解
決
策
を
考
え
る
12
8
7
0
10
12
3
2
7
15
5
0
7
15
5
0
14
11
2
0
8
12
5
2
11
11
5
0
11
13
3
0
11
8
8
0
8
10
8
1
14
9
3
1
12
7
8
0
12
10
5
0
9
13
4
1
13
14
0
0
8
11
8
0
21
4
1
1
11
12
3
1
16
8
3
0
12
13
2
0
16
9
2
0
10
14
3
0
13
10
4
0
11
13
3
0
- 71 -
○
「基本となる 12 のソーシャルスキルについての意識の変容」からは以下のような
ことが考えられる。
・本時の標的スキルである上手な断り方については, 実施前の「できる 」「まあまあ
できる」の合計が 18 人であったのに対し,実施後は 24 人である。SST実施前は
最も苦手意識を持っていた項目だったが,今回の実践を通してスキル習得の手応え
を感じた児童が増えたものと思われる。
・上手な聴き方について「あまりできない 」「できない」の合計が,SST実施後は
0人になった。リハーサルの段階では話す立場と聴く立場の両方について繰り返し
体験しており,そのような活動の中で改めて「聴く」ことに関して意識が高まった
ものと思われる。
・「 できる 」「まあまあできる」の合計が,12項目中8項目において上昇している。
今回は頼み方と断り方の2項目においてSSTを行ったが,そのことが他のソーシ
ャルスキルにもよい影響を与えたものと思われる。一つのソーシャルスキルを高め
ることが,結果的に全体のソーシャルスキルを高めることにもつながると考えられ
る。
(2)
「やさしい頼み方・上手な断り方に関する意識」の変容について
A やさしい頼み方に関すること
っ
。
、
、
13
10
2
2
8
9
9
1
。
9
9
6
3
7
9
9
2
り③
と自
言分
うの
こ気
と持
がち
でを
きは
る
き
っ
10
13
4
0
11
7
7
2
、
ゃ
。
9
14
3
1
、
っ
7
16
4
0
と を②
理 断何
由るか
をとを
言 き頼
にま
て はれ
い て
るち
そ
んれ
っ
。
○
。
実施前
とてもそう思う
わりとそう思う
あまり思わない
全く思わない
実施後
とてもそう思う
わりとそう思う
あまり思わない
全く思わない
B 上手な断り方に関すること
い は② き を に ③ る 断 た①
る 相 り し は相
と相
相手 さ て 手 た き 手
手 に せ も 相に
ら にか
の何 て ら 手何 い ら
都か い い に か い ど 何
合を るたど を
の のか
を頼
いん 頼 か よ を
考む
かなむ わ う 頼
えと
はこ と
かに ま
てき
とき
れ
、
る す①
る相
の手
はに
得何
意か
なを
ほ頼
うん
でだ
あり
7
13
5
2
14
10
2
1
12
11
2
2
15
7
2
3
「上手な頼み方・あたたかい断り方に関する意識の変容」からは以下のようなこと
が考えられる。
・A-③において「そう思う」の合計が18人から23人に伸びている。また,B-
②において「そう思う」の合計が20人から23人に伸びている。この2項目は今
- 72 -
回実践したSSTの内容と特にかかわりのあるものである。SSTを通して,これ
まで曖昧に感じていた,人とのかかわり方が明確に焦点化され,お願いすることや
断ることについての具体的な在り方を学んだことがこの結果につながったものと考
えられる。
・A-② ,B-③は今回のSSTと間接的に関係があるものの ,実践後は「 そう思う 」
の合計が減少していた。ソーシャルスキルに対する意識が高まったことで,相対的
にこれまで無自覚だった部分が意識されたものと思われる。この結果を生かして,
今後のSSTにつなげることが大切である。
(3)
授業後の児童の感想より(一部抜粋)
《自己表現・自己理解に関する内容》
・自分も相手も気分がいい断り方っていうのはちょっと難しいんじゃないのかなと思
ったけど,やってみると思ったより簡単だった。
・いつも私たちが友達同士で普通にやっている断り方の中で,トゲのある断り方もし
ていたから,これから気をつけようと思いました。
・人がいやがる断り方をされたら ,悲しい気持ちになる 。ちゃんと相手の目を見たり ,
理由を言わないと,相手がいやな気持ちになるから,ちゃんとしないといけないな
と思いました。
・今日は男子ともアイコンタクトをして,はずかしかった。いつも話すとき,自分で
は目を合わせているつもりでも ,本当は合わせていなかったのかな?と感じました 。
私は,相手のお願いを断るとき,思えば親しい友達や男子にはトゲのある断り方を
していたカナ…?と思いました。
・アイコンタクトするだけで,気持ちのいい感じがしました。表情でも,たくさんの
気持ちが生まれたような気がしました。これからは,自分も相手もすき通った気持
ちになるようにしたいと思いました。
○
5
○
○
児童の感想からは ,
「 自分も相手も大切にする 」
「 理由や代案をしっかり伝える 」
「非
言語的なかかわり方も意識する 」などのことについて多くの気付きが述べられていた 。
SSTに対する好意的な意見も多くあったことも含めて,本学級の児童のニーズに合
った取組であったと考える。
授業の分析と考察
SSTは,本学級において初めての取組であったため,戸惑いを感じた児童もいた
ようであった。しかし慣れるにしたがい積極的な取組が見られるようになった。リハ
ーサル段階でセリフを考える際には,話し言葉を記述するという活動を通して,自分
流のアサーティブな表現を考えることができた。ここで生み出された言葉の数々は,
あくまでも「 自分が今生きている場所 」で「 自分の口 」から発するためのものである 。
話し言葉は,相手によって,また場所や状況によっても変化するものであるから,自
分の話し言葉を意識することはSSTにおいて大変重要な要素の一つになるのではな
いかと感じた。
アイコンタクトやあいづち等の非言語的なかかわりについて気付きを促すために,
モデリング段階での見せ方には十分留意した。立ち位置,声の大きさ,身振り手振り
の適切性も含めて事前準備をしっかり行ったところ,児童は教師側が意図した部分に
ついてはもちろん,ロールプレイ中のささいな行動もプラスにとらえてソーシャルス
キルに生かすことができた。
- 73 -
「エゴグラム 」を活用した学級 活動の実践例(中2 )
1
実践のねらい
○ 本学級では体育大会,合唱コンクール,修学旅行等の行事に合わせ,学活や道徳の
時間を利用して自己理解・他者理解を深める内容やコミュニケーションに関する内容
の授業に取り組んだ。その結果,年度当初よりも学級内の生徒同士の交流が深まり,
和やかな雰囲気になってきたと感じられるようになった。しかし,そうはいいながら
も,生徒一人一人が自分自身の行動傾向などを含めた自己理解は十分ではないところ
も見受けられる。
○
2
エゴグラムは,性格の傾向や心の状態を棒グラフあるいは折れ線グラフで表してパ
ーソナリティの特徴をとらえたり,性格行動などを自己診断したりすることができる
心理テストである。また,その人の個性を客観的にとらえることが可能で,それに基
づいた自己変容へのヒントを得ることができる。このような特色を持つエゴグラムを
活用した授業を実施すれば,生徒が自分の性格や行動を振り返り,より望ましい行動
を目指すことができるのではないかと考えた。
生徒はエゴグラムを一度実施して経験している。そのときは,エゴグラムの読み取
りに重点を置かなかったため,ごく簡単な説明のみを行いグラフの形に注目させる程
度であった。今回は自我状態について説明を加えるとともに,自我状態の傾向を説明
したプリントを配布しエゴグラムの読み取りを深めさせることにした。そして,2枚
のエゴグラムを比較する作業,グループ内でのエゴグラムの開示,級友へのコメント
記入 ,といった活動を通して ,より客観的な自己理解を深めることができると考えた 。
1年後の 自分を想像し「理想のエゴグラム」を描かせることによって ,「自分はこ
うありたい」という気持ちや ,「落ち込んでいる部分を上げていきたい 」,「自分を変
えたい」という気持ちを持ちながら,今後,生活していくことができることを期待し
て本授業を実践した。
実践のポイントと留意点
(1) 生徒の自己理解を促すために活用する。
エゴグラムは その人の心の状態や行動傾向 等をグラフ化し,視覚的に確認できる
ため 生徒も理解しやすいものである。 実際に,ある生徒は「親切,思いやり,心の
広さ というNPの点数が高かった。一 番点数が低いのは,感情を抑えるというAC
だっ た。感情を抑えることができなく て,相手を傷つけてしまうこともあるかもし
れ ないか ら, ちゃん と相手 の気持 ちを 考えな ければい けない と思っ た 。」とい う感
想を 持った生徒もいた。このように, エゴグラムを活用することによって,生徒は
自分 の行動傾向等を客観的にとらえる ことができ,自己理解を深めることができる
と考 える。このように自己理解を深め るための資料としてエゴグラムを活用するこ
とができる。
(2)
他者から見た自分を知る。
級友が自分を どのように見ているか知るこ とができたならば自己理解が一層深ま
ると 考え,今回はエゴグラムをグルー プ内で見せ合い,コメントを記入し合う活動
- 74 -
を取 り入れた。このときの配慮事項は ,エゴグラムはその人の行動傾向などが一目
で分 かるため,自己開示にためらいや 抵抗を感じる場合は無理強いしないことが一
つで ある。もう一つは,コメントによ って相手が傷つくことがないように注意を促
して おくことである。そのため,学級 の状態を見極めた上で実施するかしないかの
判断が必要となってくる。
(3)
自分の行動を変えていくためのヒントとする。
エゴグラムは 常に同じパターンを示すわけ ではなく,そのときそのときによって
変化 すると言われる。そこで,エゴグ ラムは変化するということを前提にして,生
徒に 「理想のエゴグラム」を書かせて みることにした。このときのポイントは,高
い自 我状態の部分は下げずに,低い自 我状態の部分を上げるという考え方でつくり
直さ せることである。こうしてできた 「理想のエゴグラム」に近づくため,自分の
行動 を変えたほうがよいところはどこ か,どう行動すればよいのかということを考
えさ せることができる。この作業が自 分の行動を変えていくためのヒントとなり,
今後の生活に活用できると思われる。
(4)
時間の短縮を図るために,エゴグラムを事前に実施する。
全部で50項 目程度の質問に答え,各自我 状態ごとに集計しグラフを作成する時
間は ,中学2年生で7~8分は必要と 思われる。本時の活動ではエゴグラムを作成
する ことに時間を割くことよりも,そ の特徴を読み取ったり自分の行動傾向を考え
させ たりする時間を確保することの方 が大事である。よって,学級活動前後の短学
活を利用してエゴグラムを作成することが時間確保の上でのポイントとなる。
(5)
自我状態の説明は簡潔にする。
教師の説明は ポイントを絞って行うことが 大切である。そのためには,生徒が分
かり やすいように,専門用語はあまり 使わず分かりやすい言葉に置き換えたり,具
体的 な事例を紹介して説明したり,図 示して説明をしたりするなどの工夫が必要で
ある 。また,教師が自己開示をすると いう意味から,教師自身があらかじめ実施し
たエ ゴグラムを生徒に紹介すると,和 やかな雰囲気を生じさせたり,生徒の抵抗を
少なくさせたりすることが期待できる。
(6)
プリントを工夫する。
教師の説明を 聞いただけでエゴグラムを読 み取ることは困難なため,読み取りの
ため の参考資料を配付しておく必要が ある。その内容としては,各自我状態の代表
的な言動等の内容をまとめたものなどが考えられる 。そのときのポイントとしては ,
説明 の単語が専門用語や難易度の高い 言葉にならないよう,中学生でも分かりやす
い語 句に変えておいたり,ちょっとし た説明書きをしておいたりするといった配慮
をすることである。
(7)
進路指導との関連を図る。
自分の理想と するエゴグラムをつくり,1 年後自分はどのように変化しているか
を考 えさせることと併せて,自分の理 想とするエゴグラムが自分の希望する職業に
向い ているのかという検討を加えさせ ることで,よりよい行動の変容につながって
いく 可能性がある。そこで,いくつか の代表的な職業を挙げ,その職業に向いてい
る性 格や傾向をエゴグラムと併せて考 えさせてみると,生徒も実感しやすくなると
思わ れる。例えば,看護師や保育士で あれば「NP」が高い型になるだろうし,科
学者 や新聞記者であれば「A」が高く なる傾向が強くなるだろうといったことを生
徒に考えさせ,進路指導との関連を図っていくことができる。
- 75 -
3
実践事例
( 1) 目標
① 自分の特色(性格や行動傾向など )を前回と今回のエゴグラムをとおして振り
返る。
② 自分の理想とするエゴグラムを作 成して,自分の行動傾向を改善しようとする
気持ちを持つ。
( 2) 指導計画(全3時間)
第1時 エゴグラムをやってみよう(5月)
第2時 自分の変化と理想のエゴグラム(12月) ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 本時
第3時
自分の行動を振り返ってみよう(3月)
( 3) 本時
※
事前指導として,当日の朝の短学活を利用してエゴグラムを実施しておく。
過程
学
活
動
教師の手立て・留意点
1
これから実施する内容について
教師の説明や注意を聞く。
2
自我状態について記したプリン ・自我状態について図を使って簡単な説明
トを見ながら ,教師の説明を聞く 。
をする。できるだけ簡単にすませる。
※説明後エゴグラム2枚(5月分,当日実
施分)を配布する。
3
前回のエゴグラムと比較させな
がら,自分のグラフの中での高い
部分と低い部分,傾向についてワ
ークシートに記入する。
・生徒の記入状況を観察し,気になる生徒
には話しかけ,助言や指示を与える。
4
グループ内でエゴグラムを回覧
し,感じたことを記入する。
・見せることに抵抗のある場合は,無理に
見せなくてもいいことを伝える。
・グループごとに机間指導して,友達への
メッセ ージを書い ている様子 を観察す
る。
導
入
5
分
展
習
・エゴグラムをとおして自分の対人行動の
特徴を 考えていく ことについ て説明す
る。
・エクササイズの目的は性格のよさや悪さ
ではなく,自分に対する理解を深め他者
との交流を図ることと自分の進路を考え
る上で役立てるために実施することを確
認する。
開
40
分
5 「 1年後の自分はこうありたい 」 ・赤ペンで質問用紙から○△×のいずれか
と想像しエゴグラムを修正する。
を選んで得点をグラフに書き入れさせ,
折れ線グラフ(エゴグラム)を再度作成
させる。
・生徒の書いている様子を見て,助言をし
たり指示を与えたりする。
終
末
5
分
6
振り返りシートに記入する。
7
教師の話を聞く。
・今後の生活に向けた話をする。
- 76 -
4
児童生徒の変容
(1)
授業後の生徒の感想より(一部抜粋)
《自己理解に関する内容》
・自分は,こんな人なんだということを今日のエゴグラムで思いました。日頃の行動
も振り返ることができました。
・普段あまり考えないことを改めて考えてみたら,自分のいろんなことが分かって良
かった。
・実は自分にはこんなところがあったのかなど ,自分のことをいろいろ発見すること
ができた。
・前の頃と今現在の自分ではかなり変わっている自分を見ることができた。班のみん
なの書いたものもいろいろと参考になりました。
《他者理解に関する内容》
・同じ班の友達などの性格や,その人のことなどが分かってすごくおもしろかったで
す。
・おもしろかった。友達の意外なところも分かった。
・エゴグラムを見て自分は自分の理想と同じような形だった。みんなそれぞれ「十人
十色」って感じで形がぜんぜんちがった。
《行動の変容に関する内容》
・日頃の自分を振り返ることのできる学習だと思った。このようなことをしていくに
つれて,自分が良くなっていくような気がした。
・自分の良いところはもっと伸ばしていき,ダメなところは少しずつ良くしていこう
と思った。
・自分の性格が分かって,これからどんなところを伸ばしていき,どんなところを下
げないようにするかということが分かったので,それを頑張っていきたいと思いま
す。
・今日の活動で,今自分に足りないことは思いやり,優しさだと思うので,今からは
気をつけてそこを上げていきたいと思う。
○
授業後の生徒の感想を読んでいくと,エゴグラムに対して肯定的な受け止め方をし
ている生徒が多いことが分かる。生徒は自分の性格や行動傾向がある程度分かってい
る。しかし,エゴグラムをとおして,自分の思っていたとおりだったと改めて確認で
きたり,自分のイメージとは違った予想しない側面が映し出されたりしたことによっ
て,自己理解が深まったと考えられる。
○
エゴグラムをグループ内で見せ合いコメントをもらう活動は,肯定的な見方やコメ
ントをもらえたことにより,安心して取り組めたようだ。また,生徒も感想で述べて
いるようにエゴグラムが「十人十色」であることを理解できたと思う。本時の目標に
はしていなかったが ,結果として他者理解も同時に深めることができたと考えられる 。
- 77 -
5
○
授業の分析と考察
今回の実践は,エゴグラムを用いて自己理解を深めることを中心に進めた。時間短
縮のため事前指導として短学活の時間にエゴグラムを実施した結果,生徒の活動する
時間を確保することができた。
○
この実践を行ってみて,生徒の自己理解を深めさせる一つの手立てとしてエゴグラ
ムは十分に活用できると確信した。
○
前回実施したエゴグラムと今回のそれを比較させると ,生徒は非常に興味を示した 。
そして,自我状態の説明をしたプリントと照らし合わせながら,自分の傾向をつかむ
段階では集中してプリントに記入し,自己理解を深めていっていた。しかし,自我状
態の説明の言葉が,分かりやすい表現となっていなかったため,生徒にとって理解し
づらいところがあった。
○
理想のエ ゴグラムを考えさせる場合には ,「なぜ,低い自我状態の部分を上げなけ
ればならないのか」ということを十分に説明し,自分の理想とするエゴグラムのイメ
ージをふくらませる手立てが必要であった。中にはとまどいを感じた生徒もいた。
※「エゴグラム用紙」は ,「Ⅲ
プページを御覧ください。
教育相談の技法を活用しよう」に掲載しています。トッ
- 78 -
「ストレスマ ネジメント」を活用 した特別活動の実 践例
〈学年集会 において 〉(中3)
1
実践のねらい
○ 私たちの身のまわりにはストレッサー(ストレス状態を引き起こす要因)があふれ
ている。そのストレッサーに対する評価には個人差があり,その認知の仕方とその対
処(コーピング)の仕方によってストレスを感じる度合いも違ってくる。対処の仕方
がよければ,ストレスは軽減されたり取り除いたりすることができる。しかし,悪い
対処の仕方をすれば,逆にストレスの悪循環になることがある。このようなストレス
の仕組みを理解させ,その上でリラクセーションのプログラムを体験させる。生徒が
自分でストレスをコントロールできることに興味を持たせて,今後の生活に活用して
ほしいと考える。
○
2
中学3年生11月の時期は,三者面談が行われて進路希望を決定する重要な時期で
ある。進路希望決定後,生徒は高校入試等に向けて今まで以上に本格的に勉強に取り
組み始める。すると生徒は次第に入試へのプレッシャーを強く感じたり,不安や焦り
が出てきたり,いらいら感などが見られるようになったりする。そのため,攻撃的な
言動をとる生徒,無気力な生徒,疲れている生徒などが出てくると予想される。しか
し,高校入試や就職試験というストレッサーは取り除くことができない。そのストレ
スへの対処として,ストレスに対する考え方やリラクセーションの様々な方法がある
ことを知らせたい。生徒が実際に体験して,いらいらしたときや不安が高まったとき
などに活用できることを願っている。
実践のポイントと留意点
( 1) 予防・開発的な視点から実施する。
ストレスに対 する考え方,評価,対処につ いて具体的に理解させることは大切で
ある。しか しながら生徒は ,「ストレスはいやなもの 」「ストレスをなくした方がい
い 」「スト レスに 負け ない」 といっ た考え を持つ ことが 多い。そ うでは なく, スト
レス と上手につきあうことが大切であ ること,ストレスを「よりよく生きていくた
めの力」として活用するという視点を大切にしていく。
( 2)
学年部会を活用する。
今回は学年全 体で実施した。そのために学 年の先生方に協力を依頼した。授業の
進め 方について事前に授業のねらい, 内容等を伝え,どのような援助をしてほしい
のかを具体的に説明しておくことが必要である。
( 3)
リラックス度の個人差に対する配慮
リラクセーシ ョンのプログラムを実施して も,リラックスできたと感じる生徒も
いれ ば,そうではない生徒もいるはず である。リラックスした感じをつかめない生
徒に 対しては,個人差があることを分 からせるように配慮しなければならない。リ
ラッ クスできないことが恥ずかしいと か,情けないなど,実施したことによってか
えっ てストレスが生じることを避けな ければならない。また,リラックスができた
生徒にはできたことによる優越感が生じたりすることもあるかもしれない 。よって ,
人そ れぞれに実施した後の感じ方に差 異があって当然であることを説明しておくこ
とが必要である。
- 79 -
( 4)
消去運動を必ず行う。
一般的には, リラクセーションのプログラ ムを実施すると,個人差はあるがリラ
ック ス状態になっている。就寝前に実 施するのであれば,そのまま眠ることは問題
ない 。しかし,学校で実施する場合に は,リラックス状態から回復して再び活動を
始め なければならない。そこで,リラ クセーションのプログラムを実施した後には
必ず消去運動を実施していく。
( 5)
BGMを利用して,落ち着いた雰囲気をつくる。
ストレスマネジメントの学習とはいいながらも ,普段と異なった授業を行うため ,
ざわ ついた雰囲気になってしまうこと が予測される。落ち着かない状況で活動する
とリ ラクセーションどころではなく, 逆にストレスに感じる生徒も出てくる可能性
があ る。そこで,今回は,静かな雰囲 気をつくることを目的にBGMを活用し,落
ち着いた雰囲気になるように配慮した。
3
実践事例
(1)
目標
①
ストレスの仕組みを大まかに理解し,様々な対処の仕方があること,評価の仕方を
変化させることによってストレスの受け取り方が異なることなどを知る。
②
リラクセーションの方法として「10秒呼吸法 」「漸進性筋弛緩法」等を体験し,
その方法を知る。
③
(2)
ストレスを前向きにとらえ,日常生活の中に生かそうとする。
指導計画(全3時間)
第1時
ストレスについて知ろう。
第2時
ストレスを自分でコントロールしよう①
・10秒呼吸法
・セルフ・リラクセーション
・ペア・リラクセーション
ストレスを自分でコントロールしよう②
第3時
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 本時
・漸進性筋弛緩法
(3)
本時
過程
導
学
習
活
動
教師の手立て・留意点
1
リラッ クスで きたら いい なあと 思う場 面
をイメージし,レジュメに記入する。
例 )・テスト
・入試
・試合
・緊 張して いると 身体が 硬くなる ので, そ
れを 解き ほぐす こと によっ てリ ラック ス
状態をつくり出せればよい。
2
前時と は違う リラク セー ション の方法 を
学ぶことを知る。
入
10
分
- 80 -
・ 学 年集 会 と 同じ 並 び方 で 整列
させる。
・ リ ラッ ク ス した 雰 囲気 を つく
る た め, ゆ っ たり と し たB G
Mを流す。
・ 制 服は 体 を 締め 付 ける の で,
ジャージ・体操服で実施する 。
・ 前 時 に 「 1 0 秒 呼 吸 法 」「 セ
ルフ・リラクセーション 」「ペ
ア ・ リラ ク セ ーシ ョ ン 」の 3
つ の リラ ッ ク ス法 を 行 った こ
とを確認する。
3
開
「漸進性筋弛緩法」を体験する。
(1)評定シートに今の「心と体の状態」を評
定する。
① プ リント 「リラ ック ス法に ついて 」
にストレス度を記入する。
② 30秒間,脈拍を測り記入する。
35
分
(2)体育館いっぱいに広がって,リラックス
しやすい態勢をつくる。
・ 事 前に 連 絡 し, バ スタ オ ルを
持参させておく。
( 3)体験する。
・始めに ,「10秒呼吸法」を復習する。
・指示 に従っ て身体 部位 に力を 入れて 緊
張さ せ,そ して力 を抜 く弛緩 を繰り 返
す。
①右手 ②左手 ③右脚 ④左足
⑤両手 ⑥両足 ⑦両手→両足
⑧両手→両足→胸
⑨両手→両足→胸→腰
⑩両手→両足→胸→腰→顔
・自分の身体の様子に意識を集中させる 。
・一気 に力を 入れて ,力 を抜い たとき の
違いを感じさせる。
・ 腹 式呼 吸 を 思い 出 させ , 落ち
着いた雰囲気をつくる。
展
( 4)消去動作を行う。
・ ジャ ン ケ ン の 「 グ ー 」「 パ ー 」 の 繰 り
返し,屈伸,伸びなど
4
終
末
5
分
5
授業の 感想を 「アン ケー ト用紙 (授業 評
価シートB )」と「リラックス法について」
の2枚に,評価や感想等を記入する。
まとめとして教師の話を聴く。
- 81 -
・ レ ジュ メ と プリ ン トは 生 徒に
配布しておく。
・ 現 在の ス ト レス 状 態を 確 認し
意識させるため記入させる。
・ 合 図を し て 30 秒 間脈 拍 を測
らせる。
・ 安 心し て 取 り組 め るよ う に目
を 閉 じさ せ て ,友 達 か らは 見
られていないことを知らせる 。
・ 実 施す る と きに , 笑い が 生じ
や す いの で , 落ち 着 い た雰 囲
気を保つようにする。
・ 他 の先 生 方 に生 徒 の様 子 を観
察してもらい,落ち着いて進
行する。
・ リ ラッ ク ス 状態 か ら活 動 する
状態に戻らせる。
・感想用紙を配布する。
・ 体 験後 の 気 持ち を 実感 さ せな
が ら ,ア ン ケ ート に 記 入さ せ
る。
・ 大 事な 場 面 で活 用 でき る よう
に ,「自分でやってみること」
「 練 習 が 必 要 な こ と 」「 継 続
し て 行 う こ と 」「 消 去 動 作 を
行 う こと 」 な ど, ポ イ ント を
絞って話をする。
4
児童生徒の変容
( 1) 授業アンケートより
「 第 1 回 授 業 ア ン ケ ー ト ( 1 1 / 6 ) 」
1 7
( 1 ) 「 興 味 を も て た 」
( 3 ) 「 今 日 の 授 業 で お ぼ え た こ と を , 日
常 生 活 で 活 用 し よ う と 思 う 」
8 7
2 4
4 6
9 0
3 4
( 4 ) 「 今 日 の 授 業 内 容 は わ か っ た 」
0
5 1
9 0
2 ま あ ま あ
4
4 8
3 6
( 2 ) 「 自 分 の 生 活 に 関 係 が あ る 」
1 と て も
1 0 0
4
4 4
3 あ ま り
1
4 ま っ た く
「 第 2 回 授 業 ア ン ケ ー ト ( 1 1 / 9 ) 」
( 1 ) 「 興 味 を も て た 」
3 4
1 0 6
4 1
( 2 ) 「 自 分 の 生 活 に 関 係 が あ る 」
( 3 ) 「 今 日 の 授 業 で お ぼ え た こ と を , 日
常 生 活 で 活 用 し よ う と 思 う 」
( 4 ) 「 今 日 の 授 業 内 容 は わ か っ た 」
4 0
( 5 ) 「 リ ラ ッ ク ス で き た 」
3 8
1 と て も
8 9
5 2
2 ま あ ま あ
2
2 8
3 5
8 8
2 7
9 3
3
3 5
9 3
3 あ ま り
5
2
3 2
6
4 ま っ た く
「 第 3 回 授 業 ア ン ケ ー ト ( 1 1 / 1 0 ) 」
( 1 ) 「 興 味 を も て た 」
( 2 ) 「 自 分 の 生 活 に 関 係 が あ る 」
( 3 ) 「 今 日 の 授 業 で お ぼ え た こ と を , 日 常
生 活 で 活 用 し よ う と 思 う 」
( 4 ) 「 今 日 の 授 業 内 容 は わ か っ た 」
( 5 ) 「 リ ラ ッ ク ス で き た 」
1 と て も
2 ま あ ま あ
7 6
8 8
7 0
0
1 0
8 8
1 6
0
8 9
6 9
1 6
0
9 0
7 0
1 3
1
1 2 0
3 あ ま り
4 2
1 0 1
4 ま っ た く
○
第1回目の授業はストレスの概念について説明・解説を行い,生徒はストレスの仕
組みや内容等を理解することができた。さらに,対処方法,解決策,発散の仕方につ
いても知ることができた。ストレスについて自分のこととしてとらえることができ ,
自分自身を見直す機会になったようだ。その反面,教師主導で授業を進めたため,生
徒の関心度は,あまり高いとは言えなかった。
○
第2 回目の 授業では 「腹式 呼吸 」「セ ルフ・リ ラクセー ション 」「ペ ア・リラ クセ
ーション 」を体験させた 。第1回目と比べて「 とても 」と回答した生徒の数が増えた 。
中でも,日常生活に役立てようという項目が前回よりも高くなった。生徒の中には,
「指先までポカポカしてきた 。」という感想を書いた生徒や脈拍数が減少したという
生徒もおり,リラックスの度合いには個人差はあるものの,効果があったと実感して
いた生徒が多くいた。動作法に対して「体操」をイメージする生徒もいたようだが,
腹式呼吸や肩の上げ下げという簡単な方法だったことに生徒はそのよさを感じたと考
- 82 -
えられる。さらに,ペアで取り組む方法は一人でするのとは違って,さらに力が抜け
たような生徒もいたようだった。実際に体験しリラックス法によってリラックスした
状態を感じることができたため,アンケートの結果は第1回目よりもよくなったと考
える。
○
第3回目は,動作法の中の「漸進性筋弛緩法」を実施した。とてもリラックスでき
たと感じた生徒が多くを占め ,全体の70%近くを占めていた 。
「 脈が下がった 。」
「体
が少 し楽に なってリ ラック スでき た 。」「体の力 が抜け た。何 となく前 より良く なっ
た気 がした 。」「疲れ ていたの がかなり 楽になって すごく良 かった 。」「本当に体 がポ
カポカして気持ちよくなった 。」といった感想からもそのリラックスがしっかりでき
たことが分かる。また ,「家でもやれたらいいと思う 。」「とても効果が自分にはある
ので ,今後 の生活に 生かし たいで す 。」「いろん な場面 でどん どん活用 したい。 受験
勉強のときにするとよさそう 。」のような回答もあり,実践したことを活用しようと
いう思いを持った生徒も多く,アンケートの結果でも半数以上日常生活で活用しよう
考えていることが分かった。生徒が実際にやってみて 「簡単にできたこと 」「腹式呼
吸ができるようになった」という満足感も,評価が高くなった要因の一つと考えられ
る。アンケート結果はすべての項目において「とても」と「まあまあ」を合計すると
90%以上となっている。
( 2)
授業実施後のアンケートより
ストレス度(平均)
リラクセーション法の活用
114
6
5
4
74
11月7日
3
11月17日
2
1
身 体 の反応
無 気力
不 安 ・心 配
落 ち込 み
イ ライ ラ
0
ある
ない
リラ ク セ ー シ ョン の 活 用
活用した場所
90
76
32
25
0
エ 漸 進 性 筋 弛 緩 法 18
10
エ そ の 他
ウ 塾
- 83 -
イ 自 宅
ア 学 校
ウ ペア リ ラク セ ー シ ョン
(肩 の 上 げ 下 げ )
イ セ ル フ リ ラ ク セ ー シ ョ ン
ア 1 0秒 呼 吸 法 24
○
現在の「ストレス度」について,第1回目の授業のときと,授業が終了してしばら
くしてから , 同じ質問項目( 10 点法で , 点数が高くなるほどストレスを感じている )
で評価させて変化を確認した。自分の主観を基にしているため客観的なデータとして
は有効性が低いとはいえ,1回目と2回目を比較するとすべての項目についてポイン
トが低くなっているのが分かる。
○
授業後,動作法 を活用したとい う生徒は全体の過半 数を超えていた。特に「 10 秒
呼吸 法」は 半数近く の生徒 が行っ ていた 。「 セルフ ・リラク セーシ ョン 」「漸進 性筋
弛緩法」は約8分の1程度の生徒が実践していた。実践した場所は主に「自宅」で,
「学校」で実施している生徒もいた。その他では英語検定試験等の面接試験前に実施
した生徒も多くいた。このように見てくると,生徒は実際に活用していることが分か
る。特に「漸進性筋弛緩法」でリラックス状態を体験した生徒は,自宅でも寝る前に
行ったり,体がきついときに実施したりしていた。
5
○
授業の分析と考察
動作法を行うと深いリラックス状態になる生徒から浅い状態の生徒まで様々あらわ
れる 。「指先がポカポカした 。」「本当に体がポカポカして気持ちよくなった 。」「頭が
スッキリして,疲れが少しとれた 。」「体が軽くなった 。」というようにリラックス状
態を感じた生徒がいた反面 ,「ストレスが半分しか抜けなかった 。」「あまりリラック
スできない 。」というように効果がないと感じた生徒がいたのも事実である 。特に「 漸
進性筋弛緩法 」については眠くなるほどリラクセーションができた生徒がかなりいた 。
そのためか,消去動作を行って身体を起こさせたにも かかわらず ,「少しボーッとし
ている 。」「逆に疲れてしまった 。」「頭が痛い 。」などと答えた生徒が数名いた。そこ
で,学校で実施する際は動作法実施後に必ず消去動作をして,適切な状態にしてやら
なければ,その後の活動へ影響を与える可能性がある。
○
体育館で実施することを生徒は期待しており,気分が高揚したようなところがあっ
た。1回目にストレスについてのアンケートを記入させたときに,ざわざわとした雰
囲気になってしまった。それは,隣との距離が近づきすぎたために安心して記入する
ことができなかったためと考えられる。生徒が心理的に圧迫を感じないように配慮す
ることは,活動をさせる上で大切なことである。その点に注意しながら2回目,3回
目の授業を実施した。特に3回目はフロアに仰向けになって活動するために,近くの
人と接触しないようにさせ,目を閉じさせて気が散らないように配慮した。すると,
生徒は活動に集中することができ,多くの生徒がリラックス状態を体験できた。
○
第2時で実施した「ペア・リラクセーション」を実施する際には,身体接触のある
活動となるため,ペアとなる生徒同士の人間関係等に配慮する必要がある。そこで,
「構成的グル ープ・エンカウンター」等 を事前に行い,生徒同士の望ましい人間関係
をつくっておくと,更に効果が上がると考える。
○
今回は動 作法を実施したが,計画を練って時間数を増やし ,「アサーショントレー
ニング 」「ソーシャルスキルトレーニング」等も併せて実施することができれば,生
徒の心や生活にゆとりが生まれ,そのことによって,生徒が落ち着き,生徒指導面で
も効果があると考える。
○
今回は3年生の三者面談前の時期に実施した。実施した学年の先生からは「時期的
にちょうどいいですね 。」といった言葉をいただいた。生徒にとって進路希望の決定
という重要な時期を迎え,緊張の度合いは高まっているはずである。生徒の中には三
者面談の待ち時間の間に「10秒呼吸法」をして落ち着かせようとしたと答えた者も
いる。勉強の合間に「セルフ・リラクセーション」を実施して緊張を解いたり,呼吸
を整えて集中力を高めようとして取り組んだりしているという報告もあり,生徒が日
常生活に今回の実践を生かすことができたということにおいて ,非常に効果的であっ
た。
- 84 -
「ア サー ション トレ ーニ ング 」の考 え方 を活用 した 教科( 国語 科)の
実践例(高1 )
1
○
○
2
実践のねらい
この実践のねらいは ,
『 自己を他者に開く 』ということである 。実際の授業内容は ,
古語で物語を作成し,それを他者が批評するというものである。生徒は,作品を作成
するにあたって,当然読まれることを考えて,他者を意識している。しかし,実際に
自分の作品を他者に読んでもらうとなると,大変なプレッシャーがかかり,そして,
相手の反応が無関心であったり,ありきたりの批評をされたりすると,大変寂しい思
いをする。
また,相手にとっても,自分の意見を人前で発表するということは大変勇気がいる
ことであり,ともすれば当たり障りのない意見に終始してしまうおそれがある。
「望ましい人間関係」とは,お互いに距離を保って傷つけ合わないようにすること
ではない。お互いの違いを理解した上で,どうかかわっていくかということである 。
相手が表現したことを受けとめ ,そして自分の思いを相手に返す 。その過程において ,
伝わる伝わらないということを経験して,どう分かりやすく伝えようかということを
考えていくことが大切である。どこまで,前向きな意見が生まれるかは,他者とどれ
だけ誠実に向き合うのかという姿勢にかかっている。ともすると自分という密室に閉
じこもりがちの高校生であるが,この授業を通して,自分も相手も大切にすることの
意義を理解させたい。そして ,『自己を他者に開く』きっかけとなることを期待して
本授業を実践した。
実践のポイントと留意点
(1) アサーショントレーニングの考え方を活用する。
実施にあたっ ては,アサーショントレーニ ングの考え方を活用した。アサーショ
ンとは ,「自分も相手も大切にした自己表現」のことである。具体的にいえば ,「自
分の 考え,欲求,気持ちなどを率直に ,正直に,その場の状況にあった適切な方法
で述 べること」である。アサーション の考え方では,人間はそれぞれ考え方や感じ
方が 違っているのは当然であり,また 相手はこちらの意図とは違う受け取り方をす
ることもあるととらえる。
したがって, 合評会において,作品に関す る意見や考えを率直に表現し合い,そ
れら を大切にする場を設けることによ って,お互いが理解し合い関係を深めていく
ことができると考えた。
(2)
発達段階を配慮する。
実際の学習活 動は,自分の作品を他者に批 評してもらい,自分も他者の作品を批
評す るというものである。5人1組と なり,それぞれの作品をまわし読みし,コメ
ント票を記入する 。その後 ,班長の司会で話合いをするという形式をとる 。本来は ,
最初から ,お互いの考えや意見 ,アイディアを話し合うという形が望ましいのだが ,
思春 期の生徒にとっては,抵抗がある 。そこで,意見を直接相手に伝える前に,自
分の意見をまとめさせることにした。
- 85 -
3
実践事例
(1)
目標
○
アサーショントレーニングの考え 方を活用して,他者の書いた『私家版
伊勢
物語』を読み味わう。
(2)
指導計画(全4時間)
第1時
『私家版
第2時
構想メモをもとに現代語訳を作成する。
第3時
現代語訳をもとに古語で物語を作成する。
第4時
合評会を実施する。‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 本時
(3)
本時
過程
導
伊勢物語』作成のための構想メモを作成する。
学
1
習
活
動
教師の手立て・留意点
本 時の 学習 内容 につ いて 理解 す
・班員全員が ,それぞれの作品を味わい ,
る。
さ らに より よく する ため の 方 法を 考え
入
る 。そ のた めの 方法 とし て, 5人 1組
と なり ,そ れぞ れの 作品 をま わし 読み
5
し ,コ メン ト票 を記 入す る。 その 後,
分
班 長の 司会 で話 合い をす ると いう こと
を伝える。
・話 合いを する 際に 「相 手の ことを 尊重
し なが ら, 自分 の気 持ち や考 えを 伝え
て いく 」こ とに ,特 に留 意し てい くこ
とを伝える。
2
それぞれの『 私家版
伊勢物語 』 ・記 入にあ たっ ては ,コ メン ト票に ,物
に つ いて , 作品 をさ ら によ りよ く
語 をよ りよ くす るた めの 指針 があ るの
す る ため の 具体 的方 法 を, コメ ン
で ,そ れを 参考 に行 う。 なお ,プ リン
ト 票 に記 入 し, コメ ン ト票 は自 分
ト の① ~③ は自 分で もで きる ので ,今
の 手 元に 置 いた まま , 作品 のみ を
回 ④~ ⑦に 絞っ て行 うと いう こと を説
左手にいるメンバーに渡していく 。
明する。
- 86 -
【コメント票】
(
) さんに対す るコメント 票
一 年 ( )組 氏 名(
)
①歴史的 仮名遣いの 使い方は正 しいか。
・「はひふへほ」
「わゐうゑを」
「やいゆえよ」等
② 文法の使い 方は正しい か。
・ 助動詞の 使い方、接 続詞等
③古文単 語の使い方 は適切か。
④話 の展開に無 理はないか 。
☆班長(司会)の仕事
【授業前】
時
分~
時5分の予定
・ コメント票 を班員に、 一人4枚ず つ渡
しておく。
【授業中】
2 自分の 左側のメン バーから、 コメン
ト票を 読んで、感 じたこと・疑 問点等
を発表してもらう。
1 コメン ト票の交換 が終わり 、班員が
自分 に対するコ メント票に簡 単に目を
通したことを確認する。
11
時間が ない場合は 、特に疑問 点は授
業後で も確認でき るように指 示する。
次のメンバーも同様にする。
特に疑問 点は、コメ ント票を書 いた
人と話合いができるように司会する。
3
4
5
- 87 -
55
6 話合 い 終 了 後、 ア ン ケー ト を 配り
記入してもらう。
【授業後】
・実際に互いに批評してどうだったかを ,
発表させる。
・「 相 手 が 表 現 し た こ と を 受 け と め , そ
し て自 分の 思い を相 手に 返し たか 」と
いうことを確認する。
ア ンケ ート に記 入し ,感 想を 発
表する。
4
⑤和歌は、 話の流れに あっている か。
開
10
・授 業終了後、 班員全員の 作品・ア ンケ
ート・コメント票を集め 、封筒に入れ 、
提出する。
40
分
・ 班 長 に は ,「 班 長 ( 司 会 ) の 仕 事 」 と
いうプリントを参考にさせる。
自 分の 作品 が戻 って きた ら, コ
メ ン ト票 を 交換 する 。 簡単 に目 を
通 し ,班 長 の司 会の も と意 見を 交
換する。
3
⑥登場人 物はいき いきと描か れているか 。
⑦全 体を通して の感想
展
【班長(司会)の仕事】
終
末
5
分
4
5
『 私家 版 伊勢 物語 』を 完成 さ
せて提出することを知る。
・今 日書い ても らっ たコ メン ト票を 参考
にして,完成することを確認する。
児童生徒の変容
( 1) 授業アンケートより
【他人の作品を読んで批評することについて】
ア
授業前
授業後
イ
ウ
エ
とてもお もしろそ う
おもし ろそう
あまりや りたくな い
全 くしたく ない
とてもお もしろか った
おもし ろかった
あまりおもしろくない
つ まらない
9
20
22
17
8
0
0
0
授業後その他―大変疲れた・難しかった
【他人に自分の作品を読まれることについて】
ア
授業前
授業後
イ
ウ
エ
とてもお もしろそ う
おもし ろそう
あまりや りたくな い
全 くしたく ない
とてもよ かった
よかっ た
あまりよくなかった
嫌 だった
4
3
4
30
22
1
8
2
授業前その他―完成させることに必死だった。
授業後その他―普通(3)
( 2)
授業後の生徒の感想より(一部抜粋)
《自己表現・自己理解に関する内容》
・自分が思っていた伝えたいことを相手に伝えるのは,とても難しいことだと思った。
・ただでさえ物語をつくるのは難しいのに,古語に直す作業も加わってもっと難しくな
った。けれど完成したときはやって良かったと思う。他の人の作品もよくて,いい勉
強になった。
・自分がつくった物語をみんなに読んでもらい,それぞれの意見をもらえたので自分に
プラスになった。みんなの作品も個性があって,みんな違う話だったので楽しく読め
た。
- 88 -
・とりあえず,作品につくり上げてみたけど,批評されるとなると,すごく恥ずかしか
ったです。でも,みんなの作品を見て,みんなの作品のよさに驚いて,自分の作品を
評価してもらえたので,すごくいい経験になりました。
《他者理解に関する内容》
・他人の作品を読むことで,いろんな発見が見えてきてすごくいい授業だった。
・他の人の作品を見て,この人はこんな作品をつくるんだなあと思い,それぞれの作品
に,性格が表れているようだった。
※ 生徒のコメント票から(一部抜粋)
・登場人物の心の動きがよく伝わってきたのでよいと思いました。ただ,女から男への
別れの和歌と男から女への返歌もあったほうがよいと思う。
・ハッピーエンドではないが,よい話でした。話の中の季節と,和歌の季語がとても合
っていてすごいと思いました。とにかく和歌が上手でした。
・最後は別々の道を歩むのはとても悲しいけれど,現実的だなあと思った。
・話の展開が意外でとてもおもしろかったです。和歌は話の流れにあっているし,登場
人物はいきいきと描かれていました。
○
5
他人の作品を読んで批評することについて,授業前は「とてもおもしろそう」が9
人だったのが20人へ 。「あまりやりたくない」が8人だったのが,授業後取ったア
ンケートでは,0人へ。他人に自分の作品を読まれることについて「あまりやりたく
ない 」が22人 ,
「 全くしたくない 」が8人いたのが ,授業後取ったアンケートでは ,
それぞれ1人,2人へと減少している。
本授業ではアサーティブな自己表現をさせるために,コメント票を活用し,意見を
直接相手に伝える前に自分の意見をまとめさせる工夫を行った。教材の魅力ももちろ
んあったと思うが,そういった工夫が功を奏したと言えるのではないだろうか。
生徒のコメント票にも,よいところをほめるだけでなく,作品に関する自分の意見
を述べ,今後に向けてのアドバイス等を記入してあるのもあった。そういったものを
事後指導の際に紹介し,アサーティブな表現とはどういうものかを考えさせていきた
い。
授業の分析と考察
○ 今回の実践は,4月から7月まで『伊勢物語』を学習した集大成に当たっており,
生徒は様々な思いを『伊勢物語』に持っていると思わ れる 。『私家版 伊勢物語』作
成には,全4時間の学習計画をあてたが,実際には1週間に1回のペースで実施した
ので,1ヶ月以上物語制作と向き合ったことになる。思いを込めて書き上げた作品を
読んでもらいたいという思いと,他者には見せたくないという思いが交錯していたこ
とが,アンケート結果から読みとれる。しかし,実際に自分の作品を読まれ,自分以
外の作品を読むことによって ,この実践のねらいとするところの『 自己を他者に開く 』
きっかけにはなったと考えている。
○
アサーティブな表現とはどういうものかということを 生徒に伝え ,授業を行ったが ,
一度の授業だけでは,適切な自己表現を身に付けさせることは不可能である。授業は
もちろんのこと,教育活動全体において表現活動を大事にし,自分と相手の相互を尊
重しようとする意識を高めていくことが大切である。また,生徒だけでなく教師自身
がアサーティブな表現を心がけていくことを忘れてはならない。
- 89 -
「構 成的グルー プ・エン カウンタ ー」を活 用したホー ムルーム活 動
の実践例(高 2)
1
実践のねらい
○ 本学級は,1年次からメンバーの4分の3が替わっていない。行事などにも一致協
力して臨み,達成感も味わっているが,リーダーシップのある生徒の力が大きいため
に,ややもすると控えめな生徒が自己を十分に表現できないこともある。そこで,全
員が気軽にのびのびと意見を出し合える雰囲気づくりを目指し,自己主張,他者理解
をねらいにして,構成的グループ・エンカウンターを実施することにした。
○
2
生徒一人 一人が具体的な体験を通して参加意欲を高められるように ,「新聞」を用
いてのエクササイズを行った。自己の視点と他者の視点を比較考察しながら傾聴し,
自己主張することができるように,また,協同作業による喜びを感じながら,集団の
リレーションづくり(関係づくり)ができるようにという期待をこめて実施した。
実践のポイントと留意点
( 1) 1単位時間で行え,構成的グループ ・エンカウンターの知識や経験が十分ではな
い教師でも実践できるものにする。
高等学校のホ ームルーム活動等で構成的グ ループ・エンカウンターを実施する場
合, ①継続的に計画的に行うのが難し い ②教師の実践経験が少ない という2点
にお いて実践しにくいことが考えられ る。構成的グループ・エンカウンターを成功
させ るかどうかは,リーダーとなる教 師の力によるものも大きい。そこで,初心者
であ る授業者にとっても負担が少なく ,生徒たちが活動しやすいものを取り入れて
みた。
( 2)
発達段階を考慮する。
構成的グルー プ・エンカウンターでは自己 開示することを大切にしていく。そこ
で, 思春期の生徒が持つ「恥ずかしい 」という抵抗感を取り除くために,小グルー
プで 新聞記事を媒介にして対話を行う ことで自己開示を促進し,抵抗感をなるべく
取り除くようにした。
( 3)
安心して自由に活動できる雰囲気づくりをする。
「エクササイ ズ」と「シェアリング」にお いて,安心して「自己開示」できるよ
うに,以下の点に留意する。
① エクササイズの前にウォーミングアップを行う。
生徒の参加意欲を引き出し,より活動しやすい環境にするために,緊張感を和ら
げるようなウォーミングアップを行う。
② エクササイズの説明や指示(インストラクション)は簡潔・明瞭に行う。
円滑な活動を促すためには,明確なルールのもとで共通理解してエクササイズに
臨むことが必須である 。また ,教師の発言は少ない方が ,生徒が「 やらされている 」
意識を持たず,より自発的な活動を生み出すと思われる。
- 90 -
③
④
( 4)
3
エクササイズの時には以下の点を観察し,必要に応じて援助する。
・生徒の表情や参加の仕方
・グループ内のコミュニケーションと雰囲気
教師自身も楽しむ態度で臨む。
リーダーとして説明や指示をしたり生徒の様子を観察したりしながらも,共感的
・受容的態度で接する。場合によってはエクササイズの実演をするなど,自己を
開示し,生徒とともに楽しむ態度で臨みたい。
シェアリングとフィードバックを大切にする。
「構成的グル ープ・エンカウンター」と「 単なるゲーム」との違いはシェアリン
グで ある。まず自分の気付きや感情を 振り返り,言葉にすることで,漠然としてい
た思 いを明確にし,自己理解につなげ る。次に他者と分かち合うことで,同じよう
な気 付きや感情を持った他人の存在に 励まされ,また逆に同じエクササイズを経験
して も,個人の受け取り方や感じ方が 様々であることを知り,他者理解に役立つ。
さら にクラス全体で分かち合うことに より,集団としての関係性を深める機会とな
る。 教師も適宜,自分なりの気付きや 感情等をフィードバックして活動のねらいを
焦点化させる。
実践事例
( 1) 目標
① 他人の意見を傾聴し,自己の意見を主張する。
② 協同作業を通して,よりよい関係づくりをする。
( 2)
指導計画(全1時間)
( 3)
本時
過程
学
習
活
動
導
入
5
【ウォーミングアップ】
1 後出しジャンケンをする。
分
2
4人グループにする。
【インストラクション】
・本時の学習内容について知る。
教師の手立て・留意点
・これから体験する様々なことについて
どう感じたか,事後感想を書くことを
伝える。
・教師対生徒全員で行う。
・座席ごとに4人のグループをつくる。
・新聞を使ってエクササイズをすること
を伝え,各グループに新聞紙(半分の
大きさ)と記録用紙を各1枚ずつ配付
する。
・参加ルールの確認をする。
①少しだけ勇気を出して ,取り組もう 。
②自分が思ったこと,感じたことを率
直に伝えよう。
③他のメンバーの話を傾聴しよう。
人の話をさえぎらない。
人の話の内容を冷やかさない。
- 91 -
【エクササイズ】
3
エクササイズ①
「 新聞 を 使っ てで きる こと (例
: 望 遠 鏡 , バ ッ ト , 帽 子 等 )」 を
・ゲームのねらいと手順の説明をする。
・最も多く出したグループに発表させ
一切 話さ ず にジ ェス チャ ーだ けで
る。
できるだけ多く班員に伝え合う。
(制限時間1分30秒)
4
展
エクササイズ②
・新 聞記 事 の中 から 最も 印象 に残
る記事・写真をそれぞれ選ぶ。
開
40
・グ ルー プ 内で 討議 し, 最も 紹介
分
・討議の際の注意点を伝える。
したい記事を一つ選ぶ。
①4人が自分の選んだ記事について1
分ずつ話す。
②紹介する代表者も討議で決める。
・話合いが活発に行われているか机間指
導し,観察する。
・代表者1名が ,記事を紹介する 。 ・紹介の際は記事を指し,大きな声で発
(各グループ30秒程度)
表するよう伝える。
・記事の選定については様々な視点があ
ることにふれる。
5
エクササイズ③
・新聞を30ピースにちぎる。
・ゲームの手順を説明する。
・ちょうど30ピースになるように注意
させる。
・ちぎった新聞を復元する。
・別のグループの新聞を復元する 。
終
末
【 シェアリング】
6
授業の感想を記入し ,発表する 。 ・生徒の活動から感じたこと,気付きを
5
分
フィードバックする。
- 92 -
4
児童生徒の変容
( 1) 授業アンケートより
4… とて もそう 思う
3… 少しそ う思 う
2… あ まりそ う 思 わない
1… 全く そう 思わな い
上段 クラス全体平均
下段 新入生徒平均( 注 )
クラスの雰囲気に関して
実施前
実施後
クラ スメ ート が 声を かけて くれ たり ,親 切に してく れた りす る 。
3.6
3.6
3.5
3.7
クラ スメ ート と 気軽 に話す こと ができ る 。
3.7
3.7
3.7
3.9
自分 のク ラスは 明る く楽し い感 じがす る。
3.4
3.7
3.3
4.0
クラ スの 友人関 係は うまく いっ ている と 思 う 。
3.6
3.7
3.8
3.8
活動に関して
実施後
クラ スメ ート と の話 合いは ,自 分自身 のた めにな った 。
3.5
今日 の活 動を通 して ,ほっと した り 明る い気 分にな った りし た 。
3.6
今日 の活 動は楽 しか った。
3.7
今日 の活 動では ,積 極的に 活動 した。
3.6
(注 )「新入生徒」とは,2年時に新しくクラスに加わった生徒のことです。
( 2)
授業後の生徒の感想より(一部抜粋)
《他者理解に関する内容》
・新聞一枚でいろいろなことができるんだなと思った。今日の活動を通して,友達と話
し合うおもしろさを改めて感じることができた。
・日頃あまり話をしない人と話すことができてよかった。グループの中で自分の意見を
発表するときに頭の中で話そうと思っていたことがまとまらず,うまく伝えることが
できなかったけれど,みんな興味を持って聞いてくれてよかった。今日の活動を通し
てこれからいろんな人と会話ができたらいいと思う。
・みんな自分の意見をしっかり言えている。人の知らない一面が見えた。
・友達と一緒に話しながら作業をしたり ,友達の意見や考えを聞けたりして楽しかった 。
新聞に全く興味がなかったけれど,みんなで読むとおもしろく感じたし,たくさんの
考えが聞けて良かったと思った。
・班のみんなと力を合わせていろんなことをやってとても 楽しかった。いっぱい話など
ができてよかった。クラス内の友人関係は以前よりもよいものになったと思う。
《自己表現に関する内容》
・言葉なしでジェスチャーで表現するのは難しかった。でも理解してくれたからうれし
かった。
・人に自分から何かを伝えることがどんなに難しいかが分かった。少ない時間内に記事
を読み取ってみんなの前で話すのは勇気がいったし,緊張した。でも,自分が言った
ことに対して何も言わず静かに聞いてくれたので嬉しかった。
- 93 -
・新聞記事を説明するのは一人一人見ている観点が違っていておもしろかった。説明す
るのは簡単だけれど,自分の意見を合わせるとなると難しいと思った。最後のパズル
が一番楽しかった。
・少ない人数の中だったら言いたいことを言えそうだけど,大人数の前だったらそうは
いかないと思った。今日しゃべることができた人もいるので,慣れていけるといいと
思う。
・新聞に載っている小さな記事を説明するのにも言葉がつまったり,考えがでなかった
りと ,「相手に伝える」ということの難しさを知った。またパズルでは自分ではまっ
たく分からないところを他の人がカバーしてくれたりと,協力することの大切さを学
んだ。
《その他》
・面白くて早く時間が流れた 。高校ではこういう体験がないので ,またいつかやりたい 。
○
5
アンケート結果を見ると,特に「クラスは明るく楽しい感じがする」という項目に
おいて大きな変化が見られた。また,新しくクラスに入ってきた生徒ほど,ほとんど
の項目について変化が大きかった。活動に関しての項目についても,ポイントが高か
った。このことから,新しくクラスのメンバーになった生徒ほど,意欲的に活動し,
友人との関係を積極的に深めようとしていたことが伺える。感想からもお互いをいた
わりながら活動をしたことや,協力することの大切さを感じたことが多く書かれてい
た。
授業の分析と考察
○ 構成的グループ・エンカウンターは,クラス内の親密度を高めるのに大変効果的で
あることが分かった。今後もクラス替えの時期など,生徒が新しい環境づくり,友人
づくりをする際に取り入れていきたい。
○
構成的グループ・エンカウンターには,様々なエクササイズがある。今回,新聞を
利用したことは,生徒のグループ活動の抵抗感を軽減し,知的好奇心を満たすのに有
効な手立てであった。ジェスチャーゲームでは想像をめぐらし,それを伝えることに
一生懸命になり,面白い発想に笑いが出ていた。記事の内容を伝えるエクササイズで
は,やや緊張しながらも,自分の考えを話し,それに仲間が耳を傾けるという穏やか
な時間になった。また最後のパズルゲームでは思い切り楽しんでいた。
○
今回は時間の都合上,活動の最後に感想を書き,それを教師がまとめて翌日プリン
トし たもの を読むと いうシ ェアリ ングを 行った 。「 協力する ことの 大切さ 」「思 いを
伝えることの楽しさ,難しさ」など様々な気付きが書かれた感想を,生徒たちは興味
深く読んでおり,これも高校生にとっては十分なシェアリングになると思われた。シ
ェアリングは重要であるが,必ずしも発表という形態をとらなくても,生徒の発達段
階や実態に応じて柔軟にとらえてよいのではないだろうか 。
○
構成的グループ・エンカウンターは,様々な場面で,短時間で,時期や対象に応じ
て実施することができる。授業はもちろん,学校行事やリーダー研修会で取り入れた
り,PTAの学級懇談会など保護者の関係づくりにも有効であろう。高校生であれば
リーダーを生徒に担当させ経験させることで,リーダー育成にもつながる。実施の効
果を上げるためには,生徒の実態に応じたエクササイズを取り入れることや,日頃か
ら段階的に取り組むことなどが大切である。
- 94 -
Ⅴ
参
考
・
引
用
- 95 -
文
献
一
覧
Ⅰ
Ⅱ
教育相談に関して知っておきたいこと
文献名
1 「生徒指導の手引き」
2 「 小学校における教育相談の進め方 」
3 「学校における教育相談の考え方・
進め方-中学校・高等学校編- 」
4 「小・中・高等学校学習指導要領」
5 「教師が使えるカウンセリング」
6 「生徒指導担当教師のための教育相
談基礎の基礎」
7 学校の研修ガイドブック②「生徒指
導・教育相談」研修
8 「続・アドラー心理学トーキングセ
ミナー」
9 「学校教育相談心理学」
10 「プロカウンセラーの聞く技術」
11 「ブリーフセラピー入門」
12 「解決志向ブリーフセラピー」
13 「先生のためのやさしいブリーフセ
ラピー」
著者名等
発行年
1981
1991
1990
出版社
文部省
文部省
文部省
諸富祥彦
嶋﨑政男
1998
2004
2001
文部省
ぎょうせい
学事出版
有村久春
2004
野田俊作
2005
教育開発研究
所
アニマ 2001
中山 巖
東山紘久
宮田敬一
黒沢幸子
森俊夫
2001
2000
1994
2002
2000
北大路書房
創元社
金剛出版
ほんの森出版
ほんの森出版
発行年
2001
2003
出版社
ほんの森出版
医学書院
1992
1976
培風館
日本文化科学
社
森俊夫
児童生徒理解に関して知っておきたいこと
文献名
著者名等
1 「発達の危機とカウンセリング」
鳴澤 實
2 「 DSM-Ⅳ -TR 精 神疾患の 分類と 診 高橋三郎 他
断の手引」
3 「心理臨床大辞典」
氏原寛 他
4 「心理テスト法入門」第4版-基礎 松原達哉
知識と技法習得のために-
Ⅲ
教育相談の技法を活用しよう
文献名
1 「交流分析とエゴグラム」
2 「わかりやすい交流分析」
3
4
5
「生徒のこころ・教師のこころ-教
育現場と交流分析-」
「心理テストの進め方・読み方」
「交流分析のすすめ」
著者名等
新里里春
中村和子・杉田峰
康
横山好治・杉田峰
康
杉浦守邦
杉田峰康
6
「ロール・レタリング(役割交換書 春口 徳雄
簡法)の理論と実際」
7 「 構成的グループ・エンカウンター 」 国分康孝
8 「エンカウンターで学級が変わる」 國分康孝
シリーズ
- 96 -
発行年
1986
1984
出版社
チーム医療
チーム医療
1986
チーム医療
1991
1990
1995
東山書房
日本文化科学
社
チーム医療
1992
1996~
誠信書房
図書文化社
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
「構成的グループ・エンカウンター
事典」
「教師のためのコミュニケーション
スキル」
「ソーシャルスキル教育で子どもが
変わる」
「ソーシャル・スキル・トレーニン
グ」
「 教師のためのカウンセリング技術 」
「相談活動に生かせる15の心理技
法」
「アサーション・トレーニング さ
わやかな<自己表現>のために」
「教師のためのアサーション」
「子どものためのアサーション 自
己表現グループワーク」
「子どものアートセラピー -箱庭
・描画・コラージュ-」
「コラージュ療法入門」
「 ストレスマネジメント・テキスト 」
「動作とイメージによるストレスマ
ネジメント教育」
「子どものためのストレス・マネジ
メント教育」
「クラスの荒れを防ぐカウンセリン
グ」
国分康孝
2004
田中
2005
黎明書房
國分康孝
1999
図書文化社
渡辺弥生
1996
松原達也
2001
「月刊学校教育相
談」編集部
平木典子
2004
日本文化科学
社
教育開発研究
所
ほんの森出版
園田雅代
園田雅代 中釜洋
子
森谷 寛之
2002
2000
1995
日本・精神技
術研究所
金子書房
日本・精神技
術研究所
金剛出版
森谷 寛之
大野太郎 他
山中 寛 富永良
喜
竹中晃二
1993
2002
1999
創元社
東山書房
北大路書房
1997
北大路書房
今田里佳
一
2004
ぎょうせい
- 97 -
和代
土田雄
1983
書文化社