キャンプと川の増水

キャンプと川の増水
かって、神奈川県・玄倉川の中洲でキャンプをしていた会社の同僚家族十八人が増
水した川に流され、相次いで水死体となって発見された痛ましい事件がありましたが、
地元警察などの警告を無視した挙げ句のこととはいえ、その結果はあまりに悲惨でし
た。本来の自然は人間の手に負えない恐ろしい力を持っています。自然の力を侮ると、
最悪の場合、玄倉川の例のように、命を落とすことになりかねません。川でキャンプ
する場合の注意事項をいくつか挙げておきましょう。
1.増水しても流される心配のないところにテントを張ること。
河原をざっと見渡し、以前あった増水の跡を調べて、それより外側にテントを張るこ
とが大切です。増水の跡は、流された材木やゴミなどを見れば、おおよそ見当がつき
ます。また、川のカーブの外側も増水の際には危険です。
2.夕立があれば必ず増水することを知っておくこと。
たとえ、雨が降っていなくても、上流で夕立があったら当然下流も増水します。周辺
の天気の変化には充分注意し、また、警報などにも細心の注意を払うことが大切で
す。
3.夜の雨にも注意すること。
夜間の雨は、川が増水していることに気がつかない場合が多いので注意が必要で
す。とにかく、夜に雨が降り出したら、常に増水のことを頭に入れておかなくてはなり
ません。雨の夜に安眠するには、「浮き輪と酸素ボンベを着けて寝ることだ」という笑
い話さえあるくらいです。
キャンプでの増水の恐ろしさを書いてみましたが、ここでは、実際に中州に取り残さ
れ無理して岸に戻ろうとした場合、腰から首の辺りまで浸かった場合の急流の恐ろし
さがどの程度のものかを簡単な計算でみてみましょう。
ここでは計算を簡単にするために、断面積Sの人間に、流
速 v の水の流れがに垂直つきあたって、水の速度がゼロ
になったと仮定します。
t 秒間に体が受ける水の量はSvt、したがって水の質量は
ρSvt となります。ただし、ρ は水の質量密度です。
t 秒間に体に衝突する水
水の流れが速度 vから、速度 v1 に変わったとすれば加
速度は次式で表わされます。
ニュートンの運動の第2法則(ma=F)より
となります。この式を変形すると式(1)の運動量の変化と力積の関係が得られます。
・・・(1)
ここに、mはt 秒間に流れる水の質量、v1 は体に水がぶつかったときの速度(この
場合 v1 =0 )、v は川の流速、Fは人間に働く水の力、t は水が作用する時間です。さ
らに、v1 =0であることを考えて式を変形すると以下のようになります。
この式に、m=ρSvt を代入してみましょう。 、また符号の-は力の向きなので、ここ
では省略します。
より、
・・・(2)
が得られます。ご覧のように、水から受ける力(F)は流速の二乗に比例します。
この式をもとに、異なる流速で生ずる力を調べてみましょう。
その前に、水圧を受ける人間の体の表面積を概算しておきましょう。
簡単のために、人間を身長がL=170cm、体重がW=60kgの円筒形として表面
積を求めてみましょう。
より、ρ=1g/cm3、L=170cm、W=60kg=6.0×104g 、π=3.14 を代入すれば
1×3.14×R2×170=6.0×104
∴R=10.6cm
したがって、表面積(S)=2RL=2×10.6×170=3.6×103cm2=0.36m2
首は水に浸かっていないことを考慮して、大雑把に S = 0.3m2 とします。
式(2)を用いて、
v = 1m/s(徒歩:「駅から歩いて 5 分」といえば、5×60×1=300m ということになりま
す)
v = 5m/s(マラソン:通常 20 秒遅れといえば、20×5=100m 遅れているというよう
に使われます)
v = 10m/s(100m ダッシュ:オリンピックに出る選手のレベルです)
の場合について、それぞれ計算してみましょう。
F(徒歩)=1.0×103×0.3×1=3.0×102(N)≒30kg 重
F(マラソン)=1.0×103×0.3×52=7.5×103(N)≒750kg 重
F(100m ダッシュ)=1.0×103×0.3×102=3.0×104≒3.0×103kg 重
参考までにこれらをグラフで示しておきましょう。
このように、人が全速力で走ってもなかなか追いつくことが出来ないような流速
(100m ダッシュ:10m/s 程度)になると、3 トン近くの力が働き、お互いに手をつないで
脱出しようとしてもどうにもならない恐ろしい力が働くことを知るべきです。
2004 年の 12 月に起きた「スマトラ沖地震」の津波の流速は 6~8m/s だったといわ
れていますから、人間には、1~2 トンの力が働いたと考えられ、その被害の大きさも
おおよそ推定できますね。