シャロン校長の学校改革

平成14年6月
校長・教頭会議より
イギリスのニューハム地区・カルバートン小学校では、一人の女性校長が赴任し
て以来、それまで最低レベルであった児童の学力(国内統一テスト)が、国内最高
レベルに到達し、荒れていた校内も平静になった。その功績で校長は、大英帝国勲
章授与式において、エリザベス女王から教育部門で「ナイト」の称号を授与された。
シャロン・ホロ−ズ校長(41歳)
最もレベルの低い学校と呼ばれていた小学校の校長に赴任し、不登校や授業崩壊等
の問題を一掃し、奇跡とも言える学校改革を4年間で成し遂げ、イギリス中の注目を浴
びる。
公立カルバートン小学校
子ども
5∼11歳
354人
不登校の子どもが多く
15クラス
授業崩壊の小学校
子どもたちにも生き生きとした表情が戻り、、全国一斉テストの成績も
国語・算数・理科の平均点
→
44/300が
4年間で、282/300にアップした。
イギリス 授業崩壊からの脱出
シャロン校長の学校改革
公立カルバートン小学校
NHKスペシャル「イギリス
授業崩壊からの脱出」
平成14年4月27日(土)午後9時15分∼10時
改革の第一歩
*
朝8時30分になると、親が子どもを学校に送ってくる。
シャロン校長は、毎朝親子に声を掛ける。
*
親と一緒に学校を立て直す。
*
授業が始まると、校内を積極的に歩き回る。
子どもや先生を観察することは、校長として欠かせない大事な仕事で
ある。
*
授業中騒いでいた子どもには、15分間のペナルティー(廊下に立た
せる)を与える。
子どもたちに、やってはいけないことを厳しく教える。
ニューハム地区
人口およそ23万人
ロンドンの中心部から東側10Kmにあるテムズ川に沿った町。
住民の52%がアフリカ系、アジア系の移民。
失業率15%を越え、約6割の世帯が生活保護を受けている。
- 1 -
シャロン校長が赴任するまで、親たちは学校や教育にほとんど関心がな
かった。
始めて赴任してきたとき
恐ろしいと思うような場所であった。
校内に暴力が溢れ、子どもたちは、毎日のように喧嘩をしていた。
学習に身を入れることができず、集中力のない子どもばかり。
教師たちは悩み、どうすればいいのか分からず、フラストレーションが
たまっていた。
改革の切り札
子ども全員の親と契約を結ぶ。「家庭と学校の契約」
苦手な科目の克服のため、一人一人に会わせた目標を設定する。
契約の内容
Home School agreement
・必ず学校に来させること。
・夜は、子どもを早く寝かせることなど、生活の基本の始まり。
・親が宿題を見ること。
教育への積極的な協力を求める。
授業への親の参加も積極的に呼びかける。
TA(ティーチング
アシスタント)
18人の内12人が子どもの親である。
理解の遅い子への手助けをすることが役目。
子どもの目線から授業を見ることで、どこが、なぜ分からないかを見つ
ける。
親であるアシスタントが、自分の子どもと同じクラスに配置されること
はない。(公平な立場で授業に参加させるため)
5年生の子どもの母親は、校長の学校改革で学校が様変わりする様子を
見て、アシスタントになった。
報酬
年に約180万円
仕事をやめ、教育に情熱を注ぐよになる。
シャロン校長は、授業の前も、放課後も、いつも学校にいる。
教室や校庭を歩き回っている。
いつでも自分に話しかけてもらえるようにしている。
学校がオープンになったことで、親と学校の距離がとても近くなった。
ダウン症、自閉症など、知的障害のある子ども、10人が通っている。
子どもたちの世話も親と分担している。
LSA(ラーニングサポート
アシスタント)
障害のある子を見る。
特別な資格はいらない。12人の内、8人が親
謙譲な子も、障害のある子も、一緒に教室で学びながら、お互いを自然
に受け入れていく。
校長として、この地域全体に、教育者としての責任がある。
面倒な子やうるさい子は、学校に入れません。障害者は他を当たってくださいと言う
- 2 -
ことは簡単なことである。
チャレンジがなくては、校長の仕事はあまりにも退屈になってしまう。
教師も同じ。
より大きな挑戦をすることを楽しみと思うことが大事。
カルバートン小学校
6学年15クラス
勉強についていけない子が落ちこぼれるのを防ぐため、きめ細かな仕事をするために
は、少人数が望ましいと考え、1クラス25人にし、教室数を増やした。
国語と算数は、能力別クラスに再編成。
→
学校全体の学力が底上げされることになる。
成績があがったことで、親達はシャロン校長への信頼を深め、子どもの将来に夢を
持つようになった。
子どもたちにとって、素晴らしい環境であり、甘やかされることもなく、自分の限
界を感じ、あきらめていた子どもたちも能力が引き出されて、自分から頑張っている。
シャロン校長はすてきな女性である。次々と新しい試みを取り入れている。
ここに36年住んでいるけれども、こんないい校長が来たのは初めてである。
イギリスは、慢性的な教師不足に悩まされている。
週一回、月曜日の放課後職員会議
教師23人、授業の補佐をするスタッフが30人いる。
教師の平均給与は、ロンドンで年間およそ306万円。必ずしも恵まれた待遇では
ない。
自ら面接して、有能な人材をスカウトし、5年間でほぼ全員入れ替えた。
ヘッドハンティング
低学年主任は、幼稚園からカルバートン小へ
初めに校長は、自分のマネジメント能力を見極めていたようだ。
問題を抱えた子どもの行動に変化があったときに、あなたならど
うするか。と、具体的なアイデアを求められた。
校長は、必要な人材は、あらゆる手を使って獲得する。
イギリスの公立学校の運営
各学校の理事会に委ねられている。
メンバー
教諭、親、地域住民の代表、校長、地域の教育局の職員数人
教師の人事・カリキュラムの選定など、学校の全ての運営方針等
を決定していく。
校長が、学校運営に関する大きな権限を持っているために、理事
会が校長を監視する役割を担っている。
- 3 -
1997年
ブレア首相
学校教育を最重要項目に掲げる。
「最も優先すべき課題は三つある。それは、教育、教育、そして教育だ。」
就任したときから、4年間で4兆円を追加。
教育に成果主義を取り入れた。
改善に成功した学校には、予算を多く配分するようにした。
ブレアの教育改革の三本柱は、
・教育予算の拡大
・教育の地域格差の是正
・国語・算数の学力向上
改革に成功した校長へは、地域のリーダーとして、積極的に地域活動をすることが求め
られている。
イギリスの校長
教育者であると同時に、学校経営者でもある。
公立小学校の場合、政府から与えられる教育予算は、子ども一人あ
たり、年間およそ50万円
カルバートン小学校
優良校となってからは、1999年から加算
され、子ども一人あたり、67万円に増額・支給される。
総予算、年間約2億5千万円
シャロン校長は、教師の質を高めるためその半分以上を、教師やア
シスタントに当てる。
校長は、どんなベテラン教師に対しても、指導の観察をし、教え方
をチェックする。
教師の質、授業の質を高めるために、自分の作成したチェックカー
ドに記録していく。
例:授業の準備ができていたか。
教材は適切なものか。
教える技術や子どもの理解度を見る。
大事なポイント 子どもが授業に参加しているか、していないか。
授業の評価を必ず本人に知らせる。
子どもたちのために、楽しい、居心地のよい環境をつくり、一人一
人が大切に見られていることを感じさせ、成績を上げる。
→
2000年3月
やる気を起こさせる。
ブレア首相から、最も改革された小学校として認められる。
優れた教師の発掘や育成に力を入れてきたが、現状に満足せず、常
に人材を捜すアンテナを張り、他の校長からも情報を得る。
カルバートン小学校は、他の学校からの教師の派遣要請が出てくる
ようになったため、新たな人材の養成や発掘(探す)が欠かせない。
- 4 -
シャロン校長
毎朝1時間走る。
気持ちを整理し、新しい一日に立ち向かうための大切な時間。
障害のある娘とカルバートン小学校に通っている。娘を通して、も
のの見方、価値観、人生観が変わった。
「あまりにつらい時間を経験すると、人は完全にダメになるか、強
くなるかのどちらかである。自分は強くなった。」
自らカルバートン小学校の校長職を志願した。
朝の時間
教科主任に、各授業の進み具合や成績の達成度の報告を義務づける。
学力を向上させる一方で、子どもたちにとって、楽しい学校にする
一つの方法が、時間割の工夫であり、読み、書き、算数の重視である。
→
国語と算数は、毎日、午前中1時間以上授業をすることか、義務づ
けられている。
午後は、図工や体育など、子どもが楽しめる授業を多くする。
イギリス
学習指導要領はない。
指導内容・スケジュールは、教師が自分で考える。教科書も選定されたものは
なく、教材もほとんど教師たちの手作り。
いかに子どもたちに興味を持たせ、楽しく授業を進めるか、さらに、学力を伸
ばすにはどうしたらいいのか。教師たちは日夜試行・錯誤している。
教師になって8年目の教師
手作りの教材は、100種類を越える。
創造力を養う授業。
あらゆるものが勉強の材料になる。
教師にとって学校は、楽しむ場所。子どもと一緒に楽しく遊ん
で、自分自身もクリエイティブになれる。
これだけのことができる場所は、学校以外にはない。
子どもが問題行動に出るのは、その授業が退屈だから。
教師のレベルを知るためには、まず子どもの態度を見ればよい。子どもがいや
いや聞かされる話では、何の意味もない。おもしろいレッスンで夢中にさせるこ
とが、それが学習につながる。
水曜日は、午後からサークルタイム。
身体表現
←
プロのダンスグループ
子どもの感受性や発想力を伸ばすために、プロのアーチスト
の指導を、正規のカリキュラムに組み込む。
報酬は学校予算から払う。
新しいプロジェクト
ラーニングメンター
子どもたちの精神面をケアする。
- 5 -
友達ができず、孤立している子や、家庭の問題に悩んでいる
子の相談相手になり、その原因を探り解決していく。
指導中、教室に入れるのは、シャロン校長とメンターだけで
ある。
クワイエットルーム
二人だけで話をする。
メンター
子どもたち一人一人の性格を把握している。心の問題を担当
することで、教師は授業に専念することができる。
親・子供、そして教師。それぞれが役割を明確にすることで改革を進める。
ビジネスマンから教師に転職した新人教師
4人の教師が観察
教師のレベルを上げるためには、教師が互いの授業を観察し、
評価しあうことが、最も有効な方法である。
・ベテラン教師の、よいクラスの授業を観察させ、研修させる。
・誉め方、しかり方、授業をあきさせない方法
・おしゃべり、意味のない質問。気を取られず、無視することもせず授業を進める。
・限られた時間の中、自分の授業をする
・休日は楽しむ(シャロンは、自分の子どもと過ごす)
・常に人の助言に耳を傾け、すぐに実行してみる。
・できる限り努力しようという姿勢が見られる。クラスのコントロールができるように
なり、子どもたちの躾も良くなる。授業のプランもできるようになった。
教育の世界は未だに保守的。
冒険することはとんでもなく、タブーだと考えられている。でも、ビジネスの人たちは、
失敗から全てを学ぶ。彼らは、リスクを犯してこそ成功できると考えている。
校長・教師・親・子ども、それぞれ学びあう。
シャロンの成功の秘訣
教育では、10の内、9回成功しても、一つうまくいか
なければ失敗と言われる。
10の内、5回成功すればいいと思った。
シャロン校長は、カルバートン小学校を去り、9月の新学期からは、改革を求められ
ている新たな小学校に移ることを決めている。
[文責;教育長
- 6 -
坂井
康宣]