535 200711 平成19年11月 フェリー・旅客船の安全対策を追う 運輸安全

助成事業
この情報誌は競艇の交付金による
日本財団の助成金を受けて作成しました。
昭和36年4月3日第3種郵便物認可
平成19年11月25日
(年4回25日)
発行
ISSN 0912-7437
日本海難防止協会情報誌
【特集】
2007
冬
NO.535
フェリー・旅客船の
安全対策を追う
目次
2007
冬
【特集】フェリー・旅客船の安全対策を追う
座談会:フェリー・旅客船の安全管理向上をめざして/
(社)日本旅客船協会 安全対策検討委員長 高松 勝三郎
(社)日本旅客船協会 労海務部長 遠藤 雄三
国土交通省 首席運航労務監理官 庄司 新太郎
聞き手(社)日本海難防止協会 増田 正司────笆
取材:フェリー・旅客船会社の安全運航への取り組み/
フェリー・旅客船会社と乗組員に聞く────筐
運輸安全マネジメント態勢の構築に向けて/
中央大学 中條 武志────筮
フェリー・旅客船の安全運航を願う/
第三管区海上保安本部 交通部────箍
フェリー・旅客船の安全管理への取り組み/
ジャンボフェリー(株)
宮本 嘉明────箒
ジェットフォイルの安全管理への取り組み/
佐渡汽船(株)
古川原 芳明────篋
長距離フェリーの安全管理への取り組み/
商船三井フェリー(株)
稲垣 拡夫────篝
運輸安全マネジメント評価の現状と期待される効果/
国土交通省 運輸安全監理官室 梶田 雅紀────篦
特集以外の記事
海保だより 次世代型航行支援システムの構築に向けて/
海上保安庁 交通部────篳
海の気象 近年の台風について/日本気象協会────簗
日本海難防止協会のうごき────篶
海守便り 逃げるが勝ち?/海守事務局────簣
海外情報 MSC83におけるLRITの議論/ロンドン連絡事務所────簧
船舶海難の発生状況/主な海難/海上保安庁提供────簪
編集レーダー────簟
No.535
フェリー・旅客船の安全対策を追う
フェリー・旅客船の使命は、一度に大量の車両と旅客を、安全・確実・より快適に目的
地まで運ぶことである。
国内の長距離フェリーは、総トン数がおよそ2万トン、旅客定員数も8
00人、速力は3
0
ノットに達するなど、船舶の大型化、高速化が進んでいる。一方、旅客船は、離島航路を
中心に在来船のほかにジェットフォイルなどの超高速船が就航している。
近年、中国、インドなど東アジア各国の急激な経済発展は、原油価格を急激に押し上げ
た。連動して、大型船を高速で運航する長距離フェリーや旅客船事業者の生命線といわれ
る燃料油価格は大幅に上昇した。他の輸送モードとの競合下にあってこの上昇分を適切に
運賃に転嫁できないという構図のなかで各事業者の経営は事業休止や航路廃止を迫られる
ほど厳しいという。フェリー・旅客船事業の存続と航行安全対策に必要なコスト負担のは
ざまにあって、安全運航管理に直接携わる担当者の苦労は計り知れない。
JR では平成1
7年4月の福知山線の列車脱線事故など、相次いで重大事故が発生した。
国土交通省は、これらの事故を契機に、平成1
8年10月、陸・海・空を問わず、輸送に関す
る安全管理規程に対応した運輸安全マネジメント態勢の構築を新たに制度化した。
今号では、運輸安全マネジメントの制度化に伴うフェリー・旅客船事業者の安全確保へ
の取り組みと将来への期待される効果を探るとともに、現場で絶えず輸送の安全性の向上
をめざす運航管理者や乗組員の懸命な姿を追った。
阪九フェリー! 写真提供
座談会:フェリー・旅客船の安全管理向上をめざして
たかまつ
"日本旅客船協会 安全対策検討委員会委員長(オーシャン東九フェリー!社長) 高松
えん
"日本旅客船協会
国土交通省
海事局
運航労務課
労海務部長
首席運航労務監理官
企画国際部長
ゆう
ぞう
雄 三
しょうじ
しんたろう
庄司
新太郎
ます
聞き手・"日本海難防止協会
どう
遠 藤
かつさぶろう
勝三郎
だ
増 田
ただ
し
正 司
はじめに
増田
本日は、お忙しい中、お集まり頂き
ましてありがとうございます。日本海難防
止協会で、年4回発行している情報誌「海
と安全」で、冬号(1
1月2
5日発行予定)の
特集テーマとして、
「フェリー・旅客船の
安全対策」を取り上げることにしておりま
す。
座談会(日本旅客船協会会議室)
近年は、陸・海・空それぞれの分野で、
輸送の安全に関する制度変更や事業者の安
会」となり、昭和34年6月に「社団法人
全に対する認識が、強く求められる状況に
日本旅客船協会」に名称を変更して現在に
なってきました。そこで、旅客船の安全対
至っています。
策に携わっておられる関係者の皆さんが取
当協会は、
「旅客航路事業の改善発達を
り組まれている活動内容を紹介して頂くと
図ることにより、我が国の海上(河川湖沼
ともに、今後の取り組みについてもお話し
を含む。)の交通および観光の振興に資す
頂きたいと思います。
ること」を目的とし、多数の旅客の生命と
まず、日本旅客船協会の概要について紹
まざまな取り組みを進めています。
介をお願いします。
安全・安心を追い求め5
6年間
遠藤
財産をあずかる立場で、安全を最優先にさ
当協会は、国内で旅客船を運航する
事業者のほとんどすべてを会員とする全国
規模の団体として昭和2
6年2月に「日本定
期交通船協会」として設立され、昭和2
8年
何と言っても多くの人命を預かる事業で
すから、やはりお客さんの安全・安心をい
かにして確保していくかということを取り
組みの中心にしてきたというのが実感です。
新たに運航労務監理官が発足
4月に民法第3
4条による公益法人としての
増田
設立許可を受け「社団法人
についてご説明願います。
2
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0
7・冬号
日本定期船協
国土交通省の運航労務監理官の仕事
うことです。
フェリーでの事故をきっかけに
増田
フェリー・旅客船分野では、他にさ
きがけて昭和45年に海上運送法が改正され、
運航管理規程や運航管理者制度が導入され
たと聞いていますが、そのきっかけは何だ
ったのでしょうか。
庄司
首席運航労務監理官の庄司さん
庄司
運航労務監理官は、現在、全国の各
昭和40年代に入り、船舶の大型化・
高速化・多様化が一挙に進みました。船の
機能も複雑になり就航する船の数も急増し、
地方運輸局などに約1
7
0人配置されていま
海上交通における輻輳も大変な状況になり
す。実は、運航労務監理官という体制は平
ました。そうした中で、昭和44年5月フェ
成1
7年4月にスタートしました。それまで
リー下船時に発生した乗用車の海中転落事
は、地方運輸局においては、海上運送法や
故を契機に、運輸省(現:国土交通省)は
内航海運業法に基づき運航管理面をチェッ
翌年の6月に安全性の確保と責任体制の明
クする運航監理官と、船員法等に基づき船
確化を図るために「免許基準の改正」、「運
員労働面をチェックする船員労務官とがい
航管理規程及び運航管理者の制度の新設」
、
て、それぞれ別々に業務を行っていました
「輸送の安全確保命令の制度の新設」、「旅
が、1
7年4月に両者を統合して運航労務監
客の安全を害するおそれのある行為の禁止
理官となったということです。
規定の新設」など4つの柱を盛り込み海上
したがって、その業務内容は両者の業務
運送法を改正しました。これがフェリー、
を合わせたものになりまして、具体的には、
旅客船分野における運航管理制度導入のき
船舶や会社に直接立ち入った上で、運航管
っかけです。
理面や船員労働面の両面について関係法令
が遵守されているかどうか監査を行い、法
新たに導入された安全管理規程
違反があれば所要の行政処分などを行うと
増田
いう業務をしています。また、今般新たに
故や航空機の運航トラブルなどをきっかけ
制度化された運輸安全マネジメントについ
に平成18年に海上運送法等の改正が行われ
ても、会社に赴き、経営トップをはじめと
たそうですが、どのように変わったのでし
して陸上の管理部門の方々にインタビュー
ょうか。
などをして、その安全管理体制について評
高松
価するという業務も行っており、これらを
たのですが、鉄道関係には運航管理規程と
通じて運航労務監理官は、船舶運航の安全
いうものはなかったと聞いています。
の確保と船員労働の保護を図っているとい
これらの事故を契機に、運輸関係すべてに
平成17年に連続して発生した鉄道事
JR 福知山線の脱線事故の際に知っ
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7・冬号
3
成18年4月に、「安全管理規程に係るガイ
ドライン」が策定されました。また、これ
らの検討と平行して海上運送法の一部改正
を含む法改正等が行われました。
これら一連の動きに対応するため当協会
は海務部会に「安全対策検討委員会」を設
置し、必要に応じて安全に対する総合的な
検討を行ってきました。
また、業界の中ではどこよりも先に「安
日本旅客船協会安全対策委員会委員長の高松さん
全管理規程・基準例集」の作成に着手し、
安 全 管 理 規 程 が 導 入 さ れ ま し た。フ ェ
平成18年1
0月にまとめられました。各旅客
リー・旅客船事業では、それまでの運航管
船事業者はこれを基に新たに安全管理規程
理規程から安全管理規程に代わったという
を作成し、同年12月までに国土交通大臣に
ことになります。従来の運航管理規程は、
届出を行ったところです。
ややもすれば現場の責任のみで経営トップ
増田
の責任まで言及していません。安全管理規
ての各旅客船事業者の反応はいかがでした
程の導入で大きく変わった点は、事故が起
か。
きれば事故に対する会社の経営トップの責
遠藤
任が問われるということです。したがって、
め方は、これまでの運航管理規程に経営ト
安全対策は、現場任せということではなく、
ップのコミットメント、安全統括管理者の
社長を含む会社全体で取り組む体制が求め
選任等新たに追加された部分の理解を得る
られる形になっています。
ことのみであったことから、それほどの違
旅客船協会の取り組み
増田
安全管理規程を作成することについ
各事業者の安全管理規程への受け止
和感もなくスムーズに受け入れられたと思
います。そういう意味で、旅客船業界は、
昨年の法改正前後は、旅客船協会と
安全管理規程を白紙の状態から作成・導入
してはどのような取り組みをされてきたの
しなければならなかった他の運輸業界と異
でしょうか。
なり、運輸安全マネジメントに関しては先
遠藤
駆者と言っても過言ではないと思います。
今お話がありましたが、JR 福知山
線の列車脱線事故や航空分野におけるトラ
ブルが続出し、それらの事故の共通因子と
真の事故防止対策は情報開示
して「ヒューマンエラー」が指摘されたこ
高松
とから、
いわゆる
「ガイドライン等検討会」
の現場からの情報を提供し易くするために
が設置され、ここにおいでの高松委員長に
事故やトラブルに対する懲罰委員会を取り
委員として参画していただき、安全対策の
やめています。その代わり事故やヒヤリ・
新制度構築にご尽力をいただきまして、平
ハットについてのレポートは必ずあげるよ
4
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7・冬号
我が社では「ヒヤリ・ハット」など
うにしています。これまでの長い歴史の中
ますが、この点はどのような現状でしょう
で事故やトラブルは隠すという文化・風土
か。
が定着していますから、これくらい思い切
高松
った対応をしないと事故防止につながる現
ます。安全管理規程に基づく運輸安全マネ
場からの情報は得られないと思っています。
ジメント態勢の構築にも大きなテーマとし
庄司
て掲げられています。我が社でも乗組員(従
行政の立場から申し上げますと、陸
人材の育成は、不可欠だと考えてい
上分野では、運航管理関係のチェックと労
業員)の教育には力を入れているのですが、
働関係のチェックは別々の監督者あるいは
1等航海士から船長になりたがらない傾向
担当者により行われていますが、海上部門
があり、とまどっています。船の運航に対
の場合は、先ほど話したとおり、運航管理
する責任の重さとそれに対する評価のバラ
と船員労働の両方のチェックを運航労務監
ンスがとれていないのかもしれません。将
理官が行います。これにより、例えば事故
来に向け、向上心が生まれるような体制作
が起こった場合、その事故の直接原因がヒ
りも必要だと考えています。
ューマン(船員)エラーによるものかどう
かということだけではなく、エラーを起こ
ISM コードと安全管理規程
した要因として船員の過重な労働状況があ
増田
るのではないか、あるいは、会社としてヒ
議論の中で、小規模事業者の安全マネジメ
ューマンエラーを防止するような措置を講
ント態勢の構築のあり方と安全管理規程と
じていたかどうかなどまで、運航労務監理
ISM コードとの整合性にも配慮すべきと
官だけで総合的にチェックすることができ
の提言があったように聞いていますが、こ
ます。
のあたりは、どのように措置されたのでし
いずれにせよ、事故の原因には、単純な
安全マネジメント態勢の構築に係る
ょうか。
ものだけでなく、いろいろな要因が複雑に
高松
絡んだものもあると思います。そういった
国内法の多くが関係します。その多くは検
ことを明らかにするという観点からしても、
査測度課が所管する船舶安全法に盛り込ま
運航管理と船員労働の両面をチェックでき
れています。一方、安全管理規程は、海上
るという新しい運航労務監理官の体制は、
運送法に定められています。趣旨はいずれ
極めて合理的で有効な体制だと自負してい
も同じです。形態としては、ISM コード
ます。
を全体の安全管理とすれば、その一部とし
欠かせない人材の育成
増田
安全運航を確保するためには、優秀
国際条約に基づく ISM コードは、
て安全管理規程が位置するということにな
っています。今後さらに融合性を高めてい
く必要があると思います。
な人材の育成は欠かせないと思うのですが、
増田
高松さんは、旅客船協会の仕事をされてい
する具体的な取り組みがあればご紹介をお
るほかフェリー会社の経営をされておられ
願いします。
他に旅客船協会として安全対策に関
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0
7・冬号
5
について映像化しました。現在、
「小型船
及び高速船の安全対策」のビデオを作成中
です。出来上がったビデオや DVD は社内
の研修会や安全講習会で活用するなど各社
から好評を得ています。
運航労務監理官と
安全マネジメントの関わり
増田
日本旅客船協会労海務部長の遠藤さん
好評のビデオ・DVD
社内研修などで活用
遠藤
庄司さんが担当する業務と、新しい
安全マネジメント制度との関わりではどの
ような動きになるのでしょうか。
庄司
これまでの運航管理規程における事
故責任は、あくまでも個別、船舶単位で船
最近、船員災害防止協会で、海運事
長への対応が中心でした。現場の船員のみ
業者に対し、安全マネジメントに関する意
が責任を問われるという形態でしたが、運
識の浸透調査を行った結果、旅客船事業者
輸安全マネジメント制度がスタートした昨
からは9
0%強の回答が寄せられ、旅客船事
年10月1日が大きなターニングポイントに
業者の安全への意識の高さを窺わせる内容
なったと思います。企業にとって安全確保
だったと聞いています。
は最重要課題と位置づけられ、経営トップ
その他、当協会独自の取り組みとして、
まで責任が及ぶ体制作りが求められるよう
各地区旅客船協会が行う乗組員に対する安
になったからです。この点については、運
全研修に助成を行っており、さらに「安全
航労務監理官の仕事は、この安全マネジメ
確保のための研修用ビデオ」などを作成し、
ント態勢が陸上の経営管理部門から現場の
会員ならびに各地区旅客船協会に配布して、
船舶まで、会社全体としてきちんと構築さ
安全運航のための教材として活用していた
れ実行されているかどうかを事後チェック
だいています。
するということが中心になります。それが
ビデオ・DVD は、今年は「安全運航∼
安全マネジメントの評価ということですが、
ヒューマンエラーをいかに防ぐか∼」を
具体的には、それぞれの会社で構築された
テーマに作成しました。この内容は、旅客
安全マネジメント態勢について、よい点は
船事業者にとって、安全は全てに優先する
評価し、不足している点は改善を促す、と
という意識の高揚を目的にしていまして、
いうような形で進めていきたいと思ってい
操船の失敗例(居眠り・コミュニケーショ
ます。要するに、我々の立場から必要なア
ン不足・過信など)を海技大学校のシミュ
ドバイスなどを行いながら、安全マネジメ
レーションシステムで再現し、重大な結果
ントに魂を入れて行くことが大切であると
に繋がる危険性とそれをいかに断ち切るか
思っています。
6
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7・冬号
それから、先ほど旅客船協会の遠藤さん
から、フェリー・旅客船は安全管理に長い
経験を持っており、先駆者であるというお
話がありましたが、実は同じ海運の世界で
も、内航貨物船では状況が違っておりまし
た。平成1
7年の法改正で新たに運航管理制
度が導入され、その1年後には更に運輸安
全マネジメント制度が導入され、制度改正
聞き手の増田部長
が立て続けに行われたわけです。おそらく
増田
内航貨物船の事業者、船員の方々は大変だ
波及効果的な事例がありますか。
ったと思います。とはいえ、旅客船、貨物
高松
船という業種にかかわらず、安全マネジメ
が機敏になったと思います。経営トップの
ント態勢を構築するのは事業者自身ですの
安全対策への参画で会社としての運航可否
で、まずは、事業者、特に経営トップが安
判断が早くなったのだと思います。
新しい制度になったことに関連して
新制度が導入されて、台風への対応
全確保に対する強い理念、積極的な姿勢と
また、協会内部に設置している安全対策
いうようなものを持つということが大切で
検討委員会で、旅客の安全を確保するため
あると考えています。
に「荒天時旅客対応ガイドライン」を作成
我々は、ある意味、これをサポートする
しました。中身は、これまでは各社バラバ
立場ですので、もし安全マネジメント態勢
ラで定めていた危険回避の運航基準を統一
の構築に当たってわからない点などがあれ
的な内容に改めました。このことも、各社
ば、遠慮なく運航労務監理官に相談してい
の運航可否に対する判断が早くなった理由
ただければと思っております。
でしょう。
社内全体に求められる安全管理
高松
考え方によっては、従来の運航管理
他に先がけて安全意識の向上へ
遠藤
補足させていただきますと、台風に
者は肩の荷が軽くなったということも言え
よる鹿島灘での大型外国船の海難事故など
ます。なぜなら、これまでは、事故が発生
を契機に、ガイドラインの作成作業に着手
すれば、運航管理者と船長が現場対応を含
し、安全に対する!松委員長のお考えと国
めてすべての責任を負わざるを得なかった
土交通省のご意見も伺いつつ、マニュアル
状況から、今度は経営トップである社長を
化に向けた検討を行いました。
含めて責任を負うという体制になったわけ
ですから。
安全や危機管理に対しては、他の業界に
先がけて取り組もうという積極姿勢があっ
そういった意味では、必然的に会社あげ
たからこそ出来たものと思います。また、
ての安全対策への取り組みが求められる新
世間一般の安全に対する意識が強くなって
しい仕組みができたということです。
きていることも追い風になっていると思い
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7・冬号
7
ます。
欠かせない公表制度の確立
高松
安全管理を適切に行うための組織作
りと経営トップの責任体制を明確にするこ
とはもちろんですが、もっとも重要なこと
は、事故の7割から8割がヒューマンエ
ラーといわれている中で、これをいかにし
てなくすかということです。運輸安全マネ
ジメントの中で、最も強く求められている
ところです。
高松
当直体制の違いは大きいと思います。
そのために重要なことは、公表制度の確
旅客船の場合は、他の業種と比較して雇用
立です。日本人の気質として「事故は最大
制度が安定していることも事故が少ない理
のミスであり恥だ」という意識が極めて強
由ではないかと思います。終身雇用制度が
い。したがってそれを包み隠そうとする。
定着し、新卒者の採用も比較的スムーズに
マスコミも事故が起これば、大きく取り上
行われ乗組員の移動も少ない。安全教育も
げ、会社を責め立てる。会社は、事故を起
徹底できるという背景があります。
こした当事者を責める。余計に隠そうとす
同じ、海上輸送を担う内航貨物船は大変
る意識が強まる。負の循環に陥ってしまう。
だと思います。7
00総トン未満船の1人当
事故を起こさないためには、
「ヒヤリ・
直は当たり前だし、高齢化の進展と労働環
ハット」など見過ごせば事故につながりか
境の厳しさで人材は育っていないと聞いて
ねない事例を公表し関係者が検証し、情報
います。
として共有できる体制づくりが欠かせませ
ん。公表した会社を評価するくらいの意識
適時適切な安全性の確保
改革がいま、求められていると思います。
増田
ただ、言うのは簡単ですが、非常に難しい。
今後の取り組みで特に強調したい点をお願
我が社でも、ヒヤリ・ハットを含め乗組
一通りお話を伺いましたが、最後に、
いします。
員に公表を求めていますが、なかなか情報
遠藤
があがってこないという実態があります。
みで「荒天時の旅客対応ガイドライン」の
増田
高松さんが言われることはもっとも
作成について紹介しましたが、現在、
「ジ
だと思います。全体的にはそこまでの意識
ェットフォイル等超高速船の安全運航ガイ
に到達していないという感じがします。
ドライン」について検討を行っています。
先ほど安全対策検討委員会の取り組
旅客船の場合は、船橋2人当直体制が通
今後も新たな船舶の出現や事象の変化に
常の体制だと思うのですが、これも事故防
対しては、迅速かつ慎重な検討を重ね、適
止の観点からみれば大きいですね。
時適切に安全性の確保に努めていきたいと
8
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7・冬号
東京港有明“おーしゃんうえすと”
社内安全管理研修会
写真:オーシャン東九フェリー提供
考えています。
新制度の周知・啓蒙に力点
庄司
の場合、圧倒的に大型船が不利だと思いま
す。小型船がいた場合は、とにかく避けて
運航するようにと指導を徹底しています。
事業者には、船舶数も多く数百人規
また、漁船では大型船の舳先を横切ると大
模の船員を抱える大規模事業者もあれば、
漁だという、にわかには信じがたいような
社長が船長を兼任し、更に運航管理者も兼
「げんかつぎ」があるそうです。それも真
ねるというような小規模事業者もあります。
横から横切るのでなく、超高速で追い越し
安全管理規程を作成していても、これら
ながらぎりぎりに舳先をかわしていくケー
の小規模な事業者の方々に「安全マネジメ
スもあるそうです。
ント態勢の構築」と言っても、必ずしもピ
これまでフェリーや旅客船は、安全を確
ンとこないかもしれません。また、中規模
保するために、漁船や小型船をできるだけ
事業者あるいは大規模事業者の方々の中に
避けて航行するように心がけてきましたが、
も理解不足の方がいるかもしれません。
今後は、船の大小や種類を問わず、操船者
そういう意味で、今後とも、各事業者の
安全マネジメント態勢の評価を行いつつ、
安全マネジメントの周知・啓蒙に一層努め
ていく必要があると考えています。
バランスのとれた
安全意識のレベルアップを
増田
旅客船協会の安全対策検討委員長と
全体の安全に対する意識のレベルアップを
図ってほしいと願っています。
フェリー・旅客船事業者は、多数の人命
と財産を預かっています。安全確保は、旅
客への最大のサービスと位置づけ最大限の
努力をしていきたいと考えています。
増田
本日はお忙しい中、ありがとうござ
いました。
しての立場で、高松さんお願いします。
高松
大型船と小型船が関係する海難事故
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7・冬号
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取材:フェリー・旅客船会社の安全運航への取り組み
∼運航管理者と乗組員に聞く∼
明石淡路フェリー㈱
兵庫県明石港と淡路島岩屋港を結ぶ明石
淡路フェリー(通称:たこフェリー)は、
平成1
2年7月に、明石市・淡路1市1
0町の
出資で第3セクターとして、スタートした。
運航船舶は1,
3
0
0総トン型(旅客定員4
6
7人、
トラック2
1台積み)3隻、当社で特に人気
が高い「あさしお丸」は船体にタコのイラ
運航管理者の桝一さん
ストが描かれている。
「あさなぎ丸」はイ
と比べて割安に設定している。乗船すれば
ルカ、
「あさかぜ丸」は山吹色と白のコン
ガソリンは使わないし、運転手が休息でき
トラスト。
るという利点も。年間の輸送人員はおよそ
120万人、自動車航送台数は約4
0万台とい
う数字もうなずける。しかし、当社で安全
統括管理者ならびに運航管理者として日夜
ますいちきよとし
奮闘する桝一純利さん(42歳)は、近年の
燃料油高騰で会社の経営は厳しいと顔を曇
らせる。また、本四・道路公団の民営化に
伴い社会実験と称して、本年10月から明石
海峡大橋の通行料金の割引制度が実施され
あさしお丸(1,
2
9
5総トン)
同航路の利用客は平日には通勤・通学が
るなど、橋との競合が一段と強まり、予断
を許さない状況が続く。ちなみに、橋が供
多い。常時2隻が1日8
8便、2
4時間運航し
用される前は、同航路の売上額は約60億円、
ている。3
0分に1便の割合でいつでも乗れ
現在は、10億円になっているという。
る。橋を利用する場合は、神戸側、淡路側
桝一さんは、日常的に運航に携わる者全
ともに国道から大きく迂回が必要だが、タ
員 が 報 告・連 絡・相 談(ほ う・れ ん・そ
コフェリーは国道と直結ということや、橋
う)を欠かさないよう徹底することを呼び
の壮大な景観や、夜間にはイルミネーショ
かける。船長や機関長が乗船勤務を終え、
ンを海上からゆっくり楽しめる。まるで遊
岸壁のそばにある事務所に必ず立ち寄るの
覧船に乗った気分。運賃は、橋の通行料金
もそのためである。こうした情報は細かく
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7・冬号
ることを伝えてありますけど、内心つらい
もんがあります。
」と、安全運航と正確な
運航時間の板ばさみに苦慮する。中野さん
は淡路島の淡路市岩屋の出身、地元に知り
合いの漁師さんも多い。休みの日には、漁
業協同組合を訪ね、漁船がその時期に用い
る漁具の構造や漁法について教えてもらい、
浜で直接見聞するという。こうした乗組員
あさなぎ丸の船長、中野さん
一人ひとりの地道な努力の積み重ねがあっ
分類のうえ集積し、社内訓練・研修の事例
て、はじめてこの海域での安全な航海が保
として活用、海・陸従業員共有の情報とな
たれるのだ。
っていく。具体的な安全対策に生かされて
冬の季節風も思わぬ危険が付きまとう。
いることも多いという。その一つが、ブリ
海峡部の潮流は激しい。この潮流(西流)
ッジ上部に塗装されているオレンジ色の蛍
と西風がぶつかると潮波と呼ばれる強烈な
光塗料である。外国航路の乗船経験を持つ
高波が発生する。トラックや乗用車を積む
おかざきてつ
岡崎鉄工務部長の発案で取り入れられた。
フェリーだけに、操船には神経を擦り減ら
北海(ノースシー)に就航する船では多く
すという中野さん。
はやかし
見られるが、この蛍光塗料は濃霧の中でも
視認しやすいという特徴があるという。
あさなぎ丸に甲板員として乗り組む早柏
ちひろさん(23歳)<※表紙に写真掲載>
なかのたつや
「あさなぎ丸」の船長、中野達也さんに
話を聞いた。
この航路の厳しいところは、漁船、季節
風と濃霧だという。
は、入出港のたびに忙しい。船首甲板上で
船橋(ブリッジ)の船長とマイクで交信し
ながら係船作業を行う。早柏さんは弓削商
船高等専門学校を卒業後、神戸のレストラ
漁船は、春先の2月中旬から始まるイカ
ンシップ「コンチェルト」にサービスクルー
ナゴ漁。警戒船(兼運搬船)を先頭に2隻
として乗船していた。当社で運航要員とし
の引船、1船団3隻で構成され、全体の長
て乗り組み、取得している3級海技士(航
さは2
0
0mにも達する。ピーク時には海峡
海)の資格を生かしたいと考え、昨年7月
部に5
0を超える船団がひしめき合うことも
入社したという。
「この海域の特性である
あるという。中野さんは、
「東西航路やっ
潮流、風、濃霧、船舶の輻輳、操業漁船な
たら、海峡航路の端を航行する方法もあり
ど、どれをとっても難しいことばかりです
ますけど、当社の場合、明石海峡を真横に
が、日々、新しい発見と課題へのチャレン
横切る航路だけに、どうしようもない状況
ジです。
」と明るく笑う。船長の中野さん
に立たされることもあります。マーチスの
は、厳しい気象・海象を体感し、当社の将
情報協力を得ながら運航しますが、お客さ
来を担う女性航海士として立派に育ってく
んには、あらかじめ船内放送で到着が遅れ
れることをひそかに期待していた。
海と安全 2
0
0
7・冬号
11
阪九フェリー㈱
北九州市北東部に位置する新門司港から
神戸港・六甲アイランドと大阪・泉大津を
1万総トン超の大型カーフェリー6隻で結
ぶ阪九フェリーを訪ねた。
会社で、取締役海務部長ならびに運航管
かりたてつと
理者を務める苅田哲人さん(5
7歳)から、
取締役海務部長(運航管理者)の苅田さん
安全運航への取り組みなどについて、話を
年4月の陸上勤務までの31年間当社のフェ
伺った。
リーに船長・航海士としての乗船経験を持
つ。大型フェリーで瀬戸内海を航海する厳
しさを誰よりも知る人である。特に濃霧の
時期は気が休まることはないという。3月
から6月に多く発生する移流霧は、夜間の
放射冷却により海水表面が冷やされ、そこ
へ南からの湿った暖かい空気が流れ込んで
発生する。長時間にわたって濃い霧が立ち
運航経路図
こめるのが特徴。狭水道で視認距離が1,
000
当社の航路の特性は、出港から入港まで
m以下になった場合は、1万トンを超える
の所要時間が1
2時間ということで夕方出発
旅客船には航行制限が発せられ、航路外で
すれば翌朝は目的地に到着。夜間は、ぐっ
避泊を余儀なくされる。フェリー・旅客船
すり船内で休んで、翌日は朝からデイタイ
にとって安全確保に細心の注意を払うのは
ムをフルに活用できることが最大の魅力。
当然のことだが、他の輸送モードとの競合
また、本州・四国連絡橋の完成で、来島海
下にあって、なおかつ、時間との戦いを強
峡をまたぐ3連つり橋、長大な瀬戸大橋、
いられているフェリー事業者にとって悩み
7色イルミネーションの明石海峡大橋など
は大きい。この航行制限ができた当時は、
夜間航海中のロケーションも一見の価値が
現状のような大型のカーフェリーが夜間の
ありますと苅田さん。
瀬戸内海に就航することは予測していなか
ユーザーは主に九州から京阪神へ、京阪
ったのではないかと苅田さんはいう。
神から九州各地へのビジネスマンや観光客
台風対策も頭を痛める問題である。瀬戸
が中心。最近の傾向として、プライバシー
内海直撃の場合は、早めに欠航という判断
が守れる個室客室を希望する人が多く、繁
をすることができるが、目的地に到着して
忙期には、上級客室から予約が埋まってし
も、台風接近によって入港制限が行われ、
まうという。
お客さんを乗せたまま接岸できないケース
運航管理者を務める苅田さんは、平成1
6
12
海と安全 2
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7・冬号
もあるという。あらかじめ、出航時に延着
了承は取り付けてはいるものの旅客の理解
を話してくれた。その日は明石海峡が視界
を得るのに一苦労という場合も多いと苅田
不良で航行制限が発令されており、その勧
さんは、旅客事業の難しさを語ってくれた。
告解除後の視程約1海里を東航中。いつも
つづいて新門司港に接岸中の「やまと」
通り、あらかじめ明石海峡手前で、レーダー
<※写真は1ページに掲載>(1
5,
00
0総ト
で漁船の有無は確認していた。漁船なし。
ン、全長1
95m、最高速力25.
8ノット、旅
ところが、明石海峡大橋の直下にさしかか
客定員66
7人、トラック229台、乗用車138
ったそのとき、船橋で操舵を担当するク
かわうちのりとし
台積み)の船長、川内伯俊さん(4
9歳)と
オーターマスターが「船長、橋の下に漁船
こやまひでお
機関長の小山秀男さん(5
7歳)を訪ね、日
です!」大きく避航し、何とか衝突を免れ
頃の安全運航への心構えを聞いた。
たという。橋のレーダー映像と漁船の映像
がオーバーラップしていたのである。それ
以降、レーダー映像に加え、目視による確
認作業をよりいっそう慎重に行うことを心
がけているという。
「やまと」の船長川内さん(ブリッジで)
川内さんは、
“安全が旅客への最大のサー
ビス”という当社のキャッチフレーズが単
なる謳い文句にならないように「絶対事故
は起こさない」という信念のもと、最高経
「やまと」の機関長小山さん(メインエンジンのそばで)
営責任者である社長を先頭に全社一丸とな
一方、機関長の小山さんは、本船は瀬戸
って取り組んでいると冷静かつ力強い。ま
内海を走る定期航路。狭水道や船舶が輻輳
た、ハード・ソフト両面の安全対策をバラ
する海域が多く主機関(メインエンジン)
ンスよく組み合わせていくことも重要だと
のトラブルは、安全運航を大きく阻害する。
話す。航海中に神経を使うのは、濃霧や台
突発的に起きた機関トラブルも1分、1秒
風はいうまでもなく、漁船には要注意だと
でも早く復旧する必要がある。常に時間と
いう。なかでも春先に多い明石海峡、大阪
の戦いだという。さらに小山さんは、ピス
湾のイカナゴ漁、春と秋には、瀬戸内一帯
トン抜き・排気弁取替時期など、年間機関
で行われるこませ網漁やサワラの流し網漁
整備計画表に沿って作業を進めるとともに
など。シーズンに入れば、航路が閉塞され
主要部品であるピストン・ライナーなどの
てしまうことも。一瞬たりとも気が抜けな
使用時間や摩耗限度基準をより厳しく運用
い。
し、エンジントラブルの未然防止に万全を
川内さんは、2年前のヒヤッとした経験
期していると話してくれた。
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7・冬号
13
㈱名門大洋フェリー
大阪南港と北九州市の新門司港を結ぶ、
シティライン名門大洋フェリーは、1万総
トンクラスのカーフェリー4隻を運航する。
シティラインという愛称は、4隻の所属フ
ェリーの船名に「フェリーおおさか」と「フ
ェリーきたきゅうしゅう」
、
「フェリーきょ
うと2」
(※写真表紙に掲載)と「フェリー
執行役員(運航管理者)の岡部さん
しての自信ものぞかせた。
ふくおか2」を用いていることをみてもわ
最も重要視している安全対策について岡
かるように、京阪神と北九州の大都市間を
部さんは、
「!新たに安全管理規程に盛り
フェリー航路で結ぶという意味合いを込め
込まれた安全重点施策として離着岸時の安
ている。
全操船。"厳重な見張りの励行、レーダー
大阪市西区にある本社を訪ねた。応対し
てくれたのは、執行役員と運航管理者を兼
機能の有効活用(プロッティング・衝突予
防援助機能など)
、操船・警告信号の励行。
おかべゆきと
務する岡部幸人さん(6
1歳)
。
岡部さんは、昭和4
8年に大洋フェリーに
入社、昭和6
1年に名門カーフェリーと合併
した後も、長年にわたり航海士として乗船。
早期避航と適切な機関の使用。#荷役中の
人身事故防止などを最重点項目として推進
中です。」と話す。
さらに、海難事故やヒヤリ・ハット事象
陸上勤務に入る直前の平成7年1月に起き
への対応は、責任追及型から再発防止のた
た阪神淡路大震災のときは淡路島北部の震
めの対策指向型へ転換や、岡部さん自身の
源域の真上を航海していたという船乗りと
発案で、これまではなかった同航路を同時
して極めて稀有な経験を持っている。
間帯で航行する他社との懇談会を開催する
「
『安全はフェリー事業の命』
『顧客満足
は企業繁栄の源』
『環境保全は企業普遍の
責務』この3つはわが社の誓いです。」と
いう岡部さん。
など従来とは大きく異なった取り組みにも
力を入れていると話してくれた。
つづいて、入港接岸中の「フェリーきょ
うと2」
(9,
800総トン、
167m、
最高速力23.
2
「これからは環境重視の時代、平成1
4年
ノット、旅客定員69
7人、トラック180台、
に竣工した船からは、CO2の排出削減、NOX
乗用車100台)の船長、石丸信博さん(58
対策など地球環境保全に向けた取り組みに
歳)と機関長の長谷川 博 さ ん(5
5歳)を
力を注いでいます。また、旅客の満足度を
訪ね、本船の航路上の特徴や安全運航への
得るための工夫としてレストラン空間の開
取り組みについて話を聞いた。
いしまる のぶひろ
は せ が わ ひろし
放や展望ストリートといった自由空間を多
石丸さんは、昭和47年に入社し、航海士
く取り入れ、個室キャビンにもさまざまな
として20年、平成15年から船長として乗船
工夫を施しています。」と旅客フェリーと
している。石丸さんは、本船による船旅の
14
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7・冬号
魅力について「な
チス(海上交通センター)の完備で、航法
んといっても夜景
無視の船舶がずいぶん減った感じがす
がすばらしい。特
る。」と石丸さん。
に、下り便(大阪
「当社の基本理
港発1
7時2
0分と2
0
念は『事業活動全
時0
0分)は、大阪
般における環境へ
湾から望む神戸の
の配慮』を掲げて
夜景、明石海峡大
い ま す。」と 語 る
橋、瀬戸大橋と続きます。神戸・六甲の宝
のは、機関長の長
フェリーきょうと2の
船長、石丸さん
石を散りばめたようなロマンティックな景
観に、近年は明石海峡大橋のイルミネーシ
谷川さん。
フェリーきょうと2の
機関長、長谷川さん
長谷川さんに、
ョンも加わり、一段とすばらしさが増して
船の心臓部を担当する立場で、日頃の安全
います。
」と話してくれた。船旅というと
運航への取り組みについて聞いた。日常作
船酔いを警戒する人が多いが、瀬戸内海は
業のなかでも、燃料油や潤滑油の補給作業
湖面を走るようにほとんど揺れを感じない。
の場合はもちろんのこと、係船機などの油
クルージング気分を味わう女性やお年寄り
圧ラインからの油漏れのチェックなど、海
にも極めて人気が高いそうである。
洋汚染につながるおそれのある項目はすべ
話題が、操船に移ると、柔和な石丸さん
の顔に厳しさが戻った。濃霧の時期、それ
て入念にチェックするように心がけている
という。
も夜間の運航は、一瞬たりとも気が抜けな
また、「毎月1回社長を交えた安全衛生
い。特に操業する漁船の動向には、細心の
会議を開催しています。本年6月には、当
注意を払う。若い航海士には、完全に衝突
社の機関士全員(20人)と陸上スタッフに
のおそれがなくなるまでは絶対に目を離さ
エンジンメーカーを加え、主機トラブル報
ないよう指導しているという。
告会を開催し、検証を行いました。報告会
「5月から6月にかけて明石海峡、大阪
では、!主機の排気弁が欠損し、タービン
湾内では、イカナゴ漁の最盛期を迎える。
の羽根ならびにノズルを損傷。"停泊中の
海峡部では、閉塞状態となることもしばし
定期点検の際に、シリンダーライナーとピ
ば。海上保安部が指導に当たってくれるが、
ストンの損傷を発見したことなどの事例が
漁船にとっては限られた期間のかき入れ時
紹介されました。エンジントラブルは入港
だ。操業に集中しているだけに、漁船の動
時刻の遅れに直結します。したがって適切
きが読めない場合も多い。避航には、あら
かつ早急な対応が必要です。そのためには、
ゆる動きを想定しつつという厳しさが求め
これまでに起きたトラブル事例を参考に、
られる。
」
また、
「以前は5万分の1のチャー
早めの部品交換やメンテナンスなど関係者
ト(海図)1枚で瀬戸内海を航行する外国
間の連携と共通認識が欠かせません。
」と
船もあったと聞いているが、近年は、マー
長谷川さんは話してくれた。
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7・冬号
15
石崎汽船㈱
運航管理者の門屋さん
路はいずれも観光とビジネスを目的とした
お客様が半分ずつを占めています。したが
石崎汽船本社ビル
漱石の「坊ちゃん」や道後温泉で有名な
って、朝夕の便にお客様が集中する傾向が
四国松山の松山観光港と広島港を旅客フェ
あります。本四架橋の尾道・今治ルート(通
リーとウォータージェットの高速船で結ぶ
称:しまなみ海道)が開通して、随分旅客
石崎汽船は、本社を松山市三津に置く。今
の流れが変わりました。トラックや乗用車
から1
1
7年前(明治23年)か ら、松 山(三
が激減してしまいました。それに加え、燃
津浜)∼広島間の定期航路開設の歴史をも
料油の高騰により、フェリー・旅客船を運
つ。平成1
0年には松山∼北九州(門司港)
航する各社とも事業経営は極めて厳しくな
航路を開設し、双胴型としては日本最高速
っています。しかし、旅客事業は経営が厳
の4
5ノット(時速8
3km)の超高速旅客船
しいからといって安全に対する手抜きは絶
「シーマックス」を就航させた。人口100
対に許されません。
」と厳しい表情を見せ、
万都市北九州と50万都市松山間の175km
さらに続けた。
「昨年から、新たに導入さ
を2時間3
0分で1日2往復する。
れた安全管理規程に基づき、乗船中の乗組
員を除く海・陸従業員全員(約80人)を対
象とした研修会や安全衛生委員会を定例で
開催しています。議論の結果、やはり大事
なことは、乗組員同士、乗組員と陸上スタ
ッフとのコミュニケーションと情報の共有
化をいかにして図るかということです。ず
いぶん以前は、船側は船員のみ、陸側は陸
松山∼門司航路のシーマックス
員のみで安全会議を開催していましたが、
松山市三津にある本社ビルは平成1
3年文
現在は、海陸合同に切り替えたことによっ
化庁から登録有形文化財に指定されている。
て、船の運航に関する安全意識を社内全体
か ど や まさのり
本社に運航管理者を務める門屋雅憲さん
で共有することが当たり前という認識が定
を訪ねた。会社の概況について門屋さんは、
着しています。これからの安全マネジメン
「当社が運航する呉・広島航路、北九州航
トは、PDCA(Plan/Do/Check/Act)が
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7・冬号
基本です。計画・実行・内部監査・見直し
漁などが盛んで好漁場が多い。操業中の漁
というサイクルを着実に進めていきます。
」
船は動きが読めない場合が多く、細心の注
と、門屋さんは、運航管理者として今後の
意が必要だという。
取り組みについて抱負を語ってくれた。
つづいて、当社が運航するすべての船に
また、台風接近時の避難港としては、堀
江湾と広島湾があるが、いずれの港湾も台
まつきたけし
乗り組んできたという船長の松木武士さん
風接近時には、大小数多くの船が集中する。
おばらたかお
(5
2歳)と機関長の小原孝雄さん(5
1歳)
船間距離が十分取れない場合には、やむを
から話を伺った。
得ず、錨を揚げて漂泊した状態で、台風通
過を待つケースもあると松木さんは船長と
しての苦労を打ち明けた。
船長の松木さん
船長の松木さんは、昨年新たに安全管理
規程が導入されたが、これまで運航管理規
機関長の小原さん
程に基づき安全対策を行ってきたこともあ
機関長の小原さんは、エンジンの責任者
り、現場サイドでは大きな変化とは感じて
として困るのは、浮遊するごみに加えて水
いない。ただ、これまでも言われてきたこ
クラゲだという。このクラゲは、夏場の海
とだが、船内はもちろんのこと、船と陸、
水温の上昇にともない広島湾で大量に発生
船と船間のコミュニケーションは大切、安
する。広島港や呉港では海面が真っ白に見
全確保には欠かせないと痛切に思う。また、
えるほど押し寄せることがあるという。水
旅客船は、同じ航路を行き来することで、
クラゲは、直径が1
5∼20cm と小ぶりだが、
慣れによる油断が生じやすい職場。乗組員
これがメインエンジンの冷却水の取水口に
間で乗船中に体験したヒヤリ・ハットなど
詰まりエンジンはオーバーヒートしてしま
の情報をできるだけ多く率直に交換できる
う。つい先日も同業他社でクラゲによるエ
環境を作っていくことが大事だと話してく
ンジントラブルが発生し、運航中止に追い
れた。
込まれたという。
松木さんは、運航上の注意点について話
を続けた。
旅客船は、定期運航ダイヤを正確に守る
ことが基本。そのために停泊中の短い時間
松山∼広島の基準航路では、安芸灘西部
を利用して機関整備を入念に行うが自然発
のイワシ網漁(3隻で構成され2隻で網を
生するクラゲには手の打ちようがないと小
引き1隻は警戒業務)
、釣島水道のタイ網
原さんは話してくれた。
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7・冬号
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瀬戸内海汽船㈱
当社は「安全運航がお客様への最大の
サービス」ということをスローガンに乗組
員をはじめ、社長以下全社員が安全運航に
取り組む。昨年から国が主導する陸・海・
空の運輸安全対策の施策に対応し、
「安全
管理規程」を制定、社内体制を確立した。
また、社内の安全体制を自らがチェックす
る内部監査体制の確立に向け準備を進めて
いる。
スーパージェット「宮島」
「当社は昭和2
0年6月に、国の指導によ
って瀬戸内海西部の7つの旅客船事業者が
大同合併し設立され、本年創立6
2年目を迎
えました。その間、高速道路網の整備や本
四架橋の完成など瀬戸内の旅客船事業者の
経営環境は、大きく様変わりしました。現
在、フェリー2隻とスーパージェット2隻
運航管理者の西野さん
で広島∼呉∼松山の定期航路、洋上結婚式
社内で定めた「安全方針」は、船舶なら
やパーティができるレストラン船[銀河]
びに関係する陸上事務所に、
「安全重点施
や屋形船での遊覧運航などを行っていま
策」は各船の船橋にそれぞれ掲示し、安全
す。
」と説明してくれたのは、当社で運航
意識の向上を図っている。
管理者として所属船の安全運航に気を配る
最も重要視して取り組んでいる安全対策
にしの あさお
西野朝生さん。当社の看板船であるスー
は、十数年来、毎月開催する「安全対策委
パージェット(ウォータージェット高速
員会」。これには、社長、安全統括管理者、
船)について西野さんは、「平成5∼6年
本社関係者、各船の代表、各代理店代表な
にかけてそれまでの水中翼船に代え導入さ
どが一堂に会して行う会議である。本年4
れた1
9
0総トン型高速船で旅客定員は1
5
3人、
月27日に中国運輸局により行われた「運輸
3
2ノットで広島∼松山を1時間8分で結び
安全マネジメント評価」においても「相当
ます。この高速船は、現在では珍しくあり
程度」という高い評価を得た会議でもある。
ませんが水中翼制御をコンピュータで行う
会議では乗組員に、乗船中のヒヤリ・ハ
動揺制御(ライドコントロール)を装備し
ットをふくむ体験談や安全上の問題点など
乗り心地は抜群です。
」とスーパージェッ
を発表することを義務付け、乗組員全員が
ト特有の快適さをアピール。
出された情報を共有することで、安全確保
西野さんは、社内の安全管理体制につい
て次のように話してくれた。
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7・冬号
に大いに生かされていると思うと、西野さ
んは情報共有化の大切さを力説する。
また、近年、陸上における飲酒運転によ
その他、航路上では操業漁船や乱暴な運
る重大事故が発生して社会的問題となって
転をするプレジャーボートなどに神経を使
いる状況をふまえ、本年2月には、各船に
う。クダコ水道や釣島水道付近では、瀬戸
アルコール検知器を備え、毎朝の始業時や
内海を東西に行き来する各種船舶の横切り
乗船勤務交代時に必ず測定、記録すること
関係にも常に注意をして航行していると藤
にしているという。
澤さんは話してくれた。
さらに西野さんは、旅客船特有の安全対
策として入港着岸時の衝撃による旅客の転
倒事故を防ぐため安全管理規程に「着岸時
の衝撃に対する旅客への指示」が新たに盛
り込まれたが、当社では以前から船内放送
で注意喚起して、旅客の安全確保に力を入
れていると語った。
スーパージェット「宮島」の船長、中山さん(写真手前)
一方、同航路でスーパージェット「宮島」
なかやまただかつ
の船長、中山忠勝さん(55歳)は、乗船中
の苦労について、
「本船は、フェリーの倍
以上のスピード32ノットで航海します。海
面の状態が視認できる昼間はいいのですが、
夜間は緊張の連続です。特に、台風などに
「四万十川」の船長、藤澤さん
よって大雨が降った後は大変です。潮目に
当社が運航するフェリー
「四万十川」
(6
9
9
は、川などから流れ出た大量の木材、ビニー
総トン、航海速力1
4.
5ノット、旅客定員3
0
0
ルやプラスチックごみが集まります。スー
ふじさわかつひで
人)の船長、藤澤勝秀さん(4
4歳)を訪ね
パージェットは、名前の通りポンプで大量
た。
の海水を吸い込み、吐き出すことで推進力
藤澤さんは、安全運航で最も神経を使い
を得ます。この吸い込み口に漂流ごみが入
苦労する点は、芸予(広島・愛媛)航路の
ると船は急ブレーキ状態です。ポンプの逆
難所といわれる「音戸瀬戸の通航」
。音戸
噴射で吐き出せる場合や、乗組員の手作業
の瀬戸は、1乗船(4日間)に2
0回通狭す
で取り除くことができることもありますが、
るという。現在はブリッジ(船橋)で、パ
最悪の場合は、ダイバーに依頼してごみを
ソコン画面上に映し出されるライブカメラ
取り除くこともあります。一番厄介なのは、
の映像によって見通しがきかない反対側の
水中翼やキールを損傷する流木と一度吸い
状況を知ることができるようになり、ずい
込むとなかなか取れないナイロン製のロー
ぶん楽になったが、やはり一番苦労の多い
プや袋などです。
」とスーパージェットな
狭水道だという。
らではの苦労話を聞かせてくれた。
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芸予(広島∼松山)航路で活躍するフェリー・高速旅客船(スーパージェット)写真は石崎汽船!・瀬戸内海汽船!提供
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7・冬号
九州郵船㈱
壱岐の黒崎半島突端にある奇石、猿岩
ら大勢の観光客やレジャーを目的とした家
博多へ入港するフェリーちくし
族連れや若者が押し寄せる。
九州郵船!は、大正9年に対馬商船!と
当社で、海務部副部長、運航管理者とし
して本店を対馬の厳原として設立された。
て壱岐・対馬を往来する人々の足となり、
昭和1
0年商号を九州郵船!と改め、本店を
安全を最大の使命として日夜、活躍・奮闘
長崎に移した。第2次世界大戦では所有船
する万谷住雄さんに話を聞いた。
まんたに す み お
の9
9%を喪失したという。昭和4
4年には、
万谷さんは、当社の安全運航への取り組
本店を福岡に移転、4
5年に壱岐∼呼子航路
みについて次のように話した。当社は、昨
に初めて「フェリー壱岐」を就航させた。
年10月新たに導入された安全管理規程にも
その後、壱岐、対馬へのフェリー航路を充
とづき、本年5月29日、3
0日の両日、本省
実、昭和5
5年には、単胴型高速船を博多∼
3人、地方運輸局5人の調査官による運輸
壱岐航路に投入。さらに平成3年には超高
安全マネジメントの評価を受けた。特に問
速船ジェットフォイルを、博多∼壱岐∼対
題点の指摘はなかった。社内では、毎月安
馬に就航させた。その後、フェリー、ジェ
全衛生委員会を開催している。メンバーは、
ットフォイルなど所有船のリプレースを行
総括安全衛生担当者をキャップとして、安
いながら、現在に至っている。
全担当は工務課、衛生担当は海務課、船員
現在の運航隻数は、フェリー5隻とジェ
代表を加え、訪船結果、運輸局や保安部の
立ち入り検査、発生した怪我や事故とその
ットフォイル2隻。
いしばしよういち
九州郵船で営業を担当する石橋陽一さん
対応など1ヶ月間にあったこと全てを報告
は、壱岐・対馬はすばらしいと絶賛する。
している。特に、現場で生じたヒヤリ・ハ
ただ、営業の悩みは、売り物となる商品が
ットについては、いくら小さいことでも公
多すぎて、目玉が絞りきれないという。壱
表するよう要請している。
岐・対馬は、海の幸はもちろん、壱岐牛に
また、車両を積み込む際の挟まれ事故な
代表される山の幸に加え、天然かけ流し温
ど、同業他社で起こった事故事例を参考に
泉の宝庫でもある。夏場を中心に、都会か
しながら、議論を交わし、防止対策につい
海と安全 2
0
0
7・冬号
21
つづいて博多港に入港中の「フェリーち
くし」(1,
926総トン、旅客定員1,
000人、
乗用車76台積み)を訪ねた。
おかざき は る じ
本船の船長、岡崎春二さん(58歳)と機
ま え だ かつひろ
関長の前田勝弘さん(52歳)から話を聞い
た。
運航管理者の万谷さん
ての共通認識を得るための努力は惜しまな
いという。さらに、万谷さんは、議論をし
ていて痛切に思うのは、情報公開の大切さ
だと強調する。何かトラブルが発生した場
合に、一番求められるのは、迅速な対応。
フェリーちくしの船長、岡崎さん
お客に迷惑をかけないというのが旅客船事
業の基本。これまでに得た情報を基に社内
船長の岡崎さんは、当社で34年間の乗船勤
会議の対応策通りスムーズに対応できたと
務のうち18年間船長職を執っているベテラ
きは、心の中で思わず「よくやった!」と
ン船長である。
達成感を感じることもあるという。
「近年、携帯電話など情報機器が発達し、
瞬時に映像を含む情報が飛び交う時代です。
岡崎さんは、これまでの乗船経験の中で
一番印象に残っていることを次のように話
してくれた。
事故やトラブルが発生した場合、じっくり
今から14年前、呼子∼壱岐航路に就航す
対応策をというわけにはいきません。船が
る「フェリーあずさ」に乗船中のこと。1
動いている2
4時間、3
65日、気が休まるこ
月31日夜半から2月1日にかけて温帯低気
とはありません。休日に各船から運航可否
圧から延びた前線通過が予報で流れた。こ
についての問い合わせの電話連絡が入るこ
れまでの経験を基に風速10∼15m、波高は
とも多い。たまの休日を利用して家族旅行
3mを予測。ところが21時の風速計は南西
に出かけたときも、早朝宿泊先に事故の連
の風30mに達した。前線通過、吹き返しま
絡。旅行を中断して会社に帰り、事後処理
でのわずかな合間をぬって船を離岸、沖だ
に奔走したこともありました。家族は、私
しを決行。風は北東に変わってさらに強ま
の仕事は理解してくれていますが、家族み
り風速40mに達した。アンカーチェーン9
んなの理解がなければ続けられない仕事で
節いっぱいに延ばし、何とか持ちこたえた。
す。
」と万谷さんは運航管理者としての苦
私自身を含めて、乗組員全員初めての経験
労ものぞかせた。
だったと。
22
海と安全 2
0
0
7・冬号
岡崎さんは、それ以降「過去の経験は参
船歴を持っている。前田さんは、乗船中、
考にならん場合があるからね。
」と自分に
一番神経を使うのは、エンジントラブルに
言い聞かせているという。
よる定期運航ダイヤの遅れだという。トラ
ブルが起きてからの対応では間に合わない。
定期的に行うエンジンの整備作業は、部品
の摩耗チェックなどを特に念入りに行う。
あわせて、機関故障やトラブルなど非常
時への対応訓練も毎月欠かさず実施してい
るという。本船は、船橋での機関コントロー
ルシステムであることから、操船を行う船
長や航海士とのコミュニケーションが大事
だと前田さんは強調する。できるだけ、細
フェリーちくしの機関長、前田さん
かく、正確にエンジンの作動状況を報告す
機関長の前田さんは、1等機関士として
るように心がけていると話してくれた。
8年の経験を積み、機関長として3年の乗
壱岐、対馬の住民や観光客の足として活躍するフェリー
海と安全 2
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0
7・冬号
23
運輸安全マネジメント態勢の構築に向けて
中央大学
理工学部経営システム工学科
教授
なかじょう
たけし
中條
武志
本稿では、ヒューマンエラーによる事故
はじめに
を防止するために職場においてどのような
平成1
7年に入ってヒューマンエラーが原
取り組みが求められるのかを説明する。ま
因と思われる事故が、鉄道、自動車、海上、
た、職場におけるこのような取り組みを確
航空の各分野で頻発した。東武伊勢崎線踏
実なものにする上で「安全マネジメント態
切事故、JR 西日本福知山線脱線、近鉄バ
勢」と国によるその評価の果たすべき役割
ス転覆、大川運輸踏切衝突、九州商船防波
について論じる。
堤衝突、知床半島観光周遊船乗 揚、JAL
千歳空港管制指示違反、JAL 非常口扉操
作忘れ、ANK 小松飛行場管制指示違反な
エラー・ヒューマンエラー
とは何か
人間の意識レベルとエラーの発生率は深
どである。
これらの事故を受けて、平成1
7年6月に
い関係があり、注意力を集中できれば、エ
「公共交通に係わるヒューマンエラー事故
ラーは防止できる。しかし、集中力を持続
防止対策検討委員会」が開催され、その中
することは人間にとって困難であり、意識
間とりまとめの中で事業者による安全マネ
レベルが変動した時に忘れやすい、誤解し
ジメント態勢の構築、国によるその評価が
やすい、しくじりやすい状況におかれると
必要なことが指摘された。
必ずエラーを起こす。
この指摘に基づき、平成1
8年3月3
1日に
例えば、図1を見て、!と"のどちらが
「運輸安全一括法」が制定され、国土交通
長く見えるかを聞くと、たいていの人は"
省大臣官房に新設された運輸安全監理官室
が長いと答える。また、前に同じ質問をさ
による「安全管理マネジメント評価」が1
0
れトリックを知っていると思っている人は、
月1日より開始された。
同じ長さだと答える。
図1 ミューラルの錯視
24
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0
7・冬号
実は、どちらの答えも誤りで、!の方が
うにする工夫」である。
若干長い。状況に応じて判断を下せるのは
例えば、!情報の受け渡しエラーが発生
人間の優れた適応能力であるが、その特性
しないよう、分担せずに1人の担当者が作
が災いして知らず知らずにエラーの落とし
業するようにする、"指示の聞き取り間違
穴に落ちるわけである。
いが起こらないよう、文書等のより確実な
図1のようなまずい作業を行わせていて
方法を使う、#物を選び間違えないよう、
も、意識が適切なレベルにある時には、念
色分けする、$間違った方向に挿入しよう
のため定規で測ってみようと考えるため、
としても入らないのですぐに気がつくよう、
大きな問題にならない。しかし、疲れてい
形状を変える、%2人に独立に作業を行わ
る時や急いでいる時には、自分の感覚や知
せ、結果を照合することで両方の人が間違
識を信用して間違いに気付かず、場合によ
えない限り大きな問題にならないようにす
っては致命的な事態につながる。
る、などはエラープルーフ化の例である。
ヒューマンエラーによる
事故を防ぐには
これらの対策は、フールプルーフ、FP、
バカヨケ、ポカヨケ、ミス防止策(Mistake
Proofing)など組織によって様々な名前で
それではどうすればヒューマンエラーに
呼ばれているが、その内容は同じである。
よる事故を防げるのであろうか。
答えは
「エ
図2はエラープルーフ化の基本的な考え
ラープルーフ化」である。エラープルーフ
方を整理したものである。エラープルーフ
化は、
「手順、設備、帳票などを含めた作
化は人をエラーに導くようなまずい作業条
業の内容を人間に適したものにすることで、
件を徹底的に排除することで、作業を行っ
エラーしにくい、エラーしても大丈夫なよ
ている人の意識が変動しても確実な作業が
図2 エラープルーフ化の5つの原理
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7・冬号
25
図3 エラーマネジメント
行えるよう、望ましい結果が得られるよう
ントという言葉がよく聞かれるが、ヒュー
にしようという考え方であり、人の注意力
マンエラーによる事故を防ぐには、運輸に
に頼ろうとする対策の対極をなすものであ
携わる1人1人が予め自分の担当業務の中
る。
「エラープルーフ化を徹底して行うこ
に潜むエラーの危険を洗い出し、重大な事
とがエラーおよびその望ましくない影響を
故につながる可能性のあるエラーに対して
防ぐ上で不可欠である」ということを組織
エラープルーフ化の対策を打つという取り
の全員が理解し、実感することが成功する
組みを実践することが大切である。
ための第一歩と言える。
ヒューマンエラーによる事故の防止に取
り組むに際にもう一つ重要になるのが「未
会社が果たすべき役割
ヒューマンエラーによる事故を防ぐには、
然防止」の考え方である。一般に、個々の
それぞれの職場におけるリスクアセスメン
エラーの発生率は非常に低く、多種多様な
トとエラープルーフ化の実践が鍵となる。
エラーが代わる代わる顕在化している場合
しかし、これは必ずしも容易でない。
が多い。したがって、表面に現われてきた
まず、業務に潜むヒューマンエラーの危
エラーを1つ1つ発生の都度エラープルー
険を洗い出す場合、1人で行ったのでは効
フ化しても、氷山の一角を削っているだけ
果が少ない。一般には連携やコミュニケー
で大きな効果を期待できない。
ションの誤りが少なくないため、業務を担
KY(危険予知)活動やリスクアセスメ
26
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0
7・冬号
当している複数人が一緒になって行うのが
よい。また、1人では経験やアイディアが
ある。また、予め過去のヒヤリハットや事
限られるという意味でもチームによる検討
故事例を収集し、典型的によく発生するエ
は大切である。
ラーの一覧表として整理し、各職場におけ
次に、発生した問題に対策を取らなけれ
るエラーの洗い出しに活用してもらうこと
ばならないことは理解できても、まだ起こ
が重要である。さらに、対策となるエラー
っていない問題に対して何故予め取り組む
プルーフ化の事例を収集し、チェックリス
必要があるのか、そんなことに時間をかけ
トあるいはデータベースとして活用できる
て効果があるのかについて疑問視する経営
ようにしておくことも大切となる。
者や管理者が少なくない。
さらに、洗い出したエラーの危険性に対
してエラープルーフ化を行おうとした場合、
おわりに
今回、新たに設けられた運輸安全マネジ
当該の職場だけでは、費用や技術の面から
メント態勢の評価は、本稿で述べたような
良い対策が打てない場合がある。このよう
取り組みを、各社が PDCA サイクル(Plan
な場合には、会社がリーダーシップを取っ
―Do―Check―Act)に 従 っ て1歩1歩 進 め
て対応することが重要となる。
ていくことを意図したものであり、我が国
図3はこのような視点からヒューマンエ
ラーによる事故防止のために会社が行うべ
における運輸安全を確保していく上でその
効果が大いに期待されている。
き安全マネジメントの全体像を示したもの
運用に当たってはまだ多くの問題が残っ
である。エラープルーフ化のためのチーム
ているが、各職場で働く1人1人と会社、
活動がコアとなるが、これを成功させるた
業界団体、国が協力してより有効なものに
めには、全社でねらいを共有するとともに、
発展させていく必要があろう。
そのための時間や枠組みを提供する必要が
フェリー入港接岸作業
車両積み込み中
写真提供:明石淡路フェリー
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7・冬号
27
フェリー・旅客船の安全運航を願う
第三管区海上保安本部
交通部
故などにより航路が閉塞された場合には、
はじめに
食料・エネルギーの大部分を海外からの輸
第三管区海上保安本部
(以下、「当管区」
入に依存している我が国の国民生活にも大
という。
)は、全国を1
1に分けた海上保安
きな影響があるといっても過言ではありま
庁の一地方組織であり、横浜市にその本部
せん。さらに、当管区の担当する海域は、
が置かれ、6
7隻の船艇、1
1機の航空機を駆
東京湾や駿河湾、黒潮と親潮が混じり合う
使して、日本の政治・経済の中心地であり
犬吠埼沖など昔ながらの好漁場も多く、多
4,
2
0
0万人の人口を擁する首都圏を含む茨
数の漁船が沿岸域で操業しています。加え
城県から静岡県に至る海域の「安全と安
て、マリンレジャー活動も活発であり、休
心」を守っています。
日ともなればヨット・水上バイクなど多数
当管区の担当海域であり首都圏の海の玄
のプレジャーボートが進出している状況で
関口でもある東京湾は、世界的に見ても船
す。
舶交通が大変混雑する海域であり、その入
これらの異なる海域利用形態(船舶交
口の浦賀水道航路では1日当たり約6
0
0隻
通・漁業活動・マリンレジャー)が同じ沿
の船舶が往来し、万一、船舶同士の衝突事
岸域で共存しているのも当管区の特徴とも
三管区内におけるフェリー・旅客船航路の特徴
種 類
就航航路(例)
総トン数
旅客定員
航海速力
特 徴
1
長距離
フェリー航路
大洗∼
苫小牧
数千∼
2万トン級
数百人規模
20ノット以上
・多数のトラック・乗用車等の積載が可能
・長時間の航海に対応できるよう宿泊設備あり
・自家用車・バイク等を組み合わせで長距離を安く・効率的に
移動できるのが魅力
・大型トラック等とその乗員専用の航路もあり
2
短距離
フェリー航路
久里浜∼
金谷
数百∼
数千トン
数百人規模
20ノット未満
・一定量のトラック・乗用車等の積載が可能。
・航海時間は短く宿泊設備はない。
・陸路のバイパス的な役割を持つ航路もある。
3
旅客船航路
東京∼
伊豆七島
数十∼
数千トン
十数人∼
数百人
4
遊覧船・
レストラン船
堂ヶ島周遊
数十∼
数百トン
数十人∼
数百人
海上バス
東京港、
横浜港
数十∼
数百トン
数十人∼
数百人
クルーズ客船
横浜港∼
世界一周
1万トン
以上
数百∼
数千人規模
5
6
28
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0
0
7・冬号
20ノット未満
・トラック等の積載はできず専ら旅客のみを運送
(ただし、
ジェ
・離島島民にとっては、いわゆる「生活航路」
ットフォイル
・伊豆七島の観光コースには、高速で航走するジェットフォイ
等の高速船は
ルも就航
40ノット以上)
10∼15ノット
・観光地等において短時間で一定のコースを周遊
・本格的料理も楽しめるレストラン船や、海中の様子が見える
グラスボート等様々な種類あり
・外装もユニークなものが多い。
10∼20ノット
・主に都市部での移動機関として旅客を乗せて運航
・海上を移動しつつ都市の景観等を観光目的で乗船する旅客も
多い
・河川・運河等の水域と相互に運航する場合もあり、橋の下を
航行できるように船の高さが低い船もある
20ノット以上
・不定期の国際航海に従事する豪華客船
・世界には10万トンを超える超大型豪華客船もある
・有名なイギリスの豪華客船「クイーン・エリザベスⅡ」もこ
れに該当
・数ヶ月をかけて世界一周するコースもある
言えます。このような船舶交通の混雑する
厳しい海上交通環境において、フェリー・
旅客船が安全に運航されるために、多くの
関係者の努力が払われています。
フェリー・旅客船航路の実状
フェリー・旅客船の海難の概要
次に、フェリー・旅客船の海難事故(以
下「旅客船海難」という。
)の発生状況に
ついて見てみましょう。
図1は、過去10年間(平成9∼18年)の
当管区内のフェリー・旅客船航路は、表
全国における旅客船海難の隻数と当管区内
のように利用者のニーズによって様々な航
で発生した割合を表したグラフです。海難
路が設定されており、さらに目的別に大き
隻数534隻のうち50隻(約1割)が当管区
さや性能の異なる船舶が就航しています。
内で発生しており、これに伴う死傷者の数
この他、全国的に見れば下関∼釜山など
は44名(死亡1名)でした。
を結ぶ「国際定期船航路」もありますが、
図2は、過去10年間に当管区内で発生し
現在、当管区内の港と外国を結ぶ国際定期
た海難(3,
098隻)に占める船の用途別の
航路は開設されておりません。昭和3
0年代
割合を表したものです。旅客船海難(50隻)
頃までは北米・南米などと横浜を結ぶ国際
の割合は1.
6%であり、プレジャーボート
航路もあり、現在も当管区本部のある横
(41.
5%)や漁船(18.
4%)、一般の貨物
浜・山下公園には北米航路で活躍した「氷
船(17.
5%)に比べ大幅に下回っています。
川丸」が当時の面影を残し係留されており、
なお、全国平均(2.
0%)とほぼ同様の結
静かに余生を送っています。
果でした。
図1 旅客船海難の発生状況(H 9 ∼H 18)
海と安全 2
0
0
7・冬号
29
図2 船舶用途別の海難の発生状況(H 9 ∼H 18:三管区内)
図3 旅客船海難の種類別発生状況(隻)
(H 9 ∼H 18:三管区内)
さらに、過去1
0年間の当管区内で発生し
せてはなりません。旅客船等に対する安全
た旅客船海難の種類を示した図3からは、
基準が厳しい(例えば、AIS(船舶自動識
衝突2
6隻、乗揚6隻、火災5隻、機関故障
別装置)については、平成20年7月から総
4隻、浸水3隻、転覆2隻、その他4隻と
トン数500トン以上のすべての船舶に設置
いう結果がわかります。
義務が課せられる予定ですが、国際航海に
以上をまとめると、当管区における過去
従事する旅客船についてはトン数に関わら
1
0年間の旅客船海難の特徴は「他の船種に
ず全ての旅客船に搭載義務がある)のも当
比べ発生隻数の割合は非常に低くほぼ全国
然のことと言えます。
平均と同様。また、海難の種類は衝突が最
また、鉄道・飛行機・長距離バスなど他
も多く、多数の乗客が乗船していることを
の交通機関との競争を強いられている航路
踏まえると、いったん海難が発生すれば多
にとっては、経済性や定時性の確保も大き
くの負傷者が出る可能性もある」と言えま
な課題です。さらに、離島航路にあっては
す。
フェリー・旅客船はまさに地域住民の足で
さらに、最近では一部の航路に高速船ジ
あり「生命線」でもあります。最近のフェ
ェットフォイルが就航していますが、高速
リー・旅客船事業者を取り巻く経営環境は、
で航走するために漂流中の木材などと接触
燃料油価格の高騰もあって非常に厳しいも
したり、外洋の大きな波浪と遭遇した場合
のですが、これらの事業者・航路にあって
に大きな衝撃を受け、乗員・乗客が負傷す
も、決して経済性・定時性を理由に安全性
るといった海難も発生しています。
が損なわれてはなりません。
フェリー・旅客船事業の特徴
海上交通の安全確保のために
フェリー・旅客船には、老若男女を問わ
フェリー・旅客船事業者に対しては「海
ず多くのお客様が乗船しており、船長以下
上運送法」という法律によって安全管理規
乗組員は多くの人命を預かっていることか
程の策定が義務づけられおり、監督官庁で
ら、絶対に死傷者を伴う海難事故を発生さ
ある国土交通省海事局(地方においては運
30
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0
0
7・冬号
輸局)が審査しています。この審査の過程
上交通センター」を設置し、東京湾を往来
で安全運航に係る事業者や船長などが講じ
する船舶をレーダーなどで把握するととも
る各種の安全対策が厳しくチェックされて
に、一般船舶に対し気象情報や長さ200m
います(詳しくは事業者や国土交通省によ
以上の巨大船などの動静情報を提供してい
る寄稿をご参照して下さい。
)。
ます。さらに、衝突の危険がある船舶に対
それでは、当管区・海上保安庁ではフェ
しては VHF 等により個別に情報提供を行
リー・旅客船の安全運航のためにどのよう
っています。また、浦賀水道航路付近には
な取り組みを行っているのでしょうか?
常時巡視船艇を待機させ、東京湾海上交通
具体的には以下の施策を実施することで海
センターと連携して航行安全指導を実施す
上交通の安全確保に努めています。
るとともに、万一海難事故が発生した場合
1
!
にも即応できる体制を確保しています。
海上交通法規の策定・運用
まず、第一に海上衝突予防法、海上交通
3
!
航行援助システムの整備
安全法、港則法といった船舶の交通方法を
このほか、海上保安庁では、船舶の安全
定めた海上交通法規を策定し、これを運用
な航海に必要な灯台をはじめとする航路標
することで海上交通の安全を確保していま
識の保守・整備や、インターネット・携帯
す。なお、これらの法規はフェリー・旅客
電話を通して広く国民の皆さんへ気象・海
船のみを対象としたものではなく、すべて
象情報を提供する「沿岸域情報提供システ
の船舶に適用されます。海上衝突予防法は、
ム(MICS)」の運用などを行うこ と で、
船舶同士の衝突を予防するために国際的に
旅客船をはじめとする船舶交通の安全確保
定められた条約を国内法化したもので、す
を支えています。
べての海域において適用される海上交通法
規の一般法に当たります。一方、海上交通
安全法および港則法は、東京湾や港内など
おわりに
これから年末年始の帰省シーズンを迎え、
船舶交通の混雑する海域での交通方法を定
フェリー・旅客船の利用者もより増加が見
めた(一般法に対する)特別法に当たりま
込まれますが、これに伴い安全運航も重要
す。一例を紹介すると、長さ50m 以上の
となってきます。一方、冬期には北西の季
船舶が北向きに東京湾を航行する場合、決
節風の影響もあって、皆さんの乗船予定の
められた航路(浦賀水道航路及び中ノ瀬航
フェリー・旅客船が大時化のため欠航する
路)を航行する義務があります。さらにこ
ことがあるかもしれません。しかし、これ
の航路を航行する場合、速力1
2ノットを超
もお客様の命を第一に考えるフェリー・旅
えて航行してはなりません。混雑した海域
客船事業者の安全運航に関する真摯な取り
を船舶が安全に航行できるよう速力を制限
組みの現れの一つと言えるのです。安全運
することで船舶交通の整流を図っています。
航は大勢の人々の努力によって保たれてい
2
!
ることを皆さんも認識して頂き、快適な船
海上交通センターと航路しょう戒
東京湾の入口にある観音埼に「東京湾海
の旅を楽しんで頂ければと思います。
海と安全 2
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7・冬号
31
フェリー・旅客船の安全管理への取り組み
ジャンボフェリー株式会社
はじめに
代表取締役
みやもと
よしあき
宮本
嘉明
例えば、神戸から高松まで、フェリーで
10トンの貨物を輸送した場合、トラックと
当社は、カーフェリー2隻で神戸∼高松
比較して、
230kg の CO2を削減できます(航
間を運航する一般旅客定期航路事業を営ん
路119km、陸送1
50km で計算)。当社フェ
でいます。本航路は、昭和3年に加藤汽船
リーの輸送能力から計算すると、片道1回
によって開設され、来年で航路開設8
0周年、
で20トン以上の CO2削減に貢献できるので
再来年はフェリー化4
0周年を迎えます。
す。
この間、本航路は、本四間の人流・物流
の大動脈として重要な役割を担ってきまし
た。純客船やカーフェリー、ジェットフォ
イルなど多様な船舶が投入され、数多ある
航路の中でも先駆的で花形的な存在でした。
平成1
0年の明石淡路ルート開通後は、航路
撤退が相次ぎ、加藤汽船から航路を譲り受
けた当社1社となっています。
2
!
災害時のリダンダンシー機能
地震はもちろん、大雨や降雪などでも、
こうした時代の変化に応じ、本航路の果
陸上ルートは寸断されます。その時に役立
たす社会的役割も変化しています。単なる
つのがフェリーなのです。大雨で鳴門∼香
本四間の輸送手段としての機能から、地球
川間の高松道が通行止めになった時、神戸
温暖化防止や災害時のリダンダンシー(代
∼高松の本航路が代替ルートとして活躍し
替ルート)確保などの高次元な機能へと変
ています。強風でマリンライナーが止まる
化し、
今後、
さらなる発展が望まれています。
時、宇高航路のフェリーが代替輸送を行っ
本航路の社会的役割
1
!
地球温暖化防止
平成9年の京都議定書によって、日本は、
マイナス6%の CO2削減を義務付けられま
した。しかし現状は、削減どころか逆に増
加しています。この CO2削減のための有効
な手段となるのが、モーダルシフトの推進、
フェリーの利用促進なのです。
32
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0
7・冬号
ています。フェリーは、災害時におけるリ
ダンダンシーとして、重要な役割を果たし
ているのです。
3
!
災害時の救援活動
地球温暖化問題が悪化したり、リダンダン
フェリーは災害救援活動に活躍します。
シー機能を果している海上ルートが廃止に
阪神淡路大震災のとき、交通網やライフラ
追い込まれるのでは、何にもなりません。
インが断絶しました。ジャンボフェリーを
国策として既に民営化された道路会社に税
当時運航していた加藤汽船は、フェリーを
金を投入することが必要なのであれば、そ
ホテルシップとして活用できないかと考え、
れと同時に、地球温暖化防止やリダンダン
地震発生直後から神戸に専門家を派遣して
シー機能に重要な役割を果たしているフェ
岸壁の損傷状況を調べ、他社に先駆けて船
リーに対して支援することもまた必要なの
を神戸に着けました。そのとき同社の運航
ではないでしょうか。
管理者として船に乗っていたのが私です。
運輸安全マネジメントへの取り組み
着岸してみると、宿泊場所よりもお風呂に
厳しい環境の中、当社は本航路の維持と
入れないという問題のほうが深刻でした。
そこで急遽、浴室の無料提供を始めました。
発展に取り組んでいかなければなりません
船内のお湯がなくなると高松まで回航して
が、その基本となるのは、まず安全です。
給水し、ボイラーで沸かしながら神戸に帰
小さな観光バス会社から JR のような日
るということを繰り返しました。
これが
「お
本を代表する大企業まで、全ての運輸企業
風呂シップ」の始まりです。その後、2ヶ
に共通する課題が安全の確保です。
月以上にわたり活動を続けました。ある老
昨年、社内の安全管理体制を整える運輸
婦人は、お風呂から出た後、涙を流しなが
安全マネジメントという新たな制度が導入
ら無言で私の手を握られました。1
0年以上
されました。弊社は、この新制度への対応
たった今でも、感謝の声をかけていただく
に積極的に取り組み、所轄運輸局管内で最
ことがあります。
も早くヒアリングを受けることができまし
本航路の課題
本四間のフェリー航路を取り巻く環境は、
た。最初の受審者だったため、本省の担当
官も参加されました。審査の結果、高い評
価をいただくことができました。
極めて厳しい状況です。燃料価格の高騰に、
安全の土台
本四架橋の料金引き下げが追い討ちをかけ
ています。本四架橋の料金引き下げにより、
1
!
安全の土台は人
フェリー航送からトラック自走への逆モー
安全を高めるために、運輸安全マネジメ
ダルシフトが発生したり、燃料価格高騰分
ント制度などの制度的対策は必要です。し
を運賃に転嫁できないばかりか、運賃水準
かし、安全の土台は、まずは、航路に携わ
が下落するのです。
る者1人1人が明確な使命感と強い責任感
今年8月からは、巨額の税金を投入して
を持つことだと私は考えています。人は感
行われる新たな料金引き下げ実験が開始さ
情の生き物です。同じ作業を行うにしても、
れています。せっかく税金を投入しても、
気持ちのある人と、そうでない人とでは、
海と安全 2
0
0
7・冬号
33
【フェリーでエコ推進チーム】
今年6月、当社が中心となって「フ
ェリーでエコ推進チーム」という
NGO を結成し、地球温暖化防止の
ための活動に取り組んでいます。毎
月28日を「フェリーでエコの日」と
定め、当日は全車両の運賃1割引を
実施しています。また「フェリーで
エコ」のロゴマーク入りエコバッグ
5千枚を無料配布しました。さらに、
ジャンボフェリー!の“こんぴら2”
8月 か ら は「エ コ・マ イ レ ー ジ 制
結果は異なります。
度」をスタートしました。これはフェリー
2
#
の利用により削減される CO2排出量を、マ
明確な使命感を持つ
!3K 職場の活力源
私たち海運業の現場は3K です。自らの
イレージ・ポイントとして還元する日本初
の取り組みです。
仕事に社会的意義を見出せなければ、仕事
この活動は、全国紙の各紙で大きく取り
への熱意は維持できません。生活のために
上げられました。今後は、他のフェリー会
やむを得ず働いているという人と、つらい
社にも参加いただき、全国的に活動の輪を
けれども大事な仕事なのだと認識している
広げていきたいと考えています。
前向きな人とでは、仕事レベルは全く違い
【水の緊急輸送実験】
ます。
今年の6月28日、当社は、香川の水不足
幸い、本航路には極めて明確な社会的意
問題に対処するため、神戸から高松までフ
義があります。公共交通という一般論では
ェリーを使って水を緊急輸送する実験を行
なく、オンリーワンの役割です。本航路を
いました。当時の高松は、幼稚園や学校の
支える1つ1つの仕事も、極めて重要な社
プールが使用中止になるなど、大変な危機
会的意義を有しているのです。
に直面していました。当社は、従来から、
"当社の取り組み
水不足時における緊急輸送ルートとしてフ
私は常々、いろんな場で本航路の社会的
ェリーが活用できないかと検討していまし
役割を説いてきました。今後は、世の中に
たが、今回は、より安価に運ぶ方法として
対して直接的に意味のある行動を起こして
船内タンクを活用することにしました。
いくことが大事だと考えています。当社は、
これは日本初の実験だったため、NHK
様々な社会貢献活動を行っていますが、こ
や民放の全国ニュースなどでも大きく取り
うした活動も、使命感を高めるのに役立つ
上げられました。フェリーで運んだ水を使
ものと信じています。
って楽しそうに水浴びする幼稚園の園児た
ちの姿を見て、社会に役立つことの意義を
34
海と安全 2
0
0
7・冬号
私たち自身も再認識することができました。
行っています。私自身、70歳を超えた今で
3
$
もフェリーが入港し着岸する時は綱とり作
強い責任感を持つ
!責任感は社会人の基本
業などに参加します。幹部が現場作業に加
社会人として一番基本となる資質は責任
われば、チームの一体感が生まれます。各
感です。一つの目的を持つ組織の一員とな
作業員は、自分の仕事の重要性を認識しや
った以上、各員には果たすべき役割が期待
すくなるし、幹部も、現場の苦労や問題点
されます。役割に対する責任感がなければ
を把握できます。さらに当社では、繁忙期
組織は成り立ちません。危険を伴う現場作
などは、経理部も含めて社内総出で現場に
業を抱えた組織ではなおさらです。
出ます。海陸従業員全体で会社を支えると
責任感の前提となるのは、まず、チーム
いう意識を育むよい機会になっています。
への参加認識であり、次に、期待される役
ただし、実際には、仕事がルーティン化
割を理解することです。チームがあって役
する中、強い責任感を維持・継続していく
割があり、役割があって責任があります。
ことは極めて難しいことです。自分の役割
チームへの参加認識を持ち、役割を理解し、
を拒否する気持ちが少しでも芽生えれば、
責任を果たそうという気持ちになれば、い
それで終わりです。外見上は仕事をこなし
かにすればチームに貢献できるかを自分で
ているように見えても、心の中に殻ができ
考えて行動する姿勢が自然と生まれます。
てしまいます。オランダのハンス少年の話
"「乗務」員と「乗組み」員の違い
とは逆に、堤防に空いた穴を目の前にして
船は、他の交通機関と比べ、法的に少し
特殊です。船員法や海商法は、船長に大き
な法的責任と権限を与えています。一旦海
も、不思議と穴が見えなくなるのです。
まとめ
に出れば、船長の指揮命令権が全てに優先
船長時代から私が常に心においている言
します。電車やバスの「乗務員」と大きく
葉に、「他山の石」と「対岸の火事」とい
違う点です。これは、
「船は海上で孤立し
う言葉があります。
「海技の伝承」といい
た組織体である」という考え方が基本とな
ますが、船の運航技術は、トラブル処理に
っているためです。船は組織体で運航する
対する長年の経験の積み重ねです。周りで
ものです。しかも海上で孤立しています。
起こったトラブルを「他山の石」と捉える
それ故、安全のためには、船内組織におけ
気持ちがなければ進歩しません。船の運航
る指揮命令系統の確立が大事なのです。
技術というものは、結局のところ、それに
こうした船の特殊性に鑑みれば、
「乗組
み員」は、組織の一員であるという意識、
自分の役割に対する責任感を持つことが、
携わる人間の心の持ち様に大きく左右され
るのです。
安全確保には、これで大丈夫というもの
特に大事です。
はありません。当社としては、運輸安全マ
#当社の取り組み
ネジメントなどを通じ、今後とも安全の向
当社では、会社幹部も現場に出て作業を
上に積極的に取り組んで参ります。
海と安全 2
0
0
7・冬号
35
ジェットフォイルの安全管理への取り組み
佐渡汽船株式会社
取締役海務部長
こ が わ ら
よしあき
古川原
芳明
ト態勢を構築し、日々の安全運航の確保に
全社をあげて取り組んでいるところである
が、従来からなされてきた安全確保の方策
は当然のことながら踏襲されている。これ
らは、当社発足(1921年)以来、就航船舶
の変遷とその中で遭遇した事故や不安全状
況を踏まえて形造られて来たものである。
多くの船社でもそれぞれノウハウを持って
おられると思うので、当社独自のものと思
われることを簡単に紹介したい。
!船種別運航マニュアルの策定
はじめに
当社は、本土と佐渡ヶ島を結ぶ定期航路
運航上の基準は「安全管理規定」に定め
られているが、船と航路の特質に応じた注
意すべき点や教育訓練に関する事項等をそ
事業を営んでおり、島民の生活航路として、
れぞれに定め、遵守させている。
また、観光航路として多くの皆さんにご利
"無線の活用
用頂いている。
法律に定められた無線装置の他、当社独
航路と就航船舶の状況は、新潟−両津航
自の周波数帯の無線機を各船・支店・代理
路:カーフェリー2隻、ジェットフォイル
店に設置し、船から陸上への航海情報(中
3隻。直江津−小木航路:カーフェリー2
間点通過・入港連絡等)の定時提供や船間
隻。寺泊−赤泊航路:高速船1隻である。
の連絡(追い越し・行き会い・障害物情報
年間の輸送人員は全航路の合計で約2百
万人、自動車航送台数は乗用車換算(新潟
航路・直江津航路)で約2
6万台である。残
念ながら共に年々減少の傾向にある。
全般的な安全運航のための措置
等)に利用している。
#位置情報システムの導入
GPS からのデータをコンピュータ処理
し、『各船の海図表示モニターに船位を表
示、船が航路から離脱した時や危険水域に
進入した時には警報を出す。』『各船からの
昨年、
「運輸安全一括法」が施行された
位置情報を MCA 無線で本社に送り、それ
ことを受け、当社でも安全管理規定と安全
らをコンピュータで再処理し、運航管理者
統括管理者を定めるなど、安全マネジメン
在席箇所その他に配置したモニターに表示、
36
海と安全 2
0
0
7・冬号
各船の位置・速力・針路等がリアルタイム
ップ化が徹底され、万が一の場合にも安全
で視覚情報として把握できる。
』ことなど
が保たれる様に工夫されている。航空機
である。
メーカーであるボーイング社の設計思想が
随所に生かされている。
また、運用(操縦など)・日常的な整備
についても、飛行機に近いものが求められ
ている。
この JF をベースに、就航以来当社が経
験してきたことに触れた上で、安全上採ら
れてきた措置について述べていきたい。
1.水中障害物について
当社が JF を導入する時点で、既に海外
無線と GPS 活用による航行管制システム
ジェットフォイルの安全管理
では香港・ハワイ・ヴェネズエラで JF が
運航されていた。そして、その内の一つ、
ヴェネズエラでは当社が JF を運航した直
さて、
頂いた標題はジェットフォイル
(以
後に、オニイトマキエイ(マンタ)と衝突
下 JF)の安全管理ということであるので、
し、船体が損傷し、乗客が負傷する事故が
以下にそれについて述べたい。
あったとの概略情報を(我々は)得た。し
JF は1
9
6
0年代に米国ボーイング社で開
かし、当社船が運航する海域にはせいぜい
発された全没翼型水中翼船で、船舶という
イルカがいる程度で、その様に大きい海中
より、航空機に近い概念で造られている。
生物は多くは生息せず、巨大な浮流材木も
日本では、当社が1
9
7
7年に初めて新潟∼佐
滅多に目撃しないとのやや甘い認識があっ
渡両津に就航させたものである。
た。
機構的には、高速(4
0ノット)で翼走航
実際、初就航以降、イルカの群れに遭遇
行することから、種々の安全装置が組み込
し、何頭かは避け切れずにぶつかったりし
まれており、特に、水中障害物と衝突した
たものの、船にダメージを受けたりはせず、
場合、大きな衝撃を受けることが想定され
就航2年目に不測の水中生物と衝突し、翼
るため、水中翼装置と船体の連結部には前
走不能状態になる事故があったが、衝撃吸
後それぞれに衝撃吸収システムを組み込む
収装置が働き、乗客に負傷者は無く、衝撃
などの工夫がなされている。その他、ハロ
吸収装置を交換することで正常に復帰出来
ン(または二酸化炭素)消火装置で機関室
た。その様な事情で、当初は水中生物への
火災に迅速に対応出来ることや、船体に破
関心が薄かったことは否めない。また、そ
口が生じても船体の浮力を確保するための
の頃は実際、クジラの生息数が少なかった
多区画構造が採用されており、操縦関連シ
のかも知れない。
ステムは2系統(並列)化およびバックア
2.当社における重大事故
海と安全 2
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0
7・冬号
37
JF の運航に関わる事故は人為的ミスに
その後、平成7年に再び乗客が負傷し(11
よるものと不可抗力によるものがある(そ
人)前部水中翼装置を脱落させる「すいせ
の両方が絡み合って発生するものも多い
い」の事故があったほか、後部水中翼装置
が)。
を損傷させる大きな事故が現在までに3件
1当社創業以来の最大かつ屈辱的な事故は、
"
発生している(これら3件とも負傷者なし)。
平成5年6月1
5日に発生した「ぎんが」の
その他、船体損傷に結びつかない生物との
両津市梅津海岸浅瀬への乗り上げであり、
衝突またはニアミスは就航以来16件を数え
典型的な人為的ミスによる事故であった。
る。
霧中を全速で翼走航行させていた同船船長
3.事故防止対策
が、自船の位置を誤認し、同船が同海岸に
前記の様に、JF の事故により、乗客に
乗り上げた結果、4
1人の乗客が重軽傷を負
被害を与えてしまったことは、当社関係者
い、水中翼・船体にも大きな損傷を受けた
にとって、少なからぬショックであった。
ものである。修理には長期日数(5
0日)と
今一度整理すると、平成4年「つばさ」が
多額の費用(1
3億円)を要したが、同船は
海中生物と衝突・9人負傷、平成5年「ぎ
廃船になることを何とか免れ、今も就役中
んが」が座礁・41人負傷、平成7年「すい
である。しかし、復旧に掛かった経費(保
せい」が海中生物と衝突・11人負傷と、立
険金後払いの形で)は、長年に亘って当社
て続けに人身事故が発生してしまった。乗
経営の足を引っ張ることとなった。
客を安全に目的地に輸送するのが定期旅客
2不可抗力の要素が大きいのは、クジラな
"
船事業者としての当社の使命であり、当社
どの海中生物との衝突である。クジラとの
はジェットフォイルチーム(乗組員・メン
遭遇の仕方・船速・当たった位置などによ
テ員)を中心に、乗客が負傷するような事
り船が(クジラも)受けるダメージはさま
故が発生する度に、何らかの対策を立てて
ざまであるが、全速での出会い頭(クジラ
来た。その集積として、現在のハード・ソ
が息継ぎのために浮上する時など)の衝突
フト両面にわたる諸対策がある。これらを
の場合、水中翼装置を脱落させてしまうよ
列記すると以下の通りである。
うな衝撃を受け、乗客が負傷することもあ
1ハード面での対策
"
る。前項で述べた通り、JF 導入当初は、
!アンダーウォータースピーカー(UWS)
クジラとの衝突で乗客が負傷する、あるい
翼走航行する JF は水中に殆ど音を出さ
は船体が壊れることは、殆ど当社関係者の
ない。クジラにとってみれば、いきなり何
念頭になかった(緩衝装置が作動=損傷は
の前触れもなく JF が現れる状況となる。
あり、本来の役割)のであるが、初就航以
前部水中翼の先端(ノーズコーン)に備え
来1
5年目の平成4年9月、
「つばさ」が翼
たスピーカー か ら 前 方 に6、1
0、14、18
走航行中にクジラらしき障害物と衝突し、
KHz の4種類の音を2秒1周期で発しク
乗客9人が負傷し、前部水中翼装置が船体
ジラに JF の存在を知らせようとするもの
から脱落するという大きな事故が発生した。
である。ピッ、ピッ、ピッ、ピッと段々高
38
海と安全 2
0
0
7・冬号
くなる音が2秒間隔で繰り返し発信され、
その音は水中2㎞先まで届く。
"客室内の要所に衝撃吸収パッドを取り付
け客室内の鋼製柱、最前列座席の前面壁や
2階席と階段降り口の仕切り衝立などにク
ッションを取り付けた。また、各座席の背
もたれ背面にスポンジ材のクッションを施
した。
#自船位置表示装置(前掲)
佐渡汽船が運航するフェリー
GPS 利用の位置表示装置を自社で開発、
各船(カーフェリーも含む)に搭載した。
した。
操縦席前面のパネル内モニターに表示され
&油圧フューズ
るチャートに自船位置・進路速力・航路・
前記のケースの様な場合、油圧ホースが
避険線・危険区域などが示され、船の進行
引きちぎられ、油圧作動油が流出してしま
に合わせて自動的に画面のチャートが切り
うと機器類が作動しなくなり、操縦不能に
替わる。また、危険水域に進入した時は音
なる。油圧配管の要所に油圧フューズとい
声警報で警告する。自船位置を常時把握出
うものを設け、急激な油圧低下が生じた場
来るので、見張りに専念することが出来る。
合、油を遮断するシステムとした。
$緊急着水システム
2ソフト面での対策
'
障害物が至近に現れ、緊急着水しなけれ
!見張りの強化
ばならない場合、翼深度調整レバーとスロ
船員の常務として「見張り」は当然のこ
ットルの2つを操作する必要があったが、
とであるが、運航時の操縦室内の状況をビ
操縦システムを改造し、スロットルを最強
デオでモニターし、定期的に陸上で、責任
後進位置に引く1動作で可能とした。操縦
者がチェックすることで、緊張感を常に持
者は咄嗟の時、この1動作を反射的に取る
って当直する状況をキープしている。
ことを念頭に置いている。
"船内放送・巡視・案内テロップなどによ
%船首船底部の2重底化
るシートベルト装着率アップの実現
クジラ等に衝突し前部水中翼が脱落する
最近は、クジラなどとの衝突により、負
時には、船首船底部分に破口が生じること
傷者が発生したことも敢えてアナウンスし
が殆どであるが、ここから海水が浸入し、
ている。
船体の浮力を減らし、機器に濡損を与えて
#「ジェットフォイル安全運航マニュア
しまう、いわゆる2次被害が発生する単底
ル」の策定(前掲)
構造になっていた。この部分の内側にもう
全所有船舶向けの「運航管理規程」を補
1枚船底板を張り、空所状の区画を作り、
完する。更に厳密な規程。非常措置マニュ
穴が空いても浸水を防ぐことが出来る様に
アルも盛り込んである。
海と安全 2
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0
7・冬号
39
を運航している船社全てに共通することで
あるが、当社の場合、JF3隻の保有に対
して20人のスタッフがメンテナンスの要員
となっている。
この一見多すぎるように感じられるかも
知れない人員で、当社では航海後の点検の
時間以外に、不調や定期交換のため陸揚げ
した機器の修理や整備を行っている(=自
社スタッフで)
。極めて高度な或いは精密
翼走中のジェットフォイル
!クジラ類の目撃情報の収集・記録
な治具・計測器が必要な機器類については
外注に出さざるを得ないが、ほとんどは自
JF・カーフェリーからの情報をメンテ
社の施設(ファクトリーといってもいい
事務所に集め周知・記録・保存している。
か?)で対応している。各種補機類の修理
"区間減速の実施
や整備から主機であるガスタービンの高温
航路中央の前後6マイル(計1
2マイル)
部定期点検まで自社で行っている。
の区間4
3ノットの船速を3
7ノットに減速、
このことは、費用節減に加えて安全上で
状況により区間を拡大し、船速を更に落と
も大きなメリットを享受することに繋がっ
す。3
7ノットにするとクジラとの衝突時の
ている。常に整備済み予備品を手元に置い
衝撃が75%に低下、また JF・クジラ共に
て置けるのは勿論、自ら点検・整備を行う
衝突を避けるための余裕時間が生じる。
ことにより、各機器の構造・原理を理解し、
#運送約款の改定
それらの現況を常時把握できていることが
JF の乗客の禁止行為として「シートベ
ルトの不着用」を定めた。即ち、シートベ
ルトをすることが義務であると約款に明記
した。
4.その他
何かトラブルがあった時の正確・迅速な対
処を可能としている。
更に当社に特徴的なことは、自社の JF
専用ドックを保有していることである。
当社が初めて JF を就航させた時点で、
以上、事故防止対策をハードとソフトの
船体を上架しなければならないようなトラ
面から述べてきたが、日常業務の中で JF
ブルがあった時にどうするかという大きな
の安全運航に寄与していると思われること
問題があった。
についても若干触れておきたい。
前述した通り、JF は船舶というよりも
幸いにして JF は導入直後より利用者の
支持を頂き、経営的に大きな貢献をする結
むしろ、航空機的な特徴をもっている。こ
果となったことから(資金的余裕が生じ)
、
れに付随して、日常的な点検・整備は毎日
また、トラブル解消に要する時間をできる
の航海終了後にメンテナンススタッフが行
だけ短縮したいという要請から、導入2年
うことになっている。このこと自体は、JF
目にして独自のドックを建造することがで
40
海と安全 2
0
0
7・冬号
入渠(ドッグ)中のジェットフォイル
きた。
み上げて来たものであり、今後も安全性向
爾来、トラブルがあったときの対処は勿
上のための研鑽を積んで行かなければなら
論、毎年義務付けられている中間検査・定
ない。前記3件の事故で重傷者が出なかっ
期検査も全て当社ドック内で工事を施工し
たのは不幸中の幸いであり、運が良かった
ている。極端な表現をすれば、自社の手に
としか言いようがない。
より船を総バラシしている次第である。従
事故の防止および事故時の被害の最小化
って、水中翼や推進系統の大きな機構から
対策については、中・長期的には船体構造
船体の非常に細かい部分まで、トラブルの
上の技術的ブレークスルー(革新的技術の
予兆を含めて把握対処することが可能とな
実現・適用)や衝突回避援助装置の開発が
っている。予防メンテナンスを高いレベル
期待されるところであるが、差し当たって
で実現できていると自負しているところで
は現在採られているハード・ソフトの安全
ある。
運航態勢を愚直に守り続けて行く以外はな
まとめ
いと思う次第である。
繰り返しになるが、これらの対策は一遍
に為されたものではなく、事故に遭遇する
度にその予防と被害軽減に知恵を絞り、ま
た、メーカー・船社の情報を参考にして積
海と安全 2
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0
7・冬号
41
長距離フェリーの安全管理への取り組み
商船三井フェリー株式会社
はじめに
弊 社 は2
0
0
7年6月1日 に 商 船 三 井 フ ェ
リーと九州急行フェリーとが合併し「商船
取締役船舶部長
いながき
ひろお
稲垣
拡夫
食事に関しては、24時間自由に食事が取れ
るイートインスタイルの自動販売機での軽
食販売を行っています。
○首都圏∼九州圏(2航路)
三井フェリー株式会社」として新たなス
博多航路(東京∼博多)は通常日曜日を
タートを切った会社です。この度の合併に
除く毎日運航しており計4隻の RORO 船
より関東・北海道間および関東・九州間に
(日本通運と共同運航)を投入し、首都圏
おけるフェリーおよび RORO サービスの
∼九州圏の輸送サービスを提供しています。
質的向上と、地球環境の保全に配慮した安
また、苅田航路(追浜∼御前崎∼苅田∼
全・安定した輸送の確立を目指し、モーダ
大分)は2隻の RORO 船と他社サービス
ルシフトの担い手として発足しました。弊
を併せてデイリーサービスを行っています。
社の船舶が就航する航路の特徴としては次
東京∼博多航路と併せて、首都圏と九州圏
の通りであり、大洗∼苫小牧航路(一般フ
の輸送力が充実し、モーダルシフトの受け
ェリー)が基盤となっています。
皿として、環境負荷の削減、物流費の低減
○首都圏∼北海道の大動脈
に努めています。
北海道航路(大洗∼苫小牧)は通常日曜
○自動車の全国輸送サービス
日を除く毎日2便体制で運航しており、首
四日市を起点に「第18有明丸」
(450台積)
都圏∼北海道間を夕方便は約2
0時間、深夜
1隻の自動車専用船で、商品乗用車を全国
便は約1
8時間で結んでいます。この航路の
輸送しています。
魅力は、何と言っても南北18
0km におよ
ぶリアス式三陸海岸を眺望することが出来
ることでしょう。特に、金華山または北山
埼を海上から眺める景観は絶品です。
長距離フェリー特有の
安全確保への課題
長距離フェリーの定義は、内海および外
また、夕方便は多彩な客室と充実したパ
洋を問わず片道300km 以上の航路に就航
ブリックスペースを備え、お客様が十分ご
するフェリーとなっています。弊社におい
満足頂けるように工夫をこらしたレストラ
ては冒頭述べましたように、4つの異なっ
ン営業も行っています。深夜便はベッド
た運航形態がありますが、昨年10月1日か
ルームのみのカジュアルフェリーとなって
ら輸送の安全確保に関する義務付けが強化
おり、船客定員数も1
5
0名と少なく、ゆっ
されたことに伴い、これまでの運航監理規
たりとクルージングが楽しめます。また、
程から安全管理規程として改称強化され、
42
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0
7・冬号
管理者職を置いて、実務の強化を図ってい
ます。
輸送の安全性向上への取り組み
近年陸上では ISO9000を導入して品質管
理を行っているように、海上では深刻な人
命および環境汚染を伴った海難事故を契機
として任意 ISM 制度が導入されました。
弊社では2002年2月にフェリー業界では
商船三井フェリー“さんふらわあしれとこ”
初めて本システムを導入し、船舶の運航だ
様々な規程が新規追加、または現行規程が
けではなく、乗組員の管理、船体・機関の
改定されることになりました。通常1社で
整備についても品質の高い管理を行ってき
1つの安全管理規程がありますが、弊社に
ました。また、安全管理規定はこの ISM
おいては、旅客フェリーを始め、運航形態
制度を準用した制度であるため、本規定と
により様々な船種が存在し、次の通り他社
ISM との整合を検討しなければならない
に類を見ない5種類の規程があります。!
が、次のような相違点があります。
旅客フェリー用 "クルーズ用 #苅田航
路 RORO 船用
$博多航路 RORO 船用
%内航 PCC(自動車船)用などです。
!本規程は法律により強制的に規定され
たものであり、違反すれば罰則もあるが、
任意 ISM は弊社が任意に導入したもので、
このように、より高度な安全運航体制が
不必要と判断したときは廃止することも可
求められる中、いろいろな輸送モードとの
能である。
(但し、保全計画制度との関連
熾烈な競争があります。大型で高速化が求
も あ り 一 概 に は 廃 止 で き な い。
)"任 意
められるこの業界ですが、燃料高騰の影響
ISM は船舶のみを範囲とした規程である
が極めて大きく、経営の根幹を揺るがして
が、本規程は臨港店の陸上部門も範囲内と
いるのも事実です。しかし、すべてに最優
なっている。#任意 ISM は船隊整備など
先するのが安全輸送であり、弊社としては
も範囲となっているが、本規程の船体整備
次の項目を重点とした安全確保への取り組
は範囲外である。
みを施策としています。
副運航管理者の配置で実務を強化
安全統括管理者および運航管理者は小職
が兼務しますが、船種が5種類にもなるこ
とから、本制度を強化するためにこれまで
臨港店のみに配置していた副運航管理者を、
本社においてもその航路に精通した副運航
以上を踏まえ、弊社旅客フェリーでは両
制度の融合が進むものと思われます。ただ
し、「安全管理規程」は法的に強制システ
ム、「任意 ISM」は法的に任意なシステム
という問題との整合があります。
経営トップと安全運航情報を共有
安全管理規定の大きな骨子として『安全
海と安全 2
0
0
7・冬号
43
最優先の方針の下、経営トップ主導による
大洗港へ入出するため同港を映像化した
経営トップから現場まで一丸となった安全
操船シミュレータ訓練や BRM 訓練(様々
管理体制の構築を図ることを目的とする』
な航海事象に対応する船長・航海当直者と
があります。これは既に ISM 制度は実施
しての必要な組織や人間関係、コミュニ
されている手法の PDCA サイクルを基本
ケーション航海成就のための総合的判断力
とし、このサイクルを経営トップ主導で適
などの基本的かつ総合的概念を習得するた
切に機能させ、輸送の安全のための取り組
めの訓練)を通して運航に対する安全意識
みを継続して向上させるためです。このた
の向上に力を注いでいます。
めの方策として、経営トップの安全運航に
対する情報の共有として、毎月発生した安
MOL 安全標準仕様の充実化
全運航に関する事象や実施した安全教育、
商船三井においては、社会的影響の大き
訓練などについて安全運航担当役員(小
い「衝突、座礁」、「海上漏油、環境汚染」、
職)から全役員に報告し、情報の共有を図
「火災」、「浸水、復元性喪失」を未然に防
るようにしています。
止し、本船の安全レベルを適切に維持する
総合的事故対応力の向上
ことを目的として、設備に関する検討を行
いました。結 果、「MOL 安 全 標 準 仕 様」
常日頃から各種事故を想定して訓練を行
が策定され、グループ会社として、弊社に
うことは、万一事故が発生した時に冷静沈
おいても長距離フェリーとしての必要な装
着に行動できて被害を最小限に抑えること
備については、充実化を図っています。
に役立ちます。弊社各船は、毎月種々の事
故(衝突、火災、座礁、機関故障など)を
想定した訓練を行っています。更に、事故
訪船および外部アドバイザー
による安全指導教育
が発生した場合、本船と陸上の連携プレー
自社船に対する安全教育は当然ですが、
が重要なので、毎年社長を事故対策委員長
弊社博多航路のように、オーナーとオペ
とした訓練も行っています
レーターの関係において運航管理上の責任
また、事故が発生した時には本船(弊社
はオペレーターに属します。そのため、定
内含む)だけで対処できるものではなく、
期的に弊社ポートキャプテンおよび海務担
海上保安庁、警察および消防などの公共機
当者が訪船指導を行なっています。また、
関や民間防災業者・機関による対応を理解
外部アドバイザーによる評価機会を極力得
しておく必要があります。このため、各港
るために、全航路を対象として乗船指導を
で実施される火災・油流出当の訓練に船舶
行なっています。
を提供するだけでなく、乗組員も訓練に参
加して総合的な事故対応力を高めています。
操船シミュレータ訓練などの実施
44
海と安全 2
0
0
7・冬号
安全確保のための最重要項目
お客様や貨物を無事故でお届けすること、
つまり「安全輸送の確保」が弊社にとって
無リン化に取り組んでいます。
また、旅客フェリーで発生する種々の廃
棄物については、資源リサイクルへの対応
としてゴミ分別を励行しています。これら
についての評価は DNV(ノルウェイ船級
協会)において毎年行なわれ、商船三井グ
ループ全体における「安全輸送確保」の基
盤となっています。
最後に、これまで述べたように「安全確
商船三井フェリー“さんふらわあふらの”
保に対する取り組み」は、10年前と比較し
最も大事な使命であり、また環境保全への
て大きくレベルアップしています。例えば、
道と考えています。そのためには先ほど、
会社だけでなく、本船乗組員においても
安全確保への取り組み施策の一つとして輸
ISM、ISO に関する取り組みについては、
送の安全性向上への取り組みにおいて述べ
年々理解を深めています。これは、本船と
たとおり、弊社では「安全輸送」への社内
会社との間において、何を乗組員に周知・
体制を確立しており、安全管理規程に基づ
理解させたいのか、普段からの地道な教育
く運航管理制度だけではなく、安全と環境
が少しずつ実を結んだ結果と云えます。定
保 護 の 為 の ISM や 環 境 マ ネ ー ジ メ ン ト
期的な内部監査をはじめ、適宜適切な教育
(ISO1
4
0
0
1)を取得し、毎月定期的に開
関連などの情報提供も必要です。本船にお
催する安全会議などで安全運航の徹底を図
いては、事故防止に繋がることをミーティ
っています。つまり、海洋・地球環境の保
ング、船内安全衛生委員会および見直し会
全は企業の社会的責務との認識のもと、経
議などにおいて教育されることが大切なこ
営会議の下部組織として社長を委員長とす
とだと考えています。また、安全を確保す
る環境対策委員会を設置し、環境問題への
るためにはコンプライアンスの確立が最重
継続的取り組みを実施検証していくことに
要な課題です。昨今の陸上大手企業におけ
しています。これは商船三井を中心とした
る不祥事をみても「コンプライアンス=法
MOL グループ各社が、具体的な取り組み
令遵守」の体制が整っていない会社は、社
、
として船舶においては地球温暖化(CO2)
会の信用を失い、場合によっては倒産する
大気汚染(SOX)あるいは海洋汚染への
危険すらある状況です。
「コンプライアン
影響を最重点事項と考え、地球温暖化およ
ス=法令遵守」について従業員が「会社が
び大気汚染への対応として燃料の消費量を
法律を守れと云うことか」と解釈したり、
可能な限り削減させるため、定時出港の厳
「自分とは関係がないことだ」と早合点し
守、最適航路の選択などに積極的に取り組
てしまうことは、いずれ自分自身が淘汰さ
むとともに、海洋汚染の対応については船
れ、所属企業の存続さえも危ぶまれること
上で使用される船客用食器類洗浄用洗剤の
を肝に銘じておくべきだと考えます。
海と安全 2
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0
7・冬号
45
運輸安全マネジメント評価の現状と期待される効果
国土交通省 大臣官房 運輸安全監理官室
はじめに
運輸安全監理官室は、平成1
8年4月1日、
主任運輸安全調査官
かじた
もとき
梶田
雅紀
の東武鉄道株式会社伊勢崎線竹の塚駅付近
における踏切事故、また、わが国航空運送
事業者における管制指示違反などの安全上
国の運輸安全のための専任組織として大臣
のトラブルをはじめとして、トラックの踏
官房に設置され、運輸安全政策審議官をト
切衝突事故やバスの横転事故および旅客フ
ップに、各輸送モード(海事・自動車・航
ェリーの防波堤衝突事故など、運輸事業に
空・鉄道)に係る安全の確保のための組織
係る事故やトラブルが連続して起こり、輸
として、安全施策に関する企画・立案・実
送の安全に対する信頼が損なわれる事態と
施や利用者への影響が大きい大規模事業者
なり、国土交通省として、これらのヒュー
等に対する運輸安全マネジメント評価の実
マンエラーが関係すると見られる事故・ト
施を主な業務として活動している。
ラブルが多発した状況に鑑み、従来の監督
昨年1
0月の運輸安全一括法(運輸の安全
行政の延長ではなく、運輸事業者に対する
性の向上のための鉄道事業法等の一部を改
新たな安全確保のための手法、行政側の組
正する法律)の施行以来、1年が経過した
織・体制のあり方について検討するため、
が、この間に運輸安全調査官が運輸安全マ
省内に「公共交通に係るヒューマンエラー
ネジメント評価を実施した大規模事業者等
事故防止対策検討委員会」を設置し、ヒュー
および地方運輸局等の職員と合同で評価を
マンエラーに知見を有する外部の有識者の
実施した陸・海・空、4輸送モードの事業
ご意見も伺いながら検討を進めてきた。
者の合計は1
4
3社に上る。
運輸安全マネジメント評価の経緯
この委員会が同年8月4日に行った中間
取りまとめにおいて、運輸事業者における
安全最優先の意識の形骸化、経営部門と現
運輸安全マネジメント評価の経緯・背景
場間および部門間の意思疎通・情報共有の
については、
「海と安全」20
06年冬号の【特
欠如などに起因するヒューマンエラーが背
集】
「ヒューマンエラーによる海難をなく
景にあると思われ、
「事業者による安全マ
せ」において、当時の杉山運輸安全政策審
ネジメント態勢の構築が必要」であり、事
議官から既に紹介されているが、その内容
業者においてトップから現場まで一丸とな
を想起していただくため以下に文章を引用
った安全管理のための体制の構築を図るこ
する。
と、そして、
「国による安全マネジメント
平成1
7年4月の西日本旅客鉄道株式会社
態勢の評価が必要」であり、その安全管理
福知山線における列車脱線事故、同年3月
体制の確認を国が行う「安全マネジメント
46
海と安全 2
0
0
7・冬号
評価」の仕組みを導入することなど、新た
管理体制についての一つの方向性が出され
に具体的な方向性が示された。
た。
国土交通省としても、この趣旨に沿い、
「ヒューマンエラー」には、うっかりミ
制度改正を行うこととし、平成1
8年の通常
スや錯覚などにより「意図せず」に行って
国会に、安全管理規程の作成・届出、安全
しまう狭義の「ヒューマンエラー」と、行
統括管理者の選任・届出等による運輸事業
為者がその行為に伴う「リスク(危険性)」
者の安全管理体制の構築等を内容とする
を認識しながら「意図的に行う不安全行
「運輸の安全性の向上のための鉄道事業法
動」がある。特に「意図的に行う不安全行
等の一部を改正する法律案」を提出し、同
動」の原因として、
「不安全行動を容認す
年3月3
1日に公布され、同年1
0月1日から
るような職場環境・企業風土」というもの
施行された。
があるということが指摘されている。
従って、組織における「安全文化」や「安
事業者における安全管理体制の
構築と国による評価制度
全風土」を適正なものにしていくため、事
「公共交通に係るヒューマンエラー事故
築と継続的取組み」の必要性が指摘された。
業者における「安全マネジメント態勢の構
防止対策検討委員会」において今回の安全
その内容として、!経営トップのコミッ
監
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0
7・冬号
47
トメントの明確化、"基本方針の確立・明
サイクルに基づく安全管理体制の構築」に
確化、#社内体制の整備及び責任と権限の
ついて調査し、適宜、模範的な取組みを褒
明確化、$コミュニケーション・情報共有
め、不十分と考えられる取組みに対しては
のための適切なプロセスの確立、%効果的
助言を与える新たな安全確保のための行政
な内部監査の実施、&定期的な見直しと継
手法である。
続的な改善措置等が挙げられている。さら
に、
「国の果たすべき役割」として、事業
事業者における安全確保の取組み
者が構築した安全管理体制を国が監視する
事業者が安全管理体制を構築するにあた
安全マネジメント評価の実施と、その実施
り、その円滑な導入を図り、かつ、その効
にあたって必要なモード横断的な安全監視
果を実効性あるものとするためには、次に
組織の設置の必要性が指摘された。
掲げる考え方に基づき安全管理体制の構築
また、先般の法律改正で作成等が義務付
けられた安全管理規程に関し、事業者が安
全管理体制を構築するために必要なガイド
を図ることが望ましい。
!事業者の自主性が最大限発揮できるよう
なものとする。
ライン等の検討を行うため、学識経験者、
"文書化、記録化の新たな義務付けは必要
関係事業者などで構成する「運輸安全管理
最小限とする。事業者が現有している文
体制構築に係るガイドライン等検討会」を
書等を可能な限り活用できるものとする。
設置した。
本検討会で各交通モード共通に、安全管
#事業者が、その事業形態、事業規模等に
相応しい取組みができるようなものとす
理規程の記載事項等について検討を行い、
る。
安全管理規程に記載すべき項目とその考え
また、安全管理体制のポイントを挙げる
方をまとめた「安全管理規程に係るガイド
と以下のとおり。
ライン」として取りまとめを行い、平成1
8
!経 営 ト ッ プ の リ ー ダ ー シ ッ プ に よ る
年5月1
2日に公表している。
「運輸安全マネジメント評価」という制
PDCA サイクルの明示化とその実現
⇒明確な安全方針・重点施策(安全目
度は、経営トップを初めとする本社など経
標)の提示とその実現、継続的改善
営管理部門を対象としており、準備および
⇒経営トップによる安全管理体制の理解
調査段階で、関係書類を事前に十分に読み
込み、さらに、本社に伺い、経営トップ以
下本社など経営管理部門の皆様にインタビ
ューを行い、
「経営トップが現場の安全管
理体制を具体的に把握し、現場の情報、課
題等がフィードバックされるような体制が
とられているか」などのいわゆる「PDCA
(計画、実行、チェック、見直し・改善)
48
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7・冬号
と信頼
⇒一定の手順、方法に沿った取組み
"安全統括管理者をはじめとする責任体制
の整備
#事業者組織内の十分なコミュニケーショ
ンの実現
$「事故の芽」情報の明確化と効果的な対
応措置
!安全管理に直接関与・担当する役職員へ
の理解とマネジメント教育
"内部監査による安全管理の自己チェック
機能の付加
海上旅客運送事業の安全確保
従来、海上運送法及び内航海運業法にお
いては、社会経済情勢の成熟などを受けた
#定期的な見直しに基づく改善措置
規制緩和により、利用者利便の増進を図る
$既存の文書、記録の活用と過剰な文書、
とともに、競争促進による弊害を防止する
記録等の排除
%事業形態、規模等に相応しい事業者の取
組み
ため、運航管理制度による事後チェック体
制の強化を図ってきた。
しかしながら、昨今の旅客船事業におい
ては、「濃霧等の悪天候時における無理な
このように、安全管理体制に組み込まれ
入出港」「運航基準図を無視した無計画な
る PDCA サイクルが適切に機能すること
航行」「ブリッジにおけるコミュニケーシ
によるスパイラルアップの結果として、事
ョン不足による操船不適切」など、また、
業者内部に安全風土、安全文化が定着し、
内航海運事業においても「操船不適切」
「見
関係法令遵守と安全最優先の原則の徹底が
張不十分」
「船位不確認」などによる事故
されていくものである。
が多発しており、その背景として、
「不安
全行動を容認する職場環境及び企業風土」
海と安全 2
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0
7・冬号
49
「安全に対するリスク管理意識の不足」
「情
また、今後、より一層の安全管理体制の
報の迅速かつ的確な共有の不足」などの安
充実・強化に向け、海事分野の多くの事
全管理体制に係る要因が指摘されていると
業者に対し、共通して行った主な助言等
ころである。
は以下のとおりである。
旅客運送事業等、公共交通機関の安全の
確保は最も基本的なサービスであり、国民
の信頼の根本を成すものであることから、
様々な輸送サービスの向上も、安全がその
前提でなければならない。
海事分野、取分け旅客船事業者の特徴と
!ヒヤリ・ハット情報を含む事故情報の収
集・活用
"安全管理体制に係る内部監査の仕組みの
確立
#安全管理体制の見直し・継続的改善に係
るプロセスの構築
しては、比較的中小企業である小規模事業
者が多く、経営管理部門のセクション・要
旅客船事業者にあっては、約2,
900社が
員、安全担当の専門部署を設置している事
安全管理規程の届出義務事業者(運輸安全
業者は少ない。また、船舶の運航に際して
マネジメント評価対象事業者)であり、特
は、気象・海象などの外的要因に影響を受
に、マネジメントシステムに関する取組み
けることから、船舶の安全は一義的に船長
の経験の乏しい事業者においては、取組み
の権限・判断に委ねられることが挙げられ
の進んだ事業者の実例などを参考にしつつ、
る。
安全マネジメントシステムの意義、考え方、
安全管理体制の構築、実施、維持に向け
手法などをよく理解し、安全管理体制の更
た取組みについては、事業者間で相当のバ
なる充実・強化に向け、マネジメントシス
ラツキがみられ、特に、任意 ISM コード
テムのプロセスとして上記助言等に示す取
(国際安全管理規則)の認証取得や ISO(国
組みをいかに構築し、実施し、維持してい
際標準化機構)9
00
1認証登録を行っている
くかが今後の課題であると考えている。
一部の旅客船事業者については、既に、安
全管理体制を構築し、全社的なマネジメン
評価の現状と期待される効果
トシステムとして機能させ、事故などの再
平成18年10月から平成19年9月までの間
発防止および予防に努め、マネジメントシ
に、国土交通省大臣官房運輸安全監理官付
ステムの意義や手法を理解している事業者
運輸安全調査官(以下「運輸安全調査官」
が見受けられた。
という。)が「運輸安全マネジメント評価」
なお、運輸安全マネジメント評価の際、
を実施した事業者は鉄道事業者31社、航空
海事分野の多くの事業者において、共通し
事業者14社、バス事業者25社、タクシー事
て確認した評価し得る点は、次のような事
業者8社、トラック事業者16社、海運事業
項である。
者49社の計143社である。
!経営トップのコミットメント
"内部コミュニケーションの充実
50
海と安全 2
0
0
7・冬号
これまで運輸安全調査官が評価を実施し
た事業者では、全般的にみて安全管理規程
安全最優先の認識、安全管理体
制への理解
#現場と経営幹部の安全意識の共
有、コミュニケーションの強化
$ヒヤリハット情報・他社の事故
例などを活用したリスク管理に
よる事故の再発防止、未然防止
%内部監査、見直しによる自社安
全管理体制の改善
まとめ
事業者における輸送の安全の確
「運輸安全マネジメント評価」の実施風景
保の取り組みを活性化させ、より
に基づく基本的な安全管理のための体制や、
効果的なものとするためには、経営トップ
関連規程類の整備などの枠組みについては
の主導の下で、全社一丸となった PDCA
概ね構築されていたが、本制度が開始され
サイクルをベースとした安全管理体制の構
たばかりということもあり、その取組み内
築が必要であり、また、その際には、過剰
容については未だ十分でない部分も見受け
な文書・記録作成を排除し、事業者の事業
られ、また、事業者間或いは陸・海・空の
形態および事業規模に相応しい取り組みを
モード間による程度の差があることも確認
行えるような体制とすることが必要である。
している。その詳細は、紙面の都合により
一方、国の取り組みについても、やはり
割愛するが、
国土交通省のホームページ
(運
事業者の皆様と同様に PDCA サイクルを
輸安全):
適切に機能させるうえで、計画を策定し、
http//www.mlit.go.jp/unyuanzen/index.
実行し、その実施結果・内容を不断に見直
html をご覧頂きたい。
し、国に蓄積されるモード横断的な知見を
また、運輸安全マネジメントの効果につ
ベースに、参考となる他の事業者の事例も
いて、この新制度は「魔法の杖」ではない
交えて、さらに効果的で事業者の皆様との
ので、事業者において忽ち事故・トラブル
信頼関係が構築される調査体制、チェック
が「0」になるものではなく、定量的に効
体制を確立したいと考えている。
果を量ることも困難であるが、評価事業者
最後に、本稿の読者の皆様には、安全マ
から寄せられた意見などから次に掲げる効
ネジメントシステムを導入した安全確保の
果が期待できると考えている。
ための不断の取組みにより、一層の安全運
!経営トップの安全管理におけるリーダー
航が達成されることを祈念するものである。
シップの発揮、安全最優先の再認識
"経営幹部(経営管理部門)の法令遵守・
海と安全 2
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0
7・冬号
51
では欧州全域に広がろうとしています。
海保だより
海上保安庁
e―Navigation の提案
交通部
AIS 搭 載 船 の 増 加 と AIS 陸 上 ネ ッ ト
次世代型航行支援システムの
構築にむけて
AIS の導入と効果
AIS(船舶自動識別装置)の導入により、
ワークの整備が各国で進む中、2006年5月
に開催された IMO 第8
1回海上安全委員会
(MSC)で、英国を主体とする我国を含
む7カ国が、e―Navigation※戦略の共同提
案をしました。その趣旨は、最新の電子航
行技術や通信サービスと既存の技術を融合
行き交う船舶の速度、船名、目的地などが
し、全ての船舶が利用しうる正確で確実な
識別できるようになり、特に AIS 情報の
システムの構築と導入を目指すものです。
表示が可能な ECDIS やレーダーでは、操
こ の 提 案 を 受 け た IMO は NAV52に お
船判断に有用な情報として活用が可能とな
いて、e―Navigation 戦略策定 対 応 の コ レ
りました。AIS 通信は、沿岸部において
スポンデンス・グループ(CG)を設置、
AIS 基地局で制御されると共に、沿岸国主
国際航路標識協会(IALA)に対し e―Navi-
官庁のネットワークを介して通航船舶の動
gation の定義を含め、技術要件などの検
静把握、情報提供等に利用されています。
討を要請しています。
一方国内においては、ヒューマンエラー
に起因する海難防止に資する航行支援シス
テムの導入を e―Navigation 戦略の一つの
柱として位置づけるべく、!日本船舶技術
研究協会「航海支援に係る基準に関する調
査研究プロジェクト」において、統合化航
海システム(INS)や海難分析と支援情報
などについて研究が進められ、対応策につ
図1 バルト海を中心とした AIS 搭載船の状況
欧州、特にバルト海沿岸国では、海難と
これに起因する海洋汚染防止のため、条約
に基づく HELCOM(バルト海洋環境保護
委員会)が構築されており、HELCOM で
は関係各国の協力の基、国を超えた AIS
データの有効活用により、通航船舶の安全
いて先の CG に提案し IMO の戦略策定に
貢献しています。
※e-Navigation:海上安全(海難の防止)及びセキュリティの
確保、環境保護と効率的な船舶運航の実現のため、最新の情
報通信・電子技術の活用と既存の設備等を統合した「総合的
な航海支援システム」の総称
海上保安庁交通部の取り組み
と海洋環境の保全、サービス向上を目指す
交通部では、
「2007年春号」でご案内し
整備が AIS の導入と共に開始され、最近
たとおり、ふくそう海域等における航行管
52
海と安全 2
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7・冬号
制と情報提供を実施している海上交通セン
評価を受けています。
ターに AIS の導入を完了し、e―Navigation
このような評価結果や AIS に関する委
のツールの一つとして期待される AIS 基
員 会 成 果 は、逐 次 国 際 航 路 標 識 協 会 e―
地局を整備し、船舶の安全運航に必要な情
NAV 委員会などで発表しています。
報提供を開始しています。
2007年10月にノルウェーで開催された第
この AIS には、先に紹介した基本機能
3回 e−NAV 委員会では、ECDIS の搭載
の他に、船舶間 AIS 通信をできるだけ妨
が困難な小型船舶において、簡易電子海図
げないような効率的な伝送方法により、情
上にこれら一連の AIS 情報、航路標識情
報伝送が可能なバイナリーメッセージ(図
報、気象海象等のバイナリーメッセージ情
2)や、AIS 航路標識の機能が含まれてお
報を表示させようとする電子航法支援シス
り、実用化が期待されています。
テム(ENSS)のコンセプト(図3)につ
いて、石廊崎沖合の実験成果を踏まえ提案
しています。安価な表示装置とチャートシ
ステムにより、正確な自船位置の確認と、
航行に必要な各種情報が表示されることに
より、船舶の安全航行(海難防止)に有効
であると考えられており、交通部の提案を
受けた IALA の作業部会において討議が
開始されています。
図2バイナリーメッセージにより気象情報を伝送した表示例、四
角内は拡大
交通部は、日本財団の助成により AIS
の高度利用に関する委員会を開催し、利用
者ニーズや運用要件などの研究を進めてき
た日本航路標識協会と連携し、昨年1
1月石
廊崎沖合海域において、バイナリーメッ
セージ及び AIS 仮想航路標識等の実海域
通信試験を実施しました。AIS の各種情報
は、石廊埼灯台に設置された AIS 実験局
より送信され、航路標識測定船つしまに設
図3電子航行支援システム(ENSS)のサンプル例。自船の位置
が簡易電子海図上で容易に把握でき、陸上からの航法支援や情報
を表示することにより、安全航行(海難防止)を目指す。
置した AIS 装置で受信し、ブリッジに設
な お、e―Navigation の 将 来 構 想 に は、
置したノート PC において各種情報の試験
技術優先ではなく、利用者ニーズを最優先
表示を行いました。これら一連の実験結果
するよう IMO で要請されており、安全で
とノート PC に表示された情報は、臨時乗
安心できる航行環境の実現のために幅広く
船した海事関係者により、航海者の目線で
関係者の協力と連携が求められています。
必要項目の確認をうけ、実用に値するとの
海と安全 2
0
0
7・冬号
53
近年の台風について
!日本気象協会
はじめに
気象予報士
とみざわ
まさる
富沢
勝
図−2 2
0
0
7年台風第4号 衛星写真
7月1
4日 正午(上陸2時間前)
読者の皆さん、近年台風のシーズンが早
まっている、勢力の強いまま台風が接近、
上陸していると感じてはいませんか。今回
は近年の台風の特徴、今年の台風のうち7
月としては史上最大級となった4号台風の
事例について検証します。
図−1
2
0
0
7年台風4号経路図
提供:(財)日本気象協会
すと、中心付近に強い勢力を示す台風の小
さな眼、ピンホールがはっきりしています。
上陸後は勢力を弱めながら、15日にかけて
四国から本州の南岸を東に進み、17日09時
には日本の東海上で温帯低気圧に変わりま
した。
提供:(財)日本気象協会
7月としては史上最大級と
いわれる0
7年台風第4号
平成1
9年7月9日0
3時にカロリン諸島近
一方、九州付近では、台風発生前の7月
5日から梅雨前線の活動が活発となり、6
日から7日には九州地方の広い範囲と四国
地方の一部で大雨、10日から12日には九州、
近畿、東海地方の一部で大雨となりました。
海で発生した台風第4号は、フィリピンの
台風が沖縄地方を通過した13日には、本
東海上を北西に進みながら非常に強い勢力
州上に停滞する梅雨前線に向かって台風か
に発達し、1
3日には沖縄本島の西海上を北
ら暖かく湿った空気が流入し、西日本の太
上しました。1
4日には勢力を維持したまま
平洋側を中心に大雨となりました。14日か
九州に接近し、同1
4時頃に鹿児島県大隅半
ら16日は台風の通過に伴い西日本から東北
島に上陸しました。図−2の気象衛星「ひ
南部の太平洋側の広い範囲で大雨となりま
まわり」の上陸2時間前の雲の様子を見ま
した。また16日から17日にかけて、近畿地
54
海と安全 2
0
0
7・冬号
方で局地的な大雨がありました。
ったのです。台風が九州地方に接近・上陸
台風が通過した沖縄地方、西日本の太平
した14日には、九州の南海上から四国沖に
洋側と伊豆諸島では暴風となり、1
3日に那
かけて有義波高10m を超える猛烈なしけ
覇市樋川では、最大瞬間風速5
6.
3m/s、名
となりました。台風が本州南岸を東に進ん
護市宮里では最大瞬間風速50.
9m/s を観
だ15日には、近畿南部から関東地方の南海
測し、共に7月の歴代1位を更新しました。
上で有義波高6m を超える大しけとなり、
き
ん
また1
3日には沖縄県金武町金武で最大風速
16日には関東から東北地方の太平洋側で台
あぶらつ
33m/s、1
4日には宮崎県日南市油津で最大
風からのうねりが残り、有義波高4m を
瞬間風速55.
9m/s など観測史上1位 を 更
超えるしけが続いたのです。
新したところがありました。
5日から1
7日までの総雨量は、南西諸島、
7月13日朝のうちから15日夕方にかけて、
沖縄地方と九州から関東地方の太平洋側沿
九州、四国、東海、関東地方の各地で7月
岸では、最大潮位偏差が50㎝以上となりま
の月間平均雨量の2倍を超え、宮崎県宮崎
した。沖縄県中城湾港では13日昼前に最大
わにつかやま
市鰐塚山で9
1
1mm が観測されるなど各地
潮位偏差が1
37㎝、同日明け方には最高潮
で記録的な大雨となったのです。
88㎝、また、和歌山県御坊では
位*TP 上1
この大雨により、南西諸島、西日本、東
15日午前3時頃までに潮位偏差が142㎝、
日本および東北南部では土砂災害や浸水害
同日明け方には最高潮位 TP 上186㎝など
が発生しました。また、大雨により増水し
となったのです。
た河川に転落するなどして、死者・行方不
*TP:東京湾平均海面(標高・海抜の基準)
明者は西日本を中心に6名となりました。
台風第4号は、最盛期の気圧が93
0hPa、
表−1 台風の上陸数 統計期間 2
0
0
0∼2
0
0
6年9月まで
気象庁 HP より
最大風速5
0m/s、最大瞬間風速7
0m/s で、
15m/s 以上の強風域は東側7
0
0km 西側5
40
km と大型で非常に強い勢力でした。大隅
半島上陸時の中心気圧は94
5hPa で、7月
に上陸した台風の中では「最強の勢力」と
なりました。
波浪の状況
上記の表−1
から、2001∼2006年まで
6年間で7月までに上陸する台風が延べ7
個もありました。年平均で約1.
2個。今年
台風が接近した南西諸島では、7月1
2日
2007年も、7月としては最強の第4号台風
から有義波高4m を超えるしけとなりま
が上陸して被害を出しましたし、8月と9
した。1
3日には台風が沖縄本島の西海上を
月 に も 各1個 の 合 計3個 が(10月12日 現
北上し、台風中心付近では有義波高12m
在)上陸と平年並みの数が上陸しています。
を超える猛烈なしけとなり、西日本の太平
表−2から、1月から7月までの上陸数が
洋側でも有義波高4m を超えるしけとな
平年で0.
7個(6月0.
2個 と7月0.
5個 の 合
海と安全 2
0
0
7・冬号
55
表−2 台風の上陸数平年値 統計期間1
9
7
1∼2
0
0
0年まで
気象庁 HP より
本州、四国、九州のすぐ南海上あたりまで、
その高水温域が広がっています。こうした
ことを要因として、台風が衰えずに、強い
勢力を保っているのではということが考え
られます。これらは今後、更に検証、研究
計)ですから約0.
5個も多いという結果で
しなければならないと考えています。
した。表−1から7月までの内に上陸する
教科書どおりにいかない台風といいます
台風の数が多くなる傾向が出ていてどうも
か、これまでの経験したものと違う気象現
台風シーズンの到来が早まっているのでは
象や雨の降り方等々が目立っています。こ
という感じです。
れまで1年を通じて最も気圧が低い示度で
したがって、台風シーズンの始まりは5
本土に上陸した台風のランキングを調べて
∼6月、最も多い上陸数、発生数は8月と
みましたら、今年2007年の4号台風は、上
いえそうです。
陸時(直前)の中心気圧が低い台風のラン
近年台風が強い勢力を保ったまま日本近
キングの第1
0位タイとなります。
(ランキ
海にまで北上し、そのまま上陸するという
ング上位はそのほとんどが9月)7月に上
ような状況があります。いわゆる地球温暖
陸した台風としては、初のランク入りとい
化との関連で、海水温の高い地域が沖縄近
うことになったのです。
海の緯度にとどまらず、北緯3
0度線近辺、
日本海難防止協会のうごき
(平成1
9年8月∼平成1
9年1
0月)
月 日
9.3
会 議 名
主 な 議 題
東京西航路に係る船舶航行安全対策検
①調査計画の検討 ②東京港の航行環境(現状および将来計画) ③東京西航
討調査委員会
路の超大型船入出港時の航行安全対策 ④航路管制手法の見直し ⑤操船シ
ミュレータ実験による検討
9.27
9.27
9.28
海事の国際的動向に関する調査研究委
①前回議事概要の承認
員会(海洋汚染防止関係)
②MEPC56の結果
海事の国際的動向に関する調査研究委
①前回議事概要の承認 ②NAV53の審議結果報告 ③LRIT中間WGの結果報
員会(海上安全)
告 ④MSC83の対処方針の検討
東京国際空港再拡張に係る船舶航行安
①本年度調査計画の検討 ②船舶航行および錨地利用実態調査の実施 ③制
全対策調査検討会
限表面に係る安全対策 ④航空機騒音等に関する安全対策 ⑤D滑走路周辺
の空港セキュリティー
10.2
港内航行安全システム等の見直しに関
①検討対象港の航行環境の現状および港内交通管理等の現状と問題点 ②航
する調査委員会(第2回)
路管制基準の見直しおよびAISを活用した航路管制手法の検討 ③操船シミ
ュレータ実験実施方案の検討 ④沿岸域における海難防止策等の検討
10.30
56
仙台塩釜港塩釜港区外港航路船舶航行
①事業計画案 ②仙台塩釜港塩釜港区および周辺海域の現況 ③航路整備事
安全委員会
業の概要 ④船舶航行の安全性の検討 ⑤航路計画法線の設定
海と安全 2
0
0
7・冬号
りかねません。
海守便り
皆様の記憶にあると思いますが、93年の
逃げるが勝ち?
(海守事務局)
北海道南西沖地震では奥尻島等で1
98人、
83年の日本海中部地震では秋田県で1
00人
もの人が津波で亡くなっているのです。
津波から身を守る
津波は沖合いではジェット機並み、沿岸
部でも新幹線並みのスピードで襲ってきま
平成1
6年1
2月23日に発生した中越地震か
す。海岸で津波が見えてから、あわてて逃
らまもなく3年になろうとしています。そ
げようとしても逃げ切ることはできないの
して今年の7月1
6日に、またもや新潟県で
です。
中越沖地震が起きました。被災地の中には、
海守事務局は、津波から身を守るため、
3年前の地震の教訓が全く生かされていな
『海辺で地震に遭ったら』という表題で、
かった所があると報道されていました。
「!震度4以上の揺れ、弱くても長い揺れ
場所は変わりますが、杜の都仙台市があ
があったら直ぐに高台に避難する。"地震
る宮城県では、3
0年以内に9
9%の確立で地
を感じなくても、津波警報や注意報が出た
震が起き、その地震に伴い津波が発生する
ら直ぐに高台に避難する。#警報や注意報
と言われています。第二管区海上保安本部
が解除されるまでは避難を続ける。$避難
では、ハザードマップを作成するなど地震
をするときには、川沿いを避ける。%引潮
や津波に備えた準備が行われています。ま
でもないのに急激に水が引く現象は津波の
た、宮城県内の自治体は住民に対しあらゆ
前兆。ただし水の引かない津波もある。
」
る機会をとおして地震や津波に対する周
など津波に対する注意事項を会員の皆様に
知・啓蒙活動を行っているそうです。
ブログで紹介しています。スマトラ沖では
さて、テレビの映像で押し寄せた濁流が、
今年も、9月12日に M8.
4、翌1
3日には M
家、車、人などあらゆる物を飲み込み2万
7.
9の地震があり、いずれも津波警報が発
2千人もの犠牲者が出したあのスマトラ沖
せられました。住民は3年前の津波の教訓
の地震による大津波についてご記憶の方も
を活かし、高台に避難することにより、津
多いと思います。あれからもう3年が経と
波による犠牲者はありませんでした。生き
うとしています。地震大国に暮らす私たち
るためには高台に逃げるか、船であれば水
にとって、決して対岸の火事ではなく、津
深200m 程度の海域まで逃げるしか助かる
波から身を守るための教訓としなければな
方法はありません。
りません。大津波は、地震に比べて発生頻
海守事務局
度が少ないために、ついつい無関心になり
TEL 03―3500―5707
がちですが、一度発生すれば多くの人々の、
FAX 03―3500―5708
生活そのものに甚大な被害をもたらすばか
URL
りか尊い生命まで奪ってしまうことにもな
E―mail : info@umimori.jp
http : //www.
umimori.jp/pc/
海と安全 2
0
0
7・冬号
57
ネスプラン立案を難しくしている根源であ
MSC83における LRIT の議論
ロンドン連絡事務所
る。課金問題に一番敏感なのは便宜置籍船
を多く抱えるリベリア、パナマなどであり、
自国には何のメリットもないシステムに金
背景
LRIT の議論は、議会対応で後がない米
を払うことは考えられないとしている。
議論の結果と今後
国と米国に情報を握らせたくない中国、イ
全体会議の冒頭、イランが LRIT 実施時
ランなどの国々、金を払いたくない便宜置
期の延長を提案し中国が賛同するも、大勢
籍 船 の 旗 国 と LRIT(船 舶 長 距 離 識 別 追
はスケジュール通りに実施すべきとの建前
跡)で金儲けしたい通信関係事業者などの
に終始、提案は受け入れられなかった。
思惑が絡み合い、改正 SOLAS 条約採択前
LRIT システムの根幹をなす情報交換装
から、互いに鎬を削ってきた歴史がある。
置(IDE)と、複数国のデーターを管理す
IMO と し て は、既 に LRIT 関 連 の SO-
る国際データーセンター(IDC)について
LAS 改正条約は20
09年1月の発効を待つ
は、当初、有力視されていた通信関係事業
のみとなった今、今回の MSC83こそが、
者によるプロポーザルが、金を払いたくな
各国に対し費用問題などに係るある種政治
い国々にとって魅力はなく受け入れられな
的決断を求め、LRIT 実施に向けた作業を
かった。
一気に加速させる最後のチャンスであった。
議論のポイント
結局 MSC83は、米国が暫定的に無料で
提供する IDE を選択し、IDC については
現時点で必要とする国はないとされた。
LRIT システム構築における議論の要点
この結果、IMO、米国としてはスケジ
は「誰が何にお金を払うのか」に尽きる。
ュール通り LRIT が実施される目処が立っ
現在のシステム構想では、旗国が自国籍
たことで面目が保たれる一方、LRIT 実施
船の船位情報を定期的に収集・管理する一
に熱心でない国にとっては、身銭を切るこ
方、船位情報を必要とする締約国は、情報
となく当面様子見ができるということで、
交換装置(IDE)を通じて当該旗国のデー
落ち着く場所に落ち着いた感がある。
ターセンターにアクセスして船位情報を入
しかし、米に対する LRIT 情報を巡る不
手し、その情報料を支払うもので、原則と
信感は依然くすぶっており、継続的なシス
して船舶側に課金しないこととなっている。
テム運用に不可欠な課金問題も解決されて
旗国としての一番の悩みは、買い手未定
いない現状にあって、LRIT システムの要
の船位情報の収集・管理に要する費用を、
となる IDE を握った米国がスケジュール
どのようにすれば回収できるかということ
を見据えた追い込みをかける中、各国はど
である。これは船位情報のニーズに見通し
う対応していくのか注視していきたい。
が立っていないことに帰するもので、ビジ
58
海と安全 2
0
0
7・冬号
(所長
若林
邦芳)
船舶海難の発生状況(速報値)
(平成1
9年7∼9月)
海難種類
衝
乗
転
火
爆
浸
機
推
進
器
障
害
関
故
用途
突
貨物船
揚
覆
災
発
水
障
舵
障
害
行
運
安
方
航
全
不
阻
阻
明
害
害
(単位:隻・人)
そ
他
計
11
0
0
0
4
8
0
2
0
1
0
0
68
2
13
9
0
0
0
1
2
0
0
0
0
0
0
25
0
7
3
0
2
0
2
0
0
0
0
0
1
1
16
0
63
45
20
4
0
15
76
29
4
1
56
8
21
342
8
17
7
2
1
0
2
2
3
1
0
4
0
6
45
0
漁 船
84
15
17
14
0
9
8
6
2
0
21
3
5
184
7
遊漁船
16
2
1
0
0
2
2
4
1
0
2
0
1
31
1
計
242
92
40
21
0
35
98
42
10
1
84
12
34
711
18
その他
主な海難(平成19年7∼9月発生の主要海難)
船種
漁 船
船名等
総トン数
(人員)
ALPHA
77211トン
ACTION
(乗員23人)
発生日時および発生場所
海上保安庁提供
海難
7月27日01:54頃
貨物船
WAN HAI
25836トン
307
(乗員21人)
東京都大島町沖
気象・海象
種別
(ギリシア)
①
行
方 死
不 亡
明 ・
の
42
一 タンカー
般 旅客船
船
舶 プレジャーボート
No.
合
死 亡
行方不明
天気 曇り
衝突
波浪 1m
なし
視程 良好
(シンガポ
ール)
VHF16chにてA号から他船と衝突した旨通報があったもの。
A号は名古屋からチリ向け、
W号は横浜から香港向け航行中、A号の船首部とW号の船尾部が衝突したもの。W
号は左舷船尾部にほぼ直角にA号の船首部が突き刺さった状態で漂泊した。A号はフォアピークタンクに損傷を
生じ浸水、W号は左舷船尾部に損傷、機関室に浸水し、右舷側に傾斜、自力航行不能。
両船とも怪我人なし。
第三十六
②
漁 船
漁勢丸
(日本)
9.7トン
8月22日 02:40頃
(乗員4人) 北海道厚岸町沖
天気 曇り
転覆
波浪 2m
視程約10km
行方不明
2名
操業中、海上荒天となったことから操業を止め、厚岸向け帰港中、大波を受け、転覆したもの。乗組員2名
は僚船により救助されたものの、他の2名は行方不明となった。
遊漁船
③
第二菊丸
5.7トン
(日本)
(乗員9人)
9月18日 09:15頃
漁船
第二十一
19トン
睦丸
(乗員5人)
北海道知床半島沖
天気 曇り
衝突
波浪 なし
視程 良好
行方不明
1名
(日本)
操業を終え帰港中の睦丸と遊漁のため錨泊中の菊丸が衝突し、菊丸の船体が沈没、菊丸の乗船者全員が海に
投げ出されたもの。
睦丸及び僚船が海中転落者8名を救助したが、他の1名が行方不明となったもの。
海と安全 2
0
0
7・冬号
59
☆今 号 で は、1度 に1,
0
0
0
の会社も、どの船も安全に対する意識は、非常に
人もの旅客と大量のトラッ
高く「安全あっての旅客事業」という意識の強さ
クや乗用車を運ぶ大型フェ
を率直に感じました。社会的に安全への認識が急
リーや時速8
3km のスピードで航行する超高速旅
速に高まるなかで、多くの人命と財産を預かる海
客船など、日本国内で活躍するフェリー・旅客船
上旅客運送事業者は、
「安全は旅客への最大のサー
の安全対策をテーマとして取り上げました。
ビス」を合言葉に、懸命に努力を重ねています。
大型船を高速で走るフェリー業界は燃料油の価
格は経営の根幹を左右するとまで言われています。
取材を通じ安全運航に徹する担当者や現場の乗組
員の姿が印象に残りました。
1
9
7
3年の第1次、1
9
7
9年の第2次オイルショック
また、フェリー・旅客船の船上では、インター
では、多くのフェリー会社が倒産・廃業に追い込
ネットを活用したエンジンのメンテナンス情報の
まれたと聞いています。
交換や安全航海に必要な狭水道における船舶の輻
近年の燃料油の高騰は、フェリー・旅客船事業
輳状況の把握など、航行に関する情報収集に大き
者を窮地に追い込んでいます。離島航路では、公
な進歩が見受けられました。今後さらに整備・充
共事業の減少に少子高齢化の進捗に過疎化が追い
実していくことが期待されます。
討ちをかけ輸送需要は大きく落ち込んでいるそう
です。旅客船のメッカといわれた瀬戸内の各航路
☆今回、とくに気になったことは、海中や海面に
は架橋の通行料金の ETC 割引制度の導入や高速
浮遊するナイロン製のロープや袋などゴミの問題
道路などを利用した陸上輸送との熾烈な競争にさ
です。
らされていました。各社とも各船の運航コストも
以前、高速旅客船では、魚網の切れ端などがプ
安全運航を確保できるぎりぎりまで切り下げざる
ロペラに絡まるなどの事故がよく発生したそうで
を得ないのが現実のようです。
す。最近の高速旅客船は、大型のポンプで大量の
海水を吸い込み噴射することで推力を得るウォー
☆一方、陸上の輸送機関においては、鉄道やトラ
ックで悲惨な重大事故が相次いで発生しています。
タージェットと呼ばれる推進器が主流だそうです。
浮遊ゴミはこうした高速旅客船の運航トラブル
航空分野でも国内航空会社の相次ぐ運航上のトラ
の大きな要因となってしまうのです。ゴミの問題
ブル発生や本年8月2
0日には那覇空港でチャイナ
は環境問題として位置づけられがちですが、旅客
エアラインの航空機が到着後に炎上するなど1つ
船の航行安全にもかかわる重大な問題なのです。
間違えば多くの人命を失いかねないような重大事
故が起きています。
☆さて、このコーナーでは、
「読者からの声」を
紹介しています。読者のみなさんからの叱咤激励
☆平成1
8年1
0月、国土交通省は、陸海空の輸送に
を糧として、よりよい情報誌にしていきたいと考
かかわる事業者に安全管理規程を導入するととも
えています。ご意見・要望など、お待ちしていま
に運輸安全マネジメント体制の構築を義務付けま
す。
した。
国内のフェリー・旅客船各社には、昭和4
5年に
事業法である海上運送法が改正され、運航管理規
程や運航管理者制度が導入されました。そのきっ
かけは、前年に起きたフェリーに乗っていた自動
車が下船時に海中転落したことだそうです。
それ以降、フェリー・旅客船は4
0年近くの安全
管理体制の歴史を積み重ねてきたわけです。
☆今回、6社8隻の現地取材を行いましたが、ど
60
海と安全 2
0
0
7・冬号
海と安全
No.
535(41巻、冬号)
発 行 平成1
9年1
1月2
5日
発行所 社団法人 日本海難防止協会
〒1
0
5−0
0
0
1 東京都港区虎ノ門1−1
5−1
6
Tel 0
3
(3
5
0
2)
2
2
3
1 Fax 0
3
(3
5
8
1)
6
1
3
6
E-mail : jams2231@nikkaibo.or.jp
URL http : //www.nikkaibo.or.jp
印刷所 第一資料印刷㈱
正会員・賛助会員・協力会員の方には年4回、
発行の都度「海と安全」を送付しています。
海と安全
第41巻 冬号 ●昭和36年4月3日第3種郵便物認可 ●通巻535号 ●平成19年11月25日発行