皮膚幹細胞の特性を解析する

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DETECTION TECAN JOURNAL 1/2009
皮膚幹細胞の特性を解析する
スウェーデンのストックホルムに
あるカロリンスカ研究所のバイ
オサイエンスセンター
(Center
for Biosciences)では研究者ら
が Infinite 200マ イ ク ロ プ
レートリーダ ーとNanoQuant
PlateTM を利用して、新たに分離
されたマウス皮膚幹細胞集団の
特性を解析した。
スウェーデンのカロリンスカ研究所のバイオサ
データの有意性と信頼性はRNAの抽出量と
イエンスセンターでは、
これまでの仮説を覆す
分 解 度の双 方によって決まります。
これは
ような幾つかの興味深い特性を示す皮膚幹
RNAの開始濃度が極めて低いqPCRの場
細胞が最近分離された。
この研究はNature
合、
こうした変数に対する感度が特に高いた
Genetics 誌 *にて発表され、
これらの幹細胞
めです。
したがって、材料の損失を最小限に
(Lgr5+ 細胞)
が今まで報告された中で最も
原始的な幹細胞であり、活発に分化して卵胞
抑えて抽出サンプルの正確な定量化を行うこ
とが非常に重要になります。」
の発育時および退行時に皮膚組織を通って
移動することが報告された。
これらの細胞は特
従 来 の 吸 光 度 測 定 法を利 用した装 置で
性が明らかになっている
‘Hedgehog’
シグナ
RNAサンプルを解析する場合、複数の波長
ル伝達経路によって部分的に調節され、創傷
間で吸光度を比較する必要があるが、
ほとん
治癒プロセスや基底細胞癌(BCC)の発症
どのリーダーは少量の RNAサンプルでは信
に関連して特に注目される細胞である。BCC
頼性の高い吸光度の測定ができない。
これに
は皮膚癌の中で最も発生頻度が高い。
対して、
テカンの NanoQuant Plateを多 機
能の Infinite 200マイクロプレートリーダーと
これらの細胞はその希少性により遺伝子発現
併用すれば、十分な感度で少量の RNAの信
の特性解析が特に困難である。
カロリンスカ
頼性の高い純度測定が可能である。Kasper
研 究 所 の 環 境 毒 性グループに所 属する
博士はこう述べた。
「この装置を使用すれば、
Maria Kasper 博士はこう説明した。
「これら
わずかな材料のみで貴重なRNAサンプルの
の細胞は非常に希少ですので、私たちが手に
信頼性の高い解析ができますし、最初に検出
入れる実験材料は特に貴重です。10 万個の
した150ngの RNAを使用してqPCRにより
細 胞をソートして 検 出 できるのはわずか
30 個を超える特定の遺伝子について調べる
150ngの RNAです。
この 材 料は分 離 後、
ことが可能です。」
qPCRにより幹細胞調節に関与するシグナル
伝達経路の特定に使用されます。得られる
マウス毛包におけるLgr5 発現。免疫組織化学
染色で Lgr5(青色)発現細胞とCD34(茶色)
発現細胞の位置が示されている。
DETECTION TECAN JOURNAL 1/2009
NanoQuant Plateは16チャンネルの石英
光軸を用いたツールであり、低濃度および少
量のサンプルを測定することができるうえに、
迅速かつ簡便な洗浄操作によりコンタミネー
ションが防止される。NanoQuant Plateは優
れた性能で極めて再現性の高い測定ができ
るように設計されており、2μLの微量サンプル
で広範な用途に利用できる。
これをInfinite
200マイクロプレートリーダーと併用すれば、
わずか1ng/μLの 濃 度 の DNA/RNAの 吸
光度を正確に測定することが可能であり、貴
重なサンプルを節約することができる。
Maria Kasper、Takashi Shimokawa、Viljar Jaks
Kasper 博士の研究仲間であるViljar Jaks
膚の成長時にヒト瘢痕組織で形成されること
博 士 は こう 続 け た。
「こ の 研 究 所 に
はありません。
したがって、
ヒト毛包で同様の幹
NanoQuant Plateを導入したことはわれわれ
細胞集団を見つけることが次の重要なステッ
の研究に非常に役立っています。Infiniteマイ
プです。
これらの幹細胞集団がどのようにして
クロプレートリーダーと一体化されているおか
調節されているかが分かれば、増殖を誘導し
げ でとても 使 い や すく、
ソフトウェア の
て新たな毛包を作ることができるかもしれませ
i-controlTMも分かりやすく作られています。
わ
ん。」Kasper 博士はこう続けた。
「もう一つの
れわれの研究のスループットは本質的に高く
非常に興味深い応用分野は基底細胞癌の
はありませんが、16チャンネルプレートフォー
発症です。
これは最も発生頻度の高い皮膚
マットのおかげで実験セット全体の解析をまと
癌ですが、発生原因は未だに特定されていま
めて行うことができます。」
せん。BCCが卵胞表皮または毛包のいずれ
から発 生するかは依 然として不 明ですが、
「正確な定量を行うことで極めて精度の高い
RNA 濃度の正規化が可能になりますので、
Lgr5を毛包幹細胞のマーカーとして使用する
ことが BCCの発症について調査するうえで
その後にいろいろな方法で遺伝子発現の解
強力なツールとなる可能性があります。
これら
析を行うことができ、
それがこれらの幹細胞の
の細胞を制御する経路の制御が効かなくな
挙動に寄与する経路の特定に役立っていま
り、細胞増殖が持続的に活性化されて正常な
す。
これらの調節機構が解明されれば、
さまざ
分化プロセスが妨げられ、
そのために癌の発
まな組織増殖形態におけるケラチノサイト幹
生リスクが増大する可能性が考えられます。」
細胞の役割を理解するのに役立つと考えられ
ます。
その一例が創傷治癒プロセスです。毛
包は胚発生時に形成されますので、新たな皮
(*Nature Genetics 40, 1291 - 1299 (2008))
少量の RNAサンプルの解析が可能なInfinite 200と
NanoQuant Plate
■この記事は2009年1月発行 Tecan Journal 1/2009
に掲載されているユーザーストーリーを抜粋、翻訳し
たものです。ご質問、ご要望は下記までお願いします。
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