成長の芽を掴めるか 構造不況FPD市場の主役交代

Perspective
成長の芽を掴めるか
構造不況FPD市場の主役交代
代表 服部 毅(本誌編集顧問)
●深刻な構造不況のFPD業界にも成長の芽
ディスプレイ市場調査会社DisplaySearchによる
と、世界FPD市場(金額ベース)は、来年には飽和
してしまい、何らかのイノベーションがない限り
その後の成長は期待できない(図右)。とりわけ、
LCD-TV事業は歯止めのかからない価格低下による
深刻な構造的不況で、トップメーカーでさえ赤字
の状態にあり、LCDパネルメーカーともども双子
の赤字状態は解消しそうにない。「今年を境にLCDTVの主戦場が先進国から新興国に移るだけで、状
況は好転しないだろう。中国の本格参入で構造的
なLCDパネル供給過剰時代に突入する」と同社は
分析する。
価格低下の加速でLCD-TVの売上は今後減少傾向
であるのに対して、「iPhone」に代表されるスマー
トフォンと「iPad」のようなタブレットは、大躍進
するだろう(図右)。有機EL(OLED)-TVも、韓
国LG DisplayとSamsung Electronics(SEC)が大型パ
ネルの量産ラインを稼働させる2013∼2014年以降
立ち上がってくることが期待される。FPD業界では
この大型OLED-TVや4K2Kの超高精細TVなどのイ
ノベーションに期待を寄せているが、ユーザーが
付加価値を認めてくれるかどうかは未知数だ。ハ
ード先行だと、3D同様にコンテンツが整わず不発
に終わる可能性もある。
●韓国企業は周到な準備
世界最大規模を誇るSamsungグ
ループのFPD製造拠点“Samsung Display City”は、
韓国Seoulの南100kmの忠清南道牙山(Asan)市湯
井(Tangjeong)の小高い丘の上にある(図左)
。SEC
自体の大型LCDパネル製造工場、米Corningとの合
弁Samsung Corning Precision Materials(SCP)のガラ
ス基板製造工場、Samsung SDIとの合弁Samsung
Mobile Display(SMD)のOLEDパネル工場が群集
している。契約解消が噂されるソニーとの合弁SLCDの製造ラインは、SEC T7/T8棟の中にある。
今年5月に稼働し始めたSMDのA2ラインでは第
5.5世代OLEDパネルを月産2万4000枚規模で製造し
ているが、年末までには倍増するという。大型TV用
第8世代パネル試作(V1)ラインも来春には稼働予
定だ。量産ラインは隣接地に2013年後半にも稼働す
る。
ライバルLGも、京畿道坡州(Paju)市で現在大型
OLEDパネル試作ラインを建設中で、引き続き量産
ラインを2014年に稼働させる計画だ。両社ともロン
ドンオリンピックに合わせて大型(50型以上)
OLED-TVを発売するのが当面の目標のようだ。誰
も儲からないLCD-TVから上手く脱出できるかどう
か注目される。今や周回遅れのトップランナー、日
本勢に挽回の秘策はあるのだろうか。
▲
次期
建設予定地
■
ディスプレイ総計(右軸)
●
LCD-TV
スマートフォン
OLED-TV
タブレット
ノートPC/デスクトップモニタ
従来型携帯電話
SCP
SEC T8
SEC T7
社員住宅
モジュール
・Samsung Display City:韓国忠清南道牙山市湯井にある
Samsungグループの巨大ディスプレイ工場群
(手前右から)SECのモジュール、T7(湯井第7世代)/T8各LCD製造ライン
およびSCPのガラス基板製造工場
(奥)SMDのOLED工場(A2ライン(第5.5世代量産)およびV1ライン(第8世
代試作))
写真提供:DisplaySearch
ディスプレイ売上高(カテゴリー別)
(10億ドル)
SMD A2、V1
(10億ドル)
180
60
▲
▲
50
40
▲
▲
▲
150
▲
▲
▲
30
●
●
●
▲
●
120
90
●
●
20
60
●
10
●
0
●
■
■
■
■
■
■
■
■
30
ディスプレイ売上高(総計)
Hattori Consulting International
0
2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017
(年)
注:2011年以降は予測値
出所:DisplaySearch資料を基に著者作成
▲Samsung Display City全景(左)と世界ディスプレイ市場規模の推移(右)
Electronic Journal 2011年9月号
19
この記事に関するお問い合わせ、
月刊誌 Electronic Journal の定期購読に関するお問い合わせは
こちらまで