アパタイト型ランタンシリケートの溶射膜を用いた新しい固体酸化物形燃料

No.5
背
アパタイト型ランタンシリケートの溶射膜を用いた
新しい固体酸化物形燃料電池
景
固体酸化物形燃料電池(SOFC)はクリーンで高効率な分散電源として研究が進め
られています。当センターでは新規イオン伝導体(アパタイト型ランタンシリケー
ト)を用いた SOFC を開発しています。このたび、ランタンシリケートの溶射膜を
電解質とした電極支持型 SOFC の作製に成功しましたので報告します。
成
果
1)新たに開発した酸化ニッケル-ランタンシリケート複合負極を基板としてプラズ
マ溶射法で約 100 m のランタンシリケート膜を形成し、さらに正極材をスクリーン
印刷して SOFC を作製しました。
2)溶射膜は 1000°C での熱処理により完全に結晶化し、電解質(酸化物イオン伝導
体)として機能することがわかりました。
3)発電出力は運転温度 800°C で 150 mW cm−2 と実用化可能なレベルです。また
600°C 付近の中温域での出力が比較的高いことも特徴です。
0.8
U/V
800°C
100
0.6
0.4
50
0.2
600°C
700°C
0
0
ランタンシリケート溶射膜を用いた
SOFC の断面 SEM 像
100
P / mW cm-2
150
1
200
300
I / mA cm-2
400
0
500
ランタンシリケート溶射膜を用いた
SOFC の発電特性
研究者からのコメント
焼成温度が高く焼結体の作製が困難なランタンシリケートを緻密な溶射膜として利
用する点がポイントです。薄膜のため出力が向上します。また溶射法なので大面積化
も可能です。製品化を目指した共同研究を企業と進めています。
応用分野:クリーンで高効率な固体酸化物形燃料電池
研究体制:H20-H22 文部科学省 科学研究費補助金事業 基盤研究 C
担当部所:環境・バイオ部
担当者 :吉岡秀樹
特許取得・成果発表:特許出願中、H.Yoshioka et al., Solid State Ionics, 181, 1707 (2010)
キーワード:固体酸化物形燃料電池、アパタイト型イオン伝導体、プラズマ溶射
(参考)ポスター展示内容
アパタイト型ランタンシリケートの溶射膜を用いた新しい固体酸化物形燃料電池
環境・バイオ部 吉岡秀樹
アパタイト型イオン伝導体
ドーピングによるイオン伝導性の向上
Apatite-type ionic conductors
Conductivity enhancement by Mg doping
0
1995年に新居浜高専の中山らによって発見された新しいタイプの
イオン伝導体。アパタイト型構造のランタンシリケート。
La10Si6O27 (Nakayama)
La9.33Si6O26
La9.67Si6O26.5
アパタイト型イオン伝導体は希少
金属を含まず、500~ 800℃で高
い伝導性を示すため、中温型燃
料電池(SOFC)用電解質の有力
候補と考えられている。
20
40
Conductivity at 800ºC
100
17
La組成による過剰酸
化物イオンの増加
7.1
MgドーピングとLa
組成の最適化によ
り高伝導組成を見
出した。
32
18
La9.53Si5.7Mg0.3O26
ユニークな格子間伝導機構もアパ
タイト型イオン伝導体の大きな特
徴である。
80
0.59
La10Si6O27
La9.73Si4.8Al1.2O26
60
Si席へのAlまたはMg
ドーピング
44
La10Si5.8Mg0.2O26.8
88
La9.8Si5.7Mg0.3O26.4
過剰酸化物イオンと
Si席へのドーピング
74
MDLS: Mg Doped Lanthanum Silicate
薄膜を利用した燃料電池
作製手順
Anode supported SOFC
正極
電解質
(焼結体)
従来の方法
O2
薄膜法
O2
正極
電解質
(薄膜)
負極
(基板)
e-
O2-
負極
H2
Fabrication process
アパタイト型イオン伝導体薄膜
MDLS
S powder
Cathode
paste
C
O2
eLSCF
MDLS
LSCF
MDLS
NiO+MDLS
Ni+MDLS
MDLS
NiO+MDLS
NiO+MDLS
anode substrate
plasma spraying
H2
薄膜化によるイオン伝導性の向上
薄膜化による強度不足の解決
cathode painting
H2
SOFC test apparatus
プラズマ溶射
電子顕微鏡観察
X線回折
Plasma spraying
SEM observation
X-ray diffraction
アノード
3000
原料粉末: La9.8(Si5.7Mg0.3)O26.4
アルゴン
パウレックス(株)製
アパタイト単相、粒度10~45m
A
A
1000
A
A A
A
A
AA
A A AA
A A
アパタイト単相
イオン伝導体
NiO
200
111
Inttensity
0
15000
102
B
5000
004
ノズル
002
10000
カソード
112
0
原料粉末
成膜条件
プラズマガス:アルゴン、水素
プラズマ出力:10 ~ 35 kW
膜厚:50 ~ 100m
アモルファス+アパタイト
絶縁体
AA
2000
水素
電解質膜
A
A
C
負極支持基板
A
溶射粒子
NiO
10000
A
5000
A
A
A
A
A A
A
0
15000
A
NiO+アパタイト
緻密
A A
A A A
D
10000
Ni
溶射膜
A
A
Ni
直流プラズマ溶射装置
姫路メタリコン(株)
緻密な電解質膜を多孔質の
電極で挟んだ構造
A
基板
5000
0
20
40
50
発電特性
交流インピーダンス測定
まとめ
AC impedance measurements
Conclusions
100 m
1)新たに開発した酸化ニッケル-ランタンシリケート複合負
極を基板としてプラズマ溶射法で約100 mのランタンシリ
ケ ー ト 膜 を 形 成 し 、 さ ら に 正 極材 を ス ク リ ー ン印 刷 し て
SOFCを作製した。
140
4
0.6
80
0.4
60
40
700°C
0.2
200
300
-2
I / mA cm
R1
2
R1+R2
2)溶射膜は1000℃での熱処理により完全に結晶化し、電解質
(酸化物イオン伝導体)として機能した。
0
600°C
800°C
-2
700°C
20
600°C
100
-Z'' / 
100
P / mW cm
U/V
800°C
-2
120
0.8
0
0
2 /°
Fuel cell properties
6
1
30
400
■開回路電圧: 0.87 V
■最高出力電圧 :
146, 78, 41 mW cm−2
(800, 700, 600ºC)
0
500
Ni +アパタイト
多孔質
-4
0
5
10
Z' / 
15
■オーミック抵抗: 4.8, 6.6, 9.9 
■分極抵抗:
0.1, 1.2, 4.5 
(800, 700, 600ºC)
3)発電出力は運転温度800℃で146 mW cm−2と実用化可能な
レベルであった。また600℃付近の中温域での出力が高いこ
とも示された。
謝辞
溶射膜の作製に関して姫路メタリコン株式会社清水達郎社長、橘
田宗明氏、池田誠氏にご協力をいただきました。また、発電特性の
評価については、兵庫県立大学嶺重温准教授、三井隆義氏、三枝
弘幸氏にご協力をいただきました。深く感謝をいたします。
本研究は文部科学省科研費基盤研究C(20560638)により実施しま
した。