カナダ初の酒米の栽培に取り組む酒蔵 - Artisan SakeMaker

バンクーバー新報 11 月 1 日号掲載、 Vancouver Shinpo Japanse Weekly Newspaper
アボッツフォードに広がる水田
カナダ初の酒米の栽培に取り組む酒蔵
Artisan Sake Maker
アボッツフォードに広がる2エーカーの水田は白木
さんとArtisan Sake Maker従業員の努力の結晶だ。
バンクーバーから車で1時間。北緯49度のアボッツフォードで、
世界最北の酒米栽培に取り組む人たちがいる。
グランビルアイランドで酒蔵 Artisan Sake Maker を営む白木正孝さんと従業員たちだ。9月末、黄金色の稲
穂が揺れる水田を訪ねた。
BC州で米作りから酒造りまで∼ Artisan Sake
Maker の挑戦
2007 年にカナダ初の酒造所 Artisan Sake Maker
Artisan Sake Maker
を経営する白木正
孝さん。
脱穀作業を
する小田英
司さん(左
木さん(写
)と白
真提供 Art
isan Sake
Maker)
あるために気温が高いこと。また、近くに農家が多い 今年収穫した酒米で、約 1500 リットルの原酒がで
ため、農業機械が故障した時などには修理しやすい きる予定だ。これは Artisan Sake Maker が 1 年に
をグランビルアイランドにオープンし、カナダでの酒
環境も整っている。酒造所のあるバンクーバーから距 生産する原酒の約 2 0 %。今後は作付面積と収穫量を
増やし、原料を全て地域で調達することを目指すそう
離的に近いことも大きな魅力だ。
造りに成功した白木さん。しかしこれまで原料米は輸
だ。そしてもう一つの目標は、次世代に稲作を継承す
入に頼ってきた。というのも、冷涼なカナダでは酒米
「やりたい人はどんどんやってほしい。我々
米作りへの強い思いが込められた水田で、今年つい ること。
の契約農家になってもらってもいい。次のジェネレー
に収穫に成功
9月末、爽やかな風が吹き渡るアボッツフォードの ションがエントリーしやすいような状態まで協力した
水田を見学し、カナダの厳しい自然の中でたくましく い」と白木さんは熱く語った。
が全く生産されていなかったからだ。
「せっかくここ
で造るんであれば、100%ローカルにしたい。ならば
自分で米を作ってみよう」という白木さんのチャレン
ジ精神から、今度はカナダ初の稲作の試みが始まった。 育つ北海道出身の稲の生命力に感動した。この水田
は白木さんと、小田英司さんを中心とした Artisan 米の持つ大きな可能性
Sake Maker の従業員が手塩にかけて作り上げたも 地球温暖化の影響で、カナダの気温は以前よりも
多くの候補の中から選ばれたアボッツフォード
カナダで稲作をするにあたって、白木さんは日本で
最北の稲作地帯である北海道中部を訪れ、農業コミュ
ニティに相談。そこで出会った協力者と連絡を取り合
いながら、試行錯誤を重ねた。北海道よりもさらに緯
度が高いカナダでは、気候条件がより厳しい。まず白
木さんはBC州の各地を回り、できるだけ気温の高い
地域を探した。2009 年以降はアッシュクロフトやカ
ムループスなど計 8 カ所で実験的な稲作を行い、最終
的に選んだのがアボッツフォードだ。その理由は、フ
レーザー川が近くに流れ、水が豊富である上、盆地で
のだ。田おこしや田植えに加えて、水の管理や病害虫 稲作に適したものに変わってきている。カナダ連邦政
の防除など、米作りは多大な労力と時間を必要とする 府とBC州政府も Artisan Sake Maker の取り組み
仕事だ。2009 年に始めてから今年で3年目になるが、 に対して大きな関心を示しており、今年4月からは稲
「日本人が古くから
天候不順に悩まされたこともあり、昨年までは使える 作のための補助金も支給された。
米はできなかった。しかし今年はついに待ちに待った 育んできた米の文化を、カナダの人たちに伝えたい」
収穫の日を迎えた。10 月初旬、地元アボッツフォー という白木さんの強い思いが、アボッツフォードでの
ドにあるフレーザーバレー大学から農学部の学生 15 稲作につながり、それがやがてはカナダの食文化と農
人と教授、研究者も参加し、大勢で収穫作業を行った。 業全体に大きな影響を与えていくのかもしれない。米
3年目にして、カナダでの米作りが可能であることが、 の文化が今後カナダでどう発展していくのか楽しみだ。
(取材 船山祐衣)
はっきりとわかったのだ。