2班 - 千葉県市町村振興協会

2班「高齢者福祉」ドイツにおける高齢者福祉
担
当
栄 町
神崎町
多古町
睦沢町
長柄町
大
徳
木
中
佐
﨑
宿
内
村
藤
敦 (班長)
なおみ(記録責任者)
輝 芳(編集責任者)
優 (写真責任者)
幸 子(編集)
訪問日
平成27年7月7日(火)
訪問先
セントマルティン高齢者福祉施設
東アルガウ協会
バイエルン赤十字
面会者
ハルトマン氏(施設長)
セントマルティン高齢者福祉施設にて
79
- 79 -
1 調査概要
(1)ドイツ連邦共和国の概要
ドイツ連邦共和国は、1949年より議会制民主主義の連邦国家であり、
第二次世界大戦後、東西ドイツに分断されたが、1989年11月9日にベ
ルリンの壁が解放され、1990年10月3日に東西ドイツの統一が実現し
た。1990年の再統一以降は、16の州によって構成されている。総面積
は、357,022㎢(日本の約94%)で日本と近く、その国土は、北は
北海、バルト海、南はアルプスに及び人口は約8,094万人で、欧州連合
で最も多い人口を有している。
(2)フュッセン市の概要
・位 置 バイエルン州 最南西部
・地域圏 バイエルン赤十字東アルガウ地域
・人 口 15,000人
・面 積 44㎢
(3)ドイツの高齢化率
ドイツは高齢化率が20%を超えていて、世界の中でも高齢化がかなり進
んでいる国であり、平均寿命も伸びている。また、出生率が低いことから今
後さらに少子高齢化が進むことが予想されている。
このような状況に直面していることは、国民の間で広く共有されており、
2030年には高齢化率が29%になると見込まれ、日本と同様に、厳しい
少子高齢化に直面している危機感は、社会全体の問題意識として認識されて
いるようである。
ドイツとの高齢化率比較
高齢化率
28.00
26.00
24.00
22.00
20.00
18.00
16.00
14.00
12.00
10.00
ドイツ
日本
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
千葉県
80
- 80 -
(4)ドイツの社会福祉
ドイツ全体の福祉政策は、スウェーデンのような政府の役割が大きい福祉
国家とは違って、福祉サービス供給に民間の福祉団体が重要な役割を果たし
ている。ドイツでは、社会政策における「公的な担い手」と「自由な担い手」
という2つに区分される。「公的な担い手」は、政府と自治体を「自由な担
い手」は、民間の福祉団体を指している。主なものとして伝統的に①プロテ
スタント系の「ディアコニー」②カトリック系の「カリタス」③ユダヤ系の
「中央福祉会」④労働組合の「労働者福祉会」⑤赤十字⑥無右派系の「パリ
テト」の福祉6団体が、地域に施設や在宅サービス事務所を所有して、これ
らは、民間非営利組織として市民からの信頼を得ており、福祉サービスを提
供している。ドイツにおいては、日本の社会福祉法人に該当するものは存在
しない。
(5)ドイツの高齢者福祉
ドイツの施設サービスは、老人居住ホーム、老人介護ホーム等がある。老
人居住ホームは、高齢者が自立した生活を送れるような設備のある独立居住
集合体である。個々の高齢者ニーズに応じて必要な場合は身の回りの世話、
食事等のサービスが施設から提供される。
ドイツ特別養護老人ホームでの生活費は、主に入居者の年金や家族の所有
財産(自己負担)によって支払われていたが、それが工面できない場合や不足
する部分は、社会扶助(生活保護費)によって生活が保障される。このドイ
ツ特別養護老人ホームにおける社会的扶助費の増大がドイツ社会福祉財政を
圧迫し、介護保険制度を制定するきっかけになったと言われている。故に、
1995年介護保険制度ができてからは、これまで老人ホームに入りたくて
も入れなかった人が入居しやすい環境になったと考えられる。
2 訪問先施設の概要
(1)施設建設の経緯
セントマルティン高齢者福
祉施設は、東アルゴイ支部赤十
字所属の老人居宅施設で、19
50年に造られた。当初は、高
齢者福祉施設ではなく、戦後の
ドイツ系難民の難民ホームと
して8年から10年使われた
がその後、高齢者福祉施設に移
行していった。1964年の時
点で120名が入居できる老人
セントマルティン高齢者福祉施設外観
81
- 81 -
施設に発展していったが、2010年の時点で飽和状態となり建物の老朽化
や共同のシャワーやトイレが時代に合わないことで2つの施設を取り壊し、
2012年に建て替えを行った。当時の建設費は約800万ユーロであった。
(2)施設の特色
施設には、82名入居できるベッド数があり、3フロアに分かれている。
1階は認知症状の重い方、2階と3階は身体的な介護重度と中等度の方の入
居施設になっている。
各フロアには、2つの生活共同体があり、1つの生活共同体には13名の
入居者がおり、各フロアには26名の入居者がいる。ほとんどが1人部屋に
なっていて、夫婦での入居希望者は2人部屋を利用することが可能である。
部屋の広さは18~33㎡までの大きさで、各部屋の基本的な設備は、要介
護者用のベッド、ナイトテーブル、机、椅子、はめ込み式の戸棚があり壁に
飾る絵や家具については、家で使っていた物など好きな物を持って入居でき
る。
また、各フロアには、生活共同体ごとにキッチンがあり、入居者が自分の
家に居るようなアットホームな雰囲気を持てる配慮がされている。各フロア
の中心になる場所がこのキッチン(ダイニングキッチン)であり、同じスペ
ースにはリビングもあり、入居者同士がゆったりと座り、話ができるソファ
やテーブルが置かれ、そこからバルコニーに出ることもできる。特に、入居
者がこのキッチンで職員と共に、料理を作ることにも自由に参加できるとい
うのが、この施設の特色となっている。
(3)職員構成
専門の教育を受けた家政科
の職員(栄養・衛生管理・調理
担当)が入居者の目の届く範囲
に居る。毎日の食事は、生活共
同体ごとに独自の献立で冷凍
食品は使わず、全て新鮮な物を
使って料理している。入居者は
一緒にケーキを焼いたり、希望
すればキッチンで料理をする
ことが可能になっている。
家庭的なダイニングキッチン
1つのフロアには、家政科の
職員の他に清掃を行う人、介護士、社会教育士のような専門のノウハウをも
った職員もいて、お互いに協力し合いながら、1つの生活共同体を支えてい
る。施設によっては、介護士が家政科の職員の仕事も兼務したり、清掃の仕
82
- 82 -
事をしたりするところもあるが、この施設では、介護士は介護をメインに仕
事をすることにより、自分の仕事に集中できるメリットがある。
また、新しい入居者の食事プランの作成を、他の施設では介護士が行うこ
とが多いが、ここでは家政科の職
員が行っているのも特徴的であ
る。
入居者は、まるで自宅にいるか
のように常に誰かが周りにいて、
話をしたり、自由に料理をしたり
することで安心感を持ち生活し
ている。これは、入居者が服用す
る薬の量が減っているという成
果が挙げられていることからも
伺える。
フリースペース
(4)施設の入居費用
例:介護度1の場合
入居料は月に 3,121.08€(ユーロ)
(介護保険から 1,064€+自己負担(年金や資産)から 2,057.08€)
3
Q
A
質疑応答
家政科の職員は、日本でいう栄養士とは違うのか。
家政学を学んだ人は、栄養士の資格はないが3年間の教育期間の中で栄養
学を学んでおり、料理などができる人である。
Q
一つの共同体に介護のスタッフ、家政科のスタッフは、夜間帯も含めて何
人いるのか。
A 各生活共同帯では、まず1人の介護士が常勤し、家政科のスタッフが1人
いる。その他に交代制勤務で社会教育士、クリーニング(清掃)の人が就く
ことになる。介護士は、6時30分から22時30分まで勤務し、22時3
0分から翌朝6時30分までの入居者が寝ている間は、社会教育士とクリー
ニング(清掃)のスタッフがいる。最低でも2人は必ずいる。
Q 医師や看護師はいないのか。
A ドクターはいないが、連邦法の決まりがあり、1つの共同体に必ず介護士
又は看護師が入ることになっている。生活共同体によって、介護士が常勤す
る場合と看護師が常勤する場合がある。
Q
ボランティアの受け入れ人数はどれくらいいるか。
83
- 83 -
A
無報酬のボランティアで入居者のケア(トランプ遊びや散歩)を行う者が
8人いる。また、間接的なボランティアとして、外部のサークルの人たちが
来て行われている。その他に自分の意思で、1か月90ユーロのおこづかい
程度でボランティアの手伝いをする人がいる。これは、徴兵制度があった時
には、拒否した人が半年間福祉施設で働くことになっていたが、徴兵制度が
無くなり、名残としてこういう制度があり、就職の際に有利に扱われている。
4
まとめ
ドイツと日本の高齢者福祉の置かれている状況は、非常に似ている。年老
いた親を介護施設に入居させることについて、ドイツでは日本と同様に「人
生の最後を家庭で迎えるのが理想的」と考えるのが根強いとのことである。
しかし、高齢者施設の立地環境や提供するサービスの質については、ドイ
ツと日本ではだいぶ異なっていると感じた。
今回訪問した、セントマルティン高齢者福祉施設は、アルプス山脈の麓、
広大な自然を背景に静かな住宅街の中にあり、この住宅街の中にあるという
ことで、重度の認知症の入居者も隣接する集合住宅の公園で遊ぶ子ども達の
姿を見ることができる。まさに地域に開かれた施設であり、高齢者にとって
も社会に溶け込んで生活しているという気持ちの面で、良い影響を与えてい
ると感じた。さらに、入居者が
アットホームな雰囲気を持てる
ようフロアの中心にキッチン
(ダイニングキッチン)を設け
て、まるで自分の家に居るよう
な空間を作る工夫をしていたこ
とに驚いた。スタッフだけでな
く、入居者自らケーキを焼いた
り、料理を作ることも自由に参
加できるのは日本とは大きく異
バルコニーからみた中庭
なる点である。また、この施設
では、入居者がいつでもソファでゆっくりとくつろげるように、きれいに飾
られたスペースをいくつも設けており、リビングからはすぐにバルコニーに
出ることが可能であった。
ドイツにおいては、施設といっても家庭的な雰囲気をとても大切にし、入
居者の生活の質を在宅と同様に保とうとしていることが特徴であると感じた。
日本では、衛生管理、安全管理を優先させることに重点を置いているよう
に感じるが、ドイツでは、入居者が入居後も「自分らしく」在宅時と同様の
生活の質を得られる支援の環境を作り出している。この点については、今後
の日本における福祉サービスの支援の在り方として考慮される必要があると
84
- 84 -
感じた。
日本とドイツの介護保険制度の違い
日
本
ド
イ
ツ
財
源
税50%
(国が25% 都道府県と市町 保険料100%
村が各12.5%)
被
保
険
者
65歳以上(1号被保険者)と4 医療保険制度のすべての
0歳以上65歳未満の医療保険 被保険者
加入者(2号被保険者)
(赤ちゃんから高齢者まで)
保
険
料
給与の1.95%(子どもがいな
1 号被保険者の保険料は保険者ご
い23歳以上の被保険者は2.
とに異なる
2%)
要
介
護
度
要支援 1~2、
要介護 1~5の7段階
認
定
介護保険認定調査員が82項目 介護鑑定機関が聞き取り調査で
にわたって聞き取り、心身の状況 介護に要する時間を把握し合計
を把握
する
給
付
現物給付
利用料の1割を負担
要介護度 1~3の3段階
別途、認知症対応、重篤事例対応
あり
現物給付、現物給付(利用料負担
なし)、のほか在宅介護者へ現金
給付+現物給付もある。
ドイツ社会的介護保険制度の構造
介護委託契約
介護報酬契約
介護サービス提供者
民
間
非営利(NPO)
行政
営利
保険者
↕ (直接介護契約)
保険料納付→
介護金庫
被保険者
←保険証交付
疾病金庫
受給権者(要介護者)
←申請・認定
MDK
(使用者)-労働契約-(被用者)
85
- 85 -
5
参考資料
・国土交通省国土政策室資料
・「統計からみた我が国の高齢者」総務省
・「ドイツにおける高齢者の生活」在ドイツ日本国大使館一等書記官
髙志
・グローバルノート 国際統計・国別統計専門サイト
・千葉県衛生統計年報
86
- 86 -
山口
2班「高齢者福祉」フランスにおける高齢者福祉
担
当
別掲(P.79参照)
訪問日
平成27年7月10日(金)
訪問先
サンモール市 公共老人ホームレジダンス・アベイ(公立老人ホー
ムのグループ3箇所のうちの一つ)
面会者
ロマンジ・ゾール氏
設置者
ボンヌイユ市、サンモール市、ジョアンヴィル市、シュシイ・アン・
ブリ市の共同経営
公共老人ホームレジダンス・アベイにて
87
- 87 -
1 調査概要
(1)フランス共和国の概要
フランスの国土は、本土及び海外の領土からなる。(カリブ海のグアドル
ープ、マルティニーク、ギュイエンヌ及びインド洋のレユニオン、マヨット
の5つの海外県及び6つの海外準県等)面積は欧州連合で最も広く、日本の
1.5倍、544,000km²欧州最高峰のモンブラン(4,810m)を擁
する。人口は約6,582万人と欧州連合ではドイツについで2番目であり、
近年、出生率の上昇も注目されている。(合計特殊出生率は(2002年)
1.88人から(2012年)2.01人)
(2)サンモール市の概要
・位 置 ヴァルドマルヌ県 クレテイユ郡のコミューン
パリの中心から約11㎞の郊外
・地域圏 イルドフランス地域圏
・人 口 75,000人
(3)フランスの地方制度
州(レジオン、région)、県(デパルトマン、département)、市町村(コ
ミューン、commune なお、市・町・村の区別はない。)の3層からなる。コ
ミューンの数が多く小規模であることが特徴的である。地方分権の進展によ
り、今日では、国土整備においては、国とともに州の役割が大きく1982
年の地方分権法により、州は公選議会を有する地方自治体となり、県と州の
執行権は国の定める知事から、各々県及び州議会議長に移譲された。200
3年の憲法改正法により、州は憲法上も県及びコミューンと同様に地方団体
と位置付けられた。
地方団体
数
備 考
州(レジオン)
27 団体
本土 22、海外 5
県(デパルトマン)
101 団体
本土 96、海外 5
コミューン
36,680 団体
本土 36,568、海外 112
(4)フランスと日本の高齢化の速度の比較
フランスでも高齢化が進んでいるが、日本よりは緩やかなペースである。
先進諸国の高齢化率を比較してみると、日本は1980年代までは下位、9
0年代にはほぼ中位であったが、平成17(2005)年には最も高い水準
となり、世界のどの国もこれまで経験したことのない高齢化社会を迎えてい
る。
88
- 88 -
また、高齢化の速度について、高齢化率が7%を超えてからその倍の14%
に達するまでの所要年数(倍化年数)によって比較すると、フランスが12
6年、比較的短いドイツが40年であるのに対し、日本は、昭和45(19
70)年に7%を超えると、その24年後の平成6(1994)年には14%
に達している。このように、日本の高齢化は、世界に例をみない速度で進行
している。
フランスとの高齢化率比較
高齢化率
28.00
26.00
24.00
22.00
20.00
18.00
16.00
14.00
12.00
10.00
日本
千葉県
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
フランス
(5)フランスの高齢者サービス
フランスの高齢者福祉サービスは、在宅サービスと施設サービスに大別さ
れ、さらに財源や根拠法により福祉サービスと医療サービスに区分すること
ができる。フランスでは、社会福祉・家族法典で福祉サービス利用者の権利
と自由が明文化されており、高齢者福祉サービスでも積極的に利用者を主体
的に位置づけることを求めている。
2 訪問先施設の概要
(1)施設の特色
公共老人ホームレジダン
ス・アベイは、入居者200名
の施設であり、こういった施設
の平均は概ね80名であるが、
サービスを共通化することに
より、よりよいサービスを提供
公共老人ホームレジダンス・アベイ外観
する大規模の利点、長所を生か
している。また、400人を対象に在宅サービスも提供しているほか、託児
所も併設し、介護職員を養成する学校や地域コミュニティの劇場も隣接され
ている。機能的にはあたかも自宅で療養しているようなサービスの提供、入
89
- 89 -
居者個人の選択の自由、地域に開かれた施設であることを理念に運営され、
フランスにおける高齢者施設のモデル施設となっている。
まず、施設の入口を入ると郵便受けがあり、スタッフが管理するのではな
く、入居者自らが管理するようになっている。入居者が病院内で生活するよ
うではなく、スタッフが寄り添い介護サービスを受け生活するというイメー
ジが描かれている。
次に、建物は2つに分かれ、その中間が一種の商店街のようになっており、
ストレッチやヨガの活動をするスペースとして民間企業に貸し出している。
施設とは全く関係のない人や外
部の人を惹きつけるスペースに
もなり、入居者も気分転換や活動
ができるようになっている。入所
料金に含まれる美容院と外部の
美容院の両方が入っており、家賃
を安くする条件で安くサービス
を提供するようにしている。
施設では、アルツハイマー病の
患者を対象とした、デンマーク方
入居者用に設置された郵便受け
式の非医療式治療を行っている。
患者の興奮した状態を治めるために、聴覚、視覚、香りなどで、多くの興奮
状態の人を鎮静化させることができ、個人差はあるが、薬だけに頼らない代
替治療の一種となっている。
託児所は、職員用ではなく地域住民が対象である。施設周辺住民に関心を
持ってもらう目的があり、子どもたちと高齢者との接点を作ることで、子ど
も、親、高齢者という3世代の交流が行われている。子どもたちにとっても
自宅で常に時間に追われ、ストレスを感じるようなことがあっても、ここで
高齢者と関わる時間を過ごすことで、のんびりとした時間を持ち、落ち着き
を学んでいる。また、「身体的ハンディキャップの人を受け入れること」や、
「自分もいつかは高齢化する」ということを学ぶ場にもなっている。
(2)食事の特色
入居者向けのレストランでは、昼食と夕食を提供しており、一般のレスト
ランと同じ機能を備えている。料理ごとにお皿が運ばれ、済んだら下げに来
る。そして次の料理を持ってくるという普通のレストランと同サービスを提
供している。収容能力は150名でこれとは別に認知症の人を専門に受け入
れるレストランもあり、認知症の人が心理的に不安を生じないよう行きなれ
た場所へ行くことで、精神的な安定を図っている。
90
- 90 -
食事療法を医師の診断で受けて
いる人もいるが、それを受け入
れるかどうかは、本人の選択で
あり強制はせず、忠告するだけ
で判断は本人に任せているとい
う。レストランは、家族が来た
場合も一緒に食事ができ、誕生
日などを祝いたいと家族が集ま
りシャンパンを飲むことも可能
である。あたかも街の中のレス
トランに行く感覚を味わうこと
ができるのである。
入居者用のレストラン
(3)入居する部屋の特徴
この施設では、入居の際にま
ず一人一人に鍵を渡していて、
ここで自立した生活を始める
という意識を持たせていると
いう。各部屋は、鍵がかけられ
るようになっており、驚いたこ
とにアルツハイマーや認知症
の人にも鍵を持たせている。
職員はマスターキーを持って
いる。部屋の広さは20~25
居室にあるシャワールーム
㎡で、フランスの基準で18㎡
以上と定められている。部屋は、何もない状態で提供し、家にあった物を全
て持ち込むことができ、病院ではなく自宅の雰囲気を保つことができ自由に
趣味を取り入れることができる。介護ベットを必要としない人には、自宅の
ベットを持ち込むことができる。キッチン設備も用意できるようになってい
て、配管、排水設備も整っており自由の幅、選択の幅を広げている。
エアコンは、2003年の熱波で15,000人の死亡者が出たため、各
施設1か所は空調のついた部屋を設け1日2~3時間その部屋で過ごすこと
ができる。ここでは劇場にエアコンを完備している。個々の居室にエアコン
を設置することは可能だが、実際に取り付けた人はいないという。
3
Q
A
質疑応答
県は何という県か。
ヴァルドマルヌ県 県の特徴として、老人に優しいイメージがある。地方
91
- 91 -
分権が発達しているので、それぞれの地方自治体が特色のある行政を行って
いる。
Q
A
4つのコミューンから、財源は入っていないのか。
建設時だけ関係している。
Q
A
自立した公共団体というが、具体的にはどういうことか。
非営利の1.公共的な施設、2.プライベートな教会アソシエート、3.
商業的な民間施設の3つのタイプに分かれる。ここは1の施設になり、1と
2は自治体から援助を受けて独立した状態を保てるようになっている。3の
民間施設の場合は株主から援助を受けることになる。財源は3つあり、60%
が居住者からの入居費用、30%が国・健康保険からの収入、あとの10%
は県からの補助金である。その内、国・健康保険からの30%については、
看護師などの医療関係者の費用として割り当てられている。
Q
A
入所の条件と手続き、申請方法について
フランスの場合は、老人向けの施設は60歳以上から入居が可能となって
いる。100歳を超える人も入居しているが、入所の条件はほぼ無条件であ
るが、地元の市町村の人が優先となる。1969年に4つのコミューンが設
立した歴史があり、建設費を4つのコミューンが負担したことから、市民と
しての要求する権利がある。コミューン以外の財源で作った施設もあるので、
コミューン以外も受け入れている状況である。年金機構も出資者の1人であ
りその関係者も入っている。
フランスの介護者のクラス分けでGIRというのがあり、1~6段階がある。
6が一番自立した高齢者で1が一番重度の人となる。1~6全て受け入れて
いるが、医学的なハンディキャップの人は対象としていない。これが入所の
条件になる。
フランスにおける要介護認定基準
身体的・精神的にすべての自立を失
GIR1
最高度の要介護者
い、他者による永続的な介入を必要
とする者
身体を動かすことはできないが精
神的機能は完全には失われていな
GIR2
高度の要介護者
い者、あるいは精神的自立は失われ
ているが身体活動は維持されてい
る者
92
- 92 -
身体的自立の面で相当程度の日常
GIR3
中等度の要介護者
GIR4
身体活動に問題のない者
GIR5
軽度の要介護者
限られた援助を必要とする者
GIR6
自立した者
自立している者
的援助を必要とする者
起居、衣服の着脱、食事に援助を必
要とする者
Q
A
医学的なハンディキャップとは具体的に何か。
精神病、重度の癌患者等であり、特別な療法が必要な場合は、医療老人ホ
ームに入ることを進める。病状が特別な医療を必要とする場合は受け入れら
れないが、軽度の場合は受け入れる。つまり、あまりにも治療費がかかる入
居者は受け入れられないため、予算内で治療が済むような軽度の人しか受け
入れない。
Q
A
職員の担当率は。
1人に対して0.7人の職員が割り当てられている。全国の平均だとスタ
ッフの数は0.55人である。1人に対してのスタッフの率が低いのと入居
料金が高いのがフランスの問題である。職員の数が不足していることも問題
である。フランスの平均年金額は、1,100ユーロになるが、施設費用は
2,200ユーロになり、この施設は2,500ユーロから3,000ユー
ロになる。入居者のハンディキャップによっても異なり、社会的な援助を受
けるためには、資産を全て処理しなければならない。
Q
A
待機者数は。
待機者数は、250~300人いる。入所率は、95%であり、入居者が
亡くなった場合、次の人が入居するまで、空白期間があるためである。
Q
A
待機者が250~300人という話だが、何か策を考えているか。
他の2つの老人福祉施設に行くように提案する。老人福祉施設が不足して
いる地域なので、更に遠くの老人ホームに行くことも提案する。別のサービ
スやデイサービスが可能かどうかも提案し他の介護施設に入所しなくてもで
きるものがあるか提案する。
Q
A
職員の男女の比率は。
65~70%が女性になる。
入居者400人に対して280人のスタッフが働いており、職員は不足気
味で応募者がないという現実を抱えている。人材確保の観点から、教育セン
93
- 93 -
ターを設けているのはその理由からである。25人の生徒が入ったとして、
そのうち5人くらいは、施設で体験しているので、ここで働くようになって
くれると思う。
Q
A
Q
A
職種による月給は。
看護師は、1,500~2,200ユーロ
介護士は、1,200~1,800ユーロ
資格のない人は、1,100ユーロ
職員のやりがい等について
介護士が作業着を着ていないのは、仕事に対して意味や価値観を持たせる
ようにしている。介護だけではなく入居者の生きる目的を助ける感じである。
夢を与えるプラスアルファがあり、仕事を続けていこうと誇りを持たせるよ
うにしている。
Q
教育システムがあるが、人材確保のためにやっていて25人の中で5人が
入る予定なのか。
A 5人を期待しているという意味。その年の空きのポストがあるのか、国・
健康保険から入る財源である30%の範囲内で人を雇うしかない。
Q
ボランティアは、個人で協定しているのか、ボランティア団体と協定して
いるのか。また、有償か無償か。
A 個人との協定になる。一定の条件に基づき思想や考え方の価値観を共有で
きることが、協定の最初の条件にしている。ボランティアには、一銭も払わ
ない。それが原則である。
Q
A
ボランティアが行っている仕事内容と人数は。
ボランティアと協定を結び入所者のクオリティライフを高めることを目的
とし、入居者を病院へ連れて行くことやレジャー関係にも活動している。3
つの施設で約20人が活動している。
Q
A
入所者に好まれているサービスは。
選択の自由、レストランで料理を選べる自由、トイレのサービスを拒否で
きる権利があること。フランスでは自由を尊重しており、その国の価値観を
提供することが大事である。フランスでは選択のある、自由のある文化的背
景があり、それがここでも生かされていることが高く評価されている点であ
る。
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Q
A
どんな食事内容か。
一般の家庭で食べるものを提供している。飲み込みが出来ない場合は、医
師の処方箋に基づく流動食を出している。
Q
A
アルコールと喫煙は。
アルコールは自由に飲める。禁止事項は2つあり、公共の場での喫煙と、
自分の部屋は大丈夫だが、ベッドでの喫煙は禁止している。
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まとめ
フランスでも日本と同じように高齢者人口の増加は、非常に似ている。し
かし、国民性の違いが明らかなように、求められる支援やサービスについて
フランスと日本で異なっている。今回訪問した「公共老人ホームレジダンス・
アベイ」では、施設内での入居者の自由を尊重する思想を重視している。
私達が訪問した際には、車椅子の高齢者のペットの犬がリードなしに施設
内を歩いていたり、劇場や地域の託児所、エステサロンも併設され入居者や
地域の一般の方も対象に様々なサービスを提供している。この内、託児所に
ついては、住民のためというだけでなく入居者と小さな子どもたちとの触れ
合いや交流を持たせるという施設側の考えが反映されている。
また、施設の玄関には入居者個人の郵便受けがそれぞれあり、入居者が自
分の居室から出て、郵便を取りに行くことができる。居室は、入居の際、家
具等全くない状況であるため、入居者に家庭で使用していたものを持ち込ん
でもらうようにしている。これは、居室は自分の家または、部屋として認識
してもらうためであり、部屋の中の装飾やデコレーションを自由に行えるよ
うになっている。
この施設は、①病院的な機能ではなく老人に寄り添うサービスの提供②強
制されない高齢者自身の自由の選択的サービスの提供③地域との交流、世代
間交流の場を設けて外部に開かれた老人ホームとして運営しているというコ
ンセプトが強く感じられた。
今回の訪問を通じて、医療が非常に発展し多くの人が長生きできるように
なった現代社会において、特に先進国では、日本、ドイツ、フランスをはじ
めどの国においても高齢化が進み、共通の社会問題になっていると感じた。
フランスにおいては、日本と異なり、本来家族が複数世帯で同居するという
習慣がないため、介護やサービスが充実した施設での生活は、より自由で多
様な個性を尊重したサービスの提供が求められているように思えた。
日本においては、老人ホーム等介護施設に入居しサービスを受けることに
より、適切な身体介護や医療のサービスを受け、家族は介護への負担を軽減
することができる。しかし、どちらかというと、介護する側の希望が介護を
受ける当事者の生活の質より重視されているようにも思える。実際にドイツ
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やフランスを訪れ、ハード面、ソフト面ともに入居者の幸せや生きがいを第
一に考えた介護の理念が高齢者の自立を支援し、快適な住環境を作り上げて
いることを学ぶことができた。
これから、私たちほとんどの日本人が何らかの介護に関わるようになるが、
文化や国民性の違いはあっても、介護・福祉社会の充実している国の情報を
得たり、取り組みを学ぶことはとても意味のあることであると実感した。
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参考資料
・国土交通省国土政策室資料
・フランスの高齢者介護制度の展開と課題 原田啓一郎
・グローバルノート 国際統計・国別統計専門サイト
・千葉県衛生統計年報
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