全国農団労海外農業視察(1998)ドイツ編その1

全国農団労第 4 回海外(欧州)農業視察
全国農団労
(全国農林漁業団体職員労働組合連合)
第 4 回海外農業視察報告書(ドイツ編その1)
訪問国:ドイツ、スイス、フランス
期間:1998 年 2 月 22 日~3 月 4 日
延安 勇
1.はじめに
生産者 2 名を含む 16 名の第 4 回全国農団労海外農業視察団は 2 月 22 日~3 月 4 日までの 11 日にわた
りドイツ、スイス、フランスの 3 カ国をまわった。
ドイツでは「バイエルンの道」と呼ばれる独自の農政を展開しているバイエルン州で、グリーンツーリ
ズム、農業機械銀行ヘルパー協会の実状を視察した。スイスでは直接所得補償制度、農協組織、有機農業
の現状を視察し、フランスではランジス国際市場と農民組合全国連盟を訪問し、農産物の流通、フランス
農業の課題と農民組織の活動にふれた。また、開催中のパリ国際農業博覧会を訪れる機会も得た。
視察したヨーロッパの農業の実状や政策については、既にさまざまな形で日本に紹介されている。短い
期間で、現地の実状のすべてを知り理解できるはずもなく、あえて詳細を報告する必要はないとも思える
が、現地を訪れ、そこに住む農家に直に接し、その土地の気候・風土を自分の目で見、耳で聞くことで知
り得たことも少なくない。
聞き違いによる誤りもあると思われるが、今回の視察で学んだこと感じたことに帰国後の知見を加え報
告としたい。
2.参加者
表 1 参加者
番号
氏 名
職 場
1
延
2
小 林
芳 之
茨 城 県 共 済 連
3
江 口
一 樹
農
4
久保田
正芳
須
5
伊藤
喜代司
上
6
小 林
正 明
長 野 県 経 済 連
7
中 村
兵 衛
み な み 信 州 農 協
8
柳 澤
和 義
農
9
小 林
輝 紀
長 野 県 経 済 連
10
谷田貝
之男
栃 木 県 農 協 労 連
11
角
12
丸
13
満 寿 川
14
井 口
禄 弘
高 松 南 部 農 協
15
浅 井
吉 紀
と な み 野 農 協
16
山
稔
ア ル プ ス 農 協
安
勇
孝
山
本
尾
道
市
農
協
業
高
伊
農
那
農
協
協
業
志
く に び き 農 協
武
鳥 取 県 農 協 連
誠
美
1
馬
郡
農
協
全国農団労第 4 回海外(欧州)農業視察
3.日
程
表 2 日程
日次
日 付
都市名
1998 年 2 月
21 日(土)
東京(成田)
1
22 日(日)
東京(成田)
フランクフルト
フランクフルト
ミュンヘン
2
23 日(月)
ミュンヘン
3
24 日(火)
ミュンヘン
デイトマンスリート
4
25 日(水)
デイトマンスリート
5
26 日(木)
デイトマンスリート
(ベルン経由)
インターラーケン
発着
現地時間
交通機関
15:00
発
着
発
着
発
着
発
着
10:35
14:45
15:55
16:50
午前
夕方
摘
要
ホテルリーガロイヤルで事前学習会(成田泊)
LH711
LH012
専用バス
専用バス
講義(午前)
:ドイツの農業政策・現状について
視察(午後)
:オリンピック公園、ミュンヘン博物館
専用バス
視察(午前)
:デイトマンスリートで園芸農家ノイマイヤーさん訪問後、町長の
コッホ氏と昼食会 視察:
(午後)酪農家ベッヘラーさん。交流(夜)
:
ファッシングのパーティー(各受入農家で民泊)
専用バス
講義(午前)
:ケンプテン食糧農林事務所にてバイエルン州オーバーアルゴイ地
方の農業、農家民宿、ヘルパー機械銀行について。視察(午後):州立
製酪学校。夕食交流:受入農家と視察団との会食。
専用バス
講義(午後)
:国民経済省農業局マイヤー氏よりスイス農業・デカップリング
の講義。
専用バス
観光(午前)
:ユングフラウヨッホ。視察(午後)
:スイスの農協(ランディー)
。
午前
夕方
27 日(金)
インタラーケン
7
28 日(土)
インターラーケン
ジュネーブ
ジュネーブ
パリ
8
3 月 1 日(日)
パリ
専用バス
観光(終日)
:ルーブル美術館、ノートルダム寺院、モンマルトルの丘など
9
2 日(月)
パリ
専用バス
視察:ランジス中央卸売市場、国際農業博覧会。フランス農民連盟。
10
3 日(火)
パリ
フランクフルト
フランクフルト
発
着
発
10:40
12:00
13:30
専用バス
LH4117
LH710
帰国
11
4 日(水)
東京(成田) 着
08:30
6
発
着
発
着
朝
昼
12:30
16:09
専用バス
TGV976
専用バス
視察(午前)
:スイスの有機農業農家フィスターさん。
▼
LH:ドイツ・ルフトハンザ航空
ミュンヘンの市庁舎
▼園芸農家ノイマイヤー氏の直売店舗
の前で記念撮影。中央の女性は民宿協
会会長のシャウブさん。
2
全国農団労第 4 回海外(欧州)農業視察
4.ファッシング
▲
2 月 22 日、
私たち視察団一行は長野オリンピッ
クから本国へ帰還するドイツ選手団でにぎわうル
フトハンザ航空機で成田を出発し、フランクフル
ト経由でバイエルン州の州都・ミュンヘンに到着
した。この時期のドイツはファッシングと呼ばれ
るカーニバルでにぎわい、カーニバルの最終日で
ある 24 日には思い思いに趣向を凝らした仮装姿
で夜遅くまで飲んで騒ぐ。
ファッシングとは謝肉祭のことだ。キリスト教
の教えでは 4 月の復活祭(イースター)までの四
旬節は断食や懺悔(ざんげ)を行なう時期で、昔
はこの期間肉や魚を食べない質素な生活をするこ
▲ミュンヘンの街角で出くわした男だけの舞踏団。音楽隊と
とになっていた。このため断食に入る前の数日間
ピエロをともなう。
は思い切り飲んで食べて騒ぐ習慣ができたのだとい
う。今は断食はしないがその習慣だけはカーニバル
という形で残っている。そんなわけでミュンヘンはお祭りの真っ最中で、街の通りでは民族衣装を身につ
けた人たちがダンスを踊り、中心部の広場では、お祭りの屋台でいっぱい引っかけていい気分になり、流
れる音楽にあわせて踊ったり、談笑したりする人であふれていた。私たちも、滞在した農家のさる町・デ
イトマンスリートで、宿泊先の農家の人と仮装してカーニバルのパーティーに加わり、お祭り気分を味わ
うことができた。ちなみにカーニバルのパーティー会場は村外れの会員制ヌーディストクラブで行われ、
我々視察団は特別招待でパーティーに加わった。もちろん裸で、と言いたいところだが、カーニバルでの
正装は「仮装」だ。念のため。
デイトマンスリート・ヌーディストクラブでのカ
ーニバルのパーティー。ピエロになった長野県経
済連の小林正明とヒョウに仮装したホストファミリ
ーのロッテさん。(ヌーディストクラブといってもヌ
ードではなく参加者は全員仮装です。)
5.国際農業者交流協会
▲
ミュンヘンに着いた私たちを出迎えてくれたのは、今回のドイツ、スイスでの視察をアレンジしていた
だいた国際農業者交流協会欧州支部長・家老洋(かろう・ひろし)氏だ。それにしてもこの顔はどこかで
見覚えがある。それもそのはず、家老氏の経歴を見ると私と大学の同窓生なのだった。2 年先輩になる家
老氏は柔道部員だったが、大学の体育文化会というサークルの連合組織の役員もしていたので山岳部員だ
ミュンヘンのホテルで国際農業者交
流協会欧州支部長・家老氏(写真中央)よ
りドイツ農業の概要について講義を受け
る。偶然にも家老氏は延安の大学の 2年
先輩にあたる。
3
全国農団労第 4 回海外(欧州)農業視察
った私とも面識があったというわけだ。特に親しいという間柄ではなかったが、およそ 20 年ぶりの異国
での再会に驚いた。
さて、この国際農業者交流協会とは、欧米の農家へ日本人の農業研修生を派遣する活動のほか、日本か
らの海外への視察者の斡旋、逆に外国から日本への視察や研修の受入などを手がけている組織だ。家老氏
自身も大学卒業後 1 年あまりこの協会の事業でドイツの野菜農家で農業研修をしている。また、今回の視
察団のメンバー・中村兵衛は、この協会(前身の派米協会)による 2 年間のアメリカ農業研修を経験して
いる。
家老氏はドイツ滞在中私たちに同行し、通訳とガイドを務めていただいたが、3 月いっぱいで協会を退
職し、故郷の新潟へ帰国されるとのことだった。
6.ドイツ農業の概要
地方分権と農政
ドイツでの視察地であるバイエルン州オーバーアルゴイ地方に入る前に、ミュンヘンで家老氏よりドイ
ツ農業の概要について講義を受けた。
ドイツは連邦国家であり地方分権制度の国で中央集権的な日本とは異なっている。
国土の面積は 36 万 k
㎡(3,600 万 ha)
、うち農地が 48%を占める(日本、37 万 k ㎡、うち農地は 14%)。人口は 8 千万人、うち農
家人口(ドイツの農家の定義は経営面積 1ha 以上、日本は 10a以上もしくは販売高 15 万円以上)は 7.6%(日本、人口 1
億 2 千万人、うち農家人口 9.4%)である。国の方針で東京のような大都市は作らず、各州に中核都市をもうけ
人口の分散、地域の維持を図っている。
宗教は、北部はプロテスタント、南部ではカソリックが多い。視察したバイエルン州は人口の 80%がカ
ソリックである。宗教的な理由から、一子相続を行うプロテスタントの多い北部では農業経営の規模は大
きく、均分相続を行うカソリックの多い南部は規模が小さくなっている(現在ではカソリックでも均分相続はし
なくなっている)
。
減る農業後継者
農業後継者は日本と同様にドイツでも減少しており、
年間3 千人から 4 千人しか新規に就農していない。
後継者のいない農家は農業者年金の受給を機に離農し、規模拡大の意欲があ専業農家が吸収している。こ
のため農地の半分が借地となっている。
農家の営農形態は酪農+麦、馬鈴薯といった畜産と耕種の混合農業である。
環境保全型農業の推進
ドイツは 95 年においては世界一の農産物輸入国である一方で、牛乳や小麦など過剰農産物の問題や、
化学肥料や農薬、家畜の糞尿の散布による農業による環境破壊、人体への悪影響等の問題から、直接所得
補償などの農家への財政措置により粗放的や環境保全型の農業が推進されている。これにより有機農業や
統合農法(注 1)に取り組む農家が増えつつある。
国民からは、食料の安全保障の面だけでなく、環境保全、景観の維持など、農業の持つ公的機能につい
ても理解されており、
「農業は大切なものである」との意識が強い。
また、農家も充実した職業教育制度のもとで育成されており、職能意識が強く農業者であることに誇り
をもっている。
注1)
別紙資料「環境に優しく賢い農業を、見習うべき欧州の統合農法」
(家老 洋)
7.州の農政
-バイエルンの道-
▼
前述のとおりドイツは地方分権がすすんでおり、中央集権制度
の弊害で地域の実状にそぐわない画一的な農政を進めている日本
とは違い、連邦農業省はEUからの交付金の受け皿、EUとの窓
口、農家の社会保障、基本的な政策の立案といった役割を担うだ
けで、具体的な政策は、EUの共通農業政策(CAP)や連邦政
農家民宿の様子(民宿カタログより)
4
全国農団労第 4 回海外(欧州)農業視察
府の基本方針に基づき、州政府が各州の実態に応じたかたちで「州の農政」を各地で展開している。
特にバイエルン州は、バイエルン州農業振興法(1970 年公布)によりマシーネンリング(農業機械銀
行ヘルパー制度、略称MR)を主柱にした独自の農政「バイエルンの道」を展開している。バイエルン州
農業振興法(1970 年)にもとづく独自の農業政策は、大きく次の 5 つから構成されている。
① 教育水準の向上 (経済的競争能力の賦与と職業への熱意の喚起)
② 経営間協力 (小規模経営の不利を解消し、各経営形態の発展と存続を可能にする)
③ 農業基盤・農村基盤の整備 (農村地域の再整備を重点とする)
④ 販売制度の改善 (生産過剰と市場条件の不利の解消)
⑤ 農村的自然環境の維持 (農政の新分野、農業を万人のものに)
8.バイエルン州オーバーアルゴイ地方の農業
アルプス山麓に広がる酪農地帯
ドイツで視察したのは、バイエルン州の南部、オーバーアルゴイ地方だ。バイエルン州はドイツの農家
の 3 分の 1 にあたる 60 万戸の農家(1ha 以上の耕作面積を持つ農家)があり、同州は最大の農業州とな
っている。しかし経営規模は北ドイツに比べ小規模である。前述のとおりバイエルン地方は均分相続を行
なっていたカソリックが多いためである。オーバーアルゴイ地方は人口 20 万人の農業地帯で、集落ごと
に 2~3 戸の農家が点在しており、あわせて約 3,000 戸の農家がある。その内 3 分の 1 は兼業農家で、男
性が勤めに出るケースが多い。農家のほとんどは酪農家で、夏は放牧、冬は乾草やサイレージといった自
給飼料を主体に、酪農本来の経営を行っている。日本ではあまり見かけないが、飼っている牛のほとんど
が乳肉兼用種のブラウンスイスだ。また、3,000 戸のうち 150 戸は有機農業で酪農を営んでおり、ドイツ
の有機農業団体のひとつである有機的生態的農法協会 Organich-Biologich(商標はビオラント Bioland)
に加盟している。また、60~80 戸の農家は農場に直売所を設置したり、街のファーマーズマーケットで農
産物や乳製品の直売をも行なっている。また乳業・チーズ工場のうち農家の工場(共同経営)が 5 つある。
農家のチーズは高品質で観光客に好評だ。
酪農が盛んなだけに乳業工場も多く、視察先を行なった州立の製酪学校がこの地方の中心都市であるケ
ンプテンに設立されている。また食糧農林事務所をはじめ州政府の出先機関もこのケンプテンにある。
▲ デイトマンスリートの風景。中央の白い塔がノイマイヤーさんの農場のそばの教会(町のパンフレットより)
条件不利地域の農業を支える直接所得補償
オバーアルゴイ地方の気候は年間降雨量 1,700~2,400ml、平均気温 5.8℃と冷涼である。標高は 622m
~2,679mまであり、地域の北部は丘陵地で牧草地広がり、森が点在している。南部はオーストリアと国
境を接し、2,000m級のアルプスの山々が連なる山岳地帯だ。地域の面積の 51.4%が農地だが、平地は少
なく、土地は痩せており、99%は牧草地だ。これらの自然条件により直接所得補償における条件不利地域
5
全国農団労第 4 回海外(欧州)農業視察
の区分では最も条件の悪い 5B にランクされており、直接所得補償は農家所得の 40~50%を占めている。
酪農家の経営規模は徐々に拡大傾向にあるが、平均飼養頭数は 21 頭、耕作面積は 22~23ha と小規模
である。加えて牛乳は生産過剰で、酪農家は牛乳生産の割り当てにもとづく生産調整をしている上に乳価
の低迷で、酪農家の所得は減少傾向にあるという。平均所得(直接所得補償や政府からの補助金を含めた
ものと思われる)は 37,000 マルク(1 マルクは約 70 円だが、家老氏によれば物価の安いドイツでは 100 円の価
値はあるという)で、この地方の家族の生計費(家族 4 人)42,000~52,000 マルクだから、農業所得だけで
は生計費はまかなえない。このため農家の 3 分の 1 は兼業農家であり、男性が勤めに出るケースが多い。
また兼業の他、牧歌的で美しい農村景観や山岳地帯のスキー場やハイキングコースなどの観光資源を生か
して農家民宿を営んだり、仕出し、農家を改造したパーティー会場の貸出、コントラクター(農作業の請
負)
、経営ヘルパーなどの副業を行なっている。
9.酪農の町・デイトマンスリート
▲
私たちが農家に宿泊した町がケンプテンの北に位置するデイトマンスリートだ。出迎えていただいた 40
代の若い町長であるコッホさんは元銀行マンで、町会議員をへて 1990 年から町長を務めている。面積
54,000 ㎡、人口 7,700 人、標高 700~800mの高原の町で、町の中をアウトバーンと鉄道がはしっている。
農家はすべて酪農家で、民宿を営むものも多い。町の主な産業は酪農、乳業、砂利採取業である。
目下の政策の課題は、財政難ではあるが道路渋滞の解消・バイパス建設、町の大切な地下資源である砂
利の有効活用、老人施設・学校などの社会資本の充実だという。
天気がよければ遠くにアルプスの美しい山並みが見えるということだったが、訪問した当日はあいにく
の曇り空で見ることはできなかった。街には日本のような無秩序に乱立する建物や看板はなく、教会を中
心に、昔ながらの建築様式の建物が調和よく建てられている。また郊外には牧草地が広がり、オレンジ色
の屋根の白壁の農家が点在し、美しい農村の景観が保たれている。農家の多くは、牛舎と母屋がひとつに
なった曲がり屋で、屋根裏部屋までいれると 3~4 階建てとなっている。窓にはバルコニーがついていて、
中には田舎の分校ほどもある大きな農家もある。サイロは低コストでできるバンカーサイロが主体で、日
本の酪農地帯で見かけるようなタワーサイロはない。
デイトマンスリートのホテルベアレンのレスト
ランでの町長コッホさん(中央奥)歓迎の挨拶を受
ける。左から国際農業者交流協会の家老さん、通
訳のさくらさん、町長のコッホさん、民宿協会会長
シャウブさん
10.園芸農家ノイマイヤーさん
ノイマイヤーさんはデイトマンスリートの町の中心にある教会の近くで花卉栽培を営んでいる。経営面
積は 2.7ha で、そのうち 5,000 ㎡がビニールハウスである。95%が鉢植えの花で、私たちが訪れた 2 月か
ら 3 月はゼラニウム(ドイツ人が好んでバルコニーに飾る)
、パンジー(何故かドイツ後の呼び名は”継
母”という)
、マーガレット、プリムラ、スイセン、アジサイ、夏は菊、クリスマス前にはポインセチア、
エリカ(観葉植物)
、シクラメン、などを栽培している。
販売方法は、
販売高にして仲買人に 3 分の 2、
残りの 3 分の 1 を農園に併設した直売店で販売している。
6
全国農団労第 4 回海外(欧州)農業視察
直売には墓地を併設した教会に近いことで、墓地の花の管理を所有者と契約しているのも含まれる。墓石
の前面の棺桶を埋める 1 坪弱のスペースが花壇になっており、この管理を請け負う。ドイツでは一般的な
方法で、墓守園芸と呼ばれている。
労働力は本人と妻、常傭 4 人、季節雇用 1 人の 7 人である。また、5 月の繁忙期はさらに雇用を増やす
という。
鉢の土入れは機械で行い、農薬の散布も散布機
により無人化されていた。鉢はペットボトルと同
じ材質で再生可能なポリエチレン製で花の種類に
応じたバーコードがはいっている。ハウスの暖房
は灯油と天然ガスを使用している。鉢をならべる
ベンチはプール状にしてあり潅水や液肥の施肥は
パイプラインによりベンチのプールに流し込まれ、
鉢に吸わせる方法をとっている。
直売店舗はコテージ風の建物で、花だけでなく
干し草を使ったアクセサリー、ドライフラワーや
リース、園芸用品、種子などが売られてい る。
店舗用のハウスも併設されていた。
▲育苗ハウスの中のノイマイヤーさんと通訳のさくらさん。
11.ケンプテン農林食糧事務所
▼
ケンプテン農林食糧事務所でこの地方の農業、農政、グリーンツーリズムについて説明を受けた。同事
務所は州食糧農林省の出先機関で、日本の農業改良普及センター、農林事務所、農業高校などが一緒にな
った機関だ。この事務所は農業普及(EUプレミア?、補助金を扱う)
、相談所(日本の普及センターにあ
たり、畜産、酪農、投資などの農業部門、健康な食生活の指導、農村婦人の指導、農家民宿の指導などを
行う家政部門がある)
、付属職業学校(農学校、家政学校)の 3 部門に別れている。特徴的なのは日本と
異なり、教育部門が併設されていることであろう。この付属学校は職業教育を卒業した人たちも対象にな
っており、就農前から就農後まで一貫した指導体制が整えられている。
私たちの視察に対応してくださったのは、生活普及員のアンジェラ・フィッシャーさん(女性)とオ-
バーアルゴイ地方の農家民宿協会会長シャウブさん(女性)
。アンジェラさんは家政、直販、条件不利地の
農家維持、農家民宿の指導を担当している。二人からオーバーアルゴイ地方の農業・農家民宿・民宿協会
について説明を受けた。
ケンプテン農林食糧事務所でのレクチャー。中央が
生活普及員のアンジェラさん。左は民宿協会会長シャウ
ブさん。
7
全国農団労第 4 回海外(欧州)農業視察
12.オーバーアルゴイ地方のグリーンツーリズム・農家民宿について
農家で休暇を
「農家で休暇を」をスローガンに展開されている農家民宿の歴史は古く、第 1 次世界大戦後には既に始
まっている。当時は水道もなく、宿泊客は屋外の泉で洗面などをしていたという。ホテルのような整った
設備はなくても、美しい田園風景が広がる農村で休暇を過ごすことに魅力を感じる感性が昔からこの国の
人々にはあったのだろう。
後で知った事だが、農家民宿の起こりはバイエルン州だ。また農業機械銀行もバイエルンで始まってい
る。農家民宿も農業機械銀行も、農業経営の規模拡大、生産コストの低減による農家の所得を他産業並み
に上げるということが困難な立地条件にあるバイエルン州で、小規模であっても農家同士が協力して自分
たちの暮らしや農業、農村を守っていくために生み出されたものだ。
農家の家計を支える農家民宿
▲
現在この地方では 800 戸の農家が民宿を営んでいる。民宿の形態は、75%がバス、トイレ、キッチンが
セットされたアパート形式だ。18%がシャワー、トイレ付、キッチン無で、残りはベッドルームだけでト
イレ、
シャワーは共同利用となっている。
アパート形式の民宿は広さが50~70㎡で4~5人が宿泊可能で、
ベッドルームが 2~3 部屋あり子供のいる家族連れに好評だ。朝は搾乳で忙しい農家の女性にとっても食
事の準備の手間がかからないので喜ばれていて、アパート形式が増えつつある。ただし、難点は投資額が
高いことで、農家の改造にはアパートひとつ 7 万マルクかかる。民宿用に別棟を建てている農家もあるが、
もともと農家が大きいので、母屋をアパート形式に改造することも可能だ。
民宿協会のシャウブさんは、息子が結婚するときには息子夫婦と親夫婦を 1 階と 2 階に別所帯にする予
定で、2 階にバス、トイレ、キッチンを作っているが、結婚するまでの間をアパート形式の民宿として活
用している。
食事付の場合は朝食のみで、夕食は自炊か近くのレストランでするのが一般的である。農家の朝食は質
素だが、自家製のジャム、チーズ、搾りたてのミルクは宿泊客からホテルより良い評価を得ているという。
平均利用日数は 1 戸あたり 180 日だが、宿泊客の滞在期間は、以前は 2~3 週間だったものが、最近で
は 10 日間と短くなっている。また、週末だけの利用者も増えてきた。利用者の年齢は中高年が多い。
民宿経営による収入は、ベッド 1 床あたり 1,550~2,000 マルクで、民宿 1 戸あたりのベッド数は平均 10
床である。この地方の農家所得 45,000~60,000 マルクのうち民宿による収入が 3 分の 1 で、重要な収入減と
なっている。労働時間当たりの所得は高く、マイスターの資格をもつ労働者の時給の平均が 17~18 マルクで
あるのに対し、民宿に携わる農家の女性の時給は 25~50 マルクととなっている。
シャウブさんの民宿の利用料金を例にとると、2 人用寝室が 2 部屋、リビング(寝室として利用可)1
部屋、キッチン、シャワー、トイレ、洗濯機、テレビがついたアパート形式の例で 1 泊 80 マルクからと、格
安だ。この民宿の収入で後継者である息子の給料が支払えるという。
農家は乳牛の他に、乗馬ができるよう馬を飼ったり、子供の遊び相手に小動物も飼っている。また、農
作業の体験もできるなど、魅力ある農家民宿づくりを工夫している。
農家が作っている民宿カ
ード。左の建物がこの地方
の代表的な農家の建物。右
が民宿。右下のマークはドイ
ツ農民協会の認証マーク。協
会が定めた一定の基準を満
たす民宿のみに与えられ
る。
8
全国農団労第 4 回海外(欧州)農業視察
農家民宿の支援組織―農家民宿協会と食糧農林事務所―
農家民宿を推進し支援する組織は食糧農林事務所と、農家が会員となり設立している農家民宿協会があ
り、役割分担をして農家を支援している。
州の食糧農林事務所は農家民宿に対し、経営指導、新しいサービスの提案、研修会開催、低利融資、補
助金の交付などを行い、民宿協会はパンフレットの作成、PRなどの広報活動やマーケティングを担って
いる。
農家民宿協会
民宿協会はバイエルン農民連盟が、農家民宿の利用の拡大(特に夏や冬以外のオフシーズンの利用拡大)
、
質の改善、など民宿の発展をはかるために設立した農家による農家のための組織だ。7 年前に設立され、
本部はミュンヘンにあり会員数は 2000 名。地方には地域の民宿協会が設置されている。協会の財政は民
宿の会費で賄われており、1 戸あたり 50 マルクの会費を支払う。この内 30 マルクが州協会へ、残りが地方協会
へいく。
州協会の事務局は農民連盟の職員が専門に事務局を担当し、会長は農民の中から選ばれる。オーバーア
ルゴイ地方の協会の事務局は農業機械銀行内に置かれており、農業機械銀行がパンフレットの送付や、民
宿の斡旋を行なっている。
州本部の活動は、民宿の紹介や PR のための、パンフレット・CDROM(ともに民宿カタログ)の作成
や広報活動、政府への制度政策要求を行っている。ベルリンをはじめ年 6 回開かれる見本市での広報活動
には農家の女性自ら参加して PR に努めている。農家が利用者となる街の人に接し農村を伝えることが大
切だという考えのもとに、積極的に見本市に参加しているという。資料としてもらったオーバーアルゴイ
地方の民宿が掲載されているアルゴー・シュヴァーベン地方のパンフレットはカラー刷りの豪華なもので、
この地方の美しい景観や民族衣装をまとった農家の人、農家でくつろぐ観光客などの写真を織り交ぜて、
それぞれの民宿の特徴や料金が写真付で紹介されている。巻末には予約用のはがきが付いていて、利用者
はこのパンフレットを地域の協会から取り寄せて、泊まりたい民宿に直接予約を入れることができる。パ
ンフレットには会員すべての民宿が紹介してあるわけではなくて、民宿を掲載してもらう場合は、掲載料
を 1 戸あたり 600 マルク負担している。パンフレットは有料で 1 部 5 マルクする。この地方の 97/98 版パンフレ
ットは 2 万部作成され、バイエルン全体では 10 万分作成されるという。PR は民宿協会だけでなく州観光
局もホテルと同様の扱いで行なっている。
また、農民は自ら協会を通じて州政府に対し農家民宿の発展のための制度政策を要求している。
利用者の減少と対策
しかしながら、近年の利用状況を見ると、ドイツ経済の落ち込み、失業率の増加、観光客の好みの変化
や安い海外旅行の増加などで、滞在期間の短期化だけでなく利用者の減少傾向が見られるという。今後も
この傾向は続くものと見られ、農家の収入を減らさないために、協会や食糧農林事務所では対応に迫られ
ている。
そこで、普及員にアドバイスを受けながら、民宿全体のレベルアップと利用者のニーズの把握とそれに
応じたサービスを提供するために、視察研修やサービス、接客、話し方の勉強会を開いたりしながら、農
家ならではのイベントの企画に取り組んでいるという。美しく豊かな自然環境を生かして農家がガイドと
なってハイキングや自然観察を行う企画。健康に対する関心の高まりに応えるために、病気予防、健康維
持に良い「健康農場」として、サウナや温冷水浴設備(冷水と温水に交互に入る)を設置し、健康朝食、
運動プログラムを提供するの企画。子供だけで滞在する「子供のための農場」の企画。赤ちゃんのいる家
族が安心して泊まれる設備(ベビーバス等)を整えた「ベビー農場」など様々な企画を考えている。
普及員のアンジェラさんの話しでは、今後の普及事業の重点として、乳業工場の見学と宿泊のセットな
どの企画を行うなどして、民宿と直販のリンクを推進していくという。
これらの取り組みを支援するために、政府は利用者のニーズに応じた設備の改善に対する低利融資や補
助を行なっている。
視察団からの「協会はどの民宿にもお客が利用するように配慮しているのか」という問に対し、人なつ
こそうなシャウブさんからは意外な答えが返ってきた。
「協会はそのような配慮はしない。
良い民宿には利
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全国農団労第 4 回海外(欧州)農業視察
用者が多いのは当たり前だし、利用客の少ない民宿は利用者のニーズに応える努力をしていないのだから
仕方がない。常に努力し創意工夫した農家だけが生き残ると思う」と、彼女はきっぱりといった。
みんで協力して全体のレベルアップを目標に様々な取り組みをした上で、結果に差が生じるのは個人の
努力不足だから仕方ない、助け合いと持たれ合いは違う、ということらしい。護送船団方式の時代は終わ
り、努力した農協、力のある農協しか生き残れない時代を迎えていることからすれば、ぬるま湯につかっ
てきたわれわれは頭を切り替えなければならないのだろう。
シャウブさん自身も、オフシーズン対策として低料金で様々な楽しいイベントを体験できる民宿パック
を、仲間の女性たちと共同で企画していることを話してくれた。
ドイツのグリーンツーリズムに学ぶもの
民宿の担い手は農家の女性達だが、彼女たちは積極的で社交家で活動的だ。だからこそ見知らぬ観光客
の受入ができるのだろう。民宿協会の会長は女性だし、私が宿泊したハルトマンさんの家でも、英語での
通訳、農場の案内もほとんど奥さんのロッテさんだった。デイトマンストリート最後の夜の夕食会でも女
性が目立ち、シャウブさんたちの仲間である隣町・フッセンの女性も参加していた。夕食会での挨拶で、
シャウブさんは「日本人を受け入れることは私たちにとって大きなチャレンジです」といっていたが、そ
んなバイエルンの女性はとてもたのもしく見えた。
(シャウブさんは行動力を発揮してスイスまで視察団
に同行した)
現在日本でもグリーンツーリズムの普及が試みられている。当地への視察者も多いようだ。しかし、農
家の改造には金がかかる。テーマパークは流行っても農家で休暇を過ごすという習慣は日本にはない。ま
た、無秩序な開発、耕作放棄地の増加などで美しい農村景観が失われつつある。農家民宿を普及しドイツ
と同じように農家の所得につなげるのは難しそうだ。しかし、農家民宿の取り組みが、農家の所得確保だ
けでなく、農業の価値や大切さや農村や農家を維持することの必要性について、国民の理解と合意を形成
する上で重要な役割を担っていることを私たちは学ぶべきだろう。そういう意味で、民宿とはいかないま
でも農家や農協はグリーンツーリズムの普及を農村と都市との交流の場、理解しあう場として積極的にす
すめる必要がある。と同時に、多くの人が大切だと思えるような魅力ある農業や農村を創ることも私たち
に課せられた課題だ。その中で、ドイツ同様、日本でも農家の女性の役割は重要だ。
私たちは農業や農村を守るためにデカップリングの導入を新しい基本法に盛り込むことを要求してい
るが、ドイツでは早い時期からデカップリングが導入されており、グリーンツーリズムの伝統、農家の自
助努力、地域の実情に合った州の農政の推進により国民の理解を得ている。
デカップリングがいかに必要な制度であっても、農業や農村を守ることの意味が国民に充分理解されな
いままに、政治的にこの制度が導入されるようなことがあれば、政府だけでなく農家自身が国民の批判を
あびることになるだろう。そうならないためにもグリーンツーリズムがそれぞれの地域で広まることが必
要だといえる。
▲民宿協会のパンフレット(民宿カタログ)。左下が民宿協会の会長シャウブさんの民宿。写真
の下のマークで民宿の内容が分かる。
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