肥満の形成に及ぼす食事性指肪の影響に関する栄養学的研究 - J-milk

肥満の形成に及ぼす食事性指肪の影響に関する栄養学的研究
京都大学大学院農学研究科教授伏木
亨
要約
本研究においては、肥満発症及び改善の鍵を握る体熱産生器官である褐色脂肪組織細胞の発生・
機能分化を、特に食事性脂肪との関連において解析するとともに、その作用機序について解明するこ
とを目的とした。その結果、高度不飽和脂肪酸を多量に含有する魚油は、脂質代謝制御に関与する核
内レセプタ一、ベルオキシソーム増殖剤応答性受容体 (PPAR) の活性化を介して褐色脂肪組織におけ
る熱産生機能を効果的に高め、白色脂肪蓄積の抑制をもたらす食品成分であることが示唆された。こ
のような魚油など高度不飽和脂肪酸を多く含む油脂の特性は、食品の生体調節機能として極めてユニ
ークであり、今後の食生活や食品、医薬品産業で活用されるべき有用な新しい知見であると考えられ
由。
キーワード:肥満、体脂肪、食事牲脂肪、高度不飽和脂肪酸、魚油、褐色脂肪組織、核内受容体
序論
肥満は近年、高脂血症、糖尿病、高血圧、動脈硬化症など多くの病態(生活習慣病)の発症原因と
なり、また増悪因子となることが科学的に理解されるようになってきた。このような肥満の第一の要
因としては、摂食コントロールの破綻によるエネルギーの過剰摂取ならびに体熱産生機能不全による
エネルギー消費の低下が指摘されている。食事性あるいは遺伝性肥満は、栄養学のみならず健康科
学・予防医学上極めて重要な課題であるが、その基本的な脂肪細胞形成のメカニズムさえ、この 1
0
年
前まで殆ど進展が認められなかった。しかし、近年の細胞生物学、分子生物学的手法の進歩に伴い脂
肪細胞の特性の解析法が進展し、栄養科学的な解析が可能な状況となってきている。
脂肪細胞には白色脂肪細胞と褐色脂肪細胞があり、単に脂肪細胞といえば前者を意味する。両細胞
は生体の特徴的な部位で発生・分化し組織を形成する。白色脂肪組織は、単なる脂肪の貯蔵庫であり、
代謝的に不活発な組織と見なされていた。しかし最近では交感神経系や内分泌系の制御下で褐色脂肪
も含めた脂肪組織の営む活発な代謝制御機構が認識され、脂肪組織が脂質代謝や糖代謝の接点、となっ
て生体全体のエネルギーバランスの要となっていることが明らかとなってきた。
戸般に脂肪組織として知られているものは白色脂肪組織であり量的にも多く、全身に広く分布する。
白色脂肪組織は、食物摂取後の余剰エネルギーを中性脂肪の形で貯め込み、必要な時に脂肪酸とグリ
セロールの形で全身に再供給するために特殊f
じした捺 t
rである。また、白色脂肪細胞は少なくともこ
のような脂肪の合成と分解の両能力を同時に有する細胞と定義される。白色脂肪組織は線数の制1I1
抱か
ハ
hu
qυ
ら構成さわしており、それらの細胞には、脂肪滴を貯め込んだ脂肪細胞、前駆脂肪細胞、線維芽細胞、
は乳幼児期や思
血管内皮細胞、神経細胞などがある。それらの細胞のうち成熟脂肪細胞の数は、以前i
0
0億個)が決定されると考えら
春期など限られた時期にしか増加せず、その時期に生涯の数(およそ 3
れていたが、近年の注意深い研究しよって成人になっても過剰のエネルギー摂取や運動不足などによ
億個にも達することが明らかとなってきた l 。これ
って脂肪細胞の数が増加し、肥満者では 400-600
はヒトの体を構成する細胞のおよそ 0.5-1%であるが、重量では通常約 20%前後、肥満者では 30-
40%にまで達する。脂肪細胞の直径は、 10μmから 200μmものパリエ
ションがある。
l
f
屈の成熟脂
.5-0.9pg、上限1.2μgの脂肪が含まれている。成人の軽度の肥満では、個々の脂肪
肪細胞には通常 0
細胞の脂肪含量が増加し、細胞が肥大化 (
h
y
p
e
r
甘o
p
h
y
) する。脂肪細胞の肥大化は、病態発症と深く
関連することが次第に明らかになりつつある。また脂肪細胞の大きさには限界があるため、さらに過
h
y
p
e
叩l
a
s
t
y
) を引き起こすことによって獲得したエネルギーを
剰の食物をとると脂肪細胞数の噌加 (
逃すことなく迅速に貯蔵する。また、白色脂肪細胞は脂肪を溜め込むだけではなく、それらの貯蔵エ
ネルギーを s3アドレナリン受容体を介した神経系・内分泌系の制御下に脂肪酸の形態で全身に再供
給し、生体の恒常性を維持している。
動物は本来恒常的に「飢え j に直面しており、捕獲や逃避などの活動のためのエネルギー源を体内
に貯蔵しておくことが生き残るための必須条件である。そのためか動物がエネルギーを体内に溜め込
む機構は極めて巧妙である。脂肪組織は一連の脂肪細胞の増殖と分化の過程を介して極めて効率的に
エネルギーを脂肪の形態で貯蔵する o 動物は本来生存のためにエネルギーを脂肪として体内に保持し
やすく、かつ放出しにくいという生理的特徴がある。このような本質的な特性がヒトの肥満発症と深
く関わっていると考えられる。さらに近年、脂肪細胞に関する生物学および生化学的な研究が進展す
るにつれL、脂肪細胞の新しい機能が次第に明らかとなってきた。とりわけ興味深い点は、『分泌細胞』
としての白色脂肪細胞である。成熟し脂肪滴が充満した脂肪細胞からはTNF-α などのサイトカイン類
をはじめとして各種の化学因子が細胞外に分泌され、脂肪組織内さらには全身性に強く影響を及ぼす
ことが明らかとなってきた。このような白色脂肪細胞から分泌される生理活性物質は、アディポサイ
トカイン (
a
d
i
p
o
c
y
t
o
k
i
n
e
)と命名さわしている, '。今後、このような脂肪細胞から分泌される因子類と、
o
m
m
o
nd
i
s
e
a
s
eの発症との関わりを理解するこ
肥満に伴う糖尿病、高血圧や動脈硬化症など、いわゆる c
とが栂めて震要となるであろう。
一方、褐色脂肪組織は体熱産生機能が高度に発達した器官で、組織 1kg当たり 300-400W
の熱産生
能を有する。この値は一般的な哨乳動物の基礎代謝が体重 lkg当たり 4
.1¥可であるのと比べるとはるか
に高い。褐色脂肪組織は、冬眠動物の目覚めやヒトを含む晴乳動物の新生時期の高体温維持に働く特
殊な器官として知られていたが、成人では I
勾U
H的にはほとんど確認できない。したがって、実験動物
とは異なりヒトでは褐色脂肪細胞の機能は疑問視されがちであった。しかしながら、最近、褐色脂肪
純胞での熱産牛戸分子である脱共役タンパケ質 1 (
u
n
c
o
u
p
l
i
n
gp
r
o
t
e
i
n:UCPl) と類似した複数の新しい
タンパク質遺伝子 (UCP2、 3、 4)がクローニングされ、それらがヒトの骨絡筋などに多:誌にヲWl
-37-
していることが明らかになって以来、肥満のターゲット分子としての U
CPに多大の関心が集まってい
る 3-5i。
さて、脂肪細胞はいかにして生まれてくる、すなわち発生してくるのであろうか。ここでいう発生
(
g
e
n
e
s
i
s
) とは発達に近い概念であり、多細胞から成る個体が l個の細胞から生じる過程と定義され
る、いわゆる「個体発生
o
n
t
o
g
e
n
y
J とは区別されるものである。しかしそこには、ある部位にそれ
までは存在が認められなかったものが、ある特定の時期あるいは条件下で「腫蕩細胞」のごとく出現
してくる、というニュアンスが含まれており単なる既存のものが大きくなることではない。このよう
な脂肪細胞の発生の概念の背景には、脂肪細胞の分化系譜(起源)と生理的機能の特異性が強く反映
している。脂肪細胞は、結合組織の細胞群に属し間葉系幹細胞から分化すると考えられている。この
分化系列には、線維芽細胞、軟骨細胞、骨細胞、平滑筋細胞など体の構造的枠組みを保つ細胞が含ま
れている。この系列の細胞の特徴は、その前駆細胞が結合組織に広く分布し、活発な増殖性や遊走性
を示し、適応的に既存の組織を修復、代償、更新するなどの共通点を有していることである。ただ、
それらの細胞群のうち脂肪細胞は、肥満状態を考えれば容易に推察できるように組織形成の明瞭な終
了点を持たない特異な細胞である。脂肪細胞の発生起源は、各種疾患の主要因としての脂肪組織とそ
の形成部位の重要性が認識されてきている現在、極めて重要なテーマと思われる。つまり、細胞起源
による代謝特性の相違が、病態発症と深く関連していると推定されるからである。脂肪細胞の起源に
関する初期の研究は 1
8
7
0年代からすでに始まり諸説唱えられてきたようだが、この 1
0年来の培養細胞
と分子生物学的手法の進展に伴って、(1)線維芽細胞説、 (
2
) 血管周囲の原基説および (
3
) 骨髄系細
胞説、の 3つの発生起源ルートが知られているが、未だ詳細は不明で、ある。
本研究代表者らは、肥満すなわち白色脂肪組織の過形成には、生体内の特殊なエネルギー消費器官
である褐色脂肪組織 (
browna
d
i
p
o
s
et
i
s
s
u
e:B
A
T
) の機能不全が強く影響することを示してきた。
BAT
の熱産生機能は、機能タンパク質である脱共役タンパク質<UC
P
) の発現が極めて重要な役割を
果たしている。ヒトや実験動物では若齢期においては B
ATに由来する体熱産生機能が活発に働いてい
る。ところが、加齢等に伴い B
AT
の減少とそれの連動して体熱産生機能不全が発生し、白色脂肪組織
の増加を引き起こす。しかしながらそのメカニズムは明らかではない。
本研究においては、 k記のような肥満発症及び改善の鍵を握る 2種類の脂肪組織形成に関して、体
熱産生器官である褐色脂肪細胞の発生・分化
機能発現機構を、特に食事性脂肪との関連において解
析することを目的とし、(1)マウスを附いた i
n吋 '"0実験および (
2
) 食品由来油脂摂取による脱共役タ
ンパク質<UC
P
s
)発現増強機構の核内レセプタ
レポーターアッセイによる解析を行った。
(
1)マウスを用いた invivo実験
我々はこれまでに各種油開が体脂肪の蓄積に及ぼす影響について検討し、魚、油が最も休脂肪の苔積
を抑制することを見いだしてきた。そこで、動物性脂肪としてラードを用いて、魚、 i
r
!
lの影響を比較検
38
討した。また、対照として低脂肪食群ももうけた(表 1)。興味深いことにマウスにおいては系統によ
って脂肪蓄積の容易度が明らかにされている"。本研究で用いた C57BL/6系マウスは脂肪蓄積が起
こりやすい系統であるとされており、さらに高脂肪食を摂取することにより肥満を発し病態を呈する
ことが報告されていることから、ヒトのモデルとして有用であると考えられる。
1 動物飼育実験
[方法]
8週齢の C57BL/6系雄マウスを 2
4匹購入し、最初の 1週間はカゼイン食に慣れさせるために、コ
ントロール食を用いて予備飼育した。予備飼育後、群聞に体重差がないように I群 8匹 3群に分け、
実験飼料を与えた。実験飼料は低脂肪食 (
C
)、ラード食(L)および魚油食 (
F
) の 3種類を設定した。
ラード、魚油以外の脂肪の影響を極力抑えるために、オレイン酸を 2 %のみ含む飼料を低脂肪(コン
トロ
ル)食とし、コントロール食にラード、魚油を加えた館料をそれぞれLラード食、魚油食とした
(
表 1)。マウスの飼育は、温度 2
2
2
4
"
C、湿度 50
60%に調節し、明暗は 1
2時間周期(明期 1
8:00
-6:0
0
)
で行った。飼育期聞は 5週間とし、実験飼料はp
a
i
r
f
e
e
d
i
n
g、水は自由摂取とした。飼育終了後、断頭
し、血液を採取し各種臓器を摘出した。
[結果および、考察]
各群聞の摂食量をそろえる p
a
i
r
f
e
e
d
i
n
g
'こしたため、総飼料摂取量にほとんど差がなかった。また、
最終的な体重は 3群聞においてあまり差は見られなかった。臓器重量を測定した結果、魚油群の心臓、
肝臓、腎臓がラ←ド群に比べて有意に大きく、目早臓もその傾向が見られた。さらに、脂肪組織におい
表 1 実験食の組成
(
9
/
1
0
0
9d
i
e
t
)
C
o
n
t
r
o
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Lard
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I
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wf
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2
7
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1
Casein
20
2
7
.
1
a
c
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h
58.2
2
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.
1
2
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1
Sucrose
10
10
10
M
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n
e
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lm
i
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.
5
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5
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L
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c
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d
2
2
2
Lard
23
F
i
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ho
i
l
23
o
ハHJ
。
。
表 2 ラード食、魚油食および低脂肪食にお付る体重、摂食量、脂肪組織重量等の比較
C
o
n
i
r
o
l
Lard
F
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s
ho
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I
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Bodyweight(9)
2
5
.
7土 0.
4
3 2
6
.
7士0
.
6
0 2
6
.
1+0.26
Foodi
n
t
a
k
e(k四 )
1
541.3+1
0
.
7 541.9+1
4
.
55
4
0
.
0土 8.
5
H
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t
(
g
1
1
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.
W
.
)
L
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r
0
.
5
3土 0
.
0
2abO.49+0.03b0.60+0.03a
(
g
/1
0
0
gBW)
4
.
6
4+0
.
0
8a4
.
1
1+0
.
0
7b5
.
9
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.
0
6c
SDleen
0
.
2
4土0
.
0
2 0.24+0.02 0.33+0.03
(
g
/
10
09BW)
Kidney
(
g
/1
0
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P
e
r
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r
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a
lW A
T
(
g
/1
0
0
gBW.)
EpididymalWAT
(
g
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gBW.)
MesentericWAT
(
g
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0
gBW.)
40土 0
.
0
4a1.66+0.03b
1.38+0.03a 1.
.
0
5a
0
.
8
1+0.06a
b1
.
0
1+0.07b0
.
7
2土 0
1.89+0.06a2.35+0.09b1.
4
4土 0
.
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.
0
6a1
.
2
5+0
.
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.
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0
.
9
7土 0
I
n
t
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r
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c
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D
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l
a
rBAT 0.96+0.06 1
.
1
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.
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5
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/
100gBW.)
Muscle
起立包丘止i
1
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0
4 1.03+0.03 0.96+0.03
Thevaluesaremeans土 SEMf
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r8mice.
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p<0.01).
Valuesi
naroww
i
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hd
i
f
f
e
r
e
n
tsupe陪 C同p
て、魚油群の副精巣周囲脂肪、腎周囲脂肪および腸間膜脂肪組織重量がラード群と比べて、有意に低
かった。また、肩目甲骨間褐色脂肪組織および排腹筋重量は 3群問においてあまり差は見られなかった
(
表 2。
)
以上より、脂肪を蓄積しやすい C57BL/6系マウスにおいて、魚油の摂取はラ
ド摂取に比べて白
色脂肪組織の蓄積が有意に抑えられることが明らかになった。
2 ノーザンブロット解析
体熱産生機能タンパク質である UCP
の発現に対する油脂の効果について検討するために、 UCP
各サ
ブタイフ。遺伝子の発現量の比較検討を行った。組織は 2匹分を Iつにまとめ、肩目甲骨問褐色脂肪組織、
腕腹筋、国j精巣脂肪組織から RNA を精製した。 m陪~Aの検出方法として、/←ザンプロット解析を用
いた。
[方法]
①
RNA
の抽出
RNA
の抽出は Q
u
i
c
k
p
r
e
p
T
MT
o
t
a
lRNAE
x
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t(
P
h
a
n
n
a
c
i
aB
i
o
t
e
c
h
) を用 p て行った。このキ
4
0
ットを用いる方法はこれまでの方法と比べて、最も迅速で、最も簡単で、比較的大量に高純度の RNA
を得ることができる。最終的に RNA
溶液 22
.
5
倍容の 100%EtOHと 1/10-1/9f
音容の酎+酸ナトリウ
ム溶液を加え、 -20'Cに保存した。
②平板アガロ
スグ}i-電気泳動
で 3時間平板アガロースゲル電気泳動を行った。
サブマリン型泳動槽にて 90V
③
ブロッテイング
P
h
o
t
oGene
叩
N
y
l
o
nmembranes) (
G
i
b
c
o
B
R
L
) に常法にて転写後、約8
0
'
Cのオーブン
メンブレン (
で 2時離度加熱乾燥した。
④
プレハイブリダイゼーション
DNA(ウシ胸腺、サケ精子 DNAなど)にてプレハイブリダイズし、 4
2
'
Cで一晩インキュベートした。
⑤
cDNAブ。ローブと標識
UCP
各サブタイフ。の m貯>l
Aを検出するために、特異的プロ
ブを用いる必要がある。 UCPlは当研究
により増幅させた humanUCP
lcDNA
、UCP2は北海道大学大学院獣医学研究科生学教
室において PCR
、
により増幅させた mouseUCP2 cDNA
、UCP3はG
eneva
大学医学部生医科学科にお L
室において PCR
h
'DNA
てPCRIこより増幅させた r
a
tUCP3 cDNAを用いた。 cDNA
の標識を行うために、 R
e
a
d
y
T
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G
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Ra
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l
Ii
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t(α_32pdCTP) (
P
h
a
r
m
a
c
i
aB
i
o
t
e
c
h
) を周 Lミた。鋳型DNA50-100ngを 常 法 に て い
沼
P
l
dCTPにてランダムプライムラベル標識しハイブリダイゼ←ションに使用した。
⑥
ハイブリダイゼーション
50μg/rruとなるように
プレハイブリダイゼーションの時と同様に、変性させたコ←ルドの DNAを2
S
t
o
c
kh
y
b
r
i
d
i
z
a
t
i
o
nbu
宜
"
ed二力日え、ランダムプライムラベルした cDNA
フ。ローブ;液にプレハイブリダイ
2
'
Cで一晩 (
1
6
時間以上)インキュベートした。
ゼーションの終わったメンブレンを入れ、 4
⑦
メンブレンの洗浄
washs
o
l
u
世o
n (2XSSC、0
.
1%SDS) 5
0
0
r
r
uをタツパ←に入れ、メンブレンを浸し、室混で 15min
振
o
l
u
t
i
o
nを交換しながら、 2回洗浄した。さらに、 washs
o
l
u
t
i
o
n(
0
.
1X
還しながら洗浄した。 washs
SSC、O.I%SDS) にメンブレンを浸し、 UCPlは4
2
'
C、UCP2は4
5
'
C、UCP3は4
8
'
C、それL以外の場
0
'
Cで 15min
振還しながら 2回洗浄した。 UCPlの場合、さらに washs
o
l
u
t
i
o
n (O.IXSSC、0.1%
合は 5
5
'
Cで151min
振還しながら l問洗浄した。洗浄の終わったメンプレンを
SDS) にメンブレンを浸し、 6
風乾後、サランラップに匂み、数時間後 BAS2000 (富士フィルム社製)を用いて、バンドの検出を行
った。
[結果および、考察]
各サブタイフ。m附>lAの J
C.fJi.量を調べたところ、 UCPlはラード
各群の肩目甲骨問褐色脂肪組織の UCP
群と比較して魚油群の発現量がやや多いことが確認さわした c さらに UCP2においては、コントロール
), UCP3は発現量が低い
群およびラ←ド群と比較して魚油群の発現最が有意に増加していた(凶 1
ため検出できなかった。腕腹筋においては、 UCP2はコントロ
-41ー
ル者?と比べて他の 2群が多く、 UCP
low lard F
i
s
h
UCPl
low lard F
i
s
h
結鱒鱗
UCP2
UCP2
i影 響 鰍 轡 i
「
で
問
巴
•
蜘鵬緋
s-81
i
;
ふ準
GAPDH
J
過""'.~.'&'畠.'事
図 1 褐色脂肪組織における UCPsmRNA
の発現
図 2 骨格筋における UCPsmRNA
の発現
3はコントロール群およびラ←ド群と比較して魚油群の発現量が多いことが確認された(図 2)。副精
巣脂肪組織においては、 UCP2は 3群間にあまり差は見られず、 UCP3は検出できなかった。
(
2
) 食品由来油脂摂取による脱共役タンパク質 (UCPs) 発現増強機構の解析:核内レ
セプターレポーターアッセイによる検討
生活習慣病の発症に関連があるとされている肥満は、身体に脂肪が過剰蓄積した状態として定義つ
けられている。また、脂肪の蓄積は、エネルギー摂取量がエネルギー消費量を上回る擦に起きる。従
って、肥満を防止するためには、摂取カロリーを減少させるだけでなくエネルギー消費量を増加させ
なくてはならない。
褐色脂肪組織 (
b
r
o
明
1a
d
i
p
o
s
et
i
s
s
u
e;BAT)
は熱産生能を持つとされているが、この機能は BAT
中
に存在する脱共役タンパク質 (
u
n
c
o
u
p
l
i
n
gp
r
o
t
e
i
n
s;UCPs) によるものである
ヘまた、 UCPs
発現
を増強させるような化合物についていくつか報告がなされているが、前節で、魚、池(カツオ由来)を
l
可A発
多く含む餌を摂食させたマウスにおいて、ラード会摂食動物に比べ UCPsタンパク及ひ、mR
増大し、白色脂肪組織重量が低
m量が
Fするという現象を明らかにしてきた。
UCPs
発現の制御厨子として様々考えられるが、ここでは、脂質代謝に関わる転写閃 fベルオキシソ
PPAR)yに注目した旬刊。 PPARγ はリガンド要求性であり、食餌成分、特
ム増殖剤応答性受容体 (
-42-
に油脂中の構成脂肪酸の違いが活性に大きく影響すると考えられたからである。
そこで、本研究では、食品由来油脂摂取による UCPs
発現の変動l
こPPARyが関与していると仮定し、
食品由来油脂の摂取と UCPs
発現増強機構の関係について、食品由来油脂の PPARγ に対するリガンド
特性の観点、から検討を行った(図 3)。
[方法]
アフリカミドリザル腎臓由来の培養細胞である CV-lに、リガンド結合ドメインが PPARy (ヒト由
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結合ドメインが GAL
-4 (微生物由来)から成るキメラなタンパクを合成するプラスミド
pM-PPARを構築した(図 4)。また、レポータ←遺伝子である l
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図 3 食品油脂摂取と UCPs
発現増強と体重への影響の概念図
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図 4 PPARレポーターアッセイの概念図
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化合物(食品由来油脂、脂肪酸など)を添加した培地でこの細胞を 2
4時間培養した後、ルシブヱラー
ゼ活性をルミノメータで測定し、加えた試薬の PPARi二対するリガンド結合能を評価した。
[結果および考察 l
食品由来の PPARyリガンド候補化合物として、 まず最初に、 カツオ由来の魚油及びラードをそれぞ
れ85μg/ml (TG換算で約100μM) の濃度で培地に添加した。その結果、 ラ』ドの添加では PPl
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に対する活性化能にほとんど変化が見られなかったのに対し、魚油の添加では高い活性化能を示した
(
図 5。
)
また、表 3に示したように魚油とラードの遠いとして構成脂肪酸が挙げられるため、両者に多く含
まれる脂肪酸であるパルミチン酸、 ステアリン酸、オレイン酸、 ドコサヘキサエン酸 (DHA) をそれ
ぞれ 100μMとなるよう培地に添加した。 その結果、脂肪酸の不飽和度が高いほと、 PPARyに対する活
図6
。
)
性化能が高値を示した (
魚油を添加した時の方がラードを添加した時に比べ PPARyに対して高い活性化能を示した。 また、
脂肪酸の不飽和度が高いほど活性化能が高値を示した。以上より、魚油の方がラ←ドに比べ高い活性
化能を示したのは、魚油にはDHAをはじめとする高度不飽和脂肪酸が多く含まれるためであると推察
された。
また、これまでに、 UCPs
遺伝子の転写開始部位の上流にPPARsに対する応答配列が存在することや、
UCPsmRNAの発現が PPARyの合成リガンドによって増強されるという現象が動物実験にて確認さわし
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表 3 魚油とラードの構成脂肪酸の比較
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6 PPARy活性に対する各種脂肪酸の影響
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含まれる高度不飽和脂肪酸が PPARyのリガンドになることで、 PPARyを活性化し、活性型 PPARyが
UCPs
発現を増強することで熱産生が冗進したためと推察された。
本研究においては、肥満発症及び改善の鍵を握る体熱産生器官である褐色脂肪組織・細胞の発生・
機能分化を、特に食事性脂肪との関連において解析するとともに、 その作用機序について解明するこ
とを目的とした。その結果、高度不飽和脂肪酸を多量に含有する魚油は、脂質代謝制御に関与する核
内レセプタ一、 PPAR
の活性化を介して褐色脂肪組織における熱産生機能を効果的に高め、白色脂肪蓄
積の抑制をもたらす食品成分であることが示唆された。 このような魚油の特性は、食品の生体調節機
自由として極めてユニークであり、今後の食生活や食品、医薬品産業で活用されるべき有用な新しい知
見であると考えられる。
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