自然環境保全分野の最先端技術の調査

自然環境保全分野の最先端技術の調査
○尾籠健一i・増山哲男ii・小安奈央子iii
キーワード
環境アセスメント、自然環境保全、生態系、生態系定量評価
概 要
わが国の自然環境保全分野における環境アセスメント(影響評価)では、アセスメント法の施行(1999 年)に伴い、従
来からの「動物」
、
「植物」に加え「生態系」という項目が新たに追加されたのは既知のこととなっている。しかしながら、
わが国では「生態系」に関する調査手法、解析手法など定式化されたものはなく、その評価手法となると手探り状態であ
ると言わざるを得ない。
わが国における「生態系」の予測・評価手法は、
「動物」
、
「植物」の項で明らかになった調査結果の中から、食物連鎖
の上位種、地域を代表する典型種、特殊な環境にしか生育・生息していない特殊種といった種を選定し、選定した種に対
する事業の実施に伴う環境の変化による影響をその地域の生態系を指標するものであるとみなして、予測・評価を行って
いる。この手法だと生態系が入れ子構造となっているという「全体」と「部分」の関係の観点からは部分だけで予測評価
しても全体にとって適切な結果であるという検証は出来ないままにアセスメントが実施されているという問題があると言
わざるを得ない。
このような現状において、わが国の生態系を適切に評価する手法の確立を目標として、現在、カナダ(ブリティッシュ・
コロンビア(BC)州)にて、GIS やリモートセンシングデータを用いた生態系の定量評価に関する事例を収集することとし
た。事例収集に関して、BC州バンクーバーに本社を置く Hemmera Envirochem 社に、調査目的に沿った業務を行っている
会社・団体を紹介頂き、プロジェクトの紹介を受けた。また、数例の業務について現地視察を行った。
i 環境事業本部環境部
ii 環境事業本部環境部
iii 環境事業本部環境部
1. 調査目的
1)衛星データを用いた動植物種のハビタット解
析手法
・ どのように調査対象種を選定しているか(その
理由)
。
・ 調査対象種のハビタット解析のために、どのよ
うな現地調査を行っているか。
・ ハビタット解析のためのベースデータ(土壌図、
植生図、土地利用区分図など)は、どの程度整
備されているか。
2)生態系の定量評価手法
・ HEPなど最先端の生態系評価手法あるいは良
く利用されている手法は何か。
・ 具体的な数値計算方法、解析手法などの事例紹
介
2.結果
2-1 情報収集業務とその内容
2-1-1 プレゼンテーションによる紹介業務
- 風力発電開発(Nahwitti Windfarm Project)
に伴う環境アセスメント
- 港湾埋立に伴う海域ハビタット調査、解析
( Roberts Bank における Deltaport Third
Berth Expansion Project)
- 港湾埋立による影響(Roberts Bank Container
Expansion Project)
- Robertson Environmental Service 社によるB
C州に於ける野生動物アセスメントについて
- Muskwa Kechika Management Area における管理
方法の検討
2-1-2 現地視察業務
- Vancouver Island に お け る 風 力 発 電 開 発
(Nahwitti Windfarm Project)に伴う貴重種
への対応
- Vancouver island marmot 保護対策
- Orca Sand and Gravel Project(砂・砂利採掘
に伴う環境アセスメント)
2-1-3 情報収集業務の事例報告
(1) 風力発電開発(Nahwitti Windfarm Project)
Nomis Power 社の Russ Helberg 副社長よりプレゼン
を受けた。また、現地視察を行い、調査方法の確認、
対象地の自然環境の把握を行った。
●事業概要
潜在的な風力を広域に5レベルでシュミュレーシ
ョンした結果を基にプロジェクトサイトを決定した。
選定サイトには 7m/sec 以上の風が常時吹いている
ような場所とした。一つのタービン(Vestas V80 型)
で約2Mega Watt の発電機能があり、発電効率の向
上により開発・稼働に伴うコストは大幅に軽減され
ている(1980 年代は 1kWh あたり約 38 セントだった
が 2000 年には4セント)
。さらに、カナダでは風力
発電プロジェクトを政府が推奨しており、同プロジ
ェクトには補助金が給付されている。
将来的にはタービンを 210 基建設する計画であり、
一基の建設費は約 60,000 ドルとされている。
●環境アセスメント概要
当該事業は、カナダ環境アセスメント法(Canadian
Environmental Assessment Act:CEAA)及び BC 州環
境アセスメント法(British Columbia Environmental
Assessment Act:BCEA)に基づきアセスメントの対
象事業となっているが、視察においては主に BC 州法
に準じて実施されたアセスメント(方法書にあたる
段階)について説明を受けた。報告書の項目は、
1. プロジェクトの妥当性やアセスメントの具体
的な目的、ならびに業務委託コンサルタント等
の名称
2. 事業概要(雇用人数など具体的に記載)
3. 一般市民に対する説明
4. First Nations(先住民)への説明
5. 規制関係のまとめ
6. 環境アセスメント(大気環境、陸域安定性影響、
アクセス道路等の建設による影響、タワーの建
設による影響、附帯施設(送電線、各種プラン
ト)の建設による影響、地質影響、水理・水質
影響、植生影響、野生動物影響、魚類・魚類ハ
ビタット影響、地下水影響、考古学影響、土地
利用・資源への影響、社会・経済的な影響、文
化・史跡影響)
7. 累積的な影響
8. 事故発生時等の措置
●自然環境保全分野関連事項
・ アクセス道路による水域への濁水流出による魚
類及び魚類ハビタットへの影響を解析している。
・ 風速、風向、気温等のデータを収集するため(最
低 1 年間分必要)
、高さ 60m の気象観測棟が 20
基設置されている。気象データは、衛星を利用
し遠隔地で収集・解析される。
・ タワーの基盤:振動によって生じる影響につい
て地質学、土壌学的に検討している。
・ タワーと鳥類(特に、渡り鳥)
:衝突死した事例
を基に影響が少ないものと定性的に判断してい
る。
・ 林冠を飛翔する動物がプロペラ回転時に衝突し
ない様高さをコントロールしている。
・ タービン設置箇所が渡り鳥の渡りルートになっ
ている場合は、設置場所を移動させる。
・ 猛禽類については飛翔位置が高いため、衝突の
危険性がある。米国ネバダ州では、タービンと
の衝突事故により 200 羽のイヌワシが死んだと
いう報告があるが、イヌワシが獲物を狙う際に
留まることができるような形状であったことが
原因と考えられ、形状を改変(支柱を円錐型に)
した結果、効果があった。
・ コウモリとの衝突もアメリカでは報告されてい
るが当事業では今後調査や解析を進めていく。
(2)Vancouver island marmot 保護対策
テレメトリー専門家の Doug Janz 氏より業務紹介
を受けた。また、マーモット保護センターの現地視
察を行った。
●事業概要
・ マ ー モ ッ ト 回 復 基 金 ( Marmot Recovery
Foundation)は 1998 年に設立。バンクーバー島
には保護・繁殖のため Mt. Washington を含め4
つの施設がある。
・ 施設で生まれたマーモットは、最低でも 1 年間
施設で育ててから野生へ放す。
・ 政府(州)が主体であるが、製材会社等の民間
企業も資金面で支援している。
●自然環境保全分野関連事項
・ マーモットは、以前は島中に生息していたが、
ここ 2、30 年で急速に生息地を縮めている。
・ マーモットに関する調査は1980年代から行われ
ている。以前は個体の耳にタグを付けて調査し
ていたが、当該種は一年のうち4、5ヶ月しか
活動しない(約7ヶ月は冬眠)ため、見失って
しまうことが非常に多かった。そこで、インプ
ラント(小型発信機)を用いた遠隔調査を行う
ようになった。
・ 森林伐採が被食者-捕食者の関係に影響を与え
た可能性がある。
(オオカミ、クーガー(大型の
ネコ科動物)等の大型肉食動物が増加したため
餌となるエルクやシカ等が減少し、マーモット
まで食べられるようになったのではないか、と
のこと。
)
・ インプラントは体内に移植する。ひとつ 250 か
ら 300 ドル程度で数年間使用できるため、調査
員によるモニタリングよりもかなり安価である。
・ 発信器を装着するためには個体を捕獲する必要
があるが、捕獲の手法としては、①ワナ(個体
ごと、群れごと)
、②ダート銃、③ネット銃、④
霞網等が用いられる(マーモットはワナによる
捕獲)
。
・ グリズリーベア等には、離れた位置からデータ
を回収することが可能な機器を用いている。
・ クーガー等については、林冠の下などに潜んで
いることが多いため、サテライトを用いた調査
も行われている。
(3)Orca Sand and Gravel Project
Hemmera Envirochem 社の Lisa Hewitt 氏より業務
紹介を受けた。また、現地視察を行い、調査方法の
確認、対象地の自然環境の把握を行った。
●事業概要
・ 建設工事等で使用される砂・小石等を採取する
ための採石場の拡張計画。
・ 採取された砂等は、採石場からベルトコンベヤ
ーで搬出され、海上に建設する施設で船に積み
込まれる。主な輸送先はカリフォルニア。
●環境アセスメント概要
検討されている環境影響項目は、①大気環境、②陸
上環境、③水域環境、④史跡及び考古学的資源、⑤
社会経済的要素である。
掘削は地下水位より深くなることはない。海岸に近
く、また付近の河川より海側に位置するため、地下
水への影響はないと考えられている。
●自然環境保全分野関連事項
・ 海上施設の建設及び船への採石搬入時に騒音の
発生が予想されるため、人への影響が考えられ
る箇所(集落及びキャンプ場)における調査と、
海中探査による海洋哺乳類(シャチ等)への調
査が実施されている。調査の結果、影響はない
としている。
・ 代償措置としては、過去この地域に生息してい
たと考えられるアワビの移植(175ha)が予定さ
れている。
(4)港湾埋立に伴う海域ハビタット調査、解析
(Roberts Bank における Deltaport Third Berth
Expansion Project)
Vancouver Port Authority の Darrell J.
Desjardin 氏からプレゼンを受けた。
●事業概要
・ ロバーツ・バンクにおける既存の停泊所におい
て、コンテナ保管スペースとして埋立てによる
拡張を行う。
・ 第 1 期事業では石炭、第 2 期事業ではコンテナ
を保管するための施設を整備。今回は第 3 期事
業。
・ 事業には、船舶の航行路及び停泊所の水深を増
加するための海底の浚渫、ならびに線路の再整
備も含まれる。
●環境アセスメント概要
・ BCEAA 及び CEAA に基づき、アセスメントの対象
となっている。CEAA では、Comprehensive Study
が必要とされている。
・ 26の異なるコンサルタント会社が関与してい
る。
・ アセスメントにおいて検討されている項目は、
①騒音、②光害、③景観、④社会的、地域的、
経済的要素(First Nations 対応含む)
、⑤海洋
環境(海洋哺乳類含む)
、⑥大気質、⑦水鳥及び
海岸の鳥類、⑧水質及び底質。
・ 環境影響を考慮し、当初は 80 エイカーであった
埋立て面積を 50 エイカーに縮小し、形状も変更
した。
●自然環境保全分野関連事項
・ 影響がありうる動植物及び生態系的要素として
は、アマモ(eelgrass)及びアメリカイチョウ
ガニ(Dungeness crab)があげられており、こ
れらを VEC(Valuable Ecosystem Compound:生
態系における貴重要素)として選定している。
・ First Nations も調査に参加している。
・ 現地調査では、地点サンプリング、ビーム・ト
ロール、地引き網、カニ・エビ用のトラップ、
大型無脊椎動物のサンプリング等が行われてい
る。
・ 現地調査結果をもとに、ハビタットマップを作
成。
・ GIS を用い、
調査地域の環境が他の地域と比べ特
殊であるかを検討する。
・ アマモの生育状況を「密生(dense)
」と「疎生
(patchy)
」に分類。改変により消失の可能性が
ある面積を把握(3.1 ヘクタール)
。また、空中
写真を用い、
1967 年と 2004 年のアマモの分布状
況の変化を把握(2004 年のほうが増えている)
。
・ 事業計画、地域の物理的特長、過去からの地形
の変化及び海水面の変化を把握。
・ モデル解析及び現地でのサンプリングにより、
海流の変化を予測。その結果、著しい変化がな
いことを確認。
・ Canadian Wildlife Service 、 Bird Studies
Canada 等と協議し、
特に配慮すべき鳥類を把握。
Species at Risk(生存の危機のおそれの種)に
分類されるオオアオサギ(Great blue heron)
、
オニアジサシ(Caspian tern)
、 ウミウ(Pelagic
cormorant)を選定。
・ 計画地周辺に生息する鳥類のうち6%の種に何
らかの影響を及ぼすが、ほとんどの影響は一時
的なものである、との解析結果が得られた。
( 5 ) 港 湾 埋 立 に よ る 影 響 ( Roberts Bank
Container Expansion Project)
Hemmera 社の Michelle L. Lachmann 氏よりプレゼ
ンを受けた。
●事業概要
・ 上記同様、Deltaport における港湾埋立計画。
・ Third Berth Expansion Project に比べ規模が大
きい(1,300,000TEU 拡張)ため、事業実施が決
定されればパネル・レヴュー(専門委員会によ
る協議)が必要となる。
・ 計画はまだ確定していないため、埋立てを行う
位置や形状についてはいくつかの案が示されて
(6)Muskwa Kechika Management Area における
いる。それらの案のうちひとつ(W1)を基準と
管理方法の検討
し、それぞれの環境影響を調査・比較している。
・ Deltaport Third Berth Project と同じ。
Hemmera 社の Adam J. Radlowski 氏よりプレゼン
を受けた。
●業務概要
●自然環境保全分野関連事項
・ アメリカイチョウガニの幼生は、2種類のアマ
モ(Zostera marina と Zostera japonica)の移
行地帯に多く生息しており、この地域は First
Nations にとってもノリの採集などにおいて重
要な地域となっている。
・ 空中写真の判読の後、水中カメラを用いて海底
の状況を把握しマップを作成(Seabed Imaging
・ 当該地域において、野生生物、自然資源の利用
(木材、石油・石炭等)
、産業(林業、レクリエ
ーション等)
、First Nation 等の異なる要素が共
存できるようなマネージメントの方法をモデル
ケース的に検討。
・ 現地調査、リモート・センシング及び空中写真
の判読により、ベースライン・データを作成。
and Mapping System – SIMS)
。
GIS Procedure – Wildlife Management
on the Ecosystem Level of Organization
・ アマモの生産性を算定し、各事業計画案による
Baseline Data
影響を把握。
・ 海洋哺乳類については、計画地から5km の範囲
Habitat Suitability
Apply Habitat Suitability Model
Veg1
Veg2
をボートで調査し、周辺住民等へのインタビュ
Veg1
Excellent
Veg3a
Veg3b
Veg2
Veg3a
Good
Veg3b
Poor
ーも実施している。建設予定地においても定期
Refine Habitat Suitability Model
的に調査している。
・ 代償措置についても検討し、結果を公表。
(アマモに関して)
デジタル航空写真を用いて図化され、現地調査で
Slope
Topographic
Site Factors
Final Capability
N
W
Veg1
E Aspect
Veg2
Veg3a
Veg3b
S
分布の境界線を GPS にて明らかとした。さらに、葉
面積指数(葉の長さ*幅*密度*面積/低密度の値)
を用いた相対的な生産性について定量解析している。
Habitat Model Correction
Digital Elevation Model (DEM)
DEM generated from
1:20,000 Contours
さらに、過去からの分布の推移についても航空写真
で解析している。
(潮汐解析に関して)
現地調査及びハビタットマッピングによる手法を
採用している。
Derived GIS Layers
Poor
N
Slope
W
Good
Excellent
Aspect
E
S
Animal Telemetry Data
Capability Map
Collected by University of Northern British Columbia,
Non Profit Conservation Groups and BC Government
Caribou Distribution in Late Winter
●自然環境保全分野関連事項
・ 保全対象とする野生動物種は、経済的に重要な
種、文化的に重要な種及び移動性の種から選定
した。
・ 植生区分と、斜度及び傾斜方位の情報から、こ
れらの種の潜在的なハビタットを把握。
・ 特定種(ここではカリブー等の大型哺乳類)に
ついて、遠隔調査を実施。確認地点を図面上に
落とす。
・ 現存植生図、傾斜度図、地形方位情報等をもと
にモデル解析を行い、ハビタットマップを作成。
・ ここで調査対象とされた種については、ウェブ
上で細かい情報(データの内容、意味、収集方
法等)まで公開されている。
Guidelines” をもとに、調査を行う必要のある種の
選定を行う。種の選定に際しては、関係部局(国や
州の環境局)との協議及び地域住民との協議を行う。
現地調査は、選定された種に対しての生育・生息
の有無、種の重要事項(ねぐら、繁殖地、生育・生
息地点、水質、日照など)
、生育・生息環境の状況等
の把握及びその地域のハビタットの状況を把握する
ための“エコシステムマップ”の作成が行われる。
なお、現地調査の手法は“Standards for components
of British Columbia’s Biodiversity ”、“ Best
Management Practice Guidelines”及び”Protocol
for Accuracy Assessment of Ecosystem Maps”等に
より、確立されている。
一方、日本においては既存資料・文献などにより
2-2 調査結果
2-2-1 衛星データを用いた動植物種のハビタット
(生育・生息範囲)解析手法
1)どのように調査対象種を選定しているか(そ
の理由)
。
カナダにおける調査対象種の選定の流れと日本に
おける選定の流れを図 2-1 に示す。
カナダにおいては、まず、既存資料・文献や有識
者・関連機関等へのヒアリングなどによりハビタッ
トの状況及び生育・生息する可能性のある動植物種
が把握される。把握した情報をもとに、
“Species at risk Act(生存の危機のおそれのあ
る種)
”
、
“Regionally Important Species(地域にと
って重要な種)”及び“Best Management Practice
把握される生育・生息する可能性のある動植物種を
参考に、植物相(生育するすべての植物種の確認)
、
動物相(生息するすべての動物種の確認)の現地調
査が行われる。把握された植物種・動物種の種数は、
その地域の自然環境の豊かさの指標とされることが
多い。
把握された植物種・動物種の中から RDB(絶滅の
おそれのある生物種)記載種に対しては、再度、現
地調査が行われ、その生育数(範囲)
、生息確認地点
等が把握される。
日本における生態系への影響把握は、これらの結
果を基に論ぜられることも多く、動植物種のハビタ
ット解析が行われないことが少なくない。
カナダ
○生育・生息する動植物種の把握
・既存資料、文献などによる情報収集
・有識者、関連機関等へのヒアリング
日本
○ハビタットの把握
・既存資料、文献などによる情報収集
・有識者、関連機関等へのヒアリング
○調査対象種の選定
・“Species at risk Act”
・“Regionally Important Species”など
※関係部局、現地住民との協議を行う。
○調査対象種の選定
・”Best Management Practice Guidlines”
など
※関係部局、現地住民との協議を行う。
○現地調査による確認
・調査対象種の生育、生息の有無
・種にとっての重要事項(ねぐら、繁殖
地、生育・生息地点)の把握 など
※調査手法は”Standards for components
of British Columbia’s Biodiversity”な
どにより確立している。
○現地調査による確認
・生育環境、生息環境の状況
・Ecosystem Mapsの作成 など
※調査手法は”Best Management Practice
Guidelines”、”Protocol for Accuracy
Assessment of Ecosystem Maps”などにより
確立している。
種の重要事項の取りまとめ
○生育・生息する動植物種の把握
・既存資料、文献などによる情報収集
・有識者へのヒアリング
○現地調査による確認
・植物相(生育する全ての植物種の把握)
・動物相(生息する全ての動物種の把握)
※調査時間、人数、調査員の技能により結果
のばらつきが懸念される。
○調査対象種の選定
・把握した植物相、動物相のうち、RDB
(絶滅のおそれのある生物種)記載種を選定
する。
○現地調査によるRDB記載種確認
・生育数、生育地点(範囲)など
・生息確認地点など
※調査時間、人数、調査員の技能により結果
のばらつきが懸念される。
ハビタットマップの作成
事業による影響の把握、保全措置(ミティゲーション)の検討へ
図 2-1 調査対象種の選定の流れ
※上記結果より、生態系への影響が結
論付けられることが少なくない。
ハビタット解析へ
2)調査対象種のハビタット解析のために、どの
ような現地調査を行っているか。
る種(Species at Risk Act において絶滅の危険性
カナダにおけるハビタット解析は、1)に示したと
やハビタット解析を行うための調査手法が記載され
おり、調査が必要と選定された種に対して行われる。
た“Best Management Practice Guidelines for ○
その際、主に植生図をもとにハビタットマップ(対
○(特定種)
”といった資料が存在することである。
象とした種がどの地域・範囲に多く生息しているか
これらの資料は、40~50 種ほどのものが存在してい
を図化したもの)を作成し、現地調査にて状況を確
るとの話であったが、日本においては、一部の動物
認し、範囲の変更、重み付けの変更等を行う。BC
(猛禽類等)以外の生態はほとんど把握されていな
州におけるハビタットアセスメントは通常、BC州
いのが現状である(そのことが、ハビタット解析が
における野生生物ハビタットアセスメント基準(BC
行われない要因ともなっている)
。
が高いとされている種など)については、その生態
Wildlife Habitat Assessment Standards)に基づい
て行われる。
特
筆
す
べ
き
は、
調
査
が
必
要
と
さ
れ
3)ハビタット解析のためのベースデータ(土壌
図、植生図、土地利用区分図など)は、どの程度
整備されているか。
カナダにおけるベースデータは、植生図、土壌図、
地形図、傾斜図などの日本にも存在しているものの
他、公開されているGISデータ、国や州が発行し
ている“TEM(Terrestrial Ecosystem Mapping)
”
、
種によってはハビタットマップが整備されているこ
とが特徴として挙げられる。また、国や州以外にも、
私企業が持つデータを有料だが活用する仕組みも存
在する。
環境影響評価時には、上記のもの(国や州が提供
しているもの)では不十分なため、植生図や
Ecosystem Map については、現地調査を行うことが
多いとのことであった。
現地調査の手法は、その正確性を期すため
Ecosystem Map の作成手法を記載した“Protocol for
http://www.for.gov.bc.ca/hfd/pubs/Docs
/Tr/Tr011.pdf
Accuracy Assessment of Ecosystem Maps”やハビタ
ット解析時の区分(重要さの重み)付けを行うため
の “ British Columbia Wildlife Habitat Rating
Standards”といったガイドラインが存在する(これ
らのものは、Web上で公開されている)
。
http://srmwww.gov.bc.ca/risc/pubs/teec
olo/whrs/
2-2-2 生態系の定量評価手法
結果から述べると、HemmeraEnvirochem 社による
生態系定量解析手法は、表 2-1 に示すものなどが
回答及び業務紹介によると、カナダBC州ではアメ
知られているが、これらのものはアメリカを中心と
リカのHEP等に相当する生態系の定量解析はほと
して研究・適用されているものと考えられた。
んど行われていないようである。また、過年度に国
外を対象地とした環境分野業務“MBE5405 欧州にお
ける定量的生態系評価手法に係わる事例調査“にお
いて、欧州における定量解析手法の適用事例の情報
収集を行った際にも、該当する事例は見当たらなか
った。
表 2-1 主な生態系定量解析手法
HEP
名称
Habitat Evaluation
Procedure
HSI
Habitat Suitability
lndex
HGM
Hydrogeomorphic Model
WHR
Wildlife Habitat
Relationship
WHV
AMOEBA
BEST
EPW
IBI
PHABSIM
PVA
Wildlife Habltat
value
A quantitative method
for description&
assessment of
ecosystem
内容
HSIに生急場面積を乗じたHUに、さらに年数による累積を行い、代償措置の場を評価
する。
HEPに用いる生息地評価手法であり、対象とする種が必要とする生急場のいくつかの
条件(SI Suitability lndex)から、生息場としての適性を理想的な生急場を1とし
た相対値として示す。
Wetlandのさまざまな機能について、リファレンスサイトにおける機能を1とした相
対値で評価する。さらにWetlandの全体的な評価については、数多くの機能のうち、
公衆関心の高い少数の項目を抽出し、これらに絞った総合評価を行う。
・HEPやWETなど既存の手法を広範囲にリサーチし、米国の湿地評価の標準法となる
ことを目指して開発された手法。
各動物が採食、繁殖の場として予め区分された生息場所タイプをどのように利用し
ているのかによって複数の生活型(life form)に区分し、ある行為に伴うあるハビ
タットの改変に対して影響を受ける種、影響内容を推定する。各生活型の採食と繁
殖の重要度をversatility score(V score)として定量的に表すものもある。
航空写真や現地踏査により得られた湿地の面積、形状、冠水などの情報を変数とす
る式により、Wetlandの評価値を計算する。
対象海域の生態系を構成する生物種の現存量をレーダーチャートに生物種ごとに並
べ、過去の最も自然の生態系に近いシステム(reference system)に対する相対値
として現状を評価する。
複数の生息種の個体数密度や餌量などを無次元化し、その総合計をその場所の生態
Biological Evaluation 学的価値とする。
Standardized Technique ・海域における代償措置への適用が主目的。
・評価地域と対象地域を選び、地域間の相対的な評価を行う。
湿地の6つの機能(侵食防止、水質、生物など)について、それぞれ評点を与える
Evaluation of Planned
ための簡単な規準(FCI)を作成し、FCI×面積で湿地の機能を評価し、既存湿地と新
Wetland
たに造成した湿地の比較評価を行う。
生物の種、水質、生急場の構造等について調査した指標に、リファレンスサイト
(良い生息環境の生物群集)と比較して評点を与え、これらの合計値(IBI値)を評
価値とする。
lndex of Biotic
・河川において、人間の活動が魚類群集に与える影響評価指数として定義され
lntegrity
る。・基準となるレファレンスサイトは地域によって異なるため、各地域の実情に
合わせた「地域版」がつくられることが多い。
魚類のさまざまな物理環境に対する選好曲線を求めておき、一方で流量変化などに
よる物理環境変化の予測を行うことにより、流量変動などによる物理環境変化によ
Physical Habitat
る魚類の利用可能面積(WUA)の変化を予測する。
Simulation System
・ダムからの放流水量の管理のために開発された手法。
・水資源開発に伴う流量の変化が水生生物に与える影響を評価しようとするもの。
動物、植物、生態系に関わる環境影響評価や保全のための管理・復元計画の立案に
Population viability
おいて、複数の保全第のもとでの注日する種の個休耕の絶滅可能性(絶滅確率)、
analysis
(個休群存続可能性分析) あるいはその逆の存続可能性の予測を行う手法。
(出典)
「自然再生事業の進め方に関する研究について」平成 17 年 6 月 社団法人 自然環境共生技術協会
3. 考 察
カナダで実施されている環境アセスメントや地域
3-2-2 わが国の現状
計画といった自然環境へ影響を及ぼす事業に対する
・ わが国での環境保全は、局所的に発生した 70 年
評価手法やその背景にある法的な整備状況、生態系
代の公害問題を解決する目的の一つとして考えら
の構成要素としての生物・ハビタットなどのデータ
れたものであった。それ以後、1999 年に環境影響
整備状況を明らかにし、わが国との比較を行った。
評価法が施行されたものの、現在まで、生態系アセ
3-2-1 カナダ事情
スメントにおける解析の範囲はある対象種や個体
• 自然保護を目的とした多くの条例や法が存在する。
群の分布と限定した部分的なものとなっている。
• 自然保護を目的とした多くの団体が共通の目標の
・ 生態系の予測にあたっては、
「影響の程度を科学
ために蓄積されたデータの開示を積極的に実施し
的知見や類似事例を参考に予測する。
」となど、あ
ている。
いまいなものとなっている。
• 貴重な種の分布が既に国中で押さえられている。
• 州として Wildlife Habitat Assessment Standards
が存在し、この基準に基づきハビタット図が作成さ
れる。
• カナダにおける環境アセスメントは連邦法と州法
・ 欧米の環境アセスメントの基本ともいうべき“NO
NET LOSS”の概念がわが国には無い。
• 市レベル、県レベルあるいは国レベルでの時系列で
の生態系のあるべき姿が提示されていない。生態
系の評価時における目標が存在しない。
に基づき実施され、州法はわが国のように期間が存
• 地域概況の各項目(地形・地質・動物・植物・土地
在するが連邦法(スクリーニングに 3-6 ヶ月)
、累
利用・道路網など)が有効に機能していない。こ
積影響に 18-24 ヶ月、2から3からなる有識者審議
れらは生態系の構成要素である。
は期間が内容に切られていない)は無期限である。
そこで、最近では両法の調和(Harmonaized)プロ
セスがとられている。
• GIS/RS データによる自然環境の解析はカナダでは
• 調査範囲が事業実施区域およびその周辺域であり、
空間のスケールが正確に捉えられていない。
• 時間軸がない。植生の遷移を考慮していない。自然
環境の変化の将来像が描かれていない。
通常にツールとして使用され、あえて言葉にする必
要もない存在となっている。
3-3 今後の展望
• カナダでは、自然環境の解析の際に、解析対象とす
わが国は従来の手法を保持するような傾向にある
る生物の抽出に時間を掛け、対象とする生物のハビ
が、生態系調査に関する先進的な情報整備状況及び
タットに関する情報、使用する図面のスケール、ハ
手法の一部を、今回の海外調査で確認することが出
ビタットマップを作成する目的といった“何を解析
来た。これらの情報を基に、今後、業務展開として
評価し、どうしたいか”を事前に十分な協議にて進
広域的な視点による自然環境に関する調査・解析・
めているのが印象的であった。更には、環境アセス
評価を実施し、 住民に広く受け止められる公共事業
メントに参加している会社、個人全てがメンバーと
の環境アセスメントの新たな創造に向けての一材料
して記載され、データや解析に関する責任体制を明
となることを望むものである。
また、今回お世話になった海外の環境コンサルタ
ントとの関係を維持していくことも重要である。
確にしている。
• 同じ生態系の中に既存事業や建設予定のプロジェ
クトがある場合には、当該プロジェクトの中で代償
が不可能な環境影響が累積されることによる全体
的な影響についても検討する。