うである。キャストたちの多くは、ディズニーランドが好きなのだと述べる

インゼミ C班 2章 「ディズニーで働く人について」
青木 円花
ここまでオリエンタルランドと東京ディズニーランドの歴史についてやってきたが、次
はそこで働く人について考えていきたいと思う。ディズニーで働く人は、どこのポジショ
ンで働く人でも、社員でもアルバイトでも、統一して“キャスト”と呼ばれる。なぜ“キ
ャスト”と呼ばれるのだろうか。ディズニーリゾートのキャスト募集のHPにはこう書い
てある。
“「世界中でもっともすばらしい場所を夢見て、想像することはできる。設計し、
建設することもできるだろう。しかし、その夢を実現するのは人である。
」これは、ウォル
ト・ディズニーの言葉です。東京ディズニーリゾートは、青空を背景にした巨大なステー
ジ。ここでは観るものすべてがショーであり、そこにいらっしゃったお客様はショーに参
加していただく「ゲスト」
、ゲストをお迎えするスタッフは「キャスト(役者)」と呼ばれ
ます。
”
ここでは、キャストたちの中身やディズ二―で働くことへのステータスなどについて詳
しく見ていきたいと思う。
ディズニーシ―も含めた東京ディズニーリゾートのキャストの具体的な中身は、
正社員:2,201 人 テーマパーク社員:777 人 準社員(アルバイト):18,066 人
(2012 年3月 31 日現在)
となっている。なんと従業員の9割がアルバイトなのだ。また、その中での募集者数は1
年に 9000 人近くだが、希望者数は推定 50,000 人以上だと言われている。実際に受かる人
は 10%~20%であるから、倍率は非常に高いことがわかる。
では、なぜここまで「ディズニーで働きたい!」と思わせることができるのだろうか。
理由は「夢の国」という徹底した設定と、従業員のホスピタリティーにあると言える。デ
ィズニーランドは、パークに入ると、まるで魔法にかかったかのような空間が広がってお
り、夢の中にいるような気分にさせてくれる。これは、内装や外装はもちろんのこと、ア
トラクションや待ち時間への工夫、パーク内のゴミを常に掃除したり、カラスが来ないよ
うに電波を飛ばしたりなど物理的なものから、進んで写真を撮ってくれたり、どんなとき
にも笑顔で対応してくれるというホスピタリティーが作り出す、ひとつの大きな作品のよ
うである。キャストたちの多くは、ディズニーランドが好きなのだと述べる。自分
に夢を見させてくれたディズニーランドのキャストになってゲストたちに夢を与
えたい。自分もディズニーランドという作品を作ることに参加したい!という気持
ちから、ディズニーで働きたいと思う人が多いのだと考える。根幹にあるのは、キ
ャストたちも“ディズニーファン”であるということだ。ディズニーランドとはど
んなところかを知っているからこそ、キャストになりたいと思うのである。
また、個々の発想や気付きが形になることが多く、また努力を評価してくれるシ
ステムが比較的整っているため、モチベーションが高まりやすいことも理由の一つ
であると言える。心を込めた仕事をしていてそれを評価してもらえる仕組みは、な
かなかあるものではない。私が読んだ本に、かつてディズニーランドのキャストだ
った人のこんなエピソードがあった。その人がいつものようにお城の横の橋でフォ
トサービスをしようと歩いていたところ、カメラを構えた中年の女性と大学生くら
いの女の子を見つけたので、「お撮りしましょうか」と声をかけると、すごくうれ
しそうにカメラを渡してくれる。お城をバックに二人を写してあげると、「これで
いい思い出が作れました」と深々と頭をさげ、すごく感謝されたそうだ。そのゲス
トに話しかけると、親子二人で北海道から来て、娘さんが東京で就職するため離れ
離れになってしまうので、思い出作りに来た、ということであった。そして後日、
その人のもとにそのゲストから手紙が届いた。その手紙にはこのあいだのお礼が書
いてあり、最後に、「一緒に撮っていただいた写真を北海道と東京で一枚ずつ大切
にしています。本当にありがとうございます。今度はパレードを見に行こうと娘と
も約束しました。」とあったそうだ。商品を売ったり、アトラクションに乗せたり
することだけがサービスではなく、こうしてゲストの「思い出づくり」をお手伝い
することも重要なサービスのひとつなのだ。このように、自分のやったことに対し
ての反応がゲストからダイレクトに感じられることで、モチベーションが高まり、
もっともっとおもてなししたいという感情が生まれる。そしてそのおもてなしを受
けたゲストが、自分も同じようにしてみたいと考え、キャストになりたいと思う。
ディズニーには、こうしたサイクルが自然と出来上がっていると言える。「楽しい
なぁ」「嬉しいなぁ」という気持ちを提供しようという徹底的なホスピタリティー
の育成が、「ディズニーで働きたい!」という気持ちにつながり、またディズニー
のおもてなしが素晴らしいという共通理解から、ディズニーで働くことのステータ
スになるのだと言える。
最初に述べたように、ディズニーリゾートの従業員の9割はアルバイトであり、そのう
ち年間退職者数は約 9,000 人である。人の流れがこんなにもあり、さらに9割がアルバイ
ト従業員なのに、同じホスピタリティーを保てるのはなぜなのだろうか。その理由となる
人材育成については、次の章で見ていくことにする。