三つのネッビオーロを利く

2012 Nebbiolo Prima
バローロ、バルバレスコ、ロエロ
三つのネッビオーロを利く
法定熟成期間を終えて市場にリリースされる
それぞれのヴィンテージの特徴を掴むことはで
ネッビオーロワインを一堂に集めて試飲するイ
きる。しかもボルドー ・ プリムールのような熟
ベント「2012 ネッビオーロ・プリマ」が 5 月
成中のワインの試飲ではなく、熟成を終えて市
13 日∼ 18 日にかけてピエモンテのアルバで開
場へリリースする直前のボトルを試飲するので、
催された。
ほぼ最終製品を評価することができる。
これはボルドーの「プリムール・テイスティ
ネッビオーロワイン(バローロ、バルバレス
ング」をネッビオーロワインでもやれないもの
コ、ロエロ)を試飲するのはイタリアのワイン
かと考えたアルベイサ協会が 1990 年代半ばか
ガイド誌と世界のジャーナリストの総勢 70 名。
ら始めたもの。アルベイサ協会は 1973 年にレ
試飲サンプルは全部で 350 本。これを地域毎、
ナート・ラッティの提唱で組織された。市場に
ヴィンテージ毎に分類してブラインドで試飲す
アルバのワイン、ネッビオーロワインを認知さ
る。今年の試飲に供されたのはバローロ 2008
せるために、ボルドー、ブルゴーニュのように
年(リゼルヴァ 2006 年)
、バルバレスコ 2009
独特の瓶形(アルベイサ・ボトル)をネッビオー
年(リゼルヴァ 2007 年)
、ロエロ 2009 年(リ
ロワインにも採用することでアルバの生産者が
ゼルヴァ 2008 年)。
共同歩調をとったものだった。
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アルベイサ協会にはガヤ、ブルーノ・ジアコー
バローロの試飲ヴィンテージは 2008 年。
サなど有名生産者のいくつかが参加していな
2008 年は 9 月に入ってから収穫に至るまで
いので、ネッビオーロ・プリマがランゲ・ネッ
の天候が素晴らしい年だった。 冬が穏やか
ビオーロの総意とはいえないが、この試飲で
だったので当初は葡萄の生育スピードの早い
年かと思わせたが、春を迎えても気温は一向
2007 年の中間に位置する。収穫葡萄のリンゴ
に上昇せず収穫見通しは当初のそれとすっか
酸の値が平年より低かった。一方、色素やタ
り変わったものになった。5 月と 6 月に雨が
ンニンなどフェノール類は 2003 年に比べてよ
降り、ことに開花の時期にたくさん降ったがフ
り成熟していた。総じて 2009 年は畑の作業を
ルーツセット(結果)には大きな問題がなかっ
ていねいに行った栽培家がより品質の高い収
た。ヴェレイゾンは 8 月に始まった。9 月と 10
穫を得ることができた。
月は平年より気温が高く雨も降らなかった。10
ネッビオーロ ・ プリマ 2012 のブラインド ・ テ
月初めから中旬にかけて収穫されたが、多くの
イスティングは 5 日間かけて 350 サンプル(前
生産者はバルベーラより先にネッビオーロを摘
年比 45 サンプル増)を試飲した。その内訳は
むという極めて珍しい収穫になった。その結果、
バローロ 192 本、バローロ ・ リゼルヴァ 35 本、
2008 年産はバランスがとれて長い熟成に耐え
バルバレスコ 77 本、バルバレスコ・リゼルヴァ
るものになった。試飲サンプルは全体に若すぎ
16 本、ロエロ 15 本、ロエロ・リゼルヴァ 15
て固い。葡萄のタンニンとオーク樽由来のそれ
本だった。その中で強く印象に残ったワインを
がまだ溶け込んでおらず、木肌を舐めているよ
別表(次頁)にまとめた。
萄樹はホルモンを分泌し、樹液が動き出して
萌芽へと続く。4 月初めになると気温も上昇す
うな感じのものも散見された。現時点で判断す
るのは非常に難しいサンプルが多かった。
りにスタートする。土の温度の上昇を合図に葡
ネッビオーロの栽培暦と畑作業
る。すると薄い緑の小さな葉芽が現れる。そ
バローロ村は全体に軽くて内容の薄いもの
ネッビオーロ・プリマの試飲は 5 日間にわ
れから 2 週間もすると、その収穫年が豊作か
が多くみられた。中には明らかに樽に負けてい
たって行なわれるが、いずれの日も朝 9 時か
否かについての大まかな見通しが立つ。開花
ると思われるものもあった。カスティリョーネ・
ら始めてお昼には終わる。午後はネッビオー
の時期は気象条件に一喜一憂させられる。乾
ファレットはバローロ村と比較するともっと厚
ロに関するセミナーと醸造所訪問に充てられる。
燥した天気に恵まれれば自家受粉が順調に進
みのあるものが多い。しかしここも全体に軽い
以下、セミナーの概要と訪問した醸造所の様
印象は否めない。
子を記す。
行する。新梢はぐんぐん伸びて 1 mを超える。
6 月から 7 月にかけて果房が充実し垂れ下が
一方、ラ・モッラはよく熟していてまろやか、
一つめのセミナーはアルバ醸造学校のカル
るようになる。この時期を逃さずに果房の周り
充実したフルーツの楽しめるものが多かった。
ロ・アルヌルフォ教授が「ネッビオーロの栽培
の余分な葉を取り除き、房への日当たりと風通
モンフォルテ・ダルバは充実してストラクチャー
暦と畑作業」について説明した。
しをよくしてやることが肝要だ。果房はさらに
がしっかりしている。とりわけブッシアに良い
ネッビオーロの年間成長サイクルは冬の終わ
成長して色づき(ヴェレイゾン)始める。8 月
ものが多かった。セッラルンガはアタックがや
さしく、味わいの中盤から後半にかけての力強
さが特に感じられた。
バルバレスコとロエロはバローロより 1 年若
い 2009 年産を試飲した。
DOCG バローロ
葡萄品種:ネッビオーロ
栽培地:タナロ川右岸、アルバの南西部 11 コムーネ(バローロ、カスティリョーネ・ファレット、ケラスコ、
2009 年ヴィンテージは冬にたくさん雪が降り、
ディアノ・ダルバ、グリンツァネ・カヴール、ラ・モッラ、モンフォルテ・ダルバ、ノヴェッロ、ロッディ、セッ
春先にも雨が降って、土壌の保水量は充分だっ
ラルンガ・ダルバ、ヴェルドゥーノ)
た。4 月に数日間降り続いた雨でベト病などの
発生が懸念されたが、5 月が晴れて風が吹い
たのでそれは一掃された。発芽の時期は平年
より遅めだったが、その後すぐに遅れを取り
戻して過去数年とほぼ同じようなものになった。
夏は非常に暑く乾燥していた。ことに 8 月後半
の暑さが厳しかった。ただ冬場の雪と雨が地
中深くに残っていたので、葡萄樹は事なきをえ
たのだった。
2009 年ヴィンテージは葡萄の成熟パターン
が平年とは違ったことが特徴だ。一般には栽
培品種や地域毎に収穫の順序があるが、この
年はたとえばバルベーラがドルチェットより早
く熟したので先に摘んだ地域があった。糖度
と酸度の割合で見ると 2009 年産は 2003 年と
熟成期間:3 年(このうち2年は木樽)、5年熟成すればリセルヴァ表記ができる
最低アルコール分:13%
DOCG バルバレスコ
葡萄品種:ネッビオーロ
栽培地:タナロ川右岸、バルバレスコ地区4コムーネ(アルバ、バルバレスコ、ネイヴェ、トレイーゾ)
熟成期間:2年(このうち1年は木樽)、収穫後5年目の1月以降にリリースするものにはリセルヴァが
表記できる。
最低アルコール分:12.5%
DOCG ロエロ
葡萄品種:ネッビオーロ 95%以上、ピエモンテで推奨されている黒葡萄を5%までブレンドしてもよい。
栽培地:タナロ川左岸。傾斜地で黄土色土壌の畑。
熟成期間:収穫後 2 年目の 7 月 1 日以降にリリースできる。3 年目の 7 月 1 日以降にリリースするものに
はリセルヴァが表記できる。
最低アルコール分:12.5%
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2012 Nebbiolo Prima
2012Nebbiolo Prima ブラインドテストで強く印象に残ったワイン
生産者名
ラベルに記載されたクリュ名
生産者名
村名
DOCG バローロ 2008
ラベルに記載されたクリュ名
村名
Enzo Boglietti Az. Agr.
Arione
Serralunga d'Alba
Serralunga d'Alba
La Morra など
Pio Cesare
Ornato
Montaribaldi Az. Agr.
Borzoni
Grinzane Cavour
Gemma
Colarej
Serralunga d'Alba
Bruna Grimaldi
Bricco Ambrogio
Roddi
Pira Luigi Az. Agr.
Margheria
Serralunga d'Alba
Bel Colle
Verduno
Pira Luigi Az. Agr.
Marenca
Serralunga d'Alba
Rinaldi Pietro
Verduno
Paolo Manzone
Gianni Gagliardo
Serralunga d'Alba
Alario Claudio Az. Agr.
Riva Rocca
Verduno
Germano Ettore
Prapò
Serralunga d'Alba
Bosco Agostino
Neirane
Verduno
Ascheri
Sorano Coste&Bricco
Serralunga d'Alba
Paolo Scavino
Monvigliero
Verduno
Bric Cenciurio
Coste di Rose
Barolo
DOCG バローロ・リゼルヴァ 2006
Germano Angelo
Mondoca Dardi
Barolo
Roberto Sarotto Az. Agr.
Audace
Novello
Pira - Chiara Boschis
Cannubi
Barolo
Castello di Verduno
Monvigliero
Verduno
Borgogno F.lli Serio & Battista
Cannubi
Barolo
Virna Borgogno
Sarmassa
Barolo
Vigna San Giuseppe
Castiglione Falletto
Comm. G. B. Burlotto
Vigneto Cannubi
Barolo
Bergadano
Barolo
Virna Borgogno
Cannubi Boschis
Barolo
Cavallotto Tenuta Bricco Boschis
Rinaldi Francesco e figli
Le Brunate
Barolo - La Morra
Enzo Boglietti Az. Agr.
Tenuta Montanello
Montanello
Castiglione Falletto
Gemma
Giblin
Monforte d'Alba
Franco Conterno
Pugnane
Castiglione Falletto
Sordo Giovanni Az. Agr.
Gabutti
Serralunga d'Alba
Paolo Scavino
Bric del Fiasc
Castiglione Falletto
Germano Ettore
Lazzarito
Serralunga d'Alba
Cascina Adelaide
Pernanno
Castiglione Falletto
Teorema
Treiso
La Morra
DOCG バルバレスコ 2009
Monchiero Az. Agr.
Rocche di Castiglione Falletto
Castiglione Falletto
Brovia
Rocche
Castiglione Falletto
Agricola Molino s.s.
Fontana Livia
Villero
Castiglione Falletto
Cantina del Pino
Mauro Molino
Vigna Gancia
La Morra
Olek Bondonio
Vladimiro Rambaldi
Il Lauro
La Morra
Moccagatta
Bric Balin
Barbaresco
Tenuta L'illuminata
Tebavio
La Morra
La Ca' Nova Az. Agr.
Montestefano
Barbaresco
Curto Marco Az. Agr.
La Foia
La Morra
Cascina delle Rose
Tre Stelle
Barbaresco
Gian Piero Marrone Az. Agr.
Pichemey
La Morra
Cortese Giuseppe
Rabajà
Barbaresco
Silvio Grasso Az. Agr.
Turnè
La Morra
Terre da Vino
La Casa in Collina
Treiso
Stroppiana Oreste Az. Agr.
Vigna San Giacomo
La Morra
Pelissero Az. Agr. Vit.
Nubiola
Treiso
Crissante Alessandria Az. Agr.
Galina
La Morra
Pertinace
Marcarini
Treiso
Mauro Veglio
Gattera
La Morra
Rizzi
Pajorè
Treiso
Rocche Costamagna
Rocche dell'Annunziata
La Morra
Pertinace
Vigneto Nervo
Treiso
Mario Gagliasso Az. Agr.
Rocche dell'Annunziata
La Morra
Castello di Neive
Serraboella
Neive
Santo Stefano
Neive
Barbaresco
Barbaresco
Neive
Aurelio Settimo
Rocche dell'Annunziata
La Morra
Barale Fratelli
Voerzio Alberto
La Serra
La Morra
Castello di Neive
Andrea Oberto Az. Agr.
Vigneto Brunate
La Morra
Amalia Cascina In Langa srl
Amalia Cascina in Langa
Monforte d'Alba
DOCG バルバレスコ・リゼルヴァ 2007
Abbona Marziano Az. Agr.
Pressenda
Monforte d'Alba
Produttori del Barbaresco
Pora
Barbaresco
Seghesio F.lli
Vigneto La Villa
Monforte d'Alba
Castello di Verduno
Rabajà
Barbaresco
Tenuta Due Corti
Castelletto
Monforte d'Alba
Casetta F.lli
Franco Conterno
Bussia Munie
Monforte d'Alba
Nada Giuseppe Az. Agr.
Barale Fratelli
Bussia
Monforte d'Alba
Castello di Neive
Cascina Ballarin
Bussia
Monforte d'Alba
Monti
Bussia
Monforte d'Alba
DOCG ロエロ 2009
Parusso Armando di Parusso F.lli
Bussia
Monforte d'Alba
Prunotto srl
Bussia
Monforte d'Alba
Giacosa Fratelli
Bussia
Silvano Bolmida
Diego Conterno
Treiso
Treiso
Santo Stefano
Neive
Cascina Ca' Rossa
Audinaggio
Vezza d'Alba
Cascina Val del Prete Az. Agr.
Bricco Medica
Priocca
Monforte d'Alba
Malabaila di Canale
Bric Volta
Canale
Bussia
Monforte d'Alba
Matteo Correggia Az. Agr.
Le Coste
Monforte d'Alba
Canale
Gemma
Gemma
Serralunga d'Alba
DOCG ロエロ・リゼルヴァ 2008
Guido Porro Az. Agr.
Vigna S. Caterina
Serralunga d'Alba
Renato Buganza
Bric Paradis
Guarene
Fontanafredda
La Rosa
Serralunga d'Alba
Cascina Chicco
Valmaggiore
Vezza d'Alba
Guido Porro Az. Agr.
Vigna Lazzairasco
Serralunga d'Alba
Casetta F.lli
Fontanafredda
Serralunga d'Alba
Serralunga d'Alba
Matteo Correggia Az. Agr.
18
Canale
Rocche d'Ampséy
Canale
バローロ、バルバレスコ、ロエロ
三つのネッビオーロを利く
は成長から成熟へのターニングポイントである。
ネッビオーロの仕立て方はランゲとロエロ
この頃から葡萄樹は果実の成熟にその全エネ
では伝統的にグイヨであり、枝が弓のように
ルギーを傾注するようになる。その際の重要な
なっていることからアルケットとも呼ばれている。
ファクターは高温、乾燥、充分な日照量である。
垣根の高さはおよそ 1.5 mである。
これ以降は葡萄樹のエネルギーがすべて果実
1960 年代までランゲの葡萄畑には他の作物
に直接注ぎ込まれ、糖分の蓄積、アロマ、色素、
も栽培されていた。畝間に小麦、大豆、ソラ
タンニンなどの成熟が進展する。同時に酸度
マメなどが植えられていた。その後のおよそ
が下がり野菜のような青っぽい香りの要素が減
20 年間で葡萄畑は耕作機械が使えるように造
少していく。ヴェレイゾンは果実の成熟進展の
りなおされたが平均的な品質レベルはそれぞ
シグナルだ。ネッビオーロの開花から完熟まで
れの葡萄畑が潜在的に持っているものからや
い農道が丘陵の頂上部に向かって収束してい
の日数(ハンギングタイム)はおよそ 140 日で、
や離れたように思われる。そして 1980 年代に
る。
ヴェレイゾンからは 50 ∼ 60 日である。成熟と
なって新しい耕作方法が導入されるようになっ
かつては専ら土を耕して病害を防ぎ土壌の
同時にネッビオーロの葉の色もペイル・グリー
た。葡萄栽培に適した農具が使われるように
改善に精を出したがいまは畝間に意図的にカ
ンから黄色へと変わり、ついには落葉すること
なり的確な栽培法が導入された。同時にすべ
バークロップを植えるなどの新しい手法が採用
になる。
ての葡萄品種の潜在的な品質が十分に発揮さ
されている。この方法は土壌からほんの少し
8 月の理想的な気象条件は暑いこと。でき
れることを企図して伝統手法に戻る動きも出て
の養分と水分を吸収するだけで、土壌浸食を
れば少し地面を潤すような雨が降るとよい。9
きた。
防ぎ耕作機械で土が固まることを防いでくれる
月にもほんの少し雨が欲しい。8 月が涼しいと
畑の耕作や病害予防のために農業機械を使
なかなか高度な手法である。
色づきがよくてアロマの豊かなヴィンテージに
うことはあるが、葡萄樹に対して直接施す仕事
冬の間の剪定作業はとても重要だ。一般に
なり、8 月が暑ければアルコールとボディの豊
はみな手作業である。畝のレイアウトが傾斜に
長梢には 10 芽を残すが新しいクローンの場合
かなヴィンテージになる。9 月末の雨、ことに
対して並行になり、畝間に耕作機械が入りやす
には 8 芽にするようだ。短梢は翌年の収穫の
最後の二、三日の雨は品質を損なうことに直
くなると同時に人の作業もしやすくなっている。
ために(翌年はこちらを長梢にする)2∼3
結することが多い。10 月の終わりから 11 月初
さらにこれは土壌浸食への対策も兼ねている。
芽を残している。萌芽から半月ほど経った 4 月
めにかけて落葉が始まるが、これは葡萄樹が
葡萄畑は拡張されているが、常にスロープの
の半ばにも剪定作業がある。ネッビオーロの畑
次の収穫年に向けて活力をトランクと根に集中
形や傾斜に沿って仕立てられており、斜面は
ではこの作業は数回(多い場合は 4 回)にわ
するための合図である。
畑の個々の区画が入り組んだモザイク状を呈し
たって行なう。発芽しなかった芽、副芽、トラ
ている。そして幾何学模様をした畑の中の狭
ンクから出た芽などを取り除く作業である。同
時に新梢を垂直に誘引する作業も行なわれる。
8 月には余分な果房を取り除き、残った房に養
分が集中し色素がのるよう夏季剪定をする。こ
うした作業は葡萄の品質向上とともに収穫作
業のスピードアップにつながる。同時に果房の
周囲の葉を取り除くことで果房への日当たりが
良くなる。この作業は収穫前の最後の畑作業
である。
ネッビオーロは 10 月上旬に収穫する晩熟型
の品種と考えられている。完熟の時期をきちん
と判断することが非常に重要でデリケートなこ
とだ。収穫期を迎えてもっとも大きな問題にな
るのは雨である。秋にはしばしば雨が降る。す
ぐに天候が回復してくれれば被害は小さく抑え
られる。しかし成熟期のほとんどを雨にたたら
れるのなら、その収穫年はきわめて危ないも
のになる。
ランゲとロエロの収穫は手摘みである。1
ha あたり 100 時間分の人手を要する。畑は急
峻な斜面にあり、土は泥灰土だから収穫機械
19
2012 Nebbiolo Prima
の導入は不可能ではないがなかなか難しい。
だ。
モンタルドによると、「それぞれのヴィンテー
そして栽培家は依然として収穫機械の導入に
ランゲ丘陵の標高差は 250 m∼ 600 mであ
ジの特徴はネッビオーロで造られるワインを評
疑問をもっている。ランゲの葡萄畑で収穫機
るが、ネッビオーロの栽培は約 350 mが限界
価するうえで非常に重要なファクターになって
械の導入が進まない理由は、①畑が傾斜地に
線だ。さらに南東向きで暖かい海からの風を
いる。1970 年代後半までは経済的な要素、と
あること、②栽培家はトラクターの重量で土壌
受けやすい斜面という条件がつく。標高 350
りわけ葡萄の需給に関する交渉が優先されて
がコンパクトになってしまうことを避けたいから、
mを超えた斜面にはドルチェットなど他の品種
いた。しかし 1980 年代初めになるとヴィンテー
などだ。近年はマケドニアからたくさんの労働
を植えた方がよい。ロエロ丘陵には森林が多
ジ(収穫年の特徴)がワイン造りと品質にとっ
力を得て収穫を含む畑作業に当たらせている。
くなっている。そして平地(ヴァレー・フロア)
て極めて重要だと認識されるようになった」と
かつての畑作業に比べると栽培家ははるかに
では野菜を栽培している。
いう。
畑に出かける回数が増えており、樹1本1本
傾斜地の畑は風あたりが強い。これがワイ
「今日ではヴィンテージはその年の葡萄とワ
にかける手間と時間が増えている。私はアル
ンの風味に大きな影響を及ぼす。1960 年代、
インの個性を表現し、ワインに個性と独自性を
バの栽培農家で生まれた4代目だからそのこ
1970 年代まではヴァレー・フロアにも葡萄樹
もたらすものと認識されている。ヴィンテージ
とがよく分かる。
を植えていたが今はない。ここは遅霜のリスク
に最も強く影響を及ぼすファクターは気候であ
ネッビオーロをその樹齢で見ると、3年目か
が大きく雹の被害も多い。霜害に遭ったとき、
る。ネッビオーロの栽培地は冷涼地に位置し
ら 15 年目までが若年期、15 年∼ 30 年が成年
バルベーラならば副芽(セカンドバッド)が出
ているのでなおさらだ。その他の要素としては、
期、30 年以上から 40 数年までは老年期に分
て何とか修復できるが、ネッビオーロはそうは
葡萄品種、土壌タイプ、畑の日当たり、傾斜、
けられる。ネッビオーロの中には 130 年樹もあ
行かない。
そして畑における人の関わり、畑作業などだ。
るにはあるが、それはあくまでも例外だ。葡萄
いまでは栽培家の畑への関わりがヴィンテー
樹は当該年の房を付けながら同時に翌年の生
ネッビオーロの 21 ヴィンテージ
ジに大きな影響を及ぼすことがわかってきた。
産準備もしている。だから前年の天候が不順
アルバで葡萄栽培・ワイン醸造に関する調
彼らの畑への関わりや技術がヴィンテージ間
ならその影響は翌年まで及びしばしば生産量
査会社を経営するジアンカルロ・モンタルド
の差異をより小さなものにしている。栽培家は
が減少する。
は、アルバのネッビオーロの作柄を 1966 年ま
日照の代わりになるものを探し出すことはでき
ネッビオーロの開花期は平均 2 週間にわた
で遡って調べその評価をまとめている。今回
ないけれど、天候不順の作物への影響を最小
る。開花時期が月の運行に左右されることは
は 1971 年から 2005 年までの中から特徴的な
限に食い止めることはできる」と語っている。
古い生産家なら誰でも知っていることで、いま
21 ヴィンテージを抽出して、興味深い評価を
モンタルドがネッビオーロの 1971 年 から
さらビオディナミの信奉者に聞くまでもないこと
下した。
2005 年にかけての 21 ヴィンテージについて説
明した。その際、①各ヴィンテージを 20 点満
点で評価した、②それぞれのヴィンテージを
表現するのに最も適していると思われる言葉を
モンタルド自身の感性で選んでいる、③各ヴィ
ンテージに国内的・国際的に注目された当該
年の出来事をつけ加えた。
1971 20/20 Exceptional
世紀のヴィンテージ。冬がとりわけ寒く
春は穏やか。徐々に気温が高くなって
葡萄は完璧に熟した。収穫量は平年よ
りやや少ない。
中華人民共和国が国連に加盟した
1974 15.5/20 Welcome
1972 年、1973 年という極めて厳しい二
年の翌年。よい気候に恵まれたが終盤
に来て雨が降ってしまった。
ドルチェットが DOC に認証された。
東ドイツが W 杯サッカーに勝利。ポル
トガルとギリシャの民主化の進展
1978 19/20 Great
平年とは違った年だったが最終的には
20
バローロ、バルバレスコ、ロエロ
三つのネッビオーロを利く
すばらしい収穫になった。冬は寒く春に
たくさん雨が降った。その後ずっと暑い
日が続き収穫は平年より早かった。
アルゼンチンがサッカー W 杯を獲得。
1979 17.5/20 Refined
1970 年を 1971 年の裏年(影)とする
なら 1979 年は 1978 年のそれにあたる。
この年の天候はアルバの栽培家に味方
した。上品で優美なものになった。
二人の女性首相、マーガレット・サッ
チャー(イギリス)
、マリア・デ・ロウ
ルデス・ピンタシルゴ(ポルトガル)
が誕生。
1982 18/20 Sturdy
例外的なシーズン。雪の多い冬、平穏
な春、順調な萌芽と開花、暑い夏。9
月も 10 月も順調。しっかりした逞しい
ワインになった。
サッカー W 杯(スペイン大会)でイタ
リアが優勝。フォークランド紛争。
1983 14.5/20 Fair
予期しないことが起こった年。寒暖と晴
不順だったにも拘らずすばらしい収穫に
せた。その結果、ワインにボディがつ
なったから。この年は 2000 年以前では
いたかに見えるが、実際のところはや
最も収穫の早かった年のひとつ。イタリ
や痩せていて過大評価されている。
雨の繰り返し。天候は 9 月になって漸く
ア全土でピエモンテだけが素晴らしい
数年間の試験栽培と試験醸造を経てペ
落ち着いたが、なんと 10 月初めに雪が
ヴィンテージに恵まれた。
ラヴェルガ・ピッコロ種の DOC ワイン
降った。
ロエロ・アルネイス DOC 認可。ダライ・
ポーランド連帯のレフ・ワレサ議長に
ラマにノーベル平和賞。ベルリンの壁
ノーベル平和賞。ベッティーノ・クラク
崩壊。スローフード運動始まる。
シがイタリア首相に就任。
1985 16.5/20 Impressive
1990 19.5/20 Spectacular
「乾燥の年」がぴったり。夏が焼け付く
への使用が認可された。
1996 19/20 Long-lived
冬が寒く雪も多かった。3 月、4 月も雨
が多く 5 月になってようやく気温が上昇
し始めた。6 月から夏の気 候になり 7
この年の鍵は夏。極端に暑くて長くて
ように暑く、暑さと乾燥が 9 月、10 月ま
月、8 月は安定していた。秋は穏やか
乾燥していた。だから収穫が平年より
で続いた。ワインは素晴らしいストラク
で風が吹き、昼夜の温度差が大きかっ
相当早まった。収量は平年を下回った。
チャー、フルボディだが、ほんの少しエ
た。ネッビオーロのワインはしばらく固
1984 年暮れの降霜もこの年の収量に影
レガントさに欠ける。
いタンニンのままだったが、徐々にこな
響した。
二つのドイツが統合。マラドーナのナポ
れてきている。長く熟成するワインであ
DOC ロエロが認可される。ミハイル・
リがスクデット獲得。湾岸戦争開始。
る。
ゴルバチョフがソ連共産党書記長に就
任。ペレストロイカが始まる。
1988 18/20 Excellent
1993 14.5/20 Honorable
この年の栽培家はネッビオーロを完熟
に至らしめるため精一杯の作業を施し
穏やかな冬、安定しない春。暑く乾燥
た。その結果よい収穫になったがエキ
した夏が遅れを取り戻しネッビオーロは
サイティングとまではいかなかった。だ
ユベントスがトヨタカップ(世界クラブ・
チャンピオンカップ)を獲得。
1997 18.5/20 Media-hyped
5 月まで雨の少ない穏やかな気候が続
き、6 月にたっぷり雨が降った。夏は暑
く、9 月の気候は完璧だった。メディア
しっかり熟した。この年が 3 年続きの
から あっぱれ と呼 ぶのが ぴったり
すばらしい年の始まり。
の 年。 こ れ で 末 尾 3 の 年、1973、
は至高を意味する ネ・プラス・ウルト
カナダのカルガリ冬季五輪でアルベル
1983、1993 は 3 回続けて同じような結
ラ のヴィンテージと煽ったが、私個人
ト・トンバが回転、大回転で金メダル。
果になった。
はこの評価に同意できない。
1989 20/20 Unexpected
バローロとバルバレスコの最良ヴィン
テージのひとつ。なぜ Unexpected とし
たかというと、収穫期の始まりの天候が
チェコスロバキアがチェコ共和国とスロ
香港が中国に返還される。地球温暖化
バキア共和国とに分離独立。
に関する京都議定書締結。インターネッ
1995 16.5/20 Overvalued
夏の暑さが急激な糖分の蓄積を進展さ
ト上に初ブログ登場。
1998 17.5/20 Magic
21
2012 Nebbiolo Prima
寒さの厳しい冬だったが雪は少なかっ
1997 年がもう一度繰り返されたような
年。10 月初めの6∼ 7 日にわたる雨が
た。春の気候はいつものように安定し
栽培家をいらいらさせたが葡萄の健康
なかった。夏は暑さが長続きせず、一
状態には大きな影響はなかった。
貫 性 の な い 状 態 が 9 月初 めまで 続く。
フランスがサッカー W 杯(フランス大
秋になってようやく気候が落ち着いた。
会)獲得。グーグル誕生。
そのせいか攻撃的なタンニンをもつワ
1999 20/20 Powerful
インになった。
ほぼ完璧な年。温暖な気候が非常に長
ランゲとドリャーニ・スペリオーレが
く続いたおかげでバローロ、バルバレ
DOCG に昇格。ドイツでアンゲラ・メ
スコ、ロエロはともにパワフルなヴィン
ルケル体制スタート。
テージになった。
カルロ・アゼリオ・シャンピが首相就任。
ロシア大統領にウラディミール・プーチ
ペリッセロ Pelissero
トレイーゾ
ン就任。
2000 18.5/20 American
ジョルジョ・ペリッセロ
夏の暑さが話題にのぼる。米国ではバ
バルバレスコのトレイーゾにジョルジョ・ペ
ローロとバルバレスコは世紀のヴィン
リッセロが所有する醸造所。ジョルジョはバル
「ヌビオーラ・バルバレスコ 2009」は、15
テージと囃される。大振りなボディでス
バレスコを代表する新しい世代のリーダーの一
∼ 18 か月間のバリックと大樽熟成。ボトル熟
ムーズ、すぐにでも飲めるのでそのよう
人として注目を集めている。
成は 9 か月。チェリー、フランボワーズなどの
な評価になった。それで アメリカン・
葡萄栽培はジョルジョの父と祖父が 1960 年
フレッシュなアロマ、アタックはやさしくしっか
でタンニンに丸さがある。
代に 4ha の畑からスタート。徐々に畑を買い増
り凝縮していて口中もフレッシュ。厚みがあっ
しして自家葡萄でワインを造り、1990 年代に
て酸味とのバランスがよい。
題なし。ジョージ・ブッシュが米国大統
ジョルジョが現在の醸造所を建てた。
「チューリン・バルバレスコ 2009」は 18 ∼
領に就任。
現在の自社畑は 38ha。ペリッセロを代表
20 か月バリックと大樽で熟成。9 か月ボトル熟
ヴィンテージ とした。
ミレニアム・バグ で大騒動、結局問
2001 20/20 Perfect
する畑ヴァノトゥーは 1960 年代に植えたもの。
成。ドライハーブなどの開いた香り。丸いタン
生育期の気候は完璧。天の配剤とい
ネイヴェにも小さな畑がある。ネッビオーロの
ニン、複雑な味わいだがタンニンはまだ少し
うべきか。雪の多い冬、涼しくて変わ
他にバルベーラ 10ha、ドルチェット 4 ∼ 5ha を
収斂する。
りやすい気候の春、暑いが焼け付くほ
栽培している。また白ワイン用のファボリータ
「ヴァノトゥー・バルバレスコ 2009」。ヴァノ
どではない夏、風が吹いて乾燥した秋、
やモスカートもある。ワインはすべて自社葡萄
トゥーはこの畑の旧所有者名。しかもジョルジョ
どれもすばらしかった。
で造っている。
の祖父ジョバンニのニックネームでもある。20
通 貨リラの 終 焉。9.11 同 時 多 発 テロ。
醸造所内に昨年完成したバリックセラーがあ
か月以上の新樽熟成。リコリス、ヴァニラ、ド
ヨーロッパに BSE 広がる。
2003 15.5/20 Torrid
り、1,000 樽のバリックが並んでいる。樽材は
ライハーブ、小粒のフルーツのアロマ。アタッ
すべてフレンチオーク。これとは別に熟成用の
クは優しくて丸い。未だ固さが奥にある。フレッ
誰の記憶にも未だに鮮明に残る酷暑の
50hl スラボニアンオーク樽もある。セメントタ
シュでとりわけ酸味がきれい。タンニンはまだ
夏。葡萄は急速に熟し、きわめて早い
ンクを幾つか見かけたがこれは今は使ってい
収斂する。「ヴァノトゥー・バルバレスコ 2004」
収穫期を迎えた。8 月末の大雨も記憶
ないという。珍しいのはアスティ用の密閉タン
は樹齢 40 年の葡萄で造ったもの。ペリッセロ
に新しい。
クを持っていることだ。
の 50 周年記念ボトルでもある。4 年間の新樽
イラク戦争勃発。ユベントスがスクデッ
「ファボリータ 2011」はヴェルメンティーノに
熟成、2 年間のボトル熟成。新樽由来とおぼし
ト獲得。
似た味香。ステンレスタンクで6∼ 7 か月間の
きリコリス、ヴァニラの香りが強い。口中はたっ
2004 19.5/20 Fertile
熟成。一部は大樽で熟成しブレンド。その後 2
ぷりしていて滑らか、ポートのような口当たり。
冬から春にかけての寒さが厳しく開花
か月のボトル熟成。とてもフラワリーで酸味に
味わいにもまだ樽のオークの影響が強い。うま
期の気候はとても安定していた。それ
アクセントがある。
く融合するのをじっくり待つべき。
で私は 多産の年 と名付けた。夏季
「ランゲ・ネッビオーロ 2011」は 15 か月大
「カゾット 1997」という名のバルベーラ・ダ
剪定で収量の調整をした。
樽、9 か月ボトルで熟成。樹齢の若いネッビオー
ルバを試飲した。1997 年はカゾットだけのキュ
AC ミランがスクデット獲得。EU に新た
ロで造る。新鮮なフルーツ、フランボワーズな
ヴェを始めて造った年だという。しかもこれが
に 10 か国が加わり 25 か国に。フェー
どのアロマ。やや粗さのあるタンニンだが酸味
初めてで最後。カゾット畑はこの時 65 年樹で
はきれいで、後口がクリーミー。「ランゲ・ネッ
バルベーラ 85%とネッビオーロ 15%が混植さ
ビオーロ 2010」はベリー類のアロマが支配的
れていた。それをそのまま収穫して混醸(コ
スブックがデビュー。
2005 18.5/20 Nervy
22
バローロ、バルバレスコ、ロエロ
三つのネッビオーロを利く
ファメント)した。ステンレスタンクで発酵させ
「バローロ 2006 ブリッコ・フランチェスコ」
バリック熟成。ドライハーブや甘いハーブなど
は古いクローンで収穫を遅くしている。マセ
漢方薬を想わせるアロマ。口中は丸くて心地よ
レーションは 3 ∼ 4 週間。2004 年産から約 3
い、とても複雑な味わい。きれいな酸味が生
日間のコールド・マセレーションを導入。この
きている。
時は 15 ∼ 18 ℃。これを 25 ℃まで上げてアル
ペリッセロには 14 種類のラベルがある。試
コール発酵開始。この間にデレスタージュを 4
飲したワインのすべてに共通しているのはク
∼ 5 回。発酵の最後の部分は 28℃にしてマセ
リーンであること。これが全体を貫いている。
レーション。熟成は 30 ∼ 36 か月。ドライハー
裏ラベルは貼っていない。イタリア国内には不
ブ、枯れ草、土のヒント。複雑な味わい、甘く
要なので輸出用はそれぞれの国の規則に合わ
トロッとしたアタック、パワフルで強く収斂する。
せたものを用意している。
大きな潜在力を感じる。
ロッケ・コスタマーニャ
ピラ・ルイージ Pira Luiji
Rocche Costamagna
ラ・モッラ
ロッケ・コスタマーニャのアレッサンドロ・ロカテッリ
セッラルンガ
らマッターホルンが見える。アレッサンドロは
ジャンパオロ・ピラはセッラルンガの 3 つの
ラ・モッラのアヌンツィアータ村にはレナー
2005 年に 4 部屋のアグリ・ツーリズモを始め
クリュ合わせて 12ha の畑をもち、4種のバロー
ト・ラッティとエリオ・アルターレが畑を持ち
た。アレッサンドロの祖父母は若くして交通事
ロを造っている。
醸造所を構えていることで有名だ。そしてロッ
故で亡くなった。1960 年代のことだった。そ
最も大きいクリュはマレンカの5ha。醸造
ケ・デッラヌンツィアータは全部で 30ha のクリュ
れで急遽、父母がトリノから移住して後を継い
所からその全貌が見える。なんだか見覚えの
だが、コスタマーニャはこのうち5ha を所有し
だ。アレッサンドロははじめ建築家を志したが、
ある斜面だと思ったらガヤのスペルスと同じク
ている。コスタマーニャの醸造所は斜面の頂
1996 年に父の仕事を継いだ。
リュだった。ガヤはラベルにはマレンカを表示
上部ラ・モッラ村にあり、ロッケ・デッラヌンツィ
醸造所にはバローロ熟成用のスラボニア
せずスペルスを名乗っている。
アータを見下ろす格好の位置関係だ。
オーク樽が 10 基ある。1997 年から 2000 年ま
マルゲリーアの一部も所有している。ガヤも
オーナーのアレッサンドロ・ロカテッリに連
ではバローロの熟成にもバリックを使っていた
マレンカ同様このクリュを持っている。リオン
れられてロッケ・デッラヌンツィアータの畑を
という。この醸造所が手狭になったので新しい
ダは他の4軒の栽培者とともに分割所有して
歩いた。標高は 320 ∼ 350m、土壌は石灰粘
ワイナリーをアヌンツィアータの畑の近くに建
いる。
土質である。ランゲの 4 月は雨が多い。晴れ
て発酵タンクを底に移した。
醸造所の入口にロータリー・ファーメンター
た 5 月に新梢は一日 1 ∼ 2cm 伸びるというが、
自社畑は 15ha。アヌンツィアータ 5ha、ベル
がある。これは 1999 年に購入したものだ。内
その説明のとおりに新梢は勢いよく空に向かっ
ドゥーノに5ha、そしてドルチェットとバルベー
て伸びていた。
ラが4ha 強。
1960 年代から 1970 年代までのバローロは
「ランゲ・アルネイス 2011」はアルコール
試してみた」とジャンパオロ。ようやく結論に
量産時代でこれに対応するクローンが重宝が
13.8%。ベルドゥーノの畑の葡萄。蜜蝋、ナッ
達したという口ぶりだ。熟成用のオーク樽は
部には小型のステンレスタンクがたくさんある。
「発酵容器は 10 年間かけていろいろなことを
られた。その後は品質を求めるようになり植
ツのアロマにミネラルと青い香りが少しある。
500ℓと 225ℓ。オーストリアの製樽会社の作っ
樹密度を濃くしてきた。この区画の植樹密度
フレッシュで少し甘く上品な味わい。なかなか
た 25hl 桶もある。
は 4,800 本 /ha。1本の樹からおよそ5房、1.2
複雑な味わいの白ワインだ。
ジャンパオロは 1991 年からここでワイン造り
∼ 1.4kg の葡萄を収穫する。5∼ 6 年前から
「ロッカルド 2010 ランゲ・ネッビオーロ」も
を始めた。1993 年がファースト・ヴィンテージ
強烈な日差しを避けるためのキャノピー・マネ
ベルドゥーノの葡萄。7 ∼ 8 日のマセレーション、
で、それまでは葡萄とワインを他所に売却して
ジメントを心がけるようになった。これで完熟
30hl のスラボニアオークで熟成。ティー・リーフ、
いたという。かつてはマルク・デ・グラツィア
と酸味の維持の両方を求めることができるよう
白胡椒のアロマ、タンニンは丸くてリッチ。ま
のグループに所属していた。
になった。ある意味ではピノ・ノワールとよく
だ少し収斂し、フィニッシュに少し粗さが残る
「ネッビオーロ・ダルバ 2010」はミネラルと
似たマネジメントになっているという。この畑
けれどおいしいワインだ。
ともに青さが口中に残る。ネッビオーロのきび
に は 1995 年、2000 年、2005 年、2008 年 に
「バローロ 2007 ロッケ・デッラヌンツィアー
しいタンニンがあるが、それをクリーミーに丸
それぞれ新しいクローンを植えた。いま新しい
タ」は 2 ∼ 3 週間のキュヴェゾン。24 か月の
く収めている。葡萄はセッラルンガの粘土石
クローンが成木になりよい味を出すようになっ
スラボニアンオーク熟成。ドライハーブやお茶
灰質土壌でとれたもの。
ている。
の葉、リコリスなど複雑な香り。甘く熟してい
「バローロ・セッラルンガ 2008」は、くだん
ラ・モッラの丘の上にある 19 世紀の建物
て豊か。フレッシュなタンニン、まだ若くて収
のロータリー・ファーメンターで発酵させたワ
へ移動した。天気のよい日には庭のテラスか
斂するが潜在力は大きい。
イン。初めは 1 日 1 回転、その後 6 ∼ 8 時間
23
2012 Nebbiolo Prima
ラ・ヴィッラはバローロ村(カンヌビの丘の上
部)にある。
このうちラ・ヴィッラ(バローロ)とラ・ロー
ザ(セッラルンガ)をヴァーティカルで比較し
ながら試飲した。コンダクターはもちろんエノ
ロゴのダニーロ・ドロッコ。ダニーロは毎年、
楽しい企画を用意してくれる。
【2004 年】 フレッシュなブーケ、フレッシュ・
ミントを想わせるグッド・ヴィンテージ。
「ラ・ヴィッラ 2004」 若い土壌で養分が多
く保水性が高い。フルーティで優しいタンニン。
リッチでパワフル、きっちりしたストクチャー、
余韻が長い。統合するのに時間がかかる。
ピラ・ルイージのジャンパオロ・ピラ
「ラ・ローザ 2004」 白色を帯びた粘土質。
フォンタナフレッダのダニーロ・ドロッコ
砂が多い。この砂がフローラルなキャラクター
で1回転。13 日∼ 15 日のマセレーション。フ
を与えソフトなタッチにする。フラワリー、ス
レッシュな味わい。丸く滑らかで力強いタンニ
パイシー、焙煎香、丸くてパワフル。タンニン
ン。タンニン・マネジメントが非常にうまいと
はこなれてきている。
分を残している。
【1997 年】 グローバル・ウォーミングが始まっ
た年。必要以上に葉を落としたので房が日焼
いう印象。口中にも香りにもミネラルを感じる。
発酵・熟成方法は両者とも同じ。ゆっくりポ
けしてしまった。収穫も遅すぎた。10 月までひっ
「バローロ・マルゲリーア 2008」は果実とミ
ンプオーバーをして果帽をソフトに保つ。発酵
ぱってしまった。これらはいまから考えると間
ネラルと透明感のあるワイン。発酵はセッラル
は 32℃で 3 ∼4日。アルコール発酵の後半に
違いだったと思うと、ダニーロ。1990 年代ま
ンガと同じ。大樽熟成。アタックは優しいいが
では 10 年に 2 ∼ 3 回のよいヴィンテージがあっ
「バローロ・マレンカ 2008」はミネラル、丸
25 ℃まで落とす。その後マセレーションは 22
∼ 23 ℃。1年目はバリック熟成、2年目はカ
スク(2,000 ∼ 14,000 ℓ)熟成。葡萄樹は 22
∼ 25 年樹。これを目安にして常に植え替えを
み、甘みのワイン。マルゲリーアより丸くて上質。
進めている。
ミングが起因していると思う。
まだ厳しい上質のタンニン。少しオークのタン
ニンが残っていて統合しきれていない。待て。
フレッシュな果実と酸味がきれい。これもまだ
【2001 年】 暑い夏。フルーツはしっかり濃縮
た。しかし 2000 年代は 10 年に 2 ∼ 3 回(2002、
2003 など)の悪いヴィンテージになった。まっ
たく逆のパターンで、これはグローバル・ウォー
「ラ・ヴィッラ 1997」 ドライハーブ、ドライ
待つべし。熟成は 500ℓのトンノ。
して一部はジャミーなものになった。
フラワー、枯れ草、タバコ、丸くてやさしい口
「バローロ・マレンカ 2009」は樽熟成がちょ
「ラ・ヴィッラ 2001」 ジャムのような甘い熟
当たり。余韻は長いが後口に固さが残る。
うど終わってステンレスタンクに戻したばかり
したフルーツ。リッチで甘さを感じる。タンニ
「ラ・ローザ 1997」 熱を感じる。甘く熟し
のサンプル。これから2回のラッキングをして
ンはこなれてきているがまだ固さが残る。
ている。濃縮感、チョコレート、後口はドライアッ
ボトリングされる予定。凝縮していてパワフル、
「ラ・ローザ 2001」 枯れ草、ドライハーブ。
きれいな酸味があり潜在力が大きい。リダク
ソフトで丸いタンニン。パワフル。
プする。
【1996 年】
ティヴで試飲しにくい。2008 年のタンニンはエ
【1999 年】 ダニーロがフォンタナフレッダに
「ラ・ヴィッラ 1996」 赤いフレッシュ・フルー
レガント、2009 年はリッチなヴィンテージで力
移って畑から最終ボトリングまですべて関わっ
ツ、ドライフラワー、ドライフルーツ。アタック
強いタンニン。
た初めてのヴィンテージ。
は滑らかで酸味とタンニンのバランスがすばら
「バローロ・リオンダ 2008」はミネラル、小
「ラ・ヴィッラ 1999」 華やか、ドライハーブ、
しい。後口が少し乾くが長い余韻が楽しめる。
粒のフルーツ、ヴァニラのアロマ。丸く甘いタ
焙煎、枯れ草、白胡椒のアロマ。丸く力強い
「ラ・ローザ 1996」 バルサミック、ドライフ
ンニン。これが最も力強い。バリック熟成のせ
タンニン。奥から焙煎香。おいしい。
ルーツ、ドライハーブ。アタックは優しく、甘
いかもしれない。
「ラ・ローザ 1999」 フローラル、エーテル、
さが徐々に広がりタンニンはとても滑らか。き
フォンタナフレッダ Fontanafredda
セッラルンガ
バルサミコ、トリュフのアロマ。丸みと温かみ。
れいな酸と凝縮感。後口にドライフルーツの甘
ねっとりした感じ。まだ収斂する。非常に長い
さがある。
余韻。
【1998 年】 レギュラーな年。
試飲を終えての感想。アロマは年を追うごと
にどんどん変化している。しかしタンニンはヴィ
「ラ・ヴィッラ 1998」 バルサミック、白胡椒。
ンテージの特徴を映したままで推移していて
タンニンは滑らかだがまだ収斂する。
なかなか変わらない。二つのクリュの違いより、
の単一畑がある。ラ・ローザ8ha とラッザリー
「ラ・ローザ 1998」 ドライハーブ、舌触り
ヴィンテージの違いが大きかった。
ト(ヴィエッティと同じ)はセッラルンガの畑で、
はシルキーで口中に厚みがある。まだ固い部
バローロの巨人フォンタナフレッダには三つ
24
◆