メダカ、カワバタモロコの紹介

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図 1- A:メダカの群れの写真。
川那部浩哉、水野信彦 編・監修(1989)『日本の淡水魚』(山渓カラー名鑑)より引用
図 1-B:生き物調査で、ビオトープのメダカを映した写真。
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①
②
図 1-C: 日本のメダカの写真 。
① 茨城県産のメダカ
② ヒメダカ
山崎浩二 著( 2010 ) 『世界のメダカガイド』文一総合出版から引用。
①
①
②
②
ビオトープの生き物調査での
カワバタモロコの写真
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<はじめに>
ビオトープでは、今のところ、二種類の魚類が生息しています。 「メダカ」と「カワ
バタモロコ」です。 かつては、水田、ため池、小川でごく普通に見られた魚たちです
が、もう、めったに見られません。今では絶滅危惧種になってしまっている魚たちで
す。 そんなメダカとカワバタモロコは、かつてはごく身近にごく普通に見られた生物
なのに、いまでは絶滅に瀕してしまっていて、環境の悪化の象徴としての絶滅危惧
種と考えられます。希少な種が、そこに生き続けているということは、そこの生態系
がバランスのとれた良好な状態で保全されていることに他ならないです。そんな希
少な魚類2種が、ビオトープでは立派に生きています。 このことは、とても重要な
ことです。そのようなメダカ、カワバタモロコの基礎的な情報を、簡単にまとめて紹
介します。
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<メダカ>
メダカ科メダカ族
Oryzias latipes latipes
図.5 メダカの写真 。
川那部浩哉、水野信彦 編・監修(1989) 『日本の淡水魚』(山渓カラー名鑑)より引
用。
メダカは日本在来の淡水魚です。平野部の水田、用水路、沼、池などに生息し
ています。動植物プランクトンや藻類、小さな昆虫などを食べて生きている雑食性
の魚です。日本国内に自然分布して、北限が青森県から南限の沖縄本島まで広く
生息しています。日本人にとってとてもなじみの深い魚です。むかしは、日本中どこ
の水田にもみられ、小さくて可愛らしいらしいポピュラーな小魚ですが、近年は野
外で姿を見ることは急激に少なくなってしまいました。この30年ほどで、メダカの生
息地は、あっというまになくなってしまい、1999 年 2 月 18 日に発表されたレッドリ
ストでは、「絶滅危惧Ⅱ類(VU)」(絶滅の危険が増大している種)になってしまいま
した。
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これは、当時マスコミに大きく取り上げられ、ごくごくありふれた小魚だったメダカ
が脚光を浴びることになりました。 属名 Oryzias がイネの属名 Oryza に由来して
いるくらい、メダカは水田周辺でごく普通にいた魚です。メダカの産卵時期がちょう
ど水田に水を張る時期と一致して、水田で孵化した子供は水田で餌を食べてすご
し、成長します。成長して、水田から水がなくなる秋頃に用水路に移動してそこで
越冬し、その翌年の春にはまた用水路から水田に移動して産卵します。メダカの
暮らしと稲作のサイクルがたまたま一致したので、水田が格好の生息場所となっ
た、まさに「水田の魚」です。
メダカが居なくなった原因として、

殺虫剤や除草剤などの農薬。

大型区画水田化と乾田化や、用水路の整備でため池が使われなくなった。

都市近郊の造成工事。

生活排水や工場排水での汚染。

用水路をコンクリートで固めてしまったことや用水路そのものがなくなった。
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
用水路と水田の落差が大きくなってメダカが移動できなくなった。

産卵のための水草が減ったり、なくなってしまったこと。

外来魚のブラックバスやブルーギルが食べてしまうこと。

競合するやカダヤシやグッピーを人間が放流したのでメダカが駆逐された。
などなどあるようですが、一番の原因は、大型区画水田化と乾田化と用水路の
整備ですみかがなくなったことのようです。
今では、一部の水田、用水路やため池に細々と生きている程度にまで激減して
しまいました。
ところが、環境保護や環境教育を目的に、メダカを安易に放流することが各地で
行われています。メダカには地域ごとや、生活環境の違いに固有の遺伝的変異が
ありますが、安易な放流のために、大規模な、いわゆる「遺伝子汚染」の問題が深
刻です。せっかく、メダカの保護をしようとしているのに、それがあだとなって、「遺
伝子汚染」となり、近年叫ばれる「生物多様性」の保全がうまくいっていません。
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メダカを守るためには、生息場所をひとつでも多く残すことのほうが重要といわ
れています。メダカを守るためには、生態を知ることが必要ですが、しかし、メダカ
の野生での生態は意外なほど研究されてさえいません。
さらに、最近、観賞用や教育教材として大量に養殖され、販売されているヒメダ
カの安易な放流が深刻です。ヒメダカと野生メダカの交雑が心配されています。
メダカの生息地はメダカに限らず、いろんな希少な動物・植物の生息地です。多
様ないろいろな生物の保全ができてこそメダカの本当の保全もできる、といわれて
います。
<カワバタモロコ>
コイ科ダニオ亜科ヒナモロコ族
Hemigrammocypris rasborella
図 6、カワバタモロコの写真。
カワバタモロコ保全推進協議会ホームページ
URL:http://www.city.kobe.lg.jp/life/recycle/environmental/tayosei/kawabatam
oroko.html より引用
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日本だけに住む、日本固有種 です。 東海地方から九州北部に住んでいる小魚
です。 かつては、池、沼、ため池、小川、水路などにたくさん見られた、ごく普通の
ごく一般的な小魚でしたが、激減してしまい、現在ではほとんど姿がみられない状
況です。 ブラックバスやブルーギルが強力な捕食者だったり、競争者であったりす
ることも激減の一つの要因と考えられています。 今では、激減して、環境省のレッ
ドデータリストの 絶滅危惧ⅠB 類(EN)(近い将来野生での絶滅の危険性が高い)
に入ってしまっています。
また、水産庁の「日本の希少な野生水生生物に関するデータブックの希少種」と
されてしまっていたり、兵庫県レッドリストでは、A 類(兵庫県内において絶滅の危
機にあり、緊急・厳重な保護対策が必要な種)2府 16 県そして、2 市のレッドデー
タブック(滋賀県、三重県、愛知県、岐阜県、豊田市などなど)で、絶滅危惧種、そし
て絶滅危惧種に相当する種となってしまっています。早急な保護対策が必要で
す。 カワバタモロコが激減してしまった理由として、
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河川改修。

川や水路のコンクリート三面張り構造化。
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
圃場整備等での生息環境の悪化(水田と用水路、河川、ため池が分断)。
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開発、埋め立てなどで生息地が失われてしまった。

生息地の管理をやめてしまったので、生息環境が悪化 、荒廃した。

ブラックバスやブルーギルなどの外来魚が食べてしまう。
などなどいろいろな要因が考えられています。 しかし、カワバタモロコを保護し
ようとしても、生態の情報がほとんどない状況です。 メダカと同じく、緊急な実態調
査と保護が望まれています。 特に考えないといけないことは、カワバタモロコをビ
オトープで積極的に保護していても、 ビオトープ内でのカワバタモロコの生態、生
活史情報を調べた例はめったにないのです。 このことからも、 ビオトープのカワバ
タモロコはきわめて重要 です。
またカワバタモロコは隔離された狭い「ため池」などで、世代交代を繰り返すと、
生態的にも形態的にも、遺伝的にも、その生息地に適応した独自の個体群を形成
すると言われています。ですので、形態的にも遺伝的にもビオトープ独自のカワバ
タモロコ個体群となっている可能性が高いです。 このことからも、 ビオトープのカワ
バタモロコはきわめて重要です。
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【参考文献 】
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URL:http://www.fish-isj.jp/event/2009/kenkyu/160.pdf
岩松鷹司(2009) 「野生メダカの生息調査から見た生物多様性国家戦略の現状。」
愛知みずほ大学 瀬木学園紀要 3:8
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URL:http://www.env.go.jp/press/file_view.php?serial=9944&hou_id=8648
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URL:http://www.pref.okayama.jp/uploaded/life/278439_998722_mi
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川那部浩哉、水野信彦 編・監修(1989) 『日本の淡水魚』(山渓カラー名鑑)山と渓
谷社
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社団 法人日本水産資源保護協会発行(1998)「日本の希少な生水生生物に関す
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URL:http://biotopetokushima.yu-yake.com/130000_031.pdf
向井貴彦(2010) 「国内外来魚問題とは?シリーズ・Serises 日本の希少魚類の現
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URL:http://www.apn-.org/newjp/activities/symposiaInHyogo/symposi
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ウム 「いのちが共生する兵庫を私たちの手で未来へ~ 生物多様
性を考える NGO・NPO,市民の Hyogo 対話 ~」 2010 年 9 月 9 日,
兵庫県神戸市 )
吉村元貴・浦部美佐子( 2011)丘陵地のため池魚類相の現状~大阪府南河内地
域におけるため池魚類相調査を通して~
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URL:http://homepage2.nifty.com/mugituku/exchange/2011/photo/yo
shimura.pdf
山崎浩二 ( 2010 ) 『世界のメダカガイド』 文一総合出版