ちょっと得する!経営情報 - 薦田社会保険労務士事務所

薦田社会保険労務士事務所
ちょっと得する!経営情報
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2012 年 5 月発行 ◆
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自動車運転者の適正な労働時間管理は?
∼ 「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」
ゴールデンウイーク中に発生した関越自動車道での高速ツアーバス事故は大変痛まし
い事故でした。
私事ながら、私の娘も関西の大学に通っており、帰省時には高速バスをよく利用していま
すので他人事とは思えませんでした。
被害に遭われた方とご家族の方におかれましては、本当にお気の毒であったと思いま
す。
事故がどうして起こったのか、調査結果が徐々に明らかになってきており、事故を起こし
たバス会社には、数多くの法令違反があったとも報道されていますが、焦点となりそうなの
は、 運転手の過労 ではないかと思います。
今回のように居眠り運転をするなど、人の生命を預かるような重大な責任を負っているバ
ス運行においては、決して許されるはずはありません。
運転手本人には、その責任の重大さを胆に命じて、運転前の体調管理に努める義務があ
りますが、運転を命じる側であるバス会社側にも、運転手に対する指導教育の義務がある
のは当然として、過労につながらないような運行管理を行う必要があります。
バスは、通常の乗用車と比べてはるかに大きな重量がある上、大勢の乗客を乗せて運
行しているだけに、いざ事故が発生したとなると、他者(他車も含めて)及び乗客に重大な
被害をもたらします。
また、トラックについても、その重量が大きいだけでなく、危険物を運搬することもあるた
め、こちらも事故となると乗用車の事故と比較して大きな被害をもたらしがちです。
このため、過労による事故を防止するために、また、そもそも通常の労働時間の規制を
そのまま適用することが困難な特性を有しているため、通常の労働時間管理とは異なった
基準が設けられています。
そこで今月は、バス運転手を中心として、バス、トラック、タクシー運手者の労働時間管
理のために設けられている基準をご案内したいと思います。
http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/roudoujouken05/
(自動車運転者の労働時間等の改善の基準)
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Ⅰ.自動車運転者の労働時間管理に特有の概念
労働基準法では、その第四章で「労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇」と規
定しています。
しかし、自動車運転者の労働時間等の改善の基準には、拘束時間、休息期間という特
有の概念が登場します。
これは自動車運転者の実態を考慮した結果であり、通常の労働時間管理では対応しき
れないことが多々あるからです。
拘束時間、休息期間とはどのようなものかというと・・・
拘束時間・・・始業時刻から終業時刻までの時間のこと。
したがって、拘束時間は労働時間と休憩時間から成ります。なお、
労働時間には時間外労働時間と休日労働時間を含み、休憩時間には
仮眠時間を含みます。
拘束時間=労働時間+休憩時間
休息期間・・・勤務と次の勤務の間の期間のこと。労働者にとって全く自由な時間
であり、睡眠時間を含む労働者の生活時間。
休息期間
終業
拘束時間
始業
休息期間
終業
始業
拘束時間が長くなれば休息期間は短くなります。
つまり、労働者にとって自由な時間が少なくなり、これが過労につながる可能性が高まりま
す。このため、拘束時間の長さについての限度が設けられています。
Ⅱ.拘束時間の限度
(1)1 日の拘束時間の限度
ここでいう 1 日とは、始業時刻から起算した 24 時間のことですが、この 1 日の拘束時
間は 13 時間以内が原則です。ただし、16 時間を限度に延長することは可能です。
1 日 24 時間は、拘束時間か休息期間になりますから、拘束時間が最長の 16 時間であっ
たとしても 8 時間は休息期間を確保できることになります。
1 日(24 時間)=拘束時間(16 時間以内)+休息期間(8 時間以上)
なお、休息期間は、継続して 8 時間以上必要とされており、仕事から仕事の間は継続し
て 8 時間以上空けないといけない、ということになります。
ちなみに、拘束時間を 15 時間超へ延長できるのは 1 週間に 2 回までしか認められま
せん。拘束時間 15 時間=休息期間 9 時間のことですから、拘束時間が 15 時間超となる
回数が 2 回までということは、休息期間が 9 時間未満となる回数も 2 回まで、ということと
同じことです。
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←
始業時刻から起算した 24 時間
→
拘束時間
休息期間
(16 時間以内・13 時間以内が基本)
(継続 8 時間以上)
15 時間超は 1 週間に 2 回まで
1 日の拘束時間の限度をみたしているかどうかを具体的に見てみると・・
まず、始業時刻から 24 時間を 1 日ということから、上の 5 つの例は全て 8 時から翌日
の 8 時までが 1 日となります。
この 8 時から翌日の 8 時までの 24 時間で、拘束時間が 16 時間以下、休息期間が 8 時
間以上という要件を満たしているかで判断していくことになります。
1 番目、2 番目はこれらの要件をともに満たしているため基準に適合しています。
3 番目は拘束時間が 17 時間あることから基準を満たしません。
(17 時間拘束となると、始業時刻から 24 時間での休息期間も 7 時間となってしまうため不
可)
5 番目も同様に基準不適合です。
4 番目は休息期間が 7 時間のため基準を満たさないことになりますが、拘束時間でみても
休息期間後の 7 時から 8 時までの 1 時間を 24 時間以内の拘束時間として加算しなけれ
ばならないため、拘束時間が 16+1=17 時間となってしまいます。
4 番目のように始業時刻が日によって異なっていると(特に後の日の始業時刻が早まって
いると)、始業時刻から 24 時間を 1 日とみるというルールがある以上、後の日の始業時刻
以後の時間を通算する必要が出てくることがありますので注意が必要です。
この 1 時間は前の日の 24 時間に含まれる
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(2)4週間を平均した1週間当たり拘束時間の限度
4週間を平均した1週間当たり拘束時間の限度は 65 時間が原則です。
1日の拘束時間の限度が13時間であり、13×5=65となることから、通常の労働時間の
限度が週40時間、1日8時間、8×5=40となるのと同じ発想でしょうか?
ちなみに、ここでは(1)として1日の拘束時間の限度を先にご案内していますが、改善基
準では、(1)と(2)が逆、つまり4週平均の1週間当たり拘束時間が最初に示され、その
後に1日当たりの拘束時間が示されています。
(労基法第 32 条が、まず週の労働時間の限度を規定し、次に 1 日の労働時間の限度を
規定しているので同じです。)
(労働時間)
第三十二条 使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働
させてはならない。
2 使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を
超えて、労働させてはならない。
なお、これにも例外が認められており、書面による労使協定があれば、以下の者に対し
ては 4 週間を平均した 1 週間当たりの拘束時間を 71.5 時間まで延長できることになっ
ています。ただし、4 週間を 1 単位と考えたときに、年 4 単位までしか認められません。
(年 52 週÷4 週=13)
貸切バスを運行する営業所において運転の業務に従事する者
貸切バスに乗務する者
高速バスの運転者
4 週間の集まりは、1 年(52 週)÷4 週=13 ある。
このうち 4 単位(16 週分)まで、4 週間を平均した 1 週間
当たりの拘束時間を 71.5 時間まで延長できる。
なお、1 週間当たり 65 時間ということは、65 時間×4 週間=260 時間ということですか
ら 4 週間の拘束時間の合計が 260 時間以下であればよいことになります。(ただし、1 日
の拘束時間の限度、延長回数の限度をみたしていることは当然必要。)
また、労使協定がある場合は、71.5 時間×4 週間=286 時間以下ということになります。
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(3)休日について
休日についても、やや特殊です。
つまり、
改善基準告示上の休日=休息期間+24 時間の連続した時間
(いかなる場合も 30 時間を下回ることはできない)
とされています。
(1)でご案内のとおり、休息期間は原則として 8 時間確保することが必要ですから、原
則的には、休日の時間数は「休息期間 8 時間+24 時間=32 時間」以上の連続した
時間となってきます。
下の左図は 8 時間の休息期間と 24 時間の連続した時間=32 時間、拘束されておら
ず、改善基準告示上の休日となります。
これに対し、右図は休息期間こそ 8 時間あるものの、その後の連続する時間が 16 時間
しかなく(24 時間を下回っている)、これらの合計時間数が 30 時間を大きく下回っていま
す。
なお、隔日勤務の場合は、休息期間を 20 時間以上確保させなければならないという
基準があるため、休息期間 20 時間+24 時間=44 時間以上の連続した時間でなけれ
ばなりません。
その他、休息期間分割の特例、2 人乗務の特例、フェリーに乗船する場合の特例の場
合には、休息期間+24 時間の時間が 30 時間に満たない場合もありえるものの、やはり
30 時間以上の連続した時間を与えなければ休日としては認められないことになっていま
す。
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Ⅲ.運転時間の限度
拘束時間だけでなく、実際の運転時間についても限度が定められています。
これについても拘束時間と同様に、(1)1 日の運転時間の限度、(2)4 週間を平均した 1
週間当たりの運転時間の限度が定められています。
(1)1 日の拘束時間の限度
1 日の運転時間については、2 日(始業時刻から起算した 48 時間をいいます。)
平均で 9 時間が限度となります。
ここでも、拘束時間と同様に後の日の始業時刻が早まった場合には、後の日の運転時
間を加算してこの限度以内かを判断する必要があります。
なお、2 日平均を見る場合の基本は以下のように、特定の日を起算日として 2 日毎に
区切り、その 2 日間の平均で判断します。
特定日
特定日とその翌日の
平均で判断する
この 2 日間平均で判
断する
この 2 日間平均で判
断する
この 2 日間平均で判
断する
しかし、これについても実態を考慮した例外が認められています。
この場合の判断基準では、次の①②がともに 9 時間を超える場合に改善基準告示に違
反しているとされます。(①又は②の一方が 9 時間を超えても違反ではない。)
①・・・(特定日の前日の運転時間+特定日の運転時間)÷2
②・・・(特定日の前日の運転時間+特定日の運転時間)÷2
具体的には、以下のようになります。
まず、上段は、特定日+翌日の平均が 9.5 時間で 9 時間を超えていますが、前日+
特定日の平均が 9 時間であり、二つの平均とも 9 時間を超えているという要件に当ては
まらないため改善基準告示に違反していないことになります。
次に中段は、特定日+翌日の平均、及び、前日+特定日の平均がともに 9.5 時間であ
り 9 時間を超えていますから改善基準告示違反となります。
下段についても、それぞれの平均が 9 時間であり、ともに 9 時間を超えるという要件には
あてはまらないため改善基準告示に違反していないことになります。
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(2)4 週間を平均した 1 週間当たりの運転時間の限度
4 週間を平均した 1 週間当たりの運転時間は 40 時間が限度です。
これは、労働基準法の原則である週の労働時間が 40 時間以下という基準と一致しま
す。
なお、Ⅱ(2)で 4 週間を平均した 1 週間あたりの拘束時間の限度についての箇所で、
労使協定があれば特例が認められていましたが、ここでも同様に労使協定の締結を条
件とした特例が認められています。
特例の内容は、52 週間のうち 16 週間までは、52 週間の運転時間が 2,080 時間を超え
ない範囲内において、4 週間を平均した 1 週間当たりの運転時間を 44 時間まで延長で
きるというものです。
ちなみに、労働基準法では労働時間の特例として、10 名未満の商業等の場合には
週 44 時間労働を認めていますが、52 週間で 2,080 時間という基準は、2,080 時間÷52
週=40 となりますから、原則的な 1 週間の労働時間である 40 時間は厳守するということ
です。
つまり、どこかの 4 週間で 40 時間を超えたなら、どこかの 4 週間で 40 時間を下回って、
最終的には週平均で 40 時間にしなければならないという規準になっています。
(3)連続運転時間の限度
運転開始後 4 時間以内又は 4 時間経過直後には運転を中段して 30 分以上の休憩
等を確保しなけばなりませんが、1 回の休憩が 10 分以上であるならば分割することが認
められています。
3 段目は 4 時間経過直後の休憩でないために 30 分の休憩があっても改善基準告示違
反、4 段目は分割する場合には 10 分以上という要件を満たしていないため改善基準告
示違反となります。
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Ⅳ.時間外労働及び休日労働の限度
「Ⅰ. 自動車運転者の労働時間管理に特有の概念」でご案内のとおり、拘束時間には
時間外労働時間と休日労働時間を含んでいます。
このため、時間外労働と休日労働は拘束時間の 1 日の限度である 16 時間以内である
必要があります。
また、4 週間の拘束時間の限度である 260 時間(4 週間平均の 1 週間当たりの拘束時
間限度が 65 時間であることから、逆に 65 時間×4 週=260 時間となる。)以内としなけ
ればなりません。
なお、労使協定の締結で、4 週間平均の 1 週間当たりの拘束時間限度 71.5 時間となっ
ている場合には、71.5×4=286 時間が限度となります。
時間外労働、休日労働をさせるためには、当然、36 協定の締結と労基署長への届出
が必要です。
なお、休日労働は2週間に1回しかさせることはできません。
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