うつと脳損傷 - なやクリニック

うつと脳損傷
うつ病は、脳損傷に引き続いてよく起こります。脳損傷者は、次のようなことに直面するで
しょう、つまり職場に戻れない、完全には良くならない知的な欠陥がある、友人を失う、疲れ
やすい、怒りや欲求不満の処理がうまく行かないなどです。さらに、彼等はかつてこうしたう
つ状態を乗り切るために使った方略を喪失しており、もう一度こうしたことを学習しなおさね
ばならないのです。
多くの要因が、脳損傷の後のうつ状態の程度に影響します
以下の各項目について考慮することが重要です。
・生活状況
・経験した外傷的ストレスの程度
・それぞれの生活状況の受け止め方
・外傷の前の本人の性格や精神状態、感情の安定性
・脳損傷の程度
・回復の段階
・他の身体的状態、たとえば心疾患や腎障害があると、うつの症状の原因となったり増悪因子
となったりします。
症状
うつ状態に良く見られる症状は次のようなものです:
・気分、たとえば極端な悲しみ、絶望、感情反応の平坦化、いらいら感
・思考形態、たとえば希望の喪失、悲観的な考え
・行動の仕方、たとえば装いに注意が向かなくなる、引きこもり
・身体症状、たとえば睡眠障害、食欲の変化、疲れやすさ
こうした変化のいくつかは、ABI(後天性脳損傷)の後によく見られる症状なので、うつ
状態の発症を認めるのは難しいかもしれません。うつ状態というのは通常わずかな程度から大
変重症までの範囲で連続的に起こります。したがって、考慮すべき重要な点は、うつ状態の程
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堺脳損傷協会「脳 損傷の知識」
度がどのくらいで、どのくらい継続するかということです。多くの人は、自分なりの方法で、
うつ状態をコントロールすることが可能です。それ以外の人では、心理的サポートであるとか、
他の専門家による治療が必要になります。
なんらかの治療を計画したり、今の治療法がうまく行っているかどうかを評価するときに考
慮すべき最も大切なことの一つは、うつ病の本人が、自分自身の生活をコントロールできてい
ると感じているかどうかということです。しっかり管理できていないという感じがある場合に
は、うつが悪化したり、さらにうつ状態に引き込まれます。
内因性と外因性のうつ病
治療法はあまり変らないのですが、うつ病は外因性(反応性)うつ病と、内因性(器質性)
うつ病に分けられます。前者は、人生の出来事が、あなたのうつを回避し良い精神状態を保つ
能力を上まったときに起こります。後者は、脳内の化学的過程の直接の結果起こってきます。
外因性うつ病も、抗うつ剤でよくなる可能性があります。しかし、生活の変更や対処法によ
って原因に働きかけることにより、薬物治療が要らなくなるかもしれません。
内因性うつ病は、生活の変更や対処法によって良くなることもありますが、医学的な治療が
おそらく必要でしょう、時には長期にわたって必要でしょう。
うつ状態とうまく付き合うために自分でできる方法
次のような方法が、ABIの人によって示されてきました。それらはおそらく有用であると
思われます。
・昼寝をする
・音楽を聴く
・テレビを見る
・自分のやりたいことに取り組む
・人と交わる
・ウオーキングや他の運動
・精神的な刺激 (これは認知リハによっても可能)
・自分の活動の予定を作り、短期間の計画を作る
・自分に語りかける、あるいは空想での挑戦
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自分への語りかけ(セルフトーク)
セルフトークは不適切であったり狼狽するような考えを修正するのに有効なテクニックです。
狼狽するような考えを建設的な説明で置き換えるような技術を練習する必要があります。たと
え ば 、「 私 は 役 に 立 た な い 、 何 も ち ゃ ん と で き な い 」 と 考 え る の で は な く て 、「 私 の 記 憶 力 は 私
を落胆させる。これからはダイアリーを上手に使おう」のように建設的な考えに改めることが
できます。セルフトークの別の形では、考え直しカードを用意するというのもあります。考え
直しカードには、状況にあった助けになる対処法が書かれています。カードは持ち歩き、何ら
かの状況で役に立たない考えが浮かんだときに読むのです。たとえば、公共の乗り物に乗って
い る と き に 、 じ ろ じ ろ 見 ら れ た と き に う ま く や る た め の 言 葉 は 、「 人 が 私 を 見 て い る の は 、 私
が足を引きずって歩くのはなぜだろうという自然な好奇心によるものだろう、これは人間の本
性の一部だ」です。
ピアサポート
うつ病も含まれますが、健全な精神状態を維持するためには、人との交流が重要であるとい
うことを決して馬鹿にしてはいけません。有名な著書“メランコリーの解剖学”において、こ
の 本 は 1621年 に 刊 行 さ れ た の で す が 、 ロ バ ー ト ・ バ ー ト ン は 書 い て い ま す 。「 こ の 単 純 な 教 訓
を 守 る べ し 、 孤 独 に な る こ と な か れ 、 怠 惰 で あ る こ と な か れ 」。 人 と の 交 流 、 と り わ け ピ ア サ
ポート(仲間による支援)はうつ病の人にとってしばしば絶大な助けになります。
あなたの地域の脳損傷協会、あるいは精神保健協会が脳損傷もしくはうつ病のピアサポート
グループに引き合わせてくれるでしょう。
運動
怠惰であることなかれ。繰り返し研究によって、運動がうつの症状を和らげることが示され
ています。大うつ状態は運動だけでは治療できないでしょうが、わずかでも確実に良くなりま
す。とりわけ、うっとうしい気分に襲われたら、運動は気分を良くしてくれるだけでなく、あ
なたのリハビリを促進します。
もしあなたが現在身体的な損傷の回復過程であったり、脳損傷の結果、身体障害があるなら、
運動プログラムについてあなたの主治医かリハビリチームの人に相談して見ましょう。
うつ病の治療法
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衝撃的な出来事の後にうつを経験するのはよくあることで、上に挙げた方法に加えて、治療
が必要になることがあります。治療の選択肢には次のようなものがあります:
心理療法
この方法は、通常は軽度あるいは中程度から重度までのうつ状態にもっとも有効です。一般
的に、最重度のうつ病の人は、他の介入たとえば入院や投薬が必要になります。精神状態が改
善したのちには、心理的サポートによってさらに症状を軽減したり、継続したメンタルな管理
が提供されることになります。
抗うつ剤の投与
心理的な治療にあまり反応しないうつ状態の人には、心理的治療と平行して薬物が使われま
す。投薬により、脳内の化学物質のレベルが適正化され、うつ状態が改善します。うつ状態は
しばしば脳内のある化学物質が過剰であったり、減少していたりして起こります。そうした化
学物質は、我々の身体の中で自然に作られ、我々の気分や思考、行動、睡眠、エネルギーレベ
ル、食欲、注意の集中力といった日常的な機能に影響します。うつ病の場合には、医師は化学
物質の減少に対処するために、投薬を勧めるでしょう。
薬剤の選択は、次のようなことを考慮して行われます:
・副作用
・患者のかつての薬剤への反応
・飲んでいる他の薬剤との相互作用
・大量摂取における安全性
ほとんどの抗うつ剤は、患者が何らかの精神的身体的な変化に気づくまでに約2週間かかり
ます。服薬は少なくとも4~6週間は試してみないといけません。そしてたとえ患者が2,3
ヶ月後に良くなったと感じても、おおよそ6から12ヶ月は、一般的に服薬を継続すべきです。
薬に関しては、かかりつけ医や精神科医と相談するようお勧めします。
電 気 痙 攣 療 法 ( ETC)
電気痙攣療法は評判が良くないかもしれません、とくに映画においてですが、これは重度の
う つ 病 の 治 療 に は と て も 安 全 で き わ め て 有 効 な 治 療 法 な の で す 。 ETCは 頭 皮 を 通 じ て 脳 に 電 流
を通し、痙攣を誘発することで効果があります。電流は心臓にとって安全なようにコントロー
ルされ、患者は全身麻酔をかけられ、体のひきつけを避けるために筋弛緩剤が投与されます。
ETCに よ っ て 近 時 記 憶 が 失 わ れ る こ と が あ り ま す が 、 最 近 の 方 法 で は 、 脳 の 半 球 だ け に 通 電 す
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ることによって最小限に抑えることが可能です。
ECTは 通 常 最 後 の 手 段 と し て 使 わ れ ま す 。 う つ 病 が 他 の 治 療 法 に 反 応 し な い と き で す 。
自殺
脳損傷から生還した人が直面する多くの困難を考慮すると、ときとして自殺を考えるという
のはありうることです。こうした時期には支援を求めたり、あるいは医師の診察をもとめるこ
とが必須です。というのは、適切な支援があれば、普通はこうした重症のうつ状態を切り抜け
られるからです。
自殺の症状は、常にうつ病の症状と同じというわけではありません。気をつけねばならない
兆候は以下のとおりです:
・「 死 ん で し ま っ て い た 方 が 良 か っ た ん だ ろ う な 」 と い っ た 発 言 を し た り 、 自 殺 を し そ う な 脅
かしをする。
・長いうつ状態の末に、急に突然陽気になる(自殺で解決しようと決心したことを示す可能性
が あ る )。
・もしも後天性脳損傷の人が以前に自殺未遂をしたことがある場合には、きっかけを知ってお
くべきですし、専門家の助けを得るように支援しましょう。
・自殺の計画をしている、実行する手段を手に入れている。
実行計画を立てているということを決して見過ごしてはなりません。すべての自殺をほのめ
かす発言には対応すべきですが、計画を立てて実行手段を手に入れているときは、緊急事態と
して、専門家の援助が必要なサインです。もしも状況が危機的であれば、000をコールしま
す *。
脳損傷が直接うつ病の原因なのでしょうか?
うつ病は脳への損傷が直接の原因になっているのか、それとも損傷が本人とその生活に及ぼ
した影響によるのかは、まだ議論の余地があるところです。
2007年のオンラインのサイエンス誌に掲載された報告によると、うつ病と海馬(側頭葉
内 に あ る Cの 形 を し た と こ ろ で 、 短 期 記 憶 の 場 所 で も あ り ま す ) に お け る 活 動 レ ベ ル の 低 下 に
は相関があるということです。海馬は情動(感情を経験すること)に中心的役割を果たしてい
ると信じられていますが、詳しいことはいまだにわかっていません。この結果からすると、海
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馬への損傷が直接うつにつながったのではと示唆していますが、はっきりさせるためにはより
詳しい研究が必要です。
*
… 日 本 に お い て 、 自 殺 の 実 行 の 可 能 性 が 急 迫 し て い る 状 況 で は 、 警 察 ( 110番 ) に 保 護 を 求 め る こ と に
なるかと思われます。
( ク イ ー ン ズ ラ ン ド 脳 損 傷 協 会 フ ァ ク ト シ ー ト よ り 許 可を 得 て 翻 訳 転 載 )
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