妙高大橋のPCケーブル損傷に伴う 外ケーブル補強と今後の維持管理

妙高大橋のPCケーブル損傷に伴う
外ケーブル補強と今後の維持管理について
宮下
1高田河川国道事務所
2高田河川国道事務所
孝1・小林
憲一2・加藤
久紀2・島津
副所長(道路)
(〒943-0847
道路管理第二課
(
美砂子2
新潟県上越市南新町 3-56 )
同
上
)
一般国道18号妙高大橋は,妙高市坂口新田に位置し,昭和47年に供用開始され40年間経過し
た,橋長300mの4径間連続PC箱桁橋である.平成21年12月の補修工事中に一部のPCケーブ
ルの破断が発見された.これを受けて,高田河川国道事務所では「妙高大橋保全検討委員会」
を設置し,詳細調査を行った.その結果全体で22本のPCケーブルの破断が確認された.
詳細調査の結果を踏まえ,委員会は今後の対応方針を決定した.この方針に従い抜本的対策
として橋梁架替を行うこととし,‘外ケーブル補強’と‘モニタリングや定期的な詳細調査を行う
維持管理’の両面で橋梁架替完了までの約10年間の暫定対策を実施することとした.
キーワード
PC箱桁橋,PCケーブル破断,橋梁架替,外ケーブル補強,維持管理
1. はじめに
これを受けて,高田河川国道事務所では「妙高大橋保
全検討委員会」を設置し,全3 回の開催を経て,抜本的
一般国道18号は上越地方と関東地方を結ぶ重要路線で, 対策として橋梁架替を行うこととし,以下の方針が決定
大型車交通量の多い路線である.
された.
妙高大橋(写真-1)は新潟県妙高市坂口新田に位置し,
太田切川,旧国道18号を跨ぐ橋長300m,99ブロックから
なるプレキャストセグメント工法によるPC4径間連続
箱桁橋である.昭和47年に完成し40 年間にわたり供用
している長大橋梁であるが,平成21年度の橋梁補修工事
により,箱桁下床版部等にPCケーブルが破断している
ことが判明した.(写真-2)
写真-2 PCケーブル破断
写真-1 妙高大橋全景
図-1 補強用外ケーブル設置概要図
①橋梁架替に備えた準備を開始する.
②一般国道18号近くに代替え路線がないことや,高速へ
の代替えは地域への影響が大きいこと,載荷試験時の
荷重程度であれば現況状態でも耐えうる事が確認でき
たことから,当面現橋を継続供用する.
③橋梁架替完了まで最低約10年を要するため,補強と管
理の両面で暫定対策を実施する.
④補強は,橋梁架替までの短期間の対策として外ケーブ
ル補強(図-1)することとし,同時に橋面防水,排水装
置改良,伸縮装置の非排水化等の損傷原因の除去を早
期に実施する.
⑤管理は,モニタリングや定期的な詳細調査等を実施す
るものとし,破断の進行状況把握と交通規制実施等の
判断材料とする.
⑥万が一の交通規制時の迂回路について,関係機関との
調整を開始する.
本論文では,この方針にしたがって実施した外ケーブ
ル補強とPC鋼材損傷原因の除去工事および橋梁架替ま
での維持管理方法について報告を行うものである.
2.補強工事
「妙高大橋保全検討委員会」の方針に従い外ケーブル
補強とPCケーブルの損傷原因を除去する工事を実施し
た.
(1) 外ケーブル補強工事
外ケーブルの配置は,架け替えまでの暫定対策である
ことを考慮して,破断しているケーブル断面積相当の本
数とした.緊張力は委員会の指導により,今後の変形を
押さえることを目的とした待ち受け構造として,導入張
力はたるみ取り程度とした.また,緊張側の定着具は再
緊張が可能な構造とした.
・定着工法:SEEE工法
(固定側:くさび定着 緊張側:ナット定着)
・ケーブルの種類
A1~P2 F170TS型 6本(引張荷重:Pu = 1680kN)
P2~A2 F310TS型 2本(引張荷重:Pu = 3040kN)
・緊張力
たるみ取り程度:0.6Pu×10%
F170T:101 kN/本
F310T:182 kN/本
ただし,補強用外ケーブルの緊張による既設主桁への影
響を把握するために試験的に緊張力(0.6Puの40%:
730kN/本)を導入し,主桁の変形,そり上がり量を計測
した.
また,今後の緊張力の変動監視の為に,6本の内2本に
ロードセルを取り付けた.
(a)外ケーブル定着部・偏向部の施工
外ケーブル定着部・偏向部(図-2)は外ケーブルの緊張
力を既設コンクリートに伝達させる重要な部位である.
定着部・偏向部はコンクリート製で既設コンクリートに
新しく打ち継いで製作するため,既設構造物の補強鋼材
の損傷や外部拘束によるひび割れ等を発生させることな
く高品質な施工が要求された.また,箱桁内の狭小部の
施工であるため作業全般にわたり,細心の注意が必要で
あった.
端部定着突起は,ウェブ定着であり,突起1箇所当た
り10本のPC鋼棒(φ32)を配置した.φ50の削孔を行う
前に,鉛直鋼棒・連続ケーブル・鉄筋の位置をRCレー
ダにて探査し,削孔位置を決定した.(写真-2)
定着突起部の削孔は,10mm細径ドリルにて先行削孔
し,削孔箇所に鋼材が無いか確認後,コアドリルφ50に
て削孔した.鋼材があった場合は,これを避けた位置を
(定着間隔,外ケーブル位置を考慮)決定して削孔した.
定着部及び偏向部のコンクリート打継部は,チッピン
グによるマイクロクラックの発生や骨材のゆるみによる
脆弱部発生を防止でき,強度が均一な打ち継ぎ面が形成
できるウォータジェット工法により行った.(写真-3)
排出水はバキューム車に自己回収できるハンドヘルド
アクアブラストを取り付た装置を使用し,ph処理し産
廃処分した.
定着部
偏向部
定着部
偏向部
図-2 定着部・偏向部概要図
写真-2 鋼材探査(左),細径ドリルによる削孔(右)状況
写真-4 コンクリート打設状況
写真-3 ウォータージェットによるブラスト状況
削孔完了後,偏向管及び定着管を配置し,空隙部には
無収縮モルタルの充填を行った.
偏向管設置後,鉄筋を桁内に搬入し,組立を行った.
材料搬入口の形状(下床版マンホール)および箱桁内空
間から使用する部材寸法には制限があったため,鉄筋加
工寸法は3500mm以内として施工した.
鉄筋組立完了後,型枠組立を行った.定着突起側枠及
び偏向部隔壁の側枠は透明で視認性が確保出来る厚さ
15mmのアクリル板を使用した.
コンクリートの現場内運搬は,橋面及びヤード内にポ
ンプ車を配置し,桁内を配管(最長80m)して行った.
コンクリート打設は,透明型枠から生コンクリートの打
設状況を直接目視確認して,バイブレータによる締め固
めを行った.また,生コンクリートの配合は,膨張材入
りの40-12-25Nとし,配管内の閉塞を防止するため流動
化剤を添加した.型枠脱型後,コンクリートの初期乾燥
収縮の防止を目的として塗布型高性能収縮低減剤(クラ
ックセイバー)を散布した.以上により,ジャンカ・豆
板や有害なひび割れの発生もなく密実で高品質なコンク
リートの施工ができた.(写真-4)
定着突起のコンクリート強度発現後,PC鋼棒の緊張
を0.1mm単位で伸び量を測定できるFABジャッキにて
行った.(写真-5) コンクリートの弾性変形とナット定
着によるロスの他,定着のなじみといった不確定要素の
ロスが多い短尺PC鋼棒の設計張力を確保するため,同
じ緊張順序で2回緊張作業を行った.
(b) ケーブル組み立て,緊張工
外ケーブルの引き込みは,A1橋台前面にウィンチ(1.5t
巻)を配置し,ウィンチワイヤーをA2側に延ばし,仮設
ヤード内のPCケーブルを,ターンテーブル・クレーン
を使用して行った.ケーブル長は約150mで引き込み時
の架台として,箱桁内に単管・ボイド管を使用した.外
ケーブルの引込において,マンション部分のアンカープ
レートからの出代が500mm程度になった時点で,ナッ
写真-5 PCケーブル組立状況
写真-6 PC鋼棒緊張状況
トを設置し,固定端側において,レバーブロックを用い
てケーブルのサグ取りを行った.(写真-6)
緊張は,左右ウェブに均等にプレストレスト導入し偏
心荷重による変形等の悪影響を防止するため2基のジャ
ッキを使用して,左右同形状のケーブルを同時に行った.
(写真-7) 最終緊張力は7MPaであるが,試験緊張で
25MPaまで緊張を行ったため,そのデータを基に管理図
を作成した.定着後,固定端の余長を切断してグラウト
キャップを取り付け,キャップ及び鋼管内にグリスを充
填した.
第 1 径間の補強用外ケーブルの緊張による既設主桁へ
の影響を把握するために,試験的に大きな緊張力を導入
し,主桁のそり上がり量を計測した.
試験緊張力は補強導入張力 10%(6 本 1080kN)に対し,
通常の緊張設備で可能なこと,過緊張で悪影響を及ぼさ
ないことなどから 40%(6 本 4380kN)とした.
この時の計算そり上がり量と試験結果を(表-1)に示す.
測定値は計算値とほぼ一致しており,損傷はあるものの
依然健全な挙動を示しているといえる.
写真-8 アラミド繊維シート貼付状況
写真-7 左右ウェブ同時緊張状況
表-1 試験緊張時の桁のそり上がり量
第 1 測定点
第 2 測定点
(4Bl sec6)
(10Bl sec13)
計算値
2.3mm(1.0)
3.7mm(1.0)
測定値
2.1mm(0.9)
3.5mm(0.9)
備考
11/15 実施
(2)鉛直鋼棒突出防止対策
グラウト充填不良による鉛直鋼棒の突出防止対策とし
て,アラミド繊維シート補強を行った.(写真-8) 施工
範囲は,鋼棒破断時のエネルギーを考慮して鋼棒長≒桁
高=3.5m以上の範囲とした.鉛直鋼棒位置の探査後,
施工範囲の罫書,プライマー塗布,シート貼り付け,硅
砂散布の順に施工した.
写真-9 防水シート貼付状況
写真-10 伸縮装置設置状況(左:施工前,右:施工後)
(3)床版漏水対策
箱桁内への橋面上からの漏水対策として,切削オーバ
3. 載荷試験
ーレイ・シート防水を行った.(写真-9)
繊維シートの樹脂硬化後,橋面上をコンプレッサーに
妙高大橋に対する補強前後の載荷試験は,平成 21 年
て清掃し,プライマー塗布,防水シートの設置を行った. 度と同様に行うことで,約 2 年間の経過による劣化の進
行の有無,および補強工事による悪影響の有無を確認し,
(4)伸縮装置の非排水化
今後の管理の基礎資料とすることを目的として,載荷試
鋼製ジョイントの損傷・漏水からゴムジョイント(ワ
験を行いひずみ・たわみの計測を実施した.
ンダーフレックスジョイント)への取り替え工事を実施
した.(写真-10)
(1) 静的載荷試験
(a)試験方法
20tの荷重車を 6 台使用し,計 120tを第1径間,第
4径間ともそれぞれ2回ずつ載荷し,計測を行った.
載荷前に,重量車等が走行・停車していないことを確
認し,イニシャル値を測定.その後,荷重車を決められ
た位置に停車させ,計測を行った.(図-3,写真-11)
図-5 静的載荷試験結果(応力度)
図-3 静的載荷試験載荷図
写真-11 静的載荷試験状況
図-6 走行載荷試験載荷図
図-6 走行載荷試験載荷図
図-4 静的載荷試験結果(たわみ量)
図-4 静的載荷試験結果(たわみ量)
(b)試験結果
一連の試験,計測の結果下記の通りとなった.
①補強前後,第 1,第 4 径間のいずれの結果においても,
たわみ量の計測値は全て同条件の計算値以下の結果と
なった.(図-4)
②第 1 径間 10 ブロックのたわみ量で,補強後に若干の
増加が見られたが,約 5mm と小さな値である.(図-4)
③ひずみ計測結果では,第 1 径間 7 ブロックで計算値を
超える値が計測されたが,他は概ね同条件の計算値と
同様の値となった.(図-5)
以上の事から,補強による削孔や振動などによる悪影響
は概ね生じていないことが確認された.
(2)走行載荷試験
(a)試験方法
20tの荷重車を走行させ,第 1 径間・第 4 径間ともそれ
ぞれ2回ずつ測定した.荷重車の走行位置は,横断方
向の構造中心位置とし,走行速度は一般交通車両道用の
速度とし,時速 60km/h で行った.(図-6)
(b)試験結果
一連の試験,計測結果から下記の通りとなった.(図-7)
①全ての結果において,補強前後で概ね同様の結果と
なった.
②第 1 径間 10 ブロックで,たわみ量の振幅が補強後
に若干増加した傾向が見られるが,その値は 0.9mm
と小さな値である.
以上の事から,静的載荷試験と同様に,補強による悪影
響は概ね生じていない事が確認された.
ルの 2 倍の 80mm に設定した.
図-7 走行載荷試験結果(たわみ量)
4. 妙高大橋維持管理マニュアル(案)の作成
表-2 維持管理マニュアル(案)の構成
将来予測されている橋梁架替までのモニタリングと点
検,および変状が確認された場合に適切な対応を行うこ
とを主な目的として「妙高大橋維持管理マニュアル
(案)」を策定した.
(1)マニュアルの構成
1つの橋を対象とした維持管理マニュアルの事例は少
なく,橋梁架替までの約 10 年間使用できるよう,モニ
タリングと点検,異常時の対応など充実を図ったマニュ
アルとした.(表-2)
構成
1.総則
2.構造と現状
3.維持管理計画
内容
目的・適用の範囲
構造概要
損傷概要
予測される変状
対策一覧
計測・監視
点検・調査
対策事項
管理基準値
警報メール初期対応
役割分担
4.異常時の対応
(2)維持管理計画
日常管理としてモニタリングシステム,接触回転灯装
置等による監視を行い,異常発生時の早期把握に努める. 5.資料集
点検に関しては,震度3以上の地震発生時の点検,橋梁
定期点検の他に,PCケーブルの追跡調査を定期的に行
5. 橋梁架替
い,劣化の進行状況を確認する.また,負荷軽減対策と
橋梁架替の具体的な方法としては,現況の直近に新
して,補強前から行っていたステージング設置,特殊車
橋を架橋する方法と,上部工のみの橋梁架替とし仮橋
両の通行規制等を行う.
を設置する方法,及び上部工のみの橋梁架替で,高速
道路と旧道を迂回路とする方法等が考えられるが,詳
(3)異常発生時の対応
細については今後具体的に検討していく必要がある.
モニタリングによる管理は,実際の異常時の対応が段
橋梁架替に関しては今年度,新規事業化された.今
階的に進められている事と合わせて,管理レベルを3段
年度については,調査・設計を行う予定である.
階とし,各レベルとそれに対する対応を設定した.
注意レベル:変状発生の初期段階であり,緊急性は低い
が今後の変化に注意を必要とするレベル.
6. あとがき
たわみ量の管理値を,活荷重たわみの実
際の最大値として,B 活荷重の 1/2 程度で
この度の妙高大橋で確認された事象や今後の対応策につ
ある 25mm を管理値として設定した.
いては,あまり前例のない事例である.今回一連の対応
警戒レベル:変状が顕著であり,詳細な調査による原因
を紹介することで,類似の事象が発覚した際の参考事例
の究明が必要なレベル.たわみ値は,変
としていただければ幸いである.
形解析の結果からPC ケーブル破断が進
最後に,この度の妙高大橋の損傷発覚から,今後の方
み,たわみが急増を始める 40mm を目安に
針決定に至るまで,長岡技術科学大学の丸山教授を始め,
設定した.
保全検討委員会の委員として,貴重なご意見を頂いた委
限界レベル:安全側の設定ではあるが,一般供用に対し
員の皆様方,および多大なご協力を頂きました関係各位
て安全とは言えない状態.たわみ値は,
の皆様に,深く感謝の意を表します.
道示の支間に対応する許容値 107mm,終
局状態のたわみ解析値が 150mm 以上であ
ることを参考に,安全側として警戒レベ