グローバル化時代の経営戦略を

経済広報センター活動報告
経済広報センター活動報告
グローバル化時代の経営戦略を
考える~日独の実践と課題
経済広報センターは2月22日、ドイツのコンラート・アデナウアー財団との共催で、日独という製造
業に強みを持つ先進国の企業がとるべきグローバル戦略についてのシンポジウムを開催した。参加者は約
トを獲得しただけで終わってしまう。インドの低価
格車「タタ・ナノ」向けには、インド人社員の助けを
借りて新しい部品を開発することに成功した。経営
陣、ゼネラルマネージャー、あるいは副社長クラス以
上については、8割は現地スタッフを登用する。
ダーウィンの「一番強いものが生き残るのではな
番適応できたものが生き残るのだ」という有名な言
グローバル競争下における日本企業の
戦略課題
しげる
淺羽 茂 学習院大学 教授(モデレーター)
マテル社のおもちゃの汚染事件が起きた後、多くの
葉があるが、柔軟に勇気を持って迅速に適応してい
親が中国製品に不信感を持つようになったこと、②
くことが企業にとっては重要だ。
シュタイフ社の品質基準を満たすため、時に中国
2008年 の 国 際 経 営 学 会 の 統 一 テ ー マ は“Is the
てはならなかったこと、③中国人従業員の忠誠心の低
グローバル化における日本の環境技術の
海外展開例
島川貴司
に100人以上のドイツ人を指導のために送り込まなく
world Flat or Spiky?”だった。米国のジャーナリス
さ、などから取引コストが高くなり過ぎ、中国から撤
ト、コラムニストであるトーマス・フリードマンの
退。従業員の忠誠心がより高く、主要な消費市場から
言うように、世界がFlat化しているとすれば、世界
も近いチュニジアの生産設備を拡大することにした。
し こ う
中の人々が同じ嗜 好を持っているということにな
しまかわ た か し
川崎重工業(株)
プラント・環境カンパニー 理事監
文化的背景・企業文化から考える
グローバル化時代の成功要因
マルティン・ポール
筑波大学大学院 人文社会科学研究科 准教授
日本およびドイツ企業の中国での事業展開の特徴
を比較する。日中合弁会社では現地スタッフを多数
川崎重工業のプラント部門は、産業プラント、社
日本に呼んで日本型の職務倫理などを学ばせ、ソフ
会インフラ、エネルギー分野、環境分野など様々な
ト面での訓練を行うのに対して、独中合弁では少数
の現地スタッフしか本国に呼ばず、技術などハード
ダイナミックに変化するグローバル市場の
未来を見据えて
技術を持っている。
的に世界中に展開すればよく、規模の経済がものを
当社ではセメントプラントから出るエネルギーの
面の訓練に集中する。また、独系企業では個性と人
言う。一方、トロント大学のリチャード・フロリダ
ヘルベルト・ヘミング
回収技術を開発、中国市場では15年間で13プラン
格を重視して中国人スタッフを採用するが、日系企
トの実績がある。しかし2006年に中国のコンチセ
業では専門職としてのスキルを基に採用する。独系
り、企業は開発した製品・サービスをとにかく効率
教授の指摘のように、衛星写真で見る地球の照明光
ボッシュ
(株)
副社長
が特定の地域に偏在するように世界がSpikyである
ボッシュは1911年、日本で販売代理店と共に事
メントと合弁会社を設立した結果、その後の4年間
では金銭的なインセンティブではなく仕事をする上
とすれば、企業は各国市場のニーズに合わせてロー
業を起こした。その後、ライセンス供与、パート
で134プラント、ビジネス規模でいうと30倍の拡大
での満足感を重視するのに対して、日系では高給も
カリゼーションしなくてはならない。
ナーシップと続き、段階を経て統合・再編を行い、
を果たすことができた。
しくは能力別賃金体系で対応している。
しかし、元ハーバード大学教授のパンカジ・ゲマ
ワット氏は、現代は“セミ・グローバリゼーション”
現在の日本ボッシュはドイツ本社の100%子会社と
なっている。
状態だとしている。とすると、当然、前に述べた2
2010年、新興国は購買力平価ベースのGDP
(国
つの経営戦略をミックスすることが最適解となる。
内総生産)で先進国に匹敵する状況になっている。
日本のゴミ処理システムは非常に高価だが、中国
日独に違いはあるものの、どちらの企業も私企
向けには、セメントプラントを活用してゴミ処理を
業として収益拡大を動機として活動している。しか
行う統合システムを導入し、ゴミ処理を安価にする
し、金融危機でも明らかになったように、社会的な
ことに成功した。
バランスを取ることも重要で、それによって日独の
日本が中国にGDPで追い抜かれただけでなく、い
良好なパートナーシップと、中国に技術を提供す
グローバル化時代における企業の組織化
~ドイツの経験から
わゆる旧世界が、いわゆる若い世界に、向こう数年
るという明確なリーダーシップが、この事業のポイ
間で取って代わられる。言い換えるなら、途上国市
ントだ。最少の技術供与で済まそうとして、技術ポ
ギュナー・ガイヤー
場が重要になってきているということだ。
テンシャルのある相手、すなわち同業者を現地パー
日独は共通して、グローバリゼーション下の企業
2000年から2010年までの10年間で、当社のアジ
トナーに選んでしまうとうまくいかない。我々は
にとっては、人材が最重要であるとしている。さら
ハンブルク国際経済研究所 所長
経済活動は、よりスムーズになるだろう。
パネルディスカッション
今日、シカゴ大学のロナルド・コース氏が提唱し
ア・太平洋地域における売り上げは倍増した。特に
ニーズを持つ相手と組んで合弁というひとつの船に
に、グローバル企業として企業ビジョンを共有する
た
「取引コスト論」は、企業の意思決定のための標準
ここ3年間の伸びは急速だ。2015年までには、さ
乗ることを選択した。
ことの重要性についても共通認識が得られた。
的理論となっている。取引コストとは、単なる輸送
らに30%伸びるだろう。
技術については現地に合う形で標準化を行い、ベ
その一方で、ヘミング氏からは、グローバル企
コストなどとは異なり、経済システムあるいは社会
当社がアジア・太平洋地域で持続可能な成長の
テランを再雇用して中国で人材育成を担当しても
業の従業員であれば全員が全世界にネットワークを
システムを加味したコストである。情報を探す、交
前提条件としている4つの要因を紹介する。①各地
らっている。日本人の若手も同様に中国に派遣し
持ってグローバルに思考すべきだが、日本人の場
渉する、監督・執行するコストなどが含まれる。
域において市場志向の製品をつくる、②現地主体の
て、市場と技術を現場で学ばせている。知財共有も
合、グローバルなコミュニケーション力が弱いと感
研究開発を進める、③現地主体の経営、④連続性を
進めている。我々は、日本だけにとどまらず、合弁
じられるとの指摘があった。 持ったグローバル・ネットワーク、である。
先といかに同じ船に乗るかということが重要だと考
取引コスト検討の重要性を示すものとして、高級
なぬいぐるみで有名な独シュタイフ社の例がある。
同社は中国に生産をアウトソースしたが、①米
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を手頃な価格で提供できなければ、ニッチマーケッ
い、一番賢いものが生き残るのでもない。変化に一
100名。
あさば
だ。地元のニーズ・嗜好に合わせた製品・サービス
〔経済広報〕2011年5月号
市場志向とは、地域のニーズに応えるということ
えている。
k
(文責:国際広報部主任研究員 川口 惠)
2011年5月号〔経済広報〕
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