症例1

生理研究班
症例提示
医療法人 陽明会 樋口病院
三根 光浩
症例 1
現 病 歴
患者 57歳・男性
8月1日午後9時半頃、入浴中に突然胸部絞扼感をきたし、
すぐに風呂を出たが絞扼感は増強し、呼吸困難や胸部不快感も
出現が、その後、これらの症状は軽減した。
午後10時半頃、近くの診療所を受診し、心電図検査を受けた。
狭心症の疑いを指摘されたが、投薬等の処置はなかった。
8月2日翌朝、胸部不快感が残っていた為、同診療所を受診し、
再度の心電図検査を受けた。診療所から専門病院を紹介され、
車での移動中車内でも胸部圧迫感が出現したが、10分程度で
自然に消失した。
専門病院受診後、そのまま入院となった。
入院時身体所見
身 長 165cm
体 重 58.0kg B M I 21.30
脈 拍 76/min整 呼吸数 16/min
血 圧 140/80mmHg 体 温 36.5℃
心雑音は認めない。
胸痛も呼吸困難も無く平静である。
発汗もなく、四肢も温かい。
四肢末梢の動脈拍動をすべてよく触知する。
その他にも異常所見は認めない。
入院時の
入院時の緊急検査所見
血 液 ガ ス 正常
Ht
45%
白 血 球 数 6,900
CK(CPK)
AST
LDH
310 IU/l(M 62~287)
84 IU/l(13~33)
198 IU/l(119~229)
胸 部 X 線 心胸郭比(CTR) 56%
肺うっ血
うっ血の所見はなかった
所見はなかった
心電図検査 入院時
入院時に
に実施
設 問
① 心電図より
心電図より認
より認められる所見
められる所見を
所見を挙げてください。
げてください。
② 症例より
症例より予測
より予測される
予測される病態
される病態を
病態を挙げてください。
げてください。
③ 鑑別を
鑑別を要する病態
する病態を
病態を挙げてください。
げてください。
④ 確定診断に
確定診断に必要な
必要な追加検査項目を
追加検査項目を挙げてください。
げてください。
設 問
① 心電図より
心電図より認
より認められる所見
められる所見を
所見を挙げてください。
げてください。
② 症例より予測される病態を挙げてください。
③ 鑑別を要する病態を挙げてください。
④ 確定診断に必要な追加検査項目を挙げてください。
心電図のチェック
心電図のチェック項目
のチェック項目とその
項目とその順番
とその順番
1.調律(
調律(rhythm)
2.心拍数(
心拍数(heart rate : HR)
3.P波(P wave)
4.PQ時間(
時間(PQ interval)
5.QRS群(QRS complex)
6.STセグメント(
セグメント(ST
segment)
7.T波(T wave)
8.QT時間(
時間(QT interval)
心電図を
心電図を判読するとき
判読するとき
チェック項目
チェック項目
心電図の
心電図の判読
決める
順
序
見落としが
見落としが少
としが少ない
1.調律(
調律(rhythm)はどうか?
はどうか?
所 見
●P波とQRS波が対応しており
対応しており
P波は一貫して
一貫して同
して同じ形である
●P波はⅠ誘導・
誘導・Ⅱ誘導で
誘導で陽性
(洞性Pである)
である)
↓
正常洞調律
(normal sinus rhythm)
・P波をとらえやすい誘導
↓
第Ⅱ誘導かV1誘導
2.心拍数(
心拍数(heart rate : HR)は?
所 見
300
100
60
● HR
60 /RR間隔(mm)×0.04
SEC
=60 /24×0.04 SEC
=62.5 /min
● HR=約64 /min
HRの簡単な見方
3.P波(P wave)は正常か
正常か?
所 見
●P波(Ⅱ誘導)
誘導)
幅
=0.08sec
高さ
=1.0mm
陰性部分=
陰性部分=0mm・秒
1mm(高さ)×0mm(深さ)
●Ⅲ・aVR:陰性
P波の正常
aVRは陰性である。
Ⅰ・Ⅱ・aVF・V2~V6で陽性あり、
(Ⅰ・Ⅱ誘導陽性だけでよい)
・これ以外のⅢ・aVL・V1では、陽性、
陰性、二相性などでもよい。
P波をとらえやすい誘導
第Ⅱ誘導かV1誘導
(第Ⅱ誘導で幅3mm未満、高さ2.5mm未満)
(V1で高さ2mm未満、P terminal foceの
絶対値が0.04mm・秒未満)
4.PQ時間(
時間(PQ interval)は正常
か? 所 見
●PQ時間(
時間(Ⅱ誘導)
誘導)
=0.12sec(3mm)
3mm
5.QRS群(QRS complex)は正常
か?
所 見
●電気軸
Ⅰ誘導 (+)
aVF
(+)
●異常Q
異常Q波の有無:
有無:aVL
・Ⅲ誘導・aVL・V1には、
単独での異常Q波は病的意義がない
●QRS時間:
時間:0.08sec
●R波の増高
漸次増高である
漸次増高である
ただし、
ただし、R波が一番大きいのは
一番大きいのはV4
●移行帯:
移行帯:V3
●QRS電位(左室電位)
SV1+RV5=14+8=22mm(<
22mm
35mm)
RV5=8mm (<26mm)
RV6=7mm (<20mm)
6.STセグメント
6.STセグメント(ST
セグメント(ST segment)は
segment)は正常か
正常か?
所 見
●STの上昇、
上昇、下降はない
下降はない
・正常でもV1~V3などの右側誘導
では1mm~3mm程度のSTが上昇
している
・正常でもⅢ・aVL・aVF・V1など
陰性T波がみられてもよい誘導に
おいては軽度のST低下がみられる
7.T波(T wave)は正常か
正常か?
所 見
●Ⅰ・aVL誘導で
誘導で陰性T
陰性T
●V1・V2・V3誘導で
誘導で左右対称性
陰性T(冠性T波)
(11~13mmの巨大陰性T)
●V4・V5・V6誘導で
誘導で2相性 (+-)
+-)
T waveの正常
・aVRでは陰性である。
・Ⅰ・Ⅱ・V2~V6で陽性である。
・高さは12mm未満かつR波の1/10以上
・Ⅲ・aVL・aVF・V1 では、T波は陰性
でもよい。
・若年成人や女性では正常でもV1~V3
に陰性T波がみられる。
8.QT時間(
時間(QT interval)は正常か
正常か?
所 見
●T波の終点が
終点がRR波の1/2を
超えていない
RR=0.96sec(24mm)
QT=0.44sec (11mm)
QTc=0.44/√0.96≒0.45sec
●QTc=QT/√RR=0.33~0.44sec
T波の終点がRRの1/2を超えない。
超えていればQT延長である。
QT時間の測定は
aVRまたは第Ⅰ誘導で行うのがよい。
(QRSの開始点は容易に同定できるが、T
波の終了点はU波との融合により確定が困
難であるので、 aVRまたは第Ⅰ誘導で行
うのがよい)
ECG所見
ECG所見・
所見・結果
1.調律(
:正常洞性調律
調律(rhythm)
2.心拍数(
心拍数(heart rate : HR):64 /min
3.P波(P wave)
:正常 (幅 0.08 sec 高さ1.0 mm 陰性部分 0mm・sec)
4.PQ時間(
:正常 (0.12 sec)
時間(PQ interval)
5.QRS群 (QRS complex)
:正常
電気軸
正常範囲
異常Q波
正常範囲 (aVLは単独)
QRS時間
正常
(0.08sec)
R波の増高 正常
(漸次増高 )
左室電位 正常
(SV1+RV5=14+8=22mm)
(RV5=8mm)
(RV6=7mm)
6.STセグメント(
セグメント(ST segment):正常 STの下降・
下降・上昇なし
上昇なし
7.T波(T wave):Ⅰ・aVL誘導で
誘導で陰性T
陰性T
: V1誘導で
誘導で冠性T
冠性T
: V2・V3誘導で
誘導で11~13mmの巨大陰性T
: V4・V5・V6誘導で
誘導で2相性 (+-)
8.QTc時間(
:正常 T波の終点が
時間(QT interval)
終点がRR波の1/2を 超えていない
設 問
① 心電図より認められる所見を挙げてください。
② 症例より
症例より予測
より予測される
予測される病態
される病態を
病態を挙げてください。
げてください。
③ 鑑別を要する病態を挙げてください。
④ 確定診断に必要な追加検査項目を挙げてください。
病 態
臨床症状より
臨床症状より胸部絞扼感
より胸部絞扼感や
胸部絞扼感や圧迫感の
圧迫感の出現した
出現した。
した。
心電図所見より
心電図所見より、
より、胸部誘導 V2・V3に、
深さ11~13 mmの巨大陰性T
巨大陰性T波が
認められる。
められる。 (giant negative T wave)
陰性T波の鑑別
・正常でも陰性T波がみられる誘導
Ⅲ・aVL・aVF・V1・(V2)
・必ず陰性T波がみられる誘導
aVR
心電図のABC
より引用
心電図のABCより引用
病 態 結 果
以上のことより
以上のことより症例
のことより症例は
症例は、
ST上昇
ST上昇や
上昇や異常Q
異常Q波の出現が
出現が認められないので
貫壁性心筋梗塞(
貫壁性心筋梗塞(Q波心筋梗塞)
波心筋梗塞)は否定した
否定した。
した。
QT延長は
延長は(-)
心臓マーカー
心臓マーカー(CK、AST)の軽度異常を
軽度異常を伴って
いる結果
いる結果から
結果から心内膜下梗塞(
心内膜下梗塞(非Q波心筋梗塞)
波心筋梗塞)
の病態である
病態である。
である。
心内膜下梗塞(
心内膜下梗塞(非Q波心筋梗塞)
波心筋梗塞)
とは
心内膜下の
心内膜下の虚血により
虚血によりSTは降下し
降下し、緩解せずに
緩解せずに数
せずに数10分以上
持続すると
持続すると、
すると、心内膜下の
心内膜下の心筋が
心筋が壊死に
壊死に陥る。この時
この時の心電
図では異常Q
異常Q波の出現を
出現を伴わず陰性
わず陰性T
陰性T波の出現(巨大陰性
T波)やQT延長を
延長を伴う。また、
また、R波が減高する。
する。
巨大陰性T波は、心内膜下膜下筋層の
膜下筋層の壊死および
壊死および虚血
および虚血だけ
虚血だけ
では説明
では説明できず
説明できず、
できず、Pruittらは心内膜
らは心内膜の
心内膜の壊死に
壊死に加えて、
えて、心内
膜下筋層から
膜下筋層から心外膜下筋層
から心外膜下筋層にかけての
心外膜下筋層にかけての貫通性虚血
にかけての貫通性虚血がその
貫通性虚血がその成
がその成
因として重要
として重要と
重要と指摘した
指摘した。
した。
これらの心電図所見
これらの心電図所見に
心電図所見に、心筋壊死を
心筋壊死を反映する
反映する血清酵素
する血清酵素の
血清酵素の異
常を伴えば急性心内膜下梗塞
えば急性心内膜下梗塞の
急性心内膜下梗塞の診断は
診断は確実となる
確実となる。
となる。
非Q波心筋梗塞(
波心筋梗塞(心内膜下梗塞)
心内膜下梗塞)
(subendocardial infarction)
非Q波心筋梗塞
梗塞
Q波心筋梗塞
梗塞
Q波が出現
鉄門癌の会より引用
典型的には
典型的には非
には非Q波梗塞症例は
波梗塞症例は心内膜下が
心内膜下が主体の
主体の非貫
壁性梗塞であると
壁性梗塞であると考
であると考えられているが、
えられているが、今では心電
では心電
図上における
図上におけるQ波の有無と
有無と、組織学的に
組織学的に貫壁性梗塞
であるか否
であるか否かとは必
かとは必ずしも一致
ずしも一致しない
一致しない。
しない。
非Q波心筋梗塞(
波心筋梗塞(心内膜下梗塞)
心内膜下梗塞)
心電図判定
異常Q波は出現しない
出現しない → 非Q波心筋梗塞
陰性T波(冠性T波・巨大陰性T波)
R波が減高
QT時間が
時間が延長
ST 下降
(陰性T波が最大となる
最大となる数日間
となる数日間)
設 問
① 心電図より認められる所見を挙げてください。
② 症例より予測される病態を挙げてください。
③ 鑑別を
鑑別を要する病態
する病態を
病態を挙げてください。
げてください。
④ 確定診断に必要な追加検査項目を挙げてください。
陰性T
陰性Tを示す疾患
虚血性心疾患
(陳旧性貫壁性心筋梗塞・
陳旧性貫壁性心筋梗塞・心内膜下梗塞・
心内膜下梗塞・非梗塞性虚血)
非梗塞性虚血)
肥大型心筋症
脳血管障害時(とくにクモ膜下出血
とくにクモ膜下出血)
膜下出血)
左室肥大
急性心筋炎
アダム・ストーク発作後
アダム・ストーク発作後
QT延長症候群
QT延長症候群
頻脈後T
頻脈後T波症候群
心室内伝導障害
心電図活用法より引用
巨大陰性T
巨大陰性T波と代表的な
代表的な疾患
巨大陰性T
巨大陰性T波とは、
とは、10mm以上または
以上または15mm
以上
であり、
であり、左右対称性であることが
左右対称性であることが多
であることが多い。
巨大陰性T
巨大陰性T波の代表的な
代表的な疾患
心筋梗塞、
心筋梗塞、とくに非Q波心筋梗塞(心内膜下梗塞)
心内膜下梗塞)
肥大型心筋症、
肥大型心筋症、とくに心尖部型心筋症
とくに心尖部型心筋症
の頻度が
頻度が高い。
(V3~
V3~V5誘導
V5誘導)
誘導)
鑑別疾患として
鑑別疾患として
脳血管障害、
脳血管障害、とくに頭蓋内出血
とくに頭蓋内出血を
頭蓋内出血を見逃さない
見逃さない。
さない。
設 問
① 心電図より認められる所見を挙げてください。
② 症例より予測される病態を挙げてください。
③ 鑑別を要する病態を挙げてください。
④ 確定診断に
確定診断に必要な
必要な追加検査項目を
追加検査項目を挙げてください。
げてください。
心臓マーカー
心臓マーカー
心筋細胞壊死後に
心筋細胞壊死後に血流に
血流に放出される
放出される
心臓酵素(
心臓酵素(CK,AST,LDH)
細胞内容物(
細胞内容物(トロポニンI、
トロポニンI、トロポニン
I、トロポニンT、
トロポニンT、ミオグロビン
T、ミオグロビン)
ミオグロビン)
心臓マーカーは
心臓マーカーは損傷後
マーカーは損傷後、
損傷後、異なる時期
なる時期に
時期に出現し
出現し、異なる速度
なる速度で
速度で減少
通常、
通常、いくつかの異
いくつかの異なるマーカーを定期的
なるマーカーを定期的に
定期的に測定し
測定し、
典型的には
典型的には1
には1日に6~8時間毎に
時間毎に測定する。
する。
その他
その他の検査(
検査(赤血球沈降速度亢進、
赤血球沈降速度亢進、左方移動を
左方移動を伴う中程度
の白血球上昇、
白血球上昇、血中CRP
血中CRP値
CRP値の上昇)
上昇)として、
として、組織壊死に
組織壊死に対応する
対応する
非特異的な
非特異的な異常を
異常を示唆する
示唆する。
する
トロポニン
心筋梗塞に
心筋梗塞に最も特異的
虚血によっても
虚血によっても上昇
によっても上昇することが
上昇することがあり、
あり、
値の上昇は
上昇は診断に
診断に有効である。
である。
不安定狭心症患者においては
不安定狭心症患者においては、
トロポニン値
トロポニン値が境界値近くまで
境界値近くまで上昇
くまで上昇
している場合
している場合は
場合は、有害事象のリスクが
有害事象のリスクが
増加を
増加を示すため、
すため、さらに評価
さらに評価し
評価し治療する
治療する
必要である。
である。
偽陽性は
偽陽性は心不全や
心不全や腎不全で
腎不全で起こる。
CK-MB
トロポニンに比
トロポニンに比べ、わずかに特異度
わずかに特異度が
特異度が劣る。
偽陽性
腎不全、
腎不全、甲状腺機能低下症、
甲状腺機能低下症、骨格筋の
骨格筋の損傷
に伴って生
って生じる。
じる
ミオグロビン
心筋梗塞に
心筋梗塞に特異性は低い。
心筋障害発現後、その他
その他のマーカーより
も早く増加(1時間で
時間で上昇)
上昇)するため、
するため、
診断のつけ
診断のつけ難
のつけ難い心電図では、初期警告
徴候を
徴候を判断できる
判断できる。
できる。
骨格筋損傷で
骨格筋損傷で増加し
増加し、これを否定
これを否定しなけ
否定しなけ
ればならない。
ればならない。
急性心筋梗塞における
急性心筋梗塞における心臓
における心臓マーカー
心臓マーカー
の経時的変化
急性冠症候群より引用