2007年度第3回テクニカルフォーラム 議事録 テーマ名:プレストレス

2007年度第3回テクニカルフォーラム
議事録
■テーマ名:プレストレス技術の新たなる展開
■講
師: 西山峰広氏(京都大学 准教授)
■日
時: 7月26日(木)16:00~18:20
■場
所: トリトンスクエア Z 棟 4階フォーラム
■参加者: 23名+事務局
資料
講演
プレストレス技術の新たなる展開
16:00~17:10
プレストレスはもともと鉄筋コンクリート部材の鉛直荷重下でのたわみやひび割
れを改善し,大スパン架構を可能にするために開発されたが,現在では様々な方
面への展開を見せている。その中から,プレストレスによる復元性を利用した耐
震性能の改善,アンボンド鋼材を利用した損傷制御と部材再利用の可能性,超高
強度コンクリート梁部材へのプレストレス導入による高強度鉄筋の有効利用,SI
住宅への展開などについて実例を紹介しながら解説して頂いた。
自由討議 17:20~18:20
コーディネータを学術会員で(独)建築研究所の元理事長の岡本 伸氏にお願いし、自由
討議が進められた。まずコーディネータより、プレストレスコンクリート構造は限られた
メンバーでの議論が盛んで、講演会はプレストレスコンクリート技術協会やプレストレス
コンクリート建設業協会等関連団体で数多く行われているが、一般への情報が行き渡って
いない状況であり、今日のコンソーシアムでの講演会で広く情報が発信できればとの話が
あった。
Q.講演の中で再利用可能との話があったが、実際プレストレス部材の再利用とはどうい
うイメージか。
A.まだ研究段階だが、アンボンドでプレストレスを入れれば後でプレストレスは抜ける
というのは昔からある。今PC部材の再利用で問題なのは、目地のコンクリートが強
すぎてもなかなか旨く剥れないことである。母材を剥ぎ取ってしまうことになる。剥
離材を塗ってモルタルを詰めると簡単に取れるようになる。実際に構造物としてどう
なるかは、梁の場合塑性ヒンジ領域が壊れてこの部分は使えないが、他の部分が再利
用できれば良いなあと考えている。コンクリート系の再利用に関しては異議のある方
もおり、鉄のように部材が規格化されていないことも障害となる。今後技術的に解決
していけばコンクリート系も再利用が出来るのではないかと考える。
Q.最初の資料に木材を並べてプレストレスで梁を作った写真があったが、この梁で端部
はダメージを受けるので再利用できないがそれ以外の部分のセグメントは再利用可能
ということか。
A.その通りである。
Q.アンボンドを使うとプレキャストのブロックそのものを将来的には再利用できるとい
うことで研究が進められている。アンボンド鋼材を使う場合は基準法の制約もあり、
主要構造部材にアンボンドが使い難い話もある。今回の告示改正で利用可能となるの
で期待している。アンボンド部材で再利用した海外での実施例があるのか。
A.海外での実際の構造物では見たことが無い。駐車場の建物の床で鋼材が錆びてアンボ
ンドの鋼材を入れ替えた話はある。部材を再利用した話は未だ聞いていない。
Q.プレストレスを使った物流倉庫の建物で地震のPMA評価が課せられている。プレス
トレスコンクリートを使うことによってPML評価値が小さくなり、良い評価となる。
プレストレスコンクリートは保有耐力時でも弾性にとどめているという話があるが、
本当なのか。
A.保有耐力時に弾性ということはない。保有耐力時は部材の終局設計時であるから、P
C鋼材は降伏している可能性がある。復元性が高いのは確かである。どういう評価で
PMLが小さくなったのか、復元性が高く、残留変形が小さいので地震後もすぐに使
えるということで評価されているのであろう。保有耐力設計で想定している状態は一
般のRCとほとんど違わない。
Q.聞いた話では2次設計レベルで弾性範囲に止めているとのことであった。
A.弾性範囲に止めているということは何とも言えない。PMAは誰が評価しているのか。
Q.多分保険会社である。
A.保険会社で復元性を評価しているのであれば大変結構なことである。保有耐力時に弾
性ということで評価するのではなく、別の本来PCが持っている性状で評価されてい
るのか良く分からない。後者であれば保険会社も進んでいると思う。
C.保有耐力まで弾性ということはないが、ひび割れや損傷がRCより少ない。
A.構造技術者はこのように評価するが、保険屋さんが評価しているのであれば興味深い。
Q.スパンを大きくするとかスレンダーな柱にするとかで、プレストレスコンクリートは
華々しく登場したが、あるときPC鋼棒が錆により飛んだという事故が発生した。こ
れがPS工法を阻害することになった。最近この錆の話はどうなっているのか。
A.事故は事実あった。しかし、アンボンド鋼材の場合の事故というのは聞いたことがな
い。アンボンド鋼材であれば防錆はほぼ完全にできるが、グラウトの場合防錆は完璧
とは言えない。もしかすると錆びるかもしれない。切れるという事故はプレストレス
が元来持っている問題なのか、人為的な人のミスによる影響なのか、人のミスを防げ
ない構造なのか、その辺の表現が難しい。ちゃんとやれば大丈夫だと思う。
Q.当初は水素脆性の話とか、鋼材の脆性の話とかがあったが、鋼材そのものの品質がそ
の頃から 10~20 年経って変わってきているのではないか。
A.JISレベルで言うと大した違いはない。ただ、量産化する上で創意工夫がなされ、
品質のばらつきが押さえられてきた。材料的問題で切れることはない。破断は施工中
にグラウトタイプのPCではセメントミルクを入れて、付着かつ防錆を期待した作業
を行うが、そのグラウト不良が一番の要因と考えられる。その辺に注意すれば安全に
使える。
C.昭和 50 年頃ゼネコンではPS工法の技術はほとんどなく、専業業者が中心であった。
その頃の中学校のPS工事で 1 年後に切れて、80m位飛んだ。その頃はアンボンドが
なくてグラウトのタイプであった。破断面は伸びもなくすっぱりと切れていた。原因
は応力腐食でグラウトがされていないとの意見があった。破断した鋼材を調べた結果、
鋼材自体は伸びもあり、強度もあった。ゼネコンの施工が悪いと言われた。工事記録
を見ると、工期がないため、初めは工場でグラウトして持ち込んでいたが、途中から
現場で行うことに切り替えた。切り替えの期間で 3 日分の部材がグラウトのないまま
建設された。結局品質管理を怠っていた。一方、アンボンドでは反対側の楔が綺麗に
入っていなかったため、楔に曲げがかかる状態で引張中にジャッキのところが切れた。
切れたけど飛びはしなかった。瞬間的な破断はアンボンドの場合グリースの粘性で飛
び出すことがなかった。切れて飛ぶのはグラウトを忘れた施工ミスが原因と考えてい
る。
C.PC鋼材の切断の話だが、初期のPC鋼棒は脆く切断しやすいという話は良くあった。
最近では鋼材の品質がよくなり、まず切れることはない。一番大事なのはグラウトで
あり、グラウトを忘れた時に 2,3 年経って錆が発生して切れることが今でもたまにあ
る。確率は少ないけどクローズアップされる。基本的にPCはグラウトさえすれば問
題がない。
A.PS工事の数が少ない中で事故が起こると大きく報道される。いま耐震改修や耐震補
強の工事が多く、昔のSRCやRC構造のコンクリートをはつると、昔の工事のいい
加減さがよく見える。これらは余り表には出ていないが、表に出ればインパクトは大
きい。コンクリートの中に入ってしまう構造、RC、SRC、PCなどは施工する人
がちゃんとやっていれば良いのだが、手を抜くと大変で、何事もなければ良いが、一
旦何かが起こると大きなダメージを見せることになる。
C.プレストレス構造は最初に大きな緊張力を導入するので、緊張する時がコンクリート
に一番大きな応力が生ずるので、緊張する時に一番気を使う。気を使えばコンクリー
トの品質は良くなる。鉄筋コンクリート構造を設計する人は、コンクリートはレミコ
ンで作れば良いと思い、コンクリートの品質に気を使わない。鉄筋コンクリート構造
はコンクリートがちゃんとしてないと成り立たない構造である。宮城県沖地震の調査
の時、被害のあったコンクリートは粉のような状態で、崩壊はなかったが、大破に近
く、沢山の曲げ、せん断ひび割れが出ていた。一方プレキャストのPCの方は無被害
であった。最近こそコンクリートの品質が良くなってきて、水セメント比の大きなシ
ャブコンのようなものは影を潜めてきている。一度地震が来ると露呈する。コンクリ
ートに対して設計者は常日頃コンクリートの品質を念頭に置かなければならない。
Q.上部構造をPS構造で、下部構造を免震構造とする構造は理想の構造と考える。行政
的には免震にしても上部構造のベースシェアを 0.2 で弾性設計と指導されている。上部
構造を 0.1 以下に設計できれば、長スパンで柱の数が少なくなる。いま免震が高いとい
うのは柱の数だけデバイスを入れている。PS構造はひび割れ制御設計をしているの
で、保険屋にPS構造は普通のRCとは質が違うということを認めさせて良いのでは
ないか。
A.免震とPSとの組合せは大変良い構造だと思う。
C.免震構造で上部構造のベースシェア係数を下げる設計は、本来の考え方としては間違
いである。免震は性能をグレードアップすることにあり、免震によって上部構造のベ
ースシェアを低減することに使うのは本来の目的ではない。海外で免震構造が余り使
われていない理由である。
最後に講師より、これをきっかけにプレストレス構造に馴染んでいただければありがたい
との話があり、自由討議を終えた。