高齢者専用賃貸住宅におけるソリューションシステム

IT ヘルスケア
第 4 巻 1 号,May 24, 2009 : 59-61
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高齢者専用賃貸住宅における
ソリューションシステムによる運営改善
大原康博
ゴールドトラスト株式会社
要約
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2005年12月より制度が開始された、高齢者専用
へ訪問すると言う介護サービスの提供方法をとって
賃貸住宅。その事業を制度開始当初より運営する事
いる。
業者として、今までにない介護サービス形態で運営
一見、従来の訪問介護と比べて訪問先が集約され
されるこの高齢者専用賃貸住宅事業をいかに効率よ
て移動ロスも無いため効率がいいように見える。し
く運営し利益を出すかと言う視点で、経験を活かし
かし、利用者が集約されている事業という形態であ
たソリューションシステムのあるべき姿を提案させ
りながら、訪問介護サービスを提供する。という内
て頂きます。
容であるため。もちろん原則ヘルパー一人に対して
利用者一人の一対一のサービス提供や一回のケア終
高齢者専用賃貸住宅とは、国土交通省により高齢
了後2時間の間隔を空けて次のケアに入るといった
者が要介護になる前の早めの住み替えを促すために
訪問介護特有の制約は変わらない。
「介護を受けながら住み続けられる新しい住まい」
介護保険サービスには大きく施設系サービスと
の普及を目指し「高齢者の住居の安定確保に関する
居宅系サービスとがある。2つのサービスの大きな
法律」に基づいて2005年に制度化され誕生した賃貸
違いは、施設系サービスは俗に言う包括サービスと
住宅です。特徴として高齢者の入居を拒まず、専ら
呼ばれるもので、日額固定の介護報酬が算定され、
高齢者世帯に賃貸する住居で、その中でも一定の住
サービス提供も収容人数(床数)に対しての人員配
居水準とサービスを満たすものは適合高齢者専用賃
置が義務付けられているだけで、一人のヘルパーが
貸住宅として老人福祉法上、特別な扱いを受け、有
複数の利用者を介助できる形態になっている為、い
料老人ホームの届出なしで、食事・介護などのサー
かに利用者を定員まで増やすかが収益のポイントと
ビスを提供することができます。
なってくる。しかも、現在介護保険3施設と呼ばれ
その高齢者専用賃貸住宅の入居者が利用する介
る施設系サービスの入居は待機者が出るほどの稼働
護サービスとして居宅介護支援サービスと訪問介護
状況で制度としても非常に確立されたものになって
サービスの2つが代表的なものとなっております。
いる。それに対して高齢者専用賃貸住宅は建物の中
従来の訪問介護サービスでは利用者の自宅へ事業所
で介護サービスと提供しますが、訪問介護という居
などから訪問をしてサービスを提供していた形態。
宅系サービスに位置づけられます。これは30分を
それに対して、高齢者専用賃貸住宅の訪問介護では
最小の単位としてケアマネージャーが立てたケアプ
その運営事業者もしくは事業者から委託された訪問
ランに従ってヘルパーが利用者へ介護サービスを行
介護事業所が建物の中に入って、各居室(専有部分)
います。介護報酬の算定はこのケアに入った時間を
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1ヶ月積算したものを請求するという形になります。
ルパーそれぞれがソフトに入力をすることができれ
しかも、利用者と介助者は一対一のマンツーマンも
ばより早く、確実に集計を取ることができます。こ
しくはヘルパーの方が多い人数で入る必要がありま
こで介護の現場としてはパソコン入力が苦手な方が
す。一人当たりの介護報酬で比較しても、居宅系サ
多いのでインターフェイスの改良が必要になってき
ービスは施設系サービスの3分の一程度となってお
ます。ハンディーターミナルや携帯端末、タッチパ
り、収益を上げる為には様々な課題を持っておりま
ネルといった簡単に実績が入力できるものを利用す
す。
ることで介護サービスに入った後に自身でサービス
の介護記録をつけることができます。
まず、高齢者専用賃貸住宅での課題として最も大
きなものとして考えているのが、稼働率です。これ
は包括請求ではない、人員配置の制限もない訪問介
護サービスでいかに効率よくサービスに入るか、人
を遊ばせないかを管理することです。それはヘルパ
ーの出勤時間の中で何時間、何パーセント介護サー
ビスに入ったか、この稼働率を上げることです。
従来の介護ソフトでは居宅介護支援サービスや
現場の人員で入力することにより、従来では実現
訪問介護サービス、などサービス毎にソフトが必要
できなかった効果が生まれます。
であり、それぞれの事業者が別々のソフトを使って
主題としている稼働率は個々のヘルパーが登録
いるケースがあります。こうなると、ケアマネージ
することにより、ヘルパーの単位で1ヶ月の介護サ
ャーから書かれた一方的なサービスのスケジュール
ービス提供時間と介護報酬が出ます。稼働率の良い
に従って訪問介護事業所がスタッフの出勤シフトを
ヘルパー、低いヘルパー、各高齢者専用賃貸住宅の
組む形態になり、現場主導の効率の良いシフトには
建物単位でも管理できます。個々人の成績が明確な
なりません。まず、ケアマネージャーが現場のシフ
基準で集計されますので、社員評価にも使用できま
トを考慮したケアプランの時間調整が必要になって
す。弊社では業績給として数値の高い社員には給与
きます。ケアに入るスタッフの人員、出勤シフトを
で還元しております。
ケアマネージャーが確認できるものが必要となりま
す。
次に、従来の介護請求ソフトでは利用者の請求を
目的として構成されているので、利用者当たりの月
間どれだけのケアに入り、幾らの報酬請求になるか
は明確に出るものでしたが、稼働率を管理しようと
考えると、スタッフ一人毎のサービス提供時間、勤
務時間、介護報酬を管理できるものでなければなり
売上の進捗管理が可能になります。従来であれば
ません。しかし、現場の実情として介護の実績を記
活動記録の伝票を事務方がソフトへ登録しない限り
録するのに、紙ベースで行われています。各ヘルパ
数値も出ないし、国保連に請求を出すまで確定しま
ーが各サービス毎に活動記録を付け、利用者の方に
せんでした。よって経営者の方で売上が管理できる
承認印を頂き取りまとめます。それを国保請求事務
のが1ヶ月遅れになっていました。しかし、各介護
へ伝票が回り、一箇所で入力作業をしているのが現
サービスを1回ずつ入力することにより、その日ま
状です。紙ベースをなくすことはできませんが、ヘ
でに行った介護サービスの報酬売上が日々集計する
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ことができます。経営者としてはより早い段階で手
上、家賃・共益費・水光熱費の賃料徴収も必要にな
立てが打てるという効果も生みます。今回のソフト
ってきます。従来では介護保険から出る個人負担の
では前日の集計を携帯電話へメールされる機能があ
請求と賃貸部分の賃料請求が別々にしかできないも
りますので、経営者、管理者にとっては常に数値が
のでした。別々に銀行振替の手続をするとその分手
把握することができます。
数料も一人の利用者に対して2回かかる事になって
しまいます。介護ソフトの中で賃料管理をすること
次の課題として生活支援サービスの管理です。こ
により、請求も合算で行うことができ、銀行振替の
こでいう生活支援サービスとは建物運営の中で、介
請求データもスムーズに抽出することができます。
護保険だけではまかないきれない入居者に対するサ
ービスです。30分に満たない介助や自立者の方に
以上のことから、高齢者専用賃貸住宅特有の課題
対するサービス。具体的には夜間の見回りやフロン
である。
トでの郵便対応、
その他様々なサービスがあります。
1)稼働率・収益率の向上
高齢者専用賃貸住宅にサービス提供を行う事業者に
2)生活支援サービスの管理
対して指導監査が入ると焦点になることが増えてい
3)介護保険請求と賃料請求の一本化
るのですが、この個人契約で行われる生活支援サー
の課題をクリアする体制をつくることのできる
ビスと国の基準に則って行われる介護保険サービス
ソフトで運営をしないと、様々なサービスの混在し
との明確な区分けが必要になります。果たして今ハ
た高齢者専用賃貸住宅では収益を上げることはでき
ルパーが提供しているのは介護保険内なのかそれ以
ません。より細かな管理をいかに効率よく行い。運
外なのか。従来の訪問介護であれば自宅へ訪問して
営できるかが鍵になってきます。
いる以外は利用者との接触が発生しない為、このよ
うな生活支援サービスのような行為は生まれない状
新しい制度で、まだ高齢者専用賃貸住宅の専用ソ
況でしたが、高齢者専用賃貸住宅には必ず発生しま
フトがない状態。運営者としてもまだ従来のソフト
す。この管理ができなければ生活支援サービスでど
で対応しているところも多いとは思います。自社で
れだけ収益が取れているか、あとヘルパーがどれだ
も既存のソフトで運営をしていたときと比較すると
けの時間が割かれているかが管理できません。稼働
着実に現場の効率も上がり、収益も改善されていま
率としても正しいものが出ないことになります。
す。
この課題を、介護サービスと区分けしてスタッフ
のスケジュール及び利用者のサービススケジュール
に入れて管理する必要があります。理想を言えばケ
アウランと平行して、介護保険の限度額に入らない
サービスや、30分に満たない細かな利用者の要望
も予定を入れて現場へ落とし込むことで利用者の満
足度や介護保険との明確な区分けができるようにな
ります。
次に高齢者専用賃貸住宅では賃貸住宅である以
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