No 2012 - 1 長寿企業

No 2012 - 1
【ものづくり閑話】
長寿企業
企業で最も大切なことは、「継続」することである。顧客に商品やサービスを提供して
喜んでもらう。従業員を雇い、その家族を幸せにする。納税等をして地域や社会に貢献
する。 しかし企業が「継続」することは容易ではない。永い間には、経済の変動があ
り、地震などの自然災害があり、戦争もあり、ライバルとの熾烈な競争もある。仮に業
績が順調でも、有力な取引先が倒産する事もあり、不祥事が発生する事もある。企業経
営には様々なリスクがつき物で、特に2008年に発生したリーマンショックは、その
良い例である。
現在中小企業を取り巻く環境は厳しく、多くの中小企業は苦しんでいる。ところが同
じ「中小企業の仲間」が長寿企業として何代も続いていると聞けば、その秘訣に関して
興味を持つはずである。長寿な中小企業の「経営のコツ」を多くの中小企業関係者に知
ってもらい「何か」を学び、ヒントを得て、中小企業に元気で長生きをしてもらいたい。
日本は世界一の長寿企業大国である。創業200年以上の企業が、日本には3100
社存在する。世界全体の40%を占めている。ドイツは800社、オランダは200社、
アメリカは14社、中国は9社、台湾は7社、インドは3社、韓国は100年以上続い
ている企業は1社もない。業種的には、日本では和菓子と酒造、ドイツではパン屋と地
ビールが多い。上記統計は別にして、長寿企業を「創業100年以上の企業」と定義し
てみると、日本の長寿企業は、約5万社と推定されている。その99%は江戸時代以降
の創業で、明治時代の創業は8割強である。日本で最古の企業は、金剛組である。金剛
組の創業は、西暦578年で世界最古であり、代々四天王寺の宮大工をしてきた。長寿
企業の96%は、中小企業であり、業種的には、食品関連の製造や卸小売業が多く、そ
の組織形態では、株式会社と有限会社で、83.5%である。
一般的に長寿企業には、伝統的な昔ながらのやり方で本業だけはしっかり行うが、新
しいことに消極的なイメージがある。しかし長寿企業は、伝統をしっかりと承継するだ
けでなく、その一方で、新しいことや経営革新にも積極的に取り組み、今日まで生き延
びてきている。
「伝統の継承」すなわち「変わらないもの」と「革新」すなわち「変わる
もの」とを絶妙のバランスを取ってきたのが長寿の秘訣とされている。
変わらないもの①顧客第一主義(近江商人の三方よし)②本業重視(本業を長く続け
ることにより、商品の知識や商売のノウハウを習得して、それが自社の強みになる。)③
品質本位や製法の維持継承(原材料へのこだわり)④従業員重視(人材の育成)⑤経営
理念(家訓・社是) 変わるもの①商品・サービスに関する顧客ニーズへの対応(時代
に合った商品、サービスの開発)②販売チャンネルを時代に合わせて変更(B to Cの
商品に関しては、殆どの企業がネット販売を始めている。
)③本業の軽減を前提とした新
規事業の確立(新規事業だからと言って、新たに人を雇う、不動産を買うなどの追加的
経営資源の投入は出来る限り避ける。)④家訓の解釈を時代に合わせる。
上記の「伝統の継承」である「変わらないもの」とは、これらは長寿企業の特徴とい
うよりも、むしろ「経営の基本」である。従って長寿企業であろうと、社歴の浅い企業
であろうと、企業経営にあたっては、これからも引き続き大事にすべきことである。
今後の厳しい経済状況・激しい企業間競争の中で、更なる長寿企業を目指すには、
「伝
統の継承」はこれまで程度に留めて、出来るだけ多くの力を「革新」に注ぐべきである。
「伝統は、革新の連続である」。
長寿企業の事例(1)-㈱八木研
創業者の八木平助により、1932年に研磨材メーカーとしてスタートした。研磨剤
は通称磨きと言われ、荒物・船具・自転車・仏具などの業界の問屋を通じて販売してい
た。二代目の達郎は、研磨剤の乳化に取り組み、チューブ入りのペースト状研磨剤を開
発した所、問屋から注文が殺到し、大ヒット商品になった。しかし達郎は、問屋との商
売に疑問を持ち、新たなビジネスのネタ探しを始めた。最初は、パチンコ業界の仕事を
したが、チューブ入りの研磨剤が真鍮仏具の定番商品であった事がきっかけで、仏具業
界に参入した。その時三代目隆一が入社してきた。親子での話し合いの結果「伝統にあ
ぐらをかいている業界に、進んだ技術を持ち込んで事業をやろう」でした。そこで着目
したのが「仏壇」である。当時の仏具業界の市場規模は、約3000億円でそのうち1
500億円が仏壇であることが分かった。そこで一番大きな「仏壇」に参入することを
決め、親子2代での、二人三脚の「仏壇参入」プロジェクトをスタートした。
新規に仏壇市場に参入するには、既存の仏壇との違いを出す必要がある。当時は、マ
ンションがブームになり始めた頃で洋風化ととともに人々のライフスタイルも変わりつ
つあった。現在のライフスタイルに合わせた祈りの場として「仏壇のあるリビング」を
コンセプトに開発をスタートした。最初は、
「仏壇は寺のミニチュア」との認識のもとに
1984年にようやく「自由仏壇」を開発した。しかし全くの失敗で売れなかった。
理由はコストを下げようとしてプラスチックを使ったため安物と思われた。次は「仏壇
はお寺のミニチュア」に拘らず、家具産地の中でも一流のメーカーを選び新しいスタイ
ルの仏壇「現代仏壇」が誕生した。この商品は当たり、改良を重ねて斬新な新商品を開
発した。後継者を育成しつつ、全く違う分野で劇的な経営革新を実現した好事例である。
長寿企業事例(2)-㈱呉竹
呉竹の墨作りは、明治35年に始まった。奈良の大手墨業者の職人だった綿谷奈良吉
が独立して創業した。墨汁は、機械生産だが、固形墨は、創業時と変わらない手作業で
ある。墨の原料は煤で、菜種油を燃やしてできた煤に膠を混ぜて固め、手で揉む足で練
る。それを型に入れ、木灰の中に埋め込んで乾燥させる。この微妙な作業は、人手でな
と出来ない。
全国の墨の生産量の95%は、奈良県で作られている。創業400年という老舗もあ
り、明治35年に開業した呉竹は、この業界では新参者であった。この新参者は、何と
か上がった利益をまた次の事業に投じて企業規模を拡大していこうという気迫があっ
た。
新しいもの好きの新参者が、保守的な墨業界に激震を起こした。まず、昭和30年に
墨を擦らなくてもすむ液体墨「墨滴」を販売し、普及させた。当初は、書道業界より、
猛反発を買った。次に昭和48年には、
「くれ竹筆ペン」を開発した。墨やすずりを使わ
ずに毛筆と同じように書ける手軽さが受けて、半年で四百万本を売る大ヒット商品にな
った。筆ペン市場には、たちまち20社が参入し、年間三千万本と言われるマーケット
が形成された。しかしやがて、その規模は、およそ半分に落ち込んだ。
呉竹は、活路を「アート&クラフト」と呼ばれる分野に見出し、多彩なペンやマーカ
ーを生産し欧米にも販路を広げる努力をした。しかしパソコンやプリンターの普及によ
り売り上げが20%近くダウンし、社内の雰囲気は低下し、危機的状況を迎えた。
この危機を救ったのは、昭和33年に開発した「滲まない墨汁」の技術である。墨を
すり潰すことで、炭素の粒子を細かくする技術で電気が通じやすくなり、パソコンや家
電のコンデンサーに多く採用された。ハイテク分野に売り込むために100社以上訪問
して自社技術を採用してもらった。いい技術を引き継ぎ・新しい事にチャレンジする姿
勢が大事である。(出典:事業革新研究会ニュース*1)
テクノネットものづくり関西支部長 中上義春氏より提供
(*1:中小企業診断協会大阪支部の登録研究会「事業革新研究会」有志による月刊ニュー
ス。 発行主旨 :中小企業経営者の方や中小企業経営にご関心をお持ちの方に向け、経営
視点での記事を提供し、中小企業経営の革新に寄与することを目指す。)
以下に安藤百福(インスタントラーメン発明王)ほかの言葉を列挙した。企業長寿化
のため、心に響けば幸いである。
・大きな目標があれば、戦略は自ずと生じてくる。
・即席めんの発想にたどりつくには48年間の人生が必要だった。過去の出来事一
つ一つが現在の仕事に見えない糸でつながっている。
・発明はひらめきから、ひらめきは執念から、執念なきものに発明はない。
・明日になれば、今日の非常識は常識になっている。
・私は行く先々で人が集まっていればのぞき込む、商品に触ってみる、触ってから
分からなければ質問する。質問して分からなければ買って帰る。
・無駄なお金は一円たりとも使ってはいけない。生きたお金なら惜しみなく使いな
さい。要らないものはただでも高い。
・モラルが確立されていない企業風土では、どんな制度も形骸化してしまう。
・事業構造とは、一歩づつ積み重ねた結果である。踏み固めた基礎がないと砂上の
楼閣となり、瞬く間に瓦解してしまう。
・私の体験からして企業における財産というのは、いったんマイナス状態に陥ると
瞬く間に底をつく。
・売ろうとして宣伝するのではない、売れるから宣伝するのだ。
・まずは理想的な商品を考えてから生産設備を用意しなさい。生産しやすい商品を
開発目標にしてはならない。
・経営者とは、人の見えないものが見え、聞こえないことが聞こえる人間でなけれ
ばならない。
・保身術が身を滅ぼす。
・正義・誠実・正確の三せいを大切にしなさい。
・失敗を恐れるあまり、事なかれ主義に陥っていないか。
・立派な仕事とは、新しい事業構造を組み立てることです。
・・以上 安藤百福 ・
・独創への挑戦はリスクは大きいと思われているが、実は逆で人真似ほどリスクは
大きい。
・・ 林原健 ・・
・百歩先を見たら狂人と言われる。しかし足元だけを見ていたら置いてきぼりを食
らってしまう。従って十歩先ぐらいを見るのが一番いい。 ・・ 小林一三・・
・デメリットのあるところにこそビジネスチャンスがある。
・・ヤマト運輸 小倉 昌男・・
・成功を続けておさめるのは至難の業だが、ひとつ秘訣があるとすれば、それは過
去の成功を捨てることから始まる。
・・オムロン 立石一真 ・・
・社員のなかには知恵ある人間が沢山いる。そういう人達から自由さ、創造の喜び
を奪ってはいけない。無鉄砲なくらいチャレンジさせなくては企業の若さは保て
ない。
・・パイオニア 松本望 ・・
・よいアイデアが生まれるのは儲からなくて苦しんでいる時である。だから私は
儲かることをあまり喜んでいない。
・・シャープ 早川徳次 ・・
・利益しか生まないビジネスは虚しいビジネスである。
・・リー・アイアコッカ・・
【ちょっと片言隻語】
ゆで蛙/『2 匹のカエルを用意し、一方は熱湯に入れ、もう一方は緩やかに昇温する
冷水に入れる。すると、前者は直ちに飛び跳ね脱出・生存するのに対し、後者は水
温の上昇を知覚できずに死亡する』(Wikipedia)という話がある。
“ゆでがえるの法則”とか“ゆで蛙現象”とか呼ばれ、色んな分野で比喩として使
われるミシガン大学の経済学者ノエル・テイッシュの作ったたとえ話である。 およそ
人間は環境適応能力を持つがゆえに、暫時的な変化は万一それが致命的なものであっ
ても、受け入れてしまう傾向が見られる。例えば業績悪化が危機的レベルに迫りつ
つあるにもかかわらず、低すぎる営業目標達成を祝す経営幹部や、敗色濃厚にもか
かわらず、なお好戦的な軍上層部など。 なお、このゆで蛙現象は、あくまでもた
とえ話であり、十分な実験的検証に基づくものでは無いようである。オクラハマ大
学の動物学のハッチンソン教授によれば、蛙は変温動物のため、湯の温度が上がれ
ば、蛙は活性化し鍋から飛び出すだろうという異論もあ
る。蛙の名誉のために付け加えておきたい。
さて、ゆで蛙現象の真偽はともかく、写真は先般訪れたギ
リシャで見かけた犬の様子である。街の真ん中の雑踏の中
で、“犬の字”になって、気持ちよく曝睡している。至る
所で見かけた風景である。ギリシャで見聞した中での最大
のサプライズであった。
犬は飼い主に似ると言われる。ギリシャ人の国民性に拠るものであろうか? ギリシャ
人は、怠け者で、浪費家で、無責任と言われ、納税感がなく、80%の商売人が消費税
を納めず、裕福な国民の45%が納税しないとされる。さらにギリシャは、食い道楽国
家でもある。夕食後に夜食に出かけ、深夜の2時3時になるのもザラのようである。そ
のため EU 健康調査の不健康肥満率1位に輝いている。また労働人口の25%が公務員の
水膨れ国家でもある(公務員天国と言われる日本の約5倍であるから驚きである)。写
真の犬は、あたかも現在のギリシャを象徴しているかのようである。
ただ、犬も、ギリシャ人も怠惰で浪費するばかりでなく非常に頑張る場面があるようで
ある。最近のギリシャでは、“デモする犬”が話題でありメデイアの話題となっている。
公務員らのデモにいつも参加している。写真のような安穏な生活を守りたい為であろう
か?また、ギリシャ人の絶倫度は世界一であり、日本人をはるかに凌いでいる(詳細は
本ニュースの品位を落とすため省略したい)。怠惰なギリシャ人も頑張る時は、頑張っ
ているようである。犬も、ギリシャ人も持てるエネルギーを建設的な方向に発揮しても
らいたいものである。こんな苦言を呈しても、ゆで蛙状態であるギリシャ人にとって、
蛙の面に小便であろうか?
【事務局より】
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