国内外における税制グリーン化の最新動向と日本への

vol.11
2016
社会動向レポート
国内外における税制グリーン化の最新動向と日本への示唆
環境エネルギー第1部
元木
チーフコンサルタント
悠子
地球環境チーム
コンサルタント
内藤 彩
昨年度に引き続き、国際的に注目を集める税制グリーン化の最新動向について、対象国を日本、
欧州、北米、豪州の計16カ国に拡大し、政府関係者など各国の税制の専門家に対するヒアリン
グ調査をもとに整理した。また、各国の取組みを比較し、そこから示唆される日本の税制グリー
ン化の課題や今後の方向性について論じた。
(3)
界的な潮流に逆行しているとの指摘もあり
はじめに
日本の取組みに対する世界の目はますます厳し
2015年12月に、地球温暖化防止を目指す新
くなりつつある。
たな国際協力の枠組み「パリ協定」が COP21(国
日本は今後、規制や経済的手法などあらゆ
連気候変動枠組み条約第21回締約国会議)で採
る政策ツールを総動員して、世界に遅れること
択された。米国や中国を含むすべての国が、温
なく、再生可能エネルギーと省エネの一層の
室効果ガス削減の自主目標を提出し、着実に実
拡大に力を注ぐべきであるが、環境税はそのた
施していくことが規定された。さらに産業革命
めの重要なツールである。経済協力開発機構
前からの気温上昇を2度未満に抑える目標を明
(OECD)によれば、環境税(あるいは環境関連
記した上で、1.5度に抑えるよう努力する意思
税)には、エネルギー製品に対する「エネルギー
(1)
。加えて2015年9月には持続可能な
課税」
、自動車やその他の輸送手段に対する「車
開発目標が国連で採択され、従来の貧困撲滅に
体課税」
、および廃棄物や天然資源等に対する
焦点を当てた目標から、すべての国を対象に環
「その他の課税」があり、いずれも価格シグナ
境対策に注力した開発目標が合意され、各国が
ルを通じて、汚染者である企業や消費者が環境
(2)
汚染の費用を確実に考慮に入れることで、消費
日本は経済大国として、低炭素化の率先した
における排出削減や生産技術の向上等を促すこ
も示した
「持続可能な成長」の実現に向け舵を切った
。
(4)
取組みが求められる立場にあるが、2030年の
とができる点に特徴がある
温室効果ガスの削減目標(2013年度比26%削
税には政府に歳入をもたらすなどのメリットも
減、1990年比18%削減)は、欧州連合(EU)の
ある。
目標(1990年比40%削減)と比べると見劣りす
1
、
。加えて、環境
環境税を用いて税制を環境負荷に応じたもの
(5)
る。また昨今の国内における火力推進の動きに
に変えていこうとする「税制グリーン化」
対しては、英国や米国における火力発電に対す
動きは、特に欧州諸国で過去20年余り、「環境
る規制強化や、「ダイベストメント」と呼ばれ
税制改革(Environmental Tax Reform)」や「環
る化石燃料に関わる企業からの投資撤退等の世
境 財 政 改 革(Environmental Fiscal Reform)」
の
国内外における税制グリーン化の最新動向と日本への示唆 
として実践され、その動きは年々広がりを見せ
(2%)、欧州(1.8 ~ 3.9%)より小さく、最も大
ている。筆者らは、国内外における税制グリー
きなデンマークとは2.5倍の開きがある。税収
ン化の取組みについてこれまで 2 年間、調査を
構成は国により違いがある。今回調査した16
行ってきた。昨年、欧州主要国の状況について
カ国のうち、オランダを除くすべての国で、
「エ
(6)
取りまとめたところであるが
、本稿では対
ネルギー課税」と「車体課税」が環境税収全体
象を16カ国(日本、ドイツ、英国、フランス、
の9割以上を占めている。残る「その他の課税」
イタリア、スウェーデン、デンマーク、フィン
には廃棄物やリサイクル、公害関連、天然資源
ランド、スイス、アイルランド、ポルトガル、
や生態系保全などを目的とする様々な税があ
オランダ、ベルギー、米国、カナダ、豪州)に
り、中には、オランダ、デンマーク、フランス
拡張し、政府関係者など各国の税制専門家に対
のように環境税全体の10%割前後とかなりの
するヒアリング調査を行った。本稿ではその成
割合を占める国もある。
果を踏まえ、各国の税制グリーン化の最新動向
以下では、日本、欧州、北米、豪州、それぞ
を整理するともに、各国の比較を通じて、今後
れの地域で、どのような「税制グリーン化」の
日本が取組むべき課題や方向性などについて、
取組みが行われているかを具体的に見ていきた
筆者らの意見を述べたい。
い。各地域の主な環境税の導入状況については
図表 2 を参照されたい。
1. 国内外における税制グリーン化の取
組み
(1)日本
図表1に、日本および諸外国の環境税の税
エネルギー課税には、化石燃料の輸入・採取
額と構成、そして環境税の税収が GDP 全体に
段階で課税される石油石炭税と、石油製品の流
占める割合を示した。これを見ると、日本の
通段階で燃料ごとに課税される揮発油税、地方
GDP 比率は1.5%程度(約7.4兆円)であり、米
揮発油税、石油ガス税、軽油引取税、航空機燃
国(0.7%)やカナダ(1.1%)を上回るが、豪州
料税、販売電力に対して課税される電源開発促
図表1
環境関連税からの税収と GDP に占める割合(2013年)
(資料)OECD, Database on instruments used for environmental policy 等よりみずほ情報総研作成。
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図表2
2016
各国における主な環境税の導入状況
(注1)日本の地球温暖化対策税は石油石炭税の一部、フランスの炭素税は石油製品内国消費税等の一部。
(注2)ベルギーの埋立税 ・ 水質汚濁税 ・ 地下水税はフラマン地方、廃棄物税 ・ 取水税はワロン地方の地方税、米国の自動車
登録税 ・ 自動車使用税はニューヨーク州の地方税、カナダの自動車燃料税・LNG 税 ・ 炭素税 ・ タイヤ税 ・ バッテリー
税 ・ 鉱物採取税はブリティッシュ・コロンビア州の地方税。
(資料)ヒアリング調査および各国政府資料をもとにみずほ情報総研作成。
3
国内外における税制グリーン化の最新動向と日本への示唆 
進税の7つがある。また、石油石炭税に上乗せ
して徴税される地球温暖化対策のための税(地
(2)欧州
欧州における税制グリーン化の取組みは、
球温暖化対策税)が、2012年10月に導入され、
フィンランドの炭素税、スウェーデンやデン
すべての化石燃料に対して CO 2 排出量に応じ
マークの CO 2 税など、1990年代初頭の北欧諸
た税率が等しく課税されている。税率は3年半
国における取組みに端を発する。これらの国は、
かけて 3 分の1ずつ引き上げられ、2016年4月
既存のエネルギー課税に環境対策の観点をいち
の最後の引上げを経て、最終的に289円 / tCO 2
早く取り入れただけでなく、今日に至るまで課
となる。
地球温暖化対策税の税収は、エネルギー
税を強化し続けている環境先進国である。その
対策特別会計に繰り入れられ、エネルギー起源
後、エネルギー課税については、オランダやベ
CO 2 の排出削減を目的とする事業に充当され
ルギー、英国、ドイツが北欧諸国に続く形で、
ている。その他のエネルギー課税はすべて国や
鉱油税や燃料税の新設や税率の引上げを行っ
地方自治体の一般財源に入る。
た。2000年代に入ると、EU が2003年に定めた
(8)
車体課税には、自動車の取得に対して課税さ
「エネルギー税制指令」 が駆動力となり、オラ
れる自動車取得税と、保有に対して課税される
ンダやドイツにおける環境財政改革など多くの
自動車重量税、自動車税、軽自動車税があり、
国で改革が進展した。さらに、EU の「エネル
エコカー減税やグリーン化特例と呼ばれる燃費
ギー税制指令」改正(CO 2 排出量に応じた課税
に応じた軽減措置が設けられている。税収は基
(9)
(炭素税)の新設と最低税率の引上げ)の議論
本的に一般財源に入るが、自動車重量税の一部
を受け、フィンランドやデンマークで、課税方
は、公害健康被害補償財源として活用されてい
式の変更や課税対象の拡大、炭素税率の引上げ
る。なお、2017年4月の消費税率10%時点で自
が行われた。またこの間、スイス、アイルラン
動車取得税を廃止し、自動車税と軽自動車税の
ド、フランス、ポルトガルで炭素税が創設され
取得時の新たな課税として環境性能割(仮称)
た。炭素税を含むエネルギー課税の税収は一般
(7)
を設置することが決まっている
。
その他の環境関連税はいずれも地方税で、税
収すべてを足し合わせても環境税収全体の1%
に満たない。汚染関連では、2016年1月時点で、
財源として、多くの場合、税収中立の観点から、
法人税や所得税等の減税や、社会保障費の削減
による雇用創出喚起等に活用されている。
車体課税に関しては、2000年代以降、それ
三重県など28団体で導入されている産業廃棄
までの排気量や重量から、環境に直結する CO 2
物税と福井県など14団体で導入されている原
排出量や排出ガスへの課税標準の転換が多くの
子力関連税がある。資源分野では、法定税であ
国で行われた。取得税では、英国の社有車税や
る狩猟税と、住民税に上乗せして徴収される森
フランスのボーナス・ペナルティ制度(Bonus-
林環境税が高知県など36団体で導入されてい
Malus)、アイルランドの自動車登録税などであ
る。このほか、特定の自治体で、遊漁税(山梨
り、保有税ではスウェーデン、フランス、アイ
県富士河口湖町)
、砂利採取税(京都府城陽市
ルランドの自動車税、フランスの年間ペナル
等 2 団体)等が導入され、地域の自然環境保全
ティ制度(Annual Malus)、ポルトガルの自動
などに税収が使われている。
車流通税などである。さらに2009年に、EU が
「CO 2 排出規則」と呼ばれる世界で最も厳しい
新車乗用車の2015年排出目標(130g CO 2 / km)
4
vol.11
2016
(10)
を制定したことを受け
、フィンランドやオ
ダでは、燃料物品税からの税収の 6 割程度は一
ランダで取得税の課税標準の見直しが行われ、
般会計に入るが、残りは、ガス税基金に積み立
また、ドイツ、フランスでは保有税の見直しが
てられ、各州の道路整備等に充当されている。
行われた。すでに自動車税の課税標準を CO 2
米国、カナダともに、税率は非常に低い水準
としていた英国では、2年度目以降の税率と比
である。米国では、1993年以降、ガソリンは約
べ、CO 2 排出量に応じた重課・軽課をより強化
6円/ L、軽油は約8円/ Lで固定されている。カ
した初年度特例課税(First - Year - Rate)を新
ナダでも、ガソリン
(約 9 円)は1995年以降、軽
たに導入した。この制度は日本が2017年4月に
油(約 4 円)は1988年以降、引上げが行われて
新たに導入する環境性能割(仮称)の検討にお
いない。そのため特に米国では、税収縮小に伴
いて参考とされた制度である。
うインフラ整備資金の不足等が課題となってい
その他の環境関連税に関しても、オランダ、
る。一方で、環境に配慮した取組み
(再生可能
フランス、デンマーク、ベルギー、イタリアな
エネルギー設備導入、バイオディーゼル 精製、
どを中心に、日本で未導入のリサイクル関連(容
次世代自動車購入等)に対する所得税控除等を
器包装税等)や公害関連(SO2税、NOx 税、騒
行うことで、こうした低い税率の下でも、企業や
音税等)
、水資源保全(取水税等)を含む、様々
消費者の経済的インセンティブを担保し、一定
な税が導入されている。
の環境効果を見込むための工夫がなされている。
このように、エネルギー課税、車体課税、そ
車体課税について見ると、米国では、連邦レ
の他の環境関連税いずれにおいても、欧州は、
ベルで燃費に着目した取得時の課税があるが、
北米や日本を上回る先進的な取組みを数多く実
22.5mpg(243gCO 2 / km 相当
施している。EU における「税負担を労働や所
る燃料多消費車税(Gas Guzzler Tax)のみであ
得から消費や環境にシフトすべき」との方向性
る。保有税は基本的に州に権限が付与されてお
(11)
も後押しとなり
(12)
)を基準値とす
、欧州は今後も世界のトッ
り、例えばニューヨーク州では、重量に応じた
プランナーとして、税制グリーン化を牽引する
課税が導入されている。一方、カナダでは、連
役割が期待される。
邦レベルでグリーンレビー(Green Levy)と呼
ばれる燃費に応じた課税が導入されているが、
(3)北米
米国、
カナダともに、連邦レベルのエネルギー
課税として燃料物品税があり、主にこれらの税
収は基金化され、特定の目的に使われている。
5
(13)
基 準 値 が13L / 100km(302gCO 2 / km 相 当
)
と欧州の2015年排出目標と比較すると低い水
準である。
なお、米国では、2016年 2 月に、オバマ大統
米国では、ガソリンや軽油からの税収の大半は
領が、任期最後となる予算教書において、石油
道路整備等(幹線道路信託基金)に、残りの1%
に対する新たな課税(fee on oil)の導入を提案
程度は石油の流出事故対策等(地下貯留槽石油
した。5 年間で 1 バレル当たり10.25ドル(約 8
漏出信託基金・石油流出信託基金)に充てられ
円 / L)まで段階的に税率を引き上げ、税収は低
ている。また、石炭からの税収は炭鉱労働者の
炭素型の交通インフラ整備等に充てられる
塵肺対策(塵肺信託基金)に、内陸水路航行船
また、カナダでは、2015年10月に発足したト
の燃料消費からの税収は内陸水路の整備(内陸
ルドー(Justin Trudeau)政権が「環境・気候
水路信託基金)に充てられている。一方、カナ
変動省」を設立するなど、両国ともに連邦レベ
(14)
。
国内外における税制グリーン化の最新動向と日本への示唆 
ルでの取組みの進展が期待される。
(Carbon Pricing Mechanism)がある。当初は、
以上の連邦レベルの取組みに加え、北米で
産業界への影響を軽減するため、導入から5年
は州レベルで独自の取組みが進められている。
を か け て 税 率 を 段 階 的 に25.4AUD / tCO 2( 約
カナダのブリティッシュ・コロンビア州(BC
2,200円)まで引き上げ、2015年に欧州排出量
州)は、2008年に炭素税を北米で初めて導入
取引制度(EU-ETS)と接続すること(変動価
し、欧州の仕組みと同様に、税収を企業や市民
格への移行)が予定されていた。しかし、EU-
に還流し、CO 2 削減と経済成長の顕著な実績
ETS 価格の暴落と国内電力価格の高騰を受け、
(デカップリング)を残している。BC 州はこの
労働党から保守党に政権交代した2014年7月、
ほかにも鉱物採取税やバッテリー税などの州独
炭素価格付け制度は廃止された。但し、2015
自の環境税を導入している。また、2013年に
年9月 に 元 環 境 大 臣 の タ ー ン ブ ル(Malcolm
キャップアンドトレード(C&T)制度を開始し
Turnbull)氏が新たに首相に就任し、2016年内
たカナダのケベック州は、米国カリフォルニア
に総選挙が予定されているなど、豪州の炭素税
州との市場統合を行った上(2014年)、輸送燃
を巡る情勢は流動的である。
料を対象範囲に加えるなど(2015年)、制度を
拡張している。こうした環境先進地域(カリフォ
ルニア州、ケベック州、BC 州)の間で定期的
2. エネルギー課税の比較と日本に対す
る示唆
な議論が行われ、国を超え、州政府間で知見の
本章では、エネルギー課税に焦点を当て、各
共有が図られているのが特徴である。今後もカ
国の最新の税制の動向を踏まえ、「燃料別の課
ナダでは、アルバータ州が2017年の炭素税導
税水準」と「炭素税の設計」の2つのポイント
(15)
入を表明したほか
、オンタリオ州も C&T 制
(16)
度の導入を進めている
など、州レベルでの
先進的な取組みに注目が集まっている。
(4)豪州
豪州では、エネルギー課税、車体課税に加
から比較・検討を行い、そこから示唆される日
本のグリーン化の方向性について、筆者らの考
えを述べたい。
(1)燃料別の課税水準に関する比較
はじめに、各国のエネルギー課税の税率を、
え、オゾン層保護税や廃棄物税等も導入されて
輸送用(ガソリン・軽油)と産業用(石炭・天然
いる。車体課税の保有税など各州の裁量による
ガス・重油)に分けて比較する。エネルギー消
部分もあるが、基本的に環境税は、連邦政府が
費に対する税目には、物品税(Excise Tax)と
管轄している。国全体の傾向としては、図表 1
して課す既存のエネルギー税と、化石燃料の炭
にある通り、環境関連税収が GDP の2%に相当
素含有量に応じて等しく課す炭素税(Carbon
するなど、
日本を上回る取組みの実施が伺える。
Tax)の二つがある。本稿では、これらの税の
灯油、重油、LPG、天然ガスの税率が日本や
合計を CO 2 排出量 1 トン当たりの税率に換算し
北米と比べ圧倒的に高く、また軽油に対してガ
た上で比較を行う。
ソリンと同程度の課税を行っていることも、先
進的な取組みと言える。
(輸送用燃料)
近年の豪州の大きな動きに、2010年に導入
図表 3 の輸送用燃料(ガソリン・軽油)につ
され、2014年に廃止された炭素価格付け制度
いて見ると、日本の場合、ガソリンは北米、豪
6
vol.11
図表3
2016
輸送用燃料(ガソリン・軽油)の税率比較
(注)税率は2015年時点。但し、日本の地球温暖化対策税は2016年4月以降の税率。また、米国はニューヨーク州、カナダ
は BC 州の州税を含む。排出係数は特定排出者の事業活動に伴う温室効果ガスの排出量の算定に関する省令(平成18年
経済産業省・環境省令第3号)、為替レートはみずほ銀行外国為替相場2015年4月から10月の月中平均値。
(資料)EU(2015)EXCISE DUTY TABLES および各国資料をもとにみずほ情報総研作成。
図表4
産業用燃料(石炭・天然ガス・重油)の税率比較
(注)オランダの天然ガス(産業用)に対する課税は4段階に分けられており、ここでは最も税率の低い10.000m3以上を天然
ガス(大)、最も税率の高い170m3未満を天然ガス(小)と表示している。試算の条件は図表3と同じ。
(資料)EU(2015)EXCISE DUTY TABLES および各国資料をもとにみずほ情報総研作成。
7
国内外における税制グリーン化の最新動向と日本への示唆 
州に次ぐ低い水準で、軽油は米国の次に低い。
国では、産業部門にも高い税率を等しく課した
地球温暖化対策税は、ガソリン税率の1%程度、
上で、後述のようなきめ細やかな減免措置を講
軽油税率の2%程度を占めるに過ぎない。
じることで、経済への影響を緩和し、環境と経
ガソリン、軽油ともに、最も税率が高い国は
済の両立を図ろうとしている。
英国で、日本の 3 倍程度である。また、米国、
英国、豪州、スイスを例外として、多くの国で、
(2)炭素税の制度設計に関する比較
ガソリンの税率が軽油を大幅に上回り、最大5
次に、燃料への課税のうち、日本の地球温暖
割程度の開きがある。リットル当たりに換算す
化対策税を海外の炭素税と比較するため、日本
ればその差はさらに広がり、軽油には税制上の
および炭素税を導入している海外8カ国(フィ
優遇措置が講じられていることが分かる。しか
ンランド、スウェーデン、デンマーク、スイス、
し、ディーゼル車の排ガスによる健康被害や大
アイルランド、フランス、ポルトガル、カナダ
(17)
気汚染のリスクに鑑み
、フランスでは2016
年の炭素税の引上げに伴う増税に加え、軽油に
BC 州)の制度の特徴を、炭素税率と、炭素税
収の使途および軽減措置により比較する。
対する追加課税を行った。ベルギーやスイスで
も同様の取組みが予定されているなど、欧州で
は軽油とガソリンの税率格差の是正に向けた動
きが強まっている。
(炭素税率)
図表5の炭素税率の推移を見ると、日本の地
球温暖化対策税の税率は極めて低い水準である
上、2016年4月に289円 / tCO 2 に引き上げられ
(産業用燃料)
図表4の産業用燃料(石炭・天然ガス・重油)
た後、現時点ではさらなる引上げは予定されて
いない。
について見ると、日本の税率はいずれも低い水
一方、海外では、顕著な税率の引上げが行
準であり、そのうち、地球温暖化対策税は、石
われている。例えばフランスでは、2014年の
炭税率の49%程度、天然ガス税率の42%、重
導入時の税率7EUR / tCO (
を、2020
2 約950円)
油税率の27%程度を占めている。最も高いデ
年に8倍の56EUR(約7,600円)、2030年に約15
ンマークとは、石炭で24倍、天然ガスで41倍、
倍の100EUR(約13,500円)に引き上げようと
重油で4倍程度の開きがある。
し て い る。 ま た、2008年 に12CHF / tCO (
2 約
海外では、炭素税を導入している国の多くで、
1,500円)の炭素税を導入したスイスでは、直
既存のエネルギー税と同程度あるいはそれ以上
近の CO 2 の削減実績を踏まえて税率を定める
の炭素税が産業用燃料に課税されている。従来
こととしており、2018年時点で最大120CHF
のエネルギー税では、輸送用燃料と比較して産
(約15,300円)に引き上げる予定である。前年
業用燃料の税率を大幅に軽減していたのに対し
の EU-ETS 価格の年間平均値をもとに翌年の
て、温室効果ガスの抑制など環境の観点で導入
炭素税率を定めるポルトガルのような事例で
された炭素税の場合、産業用も含む幅広いエネ
は、国際的な炭素価格のトレンド次第では、将
ルギー消費に等しく課税することが特徴と言え
来の大幅な税率の引上げもあり得る。なお、将
る。フランスやスイスなどの炭素税導入国は、
来の炭素価格については、複数の国際機関が試
今後、炭素税率の引上げを通じて、産業用燃料
算を行っており、これを平均すると、2030年
に係る税率を引き上げる予定である。これらの
の炭素価格は CO 2 排出量1トン当たり約1万円
8
vol.11
図表5
2016
各国における炭素税率の推移と見通し
(注1)スイスの2018年の炭素税率は96 ~ 120CHF / tCO2と幅があるが、ここでは最も高い税率を適用。
(注2)為替レートは、みずほ銀行外国為替相場2015年4月から10月の月中平均値。
(資料)ヒアリング調査および各国政府資料をもとにみずほ情報総研作成。
(18)
となり
、欧州の取組みは、これらに比肩を
る付加価値税の課税開始のタイミングで、増収
取らない意欲的な目標と言える。加えて、この
分を法人税率の大幅な引き下げ(1990年53%、
ように将来の炭素価格を明示することは、企業
1991年30%、2015年22%)に充てることで、企
が投資判断を行う際の不確実要因を取り除くこ
業の負担軽減を図った。こうした取組みはフィ
(19)
とにもつながり
、実際にカナダ BC 州では
このような効果を見越して、導入時に 5 年先ま
(20)
での炭素税率を予告し、広く周知を行った
。
ンランドやカナダ BC 州においても実施されて
いる。
このほかにも、欧州では、国際競争にさらさ
(21)
れる企業の保護や炭素リーケージ
(炭素税収の使途・軽減措置)
図表 6 に示したとおり、日本の地球温暖化対
9
の防止、炭
素税と排出権による二重の負担の回避等を目的
に、EU-ETS対象企業への課税が免除されてい
(22)
策税の税収はすべてエネルギー対策特別会計に
る
入り、エネルギー起源 CO 2 削減を目的とする
は日本でも講じられている措置であるが、対策
事業に充てることで、環境面の効果を高めよう
余地の少なさや小規模農家への影響緩和等を目
としている(「財源効果」と呼ばれる)
。一方、
的に、農業部門に対する課税を軽減している場
海外では、環境面の効果はすべて税率の引上げ
合もある。また、フランスのように、炭素税導
による省エネ行動等の誘因(
「価格効果」と呼
入に伴う急激な価格上昇を回避するため、初年
ばれる)に委ね、税収は一般財源に入る。世界
度のガソリンと軽油の炭素税率を据え置く一方、
で最も高い炭素税1,120SEK / tCO (
2 約16,000
エネルギー税の課税部分を炭素税分とその他に
円)を有するスウェーデンでは、1991年に環境
分け、炭素税分を2年目以降に徐々に引き上げた
税制改革を行い、税収中立の観点から、炭素税
ケースもある。このように、海外では税収の活
や SO 2 税の導入およびエネルギー消費に対す
用や細やかな減免措置を通じて、産業への影響
。またEU-ETS対象外であっても、これ
国内外における税制グリーン化の最新動向と日本への示唆 
図表6
各国における炭素税の概要
(注1)税率は2016年1月時点。但し、日本の地球温暖化対策税は2016年4月以降の税率。
(注2)税収は取得可能な直近の値。但し、日本の地球温暖化対策税は2016年度(平年度)の見込値。
(注3)為替レートは、みずほ銀行外国為替相場2015年4月から10月の月中平均値。
(資料)ヒアリング調査および各国政府資料をもとにみずほ情報総研作成。
を回避し、経済と環境の両面で最大限のプラス
り、また、「税負担を労働や所得から消費や環
の効果を得るための工夫がなされている。
境にシフトすべき」という動きが世界的な潮流
となりつつあるなか、日本においても、地球温
(3)日本のエネルギー課税の今後のグリーン化
の方向性
暖化対策税の税率の大幅な引上げに加え、揮発
油税や軽油引取税など既存のエネルギー課税の
日本と海外の比較を踏まえ、エネルギー課税
炭素税化についても検討していくことが必要と
のさらなるグリーン化の進展に向け、今後、日
考えられる。日本の地球温暖化対策税の CO 2
本が実施すべき点を以下のとおり整理する。
削減効果は2%程度とされているが
○エネルギー税率(特に炭素税率)引上げ
による「価格効果」の最大化と、企業の
不確実性要因を取り除くための「将来の
炭素価格」の明示
○税収の経済活性化への活用
(23)
、効果の
大半は、「財源効果」によるものである。今後
は税率を引き上げ、海外のように「価格効果」
を最大化することが必要である。
地球温暖化対策税に対して、日本の産業界か
らは、「課税の廃止を含め、抜本的に見直すこ
(24)
とが喫緊の課題」との反対の声が根強いが
、
世界の情勢は大きく変わりつつある。2015年
(エネルギー課税の税率引上げ)
まず、
(1)で見たように、日本より高額のエ
ネルギー課税を導入している国が欧州に多数あ
には、シェルやトタルなどの石油メジャーが、
「炭素価格付け制度は我々にとり負担となるが、
炭素価格付け(carbon pricing)が将来の投資へ
10
vol.11
2016
のロードマップを明確にする」と声明を出した
(25)
ほか
、
74カ国1,000以上の企業が参画する「炭
素価格付けパネル(Carbon Pricing Panel)」が
2つのポイントから比較・検討を行い、そこか
ら示唆される日本の車体課税のグリーン化の方
向性について、筆者らの考えを述べたい。
(26)
国連事務総長の指揮の下に設置されるなど
、
炭素税を歓迎する意向を示す民間セクターも増
えている。これより、日本は今後「価格効果」
(1)標準的な車の取得・保有・走行に係る税負
担の比較
の最大化に向けた税率の引上げを行うことが望
はじめに、各国の乗用車の取得・保有・走行
ましく、その際は、企業にとっての不確実性を
に係る税負担額を比較する。対応する税目には、
取り除くため、カナダ BC 州やフランス、スイ
車体課税(取得・保有)に加え、車の取得や走
スで実施されているように、長期的な「将来の
行時の燃料消費に係る消費税やエネルギー税が
炭素価格」の見通しを示していくことが一層重
ある。本稿では、これらの税を合計した上で、
要と考えられる。
比較を行う。
図表 7 にあるように、取得に係る税はドイ
(税収の経済活性化への活用)
ツと英国を除くすべての国で導入されており、
現在の日本の地球温暖化対策税は、海外の多
CO 2 や燃費を課税標準に採用している国が多
くの国と異なり、税収の使途をエネルギー起源
く、日本のように価格のみを課税標準とする国
CO 2 削減策に限定している。これは「財源効果」
はむしろ少数である。保有に係る税は、カナダ
として、環境面の効果を最大化するための措置
を除くすべての国で導入されており、取得税同
であるが、そうではなく、法人税減税や社会保
様、多くの国で CO 2 や燃費が単独であるいは
障改革と一体となった、十分な「価格効果」を
重量や排気量など他の要素との併用で、課税標
有する大型炭素税などの「カーボンプライシン
準として採用されている。
グ」の導入が有効であるとの提言も環境省の有
(27)
識者会議から出されている
。こうした施策を
以 上 の 各 国 の 税 体 系 を 当 て は め、 日 本 の
2015年度燃費基準相当の燃費を有する標準的
国内で実際に展開するに当たっては、
(2)でみ
なガソリン車と、同クラスのディーゼル車を、
た海外の事例が参考になる。税収相当分を法人
12年間保有した場合の税負担を計算した。
税減税や社会保障費の削減として活用すること
図表 8 を見ると、日本の場合、税負担(ガソ
は、ドイツやスウェーデンなどに多くの実績が
リン車約127万円、ディーゼル車100万円)の5
ある。加えて日本のように莫大な財政赤字を抱
割程度が車体課税によるもので、その多くは保
える国にとっては、アイルランドで実践された
有に係るものである。また、ガソリン車とディー
ように、税収を赤字補填の財源とすることも、
ゼル車を比較すると、日本のケースではガソリ
今後極めて重要な選択肢になると考えられる。
ン車とディーゼル車が同じ重量、排気量クラス
となり、これによる税負担は同じとなる。一方、
3. 車体課税の比較と日本に対する示唆
11
ディーゼル車には、車両価格による負担増より
も大きな燃費による減税効果があり、さらに、
続いて、車体課税に焦点を当て、各国の最新
軽油のエネルギー税率が低いため、結果、取得・
の税制の動向を踏まえ、「標準的な車に係る課
保有・走行いずれにおいてもディーゼル車の税
税水準」と「燃費に応じた税制の導入状況」の
負担が軽い。
国内外における税制グリーン化の最新動向と日本への示唆 
図表7
各国における乗用車の取得・保有に係る税等
(注1)ベルギーの車体課税はフラマン地域、スイスの保有税はジュネーブ州、米国の保有税はニューヨーク州の場合。
(注2)米国の売上税はニューヨーク州とニューヨーク市の合計、カナダの売上税は連邦付加価値税とBC 州売上税の合計。
(注3)車体課税、消費税、エネルギー税の税率は2016年1月時点。為替レートは、みずほ銀行外国為替相場2015年 4月
から10月の月中平均値。
(資料)ヒアリング調査および各国政府資料をもとにみずほ情報総研作成。
欧州は、スウェーデン、ドイツ、フランス、
負担が小さくなっている。
英国、イタリアなど、国産自動車メーカーを有
する国の課税水準が低く、デンマークやオラン
ダなど課税水準の高い国とは10倍以上の開き
がある。また、2(1)のエネルギー課税と同様、
(2)燃費に応じた税制の導入状況―燃費を変化
させた場合の税負担額の比較-
次に、ガソリン車およびディーゼル車に対す
デンマーク、オランダ、ベルギーのように、大
る課税が、燃費の違いによって、どの程度変化
気汚染や健康被害等の観点から、ディーゼル車
するかを検討する。
に追加的な税を課す国もあり、こうした動きは
図表 9 は、(1)で用いた標準的な車に加え、
年々広がりを見せている。このほか EU では車
2種類の代替車(一定程度燃費が良い車と燃費
の取得や走行時に19 ~ 25%と高い付加価値税
の悪い車)を用意し、基準時からの税負担の増
がかかるため、総じて日本よりも高い税負担と
減を、ガソリン車とディーゼル車をそれぞれ試
なっている。
算した結果である。代替車の燃費については、
北米と豪州は、車体課税の負担水準が低いこ
EU の排出目標(2021年95gCO 2 / km)が、現状
とに加え、特に米国は、他地域よりエネルギー
(2015年130gCO 2 / km)から3割程度の改善を
税率が突出して安いこともあり、走行に係る税
求めていることを踏まえ、基準時からの変化率
12
vol.11
図表8
2016
標準的な自動車1台当たりの取得・保有・走行に係る税負担額
(注1)乗用車(ガソリン車:ディーゼル車)の設定は次の通り。車体価格180万円:210万円(税抜)、排気量1,800cc:2,000cc、
車両重量1.5t:1.6t、燃費15.3㎞ /L:18.4㎞ /L(JC08モード)、馬力142PS(共通)。排出係数2.32kgCO 2 / L、年間
走行距離10,000km、耐用年数12年の想定のもと計算。燃費はカタログ燃費。
(注2)ガソリン価格(税抜)は IEA, Energy Prices and Taxes, Volume 2015 Issue 4の2015年第 2 四半期、第 3 四半期
の各国平均値。為替レートは、みずほ銀行外国為替相場2015年 4 月から10月の月中平均値
(注3)図表 7 の制度を各国に当てはめて計算。税率は2016年 1 月時点。但し、ベルギーのフラマン地域、スイスのジュネー
ブ州、米国のニューヨーク州に加え、フランスの取得税はパリ市、イタリアの車体課税はローマ市、オランダの
保有税は北ホラント州、豪州の保有税にはニューサウスウェールズ州の税率を適用。
(資料)ヒアリング調査および各国政府資料をもとにみずほ情報総研作成。
排出ガスに応じた税制の強化を図り、環境性能
をそれぞれ30%とした。
これを見ると、日本の増減の幅(ガソリン車
約46万円、ディーゼル車約36万円)は、北米と
に優れた車(エコカー)の普及を加速化してい
く見通しである。
豪州を上回るものの、欧州のいずれの国よりも
小さい。日本と欧州を比較すると、欧州の増減
(3)日本の車体課税の今後のグリーン化の方向性
の幅は日本の1.5 ~ 10倍程度である。また、オ
日本と海外の比較を踏まえ、車体課税のさら
ランダ、デンマーク、アイルランドなど増減の
なるグリーン化の進展に向け、今後、日本が実
幅が大きい上位の国ほど、その大半を車体課税
施すべき点を以下のとおり整理する。
が占めており、特に燃費に応じた重課が徹底し
○燃費に応じたメリハリの効いた税制
(燃費
ている。
こうした税制も寄与し、EU 全体での2014
年の乗用車の平均排出量は123.4gCO 2 / km で、
(28)
2015年目標を前倒しで達成した
。より一層
厳しくなる CO 2 排出目標や排ガス規制の達成
に向け、欧州各国は今後も、CO 2 排出量や燃費、
13
課税)
の導入
○燃費課税の両輪となる燃費規準の厳格化
国内外における税制グリーン化の最新動向と日本への示唆 
図表9
異なる燃費の自動車1台当たりに係る税負担額変化
(注)試算の条件は図表8と同じ。
(資料)ヒアリング調査および各国政府資料をもとにみずほ情報総研作成。
(燃費に応じたメリハリの効いた税制の導入)
まず、
(1)や(2)で見た通り、今回の調査で
つながりかねない。また、事実上の減収となり、
地方財政にも影響しかねない。
改めて、日本は、車の燃費や CO 2 排出量など
「平成28年度与党税制大綱」によれば、環境
の環境性能による税負担の増減が、欧州と比べ
性能割の税率区分は 2 年毎に見直しが行われ
て極端に小さいことが明らかとなった。日本が
る。制度導入後速やかに、燃費改善やエコカー
今後目指すべきは、欧州のように、車の環境性
技術開発の動向、地方財政への影響等に関する
能に応じた重課・軽課を徹底する、よりメリハ
検証を行い、環境の観点から相応の見直し案の
リの効いた税制(燃費課税)である。
提案を行っていくことが肝要である。さらに
日本では、2017年4月に、自動車取得税に代
ユーザーの税負担額の大きさや税収の観点から
わり新たに、燃費性能に応じて課税する環境性
みれば、日本の場合、取得税より保有税(自動
能割が導入される。しかし、燃費による免税ラ
車重量税、自動車税、軽自動車税)の重要性が
(29)
高い。今後は、燃費課税の導入など、保有税の
エコカー減税などで基準の強化が継続的に図ら
恒久的な税制グリーン化の仕組みの検討に着手
れてきた経緯を踏まえれば、今回の環境性能割
すべきと考える。
インは2015年度よりむしろ後退している
。
の設計は極めて異例であり、エコカー購入イン
センティブの後退やエコカー開発意欲の低下に
14
vol.11
2016
(燃費基準の厳格化)
だけでなく「経済」にとっても最大限プラスと
欧州における税制の強化(課税標準の CO 2 へ
なるように設計し、デンマークやスウェーデン
の変更、減税基準の厳格化等)の背景には、た
では、経済成長を実現しながら CO 2 排出量を
ゆまぬ努力を要する厳しい CO 2 排出目標があっ
削減するデカップリングの顕著な実績を残して
た。日本にも同様の燃費基準があるが、目標
いる。日本も、税制グリーン化を通じて、持続
値 は2015年 度16.8km / L、2020年 度20.3km / L
可能な成長の実現を目指すべきであろう。
(30)
(138gCO 2 / km 相当、
114gCO 2 / km 相当
海外には、エネルギー課税や車体課税は勿
)と、
欧州(2021年95gCO 2 / km)や米国(2025年143g
(31)
論、汚染に係る税や資源に係る税など幅広い税
]
)と比べると
が導入されている。これらはいずれも「第 4 次
見劣りする水準である。日本の過去の燃費推移
環境基本計画」で掲げた「低炭素社会」、
「循環
を見る限り、目標は容易に達成される見込みで
型社会」、
「自然共生型社会」、
「安全が確保され
CO 2 / mile[89gCO 2 / km 相当
(32)
あり
、これではさらなる技術開発のインセ
ンティブが働かない。
今回取り上げた以外の国(例えば中国)でも、
日本よりも厳しい燃費基準の導入が検討されて
(33)
る社会」の構築に寄与するものである。日本で
はこれまで、地方が率先して森林環境税や産業
廃棄物税を導入してきたが、フロン税、取水税、
地下水税、容器包装税、排水税、騒音税、漁業
。世界屈指の自動車大国として、世界
税など、未導入の税がまだいくつもある。国が
の潮流に乗り遅れることなく、燃費基準の厳格
主導するのみならず、地方が特色を生かし、自
化と燃費課税との両輪で、自動車のグリーン化
治体が率先して導入に取り組むことに期待し
を進めていくことが必要と考えられる。
たい。
いる
冒頭に述べたように、
「パリ協定」や「持続
4 . おわりに
本稿では、2 年におよぶ調査成果を踏まえ、
2050年、あるいはその先を視野に入れ、日本は
あらゆる施策を総動員して CO 2 の大幅削減や持
国内外16カ国の税制グリーン化の最新動向を
続可能な成長の実現に取り組まなければならな
整理した。その結果、昨年度と同様、程度の差
い。世界の取組みに注目しつつ、日本において
はあるにせよ、いずれの国においても税制グ
税制グリーン化を推進するための方策等につい
リーン化の取組みが活発化しつつある状況が伺
て、さらなる検討を深めていきたい。
えた。
とりわけ欧州では、環境課税へのシフトの方
向性が EU および加盟国間で共有され、多くの
国で毎年のように環境税の税率引上げが行われ
ていた。また、炭素税については、スウェーデ
ン、スイス、フランスなどで導入当初の10倍
以上に相当する炭素税を導入あるいは今後も予
定しており、こうした価格の「見える化」が、
企業にとっても不確実性をなくす、歓迎され得
る政策と分かった。欧州では、環境税を、
「環境」
15
可能な開発目標」
が採択された今こそ、2030年、
注
外務省「国連気候変動枠組条約第21回締約国会議
(COP21)
,京都議定書第11回締約国会合(CMP11)
等 」(2015年12月28日 )http://www.mofa.go.jp/
mofaj/ic/ch/page18_000435.html
(2) United Nations, 2015, Transforming Our World:
The 2030 Agenda for Sustainable Development,
A/RES/70/1.
(3) E3G, 2015, Japan isolated as USA leads the way
in G7 move beyond coal.
(4) OECD, 2 0 1 0 , Taxation, Innovation and the
Environment など。
(1)
国内外における税制グリーン化の最新動向と日本への示唆 
(5)
(6)
(7)
(8)
(9)
(10)
(11)
(12)
(13)
(14)
(15)
(16)
(17)
(18)
(19)
(20)
(21)
(22)
環境省「税制全体のグリーン化の推進に関するこ
れまでの議論の整理(中間整理)」(2012年9月4日)
http://www.env.go.jp/press/files/jp/20610.pdf
社会動向レポート「日本および欧州における税制
グリーン化の最新動向」(みずほ情報総研 元木悠
子・内藤彩、2015年2月)
http://www.mizuho-ir.co.jp/publication/report/2015/
mhir09_greentax_01.html
財務省「平成28年度税制改正の大綱」
http://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/
outline/fy2016/20151224taikou.pdf
Council Directive 2003/96/EC – Energy taxation
Directive.
2011年に欧州委員会により提案がなされたものの、
発効には全加盟国の承認が必要であり、現在まで
実現に至っていない。
Regulation(EU)No 333/2014, Regulation(EC)
No 443/2009.
European Commission, 2 0 1 3 , Annual Growth
Survey 2014など。
1mpg = 0.425km / L、1L = 2.32kg CO 2 で換算。
1L = 2.32kg CO 2 で換算。
Budget of the United States Government, Fiscal
Year 2017
https://www.whitehouse.gov/sites/default/files/
omb/budget/fy2017/assets/budget.pdf
Government of Alberta, Climate Leadership
Plan, Carbon Pricing.
http://www.alberta.ca/climate-carbon-pricing.cfm
Ontario, Cap and trade.
https://www.ontario.ca/page/cap-and-trade
OECD, 2014, The Cost of Air Pollution.
国際エネルギー機関(欧州連合の値を採用)、米国
環境保護庁、英国エネルギー・気候変動省の試算
結果を基に平均値を算出。(出典)IEA, 2015, World
Energy Outlook 2 0 1 5、EPA, 2 0 1 5 , The Social
Cost of Carbon、DECC, 2015, Updated short-term
traded carbon values used for UK public policy
appraisal.
Global Council on Economy and Climate, 2014,
Better Growth, Better Climate.
Pedersen, T., F. and Elgie, S., 2015, A template for
the world: British Columbia’s carbon tax shift.
炭素リーケージとは、炭素価格が地域毎に異なる
ことにより、生産拠点(CO2発生源)が、炭素価格
のより低い地域に移転すること。
一方、産業界への過度な優遇措置は炭素税の効果
を損なうとの指摘もあり、スウェーデンでは、産
業界に対する軽減措置(本則税率の60%)を2018年
にかけて段階的に廃止する予定。
(出典)Andersen,
M., S., 2 0 1 5 , Reflections on the Scandinavian
Model: Some Insights into Energy-Related Taxes
in Denmark and Sweden、Ministry of Finance
Sweden, 2015, Environmental taxes in Sweden.
(23) 地球温暖化対策税の価格効果や財源効果について
は、環境省「地球温暖化対策のための税の導入」
http://www.env.go.jp/policy/tax/about.htmlを参照。
(24) 日本経済団体連合会
(2015)「平成28年度税制改
正 に 関 す る 提 言 」https://www.keidanren.or.jp/
policy/2015/075_honbun.html#s3-4を参照。
(25) BG, BP, Eni, Royal Dutch Shell, Total, 2 0 1 5 ,
“Letter to UNFCCC.”
(26) Carbon Pricing Leadership,“Leaders Unite in
Calling for a Price on Carbon”
.
http://www.carbonpricingleadership.org/carbonpricing-panel
(27) 環境省気候変動長期戦略懇談会
(2016)「提言~温
室効果ガスの長期大幅削減と経済・社会的課題の
同時解決に向けて~」http://www.env.go.jp/press/
teigen.pdf を参照。関連して、第3回懇談会(2015
年11月29日)における伊藤元重委員の発言「炭素
税や環境税の導入による相当な税収は必ずしも環
境対応に使わなければいけない訳ではない。環境
税のメリットは、環境コストを消費者や企業に
理解してもらうことを通じて行動を変容させるこ
と。その副産物である税収分を、産業界への理解
を醸成するため法人税を引き下げる、あるいは国
民の理解を醸成するため、社会保障の保険料負担
を低くするといった議論がおそらく2020年以降、
非常に重要な政治経済的問題としてあがってく
る。」http://www.env.go.jp/policy/kikouhendou/
kondankai03/gijigaiyou.pdf を参照。
(28) EEA, 2 0 1 5 , Monitoring CO 2 emissions from
passenger cars and vans in 2014.
(29) 日 本 経 済 新 聞
(2015年12月11日 )「 車 買 う と き、
17年度からは 燃費良いほど税率低く」を参照。
(30) 1L = 2.32kgCO2で換算。
(31) 1mile = 1.60934km で換算。
(32) 国土交通省「乗用車の燃費・CO2排出量」http://
www.mlit.go.jp/jidosha/jidosha_fr 1 0 _ 0 0 0 0 2 4 .
html を参照。
(33) ICCT, 2 0 1 4 , “Development of test cycle
conversion factors among worldwide light-duty
vehicle CO2 emission Standards.”
16