自動車用高性能・高信頼性VGターボチャージャの開発,三菱重工技報

三菱重工技報 VOL.43 NO.3: 2006
31
自動車用高性能・高信頼性 VG ターボ
チャージャの開発
特 集 論 文
Development of the High Performance and
High Reliability VG Turbocharger for the
Automotive
大 迫 雄 志*1 陣 内 靖 明*2 佐 俣 章*3
Katsuyuki Osako
Yasuaki Jinnai
Akira Samata
鈴 木 浩*2 茨 木 誠 一*4 林 慎 之*5
Hiroshi Suzuki
Seiichi Ibaraki
Noriyuki Hayashi
エンジンへ空気を過給するターボチャージャは,排気ガス規制強化に伴い自動車用ディーゼルエンジン
にとって必須の製品となっている.特にディーゼル乗用車の比率が高いヨーロッパでは,タービン側のノ
ズルベーンが可変で過給圧をコントロールできる VG(Variable Geometry)ターボチャージャが,主流
になりつつある.ターボチャージャ性能はエンジン燃費に直接影響し,可変ノズル機構は高温無潤滑環境
下で使用される事から,高性能,高信頼性を両立する VG ターボチャージャを開発し,製品化した.
タービンで利用し,
同軸上のコンプレッサを駆動して,
1.は じ め に
エンジンに高圧空気を過給する装置で,VG ターボ
欧州,日本及び米国での排気ガス規制強化に伴い,
チャージャは,タービン側に可変ノズルベーン機構を
従来のウェイストゲートバルブ付ターボチャージャに
持つのが特徴である.VG ターボチャージャは,エン
代わり VG(Variable Geometry)ターボチャージャが,
ジン条件に合わせノズル開度を調整することで過給圧
ディーゼルエンジンにとってスタンダードな装置と
を最適条件にコントロールでき,図1のように,エン
なってきている.VG ターボチャージャは,エンジン
ジンの燃費低減などに効果がある.近年では,図2に
の燃費改善,
ドライバビリティ向上に効果があるため,
高効率化が求められている.また,VG ターボチャー
ジャは,ノズルベーンを駆動するための複雑な機構を
タービンハウジング
可変ノズル
可変ノズルで
タービン絞り量を調整
高温無潤滑環境下で使用し,さらに,広い流量・圧力
作動範囲での使用により,タービン翼共振点での運転
が避けられない.このため,ノズル駆動機構の耐摩耗
ノズル
絞
ノズル
開
エンジン
低速トルク
向上
燃費
向上
性やノズルウェークに対する耐共振性などの信頼性向
上が強く要求されている.
当社では,これらの要求にこたえるため,乗用車向
タービン動翼
からトラック・バス向まで 高性能・高信頼性 VG ター
ボチャージャを開発し,表1のように製品化した.
排ガス
エンジン低回転時=排ガス量(小)
2.VG ターボチャージャの目的・構造
エンジン高回転時=排ガス量(多)
図1 VG ターボチャージャの仕組み・効果
エンジン低回転時にはノズルベーンを絞り,高回転時
には開く事で過給圧を最適に制御する.
ターボチャージャは,エンジンからの排気ガスを
表1 三菱重工製 VG ターボチャージャのラインアップ
VG型式
エンジン排気量
エンジン出力
(L)
(kW)
TD03
TF035H
TD04
TD04H
TD05
TD06
TD07
TF08
1.2
∼
1.7
40
∼
60
1.6
∼
2.2
70
∼
100
2.0
∼
2.8
90
∼
130
2.8
∼
3.2
130
∼
150
3.2
∼
4.5
150
∼
180
4.5
∼
6.0
180
∼
200
6.0
∼
8.0
200
∼
240
8.0
∼
13.0
240
∼
350
*1
*4
*2
*5
技術本部長崎研究所ターボ機械研究室長
汎用機・特車事業本部ターボ部ターボ設計課
*3
汎用機・特車事業本部ターボ部ターボ設計課主席
排ガス
技術本部長崎研究所ターボ機械研究室主席
技術本部長崎研究所トライボロジ研究室 工博
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コンプレッサ
ホイール
ノズルベーン
エギゾーストマニ
ホールド
VG ターボ
タービン動翼
ノズルベーン
開度の最適化
EGRバルブ
周方向
(タービン動翼
回転方向)
周方向
圧力変動:小
周方向
圧力変動:大
排気圧力の最適化
イター
クーラ
直線翼
エンジン
EGR量の最適化
図4 新型円弧ノズルの CFD 結果
新型円弧翼を開発し,タービン動翼入口部の周方向静
圧歪を低減した.
EGRシステム
インレットマニホールド
図2 VG ターボチャージャと EGR
ノズル開度を変える事でエンジン排気圧力が変化し,
EGR 量を制御できる.
円弧翼
状を最適化した.これは,後述するノズルウェーク共
振時のタービン動翼加振力を低減する事にも効果があ
る.
また,VG ノズルベーンは,ノズル開度によりノズ
アクチュエータ
ル周りの空力モーメントが変化する.最悪の場合,ノ
ズル開閉,閉開で 過給圧のヒステリシスが生じ,エ
ンジン制御に悪影響を及ぼす.さらに,ノズルリンク
ノズル
カートリッジ
機構の摩耗が進行した場合,モーメントとガタの影響
で VG ターボチャージャが過回転し,過度の過給圧が
レバープレート
生じる場合がある.円弧ノズルでは,これらの傾向が
クランク
直線ノズルと異なるため,ノズル回転中心位置を最適
ドライブリング
化し,制御性と性能向上を両立させた.
マウント
タービンハウジング
ベーン
サポート
リング
VGノズルカートリッジ
図3 当社 VG ターボチャージャの構造
タービンハウジングからの熱影響を排除するため,可
変ノズルベーン機構部をカートリッジ化している.
3.2 高性能タービン動翼
タービン動翼での損失は,図5の CFD 結果に示す
ように翼内部での2次流れにより翼出口負圧面の高い
( )
位置に集中する 3 .図5に示す新型タービン動翼では,
翼を三次元化して2次流れを防ぎ,動翼での損失を低
示すように,NOx 低減のための EGR(Exhaust Gas
減できた.
この新型タービン動翼の効果は大きく,
ター
Recirculation:排気ガスの吸気への還流)を細かく
ビン単体試験で約3%効率向上した.
コントロールするために VG ターボチャージャが使用
( )
され 1 ,急激な普及が進んでいる.
タービン動翼
当社の VG ターボチャージャは,図3に示すように,
可変ノズルベーン機構部をカートリッジ化して ター
ビンハウジングの熱影響を排除し,可変ノズルベーン
翼入口
回転方向
( )
のスティックを防止した構造にしている 2 .
3.性 能 向 上
損失
損失の低減
前述のように,VG ターボチャージャの性能は,エン
ジン燃費に影響することから,さらなる高効率化が要
求されている.当社では,特に重要構成要素である VG
三次元翼
ノズルとタービン動翼について高性能翼を開発した.
3.1 高性能 VG ノズル
図4に,開発した円弧ノズルと CFD 結果を示す.
VG ノズルベーンを従来の直線翼から円弧翼とし,全
てのノズル開度で周方向の変動が少なくなるように形
翼出口
従来翼形状
図5 新型タービン動翼の CFD 結果
翼出口
新翼形状
新型三次元タービン動翼を開発し,動翼出口での2次
流れの集積を防ぎ,損失を低減した.
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3.3 エンジン上での性能
Lamp
これらの高性能 VG ノズル,高性能タービン動翼
Mirror
を組み合せた当社最新型の VG ターボチャージャを
Ring
図6に示す.2L クラスの乗用車に採用された電動ア
Disk
クチュエータ駆動の VG ターボチャージャ(機種名
Original line
120μm摩耗
TF035H-VG)であり,図6に示すように 特にエン
Disk:材料C
Ring:材料B
ジン低速での飛躍的な効率向上により,燃費改善,ド
ライバビリティ向上を達成し,好評を博している.
Disk:材料A
Ring:材料B
TEST FACILITY
16
12
Bearing
Example of 2.0L passenger application
Original line
Disk
Ring
TEST PIECE
タービン効率
12%向上
3μm摩耗
タービン効率
図7 高温摺動試験装置と最適材料の試験結果
高温摺動装置を使用し,VG リンク用の耐摩耗材料を試
験し,最適な材料組み合せを採用した.
:最新型VGターボ
:従来型VGターボ
:目標
0
1 000
2 000
3 000
4 000
5 000
エンジン回転数(rpm)
図6 最新型 VG ターボチャージャ(TF035H-VG)の性能
右側写真の最新型 VG ターボチャージャは,エンジン
上で 12 %のタービン効率向上を達成した.
負荷荷重,摺動速度の試験条件を決定し,十数種類の
材料の組み合せを試験した.図7に示すように,従来
の材料組み合せに対して摩耗量を顕著に低減できる
材料組み合せを見いだす事ができ,これを新型の VG
ターボチャージャに採用している.
また,VG リンク機構の形状寸法最適化には,タグ
チメソッドを使用して,リンク摩耗に対してロバスト
図8に検討結果を示すが,
な部品寸法形状を決定した.
4.信頼性向上
各要素のうち摩耗に影響ある形状因子を3種類程度見
前述のように,VG ターボチャージャは,高温無潤
いだす事ができた.この結果を反映した VG リンク機
滑環境下で,かつ広い流量・圧力作動可能範囲を要
構を試作し,図9に示すように実際に試験して摩耗低
求される事から,ノズルリンク機構の摩耗やノズル
減効果を確認した.トラック・バス向 VG ターボチャー
ウェーク共振によるタービン動翼破損の問題を避けて
ジャは,乗用車向をベースに,さらに耐摩耗性を向上
通れない.当社では,以下の対策により VG ノズルリ
させた形状・構造としている.
ンク機構の耐摩耗性向上,ノズルウェークに対する耐
4.2 ノズルウェーク共振対策
共振性向上を実現した.
VG ターボチャージャは,広い流量・圧力作動範囲
4.1 VG リンク材料・形状最適化
を要求され,かつ範囲内では,どの点でも作動可能で
VG リンク機構は,高温無潤滑環境で,かつエンジ
ある事を要求される.このため,運転域内に必ずター
ン上での振動環境下で使用されるため,リンク摩耗が
ビン動翼共振点が存在し,共振点での運転は避けられ
発生する.さらに,トラック・バスでは,ターボチャー
ない.図 10 に示すように,ノズルウェーク共振は,
ジャ排気後流にバルブを設け,エギゾーストブレーキ
排気ガス規制がますます進む近年では,ノズルリンク
摩耗の低減が強く要求されている.
当社では,VG リンク機構に耐摩耗材を採用する事,
VG リンク機構の形状寸法を最適化する事の2本立て
で,耐摩耗性を向上させている.
図7に示す高温摺動装置
(4)
を使用し,VG リンク用
の耐摩耗材料を選定した.実機での使用条件より温度,
1.14
1.1
Small
1.06
Small
寸法 B
Small
寸法 C
1.02
L1
L3
M
1
M
3
N
1
N
3
O
1
O
3
P
1
P
3
Q
1
Q
3
R
1
R
3
S
1
S
3
T1
T3
U
1
U
3
V
1
V
W3
1
W
3
と,過給圧や EGR の細かい制御にずれが生じるため,
1.18
2
B
1
しい環境下に置かれる.リンク摩耗がさらに進行する
寸法 A
1.22
A
時,VG ターボチャージャは,摩耗に対して より厳
摩耗体積(Nmm/deg)
として使用する.このため,バルブ閉のブレーキ作動
設計要素
図8 VG リンク機構の形状寸法最適化
タグチメソッドを使用して,リンク摩耗に対してロバ
ストな部品寸法形状を決定した.
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(2.0L Passenger:engine endurance)
従来型VG
:従来VG
:最適化VG
顕著な摩耗
摩耗量
顕著な摩耗
94%
Down
88%
Down
92%
Down
88%
Down
形状最適化後
殆ど摩耗無し
殆ど摩耗無し
0
LEVER PLATE DRME PIN SLEEVE LEVER PIN
100 時間耐久後の摩耗度
図9 最適形状の VG ターボチャージャ耐久試験結果
タグチメソッドで寸法決定した VG リンク機構を試作し,耐久試験にて大幅な摩耗低
減を確認した.
VGノズル
翼共振点で108 回以上運転させた後の蛍光深傷写真
ノズルウェークによるタービン動翼加振
MEHCANISM OF
BLADE VIBRATION
タービン動翼
図 10 ノズルウェーク共振のメカニズム
ノズル後流ウェークによる圧力変動がタービン動翼を
加振し,動翼の固有振動数と一致すると共振する.
左上:タービン動翼正面
下 :タービン動翼背面
右上:タービン動翼側面
破損なし
ノズルウェーク共振による
タービン動翼共振 応力大
20
最大
振動応力
16
動翼固有振動数
FEM 解析によるタービン動翼
相対振動応力
14
12
10
6
システムを使用してノズルウェーク共振時の翼応力を
4
推定し,ノズルウェーク共振によるタービン動翼破損
2
0
タービン回転数
エンジンでの共振条件でタービン翼を材料の疲労限ま
で加振し,蛍光深傷で異常の無い事を確認した.
較して共振応力解析精度を向上させている.この解析
8
全負荷
VG開度 小
図 12 ノズルウェーク共振耐久試験後のタービン動翼
次数
周波数 (Hz)
18
Example of Truck application
図 11 タービン翼共振応力の計測結果と FEM 解析結果
の比較
VG ノズルウェーク共振時のタービン翼応力を実測し,
FEM 結果と比較して解析精度を向上させている.
防止のため,加振力低減,共振点チューニング,及び
動翼体格強度向上の対策を採っている.また,運転域
内の避けられない共振点については,図 12 に示すよ
うに,実際のエンジン条件で高サイクル疲労限まで VG
ターボチャージャを運転し,耐振強度を確認している.
4.3 市場での信頼性実績
ノズル後流のウェークによる圧力歪がタービン動翼を
図 13 に,2003 年に発売された当社の乗用車向 VG
加振し,動翼がウェークを通過する周期と動翼固有振
ターボチャージャ(機種名:TD03L-VG)について,
動数が一致した場合に共振する現象である.
市場での信頼性を確認するため,ワイブル解析を実
当社では,図 11 に示すように,トラック・バス向
施した結果を示す.この VG ターボチャージャの B10
VG ターボチャージャを用いて実エンジン上の各種運転
ライフ(故障確率 10%の寿命)は,走行距離で 500
条件下での翼共振応力を測定,把握し,FEM 結果と比
万 km であり,乗用車の寿命を 10 万 km とした場合
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Example of 1.7 L passenger application
10
1.0
故障確率(%)
0.025 %
3 000 km
0.01
0.001
1 000 km
0.0001
B10 Life ≒5 000 000km
≒250ppm at 100 000km
103
104
105
106.7km=500万km
走行距離(km)
図 13 当社乗用車向 VG ターボチャージャの市場での信頼性
市場流通している当社 VG ターボチャージャをワイブル解析し,長寿命,低故障
率である事を確認した.
では,市場で 0.025 %(250 ppm)の故障確率である.
この VG ターボチャージャについては,VG リンク機
構の摩耗対策として,最適な材料組み合せのみを実
施したタイプであり,現在市場に展開中の当社最新型
VG ターボチャージャでは,さらに寿命が延びる事が
期待される.
5.ま と め
世界規模での排気ガス規制強化に伴い,従来のウェ
イストゲートバルブ付ターボチャージャに代わり燃費
改善,ドライバビリティ改善,さらに NOx 低減のた
参 考 文 献
(1)恵比寿幹ほか,先進技術で自動車の低公害化に
貢献する三菱ターボチャージャ,三菱重工技報 Vol.41 No.1(2004)p.40
(2)荻田浩司ほか,三菱重工業製 車両用過給機の動
向,日本ガスタービン学会誌 Vol.33 No.4(2005)
p.251
(3)Osako, K. et al., Study of the Internal Flow of
Radial Turbine Rotating Blades for Automotive
Turbochargers, SAE World Congress(2002)
(4)Matsui, A. et al., Improvement of Tribological
Properties of C/C Composites at High
Temperatures, TRIBOLOGY TRANSACTIONS
Vol.41(1998)p.124
めの EGR コントロールにも有効な VG ターボチャー
ジャが,急速に普及している.VG ターボチャージャ
は,ノズルベーンを駆動するための複雑な機構を有し,
広い作動範囲での高効率化と,過酷な使用条件下での
信頼性向上を強く要求されている.
当社では,これらの要求にこたえるべく,乗用車向
大迫雄志
陣内靖明
佐俣章
鈴木浩
茨木誠一
林慎之
からトラック・バス向まで 高性能,高信頼性を両立
する VG ターボチャージャを開発し,製品化した.
今後さらに VG ターボチャージャの性能向上,信頼
性向上を図り,地球環境に優しい低公害自動車開発へ
の参加を通じて,社会に貢献したいと考える.