PDF 233KB

資料1-1
アメリカ公正取引委員会(FTC)による「消費者被害回復」について
(consumer redress)
2009年6月26日
中川丈久
Ⅰ.全体像:アメリカ法(連邦法)における違反行為に対する措置体系
(1)措置体系の分類その1 〔手続別にみた場合〕
ア)刑事裁判手続による措置 (刑事罰)
収監(imprisonment)/罰金(fines)/保護観察(probation)の3種。
付加刑として,criminal forfeiture(犯罪手段または違法収益の没収)+restitution(原状回復)
がありうる。なお,銀行監査官に criminal debarment がある(18 U.S.C. Sec.655)
イ)民事裁判手続による措置 (民事判決)
(1) 被害者自身による民事訴訟 (実損害賠償請求〔3倍額〕/restitution & disgorgement)
しばしばクラスアクション。ときに,父権訴訟(政府が後見的に提訴)
(2) 政府によるインジャンクション訴訟(違法行為の中止+抑止のため consumer redress)
(3) 政府による民事制裁金訴訟 (civil money penalty)
対個人 and/or 法人
ウ)行政手続による措置 (日本法でいう行政処分。ALJ を使う厳格な事前手続が多い)
(1) 中止命令 (Cease and Desist Order),改善命令等
(2) 制裁金賦課(Civil money penalty)
対個人 and/or 法人
(3) 許可取消し,営業停止命令,資格剥奪(debarment)等
(2)措置体系の分類その2 〔機能別からみた場合〕
① punishment
報告のテーマ
& retribution (懲罰・応報)を主目的とする措置
刑事裁判を通しての措置=刑事処罰 (criminal penalty)
② remedy of victims (被害者救済)を主目的とする措置
民事裁判手続による措置(1) 被害者による民事訴訟
③ deterrence (予防・抑止)を主目的とする措置
民事裁判手続による措置(2) 政府が提起するインジャンクション訴訟
(違法行為の中止+抑止のため consumer redress)
民事裁判手続による措置(3) 民事制裁金の賦課
行政上の措置(1)(2)(3)
あとで見るように,消費者被害回復(consumer redress)は,主に restitution & disgorgement という形で
理解されているようである。
1
Ⅱ.Restitution / disgorgement について
(1)語義(アメリカ及びイギリス)1
Restitution は,「自らの非違行為によって受益することは許されない(one should not gain by one’s
own wrong)」ゆえ,「加害者(被告)が保持すべきでない利益」(unjust enrichment)を被害者に引き渡す
べきであるとする様々な法理を総称する言葉である。
コモンロー上の restitution として,quasi contract(準契約),エクイティ上の restitution としての擬制信
託(constructive trust),リーエン(equitable lien),代位(subrogation)などを,上記の観点から体系的に把
握しようとするアプローチが,英米で行われている。
また,restitution は,加害者が被害者から取得した財産を返還する(giving back)も意味するし,加害
者が独自に得た利得の引渡し=吐き出し(giving up)も意味する。したがって,日本法でいう不当利得
返還請求と同じ意味にもなりうるが,それに限定されない。Disgorgement doctrine は,違反行為によっ
て加害者に利得が生じる場合には,被害者の被害の範囲で補填したのでは正義に反することがあり,
「原告の損失を限度としない吐き出し的救済」すなわち,「不法収益をすべて被害者に引き渡せ」という
考え方である。Restitution は,広義にはこれも含む概念である。
Restitution and disgorgement というように並列して用いるときは,両者をまったく区別しない用語法で
あることもある(後述の Earthinfo 判決)。他方,FTC による 13(b)提訴の文脈で restitution and
disgorgement というように並列されるときは,前者が give back(日本法でいう不当利得返還であり
restoration でもある),後者が give up を意味するというように区分する意味で用いられることもある2。
(2)とくに Disgorgement について(不法収益の吐き出し請求。エクイティ上の権限)
損害賠償のように,被害の限度で損失を補填する救済では正義とはいえない事情がある場合には,
むしろそれに代えて,加害者の不法収益(ill-gotten gains)を剥ぎ取り,被害者に引き渡させるという救
済(disgorgement remedy)が,判例上,認められてきた。制裁であるようにも見えるが,そうではなく,被
害者が原告であり,あくまで被害者の救済のあり方として認められてきたものである。
1
アメリカ法については,International Encyclopedia of Comparative Law Vol.X: Restitution- Unjust Enrichment
and Negotiorum Gestio, Chap.3 History of Restitution in Anglo-American Law (by George Palmer), at 16-38
(1989); Symposium: Restitution and Unjust Enrichment, 79 Tex. L. Rev. 1763 (2001)(アメリカ法 2002-2 号 387 頁
に紹介(disgorgement については 389-390 頁))。
イギリス法については,Steve Hedly, Restitution: Its Division and Ordering (Sweet & Maxwell 2001) 97-117;
Francesco Giglio, The Foundations of Restitution for Wrongs (HART Pub. 2007).
2
後述する FTC Act§13(b)の文脈の場合の,裁判所の語法について後出のⅢを参照。
FTC も FTC Act§13(b)の文脈ではこのように使い分けている。すなわち,FTC, Policy Statement on Monetary
Equitable Remedies in Competition Cases (http://www.ftc.gov/os/2003/07/disgorgementfrn.htm)によれば,
disgorgement を to deprive a wrongdoer of his unjust enrichment and to deter others from future violation と定義し,
restitution を to restore the victims of the violation to the position they would have been in without the violation,
often by refunding overpayments と定義する。
2
しかし,どういう要件が充足されれば,被害者に不法収益の吐き出しが認められるべきなのか,またそ
の理論的根拠をどう説明すべきか(restitution を全体としてどう整理し,そこにどう disgorgement を位置
づけるか)は,なお明確ではない。
リステートメント:Restatement of the Law Third Restitution and Unjust Enrichment
§3 コメント b
b. Disgorgement. Where the defendant has acted in conscious disregard of the plaintiff’s rights, the
whole of any resulting gain is treated as unjust enrichment, even though the defendant’s gain
exceed both (i) the measurable injury to the plaintiff, and (ii) the reasonable value of a license
authorizing the defendant’s conduct.
(訳) 被告が,原告の権利を自覚的に踏みにじる場合には,たとえ,被告が得た利得が(i)原告に
発生した算定可能な損失を超えていても,また(ii)被告の行為を適法化するために必要な合理的
価格を超えていても,なお,被告が得た利得のすべては,不当な収益とみなされる。
Disgorgement は,efficient breach theory と抵触するので,それとのバランスを考える必要がある。適用
範囲がさほど広くなく,extraordinary な救済であるとされているのは,この観点からも理解できる。
契約法/不法行為法/restitution 法の関係は,きわめて錯綜している。契約違反に対する救済として,
当該事案の性質に鑑みて,契約法による救済ではなく,restitution 法による救済が適切であるとして
disgorgement を認める判決も出ている。これもまた,extraordinary な救済であるとされることと整合する。
Earthinfo, Inc. v. Hydrosphere Resource Consultants, Inc., 900 P.2d 113 (Sup.Ct. Colo., 1995).
コンピューターソフトウェア会社が,ソフト開発を依頼し契約を締結した会社(正確には譲受人)を被告として,
後者による契約違反(ロイヤルティ不払い)を理由に,ソフトウェア開発契約の取消し(rescission of contracts.エク
イティ上の救済)を求めた訴訟(具体的な債務不履行の状況は不明)。
第一審は,「重大な契約違反」であり,「契約の性質及び紛争の深刻さに鑑み,損害賠償では不十分である」
として,契約を取り消したうえで,契約取消しに伴う処理として,原告ソフトに関する情報や財産の返却を命ずる
ほか,被告がこれまでにソフトウェアによって得た一切の純利益も原告に支払えとの判決を下した。
最高裁は以下のように述べ,これを支持。
Restitution と disgorgement を
・契約法上は,契約違反によって被害者の失った期待利益について損
区別しない用語法の例。
害賠償されればよい。他方,restitution 法は,契約違反によって加害
者が得た利益を剥奪するものである。被害者の失った利益が,加害者の得た利益と同じかより大きい場合に
は,契約法上の救済(損害賠償)を認めれば,restitution 法上の問題も起きない。しかしその逆の場合,ふた
3
つの法原理が衝突する。(Fransworth の引用)
・Restitution とは,被告の得た利益(gain)を基準に救済を決めるものであり,被告の unjust enrichment の防止を
目的として,その利得の吐き出し(disgorgement of that gain)を強制しようとするものである。これに対して,
damages(損害賠償)は,原告が被った損失(loss)を基準に救済を決めるものであり,損失の補填
(compensation for that loss)を目的とするから,restitution とは,原理的に異なる。
・契約法と restitution 法の衝突の解決方法はこれまで2つあった。第1に,「契約違反は wrong にはあたらない」
という理屈で,衝突を避けること,第 2 に,違反者の得た利益が,被害者の損失を上回るときには,全利益を
剥奪することをもって損害賠償と考えることである。当裁判所は第 3 の方法として,例外的事案においては
restitution 法によって救済することを認めるべきであると考える。
・本件事案においては,被告が故意に,かつ重大な契約違反をしていること,原告の損害は算定が困難である
こと,契約取消しとなっていること,被告がロイヤルティ不払いであった期間に契約によって得た利得を保持
させるのは an unjust enrichment であることから,extraordinary remedy of restitution and disgorgement of
profits was justified と認定する。
以上からすると,不法収益の吐き出しは,消費者被害が詐欺的契約,自覚的な不当表示,自覚的
な安全性欠如製品によって生じている事案には,適用しやすい発想であるように思われる(Efficient
breach を考える必要がない)。問題は民法との関係(解釈で済ませられるか,立法が必要か)のほか,こ
の救済が必要な事案がどれほどあるか。
日本法においてこれまで disgorgement(不法収益の引渡し請求権)を認めるべきかどうかが論じられ
た例は次のような場面である3。いずれも,理論構成をどのように考えるべきか(被害者に帰属する利得
であるという説明をどうつけるか)について,種々の議論がある。ドイツの「準事務管理」概念の導入,英
米法の信任関係法理の導入,民法 709 条の損害賠償の損害概念の拡張(人格権侵害の場合),民法
642 条2項の適用で済むとする説(委託契約の場合)など。
・故意に他人の権利を侵害して利益を上げた者に,不法行為に基づく損害賠償を超えて獲得し利
益をすべて被害者に引き渡す義務を負わすべきか
・二重売買の場合に,転売予定価格を超えて,実際に得た売却利益の引渡しを請求できるべきか
・委任契約に違反して利得を挙げた受任者に利得の引渡しを請求できるべきか(受任者が第三者
から特別の報酬を約束されて,委任者に不利益な行為をした場合,委任事務を通じて得た知識
によって委任者の利益に対抗する行為をしたり,知識を漏洩したりして利益を得た場合など)
3
吉永一行「委任契約における利益の吐き出し請求権(一)」民商法 126 号4・5号 613 頁(2002),616 頁,621-623
頁による。
4
Ⅲ.FTC による「消費者被害回復」(consumer redress=restitution and disgorgement)
(1)FTC の権限
FTC 法5(a)条は,「不公正な競争」(unfair methods of competition)と「不公正又は欺瞞的な行為又は
慣行」(unfair or deceptive acts or practices)を禁止する。前者は競争法であるが,後者が消費者保護法
であり(1938 年に挿入),UDAP 規定と呼ばれることがある。後者の具体化として,FTC は,trade
regulation rules と総称される委任命令(法規命令)を制定している4。(なお,消費者保護法は UDAP 規
定以外にも多数あるが,省略する。)
消費者保護規定である UDAP 規定に違反した者に対して,FTCは,①~④の権限をもつが,実際に
はほとんど④だけで対応している。
①排除命令(cease and desist order)
FTC Act §5(b) 行政命令
・違反行為の禁止のみならず,将来的差止めも命じうる5。
・「フェンシング・イン」(違反認定されていないが,関連行為もあわせて禁止する)も可6。
・排除命令の違反者に対する強制執行は,civil money penalty(間接強制)による。FTC Act §5(l)
1 日1違反とカウントし,1 個の違反に1万ドル以下。
※後出②の FTC Act§19 との関係では,排除命令で事業者に対して,被害回復(consumer)をする
よう命じることまでは含まれないと推測される。しかし立法論として,cease and desist のひとつとして
被害回復命令も含めえないのかどうかは,不明。州法にそのような例があるかもしれない。
――排除命令手続の開始前・係属中の仮差止め FTC Act §13(b) FTC が裁判所へ申立て
排除命令の発効は,これを争うための出訴期間の経過後,又は提訴された場合はその後 60 日間経
過後である(FTC Act §5(g))。そこで,その間に至急に違法行為を止める必要がある場合,FTC は,
TRO(temporary restraining order)ないしは preliminary injunction を裁判所に申し立てる。FTC Act
§13(b)の立法意図は,排除命令の行政手続進行中に,企業合併に暫定的インジャンクションをか
ける場面を想定していた。1970年代以来,FTC はそのように用いている。
② 消費者被害回復 FTC Act§19
FTC による民事訴訟
立法趣旨がわかりにくい条文であり,後出の 13(b)がフルに使用できることとなると,こちらの存在意
義はなさそうである(中途半端にしか救えないため)。もっとも,訴状や判決によっては,根拠条文とし
4
委任命令の制定権限があることは National Petroleum Refiners Association v. FTC, 482 F.2d 672 (D.C.Cir.
1973)で認められている。Kintner & Smith, The Emergence of the Federal Trade Commission as a Formidable
Consumer Protection Agency, 26 Mercer L. Rev. 651 (1975).
5
FTC v. Colgate-Palmolive Co., 380 U.S. 374, 395 (1965).
6
FTC Practice and Procedure Manual, at 162.
5
て§13(b)と§19 を並列して掲げる例もある。
z
「不公正競争」又は「欺瞞的慣行」に関する FTC 規則(trade regulation rules)に違反した者
z
「不公正競争」又は「欺瞞的慣行」を行ったとして FTC の排除命令を受けた者であって,その違
反行為が「不誠実又は詐欺的である」ことを知り得たはずの者 〔こう限定した趣旨は不明〕
に対して FTC は,消費者被害の回復を求めて提訴することができる。FTC Act §19 は,明文で,下
記を含むこと(しかしこれに限らない)を定める。
ア)契約の取消し・改定 (rescission or reformation of contracts)
イ)金銭の返還,財産の返還(refund of money or return of property)
ウ)損害賠償金の支払い (payment of damages)
エ)違反に関する公告 (public notification)
なお,明文で,「本条は制裁的損害賠償を認めるものではない」と定める。また,排除命令が出され
た場合は,そこでの事実認定は原則として本訴訟において争えない(実質的証拠がある限り)。さら
に同条による被害回復は,連邦・州法による他の救済に追加するものであって,代替するものでは
ないとも定める。
③民事制裁金(civil money penalty) FTC Act§5(m)
FTC による民事訴訟
悪意ある違反者に対しては,排除命令の手続を飛ばして(=一回分の違反は容認される結果を生
む),civil money penalty を通して似た効果を及ぼそうとする趣旨の規定ではないかと考えられる7。
z
自らの行為が,「不公正競争」又は「欺瞞的慣行」に関する FTC 規則(trade regulation rules)に
違反するものであることを知りながら,同規則に違反した者に対し,FTC は,civil money penalty
の提訴をすることができる。1個の違反につき1万ドル以下。
z
「不公正競争」又は「欺瞞的慣行」に関して第三者(GM)に FTC の排除命令が出された後,自ら
の行為が FTC 法違反であることを知りながら,同法に違反した者(Ford)〔排除命令の当事者以
外の者〕に対して,FTC は civil money penalty のための提訴をすることができる(排除命令の対
象者に限らない)。1個の違反につき1万ドル以下。
上記2つの訴訟において,1日の違反をもって1個の違反とする。また,裁判所は,故意の程度,違
反歴,支払い能力,事業継続への影響等を考慮するものとする。
前述の②の消費者被害回復の民事訴訟(§19)と,③の民事制裁金の民事訴訟(§5(m))は,相互
7
Consumer Protection Handbook, at 45.
6
に妨げられず,両方提起することができる。8
④ FTC が「恒久的インジャンクション」を求めて提訴 FTC Act§13(b) ……1980 年代以降の傾向
FTC が,公益目的で違反行為を差し止める民事訴訟を提起し,差止めの実効性確保の一環とし
て,消費者被害の回復を命じるよう裁判所に求める訴訟(現在の行為の差止めだけでなく,違法行
為による利得も効率的に剥奪されると,将来の繰り返しが防げる)。
FTC Act§13(b)には,「恒久的インジャンクション」の但書(Provided further, That in proper cases
the Commission may seek, and after proper proof, the court may issue, a permanent injunction.)という
短い条文が挿入されている。
もともと§13(b)の立法意図は,②で述べたように,企業合併を行政手続の係属中に暫定的に止
めることを想定したものであった。しかし FTC は,1980 年代以降,消費者保護の分野において,この
条文をフルに用い始め,裁判所もそれを認めてきた。裁判所は,「インジャンクション」の権限の行使
を裁判所に求めることができると条文に書いてあり,それを制限する条文がない以上,その立法趣
旨は,エクイティ上の救済権限をフルに認めたものと解さざるを得ないというのである9。
具体的には,「欺瞞的な行為又は慣行」に対して,まずは訴訟係属中の,暫定的インジャンクショ
ン,資産凍結,仮管財人(temporary receivers)の指名などを求め10,その後本案訴訟として,恒久的
差止判決その他のエクイティ上の救済命令(契約取消,restitution[restoration, such as refunding
overpayments], disgorgement など)などを求めることができるのである11。
その結果,FTC は,消費者保護分野においては,行政命令を使うよりは,§13(b)による民事訴訟
提起をする傾向を強めた12。排除命令をすると,消費者被害の回復(consumer redress)のためには
別途,訴訟を提起しなければならない(FTC Act§19)が,§13(b)だと一度に済むからである13。なお,
消費者被害について多く,和解している14。
消費者被害の回復(consumer redress)とは,“restitution and disgorgement, collectively termed
“consumer redress” by the Commission”を指す15。詐欺(fraud)の場合,すなわち被害者が詐欺的仕
組みに取り込まれ,特定可能であるので restitution が機能しやすい。他方で,虚偽公告の場合は事
情が異なり,むしろ disgorgement のほうが適切であるとする指摘がある16。
8
D. Epstein & S. Nickles, Consumer Law 2nd ed., (West, 1981) 20.
FTC v. U.S. Oil & Gas, 748 F.2d 1431, 1434 (11th Cir. 1954); FTC v. Southwest Sunsites Inc., 665 F.2d 711,
717-78 (5th Cir. 1982), cert. denied, 456 U.S. 973 (1983); FTC v. H.N. Singer, Inc., 668 F.2d 1107, 1113 (9th Cir.
1982).
10
FTC v. Trek Alliance Inc., (C.D. Cal. 2002?).
11
FTC Practice and Procedure Manual, at 168-169; Calkins, An Enforcement Official’s Reflections on Antitrust
Class Action, 39 Ariz.L.Rev. 413, 432 (1997)
12
FTC Practice and Procedure Manual, at 167.
13
FTC Practice and Procedure Manual, at 169 n.87; Consumer Protection Handbook, at 47.
14
Consumer Protection Handbook, at 46 n.50 にその例がある。
15
Consumer Protection Handbook, at 46(.
16
Consumer Protection Handbook, at 46.
9
7
※ 被害回復として restitution & disgorgement だけでなく,不法行為に基づく損害賠償(damages)を
含めることはできないのかということが気になる。
形式的な説明としては,損害賠償請求はコモンロー上の救済であって,エクイティ上の救済では
ないので,ここには含まれないという回答があるかもしれない。もっとも FTC Act§19 は,損害賠償
請求も救済内容に含めているから(上述),損害賠償も含むのかもしれない。
実質論として考えるならば,①あくまで違反行為の禁止というインジャンクションを実効あらしめる
ために,被害回復を命ずる判決を求めるのであるから,加害者の unjust enrichment を防ぐという観点
から議論するのが適切(被害者の救済を主目的ではない),②損害賠償となると個々の被害者の状
況を参しゃくしなければ出てこないが,restitution であれば加害者の利得状況だけを見ればわかる
ので,立証が楽,という点から,実際には,consumer redress に損害賠償請求を含めることはないの
ではないかと推測される。
(参考)
競争法分野においても,FTC が,§13(b)を用いてエクイティ上の救済として,disgorgement や
restitution を求めていることが注目を集めている。競争法分野で FTC が restitution and disgorgement
を求めて提訴し,勝訴した近時の例として,FTC v. Mylan Labs., 62 F.Supp. 2d 25 (D.D.C. 1999),
modified on other grounds, 99 F. Supp. 2d 1 (D.D.C. 1999); FTC v. Hearst Trust, (D.D.C.2001); FTC v.
Perrigo Co. and Alpharma, Inc., (D.D.C. 2004) などである。FTC v. Warner Chilcott Holdings Co.,
(D.D.C. Oct.23, 2006)は,FTC が執行するあらゆる法律違反についてこの提訴が可能だとした。
FTC は 2003 年に,§13(b)を用いて restitution and disgorgement を求めることについての指針を示し
てパブリックコメントに付している。
FTC の Policy of Statement on Monetary Equitable Remedies in Competition Cases
・ FTC 法 13 条(b)に基づき FTC が提起するインジャンクション訴訟において,違法収益の収奪
(disgorgement)及び違反者による原状回復措置(restitution)を求めるのは,次の3つを考慮する。すなわ
ち,1)違反が明らかである場合,2)違反による収益や,違反による被害について,合理的な算定方法が
ある場合,3)私訴がなんらかの理由で十分に機能していない場合(時効など)。たとえば重大な競争法違
反がある場合には,私訴の可能性があっても,被害回復も求める。
・ なお,不法収益剥奪や原状回復を得られたからといって,民事制裁金の算定を減額するといった調整
(offset)をすることは不適切であると考える。民事制裁金は抑止力を最大化する目的で算定されるもので
あり,そのようなことをすると,民事制裁金が dilute され,効用を失う。
(2)FTC Act §13(b)による FTC の民事訴訟の事例
訴状では,被害回復に係る請求の趣旨として,「契約の取消,支払われた金額の返還(refund of
monies paid),不法収益の吐き出し(disgorgement of ill-gotten monies)その他を命じるよう求める」という
8
定型文句が使われており,restitution か disgorgement かを原告側で特定することはないようである(エク
イティであるので救済内容が裁判所の専権ということもあるが,そもそもこれらは連続的なものであると
いう発想もあるかもしれない)。
また,FTC Act §13(b)における差止めや被害回復は,内容的には,被害者が個人訴訟やクラスア
クションで自ら求めることもできるものである。こうした訴訟が継続している場合は,§13(b)訴訟と併合さ
れることがある。
以下は顧客リストがあり被害者特定がある程度容易な事案である(引っ越しの可能性はあるが)。
虚偽広告(痩身)の事案
FTC v. SlimAmerica, Inc., 77 F. Supp. 2d 1263 (S.D.Fla. 1999)
虚偽広告の差止め命令に続き,被害回復については次のように判示した。
・個々の消費者が広告を信じて購入したことを立証する必要はなく,通常の慎重さをもつ人間であれば信じ
るであろうこと,広く広告されていることが示されればよい。
・被害回復は,消費者が購入のために支払った金額が相当である。売上額から払戻額を差し引いた
8374586 ドルが適切である。
不当電話勧誘(医療器具)の事案
FTC v. Gem Merchandising Corp., 87 F.3d 466 (1996)
・恒久的差止め・被害回復・事業監視
・被害回復として disgorgement を命ずるが,可能な限り被害者に配分した後,残額があれば国庫に入れる旨
を判決。
ネズミ講(pyramid scheme)の事案
FTC v. Trek Alliance, Inc., Docket No. CV-02-9270 SJL (C.D.Cal. Dec.16,2002)
・暫定的差止め・資産凍結・仮管財人指名
・恒久的差止め・被害回復・遵守報告書提出等(和解判決)
サブプライムローン(欺罔的勧誘)の事案
FTC v. First Alliance Mortgage Co., Docket No. SACV-00-964 DOC (C.D.Cal. March 21, 2002)
・First Alliance 社(破産手続中)との和解判決により,その残存資産と個人経営者からの支払分をあわせて,
被害回復資金(redress fund/consumer redress pool)が設定され,ローン手数料(loan origination fee)分が,
FTC から返還される。約 18000 人に最大で総額60億円分の小切手(一人あたり平均33万円)が郵送され
る予定。
・被害者は,settlement class members として数グループに分類される(満額受け取りの人,別の訴訟ないし和
解で一部の補填をされている人,本和解からオプトアウトしたため受け取り資格のない人,等)。
・和解は,連邦地裁が,FTC 訴訟に,それ以前から提起されていた州による訴訟,個人提訴訴訟を併合させ
て,成立させたものである。
・資金は民間会社が FTC の委託を受けて管理する(fund administrator)。被害者の特定,小切手の郵送,小
9
切手の現金化を忘れている人への通知その他の業務を行う。
・すべての被害者にすべての支払が終わった後に残余がある場合,FTC は,被害者への追加の支払いを行
うか,消費者教育に用いるかを選択する。いずれにも使わなかった場合には,国庫に組み込む。
懸賞詐欺
FTC v. Windermere Big Win Int’l, Civ.Act.No. 98C 8066 (N.D.Ill. Oct. 23, 2000)
・恒久的差止めと,消費者被害回復として 19797982 ドルの支払いを命じた。さらに,暫定的差止め時の管財
人指名の続行と,払い込みまでの資産凍結などを命ずる。
・判決によれば,FTC がその裁量で,被害回復が全部又は一部不可能となった場合は,disgorgement として
国庫に払い込むこととなる。
Ⅳ.日本法においてどう受け止めるか
(1)「被害額を超えた不法収益の引渡請求(吐き出し)」(disgorgement)について
請求権としてこれを認めるには立法が必要であると考えた場合は,ちょうど独禁法に,被害者による
損害賠償請求権,差止請求権が定められているが,それと同様の規定をたとえば消費者契約法その
他の法律に置くこととし,あわせて,一定の場面では被害額を超える不法収益引渡請求権も認められ
ることが考えられる。
もっとも,この権利の性質をどう捉えるか自体が大問題であるだけでなく(民法学界での議論),そもそ
もこのような権利を認める必要が,現実的にどの程度あるのかは,必ずしも明らかではない。
アメリカ FTC 関係のわずかな判決からの観察に止まるが,disgorgement という救済を認めるかどうかと
いう論点にこだわるよりは,そもそも集団的被害回復をいかに効率的に進めるかという仕組みを整備す
るほうが喫緊の課題であるように思われる。通常の不当利得返還請求(giving back の restitution の意
味。なお,損害賠償請求は,既述のとおり,あまり現実的ではないであろう)を,集団的被害者のために
取り立てる制度を整備することのほうが先行すべきではないか。
(2)集団的被害回復の仕組み(その1): 国による公益目的の提訴という受け止め方
被害者が有する差止請求権と被害回復請求権を,父権訴訟的に国が行使するのか,それとも,国
が裁判所を使って公益のため提訴という発想でいくのかを決めなければならない。
FTC Act§13(b)は,後者であるが,日本にはこうした発想の法律はこれまでなく,公益目的はすべて
行政処分で処理してきた(私人が提起する民衆訴訟という例外があるのみ)。「法律上の争訟は個人的
権利利益の救済の場であり,行政手続は公益実現の場である」という考え方があるからである(宝塚パ
チンコ店建築禁止命令事件:最判平成14年7月9日民集56巻6号1134頁)。
もっとも,法律の根拠があれば民事訴訟(ないし公法上の当事者訴訟)を公益実現の場としてよい
(上記最判平成14年)。したがって,公益目的の提訴を立法すること自体は,憲法違反ではない。とは
いえ,前例のない立法である(宝塚最判の訴訟を起こすことを認める立法をすることになる)。
10
(3)集団的被害回復の仕組み(その2): 是正命令の発展版という受け止め方
では,FTC Act§13(b)の発想を,行政処分のなかに溶け込ませるとどうなるであろうか。
違反者に対する是正命令においては,再発防止策の策定・実施を命じるのが通例である。その一
環として,「被害者に損害賠償をすること,又は違反によって得た収益を被害者に引き渡すこと」を命じ
ることが考えられる。再発防止策は将来的な違反繰り返しを予防するものであるが,すでに得た収益を
引き渡すこともまた,将来的な違反の繰り返しを予防する効果をもつ措置と考えられるからである。
被害額が一人一人は少額に過ぎるために分配がしにくいような場合も,被害回復金を支払わせて,
消費者団体への関連する活動助成などにも使えるようにした後で,最終的には(放棄された財産とし
て)国庫に帰属させることになるであろう。
課題として,第1に,不当利得返還命令を行政処分として立法することが許されるかという問題があ
る。独禁法では,排除命令と民事差止訴訟が同居している。また,地方自治法243条の2に,行政命
令として損害賠償を命じる例がある(しかも民法の規定を排除し,相手方は不服であれば取消訴訟で
争う)。そうすると,「不当利得返還請求は私法上の問題だから,行政命令にはなじまない」と考えること
には直ちにはならないのではないか。
第2に,とはいえ,消費者被害回復の場合は,地方自治法のように民法から切り離すことは適切とは
いえないであろう。個人による訴訟を封じるわけにはいかないと考えられるからである。そうであれば,
不当利得返還を命ずる行政処分と,被害者個人が提起する不当利得請求訴訟や損害賠償請求訴訟
との調整を考えておかなければならない。
たとえば,是正命令のうちの被害回復に不服のある事業者は,国と民事訴訟で争うこととし(形式的
当事者訴訟の発想を応用したもの),その訴訟と,被害者個人が提起する不当利得返還請求や損害
賠償請求訴訟を併合できるようにしておくことが考えられる。
(4)違反事業者に対する制裁金(課徴金)制度を採用した場合について
・課徴金は,将来の違反抑止を主目的とする制裁であり,FTC Act§13(b)がインジャンクションの実効
性のために被害回復を命ずるのも,将来の違反抑止が目的であるから,その意味では重なる。ただ,
課徴金は直接に国庫に入るストレートな制裁であるが,FTC Act§13(b)の被害回復は,私人救済の性
格もあわせもつ(主目的ではないが)という点で違いはある。FTC は,競争法の場面ではあるが,両者
の調整は望ましくないと述べている。
・課徴金を基金化して,被害者に分配することは,法律にその旨を規定していればできるのではないか。
消費者被害の回復への国の強い姿勢を示すことが公益であるとして,消費者被害者救済のための立
法をするとともに17,その財源を課徴金に限定する立法である。
17
以上
特定場面の被害者を救済する立法のメッセージ性(公益性)に鑑み,いわゆる原爆2法(原始爆弾被爆者の医
療等に関する法律および原子爆弾被爆者に対する特別措置に関する法律),オウム真理教犯罪被害者等を救済
するための給付金の支給に関する法律,北朝鮮当局によって拉致された被害者等の支援に関する法律,特定フ
ィブリノゲン製剤及び特定血液凝固第IX因子製剤によるC型肝炎感染被害者を救済するための給付金の支給に
関する特別措置法,石綿による健康被害の救済に関する法律などがある。
11