2月29日放送

2月29日放送(1)
<第一部>胃カメラからビデオスコープへ
(2)これからの内視鏡診断・治療
順天堂大学食道・胃外科医局長
富田
夏実
提供:オリンパスメディカルシステムズ株式会社
◆はじめに◆
本日は“これからの内視鏡診断・治療”について消化管の癌を中心にご紹介いたします。昨今、内視
鏡専門医でさえ、日進月歩のこの分野では向上心を失うとたちまち立ち遅れてしまう分野であります。
では、内視鏡診断・治療が現在どこまで進歩し、そして将来はどの様に変貌する可能性があるのか?お
話いたします。
◆治療の第一選択としての内視鏡◆
消化管の癌治療は、手術や内視鏡的粘膜切除術:EMRに代表される様に物理的切除が“治療の第一
選択”です。癌をEMR治療で完結することは、薬で治すことの出来ない現在、患者さんにとって癌を
克服できる究極の治療法とも言えます。これは早期に、小さい癌を発見し、転移を起こす前に内視鏡的
に治療を完結することが、いかに重要であるかを示しています。つまり内視鏡診断学の進歩は、「治療
に直結した診断学構築」の進歩と言っても過言ではありません。この内視鏡診断の実力は、バリウム造
影検査の早期癌発見率をはるかに凌駕したことを見ても分かります。内視鏡機器の向上や先人の努力に
より内視鏡診断学や治療は、一昔前の“内視鏡医は癌を診断して、治療は外科に任せる”時代から、
“い
かに早期の癌を見つけ、いかに内視鏡的に治療を完結するか”の時代になりました。
◆診断の進歩◆
では、内視鏡診断はどこまで進歩・進化しているのか?具体的にお話いたします。最新の内視鏡診断
学は、内視鏡機器の進歩が大きく関係しているため、その進歩と合わせて理解することが必要です。
“内
視鏡機器の進歩”は大きく 3 つに分けて考えると理解しやすいと思います。1つ目は“内視鏡解像度の
向上を含む拡大内視鏡の開発”、2つ目は“NBIで代表される特殊光を使った内視鏡システムの開発”
です。これらは、内視鏡診断能向上を目的に飛躍的に進歩している分野です。そして 3 つ目は“経鼻挿
入可能な極細内視鏡”や、昨年10月より保険適応となった“カプセル内視鏡”の開発で、これは被検
者の苦痛軽減を目的に進歩した分野です。では、これら内視鏡機器の開発・登場に伴い、内視鏡診断学
はどの様に変化したのか?お話します。
まず解像度の向上は、ハイビジョン内視鏡で代表される高画素電子内視鏡の登場により、通常内視鏡
観察でも「より小さい癌」を発見することが可能になり、内視鏡診断学の基本である形態学の進歩に大
きく寄与しました。そして通常内視鏡の 80 倍から 100 倍前後の拡大観察を可能した拡大内視鏡は、今
まで見ることのできなかった多くの消化管粘膜像を見ることができるようになり、新しい診断概念が登
場しています。具体的には大腸では腺口構造の分類によるピットパターンの概念、また食道領域では上
皮内乳頭内毛細血管ループの形態変化、つまり毛細血管の拡張・増生を観察する IPCL の概念などがあ
ります。これらは良悪性の鑑別や癌深達度診断に応用され、現在では一般臨床に広く普及しています。
この“微細粘膜模様”や“毛細血管の異常”からの診断は、マクロ的な形態診断と言うより、病理組織
学的な構造異型の診断に近いものと考えられます。一方、胃では背景粘膜や臓器特性などにより、大腸
や食道領域と比べ拡大内視鏡診断学が遅れをとっていることは否定できません。しかし最近では様々な
進歩により、胃粘膜微細模様に加えて微小血管構築像の観察が可能となり、徐々に診断に有用な指標が
明らかになってきています。そして現在、拡大内視鏡は “生検せずに病理診断を行う”という発想の
もとミクロの世界である細胞異型を見る段階にまで進化しています。まだ臨床実験段階ですが 500 倍~
1000 倍近い超拡大内視鏡像が得られるエンドサイトスコープが開発されました。これは名前の通り、
生体内で消化管粘膜の細胞異型を観察・診断するもので、その画像はまさに病理組織像に近いものであ
ることに驚かされます。
◆特殊光観察◆
次に特殊光について説明いたします。特殊光には狭帯域光を照明光として用いるNBIシステム、組
織の自家螢光性質を利用したAFI、近赤外光を用いるIRIなどの内視鏡システムが開発されていま
す。これらの特徴を簡単に説明しますと、NBIは光学的画像強調技術で特に粘膜表層の毛細血管像や
粘膜微細模様を表示可能にするシステムであり、前述の拡大内視鏡とよく併用されます。それに対して
IRIシステムは近赤外光を用いて生体深部を映像化する技術です。AFIは励起光を照射することで
発する「自家螢光の組織ごとの強さの違い」などを利用して、癌組織の診断に応用しようとするシステ
ムです。この中で、NBIシステムは最近、多くの施設で導入が進み、日常臨床で利用されています。
特に食道、咽頭領域では「ヨード色素内視鏡」に代わる診断法としても力を発揮しています。しかし近
赤外光のIRIと自家螢光のAFIはNBIほど普及しておらず、今後に期待が寄せられる分野であり
ます。
◆内視鏡の進化と可能性◆
最後の経鼻内視鏡やカプセル内視鏡の登場は、被験者の苦痛緩和の点から飛躍的な進歩と言えますが、
診断能的には残念ながら通常内視鏡と同程度もしくはそれより劣ります。また、カプセル内視鏡は小腸
の観察に最も優れていますが、胃や大腸の検査には向きません。内視鏡医が機器個々の特徴を理解し使
い分ける必要があります。この様に拡大内視鏡と特殊光の開発により、内視鏡診断学は、マクロ的な形
態学から病理組織学的な構造異型の診断学へ、そしてエンドサイトスコープにより「細胞異型を診断す
る病理組織学」により近い診断学へと将来変貌する可能性があると思われます。
◆消化管癌の内視鏡的治療◆
次は消化管癌の内視鏡治療の進歩についてお話いたます。これは 90 年代後半に登場した早期胃癌に
対する EMR の新しい手技である「内視鏡的粘膜下層剥離術:ESD」を中心に、目覚まし進歩を見せて
います。この進歩にも先人の努力とITナイフなどの各種デバイスを始め多くの機器の開発・改良が密
接に関係しています。ESD最大の特徴は、“大きい病変でも一括切除可能”であることです。これに
より、従来の EMR 適応病変において、従来法でみられた局所再発を、ESD ではほぼ完全にコントロー
ルしました。また最近では ESD の遠隔成績も報告され、手術と比べ遜色のない結果を出しています。
現在も潰瘍瘢痕合併症例などリンパ節転移を認めない早期胃癌、いわゆる適応拡大病変に対してESD
治療の可能性が検討されています。そして胃癌に導入された ESD は今では食道癌や大腸癌にも応用さ
れ、内視鏡治療の可能性が各臓器で拡がっています。また ESD は従来の腹腔鏡手術の適応領域にも入
り込み、今は“腹腔鏡手術との棲み分け”や“両者のコンビネーション治療”が盛んに検討されていま
す。この様に今後はESDを中心に、さらに内視鏡による治療が拡大・進歩するものと思われます