栄養とリハビリ - 睦町クリニック

「管理栄養士の収益の低さ」
については、
地域のクリニック
れる内容として「治療食は作るのが難しい」
「介護が大変で食
での外来栄養指導や、
地域の方やヘルパーさん対象の栄養
事ばかりに手をかけられない」といった声がある。それに対し
教室や調理実習、企業へのアドバイスや有料老人ホームの
て私たちは、守ってほしいポイントは示しつつも患者さん本
管理栄養士部門を担当したりして収益を伸ばしている。
人の食事スタイルに合わせた提案を行っている。また、市販品
在宅療養者が「美味しい」
「好きなものが食べられてうれ
や冷凍補助食品などをうまく取り入れた食事療法を実践しな
しい」と感じるようなお手伝いができるように私たち管理
がら在宅生活を続けてもらえるように支援している。
栄養士は食事の面から全力でサポートしていきたい。
「栄
そのほかにも経腸栄養の患者さんに対しては、ドクター
養」はすべてのものにつながっている。
栄養と食事のことは
と相談しながら手間やお金がかからない栄養剤の提案や自
ぜひ管理栄養士に任せていただけるよう、
今後もますます
宅でできる経口補水の方法、
嚥下の状態に合わせた食事の
積極的に実践していきたい。
とり方などもアドバイスしている。
睦の和 第5回 えとえの会
栄養とリハビリ
また、
「訪問栄養食事指導を受けたいけれど、どうすればよ
こうすれば出来る∼訪問栄養食事指導の
導入と栄養管理からの食支援!
栄養ケアステーションと新たな試み
在宅栄養管理とリハビリテーション
では
「支給限度基準額を超えてしまうのでこれ以上のサー
ビスは無理」と言われるそうだが、実際には管理栄養士が行
−サルコぺニアの基礎知識を交えて−
う居宅療養管理指導は介護保険では1割負担限度額以外の
日本在宅栄養管理学会 管理栄養士 工藤 美香 氏
サービスになるので、その枠とは別に考えていただきたい。
「睦町クリニック栄養ケアステーションと
日本栄養士会研究助成事業の紹介」
かかりつけ医が睦町クリニックの場合、ご家族とご本人
座長
医療法人社団鴻鵠会 理事長 城谷 典保 氏
から相談を受けたドクターが指示書を発行し、
「睦町クリ
演者
横浜市立大学附属市民総合医療センター リハビリテーション科 若林 秀隆 先生
まず、
「栄養ケア・ステーション」
とその位置づけについて
ニック栄養ケア・ステーション」と契約している管理栄養士
説明をしたい(図)
「
。栄養ケア・ステーション」
は全国の管理
が訪問栄養食事指導を行うというシステムになっている。
栄養士・栄養士が地域や医療機関に対して栄養支援を行う
かかりつけ医が他院の場合は、
かかりつけ医から睦町クリ
拠点として日本栄養士会が整備を目指しているところであ
ニックのドクターに診療情報提供書(患者負担)を依頼して
り、2008年4月から各都道府県に1か所設置している。
今
いだき、後は同様の流れとなる。
後は地域でケアを受けられる拠点を増やすために、
医療機
さて、今年度から取り組んでいる日本栄養士会助成金事
関や個人で開業したステーションで管理栄養士がケアを行
業である
「睦町クリニックにおける在宅訪問栄養食事指導
座長
医療法人社団鴻鵠会 睦町クリニック 院長 朝比奈 完 氏
うという動きがある。
睦町クリニックでは今年からステー
の効果」
についても触れておきたい。
この研究事業の目的
ションを立ち上げていただき、
現在は3人の管理栄養士が訪
は、
管理栄養士が訪問栄養食事指導を行い、
栄養介入の効
演者
問栄養食事指導を行っている。
駒沢女子大学 人間健康学部 健康栄養学科 中澤 優 氏
医療法人社団白木会 地域栄養サポート自由が丘 米山 久美子 氏
果、
地域での役割・連携方法などを明らかにし、
地域社会の
私たち管理栄養士がご家族やヘルパーさんからよく相談さ
ニーズに対応できるような機能を整備・拡大して運営する
追加発言
「こうすれば出来る∼訪問栄養食事指導の導入と栄養管理からの食支援!
栄養ケアステーションと新たな試み」
ための方法を模索することである。
図 栄養ケア・ステーションの位置づけ
すでに実際に介入させていただいている患
国レベル
栄養指導・情報センター
栄養ケア・ステーション推進検討会
情報収集・提供
県レベル
医療機関
(関係団体・民間機関等との連携)
情報解析・検証
介入前に調査・栄養相談を行ったうえで問題点
事業企画・支援
を踏まえたプランを作成、
実践している。介入
連携
連携
協議 (社)
都道府県栄養士会栄養ケア・ステーション
都道府県栄養ケア・ステーション推進事業委員会
○人材育成事業
公的機関
医療保険
機関
情報提供・作成
保健指導の企画
栄養・運動指導、講演
支援
後は調査・栄養相談・アンケートを行い、3か月
連携
協議
○支援・企画事業
実践・フォローアップ研修
人材登録・紹介
民間機関
連携
市町村
栄養ケア・ステーション
栄養ケア・ステーション
栄養ケア・ステーション
事業拠点(支部)/情報・相談
事業拠点(支部)/情報・相談
事業拠点(支部)/情報・相談
依頼
サービス
医療機関
サービス
依頼
依頼
サービス
公的機関
サービス
医療保険機関
サービス
サービス
依頼
民間機関
民間機関
サービス
一般住民(介護者・患者等含む)
日本栄養士会HPより
で終了するというコースとなっている。先行研
究では訪問栄養食事指導が入ることで、患者さ
訪問栄養食事指導の重要性
−指導の実際と今後の課題(症例を元に)−
日本在宅栄養管理学会 管理栄養士 工藤 美香 氏
超高齢社会がますます進む中、訪問診療を受けながら自宅療養を続ける患者をいかに
サポートするかが喫緊の課題となっている。そこで在宅栄養管理を中心とした地域の取り
組みや、多職種が連携して患者を支える重要性について理解を深め、在宅医療の地域連携を
んの栄養状態が改善したという効果が確認さ
向上させることを目指すセミナー「睦の和 第5回えとえの会」
(主催:医療法人社団鴻鵠会、
れているので、この研究事業でもその効果を期
共催:ニプロ株式会社)が11月8日、横浜シンポジア(横浜市中区)で開催された。栄養管理や
待して取り組んでいるところである。本日お越
リハビリテーションのスペシャリストが一堂に会し、多岐にわたるアプローチで「栄養とリ
しの皆様にはぜひ、この調査にご協力いただけ
ハビリ」というテーマについて語り合った。セミナーでは専門医が近年、問題視されている
る患者さんをご紹介いただき、今後の訪問栄養
「サルコぺニア」の基礎知識を踏まえて、在宅栄養管理とリハビリについて特別講演。続くシンポ
食事指導における研究の充実と患者さんへの
ジウムでは栄養学や栄養管理の専門家が症例をもとに訪問栄養食事指導の重要性について
食支援に役立てたいと願っている。
討論を展開。会場を埋めた医療関係者120人は真剣な表情でメモを取ったり、質問していた。
2015年1月作成 A1-400
(OB)
[睦の和]第5回 えとえの会・栄養とリハビリ
シンポジウム
者さんがおり、全体的な研究デザインとしては
(社)日本栄養士会
リーダー研修
支援
8
特別講演
いのかわからない」といった声もよく耳にする。ケアプラン
栄養とリハビリ
睦の和 第5回 えとえの会
在宅栄養管理とリハビリテーション
特別講演
−サルコぺニアの基礎知識を交えて−
座長
演者
医療法人社団鴻鵠会 理事長
横浜市立大学附属
市民総合医療センター
リハビリテーション科
城谷 典保 氏
若林 秀隆 先生
栄養管理には低栄養の原因特定が不可欠
理下におけるリスクマネジメント、②機能訓練の時間
と内容が増加した状況での適切な栄養管理、③筋力・
の2つのテーマについて解説したい。まず「リハ栄養」で
筋肉量・体力向上の3点が挙げられる。
あるが、リハ栄養とはスポーツ栄養の“リハ版”とも言
さらに私が診察する際に指標にしているリハ栄養ア
える。栄養状態を含めてICF(国際生活機能分類)で評価
セスメントのポイントは次の5項目である。①栄養障害
を行ったうえで、障害者や高齢者の機能・活動・参加を
を認めるか。原因は何か、②サルコぺニアを認めるか。
最大限発揮できるような栄養管理を行うことである。
原因は何か、③摂食・嚥下障害を認めるか、④現在の栄
そこで、なぜリハ栄養が重要であるかと言うと、リハ栄
養管理は適切か。今後、栄養状態は改善あるいは維持、
養をしている人たちには低栄養状態が大変多いからで
悪化するのか、⑤機能改善目標のリハを実施できる栄
ある。当病院のデータ(図1)によると、高齢廃用症候群
養状態かとなる。
低栄養の原因には飢餓と侵襲、悪液質があるが、実際
よって、食べられなくなったりADLが低下した状態)は
には食事摂取量の不足による飢餓は日本の高齢者には
年間169人に上ったが、その栄養状態を調べると低栄養
少ない。多くの人は急性・慢性の侵襲と悪液質の合併症
が9割近くを占めている。
を起こしているのが現状である。ここで大切なことは、
低栄養の原因が何である
高齢廃用症候群169人のMNA−SF
0
0 栄養状態良好0人
0
0
3
17
10
15
32
23
14
5
5
22
35
148
88
%︶
0
態の悪い人が、やみくもに
低栄養のおそれあり21人
人︵
0
きないことである。栄養状
低栄養
7
かを突き止めないとその
人に最適な栄養管理がで
11
20
25
ばれており、サルコぺニアと低栄養が2つの重要な病態
それでは次のテーマである「サルコぺニア」について
である。位置づけとしては障害者でも健康でもない中
考察してみよう。筋肉が減少するサルコぺニアは従来、
間の状態にある高齢者である。ADLは自立しているた
加齢による筋肉量低下と定義されたが、近年ではすべ
め家事援助を受けながら何とか生活は成り立っている
ての原因による筋肉量・筋力・身体機能の低下ととらえ
が要支援のレベルにあり、筋肉が低下していることか
られている。要介護認定者は年々増え続け、現在は500
ら歩行のスピードやバランスが悪く、転倒しやすい。大
万人を超えているが、介護が必要となった主な原因を
切なことは、障害者になってからリハを行うのではな
見てみると、3∼5位は「高齢による衰弱」
「関節疾患」
「骨
く、フレイルの段階でリハ・栄養改善を行う努力が求め
折・転倒」が並んでおり、これらはすべてサルコぺニア
られることである。サルコぺニアの診断基準は筋肉量
が関与している可能性がある(図2)。
低下、筋力低下、身体機能低下の3つのカテゴリーにつ
30
35
いて行い、詳細は表の通りである(図4)。
図2
介護が必要となった主な原因
悪性新生物(がん)2.3
呼吸器疾患 2.8
その他
9.3
パーキンソン病
3.2
40
Wakabayashi H, Sashika H: Malnutrition is associated with poor rehabilitation outcome in elderly inpatients
with hospital-associated deconditioning a prospective cohort study. J Rehabil Med 2014; 46: 277-282
リ ハ を 頑 張 っ て もADLが
改善することは少ない。つ
まり、低栄養やサルコぺニ
アのある障害者や高齢者
に関しては、栄養改善を行
いながらリハを行うこと
でADLが よ く な る と い う
Robust
健康
Frailty
フレイル
Disability
障害
サルコペニアなし
サルコペニア
重症サルコペニア
嚥下機能正常
老嚥
嚥下障害
認知症
15.3
骨折・転倒
10.2
リハ栄養
老年医学
高齢による
衰弱
13.7
調査時期:平成22年
図4
サルコぺニアとフレイル・障害
脳血管疾患
(脳卒中)
21.5
糖尿病 3.0
心疾患(心臓病)
3.9
図3
(単位:%)
脊髄損傷 1.8
視覚・聴覚障害 2.1
関節疾患
10.9
(過度に安静にすることや活動性が低下したことに
14
13
12
11
10
9
8
7
6
5
4
3
2
1
0
言葉を提唱した(図3)。フレイルは従来、虚弱・脆弱と呼
リハ栄養管理の目的は、①低栄養や不適切な栄養管
今回は「リハビリテーション栄養」と「サルコぺニア」
図1
ところで今年、日本老年医学会で「フレイル」という
筋肉が減少し身体機能が低下する
「サルコぺニア」
AWGSのサルコぺニアカットオフ値
サルコぺニア −研究の現状と未来への展望−
筋肉量は四肢骨格筋量÷身長÷身長
65歳以上男女
① 筋肉量低下
普通歩速度 1m/s未満、
もしくは握力が男性25kg未満、
女性20kg未満
・DEXA:男7.0、女5.4
・B I A:男7.0、女5.7
② 筋力低下
Yes
223名
(23.6%)
・握力:男26kg、女18kg
③ 身体機能低下
・歩行速度:0.8m/s
Chen LK, et al. Sarcopenia in Asia: consensus report of
the asian working group for sarcopenia. J Am Med Dir
Assoc. 2014; 15: 95-101
944名
No
脆弱高齢者
正 常
721名
(76.4%)
BMI 18.5未満、
もしくは下腿囲30㎝未満
Yes
No
サルコペニア
非サルコペニア
50名(5.3%)
173名(18.3%)
サルコペニア
男性 9名(男性全体の1.9%)
女性41名(女性全体の8.7%)
下方浩史、安藤富士子.サルコペニア―研究の現状と未来への展望―1.
日常生活機能と骨格筋量、筋力との関連.日老医誌2012;49:195-8.
ことが示唆される。
2
[睦の和]第5回 えとえの会・栄養とリハビリ
[睦の和]第5回 えとえの会・栄養とリハビリ
3
栄養とリハビリ
睦の和 第5回 えとえの会
内部環境の恒常性を乱す刺激で、手術や外傷、骨折、感
染症、発熱などが含まれる。
侵襲には「傷害期」
「異化期」
「同化期」がある。異化期
シンポジウム
では主に筋蛋白の異化(分解)で、侵襲に対する治癒反
応へのエネルギーが供給されるため、どんなに体内に
栄養を投与しても筋肉の分解を0にはできない。よって
飢餓にならない程度の維持的な栄養管理が必要とな
り、リハについても目標は機能改善ではなく機能維持
であるため、筋トレは基本的には行わない。
訪問栄養食事指導の重要性
−指導の実際と今後の課題
(症例を元に)
−
座長
演者
演者
追加発言
医療法人社団鴻鵠会
睦町クリニック 院長
駒沢女子大学
人間健康学部
健康栄養学科
医療法人社団白木会
地域栄養サポート
自由が丘
日本在宅栄養管理学会
管理栄養士
朝比奈 完 氏
中澤 優 氏
米山 久美子 氏
工藤 美香 氏
一方、同化期では筋肉合成(同化)が可能となるため、
「疾患治療・栄養・リハ」が連携して対応
機能改善を目標とした積極的な栄養管理を行う。リハ
に関しても機能改善を目標とした筋トレを行う。
次に最も重要なサルコぺニアの原因であるが、4つに
また、がんや慢性の心不全、腎不全、肝不全などが原
大 別 さ れ る。原 発 性 の「加 齢」、二 次 性 の「活 動(廃 用)」
因疾患となる悪液質時のリハについては、運動療法が
「栄養(飢餓)」
「疾患(侵襲・悪液質・原疾患)」である。サ
抗炎症作用を有し、CRPや炎症性サイトカインを減少
ルコぺニアと栄養は切っても切れない関係であり、原
させるため、体重が横ばいから微減の時期は機能改善
因によって筋トレをするかしないか、または食事を摂
目標の運動を行う。
取するべきか控えるべきかが変わるため、原因の見極
めは非常に重要である。在宅医療の現場では、多職種が
連携して「疾患の治療・栄養・リハ」の3つがうまく機能
するように取り組むことで、サルコぺニアの改善が期
「栄養ケアなくしてリハなし」を実践して
サルコぺニアにアプローチ
駒沢女子大学 人間健康学部 健康栄養学科
中澤 優 氏
訪問管理栄養士が行う
「栄養ケア・マネジメント」とは?
最 適 な 栄 養 ケ ア で き る よ う に、栄 養 ケ ア・マ ネ ジ メ ン ト
(NCM)をしている。まず、療養者の低栄養状態のリスクを
判定して、看護師や理学療法士の協力を得て「栄養スクリー
ニング」を行う。リスク判定後は療養者から身体や食欲の状
態を聞き取り、困っていることや問題点をリストアップす
る「栄養アセスメント」を行う。
在宅療養を続ける高齢者が増える中、実際に私たち管理
それをもとに「栄養ケアプラン」
(栄養補給・栄養食事相
栄養士が療養者にどのような内容の栄養食事指導を行って
談・多職種による連携)を立てる。
また、
「栄養ケアプラン」
を
いるかについて紹介したい。まず、在宅訪問栄養食事指導の
立てる前に栄養診断を加えると栄養ケアプロセスという新
課題についてだが、第1の課題として挙げられるのが「医師
しい仕組みになる。今後、管理栄養士はこの栄養診断を行う
やケアマネージャー、在宅関連職種、療養者の訪問栄養食事
ことができる力をつけていかなければならないと思う。
指導の制度自体が知られていない」ということである。第2
そしてプラン作成後は実施・チェック、定期的なモニタリ
待できる。
ここまでサルコぺニアの原因や対応について説明し
に「管理栄養士のできることを医師、ケママネージャー、療
ングを行うことで、プランの内容が適切であったかどうか
ここで注目したいのがサルコぺニアの原因のひとつ
てきたが、病院において活動と栄養によるサルコぺニ
養者、在宅関連職種に理解されていない」、そして第3に「栄
を判定できる。評価を行った後は栄養スクリーニングに
である「活動」である。病院では「とりあえず安静・禁食」
アを作ってしまい(医原性サルコぺニア)、そのまま在
養、生活アセスメント能力、病態栄養管理能力、栄養ケア作
戻って継続支援となる。
を患者に対して行っているが、これこそが活動に関連
宅に帰してしまう実情について、我々医師は反省する
成能力など栄養管理の技術向上」である。第3については、
したサルコぺニアの原因である。
べきである。
飢餓時の栄養管理(侵襲なし∼軽度)に関しては、体
サルコぺニアは今や、高齢者の3人に1人、老人福祉施
重・筋肉量を増やすには消費量に加えてエネルギー蓄
設などでは8割から10割に達するとの報告があるが、疾
積量を1日200∼750kcalを強化すればよいのだが、飢餓
患の治療、リハ、栄養管理をバラバラに行っても解決し
時のリハは注意が必要である。なぜなら飢餓の時に筋
ない。3つ同時に行うことで初めてサルコぺニアの予
トレや持久力増強訓練などのリハを行うと確実に筋肉
防・治療ができ、ADLやQOLがより改善する可能性があ
量と脂肪が減少し、餓死に至るからである。このような
る。要するに「栄養ケアなくしてリハなし」
「栄養はリハ
ケースでは一時的なリハ(離床や病室内歩行など)を行
のバイタルサイン」なのである。
うべきであり、結果として筋肉量の低下を防ぐことが
サルコぺニアは寝たきりの三大疾患のひとつである
可能となる。
と私は考える。これにきちんと対応することで寝たき
りや嚥下障害を改善・予防できるだろう。数年前に比べ
侵襲時と悪液質時のリハと栄養管理
4
「訪問栄養食事指導の実際と課題」
るとリハと栄養管理は近づきつつあるが、まだまだ不
私たち管理栄養士が日々、勉強するべき課題である。
次 に 訪 問 管 理 栄 養 士 の 仕 事 の 流 れ に つ い て 説 明 す る
(図)。私たち訪問管理栄養士は療養者1人ひとりに対して
図 訪問管理栄養士の仕事の流れ
栄養ケア・マネジメント(NCM)
栄養スクリーニング
栄養アセスメント
そこで、実際の症例をもとにしてどのようにして栄養食
事指導を行い、改善につなげていったのかについて報告す
る。独居のTさん(男性・81歳)は要介護1であり、現病歴は
COPD
(慢性閉塞性肺疾患)、
高血圧、
うっ血性心不全、
緑内
障である。医師からの指示は「心不全の栄養指導とCOPDに
よる低栄養状態の改善」であった。Tさん自身の要望は「安
心して外出できるようになりたい。
呼吸が苦しくなると不
安になる。リハビリをして呼吸を楽にしたい」とのことだっ
栄養ケアプラン
栄養補給
栄養食事相談
他職種による連携
実施・チェック
た。この要望をかなえるためにも、私たち管理栄養士による
栄養介入の重要性・必要性を感じた。
ところで、医師からの指示にあった「COPDによる低栄養
状態の改善」であるが、COPDの栄養障害のメカニズムにつ
十分であるのが現実である。疾患治療・リハ・栄養管理
モニタリング
次に疾患(侵襲・悪液質・原疾患〈ALS・筋炎〉)に関連
を同時に行うことでサルコぺニアに最適なアプローチ
評価・継続的品質改善
したサルコぺニアについて説明する。侵襲とは生体の
ができるようになることを願っている。
[睦の和]第5回 えとえの会・栄養とリハビリ
COPDや心不全などの病歴がある
療養者に栄養介入して
いてここで触れておきたい。COPDは全身性炎症と呼吸代謝
の亢進によって、消費エネルギー量が増加し、慢性炎症が原因
で食欲が落ちてくる。栄養摂取量が消費量より少なくなり、
[睦の和]第5回 えとえの会・栄養とリハビリ
5
低栄養状態を引き起こしやすくなるため、
効率的なエネル
4つの症例をもとに管理栄養士が
実践していること
口腔状態・食環境」が大切だと思った。
ギー摂取が必須となるのである。
体制を形成した。また理学療法士と一緒に訪問することも
さて、
Tさんへの栄養ケア・マネジメントであるが、
まず
でき、互いに介入内容を理解することができた。
栄養スクリーニングを行った。
身長・体重からBMIを計算し、
最後に、訪問管理栄養士だからこそできることについて、
まず、療養者が心不全と腎不全で入退院を繰り返しており、
体重減少率や血清アルブミン、食事摂取量、栄養補給法、
医療・介護関係者や療養者本人・ご家族に知ってもらいたい
自宅での食事管理が難しいと言うご家族に対して、
「療養
歯の調子が悪い」
「うつ症状」
「認知症」など多種多様である。
褥瘡の有無を確認した結果、
低栄養状態は高リスクと判定
ことをここに挙げておきたい。①全身の栄養状態の判定、
食」での介入例から紹介する。医師からは「1600kcal、たん
従って、食事に関する問題は多職種で連携する視点が不可
した。次に栄養アセスメントであるが、
家族・経済状況や利
②栄養状態に合った食事量の提示、③治療食の食事相談、
ぱく質40g、塩分6g、水分800mL(飲水のみ)」との指示を
欠となる。例えば、通所施設と連携して、
食事の際の座り方
用中のサービス、地域との関わりといった基本事項に加え
④噛む・飲み込む力に合った食事の提案、
⑤食べやすい食具
受けており、療養者本人は「自宅のものを食べながら、家で
や食器、食形態やトロミの付き方などについて確認する。ま
て、
身体機能・健康状態評価、
身体計測、
精神機能・生活環境・
や姿勢などのアドバイス、⑥栄養補助食品、配食サービスの
過ごしたい。ちゃんと歩けるようになりたい」という希望を
た、褥瘡が食事摂取量の低下に大きく影響するケースもあ
食事内容・調理に関する能力及び知識などの評価、
そして現
紹介、
⑦療養者の好みを取り入れたレシピの提案、⑧療養者
受けて、私は病態やリハビリを考慮しつつ、理解しやすい
るため、褥瘡ができる前に食い止める方策に取り組むこと
在の支援状況(配食サービスの有無、
居宅サービス計画書)
本人、ご家族、ヘルパーへの調理、⑨食の楽しみを伝えるな
方 法 と し て お 弁 当 箱 を 利 用 す る 提 案 を し た。そ の 結 果、
も重要である。調理アドバイスはもちろん、決まった量内で
といった項目から総合的に評価する。
どである。
家の食事を食べながら腎臓病と心臓病での入院はなくなり、
の栄養量UPができるかどうかが管理栄養士の腕の見せ所
その結果、Tさんの栄養診断は
「全身性炎症による消費エ
冒頭に掲げた3つの課題のうち、2つ目を解決するために
歩けるようにもなった。
時には家族と一緒にフライドチキンや
でもあるため、適切な補助食品の提案や一口でも食べても
ネルギー増加、たんぱく質・エネルギー摂取不足による低栄
も、
ぜひここに挙げた私たち訪問管理栄養士の仕事内容に
回転寿司といった外食も楽しめるように。特に高齢者で療養
らえるような工夫などすべての可能性を模索している。
養 状 態」
と な っ た。
問題点としてはたんぱく質摂取不足
ついて理解を深めていただければ、と期待している。
食の食事管理をしている人の中には食べていいものまで制
(60%)
、腹部膨満感による1回の食事量の低下、
水でのむせ
こみ有り、炭酸水摂取過多、
食材・調理法管理不足などが挙
げられた。
続いて栄養ケアプランであるが、長期目標としては「在宅
で安心して生活を送る」、短期目標は「低栄養予防、体重・
1700∼1800kcal、
たんぱく質60∼70g、
塩分6g未満、
水分1500∼1800mLとした。栄養食事相談は、①たん
ぱく質料理を取り入れ、皿盛り療法を実施。すぐにお腹が
最後は、様々な低栄養になるリスクを抱えた人たちへの
「低栄養」への介入事例である。
低栄養に陥る原因は
「歯や義
して「食べることを怖がらずに食べていいものは食べて下
「食と栄養」のプロフェッショナルとして
全力でサポート
さい」と継続してお話することが病気悪化・低栄養を回避す
管理栄養士が在宅医療・介護の領域で活躍する場は年々増
るためにも有効かつ大切である。
えており、地域包括支援センターからの訪問栄養食事指導依
次は独居で肥満と在宅酸素利用の療養者への「ダイエッ
頼件数(要支援1・2の方対象)
(図)は増加の一途をたどって
ト」介入の事例である。夜遅くまで好きなものを食べる不摂
いる。
ここで大切なことは重症化する前の段階での介入である。
生で肥満になり、甲状腺腫瘍も肥大し気道を圧迫しており
最後に今後の課題について考えたい。まず問題点は「訪問
在宅酸素療法を続けている。
太り過ぎのために手術ができない
管理栄養士に対する認知度の低さ」
「訪問できる管理栄養士
限している場合が多い。私たち管理栄養士が定期的に訪問
訪問栄養食事指導の重要性
−指導の実際と今後の課題(症例を元に)−
医療法人社団白木会 地域栄養サポート自由が丘
米山 久美子 氏
筋 量UP」と 設 定。栄 養 補 給 に 関 し て は、エ ネ ル ギ ー
「療養食」
「摂食嚥下障害」
「低栄養」の
複合型の人が増加
状況に加えて、
太っていることから外出せず引きこもり状態
「訪問管理栄養士の収益の低さ」である。このよう
の少なさ」
いっぱいになってしまうため、夕飯を2回に分ける(19時、
近年、経管栄養を行っている療養者や嚥下困難者のため
という悪循環に陥っている。この人に対してまず、他の利用
な課題に対して私たちは実践していることをここで理解して
21時)、②水と炭酸は控え、他の清涼飲料水や野菜ジュース
の流動食、
低栄養状態といった介護保険の対象となる疾患
者同様に身体のチェック
(摂取栄養量評価、
摂食嚥下状況、
肌状
いただきたい。まず、
「認知度の低さ」については、定期的な勉
に変更、③冷凍総菜を小分けにし、密封袋に料理名を記入
が増えていることを背景として、
訪問栄養指導の重要性が
を行い、
食事風景の観察や冷蔵庫の
態、
浮腫、
採血データなど)
強会実施に加え地道な営業活動を行っている。
「訪問管理栄養
して保存の3点について、お孫さんの協力を得て取り組
高まりつつある。そこで、実際に栄養介入が必要となる典型
中身チェックをしたうえで食事を調整した。栄養や食事内
士の少なさ」については、訪問を希望する管理栄養士対象の研
んだ。
的な4症例をもとに、
管理栄養士が行っている指導内容や課
容をアドバイスすることはもちろん、
「心と食事はつながって
修を実施したり、同行訪問するなどしている。
また、在宅療養支援診療所「いきいきクリニック」の呼吸器
題について解説したい。
いる」
と考え、
本人の話をしっかり聞くこと
科医や看護師、管理栄養士をはじめ、訪問看護ステーション、
訪問栄養指導において最も大切なことは療養者やご家族
にも重点を置いた。その結果、80キロ近く
訪問歯科、訪問リハビリなど多職種が連携し、
包括的かつ多
の要望である。在宅で介入する内容は大きく分けて3つあ
あった体重が64キロに減り、
リハビリにも
面的に支援することにより、
筋力UPを図った。
る。
糖尿病や腎臓病を抱えている
「療養食」
の人、
「摂食嚥下
楽しく行けるようになった。
在宅酸素も利用
障害」
の人、
「低栄養」
の人である。
しかし現実にはこの3つす
することなく早寝早起き、3食しっかり食べ
べてが重複している人が多い。
さらに終末期
(緩和期)の人
る健康的な生活を取り戻すことができた。
このような栄養ケア・マネジメントを行った結果、Tさん
も在宅での栄養食事指導を受けるケースが多い。
次に紹介するのは、誤嚥性肺炎胃ろう造
は栄養指導の介入前より体重・歩数ともに改善し、
食欲があ
しかし、管理栄養士の訪問を促すと「色々細かい事を言わ
設後、経口摂取を希望された「摂食嚥下障
る日も増えた。さらに、
Alb、
Hbともに改善し、
維持もできる
れて面倒くさそう」
「あれもこれも食べたらダメ」と、制限
害」の事例である。この事例については歯科
ようになった。
ばかりされるのでは・・・」というイメージが療養者本人や
医師や歯科衛生士、言語聴覚士、ケアマネー
栄養ケア・マネジメントを行い、管理栄養士が介入する
ご家族に浸透しているようである。そこで、このような声に
ジャー、
デイサービス職員、
そして管理栄養
ことによって、療養者側は家族(キーパーソン・孫)ができ
対して私たち管理栄養士が現場で実際に行っている介入に
士、
ご家族が医療&介護チームを作って介入
ることからすぐに改善し、娘さんが呼吸ケアの講演会に参
ついて、
「療養食」
「ダイエット」
「摂食嚥下障害」
「低栄養」の
した。
その結果、経口摂取可能となりトイレ
加するなど、家族全体のモチベーションの底上げにつな
4症例を挙げながら具体的に説明したい。
に行ったり歩いたり、話すことができるよう
がった。一方、クリニック側は、医師が栄養介入の必要性を
[睦の和]第5回 えとえの会・栄養とリハビリ
になり、体重は44キロから48キロに増加。
図 地域包括支援センターからの訪問栄養食事指導依頼件数
− 要支援1・2の方対象 −
18
17
16
15
14
13
12
11
10
9
8
7
6
5
4
3
2
1
0
件数
2014/7
2014/5
2014/3
2014/1
2013/11
2013/9
2013/7
2013/5
2013/3
2013/1
2012/11
2012/9
2012/7
2012/5
2012/3
2012/1
2011/11
2011/9
2011/7
2011/5
訪問日数
2011/3
訪問管理栄養士だからこそできること
6
この事例を通して、
「肺炎に勝つ栄養状態」
と
「肺炎にならない
強く感じ、看護師が患者との懸け橋として心強いサポート
地域栄養サポート自由が丘 米山久美子
[睦の和]第5回 えとえの会・栄養とリハビリ
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