CFA 協会ブログ

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2014 年 4 月 15 日
No.182
機関投資家:公開企業の所有者としての役割
Institutional Investors: What Is Their Role as Owners of Public Companies?
パドマ・ヴェンカット、CFA
アジアにおける機関投資家の積極的な関与を巡りか
米国の全公開企業の上場株式の最大 84%を保有してい
まびすしく議論が展開されています。
ました。今日では、40%を下回ります。英国では、過
最近のブログ(blog post on shareholder
engagement )では、取締役会と株主間の積極的
な関与に関する世界的な潮流が強調されています。ブ
ログでは重要な問題を提起してもいます。すなわち、
企業あるいは投資家の視点から積極的な関与に価値
はあるのか、という論点です。
去 50 年間にその比率は 54%から 11%へ低下し、日本
では 2011 年現在、個人の全公開企業の上場株式持ち
株比率はわずかに 18%に過ぎません。
機関投資家の多様性と複雑性
世界の機関投資家の積極的な関与の性格や質、程度は
その類型ビジネスモデルにより大きく異なります。
経済協力開発機構(OECD)は最近、“Institutional
OECD の報告では、著者が機関投資家の複雑な状況を伝
Investors as Owners: Who Are They and
What Do They Do?” (
「株主としての機関投資
)と題するコーポレートガバナン
家:その姿と行動」
統的機関投資家(すなわち、年金基金やミューチュア
スに関する研究報告書を公表しました。報告書は公共
ドやプライベートエクイティ、ヘッジファンド、上場
政策の観点から書かれ、効果的な資本配分と企業の業
投信)に二分して分析しています。
績監視における株主の積極的な関与の役割を検討し
ています。この報告書は興味深い内容であり、読者の
みなさんに内容を要約して供したいと思います。
ルファンド等投資ファンド、生命保険会社)と代替的
機関投資家(すなわち、ソブリン・ウエルス・ファン
上記2類型とは別に資産運用会社が区分されている
のは、 英国スチュワードシップ規範(UK
Stewardship Code)に示されているように、資産
機関投資家である株主の役割をどう定義していくか
運用会社に対する外部委託が急増しているためです。
は、株主が資本や情報、監視機能を提供するのか、そ
報告書では、資産運用会社を(資産所有者に対比して)
れとも単に資本の拠出を行うだけなのかによって変
日常の運用責任を負うものの、自己名義でなく直接顧
わってきます。
客の名義で顧客の投資方針に基づき運用を行う機関
機関投資家は複雑かつ多様な性格を有する集団です。
共通の特徴としては、機関投資家は個人ではなく、法
人であることです。
OECD の報告書の統計では、公開会社における個人の株
と定義しています。さらに、クローズドエンド型投資
会社や投資銀行の自己運用デスク、財団、基金のよう
な他の類型については加える余地があるものの、意識
して除外したのは信頼に足るデータが欠如していた
ためと報告書の著者が認めています。
式持ち株比率が過去何年間にわたり低下してきてい
ることが示されています。1960 年代半ばには、個人は
日本 CFA 協会
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投資連鎖のなかで重要性高まる機関投資家
報告書は全機関投資家の合算保有額が 2011 年現在、
84 兆 8 千億米ドルに達するとしています。このうち、
38%(32 兆米ドル)が上場会社の株式の形で保有され
・株主はリスク資本の拠出、監視、情報提供を行うの
か、あるいはリスク資本の拠出のみ行うのかで峻別
されなければならない。後者の株主は出資先企業に
積極的に関与することに関心は持たないこと。
ています。伝統的機関投資家は 28 兆米ドルの上場株
多くの特徴や選択肢が機関投資家のビジネスモデル
式を保有しており、代替的機関投資家は 4 兆 6 千億米
を定義し、情報に通じ積極的に関与する株主となる能
ドルの株式を保有しています。
力と意思を決定します。これらの特徴や選択肢を活用
タワーズ・ワトソンと Pensions and Investments によ
る共同調査 2012 joint research report によれば、
世界全体では、資産運用会社の預かり資産は 2011 年
末現在 63 兆米ドルになります。OECD の報告書の著者
は、機関投資家が他の機関投資家が提供する商品への
することによって、「積極的な関与なし」から「内部
に食い込み積極的に関与する」まで、株主による積極
的関与の度合を決定するための用語を確立すること
ができます。
株主による積極的関与の決定要因
投資を増やしている点を認めています。たとえば年金
目的
基金は、プライベートエクイティに投資し、生命保険
非営利
会社はミューチュアルファンドにします。資産運用会
利益
社のなかには、伝統的なあるいは代替的な機関投資家
負債構造
長期
として、特別資産運用部門を通じて資産管理を行う場
合もあります。
OECD 報告の主要な調査結果
短期
投資戦略
パッシブ
アクティブ
ファンダメンタル ファンダメンタル
パッシブ指数
・株式所有それ自体は株主関与の決定要因ではないこ
ポートフォリオ戦略
と。
集中
・投資の連鎖は、機関投資家間の相互投資、株式市場
構造と取引慣行におけるさらなる複雑化、資産保有と
体系なし
分散
手数料体系
成功報酬
一律
資産運用機能の外部委託化によって、複雑になってき
ていること
政治的/社会的動機
監視を行う上で重要な役割
無料
政治的/社会的目的
・株主の積極的関与は効果的な資本配分と十分な情報
に基づいた企業業績の
アクティブ
計量
関与義務
政治的/社会的動機なし
規制の枠組み
関与制限
法的義務なし
を果たしていること。
出典: Çelik, S. and M. Isaksson (2013), “Institutional
・株主権の行使(すなわち、情報入手や重要な企業の
改変に係る主要な意思決定への参加、取締役の選任
等)は、常に一定の費用がかかり、適切な資源を必
Investors as Owners: Who Are They and What Do
They Do?” OECD Corporate Governance Working
Papers, No. 11, OECD Publishing.
要とすること。
株主の積極的関与の 4 つの大区分
日本 CFA 協会
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1. 非関与: この分類区分は個別の投資先企業の
3. 関与の度合いが最も高い機関投資家は株主の
監視を積極的に行わない、あるいは投資先企業
積極的関与の度合について規制上の義務を負
の経営陣と積極的な対話をしない機関投資家
っていないことが一般的であること。
からなります。一例としては、積極的な関与に
制限があったり、持ち株に応じた議決権行使が
いかがでしょうか。みなさまのご意見をお待ちして
明確に禁止されている機関投資家が当てはま
います。
ります。
2. 受動的積極的な関与:この分類区分は委任状代
理助言機関外部の提供者から有償で助言や議
決権行使サービスを受けることに依存したり、
他の積極的な外部株主からの関与を見て態度
を決めるケースを含みます。一例としては、委
執筆者
パドマ・ヴェンカット(Padma Venkat)、CFA
CFA Institute の資本市場政策ディレクター。
(翻訳者:森田
智弘、CFA)
任状代理助言機関の助けを得て議決権を行使
することが法定されているミューチュアルフ
英文オリジナル記事はこちら:
ァンドが含まれます。
3. 超過収益狙いの積極的関与:この関与のレベル
は、市場ベンチマークを上回る短期的あるいは
長期的リターンを維持しようとする株主の積
極的関与に関連しています。アクティブ型ヘッ
ジファンドやプライベートエクイティファン
http://blogs.cfainstitute.org/marketintegrity/auth
or/padmavenkat/注) 当記事は CFA 協会(CFA
Institute)のブログ記事を日本 CFA 協会が翻訳したも
のです。日本語版および英語版で内容に相違が生じて
いる場合には、英語版の内容が優先します。
ドが超過収益狙いの積極的関与の例になりま
す。
4. 内部的な積極的関与:この区分には、ファンダ
メンタルズを重視した企業分析や直接的な議
決権行使、往々にして取締役の責任を引き受け
ることが含まれます。一例として、コカコーラ
社の最大株主であり、同社取締役会に名を連ね
るバークシャーハサウエイのようなクローズ
ドエンド型投資会社が挙げられるでしょう。
報告書の結論は以下のとおりです。
1. 株主の積極的関与の度合いを理解するために
は決定要因の全体像を知る必要があること。
2. 法的あるいは規制上の議決権行使義務は、その
他のあるいはそれ以上に重要な株主の積極的
関与に係る決定要因が不変であれば、株主の積
極的関与にほとんど影響を与えないこと。
日本 CFA 協会
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