東南アジアの経済発展と 航空需要の関係 - 航空操縦学専攻

東海大学工学部
航空宇宙学科航空操縦学専攻
2015 年度卒業研究論文
東南アジアの経済発展と
航空需要の関係
2016 年 2 月
2BEO1207:市原裕久
利根川豊教授
論文要旨
本研究は、経済成長著しい東南アジアの経済発展と航空需要の関係を調べ、東南
アジア諸国のこれからの航空需要について考察することを目的とする。約 6 億
人の人口を抱える東南アジアにおいて航空運送事業は重要な役割を担っている。
また経済発展も著しく、これから世界の中枢を担っていくと考えられる地域で
ある。このような多くの人口を抱え、経済発展していこうとしている地域の航空
需要を考察することは有意義であると考える。
まず ASEAN 諸国について各国の人口推移、GDP、一人当たりの GDP 等の基
本的な情報を紹介する。インドネシア、シンガポール、マレーシア、タイ、フィ
リピンの ASEAN 主要 5 カ国と呼ばれる国々はほとんど陸続きではない。その
ため加盟国間を移動する時の基本は空路である。1995 年の ASEAN 第 5 回公式
首脳会議ではオープンスカイポリシーを展開することを含む、行動計画が採用
された。それから段階的な航空自由化に向けての働きが進められている。すでに
域内航空自由化を果たした EU について触れ、ASEAN の航空自由化について
考察する。そして現在急成長している ASEAN 内の LCC について紹介する。
次に ASEAN 内で一番の人口を抱え、GDP も ASEAN 内で 1 位のインドネシア
について基本情報から調べ、経済発展と航空需要の関係について考察した。アジ
ア通貨危機以降、インドネシアは安定した経済成長を続けている。航空運送旅客
数も経済成長と共に伸びていたが、度重なる爆弾テロ事件の影響により国際旅
客数は伸び悩んでいた。しかしユドヨノ政権時にアルカイダ系テロ組織を撲滅
した事により国内情勢と政治が安定し航空運送旅客数は伸びた。同様に ASEAN
の主要都市が全て 3 時間圏内にあるベトナムについても調べ、考察した。ベト
ナムは経済成長率が 5.5%~7.8%であり、安定して経済成長している。また IATA
による調査でベトナムの航空市場成長率は世界第 7 位であると発表された。つ
まりベトナムの航空運送旅客数は年々増えている。ベトナムでは経済成長する
と航空需要が伸びるという事が明確に示された。
最後に ASEAN について調べ、考察した事を踏まえて ASEAN 内に新たに航空
会社を設立した時の事を想定したものをまとめた。EU でシェア 1 位のライアン
エアーやマレーシアの LCC であるエアアジアの戦略などからベトナムのホーチ
ミン付近を拠点に会社を設立する事が最適であると導き出された。ホーチミン
から ASEAN 内の主要都市であるジャカルタ、シンガポール、バンコク、クア
ラルンプール、マニラの 5 都市は飛行時間 3 時間圏内にある。ベトナム航空と
ジェットスターパシフィックの 2 社の路線と価格を参考に、ホーチミンから主
要 5 都市をダイレクトで結ぶ路線を作り、主にビジネス客を対象とした価格設
定やサービスを行う航空会社「千夜一夜航空」の設立を提案する。
目次
第1章
ASEAN の経済と航空業界
1.1
加盟国と各国の人口…………………………….…….…….1
1.2
GDP と各国一人当たりの GDP…………………..….…….2
1.3
航空自由化について EU との比較………….………….….3
1.4
ASEAN 内における LCC………………………….….…….4
第2章
インドネシアの経済発展と航空需要
2.1 インドネシアの基本情報……………………….……………..5
2.2 インドネシアにおける経済と航空需要の関係………...……5
第3章
ベトナムの経済発展と航空需要
3.1 ベトナムの基本情報………………………………..………….8
3.2 ベトナムにおける経済と航空需要の関係…………………...9
第4章
千夜一夜航空……….…………………………………11
謝辞
……………………………………………………………16
参考文献
……………………………………………………………17
第1章
ASEAN の経済と航空業界について
ASEAN とは
ASEAN とは Association of South-East Asian Nations の略であり、東南アジ
ア 10 カ国の地域経済協力機構である。ASEAN 総人口は約 6 億 2 千万人であ
り、本部はインドネシアの首都ジャカルタにある。
1.1 加盟国と各国の人口
1967 年 8 月ベトナム戦争時に反共主義の立場をとるインドネシア、シンガポ
ール、タイ、フィリピン、マレーシアの 5 カ国が ASEAN の設立を宣言した。
この 5 カ国に加えて 1984 年にブルネイ、1995 年にベトナム、1997 年にミャ
ンマー、ラオス、1999 年にカンボジアが ASEAN に参加した。
図 1.1.1 ASEAN 諸国【1】
ASEAN 総人口は約 6 億 2 千万人である。この数は EU(欧州連合)の総人口
である約 5 億 820 万人よりも多く、これからの経済発展、航空需要の拡大に大
きく期待ができる。中でもインドネシアは人口約 2 億 5 千万人で人口世界第 4
1
位であり、ASEAN 総人口の約 40%弱を占めている。次いでフィリピンは人口
約 1 億人、ベトナムは人口約 9 千万人となっており、インドネシアと合わせる
と ASEAN 内人口は上位 3 カ国で ASEAN 総人口の約 71%を占める。反対に
人口が一番少ないブルネイは人口約 41 万人であり、インドネシアの人口の約
610 分の 1 である。
ASEAN人口
6億2千万人
255,462,000
68,387,000
インドネシア
フィリピン
ベトナム
タイ
ミャンマー
マレーシア
カンボジア
ラオス
シンガポール
91,812,000
ブルネイ
102,965,000
図 1.1.2 ASEAN の人口グラフ
1.2 GDP と一人当たりの GDP
ASEAN 内諸国の実質 GDP を US ドルに換算して比較した。1 位はインドネシ
アで 8,888 億 5 千万ドルであり、2 位タイの 3,738 億ドルの 2 倍以上であった。
3 位はマレーシアの 3,269 億 3 千ドル、4 位はシンガポール 3,080 億ドルであ
り、3 千億ドルを超えたのは以上 4 つ国だけであった。人口、GDP でどちらも
ASEAN 内で 1 位だったインドネシアは ASEAN 内で重要な役割を担っている国
であると考えられる。
一人当たりの GDP とは GDP をその国の人口で割ったものである。GDP は実質
GDP を US ドルに換算し算出している。ASEAN 諸国の一人当たりの GDP の平
均は 3,107 ドルであった。1 位はシンガポールで 56,000 ドル、2 位はブルネイ
2
で 36,600 ドル、3 位はマレーシアで 10,800 ドルだった。シンガポールは GDP
で ASEAN 内 4 位だが、人口は 9 位の 547 万人であった。このため一人当たり
の GDP が他の国に比べて高いのである。ブルネイの場合は人口が極端に少な
いため 2 位に入った。
1.3 航空自由化について EU との比較
国際航空輸送は伝統的に 2 国間主義であり、2 カ国間で制限を設け運航してい
る。その制限とは路線(乗り入れ地点)、運輸権(当事国間、以遠、三国間な
ど)、運航権、輸送力(機体、便数など)、航空会社、運賃などである。これら
の制限を部分的または全面的に緩和することを航空自由化と呼ぶ。ASEAN で
は 1995 年から航空自由化に向けた取り組みは始まっている。その成果の 1 つ
として 2002 年に貨物分野において ASEAN 内の指定された 20 の空港において
指定の航空会社が週 100 トンまでの貨物を機材、便数の制限なしに運航可能と
なった。現在 ASEAN では段階的な航空自由化を目指しているが、単一航空市
場に向けて国籍、カボタージュの開放、安全面や技術面の規制及び航空管制シ
ステムの協調などの課題がある。国籍に関しては実質的所有と実効的支配を段
階的に緩和するとしている。また単一航空市場になると ASEAN 加盟国間での
経済格差によりフラッグキャリアが外資 LCC に競争で負ける可能性も出てく
る。
EU では 1987 年、1990 年、1992 年と段階的に航空自由化を進めてきた。そし
て 1997 年 4 月に制限のない航空市場になった。航空市場統合により国籍が EU
加盟国全体に広がり、加盟国の航空会社はカボタージュ、三国間輸送が可能に
なった。これによって加盟国の航空会社は EU 域内のどこへでも路線を開設す
ることができ、また EU 域内の他国に拠点空港を設置できるようになった。例
として大手 LCC のライアンエアーは EU 域内に 13 の拠点空港があり、路線も
豊富である。LCC の登場により航空会社間の競争が一段と激しくなり、フルサ
ービスキャリアも経営効率化を進めた。結果として航空運賃が全体的に低下
し、利用客にとっては安く飛行機に乗れるため益となり経済厚生の向上に貢献
した。EU の航空自由化が結果として良くなった大きな要因は各国、各都市に
セカンダリー空港があったおかげである。セカンダリー空港の存在が LCC の
成長を助け、競争に拍車をかけた。
3
1.4ASEAN 内における LCC
フィリピン、インドネシア、マレーシア、タイでは 1990 年代後半から 2001 年
にかけて国内航空輸送への参入規制が大幅に緩和された。この規制緩和の後か
ら ASEAN の LCC は登場し始めた。特に 2002 年にエアアジアが登場してから
ASEAN 域内に次々と LCC が誕生した。しかしまだ航空自由化されていないた
め、LCC にとっては厳しい状況である。二カ国間協定では航空会社が指定さ
れ、輸送力、運賃が制限されてしまうため公正な競争をする事は難しい。また
ASEAN 諸国にはセカンダリー空港というものが少ない。ASEAN ではセカンダ
リー空港に代わるものとして LCC 専用ターミナルの建設が進んでいる。LCC
専用ターミナルを使用することにより、空港使用料等のコストを抑えることが
できる。その他にも航空自由化されていないため、新たに路線を開設する際や
他国に拠点空港を設置する際に制限が生じる。このような状況の中でも
ASEAN を代表する LCC であるエアアジアはネットワークを拡大し、成長し続
けている。エアアジアは国際条項に抵触しない範囲で他国に合弁会社を設立し
ネットワークを拡大した。
ASEAN 内の LCC の路線を調べると、ジャカルタ、クアラルンプール、バンコ
ク、シンガポール、マニラの ASEAN 主要 5 都市をダイレクトで結んでいる航
空会社が少ないことが分かった。
4
第 2 章インドネシアの経済発展と航空需要
2.1 インドネシアの基本情報
図 2.1.1 インドネシアの地図【2】
インドネシアは赤道直下にある常夏の島国である。人口は世界第 4 位の約 2 億
3 千万人であり、ASEAN 総人口の約 40%を占める。大小合わせて 17,000 の
島々がある。国土面積は約 1,905,000 平方 km で日本の約 5.1 倍の面積である。
広大な海と多数の島々という地理的条件により航空輸送は重要な輸送手段とな
っている。航空機を運航しているのは大手航空会社、LCC を合わせて 12 社、
コミューターは 30 社、非営利で航空機を運航する団体が 40 団体ある。また空
港の数も約 200 空港あり、日本の約 2 倍となっている。国土面積が日本の約
5.1 倍に対して、空港の数が少ないので航空需要は今以上に伸びる可能性があ
る。
2.2 インドネシアにおける経済と航空需要の関係
1980 年から 1996 年まで安定した経済成長を続けていた。しかし 1997 年にタイ
の通過下落から始まったアジア通貨危機により 2000 年まで GDP は下降し続け
た。その後、大統領が変わり 2000 年から 2014 年にかけて実質経済成長率が平
均 5.8%の急成長を続けている。
5
図 2.2.1 インドネシアの GDP の推移【3】
アジア通貨危機以降の経済成長に伴い、航空需要も拡大したのではないかと考
えた。アジア通貨危機以降のインドネシアの国内旅客数と国際旅客数を調べ、
グラフにまとめた。
80,000
69,316
70,000
60,000
55,700
50,000
38,600
40,000
27,100
30,000
20,000
10,000
15,800
7,612
17,400
14,100
7,803
8,971
20,800
9,195
9,555
8,495
10,741
11,557
0
1998
1999
2000
2001
国内旅客数(千人)
2002
2003
国際旅客数(千人)
図 2.2.2 インドネシアの輸送実績
6
2004
2005
アジア通貨危機が起きた 1998 年以降、航空運送旅客数は増加している。国内
旅客数は 8 年間で 4.3 倍になった。それに対して国際旅客数は 8 年間で 1.5 倍
程度しか増加していない。なぜ国内旅客数と国際旅客数で旅客数の増加量に差
が出たのか考察した。インドネシアでは 2002 年にバリ島での爆弾テロを筆頭
に爆弾テロが発生している。2003 年はジャカルタの JW マリオットホテルで爆
弾テロ事件、2004 年はジャカルタのオーストラリア大使館前で爆弾テロ事件、
2005 年に再びバリ島で連続爆弾テロ事件が起きていた。特にバリ島で起きた 2
度の爆弾テロ事件により海外からのリゾート客が激減した。当時のメガワティ
大統領は関係国からの要請によりセキュリティー強化に努めた。しかし 2004
年にまた爆弾テロが起こると安全面への配慮が不十分であると指摘され、この
年の大統領選挙で敗北した。メガワティ大統領の次に大統領となったユドヨノ
大統領はそれまで不安定であった政治を安定させるために地方分権化を図り中
央政治を安定させた。また対テロ対策として 2009 年に国際テロ組織ジェマ・
イスラミアの幹部を殺害した。ユドヨノ政権になってからインドネシア国内の
治安が良くなり外国からの観光客やビジネス客が増加した。そこで 2005 年か
ら 2012 年までの 8 年間の航空運送旅客数の推移をグラフに出した。
131,773
140,000
120,000
100,000
80,000
69,316
60,000
40,000
20,000
23,426
11,557
0
2005
2012
国内旅客数
国際旅客数
図 2.2.3 旅客数の推移
国内旅客数は 8 年間で 1.9 倍増加した。対して国際旅客数は 2 倍増加した。国
内旅客数は 1998 年から安定して増加している。国際旅客数はユドヨノ政権に
なりインドネシアの治安が安定したため旅客数が伸びた。国際情勢や政治が安
定し、治安が良くなると旅客数は増えるという事が分かった。
7
第 3 章ベトナムの経済発展と航空需要
3.1 ベトナムの基本情報
ベトナムは人口世界第 13 位で約 9 千 100 万人を抱えている国である。また経
済成長率は平均約 6.4%であり安定した経済成長を続けている。2015 年に IATA
の航空市場成長率でベトナムは世界第 7 位となった。人口、経済、航空市場が
それぞれ成長している国である。ベトナムには 24 空港あり、その内 7 空港が
国際空港である。その中でもホーチミン市にあるタンソンニャット国際空港は
ベトナム最大の空港である。これから航空自由化が進む ASEAN の中で重要な
役割を担っていくと考えられる。
図 3.1.1 ベトナム【4】
8
3.2 ベトナムにおける経済と航空需要の関係
ベトナムは 1980 年から 5%~7.8%の経済成長率を維持しながら経済発展して
いる。2015 年、ベトナムの実質 GDP は ASEAN 第 6 位でありこれからも成長
すると考えられる。1998 年、アジア通貨危機により経済成長率は少し落ちたが
成長を止めることはなく成長し続けていた。また 2008 年のリーマンショック
の際にはベトナム政府が積極的に海外からの投資を誘致し経済をより発展させ
た。
図 3.2.1 ベトナムの GDP の推移【5】
インドネシアと同じようにベトナムも経済成長に伴い、航空需要も拡大するの
ではないかと考えた。ベトナム航空局が開示している 2000 年から 2015 年ま
で、15 年間のデータを集めグラフにまとめた。
9
旅客数
3000
2500
2000
1500
1000
500
0
2000年
2002年
2004年
2006年
2008年
2010年
図 3.2.2
ベトナムの旅客数
2013年
2015年
2000 年から 2008 年までの 8 年間、緩やかに旅客数は増加している。2008 年か
ら 2010 年にかけて旅客数が一気に増加している。この急激な増加の理由とし
て、2007 年にベトナムのバブルが崩壊し政府は海外からの投資を誘致した。加
えて 2008 年のリーマンショックが追い風となり政府はより積極的に海外から
の投資を誘致した。結果として海外からの旅客数が増え、ベトナムの航空運送
旅客数は急激に増加したと考えられる。また先述したようにベトナムは 2015
年に IATA の航空市場成長率で世界第 7 位になっており、現在も成長し続けて
いる。
10
第4章
千夜一夜航空
考察
ASEAN は人口約 6 億 2 千万人を抱え、現在も経済成長し続けている。航空重
要が拡大するポテンシャルは十分に秘めている。また航空自由化に向けての取
り組みも進んでいるため、ASEAN の航空市場は今まで以上に発展していくで
あろう。経済発展と航空需要の関係について今回調べたインドネシアとベトナ
ムのデータより経済が発展し、政治が安定すると航空需要は伸びるという事が
分かった。
千夜一夜航空
今まで調べ考察した事を踏まえた上で東南アジアに新たな航空会社の設立を提
案する。名前は「千夜一夜航空」とする。これはアラビアンナイトに由来す
る。妻の不貞を知り人間不信になった王は毎晩、国の若い女と一夜を過ごして
は殺すという行為を繰り返していた。この行為を止めさせるため大臣の娘が自
ら王の元に嫁いだ。大臣の娘は王に興味深い話をし、話の続きが聞きたい王は
この娘を殺すことができなかった。共に過ごした夜は千夜にもなり、王は自分
のした事を悔い改め、大臣の娘を王妃として迎え入れ、以前にも増して恵み深
い王となった。この物語の大臣の娘は毎夜毎晩、興味深い話を続けて王に話し
ていた。このように良品質の安定したサービスを提供し続ける会社でありたい
という考えから、「千夜一夜航空」とした。
本拠地
千夜一夜航空のベース空港はライアンエアーの戦略を参考に、3 時間圏内に
ASEAN 主要 5 都市を網羅することのできる空港を探した。下の図 4.1 は黄緑色
が EU、黒色が東南アジアを示しており同じ縮尺となっている。まず黄緑色の
部分である EU から見る。赤い円の中心はライアンエアーが主要ハブ空港とし
ているスタンテッド空港であり、半径はスタンテッド空港から飛行時間約 3 時
間の範囲を示している。この円内には EU の主要都市が網羅されている。次に
ASEAN 主要 5 都市であるジャカルタ、マニラ、クアラルンプール、シンガポ
ール、バンコクをこの円内に収めた場合の中心を定め、中心に最も近い空港を
探した。その結果、図 4.2 にあるようにベトナムのホーチミン市にあるタンソ
ンニャット国際空港が最適であると導き出された。
11
図 4.1 スタンテッド空港から 3 時間圏内
図 4.2 ホーチミンから主要 5 都市
12
ターゲットカスタマー
ベトナムのローカル企業を主にターゲットとして考えている。千夜一夜航空が
運航する路線は図 4.2 のようにホーチミンから ASEAN 主要 5 都市をダイレク
トで結ぶ。ホーチミンに拠点を置く LCC ではこれら 5 つの主要都市に向かう
際には乗り継ぎを行う必要があり、時間が大切なビジネスマンにとっては不便
である。しかしベトナム航空を利用するには割高な運賃が必要になり、会社に
とって厳しい状況になる。ローカル企業で働く大学卒の社員の平均月収は
20,000 円~24,000 円である。例えばベトナム航空を利用し、ホーチミンから
ASEAN 主要 5 都市の中で一番安く行く事ができるクアラルンプールは航空券
の値段が 23,045 円になる。1 月分の給料を使い出張させるとなると会社にとっ
て大きな出費となる。これでは海外進出や海外との取引の足を引っ張る要因の
1つなってしまう。そこで価格設定をベトナム航空より安くし、尚且つ顧客契
約を結んだ会社には優先搭乗や割安の航空券を提供する。このようにしてフル
サービスキャリアと LCC の間の存在としてベトナムの地域経済に貢献したい
と考える。
必要な従業員数と機体数
使用する航空機は三菱リージョナルジェットと仮定する。日本の国産旅客機と
して信頼性が高く、燃費は従来機より 20%向上し客室は広く快適な空間となっ
ている。MRJ―90LR 型を使用することにより航続距離を 3770km に伸ばし赤道
付近の急な積乱雲の発達など厳しい気象条件に対応できるようにする。
表 4.1 ホーチミンからの距離と所要時間
13
使用機材である MRJ は 88 人乗りであり、これを運航する際に必要な運航乗務
員と客室乗務員は計 4 名である。千夜一夜航空の必要な従業員数を算出するた
め、必要な乗務員数が同じである日本の IBEX エアラインズの従業員数を参考
にした。IBEX エアラインズの IR 情報より 2015 年 3 月 31 日付けの資料を元に
1 機あたりに必要な運航乗務員、客室乗務員、整備士、ディスパッチャーの数
と 1 路線あたりに必要な機体数を算出した。IBEX エアラインズには運航乗務
員 81 名、客室乗務員 59 名、整備士 46 名、ディスパッチャー6 名が在籍してい
る。また運航している機体が 9 機、予備が 1 機であり、運航している路線数は
15 路線である。従業員数を機体数で割り、1 機あたりに必要な従業員数を出
す。また従業員数を路線数で割り、1 路線あたりに必要な従業員数も出す。こ
のうちいずれか大きい方の数字を必要な従業員数とする。
表 4.2
IBEX エアラインズの従業員数
運航乗務員
客室乗務員
整備士
ディスパッチャー
1 機あたり
9名
6名
6名
0.6 名
1 路線あたり
6名
4名
3名
0.4 名
IBEX エアラインズは 15 路線を 9 機と予備 1 機で運航している事から、千夜一
夜航空は 5 路線なので 3 機と予備 1 機で運航することができる。運航乗務員と
客室乗務員は路線数を元に、整備士は機体数を元に算出する。運航乗務員は計
30 名、客室乗務員は計 20 名、整備士は計 18 名が最低でも必要となる。ディス
パッチャーは路線数を元に算出すると 2 人となったが、シフト業務を行うため
1 人追加し計 3 人で運航する。
表 4.3
千夜一夜航空
必要従業員数
運航乗務員
客室乗務員
整備士
ディスパッチャー
30 名
20 名
18 名
3名
計 71 名の運航に直接携わる従業員で最低限の運航をすることができる。その
他の従業員ももちろん必要であるが今回は省略する。
14
客室乗務員の制服
千夜一夜航空ではアオザイをモチーフにした制服を客室乗務員が着用し乗務す
る。アオザイはベトナムの民族衣装であり、世界で一番女性を美しく見せると
いわれている。アオザイは動きやすいデザインになっており、ベトナムの女性
の中には普段着として着用している方が多い。そのため保安要員として行動す
る際に制服が邪魔になることがなく、より効率的にお客様の安全を守る行動が
できる。
ニューハーフの採用
千夜一夜航空では客室乗務員としてニューハーフの採用を積極的に行う。ニュ
ーハーフの客室乗務員には様々なことが期待できる。例えば客室乗務員として
のきめ細かいサービスである。男性と女性、どちらの考え方や気持ちが分かる
ため、よりお客様に対して親身になってサービスができる。また一般の女性よ
りも化粧について詳しい方が多い。そのため女性の客室乗務員と化粧の方法な
どを意見交換し、客室乗務員全体の見栄えを良くすることが可能である。お客
様に接する際に見た目を良くするのはサービスの一環である。
まとめ
今回ベトナムに目をつけて新たな航空会社の設立を提案した。東南アジアは人
口が多く、経済も成長し続けている。これから世界の中心になることも十分に
あり得る地域である。航空需要がこれから益々伸びる可能性がある国々を調べ
られたことは非常に有意義であった。また会社設立を考えるに当たり、1 つの
航空機を飛ばすまでに非常に多くの人たちの努力があることを知った。社会人
になる直前に航空会社設立を考える機会があり有意義だった。
15
謝辞
本論文を作成するに当たり、ご指導を頂いた卒業論文指導教員の利根川豊教授
に感謝致します。また、日々の議論を通じて多くの知識や示唆を頂いた利根川
研究室の皆様に感謝します。
16
参考文献
【1】 Awakening Tiger: South East Asian Robotics より:
http://www.roboticsbusinessreview.com/article/awakening_tiger_south_east_asi
an_robotics/
【2】 織物の産地 in 東南アジアより:http://asian-textile.com/textilesoutheastasia.html
【3】 世界経済のネタ帳より:http://ecodb.net/country/ID/imf_gdp.html
【4】 Apex-Asia より:http://www.apex-asia.co.jp/images/area/vietnam_map.gif
【5】 世界経済のネタ帳より:http://ecodb.net/country/VN/imf_gdp.html
【6】 インドネシア(平成 20 年 4 月版)国土交通より
http://www.mlit.go.jp/common/000121668.pdf
【7】 インドネシア経済の現在位置 IDE-JETRO より :
http://www.ide.go.jp/Japanese/Publish/Download/Seisaku/pdf/1303_satoyuri.pdf
【8】 花岡伸也:ASEAN の航空―自由化とローコストキャリアより:
http://www.ide.titech.ac.jp/~hanaoka/take-off.pdf
【9】 花岡伸也:アジアにおける航空自由化の進展とローコストキャリアの展
開より:http://www.ide.titech.ac.jp/~hanaoka/ASEAN_2.pdf
【10】Is Africa bigger than North America?より:
http://bl.ocks.org/zanarmstrong/raw/caa2da1ea1558cdc3357/#scale=668.5&cent
er0=-7.720228791424001,-117.33593953897604&center1=52.49264438030729,-17.902234622409367
【11】ベトジョーベトナムニュースより
http://www.viet-jo.com/news/economy/110106110356.html
http://www.viet-jo.com/news/statistics/151123071116.html
【12】ライアンエアー:ルートマップ:https://www.ryanair.com/gb/en/cheapflight-destinations
【13】IBEX エアラインズより:http://www.ibexair.co.jp/safe/pdf/safety2014.pdf
【14】株式会社マックアンドサックより:http://mac-c.co.jp/wpcontent/uploads/2015/07/%E3%83%99%E3%83%88%E3%83%8A%E3%83%
A0%E9%80%B2%E5%87%BA%E6%88%90%E5%8A%9F%E3%80%80%EF
%BC%97%E3%81%A4%E3%81%AE%E9%8D%B5%E3%80%80201112%E7%89%88.pdf
17