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Finders 2012 Kawaguchi Art School of Waseda University
Finders 2012 Kawaguchi Art School of Waseda University
早稲田大学川口芸術学校
2012年度卒業/修了制作作品 総覧
Kawaguchi Art School of Waseda University / Graduation Works List
デジタルシネマ領域
映像ジャーナリズム領域
映像芸術表現領域
アニメーション領域
Finders 2012 Kawaguchi Art School of Waseda University
大出 沙樹 (映像文化学科 4 年)
ようこそシャングリラへ (14 分)
リルケの 詩
遠藤 裕介 (映像文化学科 3 年)
(26 分)
日常生活を送る上で、ほんの少しずつたまっていく苛立ち、不安感、憂鬱、
孤独感などをぐちゃぐちゃにして詰め込んだという作品。
落ちる…。枯れ葉が落ちる…。自分だけが落ちていくと感じる。大学 4 年
の主人公の晩秋 。青春の中、彼一人取り残さてしまうのか ?
忘却と美化
美少女戦士ステラ
佐藤 麗美 (映像文化学科 4 年)
(17 分)
髙橋良多 (映像文化学科 3 年)
(60 分)
生前は多数の中の一人。死後は思い出の中で一対一。水のイメージで描く、
青年と瓶の中の少女の物語。
流れ星が、海星美月と恋人 : 水谷薫との日常を変えてしまった。 流れ星の
正体とは…ステラとは 一 体…。どこか切なくもあり 、物寂しい物語。
三人のエージェント
Pani Mitocha? その水、おいしい ?
大橋 達
(17 分)
(映像情報科3年)
竜二、健一、大地の三人は任務中にドジを踏み謹慎処分を受けるが数日後、
テロを防ぐ命令を受け、日本を守るべく動き出す。
(39 分)
松浦 真実 (映像情報科3年)
無関心より支援する方がいいと断言する前に、支援すべきかしないべきか、
はかりにかけて考るドキュメンタリー作品。
002
愛の闇
地口 圭一 (映像情報科3年)
(26 分)
翔太は普通の会社員。ひょんなことから友人を殺害してしまい、
死体を隠すが、
不安になり死体を見に行くと、無くなってしまっている。
だが、しかし… ! 七色の光線 !
(36 分)
内田 清輝 (映像文化学科 3 年)
遺体安置室の死体が盗まれる ! 謎の怪事件の真相に挑む少女探偵あず ! 映画
青年研二と共 に 地球の平和を守るのだ !
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254km
木下 匠
(38 分)
(映像文化学科 3 年 )
「254 km」この数字は、東京・国会議事堂から福島第一原発までの距離。
この道を北上し、原発の被害に苦しむ地域に訪れてみる。
早稲田大学相撲部 ( 予告編 )
(3 分)
志賀 成将 (映像文化学科 3 年)
早稲田大学相撲部はかつて全国大会で優勝したほどの名門だが、近年は部
員数が 3 人となる。カメラは彼らの 100 日間を追った。
一生剣命
(24 分)
長谷川優美
(映像文化学科 3 年)
野村五月 ( 2 0 ) 。 スポーツチャンバラ元世界チャンピオンというプレッ
シャー、そして大きな決意 。彼女が世界選手権に臨むまでの道のりを追っ
た。
VOWO
(展示作品)
井上 和久 (映像文化学科 4 年)
春夏秋冬
(14 分)
松野真知・善恵
(映像文化学科 4 年)
日本には四季がある。そして多くの国から愛される日本食がある。日本の
良さを四季と食を通して伝えるイメージ映像作品。
Photographs from Unknown Man
(50 分)
尾沼 宏星 (映像情報科3年)
川口駅 、西川口駅 、蕨駅 、京浜東北線西側の川口市の街並みを映像で記
録した作品 。映 像アーカイブ ・ インスタレーション作品。
カットしたショットも、消えてゆく記憶も、全部抱えて生きていく。5 年前
に撮影された写真を巡るロードムービー。
象牙の塔
空白の標本 (展示作品)
(30 分)
福﨑 星良 (映像文化学科 4 年)
過去から未来までを
「見続ける」
盲目の女と、時代とともに変化してゆく男。
想像される世界 と現実世界を映像が舞台装置として映し出す―。映像と演
劇を織り交ぜた舞台作品。
大矢 大
(映像文化学科 3 年)
積み重ねられたブラウン管テレビ。映される人の顔。無意識の時間を切取り、
人々の空白の時間を想像させる。
003
ネオンライト
(13 分)
福﨑 星良 (映像文化学科 4 年)
「わたしは月で、あなたは太陽。まぶしすぎて、目をそらしてしまう。心も
とないわたしの光は、都会の喧騒やネオンライトにかき消されていく ― 。
」
face to face
(2 分)
松井 朋香 (映像文化学科 4 年)
日常にある環境や表情をアップテンポな音楽に合わせて表現した分割映像。
変化する表情や軽やかなステップが心地いい 。
wondering,falling,becoming (展示作品)
寺田 菜摘 (映像文化学科 3 年)
真暗な部屋に不思議な映像が流れる。煙に浮かぶ花や滑らかにはためく空、
星が多数の蝶に変化する。その中を女の子は巡り、辿り着く先は…。
Unconscious Painting System (展示作品) 土肥 勇士郎
(映像文化学科 3 年)
コルクの球 体にペンキを付着させ、意図的な意識が一切介入してない絵を
描くインスタレーション作品。
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THE TELEVISION
(5 分)
本吉 春菜 (映像文化学科 3 年)
何があろうと TV とはそういうものだ。既存の映像作品を利用して作るファ
ウンド・フッテージ・テレビジョン。
未来
奥墨 亮介 (映像文化学科 4 年)
(5 分)
楽曲の暖かい雰囲気や前向きな歌詞に合わせて、映像も明るく綺麗に撮影
し、暖かいアニメーションのミュージックビデオ。
おにぎりくん
倉橋 一平 (映像文化学科 4 年)
(9 分)
手描きアニメーション作品 。コンビニでバイトをしているおにぎりくん (26
・ 男 ) がおにぎりを売り捌こうと奮 闘する姿をコミカルに描く。
004
見たくないエビフライ
(5分)
三浦 あゆみ
(映像文化学科 4 年)
女の子はエビフライが大好物。だがエビが何なのか知らない。試しに衣をか
じってみると、見た事のない世界へ導かれる。
M E S M E R I Z E (展示作品)
大山 さくら (映像情報科3年)
街で何でも屋を営む静間と大江は、一人の少女を救う。少女と触れ合い 、
暴悪な静間が変心していく事が面白くない大江はある行動を起こす。
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ALWAYS
高野 裕介
(3 分)
(映像情報科3年)
90 年代の海外のバンドに影響を受けた、4 人組メロディックハードコアバ
ンド better off today のミュージックビデオ。
なっしんぐ・まま
(展示作品)
中島 瑞希 (映像情報科3年)
デリカシーのないママに不満をもつ娘たちは、
【デリカシー】を拾い変わっ
てしまったママに戸惑う。絵本形式のインタラクティヴ作品展示。
Hannu
(14 分)
板東 茜
(映像情報科3年)
淡々とした日々に不安を抱くハンヌ。ある日、不思議な人物サトウさんに
よって旅へ放り出されてしまう。森の中で彼が見つけた答えとは。
川口芸術学校 2012 年度卒業・修了制作展 - エフ 日時:2013 年 2 月 2 日 ( 土 ) ~ 2 月 4 日 ( 月 ) 会場 : 早稲田大学 27 号館 B2F 小野記念講堂 +STEP21
映画を見た後に友人と映画について語ると、劇場で感じた印象をより強く、濃く感じることがあります。そ
んなとき、ふと思います。「今ここに監督がいたら、この印象はどれだけ強くなるんだろう」。この卒業制作
展は、そんな期待を現実にしたくて企画しました。交流をテーマに、制作者と直接話すことができるイベン
トを行います。タイトルの [f] には、face to face、fun、feeling など、色々な意味を込めました。[ 紹介文から ]
005
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目次 INDEX
卒業・修了制作作品 総覧
001-004
授業とプロジェクト研究
008-015
デジタルシネマ領域
008
映像ジャーナリズム領域
010
アニメーション領域
012
映像芸術表現領域
014
イチオシ映画コラム
007/023/040
学生課外活動報告
018-022
研究報告
026-031
制作者トーク
032-039
トーク x トーク
016/024
学生生活を振り返って
042
川口芸術学校 この1年
044
006
Finders 2012 Kawaguchi Art School of Waseda University
イチオシ ! 映画コラム
わが心のアリダ・ヴァリ
長尾 啓司
映画館のない村で育ち、自転車で峠を越えて町の高校に通うようになっても、身
に添わぬものとして外国映画は敬遠していたから、洋画に親しむようになったのは
上京して名画座を知ってからだった。
立ち見も出る満員の暗闇で数多くの名作を堪能し、すこしずつ未知の世界に眼
を開かれていったが、ある日、さほど期待しないで観た、娯楽色の薄い地味な作品で、
わが心をときめかす繊細で果断な女性に出会った。
アラン・レネの『夜と霧』
『二十四時間の情事』などの編集を担当したアンリ・
コルピの長編劇映画第一作『かくも長き不在』である。
主人公の中年女性のテレーズはゲシュタポに連行されたまま帰ってこない夫が店
の前を通る屑拾いだとわかると愛人のトラック運転手の若者に、あっさり別れを告
げる。愛人もグダグダ言わない。これこそフランス映画である。十六年ぶりに会っ
VHS 廃盤
配給:( 株 ) ポニーキャニオン
▶アンリ・コルピ監督
1960 年 フランス
た夫の様子に不審を感じ、女店員に質問させると、夫が記憶を失っていることがわ
かり、隠れて聞いていたテレーズが失神するところもグッとくる。
あきらめきれないテレーズは夫を食事に招き、夫の好きだった曲をかけてダンス
に誘い、愛しさにかられて髪をなでた瞬間、違和感を覚える。壁の鏡に映る後ろ頭
▷パリ郊外でカフェを営むテレーズは
を見ると脳の手術の痕があった。夫は記憶機能を壊されたのである。川岸の小屋に
ある日、店の前を通る浮浪者に目を止
帰る夫を見送るために表に出たテレーズが、たまらなくなって「アルベール!」と
める。その男は 16 年前に行方不明に
叫ぶと、
男は立ちすくみ、
ホールドアップと命令されたかのように静かに両手を上げ、
なった彼女の夫アルベールにそっくり
であった。 テレーズはその男とコン
よろよろ大通りに出て、正気にもどったためなのか、ゲシュタポから逃げようとし
タクトをとるがその男は記憶喪失だっ
たのか不明のまま、走って来たトラックに飛び込んでしまう。
た。 その男の記憶を呼び覚まそうとす
作家のマルグリット・デュラスが実話を基にシナリオを書いた作品で、記憶喪失
るテレーズ。 しかし答えが出る前にそ
の男は…。 ラストシーンでつぶやくテ
レーズのセリフが印象的な作品。
になった理由に反戦のテーマがある。
『第三の男』でも、哀しみの中で凛として顔
を上げる女を好演したアリダ・ヴァリの深く秘めた情念が忘れられない。
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007
授業報告
class report
佐藤 麗美「忘却と美化」の1シーンより▲
デジタルシネマの一年間 デジタルシネマ領域担当 松原 信吾
008
デジタルシネマゼミを担当して
技術的に様々な問題点を残す結果
ネに限らず)に、共通する欠点が
から3年目の今年だったが、一言
になってしまった。ノーライトの
ある。反論を承知の上で敢えて言
で言うと大変にしんどい一年だっ
為にカット毎の明るさがバラバラ
わせて貰うが、それは、
「視覚効
た。
だったり、セリフがクリアに録れ
果で内容の脆弱さをごまかしてい
何より学生の数が、たった3人
ていなかったり、カッチリした画
るように見える」ことだ。
というのは致命的であった。クラ
が必要な処で、手持ちキャメラの
昨今パソコンの映像ソフトが充
スで撮影のワンチームが組めない
揺れが画面を台無しにしていたり
実し、誰もが簡単に、凝った非日
というのは、両手足を縛って泳げ
……。3年間学んだ技術の集大成
常的な色や映像表現を手に入れら
というようなもので、当初から困
であるべき作品に、充分力を発揮
れるようになった。その事自体は
難は予想された。それを克服する
できなかったことは学生諸君に
勿論良いことなのだが、画作りに
為、3年生との合同作業でスタッ
とって不運だったし、何より各人
凝るあまり、映画の出発点は「言
フをやりくりすることにし、各人
が一番残念に思っていることだろ
葉」であり、内発的な「動機」で
に撮影時期を割り振り、どうにか
う。指導すべき立場の人間として、 あることを忘れてはいませんか、
発表会までに3、4年生全員の作
大いに同情し、反省している現在
と言いたくなるのだ。
「何を」
、
「何
品を仕上げられるだろうという見
である。しかし、極めて困難な状
故」創りたいのか? それが見え
込みでスタートしたのだった。し
況の中で3、4年生の大半の作品
ない作品はどんなに凝った映像が
かし、シナリオの遅れ、キャスト
をどうにか発表会に間に合わせる
流れようと他人の心を動かすこと
のスケジュール、天候等の問題で、 ことが出来たのは幸いだった。取
は出来ない。
予定は大幅に狂い、当初の目算か
り敢えず学生諸君の努力と熱意を
『サイド・バイ・サイド/フィ
らは大きく外れてしまった。
讃えたいと思う。
ルムからデジタルへ』というド
映画はスタッフの力を結集して
そうした経緯はさておき、発表
キュメンタリー映画がある。この
創るものである。演出する人間と
会で諸作品を見て一つ気になった
作品は、映画の素材として、もは
キャメラと被写体があればでき
ことがあるので指摘しておきたい
やフィルムは過去のもの、現時点
る、というものではない。映像は
と思う。私のゼミの学生たちや3
で指摘されているデジタルビデオ
正直である。出来上がった作品は
年生たちの幾つかの作品(デジシ
の欠点は早晩解決されるであろう
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授業報告
ことを説得的に見せてくれる優れ
class report
・卒業年次生の声
度に出てしまいました。
たドキュメントであるが、この中
以前にプロデュースもやったの
で、
「 デ ジ タ ル は 何 で も で き る 」 佐藤 麗美 ( 映像文化学科 4 年 )
で、スケジュール通りに終わらせ
「技術の進歩で我々は新しい表現
卒業制作では、撮影場所を借り
る方を優先させてしまいました。
を獲得した」と無邪気にはしゃい
て、役者さんなどもきちんした方
先生方の指導を聞けないところ
でいるルーカスやキャメロンやダ
にやっていただけたので、建設的
や、現場で喧嘩が多かったところ
ニー・ボイルの傍らで、「全員に
で結束した現場となりました。
など、監督としてはちょっと反省
紙と鉛筆を渡したからといって、 シナリオの段階ではちょっと伝
点が多かったです。
優れた小説が沢山生まれる訳じゃ
わらなかった部分が、映像の方で
ない」と冷静に語るデヴィッド・
カバーできたので良かったです。 大橋 達(映像情報学科 3 年)
リンチの言葉が印象的である。そ
やってみたかった水中撮影など技
撮影期間が早く始まったので、
う、フィルムか、デジタルかは所
術面でやってみたかったことが出
アクションの体つくりなど撮影し
詮技術論でしかないのだ。例えば
来ました。
ながら感覚を取り戻すような感じ
最新のハリウッドの大作映画の中
でした。キャスティングが難しく、
で 見 ら れ る、 派 手 な ア ク シ ョ ン
大出 沙樹 ( 映像文化学科 4 年 )
先輩に手伝っていただけて良かっ
シーンに「監督の力」は何パーセ
卒業制作の作品は、スタッフが
たです。目指すジャッキー・チェ
ント位あるだろうか。予算の規模
少ないこともあったので手間を
ン に は ま だ ま だ 及 び ま せ ん で、
が同じなら、誰が監督しても結果
削ったり、新しくなった録音機材
もっと激しくした方が良かったか
は殆ど変わらなくなるのは自明の
などでカバーしました。照明の部
なぁと思っています。
ことのように思える。何故なら、 分や自分の演出で反省点や心残り
それをカバーする意味で、コミ
こうした画を作っているのはCG
があり、撮影後はもう二度と映画
カルな芝居を入れたりしました。
技師であり、VFXの技術者たち
を撮るまいと思ったのですが、今
卒業後は照明の会社に就きます
なのだから。
「技術の進歩は人間
はまたやりたくなって、次こそ頑
が、また映画の仕事もやってみた
を疎外する」
、という命題を理解
張ろうと思っています。
いと思います。
して欲しいと思う。その辺りのこ
卒業後は進学することになった
とは、3年間折に触れて話して来
ので、もっといいシナリオが書け
たつもりだったのだが、あまり理
るように頑張ります。
解されなかったのかなあ、と些か
残念に思えた。
地口圭一(映像情報学科 3 年)
表現は、自分の言葉で、自己責
この一年で監督と主演をやらせ
任において発するものである。何
てもらえ充実した一年でした。ま
となく胡散臭い方向に動きつつあ
た一番スタッフ人数が関わり、い
る今の世の中、様々な局面で、批
ろんなスタッフの意見があり、皆
判を恐れず、凛として自己表現す
のモチベーションも高かったで
る力をつけて欲しい、と切に願う
す。でも撮影後の編集作業に自分
ものである。
の力が及ばず、それが作品の完成
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009
授業報告
class report
取材中の松浦 真実さん▶
映像ジャーナリズム領域 授業を振り返って 今年度の卒業・修了作品上映会
010
映像ジャーナリズム領域担当 高橋 恭子
は何か」を考察したのがこの作品
月間を追った。企画に着手した昨
では、実に多様な表現が見られた。 である。
春、カメラも編集ソフトも使いこ
ジャンルを超えた集中授業が、そ
なせなかった長谷川さんだが、撮
昨夏、大きな盛り上がりを見せ
の成果が実を結んだと思われる。 た首相官邸前の脱原発デモ。木下
影を重ねるうちにスキルを習得。
1.今年度の卒業・修了作品から
匠君はネット上で見た 10 万人以
主人公とはいつしか互いに励まし
映像ジャーナリズム領域では、 上の人々によるデモ映像に触発さ
合う仲になり、構成や編集で行き
4 本 の 卒 業・ 修 了 作 品 が 制 作 さ
れ、原発周辺の現状を自らの眼で
詰まった時は、撮影しながら、自
れた。松浦 真実さんの卒業作品
見ようと『254km』の企画を考え
身の制作意欲を奮い立たせた。
『Pani Mitoch? そ の 水、 お い し
た。254km は官邸から福島第一
百年以上の歴史を擁する早稲田
い?』は、自身がボランティア団
原発までの距離。木下君は川口、 大 学 相 撲 部。 昨 春、 部 員 が 3 人
体の映像記録係として、2011 年
柏、つくば、東海村、いわきへと
になり、存続の危機がニュースで
にネパールを訪問したことがきっ
北上し、その土地に暮らす人々の
報じられた。志賀成将君の『早稲
かけとなった。援助する側の美談
声を記録した。中でも、原子力推
田大学相撲部』は相撲同好会から
として語られることの多い途上国
進から、脱原発に転じた村上達也
助っ人を入れ、何とか部としての
支援だが、松浦さん自身の言葉を
東海村村長の言葉は重い。震災後
体裁を保ちながら大学相撲大会に
借りれば、
「お金を持ってくるボ
の顛末から「この国は原発を持つ
挑む相撲部の 100 日間を追ってい
ランティア団体と支援慣れしたネ
資格のない国」ときっぱりと語っ
る。今回は予告編だが、上映会で
パール人」がそれぞれの役を演じ
ている。
は多くの来場者から期待が寄せら
る「うわべだけの支援や感謝」で
Wikipedia によると、スポーツ
れた。来春の公開となる。
あった。一時的な援助では解決で
チャンバラ ( 略称スポチャン ) は
2.座談会「作品を振り返って」
きない奥の深い問題が多々残され
小太刀護身道 ( いわゆるチャンバ
授業内で座談会形式で作品を振
ているが、その現実を見ることな
ラごっこ ) を基にエアーソフト剣
り返った。5 年間、講師としてド
く、帰国後の報告のために、行く
を用いる競技のこと。この言葉は
キュメンタリー制作指導に尽力さ
先々で現地の人々と写真を撮るボ
辞書にはない。長谷川優美さんの
れ、3月末に退職される齋藤秀夫
ランティア団体に作者は辟易し 『一生剣命』は、一般に知られて
先生と卒業する松浦さんの部分を
た。このような活動に加担してし
いないこのスポーツの元世界チャ
中心に抜粋する。( ) は筆者が補足
まった罪悪感と怒りが原動力とな
ンピオン、野村五月さん(早大) で入れた。
り、翌年、現地再訪し、「支援と
に密着し、王座奪還を目指す 5 ヶ
Finders 2012 Kawaguchi Art School of Waseda University
出席者:松浦真実、長谷川優美、
授業報告
class report
齋藤秀夫、上野克二、高橋恭子
齋藤:松浦作品とは手法が違う。 上野:この学校でやっていること
ドキュメンタリーを制作する当該
長谷川作品の良さはカメラを意識
とプロの世界でやっていることは
領域では基本的に 1 期生から制作
させないこと。主人公の生き生き
何ら変わりがない。制作が一人か
者が取材、撮影、構成、編集を一
とした表情は作品の生命線。
(取
らチームに変わるだけ。
人でこなすビデオジャーナリスト
材対象者との)距離が近くないと
齋藤:一人ですべてをこなす力が
方式を採用している。上記の役割
本音が聞けない。高額なカメラや
あるのは強みだ。それができる
に加え、ナレーションも自身で手
複数のスタッフではできない。
ディレクターには、優れた技術
がけた松浦さんに一人体制につい
高橋:松浦作品は問題提起型。疑
者が集まる。かつてヌーベルバー
て語ってもらった。
問があり、それを撮影しながら検
グの制作者が手持ちカメラのエク
ドキュメンタリー制作
証する。この種のドキュメンタ
レール(16mm フィルムカメラ)
松浦:1 人で取材する時は聞き漏
リーは一歩、引かないと現実は見
で表現したように、技術の変化で
らしや撮り忘れ、見逃しがないか
えない。ボランティア団体や代表
意識の流れも表現できる。ハー
常に気を張る。自分以外に頼る人
の言葉が印象的なのも、引いて批
ドの進歩で、1 人でやれる手法が
はいない。簡単に再撮に行ける場
判的に見たからできた。
もっと開拓されて行く。
所でないから、余計に気が張って
松浦:見た人に考えてほしいとい
高橋:どんなに技術が進歩しても、
いた。あとで作品を見るとぶれて
う目的は達成した。見てもらい、 取材力、構成力、思考力は変わら
いる映像がある。意図的にホーム
その人とやりとりすることで、作
ない部分だと思う。
メード感を見せる映像もあるが、 品は完成すると思った。ドキュメ
齋藤:いろんな学校で教えたが、
質が問われる映像もある。きちん
ンタリーは撮影・編集を経て別の
当校ほど家庭的なところはない。
と見せる映像が足りなかったと思
ものになっていくと体感した。嘘
学生のレベルもまちまちで統一感
う。自分ですべてをすると、客観
をつこうと思えばつける。同じ素
はないが、八方破れの作品が生ま
的に判断ができなくなる。やれる
材でも正反対のことを言うことも
れる。自由な雰囲気だから個性あ
ことはすべてやったが、問題提起
できる。制作者自身が問われるの
る作品が生まれる。以前より教育
したことに明確な答えが出せな
で、現実に向き合うことが大事だ。 に興味を持っていた。NHK に入
かった。
川口芸術学校と出会って
局してまもなく、カメラマンが向
上野:解決の糸口が見えないとこ
松浦:最初からドキュメンタリー
かないと思い、大学の夜間部で教
ろに敢えてレンズを向けるのがド
をやりたくて入学したので、最後
員免許を取得した。50 歳を過ぎ
キュメンタリー。援助の現場にい
までその枠からはみ出ずに取り組
てから教える機会に恵まれ、教え
る人でさえ回答が出せず、深い混
んだが、同級生はもっと自由に表
ることでエネルギーをもらい、こ
迷の中にいる。援助の難しさは現
現していて、うらやましいと思う。 れまでの仕事の総点検ができた。
地に行かずともある程度想像でき
プロの制作者になる前に、作品と
るが、援助とは何かの疑問を作品
向き合う時間があって良かった。 終わりに
を通して貫いた点が素晴らしい。
作品をつくることは楽しいだけで
一筋縄では行かない、個性豊かな
長谷川:
(松浦さんは)知識を蓄
なく、辛いことも多い。見てもらっ
川口芸術学校生に真摯に向きな
積して撮影に臨んだので、取材し
た人にコメントをもらい、励まさ
い、必ずポジティブな方向を提示
た人に影響されない。私の場合、 れたり、取材した人との関係から
された齋藤秀夫先生のこれまでの
親しすぎて客観的になれず、否定
次の(作品への)モチベーション
ご指導に紙面を借りて御礼申し上
的な部分を出せなかった。
につながって行く。
げます。
幸せな時間だった。
Finders 2012 Kawaguchi Art School of Waseda University
011
授業報告
class report
▲ 倉橋 一平君の作品から
アニメーション領域 才能の所在
012
アニメーション領域担当 小田部 崇
来年度の閉校より一足早く、ア
に所属する高野君は、バンドメン
写を流用するといったトライ&エ
ニメーション領域は今年度で全学
バーの演奏やショーマンシップを
ラーの的確さなど、映像ディレク
生 が 卒 業 す る。 当 校 の ア ニ メ ー
全面に出した硬調な映像素材を、 ターとして必要な素地を固めた 1
ション教育は、他美大・専門学校
色彩のカラフルさを用いて柔らか
年と言える。カラーやモーション
とは違い、わずか 3 日のデッサン
な作品へとまとめ上げた。難題に
のセンスを磨き、長く活躍してい
講義を経て、作品制作に十分な画
対して固く構えずしなやかに対応
く事を願う。
力を備えないまま最終学年へと進
する彼の姿勢が奏功したが、反面
演出として動画ではなく静止画
む。これは性能に極端な偏りのあ
これ以上クオリティを上げる事は
を用いた学生も多い。中島 瑞希
るカメラを、使い方もわからない
難しく感じる。手仕事の丁寧さを
さんは、デリカシーの無い母親と
まま渡されるに等しい。この偏っ
活かせる環境で創造力を発揮し続
多感な姉妹の三人家族の絆を描い
た性能のカメラ、つまり自己の才
けて欲しい。奥墨 亮介君は、バ
た『なっしんぐ・まま』を制作した。
能の所在を探ることから、今年度
ン ド Chaos inc. の MV『 未 来 』 当初はセリフなしの立体アニメー
も企画はスタートした。
を制作した。楽曲には、夢がうま
ションとして企画されたが、ドラ
最も着実なのは、手慣れた実写
く実現しない否定的な面と、自分
マとして抑揚をつけるよりも、ゆ
映像を用いる手法だ。高野 裕介
が努力した軌跡を肯定的に捉える
るやかな日常をそのまま描きたい
君は、激しいギターの旋律が特徴
面の両方が歌われている。センチ
との願いから、インタラクティブ
の バ ン ド BETTER OFF TODAY
メンタルな葛藤を発展的に描くた
作 品 と し て 仕 上 げ ら れ た。 羊 毛
の楽曲『ALWAYS』のミュージッ
めに、白を基調にしたスタジオ撮
フェルトで作られた人形、ポップ
クビデオ(以下 MV)を制作した。 影と手描きアニメーションによる
で明るい背景、そして彼女自身の
ハードな曲調とは裏腹に、歌詞は
構成を選んだのは慧眼だろう。全
ナ レ ー シ ョ ン を 通 じ て、 ス ト ー
恋人に甘くささやくラブソングで
撮影日数をわずか 2 日で終えると
リーに横たわる家族の不和という
あり、
「さわやかな映像に」とい
いう強行軍ながら、作品として一
暗い影をも、愛情を込めて温かに
うバンドからのミスマッチな注文
定水準に落とし込んだのは、撮影・
描き出している。その分け隔ての
にも悩みながら制作した。自身も
編集でのショット選択の確かさが
ない優しさは、モチーフとなった
また国内外でツアーを行うバンド
あってこそ。苦手な動画制作に実
自身の家族だけでなく、これから
Finders 2012 Kawaguchi Art School of Waseda University
授業報告
▲ 高野 裕介君の作品から
class report
▲アニメーション領域の展示ブースの様子
多くの人に伝えられていくだろ
るが、コマ自体の大小やページ遷
1000 枚以上に及ぶ作画を描きき
う。
移による省略が多く、そのまま映
り、
『見たくないエビフライ』を
板 東 茜 さ ん の『Hannu』 は、 像化すると破綻が起きる。漫画も
完成させた。幼い頃、好物のエビ
ハ リ ネ ズ ミ の ハ ン ヌ が、 自 分 の
映像制作も初挑戦の彼女は、自分
フライの衣をかじった彼女が、エ
すべき事を探して旅をする物語
の能力と向き合う毎日を送り続
ビの模様を見て嫌いになってし
だ。ハンヌは他の人を手伝うこと
け、作品を仕上げた。本人の不満
まったという逸話を映像化した。
に自分の居場所を見付けようとす
足こそ、要求の高さと着実な努力
エビフライの模様に吸い込まれ、
るが、悉く断られた後に、元いた
の証明であり、彼女の恵まれた才
エビフライ自身に追いかけられる
場所が自分の居場所だったと気付
能である。是非今後も継続して作
という荒唐無稽な展開は、拠り所
く。劇中には大きな転換も根本的
品を作り続けることを期待する。
の無い不安と、追いかけっこの楽
な解決も示されないが、弦楽器の
動画制作に真っ向から取り組ん
しさの絶妙なバランスで成立して
ような調べのナレーションに誘わ
だのが、倉橋 一平君と三浦 あゆ
いる。原案は 2 年次に企画したも
れて、見終わると何かに温かく包
みさんだ。倉橋君の『おにぎりく
のの、大量の作画が必要なため制
まれるように感じられる。これか
ん』は、顔がおにぎりのコンビニ
作を避けていたが、今年度は自ら
ら社会に出る彼女にとっては、ハ
店員が主人公の物語だ。4 月当初
挑み完成させた。劇中と同様逃げ
ンヌの旅の全貌を俯瞰することは
に作品テーマと進路の二つの悩み
ながら辿り着いた作品は、2 年前
困難だ。この難題を割り切って抱
を抱えていた彼は、ある日コン
の予定より遥かに素晴らしいもの
えた上で作品に昇華したことこ
ビニで目にした売れ残りのおにぎ
に仕上がった。ゆっくりと辿り着
そ、彼女の力強さと言える。危う
りに進路の決まらない自分を重ね
くスタイルこそ、彼女の本領だ。
さをも力にして、自らの道を切り
合わせ、キャラクターを生み出し
慌てず、譲らずに本来の自分を活
開いていってほしい。
た。自身の現状を投影した切実な
かした道へと進むことを願ってい
大 山 さ く ら さ ん の『MES-
テーマを、紆余曲折の末に客観視
る。
MERIZE』 は、 人 気 漫 画『ONE
し、苦悩と笑いを両立したドラマ
自分の才能というカメラは、磨
PIECE』絵画展での展示映像にヒ
に仕上げた力量は素晴らしい。異
きさえすれば劣化することはな
ントを得て、自らが漫画を描き、 端な存在を素直に捉えて愛情を込
い。それが自分の中に確かにある
その漫画の中にあたかも入ってし
めて描く事が、彼の作家としての
ことを、彼らは自ら証明した。数
まうような映像を作りたい、と考
特徴と言える作品となった。今後
年後、より磨きのかかった才能に
えた所からスタートした。漫画の
も、より多くの人に愛される作品
再会出来ることを、心から期待し
コマは一見映像のカットと似てい
を作り続けてほしい。三浦さんは
ている。
Finders 2012 Kawaguchi Art School of Waseda University
013
授業報告
class report
特殊フィルターを使用して撮影された金環日食とその撮影の様子▼
映像芸術表現 領域 授業成果とプロジェクト報告 014
映像芸術表現 領域担当 瀧 健太郎
制作と観察 / 研究から
この場を借りて感謝したい。(P.20
映像フッテージを探しだし、TV
前期課題のプロジェクトを紹
を参照 )
のザッピングを装った作品。切り
介 す る。 イ ン タ ー ネ ッ ト を 介 し
どの企画も 1 人で行う事は困難
刻まれた映像と音が TV の模擬化
て国内外の各地とセッションを
だが、それぞれの得意な役割を分
として観客の思考をも寸断する。
行う「宇宙との対話 : 金環日食の
担し、成果を残すことができた。
土 肥 勇 士 郎 君 の『Uncon-
声」に参加した。隔年で行われる
作品研究として近代美術館フィ
sciousness Painting System』は、
メディア芸術家山本圭吾氏の通信
ルムセンターでのフィルム鑑賞や
木製の台上より転がるコルク製球
アート企画で、今回は SKIP シティ
美術作家の個展 ( ハンク・ブル展、 が、色づけされ、着地時に衝撃で
屋上から特殊なフィルタで金環食
小瀬村真美展 ) を訪れ、夏季には
偶発的な抽象画が描かれるもの。
を カ メ ラ で 中 継 し、 映 像 と 音 の
大 地 の 芸 術 祭・ 越 後 妻 有 ア ー ト
偶然性、不確定性による無意識絵
セッションを行った。
トリエンナーレの見学も行った。 画が出来上がる。
ま た 8mm フ ィ ル ム に よ る 演
(p.22 を参照 )
寺 田 菜 摘 さ ん の『wondering,
習は逆再生やコマ撮りといった、 メディアの汎用性において、時
falling, becoming』は実写映像の
フィルムならではの手法を実践し
事性・即興性・空間性・記号論・
CG 加工ではなく、CG 映像を、霧・
て学んだ。
アクティヴィズムといった要素を
水面・風になびく布などの有機的
路上観察からアート作品を探し
再度検証することができた。講師
な動きのスクリーンにプロジェク
出すトマソンの試みを今年も行
の水由章先生と土屋貴哉先生との
ターで投影して、独特の幻想的な
い、SKIP シティ近隣の町並みか
連携が組めたことが大きい。
質感を出した映像作品だ。
ら、学生による面白い発見がいく
当該領域の3・ 4年生の作品は
「他者の外見から、内面をどれ
つもあった。
どれも、独自のスタイルではみ出
ほど視認できるか」というテーマ
SKIP シティ国際 D シネマ映画
そうという意気込みが見られた。 で、10 台のブラウン管テレビを
祭期間中、夜間に建物への映像投
以下に作品ついてコメントしてゆ
組み上げた設置型作品を行なっ
影を行った。建造物への巨大に映
く。
た大矢大君の『空白の標本』( 設
される映像のため、参加学生がそ
置作品 ) は、公共空間で電車を待
れぞれの工夫でコンテンツを制作
それぞれの問題提起
つ人、待ち合わせをする人などの
した。ご協力いただいた映画祭の
本吉春菜さんの『THE TELE-
無防備な顔を映し出した。それぞ
委員の方、SKIP シティの皆様に
VISION』は権利が失効となった
れの無意識の表情が複数に映され
Finders 2012 Kawaguchi Art School of Waseda University
授業報告
class report
▲ いろんな物質を使った映像実験
▲ フィルム演習の様子
▲ 制作途中の様子
ることで、お互いが関係しない無
from Unknown Man』 は、5 年
だと言える。学生諸君の世代は、
関心さを顕在化させていて興味深
前に本人が旅したインドを再訪す
モバイル機器や情報網化により、
い。フレームの問題や、量・立体
る。当時撮影した写真を被写体と
いつでもどこでもイメージと情報
感といった、インスタレーション
なった現地の人に、手渡しにゆく。 を「持ち歩き」
、
タッチパネルで「触
形式をうまく利用している。
異国にて、写真だけを頼りに人を
れ」、双方向に「コミュニケート」
卒業年次生の作品では、松野善
探すことや、見知らぬ人からいき
することを日常強いられている。
恵さんと松野真知さんの共作の
なり 5 年前の写真を見せられるこ
その中で、彼らが画面の中だけ
『春夏秋冬』は CM 形式で日本の
となど、記録と記憶の差異による
で完結するような作品ではなく、
食文化を推奨する作品。都市生活 「写真とは何か」「イメージとは何
モバイル機器など以上に即興性・
を営む若者が、四季折々の食材と
か」というメディアの根源的な問
触感性・相互連絡性を求めて、現
料理の大切さに気づき、和食文化
いを提示した。デジタルフォト画
実の時間軸と空間軸に移動するよ
に改めて惹かれゆく様を PV の形
像が、5 年前も数日前も鮮明に再
うな試みに到ったのは、メディア
式を借りて等身大に描く。
現し、情報化されることの「不死」 環境への物足りなさか、日常生活
松井朋香さんの『face to face』 をも知らしめる。
からよりリアリティを要請してい
は画面を区切り、軽快なサウンド
福﨑星良さんは舞台作品『象牙
ることの現れなのかも知れない。
に合わせる PV 作品で、作者が精
の塔』を演出し、役者と映像の融
折しも総務省の発表によると
通するファッション界に関わる若
合的作品を試みた。近代以降の問
次 世 代 TV の 企 画 の 試 験 放 送 を
者像を切り取っている。
題を日本の地政学的特徴から、観
2014 年 に 前 倒 し て 行 う と い う。
井上和久君は、学校の所在する
客も共感できる形で展開した。歴
新しい技術や制度が次々に生まれ
埼玉県川口市の街並を映像で採
史的に描かれてきた女性像と、多
行く中で、単純にそれらに流され
録し、WEB と設置作品で見せる
角的なメディア複雑に利用しつつ
て、巻き込まれてゆくのではなく、
『VOWO』を制作した。鋳物の街
も、もの怖じしない演出をした作
主体的に利用してゆく、映像制作
者の才気を感じる。
者の態度が問われてゆくだろう。
から凄まじい変容を遂げつつある
この街をアーカイヴすることで、
既存の表現やメディアの在り方
将来的に意味を持つ企画と言え 「はみ出し」の美学
から、いかにはみ出すか。その方
る。( 詳細は p.21 参照 )
どの作品も通常の映像メディア
法論にこそ若き作家の真価が問わ
尾 沼 宏 星 君 の『Photograph
表現の枠組みからはみ出す意欲作
れるのではないだろうか。
Finders 2012 Kawaguchi Art School of Waseda University
015
トーク&トーク
talk & talk
学外上映で得たこと
内田 清輝
学外での上映会や映画祭に参加し
×
福﨑 星良
×
髙橋 良多
( 一同笑 )。あと 3D 上映と言って、 髙橋:内田君の上映の時、早稲田
ているお三方にその醍醐味を語っ
スクリーンの前で自分で UFO と
祭で半分くらいの人が出てしまっ
て頂きました。
かぶら下げて演るんだけど。
て、何でだろうって悔しかった。
即興性のあるフィルム上映
髙橋:その反響はどうだったの ?
内田:
『充電池人間』は「映画は
内田:前作『恐怖の充電池人間』
もう止めよう」と落ち込む度に何
は三軒茶屋 KEN ほか、大阪など
内田:実験映画の上映会で何故か
で上映して、お客さん入りは厳し
呼ばれて 3D 上演したんですけど、 同じ話を作ってて、たぶんこれか
いときもあったけど、フィルムで
皆ポカーンとしてて
度も作ってる題材で、既に 6 回も
らも節目で作っていくはず。
上映できたのが良かった。
観客の反応が見える
福﨑:すごいよね、上映してみて
髙橋:早稲田祭で内田君が上演し
どうだった ?
たときは、マイクで効果音を叫ぶ
ってやつだったよね。あれはビッ
内田:反響として、藤原章監督が
クリした。
三軒茶屋の映画祭の審査員で気に
入ってくれて、
「映画秘宝」誌上
福﨑:エンドクレジットも読み上
の何人かの人が選ぶ昨年のベスト
げてて…
10 映画の 1 位に何か知んないけ
ど入ってて…。8mm フィルムだ
内田:映画のどうしようもないダ
ったので、上映中、観客の反応が
メなところだけを集めたような映
ダレるところは、次の回で切って
画なんで。
編集したので、フィルムは面倒な
016
部分と即興性という利便性もある
髙橋:実験映画祭の時はそういう
な、と。
人が集まっていたと思うけど、早
稲田祭の時の観客はたぶん「普通
髙橋:まだ完成してないと ?
の映画」だと思ってきた若者が来
ていたので、すごいトラウマにな
内田:そうそう、常に変化という
ったんじゃないかな。それがたま
か、まぁ劣化していくんですけど
らなく良かった。
福﨑:映画作家としては成功じゃ
ない ?、トラウマにできたのなら。
内田:8mm フィルム映画はやっ
ぱり映写機自体を操作しながらの
上映が良くて…
Finders 2012 Kawaguchi Art School of Waseda University
作品の質は制作費ではない ?
髙橋:早稲田祭では他校の作品も
やって、阿佐ヶ谷美術専門学校は
短いミュージックビデオ、多摩美
はドラマが多い、とか学校によっ
て傾向があった。学園祭では、台
詞がある方がぼうっと長く見れる
みたいで、映像だけの作品だとけ
っこう観客が出て行ってしまって
て。
髙橋:多摩美の人はみんな 30 万
円とかかけて制作するから。
福 﨑: 日 本 映 画 学 校 な ん か も け
っ こ う お 金 か け る み た い。 私 の
「Come Wander with Me」なんて
0 円で作れちゃったので良かった。
内田:
『充電池…』は雑費含め現
トーク&トーク
像代もあるので 10 万円くらい掛
かってる。編集しながら「すごい
映画じゃないか」って思っている
んだけど、上映すると自分でも何
だこりゃってなったけど。
髙橋:僕の『ステラ』は、学校予
算と、美術に別予算がかかって 8
talk & talk
い人に見てもらえて、久しぶりに
見たけど恥ずかしかった~。一年
ぶりに自分が少しは変わったんだ
なと。今回の「象牙の塔」はそれ
もあって、また内容に変化があっ
たと思う。
内田:上映会とかに出すと、作る
作品内容で観客を意識する。学校
髙橋:ぶっとんでいる感じが自分
に入ってから他人に見せることを
には無いので、こんな世界がある
多少なりとも意識して。編集作業
んだという、映画の面白さってそ
気がする。
も「ここは観客のストレスになる
こにもあるので、見てて辛くても、
福﨑:
『Neon Lights』は企業から
これまでは、物語がよくある流れ
万円くらい…美術もお金かけたけ
ど、撮影したら画面に映ってなか
ったりしてもう少し切り詰めれた
予算がついたけど、役者さん場所
かな」というとこで切ってみたり。 分かりにくくても映画ならではの
世界感を意識して作っている。
になり、技巧的なことで解決しよ
代ががタダでお願いできたので、 うってことが多かったんだけど。
内田:今までは CG とか技巧にこ
だわりすぎたので、次回作は人の
観客を意識して作る
言葉とか動作とかを見せるもの
髙橋:高校の同窓会みたいなギャ
を。例えば歌舞伎とか好きなんだ
ラリー展示に『掘る女』を出した
けど、演技でかぶいて見せるよう
ことがあって、ギャラリー展示の
なことをやってみたい。宇宙人と
方が年配の人や何か悶々としてい
かは出ない、人間の映画を作って
る高校生とかにじっくり見てもら
みようかな。
えて、そこで物語やキャラクター
交通費だけ掛かってすごい安い額
のことを一般的には見てもらえて
福﨑:私からすると二人に憧れる
だった。卒制も衣装を友達にお願
嬉しかった。
部分があります。私は何故かカッ
いして、布代だけを払って…ほと
んど私物を借りて工夫した。
ト割りとかが出来なく、技術面が
福﨑:じっくり見れない人とか、 無くて、最後にツギハギにして作
お客さんの種類が違うのかも。
学外上映を終えて
ってしまうことが多かったです。
でも、外に上映するのはどんどん
福 﨑:『Come Wander…』 は 学
髙橋:意識してなかったけどひょ
やって、見てくれる人はいるし、
外でやって本当に良かった。学内
っとしたら自分の作品は長回しが
次に繋がってゆくこともあるの
はいろんな意見があったけど、学
多くて、それが退屈な人もいるの
で、海外版とかも作って、世界に
外で「すごい」というメッセージ
かも知れない。
出て行きたいと思います。
作・ソロ上映会・映画祭参加 ) に
内田:世界感に入ってくれる人が
編:ありがとうございました。
繋がった。
「恵比寿映像祭」での
いるっていうのはいい。
もあって、その後の活動 ( 委託制
高田場場 Café Cotton Club にて
上映では、まったく自分の知らな
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017
課外活動報告
extracurricular activities
卒業制作展【f】を終えて
映像文化学科 4 年 奥墨
▲卒業制作展の様子 毎年、当校の 3・4 年次の学生
で行う卒業・修了制作展。私は今
年度の卒業・修了制作展の実行委
員長を務めました。閉学となる当
校の学生全員が3・4年次となり、
出品者となる初めての状況になり
ました。この展覧会の運営をまと
める事に対し、私は不安を感じて
018
いました。しかし、昨年度の卒業・
修了制作展の実行委員をしていた
経験もあり、昨年の情景や楽しさ
を他の学生に伝え、今年度の卒制
展に活かしました。
は『Face to face』
ターやダイレクトメールに使用す
私は卒業・修了制作展の運営と
るイメージデザインへと、ヴィジ
いう仕事をして、楽しみや気をつ
ュアル化する広報の仕事に私も撮
けること、苦労を知りました。春
影として参加しました。出来上が
からは社会に出るので、この経験
ったヴィジュアルはとてもお洒落
を活かしていこうと思います。実
な印象で、卒業・修了制作展と合
行委員長としての私を支えて下さ
ったものとなりました。 った学生や卒業生、先生、事務の
卒業・修了制作展の会期中にも
方々、もっと多くの方々に助けて
その出来上がりの評判は上々だっ
もらった卒業・修了制作展。皆様
たと私は耳にしてとても嬉しく思
のおかげで無事、開催することが
いました。
出来たものだと思い、感謝してい
ます。
上映作品の合間には、各作品の
今年度の卒業・修了制作展の実
作者が登壇し、舞台挨拶を行いま
行委員長を務めることができて良
した。イベントとして、各ゼミの
かったです。来年度は閉校への影
代表作品を取り上げ、学生と先生
響もあり今年度より学生数が少な
の制作者トークを催しました。ゼ
くなり、苦労する面も多くなると
ミの先生からの講評や改めて作品
思いますが最後の川口芸術学校 について学生が話す場として賑わ
卒業・修了制作展が成功すること
いました。卒業・修了制作展へお
を祈っています。
越し頂いた観客との交流のきっか
けともなりました。
劇場前のロビーにコメントボー
ドも設置し、アンケートとは違い
気軽にコメントを書いて頂けるよ
今 年 度、 卒 業・ 修 了 制 作 展
や『Fun』、
『Feeling』など学生からの願いが
込められた頭文字の『f』をタイ
トルとして、観客との交流をテー
マに展覧会を実施しました。テー
亮介
うな工夫もしました。これによっ
て作品を観た方から、感想や応援
のメッセージも数多くあり、卒業・
修了制作展のテーマでもある交流
と結びついて多くの出会いが生ま
れたと思います。
マという形のないものから、ポス
Finders 2012 Kawaguchi Art School of Waseda University
▼制作者による舞台挨拶の様子
課外活動報告
extracurricular activities
早稲田祭に参加して
映像文化学科 4 年 佐藤 麗美
大学の学園祭「早稲田祭 2012」 が、「何だか激しい音が聞こえる
と思います。
に参加しました。前日の搬入の際、 な」と立ち寄った人がそのまま 1
今回は他校の学生と合同上映も
私は映写用のプロジェクターを肩
作品、2 作品と私たちの映画に見
行い、校内では見られない作品や
にかけ、片手に簡易スクリーン、 入ってもらうことはとても嬉しか
幅広いジャンルの映像作品が集ま
もう片手に映像送出用のパソコン
ったです。驚いたのは、一人のお
りました。また扉が開けっ放しの
を持ち「これさえあれば何処でも
母さんに「子供が見ても大丈夫で
出入りしやすい環境で豊かな客層
映画を流せる」自分が世界で一番
すか ?」と質問され、今まで子供
の観客に見て頂いて、その観客の
小さな映画館だと思いワクワクし
が自分たちの作品を見る事など一
興味が事前の自分の予想と違って
ました。
度も考えたことが無かったことに
いたことが勉強になりました。短
会場は早稲田キャンパス 11 号
気づきました。「ちょっと怖いタ
い作品、テンポの速い作品の見や
館の教室。そこは明るさの面から、 イトルが多いみたいで…」と言わ
すさと、笑いや内容の伝わる点が
映写に適さないので、まずは床か
れて、更に混乱してしまいました
どこなのか、観客が何に反応する
ら天井までの大きな窓に暗幕をつ
が、お子さんが見る映画は血が出
かを生で観察することが出来まし
ける作業を行いました。簡易の手
たらアウト ? 腕が取れたらアウト
た。
製暗幕が早稲田祭・運営の学生の
? 今回の上映プログラムには首だ
最終的には来場客も2日間で
前ではがれ落ちないか皆でハラハ
って取れそうなものもある…。 1000 人を超え、こうした人々の
ラしましたが、何とかうまく出来
多くの人に作品を見てもらうこ
様々な反応が何よりの収穫となり
ました。
とは嬉しいのですが、その分見せ
ました。映画を見てもらうという
上映当初はアピールがうまくゆ
る側の制約が増えることを考えさ
事から、観客に教えてもらう事が
きませんでしたが、だんだん吹っ
せられました。自分の作品をこん
多い早稲田祭となりました。
切れて大きな声で呼び込みをして
なにも多く、しかも内輪ではない
みました。ふらっと立ち寄ってく
人に見てもらうことは今まで無か
れる人が多く、ジャンルも統一さ
ったので、自分でもまだまだ伝わ
れてない様々な出し物をしている
るかどうか心配だった部分に気づ
企画だったため、かえってお客さ
かされました。作品と作品の雰囲
んも気軽に立ち寄ってくれまし
気の切り替わりの速さも心配の元
た。普段から映画や自主制作作品
でしたが、意外と観客の皆さんが
に触れたことの無いお客さんが多
じっくり見て下さって、一人も席
く、「自分達で作ったんだ、すご
を立つ人がなかったです。細かい
いね~」と言ってくださる人もい
描写や心情は伝わらないまでもお
ました。もちろん入って一瞬で出
話の大筋やキャラクターの面白さ
て行く人も少なくなかったです
を楽しんでもらえたのは良かった
019
▼早稲田祭での上映の様子
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課外活動報告
extracurricular activities
建築物をスクリーンに プロジェクション・マッピング制作
映像文化学科 3 年 土肥 勇士郎
▲科学館のドームに投影された映像作品
020
て立体物や建築物に投影したもの
映っていたり、小さくてあまりよ
です。私達はまずは川口市立科学
く見えなかったりと、予想外の結
館や彩の国くらしプラザなどが入
果がたくさんありました。
居 す る 建 物・SKIP シ テ ィ A1 の
私は映像を投影されている
壁面に投影するための映像を作ら
SKIP シティを見て、普段私達が
なければなりませんでした。そこ
見ている SKIP シティとは違う別
で、ゼミのみんなとどのような映
の SKIP シティを見ているように
像を投影したらおもしろいか、ま
感じました。夏の暑い気温のなか、
たは綺麗かなどの意見を出し合い
涼しげな水面の映像が建物を包み
ました。実際のところ、ここにか
込んでいる様子がとても幻想的で
なりの時間を費やしました。何故
印象に残りました。
なら、普段私達が扱っている映像
当初の予定では6時~9時の間
最近、プロジェクションマッピ
は平面なスクリーンに投影される
投影し続けるというものだったの
ング(以下、PM)が広告やイベ
ので自分たちの頭の中で思い描い
ですが、夏ということもあり、暗
ントに利用されはじめ、ビジネス
ていたようにスクリーンに反映さ
くなる時間が遅かったため、期間
的な観点からも関心を得られるよ
れるのに対し、丸みを帯びている
当日は投影時間を7時~9時へと
うになりました。そうした理由か
建物に投影された映像が実際どの
短縮したのですが、多くの来場者
らかテレビなどでもよく耳にする
ようになるかなどの問題を考慮し
の方々に楽しんでもらえ、イベン
事が多くなってきたように感じま
た上で映像を作らなければならな
トとしての役割を果たせた事に喜
す。2012 年 12 月に東京駅で行わ
かったからです。
びを感じました。
れた「東京ミチテラス」(JR 東京
それから何度も議論した結果、
駅・丸の内駅舎の復元にともなっ
壁を這って動く人、金魚鉢に見立
て行われた夜間の映像ショー)と
てたプラネタリウムの中を泳ぐ金
いうイベントもマスコミなどが大
魚、水中を泳ぐ女性、シャボン玉
きく取り上げた事でさらに認知度
などの映像を作る事になり、いく
が増しました。
つかのグループに分かれて制作に
そこで私達も SKIP シティの国
取り掛かりました。様々な技術的
際 D シネマ映画祭の期間 ( 7月
な問題にぶちあたりながらも何と
14日~7月22日 ) に合わせて
か映画祭の前までに完成する事が
PM をイベントとしてやってみる
できました。
事にしました。PM とは、映像や
実際、試験投影をしてみると、
CG などをプロジェクターによっ
私達が想定していた以上に綺麗に
Finders 2012 Kawaguchi Art School of Waseda University
課外活動報告
extracurricular activities
映像アーカイブスによる川口市の町並み
映像文化学科 4 年 井上
和久
1839 年に写真が発明されまし
がらも私の記憶のなかにその姿を
た。その後、映像として静止画だ
立ち上がらせ、それぞれの建物を
けでなく動画として記録すること
順に思い出すことができる。とこ
ができるようになりました。映像
ろが、現在の町に建つビルやその
の特質は撮影時と同じスピードで
中にある飲食店や喫茶店など私に
再生・映写することで写実のイメ
関係のある場所を思い出そうとす
ージを現在形で再現できることに
るとき、1つ1つの場所は点のよ
治になり川口宿から川口市にな
あります。1890 年台後半、映像
うに頭のなかで浮かび上がって
り、鋳物業が発展しました。明治
を発明したフランスのリュミエー
も、それぞれを繋ぐことができな
43年に日本鉄道会社が川口町駅
ル兄弟は撮影隊を世界各地に派遣
いのである。」
を開通し、産業の発展を加速づけ
し、その地の風俗を撮影し短編の
つまり、現代の町は頭の中で再
ました。そして昭和になると、神
映像を 1000 本以上制作しました。 現できる町から再現できない町へ
根村、新郷村、芝村などが合併し
リュミエールは他民族・他国家の
と変貌したのです。この変貌に対
今の形になりました。軍需生産か
人々の営みを記録することを目的
して、身近に生活する空間におけ
ら農機具などの生産へ転換がスム
としていたのです。現在において
る映像の集積はあまり活発ではな
ーズに行われたことがあり、戦後、
もドキュメンタリーの制作や異文
いのです。映像アーカイブとして
高度経済成長時に多くの建物が造
化の記録は多く行われています。 過去の映像を集積する活動は全国
▲都市風景をアーカイヴした『VOWO』
られました。
地域映像の撮影は映像の誕生と同
で地道に行われていますが、現在
川口市は戦後に建てられた建設
時に行われたとも言えます。それ
の映像を集積する活動は例がない
物の寿命や鋳物工場がマンション
は現在において記録として価値を
と言えます。Google ストリート
に、建て代わるなど都市の風景が
有していると考えられるのです。
ビューは静止画であり、その場の
現在、激動しています。こうした
フランセス・イエイツの『記憶術』 空間を感覚的に認識する映像とは
今を記録することが社会的に求め
というエッセイがあります。これ
性質的に違いがあります。
られているように私は思うので
は古代ローマの演説者達が話の内
そこで私は川口市の西側、京浜
す。また、映像アーカイブは地域
容を記憶するために、建物や通り
東北線の西側を映像でアーカイブ
の魅力を抽出する手法でもありま
を個々の演説の内容と結びつけて
することにしました。フィックス
す。有体の物質が情報化すること、
記憶する古典的記憶術です。過去
にて映像を撮影しました。川口市
つまりインタンジブルに変化する
の時代はこのような記憶法が可能
は旧石器時代の遺跡が多く発見さ
ことによって、新しい価値を生み
でした。しかし、現代の街につい
れ、古くから人の営みのあった地
出すことが考えられます。地域の
て『百年の棲家』で松山巌がこの
域です。江戸時代には川口宿とし
映像情報で地域を振り返ることで
ように記述しています。 て栄え、現在の川口の地域には多
新しい展開が見つかることに私は
「かつての町ならば切れ切れな
くの村落があったとされます。明
期待しています。
Finders 2012 Kawaguchi Art School of Waseda University
021
課外活動報告
extracurricular activities
大自然の中でアート散策
映像文化学科 3 年 本吉 春菜・大矢 大
かく移動続きの体力勝負でした。 という予定で行きました。僕の印
炎天下、山を登るのを諦めた為に
象に残った作品はクリスチャン・
観れなかった作品もあって、友人
ボ ル タ ン ス キ ー の『No Man’ s
たちに自慢されてしまう場面もあ
Land』という作品です。この作
りました。 『上鰕池名画感』は
品はおよそ 16 トンもの膨大な古
集落の人の生活を名画とミックス
着の山からクレーンで無造作に掴
させた模写写真展で、ゆるい作風
み上げ、その衣服を落とすという
に土地柄が出ていて名作でした。 もので、その圧倒的な大きさに驚
廃校になった学校校舎を丸ごと使
かされました。山積みにされた膨
ったものには、実際に中に入り、 大な衣類は、歩いてゆく人の目を
▲民家を利用したギャラリーの前で
大地の芸術祭・越後妻有アート
トリエンナーレ 2012 は、新潟の
越後妻有地域の広範囲にわたっ
て、街中にアート作品が点在する
アート・フェスティバルで、夏期
休暇に入りゼミの仲間と 3 日間現
地に滞在しました。全部は見切れ
ないので計画を立て、地図を見な
022
がら作品を探し、主に車で移動し、
近くからは徒歩で見て回り、とに
大空間を楽しむものも多くありま
奪い、作品を見るために立ち止ま
した。たほりつこの『グリーンヴ
ィラ』という公園の大地に大きく
描かれた地上絵を見に行ったので
すが、到着したみるとヘリコプタ
ーなどでしか全貌を観る事ができ
ない何だかわからないものだった
のですが、またそれが興味深かっ
たです。作品はそのまま現場に残
り続けるものや、いろいろな土地
に呼ばれ日本中を旅するアート作
品もあるとのことでした。夜は食
事と温泉が楽しみでした。
本吉 春菜
映像文化学科 3 年・映像芸術表現領域
この芸術祭は新潟県のある地域
を舞台に行われる。地元と一体に
なって制作された作品が地域に数
百にもおよぶ。1 日だけでは全体
の 1/3 も見られないのでゼミでは
3 日間をかけてできるだけ見よう
▲メイン会場のボルタンスキーの作品
Finders 2012 Kawaguchi Art School of Waseda University
▲散策後は大学のセミナーハウスで B.B.Q.!
らずにはいられません。
この芸術祭は作品を楽しめるだ
けでなく、地域そのものを感じら
れる楽しさがありました。アート
作品と、地元の風景と一体化して
おり、普通の美術館では見られな
い作品ばかりになっていたところ
が印象的でした。 大矢 大
映像文化学科 3 年・映像芸術表現領域
イチオシ ! 映画コラム
小さな港街の神話
土屋 貴哉
「そうね、彼はきっとアフリカでのんびり暮らしてるはずよ。彼は足も悪いし、だ
からもうこの街には帰ってこれないかもしれない。でも私はいまでもずっと信じて
るの、いつかもう一度彼に会える日がくることを。彼に初めてあった時のことは忘
れずに覚えてる。あの瞬間から私はずっと彼に恋してるの。今でも ...」
ジャン=リュック・クールクーが設立したフランスのパフォーマンス集団「ロワ
イヤル・ド・リュクス」がおこすスペクタクルは老若男女の心をつかみます。巨大
な人形を操り、街を歩かせ、神話を蘇らせる世界最大級のパフォーマンスを目撃し
た人たちは皆一様に目を丸くし口を開け、その姿はまさに絵に描いたようです。機
械担当のフランソワ・ドゥラロジエールは言います、
「子供から見たら、大人はい
つでも巨人なんだ。だから、大人もビックリできるように、もっと大きなものを作
るんだ。ビルより大きな人がいたら、誰だって、ビックリして楽しいだろう?こん
販売元 : コロムビアミュージックエン
タテインメント
ASIN: B001QYPD60
な簡単なことで、大人も子供に戻れるんだよ。
」
けれど人々が驚きだけでなく、巨人に対して感情移入し思いを馳せる所以はむし
▶ドミニク・ドリューズ監督
ろ、想像を超える巨人の大きさではなく巨人のために創作された物語とその演出に
2006・2007 年 フランス
あります。叙事詩を思わせる壮大なストーリー構成。劇場ではなく街中を舞台にし
▷世界最大級のスペクタクルパフォー
誰もが体験できる物語は事前には一切公表されず、街中で巻き起こる数々の出来事
マンス集団 “ロワイヤル・ド・リュクス”
「巨人の神話」1993 年、巨人がル・アー
が物語の断片となり人々にそれらをつなぎ合わせ想像させることで語られていきま
ブルに誕生する。約 10 年の長きにわ
す。それらが8年の長きにわたってゆっくり紡がれていくことで、人々の記憶の中
たって繰り広げられた 5 つのエピソー
に現代の神話となっていつまでも生き続けるのです。
ド。
「スルタンの象と少女」~2006 年
彼らがル・アーブルに帰ってきた。“ラ・
巨人が街を去った後、彼について語る人々の表情はみな印象的です。彼らにとっ
マシン” が制作したそびえ立つ建造物
て巨人との出会いは興行としてのイベントではなく、また巨人はただの人形ではな
のような象と、巨大な少女が織りなす
いのです。彼と過ごした日々を回顧するその表情は、まるで昔からの親友や恋人を
幻想の物語。
想い語るかのようです。当時幼かった女の子もいまでは既に立派な女性となりあの
日々を振り返ります。
「彼はもうこの街には帰ってこれないかもしれない。でも私はいまでもずっと信
じてるの、いつかもう一度彼に会える日がくることを。
」
ル・アーブルという小さな港街に奇跡的に生み落とされた現代の神話を是非追体
験してみてください。
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023
トーク&トーク
talk & talk
映像で見せる「出来事との距離」
尾沼 宏星
×
松浦 真実
×
木下 匠
撮影対象が、海外での出来事や、 木下:福島の現状はもっと苦しい
開発援助とは何か
震災後の原発事故の人々の反応な
かと思ってて。取材先でマスクを
松浦:JICA の青年海外協力隊の
ど、目に見えない状況を扱った3
するか悩んだけど、現地の人はマ
人に「ボランティアってなんです
人の学生さんに、出来事と自分と
スクもせず普通に生活していたの
か?」と聞いたら「お裾分け」と
の物理的・精神的な距離、映像の
で、自分もしないことに。
答えていた。なるほどって思いな
対象との隔たりについて対談して
いただきました。
がら、ネパールでは結局何かを押
松浦:官邸前のデモについて原発
しつけていて、ぬぐいきれない距
周辺の人がどう思ってたの?
離感を感じて。でも自分はそれと
原発事故との距離
違 う の か と 言 え ば、 結 局 同 じ か
木 下:254km(*1) と い う 距 離 が
木下:お祭り騒ぎにも映るけど、 と思って余計わからなくなって
原発に近づくことで、関心が高
札幌から徒歩で来た人など、まじ
(*3)。
めな人もいて、どの人を撮影する
*3『Pani Mitocha その水おいしいですか』
か難しかった。デモ現場の交差点
ネパールの ODA にボランティアボランティ
がここは歩行者で、こっちがデモ
ア参加した作者が、現地を訪れ海外支援を
していい場所と、首相官邸と横断
検証する。p.3 参照。
歩道で線で区切られていて、そこ
まるかというのが最初の企画だっ
た。旅をしていく中、関東圏では、
0km の首相官邸前のデモをして
いる人を除けば、お子さんのいる
お母さんが食べ物を気にするぐら
いで、原発の是非についてあまり
024
考えてない。けど福島に近づくに
つれて、身近に被害が起きている
ので、原発に対しての考えも深ま
っていくように感じた。
*1『254km』福島第一原発から永田町総理
官邸の距離 254km を、人々の原発事故に
関する意識を図りながらを辿るドキュメン
タリー作品。p.3 参照。
尾沼:その距離をたどる中で自分
の撮影以前の予想と違いはあっ
た?
が思いが届かず物事が動いていな
木下:水が必ず身近にある日本と、
い距離感に感じて。その横断歩道
身近にないネパールの両極端な受
さえ渡れば、何かが変わって行く
け取られ方で難しいな。
んじゃないかと思い、作品の最後
にそのカットを入れた。
松浦:いろんな角度から取材をし
たので、どちらの主張も入れ込ん
尾沼:物理的な距離を描いてきて、 で、このまま放置するのも自分が
最後はその横断歩道ひとつの距離
無責任かなとも思って、将来的に
だったんだね。
何らかの形でこの ODA の問題に
関われたらと思ってる。
木下:国会議事堂と、特に警戒区
域への立入禁止規制線の撮影時に
日本人であることから抜け出す
も。規制線の 20m 程前に車を止
尾沼:僕の作品 (*2) は、単純に旅
めて撮影できるところまで迫った
がしたかったことと、人と関わり
けど、それがぼくと警戒区域との
たかったところから。一方で、日
絶対的な距離だった。その距離を
本人である自分から無責任なれる
僕の思いとして作品に入れれば良
っていうところがあってここから
かったかな、と。20m と 254km
逃げたいって気持ちもあった。
は違う。254km は近かったのに、
*2『Photograph from Unknown Man』イ
その 20m は本当に遠く感じた。
ンド旅行した際の写真を被写体となった人
Finders 2012 Kawaguchi Art School of Waseda University
に5年後に届ける実験的記録映画。p.4 参照。
トーク&トーク
talk & talk
写真 : 左ページから尾沼 宏星君、松浦 真実さん、木下 匠君
木下:冒頭で「5 年前に写真に写
尾沼:木下君の場合、昼夜のシー
今後の展開として
った人を探すのは絶対ムリだよ」 ンを混ぜているので、観客もまる
尾沼:僕は TV 制作会社に行くの
と少年が言っていて計画の難しさ
で、今回は自分の好きなことをし
で一緒に旅しているようだね。
を演出してる。5 年前の旅で出会
ようと思った。色んな人の意向を
っ た 人 が、 最 後 の 男 の 子 な ん か
木下:夏場もあれば時期が違う撮
汲まなければいけない TV の淡々
は 2 人のうち1人が居なくなって
影素材も一緒にして、2日の出来
とした現場の中で、最後まで自分
いたりと変化があってドラマがあ
事として見せた部分もある。
は表現者なんだという自覚をもっ
る。そこに人間性が出てると思う。
ていきたい。
尾沼:ファーストカットの道路の
尾沼:制作段階の最後になるとカ
中央分離帯の白い帯が反復される
松浦:私も TV の世界で働くんだ
メラの存在感がなくなってくの
所が面白いと思う。規則的なアス
けど、今回の制作で自分で自由に
が、編集するにつれて分かってき
ファルトの模様が、「縮まらない
できたことから、TV だから無理
て。もっと行けばこの世界から映
距離」を表してるのかな ?。
だとかではなく、その制限と戦い
像だけ残して自分が消えれるんじ
ゃないかとさえ思った。
ながら関わりたいな。
木下:その道路の模様は車載カメ
ラの映像で繋いで遊んでみた。確
木下:僕はもう 1 年学校に残るけ
かに自分の中にある、何かを辿る
ど、2 人を見ていたこともあって、
という線を撮ってみようという感
もっと視野を広げたいなと思う。
じで。
旅は人を成長させるので、旅しな
がら成長していきたい。
尾沼:松浦さんのは、ナレーショ
不可視を可視化させる工夫
尾沼:旅した二ヶ月間を表現する
ため映像では切断しないといけな
い。どうせ編集するならと思い、
うたた寝して見る白昼夢みたいに
した。距離は記憶になればその距
離感は無効になるので地名はあま
り入れず、都市にふらっと入った
みたいな感じに。
木下:僕の場合は「ここだ」と言
うこと東京から都市名を一つ一つ
出して距離感をだしてみた。
ンで通してるけど、作者の心の旅
尾沼:飛行機の機内とか、旅の道
みたいになっていていい。ボラン
中で、色々考えると思う。映像と
ティアの代表者の撮り方で、松浦
いうメディアに何かが凝縮されて
さんとの距離が出ていて、絵で語
るというか、ドキュメンタリーと
っているようなところがあると思
いう手法と、旅というモチーフが
う。愛着とか警戒とかが画面に自
あっている気がする。
然に現れている。
編:ありがとうございました。
松浦:最初はナレーションを入れ
川口キャンパスにて
過ぎて本来、映像で語らせると、
もっとインパクトがあったのかも
知れない。映画作品の面白さは、
見た人が心のどこかで引っかかる
とこなので、自分の作品でも、出
来事についてもう一回考えるきっ
かけになったら良いなと思う。
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025
研究報告
research report
本校のカリキュラムなどに関するアンケート その報告
准教授 濱口
幸一
本誌昨年号で予告したように、今号では、2012
いとは思いますが、もう少し横断的な考え方も必要
年2月に卒業生・在校生(合計 197 名)と退任なら
かとは思います。
びに現役の諸先生方(合計 53 名)に回答協力を依
・四分野のジャンルを学べたことは非常に良かった
頼した、本校のカリキュラムなどに関するアンケー
と思っています。それは各々が目指していたジャン
ト結果の報告と、それに基づく考察を提示させてい
ルと全く違うモノに触れることで、新しい刺激とし
ただきます。
て各々の作品に取り入れることができたからです。
まずは回答の内容についてですが、与えられた紙
問題点をあげるとすると、学習のカリキュラムで実
幅の関係上、ここで紹介できるのは寄せられた御見
習が優先されて、基礎が疎かになってしまっていた
解の全てではありません。また、文字使いや言い回し、 という点です。
全体の長さなど、筆者が編集している部分も少なく
・いきなり細分化しないで、二年度までは多様な映
ありません。くれぐれも悪しからず御了承を。また
像表現にふれさせる試みは、生徒も楽しめたのでは
設問4は、先生方だけに、お願いしたものです。貴
ないかと思います。
重な時間を割いて、御回答いただいた皆様には、改
・方法論としての四分野、全学生必修は、つぶすに
めてこの場を借りて御礼申し上げます。ありがとう
しては惜しい画期的なものでした。
ございました。
・四分野が学べるのは魅力でしたが、カリキュラム
*
026
は全面的に見直すべき。
設問1)映像制作を学ぶに際して、カリキュラム面
・四分野必修は良かった。ジャンルに限定されず幅
で川口芸術学校と他の映像教育機関との最も大きな
広い領域を学習する機会が持てたことは良い経験で
違いは、本校では映像ジャーナリズム(ドキュメン
あったと思います。ただ、教える側がそれに対応す
タリー)、アニメーション、映像芸術表現 ( メディア・
る体制をどの程度整えていたのか?という点が以前
アート )、デジタル ・ シネマの 4 分野を全学生が必
から気になっていました。せっかくの四分野を横断
修で履修することでした。これについての、お考え
した授業スタイルでしたので、四分野の先生方それ
をお聞かせください。
ぞれが個別に対応するのではなく、
四分野のカリキュ
・浅く広くではあったが一通りの技術やソフトに触
ラム内容が相互に連携の取れた内容を盛り込んでい
れる機会があったことは自分がどの分野に進んだと
ると効果的ではなかったかと思います。
しても、損になることはないし、一つの特化したも
設問2)本校の授業に、さらに取り入れるべきもの
のばかりでなく全体を見通すのにとても必要なこと
があったとすれば何であったでしょうか。分野、科
だと思った。
目など、お考えをお聞かせください。
・四つの分野に分けるのは、便宜的な意味で仕方な
・川口芸術学校を発展的に考えるとして映像学部と
Finders 2012 Kawaguchi Art School of Waseda University
研究報告 research report
するのか芸術学部とするのかで、全体の規模も含め
ませんが、
とりわけドラマ創りという観点からは「シ
て、どういう科目を新設するべきかは変わってくる
ナリオ専修コース」を設けるべきだと思います。
「映
のではないでしょうか。
像」と言ってしまうと、ダイレクトな印象になりま
映像学部とするのであれば、シナリオ科や撮影科、 すが、基本は「言葉」に対する理解力、読解力の不
編集科などがほしくなりますが、芸術学部とするの
足が、画創りの駄目さにつながっていると考えます
であれば演技科や美術科がほしくなります。
ので。
「ドラマ」とは何か、何を見せたいのか、とい
・どんな人でも一度は必ずリーダーシップをとって、 う事を教えないと、単なる撮影ゴッコで終わります。
制作をまとめることを行った方が、より社会に出た
もう一つ、大学に於ける「映像教育」が単なる教養
ときの助けになると思う。
としてではなく「職業訓練」としての意味を持たせ
・映像としてのドラマ創り、という観点から言うと、 ようとするなら、どの分野でもプロの製作現場をな
コミックスの実作者、アニメーター、ゲームクリエ
るべく見せるべきです。実作各パートの動きを一週
イター等を講師として登用すべきであろう、と思い
間見ていれば基本的な事は授業で教える事の数倍の
ます。「言葉」を「画」に置き換える作業、カット割
スピードで覚える事が出来ます。単なる見学ではな
り、コンテニュイティの建て方一つとっても、映画
く、アルバイトや見習いでも、どこかの製作会社と
やドラマとは違うアプローチが見える筈ですから。
契約して、授業の一環、又は、インターンシップと
・大学でいえば一般教養的なもの。
して組み入れるべきです。
・基礎教養と、映画を見せて反応させる往還授業が
・映像そのものに関する実践的な教育はこれからも
欠けていたと思います。
必要ですが、その基礎になるのは言語表現、活字表
・徹底して映像制作、作品を作る環境。1、2年生
現です。本を読まない、文章を書かない生徒は伸び
のうちは中途半端なものが多かった。
が止まります。文章表現や対話能力の向上が緊急の
・アーカイブスといったフィルムの保存、修復をもっ
課題だと思います。
と生徒に伝えてどれほど大事なのかを学ばせる時間
・川口の方法は、今後の指針となり得るものです。
を増やして欲しい。
問題は、どういう学生を集め、どのレベルを目指す
・脚本をかためる作業。
かの見極めでしょう。
・いま勉強していることを体系化するもの。個々の
・教養や趣味として映像を学ぶのと専門教育として
授業を体系化する理論の授業。
映像のプロを育てる事には大きな違いがあり、そこ
・より多くのインターンシップの機会。学生作品を
をはっきり意識しないといけないと思います。
映画祭に参加させる試みが必要。十分にその価値あ
・映像を作る際、映像史を学ぶ前に世界史の知識が
る作品が少なくない。
必要だといったように、基本的な教養が必要である
設問3)今後の映像教育について、お考えをお聞か
と思います。
せください。
・大学卒業者を対象にする映像専門教育としては2
・専門学校といえば特化して学ぶものが多いが、色
年間の専門学習で修了するのが望ましく、高校卒業
んな技術分野を理解することは、自分で創造してい
者に対しては4年制大学が望ましい。
く人にとっては必要だなと思う。そのような勉強を
・ 映像を作る力は空理空論をことばで表現できない
出来た川口芸術学校のカリキュラムは良かった。
と成立しません。言語授業が大事です。
・四つのコース、いずれにも当てはまる事かもしれ
・専門学校の本来の目的は技能を身につけることで
Finders 2012 Kawaguchi Art School of Waseda University
027
研究報告
research report
はないでしょうか。そのために必要なのは反復訓練。 ルで教えたりもしました。
とにかく数多くを繰り返しこなすこと。特にコン
・自分の頭で考え、自分の言葉でしゃべれる事を重
ピュータを使う作業は、理屈よりも反復訓練が重要。 視してきました。
・映像の基本は興行商売であると思います。その上で、 ・コミュニケーション、という意味では、彼らから
映像ビジネスの分野の人材を育ててほしいと思いま
のメッセージも数多く受け取るものがありました。
す。「映像ビジネス科」のように。今までの自国他国 「分相応」これにつきるのではないでしょうか。
含めての映像ビジネスの歴史に長けていて、今の流
・映像産業で働きたいというはっきりとした目的意
れとこれからを予測できる講師がほしい。
識を持った学生が多かったです。従って一般の大学
・今後需要の増える映像教育は独立したものではな (教養としての映像学)とは反応に大きな違いがあり
く、各分野において必要な内容の映像教育が追加さ
ました。
れるという状況になるかと思われます。その時に必
・一般の大学では、映像の歴史や理論に興味を持つ
要とされる教育内容は分野により様々ではあると思
学生が多かったですが、川口では、実践的な技法に
いますが、基本的な部分や、リテラシーなど「文章
強い関心がありました。作品の構成、映像のつなぎ
の作法」のようなものをベースとした教育になると
方やタイミングなどを具体的に話すと目を輝かせて
考えています。
聞いていたのが印象的でした。
・知識と実際のバランスを保つべき。キャリア維持
・サラリーマンとしての経験を、どれだけ本当らし
の準備ができるような業界で働く機会を作ること。 く物語ることができるかを重視しました。それが、
028
自分自身は映画学校に行くことを選んだのは、教員
私が学生だったときに、現在の私のような立場の人
を通じて業界とのコネクションを作れることを期待
間から聞きたかった事だったはずだからです。
「私が
して、だった。
話す内容の言い訳、誇張、偽りを見抜いてください、
設問4)授業を進める上で重視されたのは何であり
私にそのつもりがあってもなくても必ずあるはずで
ましたでしょうか。あるいは学生からの反応で印象
す。疑いすぎると、これもよくないです」と、最初
に残ったものは、ありましたでしょうか。
に言いました。
・
「リアリティ」という言葉を安易につかうな、とい
・海外からの留学生については、彼らが日本での学
うのは繰り返し言いました。この言葉が日常使われ
究に失望しないように、日本人学生よりも特に配慮
るように「本当らしさ」「現実感に溢れた」と解釈す
しつつ、授業やアプローチを行うように心掛けたつ
ると、SF や時代劇、抽象劇等には当てはまらなくなっ
もりです。
てしまいますので。「リアリティ」とは創り手の感覚
・常に映像業界の現状を伝えることに努めた。
や知識といったものが、現実の我々を取り巻く世界
・一番重視したのは学生がソフトウェアを十分に使
にどれ位コミットし、的確にフィットしているかに
いこなせるようになること。
よって決まるもので、つまり作者の価値観や、世界
・起業精神を育てることを試みた。
観が現実とズレていれば、そこに「リアリティ」は
*
生まれないのだ、という事を何度も言いました。そ
さて、設問1)への回答では、四分野を全学生が
の意味で物を創ろうとするなら、まず、バランスの
必修で履修するという本校のカリキュラムの基本設
とれた知識を持て、という事で、様々な事柄、学者、 計を全面的に否定する見解は一切ありませんでした。
研究者達の物の見方、考え方を、ごくごく常識レベ
Finders 2012 Kawaguchi Art School of Waseda University
このことについては、そのような考えを伝えるため
研究報告 research report
に、わざわざ時間を取ることをしなかったためとい
めくくりとします。
う可能性も考えておく必要はありますが、四分野全
川口芸術学校での実践と比較しては物足りないと
ての必修履修は基本的には肯定的に受けとめられて
の印象は否めませんが、学部授業としては、ある回
おり、本校の試みは成功であったと素直に評価して
答の言い方を使わせていただければ、「教養や趣味
も間違いではない、と言えるのではないでしょうか。 として映像を学ぶ」段階にとどまるのも致し方ない
とりわけ、四分野の履修順は実に行き届いたもので
ところでしょう。ただし、従来なら学生は出来合い
あったと感心することしばしばです。筆者(本校と
の映像作品の受容だけしか求められなかったわけで
は創立後3年目からの関わり)は、カリキュラムの
すが、より深く作品を理解するための撮影や編集の
作成には直接的に関与しておりませんので、決して
体験を含めるような授業は成り立つはずです。さら
我田引水ではありません。すなわち、最初に現存す
に、メディア・リテラシーについては映像作品を生
る人物の取材に基づくヒューマン・ドキュメンタリー
み出す経験が、同様な効果をもたらすと考えられま
作品を作ることで、学生は学外の人と接するための
す。
一方で学部授業では、
回答の中で指摘されていた、
段取り、その人についてのストーリーを組み立て伝
言語表現ならびに文章表現を集中的に展開すること
えることを学びます。次のメディア・アートに関わ
は、むしろ容易となるのかもしれません。
る授業を通して、様々な映像表現の可能性を知り、 一方で早稲田大学内の現状に目を向けると、文学
続くアニメーション作品作りにおいては、キャラク
部ならびに文化構想学部に限らず、
多くの学部で「映
ターと背景それぞれを考案する必要から画面構成の
像」を対象とした授業が開講されています。その内
重要性を意識するようになるはずです。そして、デ
容は、語学を学ぶため、文化を知るための言わば道
ジタル・シネマ作品では、先行した三分野の経験が、 具として、映像作品あるいは映像素材を利用する場
フィクションのストーリーの考案、テクノロジーの
合から、映像の理論、歴史、評論を講ずるものまで、
活用、人物や大道具小道具の配置などに生かされて
多種多様な広がりが見られます。それら早稲田大学
いきます。もちろん改善すべき面が種々あったこと
全体に、文字通りに点在している、映像に関する授
は、設問2)および、設問3)への回答からも確か
業/映像を使った授業を、どのように一定の束とし
です。
て効果が出るようにまとめるのか、さらには、川口
ところで、そもそも今回のアンケートは、本校が
芸術学校が実践してきた映像教育を生かすのか、こ
実践してきた映像のクリエイターのための教育とそ
れが、2013 年度における筆者の研究課題、一つの
の成果を 2014 年4月以降につなげるための研究の
問題設定になるのではないかとの思いが、アンケー
一環として実行したものでした。この言い回しが気
トの回答を読み直すごとに強くなっています。
になる方もおられるかもしれません。実際、本校の
早稲田大学という土壌に植えられた本校の映像教
教育とその成果を、どこにつなげるのか、あるいは、 育(ある程度の開花と結実を果たしたと考えており
どこで継続するのかが、曖昧になっています。実際、 ますが)を、立ち枯れとしてしまわないように、取
先に紹介した回答にあるように、枠組みを専門学校
り組む所存です。
とするのか大学学部とするのかで、教育の達成目標
なお、回答されたアンケートの整理などの作業は、
は大きく異なってきます。
大山さくらさんと板東茜さん御両名に御協力いただ
とりあえず今回は、早稲田大学内での引き継ぎを前
きました。
提とした、学部授業への可能性を挙げて、本稿の締
Finders 2012 Kawaguchi Art School of Waseda University
029
研究報告
research report
ビデオ・コラージュ序論
映像芸術表現領域 担当 瀧
健太郎
1997 年からビデオによるコラージュ手法を用い
同一のテーゼの元に映像を体感的学習の方向に向け
た作品に取組んでいる。ある程度作品数を経たので、 て見せるガンスやイームズの手法と、異なった種類
一度その試みについて考えておきたいと思う。
の映像を一度に見せることで眩惑を誘発させようと、
ここでいうコラージュとは 20 世紀初頭の欧州を
ヴァンダービーク、松本のそれとの間には決定的な
中心とした前衛芸術における、表現手法の一つで、 違いがある。前者は「同時並列のモンタージュ」で
主に写真・絵画において切り取られたイメージを複
あり、後者その意味では「同時並列コラージュ」の
数貼りあわせることで、画面構成を行うことを指す。 映画と言えるのではないだろうか。
030
キュビストやダダイスト、シュルレアリストらが
フィルム映画がモンタージュ=時間軸上の構成に
用いたコラージュ (papier collé) はフランス語で糊
長けているとするなら、電子メディアはカット &
付け ( 糊付けした紙 ) を意味する。その発端には新
ペーストが用意であるから、TV・ビデオはコラージュ
聞や雑誌などの印刷されたイメージがあふれる時代
=空間軸上の構成に長けていると言える。
に突入したことで、描くより以前に生活空間にイメー
拙作「Stolen Air」(1998) と「War on TV」(1999)
ジが入り込んできたことや、欧州の二つの大戦に阻
は TV のザッピング感覚を、同時並列的に構成した
まれ特にドイツなどのファシズムの台頭とそのメ
映像作品である。当時サンプリング・ミュージック
ディア政治への対抗軸として、イメージをもって抵
として、既存のレコードから様々な音声を切り刻み
抗した例も多く挙げられる。
構成された音楽がダンス・ミュージックの亜種とし
映画におけるコラージュは、もちろんモンタージュ
て、
クラブで聴くのではなく、
リスニング・ミュージッ
( 編集 ) が時間軸上の切り貼りであるが、ここでは一
クとして現れてきたことに影響を受け、音楽的配置
画面の中の複数のイメージと言う意味で用いたい。
を行っている。以降、ビデオ・コラージュにおける、
また映画史当初から試みられた画面合成 (『月世
複数のフッテージの視覚・記号を画面上でぶつけて、
界旅行』の 2 つ以上の異なった撮影素材 ) といった
その意味を剥奪する行為を実験的に試行していった。
1 画面に 1 つの意味を与える合成ではなく、1 画面
TV 映 像 の コ ラ ー ジ ュ 連 作 は、 次 第 に マ ス メ
に 2 つ以上の質感・記号・意味の異なったものを与
デ ィ ア が 提 供 す る 情 報・ イ メ ー ジ と は 何 な の
えるような試みを見出してゆく。その意味では、複
か と い う メ デ ィ ア・ リ テ ラ シ ー 的 な 作 品『 虚
数画面の異なる時間軸を並列上映した、マルチ・プ
構 の 砦 』(2004)[*1] に 発 展 し、 ま た 都 市 像 を コ
ロジェクション ( 例えば、アベル・ガンス『ナポレ
ラ ー ジ ュ し た『 交 換 可 能 都 市 』(2002-04)[*2] で
オン』(1927) の 3 画面上映、イームズ夫妻のパビリ
は、 コ ピ ー & ペ ー ス ト が 現 実 空 間 に も 起 こ り
オン用の映画『アメリカの光景』(1959)) とは異なり、 え る と い う シ ミ ュ レ ー シ ョ ン へ と 結 び つ い た。
実験映像でのスタン・ヴァンダービークや松本俊夫
スクリーンから抜け出したいという要求から、画
らの拡張映画の試みが方向性として近いと思われる。 面の平面性を脱却する次の段階へと進む。
Finders 2012 Kawaguchi Art School of Waseda University
研究報告
research report
左から『Stolen Air』(1998),『Media Cage』(2001),『交換可能都市』(2004)『Living
,
in the Box』(2010),『Tangram』(2011),『Bild:Muell』(2010)
「corner piece」 シ リ ー ズ (2002-) で は、 天 井 と
な人間の時間を、メディア産業のあるいはサービス
壁の交差する立体的な場所に投影され、平面映像だ
社会の顧客として、経済運動下で分断・寸断された
が奥行きある空間に提示される設置作品の形式を取
時間を生かされている。都市生活者の人生自体が、
る事になる。また凸凹のスクリーンを利用し、ビデ
時空間のコラージュとして生かされていると言える
オコラージュを空間的に配置し、不連続のスライド
だろう。この中でその分断を越え、連続した意識を
ショーとして、「build muell」シリーズ (2007-) へ
果たして持ち得るのか、という問いが沸き上がる。
と至る。
『Tangram』(2011) は、大震災前後に撮りためた福
情報・イメージは、夥しい数で提示される一方で、 島や身辺の変化を納めた映像をコラージュし、断片
それぞれがモザイク画の一片のタイルのようで無意
的なビデオの衝突や対立から自分の心理状態を探る
味化してしまい、ある空虚感が漂う。量的には満た
ことができた。 されているが、精神的には全く空っぽであるという
2012 年末の選挙の際、政党の選択肢は多かった
今日の「メディアの風景」が見えてくる。それが現
にも関わらず、
多数派が選ばれた。
項目の多さゆえに、
代社会のシミュレーションとして作品に立ち現れる
選べない日本人像が浮かび上がったと言える。衣類
時、私たち人間の主体はどこにあるのか ? という問
や化粧品を選ぶように政策や社会システムを選ぶの
題が生まれる。情報社会の空虚さの中で、身体はど
では無く、より大きなコンテキストをもう一度探る
こにあるか・どうあるかというアイデンティティー
意味でも、断片化した要素をぶつけ合わすという作
の模索、『Living in the Box』(2010-)[*3] シリーズ
業が必要なのではないかと考える。
へと発展していった。
今後は、2つの発展系を考えている。1つは複数
こうしたビデオ・コラージュの試みは、その映像
のデジタルフォトフレームなどを利用して都市像を
素材が予め持っているコード ( 体系的な記号・暗号・
素材にした、タブロー型のビデオ・コラージュと 、
慣例・使用方法 ) の恣意性を暴露するとともに、敢
マスメディアと政治的パワーバランスの問題をテー
えて読み違えをこちらが行うことで、メディアの空
マにしたビデオを使ったオブジェ作品だ。
間や環境の意味を、書き換えて変容させる作用があ
二者択一で選ぶのではなく、どちらも活かしたま
る。このコードの読み違え (miss read) と書き換え
ま吟味する機会を自分はまだ紬ぎ出してゆきたい。
(rewrite) が、直線的な思考からその場を解放させる
ことが可能だと考えている。横浜黄金町での屋外で
[1] 山形国際ドキュメンタリー映画祭2005入選、ボーフム国際ビ
の映像投影作品『invitation』(2010-) などはその部
デオフェスティバル審査員特別賞受賞作。 [2]2012 年スペイン・バ
類に入る。
レンシア現代芸術院 "TOTAL CITY" に選出される。 [3]2012 年
現代人は過剰なまでの意識・サービス産業の一消
Lowave 主催 "HUMAN FRAMES"in Berlin にて展示とパフォーマ
費者としての人生を強いられている。これは有機的
ンスを行う。
Finders 2012 Kawaguchi Art School of Waseda University
031
制作者トーク
artist talk
演技で魅せるアニメーション表現 アニメーション領域
パネリスト :
こづつみ PON
( 写真左 / アニメーション・ディレクター、
アニメーション領域担当 )
倉橋 一平
( 写真左 / 映像文化学科 4 年 )
2013 年 2 月3日開催
と、倉橋君が言ったので、僕は面
制作者トーク・アニメーション領域で
自分に重ねたおにぎりを大切にし
は、倉橋一平君の卒業制作からこれま
ようという 気持ちもあったり、 白いなって思いました。
での作品を振り返ります。また、こづ
将来どうでもいいやって思ってフ
作った作品は不条理な内容だけ
つみ PON 先生の作品もご紹介いただ
ラフラしていると思ったら、お寿
れども、その中でおにぎりくんを
きながら、アニメーションの手法から
司くんを見て、うらやましく思っ
いかに違和感なく見せて、見てい
プロモーションに至るまで、制作者な
たり不安を抱えたりしている。
る人に共感を与え、まとめあげら
らではのトークが展開されました。
そういう色んな側面がある人間
れるか、倉橋君は凄く葛藤してい
として描こうと考えていたので、 ました。
身近なものを主人公に
そこをどうやって描いていくのか
途中大丈夫かなって思いながら
司会:こづつみ先生、早速ですが
に非常に時間がかかって悩みまし
も、おにぎりくんの性格設定は意
今回の倉橋君の作品の『おにぎり
た。
外にもブレずに完成して、見終わ
くん』いかがでしたか?
った後に少しポロっと、寅さんじ
司会:キャラクターを制作する際
ゃないけど、意外と良い着地点で
こづつみ: 最初、この企画を倉橋
に、何かきっかけみたいなのがあ
作品が完成したのではないかと思
君が持ってきた時に、これ最後ま
ったのですか?
います。
凄くあったのですが、倉橋君の熱
倉橋:きっかけは、4月ぐらいに
映画に着想を得て
い思いと作りたい気持ちと彼の成
企画を考える為にいろんな所を巡
司会:倉橋君の今までに制作して
長を考えてやらせてみようと思い
って、何か良いのはないかなと思
きた作品にはどんなものがあるの
ました。
った時に深夜のコンビニで売れ残
かを振り返ってみたいと思いま
っているおにぎりが一個ありまし
す。
で作品になるのかなという不安が
032
司会:倉橋君、今回『おにぎりくん』 た。
を制作して苦労した所はどんなと
そのおにぎりが買ってくれって
倉橋:これは『フードウォーズ』
ころでしたか?
僕に語りかけてきているような気
と い う 作 品 で す。 当 時『300- ス
がして、その淋しい姿が企画を考
リーハンドレッズ』っていう戦争
倉橋:おにぎりくんは、頭がおに
えていた自分と重なって、こいつ
の映画なんですが、DVD を借り
ぎりで体は人間っていうキャラク
をキャラクターに出来たら面白い
ました。こんな戦闘をカップラー
ターなんですが、おにぎりなんだ
作品が出来ると思い、この作品の
メンとおにぎりで描けたらおもし
けど人間として描いてあげたいな
アイデアを考えました
ろいんじゃないかなと思って企画
した作品です
と思いました。そこでただ暴れ回
るんではなくて、例えばおにぎり
こづつみ:キャラクターを普通の
を投げつけてしまう事もあれば、 人間生活の中に溶け込ませたい
Finders 2012 Kawaguchi Art School of Waseda University
こづつみ:『おにぎりくん』と共
制作者トーク
artist talk
通しているのは、コンビニで売っ
たので、擬人化を意識しています。 醍醐味とは?
てあるものとお母さんが作ってく
あと小さい頃から、カツオ節が
れるようなものをテーマとして上
生きていたら熱くって大変そうだ
倉橋:一番楽しいのは、物凄く激
げていて、その辺の自分の心境と
なとか、靴べらが生きていたら臭
しく動くシーンです。『おにぎり
繋がっていると思う。
いんだろうなって、ずっと妄想し
くん』でいうと戦闘のシーンなん
ながら生きてきました。
ですが、おにぎりを買わせようと
倉橋:そのとき学校、川口芸術学
その辺が作品の中で生きている
して、戦うシーンがあります。そ
校の周りに食べ物があまりになく
のだろうなって思っています。
ういうときに静止画を描いていく
って、コンビニでカップラーメン
んですが、それを並べたときに動
ばっかり食べていて、おいしいも
司会:こづつみ先生、本来動かな
き出す瞬間を見るのが一番楽しい
の食べたいなって思い、対決もの
い物体を生きているように動かす
です。
にしてみました。
のは凄く難しいと思うんですが、 その瞬間が楽しくってアニメー
どう考えていますか?
ションの制作をしています。
NHK のデジスタで放送されたっ
こづつみ : アニマっていう語源が
司会:今後も倉橋君のアニメーシ
ていう作品だよね?
あるように、生命を持っていない
ョン制作でのご活躍を期待してま
のに生命を吹き込む事が、アニメ
す。
こづつみ : この作品は結果として、
倉橋:はい、流して頂きました
ーションの元になっています。
命を吹き込むっていうのは、玉
絵に生命を吹き込む
を上から落としたときにどういう
司会:こうして振り返ってみると、 ふうに弾ませるかっていうこと。
食べ物などを倉橋君の作品には生
授業でやったように、絵の枚数
きていないものを擬人化させ作品
の詰め方で、感情を表現するよう
を制作することに何かこだわりみ
な事を教えたつもりでいます。
たいなのがあるんでしょうか?
それを時間軸で存在させること
がアニメーションの醍醐味だと思
倉橋:一番最初に食べ物が戦うと
います。そこからだんだんやわら
いう企画だったので、そこから続
かさとか含めて、アニメーション
いていますね。それからは現実に
の演技につながっていくんです。
はありえない実写で、カメラでは
撮れないキャラクターやありえな
司会:では、最後に倉橋君にとっ
い動きを描きたいなって思ってい
てアニメーションを制作する時の
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033
制作者トーク
artist talk
メディアを越境する想像 / 創造性 映像芸術表現領域
パネリスト :
瀧 健太郎 ( 写真左 / ヴィデオアーティスト、
映像芸術表現領域担当 )
尾沼 宏星 ( 写真、左から二番目 )
土肥 勇士郎(写真、右から二番面)
福﨑 星良(写真右)2013 年 2 月2日開催
制作者トーク・映像芸術表現領域
使い、役者が舞台上でパフォーマ
もあります。
では、3人の学生さんの作品から、 ンスする、ナマと記録した映像が
映像メディアの枠組みを超えるよ
行き来する作品をつくりました。
うな表現について、瀧専任講師と
面白くて作ろうと思いました。ど
学生さん交えて語っていただきま
瀧:皆さんの作品から、既存の映
んな形になるか分からなくて、最
した。
像からはみ出す、画面から物理的
初は球体ではなく、もっと様々な
尾 沼: 『photographs from un-
に何かが出てくるように感じまし
形のモノにしようと。物体が実際
known man』は、子どもの頃に
た。
に落ちる様子がいいのか、プロセ
撮影された自分の映像と、今の自
034
土肥:自分は、最初は落下現象が
スは見えなくて結果だけが提示さ
分がカメラをもって外国へ行く映
福﨑:前作『Come Wander with
れるのがいいのか。曖昧な境界が
像を合わせて、自身を相対化して
Me』で自分の記録から世界を通
あり、苦労しました。
世界を描きたいと思ってつくりま
して見た作品を作りました。その
した。
後、リアルタイムに観客の反響が
瀧:プロセスの介入性が共通して
見えるパフォーマンスがいいと思
いると思います。皆さんが持って
土肥:今回はコルクの球体が転が
いました。映像とリアルタイムの
いるモバイル機器などは、常に触
り、ペンキで色がついて、絵が描
演技を混ぜ合わせたら楽しくなる
れて変更可能じゃないですか。一
か れ る 装 置『Unconsciousness
かな、と。やってみて新鮮で、模
方で映像の時間軸は直線的である
Painting System』を作りました。 索して創ってゆく部分がすごく面
と。そうしたデジタルからか、モ
通常、絵を描くときは、人の意識
バイル機器かわかりませんが作品
白かったです。
が介在して成立すると思います。
の発想と関係あると思いますか?
今回は描くのは球体であり、意識
尾沼:自分が5年前に写真を撮っ
から離れた偶然による絵画です。
た場所に行って同じ人に渡した
福﨑:私たちの世代ではインスタ
ら、相手はどうリアクションする
ントで単純化してますね。時間を
福 﨑: 私 は 欲 張 っ て 2 作 品 作 り
だろうかというところから始まり
かけて1つものを作ることが動作
ました。1つは短編映画でコマー
ました。相手に会えないかもしれ
やタッチパネルで簡単にできま
シャル性の商品と絡めた企画で女
ないし、行くときも本当に怖かっ
す。作品を作っていく上で、
ひねっ
の子の揺れる心を描きました。も
たです。何が起こるか分からない
て考えるということができる。単
う1つは『象牙の塔』という舞台
ことを楽しもうと、そこがドキュ
純化していてなんでも混ぜちゃう
作品です。映像を舞台装置として
メンタリーの面白いと思う理由で
みたいなところがあります。
Finders 2012 Kawaguchi Art School of Waseda University
制作者トーク
artist talk
尾沼:僕は、朝起きたらニュース
たくさんあるなか、皆さんはソフ
/ 使えないの選択でずいぶん悩ん
の画面みて、学校では一日編集作
トじゃなくてハードウェアから
でましたね。
業 し て、 家 帰 っ た ら DVD み て、 作っていくというアプローチだっ
その間にモバイルで動画みて…。 たと思います。その苦労というか
尾沼:相当悩みました。撮影して
現実世界よりも大量の情報として
いると、思い出があって編集で切
醍醐味などあればお願いします。
の映像を処理している時間のほう
れないことも。映像素材を何度も
が長いです。最後の夏休みを利用
土肥:映像と違って物理的な装置
再生して被写体が言葉に表さず発
して海外に行きたいと思ったの
なので、思い通りにならない部分
したことをうまく汲み取って繋げ
は、自分の裸の目でみるというこ
やハプニングが起き、面白い方向
たいと意識しました。
とをしなくなったと思ってです。 へ進まないか、と思いました。こ
自分が何か動くことで相手がどう
の3人に共通しているのは変則的
瀧:今後はどういう制作を考えて
いう反応をするかを映像でやった
なところだと思います。福﨑さん
いますか?
という自己矛盾です。
の映像と演劇のタイミングが毎回
変わるところ、尾沼君の何が起こ
尾沼:僕は TV 番組のドキュメン
瀧:尾沼君の作品では、単なる観
るかわからない旅、など、僕の場
タリー制作会社にいきます。その
光旅行には無い、行為の再検証と
合でも、何が起こるかわからない
前に自分がドキュメンタリーが好
いえます。5 年前の観光旅行の時
ということが、希望の1つです。
きだということを再確認しようと
点では仮想的に見てても、今回5
年後に再訪したことでリアリティ
思って今回の作品を作りました。
瀧:色んなことが今予定調和な社
を取り戻そうとしているのかな、 会ですから、そうしたレシピの様
と。
会社組織にあっても表現者である
ことを忘れないでいたいです。
なものへの反抗があるんでしょう
か?スマートフォンみたいな製品
土肥:一から面白いものを作るの
尾沼:5年前に旅行にいったとき
は吟味され、洗練されていますね。 もいいですが、逆にどこにでもあ
と違う感覚で、どこかで遠くに居
そうでない方向に行こうとしてい
るような些細な事から面白さを引
ながら繋がっていた失われた5年
るところがあるのでしょうか。
き出す、そういう作品を作ってい
を探るようにして交流できたと思
います。
瀧:3 人の作品に共感をするのは
きたいと思っています。
土肥:必要以上に洗練され、はっ
035
きりし過ぎている映像作品も多い
福﨑:私はずっと長いスパンで何
と思います。
かを作っていきたいと思っていま
リアリティの再獲得ということを
す。ずっと制作を続けことで、そ
真摯に行っているからだと思いま
福﨑:私は映画を勉強しても映画
の裏側に自分の生活が作られてい
す。世間では楽しいメディアでお
的文法が自分ではできない。だか
くのかな、と楽しみです。
祭り騒ぎをしているのに対し、そ
ら独自のやり方になり、できない
うではなく実直に検証していると
ことが逆にできることに繋がり、 瀧: 単 な る 消 費 者 と し て 映 像 メ
いうか。
もう一度自分のなかで発見をしま
ディアに触れ、道具に使われるの
した。
でなく、どう主体的にその道具を
瀧:色んな映像の作り方が今、シ
ステマチックになって、レシピが
使うのかを忘れずにこれからも創
瀧:尾沼君は、映像素材の使える
り続けてください。
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制作者トーク
artist talk
仲間でつくるドラマ演出 デジタルシネマ領域
パネリスト :
濱口 幸一 ( 写真左 / 映画研究 担当 )
遠藤 裕介 ( 写真中央 )
髙橋 良多 ( 写真右 )
2013 年2月 2 日開催
制作者トーク・デジタルシネマ領
で、そこで主役の男の子ともう 1
その他でも凄く印象的なのが撮
域では、皆で意見を出し合う制作
人の友達役がいるんですけど、彼
影をしていて、公園の紅葉シーン
体制や、デジタル時代の映画のあ
らは演劇出身の方達で本読みの時
があったと思うんですけど、なか
り方や、リアリズムについて二人
に演劇特有なお腹から出したよう
なか枯れ葉があまり落ちてこな
の制作者と、映画史担当・準教授
な発声でとても感情を込めていま
く、心配したんですが、スタート
の司会の下、話して頂きました。
した。
すると丁度枯れ葉が落ちてきて、
僕はそれを聞いて、遠藤君の作
偶然が偶然を装って、凄くベスト
偶然が生み出すベストショット
品とイメージが少し違うのではな
なショットを撮れたのは、かなり
遠藤:
『リルケの詩』を制作する
いのかなと見ていました。遠藤君
印象深い撮影です。
時に、現実的で学生らしいものを
はどうするのかなと見ていたら、
作りたいと思いまして、こちらの
声の張りを抑えて抑えてと指導し
髙橋:そうですね。映画というの
作品が出来ました。
ていて、それが印象的でした。
は脚本があって、決められた絵コ
制作するにあたって、最初から
036
ンテがあって、割とルール通りに
構成を考えていた事は、ドラマを
遠藤:そうですね。実はこの撮影
撮るように思われていると思うん
作り込む段階で、リアリズムと非
をするにあたって、絵コンテを描
ですが、むしろルールや準備をし
リアリズムの間の世界感を保って
いているんですけど、ある程度漠
て現場で崩されるっていうのが一
いきたいと考え制作しました。
然とした絵コンテをつくり、カメ
番面白いところですね。
大学生が就職するのにどうする
ラマンの髙橋君に持って行くんで
例えばさっき遠藤君が言った
かという立場に立たされている登
すよ。
場人物を生き生きとした姿でか
そこでどういうカメラワークに
使えるじゃないか」というのが、
つ、そのリアリズムに近づける反
するかを決めて撮影を始めまし
映画の現場の面白さで、それは僕
面、ある種、非リアリズムの世界
た。あとはテクニカルの部分で照
が映画を見ていただけでは気づか
観である世界観を忘れさせないよ
明や音声に関しては、助監督を始
なくって、映画を撮って初めて気
うな作り込み方にし、淡々とした
めとしたスタッフに任せ、僕は役
づけた事だなと思いました。それ
ストーリーの進め方に辿り着きま
者に芝居をつける事に専念出来た
が一番面白かったですね。
した。
と思います。この作品はスタッフ
「現場に紅葉がある。これ何かに
と役者さんの芝居力と教員の方々
スタッフワークの強み
髙橋:最初、遠藤君の演出で印象
の周りの支えがあって作られてい
濱口:映画を作るときのスタッフ
的だったのが役者さんとの本読み
る部分があったと思います。
ワークの問題ですが、この学校の
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制作者トーク
artist talk
デジタルシネマゼミは監督作品が
人達の想いがひとつになって作品
もらう、作り足さなければなりま
一人一本という形になっていく訳
が出来るのではないかなと思って
せん。そういう事を意識した所は
ですが、
『リルケの詩』の場合は
います。
ないですか?
遠藤君が監督。髙橋君が撮影です
遠藤君が監督だったら、僕は撮
が、髙橋君の監督作品『ステラ』 影を手伝うのではなく、一緒に作
遠藤:その心情を表現するという
の 場 合、 遠 藤 君 は ど う い う 役 割
る映画はチームでやっているんだ
意味では、どのように芝居をつけ
を?
というのが、凄く楽しいんです。
ていくかなんですが、セリフをた
だ単に言うのではなく、歩いてい
遠藤:僕は『ステラ』では助監督
デジタルビデオ映像と演出
く中での表情の使い方やセリフを
を担当し、役者さんのケアや音声
濱口:先程からお話の中でリアリ
言ってもらうタイミングや間とい
とか照明が足りない場合は足りて
ズムという事が出てきました。本
うのが必要になってくると僕は
いない所をリカバーする撮影現場
当らしさが出来る訳なんですが、 思っています。
でしたね。
その点でカメラ、撮影機材という
のがフィルムの時代はもちろんの
髙橋:そうですね。僕はカメラマ
濱口:監督作品としては一本ずつ
事、デジタルビデオになってから
ンという立場でいうと、映画で感
ですが、ほぼどの現場でも立場を
も、単に誰が映っているか、どん
情とかって編集で成り立っている
替えて作品に関わっている訳です
な格好で、どんな事をしたか、録
場合もあって、物語上で悲しい顔
が、そういった当たりの自分が監
音の面でどんな事を言ったのかを
を写したからといって、悲しい顔
督ではないときに、スタッフとし
記録して伝えるわけではなく、そ
になるっていう訳ではなく、悲し
ている経験あるいはそのときに、 の場の雰囲気、喜びや怒りをいわ
い出来事があって、その人の顔を
そういえばこんな事を考えている
ゆる喜怒哀楽を伝える事ができて
写すと、その人がまるで悲しいん
みたいなのはありますか?
しまいます。
でいるように見えるっていうの
ですからその点でいわゆるド
が、僕は映画だと思っていて、だ
髙橋:そうですね。映画は結構、 キュメンタリー作品みたいにいろ
からそのように人が悲しく見える
監督で語られがちだと思うんです
んな人が怒ったり、喜んだりする
ように準備したりするのが、映画
けど、そうではなくって監督のや
場面をそのまま撮れば、その人の
なんじゃないかと思ったりしま
りたい事や役者さんの目標があっ
喜びや怒りなどが伝わってきま
す。
て、カメラマンはカメラマンでど
す。ですがデジタルシネマゼミの
うしたいかがあって、いろいろな
場合は、そういったものを演じて
濱口 : ありがとうございました。
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037
制作者トーク
artist talk
国際支援とは何か ? 映像ジャーナリズム領域
パネリスト :
齋藤 秀夫
( 写真右 / 映像ジャーナリズム領域担当 )
松浦 真実 ( 写真左 )
2013 年 2 月 3 日開催
制作者トーク・映像ジャーナリズ
切っちゃうんですよ。それを切ら
メラをまわしているのも嫌でし
ムでは、担当の齋藤秀夫先生と、 ないでロングで見せる。ロングで
た。でも、モヤモヤした思いが消
『Pani Mitocha その水おいしい』 見せるから周りの状況が全部見え
えなくって、じゃあ、学生最後の
の制作者松浦さんにお話いただ
てしまう。ですから、無理矢理や
作品をひとつ作るってなったとき
き、取材先のネパールの現場から、 らせてるところが見えてきて、こ
に、このモヤモヤを解消しないま
国際支援のあり方を問う内容とな
の作品の重要なポイントなってい
ま、今度自分が社会に出て番組と
りました。
ると思います。
か作品を作っていけるのだろうか
という所から、取り組んでいかな
038
小さな疑問がきっかけに
松浦:私はそもそもボランティア
きゃいけないのかなと考えて向き
齋藤:私がこの作品を気に入った
団体の増田さん頼まれて、撮影記
合おうと思いました。
部分は、小学生に鉛筆などの寄付
録でネパールに行きました。で、
を始めて、実際に現地に行ってみ
その時に何かネタになるモノがあ
司会:ネパールを支援しているボ
る と「 小 さ な 善 意 が い き て な い
れ ば、 面 白 い 事 が あ れ ば い い か
ランティア団体の最初は簡単に言
じゃないか?」
、
「援助とは何?支
なっていう気持ちでいたので。
えば、成果をちょっと悪い言い方
援って何?」、「JICA は何やって
当初は、「そもそも支援が何だ
とすれば、松浦さん自身ねつ造す
るの?」といった小さな疑問が膨
ろう?、「支援が善なのか ?」っ
る事に少し加担してしまったみた
らんで、大きなテーマになってき
ていう問い問いが自分のテーマに
いなのがあったんですか?
ているのが凄いと思います。
なるとは思ってもいませんでし
スタディーツアーに参加しなが
た。
ら、インタビューをすると、声を
松浦:ちょっと自分の中で後ろめ
たさみたいなのがあって、それが
かけた人の声を大事しちゃうんで
司会:2回目に現地に行かなきゃ
すよ。そうすると、その人に遠慮
いけないなと思ったきっかけみた 「ほら、真実さんに向かって言え」
して言いたい事を言えなくなる
いなのはあったんですか?
し、 編 集 の 際 に そ の 意 識 が 必 ず
最後のエンディングのところで
みたいな事を…。それをあの 1 カ
所だけではなくって、すべての場
働 き ま す。 と こ ろ が 松 浦 さ ん は
松浦:最初に行ったのが、ちょう
所でやるから、しんどかったです
ジャーナリストとしての目線を
ど東日本大震災のときに向こうに
し、自分も悪い事をしているなっ
しっかりと持って作っています。 行っていたんですけど、そのとき
て思いましたね。
そして撮影で凄いのは、プロのカ
はスタディーツアー中に写真を
2回目に支援とは何かと考える
メラマンだとフレームをどんどん
撮っていて、正直自分が現場でカ
ために取材に行ったとき、本当は
Finders 2012 Kawaguchi Art School of Waseda University
制作者トーク
artist talk
プロだったら構成をきちんと組ん
から行く前のたたき台としては、 ですね。人の温かさとか凄く親切
で行くのが当然だと思うんですけ
かんたんな構成表を作っておかな
にしてくれるっていうか、外国人
ど、私はそこまでガチガチに方向
いと議論にならないんです。とい
だからかもしれないんですけど。
性を組まずに、ODA の話を聞き
うのは、一人で行くのではないの
やさしかったなっていう印象が大
に行きたいとか、もう一回去年の
で。松浦さんの様に、一人だけで
きくって。
場所に行きたいとかっていうのは
行くならいいですが、カメラマン
考えていて、それが比較出来れば
や、 音 声 マ ン や 照 明 マ ン 又 は リ
齋藤:多分、それは良い出逢いを
良いかなとぐらいしか思っていな
ポーターがいたりという組み合わ
しているのと凄く良い表情の人々
くって、帰ってきて構成を作るっ
せになりますよね。
が自然に映っているんですよね。
ていうのが難しかったですけど、 その時に全部ある程度の話し合
だから多分、取材している松浦
これはなんかやっぱり現場で見た
いのたたき台がないと予算がつか
さんがそういう人柄だから映って
事を大事にしたいというこだわり
ないですし、提案が通らない。ま、 くるんですよ。それがカメラから
があって。
そういう関連でいえば現地に行っ
あなた自身が映ってくるんです
て全く違うものを作ってきた例は
よ。それがあなたの作品の魅力だ
ありますよ。
と思います。
リーの構成はやはり撮影に行かれ
司会:松浦さんはネパールに実際
松浦:ありがとうございます。な
る前に全部決めていかれるもので
に行かれて、ネパールの人々と話
んか私がひとりで作ったって作品
すか?それとも現地で見つかった
してどうでしたか。
になっているんですけど、でも本
想定外も組み込む
司 会: 齋 藤 先 生、 ド キ ュ メ ン タ
ものを拾い上げて作るんでしょう
当は凄い多くの人たちに助けられ
か?いろんなパターンがあると思
松浦:やっぱりどの人も人なつっ
ていて、それはこの学校で指導さ
うんですが。
こい人が多かったんです。齋藤先
れていた先生もそうなんですけ
生もネパールに行かれた事、何度
ど、取材でお世話になった方々と
もありますよね?
ネパールの人達の助けがなかった
齋藤:そうですね。圧等的に多い
のは、事前に構成的みたいなのを
作ってから行きますが、実際現場
ら出来なかったので、本当に感謝
齋藤:2、3回ありますね。
では想定外の事がたくさん起こる
していますし、そういう感謝の気
持ちを今後も忘れないで制作に繋
ん で す よ。 だ か ら ド キ ュ メ ン タ
松浦:やっぱり郷愁を感じるとい
リーって面白いんですよね。です
うか、私は懐かしい感じがしたん
げたいなと思います。
Finders 2012 Kawaguchi Art School of Waseda University
039
イチオシ ! 映画コラム
かつて荒野で
君嶋 一浩
『ビリー・ザ・キッド /21 才の生涯』
(Pat Garrett and Billy the Kid)
、
サム・ペキンパー
監督による西部劇映画。西部開拓時代のアウトロー、ビリー・ザ・キッドを描いた
伝記作品。キッドをクリス・クリストファーソン
(アメリカでは有名なC&Wの歌手)
、
保安官バット・ギャレットを「SPEAK LARK」のジェームズ・コバーン。そして、
正体不明のナイフ使いの若者をボブ・ディランが演じた。
何よりも先にディランの音楽があった。その頃僕は、関東平野が日光連山の山並
みに変わる僻地に住んでいた。そこで手に入れたレコードが『Pat Garrett & Billy
the Kid / Bob Dylan』
。この映画のサントラ盤として制作された音源だ。ディランの
歌とアコースティックギターとハープ、そしてフィドルとフルートが放蕩するよう
にA面とB面を埋めるこのレコードは、僕の暮らす僻地をワイルドウエストムード
にしてくれる最強のアイテムになった。
販売元 : ワーナー・ホーム・ビデオ
ディランをターンテーブルに乗せる。キャンプ用のマグカップにコーヒーを注ぐ。
ASIN: B003EVW6P4
バッファローの頭蓋骨をデザインしたバックル。黒のウエスタンシャツ。使い込ん
▶サム・ペキンパー監督
1973 年 アメリカ
だバイクブーツ。革手袋。寝袋。ナイフ。色あせたバンダナ。つや消しの黒に塗り
▷ようやくフロンティアが終わろうと
替えたジェットヘル。古臭いゴーグル。鉄馬はアメリカンスタイルのVツインエン
するニュー・メキシコを舞台に、21 歳
ジン搭載 HONDA Steed400 を手に入れた。ほんとうのところ、
踵に拍車付きのブー
の若さで死んだ希代の無法者ビリー・
ザ・キッドと、彼を追うパット・ギャ
ツで闊歩したかった。オートバイではなく本当の馬に乗りたかった。なによりも、
レットの対決を描く。
いつもお天道さまの下で自由でいたかった。
「僕は、西部で暮らしている。馬を蹴っ
て平原を駆け、焚火とギターを相棒に旅をして暮らしている。
」そんな具合に。
少しだけオトナになった数年後、この映画に出会う。やっと出会う。深夜にそ
れは投げやりにテレビで放映されていた。感動した。
「完璧だ」
、そう思った。年老
いた保安官が荒くれ者に撃たれ、河岸でゆっくりと死を迎えるとき、
『knockin' on
040
heaven's door』が流れる。ビリーが仲間と七面鳥狩りに興ずるとき、陽気なフレー
ズを奏でるフィドルが浮かれた気分を盛り上げる。ギャレットが脱走したビリーを
追跡するとき、アコースティックギターの粗いストロークとフルートの音色が聴こ
える。風で舞い上がる乾いた土埃。ぬけるように広く碧い空。岩肌の山。焚火。草原。
荒野。馬車の轍。馬の蹄の音、嘶き。丸太小屋のきしむ音。この風土、雰囲気がた
まらなく好きだ。そう思った。かつて、ネィティブアメリカンが自由に闊歩してい
た大地がそこにある。
さて、僕は 10 年後には、ここニューメキシコ州サンタフェあたりで暮らしている。
今度は丸太小屋ではなく、プエブロインディアン様式の天日焼きのレンガを積み上
げて作った素敵な家に住み、雨のめったに降らない街で、微笑みながら暮らしてる
んじゃないかと思う。
※追記:
『すべての美しい馬』
、この映画もお薦めです !
Finders 2012 Kawaguchi Art School of Waseda University
041
Finders 2012 Kawaguchi Art School of Waseda University
▼倉橋君のこれまでの作品
上から『フードウォーズ』
『長い友達』
『いと恋し』
『おにぎりくん』
てんこ盛りの 4 年間
042
映像文化学科 4 年
倉橋 一平
早稲田大学川口芸術学校の 4 年間は、沢山の人に
り考えず、めいっぱいやりたい事をやれた作品でも
出会い、沢山の物を作ったという、てんこ盛りの4
あります。
最後にグループ制作で作ったアニメーショ
年間でした。
ンでもあり、一番の思い出深い作品です。技術が如
当時は辛い事もあったのかも知れませんが、今思
何に向上しても『フードウォーズ』を作った時に感
い出す限り全ての出来事が楽しかったです。
じていた「やりたい事を精一杯楽しんでいる」気持
僕 は「 高 校 の 文 化 祭 で 映 画 を 作 っ た と き
ちが無くなったら制作は出来なくなってしまうと思
Photoshop に触れた」という本当に些細な経験から
います。だから、卒業にあたってもその気持ちを忘
物作りをしたいと思う様になり早稲田大学川口芸術
れない様に、この作品は何度も見返して行こうと思
学校にやってきました。
います。これからも制作時の楽しさが観客に伝わる
入学当初、手のデッサンをしたり、ピンホールカ
作品を作って行きたいです。
メラを作ったり、様々工作をするのはとても新鮮で
地元にも、高校にも所属する水泳同好会にも、小
楽しかったです。ただ唯一、SKIP シティの食料事情
さな映画祭に一緒に行って、アニメの話で盛り上が
にはめげそうになりました。僕にとって美味しい物
る事が出来るような友人はいません。映像の専門学
を食べる事は人生の目標の一つです。ところが学校
校という特殊な空間にはそんな人が沢山いて、皆僕
の周囲にはコンビニが一軒あるだけで、いつも空腹
が知らない世界の事を沢山知っていて、それも物作
でした。
りにどっぷりハマれた理由の一つだと思います。
そこで制作したのが初監督したアニメーション作
早稲田大学川口芸術学校で 7 期生の生徒として卒業
品『フードウォーズ』です。作品全体の出来をあま
を迎えられて何より幸せ!ありがとうございました。
Finders 2012 Kawaguchi Art School of Waseda University
映像と人から芽生えたもの
松浦 真実
映像情報科 3 年
学校がなくなると聞かされた2年前の 1 年生の夏。「残ると
すれば人的資源」と、先生方がおっしゃっていたように川口芸術
学校での学びの中で、私が得た財産は人との出会いでした。
初めてのドキュメンタリー制作から卒業制作の作品に至る
まで、実に多くの人に出会いました。作品は観客に見てもらっ
て初めて作品になるとすれば、一人が作った世界だけでは完
結せず、必ず人と関わる必要があります。人と関わる、とい
うのは時に苦しいことや煩わしいことも出てくるものだけ
れど、とても楽しくて愛おしくて、刺激のある貴重なこと
だと思います。
私は映像を通して関わった人たちからたくさんのことを教
わりました。相手の気持ちをどう受け止めたらいいのか、自分
の感情や考えとどうやって向き合うか、誠実さとはどんな態度か、
など映像論というよりむしろ人生論や哲学を学んだように感じ
ています。自分の中で蓄えてこれから先も育てていける様々な
種類の芽を見つけることができました。
いつも良いところを見つけて褒めて伸ばす指導をしてくだ
さった先生方。いつも温かく見守ってくださった事務所の皆
さん。学年の壁を越えて気さくに声をかけてくれた先輩方。
皆より少しだけ年上で口うるさくて疎ましい存在だったかも
しれないけれど「まみ姉」と呼んで受け入れてくれた同級生
たち。作品の被写体となって関わってくれた人たち。皆さん
の助けと励ましがあって今の自分があると思っています。本
当にありがとうございました。
この場所で見つけたたくさんの芽を育んでいくだけでなく、
卒業後も “FINDERS” の一人として映像と人との関わりの中
で新たな芽を見つけ続けていきたいと思います。
Finders 2012 Kawaguchi Art School of Waseda University
043
この一年
yearly chronicle
出来事この 1 年 2012 年 4 月~ 2013 年 3 月
044
4 月 6 日(金)始業式。前期授業開始。
4 月 26 日(木 ) 小林達夫(1 期生)監督作品『カントリーガール』渋谷ユーロスペースでロードショー。
5 月 25 日(金 ) 倉橋一平(映像文化 4 年)作品『いと恋し』「第 24 回東京学生映画祭」アニメーション部門、上映。
6 月 4 日(月 ) インターンシップ報告会。
6 月 19 日 ( 火 ) 木下惠介監督生誕 100 周年企画 オープン教育センター合併公開授業として、大隈記念講堂小講堂で開催。(パネ
リスト:劉文兵 映画研究者)
6 月 26 日(火)木下惠介監督生誕 100 周年企画 オープン教育センター合併公開授業として、早稲田キャンパス小野記念講堂で
開催。
(パネリスト:本木克英 川口芸術学校非常勤講師)
7 月 14 日(月)~ 22 日(日)国際Dシネマ映画祭がSKIPシティにて開催。期間中にSKIPシティの建物に映像を投射す
るプロジェクション・マッピングを実施。
7 月 19 日(木)福﨑星良(映像文化 4 年)作品『Come Wander With Me』渋谷アップリンクで上映&トークイベントを開催。
7 月 21 日(土)卒業生、在校生の映像作品を上映する「ムービー・セレクション」を教室にて開催。ホームカミングデーを開催。
8 月 14 日(火)尾沼宏星(情報 3 年)作品『観測』、木下匠(映像文化 3 年)作品『私たちが見た名取市』渋谷アップリンクで上映。
8 月 17 日 ( 金)~ 8 月 26 日(日)内田清輝(映像文化 3 年)作品『恐怖の充電池人間』「第 1 回三軒茶屋映像カーニバル」ヤン
グシネマ・コンペティション部門上映。
10 月 20 日(土)
「第 25 回東京国際映画祭」特別オープニング作品「JAPAN IN A DAY」に福﨑星良(映像文化 4 年)映像が採用、
上映。
11 月 3 日(土)~ 4 日(日)「早稲田祭 -2012-」に参加。作品上映会を開催。
11 月 30 日(水)公開授業「ISMIE2012(インターリンク=学生映像作品展 2012)」を、早稲田キャンパス 26 号館多目的ホー
ルにて開催。
12 月 17 日(月)
・12 月 19 日(水)卒業制作審査会実施。
1 月 7 日(月)冬季休業終了後、授業開始。
2 月 2 日(土)~ 4 日(月)卒業・修了制作上映会「- f -」を、小野記念講堂で開催。
2 月 8 日(金)~ 24 日(日)福﨑星良(映像文化 4 年)作品『Come Wander With Me』東京都写真美術館「第 5 回恵比寿映像
祭パブリック⇄ダイアリー」出品。
2 月 11 日(月)倉橋一平(映像文化 4 年)作品『いと恋し』埼玉県映像コンテスト「彩の国映画甲子園」SKIP シティ彩の国ビジュ
アルプラザ賞受賞。
3 月 2 日(土)~ 8 日(金)小林達夫(1 期生)が文化庁委託事業「若手映画作家育成プロジェクト 2012」ワークショップ参加決定。
作品『カサブランカの探偵』が東京のユナイテッド・シネマ豊洲、大阪の梅田ガーデンシネマでロードショー。
3 月 3 日(日)
」倉橋一平(映像文化 4 年)作品『おにぎりくん』「第 11 回インディーズアニメフェスタ」審査員賞受賞。
3 月 9 日(土)
・15 日(金)西原孝至(1 期生)監督作品『青の光線』
「第 8 回大阪アジアン映画祭」日本映画人のニュー・フロンティ
ア部門、大阪のシネ・ヌーヴォで上映。 3 月 12 日(火)早稲田松竹にて卒業・修了作品展「- f’ -」を開催。
3 月 21 日(木)福﨑星良 ( 映像文化 4 年 ) 作品『Neon Lights ( ネオンライト )』2012 年度小野梓記念賞 < 芸術賞 > を受賞。
3 月 26 日(火)2012 年度卒業式(19 名)予定。総代は映像情報科の松浦真実。証書授与式および卒業生を送る会を川口芸術学
校で開催。
7/21( 土 ) ホームカミングデーの様子
Finders 2012 Kawaguchi Art School of Waseda University
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