22q11.2欠失症候群患者の 健康管理のための診察

22q11.2欠失症候群患者の
健康管理のための診察ガイドライン
Anne S. Bassett, MD,* Donna M. McDonald-McGinn, MS, CGC,* Koen Devriendt, MD, Maria Cristina Digilio,
MD, Paula Goldenberg, MD, MSW, Alex Habel, MD, Bruno Marino, MD, Solveig Oskarsdottir, MD, PhD, Nicole Philip,
MD, Kathleen Sullivan, MD, PhD, Ann Swillen, PhD, Jacob Vorstman, MD, PhD, 国際22q11.2 欠失症候群コンソーシアム
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22q11.2欠失症候群患者の
健康管理のための診察ガイドライン
診察ガイドライン
背景/方法/概略/遺伝カウンセリング/結論/付録/参考文献
表1 22q11.2欠失症候群の多系統の症状
表2 22q11.2欠失症候群で推奨される評価項目
表3 22q11.2欠失症候群患者への重要な注意、考慮事項
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身体検査では、この少年の身長体重は常に5パーセンタイルをわずかに下
回って推移した。成長ホルモンの明らかな不足は見つからなかった。頭囲は
25パーセンタイルの範囲にあった。顔立ちの特徴として、額の前髪の生え際
が低い、まぶたがはれぼったい、頬骨が平たい、耳は出っ張った形で耳たぶ
の下部がくっついている、鼻はやや曲がっていて鼻先は球状、鼻翼は低形成、
泣いた時の顔が非対称性、上唇が薄い、顎がやや小さい、といったことがあ
り、また、仙骨のくぼみ、足の第2趾と第3趾の間の軟部組織がつながった
合指症が認められた。
最近12歳になった少年は22q11.2欠失症候群(写真)に起
因する問題のために複数の専門医にかかっている。自然経膣
分娩で誕生し、体重は3033g。31歳で経妊3経産3(注1)の
女性から正期産で生まれた。妊娠中の問題は軽度の羊水過多
があるだけだった。 アプガースコア(注2)は1分の時点で
8、5分の時点で9だった。泣き声が弱々しかったことを除い
ては、新生児の診察の結果には特筆すべきことがなく、彼は健常な赤ちゃん
の乳児室に運ばれた。だが、その後まもなく、心雑音が判明し、循環器科か
らファロー四徴症の診断を受け、地域の3次医療施設に転送された。症状が
安定していたので、生後3日で退院した。
発達については、この少年は運動発達指標の達成に軽度の遅れが見られ
た。お座りは生後11か月、歩き始めは生後18か月だった。発語に関しては
顕著な遅れがあった。喃語は話さず、初めて単語を話したのは3歳の時、十
分な会話ができるようになったのは7歳の時だった。だが、彼は言語の理解
については比較的能力が高く、身ぶりをつかって適切にコミュニケーション
をとることができた。学習内容を熟知しているというわけではないが、彼は
第7学年(日本のほぼ中学1年生に相当)でリソースルームのサポートを受けな
がら普通級に在籍している。彼は優しくて愛想が良いが、不安や固執を示す
傾向がある。多数の医療、学業、社会的な面での困難があるにもかかわら
ず、彼はアシスト付きの体育実技に参加し、熱心なレスリングのファンで、旅
行を楽しんでいる。だが、彼をとても熱心に支援している両親やきょうだ
い、周囲の家族は、長期的な結果と成人が近づくにつれての移行期のケアに
ついて心配し続けている。
生後5日、彼はけいれん様の発作を起こした。地域の救急病院の記録によ
ると、総カルシウムレベルは4.7㎎/㎗で、後に部分的な副甲状腺機能低下症
と診断された。その時、照会を受けた遺伝医は22q11.2欠失症候群の可能
性を示唆した。数週間後、家族はFISH法による検査でこの症候群の確定診
断がついたと電話で連絡を受けた。それ以外の診断や予後、病気の原因、再
発のリスクなどの情報は、生後5か月の時に3番目の病院で心臓の治療を受
けるまで提供されることはなかった。その病院には、包括的な22q11.2欠
失症候群のプログラムが患者に提供されていた。この病院にかかるまでの
間、この子どもは摂食障害のため、経鼻管から栄養剤の補給が必要で、鼻へ
の逆流があり、胃食道逆流もあった。両親は息子の診断について、インター
ネットで信頼できる情報を探し続けていた。
その後の主な症状と治療は以下の通りだった。生後6か月で反復性中耳炎
のため、両耳の鼓膜切開とチューブの設置を行った。6歳の時、肺動脈狭窄
による両側胸水が判明したため、左肺動脈にステントを留置する血管形成術
を行った。顕著なT細胞の機能不全による慢性の上気道感染症により、生ワ
クチンの接種は7歳まで控えられた。7歳の時、鼻咽腔閉鎖機能不全によ
り、咽頭弁作成手術を行った。エナメル質形成不全と多数の虫歯のため、7
歳以降、3回の全身麻酔下での歯科治療を受けた。頸部と胸部に複数の脊椎
の異常があり、胸部は左方向に、上腰部は右方向に突出した(S字型の)脊柱
側彎症であり、11歳の時にグローイングロッド(注3)の手術を受け、その後
11歳半、12歳の時にロッドの延長をした。このほかの所見として、手術後
の低カルシウム血症、低身長、便秘、持続性特発性血小板減少症があった。
超音波による腎臓検査結果は正常であり、両親の22q11.2欠失症候群の検
査結果には問題がなかった。
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この少年の複雑な経過が示すように、22q11.2欠失症候群の患者のケアに
当たる総合医と専門医を支えるために、臨床的で多系統にわたるガイドライ
ンが必要とされている。この疾患はまだあまり認知されていないが、出生前
診断を含めて検査は広がっている。さらに表現型のスペクトラム(症状の多様
性)は極めて幅が広く、患者の症状が出現して診断される年齢も様々であろ
う。そのため、専門家による国際パネルが作った最初のガイドラインでは、
最近利用可能な最善の方策に対するレコメンデーションを、特に小児期の発
達段階に起きる問題に焦点を当てながら、生涯にわたって示すことにした。
注1:それまでの妊娠、分娩が共に3回という意味。
注2:新生児の健康状態を表す指数。7点以上は正常。
注3:脊柱側彎症の手術法の1つ。
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背景
臨床的な認知度は低いものの、22q11欠失症候群は最もよくある染色体
の微小欠失による症候群であり(MIM #188400/#192430)、推計で40
00人に1人の割合で生まれている(1-3)。しかし、表現型に幅があるた
め、実際の発症率はもっと高いかもしれない(4)。一方、ダウン症候群は1
200人に1人の割合で生まれている(5)。22q11.2欠失はダウン症候群に
次いで2番目に多い発達の遅れと先天性心疾患の原因となっており、発達の
遅れの約2.4%(6)、ファロー四徴症の患者の約10∼15%を占める(7,8)。
22q11.2欠失は、ディジョージ症候群、口蓋帆・心臓・顔症候群(VCF
S)、円錐動脈幹異常顔貌症候群(CTAF)の患者の大部分と(9-14)、常染色体
優性遺伝のOpitz G/BBB 症候群とCayler心臓・顔症候群(注4)の一部に認
められてきた(15,16)。いくつもの疾患名で呼ばれていることは非常に理解
しにくいかもしれないが、診断名は元々臨床医たちによって命名され、彼ら
の専門領域の関心事に焦点が当てられたことを考えればもっともである。し
かし、FISH法が広く使われるようになって以降、この欠失のある患者はすべ
て染色体に起因する病気として言及されるようになった。22q11.2欠失症
候群である。
ヘミ接合の22q11.2欠失(2本の染色体のうち片方だけが欠失しているこ
と)のほとんどは、標準的な染色体分染法だけで同定するにはあまりにも微細
である。1992年以降、FISH法で、欠失領域のほとんどに共通なN25や
TUPLE1などのプローブを使うことで、一般の検査施設でも顕微鏡では見え
ない22q11.2欠失のある患者を同定することができるようになった。ほとん
どの患者(約85%)は、大きな(約3Mb)欠失があり、この領域に約45の機能
遺伝子を含んでいる。一方で、残りの患者には3Mbの欠失領域の中で、より
小さい範囲の非定型で 入れ子状 (注5)の欠失がある(27,28)。FISHは近接
した22q11.2欠失領域の1つの配列だけを対象にしている。少数の非定型な
欠失をしている場合は、一般的な検査として使われているFISHのプローブが
欠失領域に含まれないことがあるため(29)、この方法では同定できない患者
もいる。将来的には、CGHアレイ法やゲノムワイドのマイクロアレイ、MLPA
法など、どのサイズの欠失でも検出できる、より改良された検査法が大部分の
検査施設でFISH法にとって変わるだろう(30)。
22q11.2欠失の発生は、染色体22q11.2領域のゲノムの構造に関係してい
る。この領域には互いに相同性が高く、少ない数のDNA塩基の繰り返しが続
く「反復配列」があるため、特に染色体組換えの影響を受けやすくなってい
る。つまり、減数分裂の際に不等交差が生じ、その結果、異常な染色体間の組
み換え(非対立遺伝子相同組換え)が起こりやすい(31)。これらの反復配列が
通常の3Mbの22q11.2欠失領域の両端にあり、染色体の切断が起こりやす
い部位と決まっている。しかし、これらの反復配列に隣接していない場所が切
断されて欠失が発生する場合には、他の繰り返し配列の要素や、まだはっきり
していない染色体欠失発生のメカニズムによる可能性がある(32,33)。
医師が22q11.2欠失を疑う臨床的な特徴は、患者の年齢によって違うか
もしれない。しかし、この欠失のある患者は、一般に、以下に挙げる標準的
な所見のうち、2つ以上の特徴を示す。発達の遅れか学習障害のいずれかま
たは双方(17-19)、先天性心疾患、口蓋の異常、鼻の逆流と開鼻声のいずれ
かまたは双方、行動上の問題や精神科系疾患のいずれかまたは双方
(20,21)、免疫不全(22)、低カルシウム血症、特徴的な顔貌(写真)(23-26)
である。しかし、表現型(=症状)に顕著な個人差があり、特に古典的な所見
がない場合は診断されないことがある(34,35)。この多彩な表現型のため、
22q11.2欠失はゴールデンハー症候群など別の診断を受けている患者の中に
見つかることもある(4)。22q11.2欠失症候群の同定は、特に思春期、成人
期においては、しばしば熱心に疑って診なければいけないこともある
(23-25)。この症候群の患者の男女比は同じで性差はない(26)。
大部分の22q11.2欠失(90%超)は、両親には変異のない、孤発性のイベン
トとして見つかる(4,28)。しかし、患者の10%程度は、22q11.2欠失が親
のどちらかに認められる。親に認められる際の頻度は父母がほぼ同率である
(28,34)。表現型に大きな個人差があることと体細胞モザイク(欠失がリンパ
球など組織の一部のみにある)(注6)の可能性から(39)、すべての両親への検
査が推奨される。欠失が同定された場合は、適切なフォローアップと遺伝カウ
ンセリングを実施する(4,35)。
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死亡率については、ディジョージ症候群の患者についての初期の報告とは
違い、姑息的・準備的な心臓手術や免疫不全に対する医学的管理の進歩によ
って、22q11.2欠失症候群の乳児死亡率は現在、比較的低い(約4%)
(34)。しかし、全死亡率は一般人口調査との比較に基づくと、特に成人にお
いて高くなっているという報告もある(42)。
明らかに、どの年齢においても診断が確定することは大きく遺伝カウンセ
リングと患者の治療に影響を与える(4,25)。早期診断は、病気の進行に影響
を与え、結果を最適化するのに最善の機会を提供する。関連する症状への検
査と、それらの症状に対して連携した健康治療管理をしていくことで見通し
をもったケアができる(4,24,25)。今までのエビデンスによると、標準的な
治療が、先天性心疾患から甲状腺疾患、精神科系疾患に至るまで、症候群に
関連する疾患に対して有効であることが示唆されている(37)。すべての治療
戦略が適応されていくべきではあるが、22q11.2欠失症候群が多系統の疾患
であるという特質を考えた上で遂行される必要がある。専門的なクリニッ
ク、またはいわゆる「クリニカルセンター・オブ・エクセレンス(診療拠点病
院)」は、冒頭の症例で見られたように、親と治療にあたる臨床医の双方にサ
ポートを提供し、ピアサポートネットワークへのアクセスの手助けをするこ
とができる(23-25)。こうしたクリニックは、患者が直面する可能性と困難
に対する注意深いモニタリングを提供し、必要な時に適切な介入ができるよ
うにすることができる。22q11.2欠失症候群の多くの症例では症状は複雑
であり、通うことができ、費用の問題がないようであれば、我々はすべての
この症候群の人たちに定期的に包括的なケアセンターで評価を受けることを
推奨する。しかし、22q11.2欠失症候群の専門クリニックには限りがあ
る。このため、これらのガイドラインは、22q11.2欠失症候群の患者を診
療するプライマリーケアにあたる医師を支援するために作られた。
22q11.2欠失症候群は、症状が出現するかどうか、また出現した場合で
もその重症度に顕著な個人差のある、典型的な全身の多系統にわたる症候群
で(35)、同一家系内の患者でさえもその程度は違う(34)。さらに、1つの症
状が表れたからと言って、他の症状が出ることを予測することはできない。
しかも、これまでのところ、臨床的な表現型の違いと、22q11.2の欠失の
領域や程度の違いを関連づける確定的なデータはない(4,28)。このため、レ
コメンデーションの一部はすべての患者に関係するものの、個々の患者の年
齢、発達段階、一連の症状、重症度、治療の必要性などに応じた最善の治療
戦略を作っていく必要がある。例えば、冒頭に紹介した症例のように、乳児
期と就学前には、摂食障害、感染症、低カルシウム血症、心臓や口蓋の構造
異常などの標準的な症状があり、これらに付随して、言語、学習、そして発
達上の困難が生じるかもしれない。学童期には、親の心配はしばしば適切な
教育支援を探すことや、仲間との関係づくりを助けること、非特異的ではあ
るが活動を制限する足の痛み、脊柱側彎症、自己免疫疾患、低身長(時折、
成長ホルモンの欠失が原因で起きる)などの様々な医療上の問題に対処する
ことに移っていく。繰り返し起きる感染症は就学に影響するかもしれない。
子どもの成長につれ、2次的な心疾患の治療が必要になるかもしれない。思
春期や成人初期にはけいれんや治療可能な精神科系疾患のいずれかまたは双
方が、新たに発症するか、再発するかもしれない。成人期には、注目すべき
割合の人たちが就職先を見つけたり、通常の社会関係を築いたり、維持した
りするのに困難を感じている。さらに、生涯にわたり、この症候群に関連し
て新たな局所的あるいは全身性の症状が現れるかもしれない。これらは特に
22q11.2欠失症候群との関連が認識されていない時にはストレスの多いも
のになる(36)。
注4: Caylerという医師が報告した、先天性心疾患に非対称性の泣き
顔を合併した症候群。
注5: 大きな欠失の領域に含まれる範囲内での、互いにオーバーラップ
したり、していなかったりする小さな欠失がいくつかあること。
注6: 卵子や精子などの生殖細胞以外の体の細胞(体細胞)で、正常な
細胞と変異がある細胞がモザイク状にある場合を「体細胞モザイ
ク」、生殖細胞に正常な細胞と変異のある細胞がモザイク状にあ
る場合を「生殖細胞モザイク」と言う。両親の血液検査で、
22q11.2欠失がない場合、子どもに欠失が起きる確率は通常は 一般の集団に起きる確率と変わらないが、まれに、生殖細胞にだ け欠失がモザイク状にある場合があり、この場合は一般の集団よ り発症率が高くなることがある。
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方法
これらの2段階から作られたコンセンサス文書の草案は、2010年にイギ
リスのコベントリで開かれた国際的な22q11.2欠失症候群で、国や医療制
度の違い、専門分野によるバイアスを越えたものにするために、さらに検討
された。すべての診療ガイドラインと同様に、これらの初期のレコメンデー
ションはさらなるデータが利用可能になった時ごとに改訂されていくだろ
う。さらに、一部もしくは多くの臨床医は、コストや様々な診療体制その他
の理由で、すべての検査や評価を行うことはできないと思われる。多くのガ
イドラインと同様に、22q11.2欠失症候群に対して、見通しをもったケア
(たとえば、けいれん予防のための低カルシウム血症の検査と治療など)に対
する費用対効果に関して利用可能なデータはなかった。しかし、これらのガ
イドラインは、過度に完備し過ぎる傾向にあるかもしれないが、総合的に現
在、最善の治療と考えられるものを包括しようと努力しており、これによっ
て医療提供者に臨床的に明らかな起こり得る関連症状について気づいてもら
えるようにしている。
このガイドラインは2段階で作成された。最初に、2回の国際的な
22q11.2欠失症候群のコンセンサスミーティングが、2006年にフランスの
マルセイユで、2008年にオランダのユトレヒトで開催された。会合には15
超の国を代表する18の専門分野という広範囲の専門を持つ臨床医と研究者
が、フォーカスグループごとに会合を持ち、経験とデータに基づいた最善の
治療のレコメンデーションについて議論した。
続いて、特に健康管理に関する問題については、この複雑な症状に関する
文献は比較的限られたものしかないことを認識しつつも、239の臨床的に関
連のある論文に対するシステマティックレビューが、極力科学的なエビデン
スのあるコンセンサス・レコメンデーションを検証するために行われた
(38)。その結果、我々の知識が比較的初期の段階にある現段階では、事実上
すべての22q11.2欠失症候群に関するエビデンスレベルはⅢかⅣ(記述的な
研究、専門家の意見のいずれかまたは双方)であろうということになった
(43)。このため、個々のレコメンデーションに対して公式なグレードは提示
しなかった。
ガイドラインの概略
表1は、多系統の症状のうち一般的な症状と、頻度は低いが診断、フォロ
ーアップのいずれかまたは双方に影響の大きい症状を示した(25,35)。表1
では、健康管理の概観と、一般的に関与する診療科も示した。表2は診断時
からその後の発達段階ごとのレコメンデーションをまとめた。表3は患者の
ケアに携わるすべての臨床医が遭遇するかもしれない、重要な注意と考慮事
項をまとめた。これらは包括的な一般原則である。国際的に通用する実際的
なレコメンデーションを作ることに主眼を置いた。
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遺伝カウンセリング
このような患者の出生前診断には以下の選択肢がある。
①超音波診断や胎児の心エコー検査:非侵襲的ではあるが、22q11.2欠失
症候群に関連する先天的な形態異常しか検出できない。
②絨毛検査や羊水検査のいずれかまたは双方:これらは非常に確度が高い。
一方、妊娠前の選択肢は、体外受精後に着床前診断を行う方法や、第三者か
ら精子や卵子の提供を受け、これに出生前診断や着床前診断を追加すること
もある(4)。
22q11.2欠失症候群の遺伝カウンセリングは、有病率、病因、検査、症
状の個人差、治療や療育などの実際、出生前/妊娠前の診断のオプションな
どについて十分な説明を行う(4)。成人の一部、特により重度の子どもの患
者がいる場合は、特徴的な症状がごくわずかであっても欠失が見つかること
がある(34)。体細胞モザイクも報告されている(39)。このため、明らかな臨
床的所見がない場合でも、両親の検査をすることは、常に適切な再発のリス
クに対するカウンセリングに役立つ。生殖細胞モザイク(注6参照)がある場
合は、孤発性の子どもの親であっても、次子に再発するリスクが一般よりも
少し高くなる(40,41)。まれに、両親の双方に22q11.2欠失があったり、
家族性の単一遺伝子疾患やその他の孤発性の細胞遺伝学上の異常が併せて診
断されたりすることがある。こうした場合、22q11.2欠失の特徴の可能性
がある症状の評価やカウンセリングは複雑になる。さらに、まれに欠失が不
均衡の染色体転座の結果起きることがあり(10)、こうした場合もまた、再発
のリスクに対するカウンセリングに影響を与える。このため、カウンセリン
グをする者は事前に組み換えの可能性を排除しなければならない。
カウンセリングは、22q11.2欠失症候群について一般的にみられるもの
や、それぞれの発達段階に起こり得る症状についてのいずれか又は双方につ
いて、最新の情報を提供する(表1)。さらに健康治療管理についての戦略、
地域で活用できる資源、支援に関する情報が、患者、家族、そしてかかりつ
けの臨床医に提供されるべきである。
理想的には、遺伝カウンセリングはそれぞれのライフステージごとに繰り
返され、22q11.2欠失症候群についての最新の情報が提供され、質疑が行
われるのが望ましい。生殖に関する問題や、精神科系疾患のように、治療可
能であり、成人になって発症する症状が大きな課題となる、思春期や成人期
への移行期にはこのことは特に重要である(25)。
22q11.2欠失症候群の患者は、性別にかかわらず、他の常染色体優性遺伝
の患者と同様に、それぞれの妊娠で、この欠失のある子どもを持つ確率が
50%ある。しかし、この症候群の症状の個人差を考慮すると、子どもに表れ
る症状とその重症度を予測することは不可能である。
結論
総括すると、これらのガイドラインは現在利用可能な最善の治療に関する
レコメンデーションを患者の生涯にわたり、特に小児期に起こり得る問題に
焦点を当てながら提示したものである。これらのガイドラインは、新たな情
報が利用可能になった時点で改訂が必要である。
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付録
国際22q11.2欠失症候群コンソーシアムのメンバーは以下の通り;
Véronique Abadie, Jeremy Allgrove, Francesca Amati, Kate Baker, Adriane Baylis, Marie-Paule Beaujard, Frits Beemer, Maria Boers, Patrick
Bolton, Erik Boot, Sophie Brigstocke, Stephane Burtey, Linda Campbell, Melanie Chabloz, Eva Chow, Jill Clayton-Smith, Joseph Cubells,
Martin Debbané, Marie-Ange Delrue, Bert De Smedt, Sasja Duijff, Peggy Eicher, Beverly Emanuel, Laurens Evers, Astrid Flahault, Alex Forsythe,
Thierry Frebourg, Andy Gennery, Elizabeth Goldmuntz, Anne Gosling, Steven Handler, Damian Heine-Suñer, Aaron Hilmarsson, Annique Hogan,
Roel Hordijk, Sarah Howley, Elizabeth Illingworth, Oksana Jackson, Hillary Joyce, Hiroshi Kawame, Robert Kelly, Alexandra Kemp, Lucas Kempf,
J.L.L. Kimpen, Richard Kirschner, Petra Klaassen, Dinakantha Kumararatne, Michelle Lambert, Kari Lima, Elizabeth Lindsay, Silvia Macerola,
Merav Burg Malki, Sandrine Marlin, Maria Mascarenhas, Stephen Monks, Veronica Moran, Bernice Morrow, Ed Moss, Clodagh Murphy, Nitha Naqvi,
Bent Windelborg Nielsen, Lena Niklasson, Hilde Nordgarden, C.E. Oenema-Mostert, Marie-Christine Ottet, Catherine Pasca, Patrick Pasquariello,
Christina Persson, Marie-France Portnoi, Sarah Prasad, Kimberly Rockers, Sulagna Saitta, Peter Scambler, Marie Schaer, Maude Schneider,
Debbie Sell, Cindy Solot, Brian Sommerlad, Nancy Unanue, Frederick Sundram, Katrijn Van Aken, Therese van Amelsvoort, Aebele Mink van der
Molen, Josine Widdershoven, and Elaine H. Zackai.
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9
12年12月28日金曜日
表1 22q11.2欠失症候群の多系統の症状
関連する期間年齢時期
頻度の高い症状
(注1)
一般的な遺伝的特徴
出生前
乳児∼ 10代∼
小児
成人
健康管理
頻度の低い症状の例 標準的
(注2)



・流産または死亡



・血管輪
・大動脈基部拡張
・不整脈



・喉頭横隔膜症
・気管食道瘻
・食道閉鎖症
・副耳、耳介前小孔
・小耳症、無耳症


・IgA欠損症
・重度の免疫不全
(0.5-1%)
な治療
特別な配慮・注意
(注3)
)
・遺伝カウンセリング

・特徴的な顔立ち(>90%の症例) (注4)
・複数の先天異常
・医療的管理
・婦人科の診察、避妊相談
一般的に関与する専門家
(家庭医、小児科医、一般 内科医、放射線科に加えて)
・臨床遺伝医
・産婦人科
・学習障害/精神遅滞/発達の遅れ(90%)
・羊水過多(16%)
心血管系(円錐動脈幹/その他)
・先天性心疾患(軽度含む) (50-75%)
・要手術(30-40%)
口蓋関連
・開鼻声(泣き声)、鼻の逆流
(いずれかまたは双方)
・鼻咽腔閉鎖不全 粘膜下口蓋裂(粘膜下で
ない口蓋裂、口唇裂はより頻度が少ない)

・心エコー
・心臓血管外科
・乳児手術用放射線照射血 ・循環器科
液製剤
・カルシウムレベル
・言語療法
・口蓋手術
・言語病理
・形成外科/口蓋裂チーム
・耳鼻咽喉科
・聴覚科
・慢性中耳炎、滲出性中耳炎
(いずれかまたは双方)
・感音性難聴、伝音性難聴
(いずれかまたは双方) (30-50%)
免疫関連(注5)
・反復性感染(35-40%)
・T細胞低下、T細胞機能障害
(いずれかまたは双方)
・自己免疫疾患
10
12年12月28日金曜日

・インフルエンザ予防接種 ・免疫科
・乳児への特別なプロトコ ・リウマチ科
ール(注5)
・耳鼻咽喉科
・アレルギー科
・呼吸器科
関連する期間年齢時期
頻度の高い症状
(注1)
健康管理
頻度の低い症状の例
出生前
内分泌
乳児∼ 10代∼
小児
成人
(注2)
標準的
な治療
特別な配慮・注意
(注3)
)
・ビタミンDとカルシウム
一般的に関与する専門家
(家庭医、小児科医、一般 内科医、放射線科に加えて)


・成長ホルモン欠乏
症
・2型糖尿病


・誤嚥
・鎖肛
・腸回転異常
・ヒルシュスプラン
グ病
・横隔膜ヘルニア

・経管栄養
・(胃ろう造設術)
・消化器科
・一般外科
・摂食チーム
・呼吸器科
・エコー源性腎、腎
形成不全
・重複腎
・水腎症
・尿道下裂
・停留睾丸
・子宮欠損症
・腎石灰沈着症

・超音波
・移植
・泌尿器科
・腎臓内科
・婦人科
・放射線科
・角膜効果
・欠損
・眼瞼下垂症

・目の検査
・眼科
・頸髄圧迫
・頭蓋骨癒合症
・上肢/下肢の軸前
軸後多指症

・放射線写真
・装具
・整形外科 ・理学療法
・神経外科
・放射線科
・一般外科
・手外科
・低カルシウム血症、副甲状腺機能低下症
(いずれかまたは双方) (>60%)

・甲状腺機能低下症(20%)、甲状腺機能亢
進症(5%)
の補給(注6)
・成長ホルモン
・食事、運動のカウンセリ
ング
・内分泌科
・栄養士
・肥満(35%、成人)
消化器系

・胃食道逆流
・運動障害、嚥下障害(35%)
・便秘
・胆石症(20%)
・臍帯/鼠径ヘルニア
泌尿器生殖器
・尿路形態異常(31%)
・排尿障害(11%)
・片側腎無形成(10%)
・多嚢胞性異形成腎(10%)

眼科系
・斜視(15%)
・屈折異常症
・後部胎生環、網膜血管蛇行(注7)
骨格系
・脊柱側弯症(45%;要手術6%)
・頸椎異常、胸部蝶形椎体
・小児期の特発性下肢痛



・仙骨部皮膚洞
11
12年12月28日金曜日
関連する期間年齢時期
頻度の高い症状
(注1)
頻度の低い症状の例
出生前
血液•腫瘍系
・血小板減少症(30%)
乳児∼ 10代∼
小児
成人
神経系
・反復性けいれん
(家庭医、小児科医、一般 内科医、放射線科に加えて)
・特発性血小板減少
症
・ベルナール・スリ
エ症
・自己免疫性好中球
減少症
・白血病、リンパ
腫、肝芽腫

・サーベイランス


・多小脳回
・小脳異常
・神経管欠損症
・腹性片頭痛

・カルシウム、マグネシウ ・神経内科
ムレベル
・脳波測定
・MRI



・早期介入
・サインランゲージ
・教育支援
・職業のカウンセリング
・小児発達科
・音声言語病理学
・作業/理学療法
・神経心理学
・教育心理学



・サーベイランス
・標準治療
・精神科
・小児発達科
・非誘発性てんかん(5%)
・成長障害
特別な配慮・注意
一般的に関与する専門家

(しばしば低カルシウム血症を伴う)(40%)

(注2)
標準的
な治療
(注3)

・脾腫(10%)
成長・発達
健康管理
・運動、言語の遅れ
(いずれかまたは双方) (>90%)
・学習障害(>90%)、精神遅滞(∼35%)
・低身長(20%)
神経精神疾患
・様々な精神科に関わる症状
(60%、成人) (注8)
・小児期の疾患
(注意欠損障害、自閉症スペクトラムなど)
・不安・抑うつ障害
・統合失調症その他の関連精神病(>20%)
12
12年12月28日金曜日
関連する期間年齢時期
頻度の高い症状
(注1)
健康管理
頻度の低い症状の例
出生前
その他
・非感染性呼吸器病(10-20%)
乳児∼ 10代∼
小児
成人

(注2)

標準的
な治療
(注3)

・脂漏症または皮膚炎(35%)、重度のにき
び(25%)
・膝蓋骨脱臼(10%)
・歯科的問題-エナメル質形成不全/慢性的
な虫歯
特別な配慮・注意
一般的に関与する専門家
(家庭医、小児科医、一般 内科医、放射線科に加えて)
・呼吸器科/肺/麻酔科・
神経外科
・皮膚科
・リウマチ科
・整形外科
・歯科
・血管外科
・静脈瘤(10%)
注1:( )内の数値は、22q11.2欠失症候群の生涯有病率の推計で、症例がどのように判明したかと患者の年齢によって実際の割合は異なる。
記述された特徴は、有病率が1%を超えるもので、一般人口の推計より有意に高い。
注2:より頻度の低い22q11.2欠失症候群の特徴を選んで記載した(一部、恣意的なものである)。
積極的な治療を必要とするものを強調した。
注3:それぞれの状態に照らして標準的なサーベイランス、調査研究、健康管理を行う。
注4:特徴的な顔貌は、面長の顔、平たいほお骨、はれぼったいまぶた、丸い鼻先でチューブ状の鼻、鼻翼形成不全、鼻のくぼみまたはひだ、
小さな口、薄く、褶曲またはくしゃくしゃした耳輪のある小さく突出した耳、非対称の泣き顔など。
注5:乳児のみ:感染への暴露を最小限にする。初期には生ワクチンを控える。サイトメガロウイルス陰性の放射線照射血液製剤。
インフルエンザワクチン接種。RSウイルスの予防。
注6:低カルシウム血症、副甲状腺機能低下症を認める場合、ビタミンD補充はすべての患者に行う。
低カルシウム血症や相対的または絶対的副甲状腺機能低下症のいずれかまたは双方の患者は、内分泌科医の診察下でホルモン型
(カルシトリオールなど)の処方が必要な場合がある。
注7:診断目的で重要になる可能性がある。
注8:ADHD、自閉症スペクトラム、不安障害など、軽いもの、治療可能なものも含めてすべての精神科で診断する疾患が含まれる。
13
12年12月28日金曜日
表2 22q11.2欠失症候群で推奨される評価項目(注1)
評価項目
診断時
乳幼児
就学前
学童期
思春期
成人期
(0-12ヵ月)
(1-5歳)
(6-11歳)
(12-18歳)
(>18歳)













カルシウムイオン、副甲状腺ホルモン(注2)

甲状腺刺激ホルモン(注2)

全血球数、血球分類(毎年)


免疫学的評価(注3)


眼科

口蓋評価(注5)



聴覚



頸椎(>4歳)


脊柱側彎症の検査


(注4)



歯科評価
腎臓超音波検査

心電図

心エコー

発達(注7)


精神/感情/行動(注8)

全身の健康チェック

両親の染色体検査

遺伝カウンセリング (注9)




婦人科、避妊相談
14
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(注6)
























学業
社会性/機能性
(注4)
注1:これらのレコメンデーションは2010年時点のものである。それぞれのチェック項目(レ)は、上記と下記に示したものを除き、1回の評価と
する。我々は過剰に含める傾向があり、各施設での実施状況はそれぞれ異なる。
注2:カルシウムの検査は乳児期には3∼6か月ごと、小児期は5年ごと、それ以降は1、2年ごとに1回行う。甲状腺検査は毎年行う。
手術前後、妊娠中はカルシウムの検査を行う。
注3:全血球数、血球分類に加え、新生児ではフローサイトメトリーを、9∼12か月(生ワクチン接種前)にはフローサイトメトリーと免疫グロブ
リン、T細胞機能を検査する。臨床的所見のない症例に対し、どの程度免疫学的精密検査が必要かは専門家の間でも意見が分かれる。
注4:生ワクチン接種前に免疫機能の評価を行う(注3参照)。
注5:乳児期は口蓋の可視化と摂食障害、鼻への逆流のいずれか又は双方の評価を行う。幼児期から成人にかけては鼻声の質の評価を行う。
注6:異常を検出するための頸椎の画像は、前部/後部、側面、伸展、開口部、頭蓋底である。定期的な画像診断の推奨度は専門家によって意見が
分かれる。脊髄圧迫の症状は緊急な神経科への照会が必要である。
注7:動作及び発語/言語の遅れは一般的である。どのような遅れも迅速に早期介入(早期療育)を開始することが最善の結果を得ることにつながる。
注8:行動や感情の状態、思考などの変化や幻覚、妄想にも用心する。10代から成人にかけては、リスク要因となる行動も含めた評価も行う
(性的活動、アルコール/ドラッグの使用など)。
注9:詳細は本文参照のこと。
表3 22q11.2欠失症候群患者への重要な注意、考慮事項
症状
誤嚥性肺炎
自律神経機能障害
対処案
予防策として、吸引と呼吸リハビリが必要になる場合がある。食べ物を細かくすると良い場合
もある。経管栄養がしばしば必要になる。
周術期、手術後、大きな生物学的ストレス(感染時、大きな医療上の危機など)がかかった時には
注意深くモニタリングをする。必要な支援を準備しておく。
すべてのタイプの手術合併症がほかの患者に比べてやや高い
周術期、手術後のカルシウムイオン、酸素レベルなどを注意深くモニタリングする。小さな挿管
(出血、無気肺、けいれん、挿管困難)
器具の利用。
内腔が狭い(気道、脊柱管、外耳道など)
より小さい挿管器具が必要になることがある。定期的な耳洗浄がしばしば聴力を上げるために
必要になる。
解剖学的異常(全身どこでも)
手術前に事前の調査と考慮をする。
血管の解剖学的異常
咽頭形成術の前にはMRアンギオを考慮。
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表3 22q11.2欠失症候群患者への重要な注意、考慮事項
症状
対処案
アデノイド切除が鼻咽腔閉鎖機能不全を悪化させることがある
リスクと効果を考慮。
後部咽頭皮弁への介入が睡眠時無呼吸を引き起こすかもしれない
リスクと効果を考慮。
生物学的ストレス(手術、感染、やけど、分娩前後など)がかか
カルシウムイオンのレベルをモニターする。ビタミンDの増量、カルシウム治療のいずれかまた
ると低カルシウム血症のリスクが上がる
は双方を考慮。
低カルシウム血症の増悪因子(アルコール、炭酸飲料、膵炎など)
低カルシウム血症の治療で腎石灰沈着症が起きる可能性がある
アルコールや炭酸飲料の摂取を最小限に抑える。膵炎に気をつける。カルシウムのレベルを頻回
に検査する。
治療中、注意深く検査をする。
ミオクローヌス、欠神、明らかなぎこちなさ/酔ったような動きを伴う全身性のけいれん、集
けいれん体質
中力の低下をそれぞれ考慮。低カルシウムとマグネシウムのレベルを検査し、適切な治療を行
う。補助薬として抗けいれん薬を考慮、けいれんの閾値を低下させる他の治療薬を考慮(クロ
ザピンやその他の向精神薬など)。
カフェイン過敏性
カフェインの摂取を減らす。特にコーラ、 エネルギー 飲料、コーヒー。不安、興奮、不穏の誘
発因子として考慮する。
必要な支援を提供した上で、定型児より発達が緩やかで、能力が徐々に変化していくことを予
構造上、機能上、すべての局面での発達についての遅れ
測することは、フラストレーションを減らし、能力を最大限に伸ばすことに役立つ。周囲の環
境から得られるもの、要求されるものと、患者の社会的能力、認知能力が良く適合すること
が、慢性的なストレスと搾取のリスクを最小限に抑える。
睡眠の重要性
安定した環境、ルーチン、確実性、単調さの重要性
便秘
すべてのタイプの嚢胞を作る傾向
妊娠合併症
早寝の習慣と同年齢の人よりも長く寝ることが易刺激性を鎮め、学習や機能の向上に役立つ。
より安定で変化の少ないよう環境調整をすることが不安とフラストレーションの軽減に役立
つ。
話せる子どもはもちろん、特に話せない子どもは興奮、痛みのいずれかまたは双方の原因とな
ることを考慮する。日常的な手段。水分、運動、繊維、排便習慣など。
定期的検査。
個々の患者の関連症状とリスクに照らし合わせて生物学的ストレス要因として考慮する(低カ
ルシウム血症、成人の先天性心臓病、精神疾患、けいれん体質、社会的状況など)。
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