半島有事1 - C NOVELS.com

半島有事1
潜入コマンド蜂起
大石英司
Eiji Oishi
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挿
画
安 田 忠 幸
地
図
山 影 麻 奈
DTP
平 面 惑 星
目 次
プロローグ
第一章 ブラックアウト
第二章 釜山へ
第三章 レギオン作戦
第四章 翻る旗の下に
第五章 義勇兵
第六章 逃避行
第七章 先遣部隊
第八章 ミグ対イーグル
13
23
44
72
212 185 158 130 100
登場人物紹介
朝鮮民主主義人民共和国
人民武力省
ホ ヨン ウ
許 英 宇 陸軍少将。人民武力省・総参謀部部長。
ホントン ス
洪 東 秀 大尉。
日本
内閣
まえはらたけし
前 原 健 防衛大臣。
うるしばらえいすけ
漆 原 英 資 官房副長官。
大使館(韓国)
あかさかひろ し
赤 坂 博 士 駐韓国日本大使。
海上保安庁
むら い たつ お
村 井 達 雄 二等海上保安正。巡視艇“なつぐも”PC109艇長。
む た ぞのしん じ
牟田 園 慎 司 二等海上保安正。新鋭巡視艇“やえぐも”PC108艇長。
海上自衛隊
あすか だ あきら
飛鳥田 晃 海将。海上幕僚長。
まつくにとしかつ
松 国 俊 克 海将。海上自衛隊護衛艦隊司令官。
きたがわたく や
北 川 卓 也 三佐。第二二航空群第二二航空隊第二二一飛行隊。SH‐60
K哨戒ヘリの編隊長。コードネーム:ブラック・スワン。
あいかわ さ なえ
相 川 早苗 一尉。SH‐60 K哨戒ヘリ編隊長機副操縦士。
よこみぞかつみ
横 溝 克 二曹。SH‐60 K哨戒ヘリ編隊長機対潜員。
航空自衛隊
さかまきしょう た ろう
坂 巻 昇 太郎 空将。航空幕僚長。
き うちてる み
城 内 照 美 三佐。航空幕僚監部情報資料隊。レポート「竹島外患」執筆者。
かたおかゆう じ
片 岡 裕 司 空将補。西部航空方面隊築城基地司令。
いずみ たけし
和泉 剛 二佐。西部航空方面隊築城基地第八航空団第三〇四飛行隊隊長。
ゆずけいぞう
柚 啓 蔵 二佐。西部航空方面隊築城基地第六飛行隊隊長。
陸上自衛隊
さ こん じ あきら
左 近 寺 晃 陸将。陸上幕僚長。
やまもとひろし
山 本 博 陸将。第七機甲師団・師団長。コードネーム:カムイハル。
かしわばらみのる
柏 原 實 二尉。裏街道専門の陸自情報官。城内の便宜上の部下。
み むらたいぞう
三 村 泰 藏 一佐。防衛駐在武官(韓国)
。
[特殊部隊サイレント・コア]
おとなしせい じ
音 無 誠 次 二佐。特殊部隊〈サイレント・コア〉隊長。コードネーム:
ビショップ。
〈サイレント・コア土門小隊〉
ど もん こう へい
土 門 康 平 三佐。マイホームパパを自認する小隊長。コードネーム:プ
リースト。
おおしろまさひこ
大 城 雅 彦 二曹。土門のパパ仲間。コードネーム:キャッスル。
まち だ はる お
待 田 晴 郎 三曹。地図読みのベテラン。コードネーム:ガル。
にしかわしんすけ
ワイヤー
西 川 新 介 三曹。種子島出身。西普連隊員だが、サイレント・コアでの
研修経験があり、ゲストとして作戦に参加。コードネーム:トッピー。
た ぐちしん た
田 口 芯 太 士長。沈着冷静な狙撃兵。コードネーム:リザード。
ひ が ひろ み
比嘉 博 実 一士。ドンパチ好きのオキナワン。コードネーム:ヤンバル。
あねこう じ さねあつ
姉 小 路 実 篤 一士。総合商社の敏腕駐在員を父に持つ。コードネーム:
ボーンズ。
〈サイレント・コア司馬小隊〉
し ば ひかる
司馬 光 三佐。紅一点にして最強の小隊長。コードネーム:ウィッチ。
うるし ばら たけ とみ
漆 原 武 富 一曹。西普連から異動してきた分隊長。コードネーム:バ
レル。
ふくとめだん
福 留 弾 三曹。部隊のまとめ役。コードネーム:チェスト。
ゆ ら しん じ
由良 慎 司 士長。漆原が西普連から連れてきた狙撃兵。目標は田口。コ
ードネーム:ニードル。
い い かける
井伊 翔 士長。工専出身で、部隊のシステム屋。リベット萌え。コード
ネーム:リベット。
その他
どうもとはじめ
堂 本 肇 対馬市役所秘書課主事。
韓国
政府
イ トンジュ
李 東 柱 大統領。
オ ドンヨル
呉 銅 烈 首席補佐官。大統領の右腕。陸軍出身。
韓国大使館(日本)
チョンチョルファン
全 哲 煥 海軍少将。駐在武官。
チェドゥギュン
崔 斗 均 空軍中佐。駐在武官。
領事館(日本)
サン ハヌイ
尚 漢威 海軍少佐。韓国領事館二等書記官。
陸軍
チョン ヒ チョル
鄭 希 哲 准将。旅団長。
カンチェ ハ
姜 彩 夏 大尉。
キムドン グ
金 東 国 大尉。威力偵察部隊隊長。
チョ テ ビョン
趙 泰 平 元士(准尉)
。ベテランのスポッター。
イムチョン ス
林 天 秀 中佐。戦車部隊の指揮官。
アン ブ ギョン
安 富 競 少佐。叩き上げ。コードネーム:タイガー・ツー。
ユンビョンホン
尹 炳 憲 上等兵。狙撃手。
[憲兵隊]
コンジョンセン
孔 正 生 大尉。
ク ソンヨン
具 誠 庸 伍長。
[第五三師団威力偵察中隊]
タンギョン ホ
段 京 浩 大尉。
海軍
[
“世宗大王”
]
チェチョン ス
セ ジョン テ ワン
崔 天 秀 大佐。韓国海軍初のイージス駆逐艦“世 宗 大王”艦長。
パクヨンピョ
セ ジョン テ ワン
朴 栄 杓 中佐。
“世 宗 大王”副長。
ホン ジ ソン
セ ジョン テ ワン
洪 知星 中尉。
“世 宗 大王”副官。
[海軍海兵隊]
コ ジェヨン
高 在 容 大佐。第一海兵師団第七連隊連隊長。
キムヨンファン
金 栄 煥 中佐。海兵隊。父は与党の大物政治家で、妻は女優。
アンジェホン
安 在 憲 少佐。第七連隊作戦参謀。
チョン ギ ファン
田 基 煥 少佐。第一海兵師団第一連隊。本来は経理将校。
シンシン ス
申 信 守 大尉。分隊長。ベテランの職業軍人。ケナリ。
ファンインチョル
黄 仁 哲 大尉。第一海兵師団第一連隊。
チョンヨンジュン
全 勇 俊 一等兵。
イ イルヒョン
李 一 鉉 二等兵。プロ入り目前だった野球選手。
空軍
キムジャンウン
金 長 雲 少将。大邸第一一戦闘航空団司令。
義勇兵
ムンヒョンシク
ホンシン
文 玄 植 中佐。義勇兵の小隊を指揮する。鴻星グループ東京支店の課長。
ホンサン ス
ホンシン
鴻 常 樹 陸軍大尉。小隊長。鴻 星 財閥の跡取りで鴻星グループの東京支
店長。
あきけいいち チュギョンイル
秋 慶 一(秋 慶 一)
曹長。日本人。元自衛官。
カム ミ ナ
甘 美那 伍長。元看護師。
その他
ホンヨンソク
鴻 永 石 鴻星財閥の取締役。財閥オーナーの弟で、実質ナンバー2。
ハ スン ギ
河 勝 基 元海兵隊中佐。韓国戦術行動会社(KTAC)社員。
チェジュニク
崔 俊 益 韓国では有名なゲーム長者。海兵隊のスパイでもある。
ナム ミ ヨン
南 美妍 韓国MBS放送の記者。東京特派員。
イ ジェジュン
李 在 俊 カメラマン。
大韓民国全図
北 朝 鮮
平壌
38度線
春川
仁川
江稜
島
原州
水原
烏山
大韓民国
扶余
群山
安東
大田
大邱
全州
浦項
慶州
蔚山
馬山
馬山
光州
木浦
釜山
釜山港
麗水
対馬
小呂島
済州島
壱岐島
日本
仁田拡大図
亀 岳
382
仁田局
樫滝橋
海上自衛隊
上対馬警備所
佐須奈湾
通学橋
仁田小学校
比田勝港
佐須奈港 178
56
382
上県町
志多留
久原
39
太田隈山
上対馬町
180
伊奈崎 伊奈
御園
仁田湾
新弓張
丹志佐須奈線
念仏坂
国道382号線
下里橋
仁田中学校
市民
航空自衛隊
海栗島分屯基地
海栗島
目保呂
亀 岳
仁田
56
高野山
梶木山
48
峰町
三根湾
卯麦
二位港
県道232号線
鼻
横浦
美津島北部小学校
大口瀬戸
浅茅湾
万関橋
鶏知局
小浦
鶏知
黒島
対馬空港
鶏知
中山
厳原
池 浦鼻
中対馬病院
根緒坂
陸上自衛隊対馬駐屯地
(対馬警備隊)
国崎
三浦湾
美津島町
浅茅
浅見中学校
浅茅山
海上自衛隊対馬防備隊本部
厳原中学校
新濃部
232
加志々中学校
口
塩浦小学校
豊玉町
仁位
対馬市役所
対馬海上保安部
厳原町
厳原港
中対馬病院
海上自衛隊
下対馬警備所
対馬拡大図
半島有事1 潜入コマンド蜂起
プロローグ
ホ ヨン ウ
犠牲になるのは悲しいことだ。とりわけ十代の子
人民武力省・総参謀部部長の許英宇陸軍少将は、 を想像するといたたまれない。何にせよ、若者が
ミョン ドン
明 洞近くにある工事中のペンシルビル一〇階の
まで響いてきた。ビルの谷間に谺している。
こだま
うに吹き飛ばされた。少し遅れて、銃声が許の元
やがて、その少女の集団が、まるで弾かれたよ
に取り組んでくれれば良かったのだが、と思った。
こんな事態を招く前に、もっと南が真剣に援助
窓から、ソウル中央郵便局方向を見下ろしていた。 どもたちが犠牲になるのは。
ソウルではよく知られた中堅ゼネコンの作業服
た。
に身を包み、作業用の安全ヘルメットを被ってい
一人、血を流しながら郵便局の入り口に横たわっ
双眼鏡の先には、女子高生風の身なりの少女が
地好い響きだ。まるで母の胎内に戻ったかのよう
AK、カラシニコフの銃撃音だ。あまりにも心
オモニ
ている。それを両手を血だらけにした友人ら数名
ピョン ヤン
地面に斃れた少女が、路上に散らばった自分の
たお
な安らぎを覚える。
が、途方にくれ泣き叫びながら介抱していた。
で下ろした。自分の娘たちが、あんな目に遭う姿
許は、ここが 平 壌でなくて良かったと胸をな
プロローグ
13
だ。
臓物を掻き集めようと足掻いていた。無残な光景
﹁はい、将軍﹂
恐怖を蔓延させることだ﹂
﹁うん。あとは、あちこちに火を放って撤収する。
﹁ただちに ―
。明洞の破壊はこのくらいでよろ
しいですか?﹂
への攻撃は控えよと。中国大使館が近い﹂
戦闘機の爆音も聞こえない。この偉大な街ソウル
三〇分以内に撤収し、乙支路へ向かうぞ。しかし
街に灯りは無く、車のエンジン音も、もちろん
が深い眠りに就こうとしている。それは悲しい現
惜しいことになったな⋮⋮﹂
ロ
実だった。
﹁は?﹂
ウル チ
﹁間もなく、KBSが放送を終了する模様です。
﹁ラジオはどうか?﹂
がな。やはり女の子は歯並びが第一だ﹂
頃で。ぜひ平壌に招待して娘の歯を治したかった
掛かっているだろう。腕が良いそうだ。値段も手
﹁ほら、あそこ⋮⋮。日本語の審美歯科の看板が
大尉が怪訝そうに聞き返した。
﹁ 慶 州の放送局がまだ電波を発しています﹂
﹁はあ。しかし、南がわれわれのものになれば、
キョンジュ
﹁いかんな。釜山より北に近いのに撃ち漏らすと
その手の治療はいつでも出来ようかと﹂
プ サン
めに必要なことは、情報を遮断し、民衆に素早く
は。一刻も早く黙らせろ。堕落した体制を倒すた
ら報告した。
携帯テレビに見入っていた洪東秀大尉が背後か
ホントン ス
自家発電のバッテリーが尽きると言っています﹂
夕暮れが迫っている。
あれほど賑わっていた明洞に人影はもはや無く、 ﹁それと、下の連中に命じよ。現状から南東方向
14
韓国軍のK2ライフルだ。四挺か、あるいはもう
また銃撃音が響いてくる。今度はAKではない。
だけの結果を出してもらわねばならなかった。
本主義というシステムは、それを知っている連中
少し撃っていた。だが、やがてRPGロケット弾
﹁南韓がわれわれのものに? ぞっとするね。資
良いよ。しかし、略奪の限りを尽くせば、彼らは
に委ねるに限る。われわれは上がりさえ貰えれば
音だ。
の爆発音と共に沈黙した。そしてまたAKの射撃
かいじん
廃墟と灰燼の中からまた不死鳥の如く立ち上がる
突発事態が千ばかりあった。たとえば、軍は押さ
作戦はまあまあうまく運んでいる。恐れていた
だろう。それが南韓同胞の逞しさだ﹂
人が飛び出してくる。少女達を助けようと郵便局
えたが、兵士を乗せた消防や警察のヘリが飛び回
地下鉄の入り口から、ネクタイを締めた男性二
方向へ通りを横断しようとしたが、次々に撃たれ
る事態や、あるいは、放送局に立てこもった軍が
速度を超えて予備役が動き出す可能性など。だが、
頑強に抵抗する事態。はたまた、こちらの展開
て、大通りの真ん中に転がった。
ここソウルに関してはすべて杞憂に終わった。
我が部下ながら良い腕だ⋮⋮。と少将は胸の内
間人など、目を瞑っていても当てて当然だ。もち
軍も民間防衛も疲弊し、日本との対馬を巡る下ら
幸いなことに、韓国軍は長年の平和に浸りきり、
で部下を称えた。もっとも、銃を持っていない民
ろん、この勇敢な南韓同胞も称えなければならな
ない小競り合いで厭戦気分まで漂っていた。こち
いだろう。
らの打撃作戦はうまく運んだ。まるで天佑だ。首
てんゆう
だけの時間と予算が投じられている。当然、それ
しかし、わが軍の特殊部隊兵の養成には、それ
プロローグ
15
領様の天国からの導きにより⋮⋮、と平壌に打電
は、韓国軍兵士の野戦服を着ていた。 鍾 路区の
国軍兵士の二人は、しかし背広姿で、逆に日本人
チョン ノ
せねばなるまい。
大使館から脱出するには、そうするしかなかった
じゅう りん
明日、朝日が昇る頃には、この街はわが軍の戦
のだ。暴徒は、彼ら憲兵隊のバリケードをあっと
だ
車に支配され、 蹂 躙されているだろう。作戦と
いう間に突破して大使館に雪崩れ込み、片っ端か
息は確かめようもなかった。助かったとは思えな
い。暴徒にしてみれば、事実や真相などどうでも
何人か大使館職員が人質に取られたが、その消
良いのだ。関東大震災における朝鮮人虐殺の復讐
灰燼と化すのだ。娘のために、どこかのギフト・
⋮⋮。
みたいなものだ。
﹁済まなかった、大尉。君の部下を犠牲にした﹂
ハンガン
りゅう ちょう
赤坂博士駐韓国日本大使と防衛駐在武官の三村
大使が、 流 暢 な朝鮮語で話しかけると、ハン
み むら
泰藏陸上自衛隊一佐を載せたヒュンダイのセダン
ら、大使閣下⋮⋮﹂と口を開いた。
ドルを握る大尉は、強ばった表情で﹁任務ですか
たい ぞう
は、漢江に掛かる永東大橋の手前で足止めを食ら
盾となった。どこから持ち出してきたのか、ピス
私服姿の彼ら二人を装甲車に乗せる時、部下が
セン
生大尉で、部下の伍長が助手席に座っている。韓
ハンドルを握るのは、韓国陸軍憲兵隊の孔 正
コンジョン
っていた。
あかさかひろ し
将軍は思った。売り子がまだ居てくれれば良いが
ショップで、絵はがきを十枚ほど買って帰ろうと
この美しくも活気に満ち溢れた街から人が消え、 ら備品を破壊し、火を点けていった。
な
はいえ、それは実に残念なことだった。
16
17
プロローグ
くずお
トルが乱射され、数名の部下がその場に頽れた。
二人の日本人脱出は間一髪だった。
ているのだ。
﹁さて困りましたな⋮⋮﹂
フルが一挺置いてある。三村は、辛うじて持ち出
せた非常持ち出し用のザックを胸に抱いていた。
三村が困惑した表情で言った。床にはK2ライ
﹁大佐殿、そのK2にはマガジンが装填してあり
ないかな。邦人もまだ川のこちら側に大勢取り残
されていることだし﹂と、大使は渋滞に巻き込ま
﹁やはり、漢江を渡るのは諦めた方が良いのじゃ
れた車内で呟いた。
ますか?﹂
大尉が前方を見遣ったまま尋ねた。
ぶんこれだな。入っている﹂と三村が朝鮮語で応
﹁ええと、マガジンというのは、これか⋮⋮、た
する機会を永遠になくします! ソウル市民の一
﹁閣下、今、ここを渡らなければ、ソウルを脱出
定数は、自衛隊が攻め込んで来たと思っているん
かくらん
という視線で三村を見た。
﹁そんな目で見ないで下さい。自分は武官であっ
大使がおいおい
じる。
ですよ﹂
﹁ああ、敵ながら、北の撹乱作戦は見事だ﹂
クラクションがひっきりなしに鳴らされ、渋滞
と怒鳴っているのだ。野戦服姿の日本人に怒鳴っ
﹁ま、敵と撃ち合うような機会はないさ﹂と大使。
タイヤがパンクする音、フロントガラスが砕ける
解していた。
﹁軍人ならさっさと交通整理しろ!﹂ だが突然、前方でババッ! と連射音が響いた。
大使も三村一佐も、その怒号の意味を完全に理
隣の車のドライバーが窓を開けて怒鳴っている。 て、兵隊は防大を出た時に卒業したままですよ﹂
の車列には殺気だった気配が満ちていた。
⁉
18
﹁伏せて!﹂と大尉が叫んだ。バックシートの二
音が響く。
﹁三村君、君鉄砲なんか撃てないんだろう ﹂と
うにピストルを右手に持って外に出た。
﹁大尉、あれK2の発砲音だよな?﹂と三村が尋
人は、慌てて前屈みになる。
めて車外に出て下さい。われわれの後ろに隠れて
﹁大使、その格好で隠れているのは拙いです。せ
大使が呼びかける。
まず
ねた。
いれば無事ですから。たぶん ―
﹂
っては、彼は日本国大使ではなく、憲兵隊の大尉
仕方なく、大使も外に出た。周りの民間人にと
は何人いるのか想像もつかなかった。前方に四駆
AKの銃撃音が段々近づいてくる。いったい敵
でしかない。
﹁無い! 本当は無いことになっているが、ピス
行くぞ伍長﹂
ク ソンヨン
﹁こんな所で発砲したら民間人を誤射するぞ!﹂
ためら
じた。伍長はピストルしか持っていなかった。だ
二人が車外に出る。三村も、まるで釣られるよ
ざっと視界に入るだけで、五〇台は車が数珠つ
じゅず
﹁大丈夫、誰も罪には問われませんよ﹂
﹁大佐は右を! 自分は左から探ります﹂
出た。伍長が更に隣のワゴンの背後に隠れる。
﹁必要になるかもしれない。出しておいて下さい。 が止まっている。それを盾にしようと大尉が前に
トルを一挺持っている。だが撃ち方は知らんぞ﹂
﹁大佐殿、護身用の武器は?﹂
ばした。
今度こそ、大尉は後ろを振り返り、銃に手を伸
﹁いえ! あれはAKです﹂
⁉
が躊躇わずにそれを抜いてドアを蹴り開けた。
大尉は、銃を持つと、助手席の具誠庸伍長に命
プロローグ
19
脱出しようとする車は、当然反対車線も塞いでい
なぎになっている。ソウルから漢江を渡って南へ
﹁冗談は止して下さい! 大使閣下。そんな無茶
て﹂
服の私たちを的にするだろう。その隙を狙って撃
﹁大尉、敵は私服姿の君たちじゃなく、当然野戦
よ
ンルームを撃たれたのだ。北朝鮮軍は、橋の上で
た。前方から黒煙が上がり始めた。恐らくエンジ
をしたら自分は軍法会議に掛けられます﹂
﹁大丈夫。私たちが死んだら、そんな作戦があっ
車両を止め、炎上させて封鎖するつもりだろう。
大使は、すっかり韓国軍兵士をエンジョイし
たなんて誰も証言できんだろう﹂
た。海兵隊を除隊したばかりだ、と言っている。
ている顔つきで、民間人相手に、
﹁頭を下げろ!
転ぶな!﹂と怒鳴り始めた。
ルしている!﹂
﹁大使、今の状況が解っているんですか?﹂
反対車線の端に出るよう命じた。
大使は、そう言いながら三村一佐の肩を叩き、
後悔した。
ばるのか⋮⋮、せめて制服を持ち出すんだったと
り東大なんぞに受かったせいで外交官になったが
﹁昔な、防大を受験したことがあるんだ。うっか
突然、孔大尉に中腰の大使が話しかけた。
﹁作戦がある ―
﹂
三村一佐は、こんな所で韓国軍伍長としてくた
口々に逃げろ! 逃げろ! と怒鳴っていた。
を乗り捨てた民間人が一斉にこちらに走って来る。 ﹁大丈夫だ! 国民諸君。軍は状況をコントロー
ピストルを抜いて、その若者に放り投げた。車
大尉が自分の腰のピストル・ホルスターから
らを凝視した若者と、二言三言会話を交わしてい
大尉が、近くの車からドアを開けて怖々とこち
20
書
店
に
て
お
求
め
の
上
、
お
楽
し
み
く
だ
さ
い
。
形
式
で
、
作
成
さ
れ
て
い
ま
す
。
こ
の
続
き
は
★
ご
覧
い
た
だ
い
た
立
ち
読
み
用
書
籍
は
P
D
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