Obesity, inflammation, and periodontal disease. 糖尿病性疾患と歯周

Obesity, inflammation, and periodontal disease.
J Dent Res. 2007 May;86(5):400-9.Pischon N, Heng N, Bernimoulin JP, Kleber BM, Willich SN, Pischon T.
糖尿病性疾患と歯周病との関連を含めて(1 内科との共同研究をふまえて)
過去 10 年間において先進国間では肥満患者が急激に増加している。肥満は全身疾患でありさまざまな疾患にかかりやす
く、健康全体に影響を与える合併症をもたらす。横断研究では肥満は口腔疾患とくに歯周病にも関連することが示唆さ
れ、前向き研究では歯周疾患が心血管疾患に関連する可能性が示唆されている。肥満と歯周病の間にある因果関係およ
び有力な生物学的メカニズムはいまだ確立されていない。しかし、脂肪組織が活発に様々なサイトカインやホルモンを
分泌し、それらが炎症過程に関与していることは同じような経路が病理生理学的に肥満、歯周病および関連疾患する炎
症疾患に関与している可能性を示している。我々は肥満、肥満関連慢性疾患ならびに歯周病治療者にとって重要な合併
症の定義と評価方法を提示する。これまでに肥満と歯周病との関連を調べた研究もレビューを行い、炎症過程に関与し
ている脂肪細胞組織由来ホルモンおよびサイトカインと歯周病との関連を考察した。我々の目的は、歯周病治療者が肥
満患者を治療する際の注意を喚起することである。
INTRODUCTION
肥満は(BMI 30kg/m2 以上)と定義され、今日公衆的大きな健康問題となっている。
肥満患者は過去 10 年先進国において急激に増加している。2004 年では米国の人口の 34.1%が過体重(BMI25.0-
29.9kg/m2)であり、約 32.2%が肥満である(図 1)。将来さらに増加することが見込まれている。肥満は様々な慢性疾患
のリスクファクターであり、とりわけ高血圧、2 型糖尿病、脂質異常、虚血性心疾患が重要である(Table 1 )。先進国
では肥満および肥満関連疾患にかかるコストは総健康対策費用の約5%に相当すると試算されている。疫学的に肥満の
もたらす結果は長い間、科学界および公衆衛生行政者に認識されてきており専門委員会は大衆の肥満の評価法、予防法
および治療法について勧告してきた。肥満は様々な疾患にかかりやすくなりさらに健康全体に影響する合併症をもたら
す全身疾患と考えられることから、幅広い分野の肥満医療従事者(歯医を含めて)が肥満患者について必要がある。さ
らに近年の研究では肥満は口腔疾患とりわけ歯周疾患にも関連していることが示唆されている。実際に脂肪組織は炎症
過程に関連するいくつかのサイトカインやホルモンを分泌しており、同様の経路が肥満および歯周病の病態生理に関与
している可能性が示唆されている。
この論文は肥満、肥満関連慢性疾患ならびに歯周病治療者にとって重要な合併症の定義と評価方法を提示する。これま
でに肥満と歯周病との関連を調べた研究もレビューを行い、炎症過程に関与している脂肪細胞組織由来ホルモンおよび
サイトカインと歯周病との関連を考察した。我々の目的は、歯周病治療者が肥満患者を治療する際の注意を喚起するこ
とである。脂肪組織由来サイトカイン(炎症)まとめを提示し、それらの歯周病との潜在的影響について考察している。
我々はさらに歯周病関連サイトカインと肥満関連疾患に与える影響に考察を行い、肥満と歯周病に関する関連を調査し
た研究のレビューを行っている。
DEFINITION AND ASSESSMENT OF OBESITY
肥満の定義は BMI (または Quetelet Index)に基づいて定義されている。BMI は体重の身長の 2 乗に対する比率を示
したものである。BMI は脂肪体積、疾患罹患性および脂肪率と高い相関性を示しており、それゆえに広範囲の集団にお
ける肥満関連疾患のリスクを効果的に反映している。しかし、いくつかの制限もある。たとえば、同じ BMI の値であっ
ても、高齢者は体脂肪率が高くなり、そのため BMI によるリスク評価は高齢者ではやや正確性に欠ける。さらに、近年
の過体重および肥満に対する BMI のカットオフ値がアジア人にとっては高すぎる可能性がある。さらに重要な点は、
BMI が体脂肪の分布を評価するものではないことである。男性によくみられる腹部(中心性、内臓性またはアンドロイ
ド型)肥満のほうが女性に典型的な下半身型(末梢性、またはギノイド)肥満に比べ疾患罹患性が高いことはよく知ら
れている。体脂肪の分布は腹囲により評価されるが、疾患罹患性に関するカットオフ値は男性、女性それぞれ 102cm お
よび 88cm である。腹囲は内臓脂肪量をよく反映しており、また内臓脂肪は皮下脂肪に比べより代謝的に活発であり、
より多量のサイトカインを分泌していることが知られている。さらに、大網の脂肪組織から門脈血内に多量の脂肪酸が
流入することにより、肝機能が障害され、異常なリポタンパクの合成やインスリン抵抗性、過剰な糖新生につながると
考えられている。最近の大型研究では、BMI よりも腹囲または腹囲・ヒップ非のほうがより疾患リスクの予測指標とし
て優れていることを示唆しており、現在も BMI もしくは腹囲、あるいは両者の併用いずれを疾患リスクの評価に使うべ
きか熱心に研究がすすめられている。その他のツールも体脂肪率評価に使用可能である。それらは caliper やエコーを用
いて皮下脂肪を測る方法や、生体電気インピーダンス解析法(BIA)、densitometry や画像診断法(CT, MRI)があげら
れる。しかし、たいていの方法は臨床現場において気軽に利用できるものではなく、個人の疾患リスク評価において BMI
や腹囲計測以上に有効な情報を与え得るものでもない。
肥満関連疾患
過体重および肥満は長い間血圧上昇を規定する因子とみなされてきた。体重増加が血圧上昇と関連すること、および体
重減尐がナトリウム摂取量と関係なく血圧を低下させることは確立した事実である。普通体重の個人と比較した場合、
肥満患者はおよそ 5 倍の高血圧リスクを有しており、また高血圧の 2/3 の症例は過体重に起因している。これまでに示
唆されている肥満関連高血圧のメカニズムとしては上昇した亣感神経活動性、ナトリウムおよび血管内水分量の保持、
腎臓機能異常、インスリン抵抗性、高レプチン血症、および脂肪組織からのアンギオテンシンの分泌量増加が挙げられ
ている。
2 型糖尿病
肥満と 2 型糖尿病との関連は非常に密接である。肥満患者は普通体重の人に比べ、2 型糖尿病を発生するリスクがおよ
そ 10 倍である。2 型糖尿病はインスリン抵抗性およびベータ細胞の機能不全が関連して進行する疾患である。これらの
過程には、肥満由来のサイトカインのほか、脂肪毒性およびグルコース毒性などいくつかの因子が関連することが示唆
されている。
心血管疾患とメタボリックシンドロームについて
肥満は心血管疾患(冠動脈疾患および脳血管疾患)のリスクを約 1.5 倍上昇させるうえ、全心血管疾患の10~15%
は過体重および肥満によるものと考えられている。肥満との関連の方がやや強く、またPAF(population attribution
fraction, 集団の中で過体重および肥満に寄与する区分)は冠動脈疾患のほうが脳血管疾患における値よりも大きい。肥
満はさらに心不全のリスクを 2 倍にし、心房細動のリスクを50%増加させている。
メタボリックシンドロームはただ単に偶然では説明のつかない合併代謝異常を示す概念であり、罹患者の心血管疾患
を発生するリスクを高めるものである。世界保健機構(WHO)、国際コレステロール教育プログラム(NCEP)、お
よび国際糖尿病フェデレーション(IDF)はメタボリックシンドロームを規定するアルゴリズムを発表している。細
部では尐々の違いはあるが、これらの規定は本質的な要素(糖耐性障害、肥満、高血圧、脂質代謝異常)に関しては合
意を示している。現在、多くの研究で“NCEPの 3 番目の報告書:成人の高コレステロール血症の検出、評価、およ
び治療について”を用いており、この報告はメタボリックシンドロームが規定される前に尐なくとも以下のうち最低 3
つの項目を要すると定めている。すなわち、腹部肥満、中性脂肪値上昇、HDLの減尐、高血圧、空腹時高血糖である
(Table3)。この規定に基づき、アメリカにおける肥満の罹患率はおよそ23%と概算される。
メタボリックシンドロームの正確な原因は不明であるが、最近の研究では腹部肥満が重要な要素であることに注目し
ている。このアプローチは脂肪組織自体がいくつかのホルモンを産生することができ、それが肥満関連疾患の進行に関
与するとする多くの研究結果により支持されている。
他の疾患と死亡率について
呼吸器疾患や生殖機能障害、非アルコール性脂肪肝、胆嚢疾患、骨関節炎、あるいはある種のがんに罹患するリスク
が肥満により上昇するという十分なエビデンスが存在している。過体重と肥満が疾患予後や死亡率と関連あるかどうか
は現在進行中の研究課題であり、近年発表された報告では逆の結果も見られる。例えば、肥満は心不全のリスクを増加
させるが、ある研究では、心不全患者間で比較すると、肥満患者の方が疾患予後が良いという結果が出ている。この結
果は、BMI が低いほどエネルギー浪費過程を反映しているということらしい。さらに、いくつかの研究では BMI と死
亡率が U 型関連を示す、すなわち BMI がおよそ 25.0 で死亡率が最低となり、これ以上又はこれ以下の BMI では死亡
率が増加するという結果を示している。しかし、これらの結果が喫煙(喫煙者は非喫煙者に比べやせ形であるが、死亡
率が高い)あるいは基礎に慢性疾患を有していること(慢性疾患患者はしばしば低体重である)に影響されているとい
う議論がこれまでになされてきている。疾患罹患率や疾患予後、死亡率に肥満がどのような影響を与えるのか、今後の
研究が必要なのはいうまでもない。
肥満と歯周疾患について
炎症性破壊性の歯周疾患のリスクとしては、肥満が喫煙に次ぐ第二のリスクファクターであることが示されてきた。
肥満と歯周疾患の関連に関する最初の報告は 1977 年であり、Perlsteinらは遺伝的に肥満の形質を持つ
Zucker ラットにおける歯周組織の組織病理学的変化について述べている。Ligature による歯周炎を用い、肥満の動物
は非肥満動物に比べ、歯槽骨の吸収が強いことが示された。また、肥満があったとしても健康な口腔環境では歯槽骨の
骨吸収は無かったが、いったん細菌性のプラークが蓄積されると、歯周炎は肥満動物の方が激しいことがわかった。ま
た、高血圧と肥満を合併する動物では、肥満のみの動物よりもプラークの蓄積によりより強い炎症が引き起こされたこ
とから、メタボリックシンドロームに規定される因子の重複が歯周に強く影響することが示唆された。
その後、肥満が歯周疾患のリスクファクターであるという仮説はいくつかの統計学的研究により支持されてきた。ブ
ラジル人の集団におけるある研究のほか、多くの研究は日本人集団およびあめりかのデータに基づく報告(NHANESIII)
を元にしている。さらに、報告された歯周疾患に関しては、歯周疾患の規定について幾分ばらつきが見られる。
1998 年、斉藤らは 241 人の健康な日本人について解析を行い、人において初めて歯周疾患と肥満の関連を示した。彼
らは CPTIN を用い、彼ら自身の横断研究に基づき、年齢、性、口腔衛生状態および喫煙について調整を行った群にお
いて、BMI が 25 から 29.9 の群での歯周病リスクが 3.4 であり、BMI30以上の群では8.6であることを示した。
さらに、研究では脂肪組織の分布状況が歯周病と関連が深いこともわかった。643 人の健康日本人を対象とした斉藤
らの研究では、より高位に脂肪が分布していることと体脂肪が高いことは普通の体脂肪の人に比べて歯周病リスクが高
いことがわかった。NHANESIII データの調査では、ウェストヒップ比、BMI, fat free mass、および皮下脂肪の log sum
が歯周病罹患と有意に相関していた。さらに、18~34歳では高齢者に比べ腹囲と歯周病の関連が強く、若年成人に
おける肥満と歯周病との関連が示された。706人の南ブラジル人を対照とした研究では、肥満と歯周病との関連は男
性では見られなかったが、肥満女性と歯周病との強い相関が認められた。
近年の斉藤らの研究では、耐糖能異常の有無にかかわらず、肥満は歯周ポケットの深さと強く相関していることが示
された。Genco らは NHANESIII データの解析により、BMI は歯周接着性の消失と正の相関をしていることを示した。
彼らの研究では、耐糖能異常との関連が認められた。
近年の研究では、定期的な運動により正常体重を維持することが歯周病罹患を下げることが示されている。定期的に
運動している個人の血清中の炎症マーカーは低く(IL-6.CRP など)、またインスリン感受性が高いことが歯周病予防に
効果的と考えられる。NHANESIII データの解析では、正常体重で、定期的な運動を行い、○○推奨に合致する食生活
と栄養ピラミッドにあっている個人は歯周疾患にかかる率が40%低いことがわかった。
近年の横断研究では肥満と歯周病との関連が示唆されている。しかし、いくつかの限界を考慮しなくてはいけない。
まず、時間的な関係が不明な点である。Anthropometry と歯周病が同時に評価されているので、肥満が歯周病に先行し
ていたか評価する手だてがない。前向きコホート研究であればこの点は改善されるだろう。たとえば、歯周病のない人
で構成されたコホートを用いれば、肥満のある人が将来歯周病になりやすいか評価することができる。2 点目としては、
観察的研究ではあくまで相関性を示すのみであり、因果関係は不明である点が上げられる。歯周病に関連する肥満以外
の因子を調整した上で分析を行えばいくぶん confounding を回避できるが、認められた相関性が目に見えない何らかの
背景因子に基づくものである可能性がある。介入的研究が歯科の EBM にとってゴールドスタンダードではあるが、こ
のような研究は肥満を変数の対象とした場合、遂行するのが困難になる。一つの代替的手段としては、肥満患者におけ
る減量が歯周病にとって好ましい結果をもたらすか観察する手法が考えられる。しかし、長期間のカロリーコントロー
ルや運動が減量に効果的か疑問であり、薬物治療や手術が必要であると考えられる。
肥満と歯周疾患の関連の元となる生物学的な仕組みはよくわかっていないが、脂肪組織由来のサイトカインやホルモ
ンが鍵となっているだろう。脂肪組織は単に受動的な中性脂肪の貯蔵ではなく、アディポカインやアディポサイトカイ
ンと呼ばれる様々なサイトカインやホルモンの産生組織であり、それが歯周病に影響を与えている可能性がある。
脂肪組織由来ホルモンおよびサイトカイン(アディポカイン)
脂肪組織は TNFαや IL-6 等の炎症指向性サイトカインを分泌している。TNFαや IL-6 は CRP 等の急性期炎症性肝
タンパクの主な inducer である。TNFαと IL-6 はいずれも細胞内のインスリンシグナルを傷害することが知られ、これ
が耐糖能障害をもたらすと考えられている。ヒトの場合、血中 TNFα、IL-6,CRP の値とインスリン抵抗性は密接に関
連している。炎症と 2 型糖尿病や動脈じゅく状硬化症との関連を示すエビデンスがあり、血液中の炎症性マーカーから
これらの疾患の発症 1 年前には発症を予測可能であることを示唆する研究がある。
歯周病は歯周組織の慢性炎症性疾患である。ある特定の個人ではより高度な歯周感染や歯周炎が認められる。歯周病
の人では、マクロファージや単球により分泌される血中の TNFαや IL-6 の値が 10 倍高かったというデータがある。歯
周病を持つ人では病原細菌やエンドトキシン、および炎症性サイトカインが高白血球血症や急性期タンパク(CRP やア
ミロイド A)合成をもたらし、脂肪代謝を亢進させ、それとともに血中コレステロール値や中性脂肪値が上昇し、心血
管疾患のような全身疾患につながっている可能性がある。
レプチン
レプチンは多方向に作用するサイトカインであり、脂肪細胞により分泌され、エネルギー代謝や内分泌機能、生殖、
免疫機能などの様々な生体機能に関与している。レプチンは体内脂肪量を制御するいわばリポスタットとして機能して
いると考えられている。ネガティブフィードバックシステムとして、レプチン量の上昇はエネルギー消費を上昇させ、
食物摂取量を低下させ、結果的にエネルギー収支はマイナスバランスになる。Ob 遺伝子にコードされるレプチンの変異
は結果的に過食と重度の肥満をもたらし、レプチン欠損マウス及びヒトにレプチンを補充すると、尐なくともいくぶん
食事摂取量と体重が正常化される。これと対照的に、たいていの過体重および肥満患者では受容体レベルのレプチン抵
抗性が存在し、そのため正常体重のヒトよりも血中レプチン値は上昇している。
さらに、レプチンは骨代謝にも関与することが知られている。これまでの報告には若干の矛盾があるものの、レプチ
ンは中枢神経系を介して骨形成を抑制させ、骨細胞に対する末梢性の作用としては骨形成を促進している。骨に対する
総合的な作用は種族、年齢、性別、血中レプチン値、BBB 透過性、骨組織、骨成熟性、伝達系などの骨特有の因子によ
り決定されると考えられる。
さらに、いくつかの研究で感染や炎症の過程において血中レプチン値が上昇することが示唆されている。動物実験で
はエンドトキシンの作用や炎症性サイトカイン投与により急性のレプチン値上昇がみられた。ヒトでは炎症性腸疾患や
関節リウマチで血中レプチンレベルが上昇することが知られている。炎症性歯周疾患では、レプチン値はまだまだ研究
課題であり、特に肥満と歯周病との疫学的な関連の解明が待たれる。ある研究ではポケットの深さが深いほど歯肉生検
におけるレプチン値が低いことが示唆され、これまでの他の炎症性疾患のデータとは逆の結果となっている。
アディポネクチン、レジスチンおよびその他の脂肪由来のサイトカインについて
アディポネクチンは脂肪組織から血中に分泌されるホルモンであり、糖および脂質代謝に関与し、全血清中タンパク
の約 0.05%を占めている。他の脂肪由来ホルモンと異なり、アディポネクチンレベルは肥満患者や 2 型糖尿病患者で減
尐している。アディポネクチンはインスリン感受性を高め、それ故に抗動脈硬化性、抗炎症性性質を持つ可能性があり、
またヒトにおける血中アディポネクチンレベル低値は 2 型糖尿病や冠血管疾患を予測するという報告もある。実験モデ
ル系ではアディポネクチンが炎症のメディエーターとして働くというデータがある。しかし、炎症性疾患におけるアデ
ィポネクチンの正確な作用はわかっていない。
レジスチンは RELM ファミリーの蛋白であり、脂肪細胞より分泌され、動物モデルではインスリン抵抗性をもたらす
ことが知られている。しかし、これまでの研究では動物腫によってレジスチンの機能が異なることが示されており、特
にヒトにおける肥満や 2 型糖尿病との関連はまだ不明である。そして、マウスとは対照的に、ヒトでは脂肪細胞におけ
るレジスチン発現は低く、循環血中の単球でより強く発現されており、近年の研究結果から、ヒトにおいてレジスチン
はインスリン抵抗性よりもむしろ炎症に強く関連していることが示唆されている。おもしろいことにレジスチンや
RELMα、RELMβのアミノ酸配列は、これまでに炎症に関与することが知られていた FIZZ3, FIZZ1 および FIZZ2と
同一であり、冠血管疾患をもつ患者の血中ではレジスチン値の上昇が確かめられている。歯周疾患におけるレジスチン
の役割はまだわかっていない。
脂肪細胞から分泌されるサイトカインやホルモンが次々に見つかるにつれ、これらのメディエーターが関わるネット
ワークはどんどん複雑性を増してきている。最近これらのメディエーターに加わったものとしては、インスリン様作用
を持つ visfatin や血清 RBP4 が挙げられる。当初は主に体重調節とインスリン抵抗性に関与すると考えられていたが、
だんだんとレプチン、アディポネクチン、レジスチン等と同様に様々な機能を持ち、冠血管疾患や糖尿病、炎症性疾患
など多くの疾患に関与することが明らかになってきている。
歯周病と肥満関連疾患との関係について
炎症性サイトカインは歯周病と肥満および慢性疾患において決定的な役割を担っている可能性がある。実際に、この
関係は多方向性と考えられる。例えば、粥状動脈硬化症において炎症は本質的な要素を担っているし、観察的研究によ
って歯周疾患は冠血管疾患の進行における中程度、しかし有意な危険因子であることがわかっている。冠血管疾患にお
ける抗生物質を使用した介入的研究ではいずれも有益性は示されなかった。しかし、これらの疾患の観察期間は短く(治
療期間は 1 年以内)、しかも二次予防を目的とした研究であった。歯周病のような炎症性疾患は TNFαや IL-1.IL-6 の
ような炎症性サイトカインの産生を誘導する。歯周のグラム陰性桿菌が産生する LPS が脂肪細胞における TNFαの分
泌を惹起し、肝臓における脂質代謝障害を引き起こし、またインスリン感受性を抵抗させることが示唆されている。 2
型糖尿病およびインスリン感受性の低下は AGE の産生に関与しており、AGE は炎症性サイトカインの亢進をもたらし、
歯周病のような炎症性疾患にかかりやすくなると考えられている。これらの観察から肥満と歯周病、さらに慢性疾患の
発生に強く関与していることが示唆されるが、近年の研究ではこれらの関連が原因的なものかどうかは証明できずにい
る。したがって、2 型糖尿病や冠血管疾患の危険因子となるだけでなく、肥満関連の炎症は歯周病も促進させている可
能性がある。逆に、歯周病が一旦成立すると、全身の炎症を促進し、故に冠血管疾患のリスクを増大させるとも言える。
この点で、歯周病の治療により血中 TNFα値や血液中の糖化ヘモグロビンが減尐し、2 型糖尿病のコントロールに役立
つという点は興味深いことである。
歯周病治療におけるリスクとリスク評価について
アメリカの人口の 60%以上が過体重であるという点を考慮すれば、歯科診療で肥満患者を扱う機会はよりありふれた
ことになる。
つい最近まで内科医により肥満が診断されることも滅多になければ、臨床の場で体重や身長を測ることも滅多になか
った。さらに、これまで肥満患者の25%もが内科医の主観的な判断により正常体重と誤って判断されてきた。今後、
肥満が全身および歯周疾患における多危険因子症候群として認識されることになれば、歯科診療における全身性および
口腔リスク評価の項目に BMI が追加されることになるだろう。BMI と腹囲測定両方あるいはどちらがリスク評価に優
れているかまだ研究結果は明らかでないが、現行の肥満ガイドラインに従って BMI とともに腹囲測定を行うことが推奨
されるであろう。これまで示された歯周疾患と肥満の関連だけでなく、歯周病は肥満と関連する全身疾患として認識さ
れる必要があり、治療の際にも考慮される必要がある。たとえば、疼痛と不安はカテコールアミンの放出をもたらし、
結果的に末梢の血管はれん縮し、組織の酸素化が障害される。冠血管疾患や 2 型糖尿病の合併を有する肥満患者では急
性狭心症発作や低あるいは高血糖発作を引き起こす可能性がある。患者の過体重は肺の最大拡張を阻害し、肥満―低換
気症候群を引き起こしたり、hypercapnia, 低酸素症、somnolence、低酸素性肺血管れん縮、肺高血圧症から右心不全
を引き起こす可能性がある。そのため患者を supine 位にすること(肺の拡張が妨げられる)を避けることが推奨されて
いる。肺の拡張障害は 1 回換気量と呼吸の tidal function を低下させ、組織の酸素化が障害されることにつながる。こ
のため肥満患者は手術および麻酔において高いリスクにさらされることとなる。総称治癒過程は組織の酸素化に依存し
ている。また、肥満患者では創傷感染や術後血腫形成の率が高いことが知られている。肥満患者の血液増量と脂肪体積
増量といった薬理学的的な点、またデンタルチェアが小さくなってしまったり、血液カフがきつすぎるといったテクニ
カルな面も考慮される必要がある。