工学教育のビジョンと実施体制 - 横浜国立大学大学院工学研究院

教育のハイライト
工学教育のビジョンと実施体制
2009 年度教育企画経営会議主査
淺見 真年
2009 年度の企画経営会議は石原修新工学研究院
価値・意味を理解し、誇りを持って学生生活を過ご
長を議長として、11名の委員で構成されました。6 名
してもらうことを目的に、
「横浜国立大学工学部自校
が主に工学部、工学府の教育に関する事項を議論す
教育テキスト」を作成しました。
る教育企画を担当し、5 名が工学研究院の研究に関
工学府では、特色ある大学教育支援プログラム
する事項を議論する研究企画を担当し、月2 回合同
(文部科学省 2006-2008)
「スタジオ教育強化による
で審議を行いました。
高度専門建築家養成」の成果をさらに大きく展開す
2009 年、横浜国立大学は新制国立大学として
るために、教育人間科学部と協力して、大学教育充
発足以来、創立 60 周年を迎えました。これを期に、
実のための戦略的大学連携支援プログラム「横浜文
YNUのアイデンティティをより明確にするために、
化創造都市スクールを核とした都市デザイン/都
公式なロゴ、シンボルカラー、スローガンなどを定め
市文化の担い手育成事業」
(文部科学省 2009-2011)
るとともに、学士課程教育の目標及び育成人材像を
を開始し、新しい大学院教育へと発展させるべく検
明確にし、体系化するための教育方針「YNUイニシ
討を進めています。2007 年度から開始した大学院
アティブ」をまとめました。その中で、工学部におけ
PEDプログラムでは、2010 年 3 月に 2 期目の博士課
る教育の目標として、大学の理念「実践性」
「先進性」
程前期修了生 65人が卒業しましたが、修了生は産
「開放性」
「国際性」を柱に、
「独創性」と「総合性」を
加え、技術立国を支えて世界に羽ばたく指導的人材
好調でした。また、社会からの評価、修了生の好調
の育成を目指すことを謳っています。また、生産工
な就職状況を反映し、平均して募集人員の約 3 倍の
学科、物質工学科、建設学科、電子情報工学科、知
志願者を集めています。博士課程後期の PEDプロ
能物理工学科それぞれの教育に関するポリシーが
グラムも発足から 3 年が経過しましたが、1 期生 21
簡潔に述べられています。
名の内 13 名(内 8 名は短縮修了)が博士の学位を取
一方、2001年の部局化後 10 年経過による組織の
得し修了しました。
見直しも迫り、全学的な理工系教育体制の再構築と
また、工学府では 2007 年度から博士課程後期の
も連携しながら、工学部および工学府の教育体制に
学生に対して、特別研究員・特待生制度を開始し経
ついての議論を進めました。従来、工学部、教育人
済的な支援を行っています。2009 年度には、工学府
間科学部マルチメディア文化課程、地球環境課程で
の充実を図るために「そうだ!博士になろう。̶学部
行われていた本学の理工系学部教育に関し、環境
学生・博士課程前期学生・社会人のために̶」
(日本
情報研究院所属の教員の協力も得て、新しい教育組
語版、英語版)を作成し、多くの学生に博士課程後
織の設置も含めて検討しています。また、2008 年度
期進学を志してもらうよう努めるとともに、留学生
に開始した「産学連携による神奈川県内高等学校生
拡大策検討 WGを組織して、海外からの入学者の増
徒に対する早期工学人材育成プログラム開発事業」
加も目指しています。
(経済産業省からの受託事業)では参加高校を大幅
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業界からの評価も高く、1 期生に続いて就職実績も
ものづくり技術者支援事業
(文部科学省2007-2009)
に増やすなど、高校生に工学あるいは理工学の面白
「実践的 PBLものづくり教育の拠点形成」
、高度専門
さを伝えるとともに、工学部教育ビジョンWGを中
職業人養成教育推進プログラム「熟練技術者を活用
心に県内および近県の高校との連携を強化し、多く
したものづくり実践教育」
(文部科学省 2008-2009、
の高校生に魅力を感じてもらえる理工系教育を目指
首都大学東京と共同)では、
「フォーミュラーカー設
しています。さらに、在学生、入学生に本学工学部
計製作」
「スカイスポーツ機体設計製作」が専門科目
の理念、歴史を知ってもらい、工学部で学ぶことの
として正課教育化されるなどの成果をあげました。
教育のハイライト
学生フォーミュラ大会
全日本学生フォーミュラ大会
全日本学生フォーミュラ大会(社団法人自動車技術会主
催)は、大学、短大、高専などの学生たちが約 1 年をかけて
企画・設計・製作したフォーミュラスタイルの車を持ち寄
り、 ものづくり の総合力を競う大会です。この大会は、米
国の Formula SAE のルールに準拠して開催されるもので
あり、車両コンセプト・設計・コスト分析及びプレゼンテー
ションを競い、安全に関する厳格な車両検査を行った上で、
走行性能を競います。2009 年第 7 回大会は、9 月 9 日から 9
月 12 日まで、静岡県の小笠山総合運動場エコパで開催され
ました。
YNFP
(Yokohama National Univ. Formula Project)
本学学生フォーミュラチーム YNFP は、2004 年大会から
参加しており、工学部を主体に、工学府、経済学部、経営学
部の学生、約 30 人で構成され、教員はそのチーム運営や車
両設計製作を支援しています。
2009 年大会成績
今回は 2008 年大会の総合 4 位を上回る総合 3 位の成績
を収めました。現在は更なる上位,2010 年第 8 回大会での
賞 3 位、静的優秀賞 3 位、プレゼンテーション賞 3 位、コス
総合優勝を目指し、日夜、フォーミュラマシンの企画・設計・
ト賞 2 位、加速性能賞 2 位、耐久走行賞 1 位、日本自動車工
製作に取り組んでいます。2009 年大会(海外大学を含む 80
業会会長賞(完走奨励賞)、ベスト WEB サイト賞(ベストイ
チームが参加)で獲得した賞は以下のとおりです。総合優秀
ンプレッション賞)1 位。
工学部・知能物理工学科の教育プログラム
「物理工学実験情報演習」が関東工学協会・業績賞を受賞
工学部・知能物理工学科では「真なる学士力」養成を目指し、座学
で学ぶ基礎的知識・理論的な概念を体感し、同時に必要な技術を習得
する「実験科目」とそのデータの取得、処理および解析といった明確
な目的意識を持った「情報処理」能力を体得するための「情報処理科
目」を融合した「物理工学実験情報演習 A、B、C」を 1-2 年次に開設
しています。これらの科目は、学生自らが設定したテーマを調査・
研究し発表を行う「インベスティゲーション実習」
、
「プレゼンテー
ション実習」などの 3 年次に行う実習科目と連携し体系化されて
います。
「
『学士力』形成のための実験と情報処理教育を融合させ
た新しい工学教育」という題目での今回の受賞は、この教育プロ
グラムが、
「独創性」
「実行努力」
「具体的成果」
「教育への効果」
などの観点から高く評価されたものです。受賞者は、これらの
科目の企画、実施、運営に携わっている山本勲准教授を代表
とする 17 名の知能物理工学科の若手教員です。
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教育のハイライト
工学府 PED:完成年度までの道のりと成果
PED プログラムの背景と育成人材像
2004 年 12 月 15 日、米 国 競 争 力 評 議 会 か ら "Innovate
America : Thriving in a World of Challenge and
Change" が発表された。これを受け 2007 年、科学および
技術分野の政府後援の研究、教育、教員育成プログラムに
336 億ドルを米連邦政府が出資する America Competes
Act が発効し、このレポートで提言された政策課題を実行
できる法的整備が行われました。
我が国でもこれと並行して、大学院段階での高度な学習
需要変化を反映した「科学技術・学術審議会 人材委員会 3
次提言」
(2004 年 7 月 16 日)などの提言に続いて、
「新時代
の大学院教育−国際的に魅力ある大学院教育の構築に向け
て−」
(中教審答申 2005 年 9 月 5 日)および「大学院教育
振興施策要綱」
(中教審答申 2006 年 3 月 30 日)が中央教
育審議会から答申され、複数の専門性を有し、さらに広く
写真 1 プロジェクト マネジメント ( ワークショップの課題説明 )
社会に通用する基盤的素養を持つπ(パイ)型の人材養成等
を含めた大学院教育の改革が求められるという社会的な動
きがありました。
そこで、2005 年、平成 17 年度文部科学省「大学教育の
国際化推進プログラム」海外先進教育実践支援事業を用い、
上述の "Innovate America で教育戦略として揚げられた
米 国 の 新 し い 大 学 院 教 育 シ ス テ ム、PSM(Professional
Science Master)の実施状況を 6 大学で、並行して英国の
新しい大学院教育システム、EngD(Engineering Doctor)
を 3 大学で現地調査しました。
こうした社会的な動きと、本学独自の調査に基づいて、π
写真 2 世界企業における効果的な事業計画策定 (Fact Base の重要性 )
型の実務家型技術者・研究者を育成人材像として目指した
PED プログラムが設計され、2007 年度より学生募集を開
PED プログラムの特徴ある科目群
始しました。
この実績は、次の特徴ある科目群に由来するものと言え
PED プログラムの入学者
・Presentation English(安藤吉隆、元住友商事理事)
これまでの、PED プログラムへの入学志願者と合格者
・グローバル英語科目 9 科目(海外から招聘した研究者)
は、下の表のとおりです。
・プロジェクト マネジメント(ENAA、写真 1)
ます。
年度
2010
2009
2008
志願者数(人)
184
175
187
入学者数(人)
72
69
59
実質倍率(%)
256
254
317
・プロフェッショナルエンジニア(日本技術士会)
・世界企業における効果的な事業計画策定(HILTI Japan、
写真 2)
)
・研究企画能力育成帝人スタジオ(帝人)
・PED 長期インターンシップ
特に、最後のインターンシップ科目では、海外へのイン
ターンシップについて支援をし、これまでに海外へ 20 名近
い学生が海外での研修を経験しました。
PED プログラムの修了生
2009 年度に初めての、それに続き 2010 年度に修了生が
巣立ちましたが、128 名の修了生は、旭化成、花王、トヨタ、
日立、大林組などから採用の声がかかり,また 6 名は博士課
程後期に進学し、それぞれ活躍しています。
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教育のハイライト
博士課程の魅力を強化する諸活動の推進
工学府マネージメント学習プログラム
工学府では、博士課程後期に学ぶ学生の研究マネージメ
ント能力(企画立案・研究遂行・成果報告)育成をめざし
た「工学府マネージメント学習プログラム」を実施していま
す。このプログラムでは、博士課程学生が自分の研究テーマ
とは異なるプロジェクトを企画し、申請書の作成から、予算
の執行、研究成果の展開までを主体的に実施します。実践的
な研究マネージメント能力の向上のみならず、異なる分野
の博士課程学生同士が協力し合い、シンポジウムやパネル
展示の企画・開催を運営するなど、学生同士の縦横の組織
化、帰属意識の向上にもつながっています。また,2009 年
のホームカミングデーでは、本プログラム組織によるパネ
ル企画「自立型研究者育成プログラムの成果と今後の展開」
を実施しました。諸先輩方や在学生から熱心な質問や意見
をいただき、本プログラムへの期待が大きいことをうかが
わせました。
博士課程進学冊子「そうだ! 博士になろう。
」
学部・博士課程前期(修士課程)の学生に、博士課程後期
の魅力を平易に伝え、学位取得の意欲を喚起することを目
的にした小冊子「そうだ!博士になろう。」を作成しました。
現役の博士課程学生のインタビュー,前期と後期からなる
博士課程のしくみ、最近の修了生の就職状況や、博士課程
後期に対する博士課程前期・社会人の意識調査アンケート
結果など、博士課程を検討するために必要な多くの情報を
盛り込んでいます。親しみやすいデザイン、イラストを多
用し、多くの学生の興味を引く内容になっています。
パネル展示会場での熱心な議論
シンポジウム開催後の学生主催懇親会
特色ある自校教育の実践
近年、大学の歴史と理念を理解し、帰属意識の向上と大
学で学ぶ誇りを持つきっかけとして「自校教育」をカリキュ
ラムに取り入れる動きが全国的に高まりつつあります。こ
の活動の一環として、在学生らに本工学部・工学府の歴史
を知ってもらうための小冊子と Web ページを作成いたし
ました。また、付録として、名教自然碑のペーパークラフト
をつけるなど、楽しみながら自校の成り立ちを知る教材に
なっています。今後、本活動を全学的に広げ、高大連携の
ホームカミングデーでのパネルディスカッション
ツール、初年度教育の実践、その後の大学院への進学誘導
につなげることで、将来的な教育研究の高度化に寄与する
ことをめざしていきます。
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教育のハイライト
教職課程認定
工学部では、これまで高等学校教諭の「工業」の免許状の
23 単位を修得する必要があり、工学部単独でこれを実施す
みが取得できました。これは、
「工業」の場合には文部科学
ることは困難です。そこで、教育人間科学部、経営学部、経
省の特別措置として、教育実習を含む教職に関する 23 単位
済学部の協力を仰ぎ、少人数に限り、他学部での教職に関す
を教科に関する科目に置きかえることが認められているた
る科目の履修を可能としました。このことにより、2008 年
めに、教員免許状が取得しやすいという理由によるもので
7 月に文部科学省に教職課程申請を行い、これが翌年認定
されたことから、2009 年度の入学生より、
「数学」
、
「理科」、
す。しかし、学生の希望も高校側のニーズも教員免許は「工
業」のみではないという理由から、2007 年度よりキャリア
「情報」の教員免許の取得が可能となりました。現在、工学
パス拡充の一環として他の理数系教科の教員免許状の取得
部の各学科、大学院工学府の各専攻で取得できる教員免許
を可能とするための検討が行われました。そして、当時の教
状の種類は下表のとおりです。学部学生にとって教職に関
務委員長であった物質工学科の上田一義教授を委員長とす
する科目 23 単位を専門科目と並んで履修することはそれ
る教職課程申請 WG が発足しました。
「数学」
、
「理科」、
「情
ほど容易なことではありませんが、このような新しい道が
報」の教員免許状を取得するためには、教職に関する科目
開けたことは工学部・工学府にとって画期的なことです。
学部
2008 年度以前入学者
2009 年度以降入学者
生産工学科
高等学校教諭一種(工業)
高等学校教諭一種(数学、理科、工業)
物質工学科
高等学校教諭一種(工業)
高等学校教諭一種(理科、工業)
建設学科
高等学校教諭一種(工業)
高等学校教諭一種(数学、工業)
電子情報工学科
高等学校教諭一種(工業)
高等学校教諭一種(数学、理科、情報)
知能物理工学科
高等学校教諭一種(工業)
高等学校教諭一種(数学、理科)
機能発現工学専攻
高等学校教諭専修(工業)
高等学校教諭専修(理科)
システム統合工学専攻
高等学校教諭専修(工業)
高等学校教諭専修(数学または理科)
他の2専攻
高等学校教諭専修(工業)
高等学校教諭専修(工業)
大学院
工学研究院の教員が2009 年度に代表者として取得した教育に関する補助金等
この表は 2009 年度の教育に関する補助金等をまとめたものです 。 各事業の詳細およびそのほかの事例は横浜国立大学の
ホームページ http://www.ynu.ac.jp/research/re_index をご覧下さい 。
2009 年度の教育に関する文部科学省からの補助金
区分
(単位:千円)
事業名称
代表者
金額
補助年度
実践的PBLものづくり教育の拠点形成
和田 大志
9,000
2007 ∼ 2009
和田 大志
8,007
2008 ∼ 2009
文部科学省
ものづくり技術者支援事業
(産学連携による高度人材育成事業)
文部科学省
大学改革推進等補助金
(専門職大学院等における高度専門職業
人養成教育推進プログラム)
熟練技術者を活用したものづくり実践教育
(首都大学東京との共同申請)
2009 年度の教育に関する受託研究・受託事業
区分
経済産業省
8
事業名称
産学連携による神奈川県内高等学校生徒に対する
早期工学人材育成プログラム開発事業
(単位:千円)
代表者
石原 修
金額
6,938
受託年度
2008 ∼ 2010