こんなときどうする 循環管理

首都圏新生児フォーラム NeoForum 2012年9月22日
こんなときどうする 循環管理
「先天性心疾患が疑われる児が入院したら・・・
初期の観察のポイントとその後の管理」
東邦大学医療センター大森病院
新生児科
与田仁志
東邦大学医療センター大森病院
重症心疾患診断の契機
1. 胎児心エコースクリーニング
2. 出生後のSpO2によるスクリーニング
3. 出生後の新生児診察(聴診技術)
4. 症状発現(ショック状態など)
東邦大学医療センター大森病院
出生後のSpO2モニターについて
・新生児蘇生法でも使用
・呼吸障害の程度・酸素必要度
(95%以上キープ、あとは症状)
・重症心疾患スクリーニング
上肢95%以下、上肢下肢差5%以上
(測定する時期は生後数時間後、特定の疾患)
・体動、装着不備で不正確
数字に振り回される
・
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Ductal shock(動脈管性ショック)とは?
左心低形成症候群(HLHS:Hypoplastic Left Heart Syndrome)
大動脈離断症(IAA:Interruption of Aortic Arch)
大動脈縮窄症(CoA:Coarctation of Aorta)
などの動脈管依存性左室流出路狭窄疾患で、
「動脈管の閉鎖に伴う体血流減少による組織虚血状態」
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動脈管依存性の先天性心疾患
体血流を動脈管に依存
左心低形成症候群・大動脈閉鎖
大動脈縮窄・離断症
重症大動脈狭窄
肺血流を動脈管に依存
純型肺動脈閉鎖
肺動脈閉鎖兼心室中隔欠損
重症ファロー四徴症
その他
完全大血管転位・総肺静脈還流異常
総動脈幹遺残・重症Ebstein奇形
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新生児の診療において心エコーが必要な場合
1.心雑音を聴取したとき (先天性心疾患の除外)
2.チアノーゼを認めるとき (心臓が原因か肺が原因か)
3.多呼吸など呼吸障害 (心臓が原因か肺が原因か)
4.ショック状態(心疾患が隠れていないか)
5.XP上心拡大があるとき (何によるか)
6.未熟児動脈管開存症の評価 (内径の大きさ、治療効果)
7.他の合併症があるとき(奇形症候群)
8.心機能評価 (心筋の動き)
9.正常心の見方に慣れる(ルチーンワーク)
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1.心雑音
・心疾患によっては心雑音がない
完全大血管転位、総肺静脈還流異常、
大きい心室中隔欠損(大動脈縮窄複合など)
ただし心音異常あり (Ⅱ音の亢進、ギャロップなど).
・日齢とともにに心雑音として聴取されるもの.
肺血管抵抗の低下に伴い心雑音が徐々に明瞭化する.
心室中隔欠損、肺動脈弁狭窄(を含む心疾患)など
・出生後に一過性に聴取される無害性の心雑音
動脈管の自然閉鎖の過程(連続性心雑音)
一時的な三尖弁逆流(収縮期心雑音)
次第に雑音が消失していく(病的な心雑音とは経過が逆).
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心雑音の評価
・時相(収縮期?拡張期?連続性?)
・強さ Levine何度
・雑音の性質
・最強点の部位
新生児循環管理なるほどQ&A メディカ出版2012
東邦大学医療センター大森病院
新生児循環管理なるほどQ&A メディカ出版2012
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心雑音の出現時期
新生児循環管理なるほどQ&A メディカ出版2012
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2.チアノーゼを認めるとき(心臓が原因か肺が原因か)
・肺血流が動脈管に依存している心疾患
肺動脈閉鎖や重症肺動脈狭窄,重症ファロー四徴症など
・チアノーゼ性心疾患の多くは呼吸が落ち着いているのにチアノーゼ
が目立つ(重篤な呼吸困難は肺疾患の方が多い。)
例外(肺静脈閉塞の強い総肺静脈還流異常,心拡大を伴うEbstein
奇形など)
・酸素テスト
チアノーゼ性心疾患では酸素投与でもSpO2が95%を越えることは少
ない.(95%以上に上昇する場合は肺疾患であることが多い)
ただし、過剰な酸素負荷は肺肺血管抵抗の低下を招き、状態の悪化
する心疾患がある(左心低形成など)
長時間にわたって確認する必要はない.直ちに心エコー検査を実施
すべき.
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酸素投与試験の評価
Barone MA 1996
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チアノーゼと肺血流による心疾患の分類
肺血流増加
肺血流減少
チアノーゼあり
総肺静脈還流異常
大血管転位起始の一部
両大血管右室
軽度
(左心低形成)
(総動脈幹症の一部)
下肢のみ
(大動脈縮窄)
(大動脈弓離断)
純型肺動脈閉鎖
重症肺動脈狭窄
ファロー四徴症
三尖弁閉鎖に肺動脈閉
鎖・狭窄合併
両大血管右室起始に肺動
脈狭窄合併
チアノーゼなし
心内膜床欠損
心室中隔欠損
動脈管開存
両大血管右室起始の一部
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純型肺動脈閉鎖
(心室中隔欠損のない肺動脈閉鎖)
肺血流を動脈管に依存
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3.呼吸症状の精査
多呼吸
・呼吸障害が重篤でなく、安静時に毎分60回以上の多呼吸
生後2〜3日を経過してもなお続く場合
→肺血流増加型の心疾患(心室中隔欠損など)の可能性
・ 比較的体温が高いと呼吸数も多くなる
呼吸数は体温とパラレルに変化する.
・呻吟、陥没呼吸は肺疾患に多い
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4.ショック症状
・生後数日を経て出現→動脈管の自然縮小が関与
体血流を動脈管に依存する疾患
(大動脈縮窄複合、大動脈離断複合、左心低形成症侯
群など)
・動脈管の収縮により体循環が減少し、かつ肺循環が増
加するため急速に呼吸障害を伴った腎不全、肝不全な
どのショック状態に陥る(いわゆるductal shock).
・全身状態は非常に悪く、肝腫大、皮膚色不良、代謝性
アシドーシス、低血糖などあり.しばしば,敗血症などの
重症感染症や重症代謝性疾患などとの鑑別が必要
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心エコーで見落としやすい
新生児重症心疾患
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先天性心疾患との鑑別
1.新生児持続性肺高血圧症(PPHN)
と総肺静脈還流異常(TAPVC)
類似点
・臨床像:
チアノーゼ、呼吸障害(TAPVCでは軽症のことが多い)
心雑音がない。
・レントゲン:
MASによるPPHNではTAPVCの肺静脈うっ血と似る。
・心エコー:
四腔断面で右心系が大きい。
中隔欠損などがない
卵円孔やPDAでの逆短絡
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総肺静脈還流異常 TAPVR
肺静脈の還流部位による分類
(Darlingの分類)
Ⅰ:上心臓型
Ⅰa:無名静脈,左SVC
Ⅰb:右SVC
Ⅱ:心臓型
Ⅱa:冠静脈洞
Ⅱb:右房
Ⅲ:下心臓型(肝静脈,門脈)
Ⅳ:混合型
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先天性心疾患との鑑別
2.大動脈縮窄症
・
・
・
・
VSDがない場合は四腔断面では診断できない
Archの描出になれていない。大動脈狭部の存在。
必ずしも上肢と下肢の血圧差がでるとは限らない。
むしろ、動脈管が開存しているときはSpO2の上肢
と下肢の差の方が有力な情報。(特にVSDがない
とき)
・ PDAの逆短絡も重要
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大動脈縮窄複合
(大動脈縮窄に心室中隔欠損を伴う)
体血流を動脈管に依存
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大動脈弓離断を例にした
解離性チアノーゼの種類
新生児循環管理なるほどQ&A メディカ出版2012
東邦大学医療センター大森病院
【心疾患と呼吸器疾患の鑑別】
臨床所見
心疾患
早産児、羊水混濁、新生児仮死
出生直後からの呼吸障害
多呼吸だが陥没呼吸が目立たない
陥没呼吸、鼻翼呼吸、呻吟呼吸
明らかな心雑音
心拡大、肝腫大
強いチアノーゼでPaO2低値(<25mmHg)で、PaCO2正常
チアノーゼ(PaO2<35mmHg)でPaCO2>45mmHg
100%酸素でPaO2<150mmHg
100%酸素でPaO2>150mmHg
全身チアノーゼでPaO2の上下肢差
血圧・脈の上下肢差
肺血管陰影の明らかな増減
肺野の網状顆粒状陰影・気管支透亮像・スリガラス状陰影
気胸
心電図異常
心エコー異常
呼吸器疾患
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【先天性心疾患?を診察する場合のチェックリスト】
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生後何日目の児か?(動脈管の閉鎖時期)
呼吸状態はどうか?陥没や呻吟を伴うか?
呼吸苦はSpO2に見合うか?
チアノーゼはないか?いつから出現?SpO2は何%か?
それは上肢での評価か下肢での評価か?
酸素投与でどれほど上昇するか?
心雑音はないか?心音(Ⅱ音)の亢進はないか?
心拍数は?
末梢冷感はないか?末梢の脈の触知はどうか?血圧はどうか?
尿量は減少していないか
肝腫大はないか?
哺乳状況はどうか?それまではどうだったか?
顔貌は?その他の合併奇形はないか?
体重は?在胎週数は?
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