第 7 章 多範疇部門の一般化∼X

Bas Aarts
Chapter 7
English Syntax and Argumentation
Bas Aarts (2001) English Syntax and Argumentation. New York: Palgrave.
Chapter 7
Cross-Categorial Generalizations: X-bar Syntax
p.104, l.1 ∼ 津田由美子,
p.116, -l.13 ∼ 鈴木優平,
p.107, l.1 ∼ 小林義之,
p.119, l.17 ∼ 藤田真紀江,
p.111, -l.5 ∼ 稲葉美沙
p.121, l.14 ∼ 後藤高史
p.104, l.1∼p.106, end 【津田由美子】
第 7 章 多範疇部門の一般化∼X-bar 統語法
前章での英語統語論の議論において、どのように文を機能的・形式的・主題的な段階で分析する
かを学んだ。今まで詳細にしてこなかったことは、文がどのように構成されているかを見るために文を
構成する多様な構成要素の内部を見ることである。いろいろな句の内部構造がこの章の話題であ
る。
7.1.主要部・補部・指定辞
3章で,全ての句になんらかの共通点があること,つまり、句は最低限主要部を含まなくてはならな
いということを見た。下の文で括弧でくくられ句において主要部が太字で書かれている。
(1) The defendants denied the charge: they claim that they did [not destroy the garden]
(被告は容疑を否定した。彼らは庭園を壊していないと主張した。)
(2) She proposed [an analysis of the sentence] (彼女は文の分析を提案した。)
(3) Jake is [so fond of coffee] (ジェイクはとてもコーヒーが好きだ。)
(4) They are [quite in agreement] (彼らは大いに賛成している。)
(5) My sister cycles [much faster than me] (妹は私よりも早くこぐ。)
主要部が義務的に生ずることに加えて、これらの句にはもっと類似点があることに注目しなさい。ま
ず、どの場合でも主要部とそれに後続する構成要素の間に強い結びつきがあるように思われる。例
えば、(1)では動詞 destroy は壊せる物を表す名詞句の存在が必要である。同様に(2)では前置詞句
of the sentence は、何が分析されているかを述べているという点で名詞 analysis を補足している。この
場合、名詞 analysis とそれと関連する補部 of the sentence が動詞+補部である analyze the sentence
と対比することができることに気づきなさい。(2)と(6)を比べてみよう。
(6)
She proposed to analyse the sentence. (彼女は文を解析しようと提案した。)
(3)∼(5)において(1)と(2)と類似しているのは次の点である。それぞれの場合において、主要部に
後続する要素は主要部の意味を完結させるために必要とされる。2章で、補部という概念を一般の用
1
Bas Aarts
Chapter 7
English Syntax and Argumentation
語として簡潔に導入し,その存在が他の要素によって必要とされるような構成要素を指すのである。
次に、主要な統語範疇全てが補部を取りうることを見ることにしよう。これは下位範疇化という概念に
よって捉えられる重要な一般化である。これは2章で取り上げており,さらに、7.4節でも取り上げる。
樹形図において主要部と補部の間の密接な結びつきをどう表現できるだろうか?一つの方法は、両
者が(7)のように一つの節点を共有している、つまり,両者は姉妹であると仮定することである。
Phrase
(7)
Head
Complement
もちろん、これは(1)∼(5)のような句の構造の部分的な表示でしかない。(1)∼(5)における not, an, so,
quite のような主要部に直接先行する要素についてはどうだろうか?補部と違って、これらは主要部と
それほど関係があるのではなくて、主要部と補部がひとまとまりになったものと関係があると思われる。
例えば、(1)では not は destroy the garden という連続に何かを加えており、それ(not)はそれ(destroy
the garden)を否定している。我々は「what did the players not do?」と尋ねることができ、そして返答は
「destroy the garden」となるだろう。(2)では限定詞 an が単に主要部だけではなく、analysis of the
sentence と関わっている。そして、(3)∼(5)の副詞 so, quite, much はそれぞれ fond of coffee, in
agreement, faster than me という連続を強調している。(1)∼(5)における主要部に先行する要素が主
要部+補部を詳しく述べていると言える。それゆえ,そのような要素を指定辞(短縮して Spec)と呼ぶ
ことにする。(7)の部分的な樹形図を(1)∼(5)の各句に拡大してみよう。
VP
(8)
Spec
?
V
not
NP
destroy
the garden
NP
(9)
Spec
?
N
an
analysis
PP
of the sentence
2
Bas Aarts
Chapter 7
English Syntax and Argumentation
AP
(10)
Spec
?
A
so
PP
fond
of coffee
PP
(11)
Spec
?
P
quite
NP
in
agreement
AdvP
(12)
Spec
?
Adv
much
PP
faster
than me
ここである一般化がなされることに注目しなさい。それぞれの場合に、多様な句の構成要素の〔階
層〕構造は同じである。上記の各々の句の一般化された構造は次の通りである。
XP
(13)
(Specifier)
?
X(Head)
(Complement)
この樹形図で、「XP」は X が主要部となっている句であり、X は動詞、名詞、形容詞、前置詞、副詞
に置き換えられる〔を表す〕。指定辞は,「?」と表されている,主要部+補部を支配する節点の姉妹
である。(13)には表示のされていない範疇、つまり,主要部+補部を支配している範疇がある。この
節点の性質は何だろうか?それはこれまでみてきたものの特徴を持っていないように思われる。(13)
の樹形図から,「?」が XP という句と主要部 X の中間にある階層にあるように思われる。この階層を
X’(Xバーと読む)と呼ぼう。
3
Bas Aarts
Chapter 7
English Syntax and Argumentation
p.116, -l.13 ∼ p.119, l.16 鈴木優平
付加詞について覚えておきたい重要な点がいくつかあります。第一に、付加詞は複数用いられることが
あります。言い換えると、付加詞をいくつか一つの句の中で用いることができます。次に複数の主要部前
付加詞を含む句の例を二つ挙げます。
(44) the defendants denied the charge: they claim that they did [VP not unthinkingly deliberately destroy
the garden] (その被告は容疑を否定した。彼らは無分別にわざと庭を壊したのではないと主張した。)
(45) [NP a silly, preposterous analysis of the sentence] (おろかで、ばかげた文の分析)
(46)と(47)では、前主要部と後主要部付加詞の両方を含む句を見てみましょう。
(46) [AP so devotedly fond of coffee after dinner] (食後のコーヒーを心から楽しむ。)
(47) [PP quite unhesitatingly in agreement with each other] (非常に断固としたお互いの同意。)
そのような句の構造は単純であり、私たちがすべきことはただ、より多くの一本バー階層構造を加えること
だけです。以下の図は(44)と(46)の括弧部分を樹形図にしたものです。
(48)
VP
Spec
V’
AdvP
V’
AdvP
not
(49)
unthinkingly
V’
deliberately
V
NP
destroy
the garden
AP
Spec
V’
AdvP
V’
A’
so
devotedly
PP
A’
PP
fond
of coffee
Exercise
(45)と(47)の樹形図を書いてみよう。前置詞句には衣紋掛けを使いましょう。
4
after dinner
Bas Aarts
Chapter 7
English Syntax and Argumentation
答えはこのようになるはずです。
(50)
NP
Spec
N’
AP
N’
AP
a
(51)
silly
N’
preposterous
N
PP
analysis
of the sentence
PP
Spec
P’
AdvP
P’
P’
quite
unhesitatingly
PP
P
PP
in
agreement
with each other
複数用いられることのできるという性質は付加詞を補語や指定辞から区別します.句は原則的に数に
限りなく付加詞をとることができ(文体的にはぎこちなくなってしまうけれど)、例えば動詞のような語彙的主
要部はとることがでる補部の数には限りがあり(まれに三つを超えることもある)、指定辞は一般的に繰り返
して現れることができない(*the my dog)。
付加詞について述べるべき二つ目の点は、すでに動詞句との関連で挙げたことであるが、付加詞とそ
れらに関連した主要部とのつながりは、主要部とその補部とのつながりと較べてあまり緊密ではない。この
事実は樹形図に反映されます。これまで見てきたように,補部はそれらの主要部の姉妹要素であり、一方
付加詞は主要部の上の一本バーの階層構造の姉妹要素です。主要部とそれらの補部との間のより緊密
なつながりは、次の文で見られるように、補部と主要部後付加詞との語順を入れ替えることによって示すこ
とができます。
(52) * they did [not destroy deliberately the garden]
(53) *[an analysis with tree diagrams of the sentence]
(54) *[so fond after dinner of coffee]
(55) *[quite with each other in agreement]
5
Bas Aarts
Chapter 7
English Syntax and Argumentation
(56) ??[much faster by far than me]
補語と付加詞の語順を逆に入れ替えた結果、これらのほとんどの場合明らかに非文法的で、これは補語
がそれらの主要部と隣接しなければならないからです。この節を終わる際に様々な種類の句の典型的な
付加詞を表す表 7.3 を見てみよう。
Table 7.3 典型的な付加詞の主な句の種類 NP, VP, AP, そして PP
Phrase
Heads Adjunct
NP
N
Examples
AP
The warm summer (暖かい夏)
NP
The woman busdriver (女性のバス運転手)
PP
The tiles on the floor (フロアのタイル)
clause
My youngest sister, who lives in Italy. (イタリアに住む私の一番下の妹)
The information that you supplied. (あなたからの情報)
VP
V
AdvPs
He quickly absconded. (彼はすばやく逃げた。)
She read the prospectus eagerly. (彼女は案内書を熱心に読んだ。)
PP
We came here in the summer. (私たちは夏にここに来た。)
Adjunct clauses
She phoned because she likes you.
(彼女はあなたのことが好きなので電話した。)
AP
A
PP
He was abusive to the extreme. (彼は激しくののしった)
AdvP
We were unconsolably disappointed.
(私たちは慰めようのないほどに落ち込んでいた。)
PP
P
AdvP
I was totally over the moon. (私は完全に有頂天になっていた。)
She was in doubt entirely. (彼女はすっかり疑っていた。)
PP
They designed the museum in tandem with an Italian architect.
(彼らはイタリアの建築家と一緒に博物館を設計した。)
節の形をした付加詞は第8章でより詳しく議論されるでしょう。
p.107, l.1 ∼ p.111, -l.7 小林義之
ここで(1)-(5)の角カッコの句の詳細な表示を示すことができる。
VP
(14)
Spec
V’
V
not
destroy
NP
the garden
6
Bas Aarts
Chapter 7
English Syntax and Argumentation
NP
(15)
Spec
N’
N
an
PP
analysis
of the sentence
AP
(16)
Spec
A’
A
so
PP
fond
of coffee
PP
(17)
Spec
P’
P
quite
NP
in
agreement
AdvP
(18)
Spec
Adv’
Adv
much
faster
PP
than me
(標準的な慣例に従って,上の樹形図には指定辞の節点を含んでいる。厳密に言えば、これは不適当で
ある。なぜなら指定辞という概念は機能的なものであり、4 章で機能的な標示は樹形図に表れないことを
見た。)
練習問題
次の(i)のような NP an analysis of the sentence への「平面的な」表現がこの句のさまざまな構成要素の関
係を示す十分な方法でないのはなぜか。
7
Bas Aarts
Chapter 7
(i)
NP
Spec
N
PP
analysis
of the sentence
An
English Syntax and Argumentation
平面的な標示が不十分である理由は、句が階層的に構造化されているという事実、すなわち,句を校正
しているさまざまな要素が同じではないという事実をこのような標示が説明していないためである。an
analysis of the sentence という NP において限定詞 an が関係を主要部の名詞と PP のひとまとまりに対する
関係をもつという事実を説明したい。(15)はこれを説明でき、前述の練習問題の(i)はできない。
(14)-(18)の樹形図を見ると、指定辞は異なる種類の要素であることを留意しなさい。VP の指定辞の位置
は最近より多く研究されている課題であり,ここでは論じない。この本では VP では not や never などの否
定要素が動詞句の Spec(Spec-of-VP)に含まれると仮定する。NP において,限定詞は指定辞であり、残り
の句の範疇においては指定辞の位置は強調要素を含む。
(13)の指定辞と補文の位置の両方が角カッコの中にあることに着目してほしい。これはこれらの要素が
随意的であることを示している。指定辞は句の意味が求めたときにだけ現れる。したがって、例えば VP の
場合には、指定辞 not はただ否定的な VP を表したいときに現れる。指定辞の位置は VP が not を含まな
いときには空のままである(何も要素が現れない)。同様に,限定詞のない NP(例えば Trains are slow の
trains)の場合には、指定辞の位置は空で何も要素がないと仮定する。補部について言えば、補部は句の
主要部がその存在を必要としたときにだけ現れる。「それらの存在を必要とする」ということによって正確に
何が意味されるかは 7.4 節で明らかにされる。
(13)において、XP, X’, X という階層はいずれも主要部の投射範疇であると考える。より正確に述べると、
XP は主要部の最大投射範疇(また二本バー投射範疇とも呼ばれ、時には X’’と書かれる)であり,他方、
X’の階層は一本バー投射範疇である。主要部自身はゼロバー投射範疇(もしくは語彙投射範疇)である。
従って,すべての句は 3 つの構造の階層 X’’, X’, X をもつことになる。
練習問題
以下の角括弧の句に樹形構造を与えなさい。
(i) [the destruction of Carthage] (カルタゴ陥落)
(ii) He is [so envious of his sister] (彼は妹をねたんでいる)
(iii)We are [citizens of the world] (私たちは世界の国民である)
(iv) She [travelled to Rome] (彼女はローマへ行った)
(v) He walked [straight through the door] (彼はまっすぐドアを通って歩いていった)
答は次のようになるであろう。
8
Bas Aarts
Chapter 7
English Syntax and Argumentation
NP
(i)
Spec
N’
Det
N
PP
the
destruction
of Carthage
AP
(19)
Spec
A’
A
so
PP
envious
of his sister
NP
(20)
Spec
N’
N
PP
citizens
of the world
VP
(21)
Spec
V’
V
NP
travelled
to Rome
PP
(22)
Spec
straight
P’
P
NP
through
the door
この節を終えるにあたり,様々な種類の句の典型的な指定辞と補部を示す2つの表(表 7.1 と 7.2)を示し
ておきたい。
節の形の補部は第8章でより詳しく議論することにする。
9
Bas Aarts
Chapter 7
English Syntax and Argumentation
表 7.1 主要種類の句 NP, VP, AP, PP の典型的な指定辞
phrase 句
Specifier 指定辞
Example(s) 例
NP
Determiner 限定詞
[the examination] 試験
[our car] 私たちの車
[many answers] 多くの答え
VP
Negative elements 否定要素
He does [not like planes] 彼は飛行機が好きではない
She [never eats meat] 彼女は決して肉を食べない
AP
Degree adverbs 程度の副詞
[how nice] とてもいい
They are [so eager to please] 彼らはとても喜ばせたいと思ってい
る
He isn’t [that/this fat] 彼はそんなに(こんなに)太っていない
[too bad] 残念な
That’s [rather/quite disgusting] それは幾分(かなり)不愉快
She is [as rich as the Queen] 彼女は女王ぐらいお金持ち
PP
Adverbs 副詞
The supermarket is [right up your street] スパーマーケットは道を
あがってすぐです
My office is [quite in disarray] 私の事務所はすっかり混乱して
いる
The office is [just to your left] 事務所はちょうどあなたの右手で
す
表 7.2 主要な句の型 NP,VP,AP and PP の典型的な補部
Phrase 句
Head 主要部
Complement 補部
Example(s)例
NP
N
PP
His insistence[PP on the arrangement]彼の調停の強要
(cf. He insists on the arrangement.彼は調停を強要する。)
Their specialization [PP in wines]彼らの果実酒の専門化
(cf. They specialize in wines. 彼らは果実酒を専門にす
る。)
Clause 節
Their realization [that-clause that all is lost] 彼らの万事休
すであるという認識
(cf. They realize that all is lost. 彼らは万事休すであると悟
10
Bas Aarts
Chapter 7
English Syntax and Argumentation
る。)
Her consideration [whether-clause whether the expense was
worth it] 費用がそれに値したかどうかという彼女の考慮
(cf. She considered whether the expense was worth it. 彼
女は費用が、それに値したかどうか考えた。)
Her requirement [for-clause for all candidates to comply
with the rules] すべての志願者は規則に従うべきであると
いう彼女の要求
(cf. She requires all candidates to comply with the rules.
彼女はすべての志願者に命令に従うことを要求する。)
NP
A literature teacher 文学の先生
(cf. He teaches literature. 彼は文学を教えている)
A teacher of literature 文学の先生
注: 補部をとる主要部の名詞は多くの場合,対応する動詞をもつ(前述の(2)と(6)と比較しなさい)
VP
V
NP
She placed [NP an advertisement.] 彼女は広告を載せた。
Clause 節
They know [that-clause that the sun will shine tomorrow]彼らは太陽が明日も輝
くことを知っている。
PP
He looked [PP at the picture] 彼は絵を見た。
注: 動詞の補部のより多くの例については第4章を参照。
AP
A
PP
Glad [PP about your decision] あなたの決定をうれしく思う
Pleased [PP with the result] その結果に喜んだ
Dependent [PP on his brother] 兄に頼っている
Clause 節
I am so eager [to-infinitive clause to work with you]あなたと働くことを熱望してい
る。
He’s engaged [-ing clause teaching the students] 彼は生徒に教えることに熱中し
ている。
She’s unsure [wh-clause what we should do next] 彼女は私たちが次に何をすべ
きか、自信がない。
PP
P
NP
In/under/behind [NP the car] 車の中(下、後ろ)
PP
Out [PP of love] 好きだから(愛しているから)
From [PP behind the bookcase] 本棚の後ろから
11
Bas Aarts
Chapter 7
English Syntax and Argumentation
Down [PP by the sea] 海のそばに下りた
Clause 節
He is uncertain about [Wh-clause what you said to me] 彼はあなたが私に言った
ことをはっきりとは知らない
p.111, -l.5∼p. 116, -l.14 稲葉 美沙
書式変更 : 箇条書きと段落番号
7.2 付加詞
これまでに見てきた句は、指定部と主要部と補部だけを含むものであった。しかし、句は構造的に更に
複雑になりうるのである。まず第一に,次の括弧でくくられた VP を考察してみよう。
(23)The defendants denied the charge: they claim that they did [vp not destroy the garden
deliberately]
(被告たちは罪を否定した、というのは、彼らは故意に庭園を破壊していないと主張したのである。)
この文では、副詞句 deliberately は後続する destroy the garden を修飾しており、主要部 destroy と
その補部 the garden の後に置かれている。この副詞句は、被告たちがどのように庭園を破壊したか(ある
いは、この例では、庭をどのように破壊しなかったか)を述べているという点で、付加詞として機能している。
しばらくは副詞句を考えないことにすると、(23)の VP の構造は次の(24)のようになる(=14)。
(24)
VP
Spec
V’
V
not
NP
destroy
the garden
ここで、付加詞はどのように加えられるだろうか?
一つの方法は、(25)のように,AdvP を表すために単に V’から三本目の枝を引く方法である。
(25)
VP
Spec
V’
AdvP
not
deliberately
V
destroy
NP
the garden
12
Bas Aarts
Chapter 7
English Syntax and Argumentation
しかし、この表記は deliberately が、destroy と thegarden をというひとまとまりを修飾しているという事実、
つまり、「被告たちは何を故意に行わなかったのか」という問いの答が「庭園の破壊」でアルという事実を説
明することができない。
副詞句を VP の付加詞として置くもう一つの方法は、V’に付加することである。これは次のようになされ
る。
(26)
VP
Spec
V’
V’
V
not
AdvP
NP
destroy
the garden
deliberately
ここで私たちが行ったのは、V’という節点を繰り返し(もう一つ作り)、副詞句をその娘要素として加える
といことである。この操作は付加と呼ばれ、次のように定義される。
付加
B の範疇は A の範疇に加えられる
1. B を A の姉妹要素とすることによって
2. A と B を元の A の節点を写した接点の娘要素とすることによって
A
A→ A
B → A
B
(26)におけるように、上の定義づけで図示したような方法で右側に付加することができるし、さらに、次の
(27)におけるように, 左側にも,すなわち,deliberately が下位の V'の左側に付加することもできる。
(27)
VP
Spec
V’
AdvP
V’
V
not
deliberately
destroy
13
NP
the garden
Bas Aarts
Chapter 7
English Syntax and Argumentation
この場合、副詞句は指定部と主要部の間に置かれている。(26)も(27)も補部 the garden は副詞句
deliberately よりも主要部 destroy に近いということに注意しなさい、つまり、補部は V の姉妹であり、副
詞句は V を直接支配する V’の姉妹である。この状況はまさに我々が求めていたもの、すなわち、
deliberately は destroy の項ではなく、従って,destroy の項である the garden よりも destroy から更に
周辺的である。
ここまで、我々は、文によって表現される状況の how’や when’、 where’そして why’を具体的に述
べる構成要素の文法機能を述べるために、付加詞という専門用語をかなり制限された意味で用いてきた。
この定義のもとでは,(23)の副詞句 deliberately は明らかに付加詞とみなされる。ここで付加詞の概念を
広げ、VP (動詞句)だけが付加詞を含むことができるというのではなく、他の種類の句もまた付加詞を含む
ことができるようにしよう。次の記号列を考察してみよう。
(28) [NP an analysis of the sentence with tree diagrams] (樹形図を用いた文の分析)
(29) [AP so fond of coffee after dinner] (夕食後のコーヒーを大変好む)
(30) [PP quite in agreement about this] (これに関して完全に同意する)
(31) [AdvP much faster than me by far] (私よりはるかに早い)
これらの文の括弧で括られた区の斜字体の記号列は、(26)や(27)の deliberately のように、修飾機能を
持っており、よって我々はそれらを付加詞として分析することにする。それらは VP(動詞句)における付加
詞のように、樹形図の中に一本バーの範疇に付加される。
Exercize
(28)から(31)の樹形図を描きなさい。
答えは(32)から(35)の通りである。
(32)
NP
Spec
N’
N’
N
an
analysis
PP
PP
of the sentence
14
with tree diagram
Bas Aarts
Chapter 7
(33)
English Syntax and Argumentation
AP
Spec
A’
A’
so
(34)
PP
A
PP
fond
of coffee
after dinner
PP
Spec
P’
P’
P
quite
(35)
PP
NP
in
agreement
about this
AdvP
Spec
Adv’
Adv’
PP
Adv
much
faster
PP
than me
by far
次の(36)から(39)を考察してみよう。
(36) [NP a silly analysis of the sentence] (文のばかげた分析)
(37) [AP so terribly fond of coffee] (ひどくコーヒーを好む)
(38) [PP quite unhesitatingly in agreement] (同意に大変躊躇した)
(39) [AdvP clearly faster than me] (明らかに私より早い)
これらの場合には、付加詞は主要部の前に置かれることになる((27)の動詞句と比較しなさい)。(40)から
(43)はこれらの句の樹形図である。
15
Bas Aarts
Chapter 7
English Syntax and Argumentation
p.121, l.14 ∼ 後藤高史
7. 4. 下位範疇
この章では、主要部と補部の間に存在する綿密な結びつきを細かく見ていくことにする。7.1 では、
この結びつきが強いため、補部は常に主要部に隣接していなければならず、付加詞も間には入らな
いということを見た。主要部と補部に強い結びつきがあることを言い換えると、主要部は、補部を下位
範疇化(統語的には、補部の存在を必要と)することである。異なる主要部は異なる補部を下位範疇
化し、また、私たちは、正確に主要部がどのような補部をとるかを明確に述べるために下位範疇枠と
呼ばれるものを使っている。次に挙げるのは destroy という動詞の下位範疇枠である。
destroy (verb)
[−, NP]
この枠は、2つの部分をもっている。上の段には下位範疇化された要素とその語類の標示があり、下
の部分には、カッコの中に下位範疇化された要素が生ずる場所を示すダッシとその後にコンマとそ
の存在が下位範疇化された要素によって必要とされる範疇が続いている。destroy は、一つの補部し
か持たない動詞である。He sent some details of the plan.の文における二重目的語他動詞 send は次
のような枠をもつ。
send (verb)
[−, NP, NP]
この枠は、send が補部として間接目的語 her と直接目的語 some details of the plan という2つの目的
語をとることを示している。しかしながら、send は常に2つの補部を必要とするわけではない。例えば、
Martin didn’t come to the party, but he sent his sister.と言えるが、ここで、動詞は1つの補部しか取っ
ていない。そこで、send の下位範疇化を以下のように改訂する。
send (verb)
[−, (NP), NP]
ここで、最初の NP は、随意的であることを示すため、括弧の中に入れられている。
もちろん、中には、補部を全くもたない主要部もあり、このことは、下位範疇化枠ではφで表される。
blush の枠は次のようになる。
blush (verb)
[−, φ]
動詞の中には補部に選択肢をもつ動詞もある。例として、believe を含む次の文を考えてみよう。
(61) I believed the allegations.(私は、その主張を信じた)
(62) I believed that the allegations were true.(私は、その主張が正しいと信じた)
(63) I believed the allegations to be true.(私は、その主張が正しいものであると信じた)
16
Bas Aarts
Chapter 7
English Syntax and Argumentation
believe の下位範疇化枠は次のようになる。
believe (verb)
NP
[−
that clause
]
to infinitive clause
中カッコは、それらの中にある要素の中から選択がなされなければならないことを示す。
動詞は下位範疇化がなされる唯一の語類ではない。名詞、形容詞、前置詞、副詞も下位範疇化枠
をもつ。しかし、私たちが既に見てきたように、これらの語類が補部をとる範囲は大きく変わっている。
次にいくつかの例を挙げる。
fact (noun)
[−, (that clause)]
e.g. She hates the fact that he is a genius.(彼女は、彼が天才だという事実を嫌っている)
appreciative (adjective)
[−, of-NP]
e.g. She is appreciative of classical music.(彼女はクラシック音楽を鑑賞する)
behind (preposition)
[−, NP]
e.g. The bike is behind the shed. (そのバイクは納屋の後にある)
fortunately (adverb)
[−, (for-NP)]
e.g.
Fortunately for me the train departed late.(幸運なことに、電車が遅れて出発した)
練習問題
hit, put, idea, smile の下位範疇化枠を書きなさい。あなたは、これらの語彙項目を含む文や句
を考える必要があるでしょう。あるいはまた、補部の型についての情報を含む,例えば Oxford
Advanced Learner’s Dictionary のような辞書を引いてみなさい。
あなたの解答は次のようになるでしょう。
hit (verb)
[−, NP]
e.g. You should never hit animals. (あなたは、決して動物を撃ってはいけない)
put (verb)
[−, NP, PP]
e.g. He put the glasses on the table.(彼は、グラスをテーブルの上に置いた)
17
Bas Aarts
Chapter 7
English Syntax and Argumentation
idea (noun)
[−, (that-clause)]
e.g. The idea that we will all go to heaven is absurd.
(全員が天国に行けるという考えはばかげている)
smile (verb)
[−,φ]
e.g. She smiled.(彼女は微笑んだ)
7.4.1 下位範疇化対項/主題構造
あなたは、前の章で紹介した下位範疇化が、私たちが使っていた述語の項・主題構造を表すこと
を思い出すことになるだろう。この2つの枠の違いは、一体何なのだろうか。
下位範疇化から始めてみよう。これは、実際何を意味するのか。下位範疇化に関して重要なことは、
要素にある特定の下位範疇化枠を与えることによって、この要素が含まれる語類の下位類を作ること
になるということである。例えば、destroy のような動詞を[−, NP]という枠に当てはめることにより、動詞
の下位類すなわち目的語という補部をとる下位類を作るということである。この下位類を私たちが他
動詞と呼んできた。同じように、smile のような動詞を[−,φ]という枠に当てはめることにより、自動詞と
いう下位類を作るのである。下位範疇化が下位範疇化される要素の内項すなわち補部にだけ関わる
ということを覚えておくことが重要である。この理由は、内項だけが下位類を作ることができるからであ
る。外項すなわち主語が下位範疇化枠には存在しないということが明らかであることに気づくであろう。
この理由は、たとい動詞のような要素が主語をとったとしても、動詞の下位を作ることはないからであ
る。例えば、drive という動詞がそれが現れるどんな文でも主語をとならなければならない事実は、「主
語をとる動詞」という特別な種類を作ることはないのである。これは、全ての動詞が主語を持つからで
ある。
下位範疇化枠に見られる要素とは異なり、外項は(前の章の(22)-(26)で見てきたように)語彙項目
の項構造・主題構造を規定する枠に現われるものである。これらの枠では、全ての項が列挙され,あ
わせて,それらに与えられた主題役が記載されている。
この章のキーワード: 主要部,補部,指定辞,投射範疇,語彙範疇(X),バー付き範疇(X ),
付加,多範疇一般化,下位範疇化
18
Bas Aarts
Chapter 7
English Syntax and Argumentation
p.119, l.17∼p.121, l.14 藤田真紀江
7.3 多範疇一般性
次に(13)構造式型の樹形図(13)に戻ってみましょう。ここでは次の(57)のように修正している。
(57)
XP
(Specifier)
X’
X’
Head/X
(Adjunct)
(Complement)
この樹形図は、X バー統語論の一部である他範疇間一般化と呼んできたものを具体化している。X バー
統語論は統語論の理論であり,主要な句の種類は全て同じように,すなわち(57)のように構造化されて
いる〔(57)のような構造をもっている〕と仮定する。
指定辞、付加詞、主要部、補部という標示は機能的概念であり、さらに,これらの4つのうち主要部だけ
が常に義務的であるということに留意しなさい。私は、随意的な修飾語を(57)において下の方の X’の右
側に置きましたが、付加詞はまた X’の左側の姉妹要素であることが可能であるということに留意しなさい
(例えば、前の節の(40)∼(43)を参照して下さい)。私たちは、主に直感的な理由で句には一本バーの
階層構造の存在を仮定しているが、しかし,統語的な根拠に基づいてその存在を正当化することが明ら
かに必要です。さしあたって、この中間範疇が存在することを単に仮定し、第11章において、その統語論
的証拠を提案することにします。
X バー統語論が仮定する句構造はいわゆる平面的な構造、すなわち、全ての要素が同じ階層構造に
現れる構造に関する大きな改良点です。
(58) a silly analysis of the sentence with tree diagrams (樹形図を持つ文の馬鹿げた分析)
これまでに言われていることから、この句における全ての語は互いに様々な関係を持っていることが明ら
かです。最も重要な要素は主要部の analysis であり,そして、この主要部と様々な関係をもつ多様な語が
あります。なかには修飾機能を持つもの(e.g. silly, with tree diagrams)もあれば、補部の機能をもつもの
(e.g. of the sentence)もあります。言い換えれば、(58)は構造をもっているのです。さらに言えば、(58)は
階層的に構造化されており,このことは,(58)の2つの異なった標示を比べれと、より明らかになります。
NP
(59)
Det
AP
N
PP
PP
a
silly
analysis
of the sentence
with tree diagrams
19
Bas Aarts
Chapter 7
(60)
English Syntax and Argumentation
NP
Spec
N’
AP
N’
N’
N
a
silly
analysis
PP
PP
of the sentence
with tree diagram
(59)は平面的な構造であり、全ての要素が同じ階層構造に位置していますが、他方,(60)は X’-統語論
に適合する階層構造である。(58)を左から右へ見たときに、初めに限定詞 a があります。この要素は、不
定性を句の残りの部分に与えるという機能を持っています。(60)においてこのことは、それ〔不定冠詞 a〕
を N’-構成要素である silly analysis of the sentence with tree diagram の姉妹にすることによって、表され
ます。(59)において表されていることはただ、全てが互いに同じ関係を持っているように思われる語の線
状的連続である。(Spec は限定詞と関連した機能的標示であることを思い出してください。例外的に,そ
れ〔Spec〕は、今までに見てきた通り、樹形図で現れる唯一の機能的標示である。)次に限定詞の次に現
れる語に移りますが、主要部 analysis とその補部 of the sentence は,主要部と修飾語 silly や with tree
diagrams との関係よりも近いものである。最初の樹形図はこの事実を表しませんが、2つめの樹形図は表
します。ここで〔樹形図(60)において〕,補部は主要部の姉妹として分析され、付加詞は主要部を支配す
る N’の姉妹として分析されています。このように,明確な事は、X’式型における標示によって私たちに句
の様々な要素間にみられる階層的関係を図式的に表すことを可能にします。さらに、このような関係は全
ての種類の句に関して同じものであり、こういうわけで、統語的構造を一般的に述べる際、上の(57)にお
けるように XP〔という標示〕を使います。
20